緋弾のアリアAB   作:純鶏

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13話 - GECO

   ―――数十日後―――

 

 

 普段の学校の生活から変わり、現在は楽しい夏休みが始まっているわけなのだが、オレ達中等部の学生は夏休みの課題として簡単な依頼をこなすことになっている。

 とは言っても依頼の内容はボランティア活動のようなもので、戦闘科のオレやサツキは力仕事が必要な運送業や清掃などの手伝いを2・3件するくらいである。まぁ、気持ち的には気軽な依頼ではあるが、体力的にはハードな依頼内容なので、次の日には筋肉痛が残る程過酷なものではあった。

 

 そんな依頼の数々を終え、筋肉通がなくなりかけたある日、家ですることしたいことをやりつくしてしまったオレは、井上の家にお邪魔させてもらっていた。

 まぁ、実際には井上は親戚の家から学校に通っているので井上の家ではなく、井上の親戚のじいちゃんの家ではあるのだが。

 

 冷房の効いた涼しい井上の部屋の中で、オレ達はひたすら家庭用ゲームをする。

 

 

「うおおおおおおおおおおおぉ~~!!」

 

 オレの操作するキャラがひたすら走る。

 

「…………」

 

 井上は黙って、オレのキャラの動きを見る。

 

「くらえ、しょーりゅーぅ!!!」

 

 一瞬で井上のキャラは後退しようとする。

 

(よし、かかったぞ!! さっきから青龍拳を出していたが、実は後ろからのフェイント技を……)

 

 と思いきや、井上の操作するキャラが前にダッシュしてきて格真拳を放つ。まさかのフェイントにオレの操作キャラのHPが0になり負けた。

 

「えっ……、ああぁーーー!! ……う、うそだろ」

 

「出しとけば当たるかなとは思って出したけど・・・・まさか当たるとはな(笑)」

 

「くそぉー、勝てねぇ! 現実なら勝てるのに、格ゲーじゃおまえに負けるわ」

 

(やっぱ、格闘ゲーは苦手だな……オレ)

 

「ま、やっぱり『実力の差』ってヤツかなー」

 

「ぐへぇ、ここで言うか。……それにしても、流石に1時間もしたし飽きてきたな」

 

「そうだね、さすがにこれ以上やっても弱い者イジメになるからつまらないしな。あ、でも、他に何かしたいのとかある?」

 

 弱い者イジメなんていうものは楽しいのは最初の内だけだ。何度もしているうちに自分の方がイライラしたり、つまらないという感情を抱くようになる。この世でイジメをしているやつは意地なんか張ってないで、より楽しい1日になるよう維持する方に目を向けた方が良いと常々思うな。

 って、そんなことはどうでもいいことであった。今は何をするかを考えるべきだ。確かにオレは「飽きた」とは言ったが、井上に他に何かしたいことがあるかと言われると、特にしたいことなどなかった。

 また、1人っ子である井上が複数人でできるようなものを持っているわけがなく、ほぼ1人用のゲームしか置いてなかったのだった。そんな井上の家において、二人でヒマな時間を潰そうって方が難しい。何も良い案が思いつかないオレは、座っていた姿勢から床に寝転がり、天井を見てうなだれる。

 

 

「あーあ、大崎や中嶋みたいに映画観に行けばよかったかなー。あいつらもオレ達を誘ってくれりゃあよかったのになぁ……」

 

「ま、今更『パリー・ポッテー』シリーズの最新作を見たところで、お互い前作見てないんだから、結局は話についていけずに寝てたと思うよ。きっと」

 

 そう言いながら井上は、テレビで地上波の番組で面白いものがないか手にリモコンを持ってチャンネルを変える。

 

「まぁ、そうか。確かにそれもそうだな」

 

 オレは重たい自分の体を起こし、目線を天井からテレビに向けた。そして井上はチャンネルを変えていく途中で、井上が好きな『SPEEK』というドラマの再放送をやっていたことに気付き、その番組を見ていた。オレは話の内容は知らないが、井上が見たいのであれば構わなかったので一緒にその番組を見ることにした。

 

 どうやら話の内容としては、天使のるしふぁーさんが1人の警察官にある真実を追って欲しいためその警察官の危機を助けながら、ある事件の真実に迫ってゆくといったものだった。

 

(うーん……まぁ、物語としてはまあまあ面白いかもしれないが、天使をCGにしたのはマイナスかなぁ。それと、キャストがまた戸田絵里かよ。ほんと起用されるの多いよなこの芸能人)

 

 とかドラマの評論を心の中で言っていると、テレビではとあるCMが流れてきた。

 

 

『ぱぱぁー、あんなとこに、かえるさんがいるよぉ~ぅ?』

 

『あ、ほんとだね、こんなお店のなかになん……うわぁ!!』

 

 ――変身したかのように煙が上がり、カエルの人形が人間に変わる。

 

『わーぁ!! カエルさんが、おにいさんになっちゃったぁ~!!』

 

『はいっ! らっしゅあわぁせぇい~!!』

 

『あ、すわこ! あれは、カエルじゃなくて、GECOの店員さんだったんだよ!!』

 

『あ~、そうだったんだぁ~~。そっか、ここってGECOだったもんねぇ~』

 

 ――そこで文字が写り、ナレーションに切り替わる。

 

『ただ今、GECOではDVD・BDレンタルが旧作100円。新作・準新作が1週間で300円。他にも、CDレンタル5枚で1000円。本レンタルは10冊で500円になっております!!』

 

『やっぱり来るなら、カエルのマークのGECOだよね~。ぱぱぁ~。』

 

『だなっ!(キリッ)』

 

『レンタルするなら~……GECO!!』

 

 

 そのCMを見終えた瞬間、オレは立ちあがりこう言った。

 

「よし、GECOに登下校(とうげこ)するか!!」

 

 その発言に誰も答えることはなく、ただシーンとなっていた。

 

「…………くくっ」

 

 よく見てみると井上はオレの発言に若干笑いを堪えていた。さすがの沈黙には耐えられなかったのかもしれない。井上は堪え切ると自分の口を開いて言った。

 

「じゃ、じゃあ、番組が終わってから行くかー」

 

 というわけで、このヒマな時間を打開すべくオレ達はドラマを見た後に、近くのGECOへと向かったのだった。

 

 これが、オレと井上とで一緒に行く最後の外出になるなんて、この時オレは全然思いもしない。いや、あんなことが起こるなんて考えもしないし、誰ひとりとして思ってなかっただろう。

 

 

       ――GECO店内にて――

 

 

「――ゲコゲコゲコッ、ゲッコゲコ。私の名前はケロ太じゃないよ。かわいいおめめのゲコ太だよ~」

「――ゲコゲコゲコッ、ゲッコゲコ。インドア大好きゲコ太だよ。みんなもなろう。インドア派!!」

 

 そんなレンタルショップのテーマソングが流れている中オレ達はGECOのレンタルコーナーでぶらぶらと歩いていた。

 

 ちなみに、ここは中古本やゲームの他におもちゃやレンタルビデオなどを取り扱っている。全国チェーン店のひとつであり、また子どもウケを良くしようとしているからなのか内装も子ども達が喜びそうな雰囲気となっており、いつも子ども連れの客が絶えない店だった。

 

 まぁ、別にここに来なくとも近くに似たようなお店の『TATUYA』があったのだが、さすがにそこはいつも客の数が多く、借りたい作品がほとんど借りられてしまうため、今回は少し遠いこのGECOに来たわけだった。ところが、

 

「ぁー……うん。ないな。『水火』はおろか『水夏#』もねぇし!」

 

 オレは日本映画の棚に置かれているDVDを眺めては、借りたかった作品を探してみたものの、やはり夏休みというのもあってかほとんど借りられていた。また、向こうから井上が戻って来ては

 

「ダメだわー。『PA IN POSSIBLE』と『KUSIREN』も探したけど……なかった」

 

 井上の方も目当てのDVDがなかったことを告げられる。何気に井上は洋画が好きらしい。

 

(くそ、この時期だとやはり最新作や準新作は借りられているか……)

 

 そう思いながらアニメコーナーにも行ってみるが、観たかった『拳語』シリーズもほとんど借りられてるという始末。さすが、西尾異新伝の作品といったところか。アニメの人気もすごいな。

 

 結局は、的な感じで中を見回って『ハリー・ポッテー』シリーズのまだ観ていないヤツが残っていたので

 それを借りることにした。本音を言うと、旧作DVDの料金がちょうど今は安かったので、無難にちょっとでもヒマを潰せそうな作品を借りたのだ。そして、オレはレジに向かおうとすると井上が

 

「ちょい、隣のコンビニに行ってジュース買って来る~」

 

 とオレに伝えてはすぐに行ってしまう。ついでにオレのジュースも買っておいてと井上に伝えたかったが、自分で見に行ってジュースを選んだ方が安全なので、そのまま井上を無視したオレは、DVDと財布を片手にレジに向かったのだった。

 

 清算を終えると、階段を下り、GECOの中にある書店コーナーを通り過ぎて外に出ようと歩いて行くと、ふと書店コーナーの新刊置き場に目が行ってしまう。なぜなら、なんとそこにはオレの大好きな漫画『ゼロルドノーカー』の最新刊が数少なく置かれていたからだ。

 

(ぜ、ゼロルドノーカーじゃあねぇかっ!!!)

 

 オレはいつもそれが連載されている週刊雑誌を見ようと思いながらも毎週見逃してしまう。そんなオレとしては、この作品の単行本がいつ発売なのかなんていう情報を知ることはなかった。ましてや、先月に24巻が発売していたので、まさかこんなにも早く新刊が出ているとはさすがのオレも思いもしなかっただろう。

 ……いや、実際に思わなかったわけだが。

 

 若干ニヤつきながら、タイトルや表紙、背表紙、巻数などを見回し、財布の中身など関係なくオレはレジにそれを持って行った。

 

(うわぁ、楽しみだなぁー。こりゃあ、借りたDVDよりこっち読まないといかんな!)

 

 ルンルン気分でオレは清算を終えてGECOから出ようとすると余程浮き足立っていたのか、つい、近くにいた人に肩が当たってしまう。その際に購入した本を落としてしまい、オレは謝りながら相手の人に本を拾ってもらった。

 

(は、恥ずかしい……)

 

 さすがに、少し舞い上がり過ぎてしまったようだ。そんな自分に嫌悪感を感じながら、オレは井上のいるコンビニへと向かうため、GECOを出たのだった。

 

 店から出た瞬間、まぶしい日差しが眼に入ってくると同時にオレは目を細めてしまう。さすがに、涼しい室内から外に出た時の感覚というものは割と嫌な感覚だな。そう感じつつ、オレは外の日光に目が慣れ始めてくる。

 だが、それと同時に何かの音がオレに近付いてくるような気がした。それはなんだか、車のエンジンのような音だった。そんな音が大きくなるにつれて、オレの視界は鮮明に周りの光景が見えるようになった。それとも、太陽の光が当たらないくらい近くまで来たのかもしれない。

 気づいた時には、もう目の前にいた。視界の先には車。黒いワゴン車がオレに近づいて来ていることが分かった。

 

(えっ?)

 

 車がオレのいる方に向かって来ているという光景。そんな光景をオレは現実であると信じたくなかった。まさしく目を疑うという光景だったからだ。しかし、オレの目は異常ではない。太陽の日光にやられておかしくなったわけでもない。見えている光景は確かに現実である。現実の出来事なのだ。

 

 もし、こんなタイミングでこんな最悪なことが起こったのなら、それはやっぱり誰しもが「自分はついていないな」と思ってしまうのだろうか。それとも、「仕方ない」と思えるのだろうか。いや、それ以上に自分が「死」という認識に頭が埋め尽くされるのだろう。

 オレの思考は一気に真っ白になる。身体も思考も記憶さえも真っ白に塗り替えられていく。何をすればいいかを考えるなんて、そんな悠長なことで出来なかった。そんな状態で動けるわけがない。もし、動けたとしたらそれはもう、人間の無意識に生きようとする本能なんじゃあないのかな。

 

 結局その後オレがどうなったのかなんていうのは、そのワゴン車の運転手に聞くしかないのだろう。なぜなら、どうなったかなんて記憶していない。なにもかもが真っ白になってしまったオレに、何が起こったのかなんて……分かるわけがないのだから。

 

 

 

 ワゴン車はガラスを突き破ってはガラスや鉄筋が大きく壊れる音を響かせて、建物の中へと突っ込んで行ったのだった。

 




次回予告「何が起こったのだろうか。オレが目を覚ますと、目の前には井上の顔があった。
     しかし、その時見せた井上の表情は、決してオレの心の不安を消すことはなかった。」
               次回「Tear Of Gas」
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