アンケートの結果は、あとがきに載せておくので、知りたいという人は先にそちらをどうぞ。先入観なく読みたい人は、このままお進みください。
こんにちは、伊勢小鈴です。
先日、わたしは『帽子屋』と名乗る男の人に、デュエマで負けてしまいました。
帽子屋さんは【不思議な国の住人】とか、聖獣を探しているとか、ちょっとよくわからないことを言ってましたが、わたしにとってそんなことは、あんまり関係なかった。
帽子屋さんに負けたことが、すごく悔しかった。
不思議で奇妙で不可解で、わたしの知らない世界を見せつけられて負けたことが、悔しかった。
それはたぶん、帽子屋さんに対してじゃない。
自分に対して、自分の無知と弱さが、悔しかったんだと思う。
わたしは、もっと強くなりたい。今まで、みんなとやるデュエマは楽しかったけど、楽しいだけじゃ、終われなかった。
本当なら、みんなと遊べるだけで、それでいいはずなのに。
それはある種の予感のようなもので。ただ楽しいだけで終わってはいけないような。そのままだとダメなような、そんな気がしたんだ。
行きつけのカードショップのお姉さん、長良川詠さんに相談したら、一人でデッキを作ってみたらどうかと、提案された。
一人でデッキが組めたら一人前、詠さんはそう言っていた。改造ではなく、一から組み上げるんだって。
どうして一人でデッキを作ることが強くなることに繋がるのかはわからないけど、詠さんの言う通りわたしは一人でデッキを作ることにした――
☆ ☆ ☆
「――どうしよう」
学校の図書室、その一角で、わたしは頭を抱えていた。
ちょっと自慢ですけど、わたしたちが通う烏ヶ森学園の図書室は、第一図書室から第三図書室まで、三つの図書室があります。それぞれ使用目的がちょっと違ってて、第一図書室が小説とか絵本とかの楽しむための読み物が置いてる一般的な図書室。生徒がよく使うのはこっちです。
第二図書室は参考書とか辞書とかが置いてある、勉強のための部屋。ちょっとした自習スペースが用意されてて、テスト前になるとここで勉強する人も多い。わたしが今いるのはここです。夏休みが始まったばかりで、人がいないからね。
ちなみに第三図書室は大きな書庫で、貸出禁止の貴重な本が色々保管してあるとかなんとか。この部屋はほとんど行かないからよくわからないです。
そんな第二図書室の自習スペースで、わたしは今自分が持ってるカードをすべて広げて、デッキを作ろうとしていた……んだけど。
早速そのデッキを作る手が止まっていた。
「そもそもデッキってどうやって作ったらいいの……? 全然わかんないよ……」
デッキの改造だけなら、ユーちゃんや詠さんたちのアドバイスでなんとかできたけど、一から作るとなると、どうすればいいのかわからない。
みんなでデッキを作ったこともあったけど、あれはみんなが持ち寄ったカードを色々入れてたら、なんとなくできたものだし、それにみのりちゃんのデッキに対抗するため、っていう目的があったからできたものだし……
「ん……? 目的……?」
そういえば、みのりちゃんと戦うためにデッキを作った時は、みのりちゃんに勝つため、みのりちゃんのデッキに対抗するという目的でカードを選んで、デッキを作った。
みんなわたしよりもカードについてたくさん知ってるってこともあるんだろうけど、目的がハッキリしてるから、どんなカードを入れるのか、すぐに決められた。
「つまり、どんなデッキにするか、デッキの目的がハッキリしてれば、デッキを作るためのカードも選びやすいってことなのかな」
そうと決まれば、デッキの目的を設定したいところだけど、
「……どんなデッキにすればいいんだろう」
今度はデッキの目的ってどうやって決めるの? という堂々巡りに入ってしまった。
わたしって、本当になにも知らずにデュエマやってたんだなぁ……デッキも自分一人じゃ作れないんなんて。
「やっぱり、誰かに手伝ってもらおうかなぁ……」
「あれ? 伊勢さん?」
と、その時。
背後から声をかけられた。
この声は、まさか……
「っ、剣埼先輩……!?」
「やっぱり伊勢さんだ。夏休みに自習室にいるなんて珍しいね」
そこにいたのは、三年生の剣埼一騎先輩。恋ちゃんのお兄さんみたいな人で、学援部の部長さん。
自習室というのは、第二図書室の通称です。
というのはともかく。
「ん? カード……?」
「あ、あわわわわ……! これは、その……」
慌ててカードを隠そうとするけど、ちょっと広げすぎた。どう考えても隠しきれていない。
「……学校でカードを広げるのは、あんまり感心できないよ」
「ご、ごめんなさい……」
「まあ今は人もいないし、だからこそここでやってたんだろうから、やめろとは言わないけど……でも、どうしてこんなところで?」
「デッキを作ろうと思って……カードショップだと他の人に迷惑になりそうですし、家だと、その、お姉ちゃんに見られたくなかったので……」
「あぁ……」
なんだか先輩が渋い顔で頷いている。
「やっぱり伊勢さんって、会長の……」
「? どうしました?」
「いや、なんでもないよ。それよりデッキを組むって、一人で?」
「は、はい。強くなるにはどうしたらいいかって聞いたら、行きつけのカードショップの店員さんに、一人で作ってみたらって言われたので、そうしてみようかなって……」
「伊勢さんは、強くなりたいの?」
「……はい。わたし、みんなよりも弱いので。もっと強くなりたいと思って」
本当はちょっと違うけど、それも嘘ではない。
ユーちゃんとは同じくらいの強さだけど、それでも最近はよく負けちゃうし、恋ちゃん、霜ちゃん、みのりちゃんらにはまったく勝てない。
少しでもみんなに近づきたいという気持ちも、ないわけじゃないんだ。
「……伊勢さん。君は今、楽しんでデュエマができてる?」
「え?」
「俺は君にデュエマを教えた日以来、君のデュエマを見たことがないけど、まだ君は初心者を抜け出していないと思う。だけど、それとは関係なく、君の周りには強い人がいると思う。それでも、実力差が明らかな相手とのデュエマでも、楽しいかい?」
「…………」
なんとなく、先輩が言いたいことはわかる。
わたしの友達はみんなデュエマをやってるけど、そのほとんどの人が、わたしよりもずっと強い。
わたしはみんなとのデュエマでは、ほとんど負けてばかりだ。
それでも、そんなデュエマでも、楽しいかどうか。
改めて言われると考え込んじゃうけど、答えはすぐに出た。
「……楽しいですよ、とても」
いつも負けちゃうけど、みんなとのデュエマは楽しい。それは確かなことだ。
恋ちゃんは、わたしに強さを伝えてくれる。
ユーちゃんは、わたしと同じ目線で戦ってくれる。
霜ちゃんは、わたしの知らないコンボを教えてくれる。
みのりちゃんは、わたしを驚かすカードの使い方を見せてくれる。
確かに勝てないけど、デュエマするたびに、みんなから色んなものを得られるし、デュエマをするごとに驚きや発見がある。
だから、みんなとのデュエマは楽しい。それだけは、確かなことだ。
「そう……ならよかったよ」
先輩は、いつものような穏やかな微笑みを見せた。
「恋から話だけは聞いてたけど、楽しいならよかったよ」
「恋ちゃんから?」
「うん。最近の恋、毎日凄い楽しそうにしてるんだ」
「そ、そうなんですか……」
表情が一切変わらないし、昔の恋ちゃんをよく知らないから、わたしにはよくわからないけど……
でも、先輩が言うなら、そうなのかな。
「俺は、伊勢さんに感謝してるんだ」
「え? わたしに、感謝、ですか?」
思いもしない言葉に、キョトンとしてしまう。
「うん。恋が楽しそうにしてるのも、君のお陰だからね。あいつは見ての通り、ちょっと変わった奴だし、クラスにもあんまり馴染めてなかったようだけど、君が恋と友達になってくれたから、あいつは毎日が充実してるみたいなんだ。だから、本当に感謝してる」
「そ、そんな感謝だなんて……」
「恋のことだけじゃない。ユーリアさんや水早君の件についても、君がいてくれたから解決できた。俺も君には色々助けられてるんだ。今ここでもう一度お礼を言わせてもらうよ。ありがとう」
「あぅ……」
先輩にお礼を言われて、恥ずかしいような、こそばゆい気持ちになる。
……けど、嬉しい。
こんなわたしでも、先輩の役に立てたと思うと、すごく嬉しい。
ふと、思い出す。
あの時のことを。
「……あの、先輩」
「なにかな?」
「その……わたしは……」
ずっと、言いたかったことがある。
あの時からずっと抱えた言葉。
ここで、言いたかった。
精一杯の勇気を出して、声を振り絞る。、
「先輩――」
ピリリリリリ
無機質な電子音が響き渡った。
音源は、先輩のポケットの中だった。
「わっ、マナーにしてなかったっけ……ごめん伊勢さん! ちょっと待ってて」
「……あ、はい」
先輩は携帯片手に、慌てて図書室の外に出た。
扉の向こうから、微かな声が聞こえる。
「……ミシェル? ……うん、うん……あ……そうなんだ。こっちは大丈夫。うん……資料、見つけたから……」
ちょっと待ってて、の言葉通り、数分としないうちに先輩は戻ってきた。
「ごめんね伊勢さん。ちょっと、学援部の方で呼ばれちゃったから、俺はもう行くよ」
「は、はい……」
「そういえばさっき、なにか言おうとしてた気がするんだけど……」
「……いえ、なんでもないです……」
「そ、そう? ならいいんだけど……」
つい、そう言ってしまう。
ちょっとだけ自己嫌悪。
「あ、そうそう忘れるところだった」
「?」
「これを伊勢さんに渡したくってね」
そう言って先輩は、さっきと違うポケットから小さな箱を取り出した。
どう見てもデッキケースだ。先輩はデッキケースの蓋を開くと、中から一枚のカードを引き抜く。
「これを、伊勢さんに」
「え!? こ、これって、デュエマのカード、ですよね……?」
それは両面印刷で、キラキラと眩しく光るカードだった。
見たことのないカードだ。だけど、なんだかとても強そうに見える。
「こ、こんなキラキラしたカード、もらえませんよ……それに、先輩のデッキのカードなんじゃ……」
「いいんだ。二枚持ってるしね。それは恋のことに、学援部のこと……色んなことのお礼だよ」
お礼って……わたし、お礼をされるようなことなんてしてないし、わたしのやったことでこんな貴重そうなカードなんて、申し訳ないよ……
だけど先輩は、返そうとするわたしの手を制する。
「これは俺の気持ちだよ、強引だと思うかもしれないが、ぜひとも君には受け取ってほしい。むしろ、こんなことでしかお礼ができなくって心苦しいくらいだ」
「先輩……」
「それを使ったからと言って、簡単に恋に勝てるわけではないけど……それで少しでも君の力になれるなら本望だよ」
そう言うと先輩は、半身をわたしに向ける。
「それじゃあ、俺はもう行くよ。頑張ってね」
「は、はいっ。ありがとうございました……っ!」
ガラガラ、と自習室の扉が開かれ、ピシャリと閉められる。
無言で、無音の、静寂の時間。
なにもない時間が、やけに長く感じたけど、だからって、どうというわけでもない。
無意味な静寂に小さな穴を空けるように、ぽつりと口から声が漏れる。
「……結局、言えなかったなぁ」
先輩に感謝を伝えられたけど。
わたしは自分の感謝を、伝えられないままだ。
悔やむように、わたしは先輩からもらったカードに視線を落とした。
「《銀河大剣 ガイハート》……かぁ」
☆ ☆ ☆
「小鈴ちゃん、このカードどうしたの……!?」
新しいデッキを作るにはカードが必要。必要なカードを買うために『Wonder Land』に来たんだけど、そこで詠さんに、剣埼先輩からもらったカードを見せたら、目を見開いて驚かれた。
「その、知り合いからもらって……」
「これをタダで渡す人がいるなんて信じらんない……」
「そんなに貴重なカードなんですか?」
「レアもレア、ドラゴン・サーガの最高レアリティだよ。しかも再録の新規イラストバージョン! どんなに安くても数千円は下らないんじゃないかなぁ」
「そ、そんなに……!?」
思った以上に凄いカードをもらってしまった。
それを知って、なおさら申し訳ない気持ちになるけど……
「……大事にしなきゃ」
「そうだね。高いだけじゃなくて強いカードだし、それでデッキを組んでみたら?」
「はい。そのつもりです」
そう。
どんなデッキを作ればいいのか、その目的がハッキリしてなかったけど、このカードを使いたいという目的ができれば、相性のいいカードは探しやすくなるって、わたしは考えた。
先輩からもらったカードなんだし、せっかくだから、これでデッキを作ろうと思っていた。
「だけど、これ一枚じゃダメなんですよね?」
「そうだね。だけどそれを出すためのドラグナーは再録とか多いし、ストレージにもあるかもね」
「は、はい、探してみます……あの、探すの、手伝ってもらっていいですか?」
「勿論だよ!」
☆ ☆ ☆
「えーっと、ドラグハートは龍解が大事なんだよね」
とりあえず、《ガイハート》を出すためのドラグナー――《龍覇 グレンモルト》は、必要だからと四枚集めました。
問題は、その後。このカードを使って、どうやってデッキを作るかだ。
《ガイハート》の龍解条件は「自分のクリーチャーが攻撃する時、そのターン2度目のクリーチャー攻撃であれば、攻撃の後、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップする。」というものだった。
これを要約すると、クリーチャーで二回攻撃すればいい、ってことなのかな?
「装備したクリーチャーはスピードアタッカーになるから、すぐに攻撃できる。ってことは、それより前にもう一体クリーチャーを出しておけば、装備したターンに龍解できるよね」
S・トリガーで攻撃を止められちゃったら龍解できないけど、攻撃するだけで龍解できるなんて、簡単そう。
「でも、ドラグナーの《龍覇 グレンモルト》は6マナのクリーチャーかぁ」
6マナっていったら、《エヴォル・ドギラゴン》もそうだった。
だけど《ドギラゴン》は進化クリーチャーでコマンド・ドラゴンだから《B―BOY》や《コッコ・ゲット》の能力でコストを下げられた。だから結構早く出せたけど、《グレンモルト》は進化クリーチャーでもコマンド・ドラゴンでもない。
「《爆革命 グレンモルト》は、同じ《グレンモルト》でも両方の能力でコスト下げられたんだけどなぁ。どうしてこっちはヒューマノイド爆とドラグナーしかないんだろう」
同じ名前だし、姿も同じなのに、種族が違うなんて変なの。
変と言えば、《爆革命 グレンモルト》はどう見てもドラゴンじゃないけど……
「《龍覇 グレンモルト》は《トップギア》でしかコストを下げられないかぁ。そうしたら5マナだけど……」
ブロッカーとかで攻撃を止められるのもヤだし、S・トリガーが出ちゃう可能性も考えると、もっと早く出したい気もする。
《エヴォル・ドギラゴン》は出せたらすぐにTブレイクできたけど、《グレンモルト》は二回攻撃を成功させないと、切り札が出せないもんね。
もっと素早く出すには、どうすればいいんだろう……
「そう言えば、みのりちゃんの切り札も6マナからだったっけ」
みのりちゃんも色んなデッキを使うけど、わたしが最初に戦った、侵略と革命チェンジのデッキ。
あの時のみのりちゃんは《リュウセイ・ジ・アース》や《メガ・カラクリ・ドラゴン》を始点に、切り札を繰り出していた。
始点となるクリーチャーのコストは6と、ちょっと高かったけど、みのりちゃんはマナを増やして素早く出してたっけ。
「そうか、自然文明のマナ加速! マナを増やせば、早く切り札が出せるんだ」
《トップギア》とかだと、破壊されちゃったらコストを下げられなくなって、計算を狂わされることがあるけど、マナを増やせばそういう心配もない。
「確かわたしも、マナを増やせるカードを持ってたはず……あ、あった。これだ!」
《青銅の鎧》という緑色のカードを引っ張り出す。
「これならマナを増やせるし、クリーチャーも増えるから《ガイハート》を龍解しやすくなるよね」
でも、一枚じゃ引けなかったらダメだから、たくさん入れないと。
えっと、確か同じカードは最大四枚まで、だったよね。
「あ、でも二枚しかないや……」
とんだ誤算です。
いくらカードを漁っても《青銅の鎧》は二枚しか見つかりません。
「うーん、ワンダーランドに行って買ってこようかなぁ……ん? あれ?」
足りないカードを買おうか考えていると、ふと別のカードが目に留まる。
「このカード、《青銅の鎧》とほとんど同じ能力だ……ってことは」
《青銅の鎧》の代わりになる?
どっちもコストは同じだし、マナを増やせるし、これも一緒に入れれば《青銅の鎧》と同じ役割になれるってことだよね。
とりあえず、文明の合うカードをとにかく入れてみよう。
☆ ☆ ☆
「うーん、なんだか上手くいかないなぁ……」
とりあえず、火と自然でデッキはできたんだけど、なんだか上手くいかない。
わたしが昔使ってたデッキと、新しいデッキ。二つのデッキを使って、一人で新しいデッキがちゃんと戦えるか、少しでもわかればいいなと思って対戦してみたけど、新しいデッキはなかなか勝てない。
「《グレンモルト》がやられちゃったり、引けなかったら、なにもできなくなっちゃう……」
一人対戦の結果は、昔のデッキの快勝。S・トリガーで攻撃が止められて龍解できなかったり、《グレンモルト》が引けないうちに強いクリーチャーで押し切られちゃったりで、全然勝てない。
「もっとS・トリガーを増やそうかな……それに、《グレンモルト》だけじゃダメってことなのかな?」
前のデッキは《ドギラゴン》以外にも《マッハギア》《グラップラードラゴン》《バトライオウ》などなど、強いクリーチャーはたくさんいた。それらのクリーチャーも、切り札と言って差し支えないくらいには強かった。
《ドギラゴン》が引けなくてもそれらのクリーチャーで勝つことも少なくなかった。ということは、切り札は一種類だけじゃダメ?
「でも、他の切り札ってどうすればいいんだろう……」
そもそも《グレンモルト》が引けなきゃダメだから、もっとドローするカードを入れた方がいいのかな?
「そういえば霜ちゃんもコンボする時、ドローするカードをたくさん使ってたっけ」
霜ちゃんはコンボをする時、必要なカードを集めるためにドローするけど、それが大事なのはコンボだけじゃないんだ。
どんなデッキでも、結局は切り札が引けないと勝てない。そこにコンボデッキもそうじゃないデッキも違いはない。
だけど火と自然じゃ、ドローするカードはあんまりないし……
「ドローと言えば、水文明かぁ」
今のデッキ水文明を入れると、文明が三つになる。
みのりちゃんとケンカした時は四つの文明だったけど、あのデッキを使うのは凄く大変だった。
一つに減ったとしても、普段は火文明しか使わないから、三つの文明が入ったデッキを上手く使う自信はない。二つだってちょっと戸惑うのに。
だけど色々試した方がいいと思って、とりあえず水のカードを探してみる。
すると、
「……? あれ、このカード……」
また、一つのカードが目に留まる。
「このカード、水文明だと思って見逃してたけど、このデッキにすごく合うんじゃ……」
カードの能力をよく読んでみると、色々な発見がある。
文明は同じ文明のカードと組み合わせるばかりじゃない。わたしが今まで使ってたカードは、同じ文明どうしでサポートし合うカードばかりだったけど、違う文明をサポートするカードもある。
本当に、わたしが知ってる世界は狭かったんだなぁ。
「あ、こっちも……これも、マナが増えるから出しやすいかも……でも、ちょっとカードが足りないかな……」
どのカードを、どのくらいの枚数を入れたらいいのか。
どんなカードを入れたらいいのか。
カードを探して、作りかけのデッキからカードを抜き入れし続ける。
それを続ければ続けるほど、完成形が遠ざかっているかのようで、迷ってしまう。
先が見えなくて、終わりがわからなくて、足踏みしている。
探り探りでやってるけど、それもだんだん限界かも。
これ以上どうすればいいのかわからず、手が止まってしまう。
完成が見えたと思ったら、それは間違いで。
終わったと思ったら、それは失敗で。
ゴールの見えない永遠の作業が、巡るように続いていく。
やればやるほど思い知らされる。デッキ作りって、こんなに難しいんだって。
「……ちょっと、ワンダーランドに行ってみようかな」
暗がりのある、息苦しい空気に耐え切れず。
わたしは家を出た。
☆ ☆ ☆
何気なく『Wonder Land』に足を運んでみたら、そこには見慣れた二人組がいた。
「あれ? 小鈴ちゃん?」
「やぁ、奇遇だね、小鈴」
「みのりちゃん、霜ちゃん……どうしてここに?」
「どうしてもこうしても、カードを買いに来たんだよ。そしたら彼女とたまたま会って」
「私は暇潰しかなぁ。家にいても退屈だし、新しいデッキ組んだから、フリーで試しつつ遊ぼうと思って来たら、水早君と出会ったってわけ」
みのりちゃんと霜ちゃんは、対戦スペースで向かい合って、デュエマをしていた。
まだ始まったばかりみたいで、どっちもクリーチャーやマナの数は少ない。
「はい、じゃあ《ボルシェ》で攻撃する時に革命チェンジね、《シン・ガイギンガ》だよ」
「厄介だな。処理したいけど、選べない……トリガーは、《エマージェンシー・タイフーン》だ。二枚引いて一枚捨てるよ」
「《ガイギンガ》……?」
みのりちゃんが出したクリーチャーに目が留まった。
それは、わたしが切り札にしようとしていたカードとよく似ている。けど、違うカードみたいだ。
「みのりちゃん、それ……」
「ん? 《シン・ガイギンガ》のこと?」
「うん、ちょっとそれ、見せてもらっていいかな?」
「いいよ。はい」
外野がデュエマを中断させちゃって申し訳ないんだけど、どうしても気になって、そのカードを見せてもらった。
(《ガイギンガ》と似てる、っていうかほとんど同じ能力だ……)
ドラグハートか普通のクリーチャーか、登場時の能力があるか革命チェンジがあるか、細かい違いはあるけど、わたしの持ってる《ガイギンガ》とかなり似たスペックのクリーチャーだ。
もしかしたら、このカードから、なにかヒントが得られるかも。
「みのりちゃん。これ、どう使ってるの?」
「どうって、革命チェンジのギミックがあるから、素早くドラゴン出して殴る切るだけだよ。《ボルシェ》が使いたいからマナ加速じゃなくてコスト軽減の《トップギア》と《トップラサス》を入れてるけど、安定性を考えるなら加速でマナ伸ばして、横に展開が理想だよね。《ガイギンガ》は単騎で切り込むより、他のクリーチャーを並べて殴った方が強いと思うんだ。まあ、このデッキは展開よりも速度を重視してるんだけど」
やっぱり、マナ加速が大事なんだ。
ってことは、自然文明を入れようとしたのは、正解だったかな。
「ほぼアンタッチャブルみたいなもんだし、早い段階で殴られるとなかなかきついんだよね」
「速度特化は伊達じゃないんだよねぇ。3ターン目の《シン・ガイギンガ》の恐ろしさを体感するといいよ」
「3ターン目のアンタッチャブルくらいどうってことないね。それならこっちは4ターンキルだ。ボクのターン。マナチャージして、1マナで《死神術士デスマーチ》を墓地進化で召喚。進化元は《ヘヴィ・デス・メタル》だよ」
「あ、もう揃ってるんだ……」
「さらに3マナ《龍脈術 落城の計》だ。《デスマーチ》を手札に戻すよ」
「せっかく出したのに、戻しちゃうの?」
あれ? だけど霜ちゃん、進化元にしたクリーチャー戻し忘れてる。
それを指摘したら、みのりちゃんは、
「小鈴ちゃん、これはね。退化っていうギミックなんだよ」
「退化?」
「進化の逆だよ。進化クリーチャーの一番上を剥がして、進化元を残すテクニックさ」
「? クリーチャーを手札に戻すのに、一番上を剥がす? 進化クリーチャーって、場を離れると進化元と一緒に移動するんだよね?」
「クリーチャー指定のカードならね。《落城の計》はクリーチャーを手札に戻すんじゃなくて、カードを戻すんだ。進化“クリーチャー”を指定する場合は、進化元とセットで一枚のクリーチャーだけど、“カード”指定する場合は進化クリーチャーと進化元は別々のカード扱いなのさ」
「だから一番上だけ剥がせるってわけ。にしても、もうダメかもね、これは」
「これでボクの場には《ヘヴィ・デス・メタル》が残った。《ヘヴィ・デス・メタル》はスピードアタッカーでワールドブレイカーだ。全部のシールドをブレイクするよ」
「あー、トリガー……あった、《ブルトラプス》! 《アツト》をマナに送るよ」
「凌がれたか……ターン終了」
「もう殴り切るしかないね。《ハムカツマン》を召喚して攻撃、革命チェンジで《ブリキング》を出すよ」
「三体並んだか。ここでトリガー引けないと、厳しいな……」
退化というコンボで、みのりちゃんを追いつめる霜ちゃん。
また、霜ちゃんはわたしの知らないコンボを見せてくれる。
みのりちゃんは《シン・ガイギンガ》と共に、そんな霜ちゃんに食らいつく。
「……二人とも、すごいね」
「なにが?」
「だって、一人でデッキを考えて、一人で作っちゃうんだもん」
わたしが一人でデッキを作ろうとしても、全然うまくいかない。
なにをどうしたらいいのかわからないし、なにかをどうにかしようとしても、失敗してる。
だけど二人は、いつもいつも、新しいデッキ、新しいコンボを見せてくれる。
純粋にすごいと思うし、羨ましい。
「別に凄いことなんて一つもないよ。ボクらはただ、デッキを作るのが好きなだけだ」
「そうそう。それに、日向さんやユーリアさんみたいに、一つのデッキへの執着が薄いんだよね、どうにも」
「飽きっぽいとも言えるね」
「そんな風に言われるのは心外だけど、否定できないなぁ」
「……でも、やっぱりすごいよ。わたしは二人の作るデッキに、驚きっぱなしだもん。それに、一人でこんなにすごいデッキをたくさん作れるんだから」
わたしがそう言うと、二人はお互いに目を見合わせていた。
そして、今度は二人で、わたしをまっすぐに見つめる。
「凄い凄いって何度も言うけど、ボクらはただ、ボクらのしたいことを、したいようにしてるだけだよ」
「したいことを、したいように……?」
「カードが持っている可能性。それをどう広げるか。どんな可能性が眠っていて、それがどう作用するのかを考える。ボクらがデッキを作るのは、その思考と、それらが生み出す発見が、たまらなく楽しいから。ただ、それだけだ」
「それにね、小鈴ちゃん。私たちだって、いつもいつも思い通りのデッキが組めているわけじゃないんだよ」
「え? そうなの?」
「当然だよ。たとえばこの落城退化デッキは、そもそもボクが発案したデッキじゃない。ボクなんかよりもずっと早く、この仕組みを考えて、デッキにして、強いということを証明した人がいる。ボクはその発想を借りてデッキを組んだだけに過ぎないんだ」
「私のこのデッキも、だいぶ形にはなったけど、まだ満足する出来じゃないよ。弱点も欠点も改善点も、たくさんある。もっと序盤をスムーズに動かしたいとか、横並びに展開したいとか思ってるけど、全然うまくいかないの」
「だけどその試行錯誤が楽しいし、その過程で新たな発見もある。なにより、自分の考えた自分が理想とする動きがスムーズにできた時の嬉しさは、言葉にし難いほど至上のものだよ。その快感を得るために、デッキを組んでいると言っても過言ではないね」
楽しいからやっている。それは、酷く単純で当然の気持ちだった。
今まで見たすごいデッキのすべてが、そんな簡単な理由で作られていたと思うと、拍子抜けする。
「だからつまり、なにが言いたいかって言うとね」
「自由にやればいいよ。デッキビルディングに完成はないし、完璧もない。それゆえに正解もない。目指すは最上だが、それはあくまでも目標でしかない。本質的に、ベターはあってもベストはないんだ」
「悩みすぎて止まっちゃうくらいなら、思い切ってなんでもやってみよう。失敗したらやり直せばいいんだから。自分が納得するまで、何度でも何度でも、繰り返せばいいの」
「調整相手が欲しかった、いつでも呼んでくれ。友達なんだから、一緒に遊ぶくらい、なんてことない」
「そうだね。私なんて家に一人で暇だし、毎日遊びに来てもいいよ」
「みのりちゃん、霜ちゃん……」
言われて、気づいた。
わたしは、少し気負いすぎていたのかもしれない。
デッキを作るって、すごく難しいことだと思ってたけど、そうじゃない。
デュエマでデッキを作るって、とてもありふれたことなんだ。
対戦するだけじゃなくて、デッキを作るということも、デュエマの在り方の一つで、それは特別なことじゃない。
難しく考えることも、深みにはまって思い悩むこともなくて。
ただ楽しい、そうしたい、そんな単純な気持ちでいればいいんだ。
自分のやりたいように、何度でも、何度でも。
やっぱり、みのりちゃんと霜ちゃんは、すごいや。
わたしに、また新しいことを教えてくれた。
言葉にならないくらいの感謝が込み上げるけど、これはちゃんと、言葉にしないといけないよね。
みのりちゃん、霜ちゃん――
「――ありがとう」
☆ ☆ ☆
「ぼ、帽子屋さん……な、なんの用、でしょうか……?」
「大した用事ではない。貴様、今は暇だろう?」
「え、えぇ、まぁ……暇と言えば、ひ、暇かも、しれませんけど……」
「ならば遣いを頼もう。件のアリスの下へな」
「そ、それって、例の、聖獣について……?」
「その通りだ」
「代わりが利かないのは、だ、大事、ですものね……で、でも、アタシで、いいんですか……? いくらでも代えが利くような、アタシ、なんかで……?」
「そう卑下するな。貴様の能力は素晴らしいものだ。貴様に代わりなどいない」
「そ、そんなこと……」
「なに、そう気負う必要もあるまい。少しばかりちょっかいを出せというだけだ。兎にも角にも、再び聖獣の姿を確認せねば話にならん。奴がアリスと密接に関わっていることは確かなはずなのだが、両者を引き寄せる条件が不明瞭なのだ」
「……な、なんだか、大変、ですね……回りくどい、と、い、いいますか……」
「回りくどい。それもそうだ。だがしかし、仕方あるまい。この好機はものにせねばならないが、そのための手段は暗闇の中だ。手探りで挑み、あらゆる可能性を模索するのは必然である」
「えっと……な、成程。それなら確かに、代用品のアタシでも、務められそう、です……」
「だから卑下するなと言っているだろう。今度の茶会の席、貴様のカップにだけ水銀でも混ぜるか?」
「そ、それは……や、やめてほしい、です……」
「我々の弱小さを考えれば、ネガティブになるのもわかるがな。あまりに迂遠で、不確定で、不確実だ。微かな光に縋るようなものだ。それでも、そこに僅かな希望があるのなら、求めずにはいられんよ。我々は、そういう存在だ」
「……わ、わかって、います……」
「これは無意識にして気まぐれの布石。勝利も敗北も関係ない。ただ貴様は、アリスを惑わせ、聖獣との因果を繋げるだけでいい。アリスとの縁を辿ってな。そう、これは迷えるアリスと、奇跡の聖獣と、我々を繋ぐ縁を紡ぐための一手だ。だから、頼んだぞ」
「は、はい……わかり、ました」
☆ ☆ ☆
「で、できた……っ!」
あれから数日。
思いつく限りのカードを入れたり抜いたりして、遂にデッキが完成した。
結局、デッキを作る過程でみのりちゃんや霜ちゃんと対戦はしなかったけど、一人対戦ではかなり勝てるようになったし、これでひとまず完成でいいと思う。
「とりあえず、誰かと対戦したいけど……」
今日はみんなが集まれる日じゃない。みんなとのデュエマはできないかな。
連絡も取ってみたけど、今日はみんな、用事があるみたい。
「そういえば、みのりちゃんはフリースペースで新しく作ったデッキを試してるって、言ってたっけ」
知らない人とデュエマするのは、少し緊張するけど、今のわたしはそんな緊張には縛られない。今すぐにでも、完成したこのデッキでデュエマしたい。
そう思ったら止まらなかった。
わたしはデッキを持って、すぐに家を出る。
向かう先はもちろん、カードショップ『Wonder Land』だ。
☆ ☆ ☆
とにかくデュエマがしたい。今までにないくらい、わたしの気持ちは熱く、盛り上がっている。
デュエマができるなら、クリーチャーでもなんでもいい。鳥さんがやって来たりしないかなぁ、なんて、いつもなら絶対に思わないようなことも考えている自分がいた。
こんな自分は初めてだよ。自分でもそう思う。
「もうちょっと……なんかうずうずしてきたなぁ」
『Wonder Land』までもう少し。もう少しで、この新しいデッキでデュエマができる。
そう思って一歩一歩を踏み出す、その時。
「あのぅ……」
「へ? はい……?」
急に、声をかけられた。
振り返ると、そこには、わたしと同い年ぐらい? のリュックサックを背負った女の子が立っていた。
タートルネックのTシャツに、緑色のパーカーをフードまで被っている。フードには、耳? 角? どっちなのかよくわからないけど、それらが突き出た、それっぽいデザインになっている。
なんというか、ちょっと夏には暑そうな格好だなぁ。
「な、なんでしょう……?」
「…………」
「…………」
「……はうぅ」
な、なんだろう、この子……
目線も合わせてくれないし、なんというか、おどおどしてて、挙動不審だ。
「やっぱり、緊張します、怖いです……あ、アタシの代わりなんて、いくらでもいるのに、な、なんでアタシなんかを……い、いえ、やっぱり、代えがあるからこそ、でしょうか……」
「……?」
「うぅ、で、でも、代わりがいるのに、アタシを選んでくれたのは、純粋に嬉しいから、頑張らなきゃです……」
なにか、一人でぶつぶつ言ってるけど、大丈夫かな。
わたしも人見知りするし、独り言もよく言うけど、ここまでじゃない。
「そのぉ……あのぅ、お、お尋ねしたいことと、いいますか……」
「はぁ……」
「たぶん、もう、き、聞いてると思うんですけど……」
「はい……」
「せ、聖獣の居場所を、し、知りたくって……」
「えぇ……え?」
思わず、聞き返してしまった。
「聖獣って……あなた、まさか……」
「あ、はい、も、申し遅れました……ごめんなさい。アタシ、【不思議な国の住人】で……帽子屋さんの、つ、遣いの者で……その、だ、『代用ウミガメ』、です……」
「だ、代用? ウミガメ? カメ……?」
「はい……どうせアタシなんて、いくらでも代わりがいるような、だ、代用品なので……全然大したことないんですけど……名前を覚える価値なんてないので、気にしないでください……」
気にしないでくださいって、気にしないわけないよ。
【不思議な国の住人】。それは、あの帽子屋さんの仲間って意味なんだから。
「そ、それで、帽子屋さんのお遣いの人が、なんの用……?」
「あぁ、えっと、それはさっき言ったように、聖獣の居所が知りたくて、ですね……」
「それは知らないって、何度も言ったんだけど……」
「で、ですが、アタシは帽子屋さんにそう言われて来たので……あ、いえ、厳密には、あなたにちょっかいを出して、縁を結ぶとか、因果を形成するとか、そんな感じらしいんですが、よくわからなくて……その、あ、アタシは、代用品は代用品らしく、言われたことしかできないんです……愚図で無能でごめんなさい……」
「…………」
なんか、変わった子だなぁ。
帽子屋さんはすごい自信満々な態度だったけど、この子は真逆だ。
驚くほど自己肯定感が低くて、卑屈だ。自虐的とさえ言える。
「うぅ、もしもこのお遣いで、し、失敗したら、アタシ、首を切られちゃうかもなんです……しょせん代用品のアタシは、失敗したら捨てられちゃうかもしれないんです……うぅ……」
(なんだかやりにくいなぁ……)
泣き落とされようとしているような気分になる。
慰めてあげたいけど、聖獣? っていうのの居場所を、わたしは知らないし、どうしようもない。
「……え、えぇっと、その、なので……お願い、します、ね?」
「え?」
「……ちょっと、ま、待っててください……」
『代用ウミガメ』さん――長いから、カメさんって呼ぼう――カメさんは、背負ったリュックサックを降ろした。
よく見れば、それもカメの甲羅みたいなデザインになってる。どこまでもカメさんだった。
カメさんはリュックサックからなにかを取り出すと、背負い直す。
そして、
「しょ、勝負です……っ!」
「デュエマ……」
カメさんは、カードの束を突き出した。
うーん、なんでこうなるのか、さっぱりわからないけど、
(新しいデッキを試すチャンスと考えれば、悪くない、のかな……?)
なんだかんだ言っても、まだちゃんとした実戦を経てないから、不安もあるけど。
でもこのデッキは自信作だ。不思議と、あんまり負ける気はしなかった。
「わかったよ。その勝負、受けるよ」
「あ、ありがとうございます……え、えっと、では……」
その時。
ふわっと、どこか奇妙でおかしな感覚に、身体が包み込まれる。
まるで、クリーチャーと戦う時のような、あの感覚に。
「よ、ようこそ……不思議の世界へ――」
☆ ☆ ☆
カメさんとのデュエマ。
まだどっちもシールドは五枚あって、わたしの4ターン目。
わたしは《風の1号 ハムカツマン》でマナを増やしている。カメさんは、見たことない種族のクリーチャーを並べていた。
メタリカ……? 宝石みたいなクリーチャーと、土でできた巨人のようなクリーチャー――まるでお話の中に出て来る土人形、ゴーレムみたいだ――を召喚している。
「マナチャージ! 5マナで《飛散する斧 プロメテウス》を召喚だよ! マナを二枚増やして、マナのカードを手札に戻すよ! 戻すのは《超電磁コスモ・セブ
「あ、アタシのターンです……えっと、では……《一番隊 クリスタ》の能力でコストを1軽減して……《青守銀 ルヴォワ》を召喚します……《ルヴォワ》の能力で、《ルヴォワ》をタップ……そちらの《プロメテウス》も、た、タップします……そして《土の怒り 岩砕》で、《プロメテウス》を攻撃です……」
「《プロメテウス》がやられちゃった……」
「それだけじゃ、ないです……《岩砕》がバトルに勝ったので、し、シールドを一枚、増やします……ターンエンド、です……ごめんなさい」
ターン4
小鈴
場:《ハムカツマン》
盾:5
マナ:6
手札:3
墓地:1
山札:24
代用ウミガメ
場:《クリスタ》《岩砕》《ルヴォワ》
盾:6
マナ:4
手札:2
墓地:0
山札:25
「わたしのターン……よし、ここは行くよ! 5マナで《ハムカツマン》を進化! 《超電磁コスモ・セブΛ》!」
これが、このデッキのもう一つの切り札だよ。
「《コスモ・セブΛ》は水文明だけど、火か自然のクリーチャーから進化できるよ! そして攻撃するとき、メテオバーンで進化元の《ハムカツマン》を墓地に送って三枚ドロー!」
進化クリーチャーだからすぐに攻撃できるだけじゃなくて、攻撃しながら三枚ドローできるから、他の切り札も引き込める。
火文明だけだったり、火と自然のデッキだとすぐに手札がなくなっちゃってたけど、このクリーチャーを入れてから手札もたくさん増えるようになった。ここからどんどん攻めるよ!
「行って! 《岩砕》を攻撃!」
「あ……う、うーん……で、では《ルヴォワ》の能力を使います……《ルヴォワ》をアンタップして、攻撃先を《ルヴォワ》に変更します……」
「えぇ!? そ、そんなことが……」
「は、はい……アタシなんかが、小賢しいことして、ごめんなさい……」
目を伏せて謝るカメさん。そんな風に謝られると、ちょっと罪悪感が……
「アタシのターンですね……《クリスタ》の能力でコストを下げて、3マナで《龍装者 バーナイン》を召喚です……《バーナイン》の能力で、自身かメタリカが出るたびに、カードを一枚、ど、ドローできます……さらに2マナで《緑知銀 フェイウォン》を召喚……自身をタップしてドロー、《バーナイン》の能力でもドローします……」
「クリーチャーが二体……!」
「え、えっと、えとえと……で、では《岩砕》で攻撃します……《岩砕》はラビリンスが発動してますね……」
「ラビリンス?」
「あ、説明忘れてました……ご、ごめんなさい……その、ラビリンスというのは、自分のシールドが、相手よりも多い時に発動する、の、能力です……」
わたしのシールドは五枚。カメさんのシールドは六枚。
カメさんの言う通り、わたしのシールドよりもカメさんのシールドが多かった。
「《岩砕》はラビリンスが発動すると……パワーがプラス3000されて、だ、Wブレイカーに、なります……」
「え、Wブレイカー!?」
「は、はい……なので、Wブレイクです、ごめんなさい……っ」
直後、巨人の拳が振り下ろされて、わたしのシールドが二枚、砕け散る。
これでシールド差が一気に開いちゃった……だけど、
「S・トリガー発動! 《破壊者 シュトルム》を召喚だよ!」
「ふぇ? あうぅ、それは困ります……」
「《シュトルム》の能力で、相手クリーチャーのパワーが6000以下になるように好きな数破壊できるから……《クリスタ》《バーナイン》《フェイフォン》を破壊!」
《クリスタ》は2000、《バーナイン》は2500、《フェイウォン》は1500だから、合計パワーはピッタリ6000。
まとめて破壊だよっ。
「た、大変なことになってしまいましたけど……どうせ、代わりはたくさんいますし……た、ターンエンドです……」
ターン5
小鈴
場:《コスモ・セブΛ》《シュトルム》
盾:3
マナ:7
手札:6
墓地:2
山札:20
代用ウミガメ
場:《岩砕》
盾:6
マナ:5
手札:3
墓地:4
山札:21
これでカメさんのクリーチャーは《岩砕》だけ。シールドの枚数では不利だけど、バトルゾーンではわたしが有利。
「わたしのターン! ターンの初めに《コスモ・セブΛ》の下にカードを置けるよ……《爆竜
マナにカードを置いて、これで8マナだから……行けるね。
「3マナで呪文《龍脈術 落城の計》! コスト6以下のカードを手札に戻すよ!」
「《岩砕》が、も、戻されてしまいますか……代わりは多いので、構いませんけど……」
「いいや、戻すのはそれじゃないよ! わたしが戻すのは、《コスモ・セブΛ》!」
「ふぇ……?」
カメさんがキョトンとしている。
霜ちゃんみたいに派手じゃないけど、わたしにもコンボらしきものはできる。
わたしが考えたわけじゃないけど、これが、わたしが知識として得たコンボだよ。
「《落城の計》の効果で戻すのは“カード”だから、進化元はそのまま残る。だから《コスモ・セブΛ》の下に置いた《爆竜GENJI・XX》が場に残るよ!」
「た、退化ですか……」
「さらに5マナで《シュトルム》を《コスモ・セブΛ》に進化! 《コスモ・セブΛ》で《岩砕》を攻撃する時、メテオバーンで進化元を墓地に置いて三枚ドロー!」
「あわわですね……クリーチャーがいなくなっちゃいました……」
「続けて《GENJI・XX》でもWブレイク!」
これでカメさんのシールドは四枚。追いついてきたよ。
「! S・トリガー、ごめんなさい……《青守銀 ルヴォワ》を召喚します……!」
「む、わたしはターン終了だよ」
S・トリガーでクリーチャーが出ても、わたしの場には《GENJI・XX》と《コスモ・セブΛ》がいる。
《ルヴォワ》で攻撃先を変更できるとしても、このまま攻め続ければ、押し切れそう。
「アタシのターンです……えっと、じゃあ、これで……《ルヴォワ》をNEO進化……《星の導き 翔天》を召喚です……!」
「ね、NEO進化……?」
カメさんの手から、新しいクリーチャーが出て来るけど……そのクリーチャーは《ルヴォワ》の上に重ねられる。
まるで、進化クリーチャーを出すみたいに。
「NEO進化は、進化じゃないクリーチャーなんですけど……場のクリーチャーの上に、し、進化クリーチャーとして重ねることも、できるんです……」
「進化クリーチャーとしても、進化じゃないクリーチャーとしても出せるんだ……」
「で、では、《翔天》で攻撃します……し、シールドを、ブレイクです……」
「……トリガーはないよ」
「では、ターンエンドです……」
ターン5
小鈴
場:《GENJI・XX》《コスモ・セブΛ》
盾:2
マナ:8
手札:8
墓地:4
山札:16
代用ウミガメ
場:《翔天》
盾:4
マナ:6
手札:3
墓地:5
山札:20
進化クリーチャーとしても出せるっていうから、もっと強いと思ったけど、意外にも《翔天》はシールドを一枚ブレイクしただけだった。Wブレイカーでもないんだ。
わたしもよく進化クリーチャーを使うけど、進化クリーチャーってもっとパワフルで強いイメージがあったから、少し肩透かしというか。
でも、それならそれで好都合だよ。
「わたしのターン。《コスモ・セブΛ》の下に《ジョニーウォーカー》を置くよ」
「あ、あの……ごめんなさい、いいですか……?」
「え? な、なに?」
「相手ターンの初めに、《翔天》がタップされているので……その、の、能力が、発動します……」
突如、《翔天》から光が迸る。
肩透かしとか言っちゃったけど、それは、わたしの思い違いだった。
《星の導き 翔天》の本当の力は、ここで発揮される。
「《翔天》の能力で、手札からコスト8以下の光のクリーチャーを……た、タダで、場に出せます……」
「えぇ!?」
「なので、すいません……迷宮入りです……」
そして、カメさんの手札から、新たなクリーチャーが現れる。
「《大迷宮亀 ワンダー・タートル》をバトルゾーンに……!」
《翔天》の光に導かれて、大地から巨大なカメが姿を現した。
宝石のようにキラキラと煌めいて、背中の甲羅は迷路のよう、尻尾の先は砂時計。
とても不思議な姿をした、カメさんだった。
「《ワンダー・タートル》の、ら、ラビリンス発動です……このターン、アタシのクリーチャーは、場を離れません……」
「そ、そんな……」
場を離れないってことは、《翔天》を破壊することもできない。もちろん、《ワンダー・タートル》自身も。
これは、ちょっと困ったかも……
「いきなり大きなクリーチャーが出たけど……これだけマナと手札があれば、行けるはず……マナチャージして《青銅の鎧》を召喚だよ。一枚マナを増やして、《プロメテウス》も召喚。マナを二枚増やして、マナから《グレンモルト》を手札に加えるよ」
やっと来てくれた《グレンモルト》。
引くまで随分と時間がかかったけど、これがあれば、次のターンから一気に勝負を決められるはず。
「じゃあ、《コスモ・セブΛ》で攻撃する時、メテオバーン発動! 三枚ドローするよ!」
「あ……その攻撃は、《翔天》の能力で……攻撃先を、曲げます……」
「え!? そのクリーチャーもそれできるの!?」
「は、はい、ごめんなさい、言ってなくて……攻撃先を《ワンダー・タートル》に変更です……」
《翔天》は起き上がると、《コスモ・セブΛ》を竜巻のような見えない力で引き寄せる。
引き寄せられた先は、正に迷宮。高い壁がそびえ立ち、不規則に曲がりくねっている。
とても抜け出せそうな気がしない、複雑怪奇な大迷宮だった。
「代わりに、お、お願いします……《ワンダー・タートル》」
迷宮に迷い込んだ《コスモ・セブΛ》に、大きなカメが這い寄る――《ワンダー・タートル》だ。
その存在に気付いた時には、もう遅い。
侵入者を排除すると言わんばかりに、迷宮の番人は《コスモ・セブΛ》を押し潰してしまった。
「《コスモ・セブΛ》が……!」
「そ、それだけじゃ、ありませんよ……《ワンダー・タートル》がバトルに勝ったので、や、山札の上から四枚を見ます……その中から、コスト6以下の光のクリーチャーを一体、場に出します……」
「クリーチャーも出るの!?」
「はい……じゃあ、《フェイウォン》を、場に出します……自身をタップして、一枚ドローです……あ、《フェイウォン》も攻撃を曲げられるので、お、お気をつけて……」
ってことは、《GENJI・XX》が攻撃しても、その攻撃は《ワンダー・タートル》に引き寄せられてしまう。
そうなったら《GENJI・XX》も破壊されて、またクリーチャーが出ちゃう。
「あぁ、もう一つ言い忘れてました……わ、《ワンダー・タートル》の能力で、もし、あなたが攻撃しなかったら、そのターンの終わりにクリーチャーをすべてタップするので、その、ご注意ください……」
「そんな能力まで……」
その能力があるなら、攻撃を曲げられても、このターン攻撃したのは正解だったかもしれない。
だけど、だからといって安心はできない。
《翔天》に《ワンダー・タートル》。それらの存在のせいで、わたしは自由に攻撃ができない。
攻撃しようとしても、その攻撃は思い通りの方向にはいかない。攻撃しなかったら、クリーチャーが寝かされちゃう。
攻撃すればいいのか、攻撃してはいけないのか、どこを攻撃すればいいのか、どこに攻撃が向かうのか、まるでわからない。
なにをすればいいのかわからず、わたしは迷ってしまう。
カメさんの創り出した、この迷宮に。
「小さなアリスさん……かわいそうですが、あなたはもう、迷宮入りしてます……複雑怪奇な迷路を、あっちへこっちへ駆けまわり……右も左も行き止まり、前と後ろは無限回廊……迷って巡って出口を探して……がんばって、くださいね……」
カメさんの声が、こだまするように聞こえる。
クリーチャーも、カメさん自身も、すべては見えているはずなのに、視界が狭く感じる。
なにも見通せないかのような気分で、このバトルゾーンは狭く広がっていた。
本当に、迷宮に迷い込んだみたいだ……
「……ターン終了だよ」
「アタシのターンですね……う、うーん、とりあえず、盤面を、取りたいですね……マナチャージして、7マナです……呪文《ノヴァルティ・アメイズ》……相手クリーチャーを、す、すべてタップします……」
「っ!」
上空に浮かぶ宝石から、眩い光が放たれる。
その光を浴びて、わたしのクリーチャーがすべてタップされてしまった。
「《ワンダー・タートル》で《GENJI・XX》を攻撃……は、破壊です……バトルに勝ったので、四枚見ます……《バーナイン》を出して、一枚ドロー……」
「《GENJI・XX》が……それに、クリーチャーがまた出て来た……」
「破壊されても、か、代わりのクリーチャーは、たくさん出せるので……《翔天》と《フェイウォン》でも、それぞれ《青銅の鎧》と《プロメテウス》に攻撃です……ターンエンドです……」
ターン6
小鈴
場:なし
盾:2
マナ:11
手札:9
墓地:9
山札:9
代用ウミガメ
場:《翔天》《ワンダー・タートル》《フェイフォン》《バーナイン》
盾:4
マナ:7
手札:3
墓地:6
山札:16
「わ、わたしのターン……」
こ、これは、まずいよ……
わたしのクリーチャーはどんどん破壊されて、カメさんのクリーチャーはどんどん増える。
ただでさえダイレクトアタックされそうなのに、さらにクリーチャーが増えて、どうしようもなくなりそう。
……だけど。
(きついけど、このターンが来てよかった……これならまだ、“あのクリーチャー”でなんとかなりそう……)
まだ負けない。
“あのクリーチャー”なら、この状況もひっくり返せるはず。
「えっと、じゃあ、《翔天》の能力発動です……」
「あ、そうだったね。忘れてたよ……」
これでまた《ワンダー・タートル》が出てきたら、それこそまずい。
またクリーチャーを倒せなくなっちゃうけど……
「《翔天》の能力で、《光器ペトローバ》をバトルゾーンに……」
出て来たのは、《ワンダー・タートル》ではなかった。
コスト5のクリーチャーだけど、あれはなんだろう? 初めて見る。
どこか機械的だけど、女性のような姿をしていて、綺麗なクリーチャーだ。
「《ペトローバ》が場に出た時、種族を一つ選びます……アタシはメタリカを選びます……」
「選んだら、どうなるの……?」
「選んだ種族のクリーチャー、すべてのパワーが……4000プラスされます……」
「え!?」
「迷路の壁を、補強する、ようなもの、なので……き、気にしないでください……」
気にしないわけにはいかない。それは、わたしにとっては大きなことだ。
《ペトローバ》が放つ光によって、カメさんのほとんどのクリーチャーが、一斉に強化される。
パワーが13000もある《ワンダー・タートル》のパワーはさらに強化されて、17000だ。
(パワーが上がった……! これじゃ、“あのクリーチャー”を出せない……)
二体目の《ワンダー・タートル》も困るけど、このクリーチャーはそれ以上に厄介かもしれない。
常にパワーを上げ続けるんじゃ、あのクリーチャーを退かさない限り、わたしの秘策が使えない。
「! やった、引けた……4マナで《
「あ、それはできないです……ごめんなさい、《ペトローバ》はカードの効果で、え、選ばれないので……」
「そ、そうなの?」
「はい……代わりはたくさんいますけど、場持ちはとてもいいんです……」
それじゃあ、ますます厄介だよ。退かす手段がないなんて……
「……じゃあ、《フェイウォン》とバトルするよ」
「《フェイウォン》のパワーは、《ペトローバ》で強化されて5500ですが……」
「《ボスカツ闘&カツえもん武》のパワーはバトル中3000プラスされるから、パワー6000、《フェイウォン》を破壊するよ」
とりあえず《フェイウォン》は破壊したけど、焼け石に水という気がしてならない。
次のターンには、たぶんダイレクトアタックされてしまう。
「でも、できることだけはやらなきゃ……さらに8マナ! 《サイバー・G・ホーガン》召喚! 激流連鎖で山札をめくるよ!」
思った以上に対戦が長引いて、マナもかなり増えた。
これで、なにか逆転に繋がるようなクリーチャーが捲れたらいいんだけど……
「《龍覇 グレンモルト》と《終末の時計 ザ・クロック》をバトルゾーンへ!」
捲れたのは、確かにこのデッキの切り札だけど、この状況を打開できるクリーチャーではなかった。
「《グレンモルト》の能力で《銀河大剣 ガイハート》を装備。さらに《クロック》の能力で、このターンを終了させるよ」
「あぁ……ターンが強制終了してしまったので、《ワンダー・タートル》の能力が使えません……」
とりあえず、できる限りクリーチャーを並べて、カメさんのターン。
わたしが信じられるのはもう、S・トリガーだけ。
ここでどうにかしないと……
「……はぁ、もう、いいでしょうか……だ、代用品のわりには、がんばったと、思うのです……アタシのターンです……」
カメさんは、わたしにとどめを刺すべく、このターン決めにかかる。
「《クリスタ》を召喚、《バーナイン》の能力でドローです……《岩砕》を召喚してドロー、《アクロアイト》も召喚です……」
クリーチャーを並べるけど、それは形だけ。
わたしを倒すのは、既に場に出ているクリーチャーだけで、十分だ。
「では、お願いします……《ワンダー・タートル》で……シールドをTブレイクです……」
巨大なカメの一撃が、残ったわたしのシールドをすべて粉砕する。
ここで引かなきゃ、負けちゃう……お願い、来て……!
「……! S・トリガー! 《ドンドン吸い込むナウ》! 山札を五枚見て……《葉嵐類 ブルトラプス》を手札に! 自然のカードを手札に加えたから、《翔天》を手札に戻すよ!」
「でも、《ペトローバ》がいるので……ダイレクトアタック、しちゃいますね……」
「それも止めるよ! もう一枚S・トリガー! 《クロック》! このターンはこれで終わり!」
ターン7
小鈴
場:《ボスカツ闘&カツえもん武》《ホーガン》《グレンモルト+ガイハート》《クロック》×2
盾:0
マナ:12
手札:8
墓地:10
山札:5
代用ウミガメ
場:《ワンダー・タートル》《バーナイン》《クリスタ》《岩砕》《アクロアイト》
盾:4
マナ:8
手札:3
墓地:8
山札:11
「あぁ、二枚もトリガーでしたか……《翔天》いなくなっちゃいましたし、アタシも、トリガー引かないと、ちょ、ちょっと、まずい、です……」
なんとか生き延びた……《クロック》、本当に強いS・トリガーだよ。これだけクリーチャーがいる状況でも、耐えられるんだもん。
それに、《翔天》も退かせたお陰で、もう攻撃を曲げられることもなく、一気に攻められる。
「……よし」
……だけど。
その前に、やることがある。
「《龍覇 グレンモルト》を召喚! 《熱血剣 グリージー・ホーン》を装備!」
「……? 今さら、《グレンモルト》、ですか……? しかも、《グリージー・ホーン》……?」
「それだけじゃないよ! この《グレンモルト》を……進化!」
やっと出せる。
いくら新しいデッキを作るっていっても、デッキを変えるとしても、このクリーチャーだけは抜きたくなかった。
それはわたしのエゴで、ワガママなだけだと思ったけど。
そのエゴとワガママが、今ここで、意味をなす。
NEO進化なんて特別なものじゃないけど、わたしのとっての、特別がここにある。
(わたしも、やりたいように、やりたいことをするんだ……!)
迷宮なんて関係ない。
最初は迷ったけど、やっぱりこのクリーチャーをデッキに入れたかった。
もう迷いはない。《グレンモルト》の上に重ねて、進化する。
「お願い、力を貸して――《エヴォル・ドギラゴン》!」
それは、わたしの切り札。不変のエース。
デッキを変えても、このカードだけは、変えられなかった。思い出のカード。
だってこれは、先輩が初めてくれたデッキの、初めての切り札、だから。
「ふぇ……? 《ドギラゴン》ですか……!?」
「ただの《ドギラゴン》じゃないよ。この《ドギラゴン》は、《グリージー・ホーン》を装備した《グレンモルト》を進化元にしてる」
ドラグハート・ウエポンを装備したクリーチャーを進化させると、装備したウエポンは進化クリーチャーに引き継がれる。
だから、
「《グレンモルト》が装備した《グリージー・ホーン》は、《エヴォル・ドギラゴン》に引き継がれる……つまり、《エヴォル・ドギラゴン》はアンタップしてるクリーチャーも攻撃できるよ!」
いつも携えている大剣に加え、もう一振り。真っ赤に燃える炎の剣を構え、《ドギラゴン》は飛翔する。
「一応、確認だけど、アンタップクリーチャーへの攻撃は、選ぶことにはならないよね?」
「……はい」
「なら、《エヴォル・ドギラゴン》で《ペトローバ》を攻撃だよ!」
「あぅ……こ、困りました……攻撃も曲げられません……」
灼熱の剣が、《ペトローバ》を一刀両断にする。
これでカメさんのクリーチャーのパワーは、元に戻る。
つまり、《ワンダー・タートル》のパワーも13000だから、
「バトルに勝ったから《エヴォル・ドギラゴン》をアンタップ! 次に、《ワンダー・タートル》を攻撃!」
「《ワンダー・タートル》まで……あわあわ……」
「それだけじゃないよ。これが二度目のクリーチャーの攻撃! 《グレンモルト》に装備した、《ガイハート》の龍解条件成立だよ!」
《グレンモルト》自体は攻撃してないけど、どんな形であれ、ターン中に二回の攻撃を成功させた。
鎖に繋がれた龍の剣が、今、ひっくり返る。
「龍解――《熱血星龍 ガイギンガ》!」
《グレンモルト》が掲げた剣から、新しい龍が生まれる。
右手に大剣を構え、左手は渦巻く銀河のような盾。
宇宙を内包しているかのような、その凄まじい存在感に、思わず圧倒されてしまいそうだった。
だけど、今はわたしの仲間だ。
その力強さは、この上なく心強い。
「《ガイギンガ》が龍解したから、パワー8000以下の《バーナイン》を破壊! さらに《エヴォル・ドギラゴン》の攻撃を続けるよ! そのまま《クリスタ》《岩砕》《アクロアイト》にも攻撃!」
「あ、あわわです……こ、こま、困ります……困りました……全滅なんて……あ、アタシの迷宮が、こ、こわ、壊れて……崩れちゃいました……!」
カメさんのクリーチャーがいなくなった。
これで、S・トリガーが出てもあんまり怖くない。
「ここで決める……! 《ドギラゴン》でTブレイク!」
「うわわです……え、えっと、トリガーは……?」
《ドギラゴン》は大剣を振るい、一撃で三枚のシールドを薙ぎ払う。
「……S・トリガー、《ノヴァルティ・エントリオ》と《青守銀 ルヴォワ》を召喚です……! 《エントリオ》の効果で、《ホーガン》と《グレンモルト》をタップ……《ルヴォワ》の能力で、自身をタップして、《ボスカツ闘&カツえもん武》をタップです……」
「二枚もトリガー……だけど、攻めるよ! 《クロック》で《ルヴォワ》を攻撃!」
わたしの《クロック》とカメさんの《ルヴォワ》が相打ちになる。
カメさんのシールドは残り一枚。わたしの攻撃できるクリーチャーは残り二体。
「うぅ……あ、あとは、最後のシールドに《ノヴァルティ・アメイズ》があることを、い、祈るばかりです……」
あ、あの呪文もS・トリガーなんだ。
もしもあの呪文がS・トリガーで出てきちゃったら、攻撃が完全に止められるから、逆転されちゃう……!
「でも、もう止まれない……《クロック》で最後のシールドをブレイク!」
これでカメさんのシールドはゼロ。
最後のトリガー勝負だ。
「…………」
カメさんは、揺れる瞳を伏せて、シールドを捲る。
そして、
「……スーパー・S・トリガー、《緑知銀 イーアル》……ですか……」
そのカードを、場に出した。
「……ダメ、ですね……一応、《ガイギンガ》をタップさせちゃいますけど……」
「……選んだね」
「はい……」
出しても出さなくても、結果は同じ。
行き着くまでの過程が、少し違うだけ。
「《ガイギンガ》が選ばれた時、このターンの終わりに、もう一度、自分のターンを行うよ!」
それは、つまり、
「ターン終了……そして、わたしのターン!」
連続でターンが行えるということ。
だからカメさんが《イーアル》を出しても、出さなくても、この一撃は決まりきっていた。
これで、わたしの――勝ちだよ!
「《熱血星龍 ガイギンガ》で、ダイレクトアタック――!」
☆ ☆ ☆
「あぁ……あぁぁ、あぁぁぁぁ……ま、まけ、負けちゃいましたぁ……!」
デュエマが終わった直後。
カメさんが、泣き崩れてしまった。
「もうダメですぅ……やっぱりアタシは代用品ですぅ、愚図で無能なモドキですぅ……ふえぇ……」
「え、えっと……」
女の子は、稀に涙で演技をすることがあるんだけど、この子はどう考えても、どう見ても、明らかに、本気で泣いてる。
流石にこんな道の往来で泣かれちゃうと、どうしていいかわからないというか、わたしも戸惑う。
というか、今までデュエマで負けて泣く子なんて見たことないよ……
「ぐすん……も、もう、お家に帰ります……首切られても仕方ないですけど、もうダメです、どうにもなれですよぅ……」
帰るんだ。
それに、随分とやけっぱちになってるけど、大丈夫なのかな。
あんまり大丈夫には見えないけど。
「では……アタシは、帰ります……今日は、し、失礼しました……」
リュックサックを背負い直すと、カメさんは踵を返して、わたしに背を向けてとぼとぼと歩き去ってしまった。
その後ろ姿は哀愁漂うというか、決して後味のいい終り方じゃないけれど……
「か、勝ててよかった……!」
それは、帽子屋さんの刺客に勝ったとか、そういうことじゃなくて。
わたしが組んだデッキで勝てたことが、たまらなく嬉しかったんだ――
あとがきです。ここで、ピクシブでのアンケートの結果を載せておきます。
『誰と一緒にデッキを組む』の選択肢は、恋、ユー、霜、実子、そして小鈴が一人で組む、というもので、一緒にデッキを組んだ相手によって、デッキの内容を変えるつもりだったんです。たとえば、恋と一緒に組んだら光入りのトリガービートのようになったでしょうし、実子と組んだら自然入りの革命チェンジや侵略、霜と組んだら水入りのコンボデッキ、のような感じで。小鈴一人で組んだ場合は火文明単色の予定でした。
ただし結果は、霜、実子、小鈴の同率一位……そう、作者は同率の可能性を失念していたのです。
しかも、よりによって「小鈴一人で組む」という選択肢との同率ですから、頭を抱えました。これがなければ、みんなと一緒に組む、だけで済んだのに。
その結果、霜や実子からはアドバイスを貰う程度に留め、デッキ自体は小鈴一人で組ませ、色は霜の青、実子の緑、小鈴の赤を取り入れたシータカラーに。そこに退化のギミックや革命チェンジ(と関わりのあるハムカツ団)を組み込んだ、ラムダ&グレンモルトビート+色んなギミック詰め合わせという、よく分からないデッキになりました。
これはこれで、色んな動きがあって面白いんですけどね。カード資産に難のある初心者らしいジャンクさが、かえって良いフレーバーになるのです。