緋弾のアリアAB   作:純鶏

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7話 - 星伽との再会

「つかれたぁ……」

 

 時刻はちょうど昼頃。オレは机の上に顔を乗せ、うつ伏せになりながらさっきまで使い続けた頭と眼を休めていた。周りでは、「終わったー」とか「分らなかったー」とか様々な言葉が飛び交っていた。だがそれも、時間が経つにつれて減っていき、いつのまにか周りの生徒は少なくなっていった。

 オレのいる教室は専門的な授業でしか使われない教室の一つで、さっきまでここにいた大半の生徒は、自分たちの教室に戻ったのだろう。オレもいつまでもこの部屋にいても仕方がないので、目を細めた顔でこの教室を出た。

 

 今日は、中間の筆記試験。いわゆる、普通の学校の中間テストみたいなものだ。さっき、それの3つ目がちょうど終わったところだった。80分の授業サイクルであるこの学校では、3限目が終わると昼の休憩時間となり、今日は筆記試験というのもあって、3限目が終わると各自で帰ってもいい日でもあった。

 

 教室に戻るとオレは、朝に買っておいたコンビニ弁当を取り出す。こういった日には、せっかく3限目で終わるのだから、実際は弁当を持ってくる必要はない。だが、せっかく昼から帰れるというのに、そのまま直帰してしまうのは、何だか勿体無い気がする。せめてでも、どこか寄って帰りたいものだ。

 とは言っても、どこか寄って遊べるほどお金はないし、明日は2つの実技試験がある。多分、今日は普段行かない場所に寄り道をして、そのまま帰ることになるだろう。確信は出来ないが……。

ちなみに、オレの受ける実技試験は1年生だけが行われ、先輩達や実技のない学科の生徒は、明日は休みなのだ。羨ましい。

 

 

 買ってきたシーチキンおにぎりを食べ切ると、試験から戻ってきた小野が近づいてくる。

 

「いやぁ、腹減ったわ~。あら、おぬしは今日もコンビニ弁当かい?」

 

「ああ。今日は、3限目までだからな。いちいち家で作るの面倒くさかったし」

 

「いーよなぁ~、俺は今日4つも試験あるんだよ~。なんというか、医療科が羨ましいわ~」

 

 小野はオレとは違い、情報科なので受けるテストの内容も違った。たしかに筆記試験は多いが、体を動かす実技試験はない。

 それでも、7つもあるのだから大変そうではある。

 

「そういや、心理治療の試験はどうだったん~? 前々から、難しいとか分からんとか言っていたけど、出来はそうだったん?」

 

「うーん、微妙なところだが、どちらかと言うとあんまりできなかった方かな。本音を言うと、それの勉強もあんまりして来なかったし」

 

 心理治療とは、いわゆるカウンセリングとか心理学とかの部類の精神治療学のひとつで、最も医療の中でも、オレの苦手とする分野であり、内容も複雑で難しいものだった。そりゃあ、テレビとかで人間の心理が分かる専門家とかが出てくるとカッコイイなと思ったことはある。実際に、そういったことが医療科で学べれるのだと期待していた。だが実際はそんなカッコイイものではなく、ただ答えのないものを難しい単語で埋め尽くし、無限にある複雑な仮定と理屈を並べたてたようなものだった。次第にオレは、心理治療の分野が一番苦手となり、今日の3限目にその試験があったので、無駄に時間と労力を使わされたのだった。

 よくよく考えてみれば、オレはどちらかというと人のことはあまり考えない性格だ。いちいち、人の顔や思っていることを考えて行動するなんて、面倒極まりないことだ。人の心理を読み解くのならまだしも、それを治療するなんてことはオレには合わなかったのだろう。

 

 

 小野もオレの隣の席に座っては弁当を開け、オレ達は一緒に食べながら話をしていた。すると、廊下側の方から声が聞こえてきたのだった。

 

「竹内―、ちょっと来てくれー!」

 

 そう言ってくるのは、オレのクラスの担任こと『杉田供一』(通称:キョン)という先生だ。この人は救護科の教諭の1人で、性格はおおざっぱであるが、常に冷静な対応を取ることのでき、顔も振る舞いや言動も何気にカッコ良く見えるという不思議な先生だった。たまに、面白いドジをしたり、どうでもいい内容だが面白い話もしてくれて、武偵の資格はないが、この学校の男性教師の中ではオレは好きな方である。

 

 オレは返事をし、廊下にいるキョンのところまで向かう。白衣を羽織っているキョンは、申し訳なさそうな顔で、頭をポリポリと手でかきながら告げた。

 

「すまないが、この後少しいいか? 今すぐではなく昼飯を食った後でいいんだが、少し手伝ってほしいことがあるんだわ。本当なら他の生徒に頼みたいところなんだが、大体の生徒が帰ってしまったようで、知っている医療科の一年がお前くらいだったから、後で医療物品室に来てくれないか?」

 

 察する通り、どこか天然染みたとこがあるこの先生はきっと、手伝ってもらう予定の生徒に声をかけておくのを忘れていたのだろう。ちなみに回数は覚えていないが、頼まれごとは以前にも何回かあった。

 

「分かりました。それじゃあ、昼食を食べ終わったら向かいます」

 

「おう、ありがとな!」

 

 そう言ってキョンは足早に去っていった。何か手伝い事をさせられるのは確かに面倒ではあるが、明日の実技試験の担当はキョンなので、せっかくならここらで少しでも印象を良くしておけば、何かといいことがあるかもしれない。と自分に言い訳を作り、前向きに考えてみることにした。

 そしてオレは、小野と残りのコンビニ弁当を食べながら、さっきまで話していたマンガの話へと戻したのだった。

 

 

(確かここらへんに……。おっ、あったあった!)

 

 さすがに、ここは頻繁に来る場所では無かったので、少しうろおぼえではあったが、迷うことなく医療物品室に着くことができた。部屋の扉は元々開いていて、そこから数人の声が聞こえる。

部屋に入ろうとすると、キョンがダンボール箱を持ちながら歩いて出てくる。一瞬ぶつかりそうになったが、とっさにキョンがダンボールを避けてくれたので当たらずに済んだ。

 

「おう、来たか。ちょいと、荷物をエレベーターまで運んでもらいたいんだ。部屋の中に、生徒会役員の生徒もいるから、そいつに話を聞いて持ってきてくれ」

 

 そう言うとキョンは、縦長いダンボールを担いで、エレベーターの方へと向かって行ってしまった。

 

 オレは部屋の中の方へと入り、誰かがいるであろう、音がする方へと進んだ。そこには、髪の長い女生徒が、ダンボールを開け、中身の確認をしていた。

多分、この人が生徒会役員の生徒なのだろう。オレは尋ねてみる。

 

「あの、すみません。杉田先生に頼まれたんですけど、どれを運んでいけばいいですか?」

 

その声に反応し、女生徒は振り返る。オレへと振り向く仕草はまるで、大和撫子のように清楚な感じがした。

 

「あ、そこに置いてあるもの全部らしいですよ。エレベーターまでお願いします」

 

 そう告げる女生徒は、可愛らしい表情でオレを見て言った。オレはその彼女の顔を見て、硬直してしまう。

 そう、その顔は忘れもしない。あの川沿いの道で会った巫女さんと一緒な顔立ちだった。つまりオレは、こんなせまい部屋の中で、オレをこの武偵学校へと行く決心をつけてくれた人に会ったのだ。

 

 

 

 あの後オレは、ダンボール箱を持ってエレベーターへと運んでいく。だが今になっても、驚きを隠せない状態でした。

 

(どう考えてもさっきの人は、間違いない……よな? あの時、あの川沿いの道で会った人と)

 

 去年の9月、オレは川沿いの道で彼女と会っていた。そこで、オレに大切なことを思い出させてくれた彼女を、決して忘れるわけがなかった。しかし、会った時の格好と容姿などを考えても、同じ学校にいる人だとは思わなかった。いや、普通は考えないだろう。なにせ、巫女姿で年上に見えたのだ。たとえ高校生くらいだったとしても、武偵学校にいるとは到底考えつかなかった。しかし、彼女もまたオレと同じ武偵の学校にいた。世間というものは案外狭いものなんだなと実感する。

 

 

 オレは、エレベーターにダンボール箱を載せ、再び医療物品室に戻ろうとすると、キョンと女生徒がダンボールやら医療道具を持って、こっちに向かって歩いていた。

 

「ありがとうな。もう、これで必要なものは一通り運んだみたいだ」

 

 キョンはオレにそう告げて、エレベーターに荷物を載せる。荷物を載せ終えると、エレベーターのスイッチを押して、1階へと運んでいく。

 

「星伽、急に手伝ってもらってありがとうな。この後は俺達でするから、もう帰ってもらってもいいぞ」

 

 キョンは女生徒にそう告げると、オレの肩に軽く手を置く。オレはこれからが仕事であるというわけだ。

 

「そうですか。それでは、杉田先生お先に失礼します」

 

「あっ、それと、明日の試験の手伝いよろしく頼むな」

 

「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 そう言って、彼女は階段を上がって去って行った。

 

 

「じゃあ、直井。次は、エレベーターに載せたものを、戦闘技術訓練場(バトレンカ)に持っていくのを手伝ってくれないか」

 

「はい、わかりました」

 

 オレ達は彼女とは逆に、下へと階段を下りていったのだった。

 

 

 エレベーターが下に運んで行った場所に向かう途中、オレがキョンに質問する。

 

「さっきの生徒会の人って、誰なんですか?」

 

「うん? あー、さっきまで手伝ってくれた星伽のことか? あの子は、超能力捜査研究科(SSR)の2年の星伽 白雪と言って、SSRでも、トップクラスの成績を持っているという『期待の星』の生徒だ。しかもマジメで可愛らしくて良い生徒だと思う。オレももう少し若ければ……」

 

「そうなんですか……」

 

 キョンがオレにとってどうでもいいことを語り始めてきたので、オレは適当に相づちを打って受け流す。

 

(SSRか。堀江先輩なら何か知っているかもしれないな)

 

 それにしても、トップクラスとはすごい。きっと、陰陽道とかできるのかもしれない。どんな人なのかもっと詳しく知りたくなってきた。だが、SSRのやっていることは基本、非公開である。多分、彼女についての詳しいことや彼女がどのような能力を持っているのかなんてことは教えてくれないだろう。

 そう思ったオレは、これ以上キョンに彼女のことについて聞くのは止めることにした。

 

 

 2、3回ほど行ったり来たりしては荷物を運び回り、やっとエレベーターの荷物を運び終わると、キョンは一息ついてオレに話した。

 

「それじゃあ、明日、頑張ってくれな。さっきの生徒会役員の星伽も、明日は手伝いに来てくれるから、恥ずかしいところは見せるんじゃないぞ」

 

「大丈夫ですよ。普段通りにしていれば、実技は受かります」

 

「そうか。なら、楽しみにしてるかー! じゃあ、お疲れさん!」

 

「はい、それでは。杉田先生、お疲れ様です」

 

 オレは誰もいない教室に戻り、帰る支度をしたのだった。

 

 

 

 時刻は3時を過ぎたところだった。結局オレは、コンビニに寄っては立ち読みをしたり、新作のお菓子や飲料水を眺めたりして過ごし、3時過ぎたことを確認すると、足早に寮へと自転車を走らせる。

 ある程度寮の近くまで来ると、オレはふといつもとは違う道を通り、川沿いの道へと寄り道する。

 

 あの時、あの星伽先輩と会った場所まで来ると、オレはひと思いにふけっていた。

 

(あれから、約8ヶ月も経ったのか。早い。ほんとに、時が経つというのはあっという間だ)

 

 きっと、今日会った星伽先輩は、多分、オレのことなど覚えていないのだろう。ましてや、今日でさえも、オレの顔を覚えてくれたか怪しいくらいだ。

 オレは彼女と会えてうれしい半面、何か寂しげな感覚を味わっていく。やっと、やっと会えたのに、まだ彼女の存在が遠くにいるように思えてならない。ただ、あの時と変わらないのは、この河原の風景だけだった。

 

 しかし、オレは忘れていた。そう、最近いろいろあってか、武偵殺し事件のことを忘れていたのだった。それが、テスト明けのアドシアードによって思い出されるとは、この時には思いもよらなかったことだ。

 

 

 

 

 




次回予告「テストも終わり、とうとうアドシアードへの準備が行われていた。
オレは係員として、参加する。しかし、それが無事に終わることはなかった。」
次回、『陰躍の実行』

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