デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 夏休みはもうほぼ終わりですが、創作というものは、時間には縛られないもの。これを読んでいるその時の時間では、本作の中身はバリバリ夏休みなのです。
 恐らく最も夏休みらしいプール回です。水着回って言う方が、一般的かもしれませんね。


16話「プールに行くよ!」

 こんにちは、伊勢小鈴です。

 突然ですが、今日はとても暑いです。

 ギラギラと照りつける日差し。風は熱を持って吹き付け、大気も同様に熱と湿気でわたしたちに襲い掛かります。

 でも、その暑さもそんなに苦じゃありません。

 なぜでしょう? ヒントは、わたしたちが今日来ている場所に関係しています。

 そう、わたしたち、です。

 今日はみんなで遊びに来ています。

 夏の日に、暑さが気にならなくなるくらい楽しく遊べる場所。それは――

 

 

 

 ――プールです!

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「よく晴れてるねぇ……」

 

 一面の青が大空を塗り潰し、白い雲が千切り絵みたいに散らばっている。その中に一点、ギラギラと輝く太陽。

 いつもならうなだれてしまうほどの暑さ、日差しだけど、今日に限ってはこの快晴は楽しさに変わる。

 なんてったって、みんなでプールだもんね。それも、学校のプールや市民プールじゃなくて、遊園地みたいなテーマパーク感のあるプール。ウォータースライダーも流れるプールもあるんだよ!

 運動は苦手だけど、こういう遊ぶためのプールは運動神経とか体型とかあんまり気にしないで楽しめるからいいよね。

 うん、体型とか、ね。

 ……………

 ……あぁ、ちょっと恥ずかしくなってきたなぁ。

 学校指定の水着以外の水着なんて、着るの久しぶりだからなぁ……霜ちゃんには服のセンスはダサいって言われるし、ちょっと不安です。この水着、変じゃないよね……? (お姉ちゃんからのアドバイスをもらいつつ)自分で選んだんだけど……

 淡いピンク色で、フリルが付いてて、ボトムスがミニスカートみたいになってる、セパレートの水着。これも一応、ビキニって言うのかな? こういうタイプは初めて着たけど。サイズは合ってるはずだけど、ちょっと胸がキツイです。

 個人的には可愛いと思うんだけど、ちょっと子供っぽいかな……?

 それにしても、みんな遅いよね。まあ、女の子の着替えは時間かかっちゃうものだけど。

 え? わたし? わたしは家を出る間に、服の下に着てきたよ。一番時間かかっちゃいそうだったから。あと、なんだか今日が楽しみすぎて、つい気が急いちゃったから。

 白雲流れる真っ青な空を眺めながらみんなが来るのを待っていると、わたしを呼ぶ声が聞こえた。

 

「小鈴さーん! お待たせしましたー!」

「……暑い……死ぬ……帰り、たい……」

 

 なんて正反対な声だろうか。片や、この暑さも気力で吹き飛ばしそうな朗らかな声。片や、この暑さに気力を吹き飛ばされたような沈んだ声。

 ユーちゃんと恋ちゃんだ。

 

「更衣室、って……ジメジメしてるし、熱、こもってるし……地獄のような、場所……死ね」

「のっけからそんなマイナスオーラ噴き出すのはやめようよ、恋ちゃん……」

「そうですよ恋さん! せっかくのプールなんですから、そんなこと言っちゃメッ、ですよ!」

 

 ユーちゃんにも窘められる恋ちゃん。

 でも、恋ちゃんは今日の誘いも最後まで渋ってたけど、それでもなんだかんだ、最後には来てくれたんだよね。今もこうして、水着に着替えてここにいるわけだし。

 あ、そうだった。忘れてたよ。

 せっかくプールに来たんだから、こればっかりはスルーできないよね。

 わたしは二人に向き直る。

 

「二人の水着、可愛いね」

「えへへー、ローちゃんといっしょに選びんだですよ!」

「……スク水でいいって、思うけど……つきにぃが、うるさいから……」

 

 ユーちゃんも恋ちゃんも、顔立ちが整ってて可愛いもんね。水着もよく似合ってる。

 ユーちゃんはわたしのと似たタイプの水着だ。ふんわりしたフリルのついた、白いセパレートタイプ。カラーリングが白い肌に銀髪と相まって、太陽光に照らされてすごく綺麗だ。

 一方、恋ちゃんは淡い水色のワンピース状の水着。裾の辺りがスカートっぽくなってて、シンプルだけど可愛らしい。

 なんか、霜ちゃんの相手をしてたら、わたしもちょっとファッションチェックする癖がついちゃったかも。でもまあ、二人とも可愛いから仕方ないよね。

 ところで、ユーちゃんは腰に付けたフックに、恋ちゃんは首からかけた紐に、四角い箱が引っかけてあるんだけど……あれって、お金を入れておく防水ケースだよね?

 ……そうだよね?

 

「そういえば、ローザさんは?」

「んー、ローちゃんは、エンリョしていかないんですって」

「そっかぁ。残念だね」

「伊勢さんたちと楽しんでらっしゃい、って」

「お姉さんみたいだね」

「おねーちゃんですからね! ローちゃんは、ユーちゃんの!」

 

 そういえばそうだったね。双子だけど。

 そんな話をしていると、

 

「あ、いたいた。おーい、小鈴ちゃーん」

「みのりちゃん!」

 

 そこに、みのりちゃんもやって来た。

 みのりちゃんの体型はいつも羨ましいと思ってるけど、水着になるといつも以上にすらっとした体つきが目に見える。

 緑色のビキニにパレオを巻いているくらいで、シンプルで普通の水着なんだけど、みのりちゃん自身がスレンダーな体つきだから、とても格好いい。ポニーテールまとめた髪も、いつも以上に輝いてるように見える。

 なんだけど、ちらちらと見え隠れする太腿にホルスターが巻きつけてあって、そこに四角い箱が見える。

 これも防水お財布だよね、うん。そうだよね?

 

「……うふふ」

「ど、どうしたのみのりちゃん? 笑い方が変だよ……?」

「いやぁ、小鈴ちゃんと一緒にプールに来れる日が来るなんて、僥倖だなぁって。ちゃんと目に焼き付けておかないとね、小鈴ちゃんの水着姿」

「どういうことなの!?」

 

 わたしなんかよりも、恋ちゃんとかユーちゃんの方が可愛いと思うんだけど……

 

「眼福眼福。これは私もちょっかいをかけたくなっちゃうよ」

「や、やめてよ……ただでさえ、なんだか心もとないんだから……」

「それはそのたわわのことかな? それともこっちの紐のことかな?」

「ちょ、ちょっとみのりちゃん!? その紐、飾りじゃなくて本当に結んであるから引っ張らないでー!?」

「スカート付きだから、脱いでもギリギリ見えない! 即ちノープロブレム!」

「そういう問題じゃないよっ!」

 

 みのりちゃんが悪戯っぽく笑いながら、水着を結ぶ紐に手を掛けようとする。それが引っ張られて脱がされるのだけは死守しないと……! 恥ずかしいというか公序良俗的にも!

 なんてやっているうちに、

 

「……ボクが最後か。待たせちゃったね」

「あ、霜ちゃん!」

 

 最後に、霜ちゃんがやって来た。

 霜ちゃんに関しては、どんな水着で来るのか心配というか、不安があったけど、思ったより普通だ。

 ショートパンツみたいなボーイズレッグのアンダー。上は黒いTシャツの上に、薄手のパーカーを羽織っている。

 あぁ、Tシャツって手があったんだね……確かにプールでも、水着の上からTシャツやパーカーを着ている人はいるから、変じゃない。

 Tシャツの上にパーカーだと、流石に普通のお客さんっぽくはないけど……

 

「……重装備……」

「霜さんは水着じゃないんですね」

「一応、水着と言えば水着なんだけど……まあ、ボクが上半身裸だと、あらぬ誤解を受けかねないからね。変な注目を受けて君たちに迷惑をかけるわけにもいかない。この格好も少し目立つが、まだマシだろう」

「でもそれじゃあ泳げないよ?」

「いいさ、見てるだけでもそれなりに楽しいしね。それに泳ぐのは好きじゃない」

「そうなんです? 泳ぐの(シュヴィンメン)はとっても楽しいですよ!」

「そういえば、ユーちゃんは遊泳部だったね」

 

 烏ヶ森学園の七不思議のひとつ(らしい)、謎に分類された部活動。その一端を担う競泳部と遊泳部の二つ。ユーちゃんは遊泳部に入っている。

 具体的にどういう活動をしてるのかは聞いたことないからまったくわからないんだけど、遊泳って言っても泳ぐことに変わりはないはず。

 あんまりイメージがなかったけど、ユーちゃんって泳ぐの好きなのかな?

 

「ボクのことなんて気にすることじゃない。それより早く行こう。時間がもったいないよ」

 

 うーん、確かに霜ちゃんの言う通りだ。

 ユーちゃんなんてさっきからプールを見てうずうず待ちきれないと言わんばかりな感じだし、わたしもプールに入りたい。

 その気持ちはみんな同じで、異論はなかった。

 ……ところで、霜ちゃんのパーカーのポケットから出てる四角い箱っぽいものは、やっぱりプール用のお財布だよね?

 なんか、嫌な予感というか、あり得ないはずの未来を想像しちゃうなぁ……

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

Kuehl(冷たい)! Angenehm(気持ちいい)! 小鈴さん、恋さん! こっちですよー!」

「……無理……追いつけな……」

「恋ちゃん!? 沈んでる沈んでる!」

 

 プールの奥底へと沈みそうな恋ちゃんをなんとか引き上げて、プールサイドに掴ませる。。

 まずはスタンダードな、なんの仕掛けもない普通のプールで軽く水遊び――だけじゃつまらないからって、プール遊びの定番(らしい)水中鬼ごっこを始めたたんだけど……

 鬼役になったわたし恋ちゃんじゃ、ユーちゃんとみのりちゃんに追いつけなくて、まったく鬼役に変化がない。

 ユーちゃん、小柄だし華奢だから運動が得意とは思ってなかったんだけど、これが捕まえられないのです。早いというより、すばしっこい。なんとか迫って手を伸ばしても、魚みたいにスルッと抜け出されてしまう。

 というかみのりちゃんはどこ? さっきから姿が見えないんだけど。

 

「んー、水中鬼ごっこは二人には厳しかったかな?」

 

 ザブッ、とみのちやんが姿を現した。さっきまで潜水してたんだ……どうりで見つからないと思った。

 

「鬼ごっことか、冗談じゃない……死ねる……体力的に……」

「恋ちゃんも運動苦手だもんね」

「小鈴ちゃんもねー。普段のハンデは水中でも有効だったか。むしろ水中で激しく動く方が難しいかな?」

「ハンデです?」

「ほら、そこで激しく自己主張をしてる胸が――」

「みのりちゃん!」

「……こすずを激しく、動かして、お約束を発生させる、計画……」

「恋ちゃんもなに言ってるの!?」

 

 三人の視線が一気にわたしに向けられる。わたしというか、わたしの身体というか……

 そこに、パラソルを差した霜ちゃんが、プールサイドから現れる。

 

「……君たち。いくら水着だからって、ここぞとばかりに小鈴の体型をネタにするのはやめないか?」

「お約束だから……」

「今のうちにネタにしないと、小鈴ちゃん、すぐに厚着になりたがるから」

「なぜそんな食い溜めみたいな思考になる」

 

 プールサイドから霜ちゃんが溜息を漏らす。

 

「でもでも、確かに小鈴さんのおムネはMutti(お母さん)みたいです! 」

「ユ、ユーちゃん……っ!?」

 

 すると、ユーちゃんが飛び付いてきた。

 飛びついたというか、抱きついたというか……胸に、顔を埋められました。

 その、えっと、うん……恥ずかしいです。

 

「ふにゅぅ……」

 

 そしてユーちゃんはその体勢のまま、なんだか、動かなくなっちゃった?

 まるで眠りにつく赤ちゃんみたいな安らかな表情で、ずっとわたしに抱き着いている。

 あの、他の人に見られちゃいそうだし、そうじゃなくても恥ずかしいから、早くどいて欲しいんだけど……

 

「……これがバブみ……」

「小鈴ちゃんがお母さん……それはそれで」

「二人ともなに言ってるの!? ユ、ユーちゃんも離れて……っ」

「はわっ! つい気持ちよく( アンゲネーム)で……ごめんなさい、小鈴さん」

 

 ユーちゃんは我に返ったかのようにわたしから離れた。

 

「……今日はまた、一段と暑いな」

 

 そして、その一部始終を見ていた霜ちゃんは、どこか遠くを見るような目で、そんなことを言っていた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ねぇ、ユーちゃん」

「? なんです?」

「ユーちゃんって、泳ぐの好きなの?」

 

 流れるプールに浮き輪を浮かべ、流れに身を任せてゆったりとした景色と時間の流動を楽しむ。

 そんな、のんびりとした時に、ふとユーちゃんに聞いてみた。

 なんてことのない質問なんだけど、ユーちゃんが競泳部じゃなくて遊泳部に入ってるのはなんでだろうと思ったのだ。

 まあユーちゃんが競泳部って、それこそイメージできないけど、遊泳部なんてちょっと変わった部活に入った理由は、ちょっと気になってた。

 それにユーちゃんが入部したのって、学校に復帰した後だし、きっかけとか、なにかあったのかなって。

 今は泳ぐというより浮かんで流れてるだけだから、お話しするくらいしかないっていうのが本音ではあるけど、気になっていたのも事実だ。

 だから、この機会に聞いてみる。

 

「んー、どうなんでしょ?」

「え? どうなんでしょ、って……えっと、ドイツにいた頃とかは、よく泳いでたとかじゃないの?」

Nein(いいえ)。ユーちゃん、ドイツにいた頃は泳ぐいだことはなかったです。ちょっと川遊び(フルス・シュピーレン)をしたことがあるくらいで、(メーア)にも行ったことないんです」

 

 なんか今日はいつにも増してドイツ語が堪能(ドイツ人だから当たり前なんだけど)なユーちゃん。なに言ってるのかよくわからないけど、あんまり泳いだことはないみたい。

 ちょっと意外だな。元から好きだったと思ったんだけど。

 

「泳いだことがなかったのに、遊泳部に入ったの?」

Ja(はい)! ブチョーさんに勧誘(クンドシャフター)されたんです! お菓子もくれました!」

「……その人、ちょっと危なくない……?」

「? ブチョーさんは優しい人ですよ?」

「そ、そう……」

 

 なんて言ってるのかはニュアンスでしか伝わらないけど、遊泳部の部長さんは、どことなく危険な香りがするよ。

 と、わたしが遊泳部の部長さんへの危機感を募らせていると、ぽつりと、ユーちゃんが声を漏らした。 

 

「……はじめての感覚、だったんです」

「え? なにが?」

 

 小さな声だった。

 明るさではなく暗さ、騒々しさではなく静けさ。

 水面に小さな波紋を生むだけ。そんな、矮小な声が聞こえる。

 

「水の中に自分の体が全部入っちゃって、上も下も、右も左も、周りが全部水になっちゃってる感覚が、とても……心地いいんです」

 

 それは、元気溌剌ないつものユーちゃんとは、まるで違う声。

 静かで、大人しくて、儚いような言葉。

 ほんの少しだけ、“あの時”のユーちゃんと、似ている気がする。

 

「ユーちゃんは一人じゃないです。お家にはMutti(お母さん)Vati(お父さん)、ローちゃんがいます。学校に行けば小鈴さんたちがいます。だけど、水の中だと、ユーちゃんは一人なんです。(ヴァッサァ)だけの世界(ウェルト)。これが、とっても不思議(ヴンダリヒ)なんです。懐かしい(ゼーンズフト)ような気持ちになるんです。それでいて、憧れ(ゼーンズフト)みたいな心が、あるんです」

 

 やっぱり言葉はよくわからないけど、それでもユーちゃんの言葉は、わたしの中に染み込んでくる。

 詩人みたい。彼女の感性が、わたしにはよくわからなかった。言葉の一つ一つ。その意味が語学的に理解できない。それに、その言葉の真意も、わからない。

 それでも一つだけ、わかるとすれば。

 ユーちゃんはいつも元気で明るくて、無邪気に笑っているけれど、それは彼女の一面だったのかもしれない。

 彼女は、わたしたちとは違う、別の感性、感覚、もしくは世界を、持っている。

 そんな気がする。それは彼女にとって、水や泳ぐことに関係しているのかもしれない。あるいは、彼女の知らない世界、に対して、か。

 憶測というか、わたしの感覚的な考えでしかないけれど。

 前にも一瞬だけ見た気がするユーちゃんを、もう一度見れた。

 わたしが返答できずに言葉に詰まっていると、ユーちゃんはまた、二パッと笑みを見せた。

 

「でも、今日は水の中にいても小鈴さんたちがいてくれますから、いつもとちょっと違いますね!」

「……そっか」

 

 いつものユーちゃんに戻った。いや、さっきまでのユーちゃんが隠れたって言うべきなのかな。

 ユーちゃんはその笑顔のまま、思い出すように話題を切り替えた。

 

「そういえばこの前、実子さんと一緒に、ワンダーランドでデッキをカイゾーしたんですよ!」

「みのりちゃんと?」

「Ja!」

 

 なんか、珍しい組み合わせだね。

 いつか霜ちゃんといっしょにいた時みたいに、個人的に行ったらたまたま会ったとかかな?

 

「……この前、ユーちゃん、あの不思議(ゾンダァバール)な男の子に負けちゃいました」

 

 と、またユーちゃんの声のトーンが落ちる。

 でもこれは、さっきまでの不思議な感じじゃなくて、もっとわかりやすい。どんよりと、落ち込んだような声だ。

 ゾンダ……っていうのはわからないけど、この前の男の子というと……ネズミさんのこと、かな。

 帽子屋さんたちとの一件で、初めてみんなに助けられた時のことだ。

 

「ユーちゃん、とっても悔しかったんです。デュエマで負けたことじゃないですよ? デュエマは勝ったり負けたりするものですから、負けても楽しければそれでいいんです。でも……」

 

 そこでさらに、ユーちゃんの面持ちは沈んでいく。

 

「お友達の……小鈴さんの力になれたらと思ったのに、また、小鈴さんに助けられちゃいました……それが、悔しかった、です」

「ユーちゃん……」

 

 あの時は特になんともなくて、わたしはほっとしたものだけど。

 ユーちゃんは、そんな風に考えてたんだ……

 

「……ユーちゃんは、いい子だね」

「ふぇ?」

 

 ユーちゃんが目を丸くしている。

 ちょっと照れくさいけど、この際だし、静かなユーちゃんはともかく、沈んだユーちゃんは見たくない。

 

「いいんだよ、そんなに気負わなくても。わたしだって色んな失敗をしちゃうし、ユーちゃんや、みんなに助けられたことも一度や二度じゃないもん」

 

 特にあのロリコンさん――もといクリーチャーに誘拐されちゃったと時は、すごく助けられた。

 その他にも、たくさん助けられたことはある。この前のネズミさんとの一件も、その前のクリーチャー騒動はユーちゃんも力になってくれた。

 それだけじゃない。

 

「それにね、ユーちゃん。実はわたし、助け合うとかってあんまり好きじゃないんだ」

「えっ? な、なんでですか? ユーちゃん、小鈴さんにイヤなことしちゃいましたか……?」

「あ、いやいや! ごめんね、ちょっと誤解させちゃったかも。手伝ってくれるのは嬉しいし、助かるんだけど……できれば、助け合いとか、協力して困難に立ち向かうとか、そういうのがなくなればいいのに、って思ってるの」

 

 あんまり人には話したことがない、わたしの本音。

 みんないい人だから、申し訳なくてこういうことは言いたくないんだけど。

 でも、ユーちゃんには言おう。

 それが、わたしの望みだから。

 

「わたしはただ、こうしてみんなと遊んで、笑って、一緒にいたいかなって……それが一番で、友達とは、楽しく遊んで笑っていたいの」

「小鈴さん……」

「だから本当は、助け合いなんて必要がないくらい、平和で楽しい時間が過ごせればよかったんだけど……世の中、そう上手くはいかないね」

 

 それもこれも、わたしが要領悪くてどんくさいのが悪いんだけどね。

 わたし一人でなんでもできれば、みんなの力を借りなくていいし、ただ楽しく遊んでいられるんだけど。

 残念ながら、まだわたしは未熟者でダメダメだから、そういうわけにもいかないようです。

 

「わたしは、できるだけ笑っていたいの。だからユーちゃんも笑って。真面目な顔よりも、無邪気に笑ってるユーちゃんの方がユーちゃんっぽいし、可愛いよ」

「ふにゅ……」

 

 わたしがそう言うと、ユーちゃんは身体を丸めるように俯いてしまった。よく見ると、ちょっと顔が赤い。

 あ、照れてる。ユーちゃんにしては珍しい。新鮮で初々しい反応だ。こんなユーちゃんも可愛いね。

 

「実子さんみたいなこと言いますね、今日の小鈴さん……」

「え? みのりちゃん? なんでみのりちゃん?」

「実子さんとお話しすると、半分くらいは小鈴さんの可愛いところのお話になるんです」

 

 そんなこと言ってるの、みのりちゃん……まったくもう。

 

「そういえば実子さん、小鈴さんのこと……ちょっと、確認(フィアゲヴィッサン)します……小鈴さん。失礼しますね!」

「え? なに……うわっ!」

 

 突然、ユーちゃんがわたしの浮き輪の隙間に体を捻じ込ませてきた。

 いやいや、普通、浮き輪の穴は人ひとりしか入れなくて、いくら小柄で細身だからってそこに入られると非常にきついんだけど……!

 

「これは思った以上にgrosse Bruesteです……Muttiもおっきいはずなんですけど、小鈴さんはそれ以上……」

「ちょっ、ユーちゃん、そんなに引っ付かないでというか、寄りかからないで……重心が――」

 

 ――あ。

 ぐわんと、浮き輪が傾いた。というか回転した。縦に。

 横転、ひっくり返る……いや、転覆、が一番正しいかな。

 バッシャーン! と。

 わたしとユーちゃんは、二人仲良く水底に沈みました。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 浮き輪が転覆して沈んだわたしたちは、流れるプールの底で流されていたところを、みのりちゃんに引き上げてもらって救出された。

 というのもちょっと誇張表現。ユーちゃんは自力で普通に浮上してたし、わたしは沈んだときにたまたま潜水してたみのりちゃんに抱きかかえられて水面まで戻ってきただけで、流石に一人で上がってこられたよ。

 ……たぶんね。

 というかみのりちゃん、潜水好きだなぁ。

 

「なんか、疲れちゃったな……」

 

 もともと体力はあんまりないんだけど、少しはしゃぎすぎちゃったかも。

 みのりちゃんやユーちゃんはまだ流れてるし、恋ちゃんも流されてるし、ちょっと休もう。

 プールサイドに設置されてるビーチチェア? に向かって歩いてると、二つ並んだそれのの片方。霜ちゃんがパラソルの下にいた。

 

「やぁ小鈴。君も日陰者になりに来たのかい?」

「日陰者って……隣、いい?」

「勿論」

 

 霜ちゃんのOKをもらって、隣に座る。いや、経常的には寝るって表現するべきなのかな。

 って、そんなことはどうでもいいか。

 そういえば霜ちゃんにはちゃんと言っておかないといけないことがあったんだったよ。

 

「ねぇ、霜ちゃん」

「なんだい」

「……ごめんね」

「え、なに急に。なんで君が謝るんだい?」

「だって、霜ちゃんって、その……こういうとこ、来づらいかなって……」

 

 霜ちゃんは男の子だけど、女の子でもあって、その区別は簡単につけられるものじゃない。

 普段は女の子の格好をしている霜ちゃんだけど、この場ではそういうわけにもいかない。

 わたしがみんなから散々言われたように、水着っていうのは、男女の体格がはっきりと分かってしまう。

 霜ちゃんはその辺、かなり上手く工夫したみたいだけど、それでもまったくプールに入らないし、普通に服着てるように見えるし、顔立ちが女の子に見えることもあって、少し悪目立ちしてるように見える。

 男女の性差、その在り方に苦悩していた霜ちゃんに、プールという場所は酷なんじゃないか。わたしは、そう考えていたけれど、

 

「……やけに神妙に切り出すからなにかと思ったが、なんだ、そんなことか」

「そ、そんなこと?」

「プールね。確かにちょっとハードルは高いけど、この格好ならギリギリセーフだ」

「そうなんだ……」

「ボクは自分が男である自覚はある。その上で、女の子の衣服で着飾ることが好きなだけだ。まだ完全に割り切れてはいないけれど、折り合いはつけられるつもりだ」

 

 だから君が気にするようなことはなにもない、と霜ちゃんは言う。

 思ったよりもきっぱりと断言されてしまって、わたしは言葉に詰まってしまう。

 でも、そうか。霜ちゃん、あんまり気にしてないんだね。わたしの杞憂だったみたい。私は少し、霜ちゃんのことを過小評価していたのかもしれない。

 霜ちゃんは、わたしよりもずっと強い子だった。わかってた、はずなのにね。

 

「そもそもボク、学校では普通に男子更衣室で着替えてるからね? 半裸姿くらい、見るも見られるも慣れたものさ」

「そっかぁ。そういえば、女子更衣室に出入りしてたこともあったよね」

「ぐ、その話は黙っておいてくれると助かる……ボクの人生最大の汚点であり弱点だからね……!」

 

 霜ちゃんは焦ったように歯を噛みしめていた。

 汚点なのはともかく、自分で弱点って言ってるけど、いいのかな?

 この話を続けるのも霜ちゃんに悪いし、ちょっと話題を変えようか。

 

「それにしても、人が多いねぇ」

「この辺じゃ一番大きなプールだからね。夏休みだし、家族連れが多いんだろう。迷子とかもたくさん出てきそうだ」

「迷子かぁ……」

「小鈴も迷子になっちゃダメだよ」

「な、ならないよっ! もう中学生なんだから!」

「どうだろう。君は少し抜けてるからなぁ」

「そんなことは――」

 

 ないよ、と言おうとしたところで、わたしには“それ”が目に留まった。 

 わたしはほとんど無意識に、その方向へと指差した。

 

「霜ちゃん あそこ……」

「……少年が一人、立ち尽くしているね。小学生か、もしくは未就学児かもしれない。周囲に親兄弟などの姿も見えない。となるとつまり」

 

 いくつかの情報から分析する霜ちゃん。

 そして出た結論は、

 

「迷子だね」

「え? 迷子? どこどこ?」

「あ、みのりちゃん」

 

 声で気付いた。いつの間にか、三人とも戻ってきていたみたい。

 

迷子(フェアローネス・キンド)です?」

「……だったら、迷子センター直行……それですべて、片付く……」

「味気ないけど、まあ、そうだよねぇ」

「…………」

「小鈴さん?」

 

 最後に、ユーちゃんの声が聞こえたけど、もう遅い。

 その時にはもう、わたしは動き出していた。

 

「あ、小鈴……」 

「うふふ、小鈴ちゃんらしいなぁ」

 

 一直線に男の子の下へと向かう。

 他にも男の子のことに気付いている人はたくさんいる。だけど、その誰も彼に近づかない。

 それが悪いことだなんて、わたしには言えない。障らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。そんな諺がなくても、合理的に考えれば、赤の他人に与する必要もメリットもない。わたしはそれを否定はしない。

 それに恋ちゃんの言う通り、迷子センターで係の人に対応してもらう方がいいと思う。合理的って言うなら、それこそ合理だ。迷子の扱いに慣れてる人の方がいいだろうからね。

 だからこれは、純粋にわたしが“そうしたいから”するだけのワガママだ。

 男の子は浮かない面持ちで俯いている。寂しさも、恐怖も、不安も、涙といっしょに必死に堪えている。

 わたしは、男の子に目線を合わせるためにしゃがみ込む。

 

「……どうしたの?」

「…………」

「お父さんか、お母さんは?」

「…………」

「じゃあ、お兄ちゃんとか、お姉ちゃんは?」

「……わかんない……いなくなっちゃった」

「はぐれちゃったんだね」

 

 やっぱり迷子だった。

 迷子、か……

 とても不安げなこの子を、放ってはおけない。

 これ以上、孤独を感じさせてはいけない。そう思う。

 係員の人に伝えるべきだし、アナウンスもしてもらわなきゃいけないけど、そうじゃなくて。

 ……そう。

 探してあげなきゃ。

 この子の求めるものを。

 

 

 

 

 

 ――どうしたの? 迷ってしまったのかい?――

 

 

 

 

 

 …………

 わたしは振り返った。

 これはわたしのエゴだし、ワガママだし、みんなにちゃんと言っておかないといけない。

 そう、思った。

 

「みんなに迷惑はかけられないし、この子はわたし一人でなんとかするから、みんなは遊んでても――」

「なに言ってるの、小鈴ちゃん」

 

 最後まで言い切る前に、みのりちゃんに遮られた。

 そして、その後に、みんなが続く。

 

「君を一人残しておくなんて、気が気でなくて遊ぶどころじゃないよ」

「……まあ、こうなった以上は、仕方ない……」

「いっしょに探しましょう! 小鈴さん!」

 

 ……あぁ、そっか。

 あの時とは、違うんだよね。

 

 

 

 

 

 ――俺は君の探している人にはなれないけど、代わりに一緒に探して、一緒に歩いて、一緒にいてあげるよ――

 

 

 

 

 

 あの時の孤独が、不安が、恐怖が。

 今のこの時と繋がっている。

 あの時のわたしは、本当に一人で、一人でなにもできなくて、とっても弱くて。

 今のわたしは、やっぱり一人で、やっぱり弱くてダメダメだけど。

 

(一人で迷ってたあの時とは、違うんだよね――)

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 そういうわけで。

 みんなに手伝ってもらいながら、迷子探しが始まりました。

 あれ? 探すのは迷子の子の家族だから、迷子探しはおかしいかな?

 まあいいや。

 天真爛漫なユーちゃんや、優しいみのりちゃんや、(一応)同じ男の子の霜ちゃんが、迷子の相手をしてくれて、彼の不安もだいぶ紛れたみたい。

 わたし一人じゃ、こんなに上手いことはいかなかっただろうなぁ。

 みんなに感謝です。

 

「……こすず」

 

 ふと、声をかけられた。

 恋ちゃんだ。「子供と話すの、苦手……」って言って近づきたがらなかった恋ちゃんだ。

 

「どうしたの?」

「どうして……迷子の親、なんて探すの……?」

「なんでって……」

「係員に任せた方が、効率的……なのに……」

「えっと……」

 

 もしかして、迷子探ししようとしたの、怒ってるのかな?

 でも確かに、わたしたちで歩き回って探すより、迷子センターに預けてアナウンスしてもらう方が、絶対に合理的なんだよね……いや、今も迷子センターに向かってるんだけど。

 と思ったけど、どうやらそうじゃないみたい。

 

「別に、責めてない……ただ、気になる……というか、理解、できない……」

「理解できない、かな」

「私は、人の善行が偽善だなんて、思わない……でも、善いことをする。それが当たり前っていう感覚が、よくわからない……悪いことをしないのは、わかる。悪行は混沌を生む、秩序を乱すから、理解できる……でも、善行はしてもしなくても、影響はない。なのに、なんで……?」

 

 なんだか難しいことを言われてる気がする。

 善行。

 そんな風に直球で言われると、少し恥ずかしいんだけど、そんなつもりはあんまりないんだよね。

 それでも、それをそうだとして、わたしの行動をわたしなりに分析して説明するとしたら、そうだなぁ……

 

「……ほっとけないから、かな」

「ほっとけない……?」

「わたしも迷子になったことがあってね、小学生の頃。その時に助けてもらった人がいるの」

「……だから……?」

「なのかなぁ。自分でもよくわからないけど、あの子を見た時、ふと昔の自分を思い出した気はしたよ」

 

 それに、“あの人”の言葉もね。

 文字通り迷っていたわたしに、そのまんまの意味で道を示してくれた、あの人。

 

「一人で、右も左も分からなくて、どこに向かえばいいのかも不明確で、誰がどこにいるのかも不明瞭で、自分がすべきことも理解できなくて、動けなくて、動かなきゃいけなくて……そんな悩みや葛藤に苛まれる。そういう経験はわたしにもあるし、その苦しさもわかる」

 

 人が苦しむ姿なんて、見ていたくないからね。

 結局は自分のため、わたしのエゴみたいなもの。

 助けたいから助ける、というよりは、助けないとわたしが嫌な思いをするから助ける、って感じかも。

 そう考えると、わたしもあんまり善人とは言えないかな? 恋ちゃんはそれを否定したけど、偽善と言われても仕方ないかも。

 

「……こすずは、お人好し……誰かさん、みたい」

「誰かさん? 誰?」

「……さぁ」

 

 適当にはぐらかされた。わたしも知ってる誰かっぽいけど、誰だろう。

 

「自分じゃなくてもいい、誰でもいい……絶対に必要じゃない、いずれ解決される……自分の力が必要とは限らない、助力無用でもなんとかなる……なのに、手を差し伸べる……わたしには、ちょっと、理解できない、かも……自分には、関係、ないし……」

「こうして出会って目に見えちゃったら、それはもう、無関係とは言えないんじゃない?」

「……無関係だし。そんなこと、言ってたら……全人類、無関係な人間なんて、いなくなる……」

「それは飛躍しすぎだよ」

「目に映る人間を、全員救う……そんなの、夢物語……」

 

 あぅ。

 そう言われちゃうと、確かにその通りなんだけどね。

 

「……ごめん」

「い、いいよ。気にしないで」

「ん……でも、やっぱり、難しい……他人の不幸は蜜の味、っていうのはわかる、けど……他人の不幸が嫌って、逆に、苦しそう……」

「そうかな。嫌な思いをしている人を見るのって、嫌じゃない?」

「胸糞悪いことは、ある……けど、実行に移すかは、別問題……」

「そうかなぁ。そんなことないと思うけど」

「……それを、平然と言える……ってことが、既にお人好しの思考……ちょっと、呆れた」

「えー、酷いよ恋ちゃん」

「でも……そんな、こすずは、嫌いじゃない……かも」

「恋ちゃん……えへへ、ありがとう」

「……むぅ」

 

 言わなきゃよかった……なんて言ってそっぽを向く恋ちゃん。

 うーん、恋ちゃんもなかなかどうして、素直なのかそうじゃないのか、よくわからないね。

 と、その時。

 

 

 

「あー!」

 

 

 

 大きな声が、鼓膜を震わせた。

 ユーちゃんや、霜ちゃんや、みのりちゃんの声じゃない。男の子の声でもない。

 正面から聞こえた、女声。

 顔を上げると、そこには。

 幾人もの子供たち、そして、女の人が、こちらを指さしていた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「あー! 見つけた!」

 

 子連れの女の人が、こっちを――というか男の子を指さしている。

 そして男の子の表情も、女の人を見るなり、パァッと明るくなった。

 

「おねえちゃん!」

「ったく、だからあれほど周りを見て遊べっつったろうが! みんな心配したんだかんなこの野郎!」

 

 男の子がパタパタと女の人へと走っていく。そして女の人はその子を抱きとめた。

 この人が、男の子の保護者の人かな? 髪をざっくばらんに切り落としたような、スッキリとしたショートヘアの、とても若い女の人だ。

 というか、若すぎじゃない……? 流石にわたしたちと同じって感じはしないけど、大人、なのかな……? 高校生? いや、大学生くらい、に見える、かな? 若々しい風貌は二十代前後って感じだ。

 後ろには、男の子、女の子。小学校低学年くらいから、幼稚園児くらいまでの子供がたくさんいる。

 お姉ちゃんって言ってたし、この人が、この子のお姉さんなんだろうけど、こんなに大姉弟なんだ。すごいや。

 お姉さんはわたしたちを見るなり、慌ててこっちに来て、頭を下げた。

 

「すんません、ウチの弟が迷惑かけたみたいで!」

「い、いえ、気にしないでください。それより、見つかって良かったです」

「えぇ、本当にその通りで。感謝してます……って、ん?」

 

 突然、平謝りしていたお姉さんが、わたしの顔をマジマジと見つめる。

 な、なに? わたしの顔に、なにかついてる?

 

「アンタ、どっかで見たような……」

「え? ひ、人違いじゃないですか?」

 

 少なくともわたしは、この人のことは知らないし、初めて出会ったと思うんだけど。

 だけど女の人は、そうは思っていないようで、うんうんと唸りながら、考え込んでいる。

 水底に沈んだ記憶を、掘り起こすように。そしてそれを、解析するように。

 

「うーん、どこで見たんだっけなぁ。んにゃ、実物を見たって言うより、特徴を人づてで聞き及んでいるみたいな、その要素だけが頭ん中にあって知ってるみてーな感じ……あぁ!」

 

 バッと顔を上げるお姉さん。どうやら、思い出したみたい。

 それより、人づてに特徴を聞くとか、要素だけ知ってるとか、どういうことなんだろう?

 と、思っていると――

 

 

 

「アンタ、帽子屋のダンナが付け回してるガキ(アリス)じゃん!」

 

 

 

 ――ちょっと予想だにしない言葉が、飛んできました。 

 

 

「ぼうし、や、って……えぇ!?」

 

 思いもしなかった名前が出て来て、驚きのあまり、思わず声を荒げてしまう。

 確かにこの人は、帽子屋、と言った。

 わたしの知る中で、帽子屋っていったら、あの人しかいない。

 ということは。

 

「ま、まさか……!?」

「おいおいマジかよ。今日は完全オフのつもりだってのに、こんな時にバッタリ遭遇とかシャレになんねーっての」

 

 よくわかんないけど、帽子屋さんの関係者ってことは、たぶんこの人は、アレだよね。

 【不思議な国の住人】を自称する、ストー――もとい、不思議な人たち。

 兄弟姉妹を連れてやって来たのは、前回の蟲のお姉さんお兄さんたちと同じだから驚かないけど、姉弟がたくさんいるのは驚いたよ。それにちっちゃい。可愛い。

 

「奇縁ってやつかねぇ。いや、言葉の意味が正確じゃねー気がするが。なんにせよ、この因果律は望んでねーぞ」

 

 ガシガシと粗野な挙動で、髪を掻き毟るお姉さん。

 さっきまでの気さくそうなお姉さんの表情は、不機嫌で、不満げで、敵意が剥き出しの険しいものへと変貌していた。

 

「望まないならお互い不干渉、ってわけにもいかねーよなぁ。聖獣の存在は、ワタシとしても無視できねーし、因縁つけとく価値はあるわけだしなぁ」

 

 それでも、お姉さんはギリギリまで迷うように、ぶつぶつよ一人でなにか呟いている。

 そして、

 

「ワタシ個人の惰性に幸楽と、一団としての将来と役割、ってとこか。クソが、んなもん天秤にかけるまでもなく、決めつけられてんじゃねーか」

 

 最後には投げやりな感じで、吐き捨てた。

 

「悪いなお前ら、ダンナのために一仕事しなきゃならんようだ」

 

 お姉さんは後ろで控えている、小さな弟妹たちに言った。小さな彼らは、わかっていると言わんばかりに、コクリと頷く。

 そしてお姉さんは、やっとわたしたちへと向き直る。

 

「ウチの弟が世話になったな」

「え? あぁ、はい……」

「それについては感謝する。だが、それはそれ。帽子屋のダンナへの恩義っつーか、義理っつーか……まあ、通さなきゃなんねぇ筋があるんだよ、こっちにもな」

 

 どことなく、不承不承といった風だけど、それでもお姉さんの敵意はそのまま。

 いや、それは敵意というよりも、義務感のように感じられた。

 そうすべきである、そうしなければならない、といった、責任感のようなもの。

 

「とはいえ、ダンナの指令だけで有給を無駄にするのも腑に落ちねぇ。だからもうちっとばかし、因縁つけてやろうか。ワタシが動くだけの理由付けをな」

「理由……?」

 

 お姉さんはそう言って、わたしに視線を合わせる。

 上から下まで、じっとりとした目で眺めて、一声。

 

「初見でも自分の目を疑ったモンだが、やっぱそいつはヤバいな。AV女優みてーなカラダの女は、ウチの弟妹(ガキ)の健全な成長に悪影響だ」

「えーぶ……って……!」

 

 顔に熱が集まる。

 な、な……こ、このお姉さん、今、なんて……!?

 

「ちょっとちょっと! 黙って聞いてれば、小鈴ちゃんになんてことを!」

「そうですよ! 小鈴さんのおムネはユーちゃんのMuttiよりもふわふわもっちりなんですから!」

「ちょ、ユ、ユーちゃん、やめて……!」

「事実だろ。なんだよ、ガキの癖にその異様にデカい二つの肉塊は。見せつけすぎだっての」

「だからいいんでしょ!」

「みのりちゃんもやめてよ……」

 

 わたしの介入できない世界で、わたしの風評が流されてるんだけど……誰か止めてくれないかな……?

 なんて思っても、当然ながら止めてくれる人がいるわけもありません。

 それにしても、やっぱり、気にしてることをこうズバズバと言われると……やっぱり、へこむね……恥ずかしいし……

 恥ずかしさで熱を帯びつつも意気消沈しているわたしとは違って、ひたすらヒートアップしていくみのりちゃんとユーちゃん。

 二人は怒っているようだった。わたしのため、だなんて自惚れるのもどうかなって思うけど、その怒り方はちょっとどうなのかな?

 

「これは許せないよ。私も怒るよ!」

「そうですそうです! ユーちゃんもプンプンです!」

「そうだよね! よし、ユーリアさん! やっちゃいなさい!」

了解です(アインフェアシュタンデン)!」

 

 そしてその勢いのまま、ユーちゃんはごくごく自然な流れで、フックに付けられた箱からデッキを取り出した。

 ……え? なんでデッキ持ってるの?

 

「いいぜ、やるか? 『ヤングオイスターズ』の長女として、相手してやる」

「『ヤングオイスターズ』?」

「……それに……長女って……」

「あ、ヤベ。まだ名乗ってなかったな。オンの時間は名乗りを上げるのが童話的演出とかなんとか、チョウの姐御がなんか言ってたっけな」

 

 わたしの疑問に答えてくれそうな人は皆無。そして、その戸惑いの中で、お姉さんは名乗りを上げる。

 

「そう、ワタシは……いんや。ワタシたちは、ご存じ【不思議の国の住人】が一人、あるいは一種。その名は『ヤングオイスターズ』。発展途上な哀れな牡蠣(カキ)たちだよ」

 

 自嘲的に名乗るお姉さんの名前は――『ヤングオイスターズ』?

 複数形の名前。お姉さんも、ワタシたちとか、一人ではなく一種とか……なんだか、今までの人たちとは、ちょっと違う感じだ

 

「なんか気になるね。『ヤングオイスターズ』とやら。あなたが長女ってことは、弟妹も同じく【不思議な国の住人】とやらなんだろうけど、彼らはなんなんだ?」

「ワタシの弟と妹だ。そんでもって、ワタシであり、ワタシたちだよ」

「は……? 意味不明……」

「ま、すぐに理解しろつっても難しいわな。ワタシたちは、【不思議な国の住人】の中でもいっとう特殊な固体……いや、群だからな」

 

 群。群れ。個人ではなく、集団。

 そんなカテゴライズは、ちょっと聞き慣れないというか、よくわからない。どういうことなんだろう。

 当たり前のようにデッキを取り出したことと一緒に尋ねたい。

 

「ワタシたち兄弟姉妹は、そのすべてが『ヤングオイスターズ』という群としての名前を持つ。それがワタシたちという存在だ。だが見ての通り、ワタシたちは兄弟であり姉妹、兄がいて、弟がいて、姉がいて、妹がいる。その中で一番年上なのがワタシという個である、ってだけだ」

「『ヤングオイスターズ』は種族の名前であり、個人の名前ではない、ってことか?」

「残念ながらそういうわけでもねぇ。ワタシたちはな、“個が群であり、群が個”なんだよ。個人と群を明確に区別しない。すべきではないのさ」

 

 個が群であり、群が個?

 な、なにを言っているの……?

 今まで【不思議の国の住人】の人たちは、一様におかしなことを口走っていたけれど、その中でもこの人は、言ってることが本当に意味不明だ。

 帽子屋さんくらいに理解不能。だけど、あの人とは違って、狂ってるとか歪んでるって感じはしない。

 なんていうか、そう。

 ただただ“わたしたちとは程遠い存在”という感覚だ。

 

「……複数の固体が群になることで、その群が一固体として認識される、ってことかな。なんかそんな生物がいた気がするな」

「人をオモシロ生物みたいに言うな。んなわかりやすいもんじゃないっての。ま、深刻に考えるようなことでもねーし、結論だけで言えば個体は固体って感じなんだが……なんにせよ、だ。弟たちは見ての通りまだ幼いんで、思考能力がもっとも発達した長女たるワタシが、『ヤングオイスターズ』という存在の司令塔役を買って出てるってだけだ。こいつらの保護者ってことだな!」

 

 ざっくばらんにまとめる、ヤングオイスターズのお姉さん。

 わたしたちの疑問は解消されないままだけど、きっとこのまま言葉を積み上げ続けても、理解できる気はしない。

 わたしたちが、わたしたちの常識で縛られている限り、彼女の異質すぎる在り方は、理解できない。そんな気がする。

 

「そんなことは、どーでもいいです! ユーちゃん、小鈴さんにひどいこと言うのは許せないです!」

「はんっ、知ったことか。弟のエスコートには感謝するがな、その天秤のもう片方には、ダンナへの義理とエロい身体の悪影響が乗っかってんだ。どっちが重いかは明白だぜ」

「やっぱり和解は無理だね。ユーリアさん、武力行使で黙らせる、いやさ謝らせるしかないよ!」

「いいぜ上等! ムカついた時にはスカッとこれだよな! わかりやすく白黒つけようや!」

 

 浮き沈みが激しい。

 さっきまで、どことなく暗い水底のような空気を発していたお姉さんの雰囲気は一変して、熱く、迸るような気勢を発している。

 その加熱と冷却の温度差にも困惑するけど、なにより、なにもしてないはずなのに、わたし自身が話題の中心にいることは、わたしは腑に落ちないんだけど。

 とはいえ、わたしがいくら不平不満を述べようとも、それはきっと無意味で、その抵抗は無為のまま、ユーちゃんと『ヤングオイスターズ』の長女と名乗るお姉さんの、デュエマが始まるのです。

 ここ、プールなのにね。

 もはや思考を放棄したわたしの耳に、とてもやる気満々なお姉さんの声が届く。

 

「そんじゃあ案内するぜ、不思議に世界によ――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ユーちゃんのターンです! 《龍装者 ジバル84号》をマナチャージして、2マナで《一撃奪取 ブラッドレイン》! 召喚(フォーラドゥング)です! Ende!」

「ワタシのターンだ! 《第4新都市 ウツボイド》をチャージする! 2マナで《一番隊 ザエッサ》を召喚するぜ! これでターンエンドだ!」

 

 

 

ターン2

 

ユー

場:《一撃奪取 ブラッドレイン》

盾:5

マナ:2

手札:3

墓地:0

山札:29

 

 

ヤングオイスターズ(長女)

場:《ザエッサ》

盾:5

マナ:2

手札:4

墓地:0

山札:28

 

 

 

 相手のおねーさんデッキは水文明。そしてユーちゃんは、いつもみたいに闇文明も使ってますけど、今日は一味違いますよ!

 

「ユーちゃんのターンですね! 《クロック》をマナチャージです! そして、3マナで《サイバー・チューン》を唱えます! 三枚引いて、二枚を墓地(フリートホーフ)へ! Ende、です!」

 

 今日のデッキは、闇文明だけじゃなくて、水文明も入れてますよ。

 手札を入れ替えて、カードを墓地に捨てます。

 

「行くぜ、ワタシのターン! 《ザエッサ》の能力で、ワタシのムートピアの召喚コストを1軽減! 1マナで二体目の《ザエッサ》を召喚!」

「コストを下げるクリーチャーが二体ってことは、コストが2も下がるんですか!?」

「おうよ。しかも、アンタの《一撃奪取》と違って、《一番隊》のコスト軽減は永続する! つまり、続けて出すクリーチャーもコスト軽減って寸法よ! 2マナ軽減、1マナで《貝獣 ホーラン》を召喚だ! 能力で一枚ドロー! 続けて1マナで《異端流し オニカマス》を召喚! これでターンエンドだ」

 

 い、1ターンで三体も出てきちゃいました! あぅ、す、すごいです……!

 

 

 

ターン3

 

ユー

場:《一撃奪取 ブラッドレイン》

盾:5

マナ:3

手札:3

墓地:3

山札:25

 

 

ヤングオイスターズ(長女)

場:《ザエッサ》×2《ホーラン》《オニカマス》

盾:5

マナ:3

手札:2

墓地:0

山札:26

 

 

 

「たくさん出てきちゃいました……でも!」

 

 バトルゾーンを見るだけで、ユーちゃんがピンチなのは明白です。

 こんなに早くに、ここまでクリーチャーの数に差がついてたら、とても苦しいです。

 だけど、ユーちゃんには諦めませんよ!

 まだまだ、ここからです!

 

「ユーちゃんも、ここからすごいことやっちゃいますよ! 《デス・ゲート》をチャージ!」

 

 これで4マナです!

 マナは溜まったので、ここから見せちゃいます!

 ユーちゃんの必殺技です!

 マナをすべてタップして、《ブラッドレイン》の上に重ねて、出します。

 

「《ブラッドレイン》を進化(エヴォルツィオン)! 《悪魔龍王 ロックダウン》です!」

「なーにが出るかと思えば、ふっつーの進化クリーチャーだなぁ」

「そんなことないですよ! このクリーチャーはすごいんですから! 《ロックダウン》の能力で、《ザエッサ》のパワーを6000下げます!」

「パワー0以下になった《ザエッサ》は破壊されるが、それだけ――」

「それだけじゃありません! 《ロックダウン》で攻撃(アングリフ)――する時に!」

 

 《ロックダウン》をタップして攻撃と言いましたが。すぐにその攻撃の流れを止めます。

 そして、攻撃中のクリーチャーを、“手札に戻します”!

 

「革命チェンジです!」

「あん!?」

 

 えっへん! これがユーちゃんの新しい必殺技ですよ!

 ……実子さんに教えてもらったんですけどね。

 攻撃しているクリーチャーと、手札のクリーチャーを入れ替える革命チェンジ。今は《ロックダウン》の攻撃中なので、その《ロックダウン》がユーちゃんの手札に戻って、手札から出しますよ、新しいクリーチャー!

 ユーちゃんの新しい切り札、そのうちの一枚です!

 

「コスト5以上の水か闇のドラゴンが攻撃したので、革命チェンジ! 出て来てください!」

 

 手札に戻した《ロックダン》と、入れ替わるようにして、バトルゾーンへ!

 

 

 

Das ist "Beweis des Teufels"(これが「悪魔の証明」です)――《完璧問題 オーパーツ》!」

 

 

 

 《ロックダウン》が革命チェンジして、手札からより大きなドラゴンの登場です!

 ……ドラゴンなのかは、わかりませんけど。

 大きなロボットに見える気がしますけど、ドラゴンらしいので、ドラゴンということにします!

 

「おぉぅ、《オーパーツ》と来たか……! これはまずいぜ」

「《オーパーツ》の能力発動です! まずはカードを二枚引いて、おねーさんの手札か場のカードを合わせて二枚、選んでください! 選んだカードを山札送りです!」

「くっ、しゃーなしか。手札一枚と《ホーラン》を山札に戻す……だが、ただじゃやられないぜ。《オニカマス》の能力で、相手が自身のターンに召喚以外の方法でクリーチャーを出した時、そいつを手札に戻せる! そら、戻りやがれ!」

 

 《オニカマス》の能力で、《オーパーツ》は手札に戻されちゃいました。

 残念です、せっかく出したのに……

 

「どうだ、これが革命チェンジ殺し、《オニカマス》の力だ! 露骨なメタカードはダテじゃないぜ! 不正は許さねーよ!」

「うー、でも、これはしょうがないです。Ende……」

 

 ユーちゃんの場からクリーチャーがいなくなっちゃいました。

 でも《オーパーツ》でドローできましたし、相手クリーチャーも、手札も減らせました。

 まだまだがんばれますよっ。

 

「ワタシのターン! さて、クリーチャー数では勝ってるし、相手は革命チェンジ主体のデッキ。《オニカマス》で牽制はできるが、アド差が結構痛いな。ここはしゃーなしで、《アーヤコーヤ》をチャージだ。3マナで呪文《ストリーミング・シェイパー》を詠唱! 山札を四枚めくるぜ!」

 

 おねーさんが表向きにした山札は、《一番隊 ザエッサ》《貝獣 ホーラン》《終末の時計 ザ・クロック》《貝獣 ホタッテ》の四枚。

 

「全部水のカードだから、すべて手札に加えるぜ!」

 

 水文明だけのデッキなので、青いカードばっかりです。だからこの結果は、当然ですね。

 

 

 

ターン4

 

ユー

場:なし

盾:5

マナ:4

手札:6

墓地:3

山札:22

 

 

ヤングオイスターズ(長女)

場:《ザエッサ》《オニカマス》

盾:5

マナ:4

手札:4

墓地:2

山札:23

 

 

 

 とは言ったものの、せっかく手札を減らしたのに、たくさん増やされちゃいました……

 《オニカマス》がいる限り、ユーちゃんは革命チェンジができないです。やってもすぐに手札に戻されちゃいます。

 それに《ロックダウン》を出すには進化元が必要なので、ここはなにもできないです……

 

「ユーちゃんのターンです。《【問2】 ノロン⤴》を召喚です。二枚引いて、二枚捨てます。それから、2マナで《虹彩奪取(レインボーダッシュ) マイレイン》も召喚します。これでEndeです」

「ワタシのターン、ドロー……お? これはキレイに繋がりそうだなぁ……とりまこいつだ! マナチャージなし! 《ザエッサ》でコスト軽減、1マナで《ザエッサ》を召喚!」

「またですか!?」

「あぁ、まただぜ! さらに《ホーラン》召喚、一枚ドロー!」

 

 この流れは、最初と同じ動きです。

 コストを軽減するクリーチャーを出して、コストの下がったクリーチャーを何体も召喚する。

 でも、さっきと同じなら、《ロックダウン》からの《オーパーツ》で対処できるはずですよね。

 《オニカマス》は手札に戻しちゃうだけですから、能力はまた使えます。そうすれば手札も増えますし、なんとかなるはずです。

 って思ってましたけど、それは相手のおねーさんもわかってるはずです。それでも、おねーさんは勝ち気な表情を見せてます。

 それどころか

 

「……いいドローだ。はっ、笑いが止まらねぇぜ!」

 

 すごく、笑ってます。

 そんなにいいカードを引いたのでしょうか? でも、おねーさんはもうあと2マナしかありません。《ザエッサ》が二体いても、4マナまでのクリーチャーしか出せないはずです。

 4マナのクリーチャーならそんなに怖くないと思います。たった2マナなら、大丈夫だと、思うんですけど……嫌な予感がします。

 もしかして、この状況で使える切り札を、引いたのでしょうか?

 

「こいつがワタシの必殺の切り札だ! 《貝獣 ホタッテ》を通常召喚! そして、これでワタシのムートピアの数が五体だ!」

 

 そう言われて、改めておねーさんのクリーチャーを数えます。

 《ザエッサ》が二体、《オニカマス》《ホーラン》《ホタッテ》が一体ずつ。全部、種族はムートピアで、確かに合計で五体います。

 お姉さんマナは残り1マナ。それで、どうやって切り札を出すんでしょう。

 ユーちゃんがそれを考えていると、おねーさんは手札を一枚抜き取って、急に、冷淡な声を響かせます。

 

「ワタシたちは個にして群、群にして個。(ワタシ)ワタシ()であり、(ワタシ)ワタシ()であり、弟妹(ワタシたち)ワタシたち(弟妹)である」

「……?」

「だが! こいつは、こいつだけは! ワタシを“ワタシたち”ではないワタシにする! さぁ、よーく見とけ。これが――“ワタシ”だ!」

 

 かと思ったら、今度は沸騰したみたいに熱く、煮えたぎるようなセリフを告げました。

 その後に、おねーさんは一枚のカードを、掲げます。

 

 

 

「来い――《I am》!」

 

 

 

 それは、クリーチャーでした。シルクハットをかぶって、悪魔のような羽の生えた、人型のクリーチャー。

 なんだか、あの人型、見たことある気がします。学校の、緑色の光ってるところとかにあるヤツです。

 もちろん、デュエマのカードなので、クリーチャーなわけですけど。

 

「こいつはワタシの場にムートピアが五体以上存在する時、タダで召喚できる!」

「えぇ!? コスト9のクリーチャーなのに、ですか!?」

「おうよ。だが代わりに、この方法で出したら、ワタシの進化でないクリーチャーはすべて手札に戻っちまう。それはこの《I am》も例外じゃねぇ……だーから!」

 

 お姉さんはそのカードを、場のクリーチャーの上に、叩きつけるようにして重ねました。

 

「NEO進化! 《ホーラン》を《I am》に進化させるぜ!」

「!」

「これで《I am》は場に残る! 他のワタシのクリーチャーは、全部手札に戻ってこい!」

「クリーチャーが一体だけに……」

 

 コスト9、パワー15000の大型クリーチャーがタダで出たけど、その代償は決して小さくありません。

 お姉さんは、《I am》以外のクリーチャーを失ってしまったのだから。あれだけクリーチャーを出したのに、それを一体のクリーチャーのために消費しました。

 これは、逆にチャンスなんじゃないでしょうか……?

 

「そいつはどうかね、まだ終わっちゃいねーぜ。ワタシにはまだ、マナが残ってる」

「1マナしか残ってないですけど……」

「それだけあれば十分! そら、手札の《ザエッサ》二枚を捨てて、《神出鬼没 ピットデル》を召喚だ!」

「ふにゅっ!?」

 

 こ、これは驚きましたよ!

 手札を二枚捨てて、マナコストを支払わず、クリーチャーが出て来るなんて……!

 

「面白いだろ? 《ピットデル》はコストを払う代わりに、手札の水のカード二枚を捨てれば、召喚できるんだ」

 

 手札二枚を召喚コストの代わりにするなんて、そんなクリーチャーがいるんですね……

 でも《ピットデル》は、たったパワー2000のブロッカー。攻撃もできるとはいえ、そんなに強いとは思えませんが……?

 

「そして1マナ! 《貝獣 ホタッテ》を召喚! 《ピットデル》からNEO進化だ!」

「あ……」

 

 あのクリーチャー、さっき召喚したクリーチャーです。NEO進化できるクリーチャーだったんですね。

 それが、《I am》を召喚して手札に戻ってきたから、最初は普通のクリーチャーとして出したのを、今度はNEO進化クリーチャーとして召喚する。

 つまり、このターン中に攻撃できるようになるってことです。

 

「これだ打点は揃った、攻撃だ! 《I am》で攻撃! 《I am》はNEO進化クリーチャーの時、パワーがプラス10000され、ワールド・ブレイカーになる!」

「わ、ワールド……!?」

「アンタの盾を、一撃で全部ぶっ飛ばすって意味だよ! そうら、吹き飛べ!」

 

 ワールド・ブレイク、とおねーさんが叫びます。

 すると、ユーちゃんのシールドが、一度に全部、ブレイクされてしまいました。

 あっという間にシールドゼロです。

 

「こいつでとどめだ! 《ホタッテ》でダイレクト――」

「ま、待ったですよ! S・トリガー《地獄門デス・ゲート》です! 《ホタッテ》を破壊!」

「……ちっ、止められたか。まあトリガーの一枚や二枚は想定内だけどな。ターンエンド」

 

 

 

ターン5

 

ユー

場:《マイレイン》《ノロン⤴》

盾:0

マナ:5

手札:8

墓地:6

山札:19

 

 

ヤングオイスターズ(長女)

場:《I am》

盾:5

マナ:4

手札:2

墓地:6

山札:21

 

 

 

 あ、危なかったです……!

 S・トリガーが出なければ、ダイレクトアタックされちゃうところでした。

 本当なら《デス・ゲート》で墓地のクリーチャーを復活させたかったところですが、破壊したのがコスト1のクリーチャーでは、復活させるクリーチャーがいないです。しょうがないのです。

 それより問題なのは、おねーさんの切り札です。

 

「パワー25000のNEO進化クリーチャー、《I am》。ワタシの手札は二枚。《ロックダウン》や《オーパーツ》じゃ《I am》は退かせないぜ? さぁ、どーする?」

「…………」

 

 確かに、パワー25000もあったら、バトルでは勝てないです。バトル大好きな小鈴さんでも倒せないと思います。

 パワーを下げても、《ロックダウン》で下げられるのは6000なので、19000です。《オーパーツ》に革命チェンジしても倒せません。

 《オーパーツ》で山札の下に送れればいいんですけど、おねーさんの手札は二枚なので《オーパーツ》を出しても、たぶん、その手札を山札の下に送ります。

 バトルでも、《ロックダウン》でも、《オーパーツ》でも、確かに倒せません。

 でも、だけど。

 あのクリーチャーを破壊するのは――

 

「――簡単(アインファッハ)、ですよ?」

「あん?」

 

 Einfach……簡単なんです。

 相手の切り札を倒す、なんてことは。

 

「そーゆーの、ユーちゃん得意なんです! マナチャージして、《マイレイン》でコストを下げて1マナ! 《ブラッドレイン》を召喚です! そして、5マナで《ノロン⤴》を《ロックダウン》に進化! Ich……じゃないです、《I am》のパワーを下げます!」

 

 さあ、《I am》を倒す準備です。

 まずは《ロックダウン》に出て来てもらいます。これだけで、ほとんど準備は終わりなんですけど。

 後は、攻めるだけです!

 

「《ロックダウン》で《I am》を攻撃――する時に!」

「《オーパーツ》か? 無駄だぜ、パワーが違いすぎる! そんなに殴り合いたけりゃ、《ロックダウン》を三体引っ張って来るんだな!」

 

 おねーさんがそう叫びますけど、ちょっと勘違いしてるみたいです。

 

「殴り合いなんて……そんなランボーなこと、しませんよ?」

「え?」

「このクリーチャーは、ユーちゃんの“コスト5以上の闇のコマンド”の攻撃で、革命チェンジします!」

「闇のコマンドって、おいまさか……!?」

 

 《ロックダウン》はドラゴンですけど、デーモン・“コマンド”・ドラゴン。種族にコマンドも持ってます。

 その、コマンドを条件にした革命チェンジ。それは――

 

 

 

Ein einsamer Wolf bellt in der Dunkelheit(孤高の狼は暗闇の中で咆える)――Ich bitte dir(お願いします)! 《Kの反逆 キル・ザ・ボロフ》!」

 

 

 

 真っ黒な狼。

 硬い拳 を握る、ボクサーのようなクリーチャーです。

 悪魔には悪魔です! これが、ユーちゃんの新しい切り札ですよ!

 

「《キル・ザ・ボロフ》の能力で、ユーちゃんの墓地から《マイレイン》を山札の下に戻します。そうしたら、相手クリーチャーを一体破壊です! 《I am》を破壊!」

「ふっつーに破壊されたし……参ったぜ」

 

 パワーで勝てないなら、そのまま破壊しちゃえばいーんです!

 ユーちゃんの闇文明のカードなら、そのくらいカンタンにできちゃいます。

 

「Ende! おねーさんのターンですよ」

 

 攻撃先の《I am》が破壊されていなくなっちゃったので、《キル・ザ・ボロフ》の攻撃は終わりです。

 おねーさんは手札がほとんどないので、ここはシールドをブレイクしたくないです。

 

「……《オニカマス》を二体召喚だ。ターンエンド……」

 

 

 

ターン6

 

ユー

場:《マイレイン》《ブラッドレイン》《キル・ザ・ボロフ》

盾:0

マナ:6

手札:7

墓地:5

山札:19

 

 

ヤングオイスターズ(長女)

場:《オニカマス》×2

盾:5

マナ:5

手札:0

墓地:8

山札:20

 

 

 

 予想通り、おねーさんは《オニカマス》しか召喚できませんでした。

 革命チェンジができなくなりましたが、大丈夫です。

 革命チェンジしても手札に戻されちゃうなら、手札に戻されない方法で出せばいいだけですから。

 

「《マイレイン》と《ブラッドレイン》でコストを2軽減! 6マナで《完璧問題 オーパーツ》を召喚!」

「普通に出しやがった……素出しするだけのオツムはあんのか、このシルバーガイジン……」

「能力で二枚ドロー! カードを二枚、山札に戻してください!」

「《オニカマス》しかいねーよ! こっちが選ぶからアンタッチャブルも無意味だしよぉ……!」

「では、これでEndeです!」

「完全にワンショット狙いか……《クロック》ないと詰みだが、逆に言えば、《クロック》さえ引けば勝てるってことだな」

 

 そうなんですよね……

 ユーちゃんはシールドが一枚もないので、一回でも攻撃を受けたら負けちゃいます。

 このデッキにブロッカーはいません。なので、もしも《クロック》が出てしまったら、ユーちゃんの負けです。

 だからもう《クロック》が出ないことを願ってます。

 

「とか言いながら《クロック》召喚だよ! そっちの引くじゃねーよ、ふざけんな! ターンエンドだ!」

 

 

 

ターン7

 

ユー

場:《マイレイン》《ブラッドレイン》《キル・ザ・ボロフ》《オーパーツ》

盾:0

マナ:7

手札:8

墓地:5

山札:16

 

 

ヤングオイスターズ(長女)

場:《クロック》

盾:5

マナ:5

手札:0

墓地:8

山札:21

 

 

 

 ……出ないことを祈りましたが、出ちゃましたね。でも、トリガーで出ないなら大丈夫です。

 それに、もう攻撃してもいいと思うんです。そろそろ、ユーちゃんも攻めますよ。

 

「2マナで《ノロン⤴》を召喚です。二枚引いて二枚捨てて……残り6マナで、《ノロン⤴》を進化!」

 

 今いるクリーチャーだけでも、シールドはすべてブレイクしてダイレクトアタックもできますけど、《クロック》じゃないトリガーがあるかもしれません。

 それに、なにより、このクリーチャーを出さないと、って思います。

 《オーパーツ》も《キル・ザ・ボロフ》も切り札ですけど、これも、忘れちゃダメですよ!

 

 

 

Die Boeseauge der Dunkelheit werden dich toeten(闇の邪眼があなたを殺す)――Ich bitte dir(お願いします)! 《悪魔龍王 キラー・ザ・キル》!」

 

 

 

 これで、Tブレイカーが一体増えました。

 それだけじゃありません。

 

「《キラー・ザ・キル》の能力で、《クロック》を破壊です!」

「盤面掃除にダメ押しの三打点かよ……オーバーキルだっての」

「さぁ、行きますよー! 《キラー・ザ・キル》でTブレイクです!」

 

 これだけクリーチャーがいれば、ちょっとやそっとのS・トリガーが出ても大丈夫です!

 一気に攻めますよ!

 

「ちっ、三枚捲って全部ノートリかよ……!」

「《オーパーツ》で攻撃です! 革命チェンジで《オーパーツ》を出します! 二枚ドロー!」

「手札二枚ボトムに置けばいいんだろ! で、二枚ブレイクか……」

 

 手札を減らしながら、残る二枚のシールドもブレイクしちゃいます!

 これで《クロック》が出なければいいんですけど……

 

「……S・トリガーだ」

「はぅっ!」

「だが、《崇高なる智略 オクトーパ》だ……クソッ、止まんねぇ……!」

 

 おねーさんのトリガーは、《オクトーパ》だけ。

 それなら問題ありません! ユーちゃんにはまだ、攻撃できるクリーチャーが残ってますから!

 これで、終わりですっ!

 

 

 

「《キル・ザ・ボロフ》で、ダイレクトアタックです――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「畜生! 負けちまったぜ!」

「えっへん! ユーちゃんの勝ちですよ!」

「あぁ負けたよ! クソッ! こればっかりは言い訳の余地がねぇ敗北だ……! マジ腹立つ!」

「えへへ。やりましたよ! 小鈴さん、実子さん……って、なにやってるんですか!?」

「あ、ユーちゃん。終わった?」

「終わりましたけど! ユーちゃん勝ちましたけど! でも、なんで、なんで……!」

 

 ユーちゃんが、“わたしたち”を指さして、わなわなと震えている。

 こんなユーちゃんは初めて見たなぁ。怒ってるの、かな? どこか不満げで、ちょっと涙ぐんでいるようにも見える。

 ユーちゃんは一度、スゥッと息を吸って、吐いて、深呼吸。

 そして、鋭い声で、言い放った。

 

「なんでプールでデュエマしてるんですか!?」

「いや、その言葉はそっくりそのままお返しするからね? ユーちゃん?」

「……ブーメラン……」

 

 というか、それはわたしが聞きたい。

 なぜかみんな、さも当然、みたいにデッキを取り出すし、お姉さんの弟さんや妹さんたちも、なぜかカード持ってるし。お財布だと思ってた箱はデッキケースっていうオチ。わけがわからないよ。

 ここがプールであることを忘却したかのように、ユーちゃんがお姉さんと対戦している間に、こっちでもデュエマで遊んでいるという始末。みんな、プールをなんだと思ってるの?

 わたし? もちろん持ってないよ。持ってくるわけないじゃない。

 ……まあ、弟さんや妹さんと遊んでる時は、結構、楽しかったけど。

 子供っていいよね。無邪気で明るくて、癒される。

 

「ユーちゃんも混ぜてください!」

 

 ユーちゃんは、一人だけ仲間外れにされたせいか、むくれている。

 そこにお姉さんの声が響いた。

 

「おーいお前ら! そのへんにしとけ! あんまり懐くな!」

「えー」

「えーじゃない! はいはい、解散解散! 今日はもう帰るぞ!」

「まだ遊びたーい!」

「おねーさんたちと遊びたーい!」

「うるせぇ! 変な女を知ると、将来の性癖が歪むぞ! ねーちゃんはお前らに健やかに育ってほしいからな。女の味を知るのは大人になってからだ。とにかく今日は帰宅! 帽子屋のダンナにも報告しないといけないしな!」

 

 お姉さんは弟さんや妹さんたちを叱るように言って、帰ろうとしている。

 弟さんたちは不満たらたらだったけど、お姉さんの言葉には逆らわなかった。ぶーぶーと口を尖らせながらも、きちんとお姉さんの後についていく。

 ……と、思ってたら、兄弟姉妹の集団から、男の子が一人、ピョコッと出て来た。

 さっきの、迷子になってた男の子だ。

 男の子はトタトタとわたしの下へと走ってくる。プールサイドで走ると危ないよ。

 

「どうしたの?」

「おねーさん! これ! おねーさんにあげる!」

 

 そう言って男の子は、ピッとわたしに差し出した。

 ちょっと予想外のことに、わたしは面食らってしまう。

 

「え? これって……どうしてわたしに?」

「今日のおれい! おねーさん、ありがとう!」

 

 男の子は満面の笑みを見せてくれる。

 あぅ、そんな笑顔を見せられたら、断れないよ……眩しいなぁ。

 ちょっと申し訳ないような気持ちがあるけど、これを断るのも逆に吸散れ如何な。せっかくの善意、この子の精一杯のお礼なんだから、ちゃんと受け取ってあげないと。

 わたしは差し出されたそれを受け取った。

 

「こちらこそ、ありがとう。気をつけて帰るんだよ」

「うんっ!」

「おーい! なにやってんだ! またはぐれんぞ!」

「わかったー! じゃあ、おねーさん! またね!」

「うん、またね」

 

 そうして、男の子はまた、トタトタと走ってお姉さんたちの、『ヤングオイスターズ』の集団へと入る。

 彼らの姿が見えなくなると、わたしはそれに目を落とした。

 なんだか、前にも似たようなことがあったなぁ。

 そんなことを思い出しつつ。

 わたしの目には、初めて見る“カード”が映し出されていた。

 

 

 

(《魔法特区 クジルマギカ》、かぁ――)

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「あ、いらっしゃい小鈴ちゃん! 今日は一人?」

「はい、そうなんです。えっと、詠さん」

「なにかな?」

「その、新しいカードを手に入れたので、デッキを改造したいんですけど、アドバイスとかもらえたらなって……」

「別にいいけど、もう小鈴ちゃんは私のアドバイスなんてなくても、デッキ組めそうだけどね」

「一人で組むのは、まだ不安で……」

「そっか。まあいいよ。それで、どんなカードを手に入れたの?」

「えっと、これです」

「うわ、小鈴ちゃんはちょいちょいびっくりなカードを持ってくるね」

「え、このカード、強くないん、ですか……?」

「いや強い。強いと思う。うん、たぶん強い」

「……煮え切らないですね」

「このカードはまだ、色んな人が研究中だから、本当に強いのかいまいち判断しかねるんだよね。面白いカードなのは確かなんだけど……」

「どう使えばいいんでしょう?」

「いやぁ、こればっかりは私もお手上げかな。わかんないや」

「えぇ!? そんなぁ」

「ごめんね。でも、これは本当にきつい……巷で話題のコンボならすぐに教えられるけど、それを今から組むってのもねぇ。小鈴ちゃんのデッキとはまったく違う形になるだろうし」

「……そうですか」

「うーん、まあ私も、できる限り相性の良さそうなカードは教えるよ。でも後は、小鈴ちゃん自身で考えた方がいいと思う。小鈴ちゃんのデッキを一番よく理解してるのは、自分自身だろうから」

「そうでしょうか……?」

「そうだと思うよ。横から小鈴ちゃんのデッキ見てると「え? なにこのデッキ?」って思うもん」

「あぅ、そうですか……」

「でも、だからこそ、そのカードも色んな使い方ができるんじゃないかな……あ、そうだ」

「どうしました?」

「今度ね、このカードショップで大会を開くんだ、非公認だけど。私も運営を手伝うの」

「そうなんですか。頑張ってください!」

「話を終わらせようとしないで。その大会に、小鈴ちゃんも出てみない?」

「え? わたしが、ですか?」

「大会って言っても小規模なものだし、そもそもレギュレーションが変則っていうか、ガチ禁止っていうか……とにかく、小鈴ちゃんでも十分戦えるような場になるはずだから、是非とも参加してほしいんだ。小鈴ちゃんの腕試しと、あと、色んなプレイヤーと触れ合う機会だからさ」

「……か、考えておきます……」

「うん。いい返事を期待してるよ」




 ここ最近、新キャラのラッシュが続きますが、今回もまたヤングオイスターズの登場です。個にして群、群にして個と称する、どこぞの百の貌を持つ暗殺者集団みたいな奴ですが、別に彼女は暗殺者ではありません。哀れな牡蠣です。
 そして、相も変わらずデッキは古いです。今回も出て来たのは、旧型の青単ムートピア。最近だと《I am》は、軽量呪文を連打して《コーラリアン》や《マノミ》を投げつつループする型が話題ですね。アニメで《スコーラー》も登場し、ムートピアの方向性が定まってきている感じがします。
 対するユーちゃんの方は、わりとお気に入りな青黒革命チェンジ。《ロックダウン》が《オーパーツ》と相性いいんですよね。《デッドゾーン》の存在があるせいで評価が低めな《ロックダウン》ですが、相手のウィニーを除去しながら《オーパーツ》にチェンジして、相手の選択肢を狭められるのがなかなか強いです。
 それでは、ご意見ご感想、誤字脱字の報告など、なにかりましたら気軽に送ってください。
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