デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 暗躍のディジー。


52話「脱獄しましょう Ⅰ」

「それでは参るとしようか。ディジー、準備はいいか?」

「そりゃ当然」

 

 白と黒の男がふたり。

 小さな少女を連れて出立する。

 目的は少女を守ること。より正確に言えば、護衛だ。

 旧不思議の国。シリーズの手で、【死星団】の新たな拠点に作り替えられている最中の場所へと、彼女を護送することが、このふたりの目的。

 少女はなにを言うでもなく、黙したままふたりについていく。

 町へと降りる時、黒い方が制止をかけた。

 

「待て」

「どうした、ディジー」

「念のためだ。俺が偵察に行こう。町にゃ不思議の国の残党やら、マジカル・ベルの仲間やらがいるだろ? そいつらと下手に相対すると面倒だ。今は姫さんもいることだしな」

「成程。もっともな意見だ。ならば斥候を任せよう」

「あいよ。んじゃ、ちっと待ってくれな」

 

 黒い影は、溶け込むように姿を消す。

 そして残されたのは、ミネルヴァと、姫と呼ばれる少女。

 

「姫。お加減のほどは如何でしょうか?」

「…………」

「気分が優れないようでしたら、直ちにお知らせください。至急、シリーズかメルクリウスを呼び戻します故」

「…………」

 

 少女は口を閉ざす。

 悲しそうに、悔やむように、どこでもないどこかを見つめている。

 

(覇気がない。それ自体は彼女と謁見してから変わらないことだが、どこか、浮ついているというか……いつもと雰囲気が違うような……)

 

 シリーズであれば、彼女の微細な変化も捉えるのかもしれない。もっとも、その変化を知覚したところで、彼女の口から語られる言葉を解釈することが難解だが。

 しかし、もしなにか異常ががあれば大事だ。大神の依代たる彼女を傷つけるわけにはいかない。

 

(メルクリウスには困ったものだ。しかし彼女の機嫌を損ねても厄介……本当に、困ったものだ……)

 

 あまつさえシリーズもメルクリウスに付いていってしまったようだ。

 どう考えても、姫の安全を保証する方が大事で優先するべきだろうに、個人的な事情を優先させてしまうのは如何なものか。

 ミネルヴァは大きく溜息を吐く。

 

(ヘリオスよりはマシとはいえ……いや、奴と比較するのは酷だな)

 

 今頃、ヘリオスはなにをしているのだろうか。町に出て遊び呆けているのだろうか。そうなのだろう。

 シリーズ曰く、それがヘリオスに与えられた役割だそうだが、個人の役割をまっとうすることが、総体としての役割を放棄することの正当性になるとは思えない。

 姫を守護し、女王を目覚めさせる。それが【死星団】のあるべき姿のはずだというのに。

 

(やはり一度、ヘリオスには灸を据える必要があるだろうか。他の仲間達の手前、殺傷沙汰にはしたくなかったが、奴ならばそのくらいでなければ認識を改めないだろう)

 

 内心でそんなことを考えつつ、周囲への警戒は怠らない。

 しかし、外へと意識を向けすぎていたかもしれない。だからこそ、だろうか。

 気付くのが――遅れた。

 

「……?」

 

 猛烈な違和感。悪寒のようなものが駆ける。なにか、大事なものが流出していくような不快感がある。

 これは、これは――

 

「……姫。ほんの僅かな時ではありますが、あなたをひとりにすることをお許しください。少々……我が国でトラブルが起こったようです。すぐさま戻ります故、ここでお待ちください。」

 

 ミネルヴァは少女にそう言い残すと、歪んだ空間に消えていく。

 ひとり残された少女は、恋しそうに町を見下ろす。

 

「こす……さん……」

 

 掠れた声で、誰かの名を呼ぶ。

 それはすぐに霧散してしまう。自分にさえ届かない。響かない。

 太陽が高く、眩しい。そこにできる影は黒く、濃い。

 そんな漆黒の中から、影が、伸びる。

 

 

 

「さぁて――ミネルヴァの野郎は消えたな」

 

 

 

 先ほど、斥候に向かったはずの彼は、なぜかそこにいた。

 さも当然のように、最初からそうであったかのように。

 彼は少女へと歩み寄る。

 

「仕込みは上々。あとはあいつらが、どれだけ粘れるかだな」

 

 そして、少女へと、向き直る。

 少女は微かな希望の光を宿して、彼を見つめていた。

 

「そんじゃ姫さんよ。ほんの僅かな時ではありますが、だ」

 

 ミネルヴァの言葉を借りて、男は笑みを浮かべる。

 優しい、とはとても言えない。けれど邪悪、とも言えない。

 黒い、けれどもなにか強い決意、信念、野望を湛えた眼で、彼は告げる。

 

 

 

「――あんたを逃がしてやるよ。マジカル・ベルのとこまで行ってきな」




 ちらちらと裏で動いていたディジーが、遂に本格始動。
 ――の前に、ミネルヴァの王国内部の話が挟まります。

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