デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 ヘリオスとメルちゃんがわちゃわちゃしてるだけの回。


51話「復元しよう Ⅱ」

 【死星団】が根城とする、とある森の中。

 寝台に寝かされた少女。それを診察する、青い少女。彼女らを見守る、白と黒の男たち。

 

「メル、姫の容態はどうだ?」

「うーん、なんか妙な感じはあるのですが、ひとまず落ち着いたのです。だけどやっぱり、“馴染み”が悪いのです。どうも地脈が良くなさそうなのですね」

「となると、やはり迅速に拠点を移す理由があるな。リズからの進捗報告はどうなっている?」

「リズちゃんがあたしに報告してくれるわけないじゃないですかー、不明なのでーす」

「そうか。致し方ない、我々だけで姫を護送しよう」

「ヘリオスはどうするよ?」

「ヘリオスか。奴は……」

「呼んだかい?」

 

 と、そこで。

 ひょっこりと、赤い青年が顔を出した。

 

「なんだいなんだい、みんな辛気くさい顔しちゃってさ。そうだ、今日はお土産においしいパンを買ってきたよ」

「買ってきたってお前……金なんてねぇだろ」

「まさかリオくんが、この前あたしにせびった駄賃を残しておくなんて思えないのです」

「それは当然! だから、えーっと、なに? バイト? してたんだよ」

「……ヘリオス、貴様は……」

 

 もはや怒りを越えて呆れ、あるいは諦めの様相を見せるミネルヴァ。彼は額に手を当てて、大きく嘆息する。

 

「お前バイトなんてしてるのか。自由すぎだろ」

「自由なのが僕だよ、知ってるだろう? リズだってそれが僕の役割だって太鼓判を押してくれた」

「だからって限度があるのです」

「ないよ。僕を縛るものなんてなにもない。限界も限度も知ったことか。僕は鬼が居たって洗濯するさ」

「そりゃ知ってるが、お前みたいなのにできる仕事なんてあるのかよ」

「うん。ヤクザ? っていうの? よくわかんないけど、ナントカって人間をテキトーに何人か殺してたらお金くれたよ。カスミとかなんとか、まあわりといい人たちだったな」

「あぁ、なるほど。お前なんか面倒くさいのに顔突っ込んだのな……」

「変に飛び火しても嫌なので、そっちはあたしがちょちょいとフォローしとくのです」

「世話を掛けるな、メル……」

「そんなことよりこれ食べてよこれ! 僕の友達も絶賛のパン! マジうまいから食べてみなって!」

「お、おう……」

「で、みんなはなにやってるの? ってかリズは?」

「お前そこからかよ。本当になんにも知らないのな」

「?」

 

 首を傾げるヘリオス。演技でもなんでもなく、本当になにも知らないらしい。

 

「リオくん圧倒的情報弱者なのです。草生えるのです」

「え? なに? ひょっとして今、バカにされた? ケンカ売られたってなら買うけど? とりあえず一発殴っとく?」

「あーやだやだ、ほんっとリオくんは血の気が多くて嫌になっちゃうのです。スマートじゃないのはクールとは言えないのです」

「クール……なるほど、格好良さは確かに大事だね。でも、自分の気持ちや衝動に逆らうのは、格好良いとは思わないなぁ」

「激情も冷徹もコントロールしてこそのクールなのですよ。粋ってやつなのです」

「感情をコントロールしちゃったら、それはもう本来の気持ちからかけ離れちゃうんじゃない? それって本物の感情って言えないんじゃないかなぁ」

「……バカの癖に変なとこ鋭いのですね。でもあたしはその論には真っ向から反対するのですよ。ちゃんと論拠もあるのです。そもそも感情というものを定義するにあたってですね――」

「いいよ喋らなくて。メルの御託に興味ないし。それより姫ー!」

「聞けよ! なのです!」

 

 青い少女は声を荒げる。しかし青年はまるで意にも介さず、どころか無視して、寝台に横たわる彼女の下へと駆けていく。

 

「あれ? 姫、もしかして体調悪い? じゃあ元気になるお土産が――」

「あーもう! 勝手にお姫さまに餌付けするなのです!」

「それはどっちだ」

「お姫さまのステータスは、あたしが秒単位で計測して管理してるのです。介護係リズちゃんや、親衛隊長ミーナさんならまだしも、リオくんが下手に触るとなにが起こるかわからないのです!」

「なにが起こるかわからないだって? いいね! わくわくするよ!」

「こいつ話聞かねーのです! お姫さまは今、危ういバランスで生きてて、それをこっちできっちり管理してるんだから、あなたの気まぐれで乱すなつってるのですよ! わかれー!」

「いや言いたいことはわかるけどね? でもそれって、なにも楽しくないし。なにより自分の身体を他人に管理されるなんて、よくそんな恐ろしいことを平然と言えるね、メル。君、頭おかしいんじゃない?」

「うわ、リオくんに頭おかしいとか言われた……宇宙最大の屈辱なのです……!」

 

 お前が言うな、と言いいたげな少女。

 さらに彼女は、キッとヘリオスを睨む。

 

「っていうか、なんかお姫さまのこの違和感、外部からの干渉の形跡が僅かに見てとれるのですけど、まさかリオくん!?」

「え? なに? そりゃあ僕は毎朝姫に挨拶してたまに遊びに誘ったりお話したりしてるけど、それが?」

「うわーこのバカバカバカ! 精密機械に泥遊びした手で触ってんじゃねーのですよ!」

「泥遊びか、前に公園で僕も混ぜてもらったよ。楽しかったね」

「あなた幼児なのです!? もー! ディジーさーん! ミーナさーん! このバカどうにかして欲しいのです!」

「……ヘリオス、いいか? 姫は今、母上を取り込んだことで非常に不安定な状態だ。それを、メルの正確無比な分析と、リズの感応による介護で、なんとか安定させている。この均衡を崩すと、最悪、姫に危害が及びかねない。それは貴様も望むところではないだろう?」

「そうだねぇ。でもま、大丈夫じゃない? 死にはしないでしょ!」

「くっ、こいつは……!」

「能天気が過ぎるのです……問答の意義を問いたくなってくるのですよ」

「第一、安定してるから大丈夫、なんて決めつけだよ。ずっと姫は寝たきりで、一度も笑っちゃいない! それはいいことだっていうのか?」

「少なくとも、下手に刺激して調和を乱すよりはよほどいい。わからないか?」

「わからないね! 僕は、今の姫がいい状態だなんて微塵も思わない! 現状維持に甘んじてる君らなんかより、僕の方がよほど姫を思ったことをしているさ!」

 

 ヒートアップしていくヘリオス。ミネルヴァでも抑えが利かなくなってきたところで、ぬっと黒い彼が割り込んでくる。

 

「まあ落ち着けヘリオス。いや、落ち着かなくていいからちょっと聞け」

「ディジーさん!」

「なんだいディジー。君もメルやミーナの味方をするってのかい? ケンカなら受けて立つよ。殴り合いならなお良いね!」

「お前なんかと殴り合ってられるかよ。俺は別に誰の味方でもねぇ、味方は自分だけだ。んなことより」

 

 拳を振り上げるヘリオスを宥めつつ、彼は続ける。

 

「お前が姫さんのことをどんだけ思ってるかはわかったが、姫さんの性格は知ってるだろ。姫さんは気が弱くてビビリだ。それに今は病床で臥せってるようなモン……あんまドタドタ騒ぐのは良くねぇ」

「そうかい? お祭りとかバカ騒ぎすると、元気にならないかな?」

「それも一理ある。お前の時間を無駄にしない、一瞬一秒を惜しんで行動する迅速さは、素直にすげぇよ。だが姫さんのことを考えねぇでなんでもかんでもガンガン押し付けていくのは、姫さん的にはどうなんかね?」

「ん、んんんー?」

「相手のことを思うなればこそ、相手の声を聞きな。議論なんてお前は御免だろうが、言葉を交わすのは望むところだろ? 安定とか良し悪しじゃねぇ、相手の願いを聞いてみな」

「……それもそうだね」

 

 ヘリオスの熱が、下がっていく。振り上げられた拳が降ろされた。

 

「そうだね。姫にも好き嫌いがあるかもしれないしね。まずは姫と話をしてみよう」

「おう、刺激しすぎない程度にな。姫さんは病み上がりどころか病床みたいなモンだからな」

「ディジー……」

「メルとミーナも、パンのひとつやふたつでカッカすんなよ。そりゃヘリオスの奴は刺激が強すぎるがよ、姫さんは元々、人間の中で生活していた。今は女王サマの神体が馴染みつつあるが、それでもまだ“人としての在り方”が多少は残ってるはずだろ。それを加味すりゃ、人の食い物を与えても問題はないんじゃねーか?」

「……まあそれはディジーさんの言う通りなのです。成分的にも毒物の類は感知されてないので、害はないのです」

「ほらー! 君はそういう情報を隠して僕を説き伏せようとしたんだね。まったく意地の悪い小娘だよ。性根も身体もガキンチョだ」

「はぁー!? あたしの流線ボディは完全無欠の機能を備えた肉体美なのですけどー!? 今後の発展の余地、即ち可能性まで内包した非の打ち所がない完璧ボディなのですけどー!? リオくんあたしのアバター人気知らないのですね!? どんだけあたしのアバター姿のイラストやグッズが世に出回ってると思うのです!?」

「知らないよ。僕はもっと肉感的な方がいいと思う。そう、僕の友達にすっごい胸の大きな子がいてね、僕の手でも掴みきれないくらいありそうなんだけど……」

「下世話な話はよせ、ヘリオス。もういい」

 

 ミネルヴァは、諦めたように首を横に振る。

 ヘリオスはそれを見て、楽しげに寝台を覗き込む。寝台から、やかましくも楽しげな声が、うるさいくらいに響く。

 自由にして混沌、ヘリオス・マヴォルス。奔放な彼が周囲に与える影響は予測も測定もできないが、しかし、悪意はない。

 ひとまずそれで、ミネルヴァは妥協した。

 

「しかし、よもやディジーに仲裁されるとはな……」

「気にすんな。ヘリオスの扱いが面倒くさいのは承知してる。こいつの手綱を握れるのはシリーズくらいだろ……いや、あいつも手綱を握ってるとは言い難いが」

「リズちゃんとリオくんはウマは合うのですが、仲良いわけじゃないですしね」

「で、結局どうすんだこの暴れ馬」

「奴も我らの仲間だ。無論、姫の護送の任につける」

「はぁん。ま、言うだけ無駄な気がするがな」

 

 どうせ護送中にどっか行くだろ、と彼は言う。そうあっては困るのだがな、とミネルヴァは肩を落とす。

 ヘリオスには期待できない。シリーズは別の任についている。

 しかしそれでも、ミネルヴァの他にふたりいれば――

 

「あ、言い忘れてたのです。あたしはちょっと別件で護送は不参加なのでーす」

 

 ――ふたりいれば、と思ったのだが。

 

「メル?」

 

 さらにひとり、護送の任から降りようとしていた。

 

「君は、私の与える任を降りると言うのか?」

「やだなー、怖い顔しないでください。効率的に考えてるだけなのですよ、あたしは。ミーナさんにディジーさんがいれば、お姫さまの送り迎えなんて余裕なのです。そちらにあたしまで加えて3人もリソースを割くのは、些か非合理的……というわけなのですよ」

「確実性よりも効率を以て、君は君の我を為さんというわけか」

「なのです。総合的にはきっちり役目は果たすつもりなのです」

「……いいだろう。君がそう言うのであれば、考えがあるのだろう。言ってみろ」

「どうもなのでーす。ま、リズちゃん風に言うなら、かつて撒いた種が芽生えた頃なのです。新芽は摘んで潰さないと、なのですよ?」

「芽?」

「あれだろ。こいつが最初に目ぇつけてた奴ら。メルから分析データ見せて貰ったが、俺もそろそろ仕掛け時だと思うぜ。良くも悪くもな」

「なのです! ディジーさんからのお墨付きも貰ったので、あたしは“狩って”くるのです」

 

 青い少女は、朗らかに、子供っぽく、しかし邪悪に、冷酷に、嘲嗤う。

 最初に目を付けた、彼らへと。

 

 

 

「水早霜、香取実子――しっかりと、相食んでくださいね?」




 死星団どうしの掛け合い、もっと増やしたいけど挿入する場所が難しくて悩ましい。いっそ短編でも書こうかと思うけど、短編にするほどのネタもないんだよねぇ。
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