デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 シリアスです。
 作者はシリアスのつもりで書いています。


54話「討滅・星の賢者 Ⅺ」

「わ、わたし……!?」

 

 既視感がある、というか。前にもこんなことがあったっけ、と思い返す。

 ベルと初めて出会った時のこと。こことは違う、平行世界での出来事。

 でもここは、平行世界ではない。ある意味では異世界らしいけど……あれも、あの子の意地悪な刺客ってこと?

 それにしては雰囲気がさっきまでと違いすぎる。なにかを混ぜたり繋げたような痕跡はない。

 というか、白装束に緋袴……って。

 

「巫女さん……?」

 

 いわゆる、巫女服。あまりにも場違いすぎる出で立ちだった。今は12月、お正月には早いし。

 み、巫女鈴……ってこと? そんなダジャレみたいな嫌がらせ、ある? 嫌がらせとも言えないし。

 なんか変だ。このわたしのそっくりさんだけど、明らかに異質だ。決定的になにかが違う。

 

「小鈴がふたり? でもあっちの白と赤の小鈴は、小鈴に見えるだけで、全然君じゃないな」

「どういう意味?」

「なんと言ったらいいのか……生まれたての赤子みたいな感じがするんだ。背景、歴史、積み重ね。そういったものが感じられないっていうか」

「生まれたばかり……」

 

 生命を創造する。そんな神様みたいなことが……できない、とは言えないのかな。

 つぎはぎされたみんなも、ある意味では新生児みたいなものっぽいけど、でもやっぱりそれとは違う。あれは本当に、わたしだけの姿をしている。

 

「今までのと違う感じだけど、あれもきっと、敵……なんだよね」

 

 状況的には、そうとしか考えられない。

 敵意は感じられない。喋らない。いきなり襲いかかってもこない。ただ一歩、また一歩、ゆるりと近づいてくる。

 

「っ……!」

 

 その超然とした立ち振る舞いに、気圧される。

 ベルとは全然違う。わたしなのに、わたしのまったく知らないなにかしか、感じられなくて、少し怖かった。

 でも、ここで立ち止まるわけには……

 

 

 

「――なによここ。ムカつく顔ばっかじゃない」

 

 

 

 え……?

 この、声は――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「なんだぁ? こいつ。マジカルベル、なのか?」

 

 ディスプレイに映った伊勢小鈴――のようなものを見て、ディースパテルは訝しげに首を捻る。

 伊勢小鈴に瓜二つな、巫女装束の伊勢小鈴。まず間違いなく、メルクリウスの仕業であることは確かなのだが。

 

「一体なんだってこんなもんを」

「なんでって、あたしにそれ聞いちゃうのです? この世界への探究心から生まれた、あたしに?」

「愚問ってか。で、あれはなんだよ。混成体じゃないようだが」

「混ぜるのも考えたのですが、とりまプレーンからなのです。まっさらな才能だけを抽出した形も見ておきたかったですし」

「才能? いつもの、個体のコピー、ってやつとは違うのか?」

「ただコピるだけなのも芸がないのです。なので趣向を変えたアプローチを試してみたのですが……彼女、思ったより、“変”なのです」

「へぇ、お前の趣味より?」

「あの奇っ怪なお胸には負けるのです」

「ヘリオスの性癖とどっちがやべーかな」

「うーん、リオ君の方がやべーかもなのです……」

 

 閑話休題。

 メルクリウスは、自分の異聞神話空間内部の存在を解析することで、その個体情報を複製(コピー)することができる。それは自分自身も例外ではない。

 さらにそれらの複製品どうしを掛け合わせ、混ぜ合わせ、繋ぎ合わせ、別の存在を生み出す。

 しかし今回は、そういった技術とはまったく別のアプローチで、伊勢小鈴の複製を生み出したようだ。

 

「まず、人は生育に関して、環境や経験の影響を受けやすいものなのです。加えて伊勢小鈴ではなく、マジカルベルという存在は、太陽神話の片翼の力に依る部分が大きいのです」

「身体がほとんどクリーチャー化しちまってるんだったな。確かに、それなら奴の存在は後天的性質によるものが大部分を占めていそうだ」

「だけど、だからこそ、なのです。あたしはあの子の、原始的な領域、基底部分、先天的性質を抽出したのです」

「つまり、クリーチャー化してないマジカル・ベル……いや、太陽神話の力を借り受けていない部分なら、伊勢小鈴そのものの、か」

「なのです。だからあれはマジカルベルというより、純度100%の伊勢小鈴ちゃんの原液みたいなものなのです」

 

 言うなれば、伊勢小鈴という存在の生まれ持った「才能」だけを抽出して具現化したもの。

 それがあの、巫女服姿の、伊勢小鈴。

 

「……で? それが?」

「わからないのです?」

「画面越しじゃあなぁ」

「ディジーさんならわかるでしょうに。呪いとか得意なはずなのです」

「言うほど得意でもねぇよ。んー……」

 

 ジッと、ディースパテルは画面の向こうの伊勢小鈴ではない伊勢小鈴を見つめる。

 

「……異教の呪術か。辺境の特殊な魔術体系と見た。いやまあ、太陽系的に異教で特殊で異端なのは、俺らなんだがな」

「まーでも、こういうのあたしらの得意分野なのですし、わかるのですよね。あの子――魔術師なのです」

「この国だと、道士とか法師って言うんじゃないか? 陰陽師なんてのもあったか?」

 

 魔術師、道士、陰陽師――呼び名はさておき、それが、伊勢小鈴に眠る“才能”――

 

「――では、ないのですよねぇ」

「違うのかよ! 俺わかってねーじゃん!」

「まー違うっていうか、正確じゃないのです。ほら、なんであたしが巫女服を着せたと思っているのです?」

「お前の趣味だろ」

「8割せいかーい、なのです」

「ほとんど正解じゃねぇか……」

「残りの2割が肝要なのですよ。あれは魔術師(ウィザード)じゃなくて、聖職者(プリースト)……あるいは霊能者(シャーマン)なのです」

「あぁ、精霊使いか。確かにそんな感じするな」

「なのです。だからあれは、マナを力に変換するってよりも、超越的存在そのものを降ろして交信する者。つまり巫女さんなのです」

「巫女の才能、ねぇ」

 

 それが伊勢小鈴の起源(オリジン)。神格と繋がる、巫術の才覚。

 ディースパテルはその現物を見て納得した。しかし、突飛な話だ。

 マジカル・ベルは今まで、巫女の力――降霊も、祈祷も、祓魔も、そんな力を見せたことはなかったはず。

 

「そうなのですよね。これ、リズちゃん的にはあり得ない育ち方なのですよ。本来持ってる才能を全部潰してのほほんと生きて、あまつさえ異星の力で暴龍事変……要は体侵蝕を起こしているのですから。育成方針がぜんっぜん合理的じゃない、アホアホのアホなのです。この子を育てた親、だいぶ育成ゲーム下手くそなのですね」

「あるいは、元々その才能を伸ばす気がなかったか、だな」

 

 才能や起源。それは純然たる生まれ持ったセンスであることもあれば、血筋による継承であることもある。

 “伊勢”――小鈴。

 天運か血統か。人ならざる我々には知る由もないことだが、それを堰き止めた者がいたのだとすれば――

 

「まーそーゆー風になりたいって思うのは勝手なのですけどね。わざわざ持てる力を捨てるのは非合理的だと思うのですけど」

「生まれる時代が時代なら、トップランカーの術士になってそうだな」

「メルちゃん的には巫女さん推しなのですけど、可愛いし。あ、お正月になったらメルちゃんの季節限定衣装とかでどうなのです? 巫女メルちゃん。小鈴ちゃん0号の服飾データを調整して、ありきたりだとインパクトに欠けるから、あたしらしく改造してー」

「まあいいんじゃね? しかし、そうか。これはいわゆる原始神道……辺境の魔術体系、異教の神に、神話、か」

 

 巫女の才とは、つまり神を降ろす才。

 【死星団】の目的も、女王を――邪神を降ろすこと。

 もっとも、巫女として見た伊勢小鈴はあまりにも完成されすぎている。異教の邪神を降ろす余地などないだろうが。

 仮に彼女が神を降ろすのだとすれば、一体、なにを降ろすのだろうか。

 

「とまぁ、色々語ったのですけど、余興なのですよ、よきょー。量産が貯めるちゃん混成体にも飽きてきた頃、新しい変化が欲しいとこなのです」

「飽きっぽいなお前は」

「でも、面白そうなのですよ? そりゃあ確かに、戦略的には決して有効ってほどでもないのですけど、こんなの“ゲーム”なのですから、遊び心がなきゃ、なのです。ほら、演出も東洋っぽく神々しい感じで!」

「光と一緒に降りてくるのは、どっちかっつーとエイリアンっぽくないか?」

 

 などと言葉を交しながらも、ディースパテルはまったく別のことを考えていた。

 

(ミスが目立ってきたな……)

 

 ここまでの対戦。小さいレベルではあるが、ちらほらと量産型メルクリウスの混成体のプレイングにミスが見られるようになってきた。

 それはつまり、メルクリウスの処理能力が限界値に達してきているということ。

 

(もっとも、現状だと忙しないってよりは、気ぃ抜いてる感じだろうが……)

 

 だとしても結果としてミスが発生するということは、注意散漫であるということ。気を抜いているということは、相手を侮っているということ。

 それこそディースパテルが狙っていた、メルクリウスに付け入る隙だ。

 故にこそ、もっと押してメルクリウスを釘付けにし、負担をかけたいところ。

 

(ちっと早いが、あいつを投げるか)

 

 ディースパテルは門を開く。誰にも気取られないように、小さく、静かに。

 

「――ん? あれ、この反応……」

 

 兎を、野に放つ――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――さ、三月ウサギ、さん……?」

 

 蠱惑的な身体に、妖艶さと、獣のような荒々しさを備えた、【不思議の国の住人】。

 ……みのりちゃん、霜ちゃん、そして代海ちゃん。みんなと離れ離れになってしまった発端の……ひとり、だ。

 でもなんだが今は、ちょっと疲れてるっていうか、やつれてる……? 髪もボサボサだし、少し汚れていた。

 

「なにぼけっとしてんのよ、あんた。相変わらずムカつく顔してるわね」

「え、えぇ……!?」

「しかも、あっちにもあんたの顔があってダブルでムカつく。ここ最近、腹立つことばっかりよ、まったく」

「あ、あの、三月ウサギさん……ですよね?」

「だったらなに? 見ればわかるでしょ? それとも僕の顔、忘れたわけ?」

「わ、忘れてないです……」

「ならよし。絶対忘れるんじゃないわよ。僕の狂気も、淫欲も、全部あんたの身体に刻み込んでやったんだから」

 

 ……? わたし、なにかされたっけ?

 そういえば前に、この人に負けて……どうなったんだっけ? 記憶がふわっとしてる……

 

「……のはずなんだけど、なんであんたそんなピンピンしてるわけ?」

「えっと……?」

「僕の呪いを受けて正気保ってる女なんて、僕レベルに性欲持て余してるビッチか、パンチョウ並のアホしかいないと思ってたのに……それとも慰めてくれる男でもいたの?」

「……?」

「イラッ」

 

 なにか管が切れるような音が聞こえた気がする。

 三月ウサギさんは、ピクピクと青筋立てながら、わたしのほっぺを摘まんで、引っ張る。

 

「あぁもう! ハッキリしなさいよ、この……!」

「いひゃい、いひゃい! わ、わたひには、なんのことはわはりまひぇん!」

「……まさか本気で覚えてないわけ?」

 

 ようやく解放される。うぅ、ほっぺがひりひりする……

 

「気持ちよすぎて記憶でも飛んだ? 確かに相性いいとヤバすぎてトぶことはあるけど、僕でも記憶まで飛ばさないわよ……ガキの癖にませてるわね。清純ぶってド淫乱なのが一番腹立つわ」

「な、な、な……なんなんですか、いきなり現れて!」

「僕だって好きでこんなとこにいるわけじゃないのよ! あぁもう、思い出すだけでもムカムカする……! なんだって僕はこんなとこに連れてこられなきゃならないのよ!」

 

 知らないよ!

 ……と、口に出すとまたほっぺを引っ張られそうだったので、言わないでおきます。

 わたしが口を出さなくても、なんだか、すごい怒ってるし……

 

「あの口先三寸のクソ野郎も、自分勝手なクソ虫も、ダブルでクソにいいように動かされてる自分も! ついでに僕よりデカいあんたも! ムカつくムカつく、全部ムカつく! お母さまの淫欲担当なのに怒りの方が勝るってキャラ崩壊もいいところよ! もっと気持ちよく快楽に浸らせなさいよ! 僕のアイデンティティどこに行ったのよ!」

「小鈴、彼女はなにを言っているんだい?」

「さぁ……?」

「えぇいうるさい!」

「いひゃいいひゃいいひゃいでふ!」

 

 結局ほっぺ引っ張られる。理不尽だよ!

 

「……ったく。めちゃくちゃ遺憾、というか腹立たしいんだけど、無理やり交されたとはいえ契約は契約なのよね。今はあんたを苛めるのはやめたげるわ」

「だったらほっぺを引っ張らないでよ……」

「うっさい。普段ならもっと敏感なとこを引っ張るところをほっぺで我慢してあげてるのよ。むしろ感謝しなさい」

「えぇー……横暴……」

「ほんとはあんたのこともめちゃくちゃムカつくから、獣みたいにあんあん鳴かせて泣かせてやりたところだけど、契約上はそういうわけにもいかないから、代わりに――」

 

 ちらりと、三月ウサギさんは、向こうのわたしを、見遣る。

 

「あっちのあんたに似た奴。あれなら玩具にしてもいいわよね」

「…………」

 

 わたしの姿をした彼女は、やっぱり喋らない。超然と、虚な眼で、わたしたちか、あるいは遠くのどこかを見つめている。

 よくわからないけど、三月ウサギさんは味方……なのかな?

 

「がきんちょは下がってなさい。今ちょっと僕、欲求不満が爆発しそうだから、ストレス発散しなきゃいけないの」

「は、はぁ……」

「あんたが代わりになるならそれでもいいけど」

「それは遠慮しておきます……」

「じゃ、あれは僕がボコボコにするわね。どうせこの世界で作られた複製とかいうものでしょうし、いくら苛めて泣かせてもいいのよね。想像すると、ちょっと興奮してきたわ」

 

 ……確かに、あれはわたしじゃなくて、きっと敵なんだろうけど。

 仮にもわたしの姿をしているから……なんか、複雑……

 

「――信託。受諾」

「!」

「喋った……!」

 

 今まで一切、言葉を発しなかった彼女は、遂に言葉を発した。

 その声もどこか機械的で、生気というか、自我を感じない冷たいものだったけど。

 戦う意志があることは、見てとれた。

 

「ふぅん、反抗的ね。まあいいわ、そういうのを屈服させる方が昂ぶるってもんよ。生意気もマグロも、まとめて鳴かせてあげる」

 

 彼女は、妖艶に微笑んだ。

 その魔性の笑みに、思わず、ぞくりと来る。

 

「三月のウサギのように、ね」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 三月ウサギさんと、わたしのようなわたじじゃないわたしの――呼びにくいから、巫女鈴って呼ぶね。

 ふたりの対戦は、どちらもマナ加速から動き出したけど、三月ウサギさんがちょっと出遅れてる……?

 

(かし)こみ(かし)こみ(まを)しますが。伊弉諾(イザナギ)の大神に奉る」

 

 巫女鈴の番。

 彼女は、祝詞を言祝ぐ。呪文のように、祈りを捧げるように、誰かにその言の葉を伝えている。

 

天浮橋(アマノウキハシ)より、天沼矛(アメノヌボコ)を掻き回せ。雫は島に、天には柱、結びに社。回りて誓い、命じて神へ」

 

 今まで感じたことのない凄みがある。

 なのに、なんでだろう。

 まったく未知の力なのに、どこか、懐かしいような……?

 

 

 

「国産み、勅命――《蒼狼の大王 イザナギテラス》」

 

 

 

 水飛沫を撒き散らし、大海嘯のような海竜を引き連れ現れた、大王様。

 これもはじめて見るクリーチャーなのに、なんでだろう。知らないはずなのに知ってるような。

 身体の奥底でなにかが疼くみたいな、変な感じがする。

 

「《イザナギテラス》がバトルゾーンに出た時、山札の上から5枚を閲覧。その中の1枚を手札に加え、手札からコスト3以下の呪文を唱える」

 

 混沌の坩堝を掻き回す。

 巫女鈴の山札から5枚が捲り上げられ、そのうちの一枚が、高く、打ち上げられて、

 

「呪術式・起動、《神秘の宝剣》」

 

 そのまま、剣となって落ちてくる。

 

「山札から自然ではないカードを1枚、マナゾーンへ」

 

 落ちた剣はそのまま大地に吸収され、マナとなる。

 結果的には、ただマナ加速をしただけなんだけど、なに、この妙な威圧感は……

 

 

 

ターン3

 

 

三月ウサギ

場:なし

盾:5

マナ:5

手札:3

墓地:1

山札:26

 

 

巫女鈴

場:《イザナギテラス》

盾:5

マナ:5

手札:3

墓地:1

山札:25

 

 

 

「僕のターン。呪文《ドンドン水撒くナウ》! 山札から2枚をマナへ」

 

 三月ウサギさんも、形はちょっと違うけど、マナと手札を同時に増やしていく。けど。

 

「……微妙すぎる。《喜望》を回収。《イザナギテラス》をバウンスよ。ターンエンド」

 

 顔をしかめて、小さく舌打ちする。あんまり引きがよくないみたい。

 

「2マナをタップ。呪文《地龍神の魔陣》、山札から3枚を閲覧。1枚をマナへ。4マナをタップ。《イザナギテラス》を召喚。山札の上から5枚を閲覧。1枚を手札へ。その後、呪文を詠唱。呪文《海龍神の魔風》。手札をすべて山札の下へ。そして戻した枚数と同じ枚数ドロー。唱えた呪文は手札に戻る」

 

 一方で巫女鈴は、なんか、すごい動いてる。

 マナを増やして、クリーチャーを増やして、手札を入れ替えて……着々と準備を整えている。

 

 

 

ターン4

 

 

三月ウサギ

場:なし

盾:5

マナ:6

手札:4

墓地:2

山札:23

 

 

巫女鈴

場:《イザナギテラス》×2

盾:5

マナ:7

手札:3

墓地:3

山札:21

 

 

 

 

「僕のターン、2マナで《フェアリー・Re:ライフ》よ。マナ加速してから、双極・詠唱(ツインパクト・キャスト)! 《キーボード・アクセス》! さらにマナ加速、そしてマナ回収……ターンエンド」

 

 三月ウサギさんも、マナを伸ばしながら、マナからカードを拾って、準備しているんだけど。

 

(これは……完全に遅きに失したわね)

 

 明らかに、遅すぎる。

 これじゃあ間に合わない。

 もう彼女は、大儀式の準備を、終えているのだから。

 

「畏こみ畏こみ申しますが。伊弉冉(イザナミ)の大神に奉る」

 

 畏れ多くも、申し上げる。

 大いなる神様に、祈りを奉り、嘆願する。

 

「焔の神にて根堅州国(ネノカタスクニ)の戸を叩け。黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)の末に道反(チガエシ)あり。月は夜食国(ヨルノオスクニ)滄海原(アオノウナバラ)に櫛を梳け」

 

 海を作り、島を作り、国を作ったのが、大王。

 であれば次に作るのは――命。

 

 

 

「神産み、勅命――《蒼狼の王妃 イザナミテラス》」

 

 

 

 作られるは神であり、作るのは王妃様。

 海から地から、生命の奔流を支配して、あらゆる身体の欠片が散り散りになる。

 

「山札から1枚目を手札に。その後、マナゾーンから、その総数以下のクリーチャーを、《イザナギテラス》から進化」

 

 ぶくぶくと、泡立って。

 千切られた肉片から、神が、産まれる。

 

「畏こみ畏こみ申しますが。天照坐皇大御神(アマテラシマススメオオミカミ)に奉る」

 

 ぞくりと、ぞわりと。

 恐怖ではなく畏怖。狂気ではなく畏敬。

 怖くはない。ただ畏れ多い神威が、わたしの身体に、本能に、訴えかけてくる。

 

「宴の声は岩戸まで、遊芸の歌は彼方まで。彼の願い、彼の祈り、秘めることなく降ろし賜え」

 

 眩いばかりの陽の光。

 それは彼女の歌に乗せられて、高く、遠く、遥かに、響き渡る。

 

 

 

高天原(タカマガハラ)に、天照らす――《神歌の歌姫 アマテラス・キリコ》」

 

 

 

 大王様が繋ぎ、王妃様が産み落とす。ならばそれは、姫君だ。

 産声は神の歌。だけど、それは姫と呼ぶにはあまりにも高尚で、力強くて、神々しくて。

 直視できないほどに――眩しい。

 

「《アマテラス・キリコ》で攻撃――能力、起動」

 

 その神威を感じる暇もないほどに、彼女はすぐに動き出した。

 

「他のクリーチャーをすべて山札に戻し、山札から10枚を閲覧。その中からコスト10以上のクリーチャーをすべてバトルゾーンへ」

「ここが勝負ね。捲りが弱ければラッキーなんだけど」

 

 10マナ以上のクリーチャーなんて、そんなにいっぱいデッキに入っているとは思えないけど、10枚も山札を捲るなら、ハズレだって少なくなる。

 神の歌が、神々を呼ぶ。引きこもるのではなく、誘う声を放つ。

 荒々しい神も、荒ぶる怪物も、みんなまとめて、引きずり出す。

 

「生体式・起動《八頭竜 ACE(エース)-Yamata(ヤマタ)》。招来《暴嵐竜 Susano(スサノ)-O(オウ)-Dragon(ドラゴン)》」

 

 10枚捲って、出て来たのはたった2枚。

 だけどその2枚だけでも、十分な破壊力を持っている。

 

「《アマテラス・キリコ》でTブレイク」

「ぐ……っ!」

「《Susano-O-Dragon》の能力により、すべてのクリーチャーはスピードアタッカー。《ACE-Yamata》でTブレイク」

 

 立て続けに、神々の暴威が三月ウサギさんに襲いかかる。

 一瞬でシールドがゼロに。

 

「やっばいわね、《Susano-O-Dragon》は呪文じゃ選べない……《水撒くナウ》どころか、《Re:ライフ》も効かないじゃない……!」

「《Susano-O-Dragon》でダイレクトアタック――」

「だったらこれよ! ニンジャ・ストライク《怒流牙 サイゾウミスト》!」

 

 呪文が効かない。止められないなら、無理やり受ける。

 間一髪。三月ウサギさんは、一命を取り留めることが、できた。

 

 

 

三月ウサギ

場:なし

盾:0

マナ:9

手札:8

墓地:0

山札:23

 

 

巫女鈴

場:《アマテラス・キリコ》《Susano-O-Dragon》《ACE-Yamata》

盾:5

マナ:8

手札:2

墓地:3

山札:19

 

 

 

「……正直、驚いたわ」

 

 巫女鈴の猛攻を凌いだ三月ウサギさんは、とても冷静だった。

 クリーチャーはいない。だけど、手札とマナは潤沢。

 それさえあれば十分とでも言うのか。

 いや、事実、十分なのだと思う。巫女鈴が、そうであったように。

 地固めが完了しているのなら、1枚あれば十分。巫女鈴のように。そう、三月ウサギさんも――

 

「――奇しくも同じ構えね」

 

 6マナをタップする。

 

 

 

「《イザナミテラス》を召喚!」

 

 

 

 彼女と、まったく同じ、カード。

 

「あんたの歌は聴いてやったわ。じゃあ次は、僕の嬌声(うた)を聴きなさい。そして、あんたの喘ぎ声(うた)も、聴かせなさい――!」

 

 そして、まったく同じ、進化。

 

 

 

「《神歌の歌姫 アマテラス・キリコ》!」

 

 

 

 巫女鈴と同じ切札、《アマテラス・キリコ》。

 あっちのとは違って、この《アマテラス・キリコ》は、縛り付けられるような恐れ多さは感じないけれど……

 【不思議の国の住人】と関わってきて感じるようになった、狂気が、滲み出ている。

 

「《アマテラス・キリコ》で《ACE-Yamata》を攻撃! その時、能力発動! 山札から10枚を表向きに!」

 

 進化方法は同じ。そこから大型クリーチャーを乱打するのも、きっと同じ。

 

「《八頭竜 ACE-Yamata》! そして――」

 

 だけれど、出て来るクリーチャーまでが、まったく同じとは限らない。

 これは三月ウサギさんのデッキだ。ってことは……

 

「――《アマテラス・キリコ》を、究極進化!」

 

 神の歌はおぞましい雄叫びに。

 歌姫の姿は、狂気に塗り潰される。

 

 

 

「万雷の喝采は獣の声に。快楽は稲妻の如く、雷鳴のように喘ぎなさい――《神羅サンダー・ムーン》!」

 

 

 

 雷撃轟く、金色の姿。

 太陽すら喰らいそうなほど獰猛な、月の雷霆。

 神々しさと同時に、邪悪さすら感じるけれど、その黒々とした魔性が、巫女鈴から感じられる神威を、押し潰す。

 

「ふふふ、ようやくノってきたわね。さぁ、痺れるような快楽をくれてあげるわ! 《サンダー・ムーン》がバトルゾーンに出た時、マナゾーンから呪文を1枚、タダで唱える!」

 

 どんな重量級呪文でも、ノーコストで放つことができる、超大技。

 コスト10も掛かるだけあって、派手で大胆だ。

 

「全席満員。だけどベッドはひとつでいいわ。何人いようが、邪淫の獣には関係ない。ひとり残らず出て来なさい!」

 

 神の歌は、狂気の雷鳴に塗り替えられ、神の国は異質な劇場へ、産み落とされた神々の居場所にも、新たな命が席巻する。

 そう、彼女の、落し子が。

 

 

 

「全員まとめて抱いてやるわ――《煌銀河最終形態(ギラクシーファイナルモード) ギラングレイル》!」

 

 

 

 宙の彼方から――降ってくる。

 

「《ギラングレイル》の効果で、12回GR召喚!」

 

 ……12回!?

 GRゾーンのカードは最大12枚。つまり、GRゾーンのGRクリーチャーを、すべて引っ張り出す、ってこと……!?

 大宇宙から次々と射出され、地上へと産み落とされていく落し子たち。

 邪神の手で、在来の神は、追いやられていく。

 

「さぁここからはノンストップのイキ地獄! 嫌と言っても手は緩めない快楽責め! 休みなしでドンドン処理していくわよ! 《マシンガン・トーク》の能力で、僕の《サンダー・ムーン》とあんたの《Susano-O-Dragon》をアンタップ! 《クリスマⅢ》を自爆してマナ加速! 《ヘルエグリゴリ-零式》の能力で、《ロッキーロック》と《マーチス》を破壊! 《ロッキーロック》が破壊されたことで《クリスマⅢ》が戻ってきて、《マーチス》のマナドライブで《ロッキーロック》も戻ってくる! もう一度《クリスマⅢ》を爆散! 2体目の《マーチス》のマナドライブで《クリスマⅢ》が戻ってくる!」

 

 な、なんかすごいことになってる……

 12体も一気に出て来たものだから、能力の発動、処理も多い……ど、どうなってるのか、よくわからない……

 

「まだまだ! このターン僕は5体以上火のクリーチャーを出しているから、《“魔神轟怒”ブランド》は超天フィーバーまで発動! 男女のまぐわいで、僕に勝てると思わないことね。何度だって起き上がるわ」

「…………」

「そろそろ攻めて行くわ。《サンダー・ムーン》で《ACE-Yamata》を破壊! さらに僕の《ACE-Yamata》であんたの《アマテラス・キリコ》を攻撃!」

 

 《サンダー・ムーン》の雷撃が巫女鈴の《ACE-Yamata》を、そして三月ウサギさんの《ACE-Yamata》が巫女鈴のクリーチャーを食い千切り、飲み込んだ。

 

「《ACE-Yamata》がバトルに勝ったことで、マナゾーンから《イザナミテラス》をバトルゾーンへ! 《アマテラス・キリコ》へ進化!」

 

 しかもそのまま、2体目の《アマテラス・キリコ》……!

 まったく止まらない。三月ウサギさんは狂ったように、がむしゃらに暴れ回り、命を生み出し続けている。

 

「《Susano-O-Dragon》は勃たせてあげたから攻撃誘導はできない。《マシンガン・トーク》で起き上がった《サンダー・ムーン》で、今度はTブレイクよ!」

「S・トリガー《ドンドン火噴く(ボルかニッ)ナウ》。山札から3枚を閲覧。1枚を手札、1枚をマナ、1枚を墓地へ。《ドンドン水撒くナウ》を墓地に送り、《“魔神轟怒”ブランド》を破壊。G・ストライク《フェアリー・Re:ライフ》。2体目の《“魔神轟怒”ブランド》を拘束」

「その程度じゃ止まんないわよ! 《アマテラス・キリコ》で攻撃! さぁ、もう一発ヤるわよ!」

 

 大量に展開したクリーチャーを、まとめて山札に戻してしまう。

 場がまっさらになったけど、また、混沌が形成される。

 

「《八頭竜 ACE-Yamata》! 《古代楽園 モアイランド》! 《審絆の彩り 喜望》! 《喜望》の能力で、出て来た3体をすべてタップ!」

 

「出て来るGRクリーチャーは当然、既に操作済み! 《続召の意志 マーチス》! 《“魔神轟怒”ブランド》! 《マーチス》のマナドライブで《“魔神轟怒”ブランド》と《マシンガン・トーク》を追加! 《アマテラス・キリコ》をアンタップ! ついでに《ロッキーロック》の能力で、《ヘルエグリゴリ-零式》と《ロッキーロック》をバトルゾーンに! 《ヘルエグリゴリ》の能力で《ロッキーロック》を破壊して、《ロッキーロック》が出て来るわ!」

 

 止まらない。一度場が更地になったのに、どんどんクリーチャーが溢れてくる。

 

「なにが国産みよ。神産みがなによ! 僕たちのお母さまは、千匹の仔を孕むクソビッチよ! 僕たちはその子供! 神に至るなんて大それたことはできないけれど、闇の眷属ならこれこのように、いくらでも産み落としてやるわ!」

 

 怒濤の勢いで産まれるクリーチャーたち。何度も歌うような嬌声を轟かせる《アマテラス・キリコ》。

 獣の咆哮のような喘ぎが、次々とシールドを叩き割っていく。

 

「残りのシールドもブレイク! 《モアイランド》で呪文は使わせないから!」

「……G・ストライク《地龍神の魔陣》。《“魔神轟怒”ブランド》を拘束」

「止まらないつってんのよ! 《アマテラス・キリコ》で攻撃! 何度だって、僕のを聴かせてやるから、あんたも啼きなさい! 喚きなさい! 艶やかに、獣のように、水音と共に喘ぎなさい!」

 

 また、場がまっさらになって。

 山札が捲られて、色んなゾーンがかき混ぜられて、クリーチャーが増えて。

 なにが起こっているのか、わけがわからないままに。

 雷鳴が、神の怒りの如く、轟いた。

 

 

 

「《神羅サンダー・ムーン》で、ダイレクトアタック――!」




 そろそろウサギは色んなクリーチャーやそのファンに謝った方がいい。ごめんなさい。
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