緋弾のアリアAB   作:純鶏

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 ―――とあるビルの屋上―――


 また一人私は引き金を引いて永眠させた。それは彼のためでもなく、私のためでもない。ただ見知らぬ誰かのためであり、組織のためであった。 

「上出来ね、ハル」

「…………」

 上出来なのだろうか? 確かに結果から見れば即死だろう。目標も死んだのだから、目的も果たされた。何の問題もない。
 だが、任務というのは出来て当たり前。どちらかと言えば、殺した後に自分は問題を起こしてしまっている。上出来と言うには、ほど遠いのではないかと思ってしまう。
 
 私は彼女に少し会釈をし、階段を下りる。重い狙撃銃を担いで一つずつ降りていくと、上から機械音が鳴り響いた。どうやら、彼女の携帯電話が鳴ったようだ。普通、こういった任務をしている時にはマナーモードにしておくものではないのだろうか? という疑問を持ちたくなる。だが自分は、そのことについて喋る気も起らないので、黙っていることにした。


「―――!?」

 彼女の顔に、少し驚きの表情が混じる。
 何かあったのかな? 彼女が話終えると、階段を下りて来る。そして独り言にのように言った。

「はぁ……、新しい任務が追加されたわ。こればっかりは私にも止めなかった責任があるわね……」

 そう言って私の肩を叩き、少し苦笑いをする。この表情を観たら、誰もが何らかの感情を抱くのだろう。きっと、助けてあげたいとか守ってやりたいとか可愛いとか心の中で呟くのだろう。
 だが私は、

(寝たいのに……)

 という「感情」ではなく、「願望」を心の中に抱いていたのだった。



10話 - 指折りの話

 なんでだろう。なんでこんなことになってるのだろうか?

 なんでオレはびしょ濡れで、コンクリートに水や息を吐きながら、横たわっているのだろうか?

 とりあえず、今の状況はあれだ。狭い部屋で誰かを待っている間、水浴びをしていて、その誰かさんがここに到着したから扉が開いた。

 要約するとそんな感じだろう。なんとも、解り易くて、わけのわからない状況だな。

 

 オレの目の前に立っている男性は黒いパーカーにフードをかぶっていて、下はトレパンだった。両手に手袋をはめ、その片手には金属バットを持っている。ちなみに、トレパンとはトレーニングパンツの略称で、解り易く言うとジャージだ。まさしく、運動をする格好と言った方が良いのだろう。

 そんな目の前の青年はオレに話しかける。

 

「久しぶりだな、ジュウくん。俺の元気にしてたかい?」

 

「はぁ……はぁ……おまえはだれだよ!?」

 

「あ? いや、おいおいもう忘れたの? この顔を見て声を聞いても思い出せないの?」

 

 目の前の青年はフードを取る。別に距離が離れていて、顔は見えなかったわけではなかったのだが、頭があらわになると、本当に10代の青年といったところの顔だった。何気に自分よりは幼いような顔立ちに見える。

 問題は、見たことあるようなないような顔だった。記憶の中を探しても記憶自体が曖昧なせいか、何人か候補が出て来ても、そいつだと断言することができない。でも、やっぱり誰にも当てはまらないようにも感じてしまう。

 もしかしたら、デジャヴかもしんないな。人間なんて、似たような顔ばっかりだ。オレだって言いようによっちゃあ、アイドルの松ジュンに似てるし、お笑い芸人のアンジャッシュの松井にだって似てる。こんなやつは初対面に違いない。

 

「……ごめんけど、誰だ? なんだか知らないが、あんたがオレをここに待ってるよう指示した人か?」

 

 オレの言葉に気分を悪くしたのか、少し声を荒げて目の前の青年は話す。

 

「はぁ!? どういうこと? おまえ、まさか俺を忘れたっていうの? 中学時代、親友だとまで言った俺を」

 

 オレは手で顔を拭い、じっくりと目の前の青年の顔を見る。なんだろうか、見ているだけで不快感を感じる。いや、別に、顔が汚いとかそういうわけではなく、その顔を思い出そうとするだけで、イライラしてくるようだ。

 

「うーん、思い出せない。いや、思い出せそうな気もするが、思い出せないな。名前とか教えてもらえるか? あと、あんたがオレをここに閉じ込めて水攻めしたのか? それとも、星伽先輩の言ってた、ここで待つように仕向けた人か?」

 

「そんなことはどうだっていいだろうがよっ!!」

 

 急に目の前の青年は声を大きくして、バットで地面を叩く。その行動に、オレは驚いてしまう。

 

「思い出せない? 忘れただと? よくそんなこと言えるね。たとえ俺がおまえを忘れても、おまえが俺を忘れるなんて許せない。それだけは、理解できない!!」

 

 理解しなくてもいいから、オレの問いにも答えて欲しい。ぶっちゃけ、叫びたいのはオレの方なのだ。もうわけがわからない。ただでさえ水で溺れかけて疲れているから、もう話す気力も失ってきているというのに、一向に何も分からないままだ。

 とりあえず、どう対応していいのか分からないが、答えるまで聞くことにした。

 

「それで、あんたの名前はなんだ? 教えてもらえると分かるかもしんない」

 

 その質問に怪訝そうな表情で目の前の青年は答える。

 

「い・の・う・え、さ・つ・き!」

 

「うん? イノウ、エサ付き?」 

 

「違う! 井上 サツキだよ!!」

 

 意外と、区切って言葉を言われると勘違いしやすいものである。いや、オレが単に天然なだけかもしんないが。

 まぁ、とりあえず名前が井上ということは分かった。そうか、井上か。……うん? 井上? 井上……だと!?

 

「井上」というフレーズを聞いて、不快感と言えばいいのか、限りなく嫌という拒絶的な感情が芽生える。次第にオレは、片目に触れていた。視力のない左目を。

 

「今、なんつった? 今たしかに、井上サツキつったよなぁ!?」

 

 どこぞの能力を持ったヤンキーが言いそうなセリフを言ってしまった。いや、そんなことはどうでもいい。どうだっていいんだ。そうか、そうなのか。

 

「そうか……。おまえが、井上か! 思い出した。思い出したぞ、井上!!」

 

 井上はオレが思い出したのがうれしかったのか、顔の表情が緩んでいく。段々とニコやかな表情になっていった。

 

「はん、やっと思い出したのかよ。よっぽど、おまえの頭はイカレてるようだ!」

 

「生憎、オマエほどでもねぇな。なんだ? オレに何かやらかしに来たのか!?」

 

 井上は揚々とオレに話しかける。

 

「そうだね。まずは、おまえの顔をみたくてね。なにせ、俺にとっちゃあ憧れの存在だったからねぇ。会いたくもなるわけだ」

 

「それで、どうしようってんだ? バットなんか持って。憧れの存在に会えて、ついには自分だけのものにしようという思考にまでたどり着いたっていうのか?」

 

「まぁ、そうだね。できるならそうしてやりたいね。俺はお前のことが好きだからな」

 

「そうか、なら、オレの指でも折るのか? 永遠を誓うために」

 

 オレがそう言うと井上は、

 

「ふっ、ふふふ。ふはははははっ。あはははははははっ!」

 

 笑った。笑うしかないように。笑った。

 とある国では、永遠を誓うために指を折るらしい。それがどこの国で、どのような意味があってそんなことをするのかはわからないが。

 どうやら井上にはオレの言っていることが伝わったらしい。なんとも、不快だ。

 

「ははっ、お前イカレてる。イカレてるよ」

 

 だが、それを言った後すぐに井上の表情が変わった。さっきまで笑っていたのが嘘のように。そして、右手に持っているバットを振り回す。いかにも、何かを叩くことを意識しているかのように。

 

「さあて、じゃあ、オマエのご期待通り、叩いて折らせて頂きますかね。ここまでしてやったんだ、多少はオレといい勝負が出来るだろ? 」

 

 どうやら、何かが始まるようだ。それも楽しいことらしい。井上の表情から見るに、真剣勝負と言ったところか。だが、別にオレはそんなことはしたくない。正直、オレは少しでも休ませてほしいが、それでは井上にとっては意味がないようだ。

 こうなっては、行くしかない。退路はなく、進むしかない。進むことによって、その延長線上に、オレの選択の余地があるようだ。

 まぁ、この場でバットで叩かれるという選択は除いての話だが。

 

「さぁ、見せてもらうよ、ジュウ!!」

 

 

 

 

 ほんと、今日は厄日だ。……いいや、今日に限った話ではないな。

 武偵事件には巻き込まれるわ、プールでは溺れるわ、星伽先輩には彼氏がいるわ、今日は星伽先輩だったと思ったら、まんまと騙されるわ、そのせいで部屋に閉じ込められるわ、その部屋でも、溺れ死ぬ思いをさせられるわ、井上に殺されそうになるわ。

 とまぁ、数えたくもないが数々の日常茶飯事でない出来事ことが、最近よく起こっている。

 

 そんでもって、水攻めによって体力を削られたオレは今、なんとか井上の間合いをすり抜けては倉庫の中をひたすら走り回り、隠れながら逃げていた。なにせ相手はバットを持っている。しかも、ただのヤンキー程度なら単に振り回しているくらいだから、武器がなくても対処は出来たかもしれない。自分の力量で何とかできたかもしれないのだろう。

 だが、目の前の男は違う。オレを殺そうとしている男は、適当に振っているわけではなく、横に鋭い小振りをしてくる。これでは、攻撃しようにも隙がなくて攻撃できない。しかも、普段の制服だったなら銃を携帯していたのだが、今は運動服。そんなもの、腰につけるには邪魔だったのでロッカーに置いといたまんまだった。結局オレは、倉庫の中を逃げながら、何か使えそうな武器を探すことにしたのだった。

 

 

 

「ふふふっ……、ははははっ……!」

 

(くそっ、楽しんでやがるなコイツ! )

 

 ただでさえ暗いこの倉庫で、あえてバットの音を響かせ、ヤツは笑っている。つまり、オレを追い詰め、奥へと誘導させているからなのかもしれない。

 だからと言って、井上のいるところには行けないし、逃げるしかないのだから、追い詰められていようとも逃げるしかないのだ。それ以上にオレは、他にいい案を考えられるほど余裕もなかった。

 オレは逃げながらも必死で周りを見渡す。しかし、ここは火薬倉庫。火薬が置いてあるだけで、武器になるものが何一つ置かれていない。それでも走っては、何かないかと探していく。

 

(くそっ、どうする。どうしたらいい!? このままじゃ、本当に逃げ場がなくなって、追い詰められてしまうな)

 

 倉庫を進んでいく中、非常灯が光っていない空間を見つけ、奥の方でプレートが光っているような場所を発見する。どうやら、部屋があるらしい。すぐさまオレはそこへ方向転換をし、そこへと向かう。

 進んでみると、大きな扉があり、上の方にこう書かれていた。

 大きく『第一武器庫』と。

 

(よし! ここになら、あるはずだ!!)

 

 オレは重たい扉を開き、中へと入っていく。後ろからせまってくる音を感じながら。

 

 

 

 




次回予告「とうとう、ヤツとの勝負が始まる。正直、勝てるか分からない。
     だが、ここで闘わなければオレが殺されてしまう。
     オレは武器庫で過去との決着をつけることにした!」
            次回、「目覚め醒めた眼」
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