デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 勉強会とは、勉強をする場ではない。


11話「お勉強会だよ」

 こんにちは、伊勢小鈴です。烏ヶ森学園中等部に通う中学一年生です。

 特に取り得もないし、教室の隅っこで目立たないような生活を送っていたわたしだけど、そんなわたしにある日、大きな転換点がありました。

 それは、不思議な喋る鳥さん、そして、デュエマとの出会いでした。

 クラスメイトの日向恋ちゃんや、恋ちゃんのお兄さん的な人である剣埼一騎先輩にデュエマを教えてもらって、わたしの世界は大きく変わりました。

 それと合わせて、わたしは鳥さんによって、この世界に現れる“実体を持ったクリーチャー”について知ってしまいます。

 曰く、鳥さんは本来の力を取り戻すために、他のクリーチャーの力を得る必要がある、らしいです。正直、よくわかりませんが。

 ともかく、そんな鳥さんの力で、わたしはふりふりの恥ずかしい格好をさせられながらクリーチャーとデュエマで戦う日々を送ることになってしまったのです。

 普通とも平凡とも程遠い人生になっちゃったけど、でも、いいこともたくさんありました。

 ドイツから日本に渡ってきたユーリア・ルナチャスキーちゃんや、女の子よりも女の子らしい男の子の水早霜くん。それまでのわたしなら、絶対に出会うことのなかっただろう友達と、出会うことができました。

 中学に入ってから初めてできた友達、香取実子ちゃんとも、もっと仲良くなることができました。

 はっきり言ってこんな生活は大変だし、クリーチャーと戦うための格好は恥ずかしいし、こんな物騒なこと、やめられるものなら今すぐやめたいけど。

 鳥さんや、デュエマのお陰で、楽しいこともたくさんあった。

 だからも、うちょっとだけ。

 こんな、はちゃめちゃな毎日でも、続けていこうと思います――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 突然ですが、今日は前々から計画していたお勉強会を開こうと思います。

 ……いや、前々から言ってたんなら、突然じゃないか。

 それはさておき、成績に悩む恋ちゃん、ユーちゃん、霜ちゃんのためのお勉強会です。場所は、恋ちゃんが家を提供してくれるとのこと。

 図書館とか、学校の図書室とかにも勉強スペースがあるし、参考書も置いてあるからいいと思うんだけど、他の人もいるから気兼ねなくできるっていうのは、いいことだよね。特に、ユーちゃんはちょっと元気すぎるところがあるし……

 筆箱と、教科書にノート、それからお姉ちゃんから借りた参考書をいくつか鞄に詰め込む。他に必要なものは……

 

「……ん?」

 

 その時、無意識に机の上に置かれたデッキケースを取って鞄に入れていた。

 なんか、もう完全に身体に染み付いちゃってるなぁ。

 もしもという時に必要かもしれない、なんて大抵の場合は単なる空想でしかないけど、残念ながらわたしには、その“もしも”が存在してしまうから、それを考慮して持って行く理由が存在してしまう。

 それを差し引いたとしたら、今日の目的を考えれば、どうなるか。

 

「いや……まさか、ね……?」

 

 今日はお勉強会。みんな大なり小なりテストへの不安がある。もしも赤点なんてとったら、夏休みも遊べなくなってしまうかもしれない。

 流石に、こんな時まで、これを持って行く必要なんて、ないはず……はずなんだよ。

 だけど、

 

「…………」

 

 わたしは、そのまま鞄のファスナーを閉めました。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 恋ちゃんの家は、学校からそう遠くないところにあるマンションらしい。そういえばわたし、恋ちゃんの家って行ったことないな。

 みのりちゃんの家は何度か遊びに行ったことがあるし、ユーちゃんと霜ちゃんも、学支部のお手伝いでお邪魔したことがある。

 あれ? でも恋ちゃんの家って、つまりは剣埼先輩の家ってことだよね?

 確か恋ちゃんは先輩の義理の妹(のようなものと本人たちは言ってたけど)で、一緒に暮らしてるって聞いたことある。

 ……なんか、緊張してきた。

 

「――小鈴!」

「はわっ!」

 

 と、その時。

 不意に背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこには見慣れた可愛らしい女の子――じゃない。男の子、というか、友達がいた。

 

「霜ちゃん……」

「どうしたんだい? 道端で立ち尽くして」

「う、ううん、なんでもないよ」

 

 水早霜くん。男の子なんだけど、女の子みたいにかわいい、わたしの友達です。現に今も、女の子らしい服装をしている。

 わたしたちはそのまま、一緒に恋ちゃんの家に向かうことにした。

 

「霜ちゃん、その服かわいいね」

「このチュニックのこと?」

「うん。涼しそうでいいね」

「これはこの前おろしたばかりなんだよ。柄はシンプルだけど、装飾が細かくて気に入ったんだ。こことか、あとはこっちにも」

「あ、本当だ。ふりふりだね」

 

 女の子に憧れて、女の子になろうとしているだけあって、霜ちゃんはとってもお洒落さんです。

 下手な女の子よりもよっぽどかわいいと思うんだよね、霜ちゃんは。

 

「ボクのことはいいとして……小鈴」

「なに?」

「君の服装は正直、ダサい」

「だ、ダサい?」

「ダサいというか、幼いというか……垢抜けなさがありありと伝わるし、子供っぽい。もう中学生なわけだし、もう少し背伸びした格好にしてもいいんじゃないか?」

「子供っぽいって、そんなことないと思うけどなぁ……」

「自分で服選んだりしてるの?」

「う……ちょ、ちょっとは」

「その服は?」

「……小学生の時にお母さんに買ってもらったものです……」

 

 白状させられてしまいました。わたしの負けです。

 確かに、わたしはファッションとかは疎い。服選びの自信もないし、一人で買いに行く勇気もない。今でもお姉ちゃんに選んでもらうことがほとんどです。

 本当ならファッション誌とか買って、そういうことも知っておくべきなんだろうけど、日々の食事とカードと間食で、わたしのおこづかいもピンチなのです。

 なんて言い訳をしても、わたしのセンスのなさと無知さを擁護できるわけでもないのだけれど……

 と、わたしがしょんぼりしていると、霜ちゃんが言った。

 

「……今度、機会があったら一緒に服を見に行こうか」

「え?」

「他人をコーディネートしたことはないけど、ファッションに関してはそれなりに見る目はあるつもりだし、一緒に君の服を選んであげるよ」

「い、いいの?」

「いいよ。君のお子様ファッションは、ちょっと見てられないしね」

「あぅ、お子様なんて言わないでよ……」

 

 言葉は手厳しいけど、その申し出は、ちょっと嬉しかった。

 霜ちゃんと一緒に買い物かぁ。夏休みの楽しみが、またひとつ増えました。

 

「それにしても、霜ちゃんは凄いね」

「なにが?」

「だって、わたしよりもお洒落だし、物知りだし、それに、かわいい」

「っ、いきなりなにさ……」

「わたしも女の子だけどさ、わたしの知らない女の子のことをいっぱい知ってるんだもん。それって、凄いことじゃない?」

「……君は少し、流行とかファッションとかに疎すぎると思うけどね、年頃の中学生として」

「うーん、それはちょっと否定できないかも……」

「そんなことより、早く行くよ。この調子だと、約束の時間を過ぎてしまうよ」

「え? わっ、本当だ。ちょっとゆっくりしすぎちゃったね」

 

 勉強会はお昼過ぎ、午後1時に現地集合という約束だったけど、もう12時50分だ。

 これ……間に合うかなぁ?

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 案の定、遅れてしまいました。時刻は午後1時15分。結構、遅刻しちゃった。

 恋ちゃんの家は、このあたりだとちょっと有名な高級マンションだった。高級と言っても、凄く偉い人しか住めないとか、そんなに大袈裟なものではないけど。

 

「しかし大きいな」

「わたしも。恋ちゃんって、実はお金持ちだったのかな?」

「どうだろう。剣埼先輩は、両親が資産家だったらしいけどね」

「そうなの?」

「以前、話をした時に、少しだけ聞いた。雑談の中の余談みたいなものだったから、詳しくは知らないけど」

「うーん、剣埼先輩が恋ちゃんと一緒に暮らしてることと、関係があるのかな?」

「わからないけど、そんな詮索することでもないだろう。約束の時間を過ぎてしまったし、早く入ろう」

 

 すたすたとマンションに入っていく霜ちゃん。その後を追って、わたしも続く。

 

「大きいし、きれいだね。わたし、このマンションには初めて入ったよ」

「ボクもだよ。まあそもそも、家に遊びに行くような友達もほとんどいなかったわけだけど」

「あ、あはは……」

 

 それについては、わたしもあんまり人のこと言えないけどね。

 確か恋ちゃんの部屋は、512号室だったはず。エレベーターに乗って5階まで上がって、広い廊下をふらふらと探していると、見つけた。

 

「あ、ここだ」

 

 512号室だ。

 高級マンションと呼ばれるだけあって、玄関先の造りも立派……に見える。実際はごく普通のものなんだろうけど。

 流石に中の音は聞こえない。防音性はバッチリのようだ。

 

「もうみんな来てるかなぁ」

「まあ、たぶんボクらが最後だろうね」

 

 と言いながらインターホンを押す。ピンポーン、という弾むような音が聞こえて十数秒後。ガチャリと扉が開いた。

 扉から出て来たのは、小柄で華奢な女の子。日向恋ちゃんだ。

 

「こすず……そう……やっと来た……」

「ごめんね恋ちゃん、遅くなっちゃった」

「すまない」

「……まあ、別に、いいけど……これで、全員そろった……」

 

 とりあえず入って、とわたしたちは恋ちゃんに招かれて、玄関の扉を潜る。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「《解体人形ジェニー》を《夢幻騎士 ダースレイン》に進化エヴォルツィオンです! 《ダースレイン》でWブレイク!」

「あー、トリガー出ないなぁ」

「だったら《キラー・ザ・キル》でダイレクトアタックです!」

「シノビもないよ。負けちゃったぁ。やるねぇ、ユーリアさん」

「えへへ、やりました!」

 

 恋ちゃんに案内された一室――リビングには、既に二人の友達が来ていた。

 ユーリア・ルナチャスキーちゃん。ロシア生まれドイツ育ちという、わたしには想像できない外国から来た元気いっぱいな女の子。わたしたちはいつも、彼女のことをユーちゃんって呼んでいます。

 そしてもう一人。わたしが中学生になって初めてできたお友達。みのりちゃんこと、香取実子ちゃん。

 ここにわたしたち二人で、今日の勉強会のメンバーは全員そろうんだけど……わたしには、それよりも気になるものが一つあった。

 

「……なにしてるの?」

「あ、小鈴さん! Guten Tag(こんにちは)!」

「やっほー、小鈴ちゃん」

「あ、うん。ユーちゃん、みのりちゃん……じゃなくて」

 

 わたしは半分呆れつつ、テーブルの上に広げられたそれを指さす。

 

「なんでデュエマしてるの……?」

「……暇だったから?」

「先に始めててもよかったのに」

 

 というか、なんでみんなしっかりデュエマのデッキ持って来てるの?

 今日って勉強会だったよね?

 わたしの後に続いて、霜ちゃんも部屋に入ってくる。

 そこで、霜ちゃんとみのりちゃんの視線がぶつかり合った。

 

「……やっぱり、君もいるんだね」

「? どうして?」

「今さらこんなことを、しかもこんな場で言うのことでもないのかもしれないけれど、やっぱりはっきりさせておきたいんだ」

「霜ちゃん……?」

 

 どうしたんだろう。

 さっきまでの霜ちゃんと、少し感じが違う。

 

「はっきり言うよ。ボクはまだ、君が信用できない」

「……へぇ」

 

 霜ちゃんの言葉に対して、みのりちゃんはまっすぐに、けれど眼を少しだけ細めて、霜ちゃんを見据えている。

 その時点でもう、二人の世界になってしまったような感覚になる。わたしたちが軽々しく口を挟める空気じゃない。

 だ、だけど、なんだか霜ちゃんが怖いし、場を鎮めないと……

 

「そ、霜ちゃん。急にどうしたの?」

「小鈴。君は彼女と仲直りしたつもりなのかもしれないけど、それですべての問題が解決したわけじゃないんだよ」

「? どういうことです?」

「そもそも、なんで君が小鈴にあんなことをしたのか。動機もわからないし、なにが目的だったのかも不明瞭なままだ」

「あれは私の気持ちそのままだよ。私と、小鈴ちゃんの、二人の関係性の中でのお話。だから、外野が知るようなことじゃないよ」

「み、みのりちゃん……?」

「それでもちゃんと言葉にしてあげるなら、私はただ、小鈴ちゃんと一緒に遊びたかっただけ。だから、今こうして勉強会に誘ってくれたことも含め、もうそこに不満はないよ」

「仮にその言葉を信じたとしても、それだけじゃないよ。君も実態を持ったクリーチャーと関わりがあるようだけど、ボクやユーみたいにクリーチャーに乗っ取られたわけじゃないと言っていたね。その真意はなんだ」

「うーん、説明が難しいね。私もよくわからないまま巻き込まれたようなもんだし、真意なんて難しい言葉を使われても困っちゃうなぁ」

「そうやって曖昧に濁して、煙に巻こうとするんだね」

「そんなつもりはないよ? わからないことはわからないと、ハッキリ言ってるじゃん?」

 

 険悪な空気はますます大きくなっていく。

 みのりちゃんはいつも通りと言えばいつも通りだけど、それはそれで怖い。

 

「わかっている者が、わからないと濁すのは簡単なことだよ」

「ふぅむ。つまり水早君は、私にはまだなにか裏があるんじゃないかって言いたいのかな?」

「大雑把だが、端的に言えばそうだ」

「そっかぁ。でも困ったよ。そんなこと言われても、証明のしようがないからね。ないものはないんだから」

 

 やや悪戯っぽく微笑みながら言うみのりちゃん。だけど、その軽めな態度が気に入らないのか、霜ちゃんはさらに眉間に皺を寄せるだけだ。

 でも、なにも企んでいないことを証明するのは、確かに難しい。それは信用問題だから。証拠を提示してはい解決、というわけにはいかない。

 

「さてさて、困っちゃったね。こういう時にお返しに聞いてみようか。君は、私にどうしてほしいの?」

「小鈴に近寄らない、というのが一番だね。君はどこか、危険だ」

「それは無理な相談だなぁ。そんなことされたら私、また同じことしちゃうかもよ?」

「脅しのつもりか?」

「理不尽な言いがかりへの抵抗かな」

 

 バチバチと、火花の音が聞こえてきそうなほどに、二人の仲は険悪になっていく。

 霜ちゃんはずっと鋭い目をしたままだし、みのりちゃんはどこか笑っているようだけど、それでも言葉の端々は少し刺々しい。

 どうしよう、これ……しかも、なんだか話題の中心にいるの、わたしっぽいし、わたしが止めるべきなのかな……止められる気はまったくしないけど。

 

「まあ、とは言ったものの、私にはもう暴れるだけの力もないしねぇ」

「思想だけでも君は油断ならないけどね。いやむしろ、そちらの方が危ういと思えるほどだ」

「個人の思想くらい自由にしてほしいね。それともあなたは人権侵害が趣味なのかな?」

「む……」

 

 みのりちゃんに言われて、霜ちゃんは言葉を詰まらせた。

 そして、

 

「……わかった。君が行動に移さないことを非難するのは、確かに筋違いだった」

「お? 思ったよりも話がわかるんだね。ないものねだりの性悪君ではなかったんだ」

「だけど、君が暴れないという保証はない。力があるのなら、この前の二の舞になる可能性は否めないからね。せめてそのくらいはハッキリさせておきたい。頭の中の計画を止めることは無理だが、危険物のチェックは必要だ」

「人を爆弾みたいに言ってくれちゃって。と言っても私、もう本当にあの時みたいなことできないんだけどなぁ」

 

 あの時みたいなこと。それはきっと、実体化したクリーチャーのこと、だと思う。

 みのりちゃんはあの時、確かにクリーチャーを実体化させていた。だけど、それは人間に憑りついたクリーチャーとは違う感じで、わたしにとっては初めての体験で、だから、よくわからない。

 人間に憑依したクリーチャーが、人間を操って使役するんじゃなくて。

 まるでカードそのものにクリーチャーを実体化させる力が宿っていて、それをみのりちゃんが使っていたかのような。

 もしもみのりちゃんが、まだそんなことができるなら、確かに危険かもしれないけど……

 

「まあ君は私の言葉を信用してくれないみたいだし、私は信用を得るところから始めないといけないのかな」

 

 ふぅ、とみのりちゃんは溜息をつく。

 そして、さっきまでユーちゃんと対戦していた、デュエマのカードを掻き集めて、片付けている。

 

「こんな悪魔だか鬼畜だかの証明なんて、理不尽すぎて笑えてくるけど……ま、これも小鈴ちゃんと一緒にいるためだ。面倒ながらも、じゃあちょっくらやりましょうか」

 

 いや、違う。

 片付けてるんじゃなくて、まとめているだけだ。

 トントン、とひとまとめにしたデッキを整えて、みのりちゃんはそれを掻き混ぜる(シャッフル)。

 

「勉強前にもう一戦。ちょっと遊ぼうよ、水早君。証明問題、完答できる自信はないけど、部分点くらいは貰おうか」

「……いいよ。ボクもただ言いがかりをつけてるだけとは思われたくない。ここで君を見定めよう」

 

 霜ちゃんも鞄から、デッキケースを取り出す。そしてユーちゃんが退いて、みのりちゃんの前に座した。

 わたしは、なにも言えなかった。ケンカしないで、とか。そんなこと言わないで、とか。お勉強しよう、とか。言いたいことはいっぱいあった。

 それは、二人の剣幕に押されてしまったのが、半分。そしてもう半分は――

 

 

 

(なんでみんな、勉強会にデッキ持って来てるの……?)

 

 

 

 ――呆れ、だと思います。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 なんでデュエマで決着つけるみたいな流れになってるの? というわたしの疑問は「世の中、そういうもん……」という恋ちゃんの言葉に説き伏せられてしまい、みのりちゃんと霜ちゃんの対戦が行われることとなってしまいました。

 

「デュエマを始める前に、確認しておくよ。新ルールのことは知ってるね?」

「うん、知ってるよ」

「新ルール?」

「……つきにぃに渡されたメモ、忘れてた……」

「そういえば、デュエマのルールが変わるって聞いたことあります」

「そうなんだ、わたし全然知らなかったよ。どんなふうに変わるの?」

「シールドブレイクとターン開始時の処理が変更されるんだ。シールドブレイクは、今までは一枚ずつだったけど、新ルールではWブレイク以上のブレイクは同時に二枚以上手札に加わる。ターン開始時の処理は、カードのアンタップをした後に、ターン開始時に発動するクリーチャーの能力が解決される、という順序になったよ」

「え、えーっと……」

「こすず……詳しいことは、つきにぃがメモしてる……後でわたすから……」

「あ、ありがとう。でも、なんでそんなものが……」

「細かいルールなんて追々覚えていけばいいんだよ。小鈴ちゃんのペースでね」

「ともかくだ、始めようか」

「そうだね」

 

 というわけで、みのりちゃんと霜ちゃんのデュエマが始まっちゃいました。お勉強はどうするんだろう……

 ターンは、みのりちゃんの先攻で2ターン目が終わったところ。みのりちゃんは、ユーちゃんもよく使う《一撃奪取 ブラッドレイン》を召喚したばかり。対する霜ちゃんはマナチャージしかしていない。

 

 

 

ターン2

 

実子

場:《ブラッドレイン》

盾:5

マナ:2

手札:3

墓地:0

山札:29

 

 

場:なし

盾:5

マナ:2

手札:5

墓地:0

山札:28

 

 

 

「私のターンだね。《クロック》をチャージ。《ブラッドレイン》でコストを下げて、3マナで《【問1】 テック(アップ)》を召喚だよ。ターン終了」

「……ボクのターンだ」

 

 みのりちゃんのデッキは、この前と打って変わって、水と闇文明。霜ちゃんは水と自然文明のカードがマナゾーンに見える。

 知らないカードも結構あって、どんなデッキなのか想像つかないや。

 

「ボクもそろそろ動くよ。《イルカイル》をチャージして、3マナで《青銅の鎧》を召喚! マナを一枚追加するよ」

 

 霜ちゃんが遂にクリーチャーを召喚した。おなじみ《青銅の鎧》。マナを増やすクリーチャーだ。

 霜ちゃんは山札の一番上をマナに置くけど、そのカードが、

 

「ん? 《ニコル・ボーラス》……?」

 

 みのりちゃんが首を傾げる。

 この前、わたしも貸してもらったことのあるクリーチャー、《ニコル・ボーラス》がマナゾーンに送られた。みのりちゃんには、それが意外だったようだ。

 

「青緑じゃなくて、黒赤のカードもあるんだ。4c? 光抜き4cなんで珍しい、HDMかな?」

「さあ、どうだろうね。これでターン終了だ」

 

 

 

ターン3

 

実子

場:《ブラッドレイン》《テック⤴》

盾:5

マナ:3

手札:2

墓地:0

山札:28

 

 

場:《青銅の鎧》

盾:5

マナ:4

手札:4

墓地:0

山札:26

 

 

 

「うーん、よくわからないけど、まあいいか。わたしのターン。《【問2】 ノロン》を召喚するよ。カードを一枚引いて、《クロック》を捨てるね。そして、《テック⤴》で攻撃……する時に!」

「来るか……!」

「水か闇のドラゴンの攻撃で、革命チェンジだよ! 《求答士の参謀 マルヴァーツ》!」

 

 出た、革命チェンジ!

 前にも見せてくれた、攻撃中にクリーチャーが入れ替わる能力。

 《テック⤴》の攻撃で、みのりちゃんの手札から新しいクリーチャーが出てきて、攻撃中の《テック⤴》と入れ替わる。

 

「《マルヴァーツ》でWブレイク!」

「トリガーは……出たよ、《葉嵐類 ブルトラプス》! アンタップクリーチャーを一体選んで、マナに送ってもらおうか」

「なら、《ブラッドレイン》をマナに送るよ。ターン終了」

「ボクのターン。ドロー……」

「おっと、この時《マルヴァーツ》の能力発動だよ。相手がカードを引いた時、あなたは手札を一枚捨てることができるけど、どうする?」

 

 みのりちゃんが、霜ちゃんがドローした瞬間に言った。

 だけどわたしには、その発言の意味がよくわからなかった。

 

「? 手札を捨てられるって、選べるの? でも、普通は捨てないよね?」

「ま、普通はね。だけど《マルヴァーツ》の能力は、それだけじゃない。捨てるか捨てないかを相手に選ばせて、捨てない場合、私はカードを二枚引けるの」

「要するに、自分の手札を削るか、相手の手札を増やすかの二択だろう。革命チェンジはハンドが重要なギミック。ボクの手札は十分あるから、ハンド一枚くらいなんてことない。手札の《ホルデガンス》を捨てるよ」

 

 霜ちゃんは一切迷うことなく、手札を捨てることを選択した。思い切りがいいなぁ。

 

「トリガーのお陰で、予定よりも早く攻められるね。《ホルモン》をチャージして、5マナで《Dの機関 オール・フォー・ワン》を展開!」

「えっ?」

 

 思わず声に出して驚いてしまった。

 霜ちゃんは普通に手札からカードを使ったけど、場に出されたそのカードは、クリーチャーでも呪文でもクロスギアでも城でもない。横向きで出された、わたしが見たことのないカードだった。

 そんなわたしの吃驚を見て、霜ちゃんが説明してくれる。

 

「これはD2フィールドっていうカードタイプのカードだよ。細かいルールは後で説明するが、このカードはその名の通り、領域(フィールド)のカード。バトルゾーンにある限り、自身になんらかの効果を発生させるカードだ」

「そんなカードもあるんだ……」

 

 場にある限り効果を発生させるっていうのは、ちょっと城に似てるね。バトルゾーンに出てるから、シールドブレイクされても剥がされることはなさそうだけど。

 

「さて、ボクはこれでターン終了するけど、その時、《オール・フォー・ワン》の効果発動。ボクのクリーチャーを一体破壊する。《ブルトラプス》を破壊だ」

「自分のクリーチャーを破壊しちゃうの?」

「ただ破壊するだけじゃない。破壊したなら、こうして破壊してクリーチャーより、コストが最大2大きい進化ではない水のクリーチャーを手札から出せるんだ」

 

 霜ちゃんが破壊した《ブルトラプス》はコスト7。

 ということは、コストが最大9のクリーチャーが出せちゃうってこと?

 

「ボクが出すのはこいつだ! 《サイバー・G・ホーガン》!」

「うわっ、《ホーガン》はちょっと嫌だなぁ……」

「それだけじゃないよ。さらにこの瞬間《オール・フォー・ワン》の(デンジャラ)スイッチを発動!」

 

 霜ちゃんはコスト8の水のクリーチャーを出した。

 さらに場に出していたフィールドのカードに指を添えると、くるっと180度、半回転させて上下逆さまにひっくり返す。

 

「霜ちゃん、なにしてるの?」

「Dスイッチだよ。一部のD2フィールドが持つ能力で、一枚のフィールドにつき一回だけ効果が使えるんだ。発動する効果は様々で、《オール・フォー・ワン》のDスイッチは、クリーチャーの能力を二回使うことができる」

「能力を、二回……?」

「……厳密には、登場時限定のトリガー能力……」

「《ホーガン》は登場時、激流連鎖という能力が発動する。《オール・フォー・ワン》のDスイッチで、それを二回使うよ」

「激流連鎖って、なんですか?」

「……面倒くさいから、《ホーガン》の場合だけ、言うけど……自分の山札を二枚めくって……コスト7以下のクリーチャーを、全部出せる……」

 

 え? つまり、一体で三体分のクリーチャーが出るってこと?

 しかも、それが二回発動するから……

 

「激流連鎖、一回目! コスト3《デュエマ・ボーイ ダイキ》とコスト2《デスマッチ・ビートル》をバトルゾーンへ! そしてもう一回、激流連鎖! 山札の上から二枚見て……《愛されし者 イルカイル》《阿修羅ムカデ》をバトルゾーンへ!」

「い、一気に四体も出て来たよ!?」

 

 霜ちゃんはこのターン、D2フィールドを出すことしかしていないはずだった。

 なのに、ターンの終わりに《ブルトラプス》が《ホーガン》に化けて、ついでのように四体もクリーチャーが出て来た。

 なんというか、すごい……とにかくすごいという言葉しか出てこない。それくらいに、霜ちゃんは一気に盤面を広げた。

 

「次に場に出たクリーチャーの能力を解決するよ。まずは《ダイキ》の能力で1マナ加速。次に、《阿修羅ムカデ》の能力で《マルヴァーツ》のパワーを9000下げるよ」

「あちゃ……これはまずいね」

 

 せっかく革命チェンジで出した《マルヴァーツ》が、すぐに破壊されてしまった。

 これ、もしかしなくてもみのりちゃんがピンチだよね……圧倒的にクリーチャーの数が違う。

 

 

 

ターン4

 

実子

場:《ノロン》

盾:5

マナ:5

手札:1

墓地:2

山札:26

 

 

場:《青銅の鎧》《ホーガン》《ダイキ》《デスマッチ・ビートル》《イルカイル》《阿修羅ムカデ》《オール・フォー・ワン》

盾:3

マナ:6

手札:2

墓地:2

山札:20

 

 

 

「盤面の差が酷いなぁ……でも、こっちもなにもできないし、とりあえずマナチャージして《テック⤴》を召喚。ターン終了するよ」

「ボクのターンだ。7マナで《デス・ハンズ》を召喚! 《テック⤴》を破壊するよ!」

「《テック⤴》が破壊されたから、能力で二枚ドローするよ」

「果たしてそのドローは正解かな? ターン終了する時、《オール・フォー・ワン》の効果を解決だ! コスト7の《阿修羅ムカデ》を破壊して、コスト8の《ニコル・ボーラス》をバトルゾーンに!」

「うわ……」

「《ニコル・ボーラス》の能力で、手札を七枚捨ててもらうよ!」

 

 七枚の手札破壊。自分で捨てるカードを選べるとはいえ、七枚も捨てるとなると、ほぼすべてだ。

 みのりちゃんの手札が、一瞬で全部墓地に行ってしまった。

 

「《オール・フォー・ワン》で出す前提だから《ボーラス》がいるんだ……」

「それだけじゃないよ。《阿修羅ムカデ》は破壊された時、タップ状態で墓地からバトルゾーンに復帰する。墓地の《阿修羅ムカデ》を復活、登場時能力で《ノロン》のパワーをマイナス9000!」

「……成程ねぇ」

 

 みのりちゃんは、なにかわかったみたい。

 

「《オール・フォー・ワン》の効果で、毎ターン《阿修羅ムカデ》を破壊し続ける気だね」

「……《阿修羅ムカデ》の破壊は、イコール、バトルゾーンに出ること……つまり、毎ターン9000のパワー低下を放ちつつ、手札の水のクリーチャーを、踏み倒せる……」

「す、すごいコンボです!」

「言っておくけど、これで終わりじゃないよ。これは永遠にエンジンが回り続ける永久機関だ。今はターン終了時、《イルカイル》の能力で、さっき出した《ニコル・ボーラス》を手札に戻すよ」

「え? せっかく出したのに、戻しちゃうんですか?」

「いや……これは……エグイ……」

「なんで《イルカイル》がいるのかと思ったけど、《オール・フォー・ワン》で踏み倒すクリーチャーを使い回すためなんだね」

「?」

 

 ユーちゃんはまだよくわかってないみたいだけど、わたしも気づいたよ。

 確かに、これは、えげつないのかもしれない。

 

「水早君は《オール・フォー・ワン》を使って毎ターン手札から水のクリーチャーを踏み倒せる。《オール・フォー・ワン》の能力を使うには破壊するクリーチャーが必要だけど、それを《阿修羅ムカデ》にしちゃえば、破壊しても場に戻ってくるから、実質的にノーコストになる。そこに自分のクリーチャーを手札に戻す《イルカイル》も絡めることで、水早くんは毎ターン、水のクリーチャーの登場時能力を何度でも使えちゃうってわけだね」

「しかも、戻すのがオールハンデスの《ボーラス》だから、毎ターンハンデス可能……《阿修羅ムカデ》で除去も撃てるから、場とハンド、両方を制圧できる……」

「手札にカード握ってもハンデスされちゃうし、場に出しても除去されちゃうし、マナチャージしたら《ホーガン》を回されるんだろうなぁ……完全に嵌められちゃったよ」

「そういうことだね。こうなったら簡単には抜け出せないよ。処理は全部終わったから、君のターンだ」

 

 

 

ターン5

 

実子

場:なし

盾:5

マナ:6

手札:0

墓地:6

山札:23

 

 

場:《青銅の鎧》《ホーガン》《ダイキ》《デスマッチ・ビートル》《イルカイル》《阿修羅ムカデ》《デス・ハンズ》《オール・フォー・ワン》

盾:3

マナ:7

手札:1

墓地:2

山札:19

 

 

 

「私のターン……うーん、なにもできないなぁ。マナチャージだけして、ターン終了するよ」

「ボクのターン……もう少し打点を蓄えたいな。《飛散する斧(スプラッシュ・アックス) プロメテウス》を召喚。マナを二枚、タップして追加するよ。その後、マナのカードを一枚回収だ。回収するのは《ホーガン》だよ。そして、ターン終了時に《オール・フォー・ワン》の効果で《阿修羅ムカデ》を破壊、《サイバー・G・ホーガン》をバトルゾーンへ!」

「まただ……」

「墓地から《阿修羅ムカデ》を復活! 《ホーガン》の激流連鎖で山札を見て、《ダイキ》と《青銅の鎧》をバトルゾーンに! 《ダイキ》の能力はドローを選択、《青銅の鎧》でマナを増やすよ。《イルカイル》の能力は使わず、ターン終了だ」

 

 

 

ターン5

 

実子

場:なし

盾:5

マナ:7

手札:0

墓地:8

山札:21

 

 

場:《青銅の鎧》×2《ダイキ》×2《ホーガン》×2《デスマッチ・ビートル》《イルカイル》《阿修羅ムカデ》《デス・ハンズ》《プロメテウス》《オール・フォー・ワン》

盾:3

マナ:9

手札:2

墓地:2

山札:12

 

 

 

「私のターン。これは……一応、持っとこうかな。マナチャージせずにターン終了」

「退屈かい?」

「退屈だよ。やることないから」

「悪いね。だけど、安心していい。このターンで終わりにするから。ボクのターン」

 

 このターンで終わりにする。霜ちゃんは、確かにそう言った。

 つまり、もう攻撃を開始するということだ。

 

「あまり意味はないと思うけど、《Dの機関 オール・フォー・ワン》を展開。フィールドを張り替えるよ。そして攻撃だ! まずは一体目の《ホーガン》でWブレイク!」

 

 みのりちゃんの動きを完全に封じ込めていた霜ちゃんが、遂に前に出た。

 クリーチャーの数は圧倒的。ここまで数が多いと、ちょっとやそっとのトリガーじゃ耐えられない。

 まずは、一体目の《ホーガン》が、シールドを二枚打ち砕く。

 

「さて、トリガーは……ないよ」

「二体目の《ホーガン》でもWブレイク!」

 

 続けて二体目のWブレイク。

 これでみのりちゃんのシールドは、残り一枚。

 

「ん……S・トリガー」

「出たか……なにが出た?」

「これだよ、《地獄門デス・ゲート》!」

 

 みのりちゃんは、ブレイクされたシールドから、トリガーの呪文を叩きつける。

 それも、二枚。

 

「《デス・ゲート》二枚引き……!」

「ラッキーだったね。んじゃまずは一枚目、《デス・ハンズ》を破壊して、墓地の《【問3】 ジーン》をバトルゾーンに! 次に二枚目、《プロメテウス》を破壊して《終末の時計 ザ・クロック》をバトルゾーンに!」

 

 たった二体のクリーチャーを破壊したくらいじゃ、霜ちゃんの攻撃は止められないけど、《クロック》なら話は別だ。

 ターンを強制的に飛ばしてしまうから、どれだけ数を並べても、それらはすべて攻撃できないまま、終わってしまう。

 

「……まあ、このデッキは枠の都合でトリガー対策できなかったからな。この結果は仕方ないか」

「いやはや、抜け穴があって助かったよ。じゃあ、順番に処理するよ。まずは《ジーン》から」

「墓地のカードを二枚選んで回収させるか、二枚ドローさせるか、だったよね。変なカードを引かれるのも困る。それなら君の墓地の《ブラッドレイン》と《マルヴァーツ》を手札に戻してくれ」

「了解。じゃあ次に《クロック》の能力発動! このターンの残りをスキップするよ!」

 

 

 

ターン6

 

実子

場:《ジーン》《クロック》

盾:5

マナ:7

手札:4

墓地:4

山札:20

 

 

場:《青銅の鎧》×2《ダイキ》×2《ホーガン》×2《デスマッチ・ビートル》《イルカイル》《阿修羅ムカデ》《オール・フォー・ワン》

盾:3

マナ:9

手札:2

墓地:5

山札:11

 

 

 

 間一髪、みのりちゃんは霜ちゃんの攻撃を食い止めた。

 だけど、状況はそこまでよくなっていない。

 まだ霜ちゃんの場には、大量のクリーチャーがいるんだから。

 

「霜さんはシールドが三枚ですし、場にはブロッカーの《イルカイル》と《阿修羅ムカデ》がいます」

「あのムカデ、ブロッカーだったんだ……ただの廃車モルディカイだと思ってた……」

「モル……?」

「……なんにせよ、みのりこの、勝ちの目、薄い……テック団だけじゃ、瞬間打点低めだし、スピードアタッカーもいないし……次元もないとなると、ブロッカー退けて四打点確保は、まあ無理……《デスマッチ》いるから、踏み倒しも、しづらいし……」

 

 恋ちゃんは淡々と、みのりちゃんが厳しい状況に立たされている要素を挙げていく。

 わたしにもわかる。みのりちゃんの場には、攻撃できるクリーチャーは二体いるけど、シールド三枚とブロッカー二体を突破するのは簡単じゃないはず。《阿修羅ムカデ》なんて、下手に破壊したら、逆にこっちのクリーチャーがやられちゃうわけだし……これが、とても厳しい状況だというのは。

 でも、みのりちゃんの目は、どこか楽しげだった。

 

「私のターン。押し付けられた《ブラッドレイン》はいらないからチャージしちゃおう。そんでもって、これで8マナだよ。《完璧問題(ラストクエスチョン) オーパーツ》を召喚! 《オーパーツ》の能力で、まずは二枚ドロー! 次に、手札かバトルゾーンからカードを二枚選んで、山札に戻してもらうよ」

「テック団のエースが登場か。今さら出て来ても遅いけどね。《青銅の鎧》二体を山札の下に戻すよ」

 

 霜ちゃんのクリーチャーが減ったけど、それでもまだまだたくさんいる。たった二体減らしただけじゃ、全然効果がない。

 だけど、

 

「……まあでも、枚数はギリギリ足りてるね。あとはトリガー勝負か」

「?」

 

 みのりちゃんは、笑っていた。

 楽観的な瞳に、口角を釣り上げた微笑み。

 厳しいとか、窮地とか、そんなことを微塵も思わせない、けれどもどことなく危うい笑顔で、みのりちゃんはカードを切った。

 

「さぁ……行くよ。《【問3】 ジーン》で攻撃――する時に!」

「革命チェンジかい? だけど、《オーパーツ》や《クエスチョン》じゃこの布陣は突破――」

 

 できない、と言い切る前に。

 みのりちゃんは、宣言した。 

 

 

 

「――侵略発動!」

 

 

 

 侵略。

 その言葉に、霜ちゃんや、わたしたちまで、驚き息を飲んだ。

 

「革命チェンジじゃなくて侵略!? い、いや、でも、《デスマッチ・ビートル》がいるから、生半可な踏み倒しは効かない……」

「さて、それはどうかな?」

 

 みのりちゃんは悪戯っぽく笑いながら、手札のカードを《ジーン》に重ねる。

 

「まずはS級侵略[不死(ゾンビ)]! 《S級不死(ゾンビ) デッドゾーン》二体を手札から侵略!」

「《デッドゾーン》か……! だけど、《ムカデ》は死なないし、二体なら耐えられる……!」

「まだまだ、もう一枚あるよ! S級じゃない、普通だけど普通じゃない……裏切りの侵略!」

 

 二枚の《デッドゾーン》が重なったところに、みのりちゃんはさらにカードを叩きつけた。

 青くて黒い上に、反発するような緑色のカードを。

 それは――

 

 

 

「侵略進化! 《裏革命目 ギョギョラス》!」

 

 

 

 ――あの時に見た、裏切りカードだった。

 

「《ギョギョラス》だって!? な、なんでテック団にそんなカードが……!」

「あれ? 気付かない? 《マルヴァーツ》や《ジーン》は、コスト6の革命軍で、コマンドなんだよ?」

「……!」

「ってか、変だって思わなかったの? テック団で固めて《オーパーツ》を切り札にするなら、《ジーン》や《マルヴァーツ》なんて使わないでしょ、普通。《ジーン⤴》とかから成長気味に乗り換えていく方がいいはずなのに、わざわざ重い癖に取り回しづらいカード使ってさ。おかしいって、思わなかった?」

 

 言われてみれば、確かにそうだ。

 《マルヴァーツ》も《ジーン》も、水と闇文明だけど、コスト6で、種族に革命軍とクリスタル・“コマンド”・ドラゴンを持ってる。

 それと、侵略のルールは前に教えてもらった……確か、攻撃したクリーチャーから侵略できるカードは同時に発動できて、実際に侵略進化する時は、進化元が条件と合致してればいいんだよね。

 《ギョギョラス》の進化条件はコマンド。《デッドゾーン》は闇文明だけどソニック・“コマンド”だから、《ギョギョラス》は進化できる。

 《ジーン》から《デッドゾーン》、《デッドゾーン》の上にさらなる《デッドゾーン》、その頂点に《ギョギョラス》と、一気に三枚のクリーチャーが重なり合う。

 

「くっ、《デッドゾーン》だけならまだしも、よりにもよって《ギョギョラス》が出るなんて……!」

「ふふっ、ごめんね。侵略によって、《ジーン》の上に《デッドゾーン》二体と、さらにその上に《ギョギョラス》を重ねて侵略! 《デッドゾーン》二体分の能力で《デスマッチ・ビートル》と《イルカイル》を選択! パワーを9000マイナスするよ!」

「パワー0以下になった《イルカイル》は破壊される……」

「次に《ギョギョラス》の能力で《阿修羅ムカデ》をマナゾーンへ! 一応、《阿修羅ムカデ》よりコストの低い《マルヴァーツ》をマナから場に出しておくね」

 

 これで霜ちゃんのブロッカーがいなくなった。

 そしてみのりちゃんの場には、侵略して出た《ギョギョラス》と、《クロック》がいる。

 

「破壊じゃないから《阿修羅ムカデ》は復活できないし、《デスマッチ・ビートル》はパワーが下がってバトルに勝てない……しかも《ギョギョラス》はTブレイカー、まずい……!」

「王手だね。あとはトリガーの勝負だよ。《ギョギョラス》でTブレイク!」

 

 《ギョギョラス》が、霜ちゃんの残ったシールドをすべてブレイクする。

 ここでS・トリガーが出て、《クロック》の攻撃を止められれば、霜ちゃんは勝てるけど……

 

「……トリガーは、ない……!」

 

 ブレイクされたシールドを見て、霜ちゃんは歯噛みする。

 

「なら、《クロック》でとどめだよ! シノビはある?」

「……ない。ボクの負けだ」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「まさかあそこまで嵌めておいて負けるとは……詰めの甘い自分が恥ずかしいな」

「いやー、でも正直、私も危なかったけどね。《デス・ゲート》二枚なんて最高のトリガー出ないと負けだったし。あの嵌め技は素直に凄いと思ったよ?」

「それでも負けてたら意味はないさ……ところで、さっきの件だけど」

「うん」

「……その《ギョギョラス》、やっぱりまだ持ってるのか」

 

 霜ちゃんが、最後に侵略で現れた《ギョギョラス》を指さす。

 それは、わたしとのデュエマでも見せた、みのりちゃんの切り札だったカード。、

 

「でも、実体化してないでしょ?」

「確かにそうだけど……」

「今はただのカードだし、大丈夫じゃない?」

 

 気楽そうに笑っているみのりちゃん。

 霜ちゃんは受け入れがたいと言わんばかりに顔をしかめている。

 だけどやがて、諦めたように息を吐いた。

 

「……わかった。どうにも君の場合は事情が違うようだし、ひとまずボクは引き下がろう。まだ腑に落ちないところはあるけどね」

「それはよかったよ。痛くもないお腹を探られるのは気分がよくないからね」

「完全に納得できたわけじゃないよ。そこは勘違いしないでほしいな」

 

 すごく険悪な空気が、まだ少し剣呑ではあるけども、和らいだような気がする。

 とりあえず、これで場は収まった……のかな?

 なら、そろそろ言わなきゃ……!

 

「あ、あのっ」

「小鈴ちゃん。どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ……今日は勉強会って話だったでしょ」

「あー、そうだったねぇ」

「ごめん。つい……」

 

 やっぱり忘れてる。

 でも、とりあえず霜ちゃんも落ち着いたみたいだし、これで勉強ができるよね。

 と思ったけど、

 

「……なんか、だるくなってきた……というか、私もデュエマしたい……」

「ユーちゃんもです!」

「だよねー。もうみんなで遊んじゃおっか」

「だ、ダメだよっ! 特に恋ちゃんとユーちゃんは成績危ないみたいだし、ちゃんと勉強しなきゃ! もうテスト来週だよ!?」

 

 デッキを取り出し始める恋ちゃんたち。もう勉強する気なんてさらさらないんじゃないかと思ってしまう。

 うーん、こんな調子で、来週のテストは大丈夫なのかなぁ……?




 新ルールについてわざわざ触れているのは、この話を最初に投降したのが、ルール改正前だったからです。
 今後も、殿堂レギュレーション改正前や、裁定変更前に書いた故に、現在のルールと不整合が生じている話があるかもしれませんが……ご了承ください。
 できる限り現行のルールに沿うよう改稿はするつもりですが……話の展開とか諸々の理由で、どうしようもない時もあるかもしれません。
 それと、デッキもやはり古いのですよね……今回の霜のデッキは、新章の第一弾発売時期に考案したデッキなので、今では弄る要素が多々あるかと思います。
 まあ、それらも変に弄ると展開が変わっちゃうのですけど、できる限り現行のカードプールに合うように、できたらデッキも調整する所存です。
 ご意見ご感想、誤字脱字、その他諸々、なにかりましたらお気軽にお伝えください。
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