賢愚の少女の遊戯は、未だ終わらず。
「あ……ぁ、あぁ……」
崩壊していく。
辛うじて繋ぎ止められていた彼女の肉体が、精神が、解きほぐされ、バラバラに、崩れていく。
だがそれは、喪失ではない。
還るのだ。元の、本来の、あるべき姿に。
「さようなら……姉さん」
「あ……ぎり……あ、あぁぁ……!」
悲痛な慟哭が止まない。きっとまだ、彼女は死にたくないと願うのだろう。
しかし、
「ぁ……とは……たの……む――」
彼女は微かに、希望を絞り出した。
死に行く中で見出した、後継への、希望を。
「……あぁ、任せろ。俺はもう、長男だからな」
「――――」
もう声もない。
黒い肉塊に埋もれた姉の顔は、見えなかったが。
きっと、最期くらいは、安らかであったと願いたい。
「……さて、終わった、か」
アギリがここにいる理由。長の座を、姉から簒奪し、継承すること。
『ヤングオイスターズ』としての儀式の履行。彼はそのためだけに、ここに来た。
それが為された以上、もはや女王討伐に付き合う必要はない。元より、そんなものは夢物語だと思っている。達成できるはずのない難関だと理解している。
だが、しかし。
「長となってすぐに役割を放棄しては、座を継承したとは言わんな。女王討伐の無理難題、もうしばし付き合おう。俺は長男だからな」
踵を返し、振り返る。
いつの間にか、それはいた。
人の姿ではない。かといって、黒い仔山羊でもない。
明らかにそれは、クリーチャーだ。
龍のような、獅子のような、異形。長く伸びた四つの首、胴体に埋め込まれた二つの頭。
クリーチャーの姿をした――人。
「……悪趣味が過ぎる、と。なんど苦言を呈したことか。この邪悪さ、底が知れないな」
それぞれ四つの首と、二つの頭には、獣でも化物でもなく、人の顔が縫い合わされていた。
しかもすべて、見覚えがある。
男も女も、少年も少女も。アギリのよく知る顔だった。
「
縫合された顔はすべて、『ヤングオイスターズ』の兄弟姉妹のもの。
それらの顔は、悍ましい声で、言葉にならない唸りを上げている。
「これも宿命か。俺は長男になったから耐えられたものの、覚悟ができていなければ怒り狂っていたぞ」
もっとも、その怒りは表層に出していないというだけの話。
この“仕掛け”を用意したメルクリウスの邪悪さには、その限りではない。
(感情を揺さぶるような敵の配置。やはり悪辣だ。俺でさえも、気を抜けば心を乱されてしまいそうだ)
マジカル・ベルなど、この手の精神攻撃には滅法弱そうだ。
彼女だけではない。アギリとしては、最も心配なのは、やはり彼。
怒りっぽく、直情的で、誰よりも情に厚い、仲間思いな熱血の獣――
「――眠りネズミは、大丈夫だろうか」
☆ ☆ ☆
眠りネズミと、混成された偽物の霜との対戦。
眠りネズミの場には《
《クリティブ-1》がマナゾーンより大きなクリーチャーの登場を阻害するため、眠りネズミはせっかく召喚した《トップギア》の能力を生かせないでいる。
「僕のターン……あいつは邪魔だが、ここはこいつだな」
マナに置かれる、青いカード。
この時、眠りネズミが持ち出したのは火文明単色のビートジョッキーでも、光・火のマジボンバーでもない。
「早速てめーの貸してくれたモン借りるぜ、アギリ! 《トップギア》をスター進化!」
アギリと共同製作した。水と火のビートダウン。
そしてその中には、アギリから託された、彼がいずれ手にする予定だった力がある。
「《ウェイボール<バイロン.Star>》!」
本来であれば、『ヤングオイスターズ』の長が受け継いでいくはずのマスターの力。
それを同族の仲間に託すことで、性質を変化させ、同調させた姿。
過去の栄光を振り返り、未来への栄華を夢見て、巨獣の力を纏った水球は激しく回転する。
「《バイロン.Star》で攻撃! こいつは攻撃時に2枚ドローできるが、手札が6枚以下だと攻撃が止まっちまう。ドローだけしてターンエンドだ」
ターン3
混成霜
場:《クリティブ-1》
盾:5
マナ:4
手札:2
墓地:0
山札:28
眠りネズミ
場:《バイロン.Star》
盾:5
マナ:3
手札:5
墓地:0
山札:25
「攻めてくると思ったのに、手札補充か。君らしくもない」
「るせぇ! パチモンが僕を語ってんじゃねーぞ。知ったかぶりすんな!」
「知ったかぶりじゃない、知ってるんだよ。確かに君の知ってる水早霜とはちょっと違うかもしれないけど、ボクもほら、この通り、水早霜だからね」
少女と混成された霜。少年でありながらも、少女そのものの端正な顔立ち。
愛らしいスカートをはためかせ、細くたおやかな手足が流動する。
男も女も、ないまぜに。
どこまで行っても少年であった彼は、少女と混ざることで、より可憐に、より凜と、華やかに、その姿を成している。
あるいはそれは、彼の理想的な姿だったのかもしれない。
「さて、“らしさ”はさておき。直接的な打点にならなくても、手札を供給され続けるのは面倒だ。だからこうしよう、《猛菌 キューティ-2》を召喚。《バイロン.Star》を拘束するよ。ターンエンドだ」
「しゃらくせぇ! 4マナで《ゴリガン砕車 ゴルドーザ》召喚だ! こいつは1ターンに2回殴れる! シールドブレイク!」
「おっと、ここで攻めるのか。強気だね」
「おらもう一発だ!」
止まっていると思えば、すぐさま何度も殴りつける。激しい緩急をつけた連続攻撃が、霜らしき彼を攻撃する。
《ゴルドーザ》による連続攻撃でシールドが2枚、吹き飛ばされるが、
「S・トリガーだ、《超次元ジェイシーエイ・ホール》! まずはカードを2枚ドロー、そして1枚を山札の下へ。さらに水のコスト7以下のサイキック・クリーチャーを呼び出すよ。ここは……こいつだ。《時空の戦猫シンカイヤヌス》!」
ターン4
混成霜
場:《クリティブ-1》《キューティ-2》《シンカイヤヌス》
盾:3
マナ:5
手札:3
墓地:1
山札:26
眠りネズミ
場:《バイロン.Star》《ゴルドーザ》
盾:5
マナ:4
手札:4
墓地:0
山札:24
「6マナで《仙祖電融 テラスネスク》を召喚、EX発動。山札から1枚をシールド化だ! そしてここで《シンカイヤヌス》を《ヤヌスグレンオー》へループ覚醒、《テラスネスク》にスピードアタッカーを与えよう」
《テラスネスク》の登場により、《シンカイヤヌス》は姿を変え、飛沫は火の粉へ、《ヤヌスグレンオー》へと翻る。
「まだ終わっていないよ、《テラスネスク》の能力で、ボクは手札からコスト4以下のカードを使用できる。呪文《
「んだよ、殴ってくんのか?」
「確かに《ゴルドーザ》は厄介だけれど、ここで破壊してしまうとラスト・バーストが発動してしまうからね。せっかくのスピードアタッカーは無駄撃ちだが、ターンエンドだ」
「ハッ、舐めやがって」
つまらなさそうに鼻を鳴らす眠りネズミ。
相手が除去を恐れて殴り返してこないなら、こちらも押し通すまで。
「1マナで《ブンブン・チュリス》を召喚! そのまま4マナで、スター進化!」
1マナのレクスターズから、即座に重ねて進化速攻。
初速は遅れても、潤沢な手札で安定性と瞬発力を求めた。眠りネズミのスピードにアギリの策略を添えた進化速攻。
「こいつもアギリからの借り物だ! 《マニフェスト<マルコ.Star>》!」
それは海中も陸地も関係なく駆け抜ける王。
電脳の力を身に纏い、此度は眠りネズミの傍に侍り、疾駆する。
「《マルコ.Star》の登場時、クリーチャー1体をバウンスする! 《テラスネスク》を――」
「おっと、《テラスネスク》はジャストダイバーで選ぶことはできないよ」
「……しゃーねぇ。なら目標変更だ、《ヤヌス》をバウンス! そのまま《マルコ.Star》で攻撃! 3枚ドローして1枚捨て、Wブレイクだ!」
「《テラスネスク》でブロックだ。パワーでは負けてしまうが、《テラスネスク》はEXのシールドを消費して生き残るよ」
「突っ込め《ゴルドーザ》! ここでてめーのシールド全部叩き壊してやる!」
《ゴルドーザ》が走ると同時に、眠りネズミは《マルコ.Star》によって補充された手札から1枚を、弾き飛ばす。
「来い! 《龍装者 バルチュリス》!」
「ここで《バルチュリス》か」
「《ゴルドーザ》で2回目のブレイク! 《バルチュリス》でもブレイクだッ!」
ブロッカーがいようとお構いなしと言わんばかりの、怒濤の連続攻撃。アギリの支援を受けた眠りネズミは息切れしない。止まらない。
激しく攻め立て、シールドをゼロにまで追い込むが、
「……S・トリガーだ、《猛菌 キューティ-2》。それはまだ攻撃していなかったね、これなら無駄にならない。《バイロン.Star》を拘束」
「チッ……ターンエンド」
ターン5
混成霜
場:《キューティ-2》×2《クリティブ-1》《テラスネスク》
盾:0
マナ:6
手札:6
墓地:3
山札:21
眠りネズミ
場:《バイロン.Star》《ゴルドーザ》《マルコ.Star》《バルチュリス》
盾:5
マナ:5
手札:3
墓地:2
山札:19
「さて、なんとか耐え切れたな、ボク。そして攻めきれなかったようだね、ヤマネ」
「るっせぇ。そのツラで僕の名前を呼ぶんじゃねぇ」
「つれないな。ボクと君の仲だろうに」
「僕のダチはソウだ。てめーじゃねーよ、勘違い野郎は引っ込め」
「やれやれ、とりつく島もない。まあいいんだけどね。君がいくら喚いて叫ぼうと、この一手はすべてを黙らせる」
直後、相手の場が、爆散する。
「《クリティブ-1》と《キューティ-2》2体を破壊し、ササゲールを発動!」
3体のディスタスが、献身によってその身を奉じる。供物として、捧げる。
捧げられた命は生贄だ。その命の重さだけ、マナが充填される。
「《クリティブ-1》で1コスト、《キューティ-2》2体で4コスト。コストを5軽減し、4マナをタップ!」
タップしたのは4マナ。5コスト軽減されているため、合計9マナ。
重量級のディスペクターと言えども、9マナともなれば超弩級。
薄ら笑いを浮かべる。
憎悪でも、憤怒でも、苦悩でも、葛藤でもない。
眠りネズミの知る彼でも、あるいは彼女でもない、それは邪悪な少女の嘲笑そのもの。
「禁忌に時針を穿つ――邪悪を黙せ」
どこか聞き覚えのある言の葉が紡がれ。
大陸が、屹立する。
「《禁時混成王 ドキンダンテⅩⅩⅡ》!」
大地が鳴動し、岩盤が迫り上がる。
巨大な要塞の如き石柱が、邪槍を時針に神聖な時盤を背負い、邪悪なる禁忌の化身を取り込んでいる。
それは苦悶の表情を浮かべ、慟哭し、石柱と混ざりつつありながらも、憎悪と憤怒の絶叫を轟かせる。
《禁断》と《ミラダンテ》。反発し、相反するはずの力が混ぜ合わされた、混成体――《ドキンダンテ
それだけではない。
「こいつは……公爵夫人に、霜の……!」
その姿は、眠りネズミの目には、公爵夫人の憎しみと怒り、霜の悩みと迷いも、それぞれダブって見えたのだった。
いつ野垂れ死ぬかもわからない自分を、ここまで生かし、逃がし、導き、そして寄り添ってくれた仲間たち。
その切札たるクリーチャーが、無理やり接合され、貶められている。
「……クソ野郎がよ。とことん人のダチをコケにしやがって……!」
怒りのあまり、眠気が飛ぶ勢いだ。
自分を直接叩くならいい。馬鹿にされるなら黙らせるだけだ。眠ってしまえばそんなものは聞こえないし、どうでもいい。
けれど、仲間を侮辱され、尊厳を踏み躙られるのは、我慢ならなかった。
「どこまでも舐めやがってよぉ! そんなに人をおちょくって楽しいか? あぁ!?」
「別に? ボクは人をイジる趣味はないけど、あの子はどうだろうね? ボクはほら、ただ自分の力を使ってるだけだから」
「意味わかんねぇことを……!」
「理解する必要はないよ。まあ、あえて言うなら、そんなに頭に血を上らせてもいいことないよ? 怒りは疲れるだろ?」
「てめーが怒らせてんだろうが! いい加減にしとけよてめぇ、ぶん殴るだけじゃ収まらなくなるぞ……!」
「はは、怖いなぁ。まあ囀れる時に囀れるのが幸せか……EXライフ発動。さらに」
風を切る音が聞こえる。空気に穴を空けるような奔流が、天から、地上に向けて降ってくる。
「!?」
それは、邪悪な形状をした、槍のような時計針。
無数の針が天から降り注ぎ、眠りネズミのクリーチャーたちに突き刺さる。
「《ドキンダンテ》がバトルゾーンに出た時、次のボクのターンまで、君のクリーチャーのすべての能力は無視される。君のクリーチャーはもう、抜けがらさ」
「クソがっ! 今度は帽子屋みてーなことしやがって……!」
「さらに3マナで《T・T・T》。《ヤヌス》がいなくなってしまったからね、《ドキンダンテ》をスピードアタッカーにするよ」
《ドキンダンテ》の巨躯が駆動する。
鈍い苦悶の雄叫びを上げ、それに呼応するかのように、時針槍が、時盤の上でぐるぐると狂喜乱舞する。
「鏖殺の時間だ。《ドキンダンテ》で《マルコ.Star》を攻撃――アタック・チャンス!」
視界が歪む。知覚が崩れる。
夢に堕ちるような、夢に囚われるような、世界の常識が、認知が、理がねじ曲がる感覚。
しかしこれは、眠りネズミが常日頃感じているような、眠り行く感覚とは違う。
これは夢ではなく、現実だ。時空が歪曲し、世界の輪郭は崩壊し、宇宙の真理は書き換えられる。
「《禁時王秘伝エンドオブランド》!」
それは平行世界に接続し、あらゆる“滅び”の概念を引きずり出す奇跡と禁忌の術。
発展も変化も、否定される。時盤が指し示す12の時間から、それぞれの“滅亡”が形成されていく。
「まずはコスト8以下のクリーチャーを破壊する、対象は《ゴルドーザ》!」
「クソッ! だが、ラストバーストで……」
「できると思うかい? 《エンドオブランド》の効果で、コスト5以下の呪文は唱えられないよ」
「っ、ぐ……っ!」
口が、動かない。
身体が重い。
いつもの眠気によるものじゃない。
《ドキンダンテ》の“封殺”の力で、眠りネズミの一挙手一投足が、じわじわと封じられている。
スッ、と。
相手の顔から、表情が消える。
「逆転なんて許さないよ。指一本動かせないまま、ここでくたばれ」
霜の顔で、霜の言葉で、彼は、彼女は、冷たく告げる。
誰かに向けたはずの敵意が、眠りネズミに向けて、放たれる。
「さぁバトルだ。こちらはパワー99999! 比べ合いにすらならないな」
《マルコ.Star》が、一瞬で踏み潰される。
本来であればスター進化の耐性で進化元だけは残るはずが、《ドキンダンテ》いよって能力を封殺されているため、進化元諸共、踏み砕かれる。
「っ……!」
「《テラスネスク》も《バルチュリス》を攻撃だ! ターンエンド」
場は殲滅された。呪文は使えない。僅かに残ったクリーチャーも、能力を失った抜け殻だ。
――しかし。
「僕の、ターン……!」
眠りネズミの火は、消えていない。
折れず、曲がらず、屈しない。燃え尽きるまで、彼は魂を燃やし続ける。
いくらクリーチャーが木偶の坊でも、殴り倒すだけなら、そこにいるだけで十分。
「……能力消えてんなら、《バイロン.Star》は殴れるってことだ。ここでぶっちぎってやるぜ! 5マナで《バルチュリス》をそのまま召喚――」
《ドキンダンテ》の封殺能力も完璧ではない。能力が消えることでデメリットを解消できる《バイロン.Star》のようなクリーチャーもいるし。
その場にいるクリーチャーの能力を封じても、後続のクリーチャーの能力まで消えるわけではない。
アギリの補給が効いている。彼から託されたカードのお陰で、眠りネズミはまだ、援軍を呼ぶだけの手札がある。
強力な切札が出たとはいえ、相手のシールドは残り1枚。とにかく数で殴りきる。
そう、思っていた、のだが。
「――あ?」
気がついたときには、繰り出したはずの《バルチュリス》が、消滅していた。
「《禁時混成王 ドキンダンテⅩⅩⅡ》の最後の能力」
《ドキンダンテ》が、眠りネズミらを睥睨する。
憎しみと、怒りと、苦しみと、迷いを、殺意に乗せて。
「相手がコスト9以下のカードを使うたびに、ボクはコスト9の呪文で反撃できる」
そう言って彼が見せたのは、《スーパー・エターナル・スパーク》。
眠りネズミの《バルチュリス》は失せ、シールドは1枚増えていた。
「もう君に勝ち目はない。ここから殴りきる算段でも立ててるんだろうけど、無駄さ。苦し紛れの戦略なんて、全部抑え込んでしまうよ」
「……《ブンブン・チュリス》を召喚!」
「無駄だって言ってるだろう? 呪文《超次元ジェイシーエイ・ホール》! 《時空の戦猫シンカイヤヌス》を再びバトルゾーンへ!」
今回は除去ではない。見逃された……と考えるのはあまりにも楽観的すぎる。
相手も手札を入れ替えて、反撃の呪文を手札に溜めているのだ。それだけではない、《ヤヌス》が出たということは、攻勢に転じるタイミングも測っている。
「だがこれで、僕の手札は1枚だ! こいつが出て来る!」
眠りネズミはその1枚を、跳ね上げる。
宇宙まで打ち上げるように、高く、高く――
「――《“轟轟轟”ブランド》ッ!」
どこまでも高く飛び立とうかというほどに、それは激しく轟く。
たった1枚の手札を燃料に、僅かなリソースを絞り尽くして、《“轟轟轟”ブランド》は、発進するが。
「わかんないかなぁ、無駄だってことがさぁ! 《ドキンダンテ》の能力でドロー、そして呪文《
《ドキンダンテ》が吼える。
ありとあらゆる理を蹂躙し、我が手に収めて、ねじ曲げる。
大火が、激流が、雷撃が、眠りネズミの場に滅びをもたらす。
「《S・S・S》には3つの効果がある。まずは相手のパワーが最も低いクリーチャー、《ブンブン・チュリス》を破壊! 次にパワーが最も大きいクリーチャー、《バイロン.Star》をバウンス! 最後にクリーチャーをすべてタップする!」
「クソ……ッ! だが《“轟轟轟”ブランド》の能力が消えたわけじゃねぇ! 手札を捨てて《テラスネスク》も破壊だ!」
なんとか難を逃れた《“轟轟轟”ブランド》は、辛うじて《テラスネスク》を粉砕するが、自軍の被害はあまりのも大きい。
《ドキンダンテ》が存在する限り、眠りネズミはあらゆる行動を制限される。
走ることも、飛ぶことも。あらゆる自由が剥奪される。
ターン6
混成霜
場:《ドキンダンテ》《シンカイヤヌス》
盾:1
マナ:7
手札:5
墓地:11
山札:15
眠りネズミ
場:《“轟轟轟”ブランド》
盾:6
マナ:6
手札:2
墓地:8
山札:17
「詰めていこうか。《天翼 クリティブ-1》と《龍装の調べ 初不》を召喚」
「《初不》……!」
「そうさ。これでボクが《スパーク》と名の付く呪文を唱えるたびに、君のクリーチャーはフリーズ状態となる」
相手の場には、《ドキンダンテ》がいる。眠りネズミが行動するたびに、呪文を放ち迎撃する禁断の要塞がある。
眠りネズミがクリーチャーを召喚しても、《ドキンダンテ》が《スパーク》呪文を放てば、眠りネズミのクリーチャーはすべて休眠してしまう。
手足が冷えていくようだった。感覚を失って、壊死してしまいそうだ。
動きを封じられていく。満足に立つことすら、許されない。
彼は酷く冷たい目で、嘲るように、侮蔑を込めて、眠りネズミを見下す。
「そのまま一生、這いつくばってろ、ドブネズミ。《ドキンダンテ》で《“轟轟轟”ブランド》を攻撃!」
先ほどは運良く生き延びたが、それはほんの僅かな猶予。最初から、生路などなかった。
《ドキンダンテ》の放つ邪槍が、《“轟轟轟”ブランド》に降り注ぐ。宙を駆ける《“轟轟轟”ブランド》はそれを躱していくが、禁忌の槍は絶え間なく彼を追い回す。
やがて《ドキンダンテ》の巨躯が壁となり、逃げ場を失った《“轟轟轟”ブランド》は、邪槍に貫かれ、塵も残らず消し飛んだ。
「クソ……ッ! 《
盤面はほぼ制圧されている。後続もまともに機能しない。
それでも眠りネズミは、抗う。
意識が刈り取られる前に、ほとんど動かない指を無理やり駆動させ、舌の回らない口で詠唱も暴言も吐き散らす。
「《ネ申マニフェスト》の能力で3枚ドロー! 2枚捨てる!」
「《ドキンダンテ》、制圧準備! 呪文《スパーク・チャージャー》! 1枚ドローし、《ネ申マニフェスト》をタップする。さらに《初不》の能力でフリーズだ」
「《トップギア》を召喚!」
「足掻くねぇ! けど無意味さ! 呪文《ジェイシーエイ・ホール》! 手札を入れ替え、《変幻の覚醒者アンタッチャブル・パワード》をバトルゾーンへ!」
「まだだ! 《
「……呪文《パシフィック・スパーク》! 《トップギア》も《マイパッド》もタップ、《初不》の能力でそのままフリーズだ!」
ターン7
混成霜
場:《ドキンダンテ》《シンカイヤヌス》《クリティブ-1》《初不》《アンタッチャブル・パワード》
盾:1
マナ:8
手札:4
墓地:14
山札:9
眠りネズミ
場:《ネ申マニフェスト》《トップギア》《マイパッド》
盾:6
マナ:7
手札:0
墓地:11
山札:13
眠りネズミが次々と繰り出すクリーチャーは、片っ端から《ドキンダンテ》によって封殺されていく。
まともに立ち上がれず、動くこともままならない。殴りきり、攻めきるなど、夢のまた夢。
だというのに、眠りネズミは止まらない。動かないはずなのに、止まらない。
矛盾を孕みながら、突き進んでいる。
不可解極まりなかった。
「……よくもまあ、ここまで無駄なことができるよね、君も」
「無駄じゃねーよ。僕は勝つ。そのつもりでてめぇに拳振ってんだ!」
「豪気どころか健気だよ、むしろ憐憫かな? なんでそんなに頑張れるの? 辛くない?」
「んなもん、ダチのためだからに決まってんだろうが」
「代用ウミガメか。それもボクかな?」
「てめーじゃねーよ、ソウだよ。いつまでも自惚れてんじゃねぇパチモンがよ!」
眠りネズミが、己の睡魔を抑え込んでここまで走り続けている訳。
単純明快で、だからこそ強い意志となり得る理由だ。
しかし霜の顔をした彼はやはり、不可解だった。
「理屈はわかるんだけど、やっぱり腑に落ちないよね。ボク、君にそんな大それたことしたかな? 行き倒れてたから、介抱してあげただけだし。その後は成り行きで一緒にいただけじゃないか」
「パチモンが知ったような口利くんじゃねぇよ」
「いいや知ってるさ、ボクはボクだ。この脳に、ちゃんと記録されている。君との出逢い、思い出、全部ね」
「…………」
「ボクは知識としてその経験を得ている。だからその感性もわかるさ。ボク自身、特別なことなんてなにもない。ただの一般人としての感性で、人並みの情で、君に付き合っただけだよ。それなのに、そんな気合い入れちゃって、張り切って、死のもの狂いで戦って! 意味がわからない。なんでそんなに戦えるの? ちょっとばかり、ボクなんかに入れ込みすぎじゃない?」
確かに、ファーストコンタクトこそ何ヶ月も前の話だが、霜と眠りネズミがまともに言葉を交して交友を持ったのは、ほんの数日。一週間もない。
その数日の間に様々なことはあったが、それが眠りネズミにとっての“特別”となり得たかは、疑問だった。保護も共闘も、彼は不思議の国で経験しているはず。
我が身を磨り減らしてまで、なぜ眠りネズミは、水早霜に固執するのか。
「わかんねーかよ、ならやっぱてめーはパチモンだ」
眠りネズミは、言い放つ。
しかし眠りネズミにとっての霜は、彼が思うものではなかった。
「特別だから大事なんじゃねぇ。“特別じゃない”からこそ、大事なんだよ」
「……?」
怪訝そうに眉をひそめる。
特別ではないから、大事。
どこか矛盾したような言動に、理解が追いつかない。
「僕らに必要なのは、特別なモンなんかじゃねぇ。大事なのは、帽子屋のクソ野郎が語るような夢物語でも、栄光とやらでもねぇ――“日常”だ」
「日常だって?」
「バカみたいに笑えてよぉ、ムカつく奴がいたらぶん殴って、たまに宴でバカ騒ぎできる。変な夢も見ねぇ、寝て起きても死んじゃいねぇ、眠ることに恐怖がねぇ。なにもおかしくない、狂っていない“普通”が、僕らにゃ必要なんだよ」
誰も彼もが狂っている【不思議の国の住人】だからこそ、普遍的な存在は、なによりの標となる。
“眠る”という、あらゆる生物にとって当たり前の行動が死に直結する呪いを有する眠りネズミなら、その普遍性はなおのこと、特別になる。
「ソウは……そんな、僕にとって大事な“普通”だからよ。なんも特別な存在じゃねーけど、あいつがいると安心するんだ。眠った後も、また起きて口利くことが当たり前。だから僕は、永遠の眠りに堕ちずに済む。カメ子も同じだ。あいつらは、ただそこにいるだけでいい。特別なことしてくれなくても、特別な存在じゃなくても、ただダチってだけでいい。そこにいるだけで、僕が安心して眠れる、また目覚めることができる。眠ったままじゃいられないと、気合いを入れることができる」
女王によって架せられた
少なくとも眠りネズミにとって、それはかけがえのないものだった。
共にいた時間も、なにをしたかも、関係ない。
彼となら、安心して眠れる。彼がいるから、また目覚められる。
ただその安心感があるだけでいい。
「僕は母ちゃんに虐められてるからな。気ぃ抜いたら一生起きられないからよぉ。なんか、そーゆーのが要るんだわ。ま、このへんは打算ってやつなんだが、不思議の国の奴らも似たようなもんだ」
もっとも、【不思議の国の住人】とはそういうものだ。
各々には、各々にしかわからない苦悩がある。
自己が分散し自我が喪失しかねない『ヤングオイスターズ』も、情欲ばかりで子を孕むことができない『三月ウサギ』も、女王の醜悪さを色濃く受け継いだ『公爵夫人』も。
皆一様に、自分にしか理解できない苦悩を抱えて生きている。
「いつ死ぬかわからねぇ命だからよ、僕は刺激は大好物だ。だが、だからこそ、なんてことのねぇ日常も大事だ。楽しいし、安心できるからな。パチモンには理解できねーだろうけどよ」
「……あぁ、まったくだ。君の論理はまったくもって意味不明すぎる」
眠りネズミの言葉に、彼は、理解を拒絶した。
彼にしかわからない苦悩も、恐怖も、狂気も、すべて否定し、受け入れない。
「理解しようと思うことが愚かだったよ。不要な好奇心だった。君への理解は至らなかったが、それでいいや。君はここで、鏖殺する」
冷たい眼が見開かれる。情けも容赦も失せた霜の眼差しは、公爵夫人の如き殺意を以て、眠りネズミに牙を剥く。
「6マナで《テラスネスク》を召喚! 火のクリーチャーが出たから、《シンカイヤヌス》を《ヤヌスグレンオー》にループ覚醒! 覚醒時の能力で《テラスネスク》にスピードアタッカーを与える!」
《ヤヌス》が翻り、《ヤヌスグレンオー》へ。
再び《テラスネスク》にスピードアタッカーを与えるが、今度は無駄撃ちではない。
次はない。今回こそ、殺しに来る。
「《テラスネスク》の能力で、手札からコスト4以下のカード、《アクア・三兄弟》を召喚! 水のクリーチャーだ、今度は《シンカイヤヌス》の方にループ覚醒! 1枚ドローし、3マナで《勇騎 オニモエル-2》を召喚。《マイパッド》を破壊して、もう一度ループ覚醒! 《ヤヌスグレンオー》になったから、《オニモエル》にスピードアタッカーを与える!」
クリーチャーが連続で繰り出され、それに合わせて《ヤヌス》がぐるぐると回転し、攻撃の布陣を形成していく。
「《オニモエル》で《トップギア》を攻撃! 《ヤヌスグレンオー》で《ネ申マニフェスト》を攻撃!」
フリーズさせるだけでは飽き足らず、念入りにクリーチャーを潰してくる。
無論、潰すのはクリーチャーだけではない。
滅亡の力は、プレイヤー本人にも向けられる。
「《初不》でWブレイク!」
「ぐ……ッ!」
「続けて《ドキンダンテ》でTブレイク!」
時盤を廻る邪槍が放たれ、大地諸共に眠りネズミのシールドを抉り取る。
「《アンタッチャブル・パワード》で最後のシールドをブレイク! S・トリガーがあろうと、ジャストダイバーにEXライフ、二重の耐性を持つ《テラスネスク》は突破できないだろう?」
スピードアタッカーを付与された《テラスネスク》は、次のターンまでジャストダイバーにより潜水状態。即ち選ばれない。
よしんば選択せず除去できるカードがあったとしても、EXライフで一度までなら復活してしまう。
そもそもとして、《テラスネスク》の二重耐性を突破して除去できる受け札など、彼のデッキには存在していないわけだが。
「けどよ、んなもん知るかってんだ」
除去は不可能。業腹だが、その事実は認めなければならない。
だがしかし、除去できないからといって。
攻撃が止められない、というわけではない。
「アギリの野郎からしこたま
時空の潮流が乱れ、滅亡をもたらす光の中。
時の乱気流を強引に堰き止め、へし折る無法の力。
正に問答無用。《ザ・クロック》は、規律も理も無視して、この瞬間を弾き飛ばした。
水入りならば、ありふれた防御手段だ。強引だが、ある意味では正道で、ありきたり。
そのカードに彼は、少し不服そうに、蔑んだ眼で眠りネズミを見遣る。
「……安直、安易、雑な防御札だ。綺麗じゃないな」
「僕はドブネズミらしいからな。こちとら綺麗だとか汚いだとか、そんなレベルで生きてねぇっつーの」
元より意地汚く生きているのが【不思議の国の住人】だ。中には気高く生きる者もいるだろうが、眠りネズミは違う。
美学なぞ、夢の中に置いてきた。
自我はそのままに、けれども自分本位な意地は、それこそドブの中に投げ捨てた。
誰かの、仲間の力を借りて、自分に足りないものを貸してもらって、眠りネズミは今、ここにいる。
「僕のターン」
アギリの教えは確かに力になっている。けれど、まだ、それだけでは足りない。
眠りネズミがさらにもう一歩先に進むには、彼が必要だ。
だからここで、その偽物は、打ち砕く。
「1マナで《ブンブン・チュリス》を召喚!」
「無意味だよ、《ドキンダンテ》の能力起動! 呪文《パシフィック・スパーク》! 君のクリーチャーをすべてタップし、さらに《初不》でフリーズを掛ける」
「まだまだ! 2マナで《トップギア》を召喚!」
「……《スパーク・チャージャー》だ。《トップギア》をタップ」
ほんの少し、相手の表情に翳りが見えた。
対戦を長引かせたことで、眠りネズミのマナは7マナまで伸びている。そして手札は豊富。しかしそれに対して、相手の山札は残り僅か。
このままカウンターで呪文を撃ち続けるにしても、ドローしていれば山札が尽きる、という懸念が生じ始めていたのだ。
しかし手札に呪文を確保するためには、ドローするしかない。残り山札は3枚しかないため、引けてもあと1枚。
「2マナで《“
「くっ……《ドキンダンテ》の能力でドロー、そして呪文! 《ホーリー・スパーク》! 《初不》の能力とあわせてフリーズする……!」
最後の1枚を引き、呪文を放つ。
これで眠りネズミのクリーチャーはすべて沈黙した。もはやなにもできないはずだ。
(流石にそろそろ種切れだろ……いくらクリーチャーを並べても、これだけタップすれば――)
残りシールドが少ないとはいえ、《テラスネスク》は生きている。1体や2体のアタッカーでは、とても殴りきれないはず。
そう、そのはず、なのだが。
「その顔、さて呪文を撃ち尽くしたか?」
「!」
なぜ彼は、眠りネズミは、こんなにも勝ち気なのか。
ただの鼠と侮っていたのか。しかし彼の背後に燃ゆる影は、もっと大きな、怪物のようで――
「待ってたぜ……てめぇが弾切れ起こす、この瞬間を!」
眠りネズミの闘志が、燃え上がる。
消えない火種が、激しく炎上する。とっくに尽き果てていてもおかしくないはずの、小さな灯のはずなのに、それはまだ、消えない。
眠ることを拒むように、燃え続ける。
「まずはコストを3軽減! さらにこのターン火のクリーチャーを召喚したから追加で3軽減! 2マナをタップ!」
残ったマナをすべて捻り出し、
「《“罰星怒”ブランド》を――スター進化!」
クリーチャーの眠りさえも、妨げる。
「そぅら――《我我我ガイアール・ブランド》の襲名だぁ!」
それは眠りネズミの新たな切札、新たな《ブランド》――《
ボードを勝利の龍に変え、大いなる宙にて自在に乗り回す
《ガイアール・カイザー》の力を継承し、その名を受け継いだ、王にしてマスター。
龍の力をその身に纏い、彼らは漆黒の宙を駆け抜ける。
しかし、その勇猛なエースの姿に、彼は気圧されない。
むしろ嘲笑の笑みを浮かべ、そして堪えきれなくなったように、噴き出した。
「……く、くはっ、あははははは! なにかと思ったら進化クリーチャーか! 警戒して損したよ」
「あぁん? なに笑ってんだよ」
「凄んでも無意味だよ、だって、君のクリーチャーはすべてタップしてる。追加でなにが出るのかと肝を冷やしたが、進化クリーチャーなら問題ない。どうせそいつは殴れないのだから!」
「言ってろボケ。《“罰星怒”ブランド》のシンカパワー発動! 進化した《ガイアール・ブランド》よりコストの低いクリーチャーを破壊する! 《クリティブ-1》を破壊!」
《ガイアール・ブランド》の咆哮が、《クリティブ-1》を吹き飛ばすが、それだけだ。
相手の言う通り、《ガイアール・ブランド》はタップしていた《“罰星怒”ブランド》から進化しているため、タップ状態で場に出ている。
タップしているクリーチャーは攻撃できない。子供でもわかる単純にして不変のルールだ。
「まったく君って奴は。どうせ勝てないというのに、往生際だけは悪いね」
「ネズミだからな、意地汚ぇのは標準装備だ!」
「まあ君が頑固なのも、考えなしなのも知ってるけどさ。いくらがむしゃらやっても、無理はものは無理なんだ。もう諦めろと言うのも面倒くさい。ただただ、現実の無情さに押し潰されるといいよ」
「誰が考えなしだよ、ほざけカス。僕は眠くてなんも考えられねーだけで、なんも考えてないわけじゃねぇ。潰されんのはてめーだよ」
「……ほんっと強がりだな」
「違ぇぜ。《我我我ガイアール・ブランド》はコストを軽くして召喚した時、必ず攻撃しなきゃなんねぇ。しかもその攻撃後には破壊される」
だが、と眠りネズミは続ける。
「《ガイアール・ブランド》がバトルゾーンを離れると、僕のクリーチャーはすべて起き上がりスピードアタッカーを得る。てめぇの顔面叩き潰してやれるってわけだ」
「そいつは恐ろしいが、それはそいつが破壊されたら、だろう? 攻撃できなきゃ自爆できないんじゃ、そもそも攻撃できない現状、その能力は無意味だよ。《ドキンダンテ》に任せるまでもなく、真っ白なテキストと変わらないさ」
「そうだな……で、僕はさっきなにを破壊したんだったか」
「は? なにをとぼけたことを……? 眠気で頭が回らないのかい? 君が破壊したのは《クリティブ-1》だね。ウィニー主体の君ならすり抜ける手段もあったろうに、馬鹿正直に突っ込んじゃって。今更こんなの破壊したって――」
と、そこで。
彼は、ハッと気付く。
「――嘘だろ?」
「気付いたな。馬鹿はどっちだってんだクソ野郎」
「あ……あ、あぁ、そんな……! まさか……」
恐る恐る、視線を向ける。眠りネズミの場でもない、シールドでもない、その奥――彼自身でもなく、彼の、マナゾーン。
ひとつ、ふたつと指折り数え、そしてその戦慄は、確かなものになった。
眠りネズミのマナゾーンにあるカードの枚数は、7枚。7マナだ。
しかし、《我我我ガイアール・ブランド》のマナコストは――
「――は、8マナ……!」
《天翼 クリティブ-1》は、相手が自分のマナゾーンのカードの枚数よりコストの大きなクリーチャーを出した時、そのクリーチャーを山札の下に送り戻す、いわゆるコスト踏み倒しメタのクリーチャー。
そしてそのメタ能力は、強制的に発動する。
「こいつ……まさか、だからこのターン、マナチャージしないで……!?」
ただがむしゃらに、《ドキンダンテ》の弾切れを狙ってクリーチャーを並べていただけではなかった。
呪文を撃ち尽くすタイミングを狙いながらも、こちらのクリーチャーの能力まで利用することを、計算して――!?
「こんな寝惚けた頭で計算なんてできるかボケ! アギリにゃくどくど言われたがなぁ、僕の頭なんざ、全部“なんとなく”だよッ!」
「そ、そんなふざけた戦略が、あってたまるか……! さっきと言ってることが違う……!」
「眠いんだからしゃーねーだろうが! デュエマも! ダチも! 僕らの生き様も! 理屈じゃねーんだッ!」
《我我我ガイアール・ブランド》は、相手の《クリティブ-1》の能力によって――場を離れる。
《ガイアール・ブランド》が、ボードから飛び去る。そして《“罰星怒”ブランド》が残るが、《ガイアール》の意志は、まだこの戦場に残っている。
「おらぁ! てめぇら起きやがれ! 寝てる場合じゃねぇぞッ!」
その瞬間。
眠りネズミのクリーチャーに――火が点いた。
「そ、んな……っ!」
――余計な一手だった。詰めて反撃を阻害するはずが、ただメタカードを1枚出しただけで、逆転の大火へと変じてしまった。
「総攻撃だッ! 《トップギア》《ブンブン・チュリス》でシールドブレイク!」
「《トップギア》は《テラスネスク》でブロック……! もう山札の中身は把握済み、非公開ゾーンのカードもわかってる! トリガーがあるから、まだ……!」
「んなもんじゃ止まんねぇぞ! 《バルチュリス》、Go! 《クロック》で最後のシールドをブレイク!」
「《スーパー・エターナル・スパーク》……《バルチュリス》をシールドへ……!」
宣言通りS・トリガーこそ埋まっていたが、それでは止めきれない。
シールドも、ブロッカーも、《ドキンダンテ》の災厄も。あらゆる障害をものともせずに振り切って。
燃え滾る火鼠が、流星の如く駆け抜ける――
「――《“罰星怒”ブランド》で、ダイレクトアタックだッ!」
☆ ☆ ☆
霜の顔をした混ぜ物の肉体は、モザイク状の接合部から綻びが生じ、輪郭から霧散していく。
「――――」
それは最期の声を上げることもできないまま。
じきに、肉体を保てなくなり――消滅した。
「……ケッ。つまらねぇミスしやがって」
眠りネズミはつまらなさそうに吐き捨て、大きく欠伸をする。
「ふあぁ……ねみぃ」
この欠伸は気が抜けたから――ではない。
むしろ、逆。
戦闘と警戒のあまり、消耗しているからこそ、が近づいてきたのだ。
(……勝ちはしたが、ギリギリだったな。絶好調でも睡魔がくる寸前かよ)
正直、ムカつくツラではあったものの、大したことのない相手だと高を括ってたところはある。
その結果が、辛勝だ。相手の詰めの甘さでようやくもぎ取った勝利だ。
こんなことでは、この海中都市の攻略なんてできっこない。ましてや――
(――あのゴリラ女にゃ勝てねぇ……!)
眠りネズミの胸中に渦巻く屈辱。あの敗北が、いまだ忘れられない。
そしてそれが、彼がここに立つ理由のひとつでもある。
友を救う。そこへと辿り着く。
それと同時に。
「もっと――強く」
たおやかなる剛力の化身。
シリーズ・コレーを、討ち倒すために。
やっぱり白青赤で9コストのクリーチャー出すのは無理があると思う。本来このカラーなら、アクターシャくらいの性能が一番色の強みを生かせるんじゃないかなぁ。
と思いつつも、霜のパチモンなら変に色を混ぜないで、この三色がらしいという気もした。ササゲールもあるので、やってやれないことはないけれど、やっぱり盤面取れる強い呪文は黒混じりが好ましい。ドルマゲドン・ビッグバンとかね。
眠りネズミの対戦も終わったので、次は小鈴の出番になると思われます。もっとも、殿堂発表で大打撃を受けてしまったので、対戦譜面が今大変なことになっていますが……間に合わなかったら、お茶を濁すために、メルとディジーでコントをやってもらうかもしれない。