デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 林間学校編も三日目の午後、最終日となり、いよいよクライマックスです。
 今回はちょっと、普通じゃあり得ないようなデュエマ展開を試してみました。ついでにクリーチャーの真名隠しシステムも実装。名前当ても一緒にお楽しみください。


25話「林間学校だよ ~3日目・PM~」

 こんにちは、伊勢小鈴です……なんて言ってる場合じゃない。

 もう、なにが起こっているのか、わけがわからなさすぎて、わたしも混乱してきた。

 ……順番に、思い出していこう。

 異変は、昨日の午後から始まった。急に発生して、この山域で停滞している奇妙な台風。暴風警報が発令されるほどの大嵐。そのせいで、わたしたちは山を下りられず、足止めを食らってしまった。

 帰る目処も立たず、ゆっくりとした時間だけが流れていく。そんな時、様子のおかしかった代海ちゃんが、外に出たことを知った。

 こんな嵐の中でなんて無茶を! と思って、わたしもそんな代海ちゃんを追いかけた。

 その途中でチェシャ猫レディさんと出会い、その導きによって代海ちゃんは見つけられたけど、同時に、わたしたちの前に現れたのは――帽子屋さんだった。

 推理と称してチェシャ猫レディのお姉さんの正体を問い詰め、帽子屋さんたち【不思議の国の住人】が何者なのか、そしてその目的はなんなのかを語った。

 そこからが、驚きの連続だ。

 帽子屋さんたちは人類や他の生き物と同じ、この地球で進化した生命体。その目的は、人間たちのように、自分たちの社会(せかい)を創ること。

 そして、それとは無関係なことだけど……チェシャ猫レディさんの正体に完全な解答を求めた帽子屋さんは、チェシャ猫レディのお姉さんを倒して、その素性を、強引に暴き出した。

 まさか謡さんが、チェシャ猫レディさんだったなんて……

 だけど、これだけじゃ終わらない。

 いつものように現れた鳥さん。今度はその鳥さんが――

 

「――帽子屋さんたちの探してた、聖獣、だったなんて……」

「聖獣? なんのことだい?」

 

 ぽかんとしてる鳥さん。この二転三転して、混沌に煮詰まった状況がまったく理解できていないみたい。

 まあ、わたしも飲み込みきれてないところはあるから、今来たばかりの鳥さんにはよくわからないだろうけど……

 

「そんなことよりも小鈴! 大変だよ! クリーチャーだよ!」

「ちょっと鳥さん! もっと空気読んでよ! この状況で、そんなこと言ってる場合じゃ――」

「それはこっちの台詞だ! この規模の“災害”を巻き起こすクリーチャーを放置していいわけがないだろ!」

 

 鳥さんが怒った!? 珍しい!

 いや、そうじゃなくって……災害?

 それってまさか。

 

「鳥さん、この台風って……」

「クリーチャーの仕業だ」

 

 やっぱりそうなんだ……

 驚きよりも、そんな感想が先に出た。

 この異常な台風は、明らかに地球で発生する天災じゃないとは思っていたけど、鳥さんの言質で確証を得られたよ。

 

「クリーチャーはかなり近づいてきている。これ以上接近されると、下手したらここら一帯すべて、暴風で消し飛ぶぞ!」

「!? そ、そんなことができるの……!?」

「わからない。あくまで僕の想像でしかない。どんなクリーチャーかはまだ不明だしね。でも、異星の地で災害を起こすレベルとなると、どれだけ強力なクリーチャーでもおかしくはない。狂月の化身とかだったら、今の僕じゃどうしようもないかもしれないが……」

 

 珍しく弱気なことを言う鳥さん。

 そんなに強いクリーチャーかもしれないんだ……でも確かに、災害を意図的に起こせるのなら、それは今まで出会ったどんなクリーチャーよりも規模が大きい。

 だけど、そんなクリーチャーを放っておいたら、危険だ。

 

「は、早く止めないと……!」

 

 正直に言うと、すごく怖い。でも、クリーチャーを退治できるのはわたしたちだけ。

 このまま、手をこまねいているわけにはいかない。

 いかない……けど。

 

「ちょっと待ちなされ、お嬢さん方」

 

 そこに、帽子屋さんが割って入る。

 狂った笑いの面を張り付かせて、おどけたような調子で、わたしたちに語りかけてくる。

 

「その鳥はオレ様も用があるんだが……話くらいはさせてもらえないかね?」

「なんだ君は。僕は君のことなんて知らないし、興味もない。今は君のような正体不明の男と取り合っている暇はないんだ」

「つれないな。とはいえこの嵐の中じゃ、まともに茶も振る舞えないのは確かだがな。しかしこれが千載一遇のチャンス、見逃したくないのも本音でね」

 

 まったく取りつく島のない鳥さん。いつもの自由奔放な態度が、今は心強いよ。

 だけど帽子屋さんも怯まない。強引にでも、無理やりにでも、その野望を果たさんとする強い意志が見える。

 ギラギラとした眼が、恐ろしいくらいに光っている。

 どうしよう……早くクリーチャーを倒さなきゃいけないけど、帽子屋さんを無視することもできない。

 この人は、チェシャ猫レディさんを、倒した人なんだ。

 たとえわたしが戦ったとしても、勝てるかどうか……

 と、その時。

 わたしたちと帽子屋さんの間に壁を作るように、人影が割り込んだ。

 ――謡さんだ。

 黒い子猫を抱えたまま、わたしたちには背を向け、帽子屋さんを強く見据えて、立ち塞がった。

 

「……まだ立ち上がるか、憑代の女。それは貴様の意志か?」

「いいや。うちで猫飼う時に約束したんだよね。守りたい女の子を守れるくらいの、正義の味方(ヒーロー)になるって」

「謡さん……」

 

 無理をしているなんて、一目でわかった。

 身体に大きな傷があるわけでもない。だけど、この人は、確実に傷を負っている。見えない傷を。身体にも、心にも。

 それでも、謡さんは自分の意志を成し遂げようとしている。

 正義の味方(チェシャ猫レディ)として。

 

「私の中のチェシャ猫レディという英雄は消滅した。私のヒーローとしての器は剥奪された。だけど、だからって、守りたい大切なものを守る意志は潰えない。そんな作りものがなくても、スキンブルとの誓いも、私の意志も、曲げられるわけがない……!」

 

 光は消えていない。

 大雨に晒され、大風に煽られても。

 ヒーローとしての姿も、力も、なにもかもを失っても。

 謡さんは、自分の信じるヒーローとして、こうして立っている。

 ……格好いいなぁ。

 でも……

 

「やれやれ。オレ様はこれでも紳士的であろうとしているつもりなのだがな。そんな床掃除をした後の雑巾みたいな女を前にしては、どうにもやりにくいではないか」

「知らないよ……あなたにも凄い目的とか、崇高な使命とかがあるのかもしれないけどさ。私にだって、信じたい正義ってもんがあるんだよ」

「その意気やよし、とこの国では言うのか? その信念は素晴らしいが、鬱陶しい。目の前に奇跡の願望器があるのに手を伸ばさぬ者はいない。聖なる杯の前には、そして果たさねばならぬ獣の使命の前には、フェミニズムなど塵芥のようなもの。狂っていようと目指すべきものは違えないさ。なぁ、笑い猫に憑かれた女よ。無為に死に急ぐことはないぞ?」

 

 これ……まずいよ。

 帽子屋さんは、本気だ。本気で、謡さんを……

 

「……帽子屋、さん……」

「代海ちゃん……?」

 

 その時、代海ちゃんが、立ち上がった。

 そして、よろよろと歩む。あと少しでも雨風が強くなれば倒れてしまいそうなほど、弱々しい歩みだけど。

 すごく必死で、希うような、足取りだった。

 

「ダメ、です……もう、これ以上は……帽子屋さんも、危ない、です……」

「……どういうつもりだ、代用ウミガメ。我らが悲願は眼前にある。これを逃す手はない」

「それでも、です……今は、今だけは……だって、帽子屋さんだって……」

 

 代海ちゃんは、辛うじて帽子屋さんの下まで辿り着き。歩み寄り。

 その手を、握った。

 

「こんなに、冷たくて……身体だって、無理をして……」

「どうせ、擦れ、削れ、荒れ、狂った身だ。今更、無理も道理もない。元より条理より外れ、永劫なる時を刻み、摩耗した我が身だ。それが壊れて悲願が果たされるものなら、構うものか」

「ダメです……! たとえ願いが叶っても、アタシたちの世界ができても……そこに、帽子屋さんがいないと……これからも、この先も……! だ、だから……!」

 

 懇願するように縋りつく代海ちゃん。

 ……そっか。代海ちゃんは、帽子屋さんが心配で、この台風の中でも飛び出したんだ。

 それほど、彼女にとって帽子屋さんは大切な存在で、かけがえのない人なんだね……

 

「この嵐を乗り切れるシェルターを、アタシが「代用します」から……い、今だけは、やめて、ください……!」

「…………」

「ジャバウォックさんも……いるんですよね……なら、アタシが、なんとかしますから……今だけは、し、退いてください……! お願いします、から……!」

 

 代海ちゃんの必死の懇願になにを思っているのか。帽子屋さんは口を開かない。

 わたしも、謡さんも、どうしていいのかわからず、暴風雨の音だけが轟く静寂で、立ち尽くすしかなかった。

 なかった、けど。

 

「小鈴! 一刻も早く嵐の発生源たるクリーチャーを叩くよ! 変身した君の力なら、嵐の中でも活動は不可能じゃないはずだ」

 

 鳥さんだけは、そんな空気感とは無縁で無関係。

 ただ、自分のするべきことを、押し通そうとするだけだった。

 そういうところは、帽子屋さんと同じかもしれない。

 だけど、鳥さんの言うことももっともだ。早くこの台風をなんとかしないと。

 

「で、でも、肝心のクリーチャーはどこに?」

「まもなくこの山の頭上に現れると思う。規模が大きすぎて逆に探知しづらいし、なんか変なノイズがかかったみたいになってるけど……高速で飛行しているよ」

「飛行!? そ、それじゃあ見つけられても、戦えないんじゃ……」

「それもそうか。君の能力が強化されていても、あくまで人間の活動範囲の延長で、流石に空は飛べないな……なら、僕が君を乗せよう」

「え?」

 

 わたしを、乗せる?

 鳥さんが?

 

「冗談はやめてよ。鳥さん、そんなに小さいのに」

「それは僕の台詞だ。昨日、言っただろう。僕の本当の姿を見せるって。それが――今だ」

 

 そう言えばそんなこと言ってたっけ。

 あの時は、剣埼先輩が来ちゃったから、見ることができなかったけど。

 力を失った鳥さんが取り戻した、本来の姿()

 それが、見られる……?

 

「さて、それじゃあお見せしようか。太陽神話を語る者、その片翼としての真の姿をね」

 

 バサッと羽ばたく鳥さん。

 嵐の中でも力強く空を飛び、白い羽毛が舞い、翼を広げる。

 それはまるで、物語のような空気感。

 だけどそれは、小説(ノベルス)でもなければ、童話(メルヘン)のようでもなく、音楽劇(ミュージカル)とも違う。

 淡々と事実だけを告げ、その奥底にあるものを読み取る――そう、まるで神話(メソロギィ)のような。

 わたしたちとは、別の世界、別の時空、別のお話で生きている。

 そんな気配を感じさせ、鳥さんは、その身を光で包む。

 すごく、暖かい。

 太陽のような、光に――

 

 

 

「神話継承――獣()解放!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 一瞬の閃光が、わたしたちの目を奪う。

 それは暗雲を晴らす陽光のように、あたりを照らしてくれる。

 そして、雨も風も気にならないような、暖かな熱風が吹き荒れ、そこに現れたのは――

 

『やっと取り戻せたよ――この姿を』

 

 ――真っ白な、鳳。

 わたしよりも大きな翼は、繊細な羽毛がひしめき合って、純白の雲のよう。どんな雨に濡れても、風に吹かれても、その艶やかさと煌びやかさは失われない。

 鋭く尖った金色のくちばし。大きくがっしりした、逞しくも勇ましい爪。

 轟々と燃え盛る、日輪の炎を湛えたような眼差し。

 その姿は神々しくて、神秘的で、神聖。そんな空気を発している。

 これは確かに、聖獣だ。聖なる獣と言って差し支えないような、気迫を感じる。鳥さんだから、聖鳥って言うべきなのかもしれないけど。

 

「鳥さん……格好いい……」

『さぁ、小鈴。僕に乗って!』

 

 あの自分勝手で強引で、道端で行き倒れているような小さな鳥さんが、今はとても頼もしい。

 その姿も、その声も、その立ち振る舞いも。すべてが、勇猛で果敢。

 鳥さんになら、任せられる。鳥さんとなら、この嵐でも乗り切れる。

 不思議と、そんな気持ちになった。

 

『もうすぐ来る。時間がない、急ぐよ!』

「う、うん!」

『いい返事だ。それじゃあ、君の姿も変えないとね』

 

 閃光が瞬く。

 なんだろう。いつもよりもあたたかい。それに、柔らかい。

 身体を包み込むような光の中で、わたしは、鳥さんに与えられた奇跡(魔法)の力を受け取る。

 謡さんは、英雄という主人公にヒーローを見た。

 そしてわたしは、魔法少女という主人公に、ヒーローを見る。

 お母さんの紡ぐ物語のように、勇ましく、可憐に戦うヒーロー(ヒロイン)を。

 

「鳥さん……行こう」

『あぁ。振り落されないように、しっかり掴まっててね!』

 

 鳥さんの背に乗る。すごくふわふわしてて、あたたかくて心地よい。

 鳥さんの鼓動が、ぬくもりが、熱意が、ダイレクトに伝わってくるみたい。

 これなら、大丈夫かも。

 任せたよ、鳥さん!

 そうして、わたしたちは――

 

 

 

『よし――飛ぶぞ!』

 

 

 

 ――嵐の吹き荒れる大空に、飛び立った。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「……行ってしまったか」

「帽子屋さん……」

「真に遺憾だが、飛び去ってしまっては仕方あるまい。時流はともかく、流石のオレ様も空は飛べん。一瞬でもたたらを踏んでしまったオレ様の責任としておこう。死ぬほど欲しいものであったが、なに、オレ様の存在そのものに狂いが生じたにすぎん。逆行した行いなど今更だ。さて、ならばこの嵐にも参ってしまう。代用ウミガメ、シェルターの代用を頼む」

「は、はいっ!」

 

 残された帽子屋、代用ウミガメ(代海)、謡――そしてチェシャ猫(スキンブルシャンクス)

 この嵐の原因を取り除くのは小鈴の役目。ならば残された彼らができること、すべきことは、避難だった。

 推理も、追究も、対戦も、暴露も、探索も。この嵐の中で行われる、彼らのイベントは終了した。

 この状況下で残されているのは、魔法少女(マジカル☆ベル)の戦いのみ。

 ならば彼らがすることは、撤収だけだ。

 

「あ、あの……せ、先輩……」

「……私のこと、先輩って呼んでくれるんだ?」

「その、先輩も、一緒に……」

「やだ」

「え、えぇ……!?」

「その男と一緒はやだ。スキンブルのこともあるし……」

「あぅ……で、では、なんとか、宿舎まで戻れるものを、だ、代用、してみます……」

「……ありがと」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 鳥さんと共に、格好よく空に飛び出したはいいものの。

 正直、すごく後悔しています。

 なぜなら――

 

「落ちる落ちる落ちる落ちる! 怖い怖い怖い怖い……!」

 

 ――死にそうで怖いからです。

 わたしは知らなかった。風って、高いところに行けば行くほど強くなるんだね。しかも凍えそうなほど寒い。ただでさえ暴風雨で強風と寒さの連続コンボなのに、その強さが数段上がっているとなると、魔法少女(この姿)でも辛い。

 とりあえず下は絶対に見ないようにして、鳥さんの背中をギュッと掴んで、身体を縮める。

 

『なにをぶつぶつ言ってるんだ君は』

「だって、だってぇ! か、風が! 下よりビュービュー言ってて、お、落ちそう……!」

『今の君の握力なら、僕の身体を握り締めていればまず落ちないよ。仮に落ちても拾ってあげるから、安心しなよ』

「そんなことで安心できるわけないでしょ!?」

『それより、見えて来たよ。あれがクリーチャーだ』

 

 鳥さんがくちばしで指し示す。

 その方向には、明らかに異変があった。

 なんだろう、あれは……白い雲みたいなのが渦巻いてる。あれは、もしかして……

 

「た、竜巻……!?」

 

 竜巻なんて、はじめて見た……!

 あの竜巻の中心にいるのが、この台風を発生させているクリーチャー、なのかな?

 

「それにしても、まったく姿が見えないね」

『風を纏っているからだ。姿を隠すことが目的なのか、あるいはこの嵐を操るために必要なことなのか……どんなクリーチャーなのかがわからない以上、判断のしようもないね。けど、ここまで接近してわかった。どうやらクリーチャーの規模自体はそこまでのようだ。中から大型ってところか。勿論、クリーチャー基準だけどね……あぁ、神羅の起源獣とかじゃないのは僥倖だったね』

「ど、どうするの?」

『あれは今もなお高速で移動中だ。餌を求めているのかな?』

「エサ?」

『食事だよ。要するに、生きるためのエネルギーさ。僕はマナによって力を得ているけど、この世界で生きると決めたクリーチャーなら、この世界に即したものでエネルギーを補給するのが常識というものだ。そもそも、マナの供給源が薄すぎるしね。天候を操るほど強い力には、それ相応のエネルギーが必要になるだろうし、かなりの大食らいなんじゃないかな』

「大食らいって……な、なにを、食べるの……?」

『エネルギーになるもの。命あるもの。ここを狩場と考えるなら、それなりに大きくて、一ヵ所に大量に集まっているようなものが好ましいな』

 

 確か鳥さんは、この世界で、異物であるクリーチャーが生きるには、筋を通さなきゃいけないって言ってた。

 筋を通す。つまりそれは、この世界の在り方に、この世界の文化や風習、ルールに従うという意味。

 わたしたちの世界で、エネルギーになる命あるものっていったら、獣、動物――生物に他ならない。

 わたしたちも動物を食べるけど、動物も動物を食べるし、人間も動物に食べられてしまう。その点では、人間であることは、命ある動物たちと区別がない。

 だから、つまり、

 

「ま、まさか、宿舎の人たちを……!?」

『あくまで可能性だ。これだけの力を発揮するクリーチャーが、マナの薄いこの世界で長くとどまっていられるとは思えない。この強大さを賄えるほどのエネルギー供給源がなくては、長くはもたないよ。突発的な出現、それと同時に現れた嵐。そこから推察するに、知性をもって動いているのではなく、本能で暴れているだけかもしれない。だからこの嵐は一過性のもので終わる可能性も高い……だけど一つだけ真実を伝えるなら、この竜巻は少しずつ軌道を修正している』

「軌道を……?」

『あぁ。山の麓の方へね』

「!」

 

 山の麓。

 それは、宿舎がある方向だ。

 一過性のものかもしれない。つまり、放っておけばそのうち消えるかもしれないという意味。

 だけど、それだって絶対じゃない。まだどんなクリーチャーかもわかっていないのに。

 それにたとえそうだとしても、このクリーチャーが消える前に、宿舎に辿り着いてしまったら……

 

「と、止めなきゃ……! でも、こんなに大きなクリーチャーを、どうやって……!?」

『正直、僕としてもこいつをどう相手取るべきか悩ましい。こんな空中じゃ、君に戦わせるわけもなし。地上に降りてくれればいいんだけど』

「でも! 麓まで行っちゃったら、皆が……!」

『わかってる。僕としても、罪なき民草を巻き込みたくはない。とはいえ、狭い山中であの巨体を引き寄せるのはまずいよね。木々が吹っ飛んでそれどころじゃないだろう。どこか、広くて見晴らしのいい場所に誘導したいところだけど』

「見晴らしのいい場所……あ!」

 

 一つ、思いついた。

 わたしはそれを直接この目で見たわけじゃないけど、写真を見せてもらって、少しなら知っている。 

 あそこなら、クリーチャーを誘き出すのに最適かもしれない。

 昨日、わたしが行けなかった場所――天文台なら。

 

「鳥さん! 山の頂上に天文台があるよ! そこなら!」

『天文台か、悪くないね。それじゃあ、そこに誘導してみよう』

「でも誘導って、どうやるの?」

『なに簡単さ、ちょっとちょっかいを出すんだよ。小鈴、ちゃんと掴まっててね』

「え?」

 

 グンッ、と鳥さんは高度を上げて、羽ばたき、旋回する。

 自ら竜巻へと突っ込むと、体勢を起こして、その太くて大きな爪を振りかぶる。

 わたしはと言うと、必死で鳥さんの背中に掴まって落ちないようにしている。

 そこで鳥さんは、ブンッ! とその爪を振り下ろした。

 

『そら! こっちだ!』

 

 あまりの暴風に目を瞑る。たった一瞬だけど、凄まじいまでの風を全身で受ける。

 そしてその一瞬のうちに、ガィンッ! と鉄みたいな硬いものをぶつけたような音が鈍く響く。

 ……今のって、明らかに攻撃した音だよね。ぶつけたっていうか、ほとんど殴ったみたいな音だったよね?

 鳥さんがすぐさま羽ばたいて後ろに下がる。それと同時に、竜巻の勢いが強まって、こちらに近づいてくる。

 お、怒ってる……!? この竜巻、わたしたちに怒ってるよね!?

 

「ちょっと鳥さん!? そんな乱暴なことするから、あの竜巻、すごい怒ってるよ!?」

『怒らせるのが目的だからね!』

 

 なんて言う鳥さんに、竜巻から弾かれた風が、まるで刃のように襲い掛かる。

 鳥さんは羽ばたいて軽くかわすけど、背中にしがみついているわたしはいつ振り落されるかわかんなくて戦々恐々だよ!

 

『ほらあいつ、やっとこっちに気付いたみたいだ。数の多い方ばっかり見てて、マナが濃くて大きな僕らを見落としてたんだろうね。なんて視野狭窄なんだ。笑っちゃうよ』

「笑ってないで! く、来るよ!?」

『オッケー。小鈴、天文台はどっちだ?』

「え、えっと、山の麓があっちで、上りのルートがそこだから……あ、あっち!」

『了解だ!』

 

 わたしが指差すと鳥さんは、その方角に向けて、ジェット機のように飛行する。

 は、速い……! 風が強すぎて、目を開けるのも辛いよ。

 振り向くと、巨大な竜巻がこっちを追いかけている。完全に目を付けられちゃったみたい。

 だけどスピードは鳥さんの方がずっと速い。あっという間に、開けた場所が見えてきた。

 近くには大きな建物もある。たぶん、あれが天文台だ。

 鳥さんは地上に降りて、やっとわたしも空の旅から解放される。こ、怖かった……足がまだちょっと震えてるよ……

 

『そうら来たぞ。暴風雨の化身だ。小鈴!』

「う、うん!」

 

 なんて、震えてる場合じゃない。

 ゴゥッ! と激しい風音が轟く。

 眼前には、巨大な竜巻が迫り来る。

 この異常気象の原因、時が停滞してしまった根源。

 それがもう、目前にまで来ている。

 

「……!」

 

 鳥さんが頑張ってくれた。鳥さんのお陰で、クリーチャーを見つけて、こうして戦いの場まで持ってこられた。

 後は、わたしの役目。

 みんなの日常を取り戻すため、魔法少女(主人公)はいつだって、迷惑をかける悪者を退治するんだ。

 だから、わたしも――

 

 

 

「――戦うよ!」

 

 

 

 その決意と共に。

 わたしは――戦場へと迎え入れられた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

[小鈴:超次元ゾーン]

《銀河大剣 ガイハート》

《勝利のガイアール・カイザー》

《勝利のリュウセイ・カイザー》

《勝利のプリンプリン》

《ブーストグレンオー》

《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》

《時空の喧嘩屋キル》

《時空の喧嘩屋キル》

 

 

[???:超次元ゾーン]

《勝利のガイアール・カイザー》

《勝利のガイアール・カイザー》

《勝利のリュウセイ・カイザー》

《激天下!シャチホコ・カイザー》

《レッド・ABYTHEN・カイザー》

《ブーストグレンオー》

《時空の司令 コンボイ・トレーラー》

《時空の火焔ボルシャック・ドラゴン》

 

 

 

 わたしと、謎の台風のクリーチャーとの対戦。

 手札はあんまりよくないけど、立ち上がりは普通。わたしは《グレンニャー》を召喚したくらい。

 そして、竜巻を纏って姿を隠しているクリーチャーは、大風と共に吐き出すようにクリーチャーを飛ばす。

 

「――――」 

 

 

 

ターン2

 

小鈴

場:《グレンニャー》

盾:5

マナ:2

手札:4

墓地:0

山札:28

 

 

???

場:《ブオン》

盾:5

マナ:2

手札:4

墓地:0

山札:28

 

 

 

「わたしのターン! 《狂気と凶器の墓場》をマナチャージして、2マナで《ノロン⤴》を召喚! 二枚ドローして、《ドドンガ轟キャノン》と《狂気と凶器の墓場》を捨てるよ」

 

 いつものように手札を交換するけど、その手札が悪い。《クジルマギカ》も《グレンモルト》もまったく来ないのに、《狂気と凶器の墓場》ばかりが手札でだぶついている。

 絶対に負けられないのに、負けちゃいけないのに、こんなのって……!

 

「――――」

 

 再び、竜巻の中からクリーチャーが飛ばされる。召喚されたのは《ジャスミン》。即座に破壊されて、相手のマナが増えた。

 相手も動きはゆっくりだけど、なにをしてくるのか、まったくわからない。せめて、あの竜巻が晴れて、どんなクリーチャーかがわかれば、少しは判断できるのに……

 

 

 

ターン3

 

小鈴

場:《グレンニャー》《ノロン⤴》

盾:5

マナ:3

手札:3

墓地:2

山札:25

 

 

???

場:《ブオン》

盾:5

マナ:4

手札:3

墓地:1

山札:26

 

 

 

「わたしのターン! 3マナで《サイバー・チューン》! 三枚ドローして、手札を二枚捨てるよ!」

 

 相手の動きもゆっくりなら、こっちもできるだけ早く準備を整えて、即座に決めたい。

 だから今度こそ、いいカードを引きたいけど……

 

「うぅ、《ボーンおどり・チャージャー》と《インフェルノ・サイン》を墓地へ……」

 

 手札が全然よくならないし、墓地に置いておきたいカードも墓地に送れない。

 いくら相手の動きがゆっくりだと言っても、あんまり悠長にはしてられないし、どうにかしないと……

 

「――――」

 

 相手のターン。今度は、《プロメテウス》が飛び出した。

 2マナ増やして、マナゾーンのカードを手札に。

 ゆっくりとは言ったけど、動き自体は順調、なのかな? 知らないカードも多くて、マナを見てもなにをするデッキなのか、全然分かんないけど……

 

 

 

ターン4

 

小鈴

場:《グレンニャー》《ノロン⤴》

盾:5

マナ:4

手札:3

墓地:5

山札:21

 

 

???

場:《ブオン》《プロメテウス》

盾:5

マナ:6

手札:3

墓地:1

山札:23

 

 

 

「わたしのターン、ドロー……」

 

 引いたのは……《カモン・ピッピー》。

 《狂気と狂気の墓場》や《ノロン⤴》《ボーンおどり・チャージャー》を抱えてるから、《グレンモルト》や《クジルマギカ》を引きたいんだけど、まるで引き込めない。

 ここはどうしよう……《カモン・ピッピー》で《勝利のリュウセイ》や《ブーストグレンオー》を出して、相手を妨害するのも手だよね。

 流石に《狂気と狂気の墓場》の効果で墓地に落ちるのを期待するのは、運に頼りすぎだろうし……

 ……これは、負けられないデュエマ。

 なら、確実に、絶対に、勝たなくちゃならない。

 より成功率の高い選択――それは、たぶんこれ。

 

「マナチャージはなし、3マナで《ボーンおどり・チャージャー》! まずは山札の上から二枚を墓地へ!」

 

 ここは、手札の《狂気と狂気の墓場》を最大限に生かすため、次のターンにできるだけその力を発揮するため、墓地を増やす。

 だけど、こうして墓地に落ちたのは《ボーンおどり・チャージャー》と《クロック》。わたしの凶運は続きます。

 

「でも、唱えた《ボーンおどり・チャージャー》はマナに行くから、こっちも出せるよ! 《ノロン⤴》を召喚! 二枚引いて二枚ドロー!」

 

 ここまで何度もドローしてるんだから、流石にそろそろ、切り札を引きたいところだけど……

 

「! やっと来てくれた! 《クジルマギカ》と《カモン・ピッピー》を墓地へ! ターン終了!」

 

 まだ《グレンモルト》は見えないけど、《クジルマギカ》だけでも悪くはない。

 あとは、どのタイミングで攻撃するかだけど……

 わたしが攻め時を測っていると、ごうっと竜巻がよりいっそう強く、渦巻いた。

 

「――ッ!」

 

 竜巻の中から現れたのは……妖精さん?

 どころなく民族的な、紅白の衣装を纏った、小さなクリーチャー。

 そのクリーチャーが現れるや否や、唸り声のようなものが聞こえてきた。

 そして、

 

「!? な、なに……!?」

 

 な、なんか、山札のカードがすごい勢いで空を舞ってるんだけど……なにが起こるの……?

 風の煽られ、宙に舞うカードの群れ。その数は、七枚。

 そのうちの一枚が、弾かれるようにして飛び出した。

 

『――ッ!』

「わ……っ!?」

 

 な、なに今の!?

 いきなり攻撃された……スピードアタッカー? シールドが三枚になってるから、Wブレイクを受けたみたいだけど、竜巻が突っ込んできただけで、どんなクリーチャーなのかまったくわからない。

 攻撃はそこで終わり、相手のターンも終わったけど、その時。

 仮面のクリーチャーが爆散した。

 

「っ!? クリーチャーが、破壊された……? でも、なんで?」

 

 さっきから、わたしの知らない範囲での出来事が頻発している。なにが起こってるのか、さっぱりわからない。

 こんな時、霜ちゃんやみのりちゃんがいてくれれば……

 

 

 

ターン5

 

小鈴

場:《ノロン⤴》×2《グレンニャー》

盾:3

マナ:5

手札:4

墓地:9

山札:16

 

 

???

場:《プロメテウス》《ドラゴンフレンド・カチュア》《???》

盾:5

マナ:7

手札:2

墓地:2

山札:21

 

 

 

 相手はもう、攻撃を始めている。

 一手遅れちゃったけど、相手はわけのわからにことばかりしてくるし、早く終わらせたい。こっちも反撃したいところだよ。

 

「わたしのターン。ドロー……」

 

 ……あれ?

 なんで《ノロン⤴》がタップされてるの? 攻撃してないのに、それにアンタップしない……最初に出した方はなにもないんだけど。

 まさか、あのクリーチャーの能力?

 

「謎すぎるよ、あのクリーチャー……でも、とりあえず行くよ。マナチャージして、6マナ! 《グレンニャー》を《クジルマギカ》にNEO進化だよ!」

 

 さっきのシールドブレイクで来た、二枚目の《クジルマギカ》だよ。

 墓地には《狂気と凶器の墓場》と《クジルマギカ》、手札にはもう一枚《狂気と凶器の墓場》に《リバイヴ・ホール》。

 複数の《クジルマギカ》と《狂気と狂気の墓場》があるなら、NEO進化元さえ用意すれば、連続攻撃ができる。《クジルマギカ》が複数並べば、それだけ呪文も連射できるし、《狂気と狂気の墓場》で《グレンモルト》が落ちてくれれば、龍解も狙えるしね。

 だからここで反撃に出て、一転攻勢! と、行きたいところだけど。

 

(やっぱりあのクリーチャー、不気味だなぁ)

 

 バトルゾーンに渦巻く巨大な竜巻が、わたしの不安を煽る。

 《ノロン⤴》が動けなくなったせいで、このターンにとどめを刺せるかが不安定になっちゃった。《グレンモルト》が都合よく墓地に落ちるとも限らないし、トリガーも怖い。相手はまだシールドが五枚もあるのだ。

 絶対に負けられないけど、勝負を焦っちゃいけない。それに、そもそも相手は次のターン、わたしにとどめが刺せる。わたしは、王手をかけられている状態なのだ。

 今はまだ、無理をする時じゃない。

 

「ここは安全に行くよ。《クジルマギカ》で攻撃する時、能力発動! 手札の《リバイヴ・ホール》を唱えて、《クロック》を手札に。超次元ゾーンから《ブラック・ガンヴィート》を出すよ!」

 

 どんなクリーチャーなのかはまったくわかんないけど、攻撃したってことはタップされてるはず。

 だったら《ブラック・ガンヴィート》の能力で破壊しちゃえばいいよね。

 と、思ったんだけど……

 

「……あれ? なんで破壊できないの?」

 

 《ブラック・ガンヴィート》の能力は確かに発動しているはず。なのに、バトルゾーンの竜巻は消えない。

 まさかタップされていないとか? 実は攻撃していない、とか? いや、シールドが割られたし、流石にそんなことはないはずだけど。

 なんにしても、計画が狂ったし、これはすごくまずい。次のターンのダイレクトアタックを、防げない可能性が出て来ちゃった。

 

「と、とりあえずWブレイクだよ!」

『――!』

 

 繰り出した攻撃は止まらない。無意味に《ブラック・ガンヴィート》を出してしまったわたしは、そのままシールドをブレイクするけど、そこでまた失敗。というか、不運。

 S・トリガーを、踏んでしまった。

 

「《ドンドン吸い込むナウ》……《ブラック・ガンヴィート》が……!」

 

 手札に戻されたのは《ブラック・ガンヴィート》。これでいよいよ、わたしが《リバイヴ・ホール》を使った意味がなくなる。実質、《クロック》を手札に加えただけになっちゃったよ……

 

「た、ターン終了……」

『――ッ!』

 

 バトルゾーンに、もう一つ竜巻が追加された。二体目、ってことなのかな?

 そして、既にバトルゾーンにいた方の竜巻が、《クジルマギカ》に向かって突っ込んでくる。

 その時に、わたしは確かに見た。

 大風が、わたしのクリーチャーを巻き込んでいるのを。

 

(《ノロン⤴》がタップされた……やっぱり、あのクリーチャーの能力なんだ)

 

 攻撃する時にタップして、次のターンにアンタップさせない能力? まるで恋ちゃんの使うカードみたいだ。光のクリーチャー、なのかな?

 竜巻は《ノロン⤴》を抑え込みながら、《クジルマギカ》を飲み込んで破壊してしまう。シールドに来なかったのは少し安心したけど、でも、わたしの切り札が破壊されちゃった。

 続く妖精さんも、前のターンにタップされたらしい《ノロン⤴》を攻撃して破壊。わたしの場には《ノロン⤴》一体だけになってしまう。だけどこの《ノロン⤴》も、アンタップはしないんだよね……

 

 

 

ターン6

 

小鈴

場:《ノロン⤴》

盾:3

マナ:6

手札:3

墓地:11

山札:16

 

 

???

場:《???》×2《プロメテウス》《ドラゴンフレンド・カチュア》

盾:3

マナ:8

手札:3

墓地:3

山札:19

 

 

「わたしのターン……」

 

 やっぱり《ノロン⤴》はアンタップしない。

 とりあえず、なにかこの状況を打開できるようなカードが来ることを願って、カードを引く。

 すると、

 

(《グレンモルト》……! ここで来られても……)

 

 嫌なタイミングで来ちゃった……

 《ノロン↑》がタップされてるから、《グレンモルト》を出しても《ガイギンガ》に龍解できないよ。

 

(龍解できても、この状況がなんとかなるかはわかんないけどね……)

 

 龍解してもシールド枚数的に押し切ることはできない。

 それに、あの台風のクリーチャーは、《ブラック・ガンヴィート》で破壊できなかった。そうなると、《ガイギンガ》の能力で破壊できるのか、そもそも攻撃できない可能性さえある。

 手札には《狂気と凶器の墓場》が二枚もあるから、《グレンモルト》を墓地に置いておきたいところでもあるんだけど、手札のカードを墓地に置くる手段は今の手札にはない。

 

(ちゃんと考えなきゃ。今、この手札でできることはなんなのかを)

 

 わたしの手札は、《グレンモルト》《クロック》《狂気と凶器の墓場》が二枚。

 《クロック》はマナチャージするしか使い道がない。《グレンモルト》は出しても龍解できない。となると、選択肢は《狂気と凶器の墓場》でなにを出すか。

 《クジルマギカ》はNEO進化元がタップしてるから、やっぱり出しづらい。このタップが地味ながらも痛いよ。

 他の候補は、《カモン・ピッピー》くらいかな……《ノロン↑》を戻して手札を捨てるって選択もあるけど、たった2マナのクリーチャーを出すのはちょっともったいないし、そもそもこんな状況で《グレンモルト》を墓地に落としても遅い。

 《カモン・ピッピー》を出すとしたら、《勝利のリュウセイ・カイザー》か《ブーストグレンオー》だけど、今更マナをタップさせても遅いし、《ブーストグレンオー》だと《プロメテウス》しか破壊できない。

 そういえば、あの台風のクリーチャーはWブレイカーみたいだし、となると相手の場にはWブレイカーが二体はいるんだよね。

 わたしのシールドは三枚、次のターンでダイレクトアタックが来てしまう。

 

(もう結構S・トリガー見えちゃったけど、残りのトリガーってどれくらいかな)

 

 数えてみると、たぶん《デス・ゲート》が二枚、《クロック》が一枚くらいかな。トリガーじゃないけど《ハヤブサマル》も残ってるはず。

 うーん、《クロック》を手札に戻さなければ、《デス・ゲート》でほぼ確実に止められたんだけどなぁ……戻すカードを間違えちゃった。

 そもそも、台風のクリーチャーに《デス・ゲート》が効くのか、やっぱりわからない。流石に《クロック》は通用するはずだけど、《ハヤブサマル》でブロックできるかも怪しい。

 

(とりあえず通じると仮定して、そうすればどれか一枚でも引ければ1ターンは耐えられる。そのためには……)

 

 相手クリーチャーは四体。そのうちの三体の攻撃で、わたしは負けてしまう。

 それをできる限り防ぐには、数を減らすしかない。

 もう一度墓地を確認して、わたしは手札を切る。

 

「マナチャージして、5マナで呪文《狂気と凶器の墓場》! 山札の上から二枚を墓地に置いて、墓地の《カモン・ピッピー》をバトルゾーンに!」

 

 とここで、《ハヤブサマル》と《クロック》が墓地に落ちた。最悪だよ……もう《デス・ゲート》しかS・トリガーが残ってない……

 なんて嘆いてても仕方ないんだけどね……とりあえず、《カモン・ピッピー》の能力を使わなきゃ。

 

「《カモン・ピッピー》の能力で、《ブーストグレンオー》をバトルゾーンへ! 《プロメテウス》を破壊するよ!」

 

 《カモン・ピッピー》が開いてくれた超次元の門から、炎の獅子が飛び出す。

 燃えるライオンさんは、炎で《プロメテウス》を囲い込んで、破壊してしまう。

 

「……ターン終了」

 

 これで、相手のクリーチャーは三体。S・トリガーが出れば、耐えられるかもしれないという、あまりにも運任せな状況。

 相手のことを知らなかった無知。知らないという事実と、十分でない半端な理解、そこから下される判断が、選択の間違いを生んでしまった。これは、その積み重ねと、結果。

 わたしは王手をかけられている。玉将は、二つの龍王に囲まれている。

 これはわたしのミスだから、こうなってしまった現実を、わたしは甘んじて受け入れなきゃいけない。縋れるものは、天運しかないという、この現状を。

 

『――――』

 

 虚空に穴が開く。

 この穴は、超次元ゾーンに続く穴だ。ってことは、超次元呪文を使ったんだ。

 燃える斬撃が《ノロン↑》を切り裂いた。そして超次元から現れるのは、《勝利のガイアール・カイザー》。

 追加の攻撃クリーチャーを用意されちゃったけど……むしろ好都合かも。

 《デス・ゲート》がトリガーした時、《勝利のガイアール》を破壊すれば、《クロック》を出してターンを終わらせることができる。

 

『――――』

 

 さらに続けて、小さなクリーチャーが現れた。いきなり爆散した仮面のクリーチャーだ。

 よくわからないけど、たぶん相手も決めにかかってる。あのクリーチャーの意味は、いまだによくわからないけど。

 そして、相手クリーチャーは動き出した。攻撃が来る。

 

『――!』

 

 ただし、攻撃対象はわたしのクリーチャーだった。

 《勝利のガイアール・カイザー》が、わたしの《ブーストグレンオー》を切り裂く。

 あぁ、クリーチャーを破壊するための《勝利のガイアール》だったんだね。タップしちゃったから、もう《デス・ゲート》で狙えないや。

 そして今度こそ、妖精さんがわたしのシールドをブレイクする。

 ここで、なにかトリガーが、《デス・ゲート》が来てくれれば……!

 

「! やった、S・トリガー! 《地獄門デス・ゲート》!」

 

 地獄へと続く門扉が開く。そこから伸びる亡者の魔手が、竜巻のクリーチャーを地獄に引きずり込もうとする――けれど。

 

「っ、そんな……破壊、できない……!?」

 

 地獄門から伸びる手は虚空を掴むばかり。竜巻によって、クリーチャー本体には届かない。

 仕方ないから、さっき爆発した仮面のクリーチャーを破壊するけど、そっちのコストは2。コスト4以上じゃないと、《クロック》は出せない。わたしのデッキにコスト2未満のクリーチャーはいないから、なにも出せずに終わってしまう。

 そして、二つの竜巻のうちの片方が、続けて突っ込んでくる。同時に、《カモン・ピッピー》が大風で抑え込まれた。

 風の刃がきりもみ回転しながら、残った二枚のシールドをズタズタに切り裂き、断裂させる。

 

「あ……S・トリガー……」

 

 一枚は《サイバー・チューン》。そしてもう一枚は、二枚目の《デス・ゲート》だ。

 ついてる。といつもなら思ったかもしれないけど、今は喜べない。

 

(さっきのトリガーでも、《デス・ゲート》が効かなかった……)

 

 いまだに理屈はわからないけど、とにかくあのクリーチャーは、破壊することができない。どんな手段であっても、場から退かせない。

 ついさっき除去が弾かれて、それが証明されてしまったのだ。同じカードが、二枚目の《デス・ゲート》が引けたところで、意味はないとわかってしまう。

 そこには、絶望しかない。

 

(負けちゃうの、わたし……)

 

 ごめん……みんな。

 これは全部、わたしの責任だ。

 無知も、不理解も、経験不足も、言い訳にはならない。言い訳しても、許されるわけじゃない。

 わたしの行動が、わたしの判断が、わたしの選択が、この結末を生んでしまった。すべてを壊してしまう、最悪の結末を。

 これはその責任。罰、と言えるのかもしれない。

 期待は薄く、希望は淡い。救済の光は遠く、暗い深淵のどん底に、突き落とされるような感覚。

 もう、わたしにはなにもない。身を守る盾も、反撃の手段も、なにもかも。

 わたしにはもう、なにも頼れるものがないんだ。

 その時だった。あの輝かしい太陽のような、あたたかく、熱い声が聞こえたのは――

 

 

 

『――小鈴!』

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 風が渦巻く音を切り裂くように、嵐の中を掻き分けて、一筋の光が――声が、届いた。

 真っ白な身体。きれいで、美しくて、神々しい、この世のものとは思えないような鳳。

 わたしに、魔法のような奇跡を与えてくれた存在。

 それがまた、わたしに太陽のような光を浴びせてくれる。

 

「っ! と、鳥さん……!」

 

 どこに行ってたのか知らないけど、この嵐の中、わたしのところに来てくれたの……?

 ……ちょっと、嬉しいな。そんなこと言ってる場合じゃないんだけど、鳥さんは、わたしのことを見捨ててないんだ。

 でも、ごめん鳥さん。流石に、もうダメだよ。

 そういう前に、鳥さんはわたしに怒声を飛ばす。

 

『小鈴! なにを諦めようとしてるんだ! 君に諦められたら、僕が困る! 君だってそうだろう!』

「で、でも……だって! こんなの、無理だよ……」

 

 破壊できない。攻撃が止められない。止める手段は、なにもない。

 唯一の守りであったシールドはないし、S・トリガーは効かないと証明されてしまった。

 そんな相手が牙を剥いている。こんな状況、諦めようと諦めまいと、結果は変わらない。

 もう、どうしようもないよ……

 

『……やっと奴の正体がわかった。如何せん、僕らの存在している世界線とは、少し異なる出自のクリーチャーだからピンと来なかったけど』

「え……?」

 

 鳥さん、あのクリーチャーの正体を探っていたの?

 そして、その正体がわかった?

 だけど、もう手遅れじゃ……

 

『まあそんな細かい話はいい。奴は風を味方につけるクリーチャーだ。風を纏い、あらゆる害悪から身を隠して、受け流す。そういう力を持っている』

 

 それはわかる。実際、わたしの《ガンヴィート》や《デス・ゲート》を無力化されているわけだし。

 

「でも、今更そんなこと言われても、もうどうしようもないよ……」

『君は実は頭が悪いのか? 僕でもわかるような理屈がわからないなんて』

「え?」

『あれはクリーチャー本来に身についている力じゃない。あくまでも“風を防御に使っている”だけなんだ。奴は天候を操るが、気流や乱雲を創造するほどの力はない。そこにある気象を、我が物として借り受けるだけだ。狂月皇帝(ルナティック・エンペラー)のような、絶対的な力は持ち合わせていない』

 

 ? えーっと?

 つまりあのクリーチャーは、自分で嵐を巻き起こしているわけじゃなくて、既に出ている嵐を利用しているだけってこと?

 だけど、それがわかったからって、どうなるっていうの?

 

『簡単な話だ。奴の隠蔽能力が風によるもので、それが周囲の環境に依存するものなら――“その風を打ち払えばいい”』

「風を打ち払うって……」

 

 なるほど、理屈はわかった。

 だけどそんなこと、簡単に言わないでほしい。風って言ったって、あれは大きな竜巻、暴風なんだよ。

 たかだか一人の人間がどうこうできるようなものじゃない。

 

『まあ人間は、自分の肉体の範囲内でしか力を行使できない。そういうことをするのは不得手な生物みたいだからね。だけどそこは問題ない。僕が協力しよう』

「鳥さんが? どうするの?」

『君が集めてくれた力を、さらにもう少し解放する』

「解放……?」

『一瞬だ。一瞬だけ、奴の纏う大風を消し飛ばす。その隙に……やれるね?』

「……う、うん。頑張ってみる……」

 

 鳥さんがなにをするつもりなのかはわからないけど――信じてみよう。

 間違えて、誤って、自ら首を絞めて、みんなに迷惑をかけちゃったわたしだけど……鳥さんは、まだわたしの傍にいてくれる。

 それならわたしも、まだ諦められない。

 信じてくれる人がいるなら。手を差し伸べてくれる仲間がいるなら――最後まで、やり遂げなきゃ。

 

「っ! き、来た……!」

『オッケー、じゃあ手筈通りに。小鈴、しっかりと相手の動きを見てなよ。めちゃくちゃ眩しいだろうけど、目を瞑ったり、逸らさないように。確実に仕留めるんだ』

「う、うん」

 

 竜巻が迫ってくる。わたしの手札には、まだ発動が宣言されていない呪文。

 それを手にして、構える。襲い掛かる竜巻をジッと見据えて。

 刹那、鳥さんが白い羽を散らして、嵐の空へと飛び立った。

 

『……異星の地にて告げる。宇宙(ソラ)に浮かぶ命の光、魂の灯よ。彼の地に降り注ぐ汝の光が、我らの奉ずる神話の陽光と存在を同じくするものならば、我が呼び声に応えよ』

 

 鳥さんは、今まで聞いたこともないような、静かで重苦しい声で、誰かに語りかけるように、言葉を紡ぐ。詠み上げて、唱える。

 信託のように、祝詞のように。

 神話を、語るように。

 

『我は燦然と輝く太陽の威光を語る者なり。白き翼は神話の片翼、燃ゆる炎は白き奇跡の証明――黒翼と対を成す我が白翼の奇跡にて、太陽神話よ、その権能を借り受ける!』

 

 ここからでもわかる。鳥さんが、すごい熱を帯びていることが。ずっと高いところにいるはずなのに、その熱が、その光が、この嵐の中でも、わたしのところまで届いている。

 それは暖かくて、明るくて、安心する陽光。まるで太陽だ。

 竜巻が、もう眼前まで迫っている。

 その、刹那――

 

 

 

『天空に昇れ、白き太陽! この嵐を打ち払い給え――!』

 

 

 

 ――太陽が現れた。

 

「っ!」

 

 眩しい……っ!

 だけど、目を閉じちゃダメ。目を逸らして見失うわけにはいかない。

 それは奇跡の再現のようだった。

 あり得ないようなことが、目の前で起こった。

 嵐の中に現れた太陽が、その輝きが――荒れ狂う暴風を吹き飛ばした。

 

「見えた……!」

 

 太陽の輝きによって消え失せた大風。その中から、風を隠れ蓑にするクリーチャーが隠された姿を現す。

 それは、意外な姿をしたクリーチャーだった。

 雨や風を想起することができないような、鋼鉄。鋼の身体を持つ龍。銀色の表皮に覆われたドラゴンだ。

 

「暴風雨の化身、風翔龍。その真の名は――《鋼龍 クシャルダオラ》」

 

 嵐を消し飛ばした鳥さんが、空から降りてくる。

 《クシャルダオラ》……それが、あのクリーチャーの名前。

 

「さぁ小鈴! 今だ!」

「う、うん! S・トリガー、《地獄門デス・ゲート》!」

 

 わたしは、手札に構えていた呪文を発動させる。

 風を纏っていない今なら、当てられる!

 今まさに、わたしに牙を突き立てようとする鋼の龍。その眼前に、地獄へと続く門扉が現れる。

 開かれた地獄の門からは、魔王の魔手が幾本も伸びて、《クシャルダオラ》を捉え、覆い尽くした。

 

 

 

「《クシャルダオラ》を破壊――!」

 

 

 

 ――バタンッ!

 地獄門は閉じられた。嵐の鋼龍を飲み込んで。

 そしてそれを糧に、別の命を吐き出す。

 

「出てきて《クジルマギカ》!」

 

 《クシャルダオラ》のコストは7だった。だから、コスト6のクリーチャーまで出せる。

 《クジルマギカ》を呼び戻したところで、また、嵐が場を支配して、もう一体の《クシャルダオラ》を守る鎧になった。

 

 

 

ターン7

 

小鈴

場:《カモン・ピッピー》《クジルマギカ》

盾:0

マナ:7

手札:4

墓地:17

山札:10

 

 

クシャルダオラ

場:《クシャルダオラ》《ドラゴンフレンド・カチュア》《勝利のガイアール》

盾:3

マナ:9

手札:2

墓地:7

山札:17

 

 

 

「僕ができるのはここまでだ。ここから先は、君の力でなんとかしてくれ」

 

 弱々しく、だけどいつものように不遜で、自分勝手に言う鳥さん。

 力を使い切ってしまったのか、鳥さんは大きくて、格好良くて、きれいな鳳ではなく、いつもの小さくて貧弱そうな小鳥に変わっちゃってた。

 あの格好いい鳥さんもいいけど、やっぱり、こっちの姿の方が落ち着くな。

 いつものその姿の方が、わたしも、いつものわたしを思い出せる。

 

「……なんか無責任じゃない?」

「なにを言うか。そもそもクリーチャーを倒すのは君の役目だよ。あれだけ力を使って助力したんだから、感謝されこそすれど非難される謂れはないね」

「偉ぶらないでよ……でも、ありがとう。鳥さん」

「あぁ。やってくれ、小鈴」

「うん! わたしのターン!」

 

 鳥さんがその身を粉にしてまで繋いでくれたんだ。このターンは、絶対に無駄にできない。

 わたしの場には、《デス・ゲート》で戻ってきた《クジルマギカ》がいる。

 その状況なら……やれる。

 

「まずは《グレンニャー》を召喚。一枚ドロー」

 

 場を支配するのは大嵐。一度は陽光で消し飛ばしたけど、それはほんの一時の間。それに、それは鳥さんの力があってこそだった。

 だから今度は、わたしの番。

 もう一度、嵐を乗り越えて。

 今度は、今度こそ わたしの――わたしたちの力で、この嵐を打ち払ってみせる!

 

「6マナタップ! 《グレンニャー》を進化!」

 

 わたしは太陽のように、大きくて明るい存在にはなれないかもしれないけど。

 それでも、手を差し伸べることくらいはしたい。寄り添っていたい。

 小さくても、些細でも、大層でなくても、ほんのちょっとしたことであっても。

 誰かを助けられるような、誰かを救えるような、誰かを照らせるような――光になりたい。

 あの人のように――

 

 

 

「お願い、力を貸して――《エヴォル・ドギラゴン》!」

 

 

 

 どんな大風にも負けない、力強い、大きな炎を。進化の光を。

 この嵐を打ち払う力をわたしに貸して、みんな!

 

「《クジルマギカ》で《カチュア》を攻撃! その時、墓地から呪文を唱えるよ! 《狂気と凶器の墓場》!」

 

 先陣を切るのは《クジルマギカ》。

 その魔法の砲撃が、新たな仲間を呼び寄せる。

 

「効果で山札から二枚を墓地へ送って、《龍覇 グレンモルト》をバトルゾーンに復活! 《銀河大剣 ガイハート》を装備!」

 

 これで、準備完了。

 遂に戦場に立たせることができた《グレンモルト》。もう、怖いものはない。

 《クジルマギカ》の砲撃で妖精さん――《カチュア》が破壊される。

 次に、進化の龍が咆えた。

 

「行って! 《エヴォル・ドギラゴン》で《勝利のガイアール・カイザー》を攻撃!」

 

 後に続くは《ドギラゴン》。《勝利のガイアール》の燃える刃も、硬い装甲を貫くことはできず、力ずくで叩き潰される。

 そしてこの攻撃が、さらに仲間の熱意を呼び覚ます鍵となる。

 

「バトルに勝ったからアンタップ! さらに、これでこのターン、わたしは二回攻撃したよ! だから、《ガイハート》の龍解条件成立!」

 

 《クジルマギカ》が呼んで、《ドギラゴン》が繋げてくれた、この力。お願い、目覚めて。

 その熱意は銀河の如く。その力は宇宙の如く。

 大きな炎と、大きな魂が、星のように瞬き、わたしの心を震わせる。

 みんなを導く、先輩()のように。

 わたしに、その熱血()を――貸してください!

 

 

 

「龍解――《熱血星龍 ガイギンガ》!」

 

 

 

 やっと、起きてくれた。

 遂に、現れてくれた。

 先輩が託してくれた、わたしの切り札。

 ……行ける。

 これならもう、負ける気がしない。

 

「《ガイギンガ》の能力発動! 龍解した時、パワー7000以下のクリーチャーを破壊するよ! 破壊するのは――《クシャルダオラ》!」

 

 銀河の如き爆発が、爆炎が、巨大な竜巻を焼き尽くす。

 大風も、暴雨も、鋼鉄も、なにもかも関係なく、燃やし尽くした。

 太陽の昇る、すべてを焼き払った焦土の戦場。

 そこを駆けるのは、わたしの仲間(クリーチャー)たち。

 

「《エヴォル・ドギラゴン》で、Tブレイク!」

 

 《ドギラゴン》が三枚のシールドを、一気に割り砕く。

 嵐はない、仲間がいる。

 もう、なにも怖くない。

 

「――ッ!」

 

 砕かれた盾が光り、収束する。S・トリガーだ。

 また《ドンドン吸い込むナウ》……運がいいって言いたいけど、わたしも《デス・ゲート》二枚引いてるから、おあいこかな。

 だけど、いくら運が良くても無駄。

 わたしの《ガイギンガ》は、その程度の嵐には負けないよ。

 

「――――」

 

 《ドラゴンフレンド・カチュア》を捕まえ、それをエンジンにして放たれる吸引の渦。だけど、それは《カモン・ピッピー》を飲み込むだけ。

 もう一枚が《プロメテウス》を加えて、二重の渦を巻き起こすけど、それでも止まらない。大渦の中を、ただひたすらに突き進む。

 わたしの仲間は嵐を超える。

 みんなのために。

 わたしたちが笑っていられる、居場所(日常)のために――!

 

 

 

「《熱血星龍 ガイギンガ》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「た、倒した……?」

 

 巨大な竜巻は雲散霧消し、鋼の龍は光の粒子となって空へと放たれる。

 あれだけ激しかった雨も、あれほど荒れ狂った風もなく、空には燦々と日差しを降り注ぐ、眩しい太陽が浮かんでいた。

 

「お疲れ小鈴。よくやった」

「う、うん。鳥さんもありがとう」

 

 パタパタと、力なく飛んでいる鳥さん。

 今回は、本当に鳥さんに助けられたな。

 

「鳥さん、またちっちゃくなっちゃったの?」

「あぁ、少し無理をしすぎたみたいだ。やはり神話継承するには力が足りなさすぎる。あれだけマナを蓄えても一回きりか……」

「神話……?」

「まあ僕のことは気にしなくていいよ。元より、すぐになんでも元通りとは思っていないさ」

 

 そう言う鳥さんの横顔は、ちょっとだけ寂しそうで、悲しそうで。

 どこか、遠くの星を見ているようだった。

 

「……鳥さんは、クリーチャーなんだよね?」

「そうだよ。君たちの知るそれと、同じとは限らないけど」

「クリーチャーは、色んな目的があって、わたしたちの世界に来ているみたいだけど……鳥さんは、どういう目的で、なんのために、この世界に来たの?」

 

 昨日もした質問。その時ははぐらかされてしまったけれど。

 だけど、わたしはちゃんと聞いておきたかった。わたしに力を与えてくれて、わたしを魔法少女(主人公)にした鳥さんが、なにをしようとしているのかを。

 帽子屋さんは、自分たちの世界が欲しかったから。【不思議の国の住人】という、自分たち(仲間)のため。

 チェシャ猫レディさん――謡さんは、主人公になりたいから。自分たちの正義(ヒーロー)を、信じるため。

 じゃあ、鳥さんは?

 鳥さんの望みは、なに?

 ずっと、それを聞きたかった。

 そして――

 

 

 

「――僕の信じた、僕らの信じた……世界(神話)のため、かな」

 

 

 

 世界、神話……

 まったく、鳥さんの口からは聞いたことのない言葉だった。

 

「僕の世界はね、酷く醜い戦争があったんだ。限られた資源、エネルギー、命……それらのために、手を組むはずの者たちは皆、その手で武器を取ったんだ。支配は崩れ、生誕は衰える。慈愛は失せ、守護の力は虚無になる。海洋は荒れ狂い、賢愚は我を通す。月光は月影へと身を落とし、冥界は暴走した。萌芽の息吹は摘まれ、豊穣なんてもってのほか。焦土に満ちた大地には、太陽が陰りを生む――そしてその結果、無秩序と混沌に塗れた、地獄のような世界に成り果ててしまったのさ」

 

 そう、だったんだ……

 知らなかった。いつも自分勝手で、強引で、悲しさも寂しさも暗さも、そんなものはなにも感じさせなかった鳥さんが、そんなものを抱えていたなんて……

 その世界は、きっと鳥さんの故郷なんだろう。

 それが、荒れ果ててしまった。

 

「今では荒廃に荒廃を重ね、もうなにも手出しができないほどに壊れてしまったよ。失われた技術もある。絶えてしまった種族もある。忘れ去られた神話さえもあった。僕は無秩序も混沌も受け入れるけど、でも、それは地獄だ。誰もが苦しみしか感じない、楽しみが一つもない、虚無という痛苦。絶望しかない現在と未来。そんな世界は、正さなければならない」

「正す……?」

「あぁ。元の秩序ある世界にするんだ。ちょっと鬱陶しくて窮屈で、たまに怒り出すような奴がいるけど……それでも平和で、みんなが笑っていられるような、美しい世界だ」

 

 秩序のある世界。それが、鳥さんの故郷の、元の姿。

 その姿を取り戻すために、鳥さんは、わたしに助けを求めて、戦っている。

 わたしに戦わせているばかりじゃ、なかったんだ。

 鳥さんもずっと、自分の故郷の世界のことを思って、わたしの傍にいたんだ。

 

「……鳥さんは、すごいね」

「すごくないさ。相棒と違い、美しいのはこの羽だけでね。変態錬金術師には非効率的と罵られ、主君の妹君には鬱陶しい白鴉と蔑まれ、幼い妖精の姫には玩具にされて……失敗ばかりを繰り返している。今だってそうだ。もっといい方法がありそうだけど、掴めない。いつになったら終わるかわからないような、途方もない無駄な足掻きをしている。そんな奴だよ、僕は」

「ううん。それでも、自分の守りたいもののためにがんばっている姿は、格好いいよ」

「そうかい……ありがとう。だけどね、小鈴」

「?」

「僕がするべきは、絶望の世界でも未来を託した先人たちの意志を汲み、そしてあの星に残った友たちを信じ、僕らが望んだ結末のために、未来を繋ぐことだ。君には悪いけど、君の、君らのためじゃない」

「そ、それが……?」

「結局のところ、これは僕の自分勝手な我侭ということさ。僕の使命が明確にある以上、いずれその時が来る……僕の物語が終わる時。それが、十二に連なる神話と、彼らが残した、僕の愛すべき友たちとが繋がる時。僕は、その架け橋としてここにいる。そして――」

 

 ――その橋が架かった時が、僕と君の物語の終わりだ。

 鳥さんは、そう言った。

 

「終わり……」

 

 考えたことがなかった。だけど、それは当然のことだ。

 終わらない物語はない。どんなに続きが読みたくても、どんなお話にも終わりはある。

 バッドエンドに絶望しても、ハッピーエンドに笑っても、その続きはない。

 楽しいキャラクターも、胸が躍る展開も、その物語の枠だけで仕舞われてしまい、それ以上、広がることはない。

 わたしたちにも、いずれそういう時が来る。

 いつか、鳥さんとお別れする時が……

 

「鳥さん……」

「……そんな顔しないでくれよ。それは避けられない運命だけど、なにも今すぐってわけじゃない。どれだけかかるかは僕にもわからないんだ。僕が言いたいのは、いずれ来る別れを悲しもうなんてことじゃない。泣き顔なんて真っ平ごめんだ。僕が言いたいのはだね――」

 

 一拍、置いて。

 鳥さんは、小さなくちばしで、言葉を紡ぐ。

 あたたかな、お日様みたいな声で。

 太陽のような輝きを語る。

 

 

 

「――いつか別れる時は悲しいけど。だからこそ、こうして共に戦えるひと時を、笑い飛ばしながら楽しんでいこうじゃないか、ってことさ」

 

 

 

 笑って、楽しむ……?

 鳥さんから、そんな言葉が出るなんて、思わなかった。

 いつもわたしたちをけしかけて、ただすべきことをこなしているだけのようだと思っていた鳥さんが。

 強い使命感に駆られてるはずなのに。大きな役目を背負っているはずなのに。

 それに押し潰されることなく、楽しむ心を持って、楽しもうとしていたなんて。

 驚きだけど、納得した。

 そっか。それが鳥さんの強さなんだね。

 そしてわたしも、気づかされた。

 

「……そう、だね。鳥さんの言う通り、だね……」

 

 悲しみじゃあ、笑えないもんね。

 お母さんの小説も、お姉ちゃんの生徒会も。それは、誰かを幸せにして、誰かを笑顔にすること。

 人はやっぱり、笑ってるところが一番なんだから。

 わたしも――笑わないと。

 

「まあ、毎回急かす僕が言えたことでもないかもしれないけど」

「ふふっ。ほんとだよ。鳥さん、やることやったらすぐに帰っちゃうじゃん」

「この身体で活動するのは、それなりに大変なんだよ……でも僕だって楽しかったよ。そう、君を背中に乗せた時は気分が高揚した。誰かを背に乗せるなんて初めてだったからね。それに君から貰った食べ物――パンだっけ? 最初は無味乾燥と思ったけど、後からくれたものはなかなか美味だった」

「そう? そう言ってくれると、嬉しいな。鳥さんも今度、一緒にパン屋さんに行こうよ」

「僕も入れるのかい?」

「あ、うーん、鳥さんは鳥さんだから、ダメかも……なら、わたしが買ってきてあげる」

「それは楽しみだ」

「うんっ。たくさん食べよう。この世界にも、美味しい食べ物はたくさんあるんだから。いっぱい食べて、楽しもう。だから――」

 

 眩しい太陽が、空に昇る。

 わたしの世界はこんなにも綺麗で、こんなにも明るくて、こんなにも輝いているんだから。

 だからこの陽光の下では。太陽が昇り続ける限りは。

 精いっぱいの笑顔でいよう。

 

 

 

「――これからもよろしくね、鳥さん」

「あぁ。よろしく頼むよ、小鈴」




 というわけで、台風の正体は《クシャルダオラ》でした。台風になるたびに話題に上がるカードですね。デッキも奴を主軸のした《ドラゴンフレンド・カチュア》軸のドラゴン砲デッキです。
 ただ本作では奴の能力は少し意訳されていて「その地域で風に関する注意報か警報が出ている時、相手のカードの効果によって選ばれない」ではなく「暴風警報が発令されるほどの大風が存在する場合、その風を纏うことで相手から選ばれなくなる」みたいな能力になっています。まあ、あれでしたら、鳥さんが風を打ち払った瞬間だけ暴風警報が解除されたと思ってください。
 いつもはあんまり役に立たない鳥さんも、20話に一回くらいは活躍するもので、今回は滅多に描かない鳥さんについても掘り下げができた回でした。
 次回は林間学校も終わり、元の街に帰ってきます。お楽しみに。
 また、誤字脱字、感想、その他諸々、なにかありましたら、遠慮なくどうぞ。
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