デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 ピクシブにて連載している作品の移転……というより、再掲です。
 ちょっとずつになると思いますが、こちらにも全話投稿予定なので、どうかよろしくお願いします。


1章 春 -デュエマと縁と学園生活-
1話「デュエマを覚えるよ」


 学校帰りのことだった。

 事実は小説よりも奇なり、という言葉は、イギリスだったかアメリカだったかの詩人の言葉らしいけど、わたしのお母さんはいつもその先に「しかし奇異な虚構を生み出すことが小説家の務め」と言う。

 だけれど、今この状況は、どう考えても小説よりもおかしい。

 ……いや、小説ぐらいおかしい、かな。

 似たようなシチュエーションなら、小説とか漫画とかで読んだことあるし、そう考えると、そこまでおかしくはないかも。

 いやいや、でもやっぱりおかしい。どう考えてもおかしい。小説や漫画にあることが、こうして現実にあるだなんて、絶対におかしい。

 わたしはなにも変なことはしてない。確かに、普通の中学生ならスルーするようなことかもしれないけど、たまたま見ちゃって、それにたまたま関わろうと、出来心みたいなものが湧き上がってしまっただけで、そんな気になったのはただの偶然だ。

 だから、総合的に見て、わたしはおかしくない。

 でも、その偶然が、もしかしたら運命ってものなのかもしれない。

 あの時あの人に会ったことも、こうしてこの子にあったことも。

 全部、運命の導きなのかもしれない――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「助けてくれてありがとう。君、名前は?」

「……小鈴(こすず)

 

 思わず名乗ってしまった。

 どうしよう、混乱してる。このまま相手の言いなりになってはいはい言っちゃダメだと、本能が刺激する。

 とりあえず、状況を整理しよう。まずは、わたしが何者かから。

 わたしの名前は伊勢小鈴(いせこすず)。私立烏ヶ森(からすがもり)学園中等部に通う中学一年生。

 自己紹介する必要はなかった気がするけど、たぶん混乱してるせいだ。次は、今日なにがあったか。今、なにをしているのか。

 少しずつ、思い出そう――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 ――初夏と呼ぶも、少しずつ暑くなってきたある日。なんの変哲もなく普通にいつも通りの授業を終えて、少し図書室に寄って本を読んで、夕方になって帰路についた。

 その、途中だった。

 一羽の小鳥が道路に横たわっていた。

 時々、カラスに食べられちゃった雀の頭とかが地面に落ちてる時があるけど、そんな様子じゃなかった。血も出てないし、身体のどこかが欠けているわけじゃない。

 それでも地面に落ちちゃったってことは、病気か、寿命か、見えないところに怪我をしているか。

 でも、飛んでる最中に病気で落ちたり、寿命を迎えたりするのかな……? 生物はそんなに詳しくないから分からない。

 わたしが小鳥に近づいたのは、だから、そのちょっとした異変を察知したからなのかもしれない。

 小鳥に近づくと、その小鳥はまだ生きてた。それでもかなり弱ってるみたい。

 口をパクパクさせているけど、お腹すいてるのかな。

 鞄から、いつも朝ごはんとして食べてる食パンの袋を取り出す。そして、パンの柔らかい身の部分を少しちぎって、地面に落とした。

 雀とかはパンくずを食べたりするけど、この鳥も食べるかな……?

 ちょっと心配だったけど、小鳥は頑張って首を伸ばして、パンくずをつっついて食べた。

 そして、

 

「……味がない」

「え?」

 

 なにか聞こえた。

 周りを見る。誰もいない。この小鳥に近づこうと思った時も、周りに誰もいないことを確認していたけど、もう一度確認してもいない。

 

「でも、お腹はちょっと膨れたよ。これでもう少し動ける。次は飢え死ぬまえに食べ物を見つけておかないとな」

 

 また聞こえた。しかも、心なしかさっきよりもはっきりしてる。

 それに、その声は、目の前の小鳥の嘴の動きと同時に聞こえてきた。

 

「あぁ、そうだ。忘れてたよ」

 

 小鳥がこっちを見た。明らかに、わたしに視線を合わせている。

 そして、三度目の正直。今度こそ、明確に、明らかに確実に、わたしに伝える。

 ――この子の声を。

 

「助けてくれてありがとう。君、名前は?」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 そして、冒頭に戻る。

 確かにこの小鳥は喋った。嘴が開閉して、声が聞こえてくる。小さな動きのわりには、はっきりした声だった。

 鳥が喋るなんて、童話の中でしか見たことがなかったけど、こうして現実として起きている。そののことにわたしは困惑している。

 困惑している、はずなんだけどなぁ……

 

「小鈴か。それじゃあ小鈴、ここで出会ったのもなにかの縁。折り入って頼みがあるんだ」

「た、頼み? 話が急展開じゃない?」

 

 普通に受け答えしてしまうわたし。混乱している頭は、状況を整理したらすぐに冷めちゃった。なんでこんなに落ち着くのが早いんだろう。自分でもビックリだよ。

 でも、いきなり頼みがある、だなんて言われると、少し焦る。わたしは道端で出会った小さな鳥さんになにをお願いされるんだろう。

 

「見ての通り、僕は弱ってる」

「自分で言っちゃうんだ、それ」

「ここで倒れていたのは、単にお腹がすきすぎて動けなくなっただけだけど、そうなる前から、僕はかなり力が弱っていたんだ」

「……話が見えないよ」

 

 動けなくなる前から弱ってたって、どういうことなんだろう。この鳥さんはなにを言っているの?

 

「あー、えっと、そうだね。最初からちゃんと説明しないと……でも、そうすると凄く長くなるしなぁ」

「長くなるのはちょっと……わたしも、日が暮れる前に帰りたいし。簡潔に、短くお願いしていい?」

「うん、分かった」

 

 分かったんだ。

 正直なところ、ちょっと無茶振りかなと思ったけど、そうでもないみたい。

 鳥さんは小さな嘴を大きく動かして、言った。

 

「僕の力を取り戻すために、協力してほしいんだ」

「協力? ど、どういうこと? 協力って、わたしにできることならいいけど、なにをするの?」

「具体的には……あ、その前に、君はクリーチャーって知ってる?」

「クリーチャー?」

 

 聞いたことがある。というか、よく耳にしている言葉だ。

 お母さんの小説の中に出て来る、カードゲームの用語。カードゲームの名前は、確か……

 

「デュエル・マスターズ、のこと?」

「デュエ……あぁ、そうそう、それそれ。そうだった、この世界では僕らの世界の色んなことを、そういう風に括っているんだったね」

「この世界?」

 

 この鳥さん、本当になにを言ってるんだろう。もうちょっとした電波だよ。電波な鳥さんとお喋りなんて、三回生まれ変わってもできないよ。

 

「そのデュエル・マスターズについて、君はどれくらい知ってるんだい?」

「どれくらいって、えぇっと……」

 

 正直、あまり知らない。

 お母さんは小説の題材に使ってるから詳しいし、お姉ちゃんもお友達とそれでよく遊んでるみたいだけど、わたしはやってないし、カードも持ってないから、ルールも知らない。デュエマの知識と言ったら、お母さんの書いた小説をパラパラめくって流し読みした程度のもの。あれだって、わけも分からず、ただページ捲ってるだけみたいなものだったし。

 だからつまり、

 

「……ぜんぜん」

「そっかぁ。僕も、君らの世界では、クリーチャーたちがカードとなっている、ってことくらいしかまだ情報がないから、よく分からないんだよね」

 

 なんなのこの鳥さん。知ってる? とか聞いておきながら、自分もぜんぜん知らないじゃん。無責任だよ。

 

「とにもかくにも、僕が力を取り戻すためには、他のクリーチャーの力を借りることは必須事項だから、どうにかしてこの世界での、デュエマ? を知らないと。でも、僕は見ての通りしがない小鳥だから、集められる情報もささやかなものだ」

「変なこと喋る鳥は、ただのしがない小鳥とは言えないよ……」

 

 でも、この鳥さんがデュエマのことを知ろうと思っても、知ることが難しいのは確かだろう。

 ということは、

 

「小鈴。僕の代わりに、デュエマについて調べて来てくれ。そして、君もデュエマを覚えるんだ!」

「え、えぇ!? わ、わたしが!?」

「頼むよ。協力してくれたら、お礼に君の願いをなんでも叶えてあげるから」

「そんなこと言われても……」

 

 困った。わたしは困った。困って言葉が続かない。

 そして、言葉が続かなかったから、 わたしは鳥さんの要求を跳ね除けることができず、唯々諾々というか、半ば強引にというか、うやむやで曖昧なまま、デュエマについて調べることになってしまったのでした。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「んー……」

 

 鳥さんと出会った次の日。

 あの後、鳥さんはどこかに姿を消した。どこに行ったのかは分からない。だから、もしかしたら、これであの鳥さんとは縁が切れるかも、と思ったけど、今朝、昨日とほぼ同じところで出会ったから、その希望は潰えた。ずっとあそこで待ってたみたい。嫌な根性だよ。

 家に帰ってから、わたしはデュエマについて調べようとした。とりあえず、デュエマに詳しいはずのお母さんかお姉ちゃんに聞こうと思ったけど、ダメだった。

 お母さんはお仕事が忙しくなって、昨日は帰ってきてない。大変だね。

 お姉ちゃんはお母さんがいない分、家事をやってくれてるし、生徒会のお仕事も忙しいみたい。タイミングが悪かったね。

 というわけで、わたしは早速デュエマについて尋ねるアテを失ってしまった。

 どうしようかと机に突っ伏して頭を悩ませていると、

 

「どうしたの、小鈴ちゃん」

「あ、みのりちゃん」

 

 一人の女の子が話しかけてきた。

 香取実子(かとりみのりこ)ちゃん。わたしのお友達です。

 

「さっきから唸ったり、溜息ついたり、机に突っ伏したり、なにかあったの?」

 

 全部見られてたみたい。凄く恥ずかしい。

 でも、こうやって悩んでるわたしに声をかけてくれるのは、純粋に嬉しかった。

 鳥さんのことは言えないし、たぶん言っても信じてもらえないだろうし、というか混乱させちゃうし、もしかしたらわたしの頭を疑われちゃうかもしれないし、そこは黙っておくとして。

 なんて言ったらいいんだろう。そのまま、デュエマについて知りたい、って言って、どのくらい伝わるのかな。ちゃんと最初からいうべきかな。でもそうすると、鳥さんのこともあるし……

 

「もしかして、剣埼(つるぎざき)先輩のこと?」

「っ……!」

 

 言うべきかどうか迷っていると、予想外の言葉が飛んできた。

 あながち間違ってはいなかった。今そのこととは違うことに悩んでいるけれど、ある意味、それもわたしの悩みの種だった。

 それも、入学してから……いや、入学する前から植えられた、大きな種。

 

「あ、やっぱりそうなんだ」

「ち、違うよっ!」

「怪しいなー、慌てちゃって」

「本当に違うんだって!」

 

 わたしの反応から勘違いを続けたみのりちゃんは、そのままからかうように言葉を続ける。

 そして、笑いながらでも、真面目なことを言ってくる。

 

「でも、小鈴ちゃんも、そろそろ自分の気持ちに正直になって、前に進んだ方がいいよ」

「そ、そんなこと言ったって、クラスも、普段どこにいるかも知らないし……」

「なら、聞いてみれば?」

「誰に? 上級生の教室を聞いて回るのは、流石に恥ずかしいよ……」

「違う違う。そうじゃなくって。このクラスにいるでしょ、先輩と関係が深そうな人」

「……それって」

「そう」

 

 みのりちゃんは視線を教室の真ん中あたりに向ける。そこには、当然ながらこのクラスの生徒が一人。

 確かに、あの子なら先輩のことを知ってるかもしれない。

 

 

 

 ――日向恋(ひゅうがこい)さんなら。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 日向恋さん。わたしと同じ、1年A組の女の子。

 わたしも大きい方じゃないけど、日向さんは凄く小柄な女の子だ。小学生と言っても通じると思うし、小学生だとしても小さい。身体も細い。

 そして彼女はとてもキレイだ。色白な肌はきめ細やかで、透き通るよう。色素の薄い髪も同様で、一目見て分かるほどにさらさら。最初に見た時は、よくできたお人形さんだと思ってしまったくらいだ。

 けれど、彼女は笑わない。少なくとも、わたしは彼女が笑ったところを見たことがない。ずっと、口を一文字に閉じて、目はぼんやり、無表情を体現し続けている。

 少し前まで不登校気味で、一週間くらいずっと休んでることもあった。最近は毎日学校に来てるけど、クラスの誰かと喋ったり、クラスで一緒にお弁当を食べてるところも見たことがない。休み時間はいつも本を読んでる。

 すごくキレイなだけに、もったいないけど、わたしたちからすれば気軽に触れられない存在になってしまっている。彼女自身も、わたしたちと関わり合うつもりはないみたいで、自然と両者の間には障壁ができてしまった。

 要するに、日向さんはクラスで孤立している。日向さん自身は物静かで、取り立てて問題行動を起こしてはいない。いじめとかはないし、誰も邪険にはしてないけど、とにかく彼女は独りだ。

 だからわたしも声をかけにくい。

 ……そもそも、剣埼先輩のことは、今は関係なくって、わたしの問題は別のところにあるんだけど……

 

「あ、あのっ、日向さん」

「…………」

 

 放課後。

 結局、みのりちゃんに押され押されて、訂正もできず、わたしは日向さんに声をかけることになってしまいました。

 階段を下りる日向さんの後ろ姿に声をかけると、日向さんは、ゆっくりと、面倒くさそうに、緩慢な動きで振り返る。

 

「……呼んだ……?」

「え、あ、うん」

「なんの用……?」

 

 日向さんは、囁くような声で言う。ほとんど喋らないから初めて思ったけど、声もキレイだ。小さな声なのに、はっきりと聞き取れる。

 でも、たぶん今から帰ろうとしているだろう日向さんからは、わたしに対して、鬱陶しい、と言わんばかりのオーラが発せられている。実際はどうか分からないけど、そんな気がする。

 だけど、ここで引いたら、勇気を出して声をかけた意味がなくなる。本当は、今すぐ逃げ出したいんだけど……

 それに幸か不幸か、日向さんはわたしの“今”の悩みの種の解決に繋がるものを、持っていた。

 

「その、腰にさげてる箱ってさ」

「……これ?」

「そう、それ。それって、デッキケース……だよね? デュエマの……」

 

 ちょっと自信がなかったから、尻すぼみがちな声になった。

 けれど、日向さんは頷いた。

 

「そうだけど……それが、なに……?」

「え、えっとね、わたし、デュエマについて知りたくて、だから、その、日向さんに教えてほしいなー……って」

 

 いまいちはっきりしない。日向さんはこんなに小さいのに、なんでだろう、見上げられているだけですごく威圧感みたいなものを感じる。こっちが気圧されて、気後れする。

 

「……そういうのは、つきにぃの方が向いてる……」

「つきにぃ、って?」

「……私は無理」

 

 日向さんはキッパリと断った。

 だけど、その後にまた、言葉を続けた。

 

「でも……つきにぃは、初心者とか、レクチャーとか、好きだから……」

「えっと、そのつきにぃさん? っていうのは……?」

「私は無理だけど……ついてきたいなら、好きにして……」

 

 まったくわたしの話は聞かず、取り合う気もなく、一方的に言葉だけを押し付ける日向さん。

 彼女はもう、わたしのことなんて目もくれずに、トコトコと階段を下っていく。

 

「あ……待って!」

 

 わたしは慌ててその後を追う。

 意外と日向さんは歩くのが早くて、見失いそうになったけど、すぐに見つかった。

 彼女は、どこかへ向かっているようだ。行き先からして昇降口じゃない。わたしがほとんど行ったところのない方に向かっている。

 あの方向は、確か……

 

「……部室棟?」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 日向さんの後を追うと、辿り着いた先は部室棟。

 そこがどういう場所かと言うと、書いて字の如くな場所、としか言えない。というより、わたし自身、どの部活にも所属してないから、部室棟という建物に詳しくない。とりあえず色んな部活動の部室が集まってるところなんだろうな、という認識だ。

 部室棟内をずんずん進む日向さん。彼女はしばらく歩くと、一つの扉の前で立ち止まった。 扉のプレートには、『学園生活支援部』と書かれていた。

 そして、扉を開けてすぐに入る。わたしも後に続いた。

 部屋は意外と広く、長机が三つ、コの字型に配置されていて、壁には本棚。本棚の中には、ファイルがたくさん詰まっていた。でもよく見ると、小説や漫画も入ってる。

 そして部屋の中には、一人の男の人がいた。制服を着ているから、この学校の生徒なのは間違いない。胸の校章も、何度も見たことがあるデザイン。中等部の人だ。

 男の人はこちらを振り返ると、柔和な笑みを浮かべ、穏やかに声をかける。

 

「来たか、恋」

「ん……」

「? そっちの子は……?」

 

 こっちに気付いた。当然だけど。

 男の人は柔らかい笑みを浮かべたまま、歩み寄ってくる。

 それだけで、わたしの心臓の動悸が早くなる。頭もぼぅっとして、思考が追いつかない。

 

「ん……君は……」

「あぅ、えぇっと、あの、えと……」

「いや……ようこそ、学園生活支援部へ。なにか、お悩みかな?」

「えっと、その……」

「とりあえず座りなよ。立ち話をしに来たわけじゃなさそうだし」

「は、はい……」

 

 彼は笑いかける。それだけで、燃えそうなほど身体が熱くなる。

 そして、彼は続けた。

 

「君はどういう理由でここに来たのかは、ゆっくり聞かせてもらうとして、まずは自己紹介かな。俺は三年の剣埼一騎(つるぎざきいつき)。この部の部長だよ。一年生じゃ、あんまり馴染みはないかな?」

 

 いいえ、知っています。

 その名前は、知っています。

 剣崎一騎先輩。

 

 

 

 わたしの――思い人だ。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 まさか、まさかまさかまさか。

 まさかと思った。本当に。

 いや、知ってたけど。日向さんが剣埼先輩と関わりが深いことも。ここに来る途中、もしかして先輩と会えるかも、と期待したりもしたけども。

 だけど、まさか本当に、会えるだなんて。

 この邂逅は、とても嬉しかった。

 でも同時に、焦る。困る。惑うの三連コンボで頭を抱えたくなる。

 なんとなく思ってはいたけど、実際にその思いが実現すると、どうしたらいいか分からない。思考もぜんぜんまとまらないし、頭の中ぐるぐるだし、どうしたらいいか分かんなくて、今すぐにでも逃げ出したくなる。

 もう逃げるしかない。この場からも、今のわたしの思考からも。わたしの精神安定のためには、それしか手段はない。

 それしか手段はない、と思ったんだけど……そんなことは、できるはずもなく。

 

「あ、あの、わ、わたし、伊勢小鈴、ですっ」

 

 なんでだろう、自己紹介してるよ、わたし。しかも、妙に威勢よく。噛みそうになったけど。すごくたどたどしいけど。

 焦りながらも、名前を名乗っている自分がいました。

 

「伊勢……? うん、よろしくね、伊勢さん」

 

 剣埼先輩は、またにっこりと笑いかけてくれる。最初にあった時から、にこやかな人だと思ってたけど、本当に笑顔の多い人だなぁ。

 

「それで伊勢さんは、どういう用件でうちに来たのかな? 恋と一緒に入ってきたみたいだけど……」

「それは、えっと……」

「もしかして、恋の友達?」

「え」

「……はいっ、そうです」

 

 違うよ。

 違うよわたし。日向さんと喋ったのは、今日が初めてだよ。憧れの先輩相手に嘘ついちゃダメだよ。

 そんなことは分かってるけど、つい口からそんな言葉が出てきてしまう。それに気づいた瞬間、日向さんに視線を向けて助けを乞うてみたけど、訂正する気はない。え、いいのそれで? 日向さんはそれでいいの?

 

「そっかぁ、恋の友達かぁ……ふふっ」

 

 先輩の笑い声が零れる。

 なんというか、すごく嬉しそうだった。

 

「恋、友達できたんだな」

「……べつに」

 

 日向さんは短く答える。そこはちゃんと否定して欲しかったかもしれない。そうすれば誤解は解けるのに。

 

「あ、あの……いいですか?」

「なんだい?」

「ここは、どういう部、なんですか?」

 

 わたしは気になってたことを尋ねる。

 扉のプレートには『学園生活支援部』と書かれていたけれど、具体的にどういう部活なのか、まったく見当がつかない。その名前だけじゃ、内容が推察できない。

 

「ここは『学園生活支援部』。簡単に言うと、なんでも部、かな」

「な、なんでも?」

「一応、定義としては、烏ヶ森学園における学園生活に困った生徒を手助けする、ってなってるけどね。お助け部、って言った方が分かりやすいかな」

「お助け部……」

 

 やってることが生徒会みたいだ。

 でも、わたしの疑問は一つ氷解した。日向さんがこういう部活に入ってるのは、正直意外だったけど……

 それと、わたしはもう一つの質問をぶつけてみる。

 

「あの、もう一個、いいですか?」

「いいよ。なんでも聞いて」

「えと、先輩と日向さんは、どういう関係なんですか? その……兄妹、なんですか……?」

 

 日向さんは剣埼先輩と関わりが深い。それは、彼女が剣埼先輩と一緒にいるところを見かけることが多々あったからだ。

 クラスではいつも独りな日向さんだけど、剣埼先輩とだけは、一緒にいた。それはわたしも見たことがあるし、学内ではそれなりに有名だ。

 剣埼先輩自身、成績優秀でスポーツ万能、人当たりもいい人格者で、学内で有名人なんだ。そこに、日向さんが一緒にいるとなれば……その、不釣り合い、ではないけど、どういう関係があるんだろう、と思ってしまう気持ちはわかる。

 一説には、二人は一緒に住んでいて、血の繋がっていない義兄妹という噂もあるんだけど……本当なのかどうかはわからない。

 だけど、今の日向さんや剣埼先輩を見て、なんとなく、兄妹っぽいとは思えた。つきにぃ、って呼び方も、剣埼先輩の下の名前をもじってるんだろうし、先輩も日向さんを名前で呼んでる。そんな二人の空気に、わたしは、わたしとお姉ちゃんに似たものを感じた。だから、聞いてみた。

 それに、二人の関係をはっきりさせておきたかった。それが一番大きいかもしれない。

 

「んー、兄妹か。まあ、似たようなものかな」

 

 先輩は、意外とあっさり答えた。

 だけど、ちょっとハッキリしない回答だった。

 

「あんまり人に言うことじゃないんだけど、親の都合で俺は今、恋の家に居候してるんだよ」

「い、居候?」

「そう。もう結構前からね。だから、恋は妹みたいなものかな。血は繋がってないし、戸籍上も全然関係ないんだけどね」

 

 妹みたいなもの。血は繋がってなくて、戸籍上の関係もない。

 最近のライトノベルみたいな義理の兄妹でもない。それでも、ずっと一緒にいる、妹のような存在。

 関係をはっきりさせたいと思って聞いたことだけど、逆にもやもやしちゃったかも。わたしには、ちゃんと理解できなかった。

 

「こんな答えだけど、大丈夫かな?」

「え、あ、はいっ。ありがとうございました」

「じゃあ、今度はこっちが聞いていいかな?」

「な、なんでしょう?」

「伊勢さんはうちに、どんな用事かな?」

「え?」

 

 思わず聞き返してしまった。別に変なことは言っていない。先輩は普通のことを言っているのに。

 ただわたしが、その答えをすぐに用意できなかっただけだ。

 

「さっきも言ったけど、うちは学園生活で困った生徒を助ける部だからさ。伊勢さんがここに来たってことは、なにか困ったことがあるんじゃないかと思うんだ」

「えっと……」

 

 確かに困ってる。困ってるけど、私の悩みの種の両方とも、ここで言えることではない。

 先輩については当然。デュエマについても、別に学校と関係ないし、そもそも先輩が知ってるかどうかも分からないし、なかなか言い出せなかった。

 そんな時だ

 

「つきにぃに……なんか、こいつ、デュエマ教えてほしいって……」

「え、そうなの?」

 

 言えるわけがない。そう思っていたのは、わたしだけだった。

 ここに来て、日向さんがあっさりと言ってのける。

 

「そっか。伊勢さんはデュエマを始めたがっていたのか。ちょっと待ってて」

「え? え?」

 

 なに、どういうこと?

 先輩がなにやら準備をしている。しかもなんだか楽しげに。一体なにを始めるつもりなの?

 

「そんな用件でうちに来る人は伊勢さんが初めてだけど、正直、嬉しいな。ちょっと不謹慎かもしれないけど、趣味と合わさってるから、やる気が湧くよ。それに、恋と友達になってくれた人だしね」

「あ、あの、先輩……?」

 

 戸惑い気味に声をかけると、先輩が振り返る。そして、その手には紙の束が握られていた。

 紙と言っても、普通のペラペラの紙ではなく、もっとしっかりした素材。色も真っ白ではなく、ここからだと青色と黄色が渦巻くような模様、英字、なにかのシンボルが見て取れる。

 それはいわば、カードだった。カードの束が、こちらに差し向けられる。

 

「デュエマのルールを覚えるには、実戦が一番。ルールは随時教えていくから、試しに一回、やってみよう」

「……はい」

 

 頷いてしまった。

 いきなりすぎて、拒否もなにもできないまま。

 わたしの初めてのデュエマが、始まるのでした。




 第一話は以上となります。まだプロローグのようなもので、対戦パートは次回となります。
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