緋弾のアリアAB   作:純鶏

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3話 - オルメスの弾

(なん……だとっ!?)

 

 部屋の中を見たオレは、つい絶句してしまう。なぜなら、オレが乗った飛行機はそこらにあるような旅客機ではなかったからだ。1階は広いバーになっていて、2階には中央通路の左右に高級ホテルのような12の個室が機内に造られ、それぞれの部屋にベットやシャワー室までもを完備したものだった。いわゆる『空飛ぶリゾート』という中身の、セレブ御用達の新型機なのだろう。今まで普通の飛行機にしか乗ったことがないオレだが、こんな豪華旅客機に乗れたことに感動を覚えてしまう。

 

(テレビも、機内電話も、更にはクローゼットの中には冷蔵庫まであるとは、ほとんど豪華ホテルと変わらないな!)

 

 オレは、必要な荷物以外はキャビネットに置いて、部屋の中を探索しては時間を潰した。そんなことをしている間に、機内アナウンスが流れ、旅客機は離陸の準備をするため動き始めた。オレはアナウンスの指示に従い、イスに座ってシートベルトを締めては、テレビに写る飛行機からの滑走路を走る映像を眺めていた。雨が降っている中、猛スピードで動きながら離陸している様子は、飛行機に慣れていないオレを少しずつ不安にさせていく。しかし、ベルトサインが消えるとオレは安堵と共に冷蔵庫に入っていた紅茶を取り出し、テレビを見ながらさっきまでの不安を忘れていった。

 

(それにしても、面白い番組ってないのな。どれも、興味ないものだ)

 

 そんなこと思っていると、窓の方から雷の音が鳴る。その音が鳴り止むと、機内アナウンスが流れ始めた。

 

「お客様にお詫び申し上げます。当機は台風による乱気流を迂回するため、到着が30分程遅れることが予測されます」

 

 そんな機内放送が流れながら、オレの乗る豪華旅客機は少し揺れながら飛んでいた。

 

(ほんと、こんな時に台風が近づいてきてるなんて、オレもついてないよなぁ)

 

 そう思って窓を見てみるが、外の景色は雲と雷しか目に映らない。

 

 

「さて……、ゴットンイーターでもやってようかな」

 

 テレビを見てても退屈だったオレは、時間潰しに携帯ゲーム『PNP』を取り出した。時刻を見ると、まだ19時30分だ。ロンドンまではまだまだ時間がかかる。長い時間、ヒマを潰すのには最適だった。オレはベットに横たわり、最近流行りのアレカミという化け物を倒すというアクションゲームを始めた。

 

 

 銃を撃つ音が鳴る。だが決してこの音はゲームから流れているわけではない。部屋の中ではなく外だ。オレは数秒間、体が硬直してしまった。

 

(い、今のは銃声!? 通路の方から音がしたよな?)

 

 オレはおそるおそるドアを開け、周りを見渡すと乗客が大混乱に陥っていた。そんな中、機体前方の通路の先にはパイロットらしき2人を引きずり出しているアテンダントが立っていた。2人のパイロットは全く動いてなく、通路の床に投げ捨てられ、近くにいた誰かがアテンダントに銃を向け、大声で言う。

 

「動くな!」

 

 なんとなく聞き覚えのある声に対してアテンダントは、

 

「Attention Please. でやがります」

 

 と言うと、胸元から取り出したカンをこちらへと放り投げてきた。床に転がったそのカンから音をたてて煙が出ているのが分かる。

 

「みんな、部屋に戻れ! ドアを閉めろ!」

 

 という声が通路に響いて、すぐさまオレはドアを閉めた。その瞬間、飛行機はグラリと揺れ、機内の照明が消える。ドアの向こうから、乗客の悲鳴がこだましている。

 

 

 すぐに機内が赤い非常灯に切り変わると、オレは止まっていた思考を再び動かしていく。

 

(い、いったい何が起こってるんだ? とりあえず、さっきの煙は何かの有毒ガスだろうか? もしそうだとしたら、通路に出るのは危ないな)

 

 オレはハンカチを持った手で口を押さえながら、さっきから鳴り響くベルトサインに従って、シートベルトをつけ、考えていた。

 

(しかし、さっきの口調。何か聞き覚えがある。どこだ? どこで聞いたんだろう?)

 

 機内が大きく揺れる中、ベルトサインが消える。そのまま座り込んでいる中、急に扉が開く。そこには頭から血を流した少女を抱えた、武偵学校の遠山先輩が立っていた。遠山先輩はオレの存在に気づき、オレのいる部屋の中へと入ってきた。

 

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「今は話している時間はない! そんなことより、彼女を」

 

 武偵の服を着ていた少女は、呼吸が弱く、意識が途切れつつあるのか、ぐったりとしていた。

 

「その人、ケガしているんですか? と、とりあえず、ベットに寝かせましょう!」

 

 彼女をベットの上で横にさせると、備え付けのタオルで血まみれの顔面と側頭部を拭ってやる。

 

「う、ううぅ……」

 

 うめく彼女のこめかみの上には、深い切り傷がついていた。

 

(まずい、側頭動脈をやられてる! 頸動脈ほどの急所ではないが、すぐに血を止めないと)

 

 そう思ったオレは、さっきまで持っていた、簡易治療道具セットを取り出して、中にあった止血テープでとりあえず傷を塞ぐ。しかし、止血テープなんかで止めてもその場しのぎにしかならない。

 

(どうする!? 本格的な医療道具なんてものはないし、このままじゃ彼女が危ない!)

 

 簡易治療道具セットの中を手さぐりで探す中、オレはあるものを手に持った。それは、『Razzo』と書かれた小型注射器だ。

 

 約8ヶ月前、オレはこのラッツォという注射器を使ったことがある。ちなみに、このラッツォとは、アドレナリンとモルヒネを組み合わせて凝縮したような、気付け薬と鎮静剤を兼ねた、いわゆる復活薬だ。

 オレは当時、ある事件でかばってくれた友人の衰弱していった姿を見て動揺してしまい、あまり医療知識がなかったオレは、手が震え、間違ったところに針を刺してしまった。結果、彼は脊髄に障害をもつこととなり、武偵として生きることは不可能となった。それ以来オレは、彼を傷つけてしまったあの事件以来、ラッツォを再び持つことはなかった。

 だが、現在のオレの手にはラッツォと書かれた小型注射器がある。あの頃とは違って、医学を学んだオレの知識なら上手く使うことができるだろう。しかし、過去のトラウマと震える両手によって、注射を上手く刺すことができない。時間が経てば経つほど、オレの体は硬直し、頭は真っ白になっていく。数十秒の間、大きく鳴り打つ自分の心臓の音だけが耳に響いていた。そうしている間に彼女はピクリとも動かなくなり、終いには呼吸が止まっていく。オレは彼女の小さい胸に耳を当てて確認してみると、心臓は止まっていた。

 

(ヤバイ! 早く打たないと、彼女は死んでしまう!!)

 

 しかし、そう思えば思うほど、注射を打とうにも力が入らない。ましてや、手の震えが止まらない。耳をドアに当てて見張っていた遠山先輩は、その様子を見てオレのそばまで来ると、オレの背中を強く叩いた。

 

「しっかりしろ!! 今、アリアを救えるのはお前だけなんだ!! お前がしっかりしなくてどうすんだ!」

 

 その先輩の行動によってオレは、一呼吸をする。そして、止まることなく無我夢中で手を動かしていた。まるで、さっきまでの自分ではないような感覚にさいなまれながら。

 

(そうだ! オレはあの時誓ったんじゃないか! 救うって! 守ってみせるって!)

 

 オレは手際よく胸骨を探し当て、そこから指2本分、上。その心臓を突き立て、

 

(今度はオレが救ってみせる!!)

 

 オレは迷いを捨て、一思いに彼女の心臓に注射をブチ込む。そうすると、彼女は「びくんっ!」と身体が痙攣をし、除々に顔が歪みながらも呼吸を始めていった。

 

(い、息を吹き返した。生き返ったんだ!)

 

 オレは一呼吸をした後、地面に腰を下ろした。その瞬間、手にも足にも力が一気に抜けていく。流れていくように。そして、彼女は段々と青ざめていた肌をピンクがかったものに戻しつつ、呼吸を次第に強めていったのだった。

 そして彼女は声をあげる。

 

「…………っはぁ!!!」

 

 悪い夢から目覚めたかのように、一気に上半身を起してきた。

 

「って……えっ!? な、な、なな、何!? 何これ!!」

 

 薬のせいか、彼女の記憶は混乱し、いくらか飛んでいるようだ。

 

「む、胸が開いて……、キ、キンジ! またあんたの仕業ね!!」

 

「アリア、気がついたか! お前は理子にやられて、彼が、お前の治療を……」

 

「りこ……、理子ッ!!!」

 

 服を乱暴に整えると、彼女はベットの上から左右の拳銃を取った。そして、鬼の形相のまま、バランスの悪い足取りで部屋を出て行こうとする。

 

(ま……まずい! 止めないと!)

 

 ラッツォは復活薬であると同時に、興奮剤でもある。クスリが効きやすい体質なのか、彼女は正気ではないみたいだ。そこへ遠山先輩が彼女を押さえ、止めさせた。

 

「待てアリア! マトモにやっても、アイツには勝てないぞ!」

 

 しかし、彼女はそんな言葉も聞き入れず、遠山先輩にわめく。

 

「そんなの関係ない! は、な、せ! あんたなんか、どっかに隠れて震えてなさいよ!」

 

「し……静かにするんだアリア! これじゃあ、理子に俺とお前が同じ部屋にいて、ここにいることがバレる!」

 

「かまわないわ! 理子は私一人で片付ける。それにだいたい、あんたはあたしのことを助けにこなくてよかったのよっ!」

 

 彼女のツリ目は、その紅い瞳を激しい興奮に潤ませ、口の動きは止まらない。

 

「あんた、あたしのことキライなんでしょ!? あんたは言ったわよね! 青海に行ったとき、猫を探しに行く前に! あたし、覚えてるんだから!!」

 

 彼女を止めようにも、勢いが強過ぎてオレでは止められそうになかった。それを止めていた遠山先輩は、途中から苦い表情で目をつぶる。

 

「あたし覚えてる! あんたは、あたしに『大っキライ』って言った! あたし、あの時は普通の顔してたけど……、あたし、あんたのこと、最高のパートナー候補だと思ってたのに。でも、『キライ』って言われて……。あの時、本当は、胸が、ズキンって……。」

 

 それを聞いていた遠山先輩は急に何かを決心したような真剣な顔で、

 

「だからもういいのよ!あたしのことキライならいいのよ!あたしのことキラ・・・。」

 

 わめいていた彼女の口を、遠山先輩は塞いだのだった。まさかの、『遠山先輩の口で』だ。

 

 

 

 赤紫色の目を、飛び出さんかのようにして驚く彼女は、まるで指先まで石化したように、完全に固まっていた。

 

(え……ええっ!! こ、こんな時にこの先輩方は何をしてるんだ!?)

 

 2人は口を放し、遠山先輩はさっきとは違う、鋭い目つきへと変わっていた。

 

「アリア。許してくれ。こうするしか、なかったんだ」

 

「バ、バ、バカキンジ! あんた、こ、こんな時になんてこと、すんのよ……! あたし、あたし、ふあ、ふぁ……ファーストキス、だったのに……!」

 

 しかし、彼女はノドの奥から出るその涙声は、脱力しきって、かすれている。その様子だと、また暴れ出すことはなさそうだ。

 

「ああ、どんな責任でも取ってあげるさ。でも、ごめんよ……仕事が、先だ!」

 

「キ、キンジ! あんた、また……なったの!?」

 

(うん? また? いったい、何がどうなってどういうことになってんだ?)

 

 全く持って、オレにはさっぱりだった。特に、突然雰囲気の変わった遠山先輩に対してはもうわけが分からない。

 

「武偵憲章1条。『仲間を信じ、仲間を助けよ。』俺は、アリアを信じる。だからアリアも俺をオトリにしてくれ。いいか。3人で協力して『武偵殺し』を、逮捕するぞ」

 

 

 そう言って、遠山先輩は作戦内容を告げる。ただオレは指示通りに行動していくしかないのだった。

 

 

「バットエンドのお時間ですよー。くふふっ。くふふふっ!」

 

 女の人がどこからか用意したらしい鍵で、この部屋を開けてきた。

 

 そして、ナイフを握る髪の毛を手のように使って扉を押さえつつ、両手に銃を携え、笑いかけてくる。

 

「ここで理子の登場でぇーす!」

 

(!!?)

 

 まさかの、峰理子先輩だった。オレは驚愕の事実に驚きを隠せない。その峰先輩は実に嬉しそうに、左右の拳銃とナイフをカチンカチンとぶつけて鳴らした。

 

「あっ……、あはっ! アリアと何かしたんだ? よくできたねぇ、こんな状況下で。くふふっ」

 

 峰先輩はニヤニヤと遠山先輩を見つめ、人差し指を自分の口に当てる。

 

「で? アリアは? まさか死んじゃった?」

 

 髪のナイフでベットを指しながら、峰先輩が言う。そこはマクラと毛布を詰めて、人がいるように見せかけて膨らませてあった。

 

「さあな」

 

 チラッ、と遠山先輩が眼だけで横のシャワールームを見ると、峰先輩は目ざとくその視線を追ってきた。

 

「あぁん、そういうキンジ、ステキ。どっきどきする。勢い余って殺しちゃうかも」

 

「そのつもりで来るといい。そうしなきゃ、お前が殺されるぞ!」

 

「……さいっこー!愛してる、キンジ。見せて……オルメスの、パートナーの力を!!」

 

 引き金を引こうとした峰先輩に、遠山先輩は、ベットの脇に隠しておいた非常用の酸素ボンベを盾にするように掲げた。

 

「……っ!!」

 

 撃てば、自分ごと破裂する。それを悟った峰先輩の手が、一瞬、止まる。

 そして、その一瞬で遠山先輩には十分だったようだ。遠山先輩はボンベを投げつけながら、峰先輩に飛びかかろうとする。

 

 手のひらから金属が擦れる音を立てて、隠していたバタフライ・ナイフを開く。峰先輩がそれを見て、眉を寄せたその瞬間

 

「うっ!?」

 

 突然、飛行機がぐらりと大きく傾いた。足元が大きくブレて、姿勢を崩した遠山先輩。その前には、斜めに傾いた部屋の中で、笑みを浮かべる峰先輩のワルサーP99がこっちの額を狙うのが見えた。そして、銃声と共にその銃口から鉛弾が放たれ、遠山先輩へと飛んでいく。

 

 これは避けられない。右にも。左にも。絶対に避けられない。誰しもがそれを見て思うのだろう。

 だが、違った。遠山先輩は、ナイフで、銃弾を斬った。いわゆる『弾丸斬り』という非現実的な芸当をバタフライ・ナイフひとつでやってみせたのだ。

 

(も、もしかして、遠山先輩は弾丸を斬ったのか!!?)

 

 オレはその光景にどこか感動を含んだ驚きをしてしまう。それは峰先輩も同様で、驚いて眼を見開いていた。

 そしていつのまにか、遠山先輩は黒いガバメントを抜いて峰先輩に銃口を向けていた。

 

「動くな!」

 

「アリアを撃つよ!」

 

 体勢的にこっちに銃を向けるのは間に合わないと判断したのか、峰先輩は、シャワールームにワルサーを向けた。その瞬間、天井の荷物入れに潜んでいたアリア先輩が転げ出てきながら、白銀のガバメントで、峰先輩の持つ左右のワルサーを、精密に手から弾き落とした。

 さらに、アリア先輩は空中でシャワールーム付近へと拳銃を放し、背中から流星のように日本刀を2本抜く。

 

「やぁっ!」

 

 そして抜刀と同時に、振り返った峰の左右のツインテールを切断する。ばさばさっと茶色いクセっ毛を結ったテールが、持っていたナイフごと床に落ちる。

 

「うっ……!」

 

 峰先輩は両手を自分の側頭部にあて、初めて、焦ったような声を上げた。ちゃき、とアリアは刀を納め、流れる動作で拳銃を拾い上げる。

 そこでシャワールームに隠れていたオレも、そこから出て銃を拾っては、

 

「峰・理子・リュパン4世」

 

「殺人未遂の現行犯で逮捕するわ!」

 

 オレと遠山先輩とアリア先輩は、銃を同時に峰先輩へ向けたのだった。

 

 




次回予告「巻き込まれたオレは、ただの傍観者であった。しかし、友人の名前と共にオレの思い出が思い出される。オレにとっての始まりは、彼女との出会いからだったのだろうか?次回、第一部終了」
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