今回は、大筋の流れはピクシブと同じなのですが、対戦パートだけごっそり書き換えています。なので、デュエマ内容だけは、ピクシブ掲載時とは完全に別物です。なのでどうぞ、お楽しみください。
こんにちは、伊勢小鈴です。
今はとってもよくわからないことになっています。なにがどうなっているのか、その意味不明さ、理解不能さ、荒唐無稽さを簡単に表現するなら、これです。
「チェシャ猫レディ! ここに推参!」
……はい。
とりあえず、状況を整理しましょう。アニメや小説などの物語で言うところの、前回までのあらすじ、というやつです。
わけがわからなくて混乱してるけど、このナンセンスすぎる状況で、逆に頭が冷えてきました。いえ、やっぱり混乱してるかもですけど。
『Wonder Land』で大会があるという話をみんなとして、各々今までとは違うデッキを組むことになりました。
でもそれは本題ではなくて、その帰り道、また彼と、『帽子屋』を名乗る男の人と出会ってしまったのです。一緒に『ハンプティ・ダンプティ』と名乗るタマゴみたいな男の人もいましたが、見た目のインパクトが凄いわりに、あまりなにもしないしなにも言わないので、とりあえず無視します。
帽子屋さんは、相変わらずなにを言っているのか、よくわかりません。なっちゃんのことや、自分たちのことを色々と話してくれたようですが、わたしに理解できたのはほんのちょっとだけ。
そして意味不明な言葉を並べたてられた後、お約束のように、デュエマで戦いました。
今度こそ勝つぞ、って多少なりとも意気込んでいたんだけけれど、わたしは、帽子屋さんに負けました。また、負けちゃいました。
銃を突き付けられ、心臓を撃たれました――撃たれたと、思いました。
でも気づいたら、この女の人に――チェシャ猫レディさんに、抱きかかえられていました。
助けてくれた、んだと思います。なんでかは、わからないけれど。
それにしても、チェシャ猫レディって……いや、名前については触れないでおこう。
どうあってもわたしを助けてくれたわけだし、悪い人ではない、と思います。
でも、あまりに突然の出来事で、やっぱり混乱しているんだと思います。わたしはどんな顔で、なんと言えばいいのか、どうすればいいのかも、わかりません
けれど帽子屋さんは、ジッとチェシャ猫レディさん……長いです。猫のお姉さんを見つめています。
その視線はあまり友好的なものではなく、むしろ、懐疑的なもののように感じました。
「正直、驚いた。こうも隠密に、それでいて堂々と、オレ様に近づき邪魔できる輩がいるとはな。しかも、チェシャ猫だと……?」
「ノンノン、チェシャ猫レディ。この世のいい子と可愛い子を守る、正義の味方だよ」
チッチッチ、とおどけるように訂正する猫さん。
なんでもいいけど、片手、離さないでほしいです。ここ塀の上っぽいし、落ちそう。怖い。
「そーんなことよりもさぁ。帽子屋さん、女の子を撃つのはどうかしてるよ?」
「オレ様の名前まで知ってるのか。なら、オレ様がイカれていることも知ってるだろう?」
「物騒すぎるね。
「貴様なんぞにオレ様の在り方を指図されたくはないな……それに、別に本気で殺すつもりはなかったさ。少々嚇かしただけ、今のは空砲だ」
あ、確かに。
よく見たら、薬莢が落ちてない。
つまり、帽子屋さんの弾倉には弾が入ってなかった。
最初に弾を籠め直しているように見えたのは、本当はただ弾を抜いていただけ?
けれど、猫さんは違う見解を示した。
「ふーん? ロシアンルーレットって殺すつもりなくやるものなんだぁ?」
「……目聡いな」
帽子屋さんが回転式の弾倉を開く。
すると、カランカラン、と弾倉から弾が落ちた。その数は四発。
弾は、しっかりと入っていた。でも、さっきの一発が空砲であったことは間違いない。
ロシアンルーレット。猫さんはそう言った。
わたしも、知識としてなら知っている。度胸試しや賭博で用いられる“ゲーム”だ。
本来なら、リボルバー式拳銃の弾倉に一発だけ弾を籠めて、自分の頭に銃口を突きつけて引き金を引く。それをその場にいる全員で順番にやっていって、実弾が放たれれば当然負け、というものだけれど……
最近だと、バラエティ番組とかで、シュークリームやおにぎりの中に、からしとかわさびとか、ハズレ具材を入れてその反応を楽しむっていうことをよくやってる。わたしは、ああいう食べ物をわざと嫌なものにして見世物にするのは、あんまり好きじゃないんだけど。
それはさておき、帽子屋さんは撃つ前に、
あの時点で、放たれる弾はランダムだったんだ。
あの銃が装填できる弾は五発。その五発のうち、実弾は四発で、空砲が一発。
弾が放たれる可能性は、五発に四発、八割、80%だ。
「……っ!」
たった20%の確率で、わたしは生きている。
単なる幸運。ほとんどわたしは、あの時点で死が確定していた。
80%の確率で、わたしは、死んでいたんだ。
それがわかった瞬間、背中が、全身が、ゾクリとうすら寒くなるのを感じた。
悪寒。嫌なものが、全身を這いずりまわる。
これは、たぶん、恐怖。
80%で死んでいた、ほとんど死んでいた。それを自覚すると、途端に、全身に嫌なものが駆け巡る。
不快感じゃない。もっと、根本的に、なにかを掻き立てるような、心臓の鼓動が嫌に高くなって、足を竦ませるような、なにかが――
「うん、怖いよね。」
ぽんっ、と猫さんの手が、頭を撫でる。
まるで猫を撫でまわすような、優しい手つき。
……少しだけ、心臓の動悸が収まった気がする。
「恐怖を感じるの悪いことじゃない。恥じるべきことじゃないよ。それは生物として当然の感覚であり、
「……は、はい……」
「うん。君はとても小市民らしくてグッドだね、小鈴ちゃん」
「え? なんでわたしの名前……」
「おっと、口が滑ったね。今のは忘れて。代わりにベルちゃんって呼ぶから」
「いやでも、確かにわたしの名前を……そ、それに、ベル?」
「その素敵な鈴の髪飾りを称えてね。うん、あの子が気に入ってるだけあって、可愛いね。今は違うけど、魔法少女……マジカル・ベルってところかな」
「え? えぇ……?」
魔法少女って、まさかこの人、わたしがクリーチャーと戦ってることも知ってるの?
一体、何者なの……?
「おい」
少しドスの利いた声。
見れば帽子屋さんが、こっちを睨んでいた。
「女同士でいちゃつくな。こっちはイカレた頭を必死で回して考えてるんだ。少しはオレ様に話をさせろ」
「おっと、忘れてたよ。ま、話したいならご自由にって感じだけど?」
「では問うぞ。貴様は何者だ?」
帽子屋さんは、今までに見せたことのない疑惑的で、険しい声で問うた。
それに対して猫のお姉さんは対照的に、さっきまでの帽子屋さんのように、どこか不思議で軽薄な調子で答える。
「さっきも言ったじゃん。正義の味方、チェシャ猫レディって」
「それだ。貴様、なぜ“チェシャ猫”を名乗っている?」
「あー、まあ、そこだよねぇ」
「答えろ。それさえ答えれば、このお茶会はお開きにしても構わん」
「そう。でもお生憎様、私はチェシャ猫レディであって、チェシャ猫じゃないんだなぁ」
「……答える気はない、か」
なんだか、話が微妙に噛み合っていない気がするけど。
猫さんは猫さんで、まともに取り合う気もなさそう。帽子屋さんからピリピリした空気を感じる。
いつも余裕を持って超然としている帽子屋さんだけど、猫さんを相手にしている時だけは、それが乱れている、ような気がする。
「ふぅ……予定にないことをするのは、疲れるものだな。しかし臨機応変な対応もオレ様の役目。カードゲームは一日一回のつもりだったが、イレギュラーが発生した場合は、その限りではないとしておこう」
「お? やる気かな? それは重畳ってやつだ。私もそういうのを望んでたり?」
交戦姿勢を見せる帽子屋さんに、真っ向からそれに受けて立とうとする猫さん。
ピリピリとした、剣呑な空気が流れる中、
「おい待て、帽子屋」
タマゴさんが、帽子屋さんを制するように、彼の前に立ち塞がるように、進み出た。
「邪魔するなハンプティ・ダンプティ。これは確認せねばならぬ重要事項だ」
「お前にしては珍しく熱くなってるとこに水を差すのは、私としても不本意なんだがな。だがお前さんよ、時間をよく見な」
時間……?
思わずわたしも確認してしまう。今の時間は、午後6時45分くらい。もうすぐ7時だ。
結構、遅くなっちゃったな……
でも時間がなんだっていうんだろう。
「私はともかく、お前さんの時間は、もうあんま残されてねぇぞ。今日は撤退するっきゃねぇんじゃねぇのか?」
「……チッ、Fuck、だな」
帽子屋さんはまた憎々しげに舌打ちする。
すごく、不機嫌になってるように見えるよ。
タマゴさんに窘められて、帽子屋さんは仕方ないと言わんばかりに肩を竦める。すると、わたしたちから背を向けて、なにも言わずに立ち去ろうとするけれど、
「おっとっと、私もあなたたちに聞きたいことあるんだよねー。ちょーっと逃げるのは待ってくれる?」
猫さんは、ストンッ、と塀から飛び降りた。一緒にわたしも降ろされる。
口元は笑っているけれども、目は獲物を逃がさないと言わんばかりの眼光。
まるで、鼠を追いつめる猫のような目つきだった。
「……帽子屋。ここは私が請け負ってやる。だから早く帰れ」
「貴様が? 任せてもいいのか?」
「あぁ、心配するな。私も時間までには帰るさ」
「いや、そもそも貴様は雑魚だから、時間を稼ぐなんて芸当ができるかどうか、不安なんだが」
「信用なさすぎだなぁ、おい! 否定はできねぇけどよ!」
なんか、絶妙に緊張感がない……
でもそれは、猫さんがいてくれるから、なのかな。
なんだかよくわからないけれど、この人がいると安心できる。それは、わたしを助けてくれたからなのか、それとも別の理由なのか。
わからないけれど、この人がいれば、なんとかしてくれる気がする。
「私の実力が信用に足りないのは認めるっきゃねぇが、そこは信じてくれや。お前さんがいなくなると、私たち全員が崩れ落ちる。私一人がいなくなる方がまだマシってもんだ」
「……まあいい。貴様とて我らが同胞の一人。そして現状取れる最善手は、それしかなさそうだ。この場は任せた、ハンプティ・ダンプティ」
「話の決着はついた? お話はどっちから聞いてもいいけど、やっぱり帽子屋さんを問い詰めたいかなぁ、って」
「悪いがお嬢ちゃん、あいつはイカれた野郎だが、私らにとって必要存在なんでな。今日は時間が足りねぇ。話なら後にしてくんな」
「そうもいかないよ。あなたみたいな人、次いつ会えるかわからないもの」
一歩、また一歩とにじり寄る猫のお姉さん。
帽子屋さんは、そんな彼女に背を向け、背中越しに言った。
「案ずるな、チェシャ猫を名乗る正義の味方とやら。突発的だが、貴様とオレ様の縁は、浅くも今宵、結ばれた。そしてオレ様も、貴様に問い質すべき事がある。ただ今は、少しばかり時間が差し迫っているというだけだ。故に貴様はオレ様と、そしてオレ様は貴様と、またいつか合い見える日が来るだろう」
一方的な約束するように言う帽子屋さん。
そのまま逃げ去ろうとするんだろうけど、でも、帽子屋さんの歩の先には、みんながいる。
みんなはこの珍事にどうするべきか、迷っているようだった。帽子屋さんを止めるべきなのか、無視するべきなのか。
だけど、その考えは結果的には無意味だった。
「ハンプティ・ダンプティ。3km程度で頼む」
「時間で指定しろよ。しかも、サラッと長めに距離を取りやがったな。まあいいけどよ――逆相『誰もハンプティ・ダンプティを元に戻せなかった』」
タマゴさんが呪文のように唱えた、刹那。
帽子屋さんが、消えた。
さっき、みんながわたしの周りから消えて、移動したのと同じだ。
違う点があるとすれば、帽子屋さんは完全に、わたしたちの視界から、周囲から存在を消したということ。
猫のお姉さんは、嘆息した。
「あーあー、帽子屋さん逃げちゃった。案外チキンだね」
「あぁそうだ、あいつは意外と臆病なんだぜ?」
「でも、逃げしたのはあなただよね、卵男さん。あなたは逃げないの?」
「孤立無援、四面楚歌だからな。逃げたいのは山々だが……まあ、色々あんだよ」
タマゴさんは、苦々しい表情で言った。
「ふぅん。まあでも、さっきのがそうだよねぇ……瞬間移動か、テレポート? 逆相とかよくわからないんだけど。使うのに溜めがいるとか?」
「一度に何度も聞くなよ。順番に聞かれたって、答える気はないけどな。だがその口振り、お前さん、私たちの内部まで知ってるのか?」
「さーてね。教えてくれないんじゃ、私だって教えないよーだ」
猫のお姉さんと、タマゴさん。二人でなにか話をしているけど、その会話の内容は、わたしにはまるで理解できなかった。
一体、なにについて話しているのか。
「そんなことより、私は卵男さんがどういう立ち位置のキャラクターなのかよくわかってないんだけど、帽子屋さんと仲良さそうだったね?」
「別に帽子屋とばかり仲がいいわけじゃねぇさ。私たちは仲間だ。仲間同士で助け合うのは当然だろう?」
「ふーん、まあ綺麗なお言葉だね。でも、口汚くてもいいから、正直に話してほしいかな、私は」
「こいつに関しては、嘘は吐いてねえさ。まあ、どうしても聞き出してえことがあるってんなら、その手で探してみせろ」
タマゴさんがそう言葉を発した瞬間。
空気が、変わった。
これは、この感覚は。
「私と、やり合おうって?」
「悪いが私は弱いから、勝算はねえ。けど、どうせお前さんは未知の存在だ。はなっから計算できるもんでもねえし、それなら都合のいいことを押し付けてやろうってだけさ」
「……ま、帽子屋さんには逃げられちゃったけど、あなたもそれなりに詳しそうだし、いいよ。お話は、あなたから聞かせてもらう」
戦う意味は見出された。二人とも、条件を飲み込んだ。
となればもう、後は告げるだけだ。
二人の、戦いの、合図を。
「さぁ、答えを探しな、不思議の世界でな――!」
☆ ☆ ☆
始まってしまいました。
猫さんと、タマゴさんの、デュエマ。
というか、タマゴさんはともかく、猫のお姉さんもデュエマするんだ……普通に、平然と、当然のように、デュエマを始めてるってことは、やっぱりこの人は、わたしたちの秘密となにか関わりがあるのかな……?
「私のターン! 1マナで呪文! 《ジョジョジョ・ジョーカーズ》!」
それはともかく、二人の対戦です。
猫のお姉さんは、帽子屋さんが使っていたものと同じ、色のないカード、ジョーカーズを使っていました。
「山札を四枚見て、その中のジョーカーズ・クリーチャーを手札に加えるよ! 加えるのは《ヤッタレマン》! これでターンエンド!」
ターン1
ハンプティ・ダンプティ
場:なし
盾:5
マナ:1
手札:4
墓地:0
山札:30
チェシャ猫レディ
場:なし
盾:5
マナ:1
手札:5
墓地:1
山札:28
「ジョーカーズか……なら、微妙だがこいつは置いとくか。《ヤドック》をチャージ、2マナで《時空の庭園》を唱える。1マナ加速し、ターンエンド」
タマゴさんは、おなじみの2ターン目のマナ加速だけど、そのカードがちょっと不思議だ。
《時空の庭園》、見たことないカードだ。普通、2ターン目のマナ加速といったら、《フェアリー・ライフ》とか、《霞み妖精ジャスミン》であることが多いけど、あの呪文は一体……?
やってることは、《ジャスミン》や《フェアリー・ライフ》と同じみたいだけど……
「不思議なカードを使うねぇ。まあいいや。私のターン。2マナで当然《ヤッタレマン》、召喚。ターンエンドだよ」
ターン2
ハンプティ・ダンプティ
場:なし
盾:5
マナ:3
手札:3
墓地:1
山札:28
チェシャ猫レディ
場:《ヤッタレマン》
盾:5
マナ:2
手札:4
墓地:1
山札:27
「私のターン。4マナで《霊騎ラグマール》を召喚。こいつの能力で、互いのプレイヤーは自身のクリーチャーを一体選び、マナに送らなければならない。私は《ラグマール》だ」
「私は《ヤッタレマン》だね」
「そいつはジョーカーズのイカれた展開力の要だからな。先に潰させてもらったぞ。ターンエンド」
得意げに言う卵さん。
あのジョーカーズは、帽子屋さんも使っていたカード。
そしてタマゴさんは、帽子屋さんの仲間だ。
つまり、タマゴさんはジョーカーズの戦い方を熟知している? だから、それに合わせた戦術を取れるってこと?
でも実際、猫のお姉さんは少し困ったような表情を見せている。
「うーん、地味に嫌なことされたなぁ……まあ、しょうがないか。私のターン。3マナで《パーリ騎士》を召喚。墓地のカードをマナに置くね」
「《ツタンカーネン》も一緒に出したかったって顔してるな」
「さて、どうかな。ターンエンド」
ターン3
ハンプティ・ダンプティ
場:なし
盾:5
マナ:5
手札:2
墓地:1
山札:27
チェシャ猫レディ
場:《パーリ騎士》
盾:5
マナ:5
手札:3
墓地:0
山札:26
「私のターン。《剛撃古龍 テラネスク》を召喚。能力で山札から三枚を捲るぞ」
タマゴさんは、山札から三枚を表向きにする。
こうしてめくられたのは《「祝」の頂 ウェディング》《あたりポンの助》《「終」の極 イギー・スペシャルズ》。
な、なんかキラキラしてて、強そうなカードばっかりだ……
「捲った三枚すべてをマナゾーンに置く」
「回収はしないんだ……《ポンの助》くらいは持つと思ったのに」
「この際だから正直に言うが、実はお前さんのジョーカーズが、なにをフィニッシャーにした型なのか読めんのでな。ジョーカーズ相手に後手に回ってたら瞬殺だ、気づいた時にゃもう遅いってな。それじゃあ持ってても仕方ねぇし、自分の動きを優先した方がいいだろうと判断したまでよ」
「ふーん。まあ、英断じゃない?」
やっぱり、タマゴさんはジョーカーズについて知っている。だから、それに合わせた動きをしているんだ。
もっとも、そんなタマゴさんでも猫のお姉さんがどう仕掛けてくるのかまでは読めていないみたいだけど……そんなに種類が幅広いのかな、ジョーカーズって。
「さて、これで私のターンは終わりだ。お前さんのターンだぜ」
「それじゃあ私のターン、ドロー」
カードを引いてから、猫のお姉さんは、ジッと場を見渡して、思案する素振りを見せた。
「相手のマナは9マナ、手札は一枚、場には《テラネスク》……ターボゼニスっぽいけど、なんか妙だよねぇ」
タマゴさんは一気にマナを増やした。次のターンには10マナだ。
そこから出て来るのは、きっと彼の切り札。それがなんなのか、考えているようだ。
「10マナのゼニスってなにがいたっけ? 《ローゼス》と、《ライオネル》と……んー……」
そんな風にしばらく考え込んで、そして、
「……ま、《ライオネル》とかが来なければ大丈夫かな。このデッキは《VAN》も効かないしね。というわけでまずはこれ、1マナ、《ジョジョジョ・ジョーカーズ》!」
どういう結論を出したのかわからないけれど、お姉さんは手札を切る。
仲間を呼ぶ《ジョジョジョ・ジョーカーズ》で、山札をめくっていく。
「んー、来ないなぁ。じゃあこれだ、《パーリ騎士》を手札に加えるよ。そんでもって《パーリ騎士》を召喚。墓地のカードをマナに置いて、3マナで《ツタンカーネン》。一枚ドローするよ」
クリーチャーを増やし、マナを増やし、手札も増やす。
ここまでの動きはほとんど帽子屋さんと同じ。やってることも、見えるカードも、全部。
「ターンエンド」
ターン4
ハンプティ・ダンプティ
場:《テラネスク》
盾:5
マナ:9
手札:1
墓地:1
山札:23
チェシャ猫レディ
場:《パーリ騎士》×2《ツタンカーネン》
盾:5
マナ:7
手札:2
墓地:0
山札:23
「私のターン、ドローだ……ところでお嬢さん、あんた今、何マナだい?」
「? 私のマナ? えっと、ひぃ、ふぅ、みぃ……7マナだね」
「そうかい、そりゃいい。なら私は、8マナをタップする」
「? マナチャージもせず、8マナ? ゼニスじゃない?」
タマゴさんは、猫のお姉さんのマナの数を確認した後、マナを八枚タップした。
見るからになにかを仕掛ける雰囲気だけど、なにをするつもりなの……?
「割れちまった卵は、絶対に元には戻せねぇ。王族共が何人集まろうと、誰もハンプティ・ダンプティを元には戻せない」
タマゴさんは唱えるように言う。そしてその一節は、彼が何度も口にしたフレーズだった。
「塀の上のずんぐりむっくり野郎は望んだ。覆水盆に返らぬモンを、元に戻したいと。復元したいと。故に私は、不可逆を可逆に逆転させる。因果律に逆走し――逆相でもってな」
「! まさか、8マナって……!」
猫のお姉さんはなにかに気付いたようだった。
だけど、今の彼女に、タマゴさんを止めることはできなかった。
「つーわけで、割れちまった卵を元に戻すため、元に戻らねぇモンを復元するため、逆相の因果を歪めるぜ。さぁ、来い!」
八つのマナ、そして猫のお姉さんの七つのマナまでもを吸収し、合計15のマナを寄せ集めて、それは現れる。
虚空に浮かぶ逆相の三角錐。それが巨大化し、膨張し、逆転し――繋がる。
「
それは、物凄く大きい。とにかく巨大なクリーチャーだった。
逆転した三角錐を重ね合わせたような、どこかずんぐりむっくりした巨体。
それが今、バトルゾーンに現れた。
「そういえば、そんなゼニスもいたね……10マナも払わなくても、出せるゼニスが」
ゼニスって、あのクリーチャーのこと? 種族、なのかな?
猫のお姉さんの口振りからして、ゼニスっていうのは10マナ以上のクリーチャーみたいだけど……でも、あの巨大なクリーチャーは15マナもある。
15マナのクリーチャーなんて見たことがない。そもそも、そんなにコストが大きいのに、たった8マナで出しているのはおかしい。
そう思ったけど、当然、そこにはカラクリがあった。
「知っているみたいだから言うまでもないとは思うが、《オガヤード・スンラート》は相手のマナの数だけ、召喚コストが軽減される」
え? ってことは、猫のお姉さんのマナが7マナだから、15から7を引いて、8マナで出せるってこと?
だから、猫のお姉さんのマナを確認してたんだ。
「そしてこいつが召喚に成功した時、マナか墓地から無色カードを二枚まで回収できる。これでターンエンドだ」
タマゴさんは、すごく大きなクリーチャーを召喚したものの、それだけでターンを終えてしまった。
やったことはマナゾーンのカードを手札に戻しただけ? 自分でコストを下げられると言っても、8マナでそれだけって、なんだか地味だね……
「これだけで済んだと思いたいけど、嫌な予感しかしない……私のターン、ドロー」
険しい表情で、ずんぐりした巨躯を見上げるお姉さん。
その後、手札をに目を落とす。
「フィニッシャーも、除去カードもない……なら、これに賭けるしかないね! 5マナで《ビックラ・ボックス》召喚!」
猫のお姉さんは遂に、帽子屋さんも見せなかったカードを見せる。
それは、おもちゃ箱……いや、ビックリ箱みたいなクリーチャーだ。
「《ビックラ・ボックス》の能力発動! 登場時、山札の上から一枚目を捲って、それがコスト6以下のジョーカーズなら、そのまま場に出す!」
「なんだか珍しいカード積んでんなぁ。どういう型だ?」
「それは捲ってからのお楽しみ! トップ公開! さぁ、来て!」
そう言って勢いよく山札を捲り返すお姉さん。
そうしてめくられたのは、
「くっ、《ヤッタレマン》……!」
「ハズレか。まだお前さんの手の内は謎ってことかね」
「残念なことにね。ターンエンド」
猫のお姉さんの博打は外れちゃったみたい。
そして、タマゴさんの場に、巨大なクリーチャーが鎮座したまま、タマゴさんにターンが返ってくる。
ターン5
ハンプティ・ダンプティ
場:《テラネスク》《オガヤード》
盾:5
マナ:7
手札:3
墓地:1
山札:22
チェシャ猫レディ
場:《パーリ騎士》×2《ツタンカーネン》《ビックラ》《ヤッタレマン》
盾:5
マナ:8
手札:1
墓地:0
山札:21
「お前さんは、《オガヤード》が私のデッキの肝だと踏んで、どうにかしたかったみてえだな」
「……それが?」
「いい勘してるぜ。その通りだ」
ニヤリ、とタマゴさんは笑った。
「見せてやるよ。私は【不思議の国の住人】の中じゃ弱ちっろいが、それでも、なんの力もないわけじゃねぇ。逆相に逆転を重ね、因果に運命を掛け合わせ、復元さえもひっくり返してやるよ」
そう宣言して、タマゴさんはマナを倒した。
その枚数は、五枚。
「5マナで《最終兵ッキー》を召喚!」
「へ、《兵ッキー》!?」
そのカードを見て、猫のお姉さんは驚いている。
白いデッキケースみたいなクリーチャーだ。だけど、なんだか武器を持って武装している。
このクリーチャーはジョーカーズみたいだけど……タマゴさんは、なにをするんだろう。
「《最終兵ッキー》の能力発動! バトルゾーンのクリーチャー一体を山札の下に戻し、そのクリーチャーをコントロールするプレイヤーはカードを一枚ドローする。その後、そのプレイヤーは手札からそのクリーチャー以下のコストを持つクリーチャーをバトルゾーンに出してもよい」
?
説明が長くて、いまいちよくわからなかった。
えーっと……つまり、クリーチャーを一体、手札のクリーチャーと入れ替える、みたいな能力なのかな?
知らないなりに噛み砕いて理解してみると、すごく変則的な除去能力だ。クリーチャーの数は減らせなさそうだけど、相手の手札に戻したクリーチャー以下のコストのクリーチャーがいなければ、そのまま除去はできるんだね。
山札から引かれちゃう可能性はあるけど、《ヤッタレマン》くらいなら除去できそうだ。
なんてわたしは思っていたけれど、タマゴさんはそんな単純な使い方はしなかった。
除去カードなんてとんでもない。むしろ彼の最終兵器の使い道は、その逆。
逆相。即ち、その砲口は相手ではなく――自分に向けられていた。
「私は、私の場の《オガヤード・スンラート》を選択する」
《最終兵ッキー》の対象に選ばれたのは、《オガヤード・スンラート》だった。
《オガヤード・スンラート》は《最終兵ッキー》の光線を浴びて、山札の下に――戻らなかった。
「この時《オガヤード・スンラート》のエターナル・
巨体は山札の下ではなく、手札へと戻っていく。
とはいえ、場から離れたことには違いない。
だけど、同時に《最終兵ッキー》の能力で、クリーチャーが現れる。
それは、戻したクリーチャー以下のコストのクリーチャーで……ということは、
「《オガヤード・スンラート》のマナコストは15! つまり、手札からコスト15以下のクリーチャーを、なんでも出せるんだ!」
「げぇ、マジかぁ……!」
そ、そっか……自分でコストを減らせると言っても、元々のコストは変わらない。
そして《最終兵ッキー》は、除去カードとしてだけじゃなくて、自分のクリーチャーを入れ替えて、強くすることにも使えるんだ。
コスト15以下なんて、範囲が広すぎる。一体、どんな大型クリーチャーが出て来るんだろう……
「場の《最終兵ッキー》に、マナの《ライオネル》《ウェディング》《ポンの助》そして《オガヤード・スンラート》! 合計五体のクリーチャーを進化元に、超無限進化・Ω!」
場から、マナから、数々の無色クリーチャーが集まっていく。
そして、それらが一点に集い、巨大な存在となって――顕現する。
「復元できぬほどに、すべて潰して砕け散れ! 《「終」の極 イギー・スペシャルズ》!」
現れたのは、これもまた、物凄く大きなクリーチャーだ。
その姿は、なんて表現したらいいのかわからない。真っ白な身体に、様々な色に輝く三角錐を纏い、侍らせているクリーチャーだ。
どこか神聖で神々しく、それでいておぞましいクリーチャーだった。
「コスト13の、進化ゼニス……!」
「まあ一応、こいつが私の切り札ってやつだ」
猫のお姉さんも、わたしも、首を大きく逸らして見上げる。
巨大すぎる。さっきの《オガヤード・スンラート》よりも、遥かに大きい。
21000という、規格外のパワー。そしてQブレイカー。
なぜか進化元として、場とマナにいたたくさんの無色クリーチャーを取り込んだために、その存在はどこまでも膨れ上がっている。
「さて、攻める前にもう一手間かけておくか。2マナで呪文《時空の庭園》を発動。山札の上から一枚目をマナに」
ここでタマゴさんは、なぜかマナを増やす。
いや、さっきの進化で一気にマナが減っちゃったから、その行為自体はわかるんだけど……でも、結果的にこれは、マナを増やすための行為ではなかった。
「その後、マナのクリーチャーを一体、場の進化クリーチャーの下に仕込む。マナの《ラグマール》を、《イギー・スペシャルズ》の下へ」
クリーチャーを、進化クリーチャーの下に置いた?
別に場に出たわけじゃないし、進化クリーチャーの下のクリーチャーは存在を無視されるはず。一体なんの意味があるんだろう……?
「じゃあ行くぜ? 《イギー・スペシャルズ》で攻撃――その時、能力発動だあ!」
刹那、《イギー・スペシャルズ》の周りを浮遊していた三角錐が、様々な色に輝く。
その光は、お姉さんの場のクリーチャー。そして、お姉さん自身――いや、その手札を照らしている。
「《イギー・スペシャルズ》は攻撃時、こいつの下に存在するクリーチャー……つまり進化元の数だけ、相手の場のクリーチャー及び手札をマナに封じ込める!」
進化元の数だけ、クリーチャーと手札をマナに……!?
そっか、だからマナを大きく減らしてまで、あんなにたくさんのクリーチャーを吸収したんだ。
それに、《時空の庭園》の効果も、このため……!
「今、《イギー・スペシャルズ》の下にあるクリーチャーは六体! よって、お前さんのクリーチャー五体と、手札一枚をマナゾーンに叩き落させてもらうぜ!」
お姉さんの場と手札を照らす光は、大きくなっていき、そのすべてを飲み込んでいく。
光に照らされ続け、お姉さんのクリーチャーは、手札は、影と同化し、影と共に溶けて、そして――消えて行った。
大地、マナゾーンの奥深くへと、沈み込んでいった。
「っ、全滅……!」
マナは大量に増えたけど、代わりにお姉さんは、場も手札も根絶やしにされてしまった。
それにマナが増えたってことは、今タマゴさんの手札にあるはずの《オガヤード・スンラート》のマナコストも下がっているってこと。
お姉さん……!
「《イギー・スペシャルズ》でQブレイクだ! 吹き飛びやがれ!」
「っ! ぐ、うぅ……!」
「まだだ! 《テラネスク》で最後のシールドもブレイクさせてもらうぜ!」
あぁ、お姉さんのシールドがゼロに……!
「ターンエンド、だ」
場も手札も、そしてシールドもズタボロにされた状態で、猫のお姉さんにターンが返ってくる。
だけど、ここからどうやって逆転するのか。そもそも、逆転できるのか。
わたしには、わからなかった。
「私の、ターン」
お姉さんはカードを引く。
そして、視線を下に落とした。
「……マナ、腐るほどあり余ってるなぁ」
皮肉のように呟く。でも、その通りだ。
《イギー・スペシャルズ》の能力で増えた膨大なマナは、その数14。普通にマナチャージしているだけでは、絶対に到達できないほど、そして、下手すれば使い切ることさえできないほどの量だ。
ここまで来ると、もはやマナチャージする意味すらないけれど、
「まあでも、これは使わなさそうだし、埋めちゃっていいか。《パーリ騎士》をチャージ。2マナで《ヤッタレマン》を召喚! さらに2マナで《ツタンカーネン》! 一枚ドロー!」」
猫のお姉さんはマナチャージして、手札を切っていく。
失われた盤面を取り戻すために、莫大なマナを使い、クリーチャーを次々と並べていく。
「来ないか……なら、7マナで《バイナラドア》! 《イギー・スペシャルズ》を山札の下へ!」
「残念だが、《イギー・スペシャルズ》もエターナル・Ωで、山札の下ではなく手札に戻るぞ。当然、進化元と一緒にな」
そっか、ってことは、今タマゴさんの手札には、《オガヤート・スンラート》と《最終兵ッキー》の二枚が揃ってる。
また、《オガヤート・スンラート》を《最終兵ッキー》で巨大なクリーチャーと入れ替えるコンボが発動しちゃう。
「……その後、一枚ドロー。そして4マナで《ハクション・マスク》を召喚。相手の最もパワーが低いクリーチャーを破壊するよ」
「《テラネスク》か。まあいいさ、破壊されといてやる」
「やることは以上。かな。ターンエンド」
ターン6
ハンプティ・ダンプティ
場:なし
盾:5
マナ:4
手札:9
墓地:3
山札:19
チェシャ猫レディ
場:《ヤッタレマン》《ツタンカーネン》《バイナラドア》《ハクション》
盾:0
マナ:15
手札:3
墓地:0
山札:18
「私のターン……ちっ、ミスったな。《兵ッキー》を出すのに1マナ足りねぇ」
タマゴさんは舌打ちする。
このターン、タマゴさんはマナチャージしても5マナだから……確かに、《オガヤード・スンラート》を1マナで召喚しても、《最終兵ッキー》の召喚には5マナかかるから、1マナ足りない計算になる。
さっきのターン、《時空の庭園》でそのままマナ加速だけにとどめておけば、このターンにとどめを刺されていた。
「まあいいさ。お前さんのマナゾーンのカードは15枚。よって1マナで、《「逆相」の頂 オガヤード・スンラート》を召喚!」
猫のお姉さんの莫大なマナを吸収して、またずんぐりむっくりの巨体が現れる。
「カードの回収はせず、さらに1マナで《オガヤード・スンラート》を召喚!」
「二体目……!」
「さらにもう一体! 1マナで《オガヤート・スンラート》だ!」
さ、三体……!?
この巨大なクリーチャーが、三体も現れるなんて……こんなの、とてもじゃないけど倒しきれるはずがない。
お姉さんのシールドはゼロ。全部倒さないと、負けちゃう……!
「ターンエンド。そろそろチェックメイトだぜ、お嬢さんよ」
退路を塞ぐように、ずんぐりむっくりとした巨躯がお姉さんに迫る。
次のターンには、とどめを刺さんとばかりに。
「……チェックメイト、か」
お姉さんは、ぽつりと呟く。
すると、顔をあげた。
「でもね。チェスってのは、相手を仕留めた、って思った時が一番危ないんだよ」
「なに?」
「次の一手で決められる。その算段を打ち砕いて、因果を逆転させてあげる」
つまり――
「――このターンで、私の勝ちだ」
お姉さんの眼は、まだ、輝いていた。
戦意を失うことなく、闘志の炎が、燃え続けている。
「卵男さん。あなたのずんぐりむっくりした身体を、ぶち抜いてあげる」
猫のお姉さんはそう宣言して、拳を握る。
そして、マナを横に倒しながら、口を開き、言葉を紡いでいく。
「夜闇を駆ける希望の光は、夜天を貫く刹那の弾丸。希望の使い魔は街に集い、物語の終演を見届けるため、その身すべてを闇夜の汽車に預ける」
静寂と静謐の中で語られる言葉。とても静かで、清らかで、神聖ささえ感じられるような、綺麗な声。
だったのだけれど、
「……ってなわけで! 乗り遅れないように注意してね! 夜更かししてでも全員集合! 私らの喜劇の始まりだ!」
その清らかさは一瞬で崩壊し、一筋の光が、暴力的なまでの力を伴って、猫さんの手の内から放たれる。
「夜行列車が通りまーす――」
それは荘厳でも厳格でもなんでもなく。
ただただ眩く、煌めいていた。
「――《
それは、新幹線……の、ようなクリーチャー。
正確には新幹線モデルのロボットみたいなクリーチャーだけど。
でもこのクリーチャーは、今までのクリーチャーと明らかに違う感じだった。
帽子屋さんの切り札にもどこか似ているような、力強いなにかを感じる。
「《ダンガンオー》……! そいつが、お前さんの切り札か……!」
「その通り! さぁ、これでフィニッシュ! 《ダンガンオー》の能力で、このクリーチャーが場に出た時、他のジョーカーズの数だけブレイク数が増えるよ!」
他のジョーカーズ……それって。
「私の場にいるジョーカーズは、《ダンガンオー》を除いて四体! 《ダンガンオー》のブレイク数は四枚増加!」
元々Wブレイカーを持っているから、そこから四枚追加で、合計六枚のブレイク。
単純なブレイク数だけなら、呪文のバックアップを受けた、帽子屋さんの《ジョリー・ザ・ジョニー》を上回る。
ただし、このクリーチャーはただブレイクするだけみたいだけど……それでも、クリーチャーだけであの一撃必殺の弾丸を越えるほどのブレイク数を叩き出すなんて。
やりすぎだけど、すご攻撃力だ……!
「さぁ、終わらせるよ! 《ダンガンオー》でシールドブレイク――」
新幹線ロボット――《ダンガンオー》は疾駆する。疾風の如きスピードで、一直線に、まっすぐに、その拳を振りかざした。
そして拳が光り輝き、その場にいる
「ぶち抜け! 必殺――ダンガンインパクト!」
まるで、ビッグバンのような大爆発だった。
拳の一撃がすべてのシールドを粉砕して、木端微塵に、影も形も残らないかと思える破壊力で、蹂躙する。
たった一撃で、そして一瞬で。
タマゴさんの五枚あったシールドはすべて、跡形もなく吹き飛んだ。
「どうだ! これが正義の鉄槌だよ!」
「ぬ、ぐぅ……! まだだ! S・トリガー《フェアリー・トラップ》! トップを捲り、コスト15の《オガヤード・スンラート》だったので、《バイナラドア》をマナゾーンへ!」
シールドはすべて粉砕されたけど、S・トリガーは発動する。
飛び出した罠が、お姉さんのクリーチャーを絡め取って、マナへ送り込んだ。
「もう一枚《フェアリー・トラップ》! 《ハクション・マスク》をマナゾーンへ! さらに《罠の超人》召喚! 《ツタンカーネン》もマナ送りだ!」
「それで?」
「っ、クソ……! 終わりだ……!」
三枚のS・トリガー。それにより、猫のお姉さんのクリーチャーは、半分以上が除去されてしまった。
だけど、それでも、すべてではない。
攻撃可能なクリーチャーは、一体だけ残っていた。
「それじゃあ、これで終わりっ!」
その最後の一体が、とどめの一撃を放つ。
「《ヤッタレマン》で、ダイレクトアタック――!」
☆ ☆ ☆
「ちょーっと冷や冷やしたけど、ま、ざっとこんなもんだね」
対戦が終わりました。
結果は、猫さんの勝ちです。よかった……の、かな
猫さんはタマゴさんに歩み寄ると、彼を見下ろしながら口を開く。
「じゃ、色々と話してもらうよ。どこから聞こうかな。えーっと……」
「……悪いな」
ぽつりと、タマゴさんは言った。
「残念だが、私もお前さんらとお喋りに興じるつもりはないんでね」
「は? いや、私が勝ったじゃん」
「負けたら話すなんて、私は一言も言ってねえぜ。ただ、自分で答えを見つけろって言ったんだ」
「詭弁だよ。ただの言い方の問題でしょ。それ以前に、私もあなたを逃がす気は毛頭ない――」
「お前さんにその気がなくても、こっちはその気なんだよ。時間は十分に稼いだしな」
言ってタマゴさんはスクッと立ち上がると、またあの、呪文のような言葉を紡ぐ。
「逆相『誰もハンプティ・ダンプティを元に戻せなかった』」
その、直後。
みんなのように、帽子屋さんのように。
ハンプティ・ダンプティと名乗るタマゴみたいな男の人は――姿を消した。
「あっちゃぁ……逃げられちゃったよ。やっぱ溜めが必要なタイプか。テレポートなのかなんなのかわかんないけど、便利だなぁあれ」
嘆息して、ガックリと肩を落とし、項垂れるお姉さん。
結局、タマゴさんの謎の力で、帽子屋さん諸共、逃げられてしまいました。
その結果が気に入らないのか、猫の姉さんは頭を抱えて呻いている。
「くぅ、試合に勝って勝負に負けるとは、正ににこのことか! せっかく顔出しまでして出張って来たのに、カッコつけただけで終わりだなんて、そんなのアリ!?」
「あ、あの……」
「うん?」
流石にいたたまれなくなってというか、どうしようもなくなってというか、とにかくわたしは、猫のお姉さんに声をかける。
まだわたしには、わからないことがたくさんある。それを少しでも知らないと。
そして、たぶん、このお姉さんは、わたしの知らないことを知っていると思う。
「助けてくれて、ありがとうございます……あの、でも、あなたは何者なんですか? 人間、なんですか? それともクリーチャー……?」
「あー、はいはい。そういうのね。とりま、クリーチャーではないかなぁ。そんでもって正義の味方だよ」
「正義の味方って……」
わたしを助けてくれたんだから、いい人だとは思うんだけど……その表現は、どうなんだろう。
なにか、はぐらかされている感じがするよ。
「私の正体ついては、またいずれね。それよりもさ、ベルちゃん」
ベルちゃん。
そういう呼ばれ方をしたのは初めてだから、なんか、変な感じがするなぁ……
「私は正義の味方で君らの味方だから、こういう優しいことを言っておいてあげるよ」
急に真面目な口ぶりで、お姉さんは言います。
「【不思議な国の住人】……あいつらはなかなかにヤバい連中だよ。君らが思う価値観とか、常識とか、そういうのが歪んでる……ううん、ずれてる、って言った方がいいかな。いや、それはちょいと差別的だ。だったら正しくは、“違っている”だね」
違っている……?
価値観、常識。
人の価値観なんて人それぞれ、とはよく言うし、常識だって国によって違うということも多々ある。
この町という狭いコミュニティでしか生きたことのないわたしには、その違いが実感としてはよくわからないけど、理屈としてはわかる。
それをわざわざ説いているのか。
それとも、わざわざそう説くほどのことが、彼らにはあるのか。
そもそも彼らは、一体、何者なのか。
人間なのか、クリーチャーなのか、あるいはそのどちらでもないのか。
わからないことだらけだった。
「まあ、こんなことを言う私も、実はあんまりよくわかってないんだけどね。連中が私たちに近いながらも、決定的に違うってのだけはわかるんだけど、じゃあその違う存在は“何者か”ってところまでは不明でさ。そこは私も興味の的だから、是非ともあの帽子屋さんたちには話を聞きたかったんだけど」
けど、逃げられてしまった。
帽子屋さんたちの正体。
わたしたちと違う存在。では、彼らはどういう存在なのか。
猫のお姉さんも、そこはわかってないんだ……
「でも、たぶん帽子屋さんたちは、また現れます、よね……?」
「たぶんねー。ま、私んとこに来てくれればいいけど、興味を失ったみたいなこと言っておきながら、またベルちゃんのとこにも現れそうだし、なんとも言えないかな」
そっか……確かに、そうだよね。
帽子屋さんの考えることなんて、さっぱりわからない。聖獣を探している、っていう目的だけはハッキリしてるけど、それにしたって、なぜ探しているのかもわからないし、見つけてどうするのかも不明だ。
もっと言えば、聖獣がなんなのかもわかっていない。
本当に、わからないことだらけだった。
話が進んでも、謎はまるで解明されない。
なんとも理不尽な展開だ。これが小説だったら、怒って本を投げ出してしまいそうなほどに。
「ま、もしなにかあっても、私が駆けつけるから安心していいよ」
「はぁ……あの、お姉さん」
「なにかな?」
「お姉さんは、どうしてわたしを助けてくれたんですか?」
わたしは、湧き出た疑問をぶつける。
正義の味方とか、なんとかって言ってたけど、どうしてわたしを助けてくれるのか。その善意は、どこから来るのか。
別に疑っているわけじゃない。ただ、純粋な疑問だ。
この人は、どんな理由で、わたしたちと関わろうとしているのか。
「んー……それは、まだ話すべき時じゃないかな?」
「え、えぇ……?」
「ごめんね。こっちにも色々あるんだよ。まあでも、強いて言うなら――」
猫のお姉さんは、わたしに背を向けました。
その答えを最後に、この場を去るつもりで。
そして、チェシャ猫レディさんは、宵闇に消えながら、囁くような声で――告げた。
「――憧れ、かな」
デュエマシーンだけ完全書き下ろしということで、デッキも過去の使い回しではなく、ちゃんと考えました。チェシャ猫レディの方は半ば使い回しですが……というかただのダンガンオーですね。
ハンプティ・ダンプティの方は、《オガヤード》を《最終兵ッキー》で変換するデッキ、名付けて最終オガヤード・スペシャルです。コスト15以下ならなんでも出るので、出せないクリーチャーは数えるほどしかいません。
最適解かはさておき、狙いたいのは《イギー・スペシャルズ》。能力で相手のカードを根こそぎマナ送りにできるので、後続の《オガヤード》のコストが大幅に下がります。
まあ、シナジーがあるだけなので、実用性としては無難に《ウェディング》や《ライオネル》の方がいい気もするんですけどね。あるいは《シャングリラ・エデン》とか。
なんにしても、今回は久々に変なデッキを書けてたのしかったです。
それでは、ご意見ご感想、誤字脱字の報告等々、なにかりましたら遠慮なく気軽に送ってください。