デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 およそ1年半ぶりくらいに主人公の登場だよ。いやほんと、随分と長いこと出てなかったな……


53話「出逢えました Ⅰ」

「――小鈴!」

 

 

 

 はい。こんにちは。おひさしぶりです。伊勢小鈴です……おひさしぶり?

 なんでそう思ったのかは、わからないけれど。なんとなくそんな気がしました。

 えぇと、それはそれとして……町中で、声を掛けられました。

 冬休み。霜ちゃんやみのりちゃんたちと喧嘩別れして、ユーちゃんやローザさんたちもドイツに帰っちゃって、いなくなった代海ちゃんも見つからなくて。

 恋ちゃんもなんだか忙しそうで、謡さんやスキンブルくんも手伝ってはくれるけど、足取りは掴めない。

 もちろん、わたしも手掛かりひとつ掴めていない。そんな自分の無力さに、じわじわと参ってしまって、お腹が空いたからパンでも買いに行こうと、パン屋さんに向かっている時だった。

 とても元気な声で呼び止められた。この溌剌な声は……

 

「ヘリオスさん……」

 

 燃えるような赤毛の男の人。ヘリオスさんは、とても元気に、明朗軽快な笑顔でぶんぶんと手を振りこちらに駆け寄ってきた。 

 

「やぁやぁやぁ! 会いたかったよ小鈴!」

「わ、わたしに……? どうして……?」

「前に世話になったからね。ほら見てくれよ!」

 

 と、ヘリオスさんは屈託のない笑顔でポケットからなにかをじゃらじゃらと取り出す。

 それは、金銀銅とキラキラ光るコインの数々……お金、だった。貨幣、小銭と呼ぶべきなのかな。

 お財布じゃなくてポケットにそのまま入れてるなんて、随分とずさん……っていうか世話になったからってお金を取り出すって、まさか……

 

「え、あの、もらえませんよ……!? いくらなんでもお金なんて――」

「また一緒にパンを食べに行こう! これで僕もパンを手に入れられるようになったからね! 銭ある時は鬼をも使う、だ!」

「あ、はい」

 

 なんだ、そういうことか……ビックリした。

 無邪気に笑うヘリオスさんに、安堵したような、むしろ困惑するような……

 でも、わたしもちょうどパン屋さんに向かってる途中だったし、ちょうどいいかも。

 とても唐突で、どこか奇妙な感じだったけれど、わたしはヘリオスさんとふたりで、近くのパン屋さんを訪れるのでした。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「うまい! うまい! うまい!」

「…………」

 

 ヘリオスさんは、手にしたカレーパン、ホットドッグ、焼きそばパン、その他諸々のパンを次々と口に押し込んでいく。

 すごい豪快な食べっぷり……ボロボロこぼしてて、あまりお行儀はよくないけど、とても嬉しそうで、幸せそうで、おいしそうに食べてるから、そんな無粋なことも言えなくなる。

 

「ここのパンも美味しいね!」

「あ、はい……このお店は隣の軽食屋さんと合併してて、惣菜パンがおいしいんです。カレーも、ソーセージも、焼きそばも、コロッケとかカツとかも出来たてを食べられるので、お昼ご飯にするならオススメです」

「そうなんだ、君は物知りだね! メルより頭いいんじゃないか?」

「あはは……どうでしょう」

 

 誰だろう、メルって……その名前、あんまりいい感じしないんだけど、ヘリオスさんの知り合い?

 

「……ヘリオスさんって、普段なにをしてるんですか? 学生さん?」

「んー? ふらふらしてる」

「ニート!?」

「あとは……ミーナ風に言うなら護衛? 狩り? みたいな?」

 

 ……警備員さん? それとも狩人さん?

 謎が多い人だ……悪い人じゃなさそうだけど。

 

「あ、そういえば、前に言ってた人、元気になったんですか?」

 

 前にヘリオスさんと出逢ったのも、パン屋さんだった。

 大切な人の元気がないから、おいしいパンを届けて元気づかせようとしていると言っていたけれど、どうなったんだろう。

 

「あぁ、吐いた」

「えぇ!? く、口に合わなかったとか、アレルギーとか……?」

「さぁ? 確かに美味しそうにはしてたんだけど、なんか吐いちゃった。メルはなんか言ってたけど忘れたなぁ」

「アレルギーなら大変なので、ちゃんと調べないとダメですよ……?」

「そうだね。次はもっと美味しいものを持って行くことにするよ」

 

 うーん話が通じない。

 思いが先走ってて、周りがあんまり見えていない。危うい感じの人だけど……どこまでも純粋で、まっすぐで、不思議と応援したくなる。

 その様子はまるで子供みたいで、申し訳ないんだけど、年上の人とは思えない。

 でも、優しい人だ。それは間違いない。

 

「まあ今日は君にお礼が言いたかったんだけどね。ありがとう、小鈴!」

「は、はい、どういたしまして……」

「この前は代わりにお金? も払って貰ったしね。感謝と詫びの印だよ」

「あはは……」

 

 まあ今日も足りない分はわたしが出してるんだけどね……ヘリオスさん、いっぱい食べるから……わたしも人のこと言えないけど。

 だけどパンを頬張るヘリオスさんはとても幸せそうで、そんなことは気にならなくなっちゃった。

 

「うーん、しかし本当に美味い。鬼に金棒だな。ディジーやリズにもちょっと差し入れてあげようかなぁ」

「お友達ですか?」

「友達? んー、同族、同僚、同類、家族……まあ、仲間かな!」

 

 ざっくりした返事だった。

 まあ、いいのかな?

 

「えと、持ち帰りもできますよ? ここ」

「へぇ、じゃあそうしよう! ところで」

「はい?」

「なんかさっきから硬くない?」

「え? そう……ですか?」

「うん。もっと気楽に砕けていいんだよ。僕らの仲じゃないか」

「はぁ……」

 

 まだ出逢って数日くらいの仲だけど……でも、パンが好きで同じ窯のパンを食べた仲ではあるんだよね……

 危なっかしくて、不思議で、謎が多い人だけど、いい人ではあるようだし。

 

「でも、年上の人にタメ口はちょっと……」

「ふーん。年齢の話なら僕の方が年下だろうけどなぁ」

「え!? い、いやまさか……」

 

 随分と突拍子もない冗談(ジョーク)です。帽子屋さんでもそんなこと言わないよ。

 

「まあ友人恋人愛人、どれも年齢なんて関係ないじゃないか!」

「恋人って……まあ、確かにそう、なのかな……」

「そうだよ!」

「じゃあ……そ、そうするね? ヘリオス……くん?」

 

 ……なんだかいとこのお兄さんと話してるみたいな気持ちになってきた。わたし、そういう親戚付き合いはほとんどないからよくわからないけど……

 

「…………」

「ヘリオスくん?」

「いや、小鈴、君さ」

「?」

「可愛いな」

「へっ!?」

 

 いきなりなに!?

 

「鬼も十八、番茶も出花、鬼瓦にも化粧。地味な子だと思っていたけど、君は優しいし気が利く。それによく見ると結構可愛いし胸も大きい。ちんまいところも悪くない」

「ちんまくないです! な、ないもん、ちんまくないもん……!」

 

 ちょっと前からユーちゃんの背がぐいぐい伸び始めてきてちょっと焦ってるけど!

 

「んー、これはあれだな。惚れたな、僕」

「な、なんですか? どういうこと!?」

「泣かせたくなる」

「ほんとにどういうこと!? 泣かせたくなるってなに!?」

「ははは。まあ君のことがますます好きになったってことだよ」

「あぅ……」

 

 真正面からそういうことを言われると……なんというか、困るよ……

 ユーちゃんやみのりちゃんもそういうことを言うけど、お、男の人から、だなんて……

 照れる、というか……はずかしい。

 

「あぁ、色んな君を見てみたいな」

「え、あの、ちょっと、ヘリオスくん……?」

 

 ヘリオスくんは、こちらに手を伸ばしてくる。

 ゆっくり、ゆるりと。

 その指先が、わたしに触れる――

 

「ん」

 

 ――直前に、ピタリと止まった。

 

「……ミーナ?」

 

 ガタッ、とヘリオスくんは立ち上がった。

 ど、どうしたんだろう?

 

「姫が……いなくなった? ディジーもいたのに? バカか? なにやってんの?」

「え? え?」

「ごめん小鈴、急用だ。僕は今すぐ探さなければいけない人がいる。そしてついでに、どうやらミーナがこの近くまで来ているようだ。だから僕はミーナから逃げないといけない。あいつに見つかるとうるさいからね」

「……? う、うん……?」

 

 なにを言っているのかよくわからないけど、なにか急な用事ができたということだけは理解できた。

 ……本当に急というか、特に連絡を取り合ったような素振りもなかったのが奇妙だけど……

 

「あぁせっかくの楽しい時間だったのに、惜しいな。まあ君とはまた出会えるだろう。その時はもっと良い場所でデートでもしよう! じゃあね!」

 

 そう言い残して、ヘリオスさんは颯爽と店から出て行ってしまった。

 なんだったんだろう。嵐みたいな人だったなぁ。

 

「……わたしも帰ろう。鳥さん、置いて来ちゃったし」

 

 お土産にチキンカツサンドでも買っていってあげよう……鳥さんにチキンを食べさせるのはやめた方がいいのかな? それともクリーチャーだから関係ない?

 2秒くらい悩んでからメンチカツサンドを買って、店を出る。

 何気ない時間だった。この時ばかりは、忘れていた。意識の外だった。

 だから最初、それを認識することさえもできなかった。

 声をかけられて、はじめて、気付いた。

 

 

 

「こすず……さん」

 

 

 

 それが、わたしが探していた相手。

 ――代海ちゃん、だったことに。

 

「っ……!?」

 

 名前が出てこない。誰とわかっていても、声にならない。

 吃驚と、安堵と、疑問と……色んな気持ちが渦巻く。

 代海ちゃんは、酷くやつれていた。冬だというのに裸足で、服はボロボロ、髪は真っ白になっていて、ボサボサ。

 肌も荒れてて、骨が浮き出るほど痩せ細って、生気がないほど白い。

 今にも事切れてしまいそうな出で立ち。代海ちゃんは濁った瞳で、わたしを見つめている。

 そんな姿に胸が苦しくなるけど、でも、でも……!

 

「し、代海ちゃん……ようやく、会えた……!」

 

 ずっと、ずっと会いたかった。今は、その喜びでいっぱいだ。

 どうしてここに? とか。今までなにを? とか、気になることはいっぱいあるけど。

 とにかく、今は、もっと他にかけるべき言葉がある。

 

「あ、あの、代海ちゃ――」

「こすずさん」

 

 わたしの言葉を遮って。

 代海ちゃんは、冷たい、けれども切実に、言祝ぐ。

 泣きそうな瞳は干涸らびて。懇願するような指先は尽き果てて。

 それでも一縷の望みを託すように。追い詰められながらも、そこに希望があると言わんばかりに。

 代海ちゃんは、わたしに向けて、こう、告げた。

 

 

 

 

「アタシを――殺してください」




 霜と実子の話をじっくりやってたら1年以上も主人公を放置していた件。というか2021年の更新回数が30回くらいしかないのが少なすぎ……しかも話があんまり進んでいない事実。
 でもご安心を、今話でグイッと進めます故。今までは、今回に至るまでの下地作りみたいなもの。ここからの主人公の快進撃にどうぞご期待ください。

 ……快進撃はないかも。
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