緋弾のアリアAB   作:純鶏

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   ―――地下倉庫の武器倉庫―――

 この部屋の中にいるのは、『俺』と『こいつ』。手に持っているバットでコイツの後頭部に強い一撃を与えたのでもう起き上がってくることはないだろう。これでもうコイツは用済み。必要がなくなったわけだ。
 本来なら我ら「イ・ウー」の組織の仲間になってもらうため勧誘を含め、自分の力量がどこまで通用するのかを試したかった。そのために、わざわざこんな場所で殺しはせずに弱らせるといった闘い方を選んだのだ。そうすれば、俺はコイツの本気が見られると思っていた。そう祈って闘いに挑んだ。
 しかし、変わってしまったようだ。昔の頃と変わってしまったコイツは、昔ほどの度胸もなければ機転もなく、強くもない。明らかに俺自身が強くなったわけではなく、コイツ弱くなっている。そんなんじゃあダメだ。問題外である。ほんと話にならない。

「はぁ……。まさかこんなことになるなんて、誰も予想できなかったよね……」

 つい溜め息を吐いてしまう。何しろ憧れていた正義の味方像でもあった友人が、友人のせいにしないと生きていけなくなっているような人間になっていたのだ。さらには弱いときたもんだ。まさか、呆れと脱力感に苛まされるなんて思いもよらなかった。

 俺はバットを肩にのせ、部屋を出ようとする。出血はしていないので、コイツはここに放置しておいても大丈夫だろう。まぁ、内出血はしてるんだろうけど。
 大倉庫の方から、ジャンヌとその他らしき声やら音が聞こえる。だが俺には関係ない。こっちはこっちだし、あっちはあっちなんだ。ジャンヌの手伝いをする代わりに、俺の手伝いもさせてもらったので、この先はどうしようが勝手にすればいいはずなのだ。

「うっ……。あ、あたまがぁ!」

 痛い。どうやらそろそろもう一人の俺のお目覚めの時が近いのかもしれない。誰かは知らないが、この日本に来てから俺と言う名の別人格が呼び起された。それ以来ずっと別人格の俺でいるが、さすがに本人格の俺が目覚めてもおかしくはないのだろう。さてさて、どうしたものか……。

 火薬庫に出る扉のドアノブに触れる。いや、触れようとした瞬間だった。背中に何かを感じた。音を聞いたわけでもないのだが、俺の体が後ろに何かいることを伝えるかのように、背中からピリピリと走る。それはもしかしたら、「違和感」というものかもしれない。

「ま、まさかねー」

 俺は苦笑いをして、後ろを振り向く。振り向いたその先には、さっきまで倒れていた人間が立ち上がろうとしていた。どことなく、力を抜き切ったような様子で立ち上がろうとしているのが、とてつもなく奇妙な感じだった。痛覚を感じて、我慢や力を入れている様子ではないからだろう。そんな光景を見て、俺は絶句する。

「う、うそだろ……。いや、さっきたしかに殴ったよね? もう立てないはずだ。それなのになぜに立てるんだよ?」

 その問いに対して、俺の目の前で立ち上がろうとする男は何も言わない。ただ静かに、少しずつ立ち上がっていく。

「なぁ、答えろよ。この期に及んで俺と闘うつもりなのか? もう、おまえは負けたんだ。今の状態じゃあ余計に勝てないし、今の俺にも勝てない!」

 目を閉じたまま、目の前の彼は立っていく。今更、何をしでかそうと言うのか。期待を捨てていた俺は、正直もう闘いたくなかった。これ以上闘えば本当に目の前にいる男が死んでしまうからだ。

「もう立つんじゃない!! ここで寝ているんだ竹内ジュウ!!!」

 俺はそう言って、ジュウの方へと走っていく。ジュウ本人は相変わらず何もしゃべらないまま、俺の言葉を無視していった。

 もしかしたら、ジュウは意識が遠いのかもしれない。それなら、一発で終わらせてやる。直接、俺の手のひらに触れれば鋭い痛覚を味わわせることができる。そうすれば、完全に気を失わせれるはずだ。
 持っていたバットを投げ捨て、全速力で走る。ひたすら前へと走った。そして、頭を両手で掴んでやろうと思い、一気に両手で覆うように手を伸ばした。

「くらぇぇぇええ!!」

 そう言って俺はジュウの頭を掴んだのだが、掴んでいない。いや、掴んでいるつもりが届いていない。それ以前に、俺自身がその場で「くの字」になっていた。

「ぇ……あぁ、がっ!!」

 何が起こっているのか分からなかった。だが、今分かる事実だけ言えば俺の腹にジュウの手のひらがある。ジュウの足は地面に根を生やしているかのようにしっかりと地面についている。どうやら俺が前に進む勢いを利用して、ジュウは一瞬で片方の脚を一歩引いて、反対の腕を一直線に前に突き出したようだ。
 俺はジュウのまさかのカウンター技に少し驚きの表情を隠せなかったが、手を出してくれたのならそれを掴むまでだ。俺の能力は、触れれば十分。触れさせすれば、鋭い痛覚を与えることが出来るのだから。

(こ、今度こそ、くらぇぇぇええ!!!)

 自分の意識が遠のきそうな中で、俺の腹に当ててあるジュウの腕をがっしりと掴み、痛覚を与える。そうすれば、ジュウは痛覚によって頭の中のブレーカーが落ちてしまうはずだ。さぁ、地面の横たわってしまうがいい。

 しかし、彼は倒れない。何一つピクリとも動かない。石像がそこにあるかのように、その場に硬直していた。
 俺は変わらない状況に焦りと驚きを隠せない。何が起こっているのかが分からなかった。もしかしたら、自分の能力が発動しなかったのかさえ思った。だが、そんなことは考えられなかった。

「なっ……!!?」

 よく見てみれば、ジュウは目を瞑っていた。さっきから今まで、ずっと目を閉じていたままだったのだ。なのに、俺自身にカウンター技を食らわせたのだ。
 ありえない。そんなことはありえないんだ。そう言いたくなるくらい、自分自身は目の前にいるジュウに対して驚愕していた。

「お、おまえ、まさか……!」

 膝を床について俺はジュウを見つめる。俺の言葉に反応したかのようにジュウは片方の眼が開いていく。そこから見えるのは、黒。真っ黒な眼。全てを見通し、見透していくかのような眼が、ジュウの右目に備わっていたのだった。



始流編(過去編)
12話 - Rely Off


  ――10ヶ月以上前――

 

 今は7月の下旬。暑い季節の中、東京の足立区にある武偵学校中等部はたった今、朝のHRを知らせるチャイムが鳴っていた。その校舎の中を懸命に駆けている学生二人がいた。まぁ、その内の一人がオレなわけだが、オレ達二人は顔を汗にまみれたまま、階段をひたすらのぼっていく。

 

 3階までのぼるとすぐに曲がり、廊下を必死に走っては【3-2】と書かれた教室の扉を開ける。

 

 

「次、なかむらぁ~!」

 

 教室の中では、渋い顔の40代前半の男が渋い声で中村君の名前を呼んでいた。中村君の名前を呼ぶのはいいが、オレ達にとってその「なかむら」という名前を教室の中で呼ばれていることは、『朝のHRに間に合わなかったので遅刻』という意味を指していた。

 

 オレ達は、その声を聞くとズルっと教室の地面に倒れ込む。そんなオレ達二人の姿を見た、教卓に手を置いている男性は呆れた表情で見ていた。

 

 

「……はぁ、ま~たオマエらは遅刻かっ! 残念だが、呼び出しの時にいなかった以上は遅刻だからなっ!!」

 

 その言葉を聞いたオレは、わざわざ汗水かいてまで頑張って登校してきたというのに、自分のせいで完全に遅刻したという現実を受け入れられず、つい隣の友人に文句を吐露してしまう。

 

「あーもう、ちくしょう! またしても、オレの評定が下がっちまう。サツキ、テメーがコンビニなんかよるから、遅刻しちまったじゃねぇかよっ!!」

 

「はぁっ!? それはジュウが寝坊するからいけないんだろ~っ! いつも、待ち合わせに遅れて来てるくせに!!」

 

 そう返してきたのは、オレの友人の井上サツキだった。こうなっては、オレ達の口論は止まらない。教卓に立つ先生は早く席へと座るよう2人に声をかけるが2人はいつものように言い争っている。

 

 その途端、まるで机を粉砕するかのような勢いで机を叩く音が教室中に響いた。

 

「「――!!!」」

 

 どうやらオレ達の担任こと安東先生は、オレ達の口論を静止させる程黒板を強く叩いたようだ。その瞬間、さっきまでオレ達の様子を眺めていたクラスメートの視線は、今はもうオレ達の方ではなく黒板の方へと変わっていた。

 

「いいかげんにしろ、おまえらっ! それとも、評定を下げられてぇのかぁっ!? それ以上HRの邪魔をするのなら、この後からキサマら2人は私の特別指導をすることになるが……いいのか? おいっ!?」

 

(やばっ!!)

 

 真剣な目つきでオーラをかもし出す先生の姿に、オレ達はすぐさま自分の席へと座る。さすがにこれ以上は自分達の評定を下げられるわけにはいかない。何より、安東先生の特別指導という名の地獄のシゴキだけは、絶対避けたいのだ!

 

 そんな出来事があって、今日も学校の朝のHRは再開されたのだった。今日は今学期最終日の学校の日。この後待っているのは終業式だ。明日から夏休みが始まろうとしていたのだった。

 

 

 

 ―――ステイホール―――

 

 終業式も終わり、午前中の内に授業も終わったのでオレと井上は1階にあるステイホールへと向かい、その中にある電子掲示板の前に立つ。

 

 大概の学校では、個人の成績などの詳細はその学期の終了と共に本人が知ることができるシステムなのだが、オレ達の武偵学校では4ヶ月に一回に実績や評価などが出され、その全てを総合した「武偵ランク」というものが学期終了間際に更新されるシステムとなっている。

 そして、高ランク『SS』『S』『A』の3つのどれかのランクを持つ学生には、電子掲示板にランク、学科名、生徒番号、名前が表示される。さらに、学校の許可は必要だが、そのランクに値する依頼を個人で受けることが可能になり、武偵として働くことが出来るようになるのだ。逆に言えば、それ以下のランクは学校からの依頼を受けることしか出来ないようになっている仕組みというわけだ。

 

 とは言っても、中等部の学科は『戦闘』『情報』『整備』の3つしかないので、14歳未満のオレ達で武偵としての依頼を受けられる程の実力を持つ学生も数が少ないのが現実であった。

 ましてや、『SS』とか『S』は希な存在だった。本当に余程の実力でないと、決してなれないランクであった。

 

 それでも2年生の後半から3年生の今までずっとBランクのままだったオレ達は、毎回学期が終わるたびに電子掲示板に自分の名前が載るんじゃないのかと確認しに行き、今回もその確認のためにオレ達はこの場所にやってきたのだった。

 

 オレ達は電子掲示板の前に集まっている人だかりをかきわけ、電子掲示板の見えるところまで行く。その時、さっきまで映し出されていた学校連絡から切り変わり、戦闘科の高ランク名簿が映し出されていく。

 

 オレは学籍番号と自分の名前が電子掲示板に載っていないかを注意して目で探してみる。

 

(「3314」……「3314」……「3314」……33、1、4!!!)

 

 

 ―― 3314 竹内ジュウ 

 

「っ……。ぃよっしゃああ!!」

 

 自分の名前があると分かった瞬間、オレはガッツポーズと歓喜の声を出してしまい周りから視線を集めてしまった。が、今はそんなことはどうでもいいくらいとても嬉しい。嬉しすぎる出来事だったのだ。

 そんな上機嫌の中、もう一度電子掲示板に視線を戻し、隣にいる友人の名前を探してみる。オレの名前から下の方に目を向けようとした時、

 

「ない……。オレの名前が……ない」

 

 という声と共に、友人こと井上の顔は悲しいのか悔しいのか、それとも諦めたのか。何とも感情を汲み取ることが難しい、微妙な顔をしていた。

 オレは2・3回程電子掲示板を見返してみたが、確かに井上の生徒番号と名前は載っていないようだ。

 

 そして、さっきまでオレの中にあった喜びの感情がどこかへ消え去ってしまったようで、オレは複雑な気持ちへと変わり、井上に何の言葉をかけたらいいのか戸惑ってしまう。

 

 この場合は「ま、しゃあなしだな!」とかけるべきなのだろうか?

 いや、それとも「次があるさ、頑張れ!」と言ってやるべきなのか?

 やはり、気をつかって「とりあえず、帰るか!」と帰ることを促してその話題に触れないべきなのだろうか?

 

 そんなことを考えながら、オレは頭の中の思考回路を回して必死に考える。だが、そんなことをしてる間にオレは井上に背中を叩かれる。

 

「ぁあ~~、変わってねぇー。くそぉー、またBか……」

 

 苦笑い混じりで井上はそう言ってきた。オレも苦笑いをして返す。

 

「今回はランクAいけると思ってたけど、やっぱ、おまえには負けるわー」

 

「ま……まぁ、オレはサツキとは違うからな。やはり『実力の差』ってヤツだろ」

 

「うわっ、そこまで言うかよおまえ……。でもまぁ別にいいや、次こそ絶対にAランクになってみせるぜ!」

 

「そうか、なら頑張ってみるんだな。……ま、その間にオレはSランクになっちまうかもだがな!」

 

「くそー、ナメやがって! 次こそ、ぜってぇAランクになってやるわ!!」

 

 そんな会話をしながらオレ達はステイホールを出て行き、自分の教室に戻って帰る支度をする。明日から夏休みだ。そんな思いを抱えて、オレ達は自分の家へと心躍らせて帰って行ったのだった。

 

 

 この頃はただ自分たちの夢を見て、自分にとって障害になる出来事なんて起こるわけがないと思い描いた未来を信じて生きていた。なのに、平然と変えてしまったオレ達のあの夏休みが、とうとう始まろうとしていた。

 そう、オレ達の運命や関係、未来までも変えてしまった。変えられてしまったあの夏休みが。

 




次回予告「夏休みの真っ最中。オレは井上の家に遊びに行っていた。
     格闘ゲームで対戦するが、さすがに井上に勝てなくてイラつく。
     ヒマになってきたところで、オレはふとテレビのCMに目が行く」
              次回、『GECO』
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