「《勝災電融王 ギュカウツ・マグル》をバトルゾーンへ!」
――酷いことになった。
踏んでしまったトリガーにげんなりしつつも、謡は自分の肝が冷えるのを感じる。
順調にジョーカーズを展開し、4ターン目で《ダンガンオー》を走らせ殴りきれるかと思ったが、勿論そんな甘いことなんてない。
叩き割った5枚のシールドから1枚、《俺たちの夢は終わらねぇ!》がトリガーし、コスト8以下のアウトレイジが登場。そして出て来たのが、
「《ギュカウツ・マグル》の能力発動! 山札から4枚を捲って、その中からコスト合計9以下になるよう多色クリーチャーを踏み倒すのです! 《DISノメノン》と《仙祖電融 テラスネスク》をバトルゾーンへ! 《テラスネスク》の能力で、手札から《ウマキン☆プロジェクト》をプレイ! 2回分のEXライフに1回分のバズレンダ! シールドを2枚追加、山札から2枚見て、それぞれ手札とマナへ! さらに《ギュカウツ・マグル》と《テラスネスク》のEXライフでシールドも回復なのですよ!」
これである。
「うわぁ、酷いカウンター……流石に《ダンガンオー》一本で殴りきるのは辛いなぁ」
そんなことはずっと昔からわかっていた。速度と安定性はあるが、トリガーケアもできない単調なワンショットキルでしかない。
だからこの結果は仕方ないものではあるのだが、
「それではこちらのターン! 《妖精 アジサイ-2》と《DISノメノン》を召喚なのです! 《ウマキン》でパワード・ブレイク・レベルⅡ! 2枚ブレイク! 前のターンに出て来た《DISノメノン》で1枚ブレイク! 《テラスネスク》でWブレイク!」
「ヤバイヤバイ……! えぇっと、純無色ジョーカーズの受け札は……」
速度と安定重視で速攻気味に組んだので、受け札なんてほとんどない。
どうこのデッキを組んだか思い出しつつ、吹き飛ばされていくシールドを捲っていき、
「……あった! スーパー・S・トリガー! 《タイム・ストップン》! 《テラスネスク》のEXライフを消費させて、このターンの攻撃は中止!」
「早いデッキへの対策として差していて良かったですね」
「まったくね。じゃあ、盤面処理も疎かにされたし、殴りきるよ。2体目の《ダンガンオー》を召喚! 《ヤッタレマン》で《ギュカウツ・マグル》のEXライフシールドをブレイク!」
ここでまたトリガーを踏んで《ギュカウツ・マグル》から展開されたどうしようかとも思ったが、何度も同じことが起こることもなく。
「《ダンガンオー》でダイレクトアタック!」
「メルル~!」
気の抜けるような声で少女は吹っ飛ばされ、水泡のように消えていった。
そこで謡は、大きく息を吐く。
「くっ、はぁ、はぁ……! キッツ!」
謡とスキンブルシャンクスが向かったのは、『幻想海洋都市ティマイオス』の北部。超高層ビルの一角にあるオフィス。
受付から、階段から、会議室から、エレベーターから、あらゆるところから、量産型メルクリウスが湧いてくる。
片っ端からそれらを撃退しているのだが、とにかく数が多い。まだ作戦は始まったばかりだと言うのに、かなり疲弊してきた。
「しかもカード資産を複数のデッキに分散してるから、デッキひとつひとつの完成度がいつもよりも落ちてるし、そうでなくてもこの強さのプレイヤー相手に連戦って、下手な大型大会とかよりキツいんですけど……! 店舗大会くらいしか出たことないけど!」
「とはいえ俺たちは二人組、休憩しながら継戦可能な上、その間にサイドボードの入れ替えも可能。他の方よりかなり楽な道です」
「デュエマにサイドボードなんてないけどね!」
「むしろ俺たちが頑張らなくてどうするのです、謡」
「君に正論言われるとなんか腹立つんだけど」
「俺はそんなに屁理屈こねるキャラではないはずですが。もっとも、我々の
軽口を叩きながらオフィスの階段を駆け上がる。
そして、恐らく最上階。やけにデカデカと強調された「社長室」のプレートが掛かった重厚な扉。
それを蹴破るように押し開けると、中は樫の木のデスクがひとつ。赤いカーペットにガラス張りの部屋だった。
「うわぁ、これ漫画とかでよく見る場所だ」
ガラス張りの壁から地上を見下ろす。もっともここは海底、下界を地上と呼ぶことが正しいのかは疑問だが。
ここにも量産型メルクリウスが配置されているのかと思ったが、誰もいない。デスクを漁ってみるが、天板にも引き出しにもなにもない。
「うーん、ここはハズレかな」
「そのようで」
「また別の場所を探さなきゃね。はぁ、敵を蹴散らすだけでも意味があるとはいえ、大都市のビル群をひとつひとつ虱潰しで調べて探し人を見つけるなんて、非効率的を通り超して非現実的だと思うんだけど……なにかギミックでも隠されているのかな。あの子、曲者っぽそうだし」
「そうですね。しかし俺としては、あの量産型メルクリウスとやら、どうも弱すぎるような気がするのですが。あれが霜様や実子様が討たれるほどの相手なのでしょうか?」
「コピー品らしいし、本家より劣化してるとかはあるんじゃない? 正直私たちだってギリギリだから、決して雑魚じゃないよ」
「それもそうなのですけど、仮にも女王の眷属がこの程度ですか……」
「倒せる分には好都合だよ。さ、ここにはもう用はないし、次のとこ行こ」
海洋都市はあまりにも広大だ。少しでも早く、探索を進めなければならない。
踵を返し、謡は社長室を後にしようとする。
「! 謡!」
「へ?」
謡はスキンブルに引っ張られ、抱き寄せられる。
直後、謡が踏み出そうとしていた床が、爆散した。
「無事ですか? 謡」
「っ、スキンブル……あ、ありがと」
「いいえ。しかしまったく油断も隙もない。ダイレクトアタックは対戦中だけにして頂きたい……おや」
「げっ、なにあれ!?」
濛々と立ち込める砂煙から、小さな腕が現れた。
見るからにホラーなそれは、断面が放電しており、まるでなにかに吸い寄せられるように高い天井まで昇っていく。
「ロケットパンチ!? はじめてリアルで見た……」
「などと言っている場合ではございませんよ」
天井に張り付くようにして、それはいた。
こちらに発見されると、それはドサッと落下するように降りてくる。
そしてそれは、謡たちの知る人物、のようなものだった。
「これはこれは公爵夫人様……の、偽物でございましょうか?」
「なんか、様子違うね。というか、な、なに、この姿……?」
半分くらいは、公爵夫人と言えよう。しかしもう半分は、量産型メルクリウスだった。
公爵夫人は長身でスタイルの良い女性だったが、片腕や片足だけが女児のように不自然に短く、乳房も片方は豊かなのに、片方は真っ平ら。目の色まで左右で違う。
まるで公爵夫人のパーツをすげ替えて、そこに量産型メルクリウスのパーツを継ぎ接ぎしたような、奇怪な異形だった。
接合部は放電しており、撃ち出された腕は彼女の右腕へと収まる。
「き、気持ちわるっ……! あ、あの人、なにされちゃったの……!?」
「……腐っても元ご主人。俺の同族であり、真なる産みの親のようなものです。あまり、このようなことをされるのは気分がよくありませんね」
公爵夫人のようなものは、顔の右半分で少女のように微笑み、左半分で憎悪と憤怒に塗れた貌を作る。そのあまりにも歪な在り様に、謡は正気を失いそうになる。
「選手交代です、謡。次は俺の番でしょう」
「……大丈夫?」
「腕に自信はありませんが、ここは多少の意地を通すということで」
謡を下がらせ、前に出るスキンブル。
相手は公爵夫人のようなもの。もし実力が公爵夫人と同等であるなら、とても敵う気もしないが、それ以上に。
「しかしこのような、フランケンシュタインも仰天するような怪物を生み出していたとは。メルクリウス・エノシガイオス、想像以上に悪趣味な娘だ。ここに配置された守護者ならともかく、俺たちに対して、あえて公爵夫人様をあてがったのだとすれば……」
気持ちが掻き乱される。縁のある相手の、異形の姿を見せられ、心が揺さぶられる。
元主人と決別し、そのようにあると覚悟を決めたチェシャ猫でさえ、まったく動揺がないわけじゃないのだ。
そして恐らく、これと同じようなことを、メルクリウスはやる。自分以外にも。
「……他の方は、大丈夫でしょうか」
☆ ☆ ☆
ヤングオイスターズ、アギリが向かったのは海洋都市西部。
他にビルとは趣の異なる建造物に侵入し、量産型メルクリウスを討ち倒しながら、奥へと進んで行く。
しばらく歩くと、だだっ広い空間に出た。
天井は高く、半球のドーム状となっている。
部屋の中央に投射機のような機械が設置され、それを取り囲むようにいくつもの座席。
「ここは……プラネタリウムか」
アギリを観客と認識したのか、投射機が動き始めた。
室内に映し出される宇宙空間と、満天の星々。それらを繋ぐ星座たちが、移り変わり投射されていく。
「宇宙……星の海、か」
そういえば、と思い出す。女王は遥か遠くの宇宙から飛来した存在であると。
この星にあるべきものではない存在。ここに映し出されている宇宙は虚像でしかないが、本来なら女王は、そこにあるべきなのである。
あるべきものはあるべき場所に、などとは言えない。それは自分たちも同じだからだ。
女王がいなければ、【不思議の国の住人】は存在し得なかった。そうあるべし、という型から外れたが故に、今の自分の生がある。
「だから俺たちは、あるべき姿、という自然主義には同意できない。それは今の俺たちを否定することになるから……だが、あるいは、だから」
アギリは振り返る。そして、見つけた。
広いプラネタリウムの最後方に、それはいた。
「今のあなたを肯定することはできない。その原理的な在り方も、人為的な変革も、俺は認められない……なぁ、姉さん」
それは黒々とした肉塊だった。
辛うじて人のような造型はあるが、膨張した黒い肉は絶えず溶け出し、泡立ち、爛れている。
――ヤングオイスターズ、長女。あるいは、アヤハと呼ばれていた誰か。
寿命を迎え、それでも死ぬことを許されず、無理な先祖返りによって
そして、アギリの探し人でもあった。
「また会えたな、姉さん」
アギリの呼びかけに、肉塊はなにも答えない。いや、なにか声を発そうとする素振りは見せるが、もはや声帯すら潰れている。
ただゴポゴポと、溶け出した肉が不快に泡立つ音を響かせるだけだ。
だとしてもこれは、確かに自分の姉だったものだ。こうして向き合えば、わかる。
アギリが今まで諦めなかった理由。諦められなかった訳。絶望的であっても、仲間を集め、反逆と反抗の志を失わず、苦境でも足掻くことができた――目的。
それはすべて、ヤングオイスターズの長女たる彼女と出逢う、この瞬間のためだった。
「この前は慌ただしくて相手をする余裕もなかったが、今回は違う。悲しいが好都合なことに、ふたりきりだ」
兄弟姉妹の声も聞こえない。
本当に、姉と弟。たったふたりの世界。
投射された宇宙は深海のように暗く、淡い光も立ち消えそうなほど深い。
「あの餓鬼が狙って差し向けたのかはわからないが、この采配には感謝しよう」
不愉快ではあるがな、とアギリは姉だった肉塊へと近づいていく。
肉塊も、ぐちゃぐちゃと音を鳴らしながら、アギリへと向かっていく。
「もう喋ることもままならないか。そんな姿になってしまえば、救うなんて言葉を掛けるのも残酷だな。介錯するにも遅すぎる……すまない」
謝罪を述べる。しかし肉塊からの反応はない。
理性すら消失し、すべてが壊れた、黒い仔山羊の果ての果て。
なにもかもが手遅れだが、せめて家族としての情と、弟としての義務で以て、彼女を討つ。
そしてアギリは、己の“目的”を果たすのだ。
「行くぞ、姉さん。俺は今から、あなたを――引きずり下ろす」
☆ ☆ ☆
「おらぁ!」
「メルメル~!?」
眠りネズミが担当するのは、海洋都市南部。
なんとなく騒がしそうなビルへと突撃したら、そこは大型複合アミューズメント施設。簡略化して換言すれば、ゲームセンターだった。
大量の量産型メルクリウスが、奇声を発しながらゲームをしている様は悪夢のようだったが、そんなものは気にも留めず、眠りネズミは量産型メルクリウスたちを一網打尽にしていった。
「今日は調子が良い、あんま眠くねーんだ。三下どもは引っ込んでな!」
「流石だね、ヤマネ」
「あん?」
量産型メルクリウスたちをすべて蹴散らしたところで「関係者以外立入禁止」の張り紙がされた扉から、誰かが出て来る。
眠りネズミのことを、人間としての名で呼ぶ者はほとんどいない。それに、この声は――
「ソウ……!」
少年のようでありながらも、少女のようにも見える端正な顔立ち。華奢な矮躯。それは。
――水早霜。
「……じゃ、ねーな。誰だよてめぇ」
では、なかった。
確かにそれは、水早霜のようであった。少年のようでもあり、少女のようでもあり、端正な顔立ちで、体つきも華奢だった。それもそのはず。
しかしその結果、全体的なバランスはあまりにも歪であり、不自然な出来となっている。
極めつけは、接合部から漏れ出しているモザイク状の光。如何にも、適当に混ぜましたと言わんばかりの造型だった。
「誰って、ボクはボクだよ」
「パチモンがぬかすんじゃねーぞ。僕のマイメンはそんなキモくねぇ」
「酷い暴言だな。まあいいよ。せっかくこんな場所だしね、一緒に遊ぼうじゃないか、ヤマネ」
「遊びだぁ?」
ふざけんな! と切り返しそうになるのを、眠りネズミは寸でで押し留まる。
「……いいぜ、乗ってやんよ」
「流石、ノリがいいね。デュエマでいいよね? ボクらのゲームっていったらさ」
「おう」
両者ともにデッキを取り出して、向かい合った。
「さて、覚悟しろよ。パチモン野郎」
「覚悟? なにをだい?」
「んなもん決まってんだろ」
眠りネズミは、中指立てて、憤怒の形相で、霜らしき誰かをにらみつける。
「人の大事なダチのツラ弄くり回してごちゃごちゃほざくんだ。死ぬまでぶん殴られる覚悟しろつってんだよ――!」
☆ ☆ ☆
「ここは……図書館?」
みんなと違う方に走って、目に付いた建物を片っ端から調べている最中。
次に辿り着いたのは、たくさんの本が収められた場所。わたしにとっても馴染み深い、図書館だった。
人は誰もいない。試しに、適当に本棚に収められている本を抜いてみる。
「……ふつうの本、かな?」
水の中なのに読める本っていう時点でふつうじゃない気がするけど、それはそれとして。
やけに薄い漫画本? とか、ライトノベルみたいな小説が多いけど、本自体に変わったものはあまりない。
だけど、たまにまったく読めない本がある。まるでこの世界とは別の文字で書かれてるみたいな……装丁も変だし、気分が悪いからすぐに戻したけど。
「静かだね」
「うん。ここにはあの子たちはいないのかな」
量産型メルちゃん、だっけ? どこからでも湧いてくるから油断はできないけど、今のところ気配はない。
「……入り組んでるなぁ」
しばらく図書館内を歩いてるけど、本棚の配置が適当で、むしろ本棚そのものが壁みたいなってるから、すごく歩きづらい。
「本を抜いて、本棚の隙間から通り抜けてみるのは?」
「わたしの体型じゃ無理かな……みのりちゃんくらいスラッとしてたらできたかもしれないけど」
というかそもそも、この本棚は奥行きが空いているタイプじゃなさそうです。
うーん、図書館というか、これじゃあまるで迷路だよ。
「……あ、そうだ」
「なにか思いついた?」
「うん。今なら、ガイハートくらいなら自由に出し入れできるから……」
わたしがクリーチャーに近づいた影響? かなんなのか、最近、デュエマ中じゃなくても、ちょっとだけカードを実体化させられるようになりました。
と言ってもクリーチャーを実体化させるようなことはできないんだけど、武器であるガイハートなら、ギリギリどうにか。
ぶんっ、とガイハートを呼び出す。すごいギザギザしてるけど、これでも剣。これで……
「やっ!」
本棚を、斬り倒す。
「よしっ、斬れた!」
「なるほど、壁を壊して迷宮を踏破するというわけか。実に火文明(僕たちらしい」
「これで進んで行くよ!」
とにかく手当たり次第に、バッタバッタと本棚を斬っては捨て、斬っては捨てていきます。移動が制限されないから、すごく進みやすい。
そうやって進んで行くと、奇妙な本棚を見つけた。
「……? なんだろ、これ。四方を囲んでる……?」
その本棚は、ロの字に配置されていて、少し変な置き方だった。
いや、既に本棚を壁にして迷路にした配置ってだけで変だから、今更なんだけど……
「まるでなにかを隠してるみたいな置き方だね」
「そうだね……斬ってみようか」
本当は、本を斬るなんて気が進まないんだけど、水没してるし、紙もびちゃびちゃだし、現実とは違うだろうし……ごめんなさいと思いつつ、斬り倒す。
本棚の扉をこじ開けると、中には、蹲った女の子が、ひとり。
この子は……!
「! みのりちゃん!」
蹲ってて顔はよく見えないけど、あのポニーテールの感じは、みのりちゃんだ。こんなところに閉じ込められていたなんて……!
いてもたっても居られず、思わず駆け寄る。そして、その顔を覗き込む。
「……待ってたよ、小鈴ちゃん」
「みのりちゃ――」
彼女は顔を上げ、手を伸ばす。
そして、
「――っ、誰!」
その手を、思わず切り落としてしまった。
「……いったいなぁ。いきなり斬るなんてバイオレンスだよ。まあくっつくからいいんだけどさ」
バチバチと、切り落とされた腕の断面が、放電している。
それは浮かび上がり、引き寄せられるように、元の場所へと、接合された。
「みのりちゃんじゃ……ない? あなた、誰……?」
「いやぁ、私は香取実子なんだけどねぇ。だいたいあってるでしょ? 見た目的に?」
だいたいあってる。本当に?
確かに全体的にみのりちゃんっぽい、スラッとした体型の女の子、だけど。
明らかに、胴の長さに対して手足の長さが不自然だった。まるで、もっと小さな女の子――量産型メルちゃんみたいな……
「……うっ、くぅ」
そのおぞましさに、吐き気を催す。
よく見れば、肌の色も微妙に違う。それはみのりちゃんのようであって、違うものだ。
みのりちゃんに、別の女の子の、量産型メルちゃんの身体が、接合されている。
その接合部からは電気が迸り、歯を噛み合わせた留め具で繋げられ、異質さを強調していた。
「みのり、ちゃん……!」
「そんなに何度も呼ばないでよ、ハズいじゃん」
その声は、みのりちゃんだけども。
歪に変じられた姿は、とても、見ていられるものじゃなかった。
「……本物のみのりちゃんは、どこ?」
「んー? どこもなにも、私は私だよ?」
「ふざけないで! あなたは、なんなの!?」
「あはは、なんだろうね。哲学的な問だなぁ」
いくら声を掛けても、まともな回答が返ってくることはない。
……まさか、本当のみのりちゃんが……
ディースさんの話によると、囚われた人たちに手を出すことはないって話だから、そんなはずはない、と思うけど……
「…………」
「浮かない顔だね。あ、そうだ。デュエマしようよデュエマ。気分が沈んでる時は遊ぼうよ、そうすれば多少は気も晴れるって」
遊ぶ、か。
そんな気分でも、そんな状況でもない。
こんな姿のみのりちゃんと遊びたいと思えるような神経はしてない。
……でも、これは。
「わかった、やろう」
「お、食い付いた。結構ノリ気じゃーん」
「うん……わたしだって、怒るんだから」
「ん? 怒る?」
「そうだよ」
握り締めた剣を手放して、カードに戻す。
そして、デッキをひとつ、手に取った。
よく、おとなしい子だとか、自己主張が乏しいとか、言われてきたけど。
「そんな風に友達を侮辱されて、黙っていられるわけがない!」
ちょっとだけ――暴れてやりたい気分だよ。
スキンブルと公爵夫人(らしきもの)、アギリとアヤハ(だったもの)、ネズミくんと霜(みたいなもの)、小鈴と実子(のようなもの)。
マッチングにメルクリウスの悪意が透ける。