デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 実質21.5話。番外編にしても良かったなぁ、とか今更ながら思いますが、今更そんなことしてもナンバリングがずれるだけなので、仕方なくそのままに。


22話「強いんですか?」

 みなさんこんにちは、伊勢小鈴です。

 今日は学校が午前中で終わったのでというか、夏休み中の特別登校日でした。

 途中で『代用ウミガメ』さん――亀船代海ちゃんとお友達にもなったりしたけれど、それは別のお話です。

 そんなこんなで、学校帰りにどこかで遊ぼうということになりました。

 まあ、わたしたちが一緒に遊ぶところなんて、とても限られているんだけど――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――君たちさ、うちに来てくれるのは凄く嬉しいんだけど、この夏だけでどれだけカードショップに来てるの……華やかな女子中学生とは思えないんだけど……」

 

 当初の予定通り『Wonder Land』を訪れると、詠さんが呆れた顔で迎えてくれた。

 そう言われるとその通りなんだけど……それでも今年の夏は、みんなでプールに行ったりしたし、夏祭りとか林間学校に行く予定もあるから、充実した夏休みだと思うんだけど……

 

「っていうか、そっちの子は初めてだね」

「あ……は、はい……だいよ……じゃなくて、き、亀船代海です……よ、よろしく、お願いします……」

「これはこれはご丁寧にどうも。私は長良川詠。この店のバイトだよ、よろしくね」

「そういえば詠さん、今日はいつものエプロン付けてませんね」

「今日はオフだからね。特にすることないし、暇だからここ来ちゃった」

「……私たちと、同じじゃん……」

「あはは、そうかも」

「というか詠さんって、確か高校三年生でしたよね。受験はいいんですか?」

「そういうナイーブで繊細な話題に触れるのはナンセンスだよ」

 

 急に真顔になる詠さん。

 どうやら、受験云々については話題にして欲しくないみたい。

 

「……そういえば、詠さんってデュエマ、強いんでしょうか?」

 

 不意に、ユーちゃんがそんなことを言った。

 

「んー? いやー、別にそこまでかなー?」

「そうなんですか? お店の人なのにですか?」

「あはは、それは関係ないよー。ここでバイトしてるのは単に好きだからだし。CSとかの大会もたまに出てたけど、大抵は一回戦落ちだよ」

「そうなんですね。それはそれで、ちょっと意外です」

「そうかな?」

 

 詠さんは、わたしのデッキ作りを手伝ってくれたり、色んなアドバイスをしてくれたり、欲しいカードがあったら入荷を店長さんに進言してくれたり、何度もわたしを助けてくれた。

 だから勝手に、すごい上級者ってイメージがあったけど……

 すると、またまたユーちゃんが、ふと言った。

 

「ユーちゃん、詠さんがデュエマするところ、見てみたいです!」

「へ? 私が?」

「あ、私も気になるー。おねーさん、いっつも解説ばかりでカード触ってるところ見たことないし」

「私そんなに解説してないし、現在進行形でカード触ってるんだけど……」

「でも、確かに詠さんがデュエマするところ、見てみたいですよね」

「えー、そーぉー……?」

 

 うーん、と首を捻る詠さん。

 しばらく、悩ましげにうんうんと唸っていたけれど、やがて、

 

「仕方ないなぁ。ちょうど今しがた新しいデッキも組んだことだし、やってあげますか!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 と、いうわけで。

 詠さんとユーちゃんでデュエマすることになりました。

 

「で……なんで……ユーが……?」

「ユーも新しいデッキを試したいからだろ。前にデッキ組みながら、実子に告げ口されているところを見たことがある」

「告げ口とは人聞きの悪い。ちょっとアドバイスしてただけじゃん」

 

 ユーちゃん、みのりちゃんと一緒にデッキ作ってたんだ。

 夏休みのいつからか、一緒にお話ししたりしてるところをちらほら見てたような気がするけど、いつの間に仲良くなったんだろう?

 

「さて、じゃあ始めようか、ユーちゃん」

「Ja! よろしくお願いします!」

「うん、お願いします。最初は超次元の確認ね。といっても、私にはないけど」

「ユーちゃんにはありますよ! これです!」

 

 

 

[ユー:超次元ゾーン]

《エイリアン・ファーザー<1曲いかが?>》×1

《時空の霊魔シュヴァル》×1

《勝利のプリンプリン》×2

《激相撲!ツッパリキシ》×2

《サンダー・ティーガー》×2

 

 

 

「んん……? なんだ、これは?」

「コスト5以下の、サイキック、ばっか……4コストの、超次元呪文、のみ……?」

「しかも《プリン》《ツッパリキシ》《ティーガー》が二枚積み、《シュヴァル》に《ファーザー》もいるとか、なにするのかわーけわかんないねー」

 

 霜ちゃん、恋ちゃん、みのりちゃんの三人が口々に言う。けれど、どれもユーちゃんのデッキの不可解さに首を傾げるだけだった。

 そしてそれは、詠さんも例外じゃない。

 

「ユーちゃんに限ってブラフなんてことはないだろうけど、なにするデッキなのかさっぱりだね……まあ考えても仕方ない。とりあえず、じゃんけんしようか。じゃーんけーん」

「ぽんっ、です!」

 

 じゃんけんは、詠さんがパーで、ユーちゃんがグー。

 詠さんの先攻だ。

 最初の1ターン目は特になにもなく、二人とも動き出したのは2ターン目から。

 

「《タイム・ストップン》をチャージして、2マナで《ウラNICE(ナイス)》を唱えるよ。一枚ドローしてターンエンド」

「ユーちゃんのターンです! うーん、ここはこうです! 《ジャスミン》をマナにして、《爆砕面 ジョニーウォーカー》を召喚(フォーラドゥング)! 破壊してマナを増やしますよ! Endeです!」

 

 

 

ターン2

 

場:なし

盾:5

マナ:2

手札:4

墓地:1

山札:28

 

 

ユー

場:なし

盾:5

マナ:3

手札:4

墓地:1

山札:27

 

 

 

「ユーのマナには、《キザム》《ジャスミン》そして《ブラック V》、か」

黒赤緑(デアリ)だね。あ、今はジャンドって言う方が通るんだっけ?」

「どっちでもいい……見た感じ、黒赤バイクの亜種、っぽい……けど……」

 

 それでもまだ、不明なところが多くて謎だ、と言いたげな恋ちゃん。

 そして当然のように、詠さんもユーちゃんのデッキを訝しげに見つめていた。

 

「詠さんの方は、見た感じ無色ジョーカーズだな」

「採用カードが妙だけどね。《ウラNICE》採用してるジョーカーズなんて、小学生以外で初めて見たもん」

 

 ジョーカーズ……あまりいい思い出があるカードじゃないけど、詠さんが使うカードは、帽子屋さんもチェシャ猫レディのお姉さんも使っていないカードがほとんどだった。

 それに、クリーチャーが全然見えていない。マナゾーンにあるカードも、使ったカードも、呪文ばかりだ。

 

「《アリゾナ・ヘッドショット》をチャージ。3マナで《パーリ騎士》を召喚するよ。能力で墓地のカードをマナに置いて、ターンエンド」

 

 遂にそれらしいクリーチャーが出て来た。墓地のカードをマナに置いて加速する《パーリ騎士》。これは、帽子屋さんもチェシャ猫レディのお姉さんも、どっちも使ってたクリーチャーだ。

 

「ユーちゃんのターンですよ。《デス・ハンズ》をマナチャージして、4マナで《超次元の手ブラック・グリーンホール》です!」

「遂に超次元呪文が見えたね。けど、《ブラック・グリーン》?」

 

 詠さんがその呪文を見て、首を傾げる。

 ユーちゃんが唱えたのは、4コストの超次元呪文。文明は名前の通り闇と自然(黒緑)

 

「効果で、墓地(フリートホーフ)のクリーチャーをマナに置きますよ。そして、超次元ゾーンから《サンダー・ティーガー》を出します! 能力で《パーリ騎士》のパワーを2000下げますよ!」

「パワーが0になった《パーリ騎士》は破壊されるよ」

 

 ユーちゃんも詠さんと同じように、墓地のカードを使ってマナを溜める。同時に、詠さんのクリーチャーも減らしていく。

 ジョーカーズは場にクリーチャーを展開することで強くなるところがあった。もし詠さんのデッキがジョーカーズなのだとしたら、この一手は大きい、のかもしれない。

 

「Ende! です」

 

 

 

ターン3

 

場:なし

盾:5

マナ:4

手札:3

墓地:1

山札:27

 

 

ユー

場:《ティーガー》

盾:5

マナ:5

手札:3

墓地:1

山札:26

 

 

 

 

「私のターン……ここは、やるしかないかな」

 

 カードをドローして、詠さんは少し考える。

 まだお互いに、大きな動きはない。ユーちゃんがなにかをする予兆を見せているものの、今は予兆で止まっている。

 ここで動けば先んじられるかもしれない。逆に、ここで動かなければ出遅れる。

 実際にそんなことを考えていたのかは分からないけれど、詠さんも動き出すべく、手札を切る。

 

「マナチャージして、3マナで《戦慄のプレリュード》を唱えるよ。次に召喚する無色クリチャーの召喚コストを5軽減するね」

 

 コストを5も軽減するの!?

 でも、唱えるのに3マナ使ってるから、差し引きして結果的に軽減されるのは2マナ?

 詠さんはマナゾーンのカードを一枚倒して、“それ”を召喚する。

 

 

 

「1マナで――《夢幻左神スクエア・プッシャー》を召喚!」

 

 

 

「な、ゴッド・ノヴァ!?」

 

 そのクリーチャーを見た瞬間、霜ちゃんが驚いた声を上げる。そんなにビックリするようなカードなの?

 でも、確かに変なカードだ。イラストの片側に枠がないというか、絵がまだ続くみたいな……

 

「しかも《スクエア・プッシャー》なんて、使われてるところは初めて見たな……」

「能力が地味だもんねー」

「そうなの?」

「うん。まあ、見ての通りだよ」

 

 と言われて、詠さんの挙動を見遣る。

 詠さんは山札から二枚、カードをめくった。

 

「《スクエア・プッシャー》の能力で、登場時に山札の上から二枚を墓地へ送るよ」

 

 ……確かに、地味だね。

 6マナで、パワー6000、能力は墓地を増やすだけ。

 一体詠さんは、このクリーチャーでなにをするつもりなんだろう?

 

「それと、G・ゼロ! 《ゼロの裏技ニヤリー・ゲット》を唱えるよ!」

「うにゅ、それは……」

「山札の上から三枚をめくって、《戦慄のプレリュード》《トンギヌスの槍》《イズモ》を手札に加えるよ! これでターンエンド」

「な、なんだか、とってもヤな予感がするクリーチャーです……Aber(でも)! ユーちゃんは負けませんよ!」

 

 ユーちゃんは、あの不思議なデザインのカードにも気圧されず、笑いながらカードを引く。

 

「まずは《ジャスミン》を召喚です! 破壊して、マナを増やします!」

「この期に及んでマナ加速?」

Nein(いいえ)! 次に《超次元グリーンレッド・ホール》を唱えます! 効果で《激相撲!ツッパリキシ》をバトルゾーンへ!」

 

 ユーちゃんはまた、超次元からクリーチャーを繰り出す。

 《ツッパリキシ》……お相撲さんのクリーチャー? ドイツなのに? いや、関係ないんだけど。

 それより問題なのは、そのサイキック・クリーチャーを呼び出した呪文と、呼び出されたクリーチャーだった。

 

「《ツッパリキシ》は火と自然のクリーチャーなので、《グリーンレッド・ホール》の追加効果です! 《サンダー・ティーガー》を、このターンだけアンタップしているクリーチャーも攻撃できるようにします! そして、マナゾーンの《不死 ゾンビーバー》を手札に!」

 

 わたしは使ったことないけど、4マナの多色超次元呪文には、呼び出したサイキック・クリーチャーに応じて追加効果が発生するものがある。

 《グリーンレッド・ホール》は、その名の通り自然と火(緑赤)のサイキック・クリーチャーに対応している。そうして、それぞれの文明の力を再現するんだ。

 そして、その力を最大限に生かして、ユーちゃんは詠さんの手を潰していく。

 

「《サンダー・ティーガー》で《スクエア・プッシャー》を攻撃(アングリフ)! その時、侵略発動です! 《不死 ゾンビーバー》!」

 

 さっきマナゾーンから手札に戻したクリーチャーだ。

 あのクリーチャーにも、みのりちゃんが使うような侵略能力があるんだ。

 

「まず、《ゾンビーバー》の能力で、ユーちゃんの山札を五枚、墓地へ! そしてバトルです!」

「《スクエア・プッシャー》のパワーは6000、《ゾンビーバー》も6000、だけど」

「《ツッパリキシ》の能力です! ユーちゃんのクリーチャーのパワーは、そのクリーチャーの文明の数だけ1000上がりますよ!」

 

 文明の数だけパワーが上がる……《ゾンビーバー》は闇文明しか持ってないけど、それでも文明をひとつは持ってるから、パワーはプラス1000で7000。

 ギリギリで《スクエア・プッシャー》を上回った。

 バトルによって、謎のクリーチャーだった《スクエア・プッシャー》は破壊される。

 

「見事に処理されちゃったなぁ」

「えへへ、Endeです!」

 

 

 

ターン4

 

場:なし

盾:5

マナ:5

手札:3

墓地:6

山札:21

 

 

ユー

場:《ゾンビーバー》《ツッパリキシ》

盾:5

マナ:6

手札:1

墓地:8

山札:19

 

 

 

「私のターン。ここは……これしかないか。《イズモ》を召喚して、ターンエンドだよ」

 

 詠さんは、今度はイラストの両側が途切れているクリーチャーを召喚する。

 このクリーチャーも、ゴッド・ノヴァ? のクリーチャーなんだ……

 ただ、このクリーチャーは特になにもしないのかな?

 

「ユーちゃんのターンですね! 4マナで《轟音 ザ・ブラック V》を召喚です! そして、《ゾンビーバー》で攻撃――する時に!」

「ん? また侵略かな?」

「Nein! 今度は、こっちです――革命チェンジ!」

 

 侵略に続いて革命チェンジ!

 ユーちゃんはまるでみのりちゃんのように、二つの踏み倒し能力で、攻めていく。

 そしてここで現れるのは――

 

 

 

Ich bitte dir(お願いします)――《Kの反逆 キル・ザ・ボロフ》!」

 

 

 

 ――真っ黒な、狼だ。

 

「……実子がなにか吹き込んでいたのは、これ?」

「だから人聞きが悪いよー。吹き込むとかじゃなくて、単に私とユーリアさんの趣味と好みを重ね合わせた結果だよ」

「侵略……革命チェンジ……どう考えても、みのりこの、入れ知恵……」

「確かにアドバイスとかはしたけどさぁ。というか、別にいいじゃん、デッキ組むのにちょっと口を挟んでも」

「悪いなんて言ってないけどね」

「言外に非難されてるように聞こえるんですけどー」

 

 不満げに口を尖らせるみのりちゃん。

 なんにしても、ユーちゃんはやっぱり、みのりちゃんの教えを受けていたみたい。侵略や革命チェンジなんかを使い始めたのも、そのあたりが理由なのかな。

 

「《キル・ザ・ボロフ》の能力です! 墓地の《デス・ハンズ》を山札の下に戻して、《イズモ》を破壊! そのままWブレイクです!」

「クリーチャー残せないし、トリガーもないし、きついなぁ」

「続けて《ブラック V》で攻撃! その時、《ゾンビーバー》に侵略します! 山札を五枚墓地へ!」

「それと、《ブラック V》のセルフハンデスだね。《テキサス・ストーム》を捨てるよ」

 

 手札を捨てさせながら、墓地を増やして、シールドまで削り取る。

 今日のユーちゃんは、いつになく攻撃的だった。

 

「おっと、S・トリガーだよ。《タイム・ストップン》で、《ツッパリキシ》を指定。山札の底に沈んでもらうよ」

「むむ、倒されちゃいました。じゃあEndeです」

 

 

 

ターン5

 

場:なし

盾:1

マナ:6

手札:4

墓地:8

山札:21

 

 

ユー

場:《キル・ザ・ボロフ》《ゾンビーバー》

盾:5

マナ:6

手札:0

墓地:12

山札:14

 

 

 

「結局、詠さんがなにをしたいのかわからないままだね」

「ジョーカーズとゴッド・ノヴァの混成デッキだってのはわかったよ」

「普通その二つは組み合わせないだろう。しかも《スクエア・プッシャー》なんて、ゴッド・ノヴァでも採用されないようなカードを入れて……なにをするデッキなのかさっぱりだけど、それを見る前にユーが押し切ってしまいそうだ」

 

 S・トリガーで追撃を防いだ詠さん。

 だけど、詠さんのシールドは残り一枚だし、クリーチャーもゼロ。以前として状況はユーちゃんに傾いている。

 

「私のターン……お、ここでこれか。で、手札はこれ、マナは6だから……うん、行けるね」

 

 謡さんは引いたカードを見て、口元に笑みを浮かべる。

 そしてマナのカードを枚数を確認すると、手札を切った。

 

「《トンギヌス》をチャージ、3マナで《戦慄のプレリュード》! 効果でコストを5軽減して、0マナで《イズモ》を召喚!」

「むむ、また来ましたね! でも、何度召喚されたって、破壊しちゃいますよ!」

「いいや。今度こそ、簡単には破壊させないよ。3マナでもう一度《戦慄のプレリュード》! コストを5軽減して、1マナタップ!」

 

 このターンで二枚目の《戦慄のプレリュード》を唱える詠さん。

 手札を犠牲にコストを大きく減らして、さらに繰り出すクリーチャーは――

 

 

 

「さぁ、いよいよ切り札の登場だよ――《邪眼右神ニューオーダー》!」

 

 

 

 ――またしても、片側の途切れたクリーチャーでした。

 

「《ニューオーダー》!? また珍しいゴッドだな……!」

 

 隣で霜ちゃんが吃驚している。

 これも、さっきまで見たクリーチャーと似たデザインだ。イラストの片側だけが、途切れているように見える。

 そして詠さんは、ついさっき出したばかりの《イズモ》と、そのクリーチャーを――繋げる。

 

「それじゃあ、中央(センター)(ゴッド)・リンクの《イズモ》と、(ライト)G・リンクの《ニューオーダー》をG・リンク!」

「ふわっ!? カードが、つ、つながっちゃいました!?」

 

 えっ!? な、なにあれ!?

 ユーちゃんの言うように、カードが繋がって、くっついた。

 途切れていたイラストも、二枚のカードが合わさって、一枚絵のようになる。

 進化とはまた違う。まるで、一つのカードになったみたいに、クリーチャーが一体化したかのように、カードが接続している。

 こんなカードは、はじめてだ。G・リンク? って、詠さんは言ってたけど……

 

「ようやく動けるよ。リンクしたゴッドはすぐに攻撃可能だから、《イズモ+ニューオーダー》で《キル・ザ・ボロフ》を攻撃! その時、《ニューオーダー》の能力発動! 墓地にある、コスト7以下の無色呪文を一枚、タダで唱えるよ。唱えるのは《タイム・ストップン》! コスト6以下の《ゾンビーバー》を山札の下に! そして《キル・ザ・ボロフ》とバトル!」

「《キル・ザ・ボロフ》のパワーは8000ですよ!」

「けど、こっちのパワーは《イズモ》と《ニューオーダー》、二体のパワーの合算だから、5000+8000で13000、《キル・ザ・ボロフ》を超えたよ」

「はわっ!?」

 

 呪文で《ゾンビーバー》を、バトルで《キル・ザ・ボロフ》を除去する詠さん。

 一気にユーちゃんのクリーチャーをゼロにしちゃった……!

 

「これでターンエンド。どうする?」

「うぅ、ユーちゃんのターン……これを使います。《超次元の手ブラック・グリーンホール》! 墓地のクリーチャーをマナに置いて、《勝利のプリンプリン》を出します! そのくっついたクリーチャーの攻撃を封じちゃいますよ!」

「攻撃を封じられちゃったか。とはいえお互いに手札ゼロだから、トップ勝負かな」

 

 

 

ターン6

 

場:《イズモ+ニューオーダー》

盾:1

マナ:7

手札:0

墓地:10

山札:20

 

 

ユー

場:《プリンプリン》

盾:5

マナ:7

手札:0

墓地:13

山札:15

 

 

 

「私のターン。うーん、まあ、シールド一枚だし、怖いことには怖いし、退かしとこうか。5マナで《アリゾナ・ヘッドショット》を唱えるよ。《プリンプリン》を山札の下へ飛ばすね。ターン終了」

「ユーちゃんのターンです!」

 

 シールドの枚数ではユーちゃんが有利だけど、詠さんは切り札でバトルゾーンを支配しつつある。

 どちらも手札がゼロで、できることは少ないけど、詠さんは墓地の呪文を唱えられるから、自由度はユーちゃんよりも高い。

 早くあのゴッド? を止めないと、ユーちゃんも危ない、けど、

 

「! 引けました! 7マナで墓地進化(フリートホーフ・エヴォルツィオン)! 《ブラック V》を進化元にして、《暗黒の悪魔神ヴァーズ・ロマノフ》を召喚です! 《ヴァーズ・ロマノフ》の能力で、クリーチャーを一体破壊します!」

「残念だけど、リンクしたゴッドは場を離れる時、一体だけが除去されて、他のゴッドは場に残るよ」

「そーなんですか!?」

「そうなんです。というわけで、《イズモ》を破壊して、《ニューオーダー》を場に残すね」

 

 破壊しようとしても、ゴッドは簡単には破壊されない。

 片方のクリーチャーを切り離して、もう片方は生き残る。

 

「むー……でも! 攻撃はします! 最後のシールドをブレイク!」

「……うん。トリガーはないね」

「ならEndeです!」

 

 

 

ターン7

 

場:《ニューオーダー》

盾:0

マナ:7

手札:1

墓地:12

山札:19

 

 

ユー

場:《ヴァーズ・ロマノフ》

盾:5

マナ:7

手札:0

墓地:12

山札:14

 

 

 

「私のターン……いいドロー。《イズモ》を召喚。《ニューオーダー》とG・リンク!」

「ま、またですか……これじゃあ、破壊しきれないです……」

「ふふ、ごめんね。《イズモ+ニューオーダー》で《ヴァーズ・ロマノフ》を攻撃。その時、墓地の《ウラNICE》を唱えて一枚ドロー。《ヴァーズ・ロマノフ》とバトルだね」

「ユーちゃんのターンです。《ブラック V》が引ければ……!」

 

 詠さんのシールドはゼロで、いよいよ追い詰められたけど、《ニューオーダー》が倒されないし、止まらない。

 ユーちゃんも、このドロー次第では勝ちの目が見えるけど……

 

「うにゅっ、これじゃあダメです……Endeです……」

 

 そう都合よく、引きたいカードは引けなかった。

 ユーちゃんはなにもしないまま、ターンを終えてしまう。

 

「まあ、何枚積んでるのかは知らないけど、ここまでで《ブラック V》は既に三枚も見えてるしね。そう簡単には引けないだろう」

「5コストの超次元ホールもなさそうだしねぇ。《リバイヴ》でもあれば、生姜であっさりと終わらせられるんだけど」

「……見た感じ、ユーのデッキ……あんまSA、なさそう、だけど……」

「とはいえ、詠さんのデッキも打点を揃えるのがきつそうだ。時間の勝負だね」

「お、チキンレースか。いいねぇ」

 

 ユーちゃんは、スピードアタッカーを引ければほぼ勝ち。詠さんは、ユーちゃんにスピードアタッカーを引かれる前に押しきれれば勝ち。

 どっちが先にクリーチャーを揃えられるかの勝負だ。

 

 

 

ターン8

 

場:《イズモ+ニューオーダー》

盾:0

マナ:7

手札:2

墓地:11

山札:18

 

 

ユー

場:なし

盾:5

マナ:8

手札:0

墓地:14

山札:13

 

 

 

 

「私のターン……うん。いい引き」

 

 詠さんの口元が、また綻ぶ。

 

「6マナで《夢幻左神スクエア・プッシャー》を召喚!」

 

 詠さんは新しいゴッドを召喚する。《イズモ》が両側にカードを繋げられるようになっていて、《ニューオーダー》は右側、《スクエア・プッシャー》は左側がそれぞれ空いているから、三体が一体になれば、完全に絵が繋がるようになる。

 と思ってたけど、詠さんはそうはしなかった。

 

「《イズモ》の中央G・リンクで、リンクを切り替えるよ。《ニューオーダー》と《スクエア・プッシャー》をリンクさせて、《イズモ》は単体で残す」

「? 全部で合体しないんですか?」

 

 詠さんは、先に合体していた《ニューオーダー》と《イズモ》の接続を解除。そして新しく召喚したゴッドと、既にいた《ニューオーダー》を合体させると、《イズモ》だけを残してしまった。

 あのクリーチャー、合体するだけじゃなくて、自由に付け替えることができるんだ……いや、それよりも。

 なんで、三体で合体できるのに、そうしなかったんだろう?

 ユーちゃんも同じような疑問を持ったようで、首を傾げている。

 

「普通に考えるなら、リンクをばらけさせるのは打点を増やしたいから、だけど」

「それなら《イズモ》と《スクエア・プッシャー》でリンクするよねぇ。そうすれば合計で五点だし」

「……そもそも、それでも……一点、足りてない……けど」

 

 霜ちゃんたちも、詠さんの意図は理解していないようだった。

 ゴッドは除去されても、一つを切り離せば生き残るから、複数でリンクしているほど除去耐性は高くなるし、パワーも合算で高くなる。だから三体で合体する方が絶対に強いはず。

 ダイレクトアタックを決めることもできないみたいだし、こんな変な形でゴッドを散らす意味はないように見える。

 

「《スクエア・プッシャー》の登場時とリンク時能力で、それぞれ山札から二枚を墓地に置いて……じゃあ行くよ」

 

 けど、それは、そう見えるだけ。

 行為というものには、ほとんどの場合、そこになんらかの意味がある。だからその行為が無意味なわけがない。ただ、わたしたちが気付いていないだけだ。

 この不可思議な布陣に込めた、詠さんの意図に。

 

「《スクエア・プッシャー+ニューオーダー》で攻撃!」

「ここで攻撃するのか……! トリガーもあるだろうに」

「まあね。トリガー怖いけど、ビビってSA引かれたら負けだし、ここは臆さない。勝算もあるしね」

 

 詠さんは前に出る。遂に、攻めに移った。

 《スクエア・プッシャー+ニューオーダー》が、実質的なTブレイカー。《イズモ》はシングルブレイカーだから、どう考えてもダイレクトアタックまでは届かない。

 だけど、それはその三枚のカードだけで見た場合だ。

 詠さんには、さらにもう一枚、カードを追加する手段がある。

 

「攻撃時、《ニューオーダー》の能力発動! 墓地からコスト7以下の無色呪文を唱えるよ。唱えるのはこれ――《テキサス・ストーム》!」

 

 《テキサス・ストーム》?

 そういえば、どこかで墓地に落ちてたけど……見たことがないカードだ。どういう効果なんだろう。

 

「《テキサス・ストーム》は、自分のクリーチャー一体を山札の一番上に戻して、そのクリーチャーを場に出し直す。その後、そのクリーチャーに相手のシールドを一枚ブレイクさせる呪文だよ」

「? えーっと……」

 

 効果を聞いても、よくわからなかった。出し直すとか、ブレイクするとか……

 わたしが首を傾げていると、霜ちゃんが口添えをしてくれた。

 

「要するに、クリーチャーの登場時能力を使い回すカードだ。同時に、相手のシールドも一枚だけブレイクできる……まあ、シールドブレイクはトリガーのリスクがあるから、ノイズだけどね」

「使い回すって……霜ちゃんが、お勉強会の時にやってたみたいに?」

「まあ、似たようなものだ。あれは手札に戻す効果だけだったけど、この呪文は出し直すまでが1セットになってる」

 

 なるほど。それを使えば、クリーチャーの出た時の能力が再発できるんだね。

 でも、詠さんの場で、それが可能なのは《スクエア・プッシャー》だけ。《スクエア・プッシャー》の能力は墓地を増やすだけだし、それを再発させても、あんまり強くない気がするけど……?

 

「まあ見てなよ。《テキサス・ストーム》の効果で、私の《スクエア・プッシャー+ニューオーダー》を山札の上に戻すけど、リンクを切り離して《スクエア・プッシャー》だけを山札の上に戻す。そして山札の上に戻った《スクエア・プッシャー》を出し直すよ」

 

 詠さんはわたしの想像通り、《スクエア・プッシャー》を出し直した。

 そして直後、《テキサス・ストーム》の効果で、シールドブレイクが入る。けれど、

 

「この時《スクエア・プッシャー》は《ニューオーダー》とリンクするね。そして《テキサス・ストーム》の効果で、相手のシールドをひとつブレイクするんだけど、《スクエア・プッシャー》の能力で、リンクしている時、《スクエア・プッシャー》はブレイク数がひとつ増えるよ」

「ちょっと待ってください」

 

 と、そこで、みのりちゃんが、横槍を入れる。

 どうしたんだろう、急に。

 

「呪文の解決中って、ストックされたクリーチャーの能力は使えませんよね?」

「ん? そうだね」

「じゃあその《スクエア・プッシャー》が場に出ても、リンクできないんじゃないんですか?」

 

 え? そうなの?

 カードの効果を処理する順番とかについては、たまに霜ちゃんとかが教えてくれるけど、わたしにはまだ難しくてよくわかんない……けど、呪文を唱えている最中には、他のカードの効果は使えないみたい。

 だからまず、呪文である《テキサス・ストーム》の効果である「相手のシールドをひとつブレイクする」を解決しないと、クリーチャーの能力は使えない。だからG・リンクもその後だと、みのりちゃんは言う。

 でも、

 

「いいや、できるよ」

「どうしてですか?」

「G・リンクは登場時の能力じゃなくて、場に出る時に解決される能力だから。つまりこの《スクエア・プッシャー》は“リンクして場に出ている”ことになってるの」

 

 詠さんが言うには、それはゴッド特有のルールらしい。

 G・リンクは、場に出た時に発動して、場にいる他のゴッドとリンクする能力――ではない。

 場に出る時には、既にG・リンクしたことになっている。G・リンクし終わった状態で、既に場に出たことになっている。

 だから、呪文の解決中に割り込む、みたいなこともない、らしい。

 わたしには難しくて、よくわからなかったけど。

 とにかく、シールドブレイクするのは、リンクされた《スクエア・プッシャー+ニューオーダー》ということになる。

 

「だから当然、リンク中の常在能力は発動する! 《スクエア・プッシャー》はリンク中、シールドを追加で一枚ブレイクするよ! 《テキサス・ストーム》のブレイク発生源もクリーチャーだからね、合計でシールドを二枚ブレイクだよ!」

「と、トリガーは……ないです」

「ならそのまま攻撃続行! 《ニューオーダー》は攻撃中だから、片割れが場を離れてリンクし直しても、攻撃は続くよ! Wブレイカーに《スクエア・プッシャー》のリンク時の追加ブレイクが加算されて、Tブレイク!」

 

 そういえばこれって、攻撃中での出来事だったね。色々と効果がややこしくて忘れてたよ。

 《テキサス・ストーム》の効果に、《スクエア・プッシャー》の追加ブレイクを加算して、二枚。

 そして《スクエア・プッシャー+ニューオーダー》のWブレイカーに、同じく《スクエア・プッシャー》の追加ブレイクが入って、三枚。

 詠さんは合計で五枚のシールドを、割り切った。

 そして最後に残っているのは、ただ一人、リンクを切り離された《イズモ》。

 

「《テキサス・ストーム》なんかでなにをする気なのかと思っていたが、これ、決めにかかってたのか。なんて回りくどい」

 

 それこそが、詠さんの意図するところだったんだ。

 《イズモ》だけを残したのは、ダイレクトアタックするためのクリーチャーを確保するため。詠さんは《ニューオーダー》《スクエア・プッシャー》そして《テキサス・ストーム》で、シールドをすべてブレイクする手はずを整えていた。

 とても大胆で、巧妙な一手だ。

 

「あうぅ……でも、S・トリガーです!」

 

 だけど、いくらすごい攻撃でも、それはシールドブレイク。

 S・トリガーのリスクは、常に付きまとう。

 

「《禁断V キザム》! 《イズモ》のパワーを2000下げて、バトルです!」

「あちゃ、リンクしてないから《イズモ》のパワーは3000になっちゃうね」

「こっちのパワーも3000です! 相打ちですよ!」

 

 最後にとどめを刺すはずだった《イズモ》は、トリガーで出た《キザム》によって相打ちに持ち込まれ、破壊されてしまう。

 

「まあ、仕方ない。トリガーが《デス・ハンズ》じゃなかっただけ、よかったとしよう。ターンエンドだよ」

 

 とどめを刺しきれず、詠さんは、ユーちゃんにターンを返してしまう。

 

「ユーちゃんのターンです」

「さて、ここで《ブラック V》や《ヴァーズ・ロマノフ》があったらきついけど」

「むむむ……」

 

 ユーちゃんは、手札を見つめて唸っている。

 これは……どうなんだろう。

 見た感じ《ブラック V》や《ヴァーズ・ロマノフ》はないようだけど、だからと言って諦めているわけでもない。

 しばらく考え込んでから、ユーちゃんは動き出した。

 

「……4マナで、《超次元の手ブラック・グリーンホール》を唱えます! 墓地の《キル・ザ・ボロフ》をマナに置いて、《サンダー・ティーガー》をバトルゾーンへ!」

「2000のマイナス程度じゃ、効かないよ」

「いいんです。本命は、こっちですから!」

 

 そう言ってユーちゃんは、さらにマナをタップする。

 その枚数は六枚。

 そしてそのカードを、場のクリーチャーに――重ねる

 

「《サンダー・ティーガー》を進化(エヴォルィオン)!」

 

 そう。それは、進化クリーチャー。

 スピードアタッカーではないけれど、逆転のための切り札だ。

 

 

 

「Ich bitte dir――《悪魔龍王 キラー・ザ・キル》!」

 

 

 

 とにかく、ユーちゃんにはすぐに攻撃できるクリーチャーが必要だった。

 だから、召喚酔いのないスピードアタッカーや、進化元を墓地から調達できる墓地進化クリーチャーを望んでいた。

 けれど進化元を用意して、すぐに進化できるのならば、それでも構わない。

 《ブラック・グリーンホール》で、ギリギリだけどマナを工面し、進化元も同時に用意したユーちゃん。

 後は、とどめを刺すだけだ。

 

 

 

「《キラー・ザ・キル》で――ダイレクトアタックです!」

 

 

 

 シールドのない詠さんには、その一撃を防ぐ術はない。

 ……と、思ったけど、

 

「ニンジャ・ストライク4、《光牙忍ハヤブサマル》」

「はわっ!?」

 

 たった一枚の手札から現れたシノビによって、あっさりと防がれてしまった。

 

「運よく引けてて良かったよ。《ブラック V》だったら、使う前に落とされてたから負けてたけど」

「う、うぅ……勝ったと思ったんですけど……Ende」

 

 

 

ターン9

 

場:《ニューオーダー》

盾:0

マナ:7

手札:1

墓地:22

山札:9

 

 

ユー

場:《キラー・ザ・キル》

盾:0

マナ:10

手札:2

墓地:15

山札:12

 

 

 

「私のターン……ここで引いちゃったかぁ。まあ、一応、出しておこうか」

 

 生き残った詠さんの場には、既に《ニューオーダー》がいる。そして、ユーちゃんのシールドはゼロ。

 もうこのままとどめを刺せるけど、詠さんはダメ押しのように、引いてきたカードを場に出した。

 

 

 

「《左神人類ヨミ》――を、召喚」

 

 

 

 ヨ、ミ……?

 詠さんと、同じ名前のクリーチャー?

 

「《ニューオーダー》とG・リンク。攻撃する時に《ニューオーダー》の能力で、墓地から《タイム・ストップン》を唱えるよ。《キラー・ザ・キル》を山札の底に沈めて――で、ダイレクトアタックだね」

「ニンジャ・ストライク、《ハヤブサマル》です!」

「おおぅ、そっちにもあったんだ……」

 

 前のターンの詠さんと同じように、ユーちゃんも《ハヤブサマル》でダイレクトアタックを凌ぐ。

 

「これはいよいよ、引き勝負だなぁ。とりあえず、ターン終了時に《ヨミ》の光臨発動。山札からコスト7以下のゴッド・ノヴァ、《イズモ》をバトルゾーンに出すよ! 中央G・リンクで、リンクを付け替えられるけど……そうだなぁ、全部バラそうか。《ニューオーダー》《ヨミ》《イズモ》の三体に分割するよ」

 

 あの《ヨミ》ってクリーチャーは、ターン終了時にゴッドを山札から呼べるクリーチャーみたい。

 そうして現れた《イズモ》の能力で、詠さんはすべてのゴッドを解体する。

 これでクリーチャーは三体。除去耐性はないけれど、三体ものクリーチャーを倒し切るのは、破壊が得意なユーちゃんでも、簡単じゃない。

 

「ユーちゃんのターン……4マナで《ブラック・グリーンホール》です! 《勝利のプリンプリン》を出して、《ニューオーダー》の攻撃を止めちゃいます! それから《禁断V キザム》を召喚! 《イズモ》のパワーを下げて、バトルします! 相打ちで破壊です!」

 

 《ニューオーダー》の攻撃を止めつつ、《イズモ》も破壊するユーちゃん。

 だけど、それじゃあ一手、足りていない。

 でも、もうユーちゃんにはマナが残っていなかった。

 

「……Ende、です」

 

 

 

ターン10

 

場:《ニューオーダー》《ヨミ》

盾:0

マナ:8

手札:0

墓地:22

山札:8

 

 

ユー

場:《プリンプリン》

盾:0

マナ:11

手札:1

墓地:17

山札:11

 

 

 

「クリーチャーをばらけさせたのが功を奏したみたいだね。よかったよかった」

 

 笑顔を見せる詠さん。事実、詠さんは合体した方が強いだろうゴッドを、戦術的にばらけさせることで上手く立ち回っていた。

 《テキサス・ストーム》で攻める時も、そして、ユーちゃんからの除去を捌く際にも。

 そして、その結果が今、実を結ぶ。

 

「じゃあ、とどめだよ。流石にもう、シノビとかもないだろうしね」

 

 詠さんのターン。

 《イズモ》は破壊され、《ニューオーダー》も動けない。

 だけど、詠さんの場にはまだ、攻撃できる《ヨミ》がいる。

 

 

 

「《左神人類ヨミ》で、ダイレクトアタック!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「詠さん、強いじゃないですか……」

「いやぁー、偶然っていうか、巡り合わせが良かっただけだよ」

「でも、《ニューオーダー》と《スクエア・プッシャー》の着眼点は面白かったです。ゴッドは、そういえばあんまり考えなかったな……インスピレーションが掻き立てられる……」

 

 対戦が終わった。

 強くないと言いつつもちゃっかり勝っちゃってる詠さん。まったく見たことがなかったカードも使ってて、わたしとしても見どころの多い対戦だった。

 まだゴッドってカードについて、わからないところが多かったから、わたしもそれを聞こうと思ったんだけど、その時、恋ちゃんに袖を引っ張られる。

 

「……こすず、あれ……」

「あれ? ……うわぁ……」

 

 恋ちゃんが指差す方を見遣る。

 するとそこには、お店の扉の隙間に捻じ込まれようとしているなにか。羽毛で覆われた小さな生き物。

 鳥さん……また来たんだ……

 ってことは、なにが起こるのかは想像がつく。前は大会で店内がごちゃごちゃしてたから隠せたけど、今は流石に隠しきれなさそうだから、お店に入る前に回収しないと。

 

「ごめん、みんな。わたし、ちょっと席を外すね」

「え? こ、小鈴、さん……?」

 

 そう一言断ってから、わたしはお店の出口に走る。

 

 

 

「あ、あの、小鈴さんは一体、急に、どうして……?」

「色々あるんだよ……彼女にも」

「……あー、ごめん。私もちょっと外れるね」

「なにかあるんですか?」

「大したことじゃないよ。ちょっとね……すぐ戻るから」

「はぁ……?」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「もうっ! 鳥さんはなんでいつもいつも変なタイミングで出て来るのっ!」

「そんなこと、僕に言われても困る!」

 

 またぞろいつものように恥ずかしい格好にさせられて、クリーチャーを探して人通りの少ない道をひた走る。都合よく人がいなくて本当によかったよ。

 

「ほら、クリーチャーはこの先だ。さっき見かけた限りでは、まだ人間に憑りついている様子はなかった。宿主を見つけられる前に叩くよ!」

「わ、わかったよ……って、あれ?」

 

 なんだろう、この既視感(デジャヴ)

 実際にこんな経験を、体験を、ついぞ最近したばかりな気がする。

 いや、違う。気がする、じゃない。

 現にこの角を曲がれば――

 

 

 

「ふぃー、終わった終わったぁー」

 

 

 

 ――見覚えのある、女の人がいました。

 その人はこちらの存在を察知すると、微笑ながら片手を上げる。

 

「や、遅かったねベルちゃん」

「チェシャ猫レディ、さん……」

「イエス、正義の味方、チェシャ猫レディさんだよ」

 

 真意が読み取れない笑みを浮かべるお姉さん。その名前の通り、ちょっと猫っぽいかもしれない。

 クリーチャーが消えゆく残滓を背景に、その人は薄暗い路地裏で、佇んでいた。

 

「また……会いましたね」

「そうだね」

 

 それも、以前とまったく同じ場所で、同じシチュエーションで。

 とても都合よいタイミングで。

 まるでクリーチャーが、この場所に、この時間に現れると知っていたかのような。

 あるいは、わたしがこの時この場所に現れることを、知っていたかのように。

 わたしは鳥さんが教えてくれるから、こうして駆けつけられるけど、この人はどうして?

 そしてなにより、なんでクリーチャーのことを知っているのか。

 この人は、何者で、どういう立場で、どういう目的があるのか。

 わたしが鳥さんに教えてもらったことを、この人はどうやって知ったんだろう。

 そのことが、ずっと気になっていた。

 今は前みたいに、大会の途中じゃない。みんなを待たせてはいるけど、しばらくは時間の問題もないはず。

 尋ねるなら、今しかない。

 

「……あなたは、どうしてクリーチャーのこと、知ってるんですか?」

「んー? いやー、まあ、なんでって言われると、さる筋から聞いたというか、なんというか……まあでも、クリーチャーね。ぶっちゃけ私にもよくわからないよ、それは」

「そ、そうなんですか?」

「うん。だって、これは私の本職じゃないし、本来なら関わり合うことはなかったものだから。なんだけど……」

「けど……?」

「そういう運命の巡り合わせだったからね。実体化したクリーチャーなんて私の目的なんかじゃないけど、目標の道程にあるものであることは確か。なら、相応の努力はするよね、ってお話」

 

 なんだか、すごく迂遠な言い方をされた。回りくどくて、遠回りで、まどろっこしい。

 でも、猫のお姉さんはわたしや鳥さんみたいに、クリーチャーそのものが目的ではないんだ。

 

「それなら、あなたの目的って、なんなんですか?」

「えー? それを聞いちゃうの? ストレートだねー」

「答えて、ください……できれば、真面目に……」

「釘刺されちゃったよ……目的、目的ねぇ。前にも言ったっけな、君のことは守るよ」

「それが本心ですか?」

「偽りではないよね。まあでも、うーん、なんと言うべきかな」

 

 とても言い難そうにしている猫のお姉さん。

 でも、なんだか変な感じだ。言えるのに、言いたいのに、言ってしまってもいいと口にしそうなのに、なにかがそれを塞ぎとめているような。

 すごく、違和感のある言いよどみ方をしている。

 

「私は言ってもいいんだけど、どうもこう、胸の奥から恥ずかしさというか、照れというか、なんかそんな人間くさい感情が込み上げちゃうのよね」

「?」

「君はわかりやすい答えを求めているんだろうけど、申し訳ないね、その要求には応えられない。私が好き勝手になんでも言えるわけじゃないんだな、これが」

 

 なんだろう、すごくはぐらかされているような気がする。

 だけどこの人が嘘をついているようにも思えないし、仕方なくこうしている、という気がする。

 理屈じゃない。なにかとても大事なところが見えていないからこそ、この人の言うことがわからない、理解しがたい、読み取れない、飲み込めない。

 だから、そう思ってしまうのかもしれない。

 かといって、それで納得できるはずもないのだけれど。

 

「……そうだね。じゃあ代わりと言っちゃなんだけど、少し昔の話をしてあげよう」

「昔話?」

「そうそう、昔々あるところに、ってね」

 

 冗談めかして言うお姉さん。

 笑顔を張り付けた表情のまま、お姉さんはその昔話を、語り始める。

 

「あるところに、チェシャ猫という小さな生き物がいました。チェシャ猫とは、透明になって身を隠す、姿の見えない猫のこと。己の姿を消失させる、“不可視の猫”にして、“存在しない猫”にして、“無貌の猫”のことです」

 

 本当に昔話が始まっちゃった……仕方ないから、黙って聞くことにしよう。

 

「ある時、その子はとある女の子と出会い、その時に恋をしました。だけど、存在しない猫には恋心はあまりに遠い。人ならざる存在しない生き物が、誰かを好くだなんて荒唐無稽にもほどがある、と自分で自分を嗤う始末です。でも、それでも、心という躍動は止められない。彼女のためになにができるか、その子は考えました。不可視であり、無存在であり、無貌であるだけの、無力なその子は考えて、自分にはなにもできないことを理解し、それを結論としました」

 

 なにを言ってるのか、なんのことを言っているのか。大事なところだけが、わざと伏せられているような語り口。

 わたしに伝えるつもりはないみたい。だけど、すべてを隠そうとしているわけでもない。

 それでも、理解しがたいけれど。

 

「無力を悟ったその子には、縋れる者が二人いました。甘い香の漂う力ある男と、何者にもなれない平々凡々な少女。選択肢は二つありました――いや、考えればもっとあったんだけど、それはそれとして――その子はなにをトチ狂ったのか、なんでもない、なにもない、空虚で空っぽとさえ思える少女にすり寄ったのです……その結果が今に至る、ってことさ」

「……わけ、わかりません……」

「だろうね。肝心なところだけ抜き落として言ったから。でも、これが限界なの。ごめんね、我侭で」

 

 自分のことなのに他人事っぽく言うお姉さん。

 チェシャ猫レディさん。だけど、この人が語ったのは、チェシャ猫という子の話。

 なにかが、決定的にずれているような……そんな感覚がある。

 今のわたしの視点からじゃ見えないなにかが、この人にはある。そんな気がする。

 

「少女は何者かになりたい。チェシャ猫は目的を果たせるだけの力が欲しい。ただそれだけなんだから、私の正体なんて探っても面白くないよ。少なくとも、君が解決しなきゃいけない問題とは、なんら関係ないモブキャラみたいなもんだろうし」

「モブって……」

 

 こんなおかしなモブキャラなんていないよ……

 

「……でも、やがてわかるんじゃないかな。いつまでもこのままってわけにはいかない。伝えたい思いがあるのに、それを伝えないままだらだらしてるのは、ダメなんじゃない?」

「え……っ?」

 

 ドキリ、と心臓が跳ね上がった気がした。

 とても痛いところを突かれたような、そんな動悸がする。

 それってわたしの……と思ったけれど、

 

「約束するよ。私の目標を達成した暁には、私のことをすべて、君に話すよ。そういう風に話をつけておくからさ」

「は、はい……」

 

 違った。うん、まあ、流石にこの人がそこまで知っているはずないよね。

 それはそれとして、猫のお姉さんは、そんな約束を取り付ける。 

 そもそもこの人の目的っていうものがよくわからないんだけど……でも、ずっともやもやしっぱなし、ということはないみたい。

 本当なら、この人のことをもっとちゃんと知っておきたいんだけどなぁ……なんだかんだ、助けられているし。

 だけどこの人は、それを望まないのかもしれない。

 友好的で協力的で、手を差し伸べてくれるし、手を引っ張ってくれるけど。

 わたしに、なにかを求めることはない。

 

「そういうわけだから! バイバイ! また会おう、ベルちゃん!」

 

 そうして。

 わたしは、猫のお姉さん。チェシャ猫レディさんとまた出会い、また会う約束をして、そしてまた、別れた。




 そんなわけで今回は、ショップ店員詠さんのデュエマ回でした。
 ゴッド・ノヴァも今や化石染みていますが、個人的にはわりと好きなんですよね……その中でも今回は、特にマイナーなゴッドを引っ張り出してきましたが。
 《ニューオーダー》はジョーカーズのお陰で無色呪文が増えたので、色々面白いこと出来そうなんですよね。《名も無き神人類》とか噛ませればもっと楽しそうなことに。
 ちなみに《ニューオーダー》くん、実は《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》も撃てたりします。マスター・ドラゴンじゃないので、全体フリーズだけですけどね。
 それでは今回はこれくらいで。次回は夏らしいイベントを用意しておきます。
 ご意見ご感想等、なにかありましたら遠慮なくどうぞ。
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