デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 ピクシブ版では投稿している短編をどう扱おうか悩んでいます。若宮くんはちょっと特殊だけど、何気に本編とちょっぴり連動してたりもするので、どこかで隙を見て投稿したいんですけど……章で区切ってしまったから、なかなか難しい。



31話「協力依頼です」

 みなさんこんにちは、伊勢小鈴です。

 ふわふわ、あつあつ、あまあま。三拍子が見事にそろったパンケーキが、とてもおいしいです……じゃなくて。

 えーっと、ここまでの経緯を、説明しないといけないかな。

 今この町では、ある事件が起こっています。

 子供ばかりを狙った『幼児連続殺傷事件』。事故ではなく故意に、犬や猫などの動物が惨殺されているという都市伝説。

 偶然にもわたしたちは帰宅途中に、二つの事件のうちの一つ――『幼児連続殺傷事件』の現場に遭遇した。

 そこでクラスメイトの若宮くんから、その二つの事件の詳細を聞いたんだけど、わかるのは事件が起こっているということだけで、そのための手掛かりはまるでつかめていない。

 この事件がクリーチャーの仕業である可能性もあることから、わたしたちは少しでもこの事件について知りたい。そう思った時に、図ったように現れたのが、こっちもクラスメイトの若垣狭霧(わかがきさぎり)さんだった。

 若垣さんは、その二つの事件についてなにか知っている様子だったけど、どういうつもりなのか、なかなか教えてくれない。どころか、霜ちゃんの弱みを握って、賭けと称して「デュエマで勝負しよう」なんて言い出す始末で、正直、なにがしたいのかさっぱりわからなかった。

 その目的も、意図も、なにもかもが不明で怪しくて、わたしたちを振り回し続けた若垣さん。

 結局、若垣さんとのデュエマは負けちゃったんだけど……そのタイミングで現れたのが、若垣さんのお兄さんの、若垣(おぼろ)さんだった。

 その後、若垣先輩は「腰を落ち着けて、じっくり話がしたい」と言った。わたしたちも先輩たちの言動の意味知りたくて、先輩に連れられるまま、近くのファミレスに入った。

 以上が、今現在に至るまでの経緯。

 ……え? パンケーキはどこから出て来たのかって?

 なんか、先輩がお詫びと前金にって、おごってくれました。とてもおいしいです。先輩はすごくいい人だね。もぐもぐ。

 ちなみに、好きなものを頼んでいいって言われて、ユーちゃんは特大パフェ(こっちもおいしそう)を、恋ちゃんは大量のピザ(全部一人でたべるつもりらしい)を、みのりちゃんは和牛のステーキ(一番高いやつ)を、それぞれ頼んでいた。

 霜ちゃんだけは、食欲がないからって言って、お水だけ飲んでるけど……

 

「ヤバい……きっと遠慮すると思って、奢るなんて軽い気持ちで言っちゃったけど、まさかこんなにも容赦なく注文されるとは思ってなかった……女子中学生怖い……」

 

 若垣先輩は、テーブルの上の数々の品と、財布の中身を見て、わなわなと震えていた。

 そして、その震えた声で、隣でメロンソーダを吸い上げてる若垣さん――妹さんの、若垣狭霧さんに問い掛ける。

 

「さ、狭霧ちゃん。今、手持ちいくらある……?」

「ハァ。お兄ちゃん、流石に妹にたかるのはダサいよ」

「無銭飲食が掛かってるんだから、オレもなりふり構ってられないよ……!」

「ならカッコつけて奢るとか言わなきゃいいのに。ダッサ」

「それが礼儀というか、そうした方が交渉も捗ると思って……狭霧ちゃんが散々場を荒らしたわけだし、少しでも有利に進めないといけないし……」

「小賢しいね」

「概ね狭霧ちゃんのせいだからね!?」

「ふーん、あっそ」

 

 そう吐き捨てて、メロンソーダに口を付ける若垣さん。お兄さん相手でも、まったく容赦ないね……もぐもぐ。

 

「……それよりも。落ち着いてしたい話って、なんですか?」

「あ、そうだね。あなたたちの遠慮のなさに面食らって、本題を忘れるわけにはいかないね。それじゃあちょっと長くなるけど、今から話すから、よく聞いて欲しい」

Oh(ふにゅぅ)! Suess und Lecker(甘くておいしいです)! 」

「……あ。つきにぃに、今日、夕飯いらない、って……連絡、しないと……」

「他人の金で喰う肉はうめぇ。久々の肉だし、今日の夕飯代も浮くし、いいことづくめだよ」

「頼むからオレの話を聞いてください! お願いしますから!」

「相変わらずお兄ちゃんは、ダサいし情けないわね」

 

 誰も話を聞く気がないし、妹の若垣さんからは辛辣な言葉。

 ……ちょっと、わたしも同情しちゃうかも。もぐもぐ。

 

「とりあえず君ら、一旦食べる手を止めろ。小鈴もまともぶって食べてるんじゃない。話が一向に進まないだろ」

「今喰わずしていつ飯を喰えと言うのさ!」

「話が終わってからにしろ」

「それじゃあ冷めちゃうでしょ!」

「あー……じゃあ、食べながらでもいいよ。食べながらでいいから、オレの話を聞いてください……」

「むぅ、そこまで言うなら、仕方ないですねぇ。あ、すいませーん。ライスのおかわりくださーい」

「呆れるほどに図々しいな、君は……すいません、こんなんで」

「いや、いいよ。お願いするのはこっちだし。でも、とりあえず話を聞いて欲しいです……」

 

 切実に懇願する若垣先輩。みのりちゃんも、食べる手は止めないものの、一応、先輩の話に耳を傾ける姿勢は見せた。

 その様子を確認してから、改めて、若垣先輩は姿勢を直す。

 

「ふぅ、やっと話ができる……じゃあ、改めて自己紹介をさせてもらうよ。オレは若垣朧。烏ヶ森学園中等部の二年生で、報道部・新聞社の部員だよ」

「新聞部? 新聞部の人なんですか?」

「正式名称通り、新聞社と呼んでほしいのだけれど……まあそこはいいや。その通り、オレは新聞部の部員なんだ」

「ウチは違うけどね」

「新聞部か……例の事件のことも、その関係ですか?」

「半分は当たりだけど、半分は違うかな。それと、先に君には伝えておこう。水早霜君」

 

 若垣先輩はそこで、霜ちゃんに向き直った。

 

「な、なんですか?」

「あなたには、謝らなければいけないことがある。それと、誤解も解かなくてはならない。オレはあなたたちと対等な関係で、その上でお願いをしたいんだ。交渉の余地がある以上は、不信感を持たれたままなのは嫌だし、困る」

「……それは、もしかして……」

「あぁ。あなたにかかっている“盗撮”の疑惑だよ」

 

 また、空気が凍りつく。さしものみのりちゃんたちも、食べる手を止めた。

 霜ちゃんが復学する直前に起きた“事故”。その延長線上にある、女子更衣室のビデオカメラ。

 ほとんどの人は存在すら知らなくて、話題にも上がらなかったけど……それをやったのは霜ちゃんだ。それは、わたしたちが証明してしまった。

 いけないことだっていうのはわかってるけど、あれはクリーチャーが原因で、その延長で起こった事故みたいなものだし、霜ちゃんに責任を追究するのは残酷だと思って、わたしたちの中でなかったことにしたけど……若垣さんは、若垣先輩は、なぜかそのことを知っている。

 その謎が、若垣先輩自身の口から、話される

 

「五月くらい、だったかな。烏ヶ森学園の女子更衣室に、一時期、不審なビデオカメラが発見された。すぐになくなったこともあって、表沙汰にはされず、その小さなニュースはほとんど流布しないまま風化したけど、盗撮の疑念を抱いている人は少なからずいた」

「あなたは、どうしてそのことを?」

「新聞社って言ってるじゃないか。“調べた”んだよ。小さな噂話を拾ってね」

「じゃあ、ボクが犯人かもしれないっていうのは……」

「稚拙ながらも推理してみたんだ。目立つビデオカメラで盗撮なんて、本気で盗撮する気があるとは思えない。教師ならもっと上手く、小型カメラとかでやるだろう。だからこれは明らかに素人、それも機材を揃えられない生徒の仕業だろうってね。じゃあどんな生徒か。やっぱり男子生徒の可能性が高いけど、それ以前にビデオカメラを設置して盗撮なんてあまりにリスキーだ。では逆に考えて、リスクを負っても構わない生徒だったんじゃないか、と思ったんだよ。それはつまり」

「不登校の生徒、ってことですか」

「うん、その通り」

 

 霜ちゃんも心にショックを受けたり、クリーチャーに憑かれたりして、学校に来てない時があった。そもそも、それが盗撮だとか、クリーチャーの騒動の一因なんだけど……

 だから、霜ちゃんが容疑者に入るというのは、理解できた。でも、

 

「口、挟んでいいですか?」

「実子……?」

「私はその事件のこと、ほっとんど知りませんし興味もないですし、別に水早君を擁護する気なんてサラサラないですけど。でも、純粋にあなたのことも信用できないから、その不信感から質問しますね」

「し、辛辣だね……でもまあ、当然か。どうぞ」

「不登校の生徒が容疑者。そこはわかりました。でも、不登校の生徒とか、他にもいません? 推理ガバガバすぎでは?」

 

 みのりちゃんの言う通りだ。

 恋ちゃんだって、ユーちゃんだって、学校に来ていない時期はあった。それに、他のクラス、学年でも、そういう人はいる。

 その中から霜ちゃんに絞り込んだ理由が、わからない。

 

「そうだね。各学年に加え、高等部の生徒まで含めたら、不登校児もそれなりの数がいる。だから、不登校の生徒だった、というだけでは、水早君が犯人だとは断定できない」

「どうやって絞り込んだんですか?」

「不登校期間」

 

 先輩は、即座に、端的に答えた。

 

「ビデオカメラが見つからなくなった時期と、水早君が学校復帰した時期が、ちょうどピッタリ当てはまる。まあ、オレも綿密に調べたわけではないんだけど、この時期に復学しているのは水早君だけだ――あぁ、ルナチャスキーさんも時期が近いけど、彼女は不登校というより、鬱病のようなものらしいし、一時的だったから、除外したよ――だから、不登校期間と復学時期、そしてカメラの設置期間を照らし合わせて、合致する生徒を見て、その過程で“なにかがあったのではないか?”とオレは考えた。そのなにかが、カメラ云々に関してのことだね」

「……愚問だと思いますが、なんでボクが学校復帰した時期を知ってるんですか?」

「調べたから。それだけだよ」

「どうやって?」

「それはちょっと言えないかな。コンプライアンス的に」

「では、なぜそのことを調べたんですか? プライバシーに関わりかねないというのに」

「気になったから。真実を明かすために必要だと思ったから。これも、それだけだ」

 

 またも即座に、だけれど淡々と言い放つ若垣先輩。

 さっきまでの頭を下げていた時の雰囲気とは打って変わって、ただ静かに事実を継げていく先輩は少し、怖かった。

 

「……それでも、ボクが犯人だって言うのは……」

「あなたに辿り着いた理由は、まだあるよ。事件の捜査中、オレは学援部の動きを察知したんだ」

「ん……うち……?」

「剣埼一騎さん、って知ってるよね? 学援部の今の部長さん。学内ではかなり有名な人で、オレも色々と交流があるんだけど……あの人が、高等部に行ったはずの水早先輩と一緒に行動しているところを見たんだ。高等部の先輩が中等部に来るんだ、なにかがあるのではないかと勘繰ってしまうのは道理だね。しかも水早先輩には弟さんがいるらしいじゃないか。加えて一年生に、水早という不登校の男子生徒がいる。うちの学校、少なくとも中等部に水早という苗字の生徒は君だけだから、関係があるのはほぼ確定。直前に学援部は、ルナチャスキーさんの不登校云々について動いてたし、そのどちらにも、伊勢小鈴さん、あなたが関わっていた」

「わ、わたしですか?」

「うん。あなた」

 

 いきなり名指しされました。

 た、確かに、ユーちゃんの時も、霜ちゃんの時も、わたしは学援部のお手伝いをしてたけど……それを知ってる外の人がいたなんて思わなかった。

 

「水早君の不登校期間、復学時期、ビデオカメラの設置時期。お兄さんが学援部と接触していたこと。生徒の不登校関係で、どちらも伊勢小鈴という一般生徒が関わっていたこと……これらの要素が無関係だと断ずることは簡単だけど、これらを総合的に見て、因果関係を探ってみると……浮かび上がってくる人物像があるわけだ」

「…………」

 

 霜ちゃんが絶句していた。わたしも、それに恋ちゃんも、ユーちゃんもビックリしていた。みのりちゃんだけは、我関せず、と言った風にステーキ食べてるけど……

 まさかあの時、みんなで内密に行っていたことを、断片的な情報からほぼ真相に辿り着いてしまう人がいるだなんて、思いもしなかったから。

 胸がバクバクと早鐘のように脈動するのを感じる。知られてはいけない真相を暴かれて、わたしまで、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。

 けれどそこで、若垣先輩は、少し困ったような苦笑いを浮かべた。

 

「ただ、そこまで推理できたのはいいものの、決定的な証拠が出て来なかったんだよね……だからオレは、その盗撮騒ぎについては「水早霜という生徒が怪しい。なにか知っているのかもしれない」というところで止まってしまっているんだ」

「なんだ。ってことは、若垣さんが言ってたのって、ただのハッタリじゃないですか」

「ウチはお兄ちゃんから聞いたことをただ言っただけで、真偽なんて知らないわよ。そっちの責任はお兄ちゃんにあるんだから」

「狭霧ちゃん、オレに責任をなすりつけるつもりだったの!? 酷いよ!」

「そっちの方が面白いと思ったから」

「それでオレが責任を負うのはどうなのかな! だから情報はもっと慎重に扱ってって言ってるのに……狭霧ちゃん、面白そうってだけで人を煽るんだから……もっと効果的に使ってよ」

「別にいいじゃない。結果的に、交渉できてるんだから」

「オレが恥も外聞もプライドもかなぐり捨てて頑張ったからね! 間違いなく狭霧ちゃんの成果じゃないからね!」

「なにがかなぐり捨ててよ。プライドなんて微塵も持ってないクセに」

「コントは、いい……続き……早く……」

「あ、ごめんなさい……」

 

 ……仲、いいのかな?

 さっきまで怖い感じだった先輩も、妹さんが入り込むと、途端に調子が狂っちゃうね……

 

「とにかく、オレは水早君が犯人だと断定できたわけじゃないんだ」

「……不躾ですが、それを追求する気は?」

「結局はその話題も沈静化しちゃったし、話題性がなくなったら取り上げる意味もない。元から小さなニュースだったこともあったし、不謹慎な記事になりそうなことはわかっていたんだ。つまりオレはもうこのことについては調べていないし、追究する気もない。これは全部、過去の情報で、オレにとっては興味もないし、価値もない情報だよ……狭霧ちゃんが荒らして、変なことになっちゃったけど」

 

 若垣先輩が、隣の若垣さんをジトッとした目で見つめるけど、当の若垣さんはどこ吹く風でメロンソーダを飲んでる。

 先輩のささやかな非難は妹さんには届かず、嘆息して、また霜ちゃんに視線を戻した。

 

「まあ、というわけだから安心して欲しい。オレは君が盗撮犯であるという確たる証拠を持っているわけでもないし、それを記事にして取り上げようというつもりもない。狭霧ちゃんが意地の悪い言い方をして、怖がらせてしまったかもしれないけど、オレたちに君を吊し上げる力はないし、その気もないんだ。勝手に調べたことは、悪かったよ。そこも本当に申し訳なく思ってる……ごめんなさい」

 

 すべてを話して、頭を下げる若垣先輩。とても潔くて、そして、後輩であるわたしたちに素直に頭を下げる責任感の強さを感じた。

 確かな証拠がないから、犯人だとは断定できないとは言うけど、それでも先輩の調べたことはほとんど核心に迫っている。そこは純粋にすごいと思ったし、わたしもビクリとしちゃった。

 

「そういうわけだから、オレのことを信じてほしい。ついでに狭霧ちゃんのことも、許してくれるとありがたいんだけど……」

「……わかりました。今回のことは、水に流します」

「ありがとう。そうしてくれると、オレも助かるよ。これでスムーズに交渉できる」

「ゆってあんな反応してたんじゃ、ボクが犯人ですー、って言ってるようなもんじゃない」

「狭霧ちゃん! いい感じで話がまとまったんだから、蒸し返さないでよ!」

「飲み物なくなったから、ドリンクバー行ってくる」

「蒸し返さないでとは言ったけど、オレの話には言葉を返してほしいかな!」

「ちょいちょい漫才挟むのやめてくれませんかねー、先輩」

「ご、ごめんなさい……」

 

 別にまったく悪くないのに、平謝りする先輩。

 なんか、妹さんが絡むと、すぐに空気が変わる人だなぁ……

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 若垣さんが戻って来たのを見て、若垣先輩はまた口を開く。

 

「ごめん。本題に入ると言いながら、前置きが長くなってしまったね」

「とりあえず、先輩が新聞部員としてとても有能だということは、わかりました」

「それは買い被りすぎだよ。オレ一人の力はあまりに非力だ。だから現に、オレはこうして、あなたたちに助けを乞うているのだから」

「確か、助手がどうとかって……」

 

 そう言えば、そんなことを言っていた。

 助手として勧誘しに来た、だっけ?

 

「そうそう。助手って言うと、大仰だし語弊がある気もするけど、要するに力を貸してほしい、ってことだね」

「私たちの、なんの力を借りるってんですかね」

「それを今から話すよ……オレは今、あなたたちも知っているであろう『幼児連続殺傷事件』と例の都市伝説について調べているんだ」

「その手伝い……を、しろ、って……?」

「んなの、部内でやっててくださいよ。そういうの得意でしょう? 新聞部なら」

「オレも最初はそのつもりだった。だけど、部では企画を却下されてしまって、部員の力は借りられないんだ。だからしばらくは一人でやってたんだけど、事が事なだけに、自力で調べるにも限界を感じていてね。情報整理だけでも手一杯だ」

「つまり、純粋に人手が足りない、と?」

「そういうこと。情報っていうのは鮮度が大事だから……でも、このまま日々更新されていく情報に埋もれてたら、にっちもさっちもいかなくてね。猫の手も借りたい状況だ」

「……そこで、ボクたちの力を借りたい、ってことですか」

「そうなるね」

 

 だんだんと、若垣先輩の要求が見えてきた。

 どういう理由かはわからないけど――先輩は興味だって言ってたけど――若垣先輩は、例の事件について追っているみたい。

 けど、一人じゃ大変だから、そのお手伝いを、わたしたちに頼みたい、ということのようだ。

 でも、先輩のことはわかってきたけれど、同時に疑問も湧いてくる。

 

「成程。とりあえずわかりましたが、わからないところもありますね。いくつか質問してもいいですか?」

「いいよ」

「まず一つ。彼女はなぜここに?」

 

 若垣先輩の隣でずっとメロンソーダを吸い上げてる若垣さんを指さす霜ちゃん。

 先輩はわたしたちに、事件の捜査を手伝ってほしいと言っていた。だとすると、若垣さんの存在が、よくわからない。

 なぜ彼女がわたしたちと接触を図ったのか。

 散々わたしたちや先輩までもを振り回すばかりで、彼女が動く意図、理由がさっぱりわからない。

 そのことについて問うと、若垣先輩は、また困ったような苦い表情を見せた。

 

「あー……そこはオレの失敗だ。ほら、いきなり見知らぬ上級生が現れて、手を貸してくれ、なんて言うのは気味が悪いだろう?」

「大して交流もない同級生が、こんなことで声をかけても気味悪いですけどね」

「そこは比較の問題ということで……まあつまり、彼女にはパイプ役、先兵? 伝達役? まあ表現はどうでもいいけど、交流がなくとも、狭霧ちゃんはあなたたちのクラスメイトだ。オレよりも接点は多い。だから、妹を入口にして、スムーズに話し合いの場を作ろうと思ったんだ……思ったんだけどね……」

「大失敗してるじゃないですか、先輩。この人とんだじゃじゃ馬ですよ」

「なによ。アンタだって相当なクレイジーサイコレズじゃない」

「やめてよ狭霧ちゃん、これ以上喧嘩を売るのは……」

「みのりちゃんも抑えて抑えて」

「どーどー、です」

 

 ユーちゃんといきりたつみのりちゃんを宥める。

 

「……騒がしくてすみません」

「いや、こっちもごめんね……狭霧ちゃんが気分屋なのはわかってたけど、クラスメイトをオレのところまで連れてくるくらいなら大丈夫だろうと、甘く見ていたよ……」

「えぇ。とりあえず、彼女はイレギュラーということで処理します」

「そうしてくれると助かるよ……」

 

 なんていうか、若垣さんの存在は、若垣先輩にとっても御しがたいものみたいだった。

 若垣先輩は色々なことを考えて、わたしたちに協力を要請しようとしたみたいだけど、若垣さんがそれをすべて掻き混ぜているみたい。

 若垣さんを悪者にするつもりはないけど、さっきまでのいざこざも全部、若垣さんによるものなんじゃ……と思ってしまう。

 

「では二つ目の質問です。どうしてボクらを求めるんですか? 事件の捜査っていうなら、もっと適任者がいるんじゃないんですか?」

「うーん、そこか。確かに、あなたたちよりも、こういうことに向いている知り合いはいるけど、その人たちは軒並み、新聞社の関係者だから」

「さっき、部内で企画が却下されたって言ってましたっけ。でも、若垣さんは……あぁ、妹さんの方じゃなくて、お兄さん、先輩の方ですけど……」

「うん。ずっと言おうって思ってたけどタイミング測り損ねてたから、ここいらで言っておくね。オレのことは朧でいいよ。どっちも若垣だし、ややこしいでしょ」

「じゃあ妹の方は狭霧ちゃんと呼んであげよう」

「やめてくれない? ちゃん付けとか、気持ち悪いんだけど」

「お兄さんはそう呼んでるのに?」

「お兄ちゃんはいいのよ。気持ち悪いから」

「酷い!?」

「だってお兄ちゃん、人の情報を掌握しないと気が済まない変態ストーカーじゃない」

「人聞きが悪すぎる! でも微妙に否定しきれないのが辛い!」

 

 ……楽しそう、だね……?

 わたしも、若垣さんと若垣先輩って呼び分けてたけど、ちょっとややこしかったから、これからは呼び方を変えよう。

 若垣先輩改め、朧さんは、狭霧さんに振り回されながらも、話を続ける。

 

「水早君は、私的な理由で動けるのなら、私的な事情として、他の部員に協力を仰げないのか、ってことじゃないかな?」

「はい。ボクらよりも、よほど適役だと思うのですが」

「そうだね、その通りだ。だけど、実はこれ、部員には秘密に動いてるんだ」

「え?」

 

 新聞部に秘密で? 先輩は新聞部員なのに?

 なんだか、話の空気が不穏になってきたような気がするよ……

 

「狭霧ちゃんをけしかけて、あなたたちに協力してもらいたい理由の一つでもあるんだけど、今のオレはちょっと、表立って動きにくくてね。オレが下手に動いて、事件について調べていることが部内に広がるとまずいんだ」

「それは、どうしてですか?」

「さっきも言ったけど、例の事件について取り上げる企画は、既に部内で却下されている。危険だからとか、規模が大きすぎて手が回らないとか、締切の問題とか、まあ理由は色々あるんだけど……その中でも飛びぬけて大きな理由が“不謹慎”だ」

「不謹慎?」

 

 言ってることは、なんとなくわかる。でも、曖昧な表現だ。

 被害者の気持ちとか、そういうのは大事だと思うけど、報道とはある程度はそこを踏み越えるものだということも、理解はしている。

 けれど、朧さんが発した言葉は、それ以上だった。

 

「もったいぶらず、わかりやすく言おうか。『幼児連続殺傷事件』の被害者の一人が、部員の親族なんだ」

「っ……!」

 

 ――思わず、息を飲んだ。

 それは、とてもわかりやすくて、そして、惨かった。

 

「人間の感情というのは非常に厄介なものだよ。不快感、哀悼、悲運。これらの前では、論理も理屈も排されてしまう。まあでも、それこそ頭が固まった打算だ。流石に、部室で泣かれちゃったらどうしようもない」

「それは……ご愁傷様、です」

「そんなわけでこの企画は部全体で強い反対を受けてね。企画は完全に取りやめになって、もはやその話題はタブーになった。触れることすらできない禁忌だよ。だから、下手に部員を頼ろうとすると、そこからオレの動きがバレる。オレが事件について調べていると露呈してしまったら、当然、反対派の部員から反感を買って、オレの部内での立場が悪くなる。それは、今後の学校生活のためにも、できれば避けたい」

「思ったよりも、自分本位な理由ですね」

「オレが聖人だとでも思ったかい? 善い人であろうとする姿勢は悪くないけど、オレは記者だ。善意は取引のための手段でしかない。真実を暴くためなら、多少の悪には目を瞑るよ」

 

 事もなげに言い放つ朧さん。その様子は、また怖い感じの朧さんだった。

 でも、それよりも。

 もっと、大事なことが。聞きたいことがあった。

 

「……朧さんは」

「うん?」

「朧さんは、どうして……そこまでして、事件について知ろうとするんですか……?」

 

 部で反対されて、部員たちと軋轢が生まれるかもしれないリスクを背負って、初対面のわたしたちまで頼って。

 そこまでして、どうして事件について調べるのか。

 

「そこか。まあ、理由は色々あるよ。いつかその情報が役立つかもしれないとか。事件について知ることで、被害を防げるかもしれないとか。自衛のためとか。新聞社員としてのスキルアップとか。いつか役立つかもしれない情報として、知識の備えをするため、自分の力を磨くため……っていうのは、まあ、建前だよね」

 

 高尚で殊勝な言葉の数々は、あくまで建前。

 本心は、本音は、そこではない。

 朧さんは、言った。

 

 

 

「興味だ」

 

 

 

 たった三つの音、二つの文字で表現される、端的な言葉。

 それが、朧さんがこの事件に触れる理由。

 

「ぶっちゃけオレの行動原理は興味関心だ。少なくとも、今回に限ってはね。それに付随する価値も、利益としてしっかりと受け取りはするが、着手の根幹はやはり、オレの欲に他ならない」

「…………」

「何度も言うけど、オレは聖人でも善人でもない。利益でなびくし、自分の欲求のために他人の領域に踏み込むし、それによって侵害することもあるし、場合によっては謀りもする。水早君にかかった嫌疑が、そのいい例だよね」

 

 また、淡々と告げていく朧さん。

 自分の悪性を隠しもせず、ただ事実を、あるがままに述べていく。

 

「せんぱーい。そんなこと言っていいんですかね? それ、交渉材料的に不利な情報では?」

「まあ、そうだね。でも、オレの手伝いをするということは、オレの悪性も認めて貰わなくてはならない。結局これは信用問題なんだ。酸いも甘いも、善悪どっちも受け入れてもらうしかない。変な疑いをかけられるのは困るし、健全でクリーンなやり取りをしたいからね。こんなオレを認められないっていうなら、この話はなかったことにしてくれていい。オレはただ、お願いすることしかできないんだから」

 

 すべてを曝け出した上で、わたしたちに判断させようという朧さん。

 確かにそれは、変に隠されるよりも信じられる、けど……

 

「あなたは、どうなんですか?」

 

 わたしが口ごもっていると、霜ちゃんが朧さんに問い掛ける。

 

「うん?」

「朧さんは、ボクたちのことを信じられるんですか?」

「それはどういう意味?」

「さっきの質問の続きです。どうして、ボクたちなんですか? ボクらは、調査も捜査も、経験したことなんてありません。素人もいいところです。それに、ほとんど接点もない。そんなボクらに協力を要請しようと思った動機、きっかけ。それが、わかりません」

「ふぅむ」

「あなたは信用を得るために、すべてを話してくれました。けど、ボクらに対する信用は、どこから来るのですか?」

「……オレが口を開くたびに信用が失われそうな気がするけど、でもまあ、問われたならこれも話さないとダメだよね。今更だからハッキリと言うけど、オレはあなたたちについて、かなり調べた」

「でしょうね」

 

 霜ちゃんのこともあるし、あれだけのことを知っていながら、それ以外のことについてまったく知らないということも考えにくい。

 だからきっとこの人は、わたしたちが今までなにをしてきたか、知ってるんだ。

 ……流石に、クリーチャー関係のことは、知らないと思うけど。

 

「あなたたち五人のうち、三人は学校に来ていない期間があった事実。その期間と復学時期。学内に親族がいるかどうか。所属団体。交友関係。出席日数や委員会。後はある程度の行動パターンくらいは、概ね把握しているよ」

「こわ……」

「行動パターンは流石に引きます」

「そんな大仰なことじゃないよ。昼は教室か食堂か、とか。購買や図書室はどのくらい利用するか、とかそんな程度だよ」

「いや、それを知ってるだけでも十分おかしいですからね」

「一般的な視点ではそうだよね……でもこんなの、それぞれの空間に知り合いがいるかどうかだよ。図書委員に知り合いがいれば、その人から利用状況を聞くことができるってレベルだ。大したことじゃないよ」

 

 朧さんはそう言うけど、それもやっぱり、なかなかできることじゃないような……?

 それに、それだけたくさんの知り合いがいるというのもすごい。新聞部の人って、顔が広いのかな。

 

「でまあ、あなたたちは特に、学援部と関わりが強いみたいだね。そこは日向さんとの繋がりかな」

「ん……」

「学援部についての説明は、今更するまでもないよね。あなたたちは、その活動に関わっていたことが、何度かあった。水早君の復学についても、その一つだったのかな?」

「…………」

 

 霜ちゃんは、まだ警戒しているのか、答えたくなかったのか、それとも他に理由があるのかわからないけど、その問いには答えなかった。

 朧さんも回答には期待してなかったのか、そのまま話を続ける。

 

「特にオレが注目しているのは、あなただ。伊勢小鈴さん」

「わ、わたし、ですか……?」

 

 またも名指しされました。というか、さっきと同じ状況です。

 

「取り組んだ経緯まではわからないけれど、あなたは入り組んだ問題に対して、それを解決する力がある。オレはそう判断した」

「で、でも、わたしはそんな、大したことは……」

「あなた自身がそう思っているだけで、客観的に見たら、それなりに功績はあると思うんだ。クラスで一匹狼の日向さんや亀船さんをコミュニティに引き込み、ルナチャスキーさんや水早君の復学に関わっている。生徒会の長良川さんの猫探しにも協力してたみたいだし。あとは、誘拐事件の解決に立ち会ったって噂もあったっけ。こっちは事件性が大きくて情報規制もされてるから、詳細がよくわからないのだけれど」

 

 つらつらと、わたしが今まで関わってきた事件や、やって来たことを挙げ連ねる朧さん。

 あの誘拐事件についてまで知ってるだなんて……確かにあれはニュースになったけど、わたしが被害者だってことは、秘密になってたはずなのに……

 

「……やっぱり、こいつ……やばい」

「モノホンのストーカーだね」

「言われてるよ、お兄ちゃん」

「残念ながら否定材料がないんだよね! 目的はともかく、やってることはストーカー同然だもん!」

 

 わかってはいたけれど、いざ自分のことをこうして知られているということを知るのは、なんか……ゾッとします。

 

「とまあ、勝手に調べたのは申し訳ないと思ってるけど、その結果、あなたたちには力があることは証明されたわけだ。あなたたちの問題に取り組む能力と、それに対する解決能力は、認められて然るべきだと思う。他の誰が認めなくとも、オレはそう判断した。それじゃあ不満かな?」

「……説得の方法が怖すぎますが、とりあえずわかりました」

 

 朧さんは、あらゆる物事を調べて、その上でこうしてわたしたちと話し合っている。それは、これでもかというほど思い知らされた。

 わたしたちに協力を要請する動機も、どうしてわたしたちなのかも、なにもかも。

 理由も理屈も確かで、しっかりしている。相手の主張はよくわかった。

 だから、後は“わたしたち”だ。

 

「少し、時間をください。答える時間を」

 

 すべての話を、質問したいことも含めて聞き終えて、霜ちゃんはそう要求した。

 それに対して朧さんは、快く承諾してくれた。

 

「いいよ。こっちも急に、しかも荒唐無稽なお願いをしている自覚はある。ゆっくり考えてくれ」

「返事はいつまでに?」

「いつでもいいと言えばいいけど、できるだけ早い方がいいかな。さっきも言ったけど、情報は鮮度が大事だ。調査するなら早い方がいい。まあでも、こっちはお願いしている立場だ。あなたたちが納得いくまで考えてほしい」

 

 優しく、柔らかな声で、そう言ってくれる朧さん。

 朧さんは、連絡はここに、と言って、メールアドレスと電話番号の書かれたメモを手渡して、立ち上がった。

 

「それじゃあ、オレたちは先に出よう。いい返事を期待しているよ」

 

 そして、わたしたちの前から立ち去る――

 

「ちょっと待って。メロンソーダもう一杯飲んでから」

「あぁもう、狭霧ちゃんってば! ちょうどいいタイミングで席を立てたんだから、その流れに乗ってよ!」

「お金、貸さないよ」

「ごめん……わりと本気で足らなさそうだから、お願いします……」

「…………」

 

 ――のは、もう少し後のことでした。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 狭霧さんがメロンソーダを飲み終えて(結局、一杯どころか三杯くらい飲んでた)、二人が席を立った後。

 残されたわたしたち五人は、そのままさっきのことについて、話し合っていた。

 内容は単純明快。朧さんの要請を受け、事件の調査に協力するのか、しないのか。

 

「断ればよくねー? なんかキナ臭いし。妹さんはムカつくし、お兄さんは怪しさマックスのストーカーと来た。上っ面は優男気取ってるけど、腹になにか抱えてるタイプと見た。関わらない方がいいって」

「口は悪いが、実子の言ってることはもっともだ。個人的なことを調べられた不快感も混じってしまっていそうだが、それ以上にあの人の申し出は怪しすぎるし、奇妙すぎる。承諾するにせよ、しないにせよ、警戒はしないといけない」

 

 みのりちゃんと霜ちゃんの意見は、わりと否定的だった。

 怪しい。裏があるんじゃないか。二人はそう思って、断るべきだろうと感じているみたい。

 だけど、

 

「あの二人は怪しいが、しかし、非常に有用なのは確かだ」

「ユーヨー、です?」

「ボクらについて、あそこまで調べている人間だ。一人では手が回らないとは言っていたが、今回の事件についても、ボクら以上に情報を握っているだろうことは想像に難くない。そしてその情報は、非常に有益なものであろうことが推察できる」

「小難しいねぇ。もっとパパッと言ってよ」

「ボクらは、彼らにはない視点があるってことだよ。そしてそれは、あの先輩の思惑通りに進んでしまいそうで癪ではあるが、きっとボクらにしか解決できない視点での問題だ。つまり――」

「――クリーチャー、だね」

 

 みんなが、一様に頷いた。

 そう、わたしたちには、クリーチャーの仕業という視点を持てる。そしてそれは、わたしたちが関わってきた事件のすべてに該当することだ。

 そこが朧さんたちと根本的に違うところであり、わたしたちにしかできないこと。

 

「じゃあ水早君は、先輩たちから情報だけぶんどって、あとはスタンドプレイで動くべき、って言いたいの?」

「そこは……難しいな。彼らに与することが最善とは思わない。謀られている可能性も否定できないし、その可能性を考慮するなら、完全に関わりを断つべきなのかもしれない。だが、彼らと共に動くことで、得られるものはあると思っている。彼らの策謀に嵌りさえしなければ、彼らはきっと、とても有用な情報源だ」

「それってそんなに大事?」

「大事でないとは言えないな。なにせボクらは、クリーチャーの存在については、今やどこに行ったかわからない鳥類に依存している。ボクらに足りないのは情報と索敵なんだ。一時的とはいえそれを得られるのなら、大きな力になることは間違いない」

 

 朧さんたちの情報は、わたしたちの知らないことも含まれていると思う。それを生かしてクリーチャー探しをすれば、解決の糸口を、より早く、的確につかめるかもしれない。

 それが、最大のメリットだ。

 だけど朧さんがもし、わたしたちを騙していたとしたら。

 なにかの企みがあって、そのためにわたしたちを誘っているのだとしたら。

 この誘いに乗ってしまうのは、とても危険だ。霜ちゃんは、そう言っている。

 

「恋はどう思った?」

「みのりこの、言う通り……あやしい。あれ、くーごと似たタイプ……なにか、企んでる……はめられそう」

「じゃあ、君もあの人の案に乗るのは反対?」

「……わからない。その、企みが……クリーチャー絡み、とも、思えないし……なら、なにを企んでいるか、に、よる……」

「まあ仮に通り魔がクリーチャーじゃなかったとしても、少なくとも、先輩らが通り魔の犯人と繋がってるって可能性はないよねぇ」

「となると、なにが目的なんだか。場合によっては、それについても探る必要があるか……?」

「あの二人は……私たちが、クリーチャーを追う、つもりなら……それで、事件を見る、なら、使える……リスクはある、けど」

「結局は水早君と同じ答えじゃん。ハッキリしないなぁ」

「みのりこ……うるさい」

「とはいえ、なんとも言えない、という中途半端な答えになってしまうというのは、喜ばしくはないな。もっと意見が聞きたい。ユー、君はどう思った?」

 

 霜ちゃんは、今度はユーちゃんに問い掛ける。

 あんまり喋らなかったユーちゃんは、暗い表情で、答えた。

 

「ユーちゃんは、こわいです……なんだか、今までと違う感じが、して……」

「それは、あの先輩が?」

「Nein。そうじゃなくって。もっと、おっきな感じで……」

「より大きな……この事件が、ってこと?」

「Ja。そう、それです」

「ユーは彼らの、乗る乗らない以前に、今回の事件に首を突っ込むことに反対か」

「Vorahnung……えっと、日本語(ヤーパニッシュ)だと……そう、ヨカンです。イヤなヨカンが、するんです」

 

 いつもよりもドイツ語がちょっと多め……ユーちゃんは、とても不安になってるみたい。

 嫌な気がする。悪い予感がする。だから、事件には関わらない方がいい。

 霜ちゃんと違って、まったく論理的ではないけれど、でも、気持ちはわかる。

 わたしも、似たような感覚があるから。

 いや、わたしのは、もっと違うなにか、だと思うけれど。

 

「予感ね。ボクにはよくわからない感覚というか、頭で理解できるものではないけれど、君の言いたいこともわからないでもない」

「私はわかるなー。あいつには近づかない方がいいって、第六感が叫んでるもん」

「君のは単なるレッテル貼りじゃないのか?」

「否定はしないけど、直感的にはっ付けたレッテルってのが、予感ってやつなんだよ」

「ふぅん……まあ、クリーチャー絡みの事件なら、理屈じゃ説明できないことも多いからな。一応、信じてみようか」

「これぜってー私の主張だけじゃ信じなかったやつだ。ユーリアさんがいるから信じたってやつだよ」

「みのりこ……うるさい」

「二回目?」

「もういいよ。それより」

 

 霜ちゃんは、遂に、こっちを向いた。

 わたしの、方を。

 

「小鈴。君は、どうしたい?」

 

 朧さんを信用してないみのりちゃん。事件そのものへの関与に消極的なユーちゃん。判断しかねている霜ちゃん、恋ちゃん。

 みんな、否定的な意見ばかりだ。でも、その気持ちは、よくわかる。

 じゃあ、わたしはどうだろう。

 この事件について、どう向き合うべきなのか。

 わたしは……わたしの、答えは――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「それじゃあ小鈴、気を付けて」

「ばいばーい小鈴ちゃん!」

Auf Wiedersehen(さようなら)! 小鈴さん!」

 

 首を突っ込もうがどうしようが、例の事件が起こっている事実に変わりはなくて、いつ自分たちが被害者に回るとも限らない。

 まだ日が沈まないうちに、わたしたちは帰路に着いた。そしてちょうど、みんなと別れたところです。

 今日は、とても考えさせられる一日だった。狭霧さんのこと、朧さんのこと。

 そして、二人が引き込んできた、事件の調査について。

 ――あの時、わたしは答えが出せなかった。

 どうしたいのか。どうしたらいいのか。色んな気持ちが渦巻いて、自分の気持ちがあやふやになって、形にも、言葉にもならなくて。

 結局、なにも言えないまま、終わってしまった。

 霜ちゃんは「返事に期限は指定されなかった。今日だけであまりに膨大な情報が入ったわけだし、すぐに答えが出ないのも無理はない。ゆっくり考えるといいさ」なんて言って、気を遣ってくれたけど、わたしだけなにも言えなかったというのは、とても、悪い気がしてしまう。

 だけど、なんて言えばいいのか、わからなかった。どうすればいいのか、どうすべきなのか。

 この町で起こっている事件を無視することはできない。それにクリーチャーが関係しているかもしれないというのなら、なおさら。

 クリーチャーの事件を解決できるのは、わたしだけ。だから、これがクリーチャーのことなら、わたしが動くべき、なんだけど……

 そうではない可能性。そして、そうだった時の――いや、そうでなかったとしても、わたしには、踏み込めない、踏み込んではいけない領域がある。

 胸中で渦巻くそれが、わたしの足を止める。塞いで、遮って、堰き止める。

 責任感と使命感。そして、それらを押し返す不可侵領域。

 それが、わたしの足を、どんどん遠ざけていく。

 ……わたしは、どうすればいいんだろう。

 こんな時、鳥さんがいてくれれば――

 

「――こすず」

 

 と、その時、不意に声をかけられた。

 ずっと一人で歩いていると思ったから、驚いて振り返る。

 あれ? でもこの、小さいけれど、透き通ってて、ハッキリとした声は……

 

「こ、恋ちゃん……!?」

 

 小さくて細い矮躯に、色の抜けたさらさらの髪。真っ白な肌は夕焼けに照らされ、影となって暗がりが落ちている。

 その姿。それに、なにを見据えているのか、なにを思っているのかがまるで見通せない、無感動な瞳は、まごうことなく恋ちゃんだ。

 

「どうしたの? 家に帰ったんじゃ……!?」

「……もどって、きた」

「いや、こっちはわたしの家の方角だから、戻るって表現は変だよね?」

「ん、たしかに……それじゃあ……気になった?」

「なんで疑問形? わたしにはわからないよ……」

「まあ……どうでも、いい、か……」

「恋ちゃんなにしに来たの!?」

「…………」

「なんで黙っちゃうの!?」

「ん……その……こすず、悩んでる、っぽかった、から……」

「え……?」

 

 それって、もしかして……

 

「わたしのことを、心配してくれて、それでわざわざこっちまで……?」

「ん……」

 

 短く答える恋ちゃん。短すぎて、まともな返答ではないけれど。

 でも、それが否定を意味していないということは、わかった。

 それは、その気持ちは、嬉しい。

 

「……悩んでる……?」

「う、うーん、どうだろ。悩んでる、っていうより、怖いのかな」

「こわい……あぁ。あの、おぼろ、とかいう……」

「ううん。朧さんたちのことじゃないの」

「じゃあ……事件に、ついて……?」

「それも近いけど、ちょっと違うかも。犯人がクリーチャーにせよ、人間にせよ、怖いのは間違いないんだけど……そうじゃないの」

「じゃあ……なに……?」

 

 恋ちゃんは、考えが尽きたと言うようにわたしに問う。

 わたしの中でも、まだごちゃごちゃしていることだけど……ちゃんと、言葉にしなきゃ。

 混ざり合った思いをろ過するみたいに。絡まり合った考えを解きほぐすように。

 気持ちを整理して、口にする。

 

「……朧さんも言ってたよね。新聞部で、事件について調べるのは却下されたって。部内に被害者がいて、その人のことも考えて、って」

「うん……それが……?」

「これは紛れもなく事件なんだよ。傷ついている誰かがいて、傷つけた誰かがいて……色んな思いが、渦巻いてる。そんなところに、なんの関係もない、専門家でもない、部外者で、素人のわたしが、割り込んでもいいのかなって」

「……でも……クリーチャー絡み、だったら……」

「そうだけど、そうじゃないかもしれない。それに、わたしとクリーチャーたちとの関係は、他の人は知らない。それでわたしが、他の人にとってデリケートな領域に、無遠慮で入り込んでしまうのは……いけない、気がするの」

 

 傷を負った人たちの立場を考える、なんて大仰なものではない。

 その人たちはきっと、わたしなんかには想像もできないくらい、色んなことを抱えているのだと思う。辛いことも、苦しいことも、悲しいことも。

 わたしはそれを、想像してしまった。

 そして、それ以上、その傷を深くしたくない。

 けど。いや、だから。

 わたしは、踏みとどまってしまう。

 

「わたしが口にしたなにかが、わたしが行ったなにかが、誰かを傷つけてしまうかもしれない。わたしがやったことが、間違ってしまうかもしれない。そう思うと……なんだか、怖くて」

「…………」

 

 恋ちゃんは、黙っていた。

 静かに耳を傾けて、なにも口にしない。一文字に口を閉じて、ジッとわたしを見つめるだけ。

 無表情で無感動。最近は、ちょっとずつ雰囲気とかでなにを考えているのかわかるようになってきたけど、今の恋ちゃんは、よくわからない。

 その眼はなにを捉えて、なにを見ているのか。なにを考え、なにを思っているのか。

 静かすぎるほど静かに、微動だにせず、直立不動の恋ちゃん。

 彼女はやがて、ゆっくり、静かに、告げた。

 

「……こすず」

「な、なに?」

「……うち」

「うち?」

「ん……いや……家」

「家?」

 

 え? なに? どういうこと? なにが言いたいの?

 わたしがたじろいで混乱していると、ようやく恋ちゃんは、適切な言葉を捻り出した。

 

 

 

「家……いっていい……?」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ただいまー」

 

 家の扉を開けて、いつも通りの言葉を発するけれど、返事はない。電気もついてない。

 鍵がかかってたから、もしかしたらとは思ってたけど、お母さんは出かけてるのかな? お姉ちゃんも、まだ帰って来てないみたい。こんな時でも生徒会のお仕事かな……ちょっと不安です。お姉ちゃんなら、大丈夫だとは思うけど。

 それに、友達を呼ぶなら、むしろ好都合かもしれません。

 

「それじゃあ、入って」

「ん……おじゃま、します……」

 

 迷いなく入って、のそのそと靴を脱いで玄関に上がる恋ちゃん。そう言えば、家に友達を呼んだのは、はじめてだ。

 ――いきなり、家に行きたい、なんて言われて、断る理由もなかったから招き入れちゃったけど……恋ちゃんは、なにを考えているんだろう……?

 

「あっちはお母さんのお仕事スペースだから、あんまり行かないでね。足の踏み場がないし、下手に触ったら、お母さん、怒るから」

「りょ……」

「じゃあ、とりあえずわたしの部屋に行こうか」

 

 階段を上がって、わたしの部屋へ。

 扉を開けて中に入る……けど、恋ちゃんは続かなかった。

 

「恋ちゃん? どうしたの?」

「……片づける、時間……待つ……」

「いや、別に待たなくていいよ。っていうか、わたしの部屋、片付けなきゃいけないほど散らかってないから……」

「こういう時、は……待つ、ものだから……」

「そうなの?」

「そう……経験上」

「経験があるの?」

「……ない」

「ないんだ……」

 

 なにを言ってるのかはよくわからなかったけど、とりあえず部屋に入る。

 けど、そこからどうすればいいんだろう。

 恋ちゃんがわたしの家に行きたいと言った理由がまったくわからない。目的も不明。だから、なにをすればいいのかもわからない。

 なにかして遊ぶということも考えられるけど、時間もそれなりに遅いし、そんな余裕はない。それは、恋ちゃんもわかってるはず。

 一体、恋ちゃんはどうしたんだろう……?

 

「……じゃあ、はじめる……」

「な、なにを?」

「デュエマ……」

「なんでっ!?」

 

 まったく流れがわからないよ!?

 というか恋ちゃん、そのつもりで来たの? それならワンダーランドでもいいでしょうに……

 

「ん……説明、むずい……」

「? なにか、言いたいことがあるの?」

「そんな感じ、のような……んっと、その……“こうした方がよさそう”だから、というか……まあ、いいや」

「あきらめないで!?」

 

 まったく言いたいことがわからない。わかるのは、恋ちゃんは恋ちゃんで、考えているということだけ。

 うーん、その意図は不明すぎるけど、恋ちゃんなりに考えてのことなら、いいのかな? よくわからないけど。

 

「一戦だけ……で、いい……時間、ないし……」

「そこまで言うなら……いいけど」

「じゃあ、はじめる……次元、は……?」

「これだよ」

「あぁ、いつもの……私は、ない……」

「うん。じゃあ、始めよっか」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 唐突に始まった、わたしと恋ちゃんの対戦。わけがわからないけど、これが終われば、恋ちゃんの考えを、少しでも理解できるのかもしれない。

 わたしは《爆砕面 ジョニーウォーカー》でマナを増やしたところ。

 一方で恋ちゃんは、まだなにもしてこない。マナゾーンを見る限りは、光文明だけのデッキみたいだけど……

 恋ちゃんはブロッカーやS・トリガーで守りがちに戦うことが多いから、動きが静かだということに不思議はないんだけど……それにしても、いつも以上に静かすぎる気がする。

 なにか仕掛けてくるのなら、動かれる前に決めないと……

 

「わたしのターン。4マナで《カラフル・ナスオ》を召喚するよ。能力で、山札から四枚をマナゾーンにタップして置いて、マナを四枚、墓地に送るよ」

 

 ここで墓地に落とすのは、《ホネンビー》《カラフル・ナスオ》《ジャック・アルカディアス》《無双と竜機の伝説》の四枚。

 うーん、《無双と竜機の伝説》は墓地に置けたけど、ちょっと呪文が微妙かも。まだ《ロマノフ・シーザー》も《グレンモルト》も見えてないし、どう攻めたらいいかな……

 

「ターンエンド、だよ」

「私の、ターン……《信頼の玉 ララァ》、召喚……ターンエンド」

 

 恋ちゃんの方にも、遂にクリーチャーが出て来た。

 あれは確か、光のコマンドやドラゴンの召喚コストを下げるクリーチャー、だったかな?

 あのクリーチャーから進化して、4ターン目に《ミラクルスター》を出されたことが何度かあったし、気を付けなきゃ。

 

 

 

ターン3

 

小鈴

場:《カラフル・ナスオ》

盾:5

マナ:4

手札:2

墓地:5

山札:23

 

 

場:《ララァ》

盾:5

マナ:3

手札:4

墓地:0

山札:27

 

 

 

「わたしのターン。5マナで呪文、《超次元リバイヴ・ホール》を唱えるよ! 墓地の《ホネンビー》を手札に戻して……うーん」

 

 手札で使えそうなカードがあまりなかったから、とりあえず唱えたけど……どうするか悩んでしまう。

 とりあえず、早く切り札を引き込むために《ホネンビー》を手札に加えるのはいいとして、出すサイキック・クリーチャーをどうすべきか。

 

(《ララァ》を破壊するのがいいのかもしれないし、《ロマノフ・シーザー》の進化元を並べる方がいいのかもしれない。けど、《グレンモルト》が来たら一気に決めたいし、ここは……)

 

 普段はあまり使わないけど、ここは、このカードだよっ!

 

「《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに! ターン終了!」

「醤油……生姜よりマシ、とはいえ……ちょっと、めんどいかも……私の、ターン」

 

 恋ちゃんはマナにタップしてカードを置く。この1ターン分の遅れが、どれだけ意味を成すか。

 わたしの選択は、正しかったのは、間違っているのか。

 それは、後のターンにわかること。

 

「《真紅の精霊龍 レッドローズ》を、召喚……マナ武装3。一枚ドローして、コスト4以下の、光のクリーチャー……《光輪の精霊 ピカリエ》を、バトルゾーンに……ドローして、エンド」

 

 

 

ターン4

 

小鈴

場:《カラフル・ナスオ》《勝利のリュウセイ》

盾:5

マナ:5

手札:2

墓地:5

山札:22

 

 

場:《ララァ》《レッドローズ》《ピカリエ》

盾:5

マナ:4

手札:4

墓地:0

山札:24

 

 

 

 クリーチャーが並んできちゃったな……

 こっちもできることは少ないからどうしようもないけれど、先に仕掛けられるか、ちょっと不安になってきた。

 

「《白骨の守護者ホネンビー》を召喚。山札から三枚を墓地に置いて……」

 

 ここで墓地に落ちたのは《解体人形ジェニー》《白骨の守護者ホネンビー》《エヴォル・ドギラゴン》。

 これは、どうしようかな。

 二枚目の《ホネンビー》を手札に加えて、《グレンモルト》か《シーザー》が来るのを待つ? でも、それよりも早く恋ちゃんに動かれちゃったら、きついかもしれないし……

 うーん……

 

「……《エヴォル・ドギラゴン》を手札に加えるよ。残った2マナで《爆砕面 ジョニーウォーカー》も召喚。破壊はしないで、ターン終了」

 

 結局、わたしは次のターンに攻撃する選択を取った。

 光文明は除去は得意じゃないし、たぶん、次のターンまでわたしのバトルゾーンは無事だ。

 だけど、この選択が正しかったのかどうかは、わからない。

 攻め急いじゃってるのかもしれない。不確定で、不明瞭な未来に怯えてしまったのかもしれない。

 

「《ララァ》で、コストを2、軽減……《指令の精霊龍 コマンデュオ》を、召喚……一枚ドローして、コスト5以下の、光のクリーチャー……《閃光の精霊龍 ヴァルハラ・マスター》を、バトルゾーンへ……ターンエンド」

 

 

 

ターン5

 

小鈴

場:《カラフル・ナスオ》《勝利のリュウセイ》《ホネンビー》

盾:5

マナ:6

手札:1

墓地:7

山札:19

 

 

場:《ララァ》《レッドローズ》《ピカリエ》《コマンデュオ》《ヴァルハラ・マスター》

盾:5

マナ:5

手札:3

墓地:0

山札:22

 

 

 

 恋ちゃんは、さらに二体のクリーチャーを追加する。

 これは、ちょっとまずいかも……

 

「早く決めないと……わたしのターン!」

 

 とはいえ、恋ちゃんの場にはブロッカーの《ピカリエ》がいるし、そんなに簡単には決められない。

 でも、ここで手をこまねいていたら、それこそ守りを固められちゃうかもしれない。

 大丈夫。今ならまだ、わたしには攻撃を突き通す手段がある。

 恋ちゃんが完全な防御態勢に移行する前に、攻め切る。

 

「……6マナをタップ! 《ジョニーウォーカー》を進化!」

「来る……か」

 

 久々の登場だね。

 今は、あなたの力が必要だから、力を貸してほしい。

 《グレンモルト》も《ロマノフ・シーザー》もいないけれど、あなただけはいる。

 だから、今この時。その力を、示して――

 

 

 

「――《エヴォル・ドギラゴン》!」

 

 

 

「……あいかわらず……出しにくい切り札、チョイス、する……らしい、けど」

「行くよ、恋ちゃん! 《エヴォル・ドギラゴン》で攻撃! Tブレイク!」

「通す……」

 

 《エヴォル・ドギラゴン》は、バトルに勝てば何度でも攻撃できる。だから、事実上ブロッカーは通じない。

 そのまま、恋ちゃんのシールドを三枚、まとめて叩き割る。

 

「ん……トリガー、ない」

「なら、《勝利のリュウセイ・カイザー》でWブレイクだよ!」

「それは……それも、通す……ノートリ……」

 

 恋ちゃんは《勝利のリュウセイ》の攻撃も、ブロックしなかった。

 これで恋ちゃんのシールドはゼロ。ブロッカーが構えているから、《カラフル・ナスオ》では攻撃できないけど……シールドがなければ、ブロッカーを踏み越える《エヴォル・ドギラゴン》で突破できる。

 勝てる……の、かな?

 

「ターン終了だよ」

 

 次のターン、《エヴォル・ドギラゴン》が残っていれば、ダイレクトアタックを通せる。

 シールドを増やされちゃったらどうしようもないけど、それでも、こっちにもそれなりにクリーチャーはいるし……大丈夫、だよね?

 まだ恋ちゃんがなにをするデッキなのかが見えてないのが怖いけど、このまま行けば攻め落とせるはず。

 

「私の、ターン……4マナ、《神聖の精霊 アルカ・キッド》、召喚……一枚、ドロー……」

 

 それにしても、さっきから恋ちゃん、クリーチャーを出してはカードを引いて、という挙動ばかりを繰り返してる。とても静かで、地味だ。

 とはいえそれも積み重なって、結構な数になっちゃったけど……えぇっと、これでクリーチャーは六体、かぁ。

 恋ちゃんにはもうマナがないから、このターンにできることは攻撃くらいだと思う。一斉攻撃されても《ホネンビー》がいるし、《勝利のリュウセイ》も守れるから、問題がないと言えばないんだけど。

 いや、そんなことはない。

 恋ちゃんともあろう者が、ただ意味もなくクリーチャーを並べているはずがなかった。

 

「……本当は、《アルファ》が良かった、けど……やむなし……これで、私の場に、エンジェル・コマンドが、五体……G・ゼロ」

「え?」

 

 改めて、数を数える。

 《レッドローズ》《ピカリエ》《コマンデュオ》《ヴァルハラ・マスター》《アルカ・キッド》。

 《ララァ》を覗く五体のクリーチャー。それらを揃えることが、恋ちゃんの目的だった。

 五体の天使たちが集った。それは、大天使を呼び出すために必要な儀式。

 その儀式を経て、聖なる神霊の王様が降臨する――

 

 

 

「――《聖霊王アルファリオン》」

 

 

 

 神聖で、荘厳で、偉大な、天使たちの王様。

 コスト10、パワー15500の、超大型クリーチャー。

 そんなクリーチャーが、G・ゼロ――コストゼロで、現れた……?

 これじゃあ、《ホネンビー》だけじゃ守りきれないよ……!

 

「《レッドローズ》の上に、重ねて、進化……そして、《ヴァルハラ・マスター》で、攻撃……その時、能力、発動……手札から、《スパーク》呪文を、唱えられる……唱えるのは……《ホーリー・スパーク》」

 

 恋ちゃんはさらに、追い打ちをかける。

 《スパーク》呪文。その名前は、何度も聞いた。

 光はタップが得意で、光の強力なトリガー呪文には、相手クリーチャーをタップさせるカードがたくさんある。

 そしてその多くは、名前に《スパーク》とついていた。

 この呪文も同じ。ということは、わたしの《ホネンビー》が無力化されてしまう。

 ……だけでは、なかった。

 

「ここで……《アルカ・キッド》の、能力……発動」

「ま、まだなにかあるのっ?」

「うん……私が《ホーリー・スパーク》を唱えた、ことで……手札の《聖霊王》を、召喚、する……《アルカ・キッド》を、進化」

 

 《聖霊王》を召喚って、名前で指定するの?

 というか、《聖霊王》ってさっき出た進化クリーチャーみたいなものだよね? それがまた出るってことは――

 

 

 

「――《白騎士の聖霊王HEAVEN(ヘヴン)》」

 

 

 

 わたしの状況は、悪くなる一方だった。

 中型程度のクリーチャーと侮っていたけれど、それらのクリーチャーは、進化の引き金となり、姿を変え、より強い存在へと変化する。

 

「《HEAVEN》の、能力……光以外のクリーチャーを、すべて……シールドへ」

「ぜ、全部、シールドに!?」

 

 わたしのデッキに光のカードなんて入ってないし、バトルゾーンのクリーチャーも当然、光文明ではない。

 つまり、すべてのクリーチャーが、シールドに封じ込められてしまったのだ。

 《エヴォル・ドギラゴン》でさえも。

 バトルゾーンは完全に一掃。そしてそのまっさらな戦場を駆け抜けるかのように、恋ちゃんのクリーチャーが殴りかかってくる。

 

「《ヴァルハラ・マスター》は、相手にアンタップクリーチャーがいなければ、パワー11000の、Wブレイカー……シールドを、Wブレイク」

「う……と、トリガーは……あった! 《ハムカツ団の爆砕Go!》だよ!」

「いや……それ、無理」

「え? どうして?」

「《アルファリオン》の、能力……相手は、呪文が、唱えられない……」

「えぇ!? じゃあ、このトリガーも使えないんだ……」

「あと、クリーチャーの召喚コストも……5、増える」

「そんなに!?」

 

 ノーコストで出て来るわりには強すぎじゃない!? 呪文は使えないし、クリーチャーの召喚もできなくなるなんて。

 

「攻撃、続行……《アルファリオン》で、Tブレイク……」

「うぅ、こっちにもトリガーはないよ……」

「《HEAVEN》で……Tブレイク」

 

 いよいよ、シールドが残り一枚まで追い込まれてしまった。

 このデッキ、《ロマノフ・シーザー》の能力を使うために結構、呪文も入れてるから、呪文が使えないというのはとてもきつい。

 それ以前に、恋ちゃんの攻撃可能なクリーチャーは二体残っている。

 

「《ララァ》で、最後のシールドを……ブレイク」

 

 呪文は封じられているから、S・トリガーにも制限がついてしまっているこの状況。

 えぇっと、この場合、このデッキで防げるトリガーは――

 

「――これ! S・トリガー《凶殺皇 デス・ハンズ》! 《コマンデュオ》を破壊するよ!」

「……止まった」

 

 あ、危なかったぁ……!

 進化元になるからって、ちょっとだけクリーチャーのS・トリガーを入れておいてよかったよ……お陰で命拾いした。

 

「《アルファディオス》だったら、こんなの……いや、それ以前に、《HEAVEN》、出すべきじゃ、なかった……? ……まあ、ミスったものは、しかたない……いいか。ターンエンド……」

 

 

 

ターン5

 

小鈴

場:《デス・ハンズ》

盾:0

マナ:7

手札:8

墓地:7

山札:17

 

 

場:《ララァ》《ピカリエ》《ヴァルハラ・マスター》《アルファリオン》《HEAVEN》

盾:0

マナ:6

手札:5

墓地:2

山札:20

 

 

 

 ギリギリ踏みとどまれたけど、いつもと同じく、状況が悪いことに変わりはない。

 というか、最悪だ。

 恋ちゃんのシールドはゼロ、わたしの場には《デス・ハンズ》がいるけど、同時に恋ちゃんにもブロッカーの《ピカリエ》がいるから、とどめまでは届かない。

 そしてなにより、《アルファリオン》の能力で、呪文は使えないし、クリーチャーの召喚コストは5も増えている。まともにカードを使うことさえできない。

 このターンにマナチャージしても8マナ。つまり、3マナまでのクリーチャーしか召喚できないのだ。

 3マナ以下のクリーチャーなんて、このデッキには《ジョニーウォーカー》くらいしか……

 ……ん?

 

「ねぇ、恋ちゃん」

「なに……?」

「《アルファリオン》って、召喚コストを増やすだけ?」

「……うん。召喚とか、コスト踏み倒し自体は、封じない……トリガーの、クリーチャーは、使われる……」

「そっかぁ」

 

 さり気なく墓地も確認しておく。

 今の墓地はこんな感じか……なら、行ける。

 

「7マナで《ジョニーウォーカー》を召喚するよ。破壊して、マナを増やすね」

「……《アルファリオン》、いる、から……加速、意味ない、けど……」

「わかってるよ。でもこれで――届く」

 

 恋ちゃんも、コストを支払わないで大型クリーチャーを繰り出した。

 それと同じ手段は、わたしにもある。

 本来なら呪文を介して使うことが多いけど……これだけは、そうじゃない。

 墓地の枚数を数える。

 枚数は、ギリギリ足りてる。

 だから、わたしも、出せる。

 

「わたしもG・ゼロ! わたしの墓地に、クリーチャーは六体いるから――」

「あ……この、流れ……ミシェルとおなじ……」

 

 呪文ばかりじゃない。

 どっちつかずで、選び切れないで、中途半端かもしれないけど。

 クリーチャーも、呪文も、どっちも使う。

 呪文が封じられちゃった今、わたしが取れる手段はクリーチャーだけ。

 

 

 

「――《百万超邪(ミリオネア) クロスファイア》を召喚!」

 

 

 

 呪文が封じられても、クリーチャーは出せる。

 クリーチャーが重くなっても、攻撃はできる。

 あと一撃さえ、届かせることができれば……!

 

「つきにぃ、くーご、みこと……かと思えば、ミシェル……こすず、読めない……」

「これで決めるよ、恋ちゃん! 《デス・ハンズ》でダイレクトアタック!」

「《ピカリエ》、で、ブロック……」

 

 そのブロックで、恋ちゃんの場から防御手段が消えた。

 ラスト一撃。あとは、その一撃を通すだけ。

 これで、終わらせるよ――

 

 

 

「《百万超邪 クロスファイア》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ニンジャ・ストライク……《ハヤブサ》でブロック」

「えぇ!?」

 

 ――と、思ったけど。

 乾坤一擲。わたしの最後で渾身の一撃は、無情にも防がれてしまいました。

 

「危なかった……《ハヤブサ》、引いてなかったら、死んでた……」

「ここはわたしが勝つ流れじゃなかったの!?」

「いや……私も、負けんの……イヤ、だし……」

「うぅ、そんなぁ」

「それより……終わり……?」

「う、うん。もうなにもできないから、ターン終了だね……」

「じゃあ、私の、ターン……《アルファリオン》で、とどめ……」

「負けました……」

 

 最後まで頑張ったけど、恋ちゃんには負けちゃいました……うぅ、今度こそ勝ったと思ったのに……

 ……って、普通にデュエマを楽しんじゃったけど、本来の目的はそうじゃなかったよね。

 

「恋ちゃん。結局、恋ちゃんはなにがしたかったの?」

「ん……んぅ……んー……」

 

 呻く恋ちゃん。きっと、言葉を探して、選んで、考えてるんだと思う。

 しばらくして、恋ちゃんは絞り出した言葉を口にする。

 

「その……私、コミュ障、だし、頭、悪いし……どう言えば、いいか……わかんない、けど……でも、私は、今まで……“こうやって”やってきた、から……そうやって、悩んだり、進んだり、世界が、開けたり……した、から……そうするしか、方法を、知らない、から……」

 

 あぁ……そっか。

 恋ちゃんは、伝えようとしてくれてたんだ。だけど、どう伝えればいいのかわからないから、恋ちゃんにとって最も身近なデュエマに置き換えられた、と。

 理屈はやっぱりさっぱり不明だけど、その気持ちだけは伝わった。

 ……恋ちゃんは、優しいな。本当に。

 でもいまだに、恋ちゃんの言いたいことが、よくわからない。

 

「……プレミ、した」

「え? プレミって、プレイングのミスのこと、だよね? いきなりどうしたの?」

「私は《HEAVEN》出さず、殴れば、よかった……」

「そ、そうなんだ」

「こすずは……《ララァ》、処理、すべきだった……」

「あぅ。そ、そうだよね……《グレンモルト》が来たら、一気にとどめまで行けるからって《リュウセイ・カイザー》を出したけど、そっちの方がよかったよね……」

「でも、私たちは……“そうしたい”って……そうした方が、いいかもって、思った……違う……?」

「え? う、うん。確かに……」

 

 そうだ。結果的にあれは間違った選択だったけど、わたしは「一気にとどめまで持っていきたい」と思って、あの選択をした。

 恋ちゃんもきっと「バトルゾーンにクリーチャーを残したくない」って思って、あんな選択を取ったんだと思う。

 

「そうしたいで、いい……どうするべきか……どうした方が、いいのか……それも大事、だけど……それで悩むのは……違う、と、思う……」

「すべき、こと……」

「本当に大切な、ことは……こすずが……“どうしたいか”」

 

 どうしたいか。

 わたしの、やりたいこと。

 義務ではなく、使命でもなく、欲求。

 言われてハッとさせられる。

 わたしは、ずっとずっと、正しい道を選ぼうとしていた。誰も傷つかない、誰もが幸せになれる、最も正しい、正解を。

 それが見つからなくて悩んでいたけれど……そもそも、その考え方が、間違っていた?

 いや、間違いじゃない。間違いではない。事件に関わるのも、関わらないのも、どちらも正しい道だと思う。

 けれど、わたしはその二つの道のいいところだけを取ろうとして、立ち止まっちゃってた。本当は、そんな虫のいい話はないのに。

 どちらかを選ばなくちゃならない。その、選ぶための道しるべとなるものを、恋ちゃんは教えてくれた。気づかせてくれたんだ。

 だ、だけど……

 

「それで誰かがイヤな思いをしちゃったら……」

「考えすぎ……そこが、こすずの、いいとこ……だと、思うけど……選ぶって、そういう、こと……どっちもは、手に入らない……」

 

 そう言う恋ちゃんは遠くを見つめていた。その顔はどことなく達観してて、ここにはいない誰かを見つめているかのようだった。

 

「……でも。今、見える道は……どっちもは、無理、でも……やってみれば、案外……いい結果に、なったりする……私も、そうだった」

 

 暗闇が覆っていたものが、晴れたような気がした。

 わたしが見えていなかったものを、恋ちゃんは照らして、見せてくれる。

 とても不器用だけど、優しく。

 光差す道標となってくれる。

 

「だいじょうぶ……こすずが選ぶ道は、きっと、正しい……これまでも、そうだった……これからも、そう……」

「あ、あんまり、自信ないよ……不安、ばかりだよ……間違っちゃうかもしれないし……」

「そこも、安心、していい……たとえ、間違った道に、進んでも……私たちは、こすずに、ついていくから……」

「恋ちゃん……」

 

 ……そう、だよね。

 一人じゃ、迷ってばかりで、なにもできなくて、恐れて、足も止めてしまうけれど。

 みんなが、傍にいてくれるなら――

 

「……ありがとう。恋ちゃん」

「ん……別に……見て、らんなかった、し……」

「やっぱり恋ちゃんは優しいね」

「そんなこと、ない……帰る」

「あ、待って。送るよ」

「だいじょうぶ……それより」

「なに?」

「こたえ……決まった……?」

「まだちょっと、ぐらぐらしてるけど……明日には」

「そう……なら、いい……じゃあ、また……」

「うん、また明日ね。ばいばい、恋ちゃん」

「ん……」

 

 そうして、ほんの短い間の、恋ちゃんとの対話は終わった。

 一時間も経っていないくらい。僅かな時間だったけれど……その時間の中で、わたしは、とても尊いものを、見つけられた気がする。

 あとは、気持ちを落ち着けて。この気持ちが揺らがないうちに、先輩に伝えよう。

 

 

 

 ――事件の捜査に、協力するって。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ご機嫌じゃない、お兄ちゃん」

「そう? いやまあ、事がいい感じに進んでるからかな。本当、助かったよ。彼女たちには感謝しないとね」

「ふぅーん。ま、ウチには関係ないけど」

「いやいや。そこでスタンドプレイはなしでしょ、狭霧ちゃん。確かにこれはオレへの課題だけど、同時にオレたちの問題なんだから」

「だってウチ、そういうの向いてないし」

「向き不向きは仕方ないけど、兄妹なんだからもう少し手伝ってくれても……」

「気が向いたらね」

「そんなご無体な……」

「まあでも、これはこれでそこそこ楽しいから、いい感じに気が向くかもよ? 向かないかもだけど」

「本当、狭霧ちゃんは気分屋だなぁ。できれば向いて欲しいけど、まるっきり無関心じゃないのは珍しいね?」

「善人ぶった奴が、自分たちの手の平の上で踊り狂ってるところを見るのは楽しくない? ねぇ、お兄ちゃん?」

「人聞きが悪いよ。オレは別に彼女たちを騙しているわけじゃない」

「でも、言ってないことがあるんじゃない?」

「事件の捜査とは無関係なことだからね。わざわざプライベートなことを言うものか」

「ふーん?」

「なにさ」

「別になんでも。お兄ちゃんは妹にもウソをつくのかって」

「嘘じゃないってば。オレは本当に、ただの純然たる興味で事件を追ってるよ。オレの性質は、狭霧ちゃんもよくわかってるだろう」

「まあね。でも「本当のことを言ってないだけで、ウソはついてない」って、酷い詭弁よね。動く理由はそれだけじゃないクセに」

「それはそうだけど……でも、協力者とはいえ、クライアントのことを他者に吹聴するのは、コンプライアンス的に問題だよ」

「まーたそうやって、意識高い横文字並べて煙に巻こうとする」

「だから違うって。狭霧ちゃん、さっきからなにが不満なの?」

「別に? お兄ちゃん、そんなちまちましてるから、あの人に目ぇ付けられたのかなって」

「うぐ。まあ、趣味も兼ねてるし、オレはこういうことをするのに向いてるからね。事件捜査とか、犯人探しとか、その手の依頼が来るのは道理だ。オレもなんだかんだ、楽しんでやってるとこあるしね。報酬がないのがネックだけど」

「不満はないの?」

「さっきも言ったよ。報酬がない、それだけが不満だ。でもまあ、オレたちの現状を考えると、それは仕方ないのかもしれないね。むしろここでの働きで、還元できると考えるべきか」

「前向きね、お兄ちゃんは。ウチはちょっと気に喰わない」

「もうそれはいいよ。で、狭霧ちゃんはどうしてくれるの?」

「好きにさせてもらうわ。お兄ちゃんは?」

「まずは中で探る。外は彼女らに任せて、オレはデスクワークだ。これがオレの得意分野だし、一番性に合う」

「相変わらずつまんなそう。もっと面白いことすればいいのに」

「オレにとっては、これだって面白いことだよ。狭霧ちゃんの面白いが混沌すぎるんだ」

「そう?」

「そうだよ。頼むから、オレが困るようなことはしないでね」

「お兄ちゃんの隠し事をバラすとか?」

「だから隠してないけど、クライアントの情報が漏洩されるのは困るね」

「言い訳がましいお兄ちゃん。そういうこそこそしてるの、ぶっ壊したくなる」

「やめてね!? 本当、お願いだから!」

「ウチを退屈させなければね。期待してるよ」

「ぜ、善処します……」

「んじゃ、ま、あれね。楽しくなるといいわね、お兄ちゃん」

「そうだね。計画通りに進んでくれるといいよ、狭霧ちゃん」




 作中で『新聞社』『新聞部』と表記の揺れがありますが、これは作者のミスではなく、各キャラの認識の相違です。烏ヶ森学園には『報道部』という部活があり、その中で『新聞社』『放送局』という風に部署みたいなので分かれてて、朧くんは『報道部・新聞社』の所属という設定です。ただし、『新聞社』も『放送局』もほとんど別々の部活として活動しているので、大抵の人からはそれぞれ独立して『新聞部』『放送部』と呼ばれてしまっている、という理屈です。
 なので、この辺の事情に疎い小鈴らは『新聞部』と呼称していますが、これが一騎や五十鈴などなら正式に『新聞社』と呼びます。まあ、単なる呼称の話でしかないので、そんな大事でもないんですけど。
 と、話すことないからってそんな無粋でどうでもいい設定話をしたところで、今回はここまで。
 誤字脱字、感想、その他諸々、なにかありましたら、自由に仰ってください。
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