緋弾のアリアAB   作:純鶏

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15話 - Protect Friend

                  ―竹内 side―

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

 片手を押さえながら、オレは中へと走って進む。入った時は暗く感じた店内も段々と目が慣れていき、今ではよく見えるようになっていた。

 

 本当なら、真っ暗で誰もいないこの状況で慎重に進むべきなのかもしれない。だが、何故だろう。焦っているからなのか、過ぎていく時間の1秒1秒が長く感じ、近くに誰もいないという確信がもてるような気がした。

 

 実際にある程度進んではいるが、誰もいないし、誰にも気づかれた様子もない。しかも、さっきまで感じていた痛みと不安は、いつのまにか無くなっている気がする。まるで、アドレナリンが大放出しているかのようだ。

 

 オレはGECOの中の本売り場の新刊置き場を通り過ぎようとしていた。しかし、ふと目をやると、オレはある異変を感じた。

 

(さっき買った新刊がないな。もう売れ切れちまったのか? うん? そういやオレ、買った本はどうしたんだっけ? どっかいっちまったな)

 

 そんなことを考えているうちに、オレはいつのまにか階段の前に着いていた。さすがに、ここからは慎重に動かなければいけない気がしてきたので、ゆっくりと1段ずつ階段をのぼってゆく。階段が3分の2に達したところで、足を止める。何か匂いを感じたからだ。

 

(これは、催眠ガスか?……いや、違う。これは、ガスなんかじゃない!)

 

 この匂いをオレは嗅いだことが何度かある。もう一度よく嗅ぎながら、何の匂いか思い出そうとする。

 

(そうだ、この匂いは麻酔の匂いだ!)

 

 つまり2階は、麻酔のガスがある程度充満しているのかもしれない。そうか、どおりで静か過ぎると思ったが、どうやら中にいた人達に麻酔ガスか何かを使ったのかもしれない。でも、なぜそんなことをするのだろうか? いまいち意図が分からない。

 ……まぁ、いいや。どうやら今は換気扇がフルで活動しているおかげか、吸った所で人体に影響はないみたいだ。

 オレは、止めていた足をまた動かし、階段をのぼっていく。

 

 

 倒れている人達を無視してオレは店の奥に進んでいくと、遠くで男が大きな声でしゃべっているのが聞こえた。一般人だろうか? それとも、もしかしたらワゴン車で突入してきた人間だろうか。

 壁際まで慎重に近づき、遠巻きで休憩所の中にいる男性を見張りながら何をしゃべっているのか耳を傾ける。

 

 

「……ぉい! どういうことだよ! オレはしっかりやり遂げたはずだ!! おまえらの言う通りに行動に移したって言うのに」

 

「――――」

 

「な、なんだとっ、そんなはずはない!! た、たしかにオレは轢いたぞ!! 証拠にならないよう本も取っておいたし、あいつはしっかりと倒れていたんだ。い、いなくなる……そう! いないはずがない!」

 

 

 オレのいる方からは遠くて、休憩所の中にいる男が誰と何の話をしているのかは分からないが、轢いたとか何とか言ってる辺りはオレをワゴン車で轢こうとした犯人なのかもしれない。さっきからずっと喋ってもいるが、相手の声が聞こえない辺り、どうやらヤツはケータイで誰かと会話しているのだろうか。

 

 すると急に、犯人らしき男が携帯電話か何かを投げつけた。壁にぶつかっては何かが壊れる音が響く。

 

「ちくしょう!! こんなことならするんじゃなかったぜ。せっかく……大金が手に入るっていうから、依頼を受けたってのに!」

 

 そぉっと休憩所の中を覗き込むと、犯人らしき男は頭を抱えながら座っている。周りも見渡すが他に人間がいる様子はなく、沈黙が続いている。ということは、犯人らしき男は今はここに一人という可能性は高い。いや、一人だ!

 

 ワゴン車が突入してきて何分経ったかは知らないが、もうそろそろ警察や他の武偵が駆けつけてくるかもしれない。ましてや、このスキだらけの状況で犯人を捕まえるチャンスは、もう今くらいしかないのかもしれない。

 都合のいいようにオレは、ここで犯人を捕まえることを考えていた。そう、いつだってオレの決断に大きな失敗なんてなかった。それは慢心でもあったのかもしれないが、それ以上に自信でもあった。格闘術においても、勉強においても、誰にも負けないよう自信を得てここまでやってこれた。家の者からの意見を押しのけ、家出をする形でオレは武偵の学校に入った。そして、今学期でとうとうオレはAランクになった。いっぱしの武偵級になったということだ。そんな何もかも自分の意志で勝ち得てきたオレに間違いなんてない。このあふれてくる自信に、疑う余地などあるはずがないんだ! 

 オレはそう思った瞬間、いつのまにか犯人らしき男の方へと駆けだしていた。溢れる自信のせいか、迷うことなく一心不乱に向かって走って行く。

 

 犯人らしき男はオレが向かって来ることに気がついたのか驚いた表情をする。

 

「なっ!? おまえ、なんでっ! く、くるなああぁっ!!」

 

 走ってくるオレに向かって犯人らしき男は、ポケットから何かを取り出して投げつけて来る。

 

(今のオレに、そんなものが当たるかよっ!!)

 

 オレはスピードを緩めることもなく、紙一重でそれを避ける。近づくにつれ、犯人らしき男は隠し持っていたサバイバルナイフを持ち、振り回してきた。

 だが、今のオレにはそんな動きも手に取るようにわかった。きっと普段のオレならそんなものを振りまわしてきたら、慎重になって間合いを詰めてはスキを見て取り押さえるのだろう。でも、身体から湧いてくる自信がオレをつき動かしていく。

 オレはナイフを避けながら、犯人らしき男の腕を掴み、ナイフを持った腕を地面に叩きつける。そして、すぐさま彼を取り押さえ、犯人らしき男の顔を冷たい地べたにくっつけた。犯人らしき男は軽く悲鳴をあげる。

 

(……終わったな)

 

 オレは犯人らしき男が低抗しないよう絞め技をかけるが、力が強すぎたのか気絶してしまい、脱力してその場に倒れてしまう。一応、死んでいないかを確認したオレは周りを見渡してみる。とりあえず、犯人らしき男を取り押さえたということで、余計に舞い上がっていたオレはふと携帯電話が落ちているのに気がつく。

 さっき、犯人らしき男がキレた時に投げたやつなのだろうか? 確認しようと近づこうとして視線を凝らす。だが、そこでオレは異変を感じてしまう。

 

(いや、待てよ。さっきオレがいた場所の近くにないかアレ?)

 

 携帯電話以外に、犯人らしき男がオレに向けて投げた物は見当たらない。ということは、オレに向けて投げてきたのは携帯電話ということになる。じゃあ、その前に犯人らしき男が壁に向かって投げたのはなんだろうか?

 

 そんな疑問を抱いたまま、オレは後ろから何かが近づいてきたことに気付いて振り向く。近づいてきたのはなんと、井上だった。井上がオレの方に向かってひたすら走ってきている。何か叫んでいるような気がするが、聞き取れなかった。

 

 音がした。何かが発射されるような音が聞こえてきた。反射的にオレはその音がした方へと振り向くと、暗くて分からないが確かに誰かがいた。そこにずっと、誰かがいたらしい。

 

 

 

                 ―井上 side―

 

 

 GECOの休憩所、店内で唯一飲み食いが許される場所に1人の男が立っていた。そいつは誰かを待っているのか、さっきから何かのリモコンのようなものを片手に周りを警戒しながらうろうろと歩いていた。

 そして俺は、その犯人らしき男から見つからないようにしながらなるべく近づいて見張っては、他の応援が来るのを待っていたのだった。ただ、携帯電話の電池が切れていたため、連絡を取ることはできなかった。

 

(こういう時に、携帯電話の代わりの電池とかがあれば便利なんだけどなぁ)

 

 そんなことを思いながら、時々自分の周りに異変がないか視線を変えたりして、犯人らしき男を監視することにした。

 

(―――!!!)

 

 男は急に自分のいる方に振り向き、まるで俺を見つけたかのように歩いてくる。

 

(やばい!? 俺がここにいることがバレたのか??)

 

 ドクンドクンっ! と俺の心臓が高鳴る。まさかこんなにすぐにバレるとは思っていなかったので、少しパニクってしまう。

 

(ど、どうしよう!! どうすればいい!?)

 

 俺は懐からナイフを取り出しては、いつでも交戦に移れるようだけは備える。

 

「おい、いるのか! そこに!」

 

 犯人らしき男は声を荒げる。俺は正直出ていくべきかどうかを悩んだが、すぐに覚悟を決めて男の前に出ていこうとすると

 

「おまえだろ!? おれさまに依頼してきたやつは!!」

 

(――!?)

 

 その言葉を聞いて、俺は動きを止める。

 

(な、何だ? どういうことだ?)

 

 その時、ちょっと離れた方からかすかに声が聞こえてきた。俺はその声の人物の姿を探してみるが、どこを探しても見つからないでいた。

 

「……ふっ、そうだ。―を――したのは、わたしだ」

 

 その声は低く聞き取りづらい声で、声を聞く限りは渋い男性が喋っているように感じだった。犯人らしき男もさっきから周りを見渡しているあたり、どうやら、どこにその声の人物がいるのかが分かっていないようだ。

 

「きさまが、――のじけんを―――てくれたのは、かん――している。だが、キサマは、ひとつ見逃し――ることがある!」

 

「……ぉい! どういうことだよ! オレはしっかりやり遂げたはずだ!! おまえらの言う通りに行動に移したって言うのに」

 

 どうやら犯人らしき男には、この渋い男の声の人が何を喋っているのか分かるらしい。もっと近くに行けば、俺もこの声の人物が何をしゃべっているのかはっきり分かるのだが、さすがにそんなリスクをおかしてまで近づく勇気はなかった。

 

「わたしが――した――を、―――つもりだったの――――、その――が―――いない。―――は、依頼の――をあげる―――はいかない」

 

「な、なんだとっ、そんなはずはない!! た、たしかにオレは轢いたぞ!! 証拠にならないよう本も取っておいたし、あいつはしっかりと倒れていたんだ。い、いなくなる……そう! いないはずがない!」

 

「ざん――だろうが、きさまが―――をしっ――ひいて―――、おまえの―――だ」

 

「なっ!!?」

 

 そこで男は今まで持っていたリモコンらしきものをやみくもに投げつける。だがそれは無情にも渋い男の声の人物には当たらなかったようで、壁に当たって壊れる。

 

「ちくしょう!! こんなことならするんじゃなかったぜ。せっかく……大金が手に入るっていうから、依頼を受けたってのに!」

 

 そう言いながら犯人らしき男は近くにあったベンチに腰をかけ、頭を抱えながら座る。それから、静かに沈黙が流れる。さっきから渋い男の声がしなくなったのをみると、その声の人物はいなくなったのだろうか。

 

 沈黙が続いている中、しばらくして犯人らしき男がいる向こうの扉の方で人影が見えた。

 

(んっ? 何だ!? 向こうの方から誰かが走ってくるぞ!!)

 

 素早い走りをするその人物は、犯人らしき男の方へと向かっていた。ある程度近づくと、さすがに犯人らしき男も気づいたのか、驚いた表情をする。

 

「なっ!? おまえ、なんでっ! く、くるなああぁっ!!」

 

 そう言った瞬間、犯人らしき男の方へと向かっている男の姿がはっきりと見えた。

 

(あれはジュウ……なのか!?)

 

 何度見ても、さっきまで一緒にいた竹内ジュウの姿をした人物がそこにいた。だがそれが本当に「竹内ジュウ」本人なのだろうか? そういう疑問が出てくるほど、目の前で走ってきている人物の表情は自信にあふれた顔で、やや違う色彩を放つ碧い瞳だった。

 さらに、

 

「うがあああっ!!」

 

(は、はやいっ!!)

 

 まるで、相手の方がジュウの手のひらの上で操られているかのような、普段の動き方とは違う攻撃の立ち回り方や動き方。元々、武術を教わっていたジュウであるが、あんな動きは見たことがない。そんな異風を放っている目の前の男をジュウ本人なのだと認めて良いのか俺は悩んでしまう。

 

(―――!!)

 

 だが、悩んでいたはずの自分がいつのまにか、そのジュウらしき人物の方へと走っていく。一歩、また一歩と、足を前へ運ばせるたびに自分の胸の動悸が激しくなっていく。この動悸がただ、走っているから激しくなっているのではないことだけわかっていた。

 

(なんだろう? これは)

 

 わからない。わからなかったがこの感覚は、さっき感じたこの感覚は、なんとなくジュウが危険であることだけは伝わってきた。

 俺は走っていく。

 

(助けなきゃ! ジュウを守るんだ!!)

 

 何かが、この部屋のどこかにいるような気がしていた。不安を駆り立てくる人物が、この事件に関わっているそんな人物が、ここにいる。

 俺はひたすら走っていく。俺の存在に気づいたジュウらしき人物は、俺の姿を見る。

 

「いの……うえ?」

 

 俺はそのジュウらしき人物をかばうかのように飛び込む。その時にはジュウはもうオレの方を見てはいなかったと思う。

 

 何かが発射されたような音がした。

 そして、自分の視界が一瞬で暗闇へと変わり、思考がなくなっていく。まるで、自分の周りの時間が止まってしまったかのようだ。何もかも感じなくなり意識が遠のいていく。

 

 どうやら俺は、何かを守ったらしい。

 

 




次回予告「気がつくと井上は倒れていた。早く助けないと、井上の命が危ない!
     しかし、それ以前にオレは目の前の男を倒して捕まえないといけない!」
                次回「Razzo」
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