今回は前々から触れていた林間学校編です。結構な長丁場になるので、最後までお付き合いください。
こんにちは! 伊勢小鈴です!
今日から、待ちに待った林間学校です。2泊3日のお泊りなんですよ。飯盒炊飯したり、山に登ったり、天文台で星を見たり、楽しいことがたくさんありそうです。
……でも、登山はちょっと、自信ないな……
ちなみにお泊りする場所は、学校が所有している合宿所です。ちょっと山奥の方にあるらしいんだけど、山の頂上には小さな天文台があって、それらも全部学校所有のものなんだとか。
冷静に考えると、学校が山とか天文台とかを所有してるのっておかしいよね? って思ってお姉ちゃんに聞いたら、厳密には学校関係者の所有財産で、友好関係のためにそれを提供している云々と、難しい話はよくわかんなかったけど、要するに厳密には学校側の所有物ではないけど、わりと自由に使えるらしい。
まあ、この林間学校も毎年行われてるけど、それ以外では部活とかで使う団体があるくらいみたい。だから、そんなに使わる頻度は多くないらしいです。
そして今は、その合宿所に向かうバスの中。クラスごとに分けて乗っています。
けど、バスにはずっと乗りっぱなし。山奥といっても合宿所まではあんまり遠くないと聞いたけど、やっぱりちょっと退屈だね。
「ヒマー、ヒマすぎるー……外の景色は森ばっかだしー……」
わたしの隣に座ってるみのりちゃんも、そんなことを言い出した。
最初こそ楽しくお喋りしてたんだけど、だんだんと話すこともなくなってきて、車窓から景色を眺めたりしてたんだけど、それでもこれだ。
「つーかさー、遠くないって聞いたけどめっちゃ遠いじゃん。凄い朝っぱらに集められた上に、もう何時間バスに揺られてるのさ!」
「……二時間くらい? でも、もう山に入ったってことは、そろそろじゃない?」
「いやいや、こういうのはもうすぐと思ってからが長いんだ、私は知ってるよ。あと一時間はかかるね」
「そうかなぁ」
流石にそこまではかからないんじゃないかな。
「ヒマすぎる……ねぇ、なにかして遊ばない?」
「
みのりちゃんの発言に反応して、後ろの座席からひょこっと覗かせる銀髪。ユーちゃんだ。
バスは席は自由だけど、すべて二人掛け。前には霜ちゃんと恋ちゃんが乗ってて、後ろの座席にはユーちゃんと、ユーちゃんの双子のお姉さんであるローザさんが座ってる。
後ろの方も静かになってたから、寝ちゃってるのかと思ったけど、ユーちゃんもわたしたちと同じで、暇を持て余していたみたい。
「ユーちゃんもタイクツしてたところですよ! 実子さん!」
「お? やるかねユーリアさん。小鈴ちゃん、シート動かしていい?」
「わたしはいいよ。ローザさんはいい?」
「私も大丈夫です。ご自由にどうぞ」
許可も得たとこで、わたしたちのシートをぐるっと半回転させて、ちょうどユーちゃんたちと向き合う形になる。
なにをやるのかは大体察しがつくんだけど、テーブルとかもなにもないのに、どうするつもりなんだろう。
と思っていると、みのりちゃんは鞄からなにかを取り出した。
「じゃあここでこれの出番だね。こんなこともあろうかと用意してきた、折り畳み式の大きな板だよ!」
「そんなものなにに使うつもりだったの!?」
どう考えても使う機会が今くらいしかなさそうなんだけど。
ただでさえ2泊3日で、着替えとか荷物が多いのに、そんなの持ってきて邪魔じゃない……?
「勿論、この時のためさ! お互いの膝で支えてね」
「Ja! リョーカイです!」
みのりちゃんとユーちゃんが、お互いの膝の上に板を乗せて、簡易テーブルの出来上がり。
とても自然流れで、二人の対戦が始まった。
☆ ☆ ☆
「ユーちゃんは超次元はないです」
「了解。私の超次元はこれだよ」
[実子:超次元ゾーン]
《真理銃 エビデンス》×2
《龍波動空母 エビデゴラス》×4
《立体兵器 龍素ランチャー》×2
「これはわかりやすすぎるな。どう考えても《M・A・S》か《メタルアベンンジャー》だね」
「あ、霜ちゃん」
「ボクも暇だから見学させてもらうよ」
デュエマのにおいを嗅ぎ付けて、後ろから霜ちゃんがひょっこりと首を覗かせる。
霜ちゃんは恋ちゃんと相席だったはずだけど、恋ちゃんはどうしたんだろう?
「恋ちゃんは?」
「恋なら車酔いでダウンしてるよ」
「あぁ……恋ちゃん、身体強くないもんね」
ちらりと覗いてみると、恋ちゃんは呻きながらぐったりしていた。辛そうだし、今はそっとしておいてあげよう。
「先攻はもらった! 《アナリス》をチャージしてターンエンド!」
「ユーちゃんのターンですね。ドロー! 《デス・ゲート》をチャージです!」
みのりちゃんは水と自然のカード。ユーちゃんは闇のカード。どっちもよく使うカードだから、まだどんなデッキかはわからない。
お互いに1ターン目は動きもなく、どんなデッキかがわかるのは次のターンかな、と思った矢先。
ユーちゃんはチャージしたばかりのマナをタップした。
「それでは、1マナで《闇戦士ザビ・クロー》を
「っ!? 《ザビ・クロー》? 速攻?」
「えへへ、どーでしょー? Endeです!」
ターン1
実子
場:なし
盾:5
マナ:1
手札:4
墓地:0
山札:30
ユー
場:《ザビ・クロー》
盾:5
マナ:1
手札:4
墓地:0
山札:29
ユーちゃんが1ターン目から動いた。
あのクリーチャーは確か、《ブレイズ・クロー》と同じ能力のクリーチャー。闇文明の《ブレイズ・クロー》みたいなクリーチャーだったはず。
1ターン目からそんなクリーチャーを出すってことは、素早く攻撃を仕掛けて倒すデッキなのかな。
「ユーリアさんが速攻使うなんて聞いてないってばよー。えーっと、《クロック》をチャージして、《フェアリー・ライフ》を唱えるよ。マナ加速してターンエンド」
「ユーちゃんのターンです! 《タマネギル》をチャージですよ! そして《ねじれる者ボーン・スライム》を召喚!」
「《タマネギル》って……え?」
「《ザビ・クロー》で
いつになく素早く攻めていくユーちゃん。
この早い段階での革命チェンジで、出てくるのは……?
「《【問2】 ノロン》です! 《ノロン》の能力で、一枚引いて、手札を一枚
「《グール》……! なんかこれ、どっかで見たことある……!」
「《ノロン》でシールドブレイクです!」
「残念ながらS・トリガー! は、ないよ!」
「やりました! Endeです」
……二人とも、楽しそうだなぁ。
みのりちゃん、前にも増してはっちゃけたところ見せるようになったし、ユーちゃんもユーちゃんでノリがいいというか、どんな場でも笑って楽しく盛り上げる子だから、相性がいいんだろうなぁ。
ターン2
実子
場:なし
盾:4
マナ:3
手札:4
墓地:1
山札:28
ユー
場:《ノロン》《ボーン・スライム》
盾:5
マナ:2
手札:3
墓地:1
山札:27
「単純ながらも面倒な布陣だね。打点は低いが、並べて殴ってくるビートダウンは無視できない。けれど、《ノロン》を破壊すれば墓地から《グール》が戻って来てしまうから、逆に打点が増えかねない」
「いやほんとその通り、困ったなぁ。バイクとかドギバスとかブランドみたいな理不尽さはなさそうだけど、こうも速攻染みたビートを仕掛けられるとは思わなかったよ。間に合うかなぁ、間に合えばいいなぁ……《フェアリー・ライフ》をチャージして、《怒流牙 佐助の超人》を召喚」
遂にみのりちゃんもクリーチャーを出してくる。
だけど、この一枚じゃそんなに状況は変わらなさそうだなぁ。
「《佐助の超人》の能力で、一枚ドロー、一枚捨てて、墓地の《ライフ》をマナに置くよ。ターンエンド」
「どんどんやっちゃいますよー! ユーちゃんのターン!」
みのりちゃんはまだ準備中って感じだけど、その間にもユーちゃんはどんどん攻めてくる。
この勝負、みのりちゃんがどこまでユーちゃんの攻撃を耐えられるかにかかってそうだね。
「マナチャージして、《ザビ・クロー》を召喚! そして、《ノロン》で攻撃! する時に!」
「……する時に?」
「侵略です! 《
「あぁ、なんか知ってた……」
「さらに革命チェンジ! 《第三種 ベロリンガM》!」
「そっちも!?」
侵略と同時に、革命チェンジも行うユーちゃん。
あれ? でもこの動き、どこかで見たことあるような……?
「えへへ、実子さんが教えてくれたことですよ?」
「あー、ギョギョラスドギバスの侵略チェンジかぁ」
「確かにやってることは、実子のアレと同じだね」
そういえばみのりちゃんも、《ギョギョラス》に侵略と《ドギラゴン剣》の革命チェンジを同時に使ってたっけ。
サイズは小さいけど、ユーちゃんのやったこともそれと同じなんだね。
「まずは《ゾンビーバー》の能力で、山札の上から五枚を墓地に送ります! その後、《ベロリンガM》の能力で、さらに三枚、墓地行きです!」
「一気に八枚墓地肥やしかぁ」
一回の攻撃で、次々とユーちゃんの墓地にカードが送り込まれていく。
八枚って、よく考えなくてもすごい枚数だよね。まだ3ターン目なのに。
「《グール》は当然として、《デモンカヅラ》に、《オーパーツ》まで入ってるんだ……なんじゃこりゃ」
ユーちゃんが墓地に送ったカードを見て、みのりちゃんが首を傾げながら言う。
霜ちゃんが言うには、《グールジェネレイド》ってクリーチャーは、ドラゴンが破壊されると墓地から場に出てくるクリーチャー。《ノロン》や《タマネギル》はドラゴンだから、これらのクリーチャーが破壊されると場に出てくる。
同時にそれらのクリーチャーは《グールジェネレイド》を墓地に送ることができるから、墓地に《グールジェネレイド》を仕込んで破壊を躊躇わせて、その間にどんどん攻撃するってデッキらしい。
「成長型みたいに革命チェンジで次々と大型に乗り換えていけば、打点不足もそれなりに解消できるし、《グール》が戻ってくることを考慮すれば疑似的な破壊耐性を得ているようなもの。小型ばかりと思って油断していられないね。見た目以上に厄介なデッキだ」
「それねー。なんかユーリアさん、最近デッキビルディング上手くなってきてない?」
「えへへ、そうですか? Danke!」
「ユーちゃん、最近お勉強の時間もカードを触ってますから……」
「ローちゃん! それはナイショだよ!」
うん、まあ、勉強って好きでできるものじゃないもんね。デュエマをしたい気持ちはよくわかるよ。
だけど、この林間学校は、夏休みの宿題が終わらない人の救済――という名の徹底指導という噂もある。
ユーちゃん、大丈夫なのかなぁ……?
「うみゅ……と、とにかく、シールドブレイクですっ!」
「トリガーは……出ないんだよねぇ」
「《ボーン・スライム》でも行っちゃいます! 革命チェンジで《ノロン》です! 一枚引いて、一枚捨てますね。ブレイクです!」
「むむむ、こっちもなにもないよ」
「では、Endeです!」
ターン3
実子
場:《佐助の超人》
盾:2
マナ:5
手札:5
墓地:1
山札:26
ユー
場:《ベロリンガM》《ノロン》《ザビ・クロー》
盾:5
マナ:3
手札:2
墓地:10
山札:17
「いやぁ、やばいやばい。全然間に合う気がしないんだけど」
ユーちゃんの攻撃は、一発一発は小さいけど、それが何度も何度も繰り出されるから、ジャブでも馬鹿にはできない。
あっという間にみのりちゃんのシールドは二枚にまで追い込まれてしまい、ユーちゃんの場にはクリーチャーが三体。次のターンにはダイレクトアタックまで届いちゃう。
「手札に《ゾンビーバー》あるんだよね。一体除去ってもジャスキルかぁ」
カードを引いて、考え込むみのりちゃん。
次のターンを耐えられるのかを考えているみたい。
でも、1ターン耐えたとしても、今のみのりちゃんの場を考えると、反撃も難しいんじゃないのかな……?
「……まあ、なんとかなるか。手をこまねいててもしゃーないし、自分の盾とハンドを信じてやるっきゃないね。私のターン、《ジェイス》をチャージして《龍覇
「あぅ、戻されちゃいました……」
「それだけじゃないよ! 《龍波動空母 エビデゴラス》を設置! ターンエンド!」
クリーチャーを手札に戻して、数は二体に減った。これで見た目の上ではギリギリ耐えられる。
だけど、ユーちゃんの手札にはWブレイカーの《ゾンビーバー》がいるから、やっぱり耐えられないんだよね……
「ユーちゃんのターンです! 《ノロン》で攻撃! その時、革命チェンジです!」
なんだけど、ここでユーちゃんが見せたのは、《ゾンビーバー》じゃなかった。
侵略ではなく、革命チェンジ。
《ノロン》が手札に引っ込んで、その代わりに現れるのは――
「――《
「《デモンカヅラ》? まあどっちでも一緒なんだけど、場数減らされるのかぁ。地味に嫌だね」
「手札の《ベロリンガM》を捨てて、《佐助の超人》を破壊! そしてWブレイクです! このターンにダイレクトアタックですよ!」
ここでWブレイクを受けると、S・トリガーがない限りみのりちゃんの負けが確定しちゃう。
だけど、
「ま、実は普通に耐えられるんだけどね。前のターン我慢してよかった。ここは通さないよ、ニンジャ・ストライク! 行け! 過労死担当の《ハヤブサマル》! ブロックだよ!」
シノビで防御して、二枚のシールドを守るみのりちゃん。
これでこのターンにとどめを刺されることはなくなったかな……?
「うみゅ……でも、止まりませんよー! 《ザビ・クロー》で攻撃!
「選んだ方が手札に入って、もう片方は墓地なんだよね。《グール》二枚とかじゃなければいいなぁ」
ユーちゃんは攻撃の手を止めることなく、攻め続ける。
《ジーン⤴》は、場に出ると手札と墓地をそれぞれ増やせるクリーチャー。相手が選ぶのが難点だけど、手札を減らさず、墓地にクリーチャーも溜められるから、ユーちゃんのデッキとの相性は良さそうだね。
その能力で、ユーちゃんは山札を二枚公開する。
「《ジーン⤴》と《ザビ・クロー》かぁ。ぶっちゃけどっちでもいい感あるけど、場数を並べられるのも嫌だし、《ジーン⤴》をあげるよ」
「ですです。では、シールドブレイクです!」
「トリガーはやっぱりないね。流石にへこむよ」
ターン4
実子
場:《M・A・S》
盾:1
マナ:6
手札:4
墓地:3
山札:25
ユー
場:《デモンカヅラ》《ジーン⤴》
盾:5
マナ:3
手札:4
墓地:12
山札:14
「だけど、なんとかここまで耐えられた……《ハヤブサ》には感謝だね」
残りシールド一枚まで追い込み、相変わらずとどめを刺せるだけのクリーチャーが並び、睨みを利かせるユーちゃん。
手札もなんだかんだ残ってるから、息切れの心配もあまりなさそうだし、本格的にみのりちゃんはピンチなんじゃないかな。
と思いながら見てたけど、むしろみのりちゃんはすごくハイになってた。
「さぁ、ここからが私の時代! これでもう勝ったね!」
「そーなんですか!?」
「……たぶんね」
高らかに宣言してすぐにトーンダウン。テンションのアップダウンが激しすぎる。
でも、勝算があるのは確かみたい。じゃなきゃみのりちゃんはこんなことは言わない。
ハッタリという可能性も否定できないけど、ここでハッタリを仕掛けても、ユーちゃんが攻撃の手を緩めるとも思えないしね。
「とりあえず、まずは《エビデゴラス》の効果でドロー。そして通常ドローだよ」
普通よりも一枚多くドローしてターンを始めるみのりちゃん。
そして、ここからみのりちゃんの反撃が始まる。
「さぁ、これが私の答えだ! マナチャージして7マナ! 《M・A・S》を進化!」
すべてのマナを使い切って、みのりちゃんは《M・A・S》の上にクリーチャーを重ねる。
NEOじゃない、普通の進化クリーチャーを。
「まずはこれ! 《革命龍程式 プラズマ》!」
出て来たのは、水のクリーチャーだ。
なんだろう、初めて見るクリーチャーだけど。
「まずは《プラズマ》の能力で四枚ドローだよ!」
「わわっ、手札がたくさんです!?」
一体クリーチャーを出しただけで、一気にみのりちゃんの手札が増えちゃった。
でもマナは使い切っちゃってるから、ここでこれだけ引いても、すぐには使えない。
でも、それでもよかったんだ。みのりちゃんにとって大事なのは、手札の量ではない。
大事なのは“カードを引くこと”だったから。
「これで私はこのターン、五枚以上のカードを引いた! よって《エビデゴラス》の龍解条件成立!」
カードを引くこと。それがそのまま、龍解を達成するための条件。
横向きに置かれていたドラグハート・フォートレスが、ひっくり返って、クリーチャーになる。
「龍解! 《最終龍理 Q.E.D.+》!」
これでWブレイカーが二体。
だけど、これだけじゃ終わらない。
「まだまだ! G・ゼロ! このターンカードを六枚以上引いたから、《
「あぅ、どんどん出て来ます……」
さらに大量ドローで増えた手札から、G・ゼロでクリーチャーが出て来る。マナはないけど、G・ゼロならマナを使わなくていいから、問題なく出せるんだね。
しかもこのクリーチャーも、タダで出す条件がドロー枚数だから、《エビデゴラス》の龍解条件と被ってるんだ。
どっちも《プラズマ》の能力に反応して起動するから、同時に使いやすいんだね。
「さぁ、《プラズマ》で攻撃――する時に!」
「ま、まだなにかあるんですか!?」
ここまででも十分みのりちゃんのプレイングはすごいんだけど、これでもまだ終わらない。
ドローすることが《エビデゴラス》の龍解に繋がり、《クロスファイア 2nd》を引き込みつつG・ゼロ条件も達成する。
すべては《プラズマ》がキーカードとして働いているわけだけど、《プラズマ》の仕事はまだ終わらない。
マナがないから、マナを使わなくてもいいG・ゼロで追加のアタッカーを用意する。だけど、それにはまだ先がある。
大量ドローで手に入れられるのは、G・ゼロだけじゃない。《クロスファイア 2nd》以外にも、ドローを攻撃力に変換できるクリーチャーは存在する。
「《プラズマ》はコスト6以上の! 革命軍で! コマンド! ってことは出てくるのは勿論これ!」
最後の締めが残っていると言わんばかりに、みのりちゃんは“それ”を《プラズマ》に重ね、叩きつける。
「今日も今日とて、予想を裏切って行こう――《裏革命目 ギョギョラス》!」
で、出て来た……みのりちゃんの切り札、《ギョギョラス》
今まで何度も見てきたクリーチャーだけど、ここでも出て来るんだ……
「……実子は本当、どこからでも《ギョギョラス》をぶん投げて来るね」
「文明とかあんまり関係なく出て来るから、思ってもみないところで侵略されて、ビックリするよね」
今回も、正直《エビデゴラス》龍解と《クロスファイア 2nd》のG・ゼロだけで結構驚いたから、もうこれ以上はないと思ったところでさらに最後の一押しが来て、さらに驚かされちゃったよ。
「革命発動してるし、ぶっちゃけここで侵略したの悪手な気がするけど気にしなーい! 《ギョギョラス》の能力で《デモンカヅラ》をマナ送り! それよりコストの小さい《M・A・S》をマナから出すよ! 能力で《エビデゴラス》を設置! さらに《ジーン?》もバウンスだ!」
「ふえぇぇ!? ぜ、全滅ですか!?」
……なんか、生き生きしてるなぁ、みのりちゃん。
でもこの動きはすごいね。進化、龍解、G・ゼロ、侵略で、一気にクリーチャーを大量展開して、ユーちゃんのクリーチャーをすべて除去したうえに、このターンダイレクトアタックも仕掛けられる。
事前準備もあったとはいえ、たった1枚のカードからここまでできるなんて、すごい爆発力と奇襲性だよ。
「《ギョギョラス》でTブレイク!」
「! S・トリガー! 《デス・ゲート》です! 《クロスファイア 2nd》を破壊!」
「あちゃ、打点がずれたか」
「そして墓地から……《ジーン?》をバトルゾーンに! 山札をめくりますよ!」
「めくれたのは《オーパーツ》と《デモンカヅラ》ね。どっちもやだけど、ここは《オーパーツ》をあげよう」
「Ja……」
「さて、これで打点足りなくなったけど、残りの攻撃はどうしよっか……また変な藪つっつきたくないし、黙っておこうかな。ターンエンド」
「ゆ、ユーちゃんのターンです……」
「こうなるとユーはきついね。ここで攻め切る打点もないだろうし、攻撃に枠を割いてるみたいだから次のターンを耐える防御力もない。ブロッカーは《Q.E.D.+》で大体無力化されちゃうしね」
速攻デッキは序盤に攻めきれないと厳しいんだっけ。
手札がなくなるからってわたしは聞いたけど、これは手札がどうこうというより、純粋にバトルゾーンの状況で負けてる。
「《ボーン・スライム》二体と、《タマネギル》を召喚です! 手札の《グールジェネレイド》を捨てて、《M・A・S》を破壊します!」
「いいよいいよ、そのくらいはサービスさ」
「《ジーン⤴》で攻撃! 革命チェンジ! 《最終問題 オーパーツ》です! 《オーパーツ》の能力で、二枚ドローします。そして……」
「わかってるよ。私は《ギョギョラス》の下の二枚を捧げよう」
「全然クリーチャーが減ってないです……《オーパーツ》で最後のシールドをブレイクです!」
「残念ながらそれは通さないのさ。ニンジャ・ストライク、《佐助の超人》! 一枚引いて《バイケン》捨てて、《オーパーツ》をバウンスだ!」
「あうぅ、Ende……」
増えた手札から現れるシノビ。みのりちゃんは攻撃を通さない。
結局、ユーちゃんはほとんどなにもできずにターンを終えるしかなかった。
ターン5
実子
場:《ギョギョラス》《バイケン》《Q.E.D.+》《エビデゴラス》
盾:1
マナ:7
手札:5
墓地:4
山札:21
ユー
場:《ボーン・スライム》×2《タマネギル》
盾:2
マナ:5
手札:5
墓地:14
山札:11
「さぁ、私のターン! まずは《エビデゴラス》の効果で追加ドロー! さらに《Q.E.D.+》の能力で、山札の上五枚を見て、その中の一枚をトップに固定、残りを山札の下に戻して追加ドロー! 最後に通常ドロー!」
みのりちゃんのターン。
ユーちゃんのデッキにトリガーは少ないだろうって霜ちゃんは言ってるし、それはみのりちゃんもわかってそうなんだけど……
「そーれ、《バイケン》を進化元に《プラズマ》召喚! 四枚ドローして二枚目の《エビデゴラス》も《Q.E.D.+》に龍解! さらにG・ゼロで《クロスファイア 2nd》だぁ!」
「うわぁ、イジメみたいな過剰打点だ……」
まったく容赦することなく、みのりちゃんは次々と新しいクリーチャーを繰り出していく。
これでWブレイカーがさらに二体増えて四体。
ユーちゃんのシールドはあと二枚しかないし、ブロッカーがいるとはいえ、ちょっとやりすぎな気も……
「いやいや、確実に詰めるためにもここは連打だよ! 《プラズマ》で攻撃時に《ギョギョラス》侵略ぅ! あー、またミスった気がするけど……まあいっか!」
「全然詰めれてないじゃないか」
「気にしない気にしない、もうこれは勝ちでしょ! 《オーパーツ》をマナ送りにして、マナから《M・A・S》! 《タマネギル》をバウンスして《エビデゴラス》を設置!」
「えっと、水のドラゴンじゃなければブロックできるんですよね? だったら《ボーン・スライム》でブロックです!」
「もう一発! 《クロスファイア 2nd》でWブレイク!」
「そ、それもブロックです……」
「そういえば《クロスファイア》はドラゴンじゃなかったな……まあいっか」
「ちょっと君、ガバガバ過ぎない?」
うん、わたしもそう思う。
防御にも使える《プラズマ》を侵略させちゃうし、種族を忘れてブロックされちゃう《クロスファイア 2nd》から攻撃するし。
勝ちが見えてるからって、いくらなんでも気が緩みすぎだよ、みのりちゃん……
「今度こそ! 《Q.E.D.+》でWブレイク!」
「そこは《ギョギョラス》から行くべきところだろう……」
「うみゅぅ……でも、悔しいですが、トリガーはありませんです……はい……」
「だったらこれで決まり! 《ギョギョラス》で、ダイレクトアタック!」
☆ ☆ ☆
「うみゅぅ、負けちゃいました……」
「怒涛の反撃でしたね……」
「ま、ぶっちゃけ《ハヤブサ》引けてなかったらヤバかったけどね。《バイケン》も《クロック》も来ないんだもんなー、速攻は少しきつかったよ」
「というか実子、最後の方の詰めは流石に甘すぎないか? 《プラズマ》を残しておけば手札のトリガーが使えたから防御が盤石になるし、最後だって《デス・ゲート》を踏んでブロッカー出されて耐えられる可能性があったんだから、先に《ギョギョラス》から殴ってブロッカーを無視できるようにすべきだったよ」
「あーあー、知らない知らない。勝てば官軍だよ!」
「なんて暴論……」
「うむむです。このまま負けてるのは、やっぱり悔しいです! 実子さん! もう一回です! もう一回デュエマしましょう!」
「お? やるかね? 私は何度だって受けて立つよ」
「……いや、残念ながらそれは無理だな」
霜ちゃんが小さく言う。
それと同時に、かくんと、少しだけ前につんのめる。
そして後ろでは、寝起きらしい恋ちゃんの声。
「んん……着いた……?」
☆ ☆ ☆
合宿所というか、宿泊施設は、想像以上に立派なものだった。
全校生徒に先生も宿泊するんだから当然といえば当然だけど、すごく大きい。学校の校舎ほど……とまではいかないけど、それでも、一般的な宿泊所よりも大きいんじゃないかな?
中も綺麗で、なんというか、ピカピカしてた。
元々合宿所として使われることが多いからか、華美ではないけれど、汚れてたり老朽化してたり、というようなところはパッと見て見当たらない。真新しいってほどでもないけど、もっと古い建物だと思ってたから、ちょっと意外だ。
バスから降りたわたしたちは、まずは四人一組の班に分かれて、それぞれ割り当てられた部屋に移動。そこで荷物を置いて、ついでに軽く備品点検をする。
わたしたちの班は、わたしと、みのりちゃんと、恋ちゃんとユーちゃんの四人。一つの班で一つの部屋を使うことになるから、もちろん男女は別。だから霜ちゃんとは部屋が別々になっちゃうんだよね……
それに、ローザさんも、わたしたちに遠慮して別の班になったっていうし……なんだか、申し訳ない。ユーちゃん曰く「ローちゃんはそういう子ですから。でも、おうちではとっても仲良しなので、大丈夫です!
うーん、まあ、でも、自由時間も少なくないし、一緒にいられる時間はあるから、特に問題はないかな?
「1Aの六班、揃ってる?」
「あ、先生だ」
荷物を置いて、備品も確認も終えたところで、わたしたちのクラス――1年A組の担任の先生である鹿島先生が、扉から顔を覗かせた。
「六班は、全員そろってます。部屋も特に問題はありませんでした」
「そうかい。それはよかった……この班の班長って伊勢だっけ? ちょっと話いい?」
「いいですけど、なにか……?」
「すこーしだけな。とりあえず、こっち来てくれ」
「? はい」
話ってなんだろう? わたし、なにかしたかな?
もしかしてバスでデュエマしてたのがまずかったのかなぁ。トランプくらいにしておくべきだったのかも……
と思いながら、宿舎の廊下で先生と向き合う。先生はなにやら難しそうな顔で、わたしを見つめていた。
「えっと、話ってなんでしょう?」
「…………」
「先生?」
「あ、いや。まあ話っていうか、お願いなんだけどな?」
「お願い、ですか?」
なんだろう。デュエマのことでなかったのは良かったけど、お願い?
皆目見当がつかないよ?
「前置きなしで単刀直入に用件だけを言うぞ。生徒を一人、六班で引き取ってほしい」
「え? ど、どういうことですか?」
「そのまんまの意味だよ。理由を聞いてるなら、そうだな。C組の班なんだけど、班員のうち三人が欠席してるとこがあるんだよ」
「三人も? 一班四人ですよね?」
「ん……あぁ、まぁな……」
どこかはっきりしない物言いの先生。
もごもごと口を動かしていて、言いづらそうにしている。
先生のお願いは、生徒を一人、わたしの班に迎え入れてほしいということだった。四人班で、三人が欠席。一人だけが残っちゃったから、他の班と併合しよう、ってことなんだと思う。
それは理解できるんだけど、なんでC組の生徒をA組の班が? という疑問は残る。それに一つ班で三人も欠席だなんて、普通じゃない。
なにかがあったんだと思うけど、そのなにかを、先生は言いたくなさそうだった。
「……こういうの、身内の恥を晒すみたいであんまり声高には言えないんだけどな……」
だけど、やがて。
そう前置きして、先生はまた口を開いた。
「その、なんだ。三人欠席の班っていうのは、なるべくして生まれたっていうか、不手際と言えば担任の不手際なんだけど、C組の担任はまだ新人だし、こういうのも仕方ないっていうかな……」
「? あの、あまり要領を得ないのですが……」
「悪いな。立場上……っていうか、同僚、いやさ後輩への情だな。先に言い訳させてもらうと、C組の担任は赴任してきたばっかりで、まだ教師として、担任として未熟なんだ。ちょっとした“狂い”があると、うまくことを運べないこともあるわな。そんな状態でも、混乱をほとんど起こすことなく、小さな歪だけでクラスをまとめてるし、そうなるよう常に努力している。怠惰では決してない、むしろ勤勉だ。そこは評価してるし、称えるべきだ」
どこか必死に、C組の担任の先生を擁護するような言葉を並べる鹿島先生。
わたしはC組の担任の先生のことは知らないけど、熱心な先生だっていうのは伝わってきた。
じゃあ問題は、その熱心な先生が、対応しきれなかった問題とはなにか、ということ。
そこが本題で、先生は、今まさにその問題を口にした。
「さて、言い訳はこのくらいにして……お前も知ってると思うんだが、うちの学校、結構ついていけなくなる生徒が多いんだ」
「あぁ……はい、そうですね……」
いわゆるドロップアウトというやつです。中退、っていう言い方が正しいのかな。
もっとわかりやすく、リアリティを込めて言うのなら、不登校。残念なことに、烏ヶ森学園では、そういう生徒が少なくない。すべてのクラスに一人か二人はいるくらいだ。
理由は人によって様々。霜ちゃんみたいに、自分自身の心の問題だったり、人間関係の摩擦であることもあるけど、多くは学校の勉強で挫折するから、と聞いたことがある。
なんだかんだ、勉強についてはちょっぴり厳しくて大変だからね、
それでも、学校の勉強についていけないから、学校に行かなくなる、っていう人がそれなりにいるみたい。
「そういう意味では、先生はお前のこと買ってるんだ。日向のことや、ルナチャスキー、水早のこととか……正直、かなりありがたいと思ってる。私がどうにもできなかった生徒問題のほとんどは、お前が解決してくれたようなもんだからな」
「いや、わたしはそんなつもりじゃ……」
「お前にそんなつもりがなくても、結果がそう出てるんだ。ま、なんにせよお前には感謝してるし、その能力も高く評価している。その上で、頼みたいんだ」
「C組の人を、わたしの班に……ってことですか?」
「あぁ。もうこの際だからはっきり言うが、その班っていうのが、いわゆる“ついていけなくなった”生徒たちで作られた班でな。本来なら、誰一人として林間学校には来ない。だから形だけの、実質的には存在しない班……の、はずだったんだけどなぁ」
「……一人だけ、イレギュラーがいた……?」
「その通りだ」
大体読めてきた。
そういうことかぁ……
「そう都合よく四人ピッタリ揃うわけもないもので、要するに一人だけあぶれてるんだ。その一人を、伊勢の班と合流させたいんだが……いいか?」
「えっと、わ、わたしはいいですけど……誰なんですか? その人は……」
誰かを迎え入れることは構わない。そういう事情なら仕方ないと思う。みんなにも、ちゃんと話せばわかってくれるだろうし。
だけど、C組の人なら、C組の班と合流させるべきなんじゃないかなぁ? 体育でも一緒にならないA組より、同じC組の方が仲のいい人も多いだろうに。
ん……? いやでも、C組で仲のいい人がいるなら、そこで班を作るよね。それをしないってことは……
「なんで私が伊勢の班をピンポイントで指名したのか。その理由がそのまま答えだよ」
先生はそう言うと、わたしを手招きした。その後に続く。
少し歩いて、先生が使うらしい部屋に辿り着く。そして、その部屋にいたのは――
「こ、小鈴さん……」
「代海ちゃん……!?」
――亀船代海ちゃん。
C組に在籍する、わたしの友達だった。
☆ ☆ ☆
「――と、いうわけで、代海ちゃんもわたしたちの班と合流することになったんだけど……」
部屋でのチェックが終わると、宿舎の管理人さんへの挨拶というか、林間学校の開会式みたいなものをしてから、大広間に連れて来られる。
この大きな部屋でなにをするのかと言えば、とても簡単。勉強です。
基本的には自習形式だけど、先生たちが用意してきたプリントか、各自用意してきた問題集か、はたまた終わっていない宿題か……いずれかを選択してやることになっている。
でも、学年ごとに分かれているとはいえ、非常に生徒の人数が多いし、先生の目もわりと緩い。結構立って動く人もいるし、それを咎められることもない。ちょっとお喋りするくらいならまったく問題はなかった。
そこでみんなに、代海ちゃんがわたしたちの班に入ったことをちゃんと説明したんだけど……
「ふーん。君、クラスでハブられて小鈴ちゃんを頼るしかなくなっちゃったんだ。かわいそー」
「そ、それは……あぅぅ」
「みのりちゃん! そんな言い方、よくないよ」
「いやでもさぁ、事実だしー? クラス跨いでまでって、なかなか相当じゃない? C組の問題をこっちまで飛び火させるなって話だよ」
「ご、ごめんなさい……アタシ、その……つい、小鈴さんの名前を……」
「代海さんは悪くないですよ! ユーちゃんは、人がたくさんいて、楽しいと思います!」
話を聞くところによると、代海ちゃんは班で一人だけになったところ、流石にそれはまずいだろうという話になって、担任の先生と他の班に行く相談をしてたみたい。
だけど、その、代海ちゃんはあんまりクラスに馴染めてないみたいで……あまり、上手くいかなかったみたいで。
最終的に、わたしたちのところに合流するよう、鹿島先生に預けられたということらしい。
代海ちゃんも大変だったんだと少し同情したけれど、それ以上に、わたしとしては代海ちゃんと一緒の班になれたことが嬉しかった。
友達になれたと言っても、まだ代海ちゃんについて知らないことも多いし、もっとお話ししたいと思ってた。だからこれはいい機会だと思ってるんだけど、快く思わない人もいて……みのりちゃんなんかは、なんだかすごく当たりがキツイ。
ユーちゃんは仲良くしようという気概が感じられるけど、恋ちゃんはどう思ってるのかよくわからないし、霜ちゃんもみのりちゃんほどわかりやすくはないけど、代海ちゃんに対して決して友好的とは言えない。
「流石のボクも、実子の態度は少し問題だと思わないでもないけど……警戒はした方がいいよ、小鈴」
「警戒?」
「一緒の班ということは、ほとんどの時間を彼女と一緒に過ごすということだ。当然、寝ている時も。夜襲がないとは言い切れない」
「まさか、そんなこと……」
「“あり得ないなんてことは、あり得ない”。彼女の立場を考えてもね。彼女がC組で孤立しているのも事実だとは思うし、事が大きくなりやすい環境だから、下手なことはしないと思うけど……なにをされるかわかったものじゃない」
みのりちゃんの辺りがキツイのも、霜ちゃんが警戒しろと言うのも、代海ちゃんが『帽子屋』さん側――【不思議な国の住人】という立場にあるから。
わたしは、代海ちゃんがわたしたちを騙してるとか、そんな風には思えない。
帽子屋さんたちは、意味不明なことを言って突っかかってきたり、たまに危険な時や人があるけど、根本的には悪い人たちではないんだと思う。この前の、蟲の三姉弟の人たちからも、その様子は窺い知れた。
わたしたちと、人間と同じように、人を思いやったり、姉弟で仲良くしたり、仲間と協力する人たちだ。
なにが目的なのか。それがわからないから不気味なんだけど、彼らを悪人だと断ずることは、わたしにはできない。
そうでなくても、代海ちゃんは友達だ。疑うなんて、できるはずがない。
そんなわたしにはなにを言っても無駄だと思ったのか、それともまったく別の理由か、霜ちゃんは黙々と溜め込んだ宿題を消化する恋ちゃんの方を向いた。
「恋、君は彼女のこと、どう思う?」
「……別に」
「君は中立的に振舞ってるけど、だからこそ、ボクは君の考えを聞きたい」
それはわたしも知りたかった。
みのりちゃんや霜ちゃんは、代海ちゃんを疑ってる。ユーちゃんやわたしは、仲良くしたいと思ってる。
だけど恋ちゃんだけはそのどちらでもない。積極的に関わることもなければ、嫌っているようでもない。かといって無関心かと言えば、そういうわけでもなさそうだし、なにを考えてるのかわからないというのが正直なところだ。
でも恋ちゃん、わりとドライなところあるから、実は本当に無関心で興味ないだけなのかもしれないけど……
恋ちゃんは手を止めて、だけど視線は斜を向いたまま、口を開いた。
「そうや、みのりこの言うことも、一理ある……でも……善意の皮を被った悪人がいるように……悪意に振り回される善人も、いる……表面だけじゃ、人の善悪は、わからないし……一面的に見て、一つの考えに決めつけて、視野を狭めるのは……悪手だし、早計だと、思う……」
「だからまだ判断はできないって?」
「だいたい、そんな感じ……けど」
ふと恋ちゃんは、代海ちゃんに視線を向けながら、言った。
「……しろみは、ちょっとだけ……わたしと、似たにおいが、する……気がする……」
そう言う恋ちゃんの表情は、いつと変わらなかった。
だけどその眼は、今まで見たことがない、穏やかな眼をしていた――
☆ ☆ ☆
「――お茶が入ったのよー!」
「うむ。かたじけない、姉上」
「帽子屋のダンナがいないのに茶会すんのも変な感じだな」
「あの人、急に「三日ほどここを離れる。後は任せた、自由にしろ」とか雑に言い残して本当にどっか行っちゃったけど、どこに行ったの?」
「つーか、カメ子の奴もいないよな」
「ウミガメちゃんは学校の……なんて言ったっけ? リンパ管? みたいなのに行ったのよ」
「林間学校だよ、姉さん。あんまり合ってないよ」
「がっこーって、なに?」
「人間の営みの一形態、かな? 自分たちの知らないことについて学ぶ場所らしい」
「よくもまあカメ子の奴は、あんな退屈な場所にいられるな。マジぱねーな」
「そういうネズ公だって、律儀に毎日小学校に通ってるんじゃねーの?」
「僕のはただの暇潰しだ。授業なんざ興味ない、先公とかどうでもいい。僕のしたいようにしてるだけだよ」
「しかしなんだって、帽子屋のダンナは重い腰を上げる気になったんだ? クソウサギがうるさくてたまんねーんだが」
「そいつは僕も同意、つーか全員の総意? じゃねーの?」
「ウサちゃんが元気なのはいつものことだし、気にならないのよ」
「たぶんそんなことが言えるのは姉さんだけだよ……あいつ、わりと本気で殺意が芽生えるくらいに鬱陶しい奴だからね?」
「ぼうしやさん、いない。ジャバウォックさんも、いなかった」
「……なっちゃん。今、なんつった?」
「? ぼうしやさん、いないって」
「その後だ、後。どいつもいないって?」
「ジャバウォックさん?」
「……ダンナ、わりとマジなんだな。ジャバウォックを連れて行ったのかよ。強行軍じゃねーか」
「帽子屋殿の決意は固いということだな。何日かけようとも、目的を果たす覚悟が見受けられる」
「三日って言ってたけどね」
「でもよー、帽子屋って今、聖獣なんちゃらをほっといてんだろ? んで、変な猫女追っかけてんだろ? なにがしてーのかわかんねーんだが」
「帽子屋さんはイカレてるから。あっぱっぱーな頭でなにを考えてるかとか、考えるだけ無駄なのよ」
「さしずめ、気になるから追ってたら夢中になっちゃった、ってところじゃないかな。私から見ても、あれが本意の行動とは思えない」
「む? 僕は侯爵夫人からの要請だと思っていたが、違うのか?」
「それもあるのかもしれないけど、帽子屋さん自らが動くってことは、本人も相当気になってるってことでしょ。まったく、打算的かと思ったら衝動的になって、計画的かと思ったら突発的に事を始めて、迷惑な方向で読めないし食えない人だよ。前に女の子を利用する時もそうだった。面倒くさい、鬱陶しい、飽きたとか、子供っぽいこと言って切り捨てたんだもんな」
「その癖、変なとこで義理堅いから憎めないのよ。本当、いつもいつも、なにがしたいのかわからないのよ」
「ま、ダンナの――ワタシたちの目的は、ハッキリしてるけどな」
「その目的を忘れない帽子屋じゃねぇ。お遊びも、そろそろ終いじゃね?」
「……それもそうだね。
「――せかい……すべて……かも、しれない」
「姉上の眼をもって告げるのであれば、相違ないのだろうな」
「えぇ。だから待ちましょう。帽子屋さんを……私たちの、希望をね――」
とりあえず今回は初回なので、まださわりの部分程度で。
バス内での対戦はほとんどノルマみたいなものですが、デッキ自体はまあまあお気に入りです。実子のMASプラズマに関しては、これの発展型があるのですが……まあ、それはまた別のお話で。
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