デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 3話です。遂にタイトル回収です。マミったりとかはありませんので、ご安心ください。


3話「魔法少女に変身だよ」

 剣埼先輩たちにデュエマを教えてもらった帰り。わたしは、前に鳥さんと出会ったところに向かった。

 向かったと言っても、帰り道なんだけどね。

 

「鳥さん、鳥さん! わたし、デュエマ覚えたよ――って、うわぁ! 鳥さん!?」

「う……小鈴か……」

 

 鳥さんがこの前と同じところで倒れてた。

 どうしたんだろう。怪我があるようには見えないけど……

 

「鳥さん、どうしたの? なにがあったの?」

「いや、その……お腹がすいて、動けない……」

「また!?」

 

 この鳥さん、また空腹で動けなくなってたんだ。学習してよ。喋る鳥さんはただ者じゃないと思ってたけど、頭は鳥頭じゃない。

 とにもかくにも、このまま鳥さんを飢え死にさせるわけにはいかない。買い溜めしておいた購買のメロンパンを取り出して、少しちぎって鳥さんの口元に運ぶ。

 

「……甘いね」

「メロンパンだから。この前は味がないって言ってたし」

「とにかくありがとう。生き返ったよ」

「次からはちゃんとご飯食べるんだよ」

「善処する……それより、どうしたんだ小鈴。もしかして、デュエマを覚えたのか?」

「そう! そうだよ! わたし、デュエマ覚えたんだよ! すっごく楽しかった!」

「それは良かった。これで、僕の力も取り戻す見込みが立ったな」

 

 元気になった鳥さんは、わたしの方を向くと、小さな嘴を開いて言った。

 

「それじゃあ小鈴、君の願いを聞こうか」

「願い……?」

「君には僕の頼みを聞いてもらう。その代償として、僕は君の願いを叶える。ギブ&テイクだよ。僕のなけなしの力を使えば、君に奇跡の一つくらいは起こさせるさ」

「え、えぇっと……?」

 

 代償とか、力とか、奇跡とか、ちょっとよく分からない。

 でも、鳥さんはわたしの願いを叶えると言ってる。その言葉通り受け取るなら、それが本当なら、凄いことだよね。

 

「わたしの、願い……」

 

 なんだろう、と考える前に浮かび上がった。

 わたしの心の中で、ずっと燻ってる気持ち。

 これを、あの人に伝えること。

 願いがあるとすれば、それだ。

 先輩に、わたしの言葉を――

 

「――ダ、ダメッ!」

「え? なにが?」

「えと、その……わ、わたしのお願いは、後回しでもいい……?」

「後回し? 僕の頼みを先に聞いてくれるってこと?」

「うん、そう。わたしのお願いは、鳥さんの頼みが終わってからってことで、いいかな?」

「僕としては、それこそ願ったり叶ったりなことだけど、いいの?」

「いいのいいの。気にしないで」

 

 わたしのこの気持ち。それを、先輩に伝える。

 わたしが願うとすれば、そのことなんだけど、なんだろう……勇気が、出ない。

 お願いすれば、深く考えなくても伝えられるはずなんだけど、お願いする勇気すらも、湧かない。

 もう少し待ってほしかった。わたしの、心の整理がつくまで。

 

「そっかぁ。小鈴はお願いなしかぁ」

「なしじゃなくて、後回しだよ」

「そうか、まあいいけどね。どの道、君の理想のための助力はあるわけだし」

「助力?」

「小鈴。君の中で、なにか強いものをイメージするんだ」

「強いもの?」

「そう。こんな自分ならどんな相手にも負けないとか、自分ならこうなりたいとか、そういう憧れるようなものを思い浮かべて」

「わたしの、憧れ……?」

 

 なんだろう。憧れるものって。

 わたしが憧れる人と言えば、先輩――は、ちょっと違うかな。憧れてはいるけど、先輩みたいになりたいかって言われたら、話が別だよね。

 そう考えると、やっぱりお母さんかな。小説家として頑張ってる、わたしの自慢のお母さん。実はあんまりお母さんの小説は読んだことないんだけど。

 だけど、昔読んだ、少女向けの小説は、面白かったな。

 わたしと同じくらいの女の子が、仲間と一緒に悪と戦って、成長するお話。魔法なんてファンタジーな要素もあって、王道もいいところのありがちな話だったけど、あの作品の主人公の女の子は、可愛かったし、格好良かった。

 わたしも、お話の主人公になりたいって、その時に思ったっけ。

 可愛くて、格好良くて、強くて、魔法が使えるような特別な存在。

 そんな自分を、少しだけ想像した。

 その時だった。

 

「え……?」

 

 光が瞬いた。

 一瞬の閃光だった。

 

「わ……わ……っ!?」

 

 わたしは、自分の格好を見て、焦る。

 顔が熱い。たぶん、凄く真っ赤になってることだろう。

 

「な、なにこれ!?」

「なにって、君がイメージした、君の“憧れ”だろう」

「な……で、でも、これ、この格好……!」

 

 わたしがイメージした、主人公の女の子のような出で立ち。

 淡いピンク色を基調とした、ふりふりでふわふわ、フリルとレースをふんだんに使ったドレス状の衣装。

 袖がなく、ミニスカートから伸びる脚は、ハイソックスではなくオーバーニーソックスに変わっている。

 その姿は正に、わたしの想像する“魔法少女”のような意匠だった。

 

「コ、コスプレみたい……! 恥ずかしいよぅ……」

「なんか不満そうだね」

「当たり前だよ! こんな恰好じゃ外歩けないよ!」

「ここは外だ。歩けないのは困ったな……」

「困ったのはわたし! 早く戻してよ!」

「せっかく僕のなけなしの力を使って、理想像に変身させたというのに。まあ、必要な時にすればいいことだから、今はいいんだけど――ん?」

 

 突然、鳥さんの声が低くなる。

 

「小鈴、来るよ」

「え、なにが?」

 

 わたしがそう返した、次の瞬間。

 

「わ……っ!?」

 

 わたしのすぐ横を、凄いスピードでバイクが走り抜けた。

 

「なにあのバイク、速くて危ないなぁ……というか今、見られた!? この恥ずかしい格好見られちゃった!? うわぁ、恥ずかしいよぉ……恥ずかしすぎて燃えそうだよ……!」

「……小鈴、行くよ」

「い、行くってなに!? やだよ! こんな格好で人目に付くところに行けるわけないじゃん!」

「さっきのバイクが走った道をよく見てごらん」

「え……うわっ! なにこれ?」

 

 鳥さんに言われて見てみると、アスファルトの地面が抉れてた。全然気づかなかった。

 

「さっきまではこんなのなかったよね……?」

「そうだね。これはさっき通ったバイクによるものだよ」

「バイク? でも、バイクで走ったくらいで、道路がこんな風になるわけがないよ。きっと、わたしが見落としてて、前からあったんだよ」

 

 と思って道路をもう一度見てみると、ところどころに、抉れた地面が見えた。

 

「…………」

「地面の抉れは断続的になってるね。ということは、アクセルを踏み込んだ時に、衝撃波(ソニックブーム)が発生しているのかな」

「鳥さん……鳥さんはなにか知ってるの?」

「知ってると言えば知ってるよ。恐らくこれは、僕の知る範囲の出来事だ」

「じゃあ、これはなんなの?」

「これは、クリーチャーの仕業だ」

 

 鳥さんはそう言った。

 だけど、それだけでは、わたしは理解できなかった。

 

「どういうこと?」

「さっきのバイクも、クリーチャーだよ」

「クリーチャーがバイク……? よくわかんないよ。 クリーチャーって、デュエマのクリーチャーだよね? え?」

「小鈴、落ち着いて。君たちの世界では、クリーチャーはただのカードゲームの中の生物かもしれないけど、僕らの世界では、君ら人間と同じで、本当に生きているんだ」

「クリーチャーが、生きて……?」

「本来なら別の世界に生きて、交わるはずのない人とクリーチャーだけど、今はそうじゃない。こっちの世界にもクリーチャーが流れ出ている。だけど、僕らの世界とこっちの世界とじゃ、世界を構築する組成が異なるし、この世界はクリーチャーの力の源であるマナの濃度が薄くて、クリーチャーはそのままでは実体を保てない。けれど実体のないというのは、時としては便利に働くものでね。精神体ゆえに、他者の意識に介入することができるし、意識に付け込めるのなら実体を得るために行動もできる。そうやって力を蓄えて、最終的に実体を得てしまえば、この世界は混沌に巻き込まれかねないだろう」

「えーっと……?」

 

 一度にたくさん、しかも難しいことを並べられて、よく分からなくなってきた。

 

「クリーチャーは人間に憑依できて、色々と悪さを働きかねない、って考えてくれればいいよ」

「そ、そっか……」

 

 わかりやすい説明だけど、そもそも、そんな漫画や小説みたいなことが現実にあるのかな?

 そこは疑問です。

 

「とにかく、あのバイクを止めるよ、小鈴!」

「と、止めるって言っても、どうやって?」

「デュエマだよ。君たちの世界のクリーチャーは、君たちのルールで鎮めるものだ」

「いや、そうじゃなくて、それ以前の問題っていうか……もうバイク、行っちゃったんだけど」

「…………」

「今からじゃ走っても追いつけないよ……」

 

 バイクはもうとっくに走りすぎてしまった。バイクに走って追いつけるわけがないし、あのスピードじゃ、もう結構遠くまで行ってるはず。今からじゃ、どうしたって追いかけられない。

 

「いや……来るよ」

「え? な、なにが?」

「小鈴、気を引き締めて。行くよ!」

「だからなに――」

 

 その時だった。

 ブルンブルンという、空気が振動する音が響く。

 そして、わたしの意識は、一瞬、消え去った――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ん……?」

 

 意識が飛んだのは本当に一瞬だった。

 だけど、今の状況を理解するには、一瞬では足りない。

 

「な、なにこれ……」

「ちょうどバイクが戻って来たからね。その隙を突いて、僕の力で、君が戦えるように場所をセッティングしたんだよ」

「そうじゃなくて……いやそれもそうだけど……あぁもうっ、よくわかんないよ。とりあえず……」

 

 わたしは、前方にある“それ”を指さした。

 

「あれ、なに?」

「クリーチャーだよ。言わなかったっけ?」

「確かに人間じゃなさそうだけど……」

 

 バイクに跨った、人っぽいなにか。

 クリーチャーと言われれば、そんな気もするけど。

 とりあえず目の前のバイクさんはクリーチャーだとしても、もう一つ、わたしには疑問がある。

 今度は、わたしの手元にあるものを指して言った。

 

「これは、なに? デュエマのカードみたいだけど……」

「言っただろう。君たちの世界で暴れるクリーチャーは、君たちのルールに則って鎮めるんだ」

 

 鳥さんは言う。

 わたしの手元には、わたしのデッキらしきものが浮いている。しかも、シールドっぽいものが五枚並んでるし、手札っぽいものを五枚いつの間にか持ってるし、山札っぽいものが横にあるし、今からデュエマをしようと準備されてるみたいだった。

 しかもバイクさんの方も同じような状況で、ますますそんな感じがする。

 いや、感じがする、じゃない。

 

「君たちの世界で暴走したクリーチャーを鎮静化させるには、君たちのルール――つまり、デュエマで戦って勝って、大人しくさせるんだ」

「……もうわけがわかんないよ」

 

 鳥さんは、とにかくデュエマで勝てって言ってるんだろうけど、クリーチャーとデュエマなんてできるのかな。

 そもそも、クリーチャー相手だなんて、言葉通じなさそうだし――

 

「あぁ、畜生! 誰だぁ! 俺の走りを邪魔するのはぁ!」

「うわっ、喋った!」

「そりゃクリーチャーだって喋るよ。生きてるんだから」

「いや、日本語で喋ったからビックリして……というか、す、すごい怒ってるよ……?」

「気にするな。彼は、本来いるべきではない世界を訪れ、悪行を為しているアウトロー。違反者は相手なんだから、僕らが正しい」

「そうなのかな……?」

「マナチャージ! ターンエンドだ!」

「わ、始まってる……え、えっと、わたしのターン。マナチャージして、1マナで《凶戦士ブレイズ・クロー》を召喚」

 

 とりあえず、手札にあったクリーチャーを召喚する。

 すると、マナが赤く光って、それがだんだんと一つの姿を形成していく。

 光はやがて、《凶戦士ブレイズ・クロー》のイラスト通り、少し気味の悪いトカゲになった。

 

「っ! クリーチャーが……!」

「この空間は、本来なら神話上の戦を再現する場。僕らの世界と限りなく酷似した、けれども君らのルールに合わせて規律を調整した特殊空間だ。君らの世界ではただのカードでも、この空間なら君らのルールを仮術式として、本来の姿で顕現できるのさ」

「相変わらずなにを言ってるのかよく分かんないけど、それってゲームをするのに、なにか変わることがあるの?」

「ないね」

「ないんだ……」

「今の彼らの主は君だから、君が指示すれば従順に動くよ」

「そっか……あ、ターン終了」

 

 鳥さんとの話を打ち切って、わたしはターンを終える。

 

 

 

ターン1

 

バイク

場:なし

盾:5

マナ:1

手札:4

墓地:0

山札:30

 

 

小鈴

場:《ブレイズ・クロー》

盾:5

マナ:1

手札:4

墓地:0

山札:29

 

 

 

 バイクさんはマナチャージすると、手札のカードを使った。

 

「2マナで呪文《フェアリー・ライフ》! 山札の上から1マナ加速(ブースト)! ターンエンドだ!」

「マナが増えた……わたしのターン。《一撃奪取 トップギア》を召喚! 《ブレイズ・クロー》でシールドブレイク! ターン終了」

 

 

 

ターン2

 

バイク

場:なし

盾:4

マナ:3

手札:4

墓地:1

山札:28

 

 

小鈴

場:《ブレイズ・クロー》《トップギア》

盾:5

マナ:2

手札:3

墓地:0

山札:28

 

 

 

 

「《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》召喚! 山札の上から1マナ加速し、ターンエンド!」

「またマナを増やした……」

 

 これでバイクさんのマナは5マナ。マナチャージしても、わたしより2マナも多い。

 クリーチャーの数ではこっちが有利だけど、マナが多ければ、それだけ強いクリーチャーが出せるってことだよね。気を付けないと。

 

「《トップギア》でコストを減らして、2マナで《爆炎シューター マッカラン》を召喚! マナ武装発動! 《青銅の鎧》とバトル!」

 

 今度は鎧を纏った男の人――っていうか、クリーチャーだよね――が登場する。《爆炎シューター マッカラン》、人間に近い姿をしているから、《ブレイズ・クロー》みたいな気味の悪さはないけど、目が常に白目を剥いてるから、これはこれで怖い。

 

「さらに1マナで《ブレイズ・クロー》二体目を召喚! 《トップギア》でシールドブレイク! 行って!」

 

 わたしがそう指示を出すと、《ブレイズ・クロー》は駆け出して、飛びあがって、大きな爪でバイクさんのシールドを一枚、引き裂いた。

 よし、先制できた。こっちのクリーチャーは四体もいるし、強いクリーチャーが出る前に、このまま数で一気に押し切るよ。

 と思ってたら、引き裂かれたシールドが、光に包まれる。

 

「……S・トリガーだ! 《破壊者(スクラッパー) シュトルム》を召喚!」

「しまった、S・トリガー……!」

「《シュトルム》がバトルゾーンに出た時、相手のクリーチャーを、パワー合計が6000以下になるように破壊する!」

「パワーの合計が6000以下になるようにって……えぇ!?」

 

 わたしのクリーチャーは四体いるけど、二体の《ブレイズ・クロー》と《トップギア》はパワー1000、《マッカラン》は3000。合計すれば、ちょうど6000。

 《シュトルム》は腕に付けた銃みたいなものを乱射して、わたしのクリーチャーをすべて破壊してしまった。

 

「ぜ、全部やられちゃった……ターン終了……」

 

 せっかく数で押し切ろうと思ったのに、二枚シールドを割っただけで全滅なんて、ついてないよ……

 

 

 

ターン3

 

バイク

場:《シュトルム》

盾:3

マナ:5

手札:3

墓地:2

山札:27

 

 

小鈴

場:なし

盾:5

マナ:3

手札:1

墓地:4

山札:27

 

 

 

「《青銅の鎧》と《雪精 ホルデガンス》を召喚! それぞれの効果で、合計2マナ加速! ターンエンド!」

「わたしのターン……これしかできないや……《爆裂B―BOY》を召喚して、ターン終了……」

 

 

 

ターン4

 

バイク

場:《シュトルム》《青銅の鎧》《ホルデガンス》

盾:3

マナ:8

手札:1

墓地:2

山札:23

 

 

小鈴

場:《B―BOY》

盾:5

マナ:4

手札:0

墓地:4

山札:26

 

 

「俺のターン! これで終わりだ! 8マナをタップ!」

「な、なにが出て来るの……?」

 

 一陣の風が吹く。

 その風と共に、音速を超えて、侵略者がやって来る――

 

 

 

「障壁をぶっ壊せ! 音速を超えて駆け抜けろ! 《音速 ソニックブーム》召喚!」

 

 

 

 それは、バイクさん自身――大型の自動二輪車に跨ったライダーだ。

 自分自身を、召喚したの……?

 

「気を付けろ、小鈴! 凄まじい力を感じる!」

「う、うん……!」

 

 8マナも払って出て来たクリーチャー。よく分からないけど、凄く強いクリーチャーだろうことは予想できる。

 一体、なにが起こるんだろう……?

 

「《ソニックブーム》を召喚した時、相手のシールドを二枚選び、それ以外のシールドをブレイクする!」

「シールドを二枚選んで、それ以外をブレイクって……だ、出すだけでシールドを三枚ブレイクできるってこと!?」

「そういうことだ! おら、吹き飛べ!」

 

 バイクさんが、バイクに跨って発進する。

 エンジンからは爆音が轟き、アクセルは全開。凄まじいスピードで、こっちに突っ込んでくる。

 

「うわ……っ!」

 

 わたしのシールドにぶつかる直前、バイクさんはドリフトするみたいに方向転換して戻っていったけど、その瞬間、凄まじい衝撃波(ソニックブーム)が起こり、わたしのシールドを三枚も吹き飛ばした。あまりに衝撃が強すぎて、シールドは粉々だ。わたしも吹っ飛ばされそうだったよ。

 

「S・トリガーもないよ……」

「さらに、《ソニックブーム》自体もスピードアタッカーでW・ブレイカーだ! そのままシールドをWブレイク!」

 

 帰っていく途中、バイクさんは振り返って光線銃を放つ。

 放たれた光線がわたしの残るシールドも撃ち抜いた。

 だけど、最初に撃たれたシールドが、光に包まれる。

 

「来た、S・トリガーだよ! 《爆獣ダキテー・ドラグーン》をバトルゾーンに出すよ! 効果でパワー3000以下のクリーチャーを破壊する! 《シュトルム》を破壊!」

 

 リーゼントの悪っぽいトカゲ? がシールドから飛び出して、《シュトルム》を蹴り倒す。

 

「だからどうした! 俺の場にはまだ《青銅の鎧》と《ホルデガンス》がいる! 残るこいつらでとどめだ!」

「まだ終わりじゃない。これで、逆転だよ! 呪文《めった切り・スクラッパー》! コストの合計が6以下になるように、相手クリーチャーを破壊する! 《青銅の鎧》と《ホルデガンス》を破壊!」

「!」

 

 《青銅の鎧》も《ホルデガンス》も、コストは3。だから二体合わせて合計6。《めった切り・スクラッパー》でちょうど二体とも破壊できる。

 ノコギリみたいな大きな刃が、バイクさんの場にいた《青銅の鎧》と《ホルデガンス》の胴体を真っ二つに切り裂く。少しエグい……痛そう。

 だけど、これでこのターン、とどめは刺されなくなった。

 

「《シュトルム》のお返しだよ」

「クソッ……ターンエンドだ」

「わたしのターン!」

 

 マナチャージして、5マナ。わたしの場には《爆裂B―BOY》がいる。

 このターンで、逆転するよ。

 

「《B―BOY》の能力でコストを1減らして、5マナで召喚!」

 

 すべてのマナを使い切って、わたしも、切り札を呼ぶ。

 その時、《B―BOY》が炎に包まれた。

 

 

 

「《ダキテー・ドラグーン》を進化! 《エヴォル・ドギラゴン》!」

 

 

 

 これが、わたしの切り札!

 ここから反撃だよ!

 

「《ドギラゴン》で《ソニックブーム》を攻撃! こっちはポワー14000だよ!」

「っ……! 《ソニックブーム》のパワーは8000……勝てねぇか」

 

 《ドギラゴン》の炎が、《ソニックブーム》を焼き尽くす。

 そして、《ドギラゴン》はバトルに勝つたびにアンタップして、もう一度攻撃できるようになる。

 

「じゃあ、一気に決めるよ! 《ドギラゴン》でTブレイク!」

 

 再び、《ドギラゴン》が攻撃する。

 大地を揺るがすような雄叫びを上げて、炎を吹き出し、バイクさんの残った三枚のシールドを一気に焼き払う。

 

「ぐぅ、S・トリガー! 《フェアリー・トラップ》だ! トップをめくり、《青銅の鎧》だ! コスト3未満の《B―BOY》をマナゾーンへ!」

「うぅ、これで勝ちだと思ったのに……ターン終了」

 

 

 

ターン5

 

ソニックブーム

場:なし

盾:0

マナ:8

手札:3

墓地:7

山札:22

 

 

小鈴

場:《エヴォル・ドギラゴン》

盾:0

マナ:6

手札:2

墓地:5

山札:25

 

 

「俺のターン! 《青銅の鎧》と《ホルデガンス》を召喚し、マナを加速! さらに《フェアリー・トラップ・トラップ》で、トップを捲る! 捲れたのはコスト8の《ソニックブーム》だ! 《ドギラゴン》をマナゾーンへ!」

 

 マナを増やして、増えたマナを使って、呪文が唱えられる。

 《フェアリー・トラップ》は、相手クリーチャーをマナに送る呪文。地面から伸びた大量の蔦に絡め取られて、《ドギラゴン》はマナにされてしまった。

 

「どうだ! これで次のターンにとどめだ!」

「いいや、わたしの勝ちだよ」

 

 だけど、わたしの手にはもう、勝つためのカードが揃ってる。

 《ダキテー・ドラグーン》と《ドギラゴン》はやられちゃったけど、それも無駄じゃない。

 

「《マッカラン》を召喚! マナ武装で《ホルデガンス》とバトル!」

「ちぃ! やられたか。だが、俺のトップはスピードアタッカーの《ソニックブーム》だ。このターンを凌いでも、ブロッカーがなけりゃあ終いだ!」

「まだだよ。召喚したばかりの《マッカラン》を、《ゴウ・グラップラードラゴン》に進化!」

「んな……っ!?」

 

 《フェアリー・トラップ》で倒されたクリーチャーはマナになる。つまり、わたしのマナが増える。その数8マナ。

 8マナも溜まれば、《マッカラン》をすぐに《ゴウ・グラップラードラゴン》に進化できる。

 そして、バイクさんのシールドはゼロ。進化クリーチャーは召喚酔いしないから――

 

 

 

「――《ゴウ・グラップラードラゴン》で、ダイレクトアタック!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「か、勝てたぁ……」

 

 バイクさんとのデュエマに勝ったわたしの前から、デュエマのカードが消える。クリーチャーも、手札もデッキもなくなって、元の世界に戻っていた。

 そして、さっきのバイクさんが憑依していた人かな? から、ぽぅっと淡い光が浮かび上がる。その光はふわふわと中を舞って、そのまま空へと消えていく――

 

「よっと」

「!?」

 

 ――途中で、鳥さんがその光をついばんだ。

 え? なにしてるの、鳥さん……?

 鳥さんの小さな嘴の中に、光がスゥッと吸い込まれるようにして消えていく。なにがあったの?

 

「鳥さん、今のは……?」

「クリーチャーを吸収しただけだよ?」

「吸収したって……」

「力尽きて果てたクリーチャーは、マナの塊になるだけだからね。それを吸収して、僕の力として蓄えるのさ」

「な、なんか残酷……」

「残酷なものか。この世界でマナとなってもただ散るだけ。それなら、僕の栄養とする方がよっぽど合理的さ」

「そうなのかな?」

 

 でも、ちょっとだけバイクさんが可哀そうに思えてきた。

 なんでかは分からないけど、この世界で生きていただけなのに、こんなすぐに消えちゃうなんて。

 

「う……なんか気持ち悪い」

「え? と、鳥さん? 大丈夫?」

「ごめん、ヤバい。は、吐きそ……うえぇ」

 

 ゲホッ、と生々しく咳き込む声が聞こえると、鳥さんの口から光の粒子が零れ落ちる。零れ落ちた光は、ふよふよと空を漂って、どこかへ行ってしまった。

 

「うげぇ……マナが重すぎたのかな……? しばらくマナを摂取してなかったから、身体が重いマナに耐え切れなかったみたい……」

「そんな病人みたいな……」

「でも、おかしいなぁ。同じ火文明なら、受け入れられると思ったんだけど……うぅ」

「大丈夫? 鳥さん」

 

 まだえずいてる鳥さんを介抱しながら、わたしはバイクさんが倒れた方を見る。

 そこには、バイクから投げ出されたように倒れ込む男の人が――

 

「うーん……」

「っ! 鳥さんっ!」

「うげぇ……なに?」

「服! この服、早く戻してっ」

「ちょ、ちょっと待って、まだ体調が……」

「待てないよ! バイクの人が起きちゃう。こんな格好見られたら噂になっちゃうよ……!」

 

 慌てて鳥さんを急かすけど、鳥さんはえずいてばかりでよろよろしてる。

 そんなこんなしているうちに、バイクの人が起き上がった。

 

「あれ……俺、なにを――」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「こ、小鈴っ!? やめて、揺らさないで……おぇ……!」

 

 こんな姿を見られるわけにもいかず、わたしは全速力で走った。足の速さに自信はないけど、なぜかこの時は、自分でも信じられないスピードで走ってた気がする。

 そうして、しばらく無我夢中で走って、人通りの少ない裏路地で止まり、ぺたりとへたり込むように腰を下ろした。

 

「はぁ、はぁ……危なかったぁ」

「僕は危険域を超えたよ……もう吐けない……」

「こんな恰好を見られたら、一生ものの恥辱だよ、黒歴史確定だよ」

 

 それより、まさか自分がこんなに速く走れるだなんて思わなかった。

 

「速く走れるのは当然だよ……今の君は、クリーチャーに近いからね」

「え? どういうこと?」

「力を貸してあげるって言っただろう。あれは、僕のマナを君に与えたってことだよ。つまり、今の君はマナを纏った疑似クリーチャー。身体能力は、通常より向上しているはずだよ」

「そうなんだ……」

「さっきのソニックブームだって、実は君、攻撃を受けてたんだよ」

「そうなの!? 全然気づかなかった……」

「まあ、衝撃が弱かったんだろうね。その姿じゃなければ、吹っ飛ばされていたよ」

 

 つまり、わたしは知らず知らずのうちに、この姿に助けられてたってこと?

 なんか、凄く恥ずかしいし、今すぐに脱ぎたいけど、そう言われると複雑な気分……いや、着替えたいんだけどね。

 

「とにかく、早く戻してよ」

「はいはい……ほいっ」

 

 気の抜けた鳥さんの声が聞こえると、一瞬、わたしの体に妙な感覚が走る。

 そして、気づけばわたしの服装は、ふりふりふわふわの魔法少女コスから、烏ヶ森の制服に変わっていた。

 

「はぁ……これで堂々とお日様の下を歩けるよ」

「そんなに嫌だった?」

「嫌っていうか、恥ずかしいよ、あんなの」

「でも、君は自分の憧れるものとして、あれをイメージしたんだろう?」

「それは、そうだけど……でも、それとこれとは別だよ」

「ふーん、人間の女の子もよく分からないね」

 

 パタパタと翼を羽ばたかせながら、鳥さんはそんなことを言う。

 同時に、さも当然のようにわたしの肩に止まった。

 

「ところで鳥さん、鳥さんのお願いって、結局なんなの?」

「そのことか。それはね、小鈴。僕の力を取り戻すことだよ」

「力を、取り戻す?」

 

 そういえば、ちょくちょくそんなことを言ってたような……?

 

「さっきも見ただろう。僕は、別のクリーチャーのマナを食べて、力を取り戻せるんだ」

「ほとんど吐いてたけどね」

「それは言わないで。とにかく、この調子でどんどん他のクリーチャーの力を吸収して、力を取り戻すんだ」

「ふぅん……あれ? ってことは……」

 

 今回みたいに、他のクリーチャーの力も吸収するってことは、またあのバイクさんみたいに、デュエマをしなきゃいけないってことで、それってつまり、

 

「このままわたし、鳥さんのためにクリーチャーと戦い続けなきゃいけないの?」

「そうなるね。これからよろしく、小鈴」

「そ、そんなの聞いてないよ!?」

「でも、君だってこの世界で暴れるクリーチャーを放置するわけにはいかないだろう?」

「それはそうだけど……」

「なら、ギブ&テイクだ。君がクリーチャーを倒せば、君の世界は平和が保たれ、僕は力を取り戻せるんだから、WIN―WINの関係だよ」

「それはギブ&テイクともWIN―WINとも言わないよ……」

 

 けれど、わたしは鳥さんを論破することもできず、結局、彼の言いなりになる。

 こうして、喋る不思議な鳥さんと、ごくごく普通の女子中学生であるわたしの、デュエマに渦巻かれた奇妙な生活が始まるのでした――




 第3話、これにて終了です。デッキが古いのはご容赦ください。改稿したとはいえ、流石に対戦相手を変更するまではできず……ちなみに、ソニックブームのデッキについては、ピクシブの方にレシピがあるので、興味がおありでしたら是非どうぞ。もっとも、今ではマンハッタンでいい、ということになりますが……
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