デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 与太話みたいなもんです。
 今にして思えば、話の流れとしては悪くないんだろうけれど、どうしてもかのネズ公の扱いづらさにいい顔ができない……
 まあそんなことはさておいて、タイトル通りの夏祭りです。ほんの些細な日常みでも味わっていってくださいな。


23話「夏祭りだよ」

 夏休みも終わりが近づいてきました。みなさんこんにちは、伊勢小鈴です。

 まだ終わってはいませんけど、この夏休みには、本当にいろんなことをしました。

 みんなでデュエマしたり、お買い物をしたり、プールに行ったり、変な人に助けられたり、デュエマしたり、パンケーキを食べたり、デュエマをしたり、デュエマの大会に出たり……デュエマばっかりだけど、ちゃんとそれ以外のことでも、遊びに行ったりしたよ。やっぱりそこでもデュエマしてるけど。

 そして今日も――いや、“今夜”も。

 新しいお友達も連れて、遊びに行こう

 そう――

 

 

 

 ――夏祭りに!

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 薄暗い夜天に、奇怪な絶叫が轟く。

 いや、奇怪でもなく単なる叫び声なんだけど、

 

「み、みのりちゃんっ!? 急にどうしたの?」

「どうしたもこうしたもない! なんでなんで!? 私がなにか悪いことした!? それとも世界が狂ってるの!? ねぇ!」

「落ち着け実子。その、なんだ。流石に目立ちすぎてる……」

「これが落ち着いていらいでか! なんで……なんで……!」

 

 キッと鬼のようなすさまじい形相で、それでいて悔恨と絶望を称えた眼差しで、みのりちゃんはわたしを睨みつける。

 そして、叫んだ。

 

 

 

「なんで小鈴ちゃんは浴衣じゃないの!?」

 

 

 

「え……き、着付けができないから……?」

「そんなの私がやったげるよ! やったことないけど!」

 

 やったことないんじゃ、着付けできないんじゃ……

 お母さんは今お仕事で忙しいし、お姉ちゃんも生徒会のお仕事があるって言ってたから、誰にも頼めなかったんだよね。わたし一人じゃ、浴衣なんて複雑で着れないし……

 

「っていうか夏祭りだっていうのに、なんで誰も浴衣じゃないの!? 浴衣着てきたのユーリアさんだけじゃん! おい日本人!」

「浴衣とか……めんどいだけ……」

「女物の浴衣がなかったんだよ。兄貴のしかなくてさ」

「えっと、その……そ、そういうルールは、知らなくて……」

「ユーちゃんはその浴衣、可愛いね」

「えへへ、Danke! Muttiが、ニッポンのワフクが素敵(シェーン)だって、買ってくれたんです!」

 

 ニッコリと笑うユーちゃんだけが、浴衣を着ていた。

 白地に、黒い花の模様? 思ったより地味な色合いだけど、全体的に白くて、涼やかな感じがするよ。

 

「本当はローちゃんも一緒にユカタ着て遊ぶつもりだったんですけど……変に遠慮しちゃうんです、あの子」

「そっかぁ」

「はー、やってらんねぇだよ……小鈴ちゃんの浴衣を楽しみに来たのに、肝心のお楽しみがないとか」

「そういう君だって、色気も味気もないTシャツ姿じゃないか」

「私はいーんですー。浴衣とか邪魔だし小さいし処分しちゃったし」

 

 ふて腐れたように吐き捨てるみのりちゃん。

 なんか、荒れてるなぁ。

 

「あ、あの……あれは……」

「みのりちゃん、最近たまに変なこと言い出すんだよね……うん、あんまり気にしなくていいんじゃないかな」

「実子、小鈴にさえ呆れられてるよ」

「あー、萎えた萎えた。もういい、もういいですからー。私はこの夜で小鈴ちゃんと甘くて酸っぱい濃厚な時間を過ごしますからー」

「これはもうダメだな。やけっぱちになって頭おかしいことしか言ってない」

「……もう、どうでもいい……行くなら、早く……」

「そうだね。みのりちゃんも、きっとおいしいものを食べたら機嫌直してくれるよ」

 

 おいしいものは万人を笑顔にする。

 そしてこのお祭りには、そんな食べ物がたくさんある。

 もうみんな揃ったわけだし、今度こそ。

 

 行こう、夏祭りに――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――眠りネズミ」

「なんだよ帽子屋」

「貴様に頼みたいことがある」

「は? いや無理」

「なぜだ?」

「僕、今日は用あんだ、アウトドアだ。だから無理だ、他を当たりな」

「用とは?」

「祭だ、フェスだ」

「ガールフレンドか。それなら仕方ないな」

「バッ……ちっげーし! なに言ってんだよバッカじゃねーの!?」

「なぜ動揺する」

「動揺なんてしてねーよ! な、なんだってんだよ、頼みって!」

「そこは聞くんだな。なに、大したことではない。少しばかり……猫に噛みついて欲しくてな」

「あ? 猫? あー、キャット、バイトな」

「あぁ、件の見えざる猫だ。そのことについて、侯爵夫人と話をしているのだが、我々の対話だけではどうにも進展がない」

「だからキャッチング、そんでもってバイティング、そんで進めていく、ってことか。でもなんで僕なんだ? んなこと、チョウチョのねーちゃんとかが適役じゃ?」

「猫を噛む役は、鼠が相応しいと思わないか?」

「テメーその言葉は本気? ワンミスで僕の方がマウスイン、こいつはブチギレ案件、だぜ?」

「だからこそだ。猫に甚振られた鼠は、決死の覚悟で牙を剥き、そして生還するものだ」

「ブラック企業かよ。できたら偉業だが、ミスりゃ遺業だな」

「具体的に言うと、なにか戦利品を勝ち取ってもらいたい――まあ別に敗者であっても構わないが――とにかく、なにか物が欲しい。それを侯爵夫人に突き出す」

「バイティングはハンティング、んでテイスティング、ってことかよ。ま、あのクソババァなら、確かにわからな」

「というわけだ。やってくれるな?」

「ノーだよ……だから今日はフェスだっつってんだろ……」

「そこをなんとかな――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――みのりちゃん! 次はあれ行こう!」

「ちょ、待っ……出る、出る! さっき食べたフードが口からリバーシブルする!」

「……フードファイティング……ゲロ吐きそう……きっつ……」

 

 夏祭りと言えば、やっぱりこれだよね!

 おいしい食べ物が売ってる屋台がこんなにたくさんある。しかも、中には普段なかなか食べる機会のないものや、お店であまり置いてないようなものもある。

 パンの類が少ないのが難点だけど、そこには目を瞑って、おいしいものをたくさん食べるよ!

 

「あ、見て見て! ケバブがあるよ、ケバブ! わたしあれ好きなんだ、みんなで食べよう!」

「うぐぐ、小鈴ちゃんのためなら……でもせめて、一人前をみんなでシェアで……」

「おじさーん! ケバブ六つください!」

「小鈴ちゃんそれは正気かな!? 私のこと嫌いになった!?」

 

 みのりちゃんがなぜか驚いた顔で叫ぶ。なんで? さっきまで、たこ焼きとかイカ焼きとか焼きそばとか焼とうもろこしとかエビセンとかフランクフルトとかアメリカンドッグわたあめとかリンゴ飴とかベビーカステラとかチョコバナナとかおいしそうに食べてたのに。なんで急に、ケバブだけ?

 もしかして、ケバブ嫌いだったのかな?

 

「いやいや、そんなにいらないでしょ……」

「数の問題? だって恋ちゃんに霜ちゃんにユーちゃんに代海ちゃんに……あれ? そういえば霜ちゃんとユーちゃんと代海ちゃんは?」

「……そう、なら……あそこ……」

 

 と、恋ちゃんが指差した先には、霜ちゃんの姿。

 屋台の中で、なにやら座って作業をしている風だけど……

 

「できた! できたよ店主、これはどうだい?」

「……ここが欠けてるぞ」

「なにっ? いやでも、こんなものは誤差の範囲内では……」

「……いいや、欠けてる」

「くっ、抗議したいが、この店のルールは店主にある。わかった、あなたが納得できるものをくり抜こうじゃないか」

「型抜きしてる……」

「このご時世に型抜きとか、まだあるんだ……」

 

 噂には聞く型抜き。この辺のお祭りは何度か来たことある来たけど、わたしも初めて見た。

 そういえば、型抜きの型って、食べられるらしいね。砂糖とかデンプンでできてて、甘いみたい。駄菓子みたいなものらしいけど、あれも食べてみたいな。霜ちゃんにお願いしたら、一枚くらいくれるかなぁ。

 

「で……ユーは、ここにいる……」

「わ、ほんとだ。気づかなかった」

 

 いないと思ってたけど、気づいたらすぐ近くにいた。

 なにか買いに行ってたのかな? と思ったら、ユーちゃんの手にはカップみたいな容器が握られている。

 

「ユーちゃん? それって、かき氷?」

「Ja! 一度でいいから食べてみたかったんです!」

「かき氷なんて珍しいものじゃないけどね」

「こう、キラキラしてて、シロップの色もキレイで、とっても素敵(シェーン)じゃないですか!」

「そうかなぁ?」

「テレビで見てすごくキレイだから、ユーちゃん、一度食べてみたかったんです!」

 

 でも、シロップがキレイと言う割には、かかっているのはシロップじゃなくて黒蜜なんだけど。ドイツで育ったユーちゃんには、馴染みのない珍しいものだと思うけどさ。

 そんなものはお構いなく、キラキラと目を輝かせて、ユーちゃんはストローで作ったスプーンでかき氷をすくい、口に運んだ。

 瞬間、パァッとユーちゃんの表情が、さらに光る。

 

「おいしいです! 小鈴さん!」

「そっか、それはよかったよ」

「ドイツにはかき氷ってなかったので、とても新鮮(フリッシュ)です! 食べれば食べるほど、もっと食べたくなるっていうか……」

 

 嬉しそうにかき氷を食べるユーちゃんだけど、その手の動きが止まらないし、早い。

 あ、その急ぎ方はまずい……

 

「ユーちゃん、そんなに急いで食べると……」

「っ――!?」

 

 そしてわたしが止めるより早く、ユーちゃんは頭を押さえた。

 

「あうぅ、あ、あたまが、キーンって……」

「あー、なるなる。かき氷とかアイスとか食べると、頭痛くなるよねー」

「か、かき氷って、食べるのも大変なんですね……」

「そんな大げさなものじゃないけど、もうちょっと落ち着いて、ゆっくり食べよ?」

「でも、早く食べないと溶けちゃいますよ」

「まあそうなんだけど……」

 

 かき氷にはかき氷の食べ方があって、溶けないように早く、かつ急ぎすぎないベストなタイムを自分で作り出すものなんだけど……ドイツにはかき氷がないみたいだし、今日初めて食べるユーちゃんには難しいかな。

 

「えっと、とりあえず無理ないくらいで頑張って。大丈夫、いつか自分にとってベストな食べ方が見つかるから」

「かき氷の食べ方ってなんなの……?」

「ところでユーちゃん、代海ちゃん知らない?」

「代海さんなら、あっちにいましたよ?」

 

 と、ユーちゃんが指差す先に、いた。代海ちゃんだ。

 代海ちゃんは屋台のいけすの前にしゃがみこんでいる。

 

「おーい、代海ちゃーん」

 

 いけすの前にしゃがみ込んでるってことは、金魚すくいかな?

 声をかけると、代海ちゃんは今にも泣きそうな――いや、既に半泣きの状態で、文字通り縋るように泣きついてきた。

 

「……こ、小鈴さぁん……」

「ど、どうしたの代海ちゃん? そんなに金魚取れなかった?」

「違うんです……違うんです……」

「違う? 違うって、なにが?」

「う、うぅ……ぐすっ……」

 

 嗚咽を漏らす代海ちゃんは言葉にならない声を上げるばかり。

 でも、なにが違うのかはすぐにわかった。

 

「……カメすくい?」

 

 看板にはそう書いてある。

 金魚すくいじゃなくて、カメすくいだったみたい。

 

「小さないけすに放り込まれた姿が、なんだか不憫で、なにかしてあげたいって、思ったんですけど……だから、あ、アタシは、彼らを助けてあげたくて……で、でも、アタシは……アタシは、無力でした……ダメダメで、なにもできない凡人です……う、うぅ……」

「そんな大げさな……」

 

 でも代海ちゃんは本気で泣いてる。

 そんなにカメに同情してたんだ……その気持ちは立派なんだけど、なんというか、いたたまれない……

 

「がんばったんですけど、でも、あ、アタシ、どんくさくて、不器用で……なんにもできないグズだから……だ、誰も、すくえなくて……」

(代海ちゃんってここまで卑屈だったっけ……)

 

 代海ちゃん、今日はいつにも増して卑屈になっているような気がするよ。

 しかも代海ちゃん、このカメすくいだけで手持ちのお金を全部使い切ったみたい。お金を貸してあげたい気持ちはあったけど、何十回も挑んで一匹もすくえなかったみたいだし、たぶんあと一回や二回じゃダメなんだろうなぁ……

 これ以上は傷を増やすだけかも。とりあえずおいしいものを食べて落ち着いてもらおうと思って、カメすくいの屋台から引き離す。

 その時に代海ちゃんは振り返って、何度も頭を下げていた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……いつか必ず、力を付けて、また来ますから……そ、それまで、待っててください……ごめんなさい……」

(お店の人がすごく申し訳なさそうな顔してる……)

 

 果たして、代海ちゃんがリベンジできるのは何年後なのかな。

 みんなのところに戻ると、ちょうど霜ちゃんも型抜きを終えたのか、戻ってきた。

 しかも、なんだか満足そうな笑顔で、すごく楽しそうだ。

 

「皆! 見てくれ、この完璧にくり抜かれた型! 美しいと思わないかい?」

「うわ、面倒くさそうな絡み方で戻ってきた……」

「たくさん抜いたから、皆で食べよう!」

「しかもそういうオチ!? もしかしてこのお祭りって、私を満腹死させるための罠!?」

「……満腹死って……なに……」

「あ、あの……ところで、その大量のケバブは一体……?」

「そうだ、忘れるところだったよ」

 

 買ってずっと持ってたけど、すっかり忘れてた。

 

「ケバブ買ったんだけど、みんなで食べよう!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「あぁ……せめて死ぬ前に……小鈴ちゃんの、手料理を……もしくは、小鈴ちゃんに手料理を……それがダメなら、小鈴ちゃんの手料理で死にたかった……」

「それだと、三番目を達成したら自動的に一番も達成されることになるよ」

 

 一通り屋台も回ったところで、ちょっと休憩です。

 みのりちゃんがなんだかぐったりしてるけど、そんなに屋台回るの楽しかったのかな。

 

「屋台は全部回ったし、結構満足したね」

「いやいやいや。君らが回ってたの食べ物の屋台だけだろう? それとも君は食事のためにここまで足を運んだのか?」

「え? 違うの?」

「え……?」

「……今日のこすず……なんか、おかしい……」

 

 だっておいしいものがあるんだから、それを食べる目的で来たって、なんらおかしくはないと思うんだけど……

 

「せっかく来たんだから、もっと色々回ろうよ。ボクもまだ型抜きくらいでしか遊んでないしさ。ほら、射的とか、金魚すくいとか」

「すくい……うぅ、ごめんなさい……誰ひとりとして、助けられなくて……ごめんなさい……」

「もうっ、霜ちゃん! 代海ちゃんのトラウマスイッチを押しちゃダメだよ!」

「今のボクが悪いのかい?」

 

 理不尽だ、とこぼす霜ちゃん。すごく不服そうだ。

 でも今は、トラウマに囚われた代海ちゃんを宥めてあげないと――

 

 

 

「――小鈴!」

 

 

 

 ――と、その時。

 とても聞き慣れた、わたし呼ぶ声。

 今までに何度も聞いた。耳に馴染むほど耳にした声、言葉。

 振り返ると、そこには――

 

「とり……お姉ちゃん!」

「……あんた今、鳥って言いかけなかった?」

「い、いやぁ、タイミング的に来るならこのくらいかなって……」

「タイミング? あんたはなに言ってるのか……また祭のテンションでおかしくなってるの?」

 

 ――そこには、わたしのお姉ちゃんがいました。鳥さんだと思ったんだけどなぁ。

 

「あんたも夏祭り来てたのね。そっちは友達?」

「う、うん。そうだよ」

「……あんたとこんな祭を一緒に回るなんて、あんたの友達にはちょっと同情するわ……」

「え? なんで?」

「だってあんた、際限なく人になにか食べさせるし……あれ以来、母さんはあんたを縁日とかにも連れて行かなくなったんだから」

「えー、それは関係ないし、わたしそんなことしないよ?」

「…………」

「そこで黙るのは彼女のためにならないよ、実子」

「いや、いいの……いいんだよ……私は、小鈴ちゃんに幸せになってほしいだけ、だから……」

 

 なんでか後ろでみのりちゃんが震えている。

 どうしたんだろう。今日のみのりちゃん、ちょっと様子がおかしい気がする。

 

「それよりお姉ちゃん、今日は生徒会のお仕事があったんじゃ……」

「それが終わって帰ろうと思ったら、ガメつい後輩に連れてけってたかられたのよ」

「ガメついとは酷いじゃないですかー、かいちょーぅ」

 

 突然、お姉ちゃんの背後から女の人が現れた。しかも二人。

 片や、小柄で銀縁の眼鏡をかけた、女の人というか、女の子。後輩って言ってたし、ひょっとしたら同学年かな?

 そして、もう一人は……

 

(詠さん……? いや、似てるけど違う人……)

 

 すごく、詠さんに似てる人だった。

 一瞬、本当に詠さんと間違えそうになったけど、よく見れば顔つきが少し違う。

 

「この子が噂の、会長の妹ちゃんですかー。うわぁ、可愛いー!」

「え? え?」

 

 ……なんか、急に頭を撫でられました。

 それどころか、ギューって抱きしめられました。ハグです。

 え? なに? どういうこと?

 

「……(よう)。その子、困ってる……」

「あははははー、ごめんねー。でも、流石は会長の妹さんだ、可愛さ爆発だね!」

「ちょっと謡! あんまりうちの小鈴にすり寄るのはやめなさい」

「ぐぇ」

 

 なすがままにされていたら、お姉ちゃんが女の人の首根っこを引っ張る。

 

「うにゃー、会長ー、首締まるー」

「いくら私伝いで話を聞いてるっていっても、あんたと小鈴は初対面なんだから、もう少し節度を持ちなさい」

「確かにその通りだ。もう何度も会ってる気がしてた……ごめんね妹ちゃん」

「い、いえ……」

「……なんか突然すぎるのと体調不良で、文句言うタイミング逃したし……」

 

 ちょっとビックリしただけで、嫌ってほどでもなかったから、別にいいんだけど……

 すると、今まであまり前に出てこなかった眼鏡の人がおずおずと出て来た。

 

「……会長の妹さんなら、ちゃんと自己紹介しなきゃ……私は、北上副露(きたかみふーろ)です……二年生で、中等部の副会長をしてます。よろしくお願いします」

「あ、は、はい。伊勢小鈴です……よろしくお願いします」

「堅いなー、フーロちゃん。あ、私は謡だよ。さっきから名前呼ばれてるけど。フーロちゃんと同じく二年生で、庶務とかいう雑用やらされるの」

 

 二人とも二年生。眼鏡の人は先輩だったんだ……身長もわたしより低いから、てっきり同学年かと……

 

「私の挨拶はいる?」

「……生徒会長、ですよね? うちの学校の……」

「小鈴さんのお姉さん、セートカイチョーさんだったんですね!」

「生徒会長……あぁ、つきにぃたちの言ってた……」

「そう。伊勢五十鈴(いせいすず)、三年生よ。まあ名前も嫌ってほど聞いてるでしょうけど」

 

 軽く名乗るお姉ちゃん。

 わたしは毎日、家でお姉ちゃんと会ってお話してるけど、友達と一緒にいる時にお話しするのは、なんだか変な感じ。

 それに、お姉ちゃんが生徒会の人たちと一緒にいるところも、初めて見た。あんまりいつもと変わらないみたいだけど、これもちょっと新鮮だ。

 

「と、邪魔したわね。見つけたから思わず声かけたけど、お互いに連れがいるんじゃ一緒ってわけにはいかないし……私もあんたと一緒にお祭り回るのは勘弁だし……またね」

「う、うん」

「じゃーねー、妹ちゃん!」

 

 なんかぼそっと変なこと言われた気がするけど、お姉ちゃんの言う通り、お互いに友達連れじゃやりにくいよね。

 ここで会ったのはただの偶然だし、事情が複雑な代海ちゃんもいるし、急に鳥さんが来ても困るし、少し寂しいけどここでお別れだね。

 と、思ったけど、

 

「あー! フーロちゃん!」

「え……?」

 

 甲高い女の子の声。

 しかも、北上先輩を呼ぶ声?

 え? 誰? と思って振り返ると、声の通りの女の子がいた。

 明るい髪を一つに結んだ、小柄な女の子だ。

 女の子は弾んだ声を上げ、北上先輩に飛びつく。

 

「フーロちゃんもお祭り来てたんだ!」

「か、カザミちゃん……!? ど、どうしてここに……!?」

 

 落ち着いていた北上先輩が、動揺を見せる。カザミちゃん? って子がここに現れることが、あり得ないと言わんばかりの驚きようだ。

 いや、そうじゃないかな。単純に、この子の登場に、この子の存在に、うろたえてるみたい。

 それともう一つ、気になることがある。

 なんだろう、顔つきが似てるけど、双子ってわけでもなさそうだし、姉妹?

 呼び方もそうだけど、体格も同じくらいだし、どっちが姉なのかわからない。

 

「どうしてカザミちゃんがここに……このお祭り、家から離れてるのに……」

「確かに来るのめんどかったけど、そりゃ行くよ。だってヤマネ君が誘ってくれたんだし!」

「誘ってねーし、テメーが勝手に着いて来たんだし」

 

 と、さらに。

 今度は、男の子の声。

 

「つーかおい、カザミ。急に走るなって言ったろ、忠告したろ、危ないだろ」

 

 今日で何度目になるのか、振り返ると、やっぱり声の通り男の子。

 なんだけど……

 

「……ネズミくん?」

「あ? カメ子? なんでいるんだ?」

 

 その男の子は、小学生くらいの体格で……それで……

 脱色に染色を重ねた髪を一つに縛り、赤いカラーコンタクトを付けた眼。顔から腕にまで入った刺青。指輪に腕輪にネックレスにペンダント、腰には鎖を下げている。そんな、男の子。

 こんなファンキーでエキセントリックな男の子は、一人しか知らないし、残念ながら一人だけは知っている。

 

「うわ、このガキって……」

「うにゅぅ……」

 

 渋い表情のみのりちゃんとユーちゃん。

 わたしも大体同じような感じなんだけど、とにかく今は困惑が大きい。

 今日は変な乱入が多い。いっそ鳥さんが一羽来てくれた方がわかりやすいくらいだよ。

 そう思うくらい、奇妙だ。

 この――『眠りネズミ』さんの登場は。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「北上風水(かざみ)です! フーロちゃんがお世話になってます!」

「か、カザミちゃん、その……わたしの方がお姉さんだし、会長の前で、ちゃんづけは……」

「いいじゃん。フーロちゃんに似て、ちっちゃくて可愛らしい妹さんじゃん。ねぇフーロちゃん?」

「謡は黙ってて……」

 

 乱入者その1。女の子の方は、風水ちゃんと言うらしい。北上先輩の妹さんで、今は小学六年生なんだとか。

 だけど、見た感じどっちが姉なのかわかりづらいというか、二つ違いとは思えないくらい近い……その、体格とか。

 そして、もう一人。

 

「ネズミくんは、どうしてここに……?」

 

 乱入者その2。ネズミさんこと、『眠りネズミ』さん。

 風水ちゃんは友達だって言ってるけど……信じられない。

 代海ちゃんも学校に通って生活しているから、そういうところは特に不思議じゃないんだけど。

 脱色に染髪に刺青にシルバーアクセ剥き出しの男の子なんて、わたしは怖くて近づけないよ。

 というか、これで小学校に通ってるの? 学校の先生とかPTAとかの声がすごそうだけど……

 そんなネズミさんが、このお祭りに来た目的。それは、

 

「マジでバッドなハンドスピナーを、サーチ&キャッチでフェスのウィナーになってやろうと思ってな。それをうっかり、カザミにポロッとこぼしたら、勝手にフォローされてごろつかれた」

(ハンドスピナー目当てなんだ……)

 

 なんでそんなところだけ小学生っぽい感性なの?

 しかも、前みたいになにか使命があって来てると思ったら、完全に趣味だし。

 

「おい。それよかカメ子。ちょっと来い、あっちの森」

「え……? ね、ネズミくん……?」

「カザミ。テメーはねーちゃんと一緒にな、後で入口で合流な」

「えっ、えっと……こ、小鈴さん……ごめんなさい……っ」

「あ、代海ちゃん……」

 

 登場するや否や、ネズミさんは代海ちゃんの手を引いて、森――じゃなくて、近くの雑木林に連れて行っちゃった。

 これ、追いかけた方がいいのかな……?

 

「ヤマネ君、行っちゃった……まあいっか! 次はフーロちゃんと一緒にお祭りだね!」

「で、でも、私は、会長と……」

「いーじゃん! 別にフーロちゃんの妹ちゃんも一緒でも」

「色々とフリーダム過ぎて、私にはなにがなんだか……後輩の妹の友達って、それもう他人だし……」

「あ、会長。私ちょっとトイレ行ってきていい?」

「もう好きにしなさいよ……」

 

 お姉ちゃんが空虚に溜息を吐く。こんな疲れ切ったお姉ちゃんを見るのも珍しい。

 

「えっと、お姉ちゃん。わたしも行くね?」

「えぇ、わかったわ。この子はこっちで預かっとくから、早めにあの刺青の子を呼び戻してよね……っていうか小学生で刺青って……」

 

 とりあえず風水ちゃんはお姉ちゃんたちに任せておいて、代海ちゃんのところに行こう。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「なぁカメ子。テメーも帽子屋のリクエストか? テメーはどういうキャストだ?」

「帽子屋さん……? 帽子屋さんが、どうかしたの……?」

「違うのか……ボクはキャットをバイトするラットな役なんだが」

「? ネズミくんはネズミくんでしょ……?」

 

 あ、いたいた。

 雑木林の奥の方に、代海ちゃんとネズミさんが話している姿が見えた。

 

「代海ちゃーん!」

「あっ……こ、小鈴さん……」

「チッ、邪魔かよ。ファッキンだな。密会くらい静かにさせろよ」

 

 露骨に舌打ちするネズミさん。そんなに不愉快そうな顔をされると、ちょっと傷つくよ……

 ネズミさんはわたしたちのことをまるで歓迎していない様子だったけど、

 

「……だがまあ、好都合っちゃ好都合。お前の呼び声があったのか、引き金を引いたのか、はたまた共鳴したのか、理由はわからねーけど」

「え?」

 

 ネズミさんは、少しだけ口角をあげた。

 すると、

 

「いやっほー、チェシャ猫レディさんだよー!」

「うわぁっ!?」

 

 ガササガッ! と木の枝から逆さ吊りのように、女の人が現れた。

 チェシャ猫レディさんだ。まさかこんなところにまで出て来るなんて……

 

「猫のお姉さん……なんでここに……」

「そりゃまあ、火鼠の焦げ臭いにおいを感じて、ベルちゃんを助けに馳せ参じたまでさ!」

 

 火鼠? ネズミさんのことかな?

 今回は帽子屋さんの時みたいに、別になにもないんだけど……

 だけど、わたしが今回は端役であって、いる意味のない配役なのに対して、猫のお姉さんは、無意味ではなかった。

 

「そいつは見当外れ、本命はここだぜ……即ち、猫のキャストは当然、お前だ公然」

「はい?」

 

 ネズミさんは代海ちゃんとも、わたしとも視線を外して、猫のお姉さんをまっすぐに見つめている。

 まるで獲物を見つけた獣のように。ネズミを狩るネコのように。

 立場が逆でも関係ないと言わんばかりの、鋭い眼差しだ。

 

「あっれー、正義感に駆られて出て来たはいいけど、これってもしかして嵌められた?」

「いいや偶然、これは当然……僕もまさか来るとは思いもしなかったからな」

「あ、そう……まあでも、ちょうどいいや。私も私で知りたいことがあったし」

「知りたいこと?」

「そう。あなたたちが何者なのか、ね」

 

 ? 何者なのか?

 どういうこと?

 

「知ってんじゃねーの? あんたチェシャ猫だろ?」

「ノンノン、っていつも言ってるんだけど。私はチェシャ猫レディ」

「いや一緒だろ」

「違うの!」

 

 声高に主張する猫のお姉さん。

 そういえば、指摘された時はいつもそうやって訂正してるけど、こだわりでもあるのかな。

 あんまり格好良い名前とは思えないけど……

 

「わっかんねー。マジで理解不能、僕の脳は再起不能。こりゃダメだ、帽子屋の奴もお手上げだな」

 

 と、大仰に両手を上げて、お手上げのポーズを取るネズミさん。

 だけどその手には、しっかりとデッキが握られていた。

 

「ま、いいけどよ、どーでも。僕のやることは同じ、使命は子猫の掃除、もとい、作戦名『窮鼠猫を噛む作戦』を開始、だぜ」

「……君らって本当、話が通じないっていうか、今回はいつにも増して突拍子なく、しかも意味不明に進行するよね」

 

 ふぅ、と一呼吸置く猫のお姉さん。

 話が通じないとか、突拍子がないとか、意味不明っていうなら、お姉さんも大概だと思うけど……

 

「まあいいけどね! 用があるのは確かだし、相手してあげる! ボコって聞き出せばいいだけだし」

 

 ほら、ちょっと冷静になったと思ったら、すぐこう変に話を繋げちゃうんだもん……

 この人たちといると、お話が奇妙になる。キレイに繋がらないというか、どこか歪に感じてしまう。

 まあ、それはそれとして、

 

「決まりだな。んじゃま、ミュージックオン! バトルファイト、デュエマスタート、だッ!」

「受けて立とうじゃない! ドブネズミ風情がお猫様を噛もうなんて、輪廻転生してから出直してきなさい!」

 

 

 

 ……わたしたち、完全に置いてけぼりなんですけど……

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 猫のお姉さんと、ネズミさんの対戦。

 二人の対戦は、とても早く、スピーディーに進められた。

 

「私のターン。《タイム・ストップン》をチャージして、早速1マナで《ジョジョジョ・ジョーカーズ》! 山札を四枚見るよ! その中から……この手札なら、これかな。《ヤッタレマン》を手札に! ターン終了!」

「僕のターン……チッ、ファッキン! なにも出せない。《“罰怒”ブランドLtd》をチャージ、エンドだ」

 

 

 

ターン1

 

チェシャ猫レディ

場:

盾:5

マナ:1

手札:4

墓地:1

山札:29

 

 

眠りネズミ

場:なし

盾:5

マナ:1

手札:5

墓地:0

山札:29

 

 

 

「私のターンだよ。《戦慄のプレリュード》をチャージ! 2マナで《ヤッタレマン》! ターン終了だね」

「僕のターン! ガッデム! 1ターンおせぇ! 《ホップ・チュリス》をチャージだぜ。《一番隊 チュチュリス》召喚! エンドだ」

 

 どちらも1ターン目から動ける算段があって、2ターン目にも確実に動き出している。

 だけど、ネズミさんは少し不調っぽい。

 

 

 

ターン2

 

チェシャ猫レディ

場:《ヤッタレマン》

盾:5

マナ:2

手札:3

墓地:1

山札:28

 

 

眠りネズミ

場:《チュチュリス》

盾:5

マナ:2

手札:4

墓地:0

山札:28

 

 

 

 どっちもコスト軽減クリーチャーが出て、下準備をし始めたところかな、とも思ったけど

 

「……整いました」

「あん?」

 

 唐突に、猫のお姉さんは告げた。

 

「私、勝っちゃうかも」

 

 ――勝利宣言を。

 

「《ヤッタレマン》で1コスト軽減、1マナで《The ラー漢》! さらに2マナ! 《The ラー(メン)》をNEO進化!」

 

 まだ3ターン目なのに勝利宣言。いくらなんんでも速すぎでしょ、と思ったけども。

 そのスピードに、その宣言に、偽りはなかった。

 

「神輿担いで闇夜を駆けぬける姿はそう、フェスティバル! 場違いな新幹線なんてここにはないない! さぁ、夜天に輝け、祭星!」

 

 チャルメラを流すラーメンのクリーチャー(本当に見た目がラーメンだ。おいしそう)の上に、さらにクリーチャーが重ねられる。

 

 

 

「おいでなすった――《ワッショイ万太郎》!」

 

 

 

 ラーメンが進化して現れたのは、お神輿を担いだ――いや違う、お神輿そのものだ。

 お神輿がそのまま、クリーチャーになってる。お神輿に顔と腕がついてて、宙に浮く姿は、少し不気味だ。

 でも、3マナのNEO進化クリーチャーが出ただけで、もう勝てるなんて、どういうことなんだろう……?

 

「《万太郎》は、場とマナに合計四枚以上のジョーカーズがあれば、パワーアタッカー+6000、さらにWブレイカーになる! そんな《万太郎》で攻撃! すーるーとーきーにー?」

「あ、やっべ……」

「アタック・チャーンス! 《破戒秘伝ナッシング・ゼロ》!」

 

 あれは、帽子屋さんも使ってた呪文……

 確か、山札をめくって、その中の無色カードの数だけブレイク数が増える呪文だ。

 めくる枚数は三枚だから、最大でブレイク数が三枚増える。

 あれ? でもあのお神輿のクリーチャーは今Wブレイカーだから……

 

「トップオープン! 《戦慄のプレリュード》《タイム・ストップン》《チョコっとハウス》! 三枚とも無色だから、ブレイク数を三枚追加! 五枚ブレイクだよ!」

 

 全部ブレイクできるようになる……!

 一度の攻撃で五枚の全ブレイク。やってることは帽子屋さんと同じだけど、まだ3ターン目だよ? いくらなんでも早すぎる。

 しかも、お姉さんの場には《ヤッタレマン》もいるから、S・トリガーがなければそのままとどめだ。

 

「めちゃくちゃだが、マジでドープなフロウじゃねーの……! 僕も負けてやれねーよ! なんか……来いっての!」

 

 ここでS・トリガーがなければ終わり。こんなに早いのに、もうクライマックスだ。

 そして、ネズミさんのシールドからは……

 

「おらぁ! 来たぜ見えたぜやってやったぜ! こいつで逆転、状況反転、ひっくり返せ! スーパー・S・トリガー! ガッデム、ハードファック! 《爆殺!!覇悪怒楽苦(ハードラック)》!」

「うげ……っ」

「潰れて死ね! コスト8以下になるように爆殺! 爆発! 瞬殺! だぁ!」

 

 五枚のシールドの中から出た一枚のトリガー。しかも、スーパー・S・トリガーだ。

 大きな歯車と、それを動かす装置が現れて、猫のお姉さんのクリーチャーたちを囲い込む。

 クリーチャーたちは歯車に飲み込まれて、すり潰されて、破壊されてしまった。

 

「さらにスーパー・S・トリガーのボーナス! トップ五枚を公開、そっから火のクリーチャーを展開、そしてバトルで倒壊! ……ま、バトル相手はいねーけどな」

 

 言いながら、ネズミさんは山札をめくる。

 

「……ケッ、しょっぺぇの。《チュチュリス》を出すぜ」

「もうなにもできないや……ターン終了」

 

 猫のお姉さんの、超高速の一撃は止められてしまい、逆にネズミさんの戦力を増やす結果となってしまった。

 だけど、まだ3ターン目だし、攻撃の勢いが止められちゃったとはいえ、ネズミさんもそんなにすぐ反撃してこないよね……?

 

「さぁて僕のターン。こうなったら後には退けねぇ、邪魔なモンもいらねぇ、全力でぶっ飛ばせぇ!」

 

 なんてものは楽観で。

 ネズミさんのビートは、わたしが思うよりも、よっぽど早かった。

 

「てめーには、僕のとっておきのアンサーを返してやる! マジでバッドなパンチラインを喰らいやがれ!」

 

 相手の攻めには、自分も同等以上の攻めでお返しする。

 ネズミさんは、高らかに宣言して、手札を切った。

 

「1マナ! 《ダチッコ・チュリス》!」

「っ、嫌な予感……」

「《ダチッコ》に《チュチュリス》二体、合計5マナ軽減! 1マナ! ガンガン連射だ、ブレイク決めるぜ――《ガンザン戦車 スパイク7K》!」

 

 出た、ネズミさんの切り札《スパイク7K》。

 出た時にすべてのクリーチャーのブレイク数を増やすことができるから、これでTブレイカー一体とWブレイカーが二体になる。

 一転攻勢、ネズミさんも、一瞬でとどめを刺す体勢に入っちゃった……

 

「《スパイク7K》を、NEO進化せずに、そのまま召喚だ!」

「え? NEO進化しないの?」

「しねぇ。だが《スパイク7K》のパワーアップはパンプアップでブレイクアップだ、オールでな」

 

 だけど、あれ? NEO進化しないの?

 NEO進化しないと召喚酔いは解けないし、このターンでとどめは刺せないはず……なのに、なんで?

 

「そして! これが! 僕のマジでバッドなパンチライン!」

 

 その理由は、その直後の彼の行動で明らかになる。

 

「アンサー返せるモンなら返してみやがれ。てめーのフロウを焼き千切ってやる! マスター・B・A・D(バッドアクションダイナマイト)! 発・動・だぁ!」

 

 刹那、戦場が爆発する。

 爆音、焦げるにおい、熱気……そのすべてが連鎖的に、爆発的に、凄まじい破壊力を持って放たれる。

 これは、一体……

 

「マスター・B・A・Dによって、2コスト軽減。さらにこのターン、僕が召喚した火のクリーチャーの数だけ2コスト軽減! 《チュチュリス》二体で2コスト軽減! 合計コスト8軽減! 1マナタップ!」

 

 正に連鎖的で爆発的な軽量化。

 以前、ネズミさんが見せたB・A・Dは、自爆する代わりにコストを下げる能力だった。

 代海ちゃんの見せたマスター・ラビリンスは、普通のラビリンスと違って、発動条件に新しい項目が追加されていた。

 マスターという強化によって変化したマスター・B・A・Dは、通常の軽量化に加えて、他のクリーチャーの召喚による連鎖的な、それでいて爆発的な加速を実現する。

 

「そこを退きな子猫ちゃん。ここは親分の道じゃん? これより先はBad hell、それでも行くかCat girl?」

 

 度重なる爆発音と、絶え間ないエンジン音が響き渡り、遥か遠くから、やって来る。

 猫の集いを木端微塵に打ち砕く、暴力の化身が――

 

 

 

「そぅら――《“罰怒(バッド)”ブランド》様のお通りだぁ!」

 

 

 

 《“罰怒”ブランド》。その名前も、聞き覚えがある。

 わたしが対戦した時にも使って他クリーチャーで、そのクリーチャーにもコスト軽減能力、B・A・Dがあった。

 だけどその時のクリーチャーの本当の名前は《“罰怒”ブランドLtd》。今出て来たクリーチャーの名前は《“罰怒”ブランド》。名前が少し違う。

 それに、今回は鎧のようなアーマーを着込んでいて、前よりもゴツゴツしている。能力名といい、この姿といい、以前の強化版なのかな。

 

「俊足で飛ばすぜ、高速で放つぜ。ぶち抜け、過ぎ去れ、疾風の如く! 《“罰怒”ブランド》!」

 

 ジェット噴射するスケボーに乗って現れた《“罰怒”ブランド》が、猛々しく咆える。

 それにつられるようにして、バトルゾーンのネズミたちもけたたましく鳴いた。

 

「《“罰怒”ブランド》の能力で、僕の火のクリーチャーはすべてスピードアタッカーだ!」

 

 え!? まったく能力変わってるじゃん!

 いや、そんなことよりも、火のクリーチャーがすべてスピードアタッカーになるって……

 ネズミさんの場には、《チュチュリス》二体が既にいて、《ダチッコ・チュリス》と《スパイク7K》は召喚酔いで動けないはずだった。

 だけどその制限が解除されて、《スパイク7K》の強化を受けた二体が動き出す。それだけじゃない。《“罰怒”ブランド》自身も攻撃できるから……シールド十一枚分のブレイク数を持ったクリーチャーが並んでるってこと!?

 

「これで《バナラドア》ワンチャンくらいじゃ無味だ、怖いのはラスト《タイム・ストップン》程度か。なんでもいいか。とにかくアタック! 《スパイク7K》でTブレイク!」

「……これは、もしかしなくてもまずい……」

 

 《スパイク7K》の砲弾が、お姉さんのシールドを粉砕する。

 なんて破壊力なの……前よりも、さらに攻撃力が増してる。

 

「S・トリガーは……《タイム・ストップン》、ここでかぁ。一応、《チュチュリス》をボトム送りにするけど……」

「そんなんじゃノンストップ! ここは全開フルスロットル! そらよ! 《“罰怒”ブランド》でもWブレイク!」

 

 スーパー・S・トリガーで出てこないんじゃ、攻撃は止めきれない。対象はコスト6以下までだから、コスト7の《“罰怒”ブランド》も倒せない。

 そしてそのまま、続く《“罰怒”ブランド》の攻撃。これでお姉さんのシールドはゼロ。

 ここでなにか引けないと……

 

「あー……うん、オッケ」

 

 残る二枚のシールドをブレイクされたところで、猫のお姉さんは

 

「首の皮一枚! S・トリガー《タイム・ストップン》! 君の攻撃はおしまい!」

「ガッデム! 二枚目とか聞いてねぇよFuck! クッソタレ! ターンエンド……マスターB・A・Dで、《ダチッコ》を破壊!」

 

 B・A・Dは普通に自爆してたけど、マスターになると他のクリーチャーを破壊してもいいんだ……

 なんとかこのターンの攻撃は凌ぎ切ったけど、ネズミさんにはまだ大型クリーチャーが二体もいるし、《“罰怒”ブランド》がいる限り、手札に来るクリーチャーはすべてそのままダイレクトアタックのために射出されてしまう。

 だけどシールドがないのはお互い様。猫のお姉さんも、スピードアタッカーを引いたり、さっきみたいにすぐに進化させて攻撃すれば、勝ちの目はあるけど……

 

 

 

ターン3

 

チェシャ猫レディ

場:なし

盾:0

マナ:3

手札:3

墓地:7

山札:27

 

 

眠りネズミ

場:《スパイク7K》《“罰怒”ブランド》

盾:0

マナ:3

手札:5

墓地:2

山札:28

 

 

 

(なんとも微妙な手札……《ヤッタレマン》がいれば決まってたんだけど、《万太郎》しかいないし。でも《万太郎》出して《ニヤリー・ゲット》撃ってもどうにもならないしなぁ。このターンで決めないとダメだから、ここは……)

 

 少し考え込んでから、猫のお姉さんは手札を一枚マナに落として、さらにカードを放る。

 

「《ニヤリー・ゲット》をマナチャージ! そんで《ジョジョジョ・ジョーカーズ》を唱えるよ!」

 

 ここで《ジョジョジョ・ジョーカーズ》……ダイレクトアタックを決めるのに必要なカードがなかったのかな?

 でも、これで残り3マナだから、《ヤッタレマン》から《万太郎》に進化して攻撃することはできなくなっちゃうんじゃ……

 それはお姉さんも分かってるはずだし、だとすると、

 

「……よしよし、ちゃんと来てくれたね」

 

 他の攻撃手段が、あるってことなのかな?

 

「なにが欲しいんか知らないが、《プレリュード》あってもあんたのマナはそこで尽きる。自慢の《ダンガンオー》を出すマナは残ってないぜ?」

「残念ながら《ダンガンオー》は点検中でね。それに今日はちょっぱやで決めないといけないから、今日は代理の車両を用意しているのです。ちょっと小柄だけど、スピードは負けてないよ?」

 

 そう言って、お姉さんは四枚のうちの一枚を、公開する。

 

「《チョートッQ》を手札に!」

「あん?」

「3マナで《戦慄のプレリュード》。次に召喚する無色クリーチャーの召喚コストを5下げるよ」

 

 これでお姉さんのマナはなくなった。だけど、無色クリーチャーはマナの支払い――文明を出さなくても、召喚できる。

 だからここで出てくるのは、コスト5以下のクリーチャー。

 それは、

 

 

 

「もうお祭りはおしまい! お帰りはこちらから! ご乗車の際は足元にご注意くださいな――発進! 《チョートッQ》!」

 

 

 

 プルルルルル! という前奏曲に伴い現れたのは、新幹線。

 しかも《ダンガンオー》のように、新幹線をモチーフにしたロボットじゃなくて、まんま新幹線。というか、身体は普通の人型なのに、頭が新幹線になってる。すごい変な造形のクリーチャーだ。

 それにしてもこのクリーチャー、初めて見るはずなのに、見覚えがある気がするのはどうしてだろう。

 

「ファッキン! そっちもいんのかよ!」

「そりゃ帰りは電車を使うからね! 《チョートッQ》は登場ターン、相手プレイヤーに攻撃可能! ってわけで、革命0トリガーの勝負だね?」

 

 《チョートッQ》も、《ダンガンオー》みたいに疑似的なスピードアタッカーを持ったクリーチャーなんだ。

 ってことは、これで終わりなの?

 それならそれで、いいんだけど。

 なんだか、それはとっても――

 

「《チョートッQ》でダイレクトアタック!」

「……なにもねーよ。ギブアップ、ハンドアップだ」

 

 ――あっけない幕引きでした。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「……不完全燃焼、まだまだやれるっしょ……って、言いたいけどな……きっつ……」

 

 終わってみれば、すごく早く終わった二人のデュエマ。

 ネズミさんは目頭を押さえてふらふらしている。おぼつかない足取りのまま、猫のお姉さんに向かっていく。

 

「ちょ、ちょっとちょっと。君、大丈夫? 凄いふらふらしてるけど」

「あー、だいじょうばねぇけど、気にすんな……エナドリ切れただけ、だから、よ……」

 

 声も掠れはじめ、あともう少しバランスが崩れたら倒れてしまいそうなほど、危うい。

 それでもネズミさんは、なにかを求めるように、お姉さんへと向かっていく。

 

「窮鼠猫を噛む……が、結局、僕の歯牙は無駄、結果は空虚だ……だがな」

 

 僅かしか開かれていない瞼を押し上げて、ぷるぷると震える腕を伸ばして、

 

「前に果たせなかった、帽子屋(ダチ)との約束……今回くらい、果たさせろ……!」

「っ……っと」

 

 バタンッ

 伸ばした手は、猫のお姉さんの服のボタンを掠めるけど、それだけだった。

 なにをするでもなく、ネズミさんは地面に倒れ伏して、そして――

 

「ネズミくん……寝ちゃった……」

 

 ――眠りについた。

 『眠りネズミ』の名前のままに。

 

「……前にもこんなことあったけど、どういうことなの……?」

「え、えっと、ネズミくんの活動時間の問題で……ネズミくんは、奇数時間の間だけ【不思議な国の住人】として活動できて、偶数時間になると、そうじゃなくなるんですけど……そ、その、【不思議な国の住人】としての性質というか……体質? みたいなもので、奇数時間の時は……“眠っちゃうんです”」

「それが……今ってこと? でも、さっきまで起きてたよね?」

「あれは無理やり身体を動かしてるだけで、ネズミくん、本来は一時間ごとに、寝て起きてを繰り返す生活が、デフォルトで……」

「なんて面倒くさいの……」

 

 一時間おきに変わるって、そんな制約もあるんだ……

 

「っていうかこの子寝ちゃったんだけど。聞きたいことあったんだけどなー……まあしょうがないか。私も人待たせてるし、今回は諦めよう」

「あの……聞きたいこと、ってなんだったんですか?」

「ん? んー、彼らが何者なのかとか、まあ君も気になるだろうことだよ。といっても、私にとっては、単なる私の好奇心を満たすものでしかないけど」

 

 彼らが何者なのか?

 それは、代海ちゃんが言ってたように、わたしたち人間の社会に紛れ込む、人ならざる……あれ?

 

「そう。人じゃないなんてわかってる。じゃあ、次に進めると“人じゃないならなんなの?”だよ」

「なんなの、って……代海ちゃん……」

「……それは……」

「あなたから聞き出すのもアリだけど、ベルちゃんのお友達なんだっけ? じゃあ無理やり尋問するのはやめとこかな。そこまでして知りたいわけじゃないし、ベルちゃんに嫌われるのは嫌だし」

 

 顔を伏せる代海ちゃんは、どこかホッとしたように息を漏らす。

 聞き出されなくて、よかったってこと?

 代海ちゃんにとって、自分たちの正体は、それほど隠したいことなのかな。

 そしてまだ、わたしたちに言っていない秘密がある……?

 どういうこと……なの、かな。

 

「じゃ、私は戻るよ。その子は頼んだ。じゃーねー!」

「あ……っ」

 

 わたしが考え込んでいると、猫のお姉さんはそう言って、闇夜の雑木林に瞬く間に消えて行ってしまった。

 

「えっと……で、では、アタシはネズミくんを連れて、帰ります……そ、その、ネズミくんのお友達の方には……」

「あ、うん。わたしの方から伝えておくよ」

「ありがとうございます……よいしょ、っと」

 

 代海ちゃんは慣れた所作でネズミさんを背負う。

 そういえば、前も急に倒れて眠っちゃったネズミさんを、代海ちゃんが連れて帰ってたっけ。

 仲いいのかな、あの二人って。

 

「そ、それでは……失礼、します……っ」

 

 ぺこりと頭を下げると、代海ちゃんもまた、夜の闇に紛れて消えて行った。

 

「……帽子屋さんや代海ちゃんたちが何者か、かぁ」

 

 確かに気になることだ。

 だけど、わたしにはそれ以上に――

 

「チェシャ猫レディさん……」

 

 ――あなたが何者かの方が、気になります。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ご苦労だった、眠りネズミ」

「言われた通り“噛みついて”来たが……こんなもんでいいのかよ?」

「構わん。侯爵夫人のことだ。なにかしらの手掛かりを見つけてくれるはずだ」

「……ま、確かにあのクソババァはマジクソファッキンだが、腐ってもあの猫の“飼い主”だったわけだしなぁ」

「我々にとっても特異な関係だ。ヤングオイスターズや蟲の三姉弟とも違う、独立してなお通ずる関係性……興味深いが、今はどうでもいい」

「ふわぁ……なぁ帽子屋、もういいか、バックホーム。僕ももうおねむ……」

「あぁ。貴様は一時間おきにしか、この手の話ができんからな。時間を有効活用しただけだ」

「時間を有効活用ねぇ。いかにも、時計に縛られたテメーらしい言葉だがな……ふわあぁぁぁ……あー、もうダメだ。こりゃもうスリーピング、ベッドとドッキングだ」

「ここで寝るなよ。貴様を運ぶのは面倒くさい」

「へいへい。あー、カメ子なら文句言わずに運んでくれんだが……」

「……そういえば、代用ウミガメについてだが。奴になにか変化があったようだが、貴様なにか知っているか?」

「あん? ……いや別に」

「そうか。ならいい」

「じゃ、僕はもう寝るぜ……おやすーシーユーまたらいしゅー、だぜ」




 《ナッシング・ゼロ》と《ニヤリー・ゲット》の殿堂によって万太郎3キルは消え、ゴゴゴの登場で赤単ブランドも過去の遺物に。今はもう見る影もない速攻同士の対戦でした。だから架空デュエマで環境デッキってあまり出したくないんですよね。サイトを変えて掲載するタイミングが遅すぎたというのもあるんでしょうが……
 というかブランドは変化が急激すぎませんかね? 単騎ラフルルはダメとはいえ、ちょっと前まで《“罰怒”ブランド》つえーって思ってたら、もう《“轟轟轟”ブランド》が環境を走ってるってどういうこと? 環境を走る速度さえも最速ってか。
 ご意見ご感想等、なにかありましたら遠慮なくどうぞ。
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