「……なんだ? あのキメェキメラ」
モニターに映る、量産型メルクリウスと混ぜられた者共の異形の姿を見て、ディースパテルは怪訝に目を細める。
「なんだって、あたしの作品なのですよ。さーくーひーん」
「作品だぁ?」
「ほらぁ、お姫さまのせいで素体そのものを弄るとミーナさんに怒られるじゃないですか。なので、仕方なく肉体データをコピーして混ぜることにしたのですよ」
「はぁん。成程な」
「まあこれはあくまで習作、プロトタイプなのです。素体そのままを使う許可が降りたら、その時は傑作を創り上げるのですよ」
「許可出るかぁ? しかしあのキメェラ共……」
「その呼び方やめてくれないです?」
「呼び方はさておき、あいつらなんか弱くねぇか?」
「まあ習作なので。素体が弱い以上は、出来上がりもまあ貧弱なのですよ。人間って貧弱ぅ。あたしのコピーを混ぜてようやく実戦レベルなのですからね」
「水早霜や香取実子はともかく、公爵夫人は素体としては強力そうだけどな」
「彼女の意志が協力的ではないので。コピーなのに頑として力を貸してくれないのですよねぇ、あの人。無理やり繋げて強制的に力を徴収して、ようやく出力が2割ってところなのです。まともに実用させるには、もうちょっと壊さなきゃ……出力も伸びないし」
「ふむ……出力っていうなら炉心の問題かもな。それに公爵夫人は、恐らく女王サマとの相性が悪い。肉体的には近くとも、公爵夫人“らしさ”が色濃く残るほど、女王への反逆性で反発するだろうさ」
「なるほどぉー。そもそもの相性がダメってことなのですね。だったらこっちも廃棄……でもそれはちょっともったいないのです。そのへん込みで調整できないかなぁ……」
と、メルクリウスはモニターに向き直る。
その背中を見つつ、ディースパテルは思う。
(……まあ根本的な問題はそこじゃねぇだろうがな)
原因となる素体はそちらではないと思いつつ、メルクリウスの表情を窺う。
楽しそうだ。それに、まだ余裕綽々である。
(少しまずいか……? 想定よりメルクリウスの負荷が小さい。もっと処理に掛かりきりになってなきゃ、“あいつ”を呼び込めないな)
消耗戦になったら、マジカル・ベルたちが圧倒的に不利なのは明白だ。『ティマイオス』で戦う者共にはもっと頑張ってもらわなければならないが、メルクリウスを処理落ちさせるには、如何せん数が足りない。
せめてあとひとりは頭数が欲しかった。あるいは『ティマイオス』で、もっと想定外のこと、あるいはメルクリウスの興味を引くような出来事でも起こればいいのだが。
「とりま量産型メルちゃん折衷版公爵夫人様の調整はこんなもんにして、あとはあのクソ生意気だったお子様ふたりの調整も今のうちに……」
「ヤングオイスターズの方はいいのか?」
「あー、あれなのです? あれはもう廃棄なのです」
「廃棄?」
「えぇ、ちょっと弄りすぎて“壊れて”しまったので」
事も無げにメルクリウスは宣う。そのついでと言わんばかりに、モニターを新しく表示させた。
そこに映し出されているのは、ふたりのヤングオイスターズ。ヤングオイスターズ唯一の生き残りであるアギリと、かつてアヤハと呼ばれていた黒い肉塊が対峙しているところだった。
「わりとよく運用してたようだが、壊しちまったのか」
「まあ元から潰れかけだったものを回収してリサイクルしただけのゴミですし、どうでもいいのですけどね。そのまま処分するのも勿体ないし面倒くさいので、せっかくだから弟さんに処理してもらおうかなって。ほらやっぱり、家族なら自分の手で引導を渡したいものでしょう?」
「さてな、俺にはそういう感覚はわからねぇよ」
「くふふっ、同感なのです。それに今は、他の製造もしているところ。ダメになったお姉さんなんてただの前座なのですよ」
「そうかよ。前座ねぇ」
モニターに映るヤングオイスターズ――長男であり、二番目の彼。
沈着冷静で意志堅固。しかして何者にも成りきれていない青年。
貶められた姉の姿を前にしても、冷ややかさを崩さない彼であったが、しかし今この時に限っては、彼はどこか必死だった。
それはメルクリウスを討とうという気概でもなければ、囚われた仲間を救おうという慈悲でもなく、賊軍の責任感でもない。
なにか別の目的を持って、この戦いの渦中に身を置いている――彼にしか理解できないような、なにかがそこにあるかのように。
「……まあ当人にとってどうなのかは、外野の俺たちが預かり知る話じゃねぇな」
「なにか言ったのです?」
「いや、なんにも。関係ねぇさ、俺たちにはな」
そう、関係ないのだ。
自分たちに関わるのは、あくまでも勝敗の結果のみ。そこになにを見出すかなど、どうでもいいことだ。
「……おっと? でもなんだか、いい雰囲気なのですね?」
「あん?」
「ヤングオイスターズのお兄さん。彼はとっても気丈で、冷静沈着。反乱分子を纏め上げて、あたしの眼から逃れて、絶望の中でも戦い続けられる逸材なのですよ」
「まあ、そうだな」
「だからこそ、ここでぎゃふんと言わせたいのです」
「ぎゃふん」
「てってーてきぶちのめしたいのですよね。心も気骨も滅茶苦茶に、情緒もプライドもハチャメチャに。一番大事なところを、削って削いで磨り潰す……そうやって暗い海の底にねじ伏せてやるのですよ。哀れな若牡蠣たちにはお似合いの場所なのです」
「……そうかよ」
どうもメルクリウスとしては、アギリのことが気に入らないらしい。
心を乱さず、メルクリウスの世界への監視の目を掻い潜り、仲間を失いつつも諦めることなく戦ってきた男。
確かにそれは、メルクリウスの気位を揺さぶることだろう。彼女の底意地の悪い逆鱗に掠ってしまったようだ。
「壊したとはいえお姉さんはあたしのコントロール下……調整はいくらでも利くのです。くふふふ!」
邪悪に微笑むメルクリウス。
彼女が見つめる先で相対するのは、ふたりのヤングオイスターズたち。長女と長男。一番目と二番目。
遥か遠くの悪意など露知らず。そこに立つ彼は、ただひとつの目的のために、戦い続けていた――
次回、アギリvsアヤハ。
サイドストーリー的にちまちま描写してたアギリの物語に、決着がつく。