「なに読んでるの?」
「え? あ、えっと……」
「あ、私、香取だよ。香取実子。同じクラスだけど、覚えてる?」
「は、はい……というか、隣の席……ですよね……?」
「お? 覚えてるんだ、よかったよかった。あなたは伊勢さん、だよね」
「は、はい。それで、わたしになんの用でしょうか……?」
「敬語なんていいよー、同級生でしょ?」
「はい……あ、うん」
「別に理由なんてないよ。あんまりお話できてないし、教室にもいないこと多いし、なにしてるのかなーって。そしたら、たまたま図書室で本を読んでるの見つけたからさ。それで、なんの本読んでるの?」
「えっと、これ……小説、なんだけど……」
「あ、これ知ってる。凄い人気の小説だよね。作者は、伊勢誘さん……だっけ」
「う、うん。わたしのお母さんが書いてるんだけど……」
「え!? あなたのお母さんって、小説家なの!? 凄いね!」
「うん……自慢のお母さんなの」
「そういえば、この学校の生徒会長さんも伊勢って名前だけど」
「……わたしのお姉ちゃんです」
「やっぱり! お母さんはプロの小説家で、お姉さんは生徒会長さんか。伊勢さんって凄いんだね」
「わたしは全然すごくないよ……ちっちゃいし、運動音痴だし、ダメダメだよ……」
「そんなことないと思うけどなぁ。きっと伊勢さんには、伊勢さんのいいところがあるよ。なんなら、私が見つけてあげる」
「香取さんが……?」
「うん。ほら、だからさ」
「?」
「にぶいなぁ」
「え? え?」
「つまりね、その――私と、友達にならない?」
☆ ☆ ☆
「――みのりちゃん……」
「小鈴! よかった、目が覚めた……」
揺らぐ視界。感覚が少しずつ戻っていく。
背中が硬くて、ちょっと痛い。ゆらゆら揺れている視界は、少しずつ明瞭になっていって、やがてちゃんと像を結ぶ。
そして、そこにいたのは、
「……霜ちゃん?」
「そうだよ。大丈夫?」
「えっと……」
クラスメイトで、友達の、水早霜くん。霜ちゃんがいた。
凄いふりふりで可愛い格好してるけど、その表情は不安と安堵が入り混じったよう。どうしたんだろう。
というか、わたしはどうしてたんだっけ?
今まで意識を失っていたみたいだし、その前に、なにが――
「! そうだ、みのりちゃん!」
「彼女なら、どこかに行っちゃったよ」
「え……?」
「正直、ボクも買い物帰りにたまたま君を見つけただけだから、状況がよくわからないんだ。ただ、明らかに普通じゃないし、君のことだから、クリーチャーが関わる類の事件に巻き込まれてるんじゃないかと……」
「クリーチャー……そうだ! そうだよ! みのりちゃんが! クリーチャーを……」
「小鈴、落ち着いて」
霜ちゃんに窘められる。
ガシッと肩を掴まれて、動くわたしの動きを止める。
女の子みたいだけど、やっぱり霜ちゃんは男の子。わたしよりも力は強い。
霜ちゃんはわたしの肩を抑えると、まっすぐにこっちを見つめてくる。
「……とりあえず帰ろう、小鈴。彼女はもう、ここにはいない」
「…………」
「正直、ボクは君がなにを考えて、この状況をどう思っているのかわからないけど、彼女の言葉を聞いたボクが考えるに、彼女はここには戻ってこないと思う」
霜ちゃんの言葉は、本当だと思う。
みのりちゃんがどうしようとしたのか、なにを思ってあんなことをしたのか、わたしには全然わからない。
だけど、あれは確実にみのりちゃんだった。
わたしの知らない、みのりちゃんだったんだ――
☆ ☆ ☆
その後。
わたしは一人で帰れると言ったけど、霜ちゃんは心配だからと家まで送ってくれると言った。
そして帰りの電車の中で、わたしはふと疑問に思ったことを口に出す。
「そういえば、霜ちゃんはなんであそこにいたの? わたしたちの住んでいるとこから、ちょっと離れてるのに」
「あの近くにいいブティックがあるんだ。『Brush up』っていう、ちょっと遠いし少し目立ちにくいけど、結構穴場でね。それなりの価格で可愛い服が買える。知り合いとも遭遇しないし、通販も受け付けてるというじゃないか。暇さえあれば通ってるよ」
「あぁ……」
前に、みのりちゃんと一緒に行った服屋さんだ。
まさかあのお店を、霜ちゃんが行き着けにしてただなんてまったく思わなかった。
……みのりちゃん。
「詳しいことは明日聞くよ。今日はもう休んだ方がいい」
「…………」
「その間に、ゆっくり飲み込んだらいい。君にとっては簡単に受け入れられないことかもしれないけど、ありのままの現実を見るんだ。そうなければ、なにも進展しないし、なにも解決しない」
「……うん」
それから、沈黙の時間だった。ガタン、ゴトンと、電車の揺れる音だけが響く。
ありのままの現実を見る。
あれが、みのりちゃんの真実。
最初はただただ混乱して、困惑して、戸惑っていた。
だけど頭が少しずつ冷えてきて、状況を認識して、わかった。
認めたくないんだ、みのりちゃんのことを。
あんなことをするみのりちゃんを。わたしの知らないみのりちゃんのことを。
信じたくないんだ、現実を。
酷い現実逃避だけど、そうわかっていても、どうしようもない。
どうしたらいいのか、わからなかった。
「……本当に彼女のことを思うのであれば、君は自分がなにができるのか、考えるべきだよ」
すると、霜ちゃんが、ふとそんなことを言った。
どことなく、聞き覚えのある言葉だった。
「……その言葉って……」
「あの日あの時、あの子に言われた言葉だよ。ボクのアレンジつきだけど、本意は変わってない」
恋ちゃんが霜ちゃんに言った言葉。
本当に好きなら、好きな人のために自分がなにができるのかを考えるべき。
正直、恋ちゃんの口からあんな言葉が出るとは思わなかったけど、今のわたしにも、その言葉は突き刺さる。
でもその言葉の矢は、曲がったように、まっすぐ入らない。
どこか、屈折している。
「ボクはもう、リンちゃんのためにできることはないけど……君ならできる。彼女との関係をどう清算するのかは君次第だけど、決着をつけるチャンスがあるんだ。うやむやのまま終わらせたいならそうしてもいいけど、自分が嫌だと思う結果にならないように努めるべきだよ」
「う、うん……」
「とりあえず今日はなにも聞かない。君の中でも整理がついてないみたいだし、また明日、皆で集まろう。時間は短いけど、その間にできる限りの整理をつけるんだ」
「わかったよ……その、ありがとう、霜ちゃん」
「いいさ、気にしなくても。君もボクのために尽力してくれた一人だし……その、なんだ」
少し照れたように、霜ちゃんは車窓の外に視線を逸らしながら、言った。
「ボクらは、友達、だからね」
「……友達」
ありふれた普通の言葉。
だけども、今のわたしには、どこか虚しく響くのだった。
☆ ☆ ☆
「――さて、第二プランを考えないといけないね」
「そうだな。恐らく最も成功率が高かったと思われる前回の作戦は失敗したからな」
「あなたが来なかったのも一因だと、私は思うな」
「もしやオレ様は、非難を浴びているのか?」
「浴びないと思う?」
「オレ様の登場は計画表には記載されていなかったはずなのだがな。それに、オレ様は確かに貴様らとは違うが、超人ではない。できないこともある」
「私は小鈴ちゃんを取り戻す、あなたは聖なる獣とやらを手に入れる。そのためには、私たちは結果的に同じ場所にいるべきだったんじゃないかな?」
「しかしあの場に聖獣は現れなかったそうではないか」
「小鈴ちゃんを確保すれば、誘き出せたかもしれないのに?」
「む? ほぅ……?」
「なに?」
「異常な友愛だと思っていたが、なかなかどうして残酷な回路も持ち合わせているのだな、と思ってな」
「……皮肉のつもり?」
「ただの感想だよ。だがしかし、貴様がオレ様との契約をキッチリと遂行し、そのために尽力しようという意志には感服した。気高き志に敬意を表し、ここはオレ様が折れておこう」
「慇懃無礼って感じに見えるけどね。で? あなたは、私になにをしてくれるの?」
「そうだな。オレ様が貴様に授けられるものなど、ほんの僅かしかない。貴様に託した裏切りの力も、オレ様ではなくオレ様の同胞が代用したものに過ぎんしな。ゆえにオレ様は、物質的なものではなく、契約の履行という点において、物質ならざる価値を提供する他ない」
「回りくどい。結局、あなたはなにが言いたいの?」
「あまりにもありきたりな形ゆえに、少しばかり大仰に気取ってみただけだ。なに、要は貴様の“お願い”をひとつだけ聞いてやる、というだけだよ。オレ様のできる範疇でだがな」
「お願い、ねぇ……ま、それじゃあ期待しない程度で考えておくよ」
「ふっ、オレ様を前にして物怖じしないその不遜な態度も、感服に値するな」
「手を貸してくれたことには感謝してるけど、あなたの言葉をすべて信じたわけじゃないからね。結局あなたが何者なのかもよくわからないし」
「少なくとも、貴様らとは違う部類の存在だということは示しておこう。何分、オレ様たちとて、オレ様たちをどう定義し、どのように説明するべきか悩ましいのでな」
「まあ……あなたが何者かなんて、どうでもいいけどね。私の目的が果たされるのなら」
「あぁ、それでいい。オレ様のような、この世における最底辺の生物に縋った時点で、貴様の選択肢などないのだから。破滅を謳歌しながら、地獄の底で這いずりまわり、己が欲望を満たすべく手を伸ばすがいいさ」
「……それで、どうするの?」
「どうしたものか。詳しくは伏せるが、オレ様も、あまり大っぴらに貴様に助力できるわけでもないからな」
「なんで?」
「詳しくは伏せると言っただろう。まあ、強いて言うのであれば、あまりオレ様たちの存在が明るみに出ても困る、といったところだ」
「……警察に追われてるの?」
「まさか。健全な一般市民を堂々と名乗れる身分に決まっている」
「なんか言ってることが支離滅裂だなぁ。狂ってるっていうか、頭イカレてんじゃないの?」
「どのような見方をするかは貴様次第だ。イカレているのは否定はせんがね」
「押しても引いても手応えないこの感じ、喋ってるだけでイライラするね……」
「おっと、それはすまない、しかしこれは
「別にいいよ。気にしないわけじゃないけど、言っても仕方ないし、なによりどうでもいい。それより、今後どうするかを考えないと」
「そうだな、そうであろうな。オレ様も、貴様の抱えているものなんぞに興味はない。お互い、知らなくていいことは知らないようにすべきだろう」
「すべき、なんて押し付けがましいルールを提示しないでほしいけど、癪なことに今回は同意するよ。あなたは、私の興味の対象じゃないから」
「では、お互い興味の対象に近づくために、頭を捻り出すか」
「……そうだね」
☆ ☆ ☆
「――成程」
翌日、日曜日。
近くのファミリーレストランで、わたしと、霜ちゃん。そして恋ちゃんにユーちゃんも呼んで、四人で集まった。
話の内容は当然、昨日のみのりちゃんのこと。
わたしは昨日、みのりちゃんとお出かけしたこと。パン屋さんでおいしいパンを食べたことや、その後、みのりちゃんデュエマをしたこと。そして、途中でクリーチャーが実体化していたことなど、すべてみんなに話した。
昨日のうちに整理なんて全然つかなかったけど、話しているうちに、ちょっとずつ自覚できた気がする。
さらに霜ちゃんの話も合わせると、みのりちゃんは霜ちゃんを避けるように、その場を去ったという。
「正直、わからないことだらけだね」
「でも……事実は、はっきりしてる……」
「? どういうことです?」
「こすずは、嵌められた……その、みのりこ、とかいうのに……」
「…………」
押し黙った。
確かに、恋ちゃんの言う通りかもしれない。
みのりちゃんがわたしとデュエマして、倒すことが目的なんだとしたら、わたしはみのりちゃんの罠に嵌められたことになる。
「でも、デュエマをするためにお出かけの約束なんて、するんでしょうか?」
「こすずを……油断させる、ため、とか……」
「普通にデュエマを持ちかけるだけで、十分だと思うけどな。だって彼女と小鈴は、知らない仲じゃないんだろう?」
「う、うん。みのりちゃんは、中学に入って最初に仲良くなった子だし……」
「教室でも、お昼食べたり、お話したり、一緒ですもんね!」
「とはいえ、どんな意図があったかは読めないが、結果だけを見れば外出の約束も計略の一つと見るのが自然だと思う。小鈴、君は信じたくないかもしれないけど、君の話から鑑みるに、そういう結論が出てしまうのは仕方ないことだと思う」
「……だけど、こんなものは……ただの結論でしかない」
「小鈴さんは、実子さんと仲直りしたいんですよね?」
「……そう、だと思う……」
自分で言っててなぜか自信が持てないけど。
みのりちゃんがなにを考えて、ああなってしまったのか、わたしにはわからない。
少なくとも、その真意を知りたい。わたしは、そう考えてる。
「問題は、まともに話ができるかってところだね。彼女の目的は不明だけど、一度は牙を剥いた相手だ。また、なんらかの方法で襲ってくる可能性がある」
「……倒すだけなら、私が、出てもいいけど……」
三人の目線が、わたしに向く。
「……そういう問題じゃないからね」
「小鈴さんが実子さんと仲直りするためには、小鈴さんが実子さんと戦わなきゃいけないって、ユーちゃん思います。小鈴さんが戦わないと、ダメなんです」
「ん……まあ、同感……これは、私たちの問題じゃなくて、こすずの問題……」
「わたしの、問題……」
確かにその通りだ。
霜ちゃんに助けてもらったし、恋ちゃんやユーちゃんも相談に乗ってくれてるけど、これは、わたしの問題なんだ。
わたしと、みのりちゃんの間で起こった問題。
だけど、
「……でも、私たちも……ただ黙ってる、つもり、ないから……」
「そうだね。ボクらも君の問題が解決できるように、できる限りの助力はするよ」
「小鈴さんは、ユーちゃんたちを助けてくれました。そうでなくっても、小鈴さんはユーちゃんたちのお友達ですから!」
「みんな……」
一切表情を変えないけれど、恋ちゃんはしっかりとわたしの眼を見つめてくれる。
男の子も女の子も関係なく、霜ちゃんはわたしにその手を差し伸べてくれる。
無邪気な笑顔のまま、ユーちゃんはわたしの手を握り締めてくれる。
わたしには、これだけの仲間が、友達がいる。
力になってくれる、友達が。
「……ありがとう」
でも、なんでだろう。
これだけ心強い味方がいるのに、わたしの心は晴れない。
まだ、なにか薄暗いものが渦巻いているような。
満たされない。埋まらない。空っぽな空洞があるような感覚が残っている。
「さしあたっては、デッキをどうにかしないといけないね。小鈴は決して弱くはないけど、デッキパワーは初心者レベルなわけだし」
「……相手のデッキは、どうだった……?」
「え、えっと、確か火と自然のデッキで、侵略とか、革命チェンジとかって能力で、大きなクリーチャーがたくさん出て来た……かな?」
「侵略に革命チェンジか。踏み倒しを連打するタイプのビートダウンかな」
「踏み倒しなら……メタは張りやすい……」
「あの、ごめん。話がよく見えないんだけど……?」
「彼女がまた君を狙ってくるなら、次こそは負けられないだろう。だから、対彼女用にデッキを改造するんだよ」
「どんなデッキにも、弱点はある……どんなカードにも、対策カードは存在する……そういったカードを突っ込んで、デッキを組む……」
つまり、みのりちゃんのデッキに対して強いカードを入れて、みのりちゃんに強いデッキを作るってことなのかな。
なんかちょっとずるい気がするけど、デュエマはそういうもの、と恋ちゃんと霜ちゃんに説き伏せられた。
「もっとも、相手も同じデッキを使ってくるとは限らないから、諸刃の剣ではあるけどね。ただ、今の君なら、下手に広い範囲をカバーしようとするより、一点特化でメタを張るほうが有効だと思うんだ」
「で、でも、わたし、そんなにカード持ってないよ」
「だったら、ユーちゃんたちのカードも使ってください!」
「え?」
「みんなで考えて、みんなのカードで、デッキを組むんです! そうすれば、絶対に強いデッキになるはずですよ!」
ユーちゃんはそう提案する。
みんなで一緒にデッキを作る。
みんなのカードで、一つのデッキを作る。
わたしのため。みのりちゃんに、勝つために。
「その理屈はわからないけど、カード資産の問題は解決されるね」
「でも、みんなに悪いよ」
「……少し貸すくらいなら、まったく問題はない……よくあること……」
「そうですよ! それに、お友達の小鈴さんのためです! このくらい、当然です!」
みんな、口々にそう言ってくれる。
カードはデュエリストの魂、って誰かが言ってた。
わたしなんかのために、なにが起こるかわからない状況なのに、みんなは大事なカードをわたしに託してくれる。
じんわりと、なにかが込み上げてきそうだった。
すごく……あったかい。
でも今はまだ、ダメなの。ここで出しちゃったら、ダメ。
この気持ちが溢れてしまわないように、抑え込むように、胸に手を当てる。
「どうしたんですか小鈴さん? 胸に手を当てて……またおっきくなりましたか?」
「ち、違うよ!? もう、いきなり変なこと言わないでよ、みのりちゃんじゃないん、だか、ら……?」
……あ、そうか。
そういうことだったんだ。
「小鈴さん?」
「……ううん、大丈夫だよ、ユーちゃん」
ちょっとだけ、わかったかもしれない。
みんながいるのに、みんなじゃないみたいな、このさびしい感覚。
この、正体が。
「待ってて、みのりちゃん――」
☆ ☆ ☆
わたしがみのりちゃんと初めて出会ったのは、入学したばかりの、中学一年生の春。つい数ヶ月前のことです。
特別なことなんてまったくなく、劇的でもない、平々凡々な、なんということもない出会いでした。
ファーストコンタクトは、最初の席決めの時。たまたまみのりちゃんと隣の席になりました。
でもその時は、特になにもなかった。軽くあいさつしたくらいで、お互いのことを――少なくともわたしはみのりちゃんのことを――ちゃんと認識していませんでした。
そもそも、わたしたちの出会いというけども、今にして思えば、あれを“わたしたちの”と称するのは、ちょっと違うかもしれない。
わたしはなにもしていない。弱いわたしには、なにかをする力も、勇気も、なかった。
だから彼女が――みのりちゃんが、わたしに会いに来てくれたんだ
「なに読んでるの?」
そう、声をかけてくれた。
ただの興味本位の言葉だったのかもしれないし、気まぐれかもしれない。大した意味なんてなかったのかもしれない。
あの時のわたしも、その言葉にそれほどの意味を見出していなかった。
だけど今のわたしなら、はっきりと言える。
あの最初の言葉のお陰で、わたしは素敵な出会いができた。
最高の友達ができた。楽しい時間が生まれた。
あの瞬間は間違いなく、わたしにとって意味のあるワンシーンだった。
……本当に嬉しかった。
本という空想の世界は、面白おかしく彩られている。幼いころからその色彩を見てきたわたしにとって、外の世界は無色透明な、なにもない世界に見えた。
けれど、みのりちゃんがいたから、わたしは外の世界にも色があって、なにもないわけじゃないってことを知ることができた。
みのりちゃんは、わたしの背中を押してくれる。わたしの手を引いてくれる。先に進ませてくれる。
小さな炎をさらに燃やすための薪のように、みのりちゃんはわたしに勇気をくれた。
全部わかった。思い出した。再認識した。
みのりちゃんがなにを考えているのか。なにを思っているのか。なにに、苦しんでいるのか。
わたしなんかの考えが正しいかはわからないし、みのりちゃんの抱えているものはもっと複雑なのかもしれないけど。
でも、それでも、わたしにはできることがあるはず。
わたしだって、手を差し伸べて、引っ張らなくちゃいけない。
みのりちゃんが燃やしてくれた炎で、暗がりを照らさないといけない。
やっぱり、わたし一人の力じゃ頼りないし、弱いけど……でも、大丈夫。
わたしには“みんな”がいるから――
☆ ☆ ☆
[From:小鈴ちゃん
To:みのりちゃん]
件名:大切なお話があります
放課後、おととい一緒に行った公園で待ってます]
昼過ぎくらいに、そんなメールが来た。
一昨日の件から二日経った。昨日はなにもせず、今日も学校は仮病を使ってサボった。ズル休みなんて初めてだ。
試験前だけど、今は、小鈴ちゃんには会えなかった。小鈴ちゃんも困惑してるだろうし、いつも通り接することなんてできないと思ったからだ。
でも、本当にそうなのかな。
学校で小鈴ちゃんと会っても、そこに私がいるのかどうか。私はいるべきなのか。
それがわからないだけかもしれなかった。
いや、そうじゃないと思ってるから、なんだろうな。
「別にいいけどね、それでも」
私には私の世界がある。誰もが持ってる、自分の世界。
自分の望むような世界を創るために、私はできることを、したいことを、するだけだ。
私は多くは望まない。人間は矮小だ。人ひとりが持てる幸せも、愛情も、限られている。
だから私は、たった一つの、小さな幸せを求めて、たった一つのものに愛情を注ぐ。
私の世界に、余計なものはいらない。ただ一つ、大切なものがあればそれでいい。
ただそれだけで、私の中の空虚さは、欠けてしまった空洞は、埋められる。
適当な服を着て、雑に身なりを整えて、デッキを持って、家を出る。
一昨日、小鈴ちゃんと行った自然公園。
時間は午後三時過ぎ。
待っています、の文面通り、そこに待ち構えていた。
「……小鈴ちゃん」
「みのりちゃん……」
可愛い、とふと零しそうになる。
まるで魔法少女だ。
見たこともないような、フリフリの服。白とピンクを基調に、フリルをふんだんに使って、なにかのコスプレみたいに見える。普段の彼女なら、恥ずかしがって絶対に着ないような服だ。
だけど今の彼女は、恥じらいを一切見せていない。
まだ少し揺れているけど、なにかを決意したような、彼女らしからぬ意志を持った眼で、わたしを見つめている。
「……待ってたよ」
「じゃあ、お待たせだね。だけど、こんなに大人数で待ってるとは、思わなかったな」
視線を彷徨わせる。
学校帰りなのだろう。制服のままの女の子――男の子も混じってるけど――が、小鈴ちゃんの後ろに並んでいる。
小鈴ちゃんだけなら良かったものの、他の子も連れてきちゃったか。
なんか、つまらないな。
「一人で来ると思ってたんだけど」
「わたしも、最初はそうしようと思ってた……でも、わたし一人じゃちっぽけで、なにもできなくて、みんながいないとダメダメで……」
「だから“お友達”と一緒ってわけか。理に敵ってるし、小鈴ちゃんらしいっちゃらしいのかな」
「うん、だけど、それだけじゃないよ」
「……?」
「恋ちゃん、ユーちゃん、霜ちゃん……わたしの“友達”。“わたしたち”の問題を解決するなら、“みんな”揃ってるべきじゃないかって、わたしは考えたの」
「…………」
そっか。
小鈴ちゃんは、そう考えてるんだ。
だったら、話は早い。
最初から、面倒な計画なんて立てる必要、なかったんだ。
「……わかったよ、小鈴ちゃん」
「みのりちゃん……」
「小鈴ちゃんがあの頃の小鈴ちゃんに戻ってくれそうなら、わたしも“あの人”の言うようなことはしないつもりだったけど……それは、無理かも」
ポケットの中に手を突っ込む。
昨日、中身を弄ったデッキ。ケースから、四十枚のカードの束を取り出す。
「一度目は単なる奇襲。ある種の意思表示でしかない。だけど二度目は――本気で潰す」
無理やりでも、強引でも、小鈴ちゃんが拒絶しようとも。
なにがなんでも、あなたを奪うよ。小鈴ちゃん。
(あぁ、結局……裏切っちゃいそうな気がするな)
小鈴ちゃんの気持ちを。
でも、自分は裏切れない。私の、この気持ちは。この衝動は。
胸の内が、物凄く熱い。なのに、どこか虚無感が漂う。不思議で、歪で、凄まじく気持ち悪い感覚。
不愉快だ。あまりにも不快だ。
その不快感を払拭したくて、吐きそうなほどの熱を振り払いたくて。
私は、小鈴ちゃんの前に立つ。
「みのりちゃん……!」
小鈴ちゃんも同じように、手にデッキを持っていた。
一昨日は不意打ちみたいな形だったけど、今は違う。
こうして呼び出した小鈴ちゃんも、戦う意志を見せている。
それはつまり、
(私と小鈴ちゃんの、初めてのケンカ……なのかな?)
そう呼ぶには、気分が沈みすぎているけれど。
気分としては、そんな感覚が近い気がする。
「じゃあ、小鈴ちゃん」
「うん、みのりちゃん」
始めようか。
私の世界を賭けた、一世一代の大ゲンカを。
☆ ☆ ☆
「わたしのターン。《天使と悪魔の墳墓》をチャージして、2マナで《連唱 ハルカス・ドロー》を唱えるよ。一枚ドローして、ターン終了」
小鈴ちゃん先攻の3ターン目。小鈴ちゃんは軽いドロースペルで手札を整えている。
ただそれだけならなんてことのない光景だけど、この場合重要なのは、相手が小鈴ちゃんであること。そして、彼女のゾーンだ。
(マナに見えるのは《牢獄》に《伝説の秘法 超動》、そして《墳墓》……粗が目立つけど、まあ普通にボルコンっぽいね)
今まで単色デッキだったのが、急に四色になったこと。そしてマナ基盤としてもよく使われる《牢獄》や、強烈な効果を持つメタカードの《墳墓》。さらに超次元ゾーンにまでカードが見える。
これはボルコン以外には考えられない。
(ボルコンはその場その場の判断が重要で、扱いが難しいコントロールデッキ……まだまだ全然小鈴ちゃんに使いこなせるとは思えないけど……)
まあ、小鈴ちゃんは頭いいし、飲み込みも早いから、効率的なカードの動かし方はできるだろうけど、如何せん知識が足りない。
次になにをしてくるか、なにが待ってるか。相手の戦術を見極めて対応する。そういう、“知識”と“経験”に基づいた判断は難しいはず。
現に、私のデッキにガン刺さりな《墳墓》をマナに埋めちゃってるし。二枚以上積んでいる可能性もあるけど、見るからにハイランダー気味な構築っぽいから、頭の隅には置いておくけど、過剰な警戒はしない。
ボルコンはとにかく豊富なメタカードで、あらゆる戦術に対応してくる。
だったら対応される前に、全力でこっちの勝ち筋を叩きつけようか。
「……私のターン。3マナで《龍友伝承 コッコ・ゲット》を召喚するよ。ターン終了」
ターン3
小鈴
場:なし
盾:5
マナ:3
手札:4
墓地:1
山札:27
実子
場:《コッコ・ゲット》
盾:5
マナ:3
手札:4
墓地:0
山札:27
「わたしのターン。《シド》をチャージして……これかな? 2マナで《制御の翼 オリオティス》を召喚だよ!」
「《オリオティス》……!」
嫌なカードが出て来た。
最高に嫌なタイミングだ。
(困った……これじゃあ《リュウセイ・ジ・アース》が出せない……)
《オリオティス》は、いわゆる踏み倒しメタとなるカードの一種だけど、他の踏み倒しメタとは性質がちょっと違う。
というのも、《オリオティス》が規制するのは、本来のコストを払わず出るカード。詳しく言うなら、自分のマナゾーンにあるカード枚数より、コストの大きなクリーチャーを出した時、そのクリーチャーは山札の下に送られる。
だから、踏み倒したとしても、マナゾーンのカード枚数が多ければ問題ないけど、マナゾーンのカードが少ない時は、踏み倒してなくてもコスト軽減で出した場合も規制される。
前に使ったのはマナブーストして《ギョギョラス》と《ドギラゴン剣》を発射するデッキだったけど、このデッキはコスト軽減で侵略や革命チェンジに繋げるデッキ。《オリオティス》は致命的に刺さる。
《オリオティス》の規制から抜け出すには、マナを溜めるしかない。だったら……
「……《コッコ・ゲット》でコストを2軽減。4マナで《リュウセイ・ジ・アース》を召喚!」
「あ……《オリオティス》の能力だよっ! みのりちゃんのマナゾーンにあるカードの枚数より、コストの大きいクリーチャーが出たから、山札の下に戻して!」
「うん、戻すよ。でも、除去されても《リュウセイ・ジ・アース》の能力は使えるから、こっちを先に解決するよ。トップを見て、マナに置く」
手札に加えるつもりはない。どんなカードが捲れても、即座にマナに落とす。
これで私のマナは5マナ。次のターンには6マナだ。
やっぱりこういうコントロールはやりにくい。でも、多少無理してでも、ここはマナを伸ばす。
《ギョギョラス》や《ドギラゴン剣》の破壊力を叩きつければ、速度の遅いボルコンじゃ対応しきれないはずだから。
ターン4
小鈴
場:《オリオティス》
盾:5
マナ:4
手札:3
墓地:1
山札:26
実子
場:《コッコ・ゲット》
盾:5
マナ:5
手札:3
墓地:0
山札:26
「山札の下に戻っちゃうのに、マナを増やしてきた……」
唖然とする小鈴ちゃん。この動きは想定してなかったのかな?
「《オリオティス》は過信しない方がいいって、こういうことだったんだね、恋ちゃん……わたしのターン。早く次の手を打たないと……5マナで《No Data》を召喚! ターン終了する時、手札とシールドを入れかえるよ!」
(《No Data》? ドローソースかな……厄介だけど、先に《オリオティス》を対処しないと)
ボルコンにしては珍しいカードだ。
即効性のないドローソース。枚数的なアドバンテージに繋がらないシールド交換。だけど、能力自体は癖がなくて堅実。場に維持できれば、かなり大きな恩恵をもたらしてくれるのは確かだ。
私のデッキは結局殴るデッキだ。《単騎連射 マグナム》はいるけど、呪文は防げない。トリガーを仕込まれるのは困るけど、それよりも踏み倒しを封じられる方が困る。
ここは、もっと加速しないと。
「《リュウセイ・ジ・アース》召喚! トップを見て、マナへ置くよ。さらに《リュウセイ・ジ・アース》で攻撃する時に、革命チェンジ! 《蒼き団長 ドギラゴン剣》! ファイナル革命で手札の《リュウセイ・ジ・アース》を再びバトルゾーンへ! トップを見て、マナゾーンへ!」
「! 《オリオティス》の能力発動!」
「《ドギラゴン剣》登場時点でトリガーしてるからね……仕方ないね」
連続で《リュウセイ・ジ・アース》を出して、マナを8マナまで伸ばしたけど、《ドギラゴン剣》が革命チェンジして、バトルゾーンに出た瞬間、《オリオティス》の能力も同時に発動している。
《ドギラゴン剣》が場に出た瞬間はまだ7マナだったから、私の《ドギラゴン剣》は山札の下に戻される。
でもこれで、私のマナは8マナ。もう《オリオティス》の規制はほとんど受けない。
あとは、侵略と革命の力で、暴力的に押し潰すだけだ――
☆ ☆ ☆
ターン5
小鈴
場:《オリオティス》《No Data》
盾:5
マナ:5
手札:2
墓地:1
山札:25
実子
場:《コッコ・ゲット》《リュウセイ・ジ・アース》
盾:5
マナ:8
手札:1
墓地:0
山札:24
正直、かなりピンチだよ……
みのりちゃんは本当に強い。恋ちゃん、ユーちゃん、霜ちゃん……みんなの知恵と力を合わせて組んだデッキだけど、攻撃を防ぐので精いっぱいだよ。
《オリオティス》の能力も、あそこまでマナが増えたらもう期待できないし、手札には他に侵略や革命チェンジするクリーチャーを持ってるかもしれない。
だから、あの《リュウセイ・ジ・アース》をなんとかしたいけど、手札になんとかできそうなカードはない。
「だったら、このドローに賭けるしか……わたしのターン! 《No Data》の能力でドローしてから、もう一枚ドロー!」
霜ちゃんから借りた《No Data》。シールドにトリガーを仕込めるだけじゃなくて、多くドローして手札も増やせるから、凄く強い。
「よしっ。3マナで呪文《
「っ!」
「さらに《ディオーネ》を召喚! ターン終了する時に、手札とシールドを入れかえて、ターン終了だよ!」
「スピードアタッカーまで止めてきた……!」
《ディオーネ》はスピードアタッカー能力を無力化するブロッカー。
この能力なら、《リュウセイ・ジ・アース》は出たターンに攻撃して革命チェンジできないし、《ドギラゴン剣》や《スクランブル・チェンジ》で付与したスピードアタッカーも無効化できる。
霜ちゃんの提案で入れたカード。これで攻撃を止められたらいいけど、
「だったら直接葬る……《龍の極限 ドギラゴールデン》を召喚! 《ディオーネ》をマナ送りだよ!」
「も、もうやられちゃうの!?」
全然止めれてない。せっかく霜ちゃんから借りたのに……
で、でも、このターンの革命チェンジは防げたから、よかった……のかもしれない。
みのりちゃんのデッキは、本当に攻撃力が高いし、速い。いや、爆発力とか、瞬発力がある、って言うべきなのかな。
一度クリーチャーが出たら、即座に襲い掛かってくる。しかもその一撃が、とにかく重い。
(全部、恋ちゃんたちが言ってた通りだ……)
みのりちゃんの動きも、その多くが言われたことと合致している。
スッと、目を閉じた。
思い返す。あの時、恋ちゃんに言われたことを――
☆ ☆ ☆
「
「確かに、わたしよりもずっと早くマナが溜まってたし、一瞬で大きなクリーチャーがたくさんでてきた……」
「でも、攻撃に特化しすぎてるから、妨害には弱い……まずは動きを止めて、守りを固めて……その隙に、ディスアドを押し付ける……」
「シールドなくなっちゃったら大変だもんね」
「とりあえず、《オリオティス》は必須かも……《メンデルスゾーン》とか《スクランブル・チェンジ》あるなら、呪文メタも有効……ブロッカーも入れておくといい……」
「い、一度にそんなに言われても……!」
「でも……守ってばっかじゃ、勝てない……守りを意識……でも、攻め時は、ずっと狙わないと……ダメ」
「……うん。やってみるよ」
☆ ☆ ☆
ターン6
小鈴
場:《オリオティス》《No Data》
盾:5
マナ:7
手札:1
墓地:2
山札:23
実子
場:《コッコ・ゲット》《ドギラゴールデン》
盾:6
マナ:8
手札:1
墓地:0
山札:23
みのりちゃんのデッキの仕組みや、キーカード、その特徴、性質……全部、恋ちゃんや霜ちゃんが教えてくれた。
その対策になるカードも、みんなから借りて、なんとかデッキを組んだ。
「《No Data》の能力で二枚ドロー……!」
ユーちゃんが教えてくれた。わたしは、一人で戦ってるんじゃないって。
友達が、みんなが、支えてくれた。一緒にいてくれて、笑って、遊んで、助けてくれた。
だから、
「恋ちゃん……よし」
このデッキには、みんなの力が詰まってるんだ。
「動きを止めるよ。6マナで、《オリオティス》を進化!」
「え……進化?」
恋ちゃん。
いつも静かで無表情だけど、実は凄く可愛くて感情豊かな子だった。
恋ちゃんはわたしと初めてデュエマをしてくれた人。その中で、戦いながらわたしにデュエマを教えてくれた。
ブロッカーを並べたり、S・トリガーをたくさん使ったり、シールドを増やしたりして、わたしのクリーチャーや、わたし自身の動きさえも封じる戦略を見せてくれた。
その力――借りるよ!
「これが、恋ちゃんから借りた力――《聖霊龍王 ミラクルスター》!」
わたしが繰り出したカードを見て、みのりちゃんは、明らかに目を見開いて、驚愕していた。
「!? 《ミラクルスター》!?」
「《ミラクルスター》の能力で《コッコ・ゲット》と《ドギラゴールデン》をタップ! 次のターン、アンタップできないよ! そして、《ミラクルスター》で《コッコ・ゲット》を攻撃!」
光文明が得意とする、相手をタップさせて、攻撃する。タップキルっていうんだっけ。
恋ちゃんから借りた、恋ちゃんの切り札《ミラクルスター》。
みのりちゃんの攻撃を止めつつ、クリーチャーも破壊できたよ
「ターン終了!」
「……まさか《ミラクルスター》なんてカードが入ってるなんて……ボルコンにしては変だと思ったけど、ますます変だね……」
さっきまで驚いた表情をしていたみのりちゃんだけど、もう落ち着きを取り戻していた。
「ここまでで《ボルメテウス》は見えてないけど……なんにしても、その高パワー三打点は無視できないね。こうなったら、強引すぎるくらいに殴る! 《ドギラゴン剣》を召喚!」
「っ! そのまま……!?」
「《ドギラゴン剣》は自身の能力でスピードアタッカーになる! 《ミラクルスター》を攻撃! 破壊するよ!」
恋ちゃんの《ミラクルスター》が、《ドギラゴン剣》に切り裂かれた。
革命チェンジで出すクリーチャーとばかり思ってたけど、普通にも出せるんだ……
「ターン終了」
☆ ☆ ☆
「相手の邪魔をすると、自分のやりたいことがやりやすい、らしいですよ、小鈴さん!」
「相手の邪魔をする……手札破壊、とかかな」
「ユーちゃんも使ってた《解体人形ジェニー》が強いですよ! 手札を見て、一番出されたくないカードを捨てられます。マッドネス? には、気をつけないとですけど。それから《カレイコ》とか《タイム・トリッパー》とかも、マナが増やせなかったり、使いづらくなるので、
「時間を稼ぐ、かな? そっか。みのりちゃんのデッキ、切り札が出るの早かったもんね。そういうのも大事なんだ」
「でも、本当にダメだったときは……破壊しちゃいましょう!」
「あ、やっぱりそうなるんだね」
「Ja! やりたいことを邪魔されちゃうこともありますけど、それを振り払って、それでも先に進めば、きっといいことがあります!」
「……そっか。わかった、わたし、頑張るよ」
☆ ☆ ☆
ターン7
小鈴
場:《No Data》
盾:5
マナ:8
手札:1
墓地:4
山札:21
実子
場:《ドギラゴールデン》《ドギラゴン剣》
盾:6
マナ:8
手札:1
墓地:1
山札:22
「まずい……どうしよう……とりあえず二枚ドロー……」
このまま《ミラクルスター》でどうにかしようかと思ったけど、一瞬で散ってしまった。
みのりちゃんの場には《ドギラゴールデン》と《ドギラゴン剣》。パワーが高いTブレイカーが二体。
流石に、放置するわけにはいかない。
「! ユーちゃん……! これなら……マナチャージして《停滞の影タイム・トリッパー》を召喚!」
「今さらそんなクリーチャー出しても、意味ないよ」
「そんなことない! これは、ユーちゃんが貸してくれたカード……そして、これも! どうしようもなくなったら、破壊する! 6マナで《タイム・トリッパー》を進化!」
ユーちゃん。
いつも元気で天真爛漫で、その明るさはわたしの力にもなった。
ユーちゃんはわたしに『Wonder Land』を教えてくれた。わたしのデッキが強くなったのは、ユーちゃんが一緒に戦ってくれたから。
クリーチャーを破壊したり、手札を捨てさせられたり、墓地を自由自在に操って、デュエマのゾーンの重要性、カードの存在する場所には意味があることを教えてくれた。
今だけ一緒に――戦って!
「これが、ユーちゃんから借りた力――《悪魔龍王 キラー・ザ・キル》!」
一度目の《ミラクルスター》を経験しているからか、みのりちゃんの驚きは、それほど大きくはなかったけど。
それでも、困惑を隠し切れていない。
「今度は《キラー・ザ・キル》……!」
「《キラー・ザ・キル》能力で《ドギラゴン剣》を破壊だよ!」
闇文明が得意とするのは、破壊。
ユーちゃんから借りた、ユーちゃんの切り札《キラー・ザ・キル》。
単純だけど、とにかく強い。パワーもコストも文明も種族も、なにも関係なく、問答無用で《ドギラゴン剣》を破壊する。
「そして《キラー・ザ・キル》で攻撃! シールドをTブレイク!」
「トリガーはないけど……ボルコンで痺れを切らして殴ったら負けだよ、小鈴ちゃん」
みのりちゃんはブレイクされたシールド三枚を、手札にする。
わかってる。恋ちゃんや霜ちゃんも言ってた。このデッキで、安易にシールドを攻撃すると、自分の首を絞めるって。
だけど、これでいいんだ。
わたしはみんなと一緒に戦いたかった。みんなが力を貸してくれたんだから、その力を、カードを、使わない理由はない。
「私のターン! 3マナで《スクランブル・チェンジ》! コスト軽減して、2マナで《超DXブリキン将軍》を召喚! 能力で山札を見て……《ドギラゴン剣》を手札に!」
「! 来る……!」
《スクランブル・チェンジ》の効果で、《ブリキン将軍》はスピードアタッカーになってる。そして《ブリキン将軍》自身が、火と自然のドラゴンだから、《ドギラゴン剣》が革命チェンジできる。
みのりちゃんの場には《ドギラゴールデン》がいて、《ブリキン将軍》が《ドギラゴン剣》になれば、わたしのシールドは全部ブレイクされる。さらに《ドギラゴン剣》のファイナル革命で、少なくとも《ブリキン将軍》は出せるから、とどめまで行っちゃう。
「早くとどめを刺したいけど、トリガーが怖いね……まずは盤面を掃除しようか。《ドギラゴールデン》で《キラー・ザ・キル》を攻撃!」
「うっ……!」
《ドギラゴールデン》が発射する銃弾に撃ち抜かれて、ユーちゃんの《キラー・ザ・キル》も破壊されてしまった。
「さらにスピードアタッカーを得た《ブリキン将軍》で攻撃! する時に!」
みのりちゃんは手札のカードを一枚抜き取った。
そして、《ブリキン将軍》の上に、覆い被せるように、その身を乗っ取るように、叩きつける。
「
《ブリキン将軍》の鋼鉄の身体が、メキメキと内側から壊れて、砕かれて、そして喰われ、飲まれるように――その巨大な古代の龍は、現れた。
「で、出た……侵略……!」
でも、それだけじゃない。
みのりちゃんはさっき、あのカードを手札に加えてる。
「並びに革命チェンジ! 《蒼き団長 ドギラゴン剣》!」
「くぅ……!」
「まずは《ギョギョラス》の能力! いい加減、その鬱陶しい《No Data》をマナ送りにするよ! そしてそれよりコストの小さいクリーチャー、コスト5未満の《マグナム》を、マナからバトルゾーンに!」
《
自分のターン中に、相手が出すクリーチャーをすべて、場に出させずに破壊してしまうカード。要するにS・トリガーなんかでクリーチャーを出させない能力だ。
「次に《ドギラゴン剣》のファイナル革命発動! 手札の《ブリキン将軍》をバトルゾーンに! 能力で山札を見て……《ドギラゴールデン》を手札に加えるよ!」
今まで抑えてきたみのりちゃんの攻撃が、爆ぜるように放たれる。
前に対戦した時は、怖くなかったけど、怖かった。
だけど今回は、怖いけど、怖くない。
みんながいるから……みんなの力があるから。
「さぁ……《ドギラゴン剣》の攻撃だよ! 仕込んでないところからTブレイク!」
《ドギラゴン剣》が刃を咥えて突撃する。
一瞬のうちに、わたしのシールドが三枚、切り裂かれたけど、
「っ……S・トリガー! 《無法のレイジクリスタル》!」
「呪文か……クリーチャーだったら止められたんだけどね」
「パワー6000以上の《ドギラゴールデン》を手札に戻して、6000以下の《ブリキン将軍》を破壊するよ!」
「追撃ができない……ターン終了だね」
あ、危なかった。
シールド交換してないところを攻撃されたから、ヒヤヒヤしたけど、なんとか攻撃を止められた。
ターン8
小鈴
場:なし
盾:5
マナ:10
手札:2
墓地:7
山札:16
実子
場:《ドギラゴン剣》《マグナム》
盾:3
マナ:7
手札:5
墓地:4
山札:19
シールドブレイクは、余計な手札を相手に与えてしまう。
ユーちゃんと初めてデュエマした時、ユーちゃんが実践してたこと。その後、わたしもなんとなくそれがわかって、たまに意識してたけど、今回のデッキを組む時、改めて恋ちゃんや霜ちゃんに教えられた。
わたしが《キラー・ザ・キル》でシールドブレイクしたのは失敗だったかもしれない。まだ攻撃するべきではなかったかもしれない。
でも、だとしても。
その失敗を挽回するチャンスはある。
「わたしのターン! 《ニコル・ボーラス》を召喚!」
「! 《ボーラス》……そんなカードまで……!」
「《ニコル・ボーラス》の能力発動! みのりちゃん、手札を七枚捨てて!」
登場時、《ニコル・ボーラス》は相手に手札を七枚捨てさせる。
捨てるカードは相手が選ぶけど、七枚も捨てるとなると、ほぼ全部だ。みのりちゃんはシールドブレイクや《ブリキン将軍》で手札を増やしてたけど、それも全部まとめて墓地に送り込める。
「……小鈴ちゃん。不用意なハンデスは身を滅ぼすよ」
みのりちゃんが言う。
そう、わたしは失念してた。
それを逆利用するようなカードも、存在するって。
「マッドネス発動! 《熱血提督 ザーク・タイザー》!」
「!」
そのカードを見た瞬間に、思い出した。
手札から捨てられた時に、場に出るクリーチャーがいるということを。
「相手のカードの効果で捨てられた時、墓地の代わりに場に出るクリーチャーだよ。さらに場に出た時、山札の上から三枚を見て、コマンド・ドラゴンとヒューマノイド爆を手札に加えられる!」
「手札補充……!」
「《ボルシャック・ドギラゴン》と《リュウセイ・ジ・アース》を手札に!」
せっかく手札を捨てさせたのに、回復されてしまった。
これは、まずいかもしれない。
「……ターン終了」
「私のターンだね。決めるよ。《ドギラゴン剣》でTブレイク!」
再び《ドギラゴン剣》が駆け、わたしのシールドを切り裂く。
そのブレイクされた二枚のシールドを見て、わたしは一枚を放った。
「S・トリガー! 《支配のオラクルジュエル》! アンタップしてる《マグナム》を破壊して、他のクリーチャーをタップするよ!」
「また止められた……!」
「もう一枚トリガー! 《埋没のカルマ オリーブオイル》! わたしの墓地のカードを、全部デッキに戻す!」
「粘るね……小鈴ちゃん。ターン終了だよ」
☆ ☆ ☆
「いくら守りを固めたり、相手の妨害をしても、それだけじゃ長くはもたないよ。マナを溜めるにも、カードを使うにも、手札がないと」
「そっか。相手の邪魔をし続けるためにはたくさんカードを使わなきゃいけないから、たくさんカードが必要なんだ」
「ドローには必要なカードを引きいれる目的もあるね。ちょっと重いけど、《No Data》がお勧めだよ。常に手札を多く供給できるし、シールド交換で守りも固められる」
「普通にトリガーを仕込むためにも使えるんだよね。どんなに攻撃してきても、トリガーで反撃できるならいいかも……」
「その考え方は危険だよ。一撃が大きいから、受け身になりすぎちゃいけない。常に先手を打つつもりで妨害しないと。その時々で最適なカードを使うことが大事だ。手札にないなら《クリスタル・メモリー》で必要なカードをピンポイントで引っ張ってきてもいい。トリガー頼みの受動的な対応は最後の手段だ。このことを、しっかり覚えておいて」
「わ、わかった」
「とにかく、あらゆる手を尽くして守り切れ。革命チェンジ主体じゃ、息切れを狙うのは微妙だけど、そこに勝機がある……あぁ、そうだ。君は、君自身を大切にしてくれ。恐らくだが、あの彼女も、君が傷つくのは本意ではないはずだから」
「……うん。ありがとう、霜ちゃん」
☆ ☆ ☆
ターン8
小鈴
場:《ニコル・ボーラス》《オリーブオイル》
盾:0
マナ:10
手札:2
墓地:0
山札:26
実子
場:《ドギラゴン剣》《ザーク・タイザー》
盾:3
マナ:8
手札:2
墓地:9
山札:16
《オラクルジュエル》のお陰でなんとか凌げた。ブロッカーも出せたし、もう少し耐えられるはず。
でも、もう最後の防御手段も使い切ってしまった。
なんとかこの状況を打開しないといけないけど、そのためにはカードが足りない。
守るにも、破壊するにも、そして攻めるにも。
もっと手札がなくちゃ。
そうして、引いた。
「……これに賭けよう。6マナタップして、このクリーチャーを召喚!」
霜ちゃん。
わたしの初めての男の子の友達だけど、それを感じさせないくらい可愛い。
霜ちゃんはわたしにカードどうしが生み出すコンボを見せてくれた。カードは一枚だけじゃ成立しない、組み合わせてこそ強くなるってことに気付かせてくれた。
たくさんカードをドローしたり、シールドにトリガーを仕込んだり、呪文をタダで唱えたり、変幻自在なカードの動き、色んなカードの可能性を示してくれた。
お願い――わたしを助けて!
「これが、霜ちゃんから借りた力――《龍素記号Sb リュウイーソウ》!」
流石に三度目。みのりちゃんの驚きも、困惑も、だいぶ薄らいで、かなり冷静さを保っていた。
「《リュウイーソウ》って、また変なカードが……でも、シールドがないなら、S・バックもできないか」
「さらに呪文《超次元エナジー・ホール》! 一枚ドローして《時空の踊り子マティーニ》《時空の英雄アンタッチャブル》をバトルゾーンに! 《リュウイーソウ》の能力でもう一枚ドロー!」
霜ちゃんはS・バックで呪文をタダで使ってたけど、《リュウイーソウ》には、呪文を唱えるとドローできる能力も持ってる。
このデッキは呪文が多い。色んな手段で相手を邪魔しながら、手札を増やして、みのりちゃんの攻撃を耐え凌ぐんだ。
「《ニコル・ボーラス》で《ザーク・タイザー》を攻撃! この時《ニコル・ボーラス》の能力で《ドギラゴン剣》を破壊! 《ザーク・タイザー》とは相打ちだよ!」
《ザーク・タイザー》のパワーは7000、《ニコル・ボーラス》も7000だから、残念ながら相打ち。どっちも破壊されてしまう。
「これで、ターン終了」
みのりちゃんのクリーチャーは、すべて破壊した。
わたしの場には《オリーブオイル》《マティーニ》というブロッカーが二体いる。そう簡単にとどめは刺されないはず。
「変なカードばっかり……ここまでで《ボルメテウス》が一枚も見えてないし、なんなの、そのデッキ……」
「みんなで組んだ、みんなのデッキだよ。わたし一人じゃ、絶対に生まれなかったし、ここまで戦うこともできなかった」
「……みんな、か」
どこかさびしそうな表情のみのりちゃん。
やっぱり、みのりちゃん、君は……
「それが、小鈴ちゃんにとっての“みんな”なの?」
「……みのりちゃん」
「そこに私はいない……私のいないところが、小鈴ちゃんにとってのみんな、なんだね」
「みのりちゃん、あのね……」
「いいよ……わかったから」
どこか投げやりに、みのりちゃんは言う。
「小鈴ちゃんが私を裏切っても、私は小鈴ちゃんを裏切りたくなかった。私には、小鈴ちゃんを嫌いになることなんてできない。私がいないところで楽しそうにしてる小鈴ちゃんも、私にとっては愛しいし、幸せの形だから……だったはず、だけど、だから、なのに……でも、そう――」
静かな眼でわたしを見据えるみのりちゃん。
その瞳は虚ろで、だけどもその奥には、揺るがない意志が見て取れた。
「小鈴ちゃんがそのつもりなら、私自身で作るよ。私と小鈴ちゃんの、
そして、みのりちゃんのターン。
みのりちゃんは、カードを引いた。そして、
「私のターン……《リュウセイ・ジ・アース》を召喚」
「ここで《リュウセイ・ジ・アース》……」
「トップを見るね」
少し身構える。
みのりちゃんの手札は少ないけど、《リュウセイ・ジ・アース》が出たってことは、また《ギョギョラス》や《ドギラゴン剣》に繋げられる可能性がある。
だけどみのりちゃんは前のターンに革命チェンジや侵略をしてこなかったし、そういうカードを手札に持ってないのかもしれない。
だったら、よかったんだけど。
「これは手札に加える。そして《リュウセイ・ジ・アース》で攻撃……する時に!」
「っ!」
「侵略発動!」
来る!
「小鈴ちゃんの世界を喰らって、“私たち”の世界を創り出せ――《裏革命目 ギョギョラス》!」
《リュウセイ・ジ・アース》の革命軍を上書きし、乗っ取って、侵略者へと塗り替える。
裏切りの革命、裏返る侵略。
巨大な龍のような鳥が、地響きを鳴らしながら現れた。
《ギョギョラス》は鳥とも獣とも思えない、おぞましい声で、けたたましく咆える。
「とどめまでは届かないけど、ブロッカーをまとめて消し飛ばすよ! 《ギョギョラス》の能力で《オリーブオイル》をマナに送って、マナの《コッコ・ゲット》をバトルゾーンに! ダイレクトアタック!」
「《マティーニ》でブロック!」
「じゃあ、ターン終了!」
ターン9
小鈴
場:《リュウイーソウ》《アンタッチャブル》
盾:0
マナ:12
手札:2
墓地:2
山札:23
実子
場:《ギョギョラス》《コッコ・ゲット》
盾:3
マナ:7
手札:1
墓地:12
山札:15
……そろそろ、限界かも。
ブロッカーがいなくなって、シールドもない。みのりちゃんのスピードアタッカーや、侵略や、革命チェンジを止める手立ても、全部なくなっちゃった。
これ以上は、耐えきれそうにない。
だけど
最後に、みんなは教えてくれたん――
☆ ☆ ☆
「最後に仕上げ……フィニッシャーが必要……」
「いくら守っても、妨害しても、決着をつけられないと意味はないからね」
「切り札、ですね!」
「切り札か……」
「形としてはボルコン……だったら、答えは一つ……」
「《ボルメテウス》系でいいだろうね。確実に詰められる」
「小鈴さん、ユーちゃんたちのカード、使ってください。はいです」
「あ、ありがとう」
「そのカードは……」
「致命的に合わないな……ビート向きだし、流石にやめた方がいいんじゃ……」
「そんなことないですよ! みんなで力を合わせて作ったデッキなんです! 小鈴さんには、ユーちゃんたちの切り札を使ってほしいんです!」
「ユーちゃん……」
「非合理的すぎる……」
「小鈴を勝たせるためのデッキだから、コンセプトに外れるのはちょっとね……」
「で、でも……でもでも!」
「……わたしは、ユーちゃんの案に賛成、かな」
「小鈴……?」
「いや、でも、君はあんまりコントロールデッキを知らないからそう言うかもしれないけど、せっかくカードを使いまくって時間を稼いでるんだ。とどめは確実に決めないと」
「た、確かにそうかもですけど……」
「でも、みんなが手伝ってくれた意味っていうか、その形というか……そういうのを、残したいんだ」
「…………」
「小鈴……」
「小鈴さん……」
「ごめんね、わたしのわがままで……だけど、わたしは一人で戦ってるわけじゃない。みんなが一緒にいてくれるってことを、その意味を、このデッキに込めたい。だから、お願い」
「本人がそこまで言うなら……止められない」
「……わかったよ。君がそこまで言うなら」
「それじゃあ、小鈴さんの切り札も入れましょうよ!」
「わたしの?」
「普通にブレイクするなら……プレイングも、さらに気をつけないと……トリガー……革命0、スーパー・S・トリガーも……」
「ここまで来たら、コンセプトを変えるしかないかもね。どうなるかな。偽装ボルコンと言えばそれっぽいかもしれない」
「だったら、もっとクリーチャーも増やしましょうよ!」
「みんな……ありがとう――」
☆ ☆ ☆
……そうだ。
みんなが教えてくれた。
これは、みんなの力を借りても、わたしが解決しなきゃいけないこと。
最後は、わたしがやらなくちゃいけないんだ。
「わたしのターン! 《超次元ムシャ・ホール》! 《コッコ・ゲット》を破壊して、《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンへ!」
「ここで《勝利のリュウセイ》……? ! まさか……!」
「6マナで《勝利のリュウセイ・カイザー》を進化!」
みんなの力が集まって、みんあの思いを積み上げて、そうして作られたのがこのデッキ。
だけどこれは、わたしの問題。わたしの戦いなんだ。
みんなの貸してくれたカードは、あくまでも助けでしかない。
決着をつけるのは、わたしの力で――わたしのカード!
「これが、わたし自身の力――《エヴォル・ドギラゴン》!」
ドラゴンは、ドラゴンを超えたドラゴンへと進化する。
革命を起こしそうなほど、熱く、激しく、そして力強い姿へと。
「《エヴォル・ドギラゴン》……!」
みのりちゃんが驚いている。
恋ちゃんや霜ちゃんも言ってたけど、こういうデッキには合わないカードみたい。その理由はよくわからなかったけど……そんなことは関係ない。
わたしの思いを伝えるために、わたしじゃない力を使っても意味がない。
だからわたしは、このカードに託す。わたしの、伝えたい思いを。
「お願い……《エヴォル・ドギラゴン》! 《ギョギョラス》を攻撃だよ!」
「っ、今回も破壊されちゃったか……!」
これでみのりちゃんのクリーチャーはゼロ。だけど、みのりちゃんのデッキにはスピードアタッカーが多いから、油断はできないよね。
《エヴォル・ドギラゴン》をアンタップさせる。わたしのクリーチャーは《リュウイーソウ》《アンタッチャブル》《エヴォル・ドギラゴン》の三体。みのりちゃんのシールドは三枚。
確かこういう時は、破壊されにくいクリーチャーから攻撃するのがいいって言ってた。破壊されにくいといえば、選ばれない《アンタッチャブル》だけど……
「……《リュウイーソウ》でWブレイク!」
「トリガー……ないよ」
「《アンタッチャブル》で、最後のシールドをブレイク!」
これでみのりちゃんのシールドはなくなった。
あとは、とどめを刺すだけ。
「《エヴォル・ドギラゴン》で攻撃! とどめだよ!」
「させないよ、小鈴ちゃん! 革命0トリガー! 《ボルシャック・ドギラゴン》!」
「か、革命0トリガー……!?」
「革命0トリガーは、自分のシールドがゼロで攻撃を受ける時……つまり、相手からダイレクトアタックを受ける時に、手札からタダで使えるカードだよ」
「? そのクリーチャーは進化クリーチャーだよね……? 進化元はいないよ」
「ううん、違うよ。《ボルシャック・ドギラゴン》は進化クリーチャーだけど、革命0トリガーで出す時に限り、山札の一番上をめくって、火の進化でないクリーチャーだった場合、それを進化元にできる」
「そ、そんな……で、でも、場に出ただけじゃ、攻撃は止められないんじゃ……」
「攻撃も止められないのに出すわけないでしょ。《ボルシャック・ドギラゴン》はバトルゾーンに出た時、相手クリーチャー一体とバトルできるんだよ。これで破壊できれば、攻撃は止められる」
「……でも、でもだよ。《エヴォル・ドギラゴン》のパワーは14000、《ボルシャック・ドギラゴン》のパワーは12000……やっぱり、《エヴォル・ドギラゴン》は止められないよ」
「何度も言わせないで。止められないってわかってるなら、出さないよ、小鈴ちゃん」
みのりちゃんは食い下がる。
それは、絶対に譲れないことであるかのように、不退転の意志を見せつけてくる。
「《ボルシャック・ドギラゴン》の能力で進化元にするクリーチャーは、一度バトルゾーンに出るの。つまり、バトルゾーンに出た時の能力が発動する……進化元次第では、《エヴォル・ドギラゴン》を止められるよ」
「!」
「とはいえ、この状況で《エヴォル・ドギラゴン》を処理できるカードなんて限られてるけどね……私のデッキだと、《ドギラゴールデン》しかない。それをめくれば、私の勝ち」
「…………」
「さぁ、《ボルシャック・ドギラゴン》の枚数は三枚だよ! まずは一枚目!」
みのりちゃんが、自分のデッキの一番上をめくる。
一枚目は、《メガ・マグマ・ドラゴン》。
「これじゃない……《メガ・マグマ》を出して《ボルシャック・ドギラゴン》に進化! そして、二枚目!」
二枚目は、《蒼き団長 ドギラゴン剣》。
これも違う。二体目の《ボルシャック・ドギラゴン》がバトルゾーンに出るけど、わたしの《エヴォル・ドギラゴン》は止まらない。
「これで最後……三枚目!」
みのりちゃんは、最後の山札をめくる。
ここで《ドギラゴールデン》がめくれれば、わたしは負ける。
だけど、そうじゃなかったら……
そして、捲られたカードは――
――《裏革命目 ギョギョラス》
「……最後の最後で、私自身が、裏切られちゃったか」
自分自身に、と、みのりちゃんはぽつりと呟いた。
最後の革命0トリガーは、不発。
《メガ・マグマ・ドラゴン》から進化した《ボルシャック・ドギラゴン》。放たれる爆炎が、《アンタッチャブル》を焼き払う。
《蒼き団長 ドギラゴン剣》から進化した《ボルシャック・ドギラゴン》。突き出される拳が、《リュウイーソウ》を打ち砕く。
だけど、裏の革命から力を得られなかった三体目の《ボルシャック・ドギラゴン》では、《エヴォル・ドギラゴン》は止められない。
だから、これで終わりにしよう。
そして、届いて。わたしの気持ち。
みのりちゃん――!
「《エヴォル・ドギラゴン》で、ダイレクトアタック――!」
☆ ☆ ☆
「負けちゃった……」
終わった。
わたしと、みのりちゃんのデュエマ。
みのりちゃんは、俯いている。陰で表情は見えない。
だけど、ふと、急に顔を上げた。
「……あはは」
みのりちゃんは、笑っていた。
でもその笑いは乾いていて、覇気がなくて、弱々しい。
すべてが空っぽになったかのような、望のない瞳だった。
まっくらな眼。空虚な声。
見ていられないほどに、今の彼女は、空っぽだった。
みのりちゃんは、ふらふらと、揺れている。
「ははっ……もう、ダメだ……小鈴ちゃんが……遠くに行っちゃうや……小鈴ちゃんも、自分も、なにもかもを裏切って、かなぐり捨てて、ダメになって……もう、どうしようもない……なんにもならない……もう終わりだね。小鈴ちゃんは、私のいないところに――」
「――みのりちゃん!」
まだ、届いていない。
デュエマで戦って勝てば伝わるなんて、甘えだ。
こんな中途半端じゃダメだ。ちゃんと、わたしの言葉で伝えないと、ダメなんだ。
そうとわかった途端、わたしはしがみつくようにみのりちゃんの肩を掴む。まくし立てるように、言葉を発する。
わたしの思いをすべて、届けるために。
「みのりちゃん……」
「小鈴ちゃん……」
虚ろな眼で見つめるみのりちゃん。
そんな彼女に言わなければいけない言葉。それは――
「――ごめんね」
――謝罪だ。
わたしの罪の懺悔。そして、贖罪。
「え……?」
「ごめんね、みのりちゃん……わたしが鈍感だったせいで、みのりちゃんの気持ちに気づけなくて……さびしい思いをさせちゃって、ごめんね……!」
「こ、小鈴ちゃん……」
わたしは、みのりちゃんに謝らなきゃいけない。
自分のことばっかりで、周りをちゃんと見てなかった。
一番最初にできた、大切な友達なのに、わたしはみのりちゃんのことを全然考えてなかった。
みのりちゃんがさびしい思いをしていたことにも、全然気づかなかった。
だからわたしは、謝らなくちゃいけない。
だけど、それだけじゃない。
「あとね……みのりちゃん、違うんだよ。みのりちゃんは、ひとつ勘違いをしてるよ」
「勘違い……?」
「わたしも、ずっと変だなって思ってた。恋ちゃんといる時も、ユーちゃんといる時も、霜ちゃんといる時も……友達といる時はいつでも楽しい。だけど、なんか、違うんだよ。ずっと、心に小さな穴が空いたような感じっていうか、パズルのピースが欠けてるみたいな、なにかが足りない気がしてきた……でも、今日、気づいたよ」
わたしの中で足りなかった、ひとかけら。
その正体が。
わたしは……わたしの、わたしにとっての“友達”は、“みんな”は――
「――わたしの友達は、そして、わたしにとっての“みんな”の中は、みのりちゃんもいるんだよ!」
ずっと、なにかが足りない気がしてたんだ。
どれだけ楽しくても、みんなと一緒でも、満たされなかった。わたしにとってのみんなが、一人欠けていたから。
中学に入って一番最初にできた友達。いつも一緒にいてくれて、助けてくれて、支えてくれた。
一番近くにいるのに、一番分かっていなかった。
恋ちゃんやユーちゃん、霜ちゃんと一緒にいても楽しいけど、その楽しさにかまけて、みのりちゃんのことを考えてあげられなかった。
わたしは、友達失格かもしれない。
「だけど、もしみのりちゃんが、こんなわたしでもまだ友達でいてくれるっていうなら……また一緒に遊ぼう。お出かけしよう。パンを食べに行こう。お勉強会もやろう。テストが終わったらケーキ屋さんに行って、夏休みになったらプールとか、夏祭りとかにも行こう。林間学校も一緒の班になって、たくさん楽しいことしよう! わたしと、恋ちゃんと、ユーちゃんと、霜ちゃんと……みのりちゃん――みんなで!」
「みんな……で……?」
「うん、そうだよ。お願い、信じて。わたしだって、絶対にみのりちゃんを裏切らないから」
わたしはずっと、みのりちゃんのことをのけものにしていた。そんなつもりはなかったけど、結果的にそうしていた。
だからみのりちゃんが裏切られたと思うのも、当然だと思う。わたしは、それだけのことをしてしまった。
今さらこんな懇願をしても仕方ないのかもしれないけど、でも、それでも、わたしは伝えたかった。
「中学生になってから、デュエマを覚えてから、たくさんのお友達ができた。恋ちゃん、ユーちゃん、霜ちゃん……みんな個性的で、一緒にいると楽しい。でも」
それでも、揺るがないことがある。
絶対に忘れない、あの日。あの時。
「わたしのはじめてのお友達は、みのりちゃんだよ」
「小鈴ちゃん……」
「うれしかったよ、あの時も。そして今も。みのりちゃんが友達でよかった。だからね、みのりちゃん――」
わたしの感謝を、伝えるんだ。
「――友達でいてくれて、ありがとう」
☆ ☆ ☆
ことの結末をお話ししましょう。
とてもお恥ずかしいお話なのですが、あの後、みのりちゃんはなぜか泣き出してしまって、わたしも感化されたというか、もらってしまったというか、とにかく一緒に泣いて……泣き通していました。
ずっと泣いてたものだから、その時はまるでお話にならなくて、そのまま言葉もなく別れちゃったんだよね。恋ちゃんたちはいつの間にかいなくなってたし。
だけど、あの時の涙を通して、少しは離れちゃったみのりちゃんとの心が、近づいた気がする。
というわけで、翌日。火曜日です。
お昼に食べる用のチョココロネを購買で買って、一時間目の授業の準備をしているところで、誰かが入ってきた。
「おはよう、小鈴ちゃん。相変わらず早いね」
「あ、みのりちゃん。おはよう」
入ってきたのは、みのりちゃんだった。
みのりちゃんは自然な動きでわたしの隣の席に座って、鞄を開ける。
「……昨日は、ううん、その前も、ごめんね」
「い、いいよ。わたしも、ごめん……みのりちゃんが、あんなことを思ってたなんて、全然気づかなくって……」
「小鈴ちゃんは意外とにぶちんさんだもんね。そこをちゃんとわかってなかった私の落ち度でもあるから、気にしなくていいよ」
「な、なにさ、その言い方! 失礼しちゃうよっ」
「ふふっ、そうだね。ごめんね」
軽く微笑むみのりちゃん。
これだ。
いつもの日常っていうか、わたしの知ってるみのりちゃんが戻ってきた。
いや、そんな自分本位な考え方じゃ、ダメだよね。
みのりちゃんはなにがあってもみのりちゃんなんだから。
「……ねぇ、小鈴ちゃん」
「なに? みのりちゃん」
「私たち……友達、なんだよね?」
「そうだよ。当たり前じゃない。みのりちゃんは、わたしの一番最初にできた、大切な友達なんだから」
「そっか……そうだよね」
ふっと息を吐いて、みのりちゃんは虚空を見つめていた。
「小鈴ちゃんの一番にはなれないけど……小鈴ちゃんは、そういう子だもんね。落としどころとしては妥当かな」
「? どうしたの?」
「ううん、なんでもない。小鈴ちゃんのそういうところが可愛いなって」
「え? え? な、なに? そういうところって、どういうところ?」
「なんだろうねぇ」
とぼけるみのりちゃん。こういうところは、相変わらずだなぁ。
「あ、そうだみのりちゃん。今度、恋ちゃんたちとお勉強会するんだけど、みのりちゃんも手伝ってよ。わたし一人じゃ手が足りないんだよ」
「そういえばそうらしいね」
「元はと言えば、みのりちゃんが発端なんだよ。責任とってよ」
「小鈴ちゃんの責任を取る、か……いい響きだね」
「え?」
「なんでもないよー。うん、勉強会だね。いいよ、私も参加するよ」
「本当に? ありがとう! みのりちゃん!」
そういうわけで。
わたしとみのりちゃんは、仲直りできました。
恋ちゃんや、ユーちゃん、霜ちゃん。“友達みんな”の力で――
☆ ☆ ☆
「――『白ウサギ』はバックレたか」
「ふえぇ……だ、大丈夫、なんですか……? そ、それって、作戦失敗、ですよね……?」
「まったくだぜダンナ。アンタが任せろっつーから黙ってたが、結局ワタシら大損こいてね?」
「そうでもない。ある程度は想定内であるからな」
「そーてーない?」
「こうなる結果も予期していた、ということだ」
「だってのに乗ったって? そりゃ、化けの皮も剥がれちまうって、僕らの努力も台無しでェ。つまりはざっけんなって」
「まあまあ、そういきり立つことでもないのよ。一度失敗しても、きっとまた、素敵な提案をしてくれるのよ」
「で、あるな。彼は我々を統率する者。
「……いやいや、そう思って黙ってたら、見事失敗して帰ってきた、って話でしょうよ、これは。ほんと、大丈夫なんですか?」
「大丈夫か、と問われれば、大丈夫だ、と返す自信はない」
「ちょっと」
「だが、頃合いなのやもしれん」
「頃合い、とは?」
「どういう意味なのよ?」
「まさか、ようやくか? 穴蔵解放、地上に台頭、“あっち側”にライド! ってことか!?」
「そういうことだ」
「おー、だいたん。ひかげものから、だっきゃく?」
「脱却は無理だな。しかし、そろそろ我々の正体を明かす時が来た、ということだ。やむを得ずではあるが」
「……そうか。まあ、ダンナが決めたんなら、ワタシらは従うがよ」
「だ、大丈夫、なんですか……? そうなったらもう、代えは、聞かないって、いうか、そのあの……」
「問題ない。いや、問題はあろうが、ここが正念場ということだ。乾坤一擲というわけではないが、勝負どころはここだ。なにせ聖獣が絡んでいる」
「は、はぁ……ぐ、具体的には、なにを……? また、代用品、用意しなきゃ、ですか……?」
「それとも“ワタシたち”を使うか? 四番目くらいまでなら、動かしてもいいぜ」
「私も、おそと、でていーい?」
「バッドにドープな奴がいたら教えろよな。それまで僕は寝静まってるぜ」
「ふふっ、皆楽しそうで、
「ならばぼくらも、姉上の歓喜に乗じて幸福を噛み締めよう」
「……面倒くさいことにならなければいいんですけどね。で、どうするというんですか?」
「貴様らが一度に喋るものだから、なにを考えていたか忘却しそうになったぞ。詳細は追って伝えるとして、ひとまずオレ様たちがすべきことは一つ――」
「――可憐なアリスを、我らのお茶会に招待しようではないか――」
これにて10話完。ひとまず一区切り……でしょうかね? 明らかに怪しい連中が出ていますが。
作中で登場したギョギョラスは、個人的にとてもお気に入りのカードです。侵略と革命チェンジを同時に行いつつ、自身を回収して再度侵略に備えられる、という点が。まあ、侵略条件が厳しすぎて、なかなか扱いづらくはあるのですが。
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