デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 漫画では特訓回ってよくあったけど、小説だとどうなのだろう、と思う作者です。たぶんあんまり映えないというか、伏線を張るとか、なんらかの意図、効果をハッキリと提示しないと、ダレるだけって感じします。


29話「お別れです」

 みなさんこんにちは、伊勢小鈴で――

 

「――姉ちゃんッ!」

「わっ、謡? それと、皆も。い、いらっしゃい?」

 

 ……伊勢小鈴です。

 えぇっと、その……わ、わたしたちは今、ワンダーランドに来ています。

 そこで謡さんが、カウンター越しに詠さん――謡さんのお姉さんに詰め寄る。

 

「姉ちゃん。私、強くなりたい」

「え? な、なに? どうしたのいきなり」

「あ、あに、アタシも……」

「うん。よくわからないけど、よくわかった。とりあえず落ち着こうか。はい、深呼吸」

「ひっ、ひっ、ふぅー……」

「いや、産卵じゃなくてさ」

「出産ですよ、詠さん」

「それはさておき。小鈴ちゃん、なにがあったの?」

「じ、実は……」

 

 興奮する謡さんを抑えながら私たちは、詠さんに話した。

 ついさっき起こったばかりの出来事。

 公爵夫人と名乗った女の人との接触について。

 その、目的についても。

 

「――成程ね。私もいつかはあるだろうとは思ってたけど、遂にか」

「姉ちゃん。私、強くなりたい。強くならなきゃ、いけないんだ。今すぐにでも」

「あ、あの。あ、アタシも……」

「ふぅーむ……私はそんなつもりで、謡にデュエマを教えたんじゃないんだけどねぇ……」

 

 がっつく謡さんに、詠さんは、どこか遠くを見ているような目で、言葉を零した。

 

「無理言ってごめん。姉ちゃんには、受験もバイトもあって忙しいのはわかってるけど……それでも、お願い。私を鍛えてほしい。私にデュエマを教えてくれた時みたいに」

「……それは別に構わないけど。謡は少し誤解しているよ」

 

 詠さんは、謡さんとは対照的に、とても冷静だった。

 

「デュエマに限らず、カードゲームの強弱は、単純には測れない。デッキの相性も、その時の運もある。定石を覚えたり、パターンを覚えたりという経験が、そのまま感覚という身になる。それが一朝一夕でその技術が身につくわけもない」

「そ、そうかもしれないけどさ……じゃあどうしろっていうのさ」

「変えるのは意識だよ。一戦一戦を、一挙一動を大切にして、反省と考察を繰り返す。それをずっと、ずぅっと続けて、ちょっとずつ自分の中に蓄積される。その積み重ねが強さになるの。こうすれば強くなる、なんて裏ワザも、近道もないよ」

「う……」

 

 厳しい語調で、謡さんを説き伏せる詠さん。

 な、なんだか、ちょっと険悪な空気を感じるよ……

 

「そ、霜ちゃん……」

「詠さんの言ってることは間違ってないよ。現実はゲームじゃないんだ。百回対戦したからって、その分だけ経験値が入ってレベルアップするとは限らないし、特定の敵を倒したからって一度にたくさんの経験値が得られるわけでもない。継続は力なり、であり、長い目で見なければならないものだ」

「その通り。すぐに強くなりたいなんて無理難題もいいところ。いくらなんでもそんな我侭は聞けないね」

「でも……」

 

 詠さんに、斬って捨てられてしまう謡さん。

 詠さんの言ってることは正しくて、謡さんもきっと、わかっていると思う。

 けれど、それでも、そうだとしても、謡さんの気持ちは、わたしにもわかる。

 今回は代海ちゃんのお陰で何事もなかったけど、また次があるかもしれないし、その時に同じような手が通じるとは限らない。

 また同じ失敗をしたくない。一度得たチャンスを無駄にはしたくない。

 ……きっと、それ以上の気持ちが、謡さんの中で渦巻いている。それはわたしじゃ測れないし、わたしが語るべき言葉でもないから、これ以上はなにも言わないけれど。

 とにもかくにも、謡さんは前に進もうとしている。

 だから、こんなにもすっぱりと切り捨てられてしまうのは、見るに耐えないのだけれど……

 

「……まあ、厳しく言っちゃったけど、強くなりたいって願い自体は否定しないよ。今のはただの注意書きみたいなものだから」

「っ。って、ことは」

「うん。謡がその気になったのなら、少しくらいは手伝ってあげる。あんまり構ってあげられないかもしれないけど」

「ありがとう姉ちゃん! 流石姉ちゃんだ!」

「あ、あの……アタシも……」

「じゃあとりあえず、デッキを変えるところから始めようか」

「え? デッキ? 私の?」

「うん。だって謡、ずっと《ダンガンオー》ばっかり使ってるじゃない。一つを極めるのも悪くないけどさ、敵を知り己を知れば百戦殆うからず。知は力なり。誰かが使うかもしれないデッキを使うのも、そこから自分の癖や特徴を知るのも、レベルアップに繋がる。知るということが強さの踏み台だよ。だからまずは、デッキから」

 

 なるほど……確かにわたしも、色んなデッキを使うようになってから、そのデッキの強みとか、弱点とか、どうすれば最大限の力が発揮できるのか、どうすれば負けないように立ち回れるのか、そういうことを考えるようになった。

 先輩から貰ったデッキをずっと使ってたら、きっと至らない考えに、至れるようになった。

 ……先輩、かぁ……

 

「うーん、いきなりそんなこと言われてもなぁ。姉ちゃんも知ってるだろうけど、私ジョーカーズのデッキしかないよ?」

「ジョーカーズ一つ取っても、色々型はあるでしょ、とりあえず《ダンガンオー》抜いたら? これ買ってあげるから」

 

 そう言って謡さんは、後ろの棚から小さな箱を持って来た。

 

「なにこれ? ピザ?」

「なわけないでしょ。デッキだよ、構築済みの。これ、買ってあげる」

「え!? いいの!? 姉ちゃんの奢り!? ありがとう姉ちゃん!」

「私から出す指令はただ一つ。それでデッキを組んでみて。《ダンガンオー》抜きでね」

「……《ダンガンオー》抜きで?」

 

 喜びも一瞬。謡さんはすぐ、険しい表情を見せる。

 《超特Q ダンガンオー》。謡さんの、切り札だ。

 

「本当なら、まったく別のデッキを使わせたいんだけど、今の謡にそんなことさせたら、階段を踏み外して転げ落ちそうだし。だから変化はちょっとずつ。だけど、一番大きなものは変えてもらう」

「……本気で言ってる? 姉ちゃん。遊びじゃなくて?」

「私は本気だよ。謡も本気でしょ? でも、これから謡が歩む道は、本気でも、真剣でも、本番じゃない。本作のための習作であって、本番までの練習。だから何度でも“最悪”を経験してもいい。なればこそ、拠所を失った感覚に慣れておくべきだね」

「受験勉強と同じって?」

「そういうこと。失敗してもいい時に、パターンに慣れておくの。本当に大事な時、失敗しないためにね」

「最悪に慣れておく、かぁ」

 

 それはたとえば、思い通りの動きができなかった時。

 最大の切り札が使えないような時。

 自分にとって最も大事なものが喪われている状態。それを前提に置くことで、より高みを目指せと、詠さんは言っている。

 そしてそれは、謡さんの一番の切り札を、封じるという意味だった。

 謡さんは口を一文字に結んでいた。

 自分のデッキケースを――その先の切り札を、見据えながら。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 《ダンガンオー》をデッキから抜け。姉ちゃんは、そう言った。

 そんなに思い入れがあったつもりはない。ただのスターターに入ってたカード。デュエマを始めてすぐに手にした切り札ってだけで、他にもっと強い切り札があるなんてわかってる。ジョーカーズで組むなら、環境に合わないことも理解していた。それこそ、帽子屋さんみたいに《ジョリー・ザ・ジョニー》の方が切り札として相応しいとさえ思う。

 カード資産がないなんてのは言い訳で、しかも足りないカードは姉ちゃんから借りてたから、そんなものは言い訳にもならない。

 でも、私が《ダンガンオー》にこだわっていたのは、逃げじゃない。そう、胸を張りたいものではあった。

 好きだった……のかも、しれない。

 単に愛着が湧いただけなのかもしれない。

 最初の切り札。ただ、それだけだ。

 それだけ、だけど。

 だから、こそか。

 このカードを手放すことに、とても、抵抗がある。

 デッキから抜きたくない。そう、強く思う。

 姉ちゃんも意地が悪い。これがいっそ、まったく別のデッキなら思い切れるというのに、中途半端にジョーカーズのままだなんて。そんなの、離れづらくなるだけなのに。

 まあ、私だって今までジョーカーズしか使わなかったんだ。他のデッキをいきなり使えるようになるだなんて、思わないけど。

 今までずっと一緒に戦ってきたのに、ここで別れる。それは、とても嫌だ。そんなことはあって欲しくない。

 けれど、これが私が前に進むために必要なことのなのなら。

 その悲しみも、苦しみも、背負って受け入れるべきなのかもしれない。

 しょうもないって思われるかもしれないけど。たかが一枚のカードだし、恋しくなったらまた入れればいい。今生の別れみたいに演出しても、そんなものはデッキから抜けるだけ。

 けれど、そんなしょうもないことに固執し続けるから、そして縋っているから、私はダメなんだろうな。

 だからこの決別は、やっぱり私にとっては、大きな一歩なんだ。

 しょうもなく弱い自分から、少しでも抜け出すための。

 笑いたければ笑え。こんなの、弱い初心者のダサい一歩だよ。

 本当はもっと、格好良くありたかったんだけどね。ヒーローらしくとはいかなくても、せめて、先輩っぽいところは見せたかったんだけど。

 どうも私の弱さは、そんな見栄すら張れないほど、酷いみたいだ。

 それならそれなりに、泥臭くても、格好悪くても、ダサくても、やってみようか。

 いつか――格好良い理想の自分になれるように。

 

 

 

(私が強くなるその時まで――さよならだ)

 

 

 

 未来の自分を信じて。

 ここで、別れを決めよう。

 

 

 

(さようなら、私のヒーロー(ダンガンオー)――また会おう)

 

[newpage]

 

「――姉ちゃん。私、やるよ」

「その答えが聞きたかった。じゃあ、どうする? 私も手伝おうか?」

「いや、いいよ。デッキだけ姉ちゃんに預けていいかな? まずは自分でやってみる」

「わかった。まあ、行き詰ったら話しなさい。デュエマなんて結局のところは二人でやるゲーム。調整だろうと鍛錬だろうと道楽だろうと、なにをするにしたって、一人じゃどうにもならないんだから」

「うん……ありがとう、姉ちゃん。それと、妹ちゃんたちも」

「え? い、いえ、わたしはなにも……」

 

 なにかを決意したような面持ちで、顔を上げた謡さん。

 さっきの逡巡の間、なにを思ったのか。

 デッキケースを詠さんに預けて、謡さんは踵を返した。

 

「なんか引っ掻き回しちゃってごめんね。とりあえずは一人で頑張ってみるよ……それじゃ! またね!」

 

 そうして謡さんはただ一人で、行ってしまった。

 

「……一人で勝手に騒いで、他人を巻き込んで、しまいには一人でやるって。傍若無人な先輩だなぁ」

「み、みのりちゃん……」

「いえいえ、ほんとにねぇー。私の妹はあんなんだったかなぁと、姉的にも妹の変化には戸惑うばかりだよ。ごめんね皆」

「い、いえ……わたしは、別に……」

「さて。謡はとりあえずあれで放っておくとして……無視してたわけじゃないんだけど、ごめんね。いきり立つ謡を先にどうにかしないといけなさそうだったから、そっちにかかれなかったよ」

 

 と、詠さんは代海ちゃんの方を向いた。

 謡さんが詰め寄るたびに、少しずつ自己主張してたけど、気づいてないわけじゃなかったんだ……

 

「代海ちゃんだっけ? 君も謡と同じクチかな?」

「は、はい……」

「まあ、さっきの一部始終を見てたなら、私の言いたいことはわかると思うけど」

「あ、アタシも、わかっては、います……で、でも」

「そっちの言い分もわかるよ。謡は妹って手前、下手に甘やかしたくもなかったし、あんな感じになったけど」

「え? デッキ一個買っといて甘やかしたくないとか言っちゃうの?」

「実子。君はとりあえず黙ってろ」

「水早君は相変わらず辛辣だぁ」

「君には、もう少し突っ込んだアドバイスをしてもいいかな? 君はたまに小鈴ちゃんたちとデュエマしてたよね。そんなにじっくり対戦を見てたわけじゃないけど、後ろからちょいちょい見てるだけでもわかる。君、相当なビビリだよね」

「あぅ……」

「別にそれが悪いと言ってるわけじゃない。蛮勇や無策で殴るのも問題だし、臆病になって詰めに気を付けるというのは、初心者を抜ける一歩でもある。ただ、臆病なままだと、そこで止まっちゃうよね」

 

 わたしは、どちらかと言えば攻撃していく側だと思う。最初に貰ったデッキも、今のデッキも、攻撃行動が大事になるデッキだ。

 けれど、これまでずっとデュエマをやってきて、なにも考えずに攻撃をつづければ勝てるわけじゃない、ということは理解できた。

 S・トリガーとか、増えた手札からの逆転。何度もやって来たし、何度もやられて来た。どこで攻撃すればいいのかなんて、今でも悩む。

 代海ちゃんの抱える“弱点”は、そんなわたしのささやかな悩みと似ていて、非なるもの。

 近いけど、真逆の考え方だ。

 

「要するに、君はちょっと防御に寄りすぎってこと。だから、君も謡と同じ。一度、自分の殻を破ってみたらどうかな。防御に入りがちなスタイルを変えるために、攻撃に寄せたデッキを使うとかさ」

「攻撃……」

「謡はすぐ人に頼りがちだから一人にしたけど、あなたは謡とは真逆っぽいし、なによりもあなたには、とても心強い友達がいるみたいだし」

「と、友達、ですか……」

「うん。だからあなたは、皆と一緒に、頑張って」

 

 わたしたちに目配せして、ウィンクする詠さん。

 うーん……なんだか、思ってた展開と違ったというか。

 わたし自身、まだまだ全然デュエマについて詳しくもなんともないのに、教える側になるだなんて無理難題、って感じなのだけど。

 

「こ、小鈴さん……」

 

 救いを求めるような、ちょっと潤んだ眼差しで、目を向ける代海ちゃん。

 ……友達が困ってるなら、助けを求めているのなら、放っておくわけにはいかないよね。

 

「うん。一緒にがんばろう、代海ちゃん」

「やれやれ。小鈴はお人好しだな。物好きとも言うべきか」

「……まあ、だからこそ……こすず、だと、思う……けど」

「Ja! そうですね! ユーちゃんもお手伝いします!」

「み、みなさん……あ、ありがとう、ございます……っ」

 

 ぺこりと頭を下げる代海ちゃん。

 強くなりたいって気持ちは、わたしもわかる。

 デッキを改造したい、新しいデッキを作ろうと思っても、一人じゃどうにもならなかったこともある。

 わたしの時は、霜ちゃんやみのりちゃんが助けてくれた。

 だから今度は、わたしが……って言いたいけど、わたし一人じゃ力不足だから、みんなで。

 代海ちゃんのために、力を添えよう。

 

「それじゃあ、私の役目はとりあえずここまでかな。ここからは個人作業になるし。またなにかあったら呼んでね。仕事がなければ、対応するよ」

「は、はいっ。あ、あの、ありがとう、ございました……!」

「礼には及ばないよ。むしろ、お礼を言うべきはこちらだったね。すっかり言うタイミングを見失っていたけれど、ありがとう」

「え?」

 

 ……あぁ。そういえば、林間学校の最終日。

 わたしは、台風の元凶たるクリーチャーを倒すために鳥さんと飛び立ったから、その場にはいなかったんだけど、残された謡さんたちは、代海ちゃんの『代用ウミガメ』としての力で、難を逃れたんだっけ。

 

「君は、謡やスキンブルを助けてくれた恩人だから。これも、その恩返しってことで。恩を返すには、全然足りてなさそうだけど」

 

 去り際に、ウィンクしながら微笑む詠さん。

 なんだか格好良く立ち去って行ったけれど、取り残されたわたしたちはその空気に、ポカンとするしかなかった。

 当人の代海ちゃんでさえも。

 

「……なんだかよくわからなかったが、気を取り直そうか」

「そ、そうだね」

「彼女の新しいデッキを組む。ただし、従来までの防御寄りのデッキとはコンセプトを変えて、攻撃を重視したデッキにするわけだが、残念なことに適役がいる」

「残念な、ことに……?」

「あぁ。ボクらの中で攻撃重視のデッキと言えば、実子だからな」

「それが残念ってどういう意味さ。っていうか、デッキが攻撃的だって言うなら、小鈴ちゃんだってそうじゃない?」

「いや、君はほぼノーガードで一気に殴りに行くからな。それに、小鈴はかなり溜めるようになったけど、君は思考も前のめりだ。実際にどうなるかはさておき、攻撃に寄せようとするなら、感覚としてそのくらい思い切った方がいい」

「そんな人を脳筋みたいに。失礼しちゃうなー」

「でも、実子さんはユーちゃんにも教えてくれてますし、テキニンだと思います!」

「やーだよ面倒くさい。この人にそんなことする義理もないし」

「あぅ……そ、そうです、よね……」

「はいそうです。というわけで、他をあたってくださーい。私は横で見てるから」

 

 な、なんだか、のっけから空気が不穏だよ……

 みのりちゃんは、代海ちゃんの特訓には、あまり乗り気じゃないみたい。

 でも、代海ちゃんが助けを求めているのを放ってもおけないし……ど、どうしよう……

 

「小鈴、君の出番だ」

「えっ? わたし?」

「あぁ。実子の顔を見て、こう言えば……」

「……それだけでいいの?」

「あいつはチョロいから大丈夫だよ」

 

 霜ちゃんはわたしに耳打ちする。

 みのりちゃんは今にも帰りたそうにしてるけど、そんなことで、本当に動いてくれるのかなぁ?

 半信半疑ながらも、霜ちゃんに言われた通り、みのりちゃんに向き直る。

 わたしとみのりちゃんじゃ、身長差が10cm以上あるから、自然と見上げる形になる。

 ……わかってることだけど、やっぱりみのりちゃんは大きいなぁ。いや、わたしの背が低いだけなんだけど……

 それはさておき。

 ともかく、わたしはまっすぐにみのりちゃんを見つめて、霜ちゃんに言われた通りに、お願いする。

 

「みのりちゃん、そんなことイジワルなこと言わないで……ね?」

「むぐ……うぐぐぐぐ」

「……効いてるし……雑魚……」

「小鈴、もう少しだ。畳み掛けろ」

「畳み掛けるって、なにをっ!?」

 

 ただお願いしてるだけだよ?

 けど、みのりちゃんは揺らいでるみたいだし、もっとお願いすればいいのかな?

 

「わ、わたしも一緒にがんばるからさ。みんなで一緒に、代海ちゃんを助けてあげよ?」

「う、うーん……」

「小鈴、違うよ。もっと自分を売り込むんだ」

 

 えー……?

 ここでわたしはあんまり関係ないんじゃないかなぁ?

 けど、霜ちゃんがそう言うなら……

 

「お、お願いみのりちゃん。わたしは、代海ちゃんを手伝ってあげたからさ……そ、その。わたしを、助けると思って……」

 

 ちょっとずるい言い方だったかなぁ。

 内心でみのりちゃんに申し訳なく思いながらも、みのりちゃんの表情を窺うと、

 

「……しゃーないなぁ」

 

 不承不承ながらも、承諾してくれた。

 ……いや、なんだか、顔がいやらしくにやけてる……ちょっと怖い。

 

「まあ、小鈴ちゃんがそこまでお願いするなら? 私も協力することもやぶさかではないけどね?」

「単純なのに面倒くさい奴だな、君は」

「あ、ありがとうございます……っ」

「あくまでも、私は君のためじゃなくて小鈴ちゃんのためにやるんだからね。そこは履き違えないで欲しいな」

「……マジ……面倒くさい……」

「でもでも! 実子さんがいてくれてよかったです! これでヒャクニンリキ、ですね!」

 

 みのりちゃんの説得にも成功して。

 そんなこんな、なんやかんや。

 代海ちゃんのデッキ改造、あるいはデッキ構築が、始まりました。

 

「じゃ、早速デッキを組んでみようか。先輩の例にならって、あのキラキラしたカメは禁止ね」

「まあ、あれは、スペックはともかくコストの重さ的に、あまりビートダウン向きなカードでもないしね」

「は、はい……」

 

 まず最初に打ち出した方針。

 それは、謡さんが切り札の《ダンガンオー》を手放したように。

 代海ちゃんも同じく、《ワンダー・タートル》を抜いたデッキにするというものだった。

 《大迷宮亀 ワンダー・タートル》。これまで代海ちゃんがデュエマする時は、必ずと言っていいほど使われた、代海ちゃんのデッキの中核に位置する切り札。

 それを、代海ちゃんはジッと、どこか名残惜しそうに、眺めていた。

 けれどそれは悔いでも、悲しみでもなくて。

 その眼はとても真剣で、意を決するような、覚悟に満ちていた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 アタシは、迷宮から抜けなくちゃならない。自分自身の弱さという、果てのない迷路から。迷いを断ち切って、前に進んで、脱出しないといけない。

 胸の中に蟠る。ずっと、ずっと、アタシはあの時のことが忘れられない。

 この傷が、この痛みが、彼女との戦いを刻みこんでいる。あの時の恐怖も、後悔も、絶望も、なにもかも。

 アタシがこんなことを思う理由は、やはり、彼女にある。彼女と交わした言葉。そして、彼女の爪痕。あれが、きっかけだったように思う。

 けれど、それは復讐心とか、憎悪とかではない。三月ウサギさんが悪だなんて言う資格は、アタシにはない。アタシが信じたいものを貫けなかったのは、全部、アタシが弱かったから

 今までは、それでもなんとかなった。帽子屋さんに助けられて、【不思議の国の住人】のみなさんに守られて……辛くても、生きて来れた。

 でも、それだけじゃいけないって、思えるようになった。

 守られてばかりで、自分自身が崩れないように、他人に縋ってでも 自分を保とうとして、それのことに精一杯のアタシが、初めて誰かに目を向けられた。

 ……小鈴さん。あなたが、いてくれたから、アタシは、この迷路を抜けようと思う決意ができた。

 どうせ抜けられないと放棄することなく。迷うことの居心地良さに甘えることもなく。苦しさも辛さも受け止めて、永遠のため、迷うために進むのではなく、抜け出すため、新しい景色を見るために進む、勇気を貰えた。

 なにもできないし、なにもしない。そんな情けない自分は、もうおしまい。

 失敗しても、弱くても、情けなくても、前に進む。進みたいと、思う。

 行き先もわからない迷宮の出口を探して、邁進できる。

 《ワンダー・タートル》……アタシの、相棒のようなカード。

 代わりを作る、代わりのいない、代用の亀。『代用ウミガメ』のアタシと、似て非なる、けれどやっぱり近しいようなクリーチャー。

 今までずっと、アタシのことを守ってくれて、一緒に戦ってくれた、かけがえのない仲間だけど。

 この大きな力に、ずっと縋って生きる。それが正しい道筋なのかどうか。ここで手放すことが、正解の順路なのか、それさえも、アタシにはわからないけれど。

 そう、だからこれは、意識と、決意と、覚悟の問題だ。

 目の前にあるのは、二つの分かれ道。アタシはずっと、《ワンダー・タートル》と共にある道を選んできたし、それ以外を選ぶことはできなかった。

 けれど今は、違う選択肢を選べるチャンスだ。今まで進まなかった、もう一つの道に進む機会だ。

 この道が正解かどうかなんてわからないけれど。

 きっと、ここで進む道には、大きな意味がある。

 代わり映えのない、代替可能な『代用ウミガメ』。そんな、代用品の自分を変えるため。

 今までと違う道に進むために。

 そして、強くなって、この迷宮から抜け出す。

 

 

 

(それまでは、少しお別れです……アタシの相棒(ワンダー・タートル))

 

 

 

 これが正解に至るための道だと信じて。

 ここでアタシは、道を変えます。

 

 

 

(迷宮を抜けたその先で……また、会いましょう)

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「で? なに使いたい? 流石に使いたいカードくらいは選ばせてあげるよ」

「その……光文明を……で、できれば、メタリカで……」

「……はぁ」

 

 代海ちゃんの言葉に、みのりちゃんは露骨に溜息をついた。

 

「君さぁ、殻を破るんじゃなかったのかなー? それじゃあ元のデッキとそんな変わんないでしょーが」

「あうぅ、そ、そうですけど……い、いきなり、まったく違うデッキは、そ、その、自身がない、と、いいますか……」

「頼りの切り札を抜いてデッキ組むってのに、本人の意志薄弱過ぎないかな? まるで前傾姿勢になってないよ」

「ま、まあまあ、みのりちゃん」

「メタリカもラビリンスがあるから、前のめりに殴る構築も不可能じゃないよ。白単速攻とか、トリガービートとか、白くても殴るデッキは普通にある」

「いやでもさ。ぶっちゃけラビリンスって弱いじゃん」

「はぅっ!」

「実子さん! そんなこと言っちゃダメですよっ!」

「いやいや、まがりなりにも強くなりたいって思うなら、現実を見ようよ。理想だけで強くなれるわけないじゃん。ラビリンスなんてホーリー・フィールドの下位互換みたいなもんだし、そもそも条件の厳しさのわりに能力がてんで弱い。大したプレッシャーにもならないよ」

 

 みのりちゃんの言葉が発せられるたびに、打ちのめされていく代海ちゃん。

 グサッ、グサッと、なにかに刺される音が聞こえてきそうだった。

 

「言ってることはもっともだが、これはダメだな。実子は致命的にティーチングに向いていない。ユーはなんで、こんなのから教えを乞うて理解できたんだ?」

「こんなのとはなにさ」

「実子さん。ユーちゃんにはフツウに教えてくれましたよ? デッキも見せてくれて、どんな風に使うのか、優しく教えてくれました!」

「……みのりちゃん?」

「私にだっては人は選ぶし、その権利くらいはあるじゃない? それにほら、ユーリアさんはなんか、純粋すぎて茶化しても皮肉っても笑顔なんだもん。私も意味のない罵倒を繰り返すほど馬鹿じゃないよ」

「自身の悪意を容認してる時点でクズだけどね。反吐が出るほどに」

「けっ、善人ぶっちゃって。私としても君のそーゆーとこ、ウザいよ」

「二人とも実は仲悪い!?」

『別にそんなことはないよ』

「……仲いいのか、悪いのか……わからない……」

「ケンカはダメですよ! 代海さん、困ってます!」

 

 代海ちゃんの方を見ると、剣呑な空気を発する二人に戸惑っているようだった。

 うーん、みのりちゃんも霜ちゃんも、二人ともわりといつもこんな感じだけど、今日はなんだか一段と険悪だ。

 

「すまない、脱線しすぎた。それで、君のデッキについてだが……とりあえずメタリカから見てみよう。そこから発展して、別の形になることもある」

「使いたいカードを決めて、最後にそのカードが抜けたらデッキが完成、ってやつだね」

「な、なんですか、それって……」

「実子の言ってることは無視するとして、攻撃的、つまりはビートダウン向けなメタリカだね。ちょっと調べてみようか」

 

 そう言って霜ちゃんは携帯を取り出して、画面を操作する。

 わたしはインターネットにはそんなに強くないからピンと来ないけど、最近は手軽に調べ物ができて便利だって、お母さんがよく口にしているのを思い出した。

 デュエマのカードも、ネット上のサイトを通じて、簡単に調べられるみたい。

 

「ふむ。ラビリンスで打点が上がる《岩砕》、呪文が封じられる《オーリリア》、シンパシーで早出しできる《マルハヴァン》……このあたりか?」

「ほらやっぱり微妙じゃん。パッとしないんだよ」

「とりあえず実子は黙っててくれ。白いデッキなら、恋が得意じゃないのか?」

「私……ビートダウン、苦手……でも、メタリカなら、サザン、とか……?」

「無難だね。《マルハヴァン》とも合わせやすいし、普通に強いデッキだ」

「でもサザンって、そんなに攻撃的かなぁ?」

「……微妙だな」

 

 曰く、サザンというデッキは、相手の動きを抑え込みながら攻撃するデッキらしくて、攻める時は攻めるけど、動かない時はとんと動かないこともあるらしい。

 

「あれはビートダウンというよりも、単にメタカードを大量に突っ込んだ結果、中速程度のスピードで殴れるというだけだからね。本質はメタデッキだ」

「相手によっちゃぁ、ガッチガチに動き固めて来るからねー」

「あぁ。それに今の環境だと、シールドブレイクのリスクが高い。下手な攻撃は愚策だ」

「殴り方なんて相手をボコボコにしてるうちに覚えるし、とりあえず殴ってみればよくね? って思うけどなー」

「ヤンキーか君は。いくらなんでも考え方が野蛮すぎるだろ。思考放棄した試行の価値は一気に下がる。まずは考えてから実行に移すべきだ」

「考えてばっかで時間を無駄に浪費して、挙句の果てには好機を逃すよりかはマシじゃない? スピードは大事だよ? とりあえず結果を出してから考えても遅くないって」

「け、ケンカはダメですよっ。お二人とも! 代海さんのデッキを組みましょう!」

『喧嘩じゃないから』

「……面倒くさい、こいつら」

 

 うーん……霜ちゃんとみのりちゃんが揉め始めてしまいました。

 正直なところ、わたしにもこの二人の関係がよくわかりません。仲良さそうにデュエマしてる時もあれば、今みたいに火花を散らすこともあるし……今日はいつもよりも過激に見えるけど。

 なんにせよ、ユーちゃんの言う通り。今は代海ちゃんのデッキの方が大事だ。

 攻撃的なデッキかぁ。

 わたしのデッキは、呪文を併用しつつクリーチャーも並べて、最後に《グレンモルト》からの連続攻撃で龍解を目指す、というデッキで、攻撃的と言えば攻撃的だけど、《グレンモルト》が出る準備が整うまではあまり攻撃はしない。

 霜ちゃんもギリギリまで攻撃しないデッキは少なくないし、恋ちゃんは攻撃こそするけど、シールドを増やしたりトリガーを使ったりと、防御に寄りがち。

 特に攻撃的なのは、確かにみのりちゃんや、あるいはユーちゃんだ。

 ユーちゃんはみのりちゃんにデッキ作りのレクチャーをしてもらったって言ってたし、たぶんみのりちゃんの影響を受けている。

 そして当のみのりちゃんのデッキは、侵略や革命チェンジを中心としたデッキ。《ギョギョラス》の侵略と、革命チェンジを合わせて、かなり前のめりに、派手に、大きく動くデッキだ。

 ユーちゃんもみのりちゃんにならってなのか、最近はよく侵略や革命チェンジを使っているところを見る。林間学校では、速攻デッキも使ってた。

 そんな風に、色々と思い返している中で、ふと思った。

 

「……みのりちゃんやユーちゃんが攻撃するのって、侵略や革命チェンジがあるから、だよね」

「Ja! そうですね!」

「攻撃する時に発動する能力だからね。そりゃ当然だよ」

「ふむ。つまり小鈴は、デッキの中に攻撃する意義を強く持たせよう、と言いたいのか」

「そ、そんな大層なものじゃないよ。ただ、みのりちゃんやユーちゃんと同じように、代海ちゃんのデッキにも、侵略や革命チェンジを入れたら、攻撃的になるんじゃないかな、って」

 

 安直な考えだとは思うけど、攻撃する時に発動する能力があるのなら、それを軸にすれば、自然の攻撃する方向にデッキが組み上がるんじゃないかなー……と、思ったというか。

 

「理屈は通っているね。曖昧な方向性を定めるなら、その方向性に合致する能力、カードをあてがうというのは道理だ」

「でもメタリカでしょ? キツくない? 侵略はコマンド指定、革命チェンジはドラゴン指定がほとんどだし」

「いやしかし、確か前に恋が、侵略入りのメタリカデッキを組んでなかったか? ほら、林間学校の時」

「……あぁ。でも……あれ、白赤ビートダウン……メタリカ、と、言われると……微妙」

「それでも、そこそこメタリカが入ってただろう。侵略はコスト指定もあるから、打点はそこで補えそうだ」

「打点ねぇ。まあ、侵略と革命チェンジは打点増強の手段でもあるしねぇ。新種族にはドラゴンギルドもあるし、革命チェンジもワンチャンあるのかな?」

「代海さん! どうですか?」

「え、えぇっと……」

 

 ユーちゃんの勢いのいい食いつきに、たじろぐ代海ちゃん。

 侵略、革命チェンジ。

 それを用いたデッキ構築。代海ちゃんが、その中で見つけ出したものは……

 

「ひ、ひとつ、思いついた、というか……このカードは……ど、どうでしょう……?」

 

 そう言って代海ちゃんは、霜ちゃんとみのりちゃんに、一枚のカードを指し示す。

 

「実子、これは……」

「あぁー、そう来た? 水早君、ちょっち手伝って。こういう脳みそ使う感じの得意でしょ?」

「得意ってほどじゃ……それにこれ、ボクの出る幕あるか? 君一人でもどうにかなるだろうに」

「とりあえずだよ。君の価値はその頭にあると思うんだよね。それにほら、自分のためならともかく、人のために考えるのって苦手でさ、私」

「やれやれ。これだから利己的な脳筋の女は。結果ばかりで過程を無視するから、多様性を見落とすんだよ、君」

「さっすが、理屈こねくりまわすだけの頭硬いモヤシは言うことが違うね。パズルやってる人生は楽しい?」

「あ、あの……みのりちゃん? 霜ちゃん? や、やっぱり、二人って……」

『別になにもないから安心していいよ』

「なんなの……こいつら……」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――《キラー・ザ・キル》に進化(エヴォルツィオン)! 攻撃(アングリフ)する時に、革命チェンジ! 《キル・ザ・ボロフ》です! 《勝利のリュウセイ・カイザー》と《白骨の守護者ホネンビー》を破壊します! Wブレイク」

「い、一気に減らされちゃったなぁ。トリガーは……うぅ、ないや」

 

 それから数日くらい経った。

 あれ以来、謡さんの姿は見てないし、代海ちゃんは霜ちゃんとみのりちゃんと一緒にデッキを組むことが多くなった。

 ……まあ、みのりちゃんはたまにこっちに来ては、霜ちゃんに連れ戻されたしてるけどね。

 それと、謡さん。詠さんがちょくちょく代海ちゃんの様子を見てはいるみたいだけど、謡さんは完全に一人。けど、何回か詠さんと対戦して、デッキの動きを確認してるという話を、詠さんが教えてくれた。

 なんだか、とても変な感じだ。

 同じ場所にいるのに、別々のことをしている。

 別の場所にいるのに、同じことをしている。

 わたしは、代海ちゃんのデッキについて口出しできるほどの知識も力もないから、今はまだ待っているだけ。それがちょっともどかしい。

 だからこうして、ワンダーランドでユーちゃんや恋ちゃんといつものようにデュエマして、時間を潰しているんだけど。

 こっちはいつも通り。あっちはいつもと違う。

 うーん、やっぱり変な感じするなぁ。

 バラバラになってしまった、なんて思わないけれど。

 いつもとちょっと違うと言うだけで、なんだか、むずむずする。

 

「もう一度《キラー・ザ・キル》に進化(エヴォルツィオン)です! Tブレイク! それから、《キル・ザ・ボロフ》でダイレクトアタックです!」

「え? わ、トリガーもない……負けちゃったなぁ」

「やりました! 小鈴さんに勝ちましたよ! 次は恋さんです!」

「…………」

「うにゅ? 恋さん?」

「恋ちゃん? どうしたの?」

「ん……いや、なんでも……」

 

 のっそりと反応する恋ちゃん。

 なんだか、いつもの恋ちゃんらしくない。

 いつも虚空を見つめているかのような無表情さだけど、恋ちゃんは反応はわりと早い。虚ろでいるようで、実際はそんなことはない。ぼぅっとしているように見えるのは、ただ表情が出ないだけだ。

 だから、今みたいに本当に意識が飛んでいるのは、わりと珍しいんだけど……

 

「気分でも悪いの?」

「そういう、わけじゃ……胸くそは、悪い、かも……だけど」

「ムナクソ?」

「恋ちゃん、あんまり汚い言葉使うのはよくないよ……でも、なにかあったの?」

「……猫」

「猫?」

「学校、行く途中……猫、死んでた……から……ひどいグロ画像……テンション、だだ下がり……」

 

 あぁ、それは確かに、気分も悪くなるかもね。

 あれ? そういえばわたしも、最近似たようなことがあったような……

 

「ユーちゃんも昨日、(フント)が死んじゃってるのを見ました。かわいそうでした……」

「わたしも、何日か前に見たなぁ。なんか、不吉だね……」

 

 黒猫が目の前を通り過ぎると、不幸の前触れと言うけれど。

 純粋に“死”という現象を見せつけられると、やっぱり、なにか嫌な気分になってしまう。

 そんな話題になってしまったものだから、空気が重くなる。恋ちゃんは相変わらず無表情だけど、言葉を発しないし、ユーちゃんもしょんぼりしちゃってる。

 重苦しく、暗鬱な空気。その中でわたしたちが暗くなっていると、直後、その暗雲を吹き飛ばすかのような、快活な声がお店の中に轟いた。

 

「姉ちゃん姉ちゃん! やっとデッキ完成したよ! 見て見て!」

「ちょっと謡! 他にお客さんがいるんだから、もっと静かに!」

 

 謡さんだ。

 数日ぶりに見たけど、とても元気だった。元気すぎて、詠さんに窘められるほどに。

 

「先輩のデッキ、完成したんだね」

「あ、霜ちゃん」

「こっちも今しがた形になったとこだよ。あーダルかった」

 

 霜ちゃんとみのりちゃん、そして代海ちゃんが戻ってきた。

 三人も、デッキが完成したみたい。

 

「お? シロちゃんもデッキ組んでたんだ?」

「は、はい……」

「ならちょっと付き合ってよ。お互い、デッキの出来を試したいじゃない?」

「対戦するのは構わないけど、他のお客さんに迷惑がかからないようにね……」

「オッケー。で、シロちゃん? どうする? やる?」

「……は、はい……や、やります……っ」

「よーしよし。妹ちゃんたちも見てて! 私の新しいデッキのお披露目だよ!」

「ひゃぅっ、あ、あの……っ、引っ張らないでくださいぃ……!」

 

 そう言って謡さんは、代海ちゃんを引っ張って対戦スペースに立った。

 有無を言わさぬ勢い。とても興奮しているようだった。

 

「私としちゃ、別に先輩のデッキとかどーでもいんだけど……」

「しかしさっきまで組んでいたデッキの初お披露目でもある。どう動くのか、見ておかなくていいのか?」

「別にぃー? 小鈴ちゃんに上目遣いでお願いされたから仕方なくやっただけで、亀船さんのデッキには微塵も興味ないよ」

「実子さん、そんな悲しいこと言わないでくださいよ。みんなで見ましょう、代海さんのデュエマ!」

「そうだよみのりちゃん。みんなで一緒に、ね?」

「はぁ……ま、小鈴ちゃんがそう言うなら、暇潰しくらいには見てもいいかなー」

「何様……」

「君は本当、面倒くさいわりにチョロいな」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 なんてことをやってる間に始まっていた、謡さんと代海ちゃんの対戦。

 見れば代海ちゃんの超次元ゾーンには、八枚のカードが見えた。

 

 

 

[代海:超次元ゾーン]

《勝利のガイアール・カイザー》

《勝利のリュウセイ・カイザー》

《勝利のプリンプリン》

《激天下!シャチホコ・カイザー》

《時空の不滅ギャラクシー》

《時空の雷龍チャクラ》

《時空の英雄アンタッチャブル》

《時空の喧嘩屋キル》

 

 

 

 うーん……見知ったカードが半分、あんまり知らないカードが半分、って感じかな?

 全体的に光文明のカードが多め、かな? わたしの知識じゃ、この超次元ゾーンでなにをするのか、よくわからない。

 

「私の先攻! 《バイナラドア》をチャージして、1マナで《ジョジョジョ・ジョーカーズ》! 《ヤッタレマン》を手札に加えて、ターンエンド!」

「い、いきなり順調、ですね……《アクロパッド》をチャージして、ターン終了です……」

 

 

 

 

ターン1

 

場:なし

盾:5

マナ:1

手札:4

墓地:1

山札:29

 

 

代海

場:なし

盾:5

マナ:1

手札:5

墓地:0

山札:29

 

 

 

 

「《ヤッタレマン》を召喚! ターンエンド!」

「あ、アタシのターン……えっと……」

 

 1ターン目の《ジョジョジョ・ジョーカーズ》から、2ターン目の《ヤッタレマン》に繋ぐ流。

 王道過ぎるパターン。謡さんの動きは滞ることなく、順調なようだった。

 それにたじろぐ代海ちゃんは少し悩んでから、手札のカードを切る。

 

「こ、こっち……双極・召喚ツインパクト・サモン!」

「!」

「《奇石 ミクセル》を召喚、です……ターン終了」

 

 あ、あれって、この前も美人さんが使ってた、イラストが半分に切られてるカード……ツインパクト、とか言ってたっけ。

 クリーチャーになったり、呪文になったりする、不思議なカード。それを代海ちゃんは、クリーチャーとして召喚したみたい。

 

 

 

ターン2

 

場:《ヤッタレマン》

盾:5

マナ:2

手札:3

墓地:1

山札:28

 

 

代海

場:《ミクセル》

盾:5

マナ:2

手札:4

墓地:0

山札:28

 

 

 

「私のターン……《パーリ騎士》引けないし、コスト軽減じゃ大型にも繋げられないなら……こっちだ! 呪文で撃つよ《ガガン・ガン・ガガン》!」

 

 代海ちゃんに対抗するかのように、謡さんもツインパクト? のカードを使う。

 クリーチャーとして召喚した代海ちゃんと違って、こちらは呪文として。

 

「墓地のジョーカーズをマナに置くよ。できた1マナで《チョコっとハウス》を召喚! ターンエンド!」

「アタシの、ターン……《奇石 マクーロ》を召喚します。や、山札を捲って……《超次元シャイニー・ホール》を手札に……ターン終了、です」

 

 

 

ターン3

 

場:《ヤッタレマン》《チョコっとハウス》

盾:5

マナ:4

手札:1

墓地:1

山札:27

 

 

代海

場:《ミクセル》《マクーロ》

盾:5

マナ:3

手札:4

墓地:0

山札:26

 

 

 

「ん……いいカード引いた! 《ゼロの裏技ニヤリー・ゲット》! トップ三枚を捲るよ!」

「あぅ……」

 

 ジョーカーズの強力な手札補充、《ニヤリー・ゲット》。

 めくられたのは《ヘルコプ太》《パーリ騎士》《ニヤリー・ゲット》の三枚だ。

 

「この二枚を手札に加えて、《パーリ騎士》を召喚! マナに《ニヤリー・ゲット》を置いて、これで4マナ! 《ヘルコプ太》を召喚! ジョーカーズの数だけドローするよ!」

 

 謡さんの場のジョーカーズは《ヤッタレマン》《チョコっとハウス》《パーリ騎士》、そしてさっき召喚した《ヘルコプ太》の四体だから……

 

「四枚ドロー! ターンエンドだよ」

「四枚も……す、すごいね……」

「《ヤッタレマン》のコスト軽減と、強力なドローソース。展開力がそのまま《ヘルコプ太》のドローに直結し、そしてそのドローが新たな展開を生み出す。この凄まじいまでのシナジーが、ジョーカーズのウリだからね」

「今はまだ雑魚ばっかりだけど、フィニッシャーが出たら怖そうだねぇ」

 

 フィニッシャー……でも、謡さんは今回、《ダンガンオー》を使っていないはず。

 一体、なにが出て来るんだろう……?

 

「アタシのターン……こ、こちらも、行きますよ」

「お?」

「しろみ……動く、っぽい……」

「4マナで、《マクーロ》をNEO進化ですっ」

 

 謡さんの大量展開と大量ドローに対して、代海ちゃんは一体のクリーチャーを育て、繋げていく。

 絆を、紡ぐように。

 

 

 

「想い出しちゃいます――《記憶の紡ぎ 重音(かさね)》」

 

 

 

 あれが、代海ちゃんの新しい切り札……?

 《ワンダー・タートル》とはまったく印象が違う。コストもパワーも半分以下。Wブレイカーすら持っていないNEO進化クリーチャー。

 けど、あれはきっと、代海ちゃんが《ワンダー・タートル》の代わりとして選んだ切り札なんだ。

 小さくても、弱くても、それだけで終わるはずがない。

 

「《重音》で攻撃する時、革命チェンジを宣言……そ、それと、キズナプラスも発動、です。《重音》の下の《マクーロ》を墓地に置いて、キズナマークの能力を、つ、使いますね」

 

 キズナプラス……先生が使ってた能力だね。

 代海ちゃんの場には、他のキズナマークを持ったクリーチャーはいないから、能力が発動するのは《重音》だけ。けれどその代わりと言うように、革命チェンジも同時に発動している。

 その二つの能力が、同時に放たれた。

 

「ま、まずは、《重音》のキズナ能力で、一枚ドロー……そ、それから、手札のコスト5以下の呪文を……た、タダで唱えますっ。唱えるのは、《超次元シャイニー・ホール》……で、でも、その前に、革命チェンジで、《大聖堂 ベルファーレ》です……っ」

「げ、面倒くさいのが……」

「《シャイニー・ホール》の効果で、《ヘルコプ太》をタップ、です。そして超次元ゾーンからは……こ、これですっ。《時空の雷龍チャクラ》!」

 

 次々とカードが入れ替わり、立ち代わり、現れるのはサイキック・クリーチャー。

 キズナに、革命チェンジに、メタリカにドラゴン、呪文からサイキックと、入り組んだ迷路のように道筋を変えてカードを切っていく代海ちゃん。

 代海ちゃんは、これまでの相手を迷わせる受け身さではなく、自ら迷路を作り変えていく自在さで持って、謡さんへと攻めていく。

 

「これって、みのりちゃんの案?」

「ん? まーねー。最初に《重音》使いたいって言ってたからさ。《重音》はドラゴンギルド、だから革命チェンジとも合わせられるって寸法さ」

「革命チェンジすれば、打点上昇だけでなく、《重音》のキズナプラスも使い回せるしね。ただ、《重音》を使うなら呪文も組み合わせる必要があったんだが……そこは無難に超次元呪文だ。《チャクラ》とのシナジーは、単調だけど強烈だと思うよ」

 

 そっかぁ。

 口ではああ言いながらも、なんだかんだみのりちゃんは、ちゃんと代海ちゃんのために尽くしてくれてたんだ。

 

「……いや。実子をその気にさせるのは、かなり苦労したよ……カードも揃ってて、デッキ自体は発案10分で大枠のレシピが完成したのに、組み上がるのに三日もかかったんだから……」

「やる気が出ないもんは仕方ないよ」

 

 た、大変だったんだね、霜ちゃんたちも……

 それはともかくとして、代海ちゃんは呪文を放ちつつ、革命チェンジで斬り込んでいく。

 

「《ベルファーレ》の能力で、《ヤッタレマン》《チョコっとハウス》をフリーズ……Wブレイク、ですっ!」

「トリガーは……なしかぁ。ここで《チャクラ》処理しないとキツそうなんだけど……」

「い、一応、そっちも処理、しておきますね……《ミクセル》で《ヘルコプ太》を攻撃して、ターン終了、です」

 

 

 

ターン4

 

場:《ヤッタレマン》《チョコっとハウス》《パーリ騎士》

盾:3

マナ:6

手札:6

墓地:2

山札:20

 

 

代海

場:《ミクセル》《大聖堂 ベルファーレ》《チャクラ》

盾:5

マナ:4

手札:3

墓地:2

山札:24

 

 

 

「……まっずいなぁ。《チャクラ》って確かアレだよね。ラビリンスみたいな……」

「ホーリー・フィールドです……ラビリンスより、発動条件はやさしい、ですよ……?」

 

 代海ちゃんの場に立ったサイキック・クリーチャー、《チャクラ》。

 初めて見るクリーチャーだけど……ただのブロッカー、ってわけじゃないんだね。

 

「《チャクラ》は自分のターンの初めに、シールド枚数が相手以上なら覚醒する。覚醒すればパワー13500のTブレイカーだ。ブロッカーの攻撃制限も解除したりするけど、それ以前に純粋に打点が高い」

「除去耐性も、強い……覚醒、したら、なかなか、はなれない……」

「だから先輩としては亀船さんのシールドを削りたいだろうけど、クリーチャーを寝かされちゃったからねぇ」

 

 自分のシールド以上ってことは、ラビリンスよりも少し、発動条件が緩いんだ。

 そして、その状態でターンを渡してしまったら、大型クリーチャーへと覚醒する。確かにそれは食い止めたいけど、謡さんのクリーチャーはフリーズさせられてしまって、無理やり攻撃するにも厳しい状況。

 それはまるで、迷宮の壁が迫ってきているみたいだった。

 

「《チャクラ》が邪魔すぎる……こんな時、《ダンガンオー》があれば……」

 

 不意に、ボソッと呟く謡さん。

 けれどすぐにハッとして、ブンブンと頭を横に振った。

 

(いやいや。そうじゃないだろ私。《ダンガンオー》ばかりに依存しないって決めたんだ。なにかに頼るな。今この時、自分の力で、どうすれば勝てるのかを考えろ。それが、私が強くなるために必要なことでしょ)

 

 ……謡さんは、変わろうとしている。前に、進もうとしている。

 真剣な眼差しで手札を、場を見つめて、必死で考えを巡らせている。

 自分の力で、戦っているんだ。

 

「……とりあえず、これで決めよう。1マナで《ジョジョジョ・ジョーカーズ》! 四枚見るよ」

 

 手札に打開策がなかったのか、謡さんはさらに山札からカードを引っ張ってくる選択を取った。

 四枚のカードを見て、その中の一枚を抜き取る。

 

「よし来た、これだ! 《ガンバトラーG7(グレイトセブン)》!」

「そ、そのクリーチャーは……」

「流石に知ってるか。まあ、知っててもこうなったら止まらないけどね! 2マナで《パーリ騎士》! 墓地の《ヘルコプ太》をマナに!」

 

 序盤から今に至るまで、止まることなくクリーチャーを並べ続けてきた謡さん。

 謡さんは、これまでは、まっすぐに、速く、大きく、そして強い力を叩きつけるスタイルだったけど。

 

「これで私の場にジョーカーズが四体だよ。よってマナコストマイナス5! 《ヤッタレマン》でさらにマイナスして、6コスト軽減! 1マナタップ!」

 

 今回の謡さんは、一味違った。今までほど、単純ではなかった。

 たくさん並べて、仲間を募って。

 追い風を吹かせて――解き放つ。

 

 

 

「一斉掃射だ――《ガンバトラーG7》!」

 

 

 

 現れたのは、銃器をロボットにしたみたいな、ジョーカーズ。

 これが、謡さんの新しい切り札なの……?

 

「《ガンバトラーG7》の能力で、既に場にいた《パーリ騎士》のパワーを7000引き上げるよ。さらに1マナで《チョコっとハウス》を召喚。これで、私の場にジョーカーズが六体! またまた1マナで――」

 

 切り札を出してもなお、謡さんの展開は止まらなかった。

 止まることなく、絶えず撃ち続ける弾丸のように、さらにクリーチャーを並べていく。

 

 

 

「第二波、一斉射――《ジョット・ガン・ジョラゴン Joe》!」

 

 

 現れたのは、落書きのような姿をしたクリーチャー? ドラゴン、っぽいけど……

 前にも帽子屋さんが、似たような落書きみたいなカードを使ってたような……《ジョリー・ザ・ジョニー Joe》、だっけ。

 そのカードと、よく似ている。不思議なカードだ。

 それにコストが9もある。でも、1コストで出たってことは、このクリーチャーも、さっきのクリーチャーみたいに、自力でマナコストを軽減できるクリーチャーなのかな。

 

「あぅ……で、ですが、《ミクセル》の能力で、山札の下に……っ」

「その前にこっちの能力だよ! トップ二枚を捲って、そのコストの合計以下の相手クリーチャーをボトムに送還する!」

 

 言って謡さんは、山札の上から二枚を表向きにした。

 

「捲れたのは《ジョジョジョ・ジョーカーズ》と《ヘルコプ太》! ギリギリ足りないけど、まあいいか。合計コストは6だから、《ミクセル》をボトムに送還!」

「あ、危なかったです……」

「これでやることは大体済んだけど、一応、これも使っておこうかな。1マナで《ジョジョジョ・ジョーカーズ》! 四枚捲って……これでいいか。《ガンバ(グレイト)》を手札に」

 

 できることはすべて終えた謡さん。

 大量展開に、大型クリーチャーも並び、一気に反撃に出る構えだ。

 だからあとは、攻めるだけ。

 

「殴る! 《パーリ騎士》で《ベルファーレ》を攻撃! 《ガンバトラーG7》でパンプアップしてるから、こっちのパワーは9000!」

「《ベルファーレ》のパワーは8500……うぅ、ギ、ギリギリで、やられちゃうなんて……」

「さらに、《ガンバトラーG7》の能力で、私のジョーカーズはすべて、召喚酔いを無視してプレイヤーを攻撃できる! 《ガンバトラーG7》で攻撃――する時に!」

 

 召喚酔いを無視してプレイヤーを攻撃できる!?

 な、なんだかすごく強い能力だよ……だからあんなにいっぱいクリーチャーを並べていたのかな。

 ブロッカーはいるけど、この数のクリーチャーを相手にすれば、代海ちゃんでも防ぎきれない。

 それに、謡さんはあらゆる手を尽くして、代海ちゃんを攻めたてる。

 

「アタック・チャンス! 《破戒秘伝ナッシング・ゼロ》!」

「あ、あうぅ……」

 

 めくられたのは《バイナラドア》《ジョット・ガン・ジョラゴン》《ガンバトラーG7》の三枚。

 すべて、無色カードだ。

 

「ヒット! これで《ガンバトラーG7》は、シールドを五枚ブレイクできるよ!」

「そ、それは、受けられません……《チャクラ》でブロック、ですっ」

 

 シールドをすべて砕かれてしまう。それだけは避けたい。

 代海ちゃんは《チャクラ》を犠牲に、その攻撃を止める選択をした。

 

「残りはどうしようかな。殴ってもいいけど、殴り切れないし。んー……じゃあ、ターンエンドで」

 

 代海ちゃんが切り札を捨ててまで防御に徹したため、謡さんに残されたクリーチャーでは、このターンにダイレクトアタックまで通すことはできない。

 

「実子。今のどう思う?」

「私ならぶん殴るね。先にトリガー処理したいし。というか《ナッシング・ゼロ》をあんなタイミングで撃たない」

「だよね。盤面処理の心理が働いてしまったか。あの先輩、一撃に賭ける時は思い切りがいいのに、選択肢が広がったら半歩下がりがちだね」

「し、辛辣だね、二人とも……」

「ボクは思ったことを言ったまでさ」

「うみゅ。ユーちゃんは、トリガーが怖いから、攻撃したくないかもです……代海さん、最後によくトリガーで逆転しますし」

 

 ユーちゃんの言う通り、代海ちゃんと対戦する時に怖いのはS・トリガーだ。

 わたしも代海ちゃんとの対戦では、よくトリガーで逆転されちゃってる。

 

「そんなのは、ただの、ジンクス……それに、あのデッキで、警戒するトリガーは……あんまり、ない……」

「《ノヴァルティ・アメイズ》もなさそうだしね。スパーク呪文があるなら、むしろ先に処理したいだろうし」

「先輩も頑張ってるけど、まだまだだねぇ」

「まあしかし、先輩が多少ミスをしても、戦況的には先輩の方が有利なことに変わりはない」

 

 確かに、霜ちゃんの言う通りだ。

 クリーチャーはゼロで、大量のクリーチャーに取り囲まれている代海ちゃんは、次のターンにはとどめを刺されてしまう状態だ。

 

「あ、アタシのターン……できることが、ぜ、全然、ありません……と、とりあえず、《一撃奪取 アクロアイト》と《天雷の導士アヴァラルド公》を、召喚……《アヴァラルド》の、能力、で、山札を三枚、め、めくり、ます……」

 

 ここでめくられたのは《超次元エナジー・ホール》《奇石 ミクセル/ジャミング・チャフ》《光牙忍ハヤブサマル》の三枚だった。

 

「あぅ、シノビが……《エナジー・ホール》と、《ミクセル》……もとい、《ジャミング・チャフ》を、て、手札に加えて……ターン終了、です……」

 

 このターン、代海ちゃんは大したことはできなかった。

 向けられた銃口を払い除けることも、攻めに転じることもできず、ターンを謡さんに渡してしまう。

 

 

 

ターン5

 

場:《チョコっとハウス》×2《パーリ騎士》×2《ヤッタレマン》

盾:3

マナ:8

手札:3

墓地:4

山札:17

 

 

代海

場:《アクロアイト》《アヴァラルド》

盾:5

マナ:5

手札:3

墓地:3

山札:22

 

 

 

「私のターン。なんか後輩たちに小言を言われちゃったけど、流石にここでひよったりはしないよ。全力で殴って、決めに行こうか!」

 

 わたしたちの発言はしっかりと聞こえていたみたいです。

 ……え、えっと、なんにしても、さっきは少し待った謡さんは、ここでいよいよ、とどめを刺しに行く。

 照準を合わせ、グリップを強く握り、撃鉄を落とし、引き金に指をかける。

 けれど、すぐにはその引き金を引かなかった。

 

「二体目だ! 《ジョット・ガン・ジョラゴン Joe》! 捲るカードは、さっき固定したこの二枚!」

 

 攻撃の前に、しっかりとクリーチャーを並べていく。それも、切り札級の大型クリーチャーを。

 ここでめくられたのは《バイナラドア》と《ガンバトラーG7》。その合計コストは15。

 

「なにが出てもいいようにって大きいのを残しといたけど、あんまり意味なかったかも。《アクロアイト》と《アヴァラルド》をボトムに飛ばすよ!」

「はうぅ、また、クリーチャーが……」

「さらに! 1マナで《ガンバトラーG7》! 4マナで《ヘルコプ太》! ジョーカーズが九体だから、九枚ドロー!」

 

 き、九枚!? 流石に引きすぎなんじゃ……

 そう思っているのはわたしだけじゃなくて、霜ちゃんやみのりちゃんを見ても、少し訝しげな面持ちをしていた。

 けれどそんなことは関係なく、展開もドローもやめない謡さん。

 謡さん、なんでこんなにドローしてるんだろう……

 

「……ここまで掘り進んでも来ないのか。じゃあもう盾かな……まあいっか。なくてもなんとかなるだろうし、これ以上並べてもあんま意味なさそうだから、もう殴りに行くよ!」

 

 そこで、ドローをやめて、謡さんは攻めに出る。

 前のターンは《チャクラ》を退かすためだけの、踏み切らなかった攻勢だったけど。

 今度は、とどめを刺しに行くための、勝ちに行くための攻めだ。

 

「《ジョット・ガン・ジョラゴン Joe》でTブレイク!」

「と、トリガーは……あ、ありません……」

「よしよし。じゃあ次、《ガンバトラーG7》でWブレイク!」

 

 これまでのような一撃必殺の弾丸ではなく、大量の銃弾を乱射するように攻撃する謡さん。

 最初に大きな二発がシールドを打ち砕く。けれど、後ろにはまだ、大量の弾丸(ジョーカーズ)が残っている。

 ちょっとやそっとのトリガーじゃ、この数の暴力を凌ぎ切ることはできないけれど、

 

「き、来ました……S・トリガーですっ、《終末の時計 ザ・クロック》!」

「《クロック》、入ってたんだ……一枚も見えないから、てっきりないものとばかり思ってた」

 

 数も馬力も関係なく、代海ちゃんは、一切合切の時間を止めてしまう《クロック》で、ターンを飛ばす。

 強制的なターンスキップ。これなら、数で押し切ろうとも、関係はない。

 

「ほら、こういうのがある。だからさっき殴るべきだったんだよ」

「見えてないカードを考慮するというのは、時として道化を演じるだけだけど、ここで《クロック》の可能性を切ったのは、やっぱり浅慮だったよね」

「……流石に、ようも……もう、わかってる、と……思う、けど……さっきの、プレミ、って……」

「それに、やっぱり、代海さんがピンチです……!」

 

 そうだ。ひとまず、最後の引き金を引かれることはなかったけれど、それでも代海ちゃんのピンチに変わりはない。

 

「アタシの、ターン……! も、もう、後がありません……このターンで、なんとかするしか……」

 

 引き金は引かれていないが、大量の銃口が代海ちゃんに向けられている現状は変わっていない。そして代海ちゃんは、その銃弾から身を守る盾もない。

 向けられた銃はあまりに多く、それらすべてを捌き切ることは、まず不可能。

 なら、するべきことは一つしかない。それは、生き永らえたこの時間を最後のチャンスとすること。

 守るにせよ、攻めるにせよ。

 不可能でも可能にするか、可能な範囲で足掻き続けるか。

 どちらにせよ、このターンが、代海ちゃんの勝敗を運命づけるターンだ。

 

「ま、まずは、《ミクセル》を召喚です。そしてNEO進化、《記憶の紡ぎ 重音》!」

 

 代海ちゃんもそれはわかっている。だから、代海ちゃんは引き金に指をかけた。

 

「トリガーはもう考慮してられないとして、先輩の盾は三枚。彼女の場にはアタッカーが二体か。手札に革命チェンジ獣を抱えていても、打点は三打点がギリギリのはず。白青のデッキですぐに捻り出せる一打点って、なんだろうね」

「《重音》は4コストだから、《ミラダンテ》もないしねぇ。なにか防御札があるのかもしれないけど……マナも使い切っちゃってるし、このターンで攻め切るのは無理じゃない?」

「……でも、しろみは……あきらめて、ない……たぶん、なにか……手が、ある、から……」

 

 シールドゼロでも耐えきれる算段があるのか。あるいは、このターンでとどめを刺すだけの手段があるのか。

 ここで代海ちゃんが取った選択は、攻撃。

 数多の銃口を向けられてなお、前に出た。

 

「《重音》で攻撃する時、革命チェンジ宣言……そ、それと、キズナプラス、です! 一枚ドロー……!」

「……ここでシールドを削りに行くのは当然として、殴り切れないのなら、一応《賢者の紋章》があるね」

「青いクリーチャー……少なそう、だけど……」

「あのデッキで即時一打点を捻り出すより、そちらの方が現実的かと思っただけだよ」

「呪文が多そうなデッキだしねぇ」

 

 外野の声をよそに、代海ちゃんは、デッキに手を掛ける。

 そして願うように、指先に力を込めて、引いた。

 

「……ひ、引け、ました……!」

 

 《重音》のキズナは、まだ終わっていない。

 引いて、すぐさまそのカードを、場に置く。

 

 

 

「呪文、《超次元フェアリー・ホール》……!」

 

 

 

 それは、この対戦で初めて見える、緑色のカードだった。

 

「自然のカードっ!? と、トリーヴァカラーなんて……白青だと思ったのに」

「ちょ、ちょっとだけ、自然も入ってるんです……マナを増やして、《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに!」

「あぁ。だから《勝利のガイアール》がいたのか。ブラフじゃなかったんだね」

 

 そういえば代海ちゃんの超次元ゾーンには、《勝利のガイアール・カイザー》がいた。

 光や水の超次元呪文では出せないカードだけど、それが入っているということは、多くの場合は、出す手段があるから。

 偽装でも、ハッタリでもなく、正しく代海ちゃんは、それでとどめを刺すための攻撃手を増やした。

 

「……ギリギリ、打点が、そろった」

「あとはトリガー勝負か。先輩、プレミで普通に追い込まれてるじゃん。ちょっと笑えるね」

「そこは面白くもなんともないけど、ここで打点を捻り出して殴り切れるかが、ボクとしては楽しみだ」

「さ、最後の処理です。革命チェンジ、《星光の旋律 ベルファーレ》! 二枚ドロー……そ、そして、Wブレイク、ですっ!」

 

 《勝利のガイアール・カイザー》の登場で、殴り手が一体増やせた代海ちゃん。

 革命チェンジでWブレイクも通し、残ってるクリーチャーは《勝利のガイアール》と《クロック》の二体。

 

「うーん、トリガーはないよ」

「あと少し……お、お願いします……《クロック》で、最後のシールドをブレイクですっ!」

 

 代海ちゃんが、最後のシールドを砕く。

 ここでS・トリガーが、なにが出るかで、勝敗が決する。

 守りを放棄して、数多の銃器に突っ込んでいった代海ちゃん。その攻勢の結果は――

 

 

 

「……ノートリガー」

 

 

 

 ――勝利、だった。

 最後のシールド。謡さんはそこから、S・トリガーを引くことはできなかった。

 もう、守るものはない。

 

「じゃあ……これで、終わり、です……っ!」

 

 代海ちゃんが強引に生み出した最後の一発が、撃ち込まれる。

 

 

 

「《勝利のガイアール・カイザー》で、ダイレクトアタック――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――残念」

 

 ニヤリ、と。

 とどめの寸前に、謡さんが口の端を釣り上げた。

 代海ちゃんが放った、最後の一撃。それは――

 

 

 

「ニンジャ・ストライク――《光牙忍ハヤブサマル》」

 

 

 

 ――いとも容易く放られるカードに、阻まれてしまった。

 

 

「……え?」

「私がなんのために、過剰打点にもかかわらず《ヘルコプ太》で追撃手を引いたと思ってるのさ。《マキシマム》を掘り出すためってのもあったけど、私だって少しくらいは“もしかしたら”を考えてたんだよ。まあ、《クロック》の可能性は除外しちゃったけどさ」

 

 つまり謡さんの、過剰とも言えるあの大量ドローは、《ハヤブサマル》を、緊急の防御手段を手札に引き込むため……?

 そして実際、その保険は、しっかりと役目を果たしたのだった。

 

「これでさっきの失敗はとんとん……ってことにはならないだろうけど、ツケは払えたかな。それで、まだなにかある?」

「……あ、ありません……ターンエンド、です……」

 

 これ以上、代海ちゃんは攻撃できない。流石にこれ以上、攻撃を続けることも、クリーチャーを呼び出すこともできない。

 乾坤一擲。代海ちゃんの渾身にして決死の一撃は通らず、ターンを終える。

 

 

 

ターン6

 

場:《チョコっとハウス》×2《パーリ騎士》×2《ガンバトラーG7》《ヤッタレマン》《ヘルコプ太》《ジョット・ガン・ジョラゴン Joe》

盾:0

マナ:9

手札:13

墓地:5

山札:4

 

 

代海

場:《クロック》《星光の旋律 ベルファーレ》《勝利のガイアール》

盾:0

マナ:6

手札:7

墓地:5

山札:20

 

 

 

「私のターン……流石にもここから凌がれるなんてないと思うけど、一応、これで止めておくよ。G・ゼロ、《ジョジョジョ・マキシマム》。《ジョット・ガン・ジョラゴン Joe》を選んで、その攻撃中に呪文は唱えられない」

 

 謡さんはこれ以上の展開もドローもせず、ただその呪文を唱えるだけで、攻撃に移った。

 一瞬、代海ちゃんの場に残ったクリーチャーに目を向けたけれど、それさえも無視して、代海ちゃん自身に、照準を合わせる。

 そして今度こそ、最後の一発を、引き金を――引いた。

 

 

 

「《ジョット・ガン・ジョラゴン Joe》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ま、負けちゃいました……うぅ……」

「まあでも、シロちゃんも強かったよ。最後の《フェアリー・ホール》、かなりドキッとしたもん」

「それ以前に、謡はプレミ多かったね。もう少し考えてプレイングしろって言ったでしょ」

「あはは……それは、追々学んでくってことで、許して?」

 

 謡さんと代海ちゃんの対戦は、最後には謡さんが勝った。

 代海ちゃんのサイキック・クリーチャーのプレッシャーもすごかったけど、謡さんの軍勢はそれ以上で、なんていうか、数の暴力、って感じだ。

 《ダンガンオー》で一撃必殺を決めて来た、今までのスタイルとはまるで違う。同じジョーカーズでも、こんなに戦い方が変わるんだ。

 それに代海ちゃんも、じっくりと《ワンダー・タートル》のような大きなクリーチャーで立ち塞がるような戦術とは打って変わって、小型クリーチャーが多く、素早く勝負を決めに行っていた。

 二人とも、それまでの切り札と決別して、新しい力を身に着けている。

 それぞれの道を、歩み始めたように。

 

(……お別れ、かぁ)

 

 今までなにかと、誰かと別れたことなんてなかったけれど。

 わたしもいつか、自分が変わるため、前に進むために、なにかとの別れを決める日が、来るのかな。

 それは、すごく遠い未来なのか。

 あるいは、もう間近に迫っているのか。

 どちらにせよ、それが必要なことであるとしても、わたしは二人みたいに、ちゃんと決意できないかもしれない。

 今ある大事なものを、手放すなんて、できない。

 決別。足切り。言い方はどっちでもいいけど、なにかのために、なにかを犠牲にするとか、なにかを選び取るとか。

 わたしは、それができるだろうか。

 そして、もしもそれができなかったら、どうなってしまうのだろうか。

 それがちょっとだけ、怖かった。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 暗い闇夜に舞う、赤い雫。

 獣の臭いじゃ、満たされない。

 輝きは、畜生の中では見出せない。

 思考、情緒、想像、感動。手掛かりは、やはりここにあるのか。

 そんな風に繋がった。考えが繋がれば、あとは行動するだけだった。

 どういうわけか、最近はまったく制止がない。とても自由だった。それが好機だった。

 恨みがあるわけでもない。ただ、都合がいい、と思うだけ。ゆえにやりたいようにやらせてもらうだけだ。

 彼はなにかを言っていた気がするけど、狂った文言の意味はよくわからなかった。彼の言葉はノイズのようで、よくわからない。

 よくわからないなら、それでいい。彼は邪魔をしようというわけではないのだから。

 さあ、探し物を続けよう。ずっとずっと探しているものを。なにかもわからない、けれどとても尊い、きらきら輝くお宝を。

 今日からは、対象を変える。獣ではなく、もっと知的で、おぞましくもあり、輝かしくもある、不思議な生き物。

 できるだけ、小さいのがいい。そっちの方がやりやすいし、それに、きれいだ。

 そっと近づいて、スッと差し込む。

 闇夜に銀色の刃は煌めくこともなく、ただ淡々と、暗黒に深紅の色を彩る。

 音もなく、声もなく、静かになって、冷たくなる。

 あぁ、きれいだった。きれいだけど、どうしてだろう。満たされない。見つからない。

 今日も失敗。疲れたから、もう帰ろう。

 あまりいいことはない。ずっとずっと、見つからない。

 でも、今日は悪いなりに、いい日かもしれなかった。

 空を見上げる。真っ暗だった。星の光が一つも見えなくて、それでいて。

 

 

 

 月のない、真っ暗な夜空だった。




 この作品、ガチデッキというか、環境デッキってあんまり出しませんけど、出るとなったらわりと勝つんですよね。いやほら、作者の考えたヘンテコなデッキなんかより、世界中DMPが研究した研鑽されたデッキの方が絶対に強いわけですし。なにか特別なメタを張っていれば話は別ですが、そんな環境に染まったデッキは趣味じゃないです。
 代海のデッキは重音チェンジ。まあ、色んな人が考えただろう《重音》で革命チェンジしながら呪文発射するやつですね。本編では見せませんでしたが二種類の《ミラクルスター》で相手の呪文パクったり、墓地の呪文を回収して使い回したり、《激天下!シャチホコ・カイザー》でキズナプラスの種を戻して進化元確保したりと、実はかなりカードを循環させるようなデッキなんですよね。まあ殴ってるので、コントロールには向かないのですが。でもこういうぐるぐるするデッキは好き。1ターン無限ループはノーサンキュー。
 誤字脱字、感想、その他諸々、なにかありましたら、遠慮なく仰ってくださいな。
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