デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 破滅の懇願、降臨の予兆、悪魔の囁き。
 賽を振り、選択し、切り開いた末の未来はいずこへ向くか。


53話「出逢えました Ⅱ」

「……え?」

 

 耳を疑った。今、代海ちゃんは、なんて言ったの?

 ころ……して? あなたを、わたし、が?

 

「な、なにを言ってるの、代海ちゃん……冗談、だよね……?」

「…………」

「代海ちゃん……?」

「……うそ、じゃ、ないです……」

 

 ふらふらと、代海ちゃんは今にも崩れ落ちそうな足で立って。

 苦しそうに、なにかに耐えるように、必死に声を絞り出している。

 

「こんなこと、あなたにしか、頼めない……あなたにしか、できない……こすずさん、にしか……!」

 

 代海ちゃんは、お腹の下の方を抑えながら、訴えかけるように語りかける。

 

「アタシの中に、今……お母さま、が、いるんです……」

「お母さん……?」

「……不思議の国の……女王さま。アタシ、たちの、産みの母……」

 

 そういえば、帽子屋さんも言っていた。

 世界を滅ぼす存在だって。それが、代海ちゃんの中に……?

 

「お母さまは、まだ、アタシの中で、寝て、います……でも、もうすぐ、目覚め、ちゃう……だ、から、だから、その、前に……! お母さまが、目覚めで、ぜんぶ、ぜんぶ! ダメに、しちゃう、前に……!」

 

 その懇願は、切実だった。

 心の底から、そう願っている。

 切迫してて、思い詰めてて、真摯で。

 破滅的なのに平和的。そんな矛盾を孕んだ慟哭が、悲願となって、紡がれる。

 

 

 

「アタシ、を……殺して、ください……!」

 

 

 

 それはつまり、代海ちゃんごと、代海ちゃんの中にいるという、女王さまとやらを殺して欲しい、ということ。

 そうすれば女王さまが倒されて、めでたしめでたし?

 理屈も原理もわたしにはわからない。女王さまのことはまったく知らない。

 けれど、それも、ひとつだけ確かなことがある。

 それは――

 

 

 

「ふざけないで!」

 

 

 

 ――たとえそれが最善策だったとしても、それはハッピーエンドにはならない。

 そんなものは、わたしが認めない。

 

「ずっと、ずっと探してた。会いたかった! それで、ようやく会えたと思ったのに……最初に言うことがそれってなんなの!?」

 

 最初は嬉しかったはずなのに、だんだんと怒りが先立って、腹が立ってきた。

 

「友達に、そんなことできるわけないでしょ! わたしにそんなことさせないで! そんなこと――言わないで!」

「こすずさん……」

「友達にそんなことできない、したくない! わたしはただ、友達と一緒にいたいだけなんだから!」

 

 そのために、わたしはあなたを探してた。

 そのために、わたしは戦うんだから。

 殺すなんて論外。わたしは、あなたを連れて帰る!

 

「……うれしい。でも、ダメ。ダメ、なんです……」

 

 代海ちゃんは涙を流しながら、自分の身体を抱きしめる。

 悍ましく、震えながら、悲哀に満ちた面持ちで。

 

「女王さまは、もう、とまらない……むっつの、星が……みっつの、楔が……! だれにも、とめられない、から……いっぱい、いっぱい……アタシは、罪を、犯して……ひどい、ことも、たくさん……もう、無理、生きて、られない、から……!」

「……代海ちゃん?」

 

 様子が、おかしい。

 ガタガタと震えている。狂ったように頭を掻き毟って、声を荒げている。

 

「いあ、いあ……あぁ、声が、お母さまの、声が、響く……! 早く、早く! いそがないと、もう、すぐ、そこまで……!」

 

 真っ白な肌が、所々、黒く変色し、爛れていく。

 これは……帽子屋さんにも、確か、こんなことが……

 

「殺して、くれない、なら……アタシ、が、場所を……異聞の、神話の、世界……は、欠片でも、残滓でも……必要、なら、むりやり、でもッ!」

「っ!?」

 

 代海ちゃんの足下から、黒い染みが溢れるように流れ出て、広がっていく。

 この場が、空間が、世界が、黒く歪んでいく。

 

「な、なに……!?」

 

 流出した黒い染みから、樹木のようなものが屹立する。幾本も並び立ち、まるで森のような地を形成する。

 漆黒は重なって、闇となり、太陽さえも飲み込む暗い世界。

 

「此なるは、夢の国、黒い森、邪神の町、暗き地底、妖精の巣……あらがって、ください、こすず、さん……!」

 

 濁った昏い眼差しで、代海ちゃんは、わたしを見つめる。

 こんなにも、弱っているのに。こんなにも、混濁しているのに。

 昏くて萎んでて、弱々しくて崩れてしまいそうなのに、鬼気迫るような圧がある。

 あまりにも残酷で真摯な嘆願に、わたしの怒りも、急速に冷えていく。

 気圧されてしまう。

 

「おねがい、だから、はやく、おわらせて、ください……あなたが、人として、あらがってくれるなら……狂気に、屈しない、なら……! アタシという、邪神を、討って……! それが、アタシ、の、希望、だから……!」

「代海ちゃん……」

 

 ……本当は、戦いたくなんてない。

 目の前で友達が苦しんでいるのに、戦わないと救えないなんて、戦っても助けられないなんて、そんな酷い話。そんなのってないよ。

 だけどここでわたしが屈しても、なにも変わらない。きっと女王さまというのは、わたしが想像できないくらいに、すごい力を持っているんだと思う。帽子屋さんの言う通り、世界を滅ぼしちゃうような、とんでもない力を。

 それを放置するわけにもいかないけど、それは代海ちゃんの中にある。代海ちゃんを殺すなんて、わたしにはできない。

 戦いたくない。戦えない。殺したくない。殺せない。

 それでも、やらなくちゃ、いけない?

 世界を守るために友達を殺せって?

 残酷だ。あまりにも酷い話だ。

 なによりも惨いのは、代海ちゃんが、友達自身が、それを願っているということ。

 もう、なにもわからない。迷って、悩んで、わけがわからないまま、わたしは剣を取らなくちゃいけない。

 

 

 

 わたしは――どうすればいいの? 

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 はじまって、しまった。

 わたしと、代海ちゃんの、対戦(デュエマ)

 わたしの場には《グレンニャー》が1体。さらに《リロード・チャージャー》を1回唱えている状態。

 代海ちゃんは、いつものように《一番隊 クリスタ》がいる。

 

「アタシの、ターン……《一番隊 クリスタ》を、召、喚……」

 

 3ターン目。さらに《クリスタ》が追加されて、

 

「2体の《クリスタ》でコストを2下げて……1マナで《奇石 マクーロ》、召喚……《マクーロ》の能力で山札から3枚を見て、《マクーロ》を手札に……さらに2体目の《マクーロ》を召喚。《龍装者 バーナイン》を手札に……」

「この流れは……」

 

 《クリスタ》が2体いるから、メタリカの召喚コストは2も下がってる。

 そしてメタリカは、手札補充も得意で展開力がすごく高い。《クリスタ》でコストが大きく下げられているのなら、その展開力はさらに跳ね上がる。

 どうにか手を打たないと、あっという間に圧倒される。

 

 

 

ターン3

 

 

小鈴

場:《グレンニャー》

盾:5

マナ:4

手札:2

墓地:1

山札:27

 

 

代用ウミガメ

場:《クリスタ》×2《マクーロ》×2

盾:5

マナ:3

手札:3

墓地:0

山札:25

 

 

 

「……なんとか、しなきゃ」

 

 なんとかする。この場を解決する。

 それはつまり、代海ちゃんに勝つということ。勝とうとするという意味。

 それでいいの? わたしが勝ったら、あの子は死んでしまうかもしれない。わたしが、殺しちゃうかもしれないのに。

 

「《グレンニャー》を、召喚。1枚ドローして……3マナで《KAMASE-BURN!》を唱えるよ。《P.R.D. クラッケンバイン》をGR召喚して、《クリスタ》と、バトル……」

 

 わたしの墓地に呪文は2枚だから、《クラッケンバイン》のパワーは4000。 とりあえず《クリスタ》は破壊できた、けど。

 

「アタシのターン……3マナで《龍装者 バーナイン》を召喚して……ターンエンドです」

 

 

 

ターン4

 

 

小鈴

場:《グレンニャー》×2《クラッケンバイン》

盾:5

マナ:5

手札:1

墓地:2

山札:25

 

 

代用ウミガメ

場:《マクーロ》×2《クリスタ》《バーナイン》

盾:5

マナ:4

手札:3

墓地:0

山札:23

 

 

 

 今度は《バーナイン》。展開と同時に、継続的に手札を補給する、メタリカの生命線。

 《クリスタ》と合わさることで、コスト軽減しながらどんどんクリーチャーが並んでいく。

 これも放置はできない。対処しないと。

 ……対処して、いいの?

 それで、いいの?

 

「……マナチャージして、手札が、1枚。GGG」

 

 わたしの迷いとは裏腹に、手札はすこぶるいい。

 ちょうどこの場を根こそぎにするカードが、手札にあった。

 

「呪文《“閃忍勝(シャイニング)威斬斗(ウィザード)》……パワー3000以下のクリーチャーをすべて破壊するよ。代海ちゃんのクリーチャーは全部パワー3000以下だから……」

「……全滅、しちゃいました、ね」

 

 パワーの低いクリーチャーばかりなら、この呪文がよく効く。

 効いてしまう。一気に、わたしが優勢になって、勝ってしまいそうな勢いだ。

 

「さらに1枚ドローして、4マナで《ガチャマジョ・チャージャー》。山札から3枚を墓地に送って、《天啓 CX-20》をGR召喚。マナドライブで3枚ドロー……」

 

 驚くほど引きがいい。なくなった手札があっという間に補充された。

 次に打つべき手がわかる。それを為すだけの手段が手札にはある。

 だけどわたしは、惑ったままだ。

 

「アタシのターン……5マナで双極・詠唱……《スーパー・エターナル・スパーク》……《クラッケンバイン》を、シールドへ、送ります……ターンエンド」

 

 

 

ターン5

 

 

小鈴

場:《グレンニャー》×2《天啓》

盾:5

マナ:7

手札:3

墓地:6

山札:17

 

 

代用ウミガメ

場:なし

盾:5

マナ:5

手札:2

墓地:6

山札:22

 

 

 

 

「……こすず、さん、もう、限界、です。これが、これ、が……ほんとうに、最後の、通告……です」

 

 耐えかねて、代海ちゃんはわたしに訴えかける。

 肌がぐじゅぐじゅと、悲鳴を上げるように黒く蠢いている。苦しそうに吐く吐息は艶っぽい。けれども目は血走って、浮き上がった骨は慟哭に軋んでいる。

 

「アタシを……殺してください」

「……や、やだよ。そんなの……できないよ……」

「ダメ、です……じゃないと、アタシ、が……お母さまが! みんなを、ころして……あなたを、殺して……ぜんぶ、ぜんぶ! 全部ダメにして、終わらせて、しまう、から……!」

「でも、だからって……」

「アタシには、もう、どうにもできない……あなたしか、頼れない……おねがい、おねがい、です、から……!」

 

 泣きながら懇願する代海ちゃんの涙は、黒かった。

 もう、どうしようもないほどに、得体の知れないものに飲まれている。

 理性があるのが信じられないほどに。自我が生きているのがあり得ないくらいに。

 きっと、最後の力を振り絞って、痛み、苦しみ、悲しみ、そして恐怖に狂気。あらゆる重圧に耐えて、必死の思いで、あの子は今ここにいる。

 それに、応えるべき、なのかもしれないけど。

 だからって……だからって……!

 

「……《【問2】 ノロン⤴》を召喚! そして6マナで、《偉大なる魔術師 コギリーザ》にNEO進化!」

 

 もう、わたしにも、どうしたらいいのかわからないよ。

 

「《コギリーザ》で攻撃する時、キズナコンプ発動、墓地から《法と契約の秤》を唱えて、コスト7以下のクリーチャーをバトルゾーンへ!」

 

 悩んでも答えは出ないまま。迷っても躓いたまま。惑っても堂々巡りするまま。

 いつも通り、解決になるかもわからない、根拠のない力を振りかざす。

 

 

「出て来て――《龍覇 グレンモルト》!」

 

 そして、

 

「《銀河大剣 ガイハート》を装備!」

 

 握る剣はいつものより重そうで。

 その切っ先はいつもより鈍そうで。

 刀身の輝きはいつものより昏そうで。

 自分の正しさを、見失っていた。

 

「《コギリーザ》でWブレイク!」

「…………」

「……《グレンモルト》でシールドをブレイク!」

 

 1回、2回。

 攻撃に、成功。

 

「龍解――」

 

 《ガイハート》は、天高く打ち上げられる。

 闇の世界に走る一筋の灯。それは正しく、宇宙に輝く銀河のよう。

 

 

 

「――《熱血星龍 ガイギンガ》!」

 

 

 

 だけど、その熱は、どこか冷めているような気がした。

 それでも、やるしかない。やりたくない。

 

「……《グレンニャー》でシールドをブレイク!」

 

 代海ちゃんのシールドは、残り2枚。

 《ガイギンガ》はほとんど選ばれないから、先に残ってるクリーチャーで攻撃すれば……

 

「……ごめんなさい、でも。アタシ、もう」

 

 砕けた破片に身を裂かれることも厭わず。

 その程度の痛みも苦しみも、ものともせず。

 

「お母さま、に、逆らえ、ない……!」

 

 闇の中に昏く煌めく光を、握り潰す。

 

「S・トリガー……《青守銀 ルヴォワ》!」

「!」

「自分をタップして、《天啓 CX-20》をタップ!」

「っ……《ガイギンガで》ダイレクトアタック!」

「《ルヴォワ》、で、攻撃、を曲げ、ます……!」

「……ターン、終了だよ」

 

 止められた……

 ダイレクトアタックまで、届かない。なのに、安堵してる自分がいる。

 これは良かったことなの? 悪かったことなの?

 なにも……わからないよ。

 

「く、う、ァ……あ、あァ! も、もう、ダメ、ダメなんです……!」

 

 耐えかねたように、代海ちゃんは慟哭する。

 痛ましく叫び、黒く泡だった肌を掻き毟り、山羊のように宙へと吼える。

 

「《一番隊 クリスタ》を召喚ッ! 1マナで、もう1体《クリスタ》……! 1マナで《マクーロ》! 山札から3枚めくって、《奇石 ケイヴ》を手札に!」

 

 星が爆ぜるように闇が煌めき、次々とクリーチャーが展開される。

 場はゼロ。だけど、《クリスタ》が2体。シールドをブレイクされて、手札も多い。

 

「2マナで《奇石 ケイヴ》を召喚……これで、アタシのクリーチャーは、4体……!」

 

 マナを根こそぎ吸い出して、それでもまだ足りないと、場のクリーチャーから贄を絞り出す。

 

「4体の、光、のクリーチャーを、タップ! 呪文! 《エメスレム・ルミナリエ》! 手札からコスト8以下のメタリカをバトルゾーンに!」

「っ……!」

 

 これは、代海ちゃんのいつもの勝ちパターン。

 小型のメタリカを並べて、《エメスレム・ルミナリエ》で一気に大型に繋げる流れ。

 《ワンダー・タートル》ではないはず……だとすると、なにが……?

 

「あぁ、冒涜的な言辞が聞こえる……お祖父さまを賛美する、混沌の讃辞が、爆発的な劇団が! 下劣で狂おしき連打、呪われたか細き鼓笛! 餓えた白痴を慰撫する音色が、宙に、宙に、宙に!」

 

 真っ暗な黒宙を見上げて、代海ちゃんは祈るように泣き叫ぶ。

 どこからともなく響き渡る、怖気の走る旋律。

 纏わり付くような狂気が、宙から、降りてくる――!

 

「聴こえない、聴こえない、聴こえないッ! 聴きたくない――《二重音奏 サクスメロディ》!」

 

 悍ましい音色を奏でるそれは、奇妙なクリーチャーだった。

 楽器……ドラゴン?

 それに、コスト6? 《エメスレム・ルミナリエ》は、コスト8まで出せる。なのに、なんだか中途半端なコストような……?

 

「《サクスメロディ》がバトルゾーンに、出た時、アタシ、の光、のクリーチャーの、数、だけ……GR召喚!」

「!」

 

 コストは6だけど、その能力は侮れなかった。

 《エメスレム・ルミナリエ》が代替コストで唱えられた以上、既に代海ちゃんの場には4体のメタリカがいる。それに《サクスメロディ》に含めて、合計5体。

 《サクスメロディ》は単独ではない。数多の従者を引き連れた、楽団として顕現する。

 

「《ギラミリオン・ギラクシー》《超衛の意志 エイキャ》《救命の意志 テュラー》《マシンガントーク》――《煌銀河(ギラクシー) サヴァクティス》!」

 

 宇宙を駆ける、銀河の煌めき。

 わたしの、《ガイギンガ》の熱意を掻き消してしまいそうなほどの、暗澹とした輝きが、暴威となって、吹き荒ぶ。

 だけど、クリーチャーはみんなタップしている。これじゃあ攻撃もブロックもできない。

 数が一瞬で2倍になったのはすごいけど、代海ちゃんは、一体なにを……?

 

「《奇石 ケイヴ》の能力です」

「え?」

「《ケイヴ》は、アタシが呪文を唱えた時、その呪文以下の、コスト、の光のクリーチャーを呼び出す、こと、が、できる……んです。そして、《エメスレム・ルミナリエ》の、コストは……7」

 

 次の瞬間。

 代海ちゃんのクリーチャーが、吸われていく。

 渦巻く星々。暗雲に飲まれ、星雲の内側で輝き、それは大いなる奔流となって、逆巻いて、流出して、大河となって。

 無限に膨張し続ける、終末をもたらす、破滅の銀河と化す。

 

 

 

 

「母神星誕――《無限銀河 ジ・エンド・オブ・ユニバース》!」

 

 

 

 それはなんと、広大で偉大な煌めきだろうか。

 この星から観測できる銀河なんてごく僅かで、ちっぽけなものでしかないと思わされる。

 わたしの知らない星々が――そこにある。

 未知の領域より顕現する星団。10体のクリーチャーを取り込んで現れた、巨大という言葉さえも生ぬるいほどに超大な、暗黒の星々の塊。《ガイギンガ》でさえも、その規格外の存在に比べれば、矮小な星屑に見えてしまうほどだ。

 《ジ・エンド・オブ・ユニバース》。幾度か見たことのあるクリーチャー、なはずなのに、なんだろう、この嫌な感じは。

 そこにあるのは、クリーチャーとも言えないような、まったく別の、悍ましいなんかに思えてならない。

 

「孕んだ千の、仔を吸い上げて……超無限進化!」

 

 ……確か《ジ・エンド・オブ・ユニバース》は、10体のクリーチャーを進化元にすれば、メテオバーン能力で特殊勝利できるクリーチャーだったはずだけど……

 《エメスレム・ルミナリエ》でコストにしたメタリカや、《サクスメロディ》で出て来たGRクリーチャーはタップしている。進化元の数こそ10体確保してるけど、タップしてるクリーチャーを進化元にしてるから、《ジ・エンド・オブ・ユニバース》もタップして場に出る――

 

「《マシンガントーク》……の、能力を、ここで解決、します。《ジ・エンド・オブ・ユニバース》を……アンタップ!」

「あ……」

 

 ――終わった。

 無意識のうちに、頭の中でそんな結論が下された。

 

「ごめんなさい……こすず、さん。も、もう、お母、さまは、とめられない……!」

 

 起き上がった銀河が、わたしに迫ってくる。

 太陽を飲み込む暗澹が、ゆっくりと、降りてくる。

 

「これで……おしまい、です。《ジ・エンド・オブ・ユニバース》で攻撃する、時に」

 

 終末が産み落とされる。銀河は胎、星々は仔。

 生誕する命の輝きの一粒一粒が、絶望。それが集い、狂気の奔流となって、滑り落ちてくる。

 

 

 

「メガメテオバーン――」

 

 

 

 

 理解を越えた終焉が訪れようとしている。

 終わりを告げる言の葉。その祈りのような呪いの祝詞が紡ぎ終わる――

 

 

「――あ、が……っ!?」

 

 

 ――ことはなく。

 代海ちゃんは、苦しそうに嘔吐き、崩れ落ちた。

 

「!? 代海ちゃん!?」

「あ、ァ、アア……お、かあさま……う、うぅぅ……! ぐ、かはっ、あぐ、げほっ、ごぼ、かふ……っ!」

 

 血走るほどに目を見開いて、黒いものを吐き出して、黒ずんだ肌はぶくぶくと泡立ち、膨れ上がり、破裂し、また膨らんで、壊れて、膨張と収縮を繰り返している。

 明らかな異常。けれどなにが起こっているのか、なにをすればいいのかは、やっぱり、わたしにはわからなかった。

 

「くる、くる、くる……お母さまが、また、アタシに、ち、近づいて……来てる……! お、起きちゃう、目が、さ、めちゃう……ダメ、でちゃ、でちゃう、ダメ……!」

「し、代海ちゃん……だいじょ――」

 

 自分自身を抱きしめて、ガタガタと身体を震わせて、けれども耐え切れなくなって、すべてをぶちまけてしまう。

 とても苦しそうで、痛ましくて、見ていられないほどに狂気的。

 なにもできないとわかっていても、思わず手を伸ばさずにはいられなかった、けれど。

 

 

 

「姫!」

 

 

 

 

 誰かが、間に割って入った。

 白い髪をたなびかせた、男の人。彼は黒ずんでいく代海ちゃんを、大事そうに抱える。

 さらにどこでもない、どこかの虚空へと叫んだ。

 

「メルクリウス! シリーズ!」

「なのでーす! メルちゃんとうちゃーく!」

「来たわ」

「え……っ!?」

 

 どこからともなく、またふたり、現れた。

 片方は……見覚えがある。青い髪の、小さな女の子。確かあの子は、ユーちゃんたちを……

 もう片方の女の人は、はじめて見る。超然とした佇まいで、とても、不思議な雰囲気の人だ。

 この人たちは、一体……?

 

「残りふたりに応答は?」

「リオくんは相変わらずなのです。ディジーさんは現在地がちょい遠いのでしょうかね」

「了解した。シリーズ、姫の容態は?」

「女王の覚醒が進んでいるだけよ。器が脆いだけ。刺激しなければ問題ないわ」

「ならば迅速に姫を連れて帰還する。メルクリウス、シリーズ。頼んだぞ」

「了解なのです! メルちゃん特急便、安心安全面白おかしくお姫さまをお連れするのです!」

「私が運ぶわ」

 

 女の人が、代海ちゃんを抱え上げる。

 

「あ、待って……!」

 

 彼女はこちらを一瞥して、けれどもなにも言わずに女の子と共に去って行ってしまう。

 行ってしまう。代海ちゃんが。ようやく、会えたのに。

 思わず、手を伸ばす。

 

「代海ちゃんを、連れて行かないで――!」

 

 けれどその手は届くはずもなく。

 虚空を掴んで、無為に消えていく。

 

「マジカル・ベル――伊勢小鈴」

 

 残った男の人は、わたしの行く手を阻むように、立ち塞がった。

 けれど務めて穏やかに、彼はどこか恭しく語りかける。

 

「私は【死星団】、Ⅰ等星のミネルヴァ・ウェヌス」

「シュッベ……ミグ? それ…………」

「姫は貴様に剣を向けることを望んでいない。故に、我らも今、貴様と事を構える気はない」

 

 な、なに? どういうこと?

 この人は何者? なにを言っているの……?

 

「貴様を()()するのは最後だ。女王が目覚める終わりの時。貴様は最後の賓客として迎え入れよう」

「保護……賓客……? あなたは、なにを……」

「これ以上は語るに及ばず。私も姫の傍に付かねばならない」

 

 ミネルヴァと名乗った男の人は背を向ける。

 呆然と、立ち尽くす。

 ……行っちゃった。

 せっかく、会えたのに。また、ふりだしだ。

 代海ちゃんは、自分を殺してと懇願した。

 そんなこと、できるわけないんだけど、でも、あんな苦しそうで、辛そうで、悲しそうな代海ちゃんは見てられない。

 だけど代海ちゃんに、わたしの声は届かない。わたしの手も届かないところにいる。

 光が閉ざされたようだった。暗い闇の宙に放り込まれたみたいに、標を失って、どうしたらいいのかわからない。

 『ハートの女王』……だっけ。帽子屋さんも言っていた。世界を滅ぼすなんて全然ピンとこないけど、代海ちゃんの様子からして、それがデタラメとも思えない。たとえ誇張だったとしても、絶対に悪いことが起きるという確信がある。

 だからといって、もう今のわたしに、それを止める手立てはない。代海ちゃんは行っちゃったし、それだけの力も、わたしには――

 

 

 

「――しょぼくれてんなぁ、マジカル・ベル」

 

 

 

 不意に、声を掛けられた。

 男の人の声。だけど、まったく聞き覚えがない。

 振り返るとそこには、黒い影のように佇む、男の人が、ひとり。

 

「だ、誰……!?」

「そう身構えるな、つっても無理な話か。まあ警戒するのは勝手だが、話くらいは聞いてけよ」

 

 男の人は自然な足取りでこちらに歩み寄ってくる。

 な、なんだろう。不気味な感じはするし、ちょっと怖い、けど。

 この人はなにか知っている。そしてそれはきっと、わたしが知りたいことで、わたしがやるべきこと、やりたいことに、強く結びついている。

 そう思えた。

 

「まずは名前でも名乗っておくか。俺の名はディースパテル。【死星団】がⅢ等星(トリステラ)、ディースパテル・セレーネだ」

「【死星団】って……さっきの人の、仲間……?」

「ふん、仲間、か。同じ母ちゃんの腹から生まれたって意味ならそうだが、目的が同じ連中ってわけじゃねぇ。少なくとも俺は、あいつらと血を分けたつもりはあっても、仲間と思ったことは一度もねぇ」

「……?」

「細かい話は後回しだ。姫さんに掛かりきりでメルクリウスの監視が外れた今が、お前と接触できる絶好のチャンスだからな」

 

 ここだけは逃せねぇ、とディースパテルさん? は呟いて、わたしの目の前で足を止める。

 

「とりあえず単刀直入に、俺から提案だ。マジカル・ベル」

 

 吸い込まれそうなほどの黒い瞳で見下ろされる。

 その黒々とした眼差しはとても深くて、まるで底が知れない。底があるのかもわからないほどに。

 なにを宿しているのかも不確か。野望も意志も、隠蔽するように塗り潰されて、零に至ったような深淵が、こちらを覗き込む。

 

 

 

 

 

「――俺と手を組まねぇか?」




 代海の使用したデッキは、作者が超天篇の頃にわりと愛用して遊んでたメタリカユニバース。白単那暮の基盤を流用して、メタリカ4体揃えてエメスレム・ルミナリエ、サクスメロディ出せば5体GR召喚してちょうど10体、ケイヴがいればそのままユニバース、マシンガントーク捲ればアンタップしてそのままドーン! ってデッキ。
 今時のメタリカなんて鬼羅Starって感じでクリスタバーナインの基盤は時代遅れ感ありますが、遊ぶ分には楽しいです。ケイヴ、エメスレム・ルミナリエ、サクスメロディ、マシンガントークと、カード同士の噛み合いが凄く綺麗でとても良いです。でもユニバースがマクーロで回収できないので、マナ置きやハンドキープが意外と面倒くさかったり。バーナインは手札が溢れる印象あるけど、減らさないだけで別に増やしてないからねあいつ。ユニバース狙えそうになかったら、サヴァクティスと物量で殴り倒すとかよくします。というかぶっちゃけそっちの方が強いまである。
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