デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 本来交わるはずのない、元来の自然なデュエマと、電脳のデュエマでも、架空の世界であれば許される……よね?


51話「復元しよう Ⅷ」

「1マナで呪文《ア・ストラ・センサー》だ。山札から3枚を閲覧し……《*/零幻ルタチノ/*》を手札に加える」

 

 アギリとシリーズの対戦。

 シリーズはマナゾーンが一面、緑一色。そのほぼすべてがスノーフェアリー。マナ加速から繋いで行く展開。

 

「《チュパカル》の能力でコストを軽減、1マナで先ほど手札に加えた《*/零幻ルタチノ/*》を使用する。《離脱(エスケープ) DL-20》をGR召喚し、《ルタチノ》をインストール! 《ルタチノ》の能力で1枚ドロー、手札から《極幻夢 ギャ・ザール》を捨て、ターンエンド」

 

 一方でアギリも、既に《*/零幻チュパカル/*》を展開しており、出だしは順調だが。

 

(……手札が悪い。いまいちデッキが回らんな)

 

 《チュパカル》を出したスタートダッシュこそ良かったものの、《チュパカル》はあくまで次に繋げるためのカード。しかしその次に繋げたいオーラが手札になく、テンポが悪い。

 あまりもたもたしてもいられない。ただでさえアギリのデッキは始動が遅めなのだ。相手が動き出す前に、場を固めなければ。

 

「私のターン。4マナで呪文《カラフル・ダンス》。山札から4枚をマナゾーンへ。そしてマナゾーンから《霞み妖精ジャスミン》《恋愛妖精アジサイ》《雪精 ジャーベル》《雪精 ホルデガンス》《カラフル・ナスオ》を墓地へ」

 

 そう思っていたら、相手も動き出した。

 《カラフル・ダンス》、一気に墓地を増やし、マナを入れ替える呪文。使えるマナを減らさず、これだけ大量のカードを動かすともなれば、じきに仕掛けてくるはず。やはり出遅れている暇はない、相手の出方に注意しなければ。

 

「2マナで《ステップル》を召喚。山札の上から1枚をマナゾーンへ。そして3マナで《ステップル》を進化」

 

 ――否。

 

 

 

「萌芽の蕾は潰え、死の凍土より豊穣目覚める――《ダイヤモンド・ブリザード》」

 

 

 

 じきに仕掛けるのではない。注意すべき時に次はない。

 ここが、この瞬間が、最大の脅威なのだ。

 

「《ダイヤモンド・ブリザード》の能力発動」

 

 それも、常識の埒外の理で押し寄せる狂気。

 常軌を逸する外宇宙の真理。

 それは理不尽であり、規格外の暴威。

 

 

 

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 彼らの世界では誰も知らない、異界の能力(ルール)が、不条理に行使される。

 

「な……っ!?」

「そして、こうして手札に戻ったスノーフェアリーの数だけ、マナを追加」

 

 知っているカードだと思った。しかし知らない力が働いた。

 マナゾーンからクリーチャーを回収する。知っている。墓地から回収はしない。知らない。減ったぶんのマナが補填される。それも知らない。

 見えているものと、知っている知識が、合致しない。噛み合わない。狂ったように、ズレている。

 

「な、なんだ、その能力は……!?」

 

 ここではないどこかで生まれたかのような、異質な力。猛吹雪は雪解け水の如くシリーズの手札を潤し、冷たい大地に新たな芽吹きを与える。

 

「3マナで《ホルデガンス》を召喚。1マナ加速し、進化。《ダイヤモンド・ブリザード》」

「連鎖する……このリソースの取り方は、まずい……!」

「そうね。冬の到来に備えられなかった者に待つのは死、のみよ。3マナで《雪精 ジャーベル》を召喚。マナ武装3、山札の上から4枚を見て、《ステージュラ》を手札に。G・ゼロで《武家類武士目 ステージュラ》を召喚。その能力で、マナゾーンからスノーフェアリーを回収するわ。手札に戻すのは《ダイヤモンド・クレバス》」

 

 春と冬を繰り返し、手札を大量に蓄え、その上でマナゾーンは減らないまま。

 盤面もクリーチャーが並びつつあるが、それだけでは終わらない。

 

「手札のスノーフェアリーを5体捨て、呪文」

 

 集った命は生贄に。

 スケープゴート。仔羊たちは供物であり、犠牲となり、豊穣神への祈りとして捧げられる。

 春が来る。冬が来る。厳しい冬の寒波が、すべてを凍らせる。

 

 

 

「《エンドレス・フローズン・カーニバル》」

 

 

 

 ピシッ

 

 大地が一面、凍てついた。

 すべての命を終わらせる、冷たい世界。しかしそれは、次なる春への兆しでもある。

 故にここは死の世界ではなく、自然の条理。歪で、不自然な、あるべきではないものを排斥する、世界の機能となる。

 

「まずはあなたのクリーチャーではない表向きのカードをすべて破壊するわ」

「っ! オーラが……!」

 

 仮初めの命、命でない偽物、生命への冒涜物。

 この自然の理は、命に見せかけた、生命ならざる電影の存在を許さない。その一切合切を、無に返し、破壊する。

 さらに、

 

「あなたのクリーチャー、マナをすべて凍結」

 

 これは自然の摂理。自然ならざる物を粉砕するのは当然として。

 それ以前に、冬なのだ。険しい険しい、冬である。

 命なき物は砕け、命ある者も、その絶大なる寒波の前には、活動を停止させる。

 アギリのクリーチャーも、マナも、すべてが凍り付き、動かなくなってしまった。

 

「3マナで、《ジャーベル》を進化。《ダイヤモンド・ブリザード》。再びマナゾーンのスノーフェリーを回収、その数のマナを追加」

「山札を磨り潰す勢いで……なんだ、これは……!」

「4マナをタップ。墓地の7体のスノーフェアリーを進化元に、超無限進化・Ω」

 

 積み上がった妖精の遺骸を飲み込んで。

 凍てつく冬の龍は、永久凍土に舞い降りる。

 

 

 

「《氷結龍 ダイヤモンド・クレバス》」

 

 

 

 凍土の裂け目から、それは迫り上がる。

 永遠の氷結のもたらす凍てつく龍。凍土と雪解けの化身。

 数多の妖精の生を死を喰らい、それは現れた。

 

「《ダイヤモンド・クレバス》で攻撃。《ダイヤモンド・クレバス》のパワーは、下に重ねているクリーチャーの数1体につき3000増加する――さぁ、狩りなさい」

 

 大量のスノーフェアリーの遺骸を取り込んだ《ダイヤモンド・クレバス》の進化元は7枚。つまりパワーは21000も跳ね上がり、現在のパワーは24000。パワード・ブレイカーにより、ちょうど5枚のシールドを粉砕する巨大な災厄と成り果てた。

 凍土の奈落(クレバス)は氷の牙を剥き、狩人の如く、アギリの喉笛に食い掛かる。

 それは雪渓そのものが雪崩れ込んでくるかのような、怒濤の一撃であった。

 食われた妖精たちの命が、重く、冷たく、呪いのように、突き刺さる。

 

「くぅ……S・トリガーだ! 《*/弐幻ケルベロック/*》! 《*/弐幻キューギョドリ/*》! それと……」

 

 凍てつく暴威に晒されながらも、しかしただ黙って豪雪の激流に飲まれるわけにもいかない。

 後に控えた猛吹雪(ブリザード)を凌ぐためにも、アギリは豪雪と大寒波の中、必死にS・トリガーへと手を伸ばす。

 

「バンダースナッチと一戦交えた経験が生きたか……《(シン)・獄・殺》だ!」

 

 シールドは一瞬でゼロに。しかし、運がいい。S・トリガーは3枚もあった。

 

(僥倖だ。これはかなり幸運だが、しかし凌ぎきれるのか……?)

 

 相手の残るアタッカーは《ダイヤモンド・ブリザード》が3体。《ケルベロック》と《罪・獄・殺》で2体止められるとしても、残り1体を止められるかは《キューギョドリ》次第。

 しかし、一番の問題は、

 

(ここでただ攻撃を止めるだけでは、撃の手はないな)

 

 現在アギリは、《エンドレス・フローズン・カーニバル》で、クリーチャーもマナもフリーズさせられている。攻撃はおろか、返しにカードを使うことすら覚束ない状態だ。

 これではたとえこの場を耐えたところで当座凌ぎ。なにもできずターンを渡してしまい、結局はやられるだけ。僅かに延命するだけの悪足掻きにしかならない。

 ――本来の目的を考えれば、ほんの僅かでも時を稼ぎ、水早霜のために我が身を擲つことが最善なのだろう。敗北が確定しても、時間を引き延ばし、シリーズを足止めする方が、有用だと思われる。

 しかし、しかしだ。

 

(欲が出て来てしまうな……水早霜には悪いが、(ボク)には(ボク)のやりたいことが……目的がある)

 

 そのためには、まだここで倒れるわけにはいかない。

 果たすべき責任を果たすまで、終われないのだ。

 

(となれば……こうする他あるまい)

 

 すべきことは結局変わらない。しかし考え方を変えた。

 呪文の詠唱は後回し。まずアギリは、オーラを発動させる。

 

「《キューギョドリ》はギガ・オレガ・オーラ。2回GR召喚を行い、自由にオーラを装着できる! 来い!」

 

 単一のクリーチャーを強化するためにあるオーラとしては異質にして異端である、横への展開を為すギガ・オレガ・オーラ。

 水球が渦巻き、逆巻く水流の中から人造の命がふたつ、弾き出される。

 

「《シェイク・シャーク》と、《甲殻 TS-10》……《シェイク・シャーク》に《キューギョドリ》をインストールする。さらに《ケルベロック》を出す際にもGR召喚だ! 《モック・ザメシュ》に《ケルベロック》をインストール! 《シェイク・シャーク》マナドライブにより、《ダイヤモンド・ブリザード》を拘束する!」

 

 引きは最高だった。クリーチャーを1体止め、ブロッカーが2体。既に3体分のクリーチャーを止められた。

 

「憂慮は失せた。存分にやらせてもらうぞ。呪文《罪・獄・殺》!」

 

 生存が確定した以上、余ったパーツは守るためではなく、攻めるために使うことができる。

 殺意の塊のような存在から学習した呪文であるからして、複雑な心境ではあるが、理には適っているし、やむを得ない。

 その凶暴性の片鱗だけでも、目の前の異常存在へとぶつける。

 

「《ステージュラ》を破壊し、破壊したクリーチャーのコスト以下のオーラを墓地から呼び戻す!」

「……既に仕込みは終わっていたのね」

「狙っていたわけではないのだがな。今日は本当に巡り会わせがいい……死を生に、夢を現に。出でよ《極幻夢 ギャ・ザール》! 《接続 CS-20》をGR召喚し、インストール!」

 

 《ルタチノ》で偶然捨てただけのカードだが、今この状況で、カウンターとして呼び出せるのであれば、この上ないカードだ。

 

「《ダイヤモンド・ブリザード》で攻撃よ」

「当然ブロックだ! 《甲殻 TS-10》! 《ケルベロック》! 《モック・ザメシュ》の能力で、バトルに負けたこのクリーチャーとバトルをしたクリーチャーはバウンスされる! 《ダイヤモンド・ブリザード》を手札へ!」

「ターン終了」

 

 

 

ターン3

 

ヤングオイスターズ(アギリ)

場:《予知》《離脱》《シャーク[キューギョドリ]》《接続[ギャ・ザール]》

盾:0

マナ:3

手札:8

墓地:4

山札:23

 

 

シリーズ

場:《ダイヤモンド・ブリザード》×2《ダイヤモンド・クレバス》

盾:5

マナ:6

手札:7

墓地:6

山札:3

 

 

 

 ――アギリの、4ターン目。

 先の攻防は、僅か3ターン目の出来事。

 仕掛け準備だとか、出方を窺うだとか、そんな思惑をすべて粉砕する雪の妖精たちの暴威。

 速く、強く、恐ろしい。一瞬で、自分も相手も、すべての命を飲み込む死の奔流だった。

 しかしアギリはそれを乗り切った。迫り来る冷たい死の囁きを、すべて撥ね除け、今ここにいる。

 

「反撃開始だ! 行くぞ、《ギャ・ザール》で攻撃する時、能力起動。1枚ドローし、コスト6以下の呪文またはオーラを使用する!」

 

 使えるマナはほとんどない。カードを使うこともなく、使うまでもなく、今動かせる最低限のカードだけで、凍り付いた現状を打破する。

 《ギャ・ザール》が映し出す夢幻を、現実に。魂なき電影に、命を吹き込む。

 妖精たちが祀る王は、最強の生き物――即ち、(ドラゴン)

 それが最強の形であるならば、それを真似ようではないか。

 その姿が強きものであると証明されたならば、その根拠を元に、この手にある情報から構築できる。

 

「オレガ・オーラ起動。対象は《極幻夢 ギャ・ザール》。その情報を上書きする。更新開始――アップデート!」

 

 あちらが、自然から、眠れる龍を呼び起こすのならば。

 こちらは、不自然であろうと、龍というものを創り出してみせよう。

 

「世界の理、生命の理、力の理、神の理。すべての理論(コード)を繋げ、楽園に今、最強を創造する!」

 

 夢から覚める。夢想の理は、魂の海にて結実し、現実へと顕現する。

 

 

 

「吼け――《Code(コード)1059(ヘブン)》!」

 

 

 

 人為的に創造された、最強の概念。力の形。

 それはあらゆる人の夢と叡智。夢見る夢想が現実に染み出した、結晶そのもの。

 

 ドラゴン・コード。

 

 龍の理が再現され、構築された、楽園へと至る人造の(ドラゴン)

 シリーズはそれを一瞥し、静かに吐き捨てる。

 

「……あぁ、とても、醜いわね。人の手でこんなものを生み出してしまうだなんて、とても、冒涜的よ」

「貴様ら女王の眷属に言われたくないな」

「けれどあなたも、同じなのよ。根源的に、私たちとあなたたちは同類。わかるでしょう?」

「だとしてもだ。我々は人の、人間の営みを、社会を、世界を見てきた。その上で(ボク)は、女王や貴様らのような神の在り方より、愚鈍で夢見がちな人の在り方を選ぶ」

「その生き方は反自然的……あらゆる大地、生命への不敬に他ならないわ。自らが立つ寄る辺を、その尊厳を、踏み躙ろうというのかしら」

「かもしれないな。だが魂を尊いと思うからこそ、この生に執着するからこそ、神の領域へと手を伸ばそうとするのが人間というものだ。それは愚かなのだろう。大事だからこそ穢し、求めるからこそ踏み躙り、希うからこそ冒涜する。矛盾もあろう、裏目もあろう、愚かしいだろう。だが、だからといって、神に縋る気はない」

「どうしてかしら。それはあらゆる根源。尊く神聖で清廉なる存在なのに」

「それは“自ら生きる生”ではないからだ。神といえども、崇拝し、従属し、なにかを見殺しにして寵愛を受けるような生き方など反吐が出る。(ボク)は、狂信者なぞには成り下がらない」

 

 人造の命。人為的な魂。それは確かに不格好で、冒涜的で、不遜なのかもしれない。

 しかしこの技術は、叡智は、夢想は、それほどに必死に生きている証左でもある。

 清廉潔白であることが、絶対的に良い生き方だなんて思わない。賢者を気取ることなく、愚かさも飲み込み、愚者であっても信念に依ってひた走る見苦しさも、否定したくない。

 

「我々は抗う者(レジスタンス)……みっともなく足掻かせて貰うぞ。神殺しなぞ夢のまた夢だろうが、夢見るからこそ人はその夢想を現実に引きずり下ろすんだ!」

 

 願わなくては、願いは結実しない。

 夢見なくては、夢が叶うことはない。

 だからこそ、彼は荒唐無稽にも、抗うのだった。

 

「我が夢、現実へと塗り替えろ! 《Code:1059》で《ダイヤモンド・ブリザード》を攻撃!」

 

 《Code:1059》の光線が、《ダイヤモンド・ブリザード》を射貫く。

 とはいえこれだけでは、シリーズのクリーチャーを1体破壊しただけだが、

 

「女王なんぞに従う理由はない。むしろ、貴様らに牙を突き立てるため、その神秘、貶めてやろう。攻撃後に《Code:1059》の能力が発動!」

 

 ジジジ、と《Code:1059》の姿が、ブレていく。

 人為的な命の創造とはいえ、《Code:1059》は完成された生命体ではない。依代がなければ姿を保てない、不安定で曖昧な生き物だ。

 しかしだからこそ、それを利用する手がある。

 脆さを強さに。これも、人の世から学び取った強かさ。

 《Code:1059》は雲散霧消する。それと同時に、空気中に散った《Code:1059》の残滓が、シリーズの領土に拡散していく。

 

 

 

DL-Sys(ディーループシステム)――起動!!」

 

 

 

 《Code:1059》は、強欲な人の叡智により生み出された龍。人の夢想が詰まった存在故に、その我欲も計り知れない。

 人造の龍はあらゆる知識を喰らう。失われた英知を貪り、飲み込み、己の力へと変える。

 

 ――学習(ラーニング)解析(アナライズ)実行(オペレーション)

 

「《Code:1059》は攻撃後、相手の墓地の呪文を唱えることができる。冒涜的だろうと知ったことか。神の力だろうと利用させて貰うぞ――《エンドレス・フローズン・カーニバル》!」

 

 学習し、解析し、実行する。

 氷結龍のために捧げられた永遠なる祭典は、人の手で冒涜され、貶められる。

 霧散した電影の残滓が、シリーズの領土を侵していく。

 凍てつく大地を再び凍らせることはできない。しかし世界の理そのものを書き換えれば、話は別。

 永久凍土を凍らせ、シリーズの盤面をすべて、封じ込めた。

 

「そして《Code:1059》は別のGRクリーチャーへと移る。再び《ダイヤモンド・ブリザード》を攻撃!」

「…………」

「ターン終了時、《Code:1059》の能力により《甲殻 TS-10》をGR召喚だ!」

 

 ひたすらに、自然への冒涜であった。

 一時的とはいえ、世界の理を書き換え、大地を侵し、命を吐き出す愚行。

 しかしそれが、人であることを選んだアギリの意地。神に与しない者の抵抗だ。

 強烈な効果を与える《エンドレス・フローズン・カーニバル》だが、それをカウンターで逆利用し、チャンスに変える。

 

「貴様の《エンドレス・フローズン・カーニバル》は痛烈だった。我が身で受けたからこそ、その恐ろしさがわかる。さしもの貴様も、マナがなくては動けないだろう」

「そうかしら。あなたは、私の永久凍土を乗り越えたわ」

 

 であるならば。

 

「私のターン、手札を5枚捨てるわ」

「な……っ!」

 

 シリーズが、その冬の時節を乗り越えられない道理はない。

 

 

 

「呪文――《エンドレス・フローズン・カーニバル》」

 

 

 

 放たれる、二度目の大寒波。

 歪な命は朽ち果て、すべてのオーラは消滅。

 命あるものは凍り付き、休眠する。すべてのクリーチャーも、マナも、凍結。

 アギリはまたしても、すべてを封じられてしまった。

 

 

 

ターン4

 

ヤングオイスターズ(アギリ)

場:《予知》《離脱》《シャーク》《接続》《甲殻》

盾:0

マナ:4

手札:6

墓地:9

山札:21

 

 

シリーズ

場:《ダイヤモンド・クレバス》

盾:5

マナ:6

手札:2

墓地:15

山札:3

 

 

 

(これは……まずいな)

 

 次のターンで、シリーズにかかった《エンドレス・フローズン・カーニバル》の効果は解ける。

 そしてこちらは、《エンドレス・フローズン・カーニバル》の効果を受けている状態。しかも、二度目の《エンドレス・フローズン・カーニバル》により、またオーラがすべて剥がされてしまった。

 シールドもない。二度目を耐えるための壁は、もう残されていない。

 

「くっ、これを逆転するカードは……?」

 

 使えるマナは、このターンにチャージしても1マナだけ。《接続 CS-20》はあるが、それでも2コストのオーラが限界。

 相手に残ったクリーチャーも《ダイヤモンド・クレバス》だけとはいえ、たった2コストぶんのカードで、この状況を覆すことなんて――

 

「…………」

 

 アギリは、引いたカードを見て、息を呑む。

 そして静かに、手札を切った。

 

「……《罪・獄・殺》をチャージ、1マナをタップ」

 

 生み出された、黒い1マナ。

 そのたった1マナが、決まり手だった。

 

 

 

「呪文《ブラッディ・クロス》」

 

 

 

 オーラではない、呪文だ。

 《接続》の能力も使われず、素の1マナだけで行使される、最軽量呪文。

 

「《罪・獄・殺》《Code:1059》との相性、闇マナ確保、山札圧縮……その程度の意味合いで入れた効力の薄いカードだったが……役に、立ったな」

 

 その効果は、多少の希少性こそあれども、シンプルだ。

 

「呪文の効果で、互いの山札の上から2枚を墓地へ」

 

 アギリの山札から2枚。

 シリーズの山札から2枚。

 それぞれ、削り落とされる。

 

「…………」

 

 シリーズは《ダイヤモンド・ブリザード》で、過剰なほど山札を磨り潰していた。

 現在の山札は、残り3枚。ここで2枚削られ、残り1枚。つまり。

 

「……そう」

 

 彼女は静かに瞳を閉じ、手を下ろす。

 次のターン、シリーズは山札を引き切る。

 それで、終わりだ。

 

「運命とやらがあるのだとすれば……お前は、これを予見していたか?」

「私は立場上、巫女には近いけれど、占術師や星見ではないのよ。未来を視るだなんて、蟲のようなこと、できるわけないじゃない」

「……お前は、何者なんだ?」

 

 敗北が確定してもなお、焦りが一切ない。非情なほどに落ち着いているシリーズ。

 やはり彼女は、どこかおかしい。不自然というなら、彼女こそ不自然だ。

 故にアギリは問う。

 

(ボク)は弟妹らほどお前達と直で対面していない。しかし接触したことはある。そしてこうして相対すれば、わかることもある」

 

 【死星団】。女王の眷属。『代用ウミガメ』の側近。

 代用ウミガメと、女王のため。相反しながらもそれらを束ね、役割を遂行する者たち。

 非情に、冷酷に、女王に叛逆する者を制裁、収集し、女王の復活を願う狂信者。

 というところまでは、わかる。しかし。

 

「お前は明らかに“違う”。あまりにも異質だ」

 

 このシリーズ・コレーは、違う。

 感覚的で上手く言語化できないところがもどかしいが、彼女だけはなにか他の【死星団】と一線を画すように感じる。特権階級、などとも呼ばれていたが……

 

「お前は……何者だ?」

 

 アギリは問う。曖昧に、されども確信を持って。

 

「私はシリーズ・コレー。季節うつろう豊穣神の遣いよ」

 

 シリーズは答える。淡々と、無機質に。

 

「三柱の化身の、さらに疑似」

「三柱の……化身? 疑似だと?」

「ミネルヴァは【死星団】だなんて、大仰に言うけれど。私たちも贄と変わらない。“本物”のための、ただの繋ぎ」

 

 誰に向けて言っているのかもわからないような、虚空へ話しかけているのを余所で見ているような、奇妙な感覚。

 彼女の見ているものが、アギリにはまるでわからない。

 

「そして至るのは、彼女が降臨する暗黒の天。太陽を喰らう漆黒の宙。信仰の果てに叶う、小さな願いよ」

「願い……それはお前達のか? 女王の復活が叶うのなら、確かに世界は破滅するだろう。お前達は、本当にそれを望んでいるのか? それを、小さな願いだと言うのか?」

「ミネルヴァはそうかもしれないわね。ヘリオスはどうかしら。思惑は各々あるのでしょう。私には、意志はないのだけれど」

「自分はただの機能だとでも言うつもりか? 自然信仰だと思っていたが、お前の方がよほど機械らしい」

「機能という言葉は悪くないわ。言葉遊びだけれどね。逆に問うけれど、あなたも、愚かしくも運命に抗って、彼女の目覚めを阻もうというのかしら。私たちを、止められると思うのかしら? その矮小な野望、本当に叶うとでも?」

「……止める、止めない、という話ではないな」

 

 シリーズの問いに、今度はアギリが応える。

 願い、望み。無論、アギリにもそう言えるものがある。だからこそ抗う。

 しかし女王の復活阻止は、アギリにとってはそれそのものが目的ではない。

 

「我々はここに生きている命だ。結果を見て生きる傀儡でも、結果だけを求める機械でもない。過程を経て進む生者なのだ。今も未来も、投げ出さずに駆け抜ける。必死に抗い喰らいつき、脳が焼き切れるほど愚考し、少しでもより良い未来へと至るために邁進する。その“生き様”そのものが、我々の生きる価値だ」

 

 それが、人のように生きる、ということだと。

 それこそが、その価値だと。

 アギリは、信じている。

 

「ハッキリ言おう。(ボク)は女王に刃向かったとて、我々の牙を突き立てることさえ叶わないと思っている。女王とは、そういうものだ」

「愚かなのに賢明ね、あなたは」

「さっきも聞いたな。だが、それがなんだという」

 

 夢を現実に引きずり下ろすためにも、夢は諦めない。しかしその思想そのものが夢物語で、途方もないことであるという現実も見えている。

 だからこれは現実的な考えなどではなく精神論。自分がどう生きたいかというだけの話だ。

 

「無駄なことはしない、無意味なことは愚かだ。しかし、価値のあることに、意義はある」

「意義と価値。あなたにとって、それは?」

(ボク)は、この小さな抵抗には意義があると思っている。弟妹に、姉。多くの仲間を失っても……否、失ったからこそ、己が最も大事なものを、誇りを取り戻すことには、何物にも代えがたい価値がある」

 

 結果が伴うかが重要なのではない。結果はあくまでも結果。それは、世界になにを及ぼすか、というだけの話。

 自分の生き様は、自分だけが語り、証明できるものだ。

 

「最終的に無に帰すから無駄なのではない。結果だけで“人”の生は測れない。」

「……あなたは、自分が本当に人と同じく生きられるとでも?」

「世界が許さぬというのなら、それでもいい。しかしその生き様が良いと思ったから、そうしている」

「自己満足というのよ、それは」

「その通りだ。だが、己が満足する以上の価値が、どこにある?」

「随分と自我が強いわね」

「正直、自分でも驚いている。少し前まで自己も他者も曖昧だったというのに、それが急に自己認識だけが強くなったものだからな……これも一時の気の迷い。ただ混乱しているだけなのかもしれないが……」

 

 その混乱は、きっと良いものだと思う。

 なぜならその自己認識によって、アギリは決められたのだから。

 自分の、歩みたい道を。

 

「やはり、(ボク)は、自分の最も大事な家族のために、愚考も愚行も重ねることとしよう」

「身の程知らずなのね、あなた。自分がどういう存在か、理解していないのよ」

「わかっているさ。わかった上で、逆境も運命もクソ喰らえだと吐き捨てて、みっともなく足掻くんだ」

 

 それが、その愚かしさが、人として生きるということだから。

 

「それが、(ボク)の考える“生きる”ってことだから。(ボク)は、(アヤハ)とは違う」

「……まあいいでしょう。私の言葉以上に、運命はすべてを雄弁に物語る。それに、敗者がものを語るのも歪よね」

 

 シリーズはそう言うと、残された山札、最後の一枚を引いた。

 そして。

 

「あなたを壊すことができなかったのは残念だけれど、鼠の方はじきに狩るでしょう。後は“彼女”に任せて、私は退散するわね」

 

 

 

 シリーズの身体が――溶けた。

 

 

 

「!」

 

 ぐちゃり、と。

 水のように崩れ、スライムのように地面に飛び散る。

 草原のような地面に、黒い粘液のような染みだけが、広がっていた。

 

「……危なかった」

 

 敵の気配が完全に消えたのを感じて、アギリは脱力して、大きく息を吐く。

 先ほどまでは気丈に振る舞っていたが、しかし内心、かなり焦っていた部分もあった。

 

「運が良かった……都合のいい有効トリガー、GRゾーンの配置、カード選択……ほとんどご都合主義だな。あと少しでも運が向かなければ、死んでいたな」

 

 終わったからこそ、凌ぎきったからこそ、冷静に分析できるが、本当に危なかった。

 運が良かった。これに尽きる。巡り合わせの良さ――シリーズのように言うのであれば、運命とやらが悪ければ、アギリはあっさり終わっていただろう。

 

「しかし奴は、本当に何者なのだ?」

 

 彼女が開いた『異聞神話空間』。その残滓とでも言うべきか。

 草花が、まだ残っている。コンクリートの道を侵蝕し、自然が息づいている。

 作り物でも、幻想でもない。確かな命の芽吹きが、ここにあった。

 

「以前見たものとは明らかに違う……不気味な手合いだな、シリーズ・コレー」

 

 強い弱いだけでは語れない、底知れない恐ろしさがある。

 相手にしたくないが、しかしこのような相手だからこそ、よく知る必要があるだろう。

 だが、今は、より優先すべきことがある。

 

「……考察は後だ。あの口振り、眠りネズミも襲撃を受けていると考えるべきか」

 

 アギリは、先行した彼らの後を追いかける。

 その後ろには、いまだ草原の如き草花の大地が、不気味に広がっていた――




 致命的なミスが発覚して急遽書き直したりしてました。エンドレス・フローズン・カーニバルの非クリーチャー以外のカードを破壊する効果を完全に忘れてた……めちゃめちゃオーラにぶっ刺さってて頭抱えました。こんなんアギリの天敵やん、だからこそこのシリーズが来たのはかえっていい効果になりましたが。
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