今まで出てきた内容もありますが、総集編としてお楽しみ頂けると幸いです。
――とある病院の病室――
ふと目覚めるとそこは白い天井。ベットの上で寝ていたのは俺。周りには窓と花瓶の中にある花と白い壁と……母親がいた。
あの事件以降何があったかなんて俺自身は覚えていないが、病室にいるということは自分はこの病院に運び込まれたということなのだろう。
俺は体を起こそうとするが、起きれない。上手く力が入らないのだろうか。もう一度、体全体に力を入れて起きようとすると、なんとか体を起こすことが出来た。
まるで自分の体が自分の体ではないようだった。実際はそこまでひどくはないのだろうが、最初はそう思えてしまうくらい自分の体に違和感を感じたのだった。
「かあさん!」
俺はうたた寝している母親に話しかける。ハッと気づいた母親は俺の姿を見て驚いた表情をする。そしてすぐに口を開いた。
「サッちゃん起きたのね! どう? 体調は悪くない? 気持ち悪くない? 気分はどう? なんならナースさん呼ぼうか? その前に体は動くの? どう、大丈夫なの? 起きなくても、無理せずに寝てればいいのに。とりあえず、あーっと、どうしようか?」
「ひとまず落ち着きなよ。別に気持ち悪くないから、大丈夫だよ。それより聞きたいんだけどさ」
戸惑っている母親を止めて、俺は聞きたいことを聞く。
「俺、どうして病院に? 何が起こったの?」
病院にいる理由なんて、そりゃあケガしたからに決まってる。誰だって考えれば分かることだが、とりあえず何がおこってこの病院にいるのか経緯を知りたくて、俺はそう聞いてしまった。
「もしかして記憶がないの? えっと……サッちゃんは、GECOに行って事件に巻き込まれたの。その時にケガをしてこの病院に連れてこられたの」
俺の聞きたいことはそういうことではなく、事件に関してもっと詳しく知りたかったのだが、もしかしたら知らずにここにいるのかもしれない。
「んー……じゃあ、ジュウがどうなったか知らない?」
この際、事件のことは置いといてジュウのことを聞こう。そう思い、気になっていた友人のジュウのことを聞いた。
「ジュウくん……。あの子は左目をケガしたらしいけど、生きているらしいわ」
「そ、そうかぁ」
俺は安心する。身を挺して守った友人が生きていて、俺はホッとしてしまう。
「でも……」
「……でも?」
母親の顔が暗い。どうしたのだろうか? もしかして、ジュウに何かあったのだろうか?
「あの子のせいで、あなたは……」
「……えっ?」
俺は母親に肩を掴まれる。母親の表情は今にも泣きそうになっていたが、意を決して何かを語ろうとしていた。
「サッちゃん、ようく聞いてね。あなたの体には後遺症が残ってね。上半身に麻痺症状が出るらしいの。……もう、あなたは何もかもうまく手で持つことが出来なくなるのよ!」
「―――!?」
何を言っているのかよくわかんない。確かに手に違和感を感じたりはしたが、動かせないわけではない。そんなこと信じられるわけがないんだ。
だが、意識し出すと不安感が一気に襲い掛かる。さっきまでの違和感が、俺を恐怖させる。
俺の手はあまり感覚がなく、痺れているかのように震えていた。
近くにに置いてあった花瓶を持とうとする。だが、持つことはなく倒れる。持とうとして持てなかったということが、信じられないことだった。
「で、でも……それも一時的なはずだよね。いつかは治るはず、なんだよね? 今だけなんだよね!?」
俺はひどく焦ったように母親に尋ねる。怯えた俺を見て、苦しそうに下を向いて語ってくれた。
「いいえ、分からないそうよ。今の日本の医学では、完全に治すことは不可能らしいわ」
俺は絶望する。希望を持って母親に聞いたが、まさかの裏切りのような言葉にひどく落胆する。
現実の残酷さに打ちひしがれていく。
「……じゃ、じゃあ、あれか。俺は、武偵に……なれないのか? 目指してきた、なりたかった武偵には、もうなれないの?」
母親は何も言わない。いや、何も言えないのだろう。必死に口を閉じている。何かを堪えていた。
「俺が、ジュウをかばったから、かばったせいで……」
絶望感によって俺は周りが白くなっていく。頭も真っ白になっていく。感覚も真っ白に何も感じなくなっていく。血の気が引いて、孤独の世界に取り残されたような気がした。
――事件から3週間後――
今日も一人、オレは部屋の中に佇んでいた。必死に、ただひたすら必死に、受け入れたくない現実から逃げようとしていた。
アイツが憎い。アイツのせいでオレは武偵の夢を諦めざる負えなくなってしまった。アイツが余計なことをしたせいでオレはこんな体になってしまったんだ!
殺してやりたい。あんなやつのために武偵を諦めるなんて酷過ぎる話だ。
しかし、そんなことを思っても現実は変わらない。憎しみだけが取り残されていく。
じゃあどうしたらよいのだろうか。考えても考えても、憎しみばかり増えていく。
ふと、オレは脱力する。もう考えるのが疲れたからだ。考えすぎて、逆にどうでもよくなってきた。あんなヤツのことを考えることが間違いな気がしてくる。
そもそも、今でさえ苦しんでいるというのに、さらに苦しむ必要なんてない。今まで苦しんできたんだ。あんなヤツのために苦しむ必要なんてないだろ。
そう思ったらどうでもよくなってきた。あんなヤツのことを思い出すからいけないんだ。忘れよう。忘れればいいんだ。思い出さなければいいんだ。消そう、記憶から。
オレはひと思いに、井上の痕跡を消した。写真も思い出も井上の関係するものすべて、消した。
そして、最後に会って、全てをリセットしよう。そうすれば、オレはまた武偵として生きれるはずだ。そうに違いない!!
次の日、オレは井上の病室に行ったのだった。
――病室――
「なぁ、俺のやっていたことは間違っていたのか? なんでこんなことになっちまったんだ? どうすりゃいいんだよ、おいっ!」
「…………」(知るかよ)
「……くそっ。もう、いいよ。ここから出て行ってくれ! もうてめーなんか、見たくもない!」
「…………」(オレだって見たくねぇ)
「……俺は明日退院して、千葉の実家の方へ帰ることになったから東京には、いられない。もうここにいることも、武偵でいることもできないんだ! ちくしょぉぉ……」
「…………」(せいせいするよ。ほんとにな)
オレは病室を出て、扉を閉める。
「…………すまない、じゃあな」(これで、一生会うことはないだろうからな)
この言葉が、井上に聞こえたかどうかは定かでがない。
ただ、くすんだ白い床を見つめながらそう呟いたオレはその場から立ち去っていった。
こうしてオレは、清々しく井上から解放され、記憶を消したのだった。
オレは自分のせいで左目をケガした。ことにした。
(オレは、バカだ! 自分の力量を過信したばっかりに、こんなことに)
なんて自分は弱いのだろう。一人の男を守ることも、救うこともできなかった。そんな思いを抱えながらオレは、左目を押さえ、病院を出た。
季節はもう秋になろうとしていた。風はもう冷たく感じる。あの事件は、ただの傷害事件で済まされ、いつもと変わらない日常へと戻った。この左目に視力がなくなったこと以外は。
最初は、片目だけの生活に戸惑いはあったが、ここ数日でその違和感さえも感じなくなってきている。
(これで、この銃はもう使えないな)
オレは腰につけてる「FN P90」を見つめ、溜め息をついた。銃の使えない武偵。ましてや、強襲科の武偵など、戦闘においては不利すぎる。
昔から正義の味方である武偵をオレは目指していた。だが、自分さえも守れない武偵では、憧れていたヒーローとして認めるわけにはいかなかった。
風にうたれながら、オレは武偵学校を辞めようと考える。その方が、誰も傷つけずにすむ。誰も失うことはないはずだ。
そんなことを考えながら川沿いの道を通って、寮に帰っていると、目の前で巫女さんが川を眺めて立っていた。その様子はとても困った感じだった。
よく見てみると目の前の巫女さんは、黒髪の長髪で和風美人として名乗っても良い程、顔が整っている。清楚で年上の彼女を見たオレは、不安そうな顔をした彼女に釘付けになっていた。年齢も高校生くらいだろうか? そんな彼女に、オレはつい話しかけようとしたら、彼女は涙目で空にこう告げていた。
「私のせいだ」と。
――――――
「あの……、どうかしましたか?」
オレは、目の前にいる巫女さんに話しかけてみた。
「えっ!? あ、いや、なんでもないの。ただ、お友達とケンカしちゃって、つい……」
オレの存在に気付いた巫女さんは、恥ずかしそうにそう告げた。
「あ、そうだったんですか……。あまりにも、そわそわしていたので、道に迷ったのかと思いました」
「あー、そうじゃないの。ただ、私のせいで彼を傷つけてしまったのかもしれないから、どうしよう……って思っていたら……」
「そ、そうでしたか……」
オレはつい彼女に声をかけてしまったが、少し気まずい空気になってしまった。そんな中、巫女さんはオレの服を見て、質問してきた。
「その制服は、もしかして中等部の武偵さん?」
「あ、はい。今まで強襲科で学んでいました」
「学んでいた……? もう、強襲科ではなくなったの?」
「あっ……、いえ、今は武偵を辞めようと考えていまして……」
「そうなの……? 私の彼もさっき、武偵をやめると言いだしてきたの。……なんでだろ。彼はとっても優しい正義の味方のような人だったのに……」
「正義の味方……ですか。」
その言葉を聞いた瞬間、オレは、彼女に質問してしまう。
「でも、その彼が正義の味方でなくなってしまうほど、誰も守れなくなったら……どうしますか?」
自分は何を彼女に対して質問をしているのだろう。そう思ってしまうと、彼女に対して質問をしたことを後悔する。だが彼女はオレの質問に、真剣な顔付きで返してくれた。
「いいや、キンちゃ……、彼はきっと助けてくれるよ。いつも彼は助けてくれた! どんな時もわたしを。だって、誰も守れないから正義の味方なんじゃない。どんな時でも守ろうと、救おうとするから、彼は正義の味方なの!」
オレは固まった。その時の彼女の強い眼差しに釘付けとなり、その言葉にハッとして、胸が激しく動かされる。
(そうか。そうだったんだ。今のオレにできることなんて限られてたんじゃないか。ははっ、オレが簡単に人間みんなを守れるわけないんだよ。何を自惚れてんだよオレ)
オレはそこで気づいてしまったのだった。自分の目指しているものというのは何なのか。自分は何を目指していたのかを……。
「す、すいません。へ、変なことを質問してしまって……」
すると、彼女は急に照れながら答える。
「わ、わたしも急に熱くなってごめんなさい。あ、わたし、もう戻らなくちゃ。そろそろ遅刻しちゃう。」
そう言って彼女は去っていった。風が吹いている中、いそいそと髪をゆらしながら……。
オレはまだ幼く、残酷な現実に向き合うことが出来なかった。
最初に行った行為は、責任転嫁。
井上を憎むことで何か月は保つことが出来た。
しかし、それでは憎しみが増すばかりで、段々と抑えられなくなっていった。
このままでは、憎しみでおかしくなりそうになる。
次に取った手段は記憶喪失。記憶を失うことによって、自分を保てた。
むしろこの場合は、記憶を改ざんしたと言った方が正しいのだろう。
そうすることによって、オレは何事もなく、普通に生活を送ることが出来たのだ。
――――――
こうして、流水編へと向かって行く。
それは、竹内ジュウが普通に武偵学校に通い、毎日過ごすはずだった物語。
物語は、流れ始めたのだ。