デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 大会編も今回で決勝戦です。なんか色々と混沌としていますが、まあ日常回の延長みたいなものなので。


20話「大会だよ ~決勝戦~」

「《ガイギンガ》でダイレクトアタック……です」

「なにもありません、通します。ありがとうございました」

「あ、ありがとうございました……」

 

 あれ?

 対戦が終わっても、なんだかしっくりこなかった。

 夢じゃないかとさえ思う。現実を受け入れられない、という感覚とはちょっと違う。これが現実でいいのか、という疑問。

 席を立って、受付へ。詠さんがいた。詠さんはわたしに気付くと、にっこりと笑みを浮かべる。

 

「あ、小鈴ちゃん……じゃなくて、マジカル☆ベルさん?」

 

 その呼び方は恥ずかしいからやめてほしいです……

 

「君が来たってことは、そういうことだよね。うん、おめでとう!」

 

 詠さんはスコアボードに記入しながら言う。

 わたしがいまいち受け入れられていない事実を。

 

 

 

「――決勝戦、進出だね!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「おめでとう小鈴ちゃん! 次勝てば優勝だね!」

「正直、驚いた。辺境のカードショップのファンデッカーの大会とはいえ、君が決勝戦まで進むなんて……」

「わたしもビックリだよ……」

 

 さっきの対戦が準決勝。その対戦で勝ったということは、つまりは、そういうことです。

 うーん、自分でも信じられないや。

 まさかわたしなんかが、決勝戦まで行けるなんて……思ってもみなかった。

 あんまり実感はわかないけど、ここまで来たんだ。頑張ろう。

 

「そういえば、ユーちゃんも準決勝まで進んでたよね」

「ユーのところなら恋が向かってるよ。ボクらも行こう――」

「……その必要は、ない……」

「ただいまです……」

 

 ちょうどいいタイミングで、恋ちゃんとユーちゃんが戻ってきた。

 だけど、ユーちゃんの表情は暗い。浮かない顔をしている。

 もしかして……

 

「えへへ……負けちゃいました。ごめんなさい、小鈴さん」

「ユーちゃん……」

「相手……S・O・L、だった……」

「ということは、S・O・Lが小鈴の決勝戦の相手ってことだね」

 

 S・O・Lさん。恋ちゃんとユーちゃんを倒した人。

 ここまで来たからには勝ちたいけど、そんな人に、わたしが勝てるのかな……

 

「うぅ……」

「小鈴ちゃん? 大丈夫?」

「うん……たぶん……」

 

 今回はいつもと違うデッキだけど、でも、普段の恋ちゃんはわたしより強いし、ユーちゃんとは同じくらいだけど、霜ちゃんを倒してる。

 普通に考えて、わたしよりもずっと強い人が相手になる。もちろん、ここまで相手してくれた人も、わたしより弱いかって言われたら、決してそんなことはないんだけど。

 でも、なんというか、理屈じゃない不安が押し寄せる。

 どうしよう……緊張、してきた……

 

「ご、ごめん……ちょっとお手洗いに行って来るね……」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「……落ち着いてきた」

 

 やっぱり心が揺れてる時は、一人になった方がいいね。自分一人だけの空間で、ゆっくり、じっくりと自分を見つめて、心を落ち着かせる。

 そうやってると、少しだけ楽になった気がする。

 

「だけど、相手は変わらないんだよね……」

 

 どっちみち決勝戦なんだから、強い人が出て来るのは当然なんだけど。

 重圧が、重いよ。

 時間を確認する。試合開始まで、まだもうちょっと時間がある。

 もう少しゆっくりして落ち着かせたいところだったけど、あんまりギリギリでもみんなが心配するだろうし、そろそろ戻ろう。

 と、わたしが扉を開けたところで、

 

「小鈴!」

「え!? 鳥さん!?」

 

 あまりに予想だにしない存在が視界に映った。

 というか、鳥さんだ。また来たよ。

 

「鳥さん、ここ女子トイレだよ!? 勝手に入って来ちゃダメだよ!」

 

 もっとも、断っていれば入ってもいいわけじゃないし、そもそも鳥さんがオスなのかどうかもわからないけど。

 でも声とか口調とか一人称とか、なんとなく男の子っぽいし、一応、そう窘める。

 それと同時に、疑問も湧いた。

 

「っていうか、どうやって入ってきたの? ここ、窓がないはずだけど……」

「普通に扉の隙間に体を捻じ込んだ。お陰で翼が凄く痛いんだ」

「そっか……大変だったね」

 

 まったく共感できないし同情もしないけどね。というか、わたしの諫言は無視なんだね。

 結局、鳥さんって男の子なのかな? 女の子なのかな? そもそも性別ってあるのかな?

 霜ちゃんみたいな例もあるし、口調とかだけじゃ判断しきれない。

 なんか、思い立ったら気になってきちゃったよ……

 でもそれはとりあえずお置いておこう。

 もはや形だけになるけど、これも一応、尋ねておく。

 

「それで、鳥さんはどうしてここに?」

「どうしてもこうしてもないよ。クリーチャーの反応を感知した。速やかに僕の餌にするよ」

 

 うん、やっぱりね。そうだと思った。鳥さんが現れる理由は、それ以外には考えられない。

 いつもなら、また恥ずかしい格好をしなきゃいけないのかぁ、なんて憂鬱な気分になりながらも鳥さんの言われるがままにクリーチャーを倒しに行くんだけど……

 

「今は、その、ちょっと……」

 

 今だけはダメだ。次は大切な試合――決勝戦がある。

 クリーチャーを放っておくこともできないけど、会場が最高潮に盛り上がっている決勝戦を、不戦敗で終わらせることもできない。

 

「ごめん、鳥さん。わたし、大切な用があるから、今はダメなの……」

「よし、それじゃあ行くよ!」

「わたしの話聞いてた!?」

 

 完全に無視。今日の鳥さんはいつも以上に話を聞いてくれない。

 どころか、早く行くよと急かす代わりのように、わたしの格好をいつもの恥ずかしい、コスプレ染みたふりふりの衣装に着せ替える。

 

「ちょっとちょっとちょっと! こんなところでこんな格好にしないでよ! これじゃあ外歩けなくなっちゃうじゃない! そもそも外に出れないけど!」

「君はなにを言ってるんだい?」

「今は大会の最中だから外に出れないの!」

「別に外に出る必要はないよ」

「えっ? どういうこと?」

 

 外に出る必要はない? でも、クリーチャーが出たって……あぁ。

 まさか、そういうこと?

 わたしの回答に、堪え合わせをするように、鳥さんは言った。

 

「今回現れたクリーチャーは――この建物の中にいる」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「も、戻ったよ……」

「あぁ、小鈴、おかえ、り……いっ!?」

「小鈴さん、その格好……」

 

 みんなの視線が突き刺さる。戻るまでにも、色んな人に見られて、もう顔が火事になりそうなほど熱い。というか恥ずかしい。

 

「……こすずが、その格好……って、ことは……」

「あの鳥肉が来たの? 姿が見えないけど」

「あー……うん。流石にお店の中で鳥さんを放しておくのはまずいから、隠れてもらってるよ」

「隠れてるって、どこに? 鞄の中?」

「いや……すぐに意思疎通できるところにいた方がいいからってことで……その、えっと……」

「? なんだか歯切れが悪いね」

 

 うん、まあ……言いにくいんだよね……恥ずかしいし……

 でもみんななら、いいかな……?

 他の人の視線を見る。誰もこっちを見てない事を確認して、お店の隅っこの陰に移動する。

 そして、見せる。鳥さんの隠れ場所を。

 

「この服、ポケットとかなくて……隠れられる場所がここしかないから……」

 

 恥ずかしい思いを少しだけ押し込んで、グイッ、と。

 胸元を開いた。

 

「っ、いきなり君はなにを……!」

「ふわぁ、おっきいです……」

「……自分から、見せつけていくスタイル……」

「そんな小鈴ちゃんもわたしは好きだよ」

「そうじゃないよ! ここだよ! 鳥さんの隠れ場所!」

 

 隠れ場所は、服の胸元。というか服の中。

 隠れる場所と言われてスカートの中も一瞬だけ候補に挙がったけど、流石に恥ずかしすぎるし、こっちの方が話もしやすいということで、胸の中に埋める形で隠したんだけど……これも、かなり恥ずかしい。というか羽毛がくすぐったいし、ちょっと息苦しい。

 

「苦しいのは僕も同じだよ。呼吸が止まりそうだ」

「文句言わないでよ……わたしだって恥ずかしいんだから……」

 

 お互いに文句を垂れながらの案だ。そもそも鳥さんを隠さなきゃいけないのが厄介だよ。お陰で、ただでさえ恥ずかしい格好にさらに恥ずかしい要素が追加される。もう人生における恥辱の九割くらいは中学生で味わい尽くすんじゃないかってくらい。

 

「物凄い隠し場所だけど、小鈴にしかできないな、これは……」

「……あの鳥肉、いつか絶対殺す。油淋鶏(ユーリンチー)にして飛べない肉塊にしてやる……」

「なんで……油淋鶏……?」

「ちょっとうらやましいです……」

「それで、またクリーチャーが?」

「そうみたい……鳥さんは、会場内にいるって言うんだけど……」

 

 会場内を見回す。

 決勝戦を見るために待機している人。自分の対戦が終わって帰り支度をしている人。大きく分けてこの二種類の人たちがいるけれど、それを分類する意味はないかもしれない。どっちにしたって、今この場で、異常と思えるようなことはなにもないのだから。

 

「……それらしいのは、いない……」

「というか小鈴ちゃん、次の試合どうするの? 決勝戦だよ?」

「う、うーん、そうなんだよね……決勝が始まる前に終わらせるしか……」

「そんな時間があるわけないだろう。いざとなればボクたちが協力するから、とりあえず君は決勝に集中するんだ」

「う、うん……あれ? でもそうしたら、わたしがこの格好になった意味なくない?」

 

 勢いのまま鳥さんにドレスアップされたけど、必ずしもわたしが戦う必要ってなかったんじゃ……

 

「鳥さん?」

「いやいや、君らじゃ相手からの交戦の意志がないと空間が開けないから、どうしても受け身になってしまうんだよ。僕がいれば話は別だけど」

「わたしならいいの?」

「うん。その格好でいる限りはね」

 

 そんな設定は初めて聞いた。あの不思議な対戦する場所はどうなってるのかと思ってたけど、クリーチャーや鳥さんが発生させるものなんだ。鳥さんの言い分だと、わたしもできるみたいだけど……

 

「なんだか話がとっちらかってスッキリしないね。要するに、そこの鳥類はどうしても小鈴に戦ってほしいしそうするしかないと言ってるわけだけど、小鈴には決勝戦が控えてる。そして、肝心のクリーチャーは姿を現さない」

「そんなの、どうしようもなくない? 鳥肉の戯言なんて無視がド安定だよ!」

「そ、そういうわけにも……」

 

 でも、どこにいるのかもわからないクリーチャーを探すのは大変だ。鳥さんが見つけてくれればいいんだけど……

 と、その時、不意に恋ちゃんが声を上げた。

 

「あ……あれ……」

 

 恋ちゃんが指差すと、そこには物凄い人がいた。

 いつぞやのネズミさん――『眠りネズミ』さんほどじゃないけど、インパクトある姿だ。

 背はあんまり高くない。わたしと同じか、それよりも小さいかも。

 だけど、髪はすごく長くて、ユーちゃんくらいあるかな? しかも銀髪。それを一つに縛っている。

 格好は黒いローブみたいだけど、全体的に幾何学的な模様が走っていて、袖とか裾とかにも金の刺繍がある。

 一番特徴的なのは目だ。片方は(ゴールド)、もう片方は(シルバー)のオッドアイ。たぶん、これもカラコンだ。

 明らかに日本人の顔なのに、髪も、目も、服装も、明らかに現代の日本ではお目にかかれないような姿。

 いやまあ、銀髪だけなら、ユーちゃんがいるんだけどね。でもこの子はロシア人とドイツ人のハーフだから。

 もしかしてあの子も、外国人の血が混じってたりするのかな……それにしては、銀髪らしい銀髪だし、顔つきもまったく外国人っぽくないけど……

 というか、あれは俗にいうコスプレというものなんじゃ……

 

「小鈴さん! あの人です! ユーちゃんの準決勝の相手!」

「え!? ってことは、あの人が……」

「ん……S・O・L……」

 

 あれが……わたしの決勝戦の相手……

 正直、決勝戦に出るのも嫌になっちゃいました。あんまり関わりたくないというか、近づきたくないというか……なんであんな格好をして平気でいられるのか、わたしにはわかりません。

 

「あれがS・O・Lかぁ、初めて見たけど、本当に禁断の死神の格好なんだ」

「しにが……え? なに?」

「なんって言ったっけ、月と太陽のなんちゃらで禁断の死神とかいう……まあ、そういう設定だよ」

「設定……」

 

 なんだろう、途端に危ない人って感じがしてきた。

 今日初めて会うS・O・Lさんなる人にちょっと引いてると、急に鳥さんが顔を出した。

 

「小鈴! 彼女だ!」

「え?」

「あの銀の髪の少女から、クリーチャーの気配を感じるよ!」

 

 ……え?

 あの人? あの人に、クリーチャーが?

 えーっと、それって、つまり……

 

「決勝戦の相手(イコール)倒すべきクリーチャー、ってわけかぁ」

 

 クリーチャーを倒すことを選んでも、決勝戦に出ることを選んでも、行き着き先は同じ。

 どう足掻いても、わたしはあの人と関わることを避けることはできないようです。

 

「……決勝の相手が討伐対象か。好都合と言えば好都合なんだろうけど、より事態は面倒くさくなったね」

「え? なんで?」

「彼女と、クリーチャーを倒すために戦うか、決勝戦のために戦うか、って選択をしなくちゃいけなくなる」

 

 最初は霜ちゃんがなにを言ってるのかよく分からなかったけど、少し考えて、理解した。

 クリーチャーを倒すには、クリーチャーと戦うための場が必要だから、少なくとも決勝戦の舞台には立てない。

 結局、話は変わらない。どうしようとも、わたし一人が決勝戦を棄権するか、二人揃って棄権するか、という話でしかない。

 だとすれば、S・O・Lさん自身にも迷惑が掛かっちゃうし、むしろ事態は悪化しているとさえ言える。

 

「……一気にまとめてクエスト消化……って、わけにはいかない……」

「二人とも、普通の人に見えればいいんですけど……」

「確かにね。決勝戦の相手どうしが対戦するって結果は同じだし、それが第三者に危機感がないように伝わればいいわけだから」

「あ、そっか……でも、そんな都合のいいことはできないよね……」

「できるよ」

「え!? できるの!?」

「あ、いや。たぶんできるかもしれない」

 

 かもしれないって……なんなの、この鳥さん。

 

「僕ははあの空間の創造者じゃないから、そういう出力調整は苦手なんだよね……というか守護の奴らは大抵苦手だ……」

「?」

「うん、ともかくだ。君が望むなら、空間の設定を弄ってみるよ。上手くいくかはわからないけど」

「そんなことができるなら最初から言ってよね……」

「できるかわからないからね。君らがなにを問題にしてるのかもよくわからなかったし」

 

 まったく、鳥さんは……

 でも、正直不本意だけど、それでも最高の落としどころは見つけられたかな。

 わたしは決勝戦に出る。そして、そこでS・O・Lさんんに憑りついているらしいクリーチャーも倒す。

 ただでさえプレッシャーな決勝戦に更なる重圧がかかっているようで、いつもと同じことをすると思えば気が楽になるようで、でも鳥さんが不安で……なんというか、もう、なにがなんだかよくわかりません。

 

「ところで小鈴、決勝でクリーチャーを倒すのはいいんだけどさ……」

「? なに?」

「いや……その格好のまま、なのかなって……」

 

 ……あ。

 また、忘れてた。

 そうだ、確かにそうだ。

 決勝戦の舞台でクリーチャーを退治する。しかも、その姿は第三者にも分かるようにして、表向きは普通に決勝戦をやっているよに見せる。

 その方法が一番混乱が少ないだろうけど、そこには個人的な最大の問題がある。

 それは、わたしがあのふりふりの衣装だということ。

 この姿で、大勢の観客の前に立たなければいけないということ。

 想像するだけで恥ずかしい、絶対に嫌だ……

 

「……でも、もう何人にも、見られてるんじゃ……今さら……」

「そ、そういう問題じゃないよっ!」

「小鈴さん、キレイですし、可愛いから、大丈夫だと思いますけど……」

「そういう問題でもなくて……」

「まあ、どうせ相手もコスプレイヤーみたいなものだから、そこまで浮くってこともないだろうけど」

「だからそういうことじゃなくて……」

 

 みんな自分のことじゃないからって……わたしは嫌なのに。恥ずかしいし……

 

「大丈夫だよ小鈴ちゃん。小鈴ちゃんがどうしても恥ずかしいって言うなら、私がなんとかしてあげる」

「みのりちゃん……」

「今さっきいいこと思いついたんだよねー。これなら小鈴ちゃんの恥ずかしさも薄れるかもしれないし、会場も盛り上がるはず!」

 

 ……うん?

 みのりちゃんの目がキラキラしてる。なんだか、わたしが想像している解決方法を提示してくれる気が微塵もしない。

 もしかしてここ、わたしの味方いない?

 

「もう時間もほとんどないし、急いだ方がいいね。それじゃあ、私はちょっと行ってくるよ!」

「あ、みのりちゃんっ」

 

 なにを思いついたのかは分からないけれど、みのりちゃんはどこかへ行ってしまった。

 なんだか不穏な空気しか感じないけれど……

 あぁ、うん、やっぱり、変わらないな。

 いつも通り、流されるように。

 ……行ってきます。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

『始まりました、「Wonder Land (ワンダーランド)交流戦 ファンデッキ大会」決勝戦! 店長の提案により、盛り上がりそうだからって理由で、決勝戦のみ急遽実況することになりました! 実況担当はフロアの長良川詠です!』

『解説役の店長だ。名前は長いから省くぞ』

『若干ぐだぐだしつつ、遂に決勝戦です! ここまで大変でしたね、店長』

『そうだな。思いつきの企画からぐだぐだ進行していったが、ひとまずはその開催を喜ぼう』

『たくさんの参加もあって、皆さんにはとても感謝しています……と、謝辞はこの程度にして、決勝戦です! 対戦するは……えー、なんかプロフを貰ったので読み上げますね』

『参加時にそんなものを受け取ったという報告はなかったのだが』

『ついさっき貰ったんですよ。えっと、決勝戦進出を決めたのは、七つの月を宿し一つの太陽と成す(Septem of Lunas)。陽光浴びし月光神にして、禁断の死神! その名はS・O・L!』

セプテム()オブ()ルナーズ()でS・O・L……英語文法にラテン語混じりは気にするな』

 

 決勝戦。

 わたしの知らないところで、想像以上に盛り上がっていて、物凄く驚きました。

 今までも観戦する人はいたけれども、どっちかっていうとこじんまりと、対戦相手と二人でデュエマしてるって感じだった。

 でも、この人の数と距離。これはもう、対戦相手と二人だけのデュエマって感じじゃない。

 なんて思っていると、選手入場のように、S・O・Lさんが現れた。

 

 

 

「魔道の契約により、我は真名を名乗るわけにはいかぬ。ゆえに我のことはこう呼べ。七つの月を宿す太陽、Septem of Lunas――S・O・Lと!」

 

 

 

 しかもなんか決め台詞っぽいの来た!

 あのコスプレっぽい格好だけでもすごいけど、よくあんな台詞を、こんな大勢の人の前で堂々と言えるなぁ……

 

『そしてもう一人。その対戦相手が……これ本当にあの子が書いたのかなぁ……? えぇっと、巷で巻き起こる珍事件を華麗に解決! 知られざる異世界の魔物(クリーチャー)を退治します! 小さな鈴の音が登場の合図。静かな炎を滾らせ駆けるは、デュエ魔法少女マジカル☆ベル!』

『もはやキャッチコピーだな。うちに売り込む気か?』

 

 うぅ、来ちゃったよ……

 詠さんは首を捻らせてたけど、結局みのりちゃんが書いたよくわからないプロフィールしっかり読んでるし。まあ、だいたい合ってるんだけど。

 決勝戦が始まる直前、みのりちゃんに告げられたことを思い出す。

 

 

 

 ――小鈴ちゃん! 台本を用意したよ!

 ――台本?

 ――さっきS・O・Lと交渉してきて、お互いにコスプレ同士だからって、そのキャラに成り切ってデュエマしようって提案してきたの。

 ――なにしてるのみのりちゃん!? わたしはコスプレじゃないよ!

 ――で、対戦前にキャッチコピーっていうか、プロフィール? の紹介文を入れてもらおうって。ほら、プロレスの実況の前とかにある、あんな感じの。

 ――いやわかんないんだけど……それに、台本っていうのが上手く結びつかない……いつも最後に読むアレ?

 ――いや、私が作った。向こうは成り切りの達人だから、そのままでも様になるけど、小鈴ちゃんは初めてでしょ?

 ――そうだけど……

 ――だから一度、型に嵌めてそれっぽくすれば、あとは勢いで行けるかなって

 ――行けないと思うし、たぶんそれ恥ずかしいやつだよね……

 ――大丈夫! 小鈴ちゃんは可愛いから!

 ――なにが大丈夫なのかわからないよ……

 

 

 

 で、結局押し切られちゃったけど……

 

(ほ、本当にこれ言うの……?)

(ここまで来たんだから、やるっきゃないよ! 大丈夫! 小鈴ちゃんなら可愛いから絶対受ける!)

(そうですよ小鈴さん! 自信を持ってください!)

(自信というか、その、恥ずかしいんだけど……)

(あざと……まあ、でも、相手がS・O・Lだし……いいでしょ)

(小鈴、もう行かないよ。相手を待たせちゃいけない)

(あうぅ……)

 

 みんなから送り出されるというか押し出されて、わたしも進み出る。

 恥ずかしい。何度も言ってるけど、それがまっさきに来る。

 大勢の人。今の格好。そして、この先……想像するだけで、顔から火が出そうです。

 振り返ると、プレゼントを期待する子供みたいに純真無垢な目をしたユーちゃんとみのりちゃん。諦めろとわたしに諭しているかのような無情の目をした恋ちゃんと霜ちゃん。

 うぅ……わ、わかったよ、やるよ!

 みんなの期待、応えてあげるよ!

 あらゆる自分を押し殺して、みのりちゃんに渡された台本の言葉を心の中で反芻。そして、言の葉として紡ぐ。

 

 

 

「清き鈴の音が響く、悪を挫けと鐘が鳴る! 小さな調は大きな炎に! 悪い魔物(クリーチャー)は、いい子になるまで燃やしちゃうよ! デュエ魔法少女マジカル☆ベル! 華麗に可憐に参上!」

 

 

 

 どうしよう。お母さん、ごめんなさい。

 わたし今、生まれて初めて死にたいって思っちゃったよ。

 

『うーん、うちってこんな店じゃなかったと思うんだけどなぁ……この光景を信じられない私がいるけど、今はショップ店員と自分を律して実況します。えー、両選手が出揃いました! 決勝戦の対戦カードは、禁断の死神S・O・L選手と、魔法少女マジカル☆ベル選手の対戦です……自分で言ってて意味が分からないな、これ……』

『色々揺れてるが、大丈夫か?』

『えぇまぁ……と、とにかく、これで最後の決勝戦、開始です! それでは、デュエマ――』

 

 恥ずかしさを抱きつつ席に着いて、遂に始まる。

 この大会最後のデュエマ、決勝戦が。

 

 

 

『――スタート!』

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「協定に従い、聖戦に先立ち互いの戦力を確認する。異次元の獣はいるか?」

 

 いきなりわけのわからないことを言われました。

 もうこの時点で思考放棄したくなるけど、ちょっと待って。考えよう。

 ゲーム開始時に行う確認行為と言ったら……あれかな? 超次元ゾーンのことかな?

 そう解釈して、わたしの超次元ゾーンのカードを見せる。

 

「えっと、超次元はあります。これです」

 

 

 

[小鈴:超次元ゾーン]

《銀河大剣 ガイハート》×1

《勝利のガイアール・カイザー》×1

《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》×1

《勝利のリュウセイ・カイザー》×1

《勝利のプリンプリン》×1

《ブーストグレンオー》×1

《時空の探検家ジョン》×1

《時空の喧嘩屋キル》×1

 

 

 

「承知した。我に異次元の獣は存在せぬ。だが、この領域を展開させてもらうぞ」

 

 そう言ってS・O・Lさんが出したのは、五枚のカード。

 四枚を四角形になるようにくっつけて配置して、その真ん中に五枚目のカードを乗せる。

 

「《FORBIDDEN(フォービドゥン) STAR(スター)~世界最後の日~》――展開! これで我が禁断領域は完成した。終焉の刻を待つがいい」

 

 ……うん、なんだか調子狂うけど、とりあえずやって行こう。

 この五枚のカードが、霜ちゃんたちが言ってた最終禁断のカードだよね……場を大きく圧迫するだけあって、存在感が物凄い。

 みんなが言うには、このカードはゲーム開始時にバトルゾーンに出す、特殊なカード。場に存在する限り、自分はコマンド、イニシャルズ、あるいは名前に《禁断》とあるクリーチャーでしか攻撃できなくなる制約がかけられる。

 それだけだとデメリットしかないけど、このカードは場に出た時に四枚の封印をつけてて、1ターンに一度、自分のコスト5以上の闇か火のコマンドが召喚されると、その封印が外れ、同時に外した場所に応じた能力が発動する。

 そしてすべての封印が外れたら、すごい強力なクリーチャーへと変貌する……らしい。

 恋ちゃんもユーちゃんも、このカードが直接的な敗因になったみたいだし、封印をすべて解かれる前に、勝負を決めたい。

 

「さぁ、先手後手を決定するとしよう」

 

 拳を差し出すS・O・Lさん。じゃんけんは普通にやってくれるみたい。

 妙なところに安堵しながらもじゃんけんをする。わたしはグー、相手はパー。

 先攻を取られちゃった。できれば先攻を取って、先制したかったんだけど……

 

「先手は頂いた。《月の死神ベル・ヘル・デ・スカル》を魔力に変換」

 

 わけのわからない独特の言い回して、S・O・Lさんはマナにカードを置く。たぶんマナチャージするって言いたかったんだよね?

 のっけから困惑していると、胸元でもぞもぞ動く感触。鳥さんだ。口をパクパクさせてなにか言ってる。

 

(小鈴! あれだ、あのクリーチャーだ!)

(え? さっきマナに置いたクリーチャー?)

(あぁ。あのクリーチャーが、彼女に憑りついている)

(……確かに、“見える”けど、あの人って普段からあんな感じみたいだよ?)

 

 恋ちゃんらが言うには、S・O・Lさんはいつもああいう口調らしい。にわかに信じられないけど、こんな人の多いところでも堂々と喋ってるんだから、認めざるを得ない。

 そして、だからこそ、クリーチャーが憑りついているせいでおかしいわけではないと思う。

 というかこの人、一見するとまったくクリーチャーに憑りつかれているかどうかの区別がつかないんだよね。

 

(確かに、あれはクリーチャーのせいで異常なわけではない。むしろ、クリーチャーの異常は、現時点では感じられない。僕が驚いているのは、彼女とクリーチャーとの影響シンクロ率だ。ほぼ完全に同調してて、本人の意識がそのままになってる)

(シンクロ……?)

(簡単に言うと、クリーチャーと気が合うかどうかだ。気が合えば、意識的だろうと無意識的だろうと、友好的な共生関係を築ける)

(それって別に問題ないんじゃ……)

(だとしてもクリーチャーはクリーチャー、いつどこで火種になるかわからない。ここで排除しておくことは無意味じゃないよ)

 

 鳥さんの言うことももっともだけど、だからって今じゃなくても……とも思う。

 だけど、ここで倒しておかなかったらずっと憑りついたままってこともあり得るし、そうなる前に、って考えると、仕方ないのかな。

 

「どうした? 貴様の番だぞ」

「あ、はい。ごめんなさい……えっと、《ノロン⤴》をマナチャージ。ターン終了です」

 

 

 

ターン1

 

S・O・L

場:なし

盾:5

マナ:1

手札:4

墓地:0

山札:26

 

FORBIDDEN STAR

左上:封印

左下:封印

右上:封印

右下:封印

 

 

マジカル☆ベル(小鈴)

場:なし

盾:5

マナ:1

手札:5

墓地:0

山札:29

 

 

 

「では、我が支配時間だ。《死神スクリーム》、この魔術概念を魔力に変換。そして変換した魔力を還元。二つの魔力を生み出し、呪文詠唱《ダーク・ライフ》! 魔力を蓄積、及び冥府に供物を捧げる」

 

 本格的になにを言ってるのかわからなくなってきた。恋ちゃんとユーちゃんは、よくこんな人とデュエマできたね……

 でも、なに言ってるのかはよくわからないけど、行動だけなら実際にちゃんとカードを動かしてくれるからわかる。マナと墓地にカードを一枚ずつ増やした。マナと墓地を増やす戦略かな?

 

「わたしのターン……《熱湯グレンニャー》を召喚して、ターン終了……」

 

 

 

ターン2

 

S・O・L

場:なし

盾:5

マナ:3

手札:3

墓地:2

山札:23

 

FORBIDDEN STAR

左上:封印

左下:封印

右上:封印

右下:封印

 

 

マジカル☆ベル(小鈴)

場:《グレンニャー》

盾:5

マナ:2

手札:5

墓地:0

山札:27

 

 

 

「再び我が支配権を得た! 四つの魔力を濃縮解放! 我が声に応えよ、《社の死神 再誕の祈(リバース・アイ)》!」

 

 4マナをタップして、クリーチャーが出て来た。自然文明のクリーチャーだ。

 S・O・Lさんはそのクリーチャーを召喚するなり、墓地に置かれた二枚のカードを手に取った。

 

「《再誕の祈》の力により、我が冥府に捧げた供物を魔力に変換する」

「っ、2マナも増えた……!?」

「これで我が支配の時間は一時停止する。貴様の力を見せてみろ」

 

 まだ3ターン目なのに、もう6マナなんて……先制するはずが、これじゃあ追いつけないかも。

 

「……《ボーンおどり・チャージャー》を唱えます。山札から二枚を墓地に置いて、チャージャーをマナへ……ターン終了です」

 

 

 

ターン3

 

S・O・L

場:《再誕の祈》

盾:5

マナ:6

手札:2

墓地:0

山札:22

 

FORBIDDEN STAR

左上:封印

左下:封印

右上:封印

右下:封印

 

 

マジカル☆ベル(小鈴)

場:《グレンニャー》

盾:5

マナ:4

手札:4

墓地:2

山札:24

 

 

 

「ほぅ、そうか。そのような策謀を巡らせているか……ククッ、愉快な奴だ」

「は、はぁ、どうも……」

「では、我が支配の時間だ」

 

 S・O・Lさんは口の端を釣り上げて、ニヤリと微笑む。

 策もなにも、チャージャーで墓地とマナをちょこっと増やすことしかできなかったんだけどな……

 

「貴様の策謀は見えた。ならば次は、我が力の片鱗を見せてやろう。眼孔を開け、魔導の少女よ」

「え、えっと……はい……」

 

 たぶん、しっかり見ておけ、みたいな意味なんだろうけど、流石にこんな場でよそ見はできないよ。

 S・O・Lさんはマナチャージすると、マナのカードを六枚倒して、手札を一枚切る。

 同時に、なめらかに詠うように言葉を紡ぐ。

 

「捧げる魔力は()、刻む数字も()! しかして求める命は拾参(ⅩⅢ)! 魔天に革命の証を残せ! 其の剣は暗雲を裂き、昏き刃は闇夜を斬る! 満天の星々さえも喰らえ、革命の使徒よ!」

 

 ……口上、長いなぁ。

 

「汝の名を告げる。我が召喚に応じろ――《魔天斬 ドゥームズ》!」

 

 長い前口上が終わって召喚されたのは、闇のクリーチャー。

 どんなクリーチャーだろうと思っていると、なにも言ってないのにS・O・Lさんは説明し始めた。

 

「此奴は強欲でな。召喚に応じる代償として、多大なる命を要求する。資源、資産、生命――()の数字を示し、その代償を払わなければならない」

「……?」

 

 本格的に言ってる意味がわからなくなってきた。

 

「その前に、だ。伍を超越する数字と黒き闇を宿す悪魔の使徒が召喚に応じたことで、禁断の領域の封印が一つ、解放される!」

 

 ! このクリーチャー、よく見たらデーモン・コマンドだ。

 コストは6、そして闇のコマンド。

 《FORBIDDEN STAR》の封印が一つ、外れる。

 

「左上の封印を解放!」

 

 S・O・Lさんが外した封印は、左上。

 あのカードは、封印を外すたびに効果が発動するって言ってた。

 確か、左上を外した時の効果は――

 

「並び立つ四つの()。惰弱な命は潰える定め。消えるがいい、炎水の戦猫よ!」

 

 ――パワー1111以下のクリーチャーを一体破壊する。 

 なんで1000以下とかじゃなくて、1のゾロ目なのかは気になるけど、とにかく小型クリーチャーを破壊する効果だ。

 うーん、ここで《グレンニャー》が破壊されちゃうのは、地味だけどちょっと困るかもしれない……

 

「まだ終わらぬ。革命の悪魔よ、冥府に捧ぐ我が力よ、永劫の未来を繋ぐ我の糧となれ!」

 

 封印解除に続いてS・O・Lさんが取った行動は、山札の上から六枚を墓地に送るということ。

 これが《ドゥームズ》の能力なのかな。たった一体で六枚。その墓地をどう使うのかはわからないけれど、たくさん墓地を増やすってことは、それだけなにかに利用するはず。注意しなきゃ。

 

「支配時間停止、一時凍結に入る……さぁ、抵抗して見せよ。精々、我を愉しませるがいい、魔導の少女よ」

「は、はい、わたしのターン……」

 

 とは言っても、《グレンニャー》が破壊されて、ちょっと計算が狂っちゃった。

 大したことはできそうにないな。

 

「……もう一度、《グレンニャー》を召喚……ターン終了です」

 

 

 

ターン4

 

S・O・L

場:《再誕の祈》《ドゥームズ》

盾:5

マナ:7

手札:1

墓地:7

山札:22

 

FORBIDDEN STAR

左上:解放

左下:封印

右上:封印

右下:封印

 

 

マジカル☆ベル(小鈴)

場:《グレンニャー》

盾:5

マナ:5

手札:4

墓地:3

山札:22

 

 

 

「我が時間だが……まだ刻が満ちていない。魔力蓄積のみで終えよう」

 

 あれ? なにもしてこない?

 これは、もしかしてチャンスかも。

 

「これで出せるね。わたしの、切り札」

 

 このカードを見つけた時に、なにかがわたしの中でつながった。世紀の大発見、なんて大仰なものではないけども、わたしの中では大きな発見だった。

 霜ちゃんが、自分だけのコンボを見つけた時の快感がたまらないって言ってたけど、それに近いのかもしれない感覚。

 まあ、デッキを組むのには一役買ってくれたけど、お陰でユーちゃんらしさが闇文明と墓地を使うってくらいになっちゃったのが、ちょっと残念なんだけど。

 なんにせよ、相手の動きも止まってるし、仕掛けるなら今だね!

 

「わたしのターン! マナチャージして……」

 

 本当なら前のターンに使えたのに、と思いつつマナゾーンにカードを置くと、なにかが視界に映る。

 なんだろ。みのりちゃんたちが、なにか出してる。

 

(え? な、なに? カンペ……?)

 

 観客に紛れて、凄くひっそりと出してるけど、こういうのって反則なんじゃ……

 一枚の紙に文字が結構書き込まれてて、かなり見づらいけど、わたしの視力なら辛うじて読めた。えーっと……っ!?

 

(な、なに言ってるのみんな……!?)

 

 実際には言ってないけど、抗議したくなった。こんなの台本になかったよ。

 視線の先には、期待の眼差しで瞳をキラキラさせているみのりちゃんとユーちゃん。いつもと変わらず無表情の恋ちゃん。諦めを促すように首を横に振る霜ちゃん。

 どこかで見覚えのある光景だ。

 

「どうした? 魔力を溜めているのか? 我は一向に構わんが、あまり時間を費やすと、少々退屈だぞ?」

 

 追い打ちをかけるようなS・O・Lさんの言葉。

 今まで恥ずかしいからあえて言及しなかったけど、今のこの対戦の構図がお分かりでしょうか?

 S・O・Lさんは禁断の死神という異名? で通っている、銀髪金眼の女の子。

 そしてわたしは、クリーチャーと戦うための、ふりふりふわふわなあの衣装。

 そう。パッと見、どっちもコスプレなんです。

 相手は意味不明な言葉を並べているとはいえ、キャラになり切っている。

 わたしは、普通にカードを出してるだけ。

 最初こそ名乗りを上げたけど、その勢いはそれっきり。

 この大会は、楽しむための大会。一番を決めるとか、強さを求めるとか、そういうことが重要視されるわけではない。どれだけ皆が楽しめるか、幸せになれるか、熱くなれるか、盛り上がれるか、ということに重点が置かれている。

 穿って言ってしまえば会場が沸きさえすればそれでいいわけで、さらに逆に言えば会場を沸かせるならなんでもいい。もちろん、最低限の節度は守るべきだけど。

 事実、相手の人はデッキや対戦だけじゃなくて、格好、口調、立ち振る舞いで、場を盛り上げている。

 もう会場はS・O・Lさんの作り出した空気に支配されている。わたしがいつも通りに振舞って、縮こまって、萎縮してたら、その温度差も観客の人たちに伝わっちゃうと思う。

 ……考えれば考えるほど、わたしだけが浮いてる気がしてきた。

 

(これだけ盛り上がってて、わたしだけ素のままっていうのも変なのかな……うぅ)

 

 理屈で考えても、心理的に考えても、状況を鑑みても、わたしが間違っているような気がしてならない。

 妨げるのは、わたしの中の理性と、羞恥心と、あとなんか、わたしの沽券みたいなもの。

 

「先刻から幾度と硬直しているが、どうした? 我が魔の気に当てられたか?」

 

 S・O・Lさんが呼びかけてくる。たぶん、急かしてるんだろうなぁ。その口振りも成り切ってて、様になってる。

 早くカードを使わないと。進行を止めちゃうのが一番ダメなことだから。

 だけど、みんなの目が、とても痛い。

 どうすれば……

 

「マナチャージ! そして5マナで――」

 

 ……えぇい、ままよ!

 わかったよ! やればいいんでしょ! やれば!

 覚悟を決めて、色々振り切って、というか投げ捨てて、なげうって、カードを切る。

 最初に恥ずかしい思いをしたし、こんな格好で大勢の人の前に出てるんだから、今更と言えば今更なんだ。

 もうどうにでもなっちゃえ!

 

「死神とか、悪魔とか、そんな悪い子にはお仕置きしちゃうんだから! いっくよー! マジカル☆リバイバル! 《狂気と凶器の墓場(ウェボス・グレイブ)》!」

 

 勢いのまま、心を無にして、山札の上から二枚を墓地に落とす。

 ところで、死神や悪魔を悪い子扱いしてるけど、わたしが唱えたこの呪文も、結構禍々しいよね?

 《狂気と凶器の墓場》の効果で墓地を増やして、墓地からコスト6以下の進化でないクリーチャーを復活できる。

 出すのは、あらかじめ墓地に仕込んでいたこの子!

 

「清く麗らかなわたしの相棒、《魔法特区 クジルマギカ》を復活! マジカル☆エボリューション! 《グレンニャー》からNEO進化だよ!」

 

 《狂気と凶器の墓場》は進化クリーチャーを出すことはできないけど、NEOクリーチャーはNEO進化させなければ、進化クリーチャーとしては扱われない。逆に、場に出す時に進化させることが出来れば、進化クリーチャーになれる。

 倒されちゃうのが怖かったから前のターンには使えなかったけど、ここで一気に攻める!

 

「攻撃するよ! 魔導大海要塞《クジルマギカ》! 《クジルマギカ》の力で、魔導砲(マジカル☆カノン)発射! もう一度やっちゃうよ! マジカル☆リバイバル! 《狂気と凶器の墓場》!」

 

 《クジルマギカ》の攻撃に合わせて、《クジルマギカ》を呼び戻した《狂気と凶器の墓場》が、再び唱えられる。

 《クジルマギカ》は手札から唱えた呪文を、もう一度墓地から撃てる強みがある。本来ならマナが足りなくて、《クジルマギカ》を出してすぐに同じことはできないけど、呪文の効果で《クジルマギカ》を出したのなら別。その呪文をもう一度唱えればいいんだから。

 連続してクリーチャーを出す。普通に出した方が手っ取り早いかもしれないけど、この連続復活、そして連続攻撃に、大きな意味があるんだ。

 

「復活! もう一人のわたしの相棒。熱く燃える龍戦士――《龍覇 グレンモルト》!」

 

 こっちも、あらかじめ墓地に仕込んでいた、わたしの切り札。

 さぁ、これで準備は整ったよ!

 

「《グレンモルト》! この剣をあなたに――《銀河大剣 ガイハート》をセット、ブラッシュアップ! 魔法銀河戦士《グレンモルト》!」

 

 ところでこれ、どういう基準で名前つけられてるの?

 可愛い系だったり、カッコイイ系だったり、なんだか色んなコンセプトが混在してて、混沌としてるように感じるんだけど……誰のセンスなんだろう。

 

「これで完成! わたしの必殺陣形、|魔砲龍剣解放陣《マジカル☆ドラゴニアンズ・フォーメーション 》! そして《クジルマギカ》の攻撃は続くよ、マジカル☆カノン! 悪い心を、撃ち抜けーっ!」

「ふん、なかなかの魔力だ。それは盾で受ける!」

 

 相手は変わらず、どこか物々しい振る舞いを続けている。

 ……これはこれで、温度差がすごいね……相手なりに乗ってくれてはいるんだろうけど、全然演技の方向性が違うから、これもまた、カオスだ。

 とりあえず、二枚のシールドをブレイクする。この後に《グレンモルト》が続いて、その攻撃が通れば、《ガイギンガ》に龍解する。

 このターンにとどめは刺せないけど、相手のシールドをゼロにした状態で《ガイギンガ》が残るから、そのまま押し切っちゃうよ!

 と、思ったけれど、

 

「……かかったな」

「え?」

「謀略、策略、計略、智略……あらゆる戦略を駆使した結末。我が陥穽に嵌った、魔導の少女よ」

 

 ブレイクした二枚のシールドを掲げつつ、S・O・Lさんは不敵に笑う。

 そして、割られた二枚のシールドのうち一枚を、場に放った。

 

「今こそ出陣の時! 夜天より来たれ、月光を浴びし死神よ! 《月の死神ベル・ヘル・デ・スカル》!」

「S・トリガー……! しかも、あのクリーチャーは……!」

 

 今回の目的のクリーチャー。

 本人が場に出ても、実体化するようなことはない。完全に、今の対戦の形に沿っている。

 鳥さんは、同調してるとかなんとかって言ってたけど、クリーチャーが大人しいのも、その影響なのかな?

 憑りついていても、宿主がやりたいと思っていることに従事する、みたいな……わかんないけど。

 でも、どうあったとしても、このクリーチャーを退治するためにこの人に勝たなきゃいけないんだよね。それは変わらない。

 こうして普通に対戦してると、本来の目的を忘れちゃいそうになるけど、気を引き締めなきゃ。

 

「まず、《ベル・ヘル・デ・スカル》の召喚に呼応し、禁断の領域に架せられた封印を解放させる。右上の封印を解放!」

 

 二つ目の封印が解かれちゃった……これで残る封印は二つ。あと半分だ。

 

「さらに《ベル・ヘル・デ・スカル》の力を行使する。此奴の力で、我が冥府の供物、または魔力となった人柱を取り戻すことができる。冥府より舞い戻れ、《威牙の幻ハンゾウ》!」

 

 墓地から一体のクリーチャーが手札に戻った。

 あれは確か、ニンジャ・ストライクで出るシノビのクリーチャー。

 場に出たら、クリーチャーのパワーを6000下げるんだよね……どうしよう、《グレンモルト》が破壊されちゃうから、迂闊に攻撃できないや……

 

「……ターン、終了……」

 

 

 

ターン5

 

S・O・L

場:《再誕の祈》《ドゥームズ》《ベル・ヘル・デ・スカル》

盾:3

マナ:8

手札:3

墓地:7

山札:14

 

FORBIDDEN STAR

左上:解放

左下:封印

右上:解放

右下:封印

 

 

ベル(小鈴)

場:《クジルマギカ》《グレンモルト+ガイハート》

盾:5

マナ:6

手札:3

墓地:5

山札:18

 

 

 

 結局、わたしは怖気づいて攻撃の手を止めちゃった。でも、攻撃しても《グレンモルト》が破壊されちゃうのは目に見えてる。次の《狂気と凶器の墓場》がいつ引けるかもわからないし、ここは一旦身を引こう。

 わたしのターンが終わって、S・O・Lさんのターンに移る。

 

「苦難の刻を耐え忍び、我が支配の時間だ。魔力を蓄積、そして――七つの魔力を吸収、濃縮、放出!」

 

 そう言って、S・O・Lさんは七枚のマナをタップする。

 そして、出て来るのは、

 

「無敵を叫び、痛苦を謳い、呪詛を詠む死神よ! 汝の名を告げる。我が召喚に応じよ! 《無敵死神ヘックスペイン》!」

 

 また、死神の名を冠する黒と緑のクリーチャーが現れた。

 たぶんこのクリーチャーもデーモン・コマンド。そして、7マナ支払って出て来たってことは……

 

「まずは封印を解放だ。左下の封印を解放!」

 

 やっぱり、封印がまた一つ解除される。

 これで残された封印はあと一つ。いよいよ後がなくなってきちゃった。

 

「そして、封印が解き放たれし波導。その悪意、害意、滅亡の意志を受けよ! 禁断の力を授けよう――《魔天斬 ドゥームズ》!」

 

 剥がした封印を墓地に落としつつ、S・O・Lさんは《ドゥームズ》を指さす。

 えーっと、効果の対象にする、って意味なのかな?

 

「魔天の使徒には、撃滅の力が授けられた。四つ並んだ()の数字。それが此奴の力となる」

「……あの、カード、見てもいいですか……?」

「構わん。粗野な所作による力の暴発さえなければな。好きにするがいい」

 

 乱暴に扱わなければいいよ、って言ってるのだと解釈して、効果が書かれているカードを一枚手に取る。

 ふんふん、左下の封印を解くと、自分のクリーチャーにパワーアタッカー+2222を与えるんだね。理解したよ。

 

「あ、ありがとうございました。返します」

「承知した。戦闘続行、しかしてこれが、この刻における最後の力の行使となる! 《ヘックスペイン》! 貴様の力を示せ! 参巡予知(ドライ・センス・フォーチュン)!」

(なんか技名来た!)

 

 必殺技の名前っぽいものを叫んで、S・O・Lさんは山札の上から三枚を見る。

 いや、わたしもそれっぽいのは口にしたから、まあわかるんだけど……

 

「《ヘックスペイン》は、三刻先の未来を見通す千里眼を持っている。それだけではない。その未来を……使い潰すのだ」

(たぶん三刻って使い方間違えてるけど……いいや、もう)

 

 もう彼女の発言を理解しようとすることは諦めたよ。行動自体はわかるし。

 

「ふむ、このような未来……では、一刻先の未来は魔力へ」

 

 三枚の中から一枚を抜き取る。《霞み妖精ジャスミン》がマナに置かれた。

 

「二刻先の未来は、冥府へ」

 

 次にもう一枚が引き抜かれて、《ベル・ヘル・デ・スカル》が墓地に落とされる。

 

「三刻先の未来は……我が知識、我が手元へと置いておこう」

 

 最後に残った一枚は手札へ。

 登場と同時に、山札の上三枚をそれぞれ、マナ、墓地、手札にカードを一枚ずつ移動させるクリーチャーみたい。

 なんか、7マナも払って出したわりには、地味な能力だね……

 

「ふむ。では余力で……《ジャスミン》。自壊せよ」

 

 残ったマナで《ジャスミン》を召喚して破壊、ついでのようにマナも増やした。

 うーん、もうかなりマナも増やされちゃったし、かなり後手後手になっちゃったな……まだ攻め切れるか、ちょっと不安です。

 

「さぁ、烽火を上げよ! 革命の使徒よ。貴様の黒刃で、あの生きた魔法城砦を断罪せよ!」

 

 《ドゥームズ》をタップして、《クジルマギカ》を指さすS・O・Lさん。

 えーっと、これはたぶん、攻撃って意味だよね。

 《クジルマギカ》のパワーは6000。《ドゥームズ》も6000だけど、このターンはパワーアタッカーでパワーが2222上昇してるから、相手のパワーは8222。《クジルマギカ》の負けです。

 うぅ、《クジルマギカ》が破壊されちゃった……このデッキの中核を成す切り札だから、いなくなると困る……

 

「我が支配時間は、またも一時凍結だ。少し眠る。貴様の時間、その僅かな時流の中で、存分に戦うがいい」

 

 たぶんこれはターン終了を宣言したんだと思う。

 いちいち言い回しが独特だから、判断に時間がかかるけど……それもだいぶ慣れてきちゃったなぁ。

 

「わたしのターン……」

 

 攻撃を止められちゃってから、すっかり勢いがしぼんでしまったわたし。もうキャラもぶれぶれで、なにがしたいのか。そもそもわたしのキャラってなんだっけ?

 しかも、その失速をあざ笑うかのように、引きもあまりよくない。

 

「う、うーん……5マナで《超次元ボルシャック・ホール》を唱えま……唱えるよ。《ベル・ヘル・デ・スカル》を破壊して、《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに……これでターン終了」

 

 

 

S・O・L

場:《再誕の祈》《ドゥームズ》《ヘックスペイン》

盾:3

マナ:11

手札:2

墓地:11

山札:9

 

FORBIDDEN STAR

左上:解放

左下:解放

右上:解放

右下:封印

 

 

ベル(小鈴)

場:《グレンモルト+ガイハート》《勝利のリュウセイ》

盾:5

マナ:7

手札:2

墓地:8

山札:17

 

 

 

 結局、大したことはできずにターンを終えてしまった。

 早く攻め倒したいけど、《クジルマギカ》はやられちゃったし、《グレンモルト》は下手に動けない。

 ここから、どう攻めていこうか……

 

「我が刻が訪れた……永い刻であったな。悠久とも、永劫とも呼べる、永久の時流を感じたぞ」

(確かに色々あったけど、そんなに時間経ってないんじゃ……)

「さぁ、この刻は満ちた。我が蓄積した魔力の総てを解き放て!」

 

 ……これって、まずいのかも。

 尊大な態度と大仰な口振りに惑わされそうになるけど、ここまでS・O・Lさんの動きは、正直に言ってかなり大人しかった。やってることはマナや墓地を増やす程度で、切り札らしい切り札も出ていない。

 それは、切り札を出すために時間がかかる。それくらいに強力な切り札を出すための準備だと考えられる。

 けど、いつまでも準備しているはずがない。相手のマナはもう10マナを超えてるし、そろそろ動き出してもおかしくない頃だ。

 

()の数字を数えよ。そして解放せよ! ここに魔神降臨の儀式を執行し、禁断の秘術を詠唱する!」

 

 わたしの考えを証明するかのように、S・O・Lさんはマナを倒し、手札を切る。

 十枚のマナに対し、たった一枚のカードを、解き放った。

 

「轟け、蠢け、蝕め。其は血塗られた魔滅の神地なり――《大地と悪魔の神域》」

 

 それは、呪文だった。黒と緑に彩られた、10マナという莫大なコストのかかる、、大きな呪文。

 二桁に届くような大きなマナコストの呪文なんて、霜ちゃんがたまに使う火の呪文くらいしか思い出せない。

 あの呪文は一気にシールドを吹き飛ばすような攻撃的な効果だったけど、この呪文は、なにをするんだろう。

 

「さぁ、大地へと還れ、我が(サーヴァント)たちよ!」

「え……!? クリーチャーが、全部マナへ……!?」

 

 その行為に、まず驚いた。

 S・O・Lさんは自分のクリーチャーをすべて、マナに送ってしまった。

 せっかく出したクリーチャーなのに、それを場から退けちゃうんだ……でも、それだけじゃないはず。

 もしそれが代償なのだとしたら、それだけの強力な効果が控えていると考えるべきだ。

 

「此奴らの命と引き換えに、我は大地と取引をする。それは一体の悪魔、そして一柱の魔神を呼び起こす契約。この場が、この大地が、神の領域であると定義するために、総ての生命を、魔力を、供物として捧げよう!」

 

 相手の場がまっさらになったところで、S・O・Lさんはマナゾーンからカードを二枚、拾い上げる。そのどちらもがクリーチャー。

 ……まさか。

 

「まずは土壌を汚染する。《ベル・ヘル・デ・スカル》! 第一の召喚に応じよ! 魔神たる覇王の礎となれ!」

 

 わたしの想像通り、マナから拾ったクリーチャーをバトルゾーンに叩きつけてきた。 

 だけど出て来たのは《ベル・ヘル・デ・スカル》。それほど強いクリーチャーじゃない。

 出て来るのがこの程度なら大丈夫、と安堵したのも束の間。

 そんな安心は一瞬で吹き飛ばされる。

 

「第二の召喚に応じよ! 最高位なる覇道の魔神! 太古よりその名を刻む、隠遁せし暗黒の巨神よ! 命の生贄は捧げた、魔の霊力は供えた、ゆえに汝の亡骸は死霊の声で満たされた! 儀式は完了だ。暗闇の黒雲より出でよ! 復活し、降臨し、そして君臨せよ! 大悪魔にして魔神すらをも統べる始祖の魔王――黒き覇王よ!」

 

 なんだかさっきまでよりも長くて、気合が入っているように思える口上の後、二枚目のカードが叩きつけられる。

 ただしそれは、《ベル・ヘル・デ・スカル》を下敷きにして、現れた。

 

 

 

「汝の復活を待ち侘びていたぞ――《覇王ブラック・モナーク》!」

 

 

 

 《ベル・ヘル・デ・スカル》から進化して現れたのは、コスト10の進化クリーチャー。

 たった一体なのに、すごい威圧感……!

 ユーちゃんの《キラー・ザ・キル》でも6コストなのに、それを遥かに上回る超巨大なクリーチャーに、思わずたじろいでしまう。

 

「《ベル・ヘル・デ・スカル》の力により、大地より《ハヤブサマル》を我が手中に」

 

 S・O・Lさんは進化元にした《ベル・ヘル・デ・スカル》を示しながら、マナのクリーチャーを回収する。

 あの呪文は、マナゾーンのクリーチャーを一気に二体踏み倒す効果――たぶん、進化クリーチャーを進化元と一緒に出せる効果だ――があり、《ベル・ヘル・デ・スカル》は出してすぐに進化したが、場に出たことには変わりないようだ。その能力は、ちゃんと使える。

 っていうか、またシノビを手札に加えられちゃった……押し切りたいのに、地味に防御を固められちゃってるよ……

 

「これでは終わらぬ。《ブラック・モナーク》よ、貴様の力を示せ!」

 

 今まで、盤面では静かに立ち回っていたS・O・Lさんが、遂に攻撃に出る。

 今しがた登場したばかりの《ブラック・モナーク》を横向けに倒し、攻撃宣言。そして、

 

「《ブラック・モナーク》の勅令だ。冥府の門よ、開け! そして甦れ! 《ベル・ヘル・デ・スカル》! 《FORBIDDEN(フォービドゥン) ~禁断の星~》!」

 

 今度は墓地のクリーチャーを二体拾い上げて、バトルゾーンに出す。また《ベル・ヘル・デ・スカル》だ。そして、もう一体のクリーチャーは……?

 進化クリーチャーではなく、普通のクリーチャーを二体、場に出した。

 

「《ベル・ヘル・デ・スカル》の力で、《大地と悪魔の神域》を我が手に。追従儀式準備を進行。《ブラック・モナーク》よ、打ち破れ! 貴様の進軍を阻む障壁を!」

「T・ブレイカー……!」

 

 強烈な一撃だ。たった一回の攻撃で、シールドを三枚も削り取られてしまった。

 しかも、それだけでは終わらない。

 

「《FORBIDDEN ~禁断の星~》! さらに進軍せよ! そしてその力で、我が禁断の領域の力を受け、流星の炎龍を抹消!」

「っ、《勝利のリュウセイ》が……」

「さらに、抹消した命を糧に、新たな命を生み出せ! 進化せよ、《ベル・ヘル・デ・スカル》――《悪魔神ドルバロム》へ!」

 

 立て続けに放たれる、大型クリーチャーの踏み倒し。そして進化。

 場のクリーチャーがいなくなったと思ったら、それらのクリーチャーはまったく別の、超大型クリーチャーとなって、わたしに襲い掛かる。

 

「不毛の大地を創り出せ! 《ドルバロム》!」

 

 二度目の進化は、また別のクリーチャーだった。

 進化クリーチャーで、このターンに攻撃できるクリーチャーが増えたっていうだけでも困るんだけど、このクリーチャーの力はそんなものではなかった。

 

「《ドルバロム》の力を見るがいい! 我々の大地から、黒き色に染まらぬ土地を汚染し、腐敗させる」

 

 そう言うとS・O・Lさんは、またマナゾーンのカードを何枚か掴んで、今度はそれを墓地に投げ捨てる。

 残されたマナは、ほぼ黒一色。逆に捨てられたカードは、黒みがまったくがいカードばかり。

 まさか、闇文明以外のマナを、全部破壊する能力……!?

 目を凝らしてカードをよく見てみるけど、実際そう書いてある。どころか、場の闇以外のクリーチャーも破壊されてしまうらしく、《グレンモルト》も破壊されちゃう。

 今回は闇文明を使ってたから、思ったよりも被害は大きくなかったけど……もしいつもの、闇文明の入ってないデッキだったら、もう0マナになってた。それを思うと、ゾッとする。

 

「な、なんて激しい攻撃なの……」

 

 たった一枚のカードから、ほんの一瞬のアクションから、これほどの激動が起こるなんて。

 破壊、破壊、破壊。そしてまた破壊。

 ユーちゃんと対戦する時よりも、より強く、激しく、荒々しい、破壊の嵐だ。

 破壊の後には新たな命が芽生えるが、その命はわたしには向かない。すべての生命力が剥奪されてしまったかのよう。

 そう、まるで、命を刈り取られているみたい。

 悪魔、魔神。月のように静かだと思えば、太陽のように荒ぶり蹂躙する。そして相手の命を根絶やしにする、死神。

 場もマナもボロボロにされたところに、《FORBIDDEN》のTブレイクが放たれる。

 これでシールドもゼロ。次には《ドルバロム》がとどめを刺さんと構えている。

 けれど……!

 

「S・トリガー! 《地獄門デス・ゲート》!」

「っ、ちぃ、まだ足掻くか……」

「《ドルバロム》を破壊! そして……あ、えっと、怖い魔神は、あの世に帰ってもらうよ! デスゲート・リザレクション!」

 

 急にカンペを出されたから、取って付けたように咄嗟に言う感じになっちゃったけど……まあそれはいいや。

 なんとかS・トリガーでダイレクトアタックだけは防げた。それに、逆転の芽も、ちょっと見えてきたよ。

 

「さぁ、戻っておいで《クジルマギカ》! ゲートオープン! マジカル☆カウンター・リバイバル!」

 

 ダイレクトアタックを阻止しつつ、《クジルマギカ》を場に戻せた。これは大きいよ。

 《ドルバロム》がコスト10と、かなり大型のクリーチャーでよかった。じゃなかったら、こうはいかなかったよ。

 

「小癪な……だが、面白い。最後まで足掻け、魔導の少女よ」

 

 そして、S・O・Lさんのターンは終わる。

 わたしのターンだ。

 なんとか凌げたと言っても、わたしのシールドはゼロで、もう後がない。慎重に動かなきゃ。

 

「わたしのターン……まずは、5マナで《超次元リバイヴ・ホール》! 戻っておいで、《グレンニャー》! そして行って、《ブラック・ガンヴィート》! お休み中の《ブラック・モナーク》を破壊!」

「覇王の支配はここで終焉か……しかしその爪痕は深淵に届くほど刻まれた」

 

 そうなんだよね。これ以上の追撃をされたらもう持たないから《ブラック・モナーク》は破壊しなきゃいけないんだけど、《ブラック・モナーク》一体からここまでの状況を作り出されているから、それだけあのクリーチャーが如何に強大であるかが伝わってくる。

 本当、たった一撃で蹂躙されてしまった。

 だけど、まだわたしは負けてないよ!

 

「《クジルマギカ》で攻撃、マジカル☆カノン! 墓地からもう一度《リバイヴ・ホール》を唱えて、《ノロン⤴》、戻ってきて!そしてお願い、《勝利のプリンプリン》! 《FORBIDDEN》を拘束! マジカル☆フリーズ!」

 

 ところで、さっきから事あるごとにマジカルマジカル言わされてるけど、ボキャブラリー少なくない?

 魔法少女だからって、なんでもマジカルって言えばいいわけじゃないよ?

 それはそれとして、これでS・O・Lさんのクリーチャーはすべて抑えられた。《ドルバロム》と《ブラック・モナーク》は破壊できたし、《FORBIDDEN》は《プリンプリン》の能力で動けない。次のターンには対処しなきゃいけないけど、それでも時間は稼げた。

 あとは隙を見て攻め切るしかない、と思った刹那。

 

「……かかった」

 

 S・O・Lさんの口元が、邪悪に歪んだ。

 

「宵闇より姿を現せ、漆黒の隠者よ――《威牙の幻ハンゾウ》」

 

 そして手札から飛び出す、一体のクリーチャー――シノビ。

 うん、それは知ってた。出るならここかな、とも思ってた。

 

「《ハンゾウ》の秘術により、貴様の魔法要塞を衰弱死させることが可能だが……その前に」

 

 だけど、その思考はあと一歩足りていない。

 あの時《グレンモルト》を犠牲にしてでも攻撃すればよかったと思えるほどに、この一手は致命的すぎた。

 《ハンゾウ》を出すと同時に、S・O・Lさんの指が、最終禁断フィールドに、それを封じる封印へと、伸びる。

 

「《FORBIDDEN STAR》の最後の封印を――解放」

「え……あ!」

 

 そうか、ニンジャ・ストライクも召喚だから……

 《ハンゾウ》はコスト7のデーモン・コマンド。だから、封印を外せるんだ!

 忘れてたよ……《ハンゾウ》がデーモン・コマンドってことも、ニンジャ・ストライクが召喚だってことも。

 そして、封印が全部外れた……ってことは……

 

「《FORBIDDEN STAR》の左下の封印が解放されし時、それが最後の封印であれば、《FORBIDDEN STAR》は真の姿を現す。さぁ、目覚めよ――」

 

 もう、それを妨げるものはない。

 抑圧され、封じられていた力が、解き放たれる。

 

 

 

「――禁断爆発(ビッグバン)!」

 

 

 

 封をするようにして乗せられていた中央のカードが離れ、集合した四枚のパーツも四散した。

 上下左右に配置された手足の中央に最後の一枚が繋ぎ合わせられ、十字架のような形を形成する。

 

 

 

「解き放たれよ。害ある界に顕現し、悪の世に終をもたらせ――《終焉の禁断 ドルマゲドンX》!」

 

 

 

 ……出ちゃった。

 みんなには、これが出る前に決着をつけないと厳しいって言われた。それが出て来ちゃったってことは、それだけわたしの勝利が遠のいたということ。

 正直、具体的な能力はあんまり聞いてないから、なにをしてくるのかはよくわからないけど……

 と思っていると、S・O・Lさんが腕を伸ばす。「失礼する」と小さく断ると、私の山札の上からカードを手に取り、

 

「《ドルマゲドンX》が顕現せし刻、秘めたる力の総てが放出される……さぁ、受けるがいい。禁断の力、邪封の楔を打ち込め!」

 

 手に取った三枚を、舞い散らすようにして、わたしのクリーチャーに放った。

 

「貴様のクリーチャーを総て――封印ッ!」

 

 ドスッ、と突き刺す音が聞こえたようだった。

 カードを被せられたわたしのクリーチャーの姿が隠れる。

 これって、《FORBIDDEN STAR》を封じていた封印と同じ……わたしのクリーチャーも、封印された、ってこと?

 

「封印された者は、“存在しない”と同義。ゆえに貴様の僕たちは、存在を抹消されたと同然だ。死ではなく、存在の末梢である」

 

 言ってる意味はいまいちよくわからないけれど、封印されたわたしのクリーチャーは、その姿が見えない。

 これじゃあ、攻撃も、能力を使うこともできない。

 もう、なにもできない。

 

「……ターン、終了……」

 

 

 

S・O・L

場:《ドルマゲドン》《FORBIDDEN》

盾:3

マナ:7

手札:2

墓地:17

山札:10

 

FORBIDDEN STAR

禁断コア4

 

 

ベル(小鈴)

場:《クジルマギカ(封印)》《ブラック・ガンヴィート(封印)》《プリンプリン(封印)》

盾:0

マナ:5

手札:7

墓地:10

山札:14

 

 

 

「幕引きと行こう。《ドルマゲドン》、引導を渡せ」

 

 シールドがなくなって、クリーチャーも封印されて、丸裸にされてしまったわたしに、《ドルマゲドン》のとどめの一撃が放たれる。

 ……だけど、

 

「瞬間防御リミット・プロテクト! ニンジャ・ストライク4! 《光牙忍ハヤブサマル》を召喚だよ!」

「なに……っ?」

「《ハヤブサマル》をブロッカーにしてブロック!」

 

 わたしまだ、負けてない!

 

「異星の姫君は封印したが、凍結の力は残留する……《FORBIDDEN》は動けんか。遺憾だが、ここは攻撃を終えるしかあるまい」

「なら、わたしのターンだね。6マナで、今度は手札から! 《地獄門デス・ゲート》! 《FORBIDDEN》を破壊して復活(リザレクション)、《ハヤブサマル》!」

「ちぃ、小賢しい……!」

「《ハヤブサマル》の能力で、《ハヤブサマル》をブロッカーにするよ。ターン終了!」

 

 

 

S・O・L

場:《ドルマゲドン》

盾:3

マナ:7

手札:3

墓地:19

山札:8

 

FORBIDDEN STAR

禁断コア4

 

 

ベル(小鈴)

場:《ハヤブサマル》《クジルマギカ(封印)》《ブラック・ガンヴィート(封印)》《プリンプリン(封印)》

盾:0

マナ:6

手札:5

墓地:11

山札:13

 

 

 

「我が時間だが、追撃手が引けん……ここで《ハヤブサマル》を滅しても、また冥府より呼び戻されては面倒だ。守護の恩恵はこの僅かな一時のみ。しからば、今は攻めず撃せずに待つ。貴様の番だ」

 

 あれ、攻撃しないんだ。

 それなら……やれる。

 《ガンヴィート》も《プリンプリン》もいないし、これ以上はもう耐えられそうにない。

 だからチャンスは、もうこの瞬間だけ。

 これがわたしの、ラストターン。

 

「わたしのターン! 2マナで《【問2】 ノロン⤴》を召喚! 二枚ドローして、二枚捨てるよ!」

「今更そのような惰弱な……」

「弱くたっていいんだよ。だって――強くなれば、いいんだから!」

 

 《ドルバロム》でマナも削り取られた時は焦ったけど、たまたま闇のカードを多くマナに置いてて助かった。

 これならギリギリ足りる。

 

「5マナで復活の呪文(マジカル☆リバイバル)! 《狂気と凶器の墓場》!」

「な……っ!」

「山札の上から二枚を墓地へ! そして墓地から復活――《ノロン⤴》をNEO進化!」

 

 さぁ、わたしの必殺陣形を構築するよ。

 まずは最初の一手。第一タスク。

 

「おいで――《魔法特区 クジルマギカ》!」

 

 三つのタスクから完成する、わたしの必殺技。マジカル☆ドラゴニアンズ・フォーメーション。

 《狂気と凶器の墓場》を唱え、《クジルマギカ》が現れたことで、第一タスクは完了。次の段階に移るよ。

 

「《クジルマギカ》で攻撃! マジカル☆カノン&マジカル☆リバイバル! もう一度撃っちゃえ、《狂気と凶器の墓場》! そして、戻ってきて――」

 

 第二タスクは、《クジルマギカ》の攻撃で始動する。この一発が、すべてに繋がる砲撃となる。

 魔導砲から放たれた魔法が、もう一度わたしの墓地を掘り起こす。

 いくら倒れても、何度だってやり直せる。いくらだって挑戦する。

 諦めたりなんて、しないんだから!

 

「――《龍覇 グレンモルト》!」

 

 二連発の《狂気と凶器の墓場》で、《グレンモルト》も呼び戻すことができた。これで第二タスクも完了。

 問題は第三の最終タスク。ここをなんとかして乗り切らないと、わたしに勝ち目はない。

 けれどこのタスクは完全に運の勝負。だから後はもう、天運に委ねるしかない。

 

「《グレンモルト》に《ガイハート》をセット、ブラッシュアップ! 攻撃も続けるよ、《クジルマギカ》!」

「その攻撃は……」

 

 今まで流暢に語っていたS・O・Lさんが、ここでほんの少しだけ固まる。

 手札に視線を向けながら、思考しているようだった。

 だけどその逡巡は僅か。

 ほんのちょっとの時間で答えを導き出したらしいS・O・Lさんは、迷いなく手札を切る。

 

「……出でよ《ハヤブサマル》! 我を護れ!」

 

 相手も持ってた《ハヤブサマル》が、身を挺して《クジルマギカ》の砲撃から盾を守る。

 シールドを割ることができなかったけど、それでもいい。

 次の二撃目が、決まるのなら。

 

「続けていくよ! 《グレンモルト》で攻撃!」

 

 ここで攻撃が成功すれば、《グレンモルト》が残れば、《ガイギンガ》に龍解できる。

 お願い、S・トリガー……来ないで……!

 《グレンモルト》のシールドブレイク。相手はブレイクされたシールドをめくる。

 そして、

 

「……来てしまったか」

 

 S・O・Lさんは、憂い気を滲ませた溜息をつく。

 なんだろう、悔しさも、嬉しさも、憎さも、楽しさも、色んな感情が混ざったような、あの表情は。

 

「だが、諦念を抱くのは尚早だ。次なる守り手、はたまた月の死神はまだ眠っているやもしれんからな。ひとまず、現れよ! 終の禁断の具現、三番目その名を刻む者、《終断γ(ガンマ) ドルブロ》!」

 

 S・O・Lさんが出したのは、S・トリガーのクリーチャー。でも、能力はブロッカーだけ……?

 それなら、問題ない。

 

「この攻撃で、このターンわたしは二回攻撃したよ。だから――龍解条件成立!」

 

 《ドルマゲドン》みたいに、何枚ものカードを重ねて、繋げてることはできないけれど。

 たった一枚でいい。わたしには、この一枚で十分。

 その一枚のカードを――ひっくり返す。

 

「世界に響いて、龍の鼓動! みんなに届いて、鈴の音色! 邪悪な心は清き炎で焼き尽くす! 銀河の最果てで燃え尽きるまで!」

 

 さぁ、終わらせるよ!

 

 

 

魔導龍解(マジカル☆ドラグハート・ビッグバン)]――《熱血星龍 ガイギンガ》!」

 

 

 

 これがわたしの真の切り札、《ガイギンガ》。

 《ドルマゲドン》と比べると、小さいし、ちっぽけかもしれないけれど……負ける気は、まったくなかった。

 今まで何度もわたしを勝利に導いてくれた思い出、というのもあるけれど。

 これは、先輩がくれた大切なカード。

 それ自体にはなんの根拠も、理屈も存在しない。

 だけど、ただそれだけで、力が溢れてくる気がする。

 

「……よし。《ガイギンガ》が龍解したから、パワー7000以下クリーチャーは燃やしちゃうよ! 選ぶのは《ドルブロ》! マジカル☆バーニング・ギャラクシティカ!」

 

 これでブロッカーはいなくなった。

 S・O・Lさんのシールドは残り二枚。わたしの場に残った攻撃できるクリーチャーは、《ガイギンガ》と《ハヤブサマル》。

 もう一枚S・トリガーが出たら、今度こそ攻撃が止められちゃう。だからこれが、本当の、最後の勝負だ。

 

「これが最後! 《ガイギンガ》で攻撃!」

「いいだろう、貴様の力を見極めてやる。その攻撃は盾で受ける!」

 

 Wブレイクされたシールド。S・O・Lさんはその二枚を、同時にめくる。

 《ベル・ヘル・デ・スカル》が出たら、墓地の《ハヤブサマル》が手札に戻る。二枚目の《ドルブロ》が出たら、最後の攻撃が通らない。まだ他にも、見えていないS・トリガーがあるかもしれない。

 かもしれない、けれど。そんなものは関係ない。

 わたしは、勝つんだ――!

 

「……成程な」

 

 S・O・Lさんは口元を小さく歪ませると、ブレイクされた二枚のシールドを――伏せた。

 

「終焉だ、万策尽きた。その怒涛の如き攻勢を称えよう、魔導の少女よ」

 

 尊大で、大仰で、不遜な態度だった彼女だけれど。

 その最後の姿は、とても清々しくて、格好良かった。

 わたしは、必死になって足掻いて、小さな糸を手繰り寄せて、しがみついて、縋るようにしてここまで来た。ちょっと泥臭くて、格好悪いけど。

 でも、それも悪くなかった。

 これで、わたしの勝ちだよ!

 

 

 

「《ハヤブサマル》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

『決まったぁ! 「Wonder Land交流戦 ファンデッキ大会」! 優勝はマジカル☆ベル選手だぁ!』

『急にプロレスみたいな大声を出すな……まあいいか。両名とも、素晴らしい対戦だった』

 

 ……勝った?

 勝ったの、わたし。優勝? 本当に?

 

「対戦感謝する。良き戦いだった。これぞ正に、聖戦であるな」

 

 S・O・Lさんが手を差し出す。

 聖戦って意味が絶対違うんだけど……でも、確かにこの対戦は、よかった。

 すごく、いいデュエマだった。

 

「はい……対戦、ありがとうございましたっ!」

 

 差し出された手を、握る。

 今まで何度もデュエマをしてきたけど、その中でも、特にいい対戦だったと思う。

 なんだかいつも違う感じで、クリーチャーと戦うような義務感も……あれ? クリーチャー?

 

(小鈴! クリーチャー!)

(あ……)

 

 わ、忘れてた!

 そうだった! これって、クリーチャーを倒すための対戦でもあったんだ。

 よく見れば、S・O・Lさんにはクリーチャーはもういなくなっている。でも、消えた感じじゃない。

 ってことは、

 

(状況が悪くなったんで、逃げたんだ! いい宿主を見つけたわりには薄情だね!)

(逃げたって、どこに!?)

(外だ! 早く追いかけよう!)

 

 外って、この格好で外に出なきゃいけないの!?

 でも、このまま放っておくこともできないし……ああもう! 仕方ないなぁ!

 

「ご、ごめんんさい! ちょっと、失礼します!」

「へ? あ……ちょっと……っ!」

 

 握った手を離すと、わたしはお店の出入り口目掛けて駆け出した。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「うぅ、この格好で外に出ることになるなんて……人、いないよね……?」

「小鈴! あっちだ! あっちの方に逃げたよ!」

「う、うん」

 

 いい加減くすぐったいし恥ずかしいから、胸元から鳥さんを出す。

 鳥さんはパタパタと羽ばたきながら飛んで、クリーチャーの下までわたしを案内してくれる。

 そんなに遠くまでは逃げてないはずだけど、早く追いかけないと……

 鳥さんの案内でお店の裏手の方まで走ったところで、わたしは、予想だにしないものを目にした。

 

「え? あれ……?」

「おや?」

 

 キラキラと消えゆく光の残滓。

 その中央に佇むのは、一人の、女の人。

 脳というおぼろげな記録媒体の中に、強烈に刻み込まれた記憶の一片。

 いまいち本心が読み取れない薄ら笑いの笑顔を張り付かせて、その人は立っていた。

 

「あ、あなたは……」

「おー! ベルちゃんじゃない! おひさー、ってほどでもないね」

 

 気さくに手を振るこの人は……チェシャ猫レディ、さん?

 帽子屋さんたちとの因縁に、突然首を突っ込んでは引っ掻き回していった、謎の人。

 何者なのかがまったくわからず、正義の味方を自称する怪しいお姉さんだけど、あの時は、わたしを助けてくれた。

 だから、少なくとも敵ではない……と、思います。

 

「なんで、あなたがここに……?」

「なんでって、そんなの決まってるじゃん。私は正義の味方だからね! 挫くべき悪があるところに走り、助けるべき人がいるところに駆けつける。それが当然、摂理ってやつさ!」

 

 こともなげに言う猫のお姉さん。

 正義の味方って、もうちょっとヒーローっぽいイメージがあるけど、なんだかこの人はノリが軽いなぁ。

 

「そうそう、例のクリーチャーだけど、私がぶっ飛ばしといたよ」

「みたいだね。ついさっき逃げたばっかりなのに、どうやったんだい?」

「ん? 簡単だよ。こう、急所を狙った渾身の右で……」

「暴力的じゃない!?」

「なんて、半分ジョークだよ。こっちに来るだろうって予想してたから、こっそり抜け出して待ち伏せしてたの。あとはウザったいから速攻でぶちのめしただけ。まあ意外としぶとかったから、とどめにもう一発殴ったけど」

「やっぱりバイオレンスだよ!」

 

 握り拳を作って、シャドーボクシングみたいにシュッシュッとそれを振るうお姉さん。

 うーん、やっぱり正義の味方ってイメージじゃないよね……

 わたしが冷ややかにお姉さんを見つめている傍ら、鳥さんは訝しげに彼女を見つめていた。

 

「……いくら瀕死でも、クリーチャー相手に生身の人間が物理的な干渉をするなんて、そうできることじゃないんだけどね」

「あちゃ、失言だったかなー」

「え? どういうこと?」

「彼女は人間じゃないかもしれないという意味だ」

 

 人間じゃない。

 その言葉に、なにか揺さぶられる。

 今この世界には、クリーチャーがこうして実在するわけだし、人間じゃない存在がいてもおかしくはない。猫のお姉さんの異常な立ち振る舞いとか、クリーチャーや【不思議な国の住人】を知っていることからも、普通じゃないことはわかる。そこから人間じゃないと推理することもできる。

 だけど、なんだろう。

 それは間違っていない気がするんだけど、わたしの周りを取り巻くものは、そんな単純な言葉で表現できるものじゃない気がする。

 

「んー、まーどう思ってくれててもいいけどね。私は徹頭徹尾、終始一貫、正義の味方というポジションに着くだけだし? 少なくとも、君のことは守るよ、ベルちゃん」

「へ……?」

 

 わたしのことを、守る?

 

「そんなことよりも、お店に戻らなくていいの?」

「え……あ! また忘れてた!」

「君は随分とうっかりしているね」

「鳥さんのせいでしょ!」

 

 そういえば、S・O・Lさんと対戦してすぐ、お店から飛び出しちゃったんだっけ。

 表彰式みたいなのがあるのかな……わからないけど、優勝しておいてすぐに飛び出したのはまずいかもしれない。早く戻らなきゃ。

 

「えっと、その……ありがとうございました。今回も……この前も」

「いいよいいよ、正義の味方としては当然だからね!」

 

 ビシッ! と効果音がつきそうなくらいのキメ顔で言われた。

 それに苦笑しつつ、鳥さんの服も戻してもらって、お店に戻ろうと背を向けると、声をかけられた。

 

「あぁそうだ、最後に言っとかないとね」

「はい?」

 

 急に呼び止めて、なんだろう。

 ここに来てまだ言うことがある? でも、ここで出会ったのも偶然みたいなものだし、この人が大事なことを話すことなんてそうないと思えてしまう。

 失礼な話だけど、あんまり真面目そうじゃないし……忠告と称して告げたあの言葉は、別だけど……

 だからここでも、わりとどうでもいいことを言うんじゃないかと思っていた。

 そして、それは本当に、何気ない言葉だった。

 

 

 

「強かったよ。それに、楽しかった。優勝おめでとう、ベルちゃん」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「まったく、君は慌ただしいな……対戦が終わってすぐ飛び出すなんて……」

「ごめん……」

「ま、状況が状況だから仕方ないよね」

「……場の収拾、つかないし……店への言い訳、面倒だった……」

「でも、すぐに小鈴さんが戻って来てくれてよかったです!」

 

 えっと、とりあえず、なんとか戻ってこれました。

 お店に戻った時には会場は騒然としてて、わたしが戻ってくるや否やどよめきはまた大きくなって……まあ、優勝者が対戦直後に飛びだしたら、そうもなっちゃうよね。お店にも迷惑かけちゃって、申し訳ないな……

 詠さんや店長さんにもちゃんと謝って、慌ただしくも、わたしの初めての大会は終わったのでした。

 結果は優勝。うん、まだ実感は薄いけど、その結果はすごく嬉しい。

 だけど、決勝戦が実態はクリーチャーとの戦いだったり、事後処理でどたばたしちゃったりと、ぐだぐだで終わってしまって、なんだかスッキリしないなぁ……

 

「こういう交流戦はボクも初めて出たけど、意外と面白いものだね。ガチ志向よりこっちの方が純粋に楽しめて、性に合っているかもしれない。面白いデッキもたくさん見られた」

「私は小鈴ちゃんが優勝してくれて満足かなぁ。決勝戦は名勝負でしょ、あれ」

「Ja! 小鈴さんも、相手の死神さんもすごかったです! でも、ユーちゃんも小鈴さんとデュエマしたかったです……」

「……まあ、私たちはしょせん……決勝相手の力を、見せつけるための……噛ませモブだし……」

「小鈴ちゃんのあれを見れたのなら、モブでもいいかなって」

「ボクはあれが本当に大衆に隠蔽できているのか不安で仕方なかったけどね……」

「……意外と、ノリノリだったけど……最後の方、とか……」

「そ、そんなことないよ……」

 

 なんて、今は大会終わりの感想語りに興じているところです。

 わたしも今日の大会は、すごくいい経験になったと思う。

 色んな人と対戦して、色んなデッキ、色んなカード、色んな戦術を見ることができた。

 と、わたしも今日の対戦を振り返って思い出に浸っていると、不意に声をかけられた。

 

「あ! いたいた! ベルちゃん!」

「え?」

 

 ベルちゃん。その呼び名から、猫のお姉さんが来たのかと思ったけど、違った。

 振り返ると、そこにいたのは小さな女の子。小柄な女の子だ。わたしよりもちょっと背が低い。歳はわたしたちと同じくらいか、もしかしたら年下かも?

 茶色っぽい髪をポニーテールにしてて、無邪気そうな笑顔をこちらに向けている。

 なんだろう。初めて会った子のはずなんだけど、どこかで見たことがあるような気もする。

 

「えっと、どちら様……かな……?」

 

 今日対戦した子かな。でも、ここまで小柄な子と対戦した記憶はない。

 一回戦は小学生くらいの男の子だったし、二回戦はわたしより年上っぽいお姉さんだったし……あ。

 一度だけ、あったっけ。わたしより小柄な、女の子との対戦が。

 いや、でも、まさか、そんなわけが――

 

「あー、わかんないかー。あたしだよ、S・O・Lだよ!」

 

 そんな、わけが……ない、と思ってた。

 いやいやいや、ちょっと待って。流石に性格というか口調とか態度とか雰囲気とか全然違いすぎない?

 わたしの困惑なんてなんのその。気を遣うことも考慮することもなく、その調子のまま、S・O・Lさんを名乗る女の子は続ける。

 

「今日は対戦ありがとー! 最後、すっごく楽しかったよ!」

「そ、それはどうも……」

「あたし、あーいうキャラで通してるけど、いきなりでノってくれる人なんて初めてだよー。でもおかげで、本当に楽しかった! ありがと!」

 

 ニッコリと笑顔を向けるS・O・Lさん(?)。それまで見た、口元を歪める邪悪っぽい微笑は完全に消え失せてて、正に無邪気な笑みだ。

 コスプレイヤーさんのことはよくわからないけど、あれがなんのコスプレなのかもわからないし、そもそもコスプレなのかどうかも不明だけど、なにかオンオフのスイッチがあるのかな……大会中はずっとああだったみたいだし、イベント中はキャラになり切るとか……

 そんなことより、この人が本当にS・O・Lさんだとして、大会が終わってなんの用なんだろう。わざわざ探してまで来たんだし、対戦が終わってからのお礼だけ、なんてことはないと思うんだけど……

 

「それだけ! ちょっと家が遠いんだけど、たまにこのお店にも来るから、その時はよろしくね! あ、でもあのカッコするのはイベントの時くらいで、普段はこんなんだから!」

「あ、はい……」

 

 それだけだったみたい。

 

「あ、あと」

「まだなにか……」

「あの衣装、すっごく可愛かったよ! キャラはまだ成り切れてなかったのかな?」

「あぅぁ……」

 

 恥ずかしいところを突かれて、思わず変な声が出た。

 もしかして、コスプレ仲間だと思われてる? だとしたら困るというかなんというか……

 あの格好はしたくてしてるわけじゃないし、コスプレでもないし……っていうかわたし自身、なんであんな格好しなきゃいけないのか、よくわかってないし……

 

「またいつか、一緒にデュエマしようね! それじゃっ!」

 

 最後にそう言い残して、S・O・Lさんは去っていった。

 連絡先も交換しないで行っちゃうなんて……楽観的なのか、計画性がないのか……なんというか、変わった子だね……

 とまあ、そんな感じで。

 終わりまでスッキリしない、ちょっとだけもやもやするけど、なにかに繋がりそうな、よくわからない展開で。

 わたしの初めての大会は、幕を降ろしました。




 これにて大会編、終幕です。
 今回の小鈴のデッキは、ちょこっとだけ結果を出したことがあるらしい、《クジルマギカ》と《グレンモルト》による中速ビートダウンデッキ、作者はモルト☆マギカと読んでいる代物です。もっとも、今ではNEOクリーチャーを生かさなければ、《クジルマギカ》よりも《コギリーザ》の方が良いのですが。でも作者は、名前込みで結構気に入っています。
 それでは次回から、またまともにストーリーを進めます。夏休みと言えど、遊んでばかりではいられないのです。
 ご意見ご感想、誤字脱字の報告等々、なんでも遠慮なく送ってください。
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