デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

16 / 136
 ネズミはかわいい。ただ、世間一般的に有名なネズミキャラは、どうにも純粋にかわいいとは思えないというか、微妙に好きになれない……夢の国の彼とかね。
 では、不思議の国のネズミはどうでしょうか。かわいげがあるかどうかは、その目でお確かめください。


14話「火鼠のようです」

 こんにちは、伊勢小鈴です。

 夏休みは本日も継続中。今日も今日とて夏季休暇期間を満喫しています。もちろん、宿題だってちゃんとやってるよ。

 今日はみんなと『Wonder Land』で集まる日。わたしが組んだ新しいデッキを、みんなに見せたいと思ってます。

 とりあえず、お母さんに一言伝えてから、出かけないとね。

 

「お母さーん。いるー?」

「んー?」

 

 お母さんの部屋を開けると、お母さんはパソコンの前に座っていた。お仕事中だったかな。

 

「……邪魔しちゃった?」

「いいや? 別に部屋に入るくらいで邪魔だとは思わんよー。それよりなに?」

「あ、えっと、友達と遊びに出掛けるんだけど……」

「あぁ、はいはい。例の子たちね。行ってらっしゃい。暗くなる前に帰るんだよ」

「うん」

 

 そして、わたしは部屋を出ようとした。

 けれど足を止めた。ふと、お母さんの持ってる“それ”が目に入ったから。

 

「お母さん、その絵って……」

「あぁこれ? 今度出す短編の挿絵のデザインラフの落書きの没案だよ。挿絵担当の人と個人的な酒の席で酔ってたら、いつの間にか書かれて、いつの間にか持ってた」

 

 お母さんは手にした紙をひらひらと振る。

 受け取って見るとそれは、鉛筆書きの荒い線。ラフ画と呼ぶにも雑さが見て取れてしまう。正に落書きといった絵だった。

 でも、いくら線が荒くて雑でも、ちゃんとした形を作っているその絵は、わたしの目には汚いものとしては映らない。

 

「かわいい……」

「でしょ? 平坂さん、もういい年こいたオッサンの癖して、ポップでキャッチーな絵を描くんだよねぇ」

 

 平坂さんというのは、プロの絵描きさん――イラストレーターだ。

 イラストレーターとしての名前は平坂浄土(ひらさかじょうど)といって、本名じゃないらしい。一度だけ会ったことはあるけど、わたしも本名は知らない。

 なんでわたしが――というか、お母さんがプロのイラストレーターさんと交流があるかっていうと、それはわたしのお母さんが小説家で、その小説の挿絵を平坂さんが何度も担当しているから、その縁だ。

 本当は、作家とイラストレーターが個人で繋がるのはご法度らしいんだけど、お母さんと平坂さんは、一緒にお仕事する以前に、仕事とはまったく関係なく、個人的に交流があって、二人で一緒にお酒を飲みに行くくらいには仲がいい。

 本人曰く「仕事とプライベートは分けてるから問題ないって、たぶんね。あっちもそのくらいはわかってるでしょ」らしい。

 挿絵が云々のお話も、本当はメールとかでやり取りするんだろうけど、没案で落書きとはいえデザイン画をそんな簡単に書いてていいのかな……お酒が入ってるらしいけど、本当に仕事とプライベートをわけられているのか、少し心配です。

 平坂さんの絵は、若い――というより、幼げな女の子が描かれていた。二次元キャラクターの年齢なんて見た目じゃわからないけど、たぶん小学生とか中学生とか、そのくらいだ。ちゃんと書き込まれた物じゃないけど、衣装はなんとなくふりふりの可愛いものに見える。

 

「しかもその可愛らしい絵描きになる発端が、まだ小さかった娘さんを喜ばせたいからだよ? どんな子煩悩だよって話でしょ?」

「動機は素敵だと思うけど……」

「そうだねぇ。そういう意味では、私も人のこと言えないしね」

 

 そう言って、わたしを見つめるお母さん。

 ジッと、まっすぐに私の目を見ている。

 

「……? な、なに?」

「なんでもないさー。でまあ、またなんか新しいの書くから、こっそり感想聞かせてね」

「新しいお仕事?」

「なんとかって雑誌に載せる、単発の番外短編だから、大したもんじゃないよ。って、そんなこと言ったら編集さんとかに失礼なんだけど。文量は少ないけどイラストもあるし、ちゃんとした仕事だね。ま、本命のシリーズの宣伝みたいなもんだよ」

「本命の宣伝ってことは、あれ? 魔法少女なんとかっていう……」

「『デュエ魔法少女 マジカル☆コマンド』ね。いやはや、デュエマをモデルに魔法少女ものを書いてはどうかとか、担当さんが言い出した時は、私も一休さん並みのとんちを期待されてるのかと頭を抱えたものだけど、意外となんとかなったね。なんやかんやで結構人気も出たし」

「って言うか、日曜朝にやってる番組のノベライズ版だよね? わたしでも知ってるくらい超人気作品だよ?」

「そりゃ私の娘なんだし、知っててもらわないと困る。ってのはさておき、アニメとコミックとノベルスで、世界観が同じなのに内容が全然違うのは笑っちゃうよね。ま、好きにできるからこっちとしては楽だけど、製作会社には気ぃ遣うよねぇ。女児向けの魔法少女ものだし」

 

 お母さんはいつもの陽気というか、ちょっと気だるげというか、やる気がなさそうに見えなくもない、それでいて超然とした風に息を吐く。

 小説家の母親がいる。しかも人気のある、いわゆる売れっ子作家であることは、わたしの密かな自慢だ。

 それだけじゃない。わたしは生まれてこの方、お母さんの書いた本を読んで育ったし、今もそうだ。本当はダメなんだけど、世に出る前の作品をこっそり読ませてもらって、感想を言い合う。そうしてお母さんは、一読者としてもわたしの意見を作品に取り入れたりする。

 だから実は、わたしのお母さんが書いている作品は、ほんのちょこっとだけ、わたしの気持ちが入っている。お母さんの作品は、本当はお母さんとわたしの作品でもある。

 それが、ちょっとだけ嬉しくて、楽しい。わたしのささやかな誇れるもの。

 あんまり自分の自慢じゃないから、格好付かないけどね。

 

「魔法少女かぁ……」

 

 ふと、考えてしまう。

 お母さんが書く作品は、わたしも大好きだ。その中の主人公に憧れを抱いたこともある。

 魔法少女という言葉の定義は曖昧だけど、女の子が主人公で、悩み戦うものが魔法少女の作品だと呼ぶのなら、お母さんは確実にその手の作品を多く執筆している。そしてわたしも、そのすべてを読んだ。

 だからかな。魔法少女っていう存在は、わたしの中で、ちょっとだけ特別なものになっているのかもしれない。

 少なくとも、自分の強さに願いを託すくらいには。

 

「……魔法って、あるのかな」

「え? なに? いきなり夢見る乙女みたいなこと言い出してどうしたの?」

 

 不意にわたしは呟くと、お母さんは目を丸くさせていた。

 聞こえちゃってた。ちょっと恥ずかしい。

 けど、どうせだし、勢いのまま、聞いてしまう。

 

「お母さんは、魔法ってあると思う?」

「まーたぞろ難儀な質問というか、メルヘンチックだねぇ。家族に向けた質問じゃないよ?」

「え? そ、そう? ごめんなさい」

「んー、でもどーだろう。私はまあ、実は似たような概念なら信じてるクチだけど……現実的にはないと言えばないし、あると言えばあるんじゃない?」

「どういうこと?」

 

 ないと言ってるのにあるとも言ってる。

 それは矛盾だよ、と指摘する前にお母さんは言う。

 

「人間は昔から、魔術だのなんだのって言って、色々研究してたって歴史はあるけどね。黒魔術とか錬金術とか降霊術とか、全部その類でしょ」

「ファンタジーだね」

「そりゃファンタジーさ、現代科学の視点から見たらね。ま、そのファンタジーから現代の科学に通ずる道筋も生まれたわけだけど、それはそれ。私は小説家だ、創作者(クリエイター)だ。創作者(私たち)は、その実体のないファンタジーを空想と想像で肉付けして、形あるものとして物語にできる。理屈も仕組みも意味不明で荒唐無稽、理解不能のオーバーテクノロジーでオーパーツ、だけど惹かれて思い焦がれる……魔法ってそういうもの。足りない現実感は想像で補って、魔法の存在を創造してしまうのさ」

 

 お母さんは続ける。

 夢も希望もあるけど、掴み損ねたら壊れてしまいそうな、淡く脆い言葉を。

 

「私個人というより、あくまで小説家としての意見だけどね。物書きっていうのは、概念さえあれば大抵のものはなんでも作っちゃうのさ。だから魔法なんて、概念として存在し得ない人の心を描写するより遥かに簡単だよ。ドッキリビックリな科学的アプローチから、過程をすっ飛ばした超常現象、空想的で幻想的な世界を作ればそれで済むんだから」

「あんまり夢がないね」

「夢がある方がよかった?」

「子供っぽい?」

「思う。けど、子供なんだからそれでいいんだよ。五十鈴なんかは、反発するだろうけど」

「お姉ちゃんは……そうだね」

「いやはや、まったく可愛いながらも手のかかる娘たちだよ。まっすぐ育ってくれたけど堅物な五十鈴に、優しいけど内気で人見知りな小鈴。子育てってのも、一筋縄じゃいかないねぇ」

「う……人見知りは、昔よりはよくなったよ……」

「そうかな? ……あぁ、でもまあそうか。友達と一緒に遊ぶくらいだもんね」

「……あ」

 

 その一言で、思い出した。というか忘れてた。

 みんなとの約束があるんだった。早く行かないと。

 

「あの、お母さん……」

「ん? あー、友達とも約束だっけ?」

「うん。もう、わたし行くね」

「ほいほい、気をつけて行ってらっしゃいな」

「はーい、行ってきます」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

『魔法?』

 

 ワンダーランドでみんなと合流して、しばらくデュエマして遊んで、休憩がてらの雑談時間。

 わたしがお母さんにしたような話をみんなにも振ってみたら、四人ともキョトンとした表情で固まってしまった。

 

「……君は意外と、乙女チックだったんだね」

「妄想……? それとも、中二病……?」

「酷い!?」

 

 特に恋ちゃん。別に本気で信じてるわけじゃないよ!

 

「いやぁ、小鈴ちゃんも可愛いとこあるなぁ。魔法だって、魔法」

「でも、とっても素敵(シェーン)です! ユーちゃんもおとぎ話(メルヒェン)は大好きですよ! ローテンブルクに旅行に行ったときは、ワクワクしました!」

 

 うーん、こっちもこっちで……そういうことじゃないんだけどなぁ。

 わたしの言葉は、同じ魔法でも、お母さんに向けた時の意味と、みんなに向けた時の意味は違う。

 

「……なんでまた、急に、魔法なんて……?」

「いや、ほら、みんな知ってると思うけど、わたしさ……」

「あぁ……“アレ”ね」

「うん、“アレ”」

「クリーチャーと戦ってるじゃない?」

「そっちかい!?」

「え? どっち?」

「いや、なんでもないよ……続けて」

 

 ? なんか霜ちゃんが変な感じだけど、まあいいや。

 

「ちょっと考えたりするんだよね。クリーチャーってどこから来てるんだろう、とか、わたしたちが持ってるカードゲームとどう関係してるんだろう、とか」

「確かにねぇ」

「むぅ、言われてみるとそうですね。小人さん(リリプーター)はいないのに、クリーチャーはいる。不思議(ヴンダリヒ)です」

 

 今まで何度もクリーチャーと戦ってきた。その事実が、わたしにクリーチャーの存在を確かなものにしている。

 だけど、それは本来あり得ないもののはず。わたしたちだけがその存在を認識できているだなんて、やっぱりおかしい。

 ちょっとした偶然から、わたしは普通の人よりちょっとだけ特別かもしれないけど、それとは関係なく、クリーチャーは確かに、そして明らかに、この地球に影響を与えている。

 現代の人間は、それを単なる“不思議なこと”だけで片付けたりはしない。

 そしてそれは逆説的に、クリーチャー側も、単なる“不思議なこと”というだけで現実に存在しているわけじゃないと思う。

 

「だからそれは、魔法みたいな力が働いてるんじゃないかな、って」

「魔法か。確かに、科学では観測できない不可思議な力、それは魔法と定義することもできるね。未だ解明できずの理屈(ロジック)として」

 

 わたしの言いたいことを、霜ちゃんが簡潔にまとめてくれた。うん、やっぱり霜ちゃんはこういう時、頼りになるなぁ。

 

「そうだな。クリーチャーについて考えることは、今後のことも考えると、無意味じゃないかもしれない。どういう仕組みで彼らが存在しているのかを知ることが出来れば、なにかしらの手掛かりになるかもしれないしね」

「……まあ、いつまた、クリーチャーが出るとも、限らないし……」

「これまでの事例を挙げてみようか。どんな時にクリーチャーが現れたか。そして、それはどのような形か」

「えっと、わたしが最初にクリーチャーと戦った時は、バイクに乗った男の人に憑りついてたよ」

「……うちの教師に、憑依したことも、あった……」

「ロリコンさんは、人間の姿をしていましたが、クリーチャーでした。のっとったりとかはなかったです」

 

 と、次々と報告例を挙げていく。

 ほとんどはわたしの口からだけど、ここにいるみんなは、すべてなんらかの形でクリーチャーが実体化するところを目の当たりにしている。全員が、口々にその事例を言っていった。

 

「オーケー、過去を振り返るだけでも結構な成果が出たね。まとめると、クリーチャーの出現方法には三種類あるようだ」

 

 そして、大体言い終えたところで、霜ちゃんがまとめに入る。

 

「一つ、クリーチャーが人間の身体を乗っ取るパターン。これはボクや、ユーが経験したことだね」

「……ユーちゃん、あのときのこと、あんまり思い出したくないです……」

「ボクもだ。いい思い出とは言い難いからね」

 

 二人が、どことなく悲しそうで、それでいて申し訳なさそうな表情を見せる。

 ユーちゃんも霜ちゃんも、クリーチャーに憑りつかれて、自分の意志とは異なる行動を取っていたことがある。

 わたしがクリーチャー退治にちょっとだけ乗り気になったのは、このことが関係あったり、なかったり……

 

「クリーチャーに乗っ取られるケースの場合、程度差や、性質の違いがあるようだね。ユーは完全に自閉してた。意志も行動もクリーチャーに支配されていたと聞く。ボクの場合は、自分の意志に干渉された。まったく、女である自分と男である自分、自覚をすり替えられるだなんて迷惑な話だ。それ以上に、そんなことで戸惑う自分を恥じたけどね」

 

 ユーちゃんは辛うじて自我を持ってたけど、本来の明るさが消えて、なにもできなくなっていた。

 霜ちゃんは自分で考えて行動できるようになってたけど、自分自身を見失ってしまっていた。その結果、行動が狂ってしまった。

 他には、バイクの人や先生は、完全に意識も行動もクリーチャーのものとなっていたっけ。

 こうして振り返ると、確かに色々な発見があるね。

 

「二つ目は、クリーチャー自体が人間に化けるパターン。これは事例が一つしかないけど……」

「確かに、人間がクリーチャーの姿のなってたよ。その後も、乗っ取られた人とかは出なくて、そのまま鳥さんが食べちゃったし……」

「人間に扮するクリーチャーがいるっていうのは、厄介かもね」

「そう?」

「だって、こうして周りにいる人が、もしかしたらクリーチャーかもしれないってことでしょ?」

 

 あ、そっか。

 みのりちゃんに言われて、思わず周りを見回す。

 見える人、人、人。

 見て知っている人、見たことのない人、見覚えのあるような気がする人。様々だ。

 だけどその中の知らない人たちが、もしかしたらクリーチャーかも、と思ってしまいそうだった。

 

「まあ、人間に擬態したクリーチャーがいても、実際に事件を起こさないなら無害だし、なにか起こらないとこっちも動きようがない。後手に回るのは癪だけど、疑わしきは罰せずだ」

 

 霜ちゃんの言う通りだ。

 疑ってたらキリがないし、それで無関係の人を巻き込むわけにはいかない。

 ……でも、気になっちゃうし、不安だよね……

 

「そういえば……みのりこの、クリーチャーは……」

「《ギョギョラス》のこと? あれは帽子屋さんからもらったカードだから、よくわからないんだよね。今では普通のカードだし」

「それが三番目。とはいえ特殊ケースに近い気がするけど。人間が、不思議な力を得てクリーチャーを実体化させることが可能なケース」

「ぶっちゃけ私も、あのカードでなにができるのかとか、よくわからないんだよね。なんとなーく感覚で使ってただけだし、今はもう、燃料が切れたみたいにうんともすんとも言わないし」

「……その、帽子屋……とやらの、ことも……」

「そういえば実子は、あの帽子屋とやらと深い関わりがあったね」

 

 クリーチャーについて言い終えるや否や、今度は帽子屋さんの話題。そして、その矛先はみのりちゃんに向けられた。

 

「別に深くはないよ。私も最初はあの人のことを拒絶してたし……まあ、最後は自分の弱さに負けた、かな」

「みのりちゃん……」

「だから小鈴ちゃんは気にしなくていいよ。それに、あのケンカも今ではいい思い出だしね」

「……うん」

「そこを追求する気はないけれど、あの帽子屋とやらが何者なのかも、わからないのかい?」

「全然。私はただ、あのカードを受け取っただけ。まあ、その後も帽子屋さんとちょいちょい接触はしてたけど、聖獣とやらを捕まえる云々って言ってただけだからなぁ。私、そんなことには微塵も興味がなかったから、その辺は全部、帽子屋さんに一任してたし」

「……大事なところだけ、知らない……ってこと……?」」

「そう言われても仕方ないかも」

 

 聖獣。帽子屋さんが求めるなにか。

 そして、わたしがその鍵を握っているとか言ってたけど……

 

「聖獣、かぁ……」

「本当に知らないんです? 小鈴さん」

「うーん、わからない」

「本人がこう言ってるんだから、帽子屋さんの勘違いとしか思えないけどね」

「もしくは、単純に小鈴が記憶していないだけか」

「記憶力には自信があるんだけど、聖獣、ってことはたぶん動物だよね? そんなすごそうな動物と出会った覚えはないよ」

 

 帽子屋さんには悪いけど、あれは勘違いだと主張させてもらうよ。身に覚えがなさ過ぎるもん。

 

「こうして考えてみると、(ゲハイムニス)が多いですね」

「クリーチャーが実現するなんて、非現実甚だしいことだしね。僕らにわからないことが多いのは仕方ない」

「普通こういうことって、それまでの人が研究したり、研鑽して体系化された知識があるけど、私たちしか知らないことは、圧倒的に“積み重ね”が足りてないからね」

「その通りだ、わからないことが多すぎる。どこかにクリーチャーの生態についてでも研究してる組織があればいいんだけど」

「そんなのないよ……」

 

 わたしたちしかクリーチャーについて知ってる人がいないんだから、研究組織なんてあるわけがない。

 ……だけど。

 もしかしたら、わたしたちの知らないところで、わたしたちとはまったく関係ないところで、わたしたちとはなんの関与もなく。

 わたしたちのようにクリーチャーと関わり、研究しているような場所が、あるのかもしれない。

 と言っても、そこに至るための道筋がなにもないのだから、それを考えることに意味はないけれど。

 

「結局、ボクらは受け身にならざるを得ないか。どうも彼らは小鈴のことをつけ回すつもりのようだし、これからも仲間が現れる確率は十分に高いだろう。彼らとの接触が多ければ多いほど、ボクらも知識を得て、対策を講じやすくなる……酷い循環だけどね」

「そう、だね……」

 

 霜ちゃんは、そう結論付ける。

 帽子屋さんたち【不思議の国の住人】については、そうするしかないのかもしれない。

 クリーチャー事件だけでも大変なのに、その上、変な人につけ回されちゃっている。この状況は、なんというか。

 

(なんか、大変なことになってきちゃったなぁ――)

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ふあぁ……」

 

 少年が一人、大きく欠伸をする。

 行き交う人々から、その姿はかなり注目されているが、そんなことはお構いなしだ。

 アテもなく、ただ歩を進める。

 否。目的はある。ただ、その目的は、目的地という意味ではない。そういう意味では、この歩みそのものには意味がないと言える。

 

「マジでねみぃ、ガチでだりぃ……今日は一日、寝て過ごすつもりだってのに、なのに」

 

 もう一度欠伸をしてから、愚痴るように零す。

 なんで僕がこんなことを、と。

 

「ま、帽子屋の頼みじゃ、しゃーねーか。夢のために手を尽くすスタイルはバッドだし、マイメンの頼みを断るのは気分悪ぃ」

 

 言って少年は、ポケットに手を突っ込んだ。

 

「カメ子から“代用品”もぶんどってきたし、とりま、こいつであぶり出すか」

 

 指先に触れた。それを軽くつまむように持つと、引き上げるように衣服の奥底から引きずり出す。

 それは、数枚のカードであった。

 

「さぁ、ネズミ捕りの始まりだ――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 結局、デュエマしつつクリーチャーの出自や対処法について話してたけど、明確な答えなんて出る訳もなく。

 霜ちゃんが色々な意見を出してくれたけど、それはすべて推論。本当のことは、わたしたちにはわからなかった、

 わたしたちじゃ、異変が起こらないとクリーチャーの存在を知ることはできないし、擬態したクリーチャーを見分けることもできない。クリーチャーがどうやってこの世界に現れているのか、その理屈。そもそも何者なのか。今持ってる情報で、それらを理解することはできない。

 結論だけ言ってしまうと、今は考えるだけ無駄、ってことになっちゃったんだよね……

 だから今日は普通にデュエマを楽しんでました。みんなに新しいデッキも見せられたし。なんか、すごく驚かれたけど……

 ワンダーランドからの帰り道。時刻は5時。わたしは、久々に聞いた声で、名前を呼ばれた。

 

「小鈴!」

「そ、その声は!」

 

 振り返ると、パタパタと、それなりの速さでこっちに向かってくる影が見えた。

 あのシルエットは、間違いない。

 

「鳥さん! なんだか久しぶりだね」

 

 鳥さんはこの町にクリーチャーが出ないと姿を現さない。

 最近はクリーチャーが出る事件もなくて平和そのものだったから、鳥さんと会うのも久しぶりだ。

 そういえば、鳥さんはクリーチャーにとっても詳しい。というか、鳥さん自身がクリーチャーなのかもしれない。

 だったらもしかすると、鳥さんに聞けばクリーチャーのこともわかるのかな。

 

「ちょうどいいところに来てくれたよ、鳥さん。実は鳥さんに聞きたいことが――」

「小鈴! クリーチャーだ! この近くに、クリーチャーが発生してる!」

「……やっぱり……お約束……」

 

 ぼそりと恋ちゃんが呟いた。わたしも同じ気持ちだよ。

 もう何度もそうやってクリーチャーを退治してるから慣れたものだけど、またあの格好をして町を走り回るのかと思ったら、ちょっと憂鬱だ。

 

「じゃあ、早くそのクリーチャーを退治しちゃおう」

「そうしたいところだけど、そう簡単にもいかなさそうなんだ。何体ものクリーチャーが、同時に発生してる」

「え?」

「こんなこと初めてだ。バラバラの場所に、同時に複数のクリーチャーが現れるなんて……」

 

 鳥さんはいつにも増して深刻な顔をしている。

 同時にクリーチャーが発生……確かに、今までにないことだ。そして鳥さんの様子を見る限り、それが正常でないこともわかる。

 

「えっと、じゃあわたしはどうしたらいいの?」

「…………」

「だ、黙らないでよ……」

 

 鳥さんが黙っちゃうと、わたしもどうしたらいいのかわかんないんだから……

 でも、同時にたくさんのクリーチャーが現れても、わたしの身体はひとつだけ。たぶん、どのクリーチャーも無視することはできないだろうし……ど、どうすればいいの?

 

「……そのクリーチャーは、どこにいるんだい?」

 

 と、わたしたちが困っていると、霜ちゃんが鳥さんに尋ねた。

 

「ここから東西南北、それぞれの方向に散ってるね」

「じゃあ、ここは手分けして事に当たろうか」

「え?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 霜ちゃんが言った言葉。それって……

 

「違う場所に同時にクリーチャーが現れたのなら、やることは一つだろう?」

「Ja! お手伝いしますよ! 小鈴さん!」

「霜ちゃん、ユーちゃん……」

「……こっちも、忘れないで、ほしい……」

「そうそ。友達なんだし、小鈴ちゃんのためなら大抵のことはやっちゃうよ」

 

 恋ちゃんとみのりちゃんも……

 なんだか悪いような気もするけど、でも――

 

「みんな……ありがとう」

 

 ――嬉しかった。

 友達が、なんの躊躇いもなく、力を貸してくれることが。

 

「とはいえ、君らだけじゃクリーチャーと戦うことはできないわけだから、僕が飛び回って、君らの戦いの場をセッティングしなければならないのか」

「手間はかかるしスマートではないけど、事が一刻を争うなら妥協するしかないな。大まかな方向は彼に聞いて、クリーチャーを発見したら小鈴に連絡して、そこの鳥類を飛ばしてもらう。誰がいつどこにいるのかという情報は、常に共有するようにしよう」

「りょ……」

了解です(アインフェアシュタンデン)!」

「面倒くさいけど、まあそうなっちゃうよね。オッケ」

 

 と、いうわけで。

 わたしたちは、手分けしてクリーチャーの討伐に向かったのでした。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――さーて、そろそろネズミがにかかった頃か?」

 

 少年は身体を起こして、寝転がっていた近くの公園のベンチから降りる。

 まずは時間を確認。短針が示すは4、長針が指すは4と5の間。ちょうど、短針と長針が重なる位置だった。

 

「……あと30分ってところか。わざわざカメ子の奴に借りを作って、成果なしじゃ笑えねぇ。スピーディーに、かつスポーティーに、そしてビューティーに終わらせるか」

 

 寝てる間に硬くなった身体を軽くほぐしてから、少年は歩き出す。

 彼の言う“ネズミ”を獲りに――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「小鈴さん! こっち、終わりましたよ!」

『ありがとうユーちゃん!』

 

 現れたクリーチャーを倒したので、小鈴さんに電話をかけました。

 どうやら、クリーチャーを倒せたのはユーちゃんが一番だったみたいです。やりましたよ!

 

「小鈴さんの方はどうです?」

『こっちはまだ見つからないかな……』

「ユーちゃん、次はどうすればいいです? 小鈴さんのお手伝いしますか?」

『えっと、そうだね。他にもクリーチャーがいるかもしれないから、無理はしない範囲でそれを探しながら、一度合流しようか』

「了解です! じゃあ、そっち向かいます!」

 

 電話を切って、早速小鈴さんのところへと向かうとしましょう。  

 

「よーし、小鈴さんのお手伝いに――」

「ちょいとタンマだ」

 

 と、思ったら、引き留められてしまいました。

 

「? どちら様でしょう?」

「どちら様でも構わねぇよ。なに、ちょっくらネズミ捕りに付き合ってもらうだけだ――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 何度かかかってくる電話を切って、ちょうど戻ってきた鳥さんを見る。

 

「霜ちゃんの方も終わったって」

「君の友達は凄いな。普通の人間で、こんなに早くクリーチャーを索敵して、討伐できるのか。小鈴より早いじゃないか」

「わたしだって普通だよ……」

「クリーチャーのマナを捕食できないことだけが心残りだけど、そこはそれ。今回ばかりは仕方ないと割り切ろう」

「聞いてよ、わたしだって普通なんだから……」

 

 と言って聞いてくれる鳥さんじゃなかった。

 うーん、酷い。

 鳥さんへのちょっとした不安を密かに募らせながら、鳥さんのナビゲートを頼りに走る。

 ナビゲートしてるのは鳥さんなんだから、わたしが遅い原因は鳥さんにあるんじゃないのかなぁ。

 そう思ってると、また携帯が鳴った。

 

「あ、みのりちゃんからだ。あっちも終わったのかな――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「これは……」

 

 どういうことだろうか。

 ついさっき小鈴ちゃんに連絡して、近くにいるはずのユーリアさんと合流してから小鈴ちゃんのところに向かおうとした。ここまではいい。

 ユーリアさんと合流もできた。寸前までは。

 そこに“知らない少年”がいなければ、ちゃんと合流できたと言えるのだけれど。

 

「あなたは……」

「お? お前、帽子屋が目ぇつけてた女じゃん。なんだよ、あんだよ、またハズレかよ」

 

 帽子屋。ってことは、この少年は……

 目線を下げる。そこには、見慣れた女の子の姿も。

 ただし、見るからに意識がない。

 

「ユーリアさん……」

「こっちもハズレ、女はアバズレ、どうにもやりづれぇ。やっぱこーゆー、地味にちまちま索敵とか、性に合わないっての」

 

 ぼやく少年。だけど、そんなぼやきに付き合ってはいられない。

 そっと、デッキを手にする。

 

「……小鈴ちゃんと合流する前に、こっちかな」

「あん? やんのかよ。いいぜ、ハズレ女とやり合う時間は惜しいが、喧嘩上等、気分上々、戦闘続行! 売られた喧嘩は買ってやれ! アンサー返せねぇMCはクソッタレ! ってな!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――S・トリガー《クロック》! 残りのターンを飛ばしてわたしのターン! 《龍覇 グレンモルト》を召喚して《ガイハート》を装備! そして攻撃! 《クロック》でも攻撃して、トリガーはない? だったら《ガイハート》を龍解! 《ガイギンガ》でダイレクトアタックだよ!」

 

 やっとこさクリーチャーを探して出して、なんとか勝てました。

 いつものように、光の粒子となって消えていくクリーチャーを、鳥さんがついばんで食べている。

 なんだけど、今日はちょっと様子が違った。

 

「……? なんか、変だな?」

「どうしたの? 鳥さん」

「食べた気がしない」

「…………」

「体内に吸収されてる感覚がまるでない。食べたのに、食べたことがなかったことにされたみたいな……食べたのに食べてないみたいな感覚が……」

 

 なにを言ってるの、この鳥さんは……

 わけがわからないよ。

 

「なんだか、今回のクリーチャーはいつもと違う感じだ。“本当の”クリーチャーではないみたいな」

「本当のクリーチャーではない? じゃあ、さっきのクリーチャーは、クリーチャーの偽物ってこと?」

「わからない。けど、今回の事例は異常だったし、普段となにか違う質のクリーチャーなのかもしれない」

「違う質……言われてみれば、本当にクリーチャーが出て来ただけだったね、今回は」

 

 いつもはなんらかの事件を通して発見できるんだけど、今回は本当に、クリーチャーそのものがいるだけだった。

 誰かの身体を乗っ取ることも、人間に化けて事件を起こすこともない。ただ、そこにいるだけ。

 確かに、いつもとちょっと違うね。

 

「霜ちゃんが混乱しそうだなぁ。また新しいパターンが出来ちゃったよ」

「パターン?」

「あ、そうだ。せっかくだから聞いておきたいんだけど、鳥さん。クリーチャーって、どうやって現れるの? というか、どこから来てるの?」

「クリーチャー? そんなの、クリーチャーの世界から来ているに決まってるじゃないか」

 

 こともなげに言う鳥さん。そんなあっさり……

 

「言ってなかったっけ? 僕らのいた世界は、綻びが多いんだ。別次元、別世界への穴がいくつかあって、それらを目聡く見つけたクリーチャーが、その穴を通じてこっちの世界に流れて来てるんだよ」

「あぁ、そうなんだぁ……」

 

 なんか拍子抜け。思ったより呆気ない答えだった。って納得しちゃったけど、それ物凄いことなんじゃないかな?

 

「でも、なんでわざわざクリーチャーがわたしたちの世界にやって来るの? クリーチャーは、こっちにはいないのに」

「そんなの、そのクリーチャーの思惑が色々あるから、僕にはわからないよ。ただ僕らの世界は統治が消滅した無秩序な星になっている。それを嫌ったクリーチャーが、別の秩序だった星に行きたがるという道理は、あるかもね」

「うーん、よくわかんないけど、鳥さんの世界も大変なんだね」

「大変さ。信仰と秩序が失われた世界は、もう混沌の世界だもの。僕の相棒や主人は、そういうのも好きだったけど、僕はちょっと苦手だな」

 

 相棒? 主人?

 鳥さんにも、そう呼べる人? がいるんだ。

 

「…………」

「小鈴? どうしたんだい? 急に黙り込んで」

「いや……なんか、変だなって思って」

「変? なにがだい?」

「いや、その……ユーちゃんやみのりちゃんからの連絡が、ないなって」

 

 携帯を確認してみるけど、少し前の通話より後の着信はない。

 二人とも、わたしから近い場所に向かったから、時間的にはもうそろそろ合流できてもいい頃なんだけど。

 ユーちゃんは元々ドイツにいたし、みのりちゃんも隣町に住んでるから、この町の土地勘はちょっと薄いかもしれないけど……

 なんか、嫌な予感がする。

 

「鳥さん。わたし、ユーちゃんやみのりちゃんが向かったところに行くよ」

「う、うん?」

「もしかしたら恋ちゃんや霜ちゃんの方にもなにかあるかもしれないから、鳥さんはそっちに向かってくれる?」

「わかったよ。確かに、今回のクリーチャー出現は特殊だしね。なにがあるかわからない。請け負ったよ」

 

 そうしてわたしはユーちゃんやみのりちゃんの向かった方向へと走り出し、鳥さんは恋ちゃんや霜ちゃんの向かった先へと羽ばたく。

 ……何事もなければ、いいんだけど。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「《ギョギョラス》をチャージ! 2マナで《メンデルスゾーン》を唱えるよ。二枚めくって……ドラゴンの《ドギラゴン剣》と《メガ・カラクリ・ドラゴン》をマナへ! ターン終了!」

「おっと? チルいかと思ったが、イルいビート刻むな」

 

 少年がニヤリと口角を上げて笑う。

 手札には《フェアリー・ギフト》《リュウセイ・ジ・アース》《ギョギョラス》《ドギラゴン剣》の四枚が綺麗に揃ってる。

 次のターンには、確実に侵略と革命チェンジの連続攻撃ができる構えだ。

 

「そのスピードには感嘆。だがこっちも最速パターン!」

「!」

 

 だけども。

 相手の導火線にも、既に火が点いていた。

 

「アンサー返せるもんなら返してみろ! マジでバッドなパンチライン、お見舞いしてやるよ――!」

 

 ……これは、まずいかも――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 みのりちゃんが向かったところには、なにもいないし、誰もいなかった。次にユーちゃんが向かったところへと走ると、そこには、誰かが立っていた。

 その人物は背を向けていたけど、わたしの足音に気付いてか、くるりと振り返る。

 

「――やっとアタリが出たか?」

 

 男の子だ。わたしと同じくらいか、もしくはわたしよりも小さい男の子。

 あどけない顔立ちと、高いとは言えない背丈から、小学生って感じだけど……

 

(な、なんか凄い見た目……)

 

 斜に被ったキャップ。後ろで一つに縛った髪は白く脱色してて、さらに赤く染めているけど、脱色しきれていない黒髪が残っていた。

 眼は赤い。たぶんカラーコンタクトだ。顔から腕にかけてはもっと凄い。右のほっぺから、右腕の関節あたりまで、燃える炎のような刺青がくっきりと彫り込まれている。

 片耳にはこれでもかというほどピアスが連なっていて、もう片耳にも同じようにイヤリングがいくつもぶら下がってる。

 それだけじゃない。黒い指抜きグローブの上からたくさんの指輪。腕には腕輪、首からはネックレスとペンダント。全部シルバー。腰にも鎖がジャラジャラとたくさん付いている。

 なんというか、とにかく、これでもかというほどにアクセサリーをつけた男の子なんだけど……

 

(こんなファンキーな小学生、生まれて初めて見たよ……!?)

 

 たぶん、後にも前にも一生見ないような人だった。

 そのショッキングな見た目に言葉を失っていると、相手の方から語りかけてきた。

 

「どうせ僕のこと、知らねーだろうから、名乗ってやるかな。僕は『眠りネズミ』。今日のレベゼン【不思議な国の住人】だ」

 

 と、男の子は名乗った。

 眠りネズミ。そして、【不思議な国の住人】。

 これは、間違いない。この子は、帽子屋さんと関係のある人だ。

 だけどそれは、今はどうでもいい。

 わたしは彼の後ろで倒れる、みのりちゃんとユーちゃんに視線を落とす。

 

「みのりちゃんと、ユーちゃんに、なにしたの?」

「オイオイオイ、MCが出会ったらラップスタートってのがお決まりだろ? デュエリストが出会ったらデュエマするっきゃねーだろ? そーゆーもんだろ?」

 

 ……なんか、喋り方がちょっとラップ調?

 不良みたいな見た目だけど、ラッパー志望?

 不思議というか、奇妙というか。そういう意味では、帽子屋さんたちと同じ子だ。

 

「ま、今回に限って言えば、帽子屋に頼まれて動いてるが。これはあれだ、ネズミ探しの途中経過だ」

 

 ネズミは僕の方だけどな、とネズミさんは笑うけど、全然笑えない。

 

「そこで、今回でやっと本命のネズミがかかってくれたわけだ」

「……わたしが、目的なの?」

「正確には、てめーが隠してる聖獣とやらだが」

「…………」

 

 またそれだ。

 もう知らないって主張するのも疲れちゃったよ。

 

「小難しいスタイルは僕には向いてねーし、手っ取り早く決めちまおうぜ。こーゆーやり方はワックだが、マイメンのためなら泥くらいかぶってやる」

 

 そう言ってネズミさんは、拳を握って親指を突き立て、サムズアップのサインを――したわけではなく。

 立てた親指で、後方を指す。

 

「僕の後ろでおねんねしてんのがてめーのマイメン。てめーの持ってる情報が聖獣の居所。互いにアンティするモンがあるっつーこった」

 

 つまり、

 

「フリースタイルデュエマで、負けた奴は勝った奴の欲しいモンをくれてやる、ってのはどうだ?」

「……わかった。それでいいよ」

「オーケー、ノリがよくてバッドだ。そんじゃ、とっととスタートしようや」

 

 生殺与奪の権限は向こうにある。だったら相手に従うしかない。

 けど、そんなのは建前だ。

 友達が倒れてるのに、見過ごせるはずがない。

 その邪魔をするというのなら、相手が誰であっても、退けるわけがない。

 その気持ちが、たぶん、一番大きい。

 ネズミさんは至極楽しそうに、ジャラジャラと鎖やらアクセサリー不協和音を奏でながら、指を鳴らす。

 それが、対戦開始の合図だった。

 

「ウェルカム、不思議の世界へ――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「私のターン! 《青銅の鎧》を召喚! マナを一枚増やして、ターン終了だよ」

「僕のターンだ。《トップギア》でコスト軽減! 《お騒がせチューザ》を召喚! ターンエンド!」

 

 

 

ターン3

 

小鈴

場:《青銅の鎧》

盾:5

マナ:4

手札:3

墓地:0

山札:27

 

 

眠りネズミ

場:《トップギア》《チューザ》

盾:5

マナ:3

手札:3

墓地:0

山札:27

 

 

 

「《クロック》をチャージして、5マナで《飛散する斧 プロメテウス》を召喚! 2マナ増やして、マナから《ボスカツ闘&カツえもん武》を手札に加えるよ」

 

 うーん、微妙だなぁ。

 《グレンモルト》か《コスモ・セブΛ》を手に入れたかったんだけど、なかなか引けない。

 でも、ネズミさんのデッキは火文明。火文明ってことは攻撃的だろうから、バトルでクリーチャーを破壊できる《ボスカツ闘&カツえもん武》はあって損はないよね。

 

「遅いぜのろいぜチルいぜ! そんなんじゃ僕には追いつけないぜ! 《トップギア》でコストを1軽減、1マナで《一番隊 チュチュリス》を召喚!」

「またネズミさん……」

「《チュチュリス》の能力で、ビートジョッキーのコストも1軽減! 1マナで《ダチッコ・チュリス》召喚!」

 

 立て続けに呼び出されるネズミたち。

 最初に出て来たネズミさんは、ちょっと燃えてる以外は普通のネズミだったけど、次に出て来るのはローラースケートで動いてたり、ヘッドホンをつけてたり、奇妙なネズミたちだった。

 

「さらに! 《ダチッコ・チュリス》の能力で、次に召喚するビートジョッキーの召喚コストを3軽減!」

「さ、3も!? それに、《チュチュリス》もいるから、さらに1下がって……」

 

 合計で4コストも下がることになる。

 ネズミさんのマナは残り2マナだから、出て来るとしたら6マナのクリーチャー。

 

「こいつが僕のパンチライン! アンサー返せるもんなら返してみろ! 《ダチッコ・チュリス》からNEO進化!」

 

 ヘッドホンを装着したネズミさんが、光に包まれて進化する。

 

 

 

「ガンガン千射、ブレイク決めるぜぇ! 《ガンザン戦車 スパイク7K》!」

 

 

 

 現れたのは、戦車だった。

 黒いキャタピラ、巨大な砲身。そして、それを動かすのは小さなネズミさん。

 ファンシーだけど凶悪な、煤けた大戦車が召喚された。

 

「《スパイク7K》の能力発動! こいつは二つの能力があり、そこから一つをセレクトし、自分のクリーチャーをパワーアップさせる!」

「二つの能力……?」

「パワーを2000アップしてアンタップキラーにする、パワーを5000アップしてブレイクアップする。騎射炸裂な二者択一だ」

 

 つまり、上がり幅は違うけどパワーを上げるのはどっちも同じで、アンタップしているクリーチャーも攻撃できるようになるか、ブレイク数が増えるか、ってことだよね。

 ……あれ、これってかなりまずいんじゃ。

 

「後者をセレクト! 強者のエフェクト! 強化はダイレクト! 僕のクリーチャーはすべて、パワープラス5000! ブレイク数ワンナップ!」

「……!」

 

 《チュチュリス》は召喚酔いしてるから関係ないとして、これで《スパイク7K》がTブレイカーになって、《トップギア》と《チューザ》はWブレイカーだ。

 このブレイク数だと、わたしのシールドをすべて割り切って、とどめまで届いちゃう。

 

「速攻、上等、大炎上! アタック開始だ! 《チューザ》で攻撃! Wでブレイク!」

「うっ、くぅ……! S・トリガーだよ! 《ドンドン吸い込むナウ》――」

 

 砕け散ったシールドから、S・トリガーが出た。これで凌げる。

 とりあえず、S・トリガーで引いた《ドンドン吸い込むナウ》を唱えようとしたけど、

 

「ちょいとストップ、そいつはロック。使えねーぜ」

「え? なんで?」

「《チューザ》の能力だ。こいつがタップ、どいつもスペル、例外なくロック!」

 

 なんでラップ調なのかはやっぱりわかんないけど、つまり、呪文が使えないってこと?

 それは、ちょっと困るけど……

 

「だったらもう一枚! S・トリガー《罠の超人(トラップ・ジャイアント)》! 《スパイク7K》をマナゾーンに!」

「ハァ!? ダブルトリガー!? マジかファッキン! ガチでガッデム! ワックだぜ!」

「ご、ごめん……?」

「だが、テンションダウンでもノンストップだ! 《トップギア》でもWブレイク! ターンエンド!」

 

 

 

ターン4

 

小鈴

場:《青銅の鎧》《プロメテウス》《罠の超人》

盾:1

マナ:6

手札:5

墓地:0

山札:25

 

 

眠りネズミ

場:《トップギア》《チューザ》《チュチュリス》

盾:5

マナ:6

手札:0

墓地:0

山札:26

 

 

 

 な、なんとか凌げたけど、だいぶシールドが減っちゃった。

 でも今の手札なら、まだ耐えられるかな……

 

「《風の1号 ハムカツマン》《双勇 ボスカツ闘&カツえもん武》を召喚! マナを増やして、《チュチュリス》とバトル!」

 

 《チュチュリス》のパワーは2000、《ボスカツ闘&カツえもん武》のパワーはバトル中6000になるから、余裕でこっちの勝ちだね。《プロメテウス》で手札に加えておいてよかったよ。

 

「それから、《罠の超人》で《チューザ》を攻撃して破壊! 《青銅の鎧》で《トップギア》を攻撃! こっちは相打ちだよ! ターン終了」

「盤面はクリーン、完全にストッピン……だが僕は、オールグリーン!」

「どっちかっていうとレッドじゃない?」

 

 なんて思わず言っちゃったけど、ネズミさんは無視ししてカードを引いた。

 

「ナイスドロー! 《トツゲキ戦車 バクゲットー》召喚! ハンドレスにツードロー!」

「! 二枚も引いた……!」

「ついでに《ナグナグ・チュリス》も召喚! 《ハムカツマン》とバトルして、ターンエンド!」

 

 

 

ターン5

 

小鈴

場:《プロメテウス》《罠の超人》《ボスカツ闘&カツえもん武》

盾:1

マナ:8

手札:3

墓地:2

山札:23

 

 

眠りネズミ

場:《バクゲットー》《ナグナグ・チュリス》

盾:5

マナ:6

手札:0

墓地:3

山札:24

 

 

 

 

「《チューザ》がいなくなったし、《ドンドン吸い込むナウ》を唱えるよ。山札から五枚を見て……《グレンモルト》を手札に加えるよ! 火のカードを手札に加えたから、《バクゲットー》を手札に! ターン終了だよ」

 

 よし、やっと《グレンモルト》を手札に加えられたよ。

 これで次のターンに、《ガイギンガ》まで龍解させられれば、ほぼ勝ちにまで持って行けるはず。

 

「そのシンクはワックだぜ」

「!」

 

 ネズミさんは、わたしを指差して言った。

 わたしの思考を、見抜いたかのように。

 

「見え透いてんだよ、甘い考え。燃えてるんだよ、僕のフロウ! マナチャージ! 《バクゲットー》召喚! ハンドレスで、ツードロー!」

 

 手札はないのに、手札を捨てる動作をした後、ネズミさんはまた二枚ドローする。

 そして、ニヤリと口角を釣り上げた。明らかに、いいカードを引いた笑みだ。

 

「来たぜ……見せてやる、喰らわせてやる! さぁ、マジでドープにバッドなパンチライン! お見舞いしてやるぜ!」

 

 な、なにか引いたみたいだけど、なにが来るの……?

 

「まずは、2マナ! 《ダチッコ・チュリス》を召喚!」

 

 あれって、クリーチャーのコストを下げるネズミさんだよね。

 だけど今回は2マナで召喚して、3マナ下げるから、差し引きで下がったコストは実質1。

 ネズミさんのマナは残り2マナ。5マナのクリーチャーまでしか出せない。

 ってことは、少なくとも《スパイク7K》は来ないよね。

 

「……さらに」

「え?」

 

 でも、それだけじゃなかった。

 コストを下げるのは、《ダチッコ・チュリス》だけじゃなかったんだ。

 

B・A・D(バッド・アクション・ダイナマイト)! 発動だぁ!」

「ば、バッド……ダイナマイト……?」

 

 なんのことかよくわからないけど、遥か遠くから、爆ぜるような爆発音と、重く響く重低音が聞こえる。

 それはだんだん大きくなって、わたしの鼓膜を大きく揺さぶっていた。

 

「コストを2軽減! 《ダチッコ・チュリス》とあわせて5軽減! 2マナでこいつを召喚だ!」

 

 そして、やがて。

 わたしの目の前で、それは爆ぜた。

 

「そこを退きな姉ちゃん。ここは親分の道じゃん? こいつはとどめ、最後に参る。それでも行くか、迷子のアリス?」

 

 韻を踏む言の葉のBGMは、爆発。爆音。そして爆撃。

 とにかく大きく、炎が爆ぜる。

 そして、絶大な爆発を背に、それは現れた。

 

 

 

「そぅら――《“罰怒(バッド)”ブランド Ltd.(リミテッド)》のお出ましだぁ!」

 

 

 

 巨大な歯車を両肩に付け、全身を機械的な装甲で覆った、人型のクリーチャー。

 爆ぜるような炎を吹き散らしながら、ジェット噴射するスケートボードのようなものに乗って、そのクリーチャーは滑走――どころか、爆走して来た。

 なによりも目を引くのは、そのコスト。そして、実際に現れた時のコストだ。

 

「な、7コストのクリーチャーが、2マナで……!?」

 

 《スパイク7K》よりもコストの大きなクリーチャーが、なんで2コストで出て来るの!?

 い、いや、それよりも……これって、まずいんじゃ……

 

「B・A・D2……このターンの終わりに自爆する代わりに、コストを2軽くする。そうして《“罰怒”ブランド Ltd.》を召喚! 目ン玉かっぽじってよーく見な、これがB・A・Dのフロウだ!」

 

 コストを2軽くする代わりに、ターン終了時に自爆する? クリーチャーを使い捨てるってこと?

 でもそれなら、《スパイク7K》よりも軽く現れるのも納得だ。

 《ダチッコ・チュリス》で3、B・A・Dで2、合計5コストも軽くなって、《“罰怒”ブランド Ltd.》が爆走する。

 

「《“罰怒”ブランド Ltd.》の登場時能力で、パワー6000以下の《ボスカツ闘&カツえもん武》を破壊!」

「あ……」

「まだまだぁ! 《ナグナグ・チュリス》で、ラストブレイク! シールドブレイク!」

 

 《ナグナグ・チュリス》が拳を振りかざして、わたしの最後のシールドを打ち砕く。

 まずい、このままじゃとどめをさ刺されちゃう……

 

「……! 来たよ、S・トリガー! 《ドンドン吸い込むナウ》!」

「あぁクソ! ファック! 気持ちよくアタックさせろっての!」

「そんなこと言われても、わたしだって負けられないんだから! 《エメラルド・リュウセイ》を手札に加えて、《“罰怒”ブランド Ltd.》を手札に戻すよ!」

 

 火と自然のカードを手札に加えて、《ドンドン吸い込むナウ》の効果を起動。ジェット噴射するスケボーに乗って爆走する《“罰怒”ブランド Ltd.》を、手札に押し戻した。

 ふぅ……なんとか、ギリギリのところで踏みとどまれたよ……

 

「マジでファッキンだぜ。ターンエンドだ」

 

 

 

ターン6

 

小鈴

場:《プロメテウス》《罠の超人》

盾:0

マナ:9

手札:4

墓地:5

山札:20

 

 

眠りネズミ

場:《ナグナグ・チュリス》《バクゲットー》《ダチッコ・チュリス》

盾:5

マナ:7

手札:1

墓地:3

山札:21

 

 

 

 

 間一髪、九死に一生を得たけど、ネズミさんの場には攻撃できるクリーチャーが三体もいる。

 それに、手札には戻った《“罰怒”ブランド Ltd.》。バトルゾーンのクリーチャーを全部倒したとしても、手札から現れるスピードアタッカーの攻撃を防ぐ手立てはない。

 ……さっきまではね。

 今は、B・A・Dも怖くないよっ! 

 

「わたしのターン! 8マナで、《永遠のエメラルド・リュウセイ》を召喚」

「あ?」

 

 エメラルドに輝く、緑色の《リュウセイ》が現れた。

 恋ちゃんや霜ちゃんは、そんなに強くないって言ってたけど、このタミングで召喚するこのクリーチャーには、大きな意味があるはず。

 わたしのデッキは攻撃的で、攻めることに秀でたクリーチャーが多いけど、《エメラルド・リュウセイ》は違う。

 攻めるためじゃなくて、守るための切り札。

 今みたいな、追い込まれている時にこそ、輝くんだ。

 

「攻撃だよ! スピードアタッカーの《エメラルド・リュウセイ》で、《ナグナグ・チュリス》を攻撃!」

「ノックアウトでフェードアウト、んでもってグレイブにシュート……とか、アンサー返してる場合じゃねぇな」

 

 これでわたしのターンは終了。

 ネズミさんの場にはまだクリーチャーが残ってるし、手札にも《“罰怒”ブランド Ltd.》が残ったままだけど、大丈夫。

 まだ、わたしは負けない。

 

「……7マナで、《“罰怒”ブランド Ltd.》を召喚。《罠の超人》を破壊」

 

 B・A・Dを使わず、普通に召喚してきた。能力でまたわたしのクリーチャーが破壊されちゃうけど、《エメラルド・リュウセイ》が残ってるなら問題ない。

 なにせ、《エメラルド・リュウセイ》がいる限り、ネズミさんの攻撃はわたしに届かないからね。

 

「……攻撃誘導、マジで有用、僕の行動、無意味で昏倒……オイオイオイ、こいつは困った、あいつで嵌った、攻撃届かなくなった」

 

 ラップで正気を保ってる……? 別に昏倒なんてしてないけど。

 《エメラルド・リュウセイ》には、攻撃を止める能力がある。正確には、攻撃先を《エメラルド・リュウセイ》に固定してしまう能力が。

 つまり《エメラルド・リュウセイ》をタップさせれば、《エメラルド・リュウセイ》が破壊されない限り、ネズミさんの攻撃はわたしには届かない。

 ネズミさんのクリーチャーのパワーはすべて、8000未満。《エメラルド・リュウセイ》を倒すことはできない。

 

「《スパイク7K》がいれば、ゴリ押しフロウで突破できたんだが、引けねぇしな……悔しいが、ここでそのリリックはバッドだぜ。サムズアップでハンドアップだ。ターンエンド」

 

 

 

ターン7

 

小鈴

場:《プロメテウス》《エメラルド・リュウセイ》

盾:0

マナ:10

手札:3

墓地:6

山札:19

 

 

眠りネズミ

場:《ナグナグ・チュリス》《バクゲットー》《ダチッコ・チュリス》《“罰怒”ブランド Ltd.》

盾:5

マナ:7

手札:1

墓地:4

山札:19

 

 

 

 やった! 凌げた!

 この1ターンは大きいし、大事にしなきゃ。《エメラルド・リュウセイ》のパワーは8000しかないから、ネズミさんが言ったみたいに、《スパイク7K》を出されるだけで突破されちゃうし、他にも相打ち以上を取れるクリーチャーがいるかもしれない。

 《エメラルド・リュウセイ》の防御力も、過信はできない。だからできるだけ早く決めないと。

 そう、できることなら、このターンに。

 

「《龍覇 グレンモルト》召喚! 《銀河大剣 ガイハート》を装備!」

「チキンハートかと思ったが、《ガイハート》でやっとノーガードか。いいぜいいぜ、アクティブにアタック来いよ! テメーのアンサー見せてみろ!」

 

 ……なんか、楽しそうだなぁ。

 状況的には追い込まれてるはずなのに、笑ってる。一喜一憂が激しくて、感情のアップダウンが大きくて、とにかく楽しそうだ。

 でも、わたしはユーちゃんとみのりちゃんの無事がかかってる。素直に楽しんだり、純粋に笑ったりは、できない。

 

「《プロメテウス》を《超電磁コスモ・セブΛ》に進化!」

 

 これで準備完了。

 龍解も考えれば、とどめまで行ける。あとはトリガーを踏まないことを祈るだけ。

 

「行くよ! 《グレンモルト》でシールドをブレイク!」

「S・トリガー!」

 

 うわ、いきなり出ちゃった……

 な、なにが出るんだろう……?

 

「《バクゲットー》を召喚だ! ハンドトラッシュ、ツードロー!」

「ただのドロー、よかった……じゃあ、《エメラルド・リュウセイ》で攻撃! Wブレイク!」

 

 クリーチャーは増えたけど、《バクゲットー》なら関係ない。手札が増えただけじゃ、問題もない。

 続けて《エメラルド・リュウセイ》でもシールドを攻める。これで残り二枚。

 

「ノートリガー」

「じゃあ、《ガイハート》の龍解条件成立だよ!」

 

 これで、このターン二回の攻撃が成功した。

 それによって、《ガイハート》が龍解する。

 鎖に縛られた大剣を、ひっくり返す――

 

 

 

「――龍解! 《熱血星龍 ガイギンガ》!」

 

 

 

 先輩から託された、わたしの新しい切り札。

 ここで龍解すれば、もうわたしの勝利は揺るがない。《ガイギンガ》が龍解して、負けたことはないんだから!

 

「《ガイギンガ》が龍解したから、《“罰怒”ブランド Ltd.》を破壊するよ! そして、《コスモ・セブΛ》で攻撃! メテオバーンで進化元を墓地に置いて三枚ドロー! そのままWブレイクだよ!」

「ノートリガーだ」

 

 まあ、トリガーが出ても、《ガイギンガ》を倒すことはできなかったと思うけどね。

 なんにせよ、わたしの勝ちだよ!

 これで、とどめ!

 

「《熱血星龍 ガイギンガ》で、ダイレクトアタック!」

 

 私の、渾身にして決死の一撃が、ネズミさんに届く――

 

 

 

「――革命0トリガー!」

 

 

 

 その、刹那。

 ネズミさんの手の内が、燃え上がる。

 

「《ボルシャック・ドギラゴン》! 三枚だ!」

「っ、え……っ!?」

 

 《ガイギンガ》のダイレクトアタックが届くその瞬間。

 ネズミさんは、手札から三枚のクリーチャーを晒した。

 あのクリーチャーは確か、みのりちゃんも使ってた……革命0トリガーの、クリーチャー。

 

「テメーのパンチライン、マジでバッドだったぜ。超絶ドープでつい聞き惚れちまった……だが! 僕もまだ、アンサー返せるんだよ!」

 

 ネズミさんは革命0のカードを三枚、空に放り投げる。

 

「トップデックを公開! 火のクリーチャーを展開! そのクリーチャーに進化かい? それとも、ここが僕の限界? 答えはノー、めくってやるぜ、マジでバッドな正解!」

 

 リズムを刻みながら、ネズミさんは山札をめくる。

 まずは、一枚目。

 

1st(ファースト)! 《ナグナグ・チュリス》!」

 

 確か、革命0トリガーは、指定された文明の進化でないクリーチャーがめくれたら、それをバトルゾーンに出して進化させる進化方法だったはず。

 

NEXT(ネクスト)! 《トツゲキ戦車 バクゲットー》!」

 

 この時、進化元のクリーチャーは一旦バトルゾーンに出るから、登場時の能力が使える。

 

Last(ラスト)! カムカムカム! 僕のマジでバッドなパンチライン!」

 

 《ボルシャック・ドギラゴン》のパワーは12000だから、バトル中の《ガイギンガ》の方がパワーは高い。

 だけど――

 

 

 

「――《ガンザン戦車 スパイク7K》!」

 

 

 

 ここでめくれるカード次第では、パワー負けしてしまう。

 

「き、っ、た、ぜぇぇぇぇぇぇぇ! 来たぜ来たぜ! イルいリリック! マジでバッド! ガチでドープ! ゴッドな神引きだぁぁぁぁぁぁ!」

 

 歓喜に絶叫し、咆哮するネズミさん。

 ゴッドと神で意味が重複してる、なんて野暮なことは言ってられない。

 それ以上に、その三枚のめくられたカードがまずいということを、わたしは理解したから。

 

「《ナグナグ・チュリス》! 《バクゲットー》! 《スパイク7K》! こいつら三体それぞれから進化! 《ボルシャック・ドギラゴン》!」

 

 ネズミと、戦車と、ネズミたちが登場した戦車。それぞれが進化して龍となる。

 わたしの持っているのとは、また違う《ドギラゴン》へと。

 

「《スパイク7K》はNEOクリーチャー! つまり、進化元なしでも通常召喚可能! さぁ、進化元の能力解決だぜ!」

 

 わたしは今まで見てきたNEOクリーチャーは、数は少ないけど、進化した方がその力を発揮しやすかった。すぐに攻撃することに意味があるクリーチャーが多かったから。

 だけど、進化しなくても出せる、という能力が、今ここで大きな意味を持った。

 

「まずは、《スパイク7K》の能力で、僕のクリーチャーすべてのパワーをプラス5000! これでもう、どいつにも負けねーぜ! 続けて《バクゲットー》の能力で、ハンドトラッシュ! ツードロー!」

 

 自軍を強化しつつ、手札を大胆に入れ替えるネズミさん。

 そして、ここからが本命だ。

 

「《ナグナグ・チュリス》の能力で《エメラルド・リュウセイ》とバトル!」

「う……っ」

 

 《ナグナグ・チュリス》から進化した《ボルシャック・ドギラゴン》が、拳を振りかざす。ネズミだった時よりも、よっぽど大きくて、硬くて、雄々しい。力強い拳だ。

 鉄拳が《エメラルド・リュウセイ》を打ち砕く。わたしの守りの砦が、崩された。

 それだけじゃない。

 

「残りを解決だ! 《ボルシャック・ドギラゴン》三体の能力で、《ラムダ》《グレンモルト》《ガイギンガ》とバトル!」

 

 三体の《ボルシャック・ドギラゴン》が、それぞれのターゲットへと飛翔し、拳を繰り出す。

 《コスモ・セブΛ》を、《グレンモルト》を、そして《ガイギンガ》を。

 《ガイギンガ》のパワーはバトル中13000になるけど、《ボルシャック・ドギラゴン》は《スパイク7K》の強化を受けて、パワー17000だ。

 わたしの切り札は、あまりに強大な拳の前に、粉砕されてしまった。

 ……でも、ただではやられない。

 

「《ガイギンガ》の能力発動! 《ガイギンガ》が選ばれたから、もう一度わたしのターンだよ!」

 

 

 

ターン7(NEXT:小鈴EXターン)

 

小鈴

場:なし

盾:0

マナ:11

手札:4

墓地:10

山札:15

 

 

眠りネズミ

場:《ダチッコ・チュリス》《バクゲットー》×2《ボルシャック・ドギラゴン》×3

盾:0

マナ:7

手札:2

墓地:9

山札:13

 

 

 

 なんとか追加ターンは手に入れたけど、わたしのバトルゾーンにクリーチャーはゼロ。シールドもないから、このターンで決めないと。

 ここでスピードアタッカーを引けないと、わたしの負けだ。

 

(お願い、引いて……!)

 

 そう祈りながらカードを引く。

 そして、

 

「! やった! 《ハムカツマン》を召喚!」

「…………」

 

 引けた。

 マナ加速のためのカードで、《グレンモルト》と一緒に攻撃したり、《ドギラゴン》の進化元にしたりするためのクリーチャーだったけど、こんな形で活躍するなんて。

 それに、このタイミングで引けたのは、本当にラッキーだ。

 

(なんにしても、これでダイレクトアタックが決まる――)

 

 ――待って。

 ネズミさんのマナゾーンに、《ボルシャック・ドギラゴン》ってないよね?

 さっきネズミさんは、三枚の《ボルシャック・ドギラゴン》を出した。もしも四枚フルで入れてたら、あと一枚残ってるはず。

 ネズミさんのデッキ枚数はあと10枚くらい? ここまでで最後の一枚が見えてないってことは、デッキにある可能性もあるけど……

 

(もし手札に持ってたら、《ハムカツマン》じゃ倒せない……だったら)

 

 わたしのマナゾーンには、まだマナがたくさんある。

 これだけで終わるのは、ちょっともったいない。

 だから、

 

「8マナで、《サイバー・G・ホーガン》を召喚!」

 

 残りのマナをふんだんに使って、《ホーガン》を召喚する。

 なにもしないより、なにかする方が絶対にマシだ。相手が《ボルシャック・ドギラゴン》を持ってようと持ってなかろうと、この行動に意味はあるはず。

 

「激流連鎖発動! 山札を二枚めくって、コスト8未満のクリーチャーを全部出すよ! 一枚目! 《風の1号 ハムカツマン》! そして、もう一枚!」

 

 これで《ハムカツマン》が二体。《ボルシャック・ドギラゴン》一体なら耐えられるけど、それは《ボルシャック・ドギラゴン》だけの場合。

 《ボルシャック・ドギラゴン》は、山札をめくって、めくれられた火のクリーチャーの能力も使える。場合によっては、スピードアタッカー二体でも押し切れない。

 ここからはもう、運と可能性の領域だ。

 あるかどうかもわからない“詰め”のお話。

 かもしれない、来てほしい。可能性と、確率と、願望が混ざり合った状態。

 来なくても勝てるかもしれない。けれど勝てないかもしれない。だから、来てほしい。

 そう願う。そして――

 

 

 

「――《エヴォル・ドギラゴン》!」

 

 

 

 引いた。

 無意味か、有意義か。どちらに転ぶかもわからないけれど、わたしの切り札が、来てくれた。

 

「《ハムカツマン》を進化元にして進化だよ! そのまま《エヴォル・ドギラゴン》で攻撃!」

「ガッデム! なにめくったら勝てるんだよこれ……まあいい! 一応出すぜ、革命0トリガー! 《ボルシャック・ドギラゴン》!」

 

 やっぱり持ってた!

 偶然なんだろうけど、この一番いいタイミングに四枚も防御手段となるカードを引くなんて、凄すぎるよ、ネズミさん……

 でも、引きの強さで言ったらわたしも負けてない。

 ここ一番で、《エヴォル・ドギラゴン》を引けたんだから。

 

「トップ公開! 場に展開! 《ボルシャック・ドギラゴン》を、《“罰怒”ブランド Ltd.》から進化! パワー6000以下の《ハムカツマン》を破壊する……が、ここまでか」

 

 《“罰怒”ブランド Ltd》の能力で、控えていたもう一体の《ハムカツマン》が破壊されちゃう。《ボルシャック・ドギラゴン》のバトル能力も残ってる。けど、問題ない。

 《スパイク7K》はいないし、これが四枚目だからこれ以上《ボルシャック・ドギラゴン》も出ない。《ボルシャック・ドギラゴン》のパワーは12000、《エヴォル・ドギラゴン》のパワーは14000だ。

 バトルでは、《エヴォル・ドギラゴン》に負けはない。

 ネズミさんの最後の防御も乗り越えて、《エヴォル・ドギラゴン》が飛翔する。

 

「《エヴォル・ドギラゴン》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ふぅ……終わった、やり切った、燃え尽きた……ぜ」

 

 対戦が終わるや否や、ネズミさんはだらんと両腕を垂らして、呆然と虚空を見つめていた。

 ど、どうしたんだろう……

 

「言い訳の余地なく負けたぜ、こりゃ……あー、だがまあ、楽しかったなぁ……!」

 

 虚ろだったら目に火が灯ると、今度はわたしの方を見つめる。

 彼は、笑っていた。

 

「……わたしが、勝ったよ」

「わかってるわかってる。帽子屋の頼みは断れないが、あんたとの約束を反故にはしない。今回は失敗、今日のところは撤退、次に会う時は勝ちたい……負けっぱなしは嫌だが、今日の負けは悪くなかった。あんたのフロウ、マジでバッドだったぜ」

「あ、うん。ありがとう?」

 

 褒められてるのかよくわからないけど、とりあえずそう返す。

 

「あーあ、悪ぃな帽子屋、他でもないてめぇの頼みだってのに、完遂できなかったぜ。だが、てめーはちっとばっか、頼む相手を間違えたぜ。それに、僕に頼むんなら、先にお膳立てしてくれねぇと、時間が、足りな……い、ぜ……」

「え? ちょ、ちょっと、大丈夫?」

 

 急にふらふらしだしたネズミさん。どうしたんだろう?

 

「おぅ……大丈夫だ。僕は『眠りネズミ』。ちぃっとばかし……“おねむ”なだけ、だぜ……あぁ、もう時間、だな……はしゃぎ、すぎた……これ、以上は、無理……寝る」

 

 と言って。

 バタン。 

 ネズミさんは、その場に倒れた。

 いや“眠った”。

 仰向けに寝転がって、小さな寝息を立てて、眠っている。

 

「…………」

 

 こんな人目も気にせず、道のど真ん中で眠りにつくなんて、どんな神経してるんだろう……しかも、見るからにもう完全に寝入ってるし……

 流石に放っておけないんだけど、みのりちゃんやユーちゃんのこともあるし、どうしよう……

 と、わたしがおどおどと戸惑っていたら、わたし以上におどおどした声が聞こえてきた。

 

 

 

「ネ、ネズミくんっ!」

 

 

 

 ……いや、実際はそんなにおどおどしてないんだけどね?

 だけど、その聞き覚えのある声を聞くと、そう思っちゃったんだよ。

 振り向くとそこには、フードまで被ったパーカー姿に、大きなリュックサックを背負った女の子がいた。

 つい先日、わたしにデュエマを挑んできた【不思議な国の住人】の一人。カメさんこと『代用ウミガメ』さんだ。

 なんでここに、と言いたかったけど、なんとなくその理由がわかった気がした詩、その目的も察せられたので、なにも言わないことにした。

 

「あぁぁぁ……や、やっぱり、気になって来てみれば、よ、予想通りだよ……こ、こんなところで寝ちゃダメだよ、ネズミくん……っ」

 

 カメさんは一直線にネズミさんのところまで駆け寄って、ゆさゆさと揺するけど、起きる気配はない。

 

「はうぅ、やっぱり、ア、アタシなんかよりも、他の人に代わりに行ってもらった方が良かったんじゃ……で、でも、ネズミくんのことだし、放っておけないし……あぅあぅ……」

「…………」

 

 わたしはいつまでこうしていればいいんだろう。

 

「あ……ご、ごめんなさい、放置しちゃって……」

「い、いえ……お構いなく……」

 

 そんなわたしの視線に気づいたのか、カメさんはペコペコと平謝りしてる。

 ……なんだろう、この茶番は。

 

「え、えっと、ネズミくんは、その、ちょ、ちょっと普通の人よりもよく寝るだけで、所構わず寝ることが特技みたいな子で……へ、変な子じゃ、ないんです、普通の子、なんです……っ」

「はぁ……」

 

 いや、それは十分人として変だと思うけど……というか、カメさんはなにに弁明したいんだろう。

 

「……こ、このままお話してたら、目的を忘れちゃいそうです……そ、その、ネズミくんは、連れて、帰ります……ご迷惑を、お、おかけ、しました……っ」

 

 カメさんはネズミさんを(リュックの上から)背負うと、最後にペコリと一礼してから、たったかと速足で私の視界から消えて行った。

 ……本当に、なんだったんだろう。

 なにはともあれ、今回の騒動はこれで終結。みのりちゃんもユーちゃんも無事で、この後、何事もなく帰宅できました。

 なんともまあ、締まらない終わり方だけれども。

 彼ら独特の、まったくスッキリしない、奇妙な残り香だけを残して。

 今日という日は、終わりました。




 帽子屋、代用ウミガメと来て、今回も新キャラ、眠りネズミの登場です。言うまでもないとは思いますが、いずれも『不思議の国のアリス』から名前を取っているキャラクターです。
 眠りネズミは、その名の通りネズミのクリーチャーを擁するビートジョッキー使いですが……やはりこれも、ピクシブ投稿時が結構な昔で、カードプールに差異があるため、ちょっと古いタイプの赤単ビートジョッキーなんですよね。それなりに強いので、今でも多少は通用するとは思いますが。
 それでは、ご意見ご感想、誤字脱字、その他諸々、なにかりましたら遠慮、容赦、忌憚なくお伝えください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告