前回が一日目の午前だったので、今回は一日目の午後です。
こんにちは、伊勢小鈴です。
遂に始まった林間学校。一日目もこれで半分、お昼の時間です。
班ごとにご飯を炊いて、料理をしてという、いわゆる飯盒炊爨だね。
午前中のお勉強時間で意気消沈しちゃった恋ちゃんやユーちゃんも、おいしいご飯を食べれば元気が出るかなと思って、わたしも頑張ろうって思った……思ったんだけど……
「洗米班は洗い終わった? でもまだ触らないでね、あと二分はステイ。そっちの野菜も洗い終わったら弄っちゃダメだよ。もう少し待つの。すべてはベストなジャストタイミングがある。それを逃したら死刑だよ」
「なんでそんなことを……早く済ませればいいのに……」
「愚問だね。そんなの、小鈴ちゃんに最高の料理を提供するためだよ! ほら、口じゃなくてそれ以外のところを動かしな。口を動かすのは私と小鈴ちゃんだけだよ!」
……わたしより、頑張ってるというか、張り切ってる人がいます。
今日のみのりちゃん、やっぱりなにかおかしいよ……
厨房のすべてを取り仕切っているといわんばかりに、みのりちゃんが班員それぞれに指示を出す。それだけならいいんだけどね。二班一組で、男女混合なこともあって、他の班は統率が乱れがちだけど、わたしたちの班はみのりちゃんが全部仕切ってくれるから、まとまりはある。
でも、わたしだけ座って待ってるって、それはどうなの、みのりちゃん……流石に、いたたまれないよ…
「そろそろかな。そこの……えーっと、名前なんだっけ? 男子生徒Aでいいや!」
「若宮だよ! 同じクラスなんだから名前くらい覚えてくれ!」
「そんなどうでもいいこと忘れたよ! いいから、ちょっとそっちのアレ取って!」
「どれ!? 指示語だけで説明されてもわからない!」
「亀船さんだっけ? 君もこっち来て! 無能だろうとなんだろうと、手があればできることはある!」
「え? え? えぇ?」
しかもよく見ると、みのりちゃんの指示もだんだんめちゃくちゃになってるし。
若宮くんや代海ちゃんがちょっとかわいそうだよ。
「やけに飛ばしてるね、実子」
「あ、霜ちゃん。霜ちゃんは大丈夫?」
「勝手ながら休憩さ。なんとか抜け出してきたよ。いつもよりハードだけど、流石に彼女にも慣れてきたしね。若たちは結構キてるっぽいけど……まあ、同じ班だし、後でフォローしておこう」
「ありがとう、ごめんね……」
「君が謝ることじゃない。実子が傍若無人すぎるんだ。それより、君はいいのかい?」
「うーん、何度か言ったんだけどね。でもみのりちゃん、あんまり取り合ってくれないというか、話が通じないというか……」
「あそこまで熱くなってたらそうか。それと、もうひとつ」
「もうひとつ?」
「あれはどうする?」
あれ? と霜ちゃんが指差した方へと身体を回して、眼を見張った。
林間学校だからって、勝手に思い込んでた。自分の都合のいいように解釈してたし、正直、忘れてた。
でも、それはわたしの実生活とは関係なく現れるものだから。うん、そうだよね。
やっぱり、来ちゃうよね。
「と、鳥さん……」
「やぁ小鈴。今日は騒がしいね」
こんな時に来るなんて、タイミングが悪すぎるよ……
「と、鳥さん。声、もうちょっと抑えて。みんなに見つかっちゃう」
「そんなに気にすることかい?」
「気にするよっ」
幸い、わたしと霜ちゃん以外はみのりちゃんに振り回されてて、こっちに気付いてないみたいだけど……見つかったら、色々大変なことになっちゃうよね。
「君が来たってことは、クリーチャーか?」
「その通り。さぁ行くよ、小鈴」
「え、でも、今は……」
「行ってきていいよ。実子はあんなんだし、君が入り込む隙はなさそうだからね。いざとなれば、ボクがみんなに上手く言っておく」
霜ちゃんがそう提案してくれた。
確かに今のわたしはなにもしてないけど、一人だけ勝手に抜けるのは悪いような……
「小鈴、早くしないと逃げられるかもしれないよ。着替えの時間もあるんだし。それとも今ここで着替えてく?」
「それはイヤ!」
「ハッキリと断ったな……」
「じゃあ決まりだね」
「なんか雑に言いくるめられたような……でも、確かに放っておけないし……霜ちゃん、お願いしていい?」
「あぁ、任せてくれていいよ」
「ありがと」
この場は霜ちゃんに任せて、わたしは鳥さんと一緒に、みんなに気付かれないよう、こっそりと抜け出した。
それにしても……
(林間学校に来てまでクリーチャー退治なんてね……)
クリーチャーさんも、もうちょっと空気読んでくれたらいいのに。
☆ ☆ ☆
「――さて、こんなものか。急造だが、なかなかよくできたと思わないか? ジャバウォック」
「□□□□□」
「相変わらず貴様の存在だけはオレ様にもわからんな。貴様の存在がオレ様たちに大きな利益をもたらしているのは確かだが、貴様はどういう役割で、どういう目的で、どういう使命で、どういう配役で、どういう信念に準じているのか、まるでわからん。バタつきパンチョウはなんと言っていたか。例外、特例、便利設定キャラ……とかなんとか」
「□□□□□」
「まあしかし、貴様とて怪物でも怪異でも、幽霊でなければ妖怪でもない。この地上で生ける生命だ。暖気寒気は肉体に影響を及ぼすし、雨風で体力は奪われ、腹も減る。その点はオレ様たちと共通している。そして貴様は間違いなくオレ様たちと同類だ。それさえわかれば十分。そしてだからこそ、オレ様は柄にもなく拠点を作成したわけだ」
「□□□□□」
「肯定されているのか文句を垂れているのか、まるでわからないが、こうして唯々諾々と従っているのだから前者なのだろうな。いやさ、さっぱり貴様の言いたいことはわからない。ゆえに、オレ様の都合のいいように解釈させてもらうぞ。どうしても納得がいかないのであれば態度で示せ。反抗してみせろ」
「□□□□□」
「無論、反抗など期待していないが。しかして、コミュニケーションが成立しているのかすら怪しいな。まあいい、聞いているのかわからんがよく聞け。これから行うのは張り込みだ。チェシャ猫……あの不可視の猫を引きずり出すための作戦だ」
「□□□□□」
「本来、意志を持たないだろう貴様にこんなことを語ることは無意味なのだが、貴様とて我らが同胞であり、運命共同体だ。義理として伝えねばなるまい。無論、そのような義務的な理由がすべてではないがな。すべて必要だからこそ、だ」
「□□□□□」
「バタつきパンチョウではないが、この世界を一つの物語として、客観的な視点で想定してみれば、また違った意味合いがある。故にこうして無意味なような独白も、誰かしらが読み進めている物語という観点で考えれば、必要なことだ。奴は犯人役、オレ様は探偵役としてキャストされた――ふむ、となれば、さしずめ貴様は助手、ワトソン役か――そのオレ様の推理が正しければ、奴は
「□□□□□」
「チェシャ猫の正体を、その行方を確かめなければならなければならない――まあ別段その理由はないが、なぜ奴が我々に離反したのか。その真意は確かめたいと思うな。イカレてはいるが、これでもオレ様は、連中を束ねる役目もあるからな。これに関してはほとんどオレ様の興味本位だが、奴も我々と同類、同族、同胞だ。不可視の猫と言えど、見えてしまっては無視することはできんさ」
「□□□□□」
「当然、聖獣についても忘れてはいない。あらゆる奇跡を体現し、不可能でも可能に、不可逆を可逆にする、まるで魔法のような力――その神々しさはもはや神の力、いやさ神話で語られるような、荒唐無稽なものであろうな。いわばそれは、あらゆる願望を叶える装置とさえ言えるかもしれない。煌々と、神々しいものだよ。まるで日陰者の身である我々を照らす太陽の如くだ」
「□□□□□」
「おっと、まだ照らされてなどいなかった。それに奇跡なんてものに縋るのは、ハッキリ言って愚かとさえ言える。だが、ショートカットは決して悪いものではない。むしろ我々は遅れている、周回遅れだ。ショートカットでもチートでも使わなければ、もはや連中に追いつけない領域にいる。連中はあまりにも歩みが早かったからな。先んじて立ち上がり、道具を使い、言語を発達させ、技術を、知能を磨たものたち――そう、人類は繁栄しすぎた」
「□□□□□」
「この地球に、人類以外の居場所などほんの僅かだ。そして、その僅かな場所に居座るのは獣たち。では、人でも獣でもないものは、どうすればいい? なあ、ジャバウォック」
「□□□□□」
「オレ様たちは、我々は、一つの生命だ。命あって生まれた以上は、人類でなくとも、畜生でなくとも、生きるという義務がある。子孫を残し、種を存続させ、反映する責務がある。なにもおかしなことではない。それが当然だ。オレ様はただ、当たり前で当然のことをしているに過ぎない」
「□□□□□」
「……貴様からのレスポンスがないことをいいことに、言わせてもらおう。ジャバウォックよ。役割なき役割の装置、止まった時計を動かす竜頭よ。オレ様は――正しいよな?」
「□□□□□」
「なにも間違ってはいない。頭は狂ってるかもしれないが、仲間を助け、仲間の繁栄を願い、そのために戦い、手を尽くす……オレ様のこの在り方は、正しいはずだ。生命の理論として、生きる者の掟として、生物の在り方として、正しいはずなんだ。オレ様は確かにイカレているが、イカレているなりに正しい道を歩んでいる。間違いではない、間違っていない、間違ったことなどなにもない。世界の、自然の、生命のルールに則っている。さすれば万事うまくいくとまでは思っていないが、万事を覆すようなことにはならないと信じていいのだろうな?」
「□□□□□」
「なぁ、そうだろう、ジャバウォック」
「□□□□□」
「……そうだろう、皆――」
☆ ☆ ☆
飯盒炊爨を終え、午後の自由時間も過ぎ、夕食も食べ、たまにクリーチャーが出たりして、そのたびに鳥さんと一緒に抜け出して……トラブルは色々あったけど、本日の予定はほとんど終了です。
残すは入浴と就寝だけ……なんだけど。
「うわっはぁ! 小鈴ちゃんが! 小鈴ちゃんが! 服を着てない! 服を着てないよ! うははははは!」
「みのりちゃん!? 変なこと言うのやめて! 笑い方も怖いよ!?」
脱衣所の時点でみのりちゃんがおかしいです。朝からテンションが高めだったけど、それが臨界点に達したみたいだった。
「え? 風呂って明日もあるよね? 明日も小鈴ちゃんが脱ぐの? マジで? 林間学校最高すぎるでしょ!」
「だから変な言い方やめて……お風呂なんだから、服を脱ぐのは当たり前なんだから……わざわざ脱ぐって言わないで……」
しかもわたしを名指しで。他の人もいるんだから……
「プールの時も思ったけど、なにも隠すものがないとそれはそれで最高だね! っていうか前より大きくなってるのでは!?」
「なっ……ちょ、ちょっとみのりちゃん! やめてって……!」
「ゆ、ユーちゃんもオジャマして、いいですかっ!?」
「いいよぉ。ユーリアさんもこの背徳的な悦楽を共有しよう!」
「ダメだよっ!? こっ、恋ちゃんっ! 助けて……!」
「……ごめん、こすず……貧族の私は、巨族の小鈴を助けるわけには、いかない……諦めて……」
「なにを言ってるの!?」
両サイドから伸びるみのりちゃんとユーちゃんの手。どっちも手つきがやらしすぎる。
みのりちゃんだけでも相手するのに精いっぱいなのに、ユーちゃんまで来たら対応しきれない。
だから恋ちゃんに助けを求めたけど、恋ちゃんは無感動な流し目で拒絶されてしまった。
「こんな時、霜ちゃんがいてくれれば……! そ、霜ちゃーん! 霜ちゃーん!」
「残念ながら水早君は男湯でお楽しみ中だよ! 観念すべし!」
「ふにゅぅ、このMuttiのようなRuhe……Angenehmです……やわらかい……」
「もうユーちゃんが離れてくれないよ……代海ちゃん、たすけ――」
と、そこでわたしはハッと思い出した。
ここに代海ちゃんはいない。クラスが違うから、という理由ではない。
色々な事情で、部屋に備え付けられたシャワー室を使う人もいるということだ。特に女の子は。
「うみゅ……代海さん、お風呂には来てくれませんでしたね……」
「仕方ないとはいえ、代海ちゃんがいないのがちょっと残念だね」
「ま、私は別にどっちでもいいけどね。人間の女じゃなくても、そういうのってあるもんなんだね」
「実子さん! 代海さんのそのことはヒミツですよ! バレちゃったらまずいです!」
「……まあ、人間じゃないとか……誰も、本気にしないとは、思うけど……」
「もしかしたら、人じゃない部分が見えないところに隠れてるとかね」
「……普通に、あり得そう……」
「でも、あんまり詮索しちゃダメだよ、みのりちゃん」
「うへ、小鈴ちゃんに釘刺されちゃったなぁ……まあいいけどね。どうせ興味もないし」
部屋で別れた時の代海ちゃんの表情を思い出す。
いつも自身なさげで、なにかに怯えたような目をしている代海ちゃんだけど。
(あの時の代海ちゃん、いつもより浮かない感じに見えたな……気のせいだといいけど――)
わたしたちは、まだ代海ちゃんのことを全然知らない。
【不思議の国の住人】としても、亀船代海という女の子としても。
なにが好きで、なにが嫌いで、どんな時に笑って、どんな時に泣いくのか、なにも知らない。
(この林間学校で、少しでも知れたらいいな……)
代海ちゃんは、どこかわたしたちに遠慮しているようにも見えた。
みのりちゃんや霜ちゃんの当たりがキツイせいもあるのかもしれないけど、一緒の部屋でも、まだ馴染めていない感じだったし。
わたし以上に人見知りで、おどおどしてるから、ハッキリとものを言うみのりちゃんたちに気圧されている面は大きいと思う。そして、その先にある壁。
わたしたちと深く関わることを、どこかで拒絶しているような、壁を感じているのかなって思う。
わたしたちから歩み寄るのか。あるいは、広く門扉を開けるのか。
なにをどうすれば、代海ちゃんともっと仲良くなれるのかな……
「…………」
「恋ちゃん? どうしたの? こっちをじっと見て」
「……別に……なんでも……先、上がる……」
「? うん……」
なにか考えている感じだったけど、どうしたのかな。
ユーちゃんは代海ちゃんに好意的だけど、恋ちゃんは責めもしなければ好意的な様子も見せない、中立みたいに振舞っている。
恋ちゃんは、代海ちゃんのこと、どう思ってるのかな……
お風呂から上がれば、夜だ。
二泊三日の林間学校の、第一夜。
この一晩で、少しはカメさんの引っ込めた首を、出させることができるかな――
☆ ☆ ☆
「――やっぱり、まだ、言えません……」
狭い空間で水音が響く。反響し、喧しく騒ぎ立てる。
けれども、外界の騒々しさは内面にはなんら関係ない。
自らの大海で溺れる沈没船のようだった。外界の雨も嵐も関係なく、自らの世界で生み出される、苦悩の海が思考を沈め、肉体を寒冷によって萎縮させる。
「小鈴さんたち、優しいけど……でも、だけど……だから……」
優しいけど。
優しいから。
どっちも間違っておらず、どっちでもある混沌。
二つのルートから紡がれる結果は同じ。それ以上は、閉口するしかなかった。
「小鈴さん、あんなに優しくしてくれる、のに……アタシ、ダメすぎる……」
一度は牙を剥いた相手。個人ではなく集団で見れば、それは敵対と言って差し支えないほど、こちらは彼女に爪を立てている。
それもまた苦悩。
個人か集団か。個人なくしても集団はあり得ない。自分勝手に、感情に絆され、好意を示していいのか。
あの二人のように、明らかな敵意を向けてくれた方が、よほどわかりやすい。
だが、それでもだ。
自分の感情に、嘘や偽りはなかった。
「嬉しかった……帽子屋さんたちと、出会った時と、同じくらい……嬉しかった……」
帽子屋。
【不思議な国の住人】。
自分の身分を忘れてはいけない。
確かにあの時、決意したのだ。自分のため、彼らのため、共に生き、共に繁栄を目指すと。
救ってくれた彼。
楽しさを教えてくれた彼女。
なにが正しいのか、なにが正解なのか。
自分は、どうすればいいのか。
わからない。わからないから、その狭間にいる。
彼の側か、彼女の側か。
どっちつかずの半歩が前後に揺れ動く。前でも後ろでもない半端な空間。
踏み出せない、臆病者の空間だ。
――いいや違う。
今の自分は、圧倒的に彼の側だ。
ただ、彼女の側に踏み出しかけているだけ。
踏み出せないのは、前だ。
このままとどまれば、彼女に与することはない。
それは彼の救済あってこそ。
そして、
「……っ」
身体を這う、感覚の小さな躍動。首筋から足先まで走る伝播の衝撃。
同時に脳漿を震わせ、刺激される。眼に、身体に、そして心に蘇る、記憶の断片。
(やっぱり、どうしたって……忘れられない、ですよね……)
なにが原因かなんて、わかりきっている。
帽子屋とか、小鈴とか、色んな人を言い訳にしても、はっきりしたものが自分の中にはあるのだ。
やはり、臆病者か。そして卑怯者だ。
自分は手足と首を引っ込めたカメでしかない。災禍は震えて過ぎるのを待つ。無力で無価値な存在。
この身は代用品のようなもの。いくらでも替えが利く。その程度の価値でしかない。
そのくらい、自分はつまらない存在なのだ。
「……はぁ」
ノズルを捻る。水音は止まった。
結局は、そんな風に落ち着けることになる。
自分の価値観も、自己評価も、立ち位置も、自問自答した程度で変わるものでもない。
弱いからこそ、心が揺さぶられ、揺れ動くが、それだけだ。
自分が右往左往と慌てふためくだけで、なにも変わりはしないだろう。
自分はいつまでも中途半端な臆病者で、彼らや彼女らと共に生きるのだろう。
そこで、思考を止め、切り替える。
確かこの後は、消灯時間まで部屋で待機だったはず。寝るまでの間、またあの寄生少女の敵意の視線を浴びるのかと思えば、身体が竦みそうになる。
脱衣所から出ると、ガチャリ、と音がした。
誰かが入って来たのだ。いや、彼女らは鍵をかけて出て行ったはずだから、入って来たのではない。帰ってきたのだ。
「……ただいま」
ただし、それは一人だけ。
やたらと小さな背丈。細すぎる矮躯。
なにを考えているのかわからない、無感動な眼がこちらを見据えている。
「お、お帰り、なさい……えと、こ、恋、さん……」
一人だけだろうか。他の三人と一緒じゃないのか。と混乱半分に思考を巡らせるが、まとまらない。
なぜなら、彼女がずっとこちらを見つめているから。
今まで、こちらのことなど興味がないと言わんばかりの冷淡な態度だったので、すぐに部屋に戻って寝るなりなんなりするのかと思ったが、そうではない。
(に、睨まれてます……?)
まったく表情が出ないので、なにを考えているのかはまるでわからないが、とにかく見つめられている。
あるいは、睨まれている。
「……ねぇ」
「はっ、はひっ……な、なんでしょう……?」
思わず上ずった声が出た。
呼びかけられた。ある意味それは予測可能な流れだったが、しかし理由がわからない。
なんの用があるのか。関わりなんてほとんどなかったはず。自分は彼女にくっついてきた、なんでもないノロマなカメ。ただそれだけの存在に、なにをしようというのか。
わからない。それが恐怖心を煽る。
普段も毒を吐き散らすような言動が多く、彼女の友人の中では、最も忌憚なく言葉を放つ。温情も容赦もない。物静かなのは外見だけ、内面には計り知れないほどの猛々しさを持っている。
それゆえに、次に紡がれる言葉には、相応の恐怖が宿る。身体は硬直し、思わず身構えてしまう。
やがて、彼女は小さな口を開いた。
「……カード、持って来てる……?」
「は……はい?」
☆ ☆ ☆
「――というわけで、女子会(夜の部)へと呼ばれた、男子たちの斥候の水早霜です」
入浴を終えて部屋に戻ったわたしたち。
今日はもう寝るだけで、消灯時間になるのを、部屋で遊びながら待っているところに来客――霜ちゃんがやって来た。
「斥候?」
「女子部屋の様子のレポートを頼むって言われた」
「えー? ちょっと恥ずかしいなぁ」
(デュエマしてるだけなのに恥ずかしいのかな……?)
みのりちゃんはカードを捌く手を止めない。
でも、確かにこの状況をつまびらかにクラスの男の子たちに話されたら、それはそれで恥ずかしいかも。
「別にボクはなにも言わないよ。連中の下賤な欲望よりも友情を優先するくらいの人情はボクにもある。たとえ君らが女子らしさ0%のデュエマしかしていなくても、そんなことはまったく言わないから安心していい」
「なんでそこでグサッと来ることを言うのかな? かな?」
「ところで、二つほど聞きたいことがあるんだけど」
「なにかな?」
「ユーはどこに行った?」
「ここだよ」
みのりちゃんが手札を持ちかえて、すぐ隣に敷かれた布団をめくり上げる。
「……うみゅ……Brust ist weich……Ich moechte fuer immer hier……」
「もう寝てるのか……」
「なにしても起きないくらいぐっすりだよ」
「疲れちゃったみたいだね。ついさっきまで、一緒にデュエマしてたんだけど」
「ユーは相変わらず幸せそうだね……」
呆れ顔で布団をかけてあげる霜ちゃん。
ここまで気持ちよさそうに寝てると、起こすのも悪いし、寝かせてあげるべきだよね。
「それで、もう一つは?」
「……彼女らはなんであんなに隅っこにいるんだ?」
「さーねー。私たちが戻って来た時には、あんなんだったよ」
「? 一緒に風呂から上がったんじゃないのか?」
「恋ちゃんだけ先に上がったの。そして、戻ってきたら」
「あーなってたのさ」
部屋の隅っこで、こじんまりとカードを広げている恋ちゃんと代海ちゃん。
わたしたちが部屋に戻った時には、既に一緒になってカードを広げてて、わたしたちもそれに便乗した形になるんだけど……二人でなにをやってるんだろう?
「これを……こうすれば……」
「成程です……た、確かに、それなら条件が……」
「出てれば、とりあえず強いし……」
「で、でも、ちょっと不安定じゃ……」
「そこは……割り切る」
「そ、そんなぁ……」
気を遣ってる……わけじゃないんだろうけど、二人とも囁くような小さな声で話してる。
でも、代海ちゃんは笑ってるし、恋ちゃんもいつもより口数が多い。
「……楽しそうだね。意外だ」
「日向さんは簡単に人に――っていうか人じゃないのに――なびくとは思ってなかったしねー」
「なびくなんて、そんな言い方やめようよ」
せっかく友達になったんだから、みのりちゃんや霜ちゃんも仲良くすればいいのに。
確かに、代海ちゃんは【不思議な国の住人】――帽子屋さんたちの仲間だけど。
代海ちゃん自身は、すごくいい子なはず。友達になって日は浅いけど、それくらいはわかる。
だから絶対、二人も仲良くなれるはずなんだけど……
「……できた」
「あのカードを使ってデッキを組めるなんて……す、すごいです、恋さん……!」
「まあ……回るか、わかんないし……」
恋ちゃんの手にあるのは、たくさんのカードの束。要するにデッキ。
二人とも、一緒にデッキを作ってたんだね。でもなんで急に?
「とりま……回して、みないと……」
「ならボクとやるかい? 恋」
「ん……」
恋ちゃんはいつもの短い返事で肯定の意を示す。
わたしも恋ちゃんたちのデッキにちょっと興味があったけど、先を越されちゃったなぁ。
「じゃあこっちはゆっくりやってようか、小鈴ちゃん」
「あ、うん……《インフェルノ・サイン》で《クジルマギカ》をNEO進化、攻撃する時にもう一度《インフェルノ・サイン》を唱えて、今度は《グレンモルト》を出すよ。次に《グレンモルト》で攻撃、トリガーはないよね? じゃあ《ガイハート》を龍解するね」
「あれー? ゆっくりとは?」
「生首……」
「そっちじゃなくて」
「……いいから始めようよ」
☆ ☆ ☆
というわけで、しっかりと観戦側に回って、恋ちゃんと霜ちゃんの対戦が始まりました。
互いにデッキをシャッフルしてシールドを並べて手札を引いて、最後に超次元の確認。
「ボクは超次元を使うよ。これだ」
[霜:超次元ゾーン]
《超時空ストームG・XX》×1
《ガイアール・カイザー》×2
《ブーストグレンオー》×1
《ドラゴニック・ピッピー》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
霜ちゃんが超次元ゾーンを公開する。
それを見るなり、恋ちゃんは首を傾げた。
「……? なに……これ……」
「不思議な次元だね。《ストームG》があるわりにはビートダウンっぽい構成だし」
「勝利セットは、と、ともかく……《激竜王》のセットまで……」
全体的に赤い超次元。よく知らないカードもあるし、これだけじゃなにをするのか、わたしにはよくわからないな。
次にじゃんけん。掛け声とともに出した手は、霜ちゃんがパー、恋ちゃんがグーだった。
「ボクの先攻だね。《ダイキ》をチャージしてターン終了だ」
「私の、ターン……まあまあ……《ホーリー》をチャージ。1マナ……《ロジック・サークル》」
恋ちゃんは1ターン目から動き出した。
だけど使うのは呪文。ユーちゃんみたいにクリーチャーを出して速攻ってわけじゃないのかな?
「《ロジック・サークル》だって? なにを持ってくる気だ?」
「これ……《キリモミ・ヤマアラシ》を……トップに、固定……」
「《キリモミ・ヤマアラシ》?」
恋ちゃんは山札の一番上に呪文を置く。あれは呪文を持ってくる呪文なんだね。山札の一番上に置くから、使えるのは次のターンからだけど。
霜ちゃんはその呪文に驚いているようだけど、どんな呪文なんだろう。
ターン1
霜
場:
盾:5
マナ:1
手札:4
墓地:0
山札:30
恋
場:なし
盾:5
マナ:1
手札:5
墓地:0
山札:29
「わざわざ《ロジック・サークル》で《キリモミ・ヤマアラシ》をサーチしたってことは、あれがキーカードなのは間違いない……しかも、2、3ターン目の早い段階で必要なんだろうな。しかし、なにに使うつもりだ? アタックトリガーか、侵略か革命チェンジか?」
恋ちゃんの行動に対して、考え込む霜ちゃん。
相手の動きがあるってことは、それだけ情報があって、相手の動きを推理する要素になる。
マナに置いたカード、使ったカード、サーチしたカード、そしてそのタイミング。霜ちゃんは、それらを考えているようだった。
「……まあ、でも、そういうデッキならまだやりやすそうだ。ボクのターン。《クロック》をマナチャージして、ターンエンド」
1ターン目から動き出した恋ちゃんに対して、霜ちゃんは2ターン目になっても動かない。
マナゾーンのカード自体はよく見るカードで、まだ水と自然があって、超次元を使うということしかわからない。
「私の、ターン……《シュトルム》を、チャージ……2マナをタップ……《紅の猛り 天鎖》を召喚……」
「《天鎖》!? ますますもってわけがわからない……」
な、なんかすごそうなクリーチャーが出た……
たった2マナなのに、パワーが14500もある……だけど、タップして場に出たよ?
「て、《天鎖》は、軽くて強いクリーチャー、なんですけど……シールドが六枚以下だと、アンタップできないんです……」
「じゃあ、シールドが七枚以上ないと攻撃できないの?」
代海ちゃんは頷く。
強いクリーチャーでも、シールドが七枚という制限はとても厳しいように思える。恋ちゃんはシールドを増やす戦術をよく使うけど、シールド追加ってそんなに簡単じゃないし、一枚でもシールドをブレイクされたら、途端に計画が狂っちゃう。
だけど、あのクリーチャーが切り札っぽいし、どうにかしてシールドを増やすんだと思う。どうやってシールドを増やすのか。そこが、恋ちゃんのデッキのポイントになりそうだ。
「日向さんにはお得意の《アブソリュートキュア》がいるし――入ってるかわかんないけど――シールド増やす分にはまあいいとして、問題は水早君の動きだよね」
「そ、そうですね……シールドブレイク、されると……ラビリンスも、は、発動を、止められちゃいますし……」
シールドを増やす方が勝るのか、それとも霜ちゃんがそのシールドを削り取れるのか。
そこが、この対戦の焦点になるのかな?
ターン2
霜
場:
盾:5
マナ:2
手札:4
墓地:0
山札:29
恋
場:《天鎖》
盾:5
マナ:2
手札:3
墓地:0
山札:28
「ボクのターン。やっと動けるよ。《シューティング・ホール》をチャージして、《デュエマ・ボーイ ダイキ》を召喚だ。1マナ加速して、ターンエンド」
霜ちゃんのマナゾーンに、火のカード、そして超次元呪文が見えた。
だけど、出だしが少し遅いこともあって、まだどんなデッキなのかはよくわからない。
「私のターン……マナチャージして、1マナ……《キリモミ・ヤマアラシ》」
「! 来るか」
「次の召喚するクリーチャーの、コストを1軽減……そして、スピードアタッカー付与……」
恋ちゃんはここで、1ターン目に山札から見つけ出して、2ターン目にドローした呪文を唱える。
呪文のコストが1で、クリーチャーのコストを1下げながらスピードアタッカーをつける……言い方はまどろっこしいけど、要するに、次の召喚するクリーチャーをスピードアタッカーにするってことだよね? 召喚コストが1軽減されるから、呪文を唱えた分のマナコストが帳消しになって、手札一枚を消費することでスピードアタッカーを与えられるということになる。
だけど、恋ちゃんのマナは3マナ。たった3マナのクリーチャーをスピードアタッカーにして、どうするんだろう?
「2マナ……《奇石 ソコーラ》を、召喚……」
「アタックトリガーでシールドを追加するクリーチャーか。それで《天鎖》の制限を解くつもりなんだろうけど、ちまちまシールド追加じゃ不安定な気も……」
「……不安定なのは、認める……こういうデッキ組むの、本当、苦手だし……」
恋ちゃんが出したのは、普通の3マナのクリーチャーに見える。
確か、たまに代海ちゃんが使ってた気がするよ。霜ちゃんが言うように、攻撃する時にシールドを追加できるクリーチャーだ。
それを使えば一体でシールドをどんどん増やせるし、《天鎖》と相性は良さそうだけど、能力発動が攻撃する時だから機動が少し遅い。それに、パワーが高いわけでも、身を守る能力があるわけでもないから、ちょっと使いにくい気もする。
あ、でも、起動の遅さをあの呪文で補ってるんだよね。ってことは、あとは《ソコーラ》を守れるかどうかになるのか。
「……でも、そんな余裕ぶってたら……死ぬから」
恋ちゃんはそう宣告すると、《ソコーラ》を横に倒す。
「《ソコーラ》で攻撃……《ソコーラ》の能力……と、“手札のカード”の、能力を、発動……」
「手札のカードって、まさか……!?」
能力発動を宣言。そして、恋ちゃんは最後の手札を切った。
「侵略――《三界 ナラカ・マークラ》」
侵略……!? 恋ちゃんが侵略を使うところって、初めて見た……
「《ナラカ》は、光のコスト3以上のクリーチャーから、侵略する……《ソコーラ》から侵略、進化……」
「成程、そのための《キリモミ》、そして《天鎖》か……!」
「まず、《ソコーラ》の能力、解決……シールドを、追加……そして、《ナカラ・マークラ》で、Wブレイク……」
「トリガーはないよ!」
「なら、《ナラカ・マークラ》の能力……攻撃後、シールドを追加……」
《ソコーラ》の攻撃時能力と、《ナラカ・マークラ》の攻撃後の能力で、一気にシールドが二枚も増える恋ちゃん。
《キリモミ・ヤマアラシ》で《ソコーラ》の能力発動の遅さを解消して、《ナラカ・マークラ》に進化することでパワーの低さも補う。
そしてなにより、この二体を同時に使うことで、一度にシールドが二枚も増えた。
これで恋ちゃんのシールドは七枚。六枚を上回った。
「嘘だろ……3ターン目でもうシールドが七枚なんて……」
頭を抱える霜ちゃん。
シールドが多いというだけでも大変なのに、そのシールドの多さが《天鎖》を動かす動力源となって、そのまま攻撃力になる。
霜ちゃんは、ここからどうするのかな……
ターン3
霜
場:《ダイキ》
盾:3
マナ:4
手札:5
墓地:0
山札:27
恋
場:《天鎖》《ナラカ・マークラ》
盾:7
マナ:3
手札:0
墓地:2
山札:25
「普通にまずいな、これは。《天鎖》の攻撃を通したら、流石に厳しい。とりあえずマナチャージ、5マナで《飛散する斧 プロメテウス》を召喚! 2マナ増やして、マナゾーンから《怒流牙 佐助の超人》を回収! そして……」
ほんの一瞬だけ逡巡する霜ちゃん。だけど、答えはほぼ決まっていた。
「……手札を与えるのは怖いけど、それ以上に《天鎖》が動く方が恐ろしい。《ダイキ》でシールドをブレイクだ!」
すぐに破壊されちゃうけど、《天鎖》が襲ってくるよりはマシだと考えたのか、霜ちゃんはシールドへ攻撃する。
《天鎖》はシールドが六枚以下だとアンタップしないから、一枚でも削っておけば、それだけ動きを遅らせることができる。
だけど、
「残念……S・トリガー《幸弓の精霊龍 ペガサレム》……シールド、追加……」
「っ、よりによってそいつか……!」
運の悪いことに、霜ちゃんはS・トリガーを踏んでしまう。
しかもただのトリガーじゃなくて、シールドを増やすトリガーだ。これで恋ちゃんのシールドは七枚に戻る。
「くっ、ターンエンドだ……!」
「私の、ターン……この時……私のシールドが、六枚を超えてる……から、《天鎖》を、アンタップ……」
確か、デュエマのルールって、少し前にちょっと変わったんだよね。
ターン始め。まず、マナゾーンやクリーチャーのアンタップを行う。この時点で条件を満たしているから、《天鎖》はアンタップする。
アンタップが終わってから、ターン最初に発動するクリーチャーの能力が処理される。
「その後……《ペガサレム》の能力で、シールド回収……《天鎖》のラビリンスで、追加ドロー、そして通常ドロー……」
絶妙な時間差でシールドを保っていた《ペガサレム》。恋ちゃんは切れてしまった手札を補充しながら、このターンで霜ちゃんにとどめを刺すだけの戦力も揃えてしまった。
「《ペガサレム》をチャージ……《デュエマ・スター タカ》を召喚……」
さらにスピードアタッカーを繰り出す恋ちゃん。
霜ちゃんのシールドは三枚。ダイレクトアタックを決める戦力としては十分すぎる数だ。
「《天鎖》で攻撃……Tブレイク……」
「させないよ! ニンジャ・ストライク! 《怒流牙 佐助の超人》! 一枚ドローして、一枚捨てる! 捨てるのは《バイケン》だ!」
「む……」
「《バイケン》の能力で、《天鎖》をバウンス!」
《天鎖》の一撃でほとんど勝敗が決まる、というところで、霜ちゃんはシノビを投げつける。
《佐助の超人》から《バイケン》……これは、バズの中でみのりちゃんも見せた動きだ。
攻撃される時に場に出せて、場に出たら手札を捨てられる《佐助の超人》と、相手ターン中に手札から捨てられることで場に出て、この方法で場に出ればクリーチャーを一体手札に戻せる《バイケン》。
そのコンボで《天鎖》の攻撃は防いだけれど、
「……でも、打点はまだある……《ナラカ・マークラ》で、Wブレイク……」
《天鎖》がいなくても、恋ちゃんは霜ちゃんにとどめを刺すだけのクリーチャーが残っている。
残ったクリーチャーで恋ちゃんはそう攻撃をかけようとする。
すると霜ちゃんが、また手札のカードを放った。
「もう一度! 《佐助の超人》! まずは《バイケン》の能力でドロー! そして《佐助の超人》の能力で、一枚引いて、一枚捨てるよ!」
「また《バイケン》……」
「ボクも安全にそうしたかったんだけど、残念ながら引けなかったよ。だから代わりに、こいつを捨てる!」
また《佐助の超人》と《バイケン》のコンボで攻撃を止めるつもりかと思ったけど、どうやら《バイケン》が手札にないみたい。
だから霜ちゃんは、代わりと称して、別のカードを捨てる。
それは、
「捨てるのはこれだ! 《スーパー・サイチェン・ピッピー》!」
ここで霜ちゃんが捨てたのは、《バイケン》じゃなくて、火のクリーチャーだった。
「なにあれ?」
「あー、そういえばあれもマッドネスだったね。ちょっと変則的だけど」
「て、手札から捨てられた時に、能力が発動する、クリーチャーです……」
手札から捨てられた時に能力が使えるクリーチャー。それは確かに《バイケン》と似ている。
だけど、このクリーチャーが《バイケン》と違うのは、
「《スーパー・サイチェン・ピッピー》が相手ターン中に手札から捨てられた時、超次元ゾーンから《ガイアール・カイザー》をバトルゾーンに出すよ!」
本人ではなく、超次元ゾーンからクリーチャーを出すところだった。
超次元ゾーンのクリーチャーを引っ張り出して、バトルゾーンへ。
でも《ガイアール・カイザー》はブロッカーでもないし、場に出た時に除去を放つわけでもない。《ナラカ・マークラ》の攻撃は止められない。
「……Wブレイク」
「S・トリガーはない。だけど、《ガイアール・カイザー》の能力で、この手札に加えられる二枚を捨てる! 捨てるのは《シューティング・ホール》と《プロメテウス》だ!」
霜ちゃんはブレイクされたシールドを手札に加えず、そのまま捨てた。
そしてまた、超次元ゾーンのカードに触れる。
「こうして捨てたカードと同じコストのハンター・サイキック・クリーチャーを超次元ゾーンから出すよ。《勝利のプリンプリン》と《ブーストグレンオー》をバトルゾーンに! 《プリンプリン》の能力で《タカ》を拘束! 《ブーストグレンオー》は対象がいないから不発だ」
「……一気に展開した……」
恋ちゃんの攻撃に合わせて《ガイアール・カイザー》を出すことで、シールドのカードをサイキック・クリーチャーへ変換して、疑似的にS・トリガーみたいにすることができるんだ。
これで恋ちゃんのクリーチャーの動きは止まったし、とどめまでは届かなくなった。
でもまだ《ペガサレム》が攻撃できる。霜ちゃんのシールドは残り一枚だし、どうするのかな。
「……《クロック》とか踏んで、止まるの、嫌だし……最後の盾も、割っとく……《ペガサレム》で、ブレイク」
恋ちゃんは少し考えた後、攻撃することを選択。
確かに、《クロック》が出て来ると攻撃を完全に止められちゃうから、シールドにあるなら早く出させたい。霜ちゃんもクリーチャーを展開して反撃の構えを見せてるし、ここは1ターン凌ぐかどうかが勝負の大きな分かれ目になりそう。だからここでは攻撃するべき、なのかもしれない。
《ペガサレム》で最後のシールドをブレイクして、これで霜ちゃんのシールドはなくなった。
「……君の勘はいいな。確かにこれは《クロック》だ」
しかも最後のシールドは恋ちゃんの予想通り《クロック》。
つまり、ここでの恋ちゃんの攻撃は正解――だけど、
「でもボクは、これも――“捨てる”」
正解でも、それは必ずしも自分に有利な状況を作るとは限らない。
時として自分の引き当てた最善手は、相手の利敵行為にもなり得る。
霜ちゃんはせっかくS・トリガーを発動できる《クロック》を場に出さず、墓地に捨てた。
「《ガイアール・カイザー》の能力で、《ドラゴニック・ピッピー》をバトルゾーンに! これでパーツは揃った!」
「……あ」
ターン4
霜
場:《ダイキ》《プロメテウス》《バイケン》《ガイアール・カイザー》《勝利のプリンプリン》《ブーストグレンオー》《ドラゴニック・ピッピー》
盾:0
マナ:7
手札:4
墓地:3
山札:23
恋
場:《ナラカ・マークラ》《ペガサレム》《タカ》
盾:7
マナ:4
手札:2
墓地:2
山札:21
しまった、と言いたげに恋ちゃんは声を上げるけど、もう遅い。
「ボクのターン! このターンの初めに、《ドラゴニック・ピッピー》の能力発動! 場に《ブーストグレンオー》と《ガイアール・カイザー》がいるから、覚醒リンクだ!」
霜ちゃんは三体のサイキック・クリーチャーを裏返して、横に倒して、縦向きに並べ直す。
そして――
「――《激竜王ガイアール・オウドラゴン》!」
三枚のカード、三体のクリーチャーが合体して、一体のクリーチャーとなった。
「うっわー……水早君すっごい。バニラじゃない《激竜王》とか、初めて生で見た……」
「こ、攻撃すれば、恋さんの場は、ぜ、全滅です……シールドも、何枚あっても、か、関係ありません……!」
「とはいえ、そのデッキはトリガービートっぽいし、ボクが押し切れる可能性は高くなさそうだ」
「……どうだろう……」
「でも、ここまで来たら殴らないわけにはいかない。勝つ確率は少しでも上げさせてもらうけどね。マナチャージして8マナ! 《ボルメテウス・蒼炎・ドラゴン》!」
「ここで《蒼炎》……シールド焼却、めんどい……」
恋ちゃんのデッキは、確かにトリガーが多めに入っている気がする。いつも恋ちゃんのデッキはそうだし、シールドを増やす戦略と相性がいいからね。
でも、シールドを墓地に送ってしまうんじゃ、トリガーがあっても関係ない。
トリガーが出たら――特に《ホーリー》とか――負けてしまいかねないだけに、そこには細心の注意を払わなくちゃいけない。
正直、シールドを墓地に送るクリーチャーがいるなら、そのクリーチャーだけで攻撃して確実にダイレクトアタックを決めたいけど、スピードアタッカーを引かれたら負けちゃうから、早く勝負を決めたいよね。
「《蒼炎》で攻撃、ブロックされないWブレイクだ! そしてブレイクしたシールドはそのまま墓地へ!」
「……《ホーリー》……《ペガサレム》……」
「ラッキー、二枚ともトリガーか。なら後は、《激竜王》で焼き払うだけだね!」
霜ちゃんは三枚セットの巨大なクリーチャーを、器用にまとめて横に倒す。
「《激竜王》で攻撃! その時、能力で《激竜王》よりパワーの低い相手クリーチャーを、すべて破壊だ!」
《激竜王》のパワーは25000。パワー25000以上クリーチャーなんて、そうそういないよ……
問答無用に、恋ちゃんのクリーチャーはすべて破壊されてしまった。
「さぁ、シールドをワールドブレイクだ!」
「…………」
恋ちゃんのシールドは五枚。
S・トリガーが多そうなデッキだし、反撃するチャンスは十分にあると思うけど……
「S・トリガー……」
「なんだ? 《ペガサレム》一枚程度じゃ、この盤面は覆らないよ」
「……《ペガサレム》」
シールドを追加するS・トリガークリーチャーだ。
だけど、霜ちゃんのクリーチャーはまだ四体も残ってる。一枚のシールド追加じゃ、耐えきれない。
「じゃ、最後に追加したシールドが《ホーリー》であることを祈るんだね」
「と、《シュトルム》……」
「もう一枚あったのか!」
「《ダイキ》《プロメテウス》《プリン》を……まとめて、破壊……」
《ペガサレム》だけじゃなかったんだね。
《シュトルム》で後続のクリーチャーをほとんど破壊されてしまった霜ちゃん。残ってるのは《バイケン》だけだ。
「《ペガサレム》でシールド追加……追撃、どうする……?」
「くっ、ターンエンドだ!」
どうせとどめは刺せないんだし、次のターンには恋ちゃんの手札に加わるシールドをブレイクする意味はない。
霜ちゃんは悔しそうにターンを終えて、恋ちゃんのターン。
ここで、決着がつく、かな……?
「……《血風神官フンヌー》召喚……あと、お守りで《天鎖》も召喚……《シュトルム》でダイレクトアタック……」
「まだ凌ぐぞ! ニンジャ・ストライクで《ハヤブサマル》! 《バイケン》でドローして、《バイケン》をブロッカーにしてブロック!」
「次……《ペガサレム》……」
「《佐助の超人》! 《バイケン》と合せて二枚ドロー! 《バイケン》を捨てて《ペガサレム》をバウンスだ!」
「……《フンヌー》」
「四枚目だ! 《佐助の超人》! 二枚ドローするよ! そして手札を一枚捨てる!」
シールドがなくなってもなお、霜ちゃんはシノビを連打して凌ぐ。
お互いにシールドがないから、一撃で勝負が決する。ここで凌ぎきれれば、霜ちゃんの勝ち。
《バイケン》で最後の《フンヌー》を除去することができれば。
だけど、
「捨てるのは……《スーパー・サイチェン・ピッピー》だ……」
最後に捨てたのは、《バイケン》ではなかった。
「あと一点……耐え切れなかったか……」
ここで《バイケン》が引けたら、守り切れたけど。
霜ちゃんは、引けなかったみたい。
だから、
「じゃあ、とどめ……《血風神官フンヌー》でダイレクトアタック」
これで林間学校一日目は終了です。次回から二日目スタートです。
今回の恋のデッキ、白赤天鎖トリビですが、今だとメタリカ軸にして《ペリルドッター》を入れるのがいいかな、と思っています。白赤型はSAを積めるので殴り行く場合の速度が速いというのが利点なのですが、やることが単調で息切れしやすいんですよね。メタリカで固めれば、攻防一体かつ手札も整えられて全体的に丸くなるんですけど。シナジーを追及するならメタリカですかね。
一方、霜の方はカウンターマッドネス的な、カウンター激竜王……まあロマン砲みたいなデッキです。ただ、《オウドラゴン》に囚われず、相手の攻撃に合わせて《ストームG》を降臨させたりすると面白いことになります。
久々にデッキについて語った……余裕があったら、活動報告のページとか使って、デッキ紹介とかしてみてもいいかもしれませんね。ピクシブの方では毎回デッキ紹介コーナーがありましたし。
珍しく長めに語ったあたりで、今回はこれにて。
誤字脱字、感想、その他諸々、なにかありましたら、遠慮なく仰ってください。