緋弾のアリアAB   作:純鶏

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 ――約8ヶ月前――


ある病院の病室。その中に、オレと彼はいた。
彼はベットの上にいて、オレはただ立ち尽くすのみだった。


「なぁ、俺のやったことは間違っていたのか? なんでこんなことになっちまったんだ? どうすりゃいいんだよ、おいっ!」

「…………」

「……くそっ。もう、いいよ。ここから出て行ってくれ! もうてめーなんか、見たくもない!」

「…………」

「……俺は明日退院して、千葉の実家の方へ帰ることになったから東京には、いられない。もうここにいることも、武偵でいることもできないんだ! ちくしょぉぉ……」

「…………」

オレは病室を出て、扉を閉める。

「…………すまない」

 この言葉が、彼に聞こえたかどうかは定かでがない。
 ただ、くすんだ白い床を見つめながらそう呟いたオレはその場から立ち去っていった。


(オレは、バカだ! 自分の力量を過信したばっかりに、こんなことに)

 なんて自分は弱いのだろう。守ることも、救うこともできなかった。そんな思いを抱えながらオレは、左目を押さえ、病院を出た。
 
 季節はもう秋になろうとしていた。風はもう冷たく感じる。あの事件は、ただの傷害事件で済まされ、いつもと変わらない日常へと戻った。この左目に視力がなくなったこと以外は。
 最初は、片目だけの生活に戸惑いはあったが、ここ数日でその違和感さえも感じなくなってきている。

(これで、この銃はもう使えないな)

 オレは腰につけてる「FN P90」を見つめ、溜め息をついた。銃の使えない武偵。ましてや、強襲科の武偵など、戦闘においては不利すぎる。

 昔から正義の味方である武偵をオレは目指していた。だが、自分さえも守れない武偵では、憧れていたヒーローとして認めるわけにはいかなかった。

 風にうたれながら、オレは武偵学校を辞めようと考える。その方が、誰も傷つけずにすむ。誰も失うことはないはずだ。
 そんなことを考えながら川沿いの道を通って、寮に帰っていると、目の前で巫女さんが川を眺めて立っていた。その様子はとても困った感じだった。
 よく見てみると目の前の巫女さんは、黒髪の長髪で和風美人として名乗っても良い程、顔が整っている。清楚で年上の彼女を見たオレは、不安そうな顔をした彼女に釘付けになっていた。年齢も高校生くらいだろうか? そんな彼女に、オレはつい話しかけようとしたら、彼女は涙目で空にこう告げていた。

「私のせいだ」と。



2話 ‐ 龍の手紙

「オレはいつも思う。現代の女子ってのは、何であんな野蛮で低レベルな性格の女子しかいないんだ?」

 

「いや、俺に聞かれても……。草食系男子に伴って、発生したと考えるしかないよね」

 

 教室の窓際でさっき買ったコンビニ弁当を食べながら、オレと友人の小野とで女子について雑談をしていた。

 

 

「はぁ……。もっと、清楚で優しい年上の女子っていないんだろうか」

 

「そうだねぇ……。また、通信学部で良い女の子がいたら教えてあげるよ」

 

「そう言って、また変に気難しい性格や誰かに片想いしているような女子を紹介して、あえて、面倒くさい方向に仕組ませるじゃあねぇだろうな?」

 

「あははははっ、さすがにもうそんなことはしないさー」

 

(どうだか。お前のせいで、同級生の情報科の間では、変な噂が流れていることは知ってんだぞ!)

 

 そんなことを思いながら、オレは弁当へと箸を進めていた。

 

 オレが片目をケガした事件から約半年以上。あの出来事があって、オレは今ここにいる。幸い、中等部の頃の知り合いだった小野と、今はこうして同じクラスで楽しく過ごしている。一応、友達としてコイツと仲良くやっていけているおかげで、ここのクラスにいても寂しいことはなく、一人でいることも少ない。基本良い奴なのだが、イタズラ好きというか、人を陥れることが大好きな性格をしている。そのため、たまにオレを振り回すこともよくあるわけだ。

 

 窓から見える景色を眺めながら、半年前に病院から帰る途中で会った女性のことを思い出す。会ったのはあの時限りで、実際にどこの誰なのかも全く分からない。それでも、オレは度々事件のことと、その女性のことを思い出す。

 まるで、思い出さないと忘れさられてしまうかのように。

 

 

 

「そういや、バスジャック事件の調査は今、どうなっているんだ?」

 

 思い出したように、オレは小野に先日巻き込まれた事件のことについて聞いた。

 

「あー、今のところ何も出てこないらしいよー。なにせ証拠は全部消滅しとるのもあって、足取りがつかないらしく、ここまで巧妙だと一筋縄ではいかないみたいだね」

 

「ふうん、そうか……、それなら仕方ないな」

 

 あの事件以降、オレは天気が雨でも自転車通学をするようになった。バスには厳戒注意体制がとられるようになったので、きっと前よりも安心して乗れるのだろうが、どうにもあまり乗る気にはならなかった。

 そういえば、現場に突入した先輩の女子生徒の一人が頭にケガを負ったらしい。バスに乗っていた生徒はみな無事であったことを思うと、その女子生徒に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 オレはコンビニ弁当を食べ終えて、片づけ始めようとした矢先、

 

 

「そういや昨日はあの峰先輩と一緒にアニメイトウにいたらしいな」

 

「えっ? なんでそんなこと知ってんだ!?」

 

「俺っちの情報網ナメるなよー。伊達に女子とパソコン関係には不自由しないからな。それなりの情報は掴めるんだよ俺は! それにしてもまさか、あの先輩ととはなぁ……、ほんとまさかだわ」

 

「おまえの思っているのとは違う! 偶然、たまたま居合わせただけだ!! 声をかけられて、代わりに頼まれたエロゲーを買ってあげただけだ。それ以外はない!」

 

「それ以外、ねぇ……。まぁ、俺はあんな先輩と関わっていける自信ないわ」

 

 

 それはオレも同意したくなる。なぜなら、その「峰 理子」という先輩は、探偵科の先輩達の中でも1番の変人で、唯一制服をゴスロリ風に改造している超痛い先輩だ。また、容姿や体格は外国美人なのだが、性格がどうにも難ありという感じで、しかも趣味がエロゲーを嗜むことらしい。

 聞いた話によると、よくアニメイトウに出没することが多く、入学当初はここに来てはエロゲーを買おうとしていたら、容姿が幼く見えたため何回か店員さんに売ってもらえなかったことがあったらしい。そのせいか、オレもよくこの店に通っているせいで顔を覚えられたらしく、昨日はたまたま安売りしていたエロゲーがあったので、オレに話しかけてきては、代わりに買ってきてと頼まれたのだった。

 ただ、あの電波ともぶりっ子とも言えるあの雰囲気は、どうも人間として受けつかない。きっと彼女と付き合おうなんて考える男は、この世界では数少ないのだろう。

 

 とりあえず、弁当を片づけたオレは、トイレに向かうことにしたのだった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

               ―約6か月前―

 

 あの事件から2ヶ月が経った。東京で仲間だった竹内ジュウのことは忘れ、故郷の千葉へと移り住んだ。今では、普通の生活にも慣れ、普通の学校、普通の授業、普通の友人と一緒に住んでいる。2ヶ月以上前では考えられない光景だった。

 しかし、なぜだろうか。「なぜ、オレはこの場所にいるのだろう」と最近は頻繁に考えてしまう。その度にオレは、右手に力を入れてしまう。

学校から家まで歩いて行く途中で、目の前にコートを着た女性が立っている。

 

(うん?誰だ?あの女性は?)

 

 そう思った瞬間、その女性はオレの方を向いて歩いてきた。風がその女性の匂いを運んでくる。その匂いを嗅いだ後には、その女性はもう目の前に立っていた。

 

(なんて……、キレイな女性なんだろう)

 

 そう思っていると、その女性は微笑んだ表情で喋り出した……。

 

「あなたが……、井上くんね。私はカナと言います」

 

 そう言い出したその女性は、碧眼の眼差しでオレを見つめたのだった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 バスジャック事件から5日後の放課後。オレは一人で寮へ向かって帰っていた。本来なら、今日も小野と一緒に帰る予定だったのだが、

 

「すまん! 急に情報科の女子がオレ会いたいって言うから、今日は一人で帰ってねー」

 

 とのことだ。

 

(まぁ、いつものことだけど相変わらず、女子にも人気だよなアイツ! 全くもってうらやましい!! いや、ほんとむかつくヤツだよあいつは)

 

 そんな苛立ちを抱えながら、オレは自転車を走らせて街の中を通っていく、その途中で、電気屋さんの外に置いてあったテレビで、たまたま台風予報をやっていたのでそれに目が止まる。

 

 

「台風13号は、依然勢力を保ったまま北上を続けています。週明けには関東地方に最接近。もしくは上陸の可能性がでてきました。そのため、週明けから火曜にかけて大雨暴風、それに伴う大幅な交通機関の乱れが心配されます。お出掛けを予定されている方はなるべく控えてください」

 

 

(はぁ、また台風くるのかよ……。最悪だ)

 

 そんな憂鬱な思いを抱えながら、オレはゆっくりと自分の寮へと自転車をこいで帰っていった。

 

 

 学生寮に着くと、駐輪場に自分の自転車を置いて、寮の中へと入っていく。

 

「あら、おかえりなさい! ジュウくんに手紙来てるわよ」

 

 寮監がいたことに気付かなかったオレは、急に話かけられて少し驚いてしまう。

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

 オレは、寮監に手紙をもらうと素早く去ってしまう。シャイなオレとしてはオカマっぽい寮監と会話はなるべく避けたかったのだ。

 

(何だろう? 母親からの手紙かな? まぁ、バスジャック事件もあったことだし、心配して送ってきたのかな)

 

 とりあえず、オレは自分の部屋に入ってから見ることにした。封筒を持ったオレはカバンを机の上に置き、イスに座って、その封筒の宛名を見た。そこには、何年振りだろう。オレにとって、縁の深い名前が英語表記で書かれていた。

    

 

 

『―Ryutaro Asada―』

 

 

 

 

 その名前を見たオレは驚きを隠せないでいた。なんたって、何年も会っていない父親から手紙が届いたのだ。別に父親と仲が悪いというわけでもなく、ただ疎遠になっていただけなのだが、手紙をよこしてきたのは今回で初めてだった。

 オレは、すぐさま封筒の中身を開け、手紙を読んだ。

 

(親父からの手紙なんて、何かあったに違いない!)

 

 その手紙にはこのような内容が書かれていた。

 

「  

 ―ジュウへ―

 

 急にこんな手紙が来ておまえは驚いているかもしれないな。なにせ、3年も会っていない父親から手紙が来たのだ。驚くのも仕方ないのかもしれない。

 実はおまえが武偵の医療科にいると聞いてすぐにこの手紙を書いたわけなんだが、おまえ、片目をケガしたらしいな。しかも、日本では治せなかったらしいな。そこで、一度オレにどうなっているのか診せてくれないか? もしかしたら、こっちの医療器材やオレの技術を活かせば治る範囲かもしれない。さすがに、武偵になろうとしている男が片目を失明しているとあっては、信用を得るのも仕事をするのも難しいはずだ。それとは別に、おまえに会って話したいこともあるしな。

 あと、もしロンドンに来るのなら、ロンドンの武偵学校へも行ってみたいと思わないか?オレの知り合いにその学校の講師がいて、たまにオレも現場の講師として学生に医療を教えていたりしている。もし、おまえが見たいというなら、学校を見学することも不可能ではない。ましてや、日本より本格的な医学や武術を目にすることが出来る。どうだ、ロンドンに一度来てみないか?

 この封筒に、ロンドン行きのチケットを添えておく。来る気になったら、オレに手紙か母さんに連絡をしてやってくれ。では、ロンドンで待っているぞ!    

                         ―浅田 龍太郎―    

                                          」

 

 オレは手紙を読んだ後、封筒の中にあるチケットを見てみた。

 

(3日後の午後7時。しかも、これは質の良い豪華旅客機じゃないか!!)

 

 チケットをテーブルに置いたオレは、途方もなく窓から外を眺めた。

 オレの親父、「浅田 龍太郎」は若くして、熟達の腕を持つ外科医として、世界医療支援団体NGOに所属している。たしか、33歳の時に日本に帰国し、オレの産みの親「里原ミキ」と出会い、結婚した。しかし、オレが生まれて1年後に交通事故でオレの母親は戻らぬ人となった。親父が37歳の時に日本のある病院に呼び寄させられる。そこで、現在のオレの育ての母親「竹内 飴美」と出会い、2度目の結婚をする。今では、親父はNGOのロンドン支部で働いていて、母親はとある製造会社の貿易取り締まり役として働き、2人とも別々の場所で暮らしている。

 

 そんな家庭で生まれたオレは、あまり親父と会うことは少ない。しかし、オレにとって1番の憧れでもあり、

 武偵になろうとキッカケをくれたのも、元々は親父のおかげだったのだ。そんな親父のトコへ行って、目を治してもらえるというのなら、是非行きたい。そして、何よりも親父と会うことができる。こんな機会はめったにない。これを逃したら、もう次はない気さえしてくる。

 

 今日も、夕焼けはキレイだった。寮から見える川の色は夕日の色に染まっていた。

 それを見ていると、半年以上前に川で誓ったあの出来事を思い出していた。

 

(オレは誓ったじゃないか。大切なものを救う武偵になってみせるんだって)

 

 テーブル、オレはロンドン行きのチケットを握ったのだった。

 

 

 

 

「明日の飛行機で、ロンドンへ行っちゃうのー?」

 

 授業の休み時間、少し羨ましそうな顔で小野はそう口にした。

 

「ああ。もうチケットはあるからな。夕方には寮を出ようと思っている」

 

「ロンドンかー、行ったことないから想像つかんわー。それにしても、急な話だね」

 

「いや、ついこのまえにロンドンに来ないかっていう話が来たからな」

 

「それじゃあ、今日は明日の準備する感じ? 今日のカラオケはどうするん?」

 

「あー、それなら大丈夫だ。明日の朝まで踊って歌ってもかまわないぞ」

 

「そうか、なら結局来る人数は5人というわけか」

 

「それで、今日のカラオケは他に誰が来るんだ?」

 

「えーと、牧田と堀江さんと高嶋さんかな」

 

「嫌がらせか!! なんで、よりにもよって前フラレた高嶋さんと陰でオレのこと嫌いだって言っている牧田まで来るんだよ!」

 

「いや、牧田に関しては俺と一緒にカラオケ行きたいって言ってたし、高嶋さんはオレと元々仲良いし、ジュウが来ても別にいいって言ってたよ」

 

「……ふうん」

 

 (もう、小野が嫌がらせをしているようにしか感じられない……。絶対、楽しんでんだろコイツ)

 

 一昨日とは変わって、天気が暗い雲に覆われた空を見ながら、オレは授業の準備を始めたのだった。

 

 




次回予告「オレはロンドン行きの飛行機へと乗る。親父に会えるというだけで、心が躍るようだった。
     そんな中、オレの乗った飛行機は少しずつ地上を離れていった。
              次回、『オルメスの弾』」
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