デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 前もちょっと触れたんですけど、今回もピクシブ版のみ投稿している短編ネタが、今まで以上にダイレクトにあるのですが……今はあまり気にしないでください。
 今章が終わったくらいに、短編をまとめてこちらでも投稿するとか、なにか手を考えますので。それまで少しお待ちください。
 ……まあほら、ライトノベルとかでも、別の雑誌とかで掲載した短編ネタを本編に盛り込んだりするし、短編も編集して短編集にしたりするし、なんかそんな感じだと思ってくだされば。


34話「頼ってもいいんですか?」

 こんにちは、伊勢小鈴です。

 

きゅるるるる

 

 ……おなか、すきました……

 

「導入が……意味、不明……唐突……」

「恋ちゃん……」

「お昼だよー、お昼だよー。さあ小鈴ちゃん、今日も一緒にランチタイムだ!」

「あ、うん……そうだね」

「小鈴さん? どーしましたか?」

「いや、その……えっと……」

「小鈴、今日は購買には行かないのか? いつも四限目が終わるや否や、運動が苦手という主張が嘘だと思うようなダッシュを見せているのに」

「その後すぐにへばってるあたり、小鈴ちゃんらしくて可愛いけどね」

「そのことなんだけどね……その、みんな。わたしのお願い、ちょっとだけ聞いてもらってもいいかな?」

「小鈴が頼み事だなんて珍しいな」

「ねー」

「まあ……別に、いい、けど……」

「Ja! もちろんです! なんですか? なんですか? Was?」

「うん。えっとね――」

 

 いつもと違うことをするというのは、ちょっぴり恥ずかしいけれども。

 わたしは、ひとつの提案をする。

 

 

 

「今日のお昼は、食堂で食べない?」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「購買に行きづらいから食堂に行こうって……君らしくもないが、しょうもない理由だな」

「食堂はごちゃごちゃうるさいし人は多いし高いから、あんまり好きじゃないんだけどなー」

「ご、ごめん……」

「ユーちゃんは楽しいです! 学校の食堂って、行ったことなかったですから!」

「遠い……だるい……めんどい……もう、来たくない……」

「まだ食堂にも着いてないのに……」

 

 わたしたちは今、学校の食堂――いわゆる学食に向けて歩いています。

 お弁当がある人は教室で食べることが多いし、購買でなにかを買う人もそうだ。わたしたちはみんな、お弁当か購買だったから、今まで食堂には縁がなかったけど……今はちょっと、事情がありまして。

 

「しかし、購買の彼女と親しくしていた小鈴が、こうも避けるようになるとはね。虫けら恐るべきだな」

「まったくもって! 一生冬眠してろって話だよねー」

「葉子さんも、別に悪気があってやったわけじゃないみたいだから……でも、やっぱりまだちょっと、怖くて……」

 

 というのも、購買部で働いている葉子さん――『バタつきパンチョウ』のお姉さんと、ちょっと色々あって……わたしにも、なにがあったのかよくわかってないんだけど……

 喧嘩したとか、酷いことされたってわけじゃないけど……酷い目には、あったかもしれない。

 いや、大したことじゃない。うん、そんな大それたことじゃない……んだけど。

 どうしても、今は葉子さんには近寄り難くて、だから購買にも行けなくて。

 それで、みんなを食堂に誘ったのです。

 

「……そうだ。いい機会だし、君らに話したいことがあるんだけど」

 

 不意に、霜ちゃんが思い出したように言った。

 

「話したいこと?」

「どしたの、改まって」

「ボクらはそろそろ、彼について考えるべきじゃないかと思うんだ」

「彼?」

「若垣朧。あの腹に一物抱えていそうな先輩だよ」

 

 ――若垣朧先輩。

 この町で起きていた異変について調査するための、わたしたちの協力者。

 正確には、わたしたちが先輩に協力してるんだけどね。

 

「朧さんのことを考える? どーゆーことですか?」

「小鈴もだが、ユーも大概に警戒心が薄いな。最初から思っていたことだ。彼の目論見だよ」

「目論見って?」

「彼はなにかをボクらに隠して、そして企んでいる……かもしれない」

 

 霜ちゃんは、少しだけ歯切れ悪く言った。

 

「企んでる? 朧さんが?」

「確証があるわけじゃないけど、明らかに彼は怪しい。事件の真相を知りたい、なんて建前でボクらをいいように動かして、裏でなにか手を引いているんじゃないか?」

「そうかなぁ? この町に住んでるなら、そういうことを気にすることもあるんじゃないかな?」

「そーですよ。ユーちゃんだって、なにか知りたいって思うことはいっぱいありますよ?」

「小鈴もユーも、楽観しすぎだ。それに、ユーの好奇心は向う見ずで衝動的だけど、彼は打算的で損得勘定ができるような人間だ。それが、ただの好奇心だけでこんな危ない橋を渡るものか。リスクとリターンが見合わないよ」

 

 だけど、その一見すると釣り合わないリスクリターンを背負って、朧さんはわたしたちと協力関係を結んでいる。

 それはつまり、実際にはそれだけのリスクをおかしてでも、得られるリターンがあるということ。

 

「あるいは、そのリスクを負わなければ得られないリターンだということだ。どちらにせよ、彼には秘密裏になにかを企んでいて、ボクらにそれを隠している。確証がないのがむず痒いが、もしそうなら、これは立派な裏切りだよ」

「……裏切り、ねぇ。まあ確かに? 隠し事されるのはいい気分じゃないね」

「でも、だからってわたしたちに危害を加えるとも限らないし……」

「害があってからじゃ遅いんだよ。今は君のお人好しに付き合って、事件が解決したことも黙っているが、本来なら適当に理由をつけて彼との協力関係を断ち切りたいところだ」

「ご、ごめん……でも、せっかくわたしたちを頼ってくれたのに、そんなこっちの都合で勝手に離れるのは、申し訳ないっていうか……」

「それを言ったら向こうだって勝手な理由でこっちに協力を要請したんだ。おあいこだよ。それに、そもそも事件は解決したんだからそんなことを思う必要もない」

 

 それは、そうかもしれないけど……

 

「でも……クリーチャーのことも、あるし……」

「その情報源として彼を頼るのは、有益かもしれないけどリスキーでもある。上手く利用できれば、文句はないんだけどね」

「小鈴ちゃんは優しいから、搾取とか無理でしょ」

「搾取って、そんなつもりはないよ。わたしは……」

「……ねぇ」

 

 と、そこで。

 くいくいと、恋ちゃんの裾を引っ張られた。

 

「まだ……続ける、の……?」

「え?」

「着いた……けど」

 

 恋ちゃんが指差す。その先には、食堂の入口。

 そんなに遠い場所でもなかったし、喋ってるうちに着いちゃった……

 

「……まあ、この話はまた後で。とりあえずボクは、彼の企みを暴く、という提案をしておくよ」

「…………」

 

 霜ちゃんの言うことも、理解できないわけじゃない。

 朧さんがわたしたちに隠し事をしてるとか、別の目的があるんじゃないかとか、そういう可能性も、確かに否定できない。

 でも、なんだか、そう思って、人を疑って、攻撃的になって、ギスギスした空気になってしまうのは。

 ちょっと、嫌だった。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「フーロぢゃ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛っ! も゛う゛や゛だぁ! な゛ん゛で゛、な゛ん゛で゛……私がなにじたっで言うのざぁ!」

「ちょっと、謡……恥ずかしい……もうちょっと、声、抑えて……鼻水も拭いて」

 

 …………

 食堂に入った途端、聞き覚えのある声と、姿。

 あの隅っこの席で向かい合っている二人の女子生徒は――もっと言えば、むせび泣いているあの人は、もしかしなくても……

 

「……さて、今日の日替わり定食はスパゲッティか。学食にしてはなかなかにお洒落じゃないか。ボクは弁当があるからなにも頼まないが、小鈴もパン食ばかりじゃなくて、たまにはこういう洒落たものを食べてもいいだろう」

「いやいや、小鈴ちゃんの胃袋的には、安価かつガッツリしたものがいいと思うよ。こっちの丼ものとか、どうかな?」

「ねぇ、みんな、あれ……」

 

 わたしが指差そうとしたら、霜ちゃんに制されて腕を下げさせられ、みのりちゃんに抱きしめられるように視線を無理やり変えさせられました。

 

「小鈴。世の中には関わらない方がいい人間というものが存在するんだ。アレは確実にその類だよ。なにより、知り合いだと思われるのが恥ずかしい。あそこには誰もいない。いいね?」

「で、でも……」

「そうそう。無視安定だよ」

「それにしても、随分と品数が少ないね。そこまで人が混雑しているってわけでもなかろうに。選択肢が少ないというのは、由々しき問題だ」

「ねー。まさかの丼物は売り切れ全滅してるみたいだし、ここはコスパで対抗するという手を思いついたよ。素うどんあたりをわんこそば的に食べ尽くすのはどうだろう?」

「マナー的にはあまり良いとは言えないが、小鈴の食欲を満たすことを考えるなら悪くないかもしれないね」

 

 有無を言わさない圧を放つ二人に、気圧されそうになる。

 いやでも、あれは無視できないというか、あそこにいるのって……

 

「で、でもさ、あそこで泣いているのって、よ――」

「ボクにはなにも見えない。食堂に知り合いなんていない」

「右に同じく!」

「……まあ、確かに……あんま、関わりたく……ない」

 

 霜ちゃんも、みのりちゃんも、恋ちゃんまで、見て見ぬ振り。無視を決め込もうとする。

 ……だけど、一人だけは、違った。

 

「謡さん、どうしたんですか? どうして泣いてるんですか? 悲劇(トラゲーディエ)みたいに悲しいことがあったんですか?」

 

 いつの間にか、ユーちゃんがおんおんと泣いていた謡さんの傍にいて、声をかけていた。

 

「ちょっとユー! そんな面倒くさい爆弾に触れるな! それは火のついたダイナマイトだぞ!」

「こっちにまで誘爆するー! 私、二次被害はごめんだよ!?」

 

 それを見た霜ちゃんとみのりちゃんが、ギョッとしたような顔でユーちゃんを引き戻そうとするけど、謡さんには近づきたくないのか、遠くから戻ってこい、と手招きするだけだ。

 だけどユーちゃんには聞こえていないし、見えてもいないようだった。

 

「ゆ、ユーリアちゃん……」

「はい、ユーちゃんです。謡さん、悲しいことがあったら、お話しましょう? ユーちゃんになんでも話してください」

「うぅぅ……ユーリアちゃぁん……! ひっぐ、えっぐ……」

「謡……後輩にそれはちょっと、情けなさすぎる……」

 

 謡さんは、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、ユーちゃんの胸に顔をうずめて泣いていた。

 ユーちゃんはよしよしと、そんな謡さんの頭を撫でてるし……なに、この状況……?

 

「うわぁ、この先輩ガチ泣きじゃん……中学生にもなってみっともない。ひくわー、マジひくわー」

「…………」

 

 わたしも、前に本気で泣いたことがあるなんて言えない。

 それはそれとして、流石にもう無視できないというか、あっちもこっちを認識したようでした。

 謡さんが、というより、もう一人の女子生徒――北上先輩が、だけど。

 

「会長の妹さん……よければ、皆さんこちらにどうぞ。うるさいのがいるけれど」

「そのうるさい先輩の存在はまったくよくないですが、ユーがそちらに行ってしまったので、仕方なくお邪魔します」

「お、お邪魔します……えっと、北上、先輩……?」

「フーロでいいですよ。会長の妹さんですし……」

「?」

 

 眼鏡を掛けた、小柄な女子生徒――フーロさんが、隣の席を譲ってくれた。

 北上副露(フーロ)さん。お姉ちゃんや謡さんと同じ、生徒会の人だ。

 確か、副会長って言ってたっけ。ということは、お姉ちゃんに次いで偉い人、なのかな?

 二年生なのにすごいなぁ。

 

「で、これはどういうことなんですか? この人、なぜこんなにも泣き喚いているんですか?」

「あぁ、それは……くだらない、と思うかもしれないけど」

「……ット、が……」

「はい?」

 

 すすり泣く声でよく聞き取れなかった。

 もう一度聞き返す。

 そして、謡さんは、叫んだ。

 

 

 

「《ニヤリー・ゲット》が! 殿堂! しちゃったのおぉぉぉぉ! うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 ……殿堂?

 

「そんなくだらないことで、公衆の面前でこれほどの大恥を晒していたのか……」

「ごめんなさい。知人が恥知らずで」

「気持ちはわからないでもないけど、これはひくねー。マジひくねー」

「先輩。泣いているところ申し訳ありませんが、《ニヤリー・ゲット》の殿堂は妥当です。あなたもそれは理解しているのでは?」

「そーゆー問題じゃないのぉー! うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

 ぐすぐすと、ユーちゃんの胸の中で泣き続ける謡さん。

 恥も外聞もなく大声で泣いてるから、なんだか周りの視線も……なんでちょっと生温かい感じの視線なの?

 冷たいわけでも、怪訝そうでも、不安そうでも、心配そうでもなく「あぁ、またこの子か……」みたいな視線はなに?

 

「これだけ大勢の生徒の前で、ここまで本気で泣ける神経がわからないですね。無恥にもほどがあるのでは?」

「謡は食堂の常連だし、食堂に来る人は固定化してるから……それに、この子のテンションのアップダウンなんて、いつものこと……皆、慣れてる。今日はいつもよりも激しいけれど」

 

 フーロさん曰く、そういうことらしかった。

 

「あ、あの。それで、謡さんはなんで泣いてるんですか?」

「自分のデッキにとって重要なカードが殿堂入りしたから、だろう」

「でんどーいり?」

「……え? ユー、今まで殿堂レギュレーションを知らずにデュエマしてたのか?」

 

 ユーちゃんの発言に、驚愕の表情を見せる霜ちゃん。

 殿堂レギュレーション……ちょっとだけ聞いたことある気がするけど、そういえばわたしも、あんまり詳しくは知らないなぁ。

 デュエマでは使っちゃいけないカードとか、入れる枚数に制限のあるカードがある、くらいのことはわかるんだけど。

 

「まあ、簡単に説明するとだ。この先輩は、今まで四枚使えていたカードが一枚しか使えなくなってしまって、その悲しさや嘆きで泣いていたと、そういうことだ」

「そうなんですか? それは、確かに悲しい、ですね……」

「冷静に考えて、ノーコストで三枚も手札補充できるようなカードが四枚も積めるのがおかしいんだけどね」

 

 《ゼロの裏技ニヤリー・ゲット》……そういえば、謡さんはよくそのカードを使ってたなぁ。

 そのたびに、強いなぁ、すごいなぁ、って思ってたけど、強すぎてデュエマのルールを整備しているところ(公式って呼ぶらしいです)から、使用枚数に制限を設けられてしまったそうです。

 

「それで謡のデッキは大幅に弱体化。私は《ガンバトラー》の恐怖から逃れられた代わりに、この泣き叫ぶ不要牌を抱え込むことになってしまったの」

「先輩も大変ですね」

「えぇ、とても」

 

 呆れたように溜息をつくフーロさん。

 でも、自分の愛用しているデッキが、そういう風に制限を受けちゃったら……なんだか、悲しいよね。

 それに、今の謡さんのデッキは、謡さんが強くなるために、あえていつもの切り札を抜いたデッキだけど。

 謡さんの本当の切り札は別にあって、その切り札が戻って来るデッキは……

 

「うぅ、ぐす、えっぐ……あうぅ……」

「謡、いい加減にして。会長に言いつけるよ」

「それはやめてぇ。フーロちゃん、後生だからぁ……」

「だったら後輩にみっともない姿を晒すのをやめて。ほらもう、こんなに胸元を濡らしちゃって……謡がごめんなさい」

「いえ、ユーちゃん気にしてません。悲しい時には、泣くものですから」

 

 ようやっと謡さんは泣き止んで――まだちょっと、目尻に涙を浮かべてるけど――ユーちゃんから離れた。

 そして、わたしたちをぐるりと見回して、

 

「ぐすん……妹ちゃん。珍しいね、食堂にいるなんて」

「いまさら……」

 

 まるで初めてわたしたちに気付いたみたいな反応だった。

 まあ、さっきまですごく泣いてたしね……

 と、そこで、ふと思い立ったように、霜ちゃんが先輩たちに言葉を投げかけた。

 

「……そういえば、先輩方は二年生ですよね」

「そうだけど。それが?」

「若垣朧という男子生徒を知っていますか?」

 

 それは、朧さんのことだった。

 そうか。朧さんは二年生。そして、謡さんたちも、二年生。

 学年が同じというだけだけど、わたしたちよりも朧さんのことを知っている可能性がある。

 霜ちゃんとしては、あるかもしれない朧さんの企みを暴きたい、っていう気持ちがあるわけで、そのための情報収集だ。

 わたしとしても、朧さんがなにかを企んでいるというのは考えたくないけど、先輩のことを知ることは、先輩の信用を得ることにも繋がる。

 ……こっそりとやっていることに、罪悪感がないわけでもないけど……

 そして、霜ちゃんの問いに対して、先輩たちは、

 

「朧君? 朧君が、どうかしたの? っていうか妹ちゃんたち、朧君のこと知ってるの?」

 

 意外そうに、目をぱちくりさせていた。

 まあ、いきなり下級生が、接点がなさそうな先輩のことを尋ねても、変だと思われるよね……

 だけど、謡さんたちの反応は、ただ単純に怪訝なだけでもない。

 これは、朧さんのことを知っているという前提で、驚いているんだ。

 

「その様子だと、先輩も知っているんですね」

「知ってるもなにも、クラスメイトだし」

「ひょっとして、お友達、なんですか?」

「友達とは、呼べないと思う。若垣さんと、本当の意味で友好を結ぶのは、簡単なことじゃないだろうから」

「私は友達っぽくしてるつもりなんだけど、まあ確かに朧君、なーんか上手いこと流すもんね。仲良くなれそうな最後の一歩が届かない、みたいな」

「そんな感じ……名前の通り、なんだかおぼろげで、掴みどころがない人」

「で? なんで君らは朧君のこと知ってるの? というか、なんで彼のことなんか知りたいわけ?」

「あぁ……それは、ですね」

「うちのクラスに若垣狭霧さんっていう、若垣先輩の妹さんがいるんですけどね。その妹さんとクラスで一緒に活動することがありまして、その時にお兄さんの話を聞いたんです。そこで、どんな人かと少し興味を持っただけですよ」

 

 謡さんに問われて、霜ちゃんが少し返しに詰まったところで、すかさずみのりちゃんが答えた。

 なんとも流れるようなウソ……重要な真実を一切合切伏せた上での綺麗で偽りのある文言だった。

 でも、仕方ないよね。朧さんから、わたしたちの協力関係については他言しないようにって言われてるから。

 ……あれ? でも、確か霜ちゃんの目的って……

 

(水早君、あの先輩の裏をかきたいんじゃないの? あの人との秘密を隠す必要なくない?)

(彼らにボクらの動向を知られるわけにもいかないからね。下手に事を表面化させたくない。動くなら、少しずつ慎重に、だ)

 

 と、いうことらしいです。

 まあ、わたしとしても、大事にならないのなら、それに越したことはないんだけど。

 

「へぇ、朧君、妹さんもいたんだ。お姉さんがいるのは知ってるけど。なんて言ったっけ? あや……綾波さん、だっけ?」

「私はお兄さんがいるって聞いたけど」

「弟さんもいるって言ってたっけなー」

「……実は適当なことを吹聴してるんじゃないのか?」

「うーん……」

 

 ちょっと否定しづらいです。

 狭霧さんが妹さんっていうのは、わたしたちが直に見ているから真実なんだけど、そんなにたくさん兄弟姉妹がいるというのは、ちょっと信じにくい。あり得ない、とも言えないんだけど。

 

「嘘っていうか、その場凌ぎで適当なことを言った可能性は、否めない、かもしれない」

「どういうことですか?」

「謡、よくウザ絡みするから……その場のノリで」

「あー」

「ちょっとそれどういう意味かな? フレンドリーじゃない?」

「そう思ってるのは自分だけですよ、セーンパーイ」

「あんまりしつこく聞いてくるから、適当な受け答えをして流したってのはありそうだ。ボクも実子にそんなことされたら、そうする」

「水早君? 私、この先輩と同じってこと?」

「みのっちは私と一緒は嫌なの?」

「少なくともその呼び方は好きじゃないです」

「じゃあ別の呼び方を考えておくよ」

「話が脱線してきたな」

 

 霜ちゃんが一瞥すると、みのりちゃんと謡さんは引き下がった。

 

「まあ私も適当にあしらわれてるなー、ってのはわかってたよ。朧君、わりと平気で嘘つくし、そーゆー奴だってのは知ってるもん」

「でもそれは、謡がしょうもないことばっかり聞くからでしょう。彼女だとか、初恋の相手だとか」

「ちょっとしたコミュニケーションのつもりだったんだけどね。どうにも朧君相手だと、接し方が難しくて」

「結構、クラスでは浮いてる人、なんですか?」

「そうでもないよ? 普通にお喋りしてくれるし」

「……でも、あれはきっと、浮かないように自然に溶け込んでる演技も、含まれてる。と、思う」

「演技なんて、大なり小なり皆してるもんじゃない?」

「そうだけど……」

 

 フーロさんは、なにか言いたげだったけど、それを飲み込んだ。

 

「まあでも、やっぱちょっと、油断ならないっていうか、一筋縄ではいかない感じあるよね」

「ちょっと、秘密主義者、っていうか」

「友人とかはいないんですか?」

「うーん、あんまり特定の誰かと仲良くしてるとこは見ないけど……あ、空護君とは、なんかよく話してる気がする」

「焔さんね……彼も、なんだか曲者な雰囲気あるし、波長は合うのかもしれない」

「……くーご……?」

 

 謡さんとフーロさんが出した名前に、恋ちゃんが反応した。

 

「恋ちゃん、知ってる人?」

「私の……」

「私の?」

「……せん……ぱ、い……?」

「なぜ疑問形なんだ?」

「恋さんの先輩……ということは、学援部の人、ですね!」

「ん……まあ、そんな、とこ……変な奴……」

 

 自分の先輩に変な奴、だなんて……恋ちゃんは相変わらずというか、なんというか……

 

「部活と言えば、朧君は新聞部だったね」

「新聞社、ね。報道部二部署の一角」

「細かいことはいいんだよ。朧君、友達はあんまりいなさそうだったけど、同じ部活の人とはそれなりに仲良いみたいだよ。なんか今も、目を付けてる後輩がいるとかって。なんか名字が自分と似てる、みたいな理由で」

「まあ、同じ部活の人となら納得ですかね」

 

 その後も、朧さんのことを色々と聞いてみたけれど、どれもこれも表面的なことばかりで、あまり実りのある話とは言い難かった。

 

「まあ、ゆって私たちもたかだかクラスメイトだし、そんなに知ってるわけでもないんだよね。ごめんね」

「いえ、そんな、十分です……ありがとうござました」

「なにか聞きたいことあるなら、こっちから聞いといてあげようか? いやむしろ色々聞いて来るよ」

「あ、いえ、そこまでは……」

「そう? 遠慮することないのにー。先輩なんてコキつかってナンボだよ?」

「謡、それは語弊がある。あなたがサボるから、そのしわ寄せが先輩たちに行ってるだけ」

「あれー? そうだっけ?」

 

 フーロさんの苦言に、とぼけたように返す謡さん。

 今まで、生徒会の人を交えてちゃんとお話しすることって、あんまりなかったけど……謡さん、生徒会だとこんな感じなんだ……

 なんていうか、いつもより……いや、これは思うだけでもダメだよね。

 

「先輩、いつもの三割増しくらいで馬鹿になってません?」

「みのりちゃん!?」

 

 なんてことを! わたしでも心の中で言葉にするのを抑えたのに!

 

「え……あなたたちと一緒の時の謡って、今よりまともなの……?」

「えっと、その、それは……」

「正直、今よりは大分マシだったと記憶しています」

「謡。やっぱりいつも、手を抜いて……?」

「フーロちゃん、そんな見つめないで。可愛いけど怖い」

 

 小柄だけど、眼鏡の奥の瞳は、鋭く謡さんを睨みつけている。

 フーロさんはやがて、呆れたように息をつく。

 

「はぁ、謡ったら……」

「先輩も大変ですね」

「まったくもって。ちゃんと動けば優秀だって、会長も褒めるくらいなのに……飽きっぽいというかなんというか」

 

 そしてもう一度、嘆息。

 気苦労が絶えなさそうな人だな……副会長って、大変なんだ。

 その役職が関係しているのかはわからないけど。

 

「でも、謡じゃないけれど、あなたたちは一年生なのだから、先輩を頼るのもひとつの手。少なくとも、私たちは手が空いているのなら、快く手を貸す……会長の妹さんもいるし」

「あ、ありがとうございます……」

 

 それは、とても心強い言葉だった。

 朧さんからは他言無用って約束をしてるから、詳しくは話せないけれど……

 いざという時は、先輩たちのことも、頼ることになるのかな。

 

(……できることなら、そんな“大事”には、ならないで欲しいけど――)

 

 

 

 それからわたしたちは、食事を終えて、適当な時間で食堂を後にした。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「……ねぇ、謡」

「どったのフーロちゃん?」

 

 後輩たちが去った席の席で、フーロは謡に呼びかける。

 謡はお茶を啜りながら、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「私は今まで、色んな人を麻雀を打ってきた」

「へ? なにいきなり。フーロちゃん家が雀荘なのは知ってるけど」

「一緒に卓を囲んで、遊戯に興じると、色んなものが見えてくる。この人は理論を信じて打つ、とか、この人は加点のために失点を恐れない、とか。そんな盤上でのやり取りから、会話から、空気から、その人の人となりとかが、なんとなく、伝わってくるの」

 

 それはひとえに、彼女の実家が雀荘であり、幼少期から複数の人間と卓を囲み、遊戯に興じるという経験が豊富故の感覚であり、理論であろう。

 即ち、北上副露という少女が獲得した、一種の技能と言える。

 

「私は四姉兄の真ん中で、完全理論派(デジタル)のお姉ちゃんと、完全感覚派(オカルト)の妹に挟まれて、周りの顔色を窺いながら立ち回らなくちゃいけなかった。だから私は、一緒に卓を囲めば――それが食卓だろうと――その人の“性質”みたいなのが、ちょっとだけわかる」

「あー、そう言えばそんなこと言ってたねぇ、去年くらいに。まあ、そういうのはわかるよ。食堂で情報収集するのはスパイの鉄則だしね!」

 

 少しずれた返しをする謡。フーロはそれを訂正したい気持ちに駆られたが、それをしてしまうと、彼女のペースに乗せられる。話の腰が折れて脱線する。そんな未来が見える。

 謡のことは、彼女の感覚と理論で、既知にしている。だからここで彼女の言葉に乗るべきではないということがわかる。

 今はそんな会話を楽しむよりも、自分の言葉を、彼女に投げかける。

 

「試していた、わけではない。ただ、私がこの短い時間で感じたこと。単なる、私の所感、だけど」

「いいよ、言っちゃいなよ。気にしてるんでしょ? 会長の、妹ちゃんのこと」

「ん……うん」

 

 頷く。

 そして、フーロは、後輩たちが――会長の妹が去って行った食堂の出入り口に視線を向けた。

 

「あの子たち、なんだかちょっと――窮屈そうだった」

「窮屈?」

 

 首を傾げる謡。その言葉は、予想していなかった。

 むしろ謡からすれば、彼女らはやや特異ながらも、賑わいある良き仲間同士だと思っているのだが。

 フーロは疑問符を浮かべている謡に対して、さらに続けた。

 

「女の子の人間関係なんてそんなもの、とも言えるけど……なんだか彼女たち、見た目よりも“本性”を出していないように見えた」

「そう、なのかなぁ?」

「遠慮してるのか、我慢してるのか、よくわからないけど。自分を出さないように、抑え込んでるみたいで――あるいは、そうせざるを得ない圧力があるみたいで、、少し、息苦しそう」

「……それって、皆?」

「どう、だろう。私が顕著に感じたのは、銀髪の子と、男の子だけど……きっと他の子も」

「大なり小なり、そういうところあるって?」

「うん。そしてきっと、その圧力の原因は、あの子――会長の妹さん」

「…………」

 

 抑え込む。自分を、本性を、制限する。

 確かに人間関係とはそういうものだ。周囲に染まり、環境に合わせ、適応し、迎合する。そのためには、自我を抑え込むことも、時には必要だ。

 しかし、フーロは知らないはずだが、彼女たちは何度も修羅場を潜ってきた仲間。あるいは戦友とも言える仲だ。そしてなにより、彼女たちの多くは、あの少女に救われている。

 そんな身も心も通じ合っているだろう彼女たちが、互いを縛り合っている? そんなことが、あるのだろうか。

 いや、その縛りが、彼女が発端であるのなら。

 だからこそ、なのか。

 

「妹ちゃん……か」

 

 中心にいる人物が彼女だからこそ、彼女の仲間は、友人は――その枷に、囚われているというのか。

 

「会長にも、そういうところあった。あの人のは、他人(私たち)の目標を、あの人の目標に収束させるっていう意味で、私たちの本心を抑制させることにあったけど」

「カリスマってやつだね」

「彼女のは会長とは逆ベクトル、みたいな……そう、会長が人を進めるなら、あの子のは、押し留めるような……現状維持とか、停滞とか……」

「あんまりいい言葉じゃないね」

 

 現状維持。停滞。

 それは、進歩を止めてしまう言葉だ。

 先がない。未来がない。成長がない。

 ずっと、今のままを肯定し、受け入れてしまう、優しくも恐ろしいものだ。

 

(いや、でも、妹ちゃんなら……)

 

 彼女の性格は、確かにそういうものだ。

 そしてそれは、彼女だけにとどまらず、彼女の周囲にも、伝播している……?

 果たしてそれは良きことか。それとも――

 

「……ごめんなさい。変なこと言った」

 

 顔を上げる。

 フーロは、申し訳なさそうに項垂れていた。いつもクールで毅然な容貌を装う彼女だが、謡や会長の前では、その仮面も少しだけ綻ぶ。

 もっとも彼女は、謡たちの前でも、その格好付けを保とうとするから、このような表情は比較的レアなのだが。

 謡は少しだけ考えた。頭の中に浮かんだ「レア顔」という言葉を口に出すか、否か。

 いつもなら流れるように口にしてしまうのだろうが、今回は押し留まった。であれば、考えなければならない。正解が、どちらか。

 しばし逡巡し、謡は手元のお茶を啜って、すべて飲み込んだ。

 お茶も、言葉も。

 謡は喉にすべてを流し込むと、カップを置いた。

 

「んく……いや、いーよ。気になったんでしょ?」

「うん、まあ」

「フーロちゃんが会長絡みになると熱くなるのは、私も知ってるから。あの子たちの前で言わなかっただけいいんじゃない?」

「でも、謡は私より、あの子たちと……」

「気にしすぎだよー。そりゃあ、私もいつになく真剣に考えちゃったけどさ。でも、それはそれだから」

 

 人間関係で抑圧や制限があるのが普通なのなら。

 コミュニティによって、違う自分に成り変わるのもまた、当然のこと。

 彼女たちの仲間であり先輩としての自分と、北上副露の同僚であり友人である自分は、同一であり別々だ。

 そのくらいは、切り替えるべきである、と。

 

(なんて普通さは、あんまりヒーローっぽくないかな。いや、むしろ普通を偽る方がヒーローっぽい? っていうか、違う自分にーなんて、スキンブルじゃあるまいし――)

 

 少しだけ自嘲を滲ませて、そんな雑念もお茶と一緒に胃袋へと追いやった。

 そう。それはそれであり、これはこれだ。

 彼女が後輩への所感を述べることと、自分が後輩たちに寄せている信頼は、必ずしも反発させなくてはならないわけではない。

 

「フーロちゃんがそう思ったなら、そう言えばいいよ。今の私は君の友達の謡ちゃんだからね」

「謡……流石に自分でちゃん付けは、痛い」

「えぇ!? そこは感極まるところじゃない?」

「感極まるほどの台詞でもない……でも、ありがとう」

「ふふふ、どういたしまして」

 

 残ったお茶を飲み干す。

 そして謡は、フーロの背後に回った。

 

「いやはや、しかしフーロちゃんの会長マニアは、遂に妹ちゃんにまで進んだかぁ。会長好きすぎでしょ」

「っ、そ、そんなことない、から……」

「私もフーロちゃんとは似たクチで会長には恩があるけど、あそこまでベッタリじゃないもんねぇ」

「だから、違うから……」

「またまたー」

 

 言いながら、謡は後ろからフーロを抱きすくめた。

 フーロは露骨に嫌そうに顔を歪ませて、鋭い視線を謡に向ける。

 

「ちょっと、やめて。触らないで」

「そんなこと言わずにさー。ふぅ、フーロちゃんはちっちゃくて可愛いなぁ」

「このロリコン……」

 

 鬱陶しそうに腕を払い退けられながら、そしてそれでもフーロにしがみ付こうとしながらも、謡は別のことを考えていた。

 それは、彼女たち――自分たちの、小さな後輩らのことだ。

 

(疑惑、か……)

 

 フーロのそれは、ただの個人的な感想でしかないが。

 彼女たちに少しでも疑いのような眼を向けてくれたおかげで、謡としてもハッキリした。

 

(あの子たち、私になにか隠してるな……朧君絡みなのか、それとも妹さんの方なのかは。わかんないけど)

 

 彼女たちが抱える、謎について。

 疑いたくないという信心が謡の目を曇らせていたが、それも晴れた。

 そんなことはないという思い込みは払拭された。

 よって、どんな理由があるのかは不明だが、彼女たちは恐らく、隠し事をしているだろうという嫌疑が、確固たるものとなる。

 そしてそれが実感として確かなものになったのなら、謡としても、動かないわけにはいかなかった。

 

(後でスキンブル呼んで、こっそり調べさせよう。それから朧君についても聞いておくか……私が干渉するべきかは、それを知ってから判断すればいいよね)

 

 彼女たちのことだ。隠し事なんて慣れないことをするからには、優しくも甘い理由があるか、誰かに唆されたか、といったところだろう。

 きっと自分が踏み込んでも問題はないと、謡は判断する。

 

(……いいや、違うな)

 

 そうではない。問題ないから、探るのではない。

 そんな理屈ではない。これはもっと、短絡的で衝動的なことだ。

 その衝動に従って、謡もまた、先に進んでしまった後輩たちの背中を、追いかける――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 放課後。

 霜ちゃんは、朧さんがなにを企んでいるのかを明らかにしたいと言って、彼のところへと行く提案をした。

 なにを企んでいるのか、なんて疑ってかかるのは、あんまりよくないと思うんだけど……でも、疑念を晴らすにも、やっぱり直に朧さんと話をしなきゃ、どうにもならない。

 それに、クリーチャーのこともある。朧さんのくれる情報は、雑多だけど、わたしたちにはない力だから。

 だからそれもアテにして、朧さんが根城にする空き教室へと向かったんだけど、

 

「……なんだか、妙に小奇麗ですね?」

 

 いつもは色んな資料とかがあちこっちに散らばっている教室だったけど、今日はそういったものは見られない。

 見えるのは、机の上のノートパソコンと、なぜか奥の窓際に立っている朧さんだけだ。

 

「……やぁ。今日も来たんだね」

「えぇ、まあ……それより、先輩はどうしてそんなところに?」

「ちょっと部屋の換気をね。ずっと部屋にこもりっぱなしだと、空気が淀んで気分が悪くなるから」

 

 朧さんは言いながら窓を開けて、部屋の中央――ノートパソコンのある机まで戻ってきた。

 その最中、霜ちゃんは室内をぐるっと見回して、先輩がこっちに来たところで、口を開く。

 

「そんなことより、この部屋が散らかってないなんて、どうかしたんですか?」

「いや、オレだって部屋の片づけくらいはするよ」

「でも、今までしてなかったじゃないですか。どういう風の吹き回しですか?」

「そんな風に言われるのは心外だね」

「なにかあったんですか?」

「別に? 大したことはないよ」

 

 ニコニコと、爽やかな笑顔を見せる朧さん。

 けどその笑顔は、少し爽やかすぎた。

 

「先輩、隠し事は裏切りですよ?」

「隠し事だなんてそんな」

「例の事件に進展があったんですか? それなら、ボクらにも情報を共有してくれないと困ります。幼児連続殺傷事件の方でも、動物惨殺事件の方でも、あるいは別の切り口でも」

「進展かぁ……いやぁ、あるような、ないような……まあ、君らの求めるものはないんじゃないかな」

「歯切れ悪いですね」

「やっぱなんか隠してません? せーんぱーい?」

「隠してない隠してない」

 

 両手をブンブンと振って否定する先輩。

 だけど、みのりちゃんと霜ちゃんは食い下がる。

 

「水早くーん、シラを切るつもりだよ、この先輩」

「協力者に隠し事とは、新聞記者にあるまじき態度だと言わざるを得ないな」

「だから隠してないってば。言うまでもないと思っただけで」

「それを隠し事と言うのですよ、先輩」

 

 朧さんがついに白状した……

 朧さんは、バツの悪そうな表情で、ノートパソコンを立ち上げる。

 

「話してもらいましょうか、先輩」

「うーん、君らも知ってることだと思うけどなぁ」

 

 どことなく不満げに言いながら、朧さんはカタカタとノートパソコンを操作する。

 

「君たち、最近のニュースは見てない?」

「最近の……?」

「ユーちゃんは見ましたよ! 今日のおてんきよほーは、一日晴れです!」

「だからニュースだよ、ユーちゃん……」

「ニュース……眠くて……聞いてない……」

「電気代がもったいないから、テレビなんて滅多に見ないよ。ゲームする時くらいかな」

「スマホのニュースでもいいんだけど……まあ、いいや。ピンと来てないみたいだから、教えるよ」

 

 と言って、朧さんはノートパソコンに開いたページを見せてくれる。

 ニュースサイトの一記事だ。その見出しは……

 

「『警察署から脱走犯 青果店荒らす』……?」

「あぁ、これか」

「どんなニュースなんです?」

「見たまんまだよ。犯罪者が脱走して、八百屋を荒らしているらしい。あ、こっちがその人相写真ね」

「怖そうな顔の人です……」

「いや……わけ、わかんないから……八百屋……?」

 

 そういえば、朝のニュースで流れていたような……

 詳細までちゃんと覚えてなかったから、画面に映る記事を読んでみる。

 内容は、二日前、拘留中だった男の人が脱走した。そして、その後、近辺の八百屋さんや畑を荒らしまわっている……ということ、らしい。

 

「なんとも言えない珍事件だ。脱走まではともかく、なぜ青果店や畑を襲うのか、さっぱりわからない」

「脱獄犯が野菜とか奪ってる場合じゃなくない?」

「厳密には、荒らされているだけで窃盗ではないんだけどね。なんにせよ意味不明な怪事件なんだけど、その被害は決して小さくない。うちの学食の入荷にも影響が出ているくらいだしね」

「あ、それで品数が少なかったんだ……」

「で? それだけじゃないんでしょう?」

「うん。実は、オレの調べた限りだと、犯人はこの町まで来ている可能性が高いんだ」

「こ、こわい、ですね……」

「ふむ。それで?」

「いや、それでじゃないよ。だって犯罪者だよ? 脱獄犯だよ? ヤバすぎるでしょ、流石に。怖いって」

「え、いまさら……」

 

 さも当然のように、事態の深刻さを訴える朧さん。いや、当然のように、ではない。当然だからだ。

 言われてわたしもハッとする。クリーチャーとかで感覚がおかしくなっていたけれど、犯罪者が逃げ出したって、考えてみればすごい大事件だ!

 

「しかもこの犯人、結構な前科持ちみたいでさ。窃盗とか、傷害とか、強か……っと、まあ、色々やらかしてるっぽいんだよね」

「それで、その犯人がこの町にいると知って、恐れをなして投げ出した、と」

「その通りだ」

 

 キッパリと言い放つ先輩。

 言ってることはもっともだ。なんだけど、それは、なんていうか、その……

 

「先輩、ダサいです」

 

 わたしがなんとも言えない気持ちでもごもごしていると、みのりちゃんが切って捨ててしまった。

 みのりちゃん、容赦がなさすぎるよ……でも。

 

「ダサくて結構! 我が身よりも大事なものがあるものか!」

 

 クワッ! と目を見開いて、力強く宣言する先輩。

 先輩の返しも、それはそれでどうなのでしょう?

 いや、その発言は、ごもっともなんだけど……

 

「オレの興味で下手に動いて、犯罪者なんかとご対面しちゃったらたまったもんじゃない。人質とか嫌だよ、オレ」

「臆病者と罵りたいのだが、言ってること自体は至極まともで正常だから、ボクも困ったよ。この先輩、変に潔くないか?」

「でも、確かに危ない、よね……えっと、例の事件もあるし」

 

 本来、わたしたちが追っている(ことになっている)幼児連続殺傷事件。そして動物惨殺事件。

 それに加え、脱走犯だ。この町は混乱の渦中にいると言っても過言ではないくらい、混沌としてきている。

 

「君たちも、早く帰った方がいいよ。色々危ないから」

「先輩は帰らないんですか? 危険だと主張するのなら、あなたが真っ先に帰宅しているのが自然だと思いますが」

「オレも家遠いし、早く帰りたいんだけどね……でも、今日はちょっと、事情があって」

「事情? 密会ですか? もしかして、彼女とかですかー?」

「想像はご自由に」

「あ、もしかして妹さん……狭霧さんですか?」

「妹と学校で密会する意味はないだろう」

 

 心配そうな表情で、携帯を掲げる朧さん。

 先日、狭霧さんがムカデに噛まれた時にもすごい怒ってたし、やっぱりこの人、狭霧さんに振り回されてはいるけれど、妹さんのことを大事に思ってるんだなぁ……

 

「まあ、オレの約束なんてどうでもいいじゃない。ちょっとクラスメイトと用事があるだけだよ」

「なんか怪しいですねー。なんの取引するんですかー?」

「怪しくないから。取引とかしないから」

「では、そこまで言葉を濁すというのは、ボクらに言えないことなのですか?」

「いや、言えないっていうか、なんていうか……」

 

 半分面白がって追究するみのりちゃんと、真面目に問い詰める霜ちゃん。

 どっちもどっちだけど、人の言い難いことを無理やり聞き出すのは、よくないんじゃないかな……

 流石に朧さんがかわいそうになってきて、二人を止めようかと思っていると、不意に恋ちゃんが窓の外に視線を向けて、ぼそりと呟いた。

 

「……来る」

「え? なに?」

「足音……」

 

 足音?

 と聞き返す前に、わたしの耳にも、その音は届いた。

 誰かが、すごい勢いで走っているような、バタバタという激しい足音が、廊下から聞こえてくる。

 一体、誰だろう。この人気のない場所に来るということは、その人が朧さんの待ち人なんだろうか。

 というか、そうでなくては困る。もしも先生とかに、空き教室を無断使用していることがバレてしまったら、怒られちゃう。

 けれど、扉を開けた人物は、そのどちらでもなかった。

 長い髪を振り乱して、息を荒げながら、突入してきたのは――

 

「鈴ちゃん! やっと見つけたのよ!」

「っ!? よ、葉子さん!?」

 

 ――葉子さん。本当の名を『バタつきパンチョウ』さん。

 最近、購買部で働き始めた、蟲の三姉弟のお姉さんだった。

 格好は、購買部のエプロンを付けたままで、手にはビニール袋を持っていた。

 いや、というか、なんで葉子さんがここに……?

 

「教室にもいないし、もう帰っちゃったのかと思ったけど、最後まで諦めずに探した甲斐があったのよ。まさかこんなところにいるとは思わなかったけど」

「え、あ、えっと、その……」

 

 どうしよう。上手く言葉が出ない。

 わたし、この前のこと、まだ引きずってるみたい。

 葉子さんは戸惑うわたしの前まで歩み寄る。ただそれだけなのに、わたしは委縮してしまって、なにも言えない。ただ一歩、後ろに下がってしまうだけ。

 い、一体、わたしになんの用なんだろう……

 この前のこともあるし、少し怖いと感じてしまう。

 けれど、

 

「鈴ちゃん!」

「は、はいっ」

「ごめんなさい!」

「は……はい?」

 

 怖いどころか、葉子さんは、わたしに頭を下げた。

 頭どころか、膝をついて、すごい勢い――頭を床に打ちつけようかというほどの勢い――で、頭(こうべ)を垂れる。

 いわゆる、土下座だ。

 

「よ、葉子さん!? き、急にどうしたんですか!?」

「この前のことを謝りたくて……私、妹が欲しいあまり、鈴ちゃんに酷いことしちゃったから……ごめんなさいなのよ!」

「あぁ、そ、そのことですか……」

 

 まさか葉子さん、わたしに謝るために、わざわざここまで来てくれたの?

 ……なんだか、避けてたわたしが馬鹿みたいというか、悪いことしちゃったなぁ……

 

「も、もういいですよ、葉子さん。そんな土下座なんてしなくても……」

「いいの? 鈴ちゃん、怒ってない?」

「怒ってませんから。だから、とりあえず頭を上げてください」

 

 わたしがそう言うと、葉子さんの表情がパァッと明るくなる。

 

「ありがとうなのよ、鈴ちゃん!」

「いえ、その……わたしも、ごめんなさい。葉子さんは謝ろうとしてくれたのに、逃げちゃって……」

「いいのいいの! 気にしないのよ! それよりこれ! 私からのお詫びの印なのよ!」

 

 葉子さんは、手にしたビニール袋をわたしに差し出した。

 なんだろう? お詫びの印って。

 中を覗き込んでみると、そこには、

 

「わぁ……! おいしそう……!」

 

 なんと! たくさんの、パンが入っていました!

 

「こ、これ、全部もらってもいいんですか!?」

「いいのよ。私の勤め先で貰ったものだけど、ぜーんぶ鈴ちゃんにあげるのよ!」

「ありがとうございます! 葉子さん!」

 

 中身は一種類だけみたいだけど、こんなにたくさんのパンがもらえるだなんて!

 やっぱり葉子さんは、いい人だなぁ。

 

「あのパン、なんなんですか?」

「あれは、購買部の人気商品ワースト一位のサラダパンだね。彼女ほどでないにしろ、食に飢えた中学生がサラダなんて健康志向なものを食べるはずもないし、ダイエット等を心がける女子にしたって、あんなパサパサのパンとしなびた野菜を一緒に食べるくらいなら、コンビニで売ってる野菜スティックを食べるさ」

「つまり?」

「美談に見えるけど、客観的には売れ残りを押し付けているだけだよ、あれ。本人たちは善意のみでやり取りしているようだけど」

「……小鈴、君って奴は……」

「私は小鈴ちゃんが幸せなら、それでいいけどねー」

 

 たくさんのパンをもらって喜んでいると、なぜだか横から生温かい視線を感じる。

 どうしたのかな? みんなも食べたいのかな? それならそう言えばいいのに。

 すると、不意に葉子さんが朧さんへと視線を向けた。

 

「あら? あなたは……」

「……どうも」

 

 どことなく、苦く乾いた笑みを浮かべる朧さんに対して、葉子さんはニッコリと満面の笑みで返した。

 それから葉子さんはくるりと踵を返す。

 

「それじゃあ、実は私、まだ購買の片づけが残ってるから! 鈴ちゃん、またねー!」

「はい! パン、ありがとうございました!」

「いいってことなのよ! それじゃあ、ばいばーい!」

 

 そして、そのまま廊下に出て、去って行ってしまった。

 葉子さんが立ち去ってから間を置いて、霜ちゃんが朧さんに向き直り、尋ねる。

 

「……先輩、購買のあの人と視線を合わせていましたが、なにかあるんですか?」

「別に。オレも購買を利用することがあるから、顔を覚えられただけだよ」

「本当ですか?」

「購買をあまり利用しない君らにはピンと来ないかもしれないけどね、今の購買はそういうところだ。彼女は顧客それぞれを、大雑把ながらも記憶している節がある」

「はぁー? 購買の利用者数なんて知らないけど、大人数で利用されるとこで、そんなことあるはずがないっしょ。先輩、適当なこと言っちゃぁ……」

「本当だよ? 葉子さん、お客さんひとりひとりの顔を覚えて接客してたもん」

「小鈴ちゃんが言うなら間違いないね」

「おい実子」

「小鈴ちゃんは最も信頼できる証人じゃない?」

「それはそうだけど」

 

 霜ちゃんはなにか言いたげだったけど、最終的には口を噤んだ。

 葉子さんなら、購買を利用している朧さんの顔を覚えていても不思議はないし、見知った顔を見かけたら声をかけたり会釈するくらいは当たり前のことだとさえ言える。

 

「これは余談だけど、彼女が購買部に勤めてから、購買部の総売り上げは二割ほど上昇しているんだ。あの朗らかな人柄に惹かれた人が少なくないようで、彼女目当てに購買に通う生徒もいるくらいでね。もはやアイドル……いや、看板娘ってやつかな、あれは」

「葉子さん、明るいし、優しい人だもんね。スタイルもいいし」

「……弟の方はあんなにやる気ないのに、姉は随分と学校生活をエンジョイしてるんだな」

 

 半ば呆れたように息を吐く霜ちゃん。

 

「……にしても……こすず、それ……大量……」

「そ、そうだね。鞄の中には……ちょっと、入り切らないや」

「だいじょーぶですか?」

「入り切らない分はポケットに入れておくけど、ギリギリかな」

「いくつか置いて行ったらどうだ?」

「ダメだよ! ちゃんとしたところで保管しないと、悪くなっちゃうんだから!」

「そ、そうか、ごめん……」

 

 確かに個包装されたパンはある程度は日持ちするけれど、日に日に状態が悪くなって、時間が経つほどに美味しさも落ちてしまう。

 だからわたしは、そうならないように、一刻も早く適切な場所に適切な方法でこのたくさんのパンを保存しなくちゃならないのです。

 

「みんな、今日はもう帰ろうよ」

「……尋問……あきらめる……?」

「小鈴ちゃんがこの様子じゃねー」

「まさかパンひとつで小鈴に主導権を握られるとは……というか、小鈴に怒鳴られるとは思ってもみなかったよ……」

「そう……意外と、へこんでる……」

「無駄にプライド高いもんね、水早君」

「言ってろ」

 

 なんとかたくさんのパンを、制服のポケットやカバンに詰め込む。

 持って帰るのは大変だけど、こんなにたくさんのパンを貰えたのはとても嬉しい。

 やっぱり葉子さんは、優しいいい人だなぁ……

 

「それじゃあみんな、いこっ」

「……では、やや不本意ながらもボクらは帰宅しますので」

「また今度、彼女さんとの進展具合とか聞かせてくださいねー」

「だから違うって……あぁ、もういいや。うん、君らも気を付けて帰ってね」

 

 最後にそう言い残してから、わたしたちは、朧さんの根城の教室から退室した。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「はぁ、やっと追い出せた……」

 

 アポイントメントも前触れもなく現れる後輩女子たちを部屋から追いやって、一息つく朧。

 常に彼女がたちが訪れる可能性は考えている。毎日それをを想定して、準備はしている。

 しかし朧とて万能なわけではない。普通の、とは言えないまでも、どこぞの生徒会長や学生生活支援部長のような完璧超人ではないのだ。むしろ、あらゆる物事に対して高性能を発揮するよりも、ある一点の技能に特化したタイプだ。

 あらかじめ予想して動く、ということも、本来の彼が持つ特化した技能の副産物のようなものではあるが、それが本質ではない。本質ではないからこそ、その副産物は完璧ではない。

 もっとも、彼女らが、彼女と繋がっていることは知っていたので、これは他言無用という契約条件に驕って見落としてしまった自分の失態でありミスでもあるのだが。この詰めの甘さもまた、完璧とは言えない朧のスペックの限界とも言える。

 さて、ではそんな完璧ではない彼が犯したミスとはなにか。

 朧は部屋の扉を閉めてから、振り返って、視線を彷徨わせる。

 小鈴たちが部屋を訪れた時に朧が立っていた窓際――ではなく。

 それよりももっと後方に位置する、部屋の隅に設置された、掃除用具を収納する古びたロッカー。

 

「さて、非常に困ったことになったな。オレはただ、クライアントの要望通りにしようとしただけなのに、彼女たちを追いやるために、できれば切りたくないカードを切る羽目になってしまった。オレの話術もまだまだ未熟だということを思い知らされるよ。やはり、一度植えつけられた不信感をその場で払拭するのは簡単ではないね。それでも、できれば今回ばかりは、大人しく引き下がって欲しかったと悔やむばかりだ」

 

 朧は誰の姿もない虚空へと語りかける。

 まるで、そこに誰かがいるかのように。

 ――否。

 いるかのように、ではない。

 彼は、語りかけているのだ。

 そこにいる、誰かに。

 

 

 

「ねぇ……長良川さん」

 

 

 

 ギィ、と。

 ロッカーの扉が軋む音を鳴らして、開かれる。

 ちょうど人間が一人分ほどならば入る大きさのロッカー。

 そこから、ぬっと人影が這い出てくる。

 

「君が悔しいように、私も悔しいよ、朧君。後輩にかかる毒牙を見抜けなくてね」

 

 その人影は、謡――長良川謡だった。

 いつもの気さくな雰囲気は失せ、気楽な瞳は消え、剣呑で真剣な空気と視線で、朧を睨みつけている。

 

「でも、後悔するよりも先にすべきことがあるね、朧君。君、私の後輩となにやってるの?」

「オレの後輩でもあるけどね。なに、ちょっとしたお手伝いだよ。お互い合意の上で成り立ってるから、なんの問題もない」

「会話になってない。私は問題の有無を判断したいんじゃないよ。質問に答えてほしいな」

「オレが答えてもいいと思うことなら、いくらでも答えるけどね」

「答える気はないって?」

「曲解しないで素直に言葉を受け取って欲しいな。額面通りの意味だよ」

「……事は、私が思ってる以上に深刻だったのかもね」

 

 ――霜は朧のことを疑ってかかっていたが、実際のところ、朧はなに一つとして嘘はついていない。

 女子と密会というのも、その相手がクラスメイトだというのも、すべて真実。目の前にいる謡こそ、朧の密会相手なのだから。

 

(まあ、密会って言っても、いきなり押しかけてきたんだけどね……どうやってこの場所を嗅ぎ付けてきたのやら)

 

 見つけようと思えば見つけられる場所ではある。しかしそれ以前に、どうして彼女は、朧を“探そうとした”のか。

 探そうとするその意志がなくてはここは見つからない。問題は、そこだ。

 

(長良川さんも伊勢さんたちと繋がっているけれど、そっちの方は口止めしたはずだし……伊勢さんがオレのことを長良川さんに漏らした? なんて、彼女の性格的にあり得ない。じゃあ水早君か、香取さんか、日向さんか……あるいは――)

 

 ――単独で動いているのか。

 

(伊勢さんたちの気配を察して咄嗟にロッカーに隠れるくらいだし、長良川さんも、伊勢さんたちには内密で動いてるってことなのかなぁ。そうなら好都合ではあるんだけどね。オレとしても、伊勢さんたちと長良川さんたちのラインを繋いだ上での協力は遠慮したいところだし……だけど)

 

 視線を、目の前の謡に向ける。

 いつも教室で見る彼女は、騒がしくもにこやかに笑っているものだが、今の謡は違う。

 鋭い眼光で、険しい表情で、こちらを睨みつけている。

 そして、一呼吸置いてから、告げた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「朧君」

「なにかな」

「君は馬鹿な私と違って頭がいいし、案外、周りもよく見てる。だから、ちゃらんぽらんでも、私がどれだけ生徒会に入れ込んでいるのかも知ってるはずだよね」

「うん。理解はしているつもりさ」

「なら、こんなこと、わざわざ言うまでもないかもしれないけど、あえて言うよ。空き教室の無断使用は、れっきとした校則違反。つまり、生徒会への報告案件だよ」

「あぁ、そうだね。烏ヶ森学園中等部校則、第五条十二項、教室利用に関する禁則事項に抵触しているね。それで?」

「それでって……」

「報告内容は、オレの校則違反のことだけ?」

「…………」

「もっとわかりやすく言おうか。“校則違反者はオレだけ”?」

 

 卑しい言い訳だ。

 自分だけではないという主張。違法駐車や違法駐輪において使われる、言い訳の常套句だ。

 そんなつまらない理屈をこねて、逃げ切るつもりでいるのか。

 謡は朧の卑俗さを罵りたくなったが、ここで感情的になったら、付け入る隙を与えてしまう。今は罵倒よりも言うべきことがある。湧き上がる熱を抑え込んで、務めて冷静に、次の言葉を紡ぎ出す。

 

「この部屋の状況を鑑みるに、私的利用していたのは君だけだと思うけどね」

「私物のノートPCだけでそう判断されても困るなぁ。それにそもそも、本当なら勝手に入るだけでもダメなんでしょ? それなら彼女たちも同罪だ。それとも、生徒会役員ともあろう人が、見て見ぬ振りをするの?」

「細かいことをグチグチと……」

「それはこちらの台詞さ」

「君は、そんなにあの子たちを巻き込みたいの?」

「巻き込む? なにを言っているのかな? オレはただ、公正で公平にあろうとしているだけだよ。すべての事実を明らかにする。記者としては当然のことさ」

 

 白々しい物言いだ。その言葉が、声が、謡の神経を逆撫でする。

 と思いきや、朧は急に声のトーンを変えて切り替えした。

 

「いやごめん。悪かった。長良川さんが強い言葉で威嚇するから、ついムッとして言い返してしまったけど、これは確かに“オレたち”が悪い」

「…………」

「これはちょっと魔が差しただけなんだよ。立派な校則違反だというのは理解していたけど、認識が甘かった。今では反省もしているし、二度目の違反はしないと誓おう……だから、今回だけは見逃してほしいな」

「下手に出て情を誘おうって魂胆? 流石に見え透いてるんじゃない?」

「そんなことはない。けど、情というのなら、長良川さんは、彼女らにはなんとも思わない? 伊勢さんたちについてはさ」

「っ!」

 

 伊勢。その、よく知る名を聞いた瞬間、謡の身体が強張る。

 

「彼女も一応、オレの協力者みたいなものだからさ。オレのやってること、やったことと無関係ではないんだよね。勿論、善いことも、悪いこともだ」

「なにそれ。脅迫のつもり?」

「まさか。ただ事実を詳らかにしているだけだよ。長良川さんに、現状がどういうことになっているのかを、過不足なく正確に認知して欲しいからね」

 

 朧がなにかしらの悪巧みをしているだろうと、謡は踏んでいる。その内容までは不明だが、少なくとも現状では「空き教室の無断使用による校則違反」という、彼を告発するカードはある。

 しかしそのカードにはリスクがある。伊勢小鈴や、彼女の友人らを巻き込むというリスクが。

 それを、わざわざ謡に示すということは、どう考えても人質だ。

 朧はさらに続ける。

 

「伊勢会長は、不正は許せない性格だよね。多少の便宜を図るくらいならまだしも、私的な理由で悪事の隠蔽やら揉み消しだなんて、彼女の正義感が許さないだろうし、世間体も悪い。それは、彼女の手足たる君がよくわかってるんじゃないかな?」

「でも、その悪いことに引き込んだのは、君だよ。朧君」

「引き込んだなんて、人聞きの悪いことを言わないでくれよ。これは契約だ、互いに持ち得るカードを晒したうえで合意した決まり事だよ。つまり、善悪も損得も、すべてお互いに判断して納得している。オレも、勿論、伊勢さん自身もね」

「……朧君は会長のことあんまり知らないのかもしれないけど、あの人、身内には結構甘いよ。妹ちゃんの軽い校則違反程度なら、なんてことない」

「あぁ、確かにそうかもね……でも、庇えても伊勢さん一人じゃない? 実の妹以外も庇うほど甘いとは思えないし、それに数も多い。たくさんの人間の行いを隠すのは簡単じゃないよ。もっと言えば、日向さんは学援部の部員だしね。学援部と対立している生徒会が見逃せるものかな?」

「それは、君の言い分次第じゃない……かな。君に、彼女らを守る気があるのなら」

「あるさ。でも、できればオレは真実だけを口にしたい。今までもそうだし、これからもね」

「どの口が言うのかな、それ」

「現にオレはここまで、嘘はついてないよ。虚言ってのは、嵌れば強いけど、リスクが大きい。特に力の強い人相手にはね」

「なにが言いたいの?」

「オレが会長相手に下手に嘘ついて、後から発覚したら、それこそ大問題になるってことだよ。反省の色が見えないってやつだ。それで罪が重くなっては損失が大きくなってしまう。それならオレは、最初から全部自白して、小さなリスクを被る方を取るよ。リターンがあってもハイリスクというのは、やはり怖いからね。そうじゃない?」

「それは……」

「それに、学援部まで飛び火したら、流石に無視も決め込めないし、隠蔽だって難しい。彼女らもグループぐるみで学援部と交流があるしね。それを踏まえて、もしそんなことになったら、友達思いな伊勢さんは悲しむんじゃないかな?」

「っ……こいつ……!」

 

 ああ言えばこう言う。謡の言葉はすべて、ひん曲がった理屈で返される。

 それも、伊勢小鈴という儚い少女を盾にしているのだから、タチが悪い。

 歯噛みして、目の前の男の醜悪さに耐える。その声も、息遣いも、姿も、なにもかもが不愉快だった。

 けれど、彼の口は止まらない。

 

「オレとしては罰を受けることも吝かではないんだけど、伊勢さんたちにまで迷惑をかけるのは本望じゃない。だけど、ここでオレを告発してしまえば、伊勢さんたちにも火の粉が降りかかることは免れないだろうし、それは体面的によくない。オレはできるだけ穏便に済ませたいんだ。誰も困らないような、誰もが傷つかない平和な結末があるならそれで満足――」

「もういい!」

 

 思わず、叫んでしまった。

 感情的になったら負けだというのに。いや、負けたからこそ、叫んでしまったのだろう。

 しかし耐えられなかった。この男の卑劣さ、醜悪さに。これ以上、彼の卑しい言葉を耳にしたくなかったから、打ち切ってしまった。

 朧はそんな謡に対して、肩を竦める。その所作も不快だった。

 不愉快さが極まって、謡も思わず毒づく。

 

「君が腹に一物抱えてるのは感づいてたけど、こんな邪悪で陰湿な奴だったとはね」

「そんなに怒らないでほしい。オレだって遺憾なんだ。これは不幸な事故みたいなものだよ」

「本気で言ってるならぶん殴るよ」

「それは困る。痛いのは嫌だからね」

 

 握り拳をちらつかせると、朧は後ろに下がりながら卑しい笑みを浮かべる。本当に殴ってやりたかった。

 しかし、こうなってしまえば、謡はもう、どうしようもない。非常に癪な話だが、彼の言う通り、彼を告発するすることはできない。それをしてしまった場合、失うものが多すぎる。

 謡としても、できれば彼女たちに傷ついてほしくはない。特に目を付けている鈴の彼女には。

 善意で人を救える彼女に、悪意の醜さを、その刃を向けたくはなかった。

 遺憾と言うのなら、自分の方が遺憾だと言いたい。なにかを守るために、拳を降ろし、目の前の害悪を見逃さなくてはならないのだから。

 しかし、それでも、まだすべてを諦めるには早い。

 謡は朧に問うた。

 

「……朧君。君の口は、本当に嘘をつかない?」

「そう信じてほしいな。少なくとも無意味な嘘なんてつかないよ、オレはね。真実と信用については熟知しているつもりだ。記者だからね」

 

 胡散臭い言葉ではあったが、実際ここまで彼は、嘘をついているようには見えなかった。

 ただ、真実を隠しているだけで。

 

「なら教えて。妹ちゃんは――小鈴ちゃんたちは、なにをしているの?」

「それは、真実のすべては話せないな。なぜなら、オレにも未知の領域があるからね」

「やっぱり一発殴る……!」

「待った待った! 最後まで聞いてよ!」

 

 拳を振り上げると、朧は焦ったように両手で制止する。

 

「はぐらかそうってつもりじゃなくて、そのままの意味なんだよ。協力の話を持ちかけたのはオレだけど、無理強いはしていない。彼女たちは、彼女たちなりの意志と目的があってオレと手を組むことを許諾してくれたんだ」

「だから? もっとわかりやすく言って。私、頭悪いから」

「つまりオレたちは、協力はしてても仲間じゃない。相互利用の関係にあるんだ。そしてオレは、彼女たちの目的までは把握していない。それはオレの目的とは無関係だからね。だからオレが語れるのは、オレと彼女たちを繋ぐ共通項の部分だけなんだよ」

「……まどろっこしい言い方するね」

「事実を正確に伝えようと思ってね。端的に伝えると誤解を生みかねないから。特に、今の長良川さんにみたいに、興奮してる人が相手だと」

「あっそ……まあいいよ。話せることがあるなら、全部話して。さっき言ってた事件のことも、全部だよ」

「はいはい。承りましたよ」

 

 こんな形で知ることは、不本意ではあったが。

 しかしこれも、彼女らが自分に隠していることは、それだけ大きな出来事だからということなのだろう。

 朧から、これまでの彼と彼女らの行動について聞き出すと、謡は教室から出て行った。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ふぅ……」

 

 彼女が出て行ってから、数十秒。

 朧は椅子に腰かけ、背もたれに体を預けながら、嘆息する。

 

「……最悪の一手だ、これは。よく生き延びたな、オレ」

 

 嘆くのは今さっきの出来事。予想だにしない来客だ。

 長良川謡。伊勢小鈴らと繋がる、自分の級友。

 まさか彼女がこのタイミングで乗り込んでくるとは思わなかった。そしてそのせいで、“優先事項”を厳守するために、あまりにも大きなものを失ってしまった。

 

「せっかく穏便に事を済ませようとしたのに。よりにもよって、長良川さんを敵に回してしまうなんて……これは面倒くさいことになりそうだなぁ。色々根回ししとかないと。焔君とか手伝ってくれないかなぁ……ダメだよなぁ。流石にグレーゾーンすぎる。彼そこまでオレには優しくないから、学援部から漏れる可能性は低くなさそうだ。そうなってもまずい」

 

 とりあえず、生徒会への情報漏洩はギリギリで防げたと信じたい。その点は、相手が謡で助かったと言える。これが生徒会張本人だったら、問答無用だっただろう。

 

「まあ、長良川さんだからこそ厄介なこともあるんだけどね。これはもう、伊勢さんたちに動いてもらうのも難しくなったかな? そうなると、クライアント(あの人)との契約も見直さなくちゃいけなくなるのかなぁ。やだなぁ、面倒くさいし。誰か代わってくれないかな――」

「お兄ちゃーん」

 

 一人でぶつぶつと嘆いていると、教室の扉が勢いよく開かれた。

 妹が、やって来たようだ。

 

「狭霧ちゃん。前にも言ったけど、もう少し静かに入ってきてよ。一応、ここ秘密の場所なんだから。もうバレちゃったけど」

「ふーん。それより、一人なの? あいつらは?」

「今日のお客さんは皆帰ったよ。オレももう帰るとこ」

「そっか。じゃあ一緒に帰ろ」

「またメロンソーダたかる気? やめてよね、オレもう破産してるようなものなんだから」

 

 と言いつつも甘やかしてしまうのは、我が身と同じく可愛い実の妹だからか。

 彼女が抱いた欲望、要求には逆らえない。我ながら、なんとも因果な身だと思う。

 兎にも角にも、今日はどっと疲れた。手早く荷物をまとめて、帰り支度をする。

 

(これは計画の見直しも視野に入るかなぁ。契約の見直しも含めて情報共有して、あのお姉さんにも相談して……オレの身の振り方は、それから決めるか)

 

 憂鬱になるが、起こってしまったことは覆せない。

 この流れに逆らわず、できるだけ良い潮流を引き込めるよう、尽力するしかなかった。

 

「まったく、やらせにもほどがある。これじゃあ、実益の価値の方が下がっちゃうってもんだよ――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 教室を飛び出してから、謡は一直線に昇降口を抜ける。

 途中、生徒会室の前を横切った時、同期と上司に僅かばかりの謝罪をしたが、迷いも公開もなかった。

 目的は一つ。後輩たちを追い掛けること。

 今すぐにどうこうという話でもないだろうが、忠言を送るのならば、早いに越したことはない。

 

「変に気を遣わせたくなかったから黙ってるつもりだったけど、ちょっとこれは見過ごせないしね」

 

 これでも人間関係については弁えているつもりだ。いつでもお気楽なわけじゃない。生徒会だって場合によっては、人と人との間にいざこざが起こるもの。そういった現場は何度も経験しているし、そうならないようにも努めてきた。

 だからこそ、能天気でありたい。そんなしがらみに囚われたくはないと願うのだが、人の心の機微は酷く繊細で脆い。考えなしに触れれば、あっという間に狂ってしまう。

 しかし今回ばかりは、多少狂おうとも、手を出さざるを得ない。謡はそう感じていた。

 若垣朧。ただの陰気で秘密主義なクラスメイト程度にしか考えていなかったが、想像以上に危険な香りを匂わせる男だった。

 

「こんなことなら、咄嗟に隠れるんじゃなかったな。いや、でも、そっちの方が危険だったかな……いや、過ぎたことはもうどうでもいい」

 

 それより今は先のことだ。

 校門も通り抜けて、謡の足が止まる。

 理由は、彼女の前に現れた一つの小さな影だった。

 

「おっと、スキンブル。ちょうどいいところに来たね!」

 

 それは小さな猫――スキンブルシャンクス。謡の飼い猫であるが、それだけでは言い表せないほどの相棒であり、パートナー。

 今はそのフットワークの軽さを生かして、情報収集などを任せていた。朧の潜伏場所を突き止めたのも、彼の功績である。

 スキンブルはぴょんぴょんと跳ねるように謡の身体の上を駆け上がり、肩に乗る。そして前足をぐりぐりと謡の頬に押し付けた。

 

「え、えっ? な、なに、なんなの? スキンブル、なにかあった?」

 

 一度は彼と一体となった身。言葉がわかるわけではないが、スキンブルの考えや言いたいことは、なんとなく伝わる。

 しかしどうにも焦っているようだった。いまいち要領を得ないというか、気ばかりが急いてまるで伝わってこない。

 

「……もしかして妹ちゃん絡み? もうすぐまずいことになりそう? ……そっかぁ。なら、急がないとだね!」

 

 詳しいことはわからないが、それは道すがら、もしくは現地で知ればいいだけのこと。

 朧のこともそうだが、それ以前に彼女らは、既に危ない橋を渡っているのだ。たとえ、彼女たちに戦う力があったとしても、多くの仲間に囲まれていたとしても、危険であるという事実は変わらない。

 特に、人を疑えない、人を信じることを信じすぎている無垢な少女には、そんな醜悪な世界は酷であろう。

 誰かが守ってやらなくては。そんなものは傲慢であるが、彼女の心を、悪意から守る盾は必要だ。

 だから、

 

 

 

「だから――私だけのけ者ってのは、嫌なんだよねっ!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 朧さんと別れて、帰路に着いたわたしたちは、葉子さんから貰ったパンの封を開けていた。

 

「もぐもぐ……えへへ、こんなにもらっちゃって、ちょっと悪い気がするなぁ」

「そのにやけ顔、微塵も悪いとか思ってないよね」

 

 けど、貰ったパンがちょっと多すぎて、ここで消費しておかないと、ぜんぶ潰れちゃいそうだったんだよね。

 わたしとしても、お行儀が悪いというのはわかっているんだけれど、でも、買い食いと食べ歩きは、それはそれで乙なものだからね。

 け、決してパンの誘惑に負けたわけじゃないんだよっ!

 ちゃんとみんなにも分けてあげてるし!

 

「うわ、なにこれ、まっず……」

「パン、パサパサ……野菜、いらない……」

「まるで粉ひき屋さん(ミュラー)が食べるみたいなパンです……」

「粗食に過ぎる食べ物だ。小鈴の悪食疑惑が浮上したね」

「うーん、わたしはおいしいと思うんだけどなぁ。ヘルシーだし」

「いくら低カロリーでも、まずかったら本末転倒だよ、小鈴ちゃん」

 

 みのりちゃんはそんなこと言うけど、わたしは好きだよ、サラダパン。

 もぐもぐとパンを咀嚼する。確かにパンの質という点では、他のパンにはちょっと劣るかもしれないけど、野菜と併せたこのヘルシーさがいいと思うんだけどなぁ。アッサリしてるし。

 とそこで、わたしはふと思い出して、鞄を開けた。

 そして、大量のパンで埋もれたオルゴールの箱を取り出す。

 

「鳥さん鳥さん。起きて起きて」

「んん……なんだい? 楽しい午睡の真っ最中なんだけど」

「鳥さんも一緒に食べよう。葉子さんからたくさんパンをもらったんだよ」

 

 せっかくみんなで食べてるんだから、一人だけ仲間外れもかわいそうだしね。

 鳥さんにもサラダパンをひとつ、ちぎってあげる。鳥さんは雛鳥みたいに、くちばしで器用にパンを受け取って飲み下した。

 

「……なんだいこれは。乾燥してて不味いね」

「そんなことなくない? ほら、今度はこっちの野菜と一緒に食べてみて」

「むぐむぐ……いや、やっぱり不味い。前に食べたオニオンなんちゃらの方が数段美味しいね」

「あれちょっと高くていいやつだもん。そりゃあ、あっちの方がおいしいだろうけどさ……」

「僕には冥界神話どものような悪食の趣味はない。昼寝を続けさせてもらうよ。昨晩もずっとクリーチャーを探してて、凄く眠いんだ。おやすみ」

「あ、ちょっと鳥さんっ」

 

 言うが早いか、鳥さんは身体を倒して目を瞑って、あっという間に寝てしまった。

 もう、せっかく葉子さんから貰ったのに、失礼な鳥さんだよ。

 

「まあでも、鳥さんも一生懸命、クリーチャーを探してくれてるんだもんね」

 

 クリーチャーを探すことは、今この町で起こっている二つの事件を解決する手掛かりにもなる。

 だから、休むべき時には、ちゃんと休ませてあげた方がいいんだよね。

 わたしは鳥さんの寝床(オルゴール)を仕舞おうと、再び鞄を開ける。

 

「あっ、っとと、わわっ!」

 

 けど、ちょっと勢いよく開けすぎちゃって、うっかり鞄を落としてしまう。

 ファスナーを開けたまま落としちゃったから、当然、中身も散らばる。葉子さんから貰った大事なサラダパンが、道路に散らばってしまった。

 

「小鈴ちゃん! 大丈夫?」

「大丈夫……けど」

「これはまた、随分と派手にぶちまけたな」

「一緒に拾いましょう、小鈴さん」

「う、うん、ありがとう」

 

 とりあえず、このパンたちを拾わなきゃ。

 わたしも一旦、鳥さんのオルゴールを地面に置いた。

 鞄の中にギッシリ詰め込んじゃったから、結構たくさん出て来ちゃった……うっかりしてたよ。

 手分けして、急いでパンを拾い集める。散らばったパンのうち一つに手を伸ばす。

 すると、わたしの手よりも先に、誰かがそれを拾い上げた。

 

「あ、ごめんね。わたしのドジでみんなにも手伝って、もらっちゃっ、て……?」

 

 それを拾ってくれたのは、恋ちゃんか、ユーちゃんか、霜ちゃんか、それともみのりちゃんか。

 一緒に拾ってくれているみんなの誰かだと思ったけど、違った。

 

「……え?」

 

 見上げると、高い人影。みのりちゃんよりも、ずっと大きい。

 女の子の身体じゃない。それは、男の人だった。

 

「ヤ……」

 

 ベリベリッ、とパンの包装が破られる。

 サラダを挟んでいるパンが落ちる。野菜もポロポロと零れ落ちる。

 けれど同時に、すり潰すような咀嚼の音が聞こえた。

 

「……サイ、バ……タケ……コレ、チ……ガ、ウ……ドレ、ドコ……ニ」

 

 一心不乱にサラダパンに、しかもそのサラダにだけ食らいつく男の人。まるでなにかに憑かれているように、狂気的なまでに、わたしのパンを貪っていた。

 

「……モ、ト」

「え、あの……」

「チ、ガウ……モット……ソレモ……クウ、クレ……サガ、ス……ドコ、ダ」

 

 なにかが光った。

 けど、わたしは目の前の出来事の意味が、なにが起こっているのか、まるでわからなくて、呆然としてしまっていた。

 

 

 

「――小鈴!」

 

 

 

 その、声を聞くまで。

 霜ちゃんの声で、ハッと我に返る。そして気付く。

 いつかどこかで覚えがある。これは、この煌めきは――

 

(ナイフ――!)

 

 ヒュッ! と空を裂く音。同時にわたしは、ほぼ反射的に、後ろに倒れるように身を退いた。

 そしてそれは、わたしの前髪を僅かに攫って、振り下ろされる。

 

「っ……!」

 

 ドスッ! と鈍い音が響いた。

 わたしは、とんでもない失敗をしてしまったのかもしれない。わたしが身を退いたことで、わたしは確かにナイフから逃れることができた。

 けれどそのナイフは、深々とオルゴールの木箱に突き刺さっていた。

 

「と、鳥さん!?」

 

 あのオルゴールは、鳥さんの住処であり寝床。そして今も、鳥さんがお昼寝で使っている真っ最中。

 そこにナイフが突き刺さったということは、中の鳥さんも――

 

「なんだなんだ!? 急に寝床が揺れたと思ったら変な気配が……って、蓋が開かないぞ! どういうことだ!? 小鈴、なにがあった!?」

 

 ――無事、のようです。

 よ、よかったぁ……本気で心配しちゃったよ。ただ、ナイフのせいで箱の中から出られなくなっちゃったみたいだけど。

 それに、

 

「な、なんなんですか、あなたは……!」

 

 この、男の人だ。

 人のパンを勝手に食べたり、いきなり刃物を突き付けてきたり、ちょっと普通じゃない。

 っていうかこの人、なんか、どこかで見たことがあるような……?

 

(……あ! そうだ、この人、朧さんに見せてもらった記事の……!)

 

 この町の畑や八百屋さんを荒らして回っているらしい、脱獄犯。

 ネットニュースにあった写真の顔と一緒だ!

 

(で、でも、なんか変……)

 

 さっきから、散らばったパンを拾っては、パンを捨てて野菜だけを貪っている。

 それに、なんだか目も据わってるというか、虚ろというか……

 すると不意に、その眼がこちらに向いた。

 

「コレ……ジャ、ナイ……チ、ガウ……ソ……レ」

「え?」

「ソ、レ……モ……ヨコ、セ。ヤ……サイ……」

 

 見れば、その手にはもう一振り、大きく湾曲した禍々しいデザインのナイフ。

 それを、振り上げていた。

 

「ボケッとするな! 小鈴! 早く立て!」

「小鈴ちゃん! こっち!」

 

 腕を引っ張られる。同時に、また刃物が一閃される。

 

「なにがなんだかわからないが、とりあえずヤバイ! 早く逃げるよ!」

「で、でも鳥さんが……!」

「あんな鳥肉ほっときなよ! きっと大丈夫だから! あいつ、明らかにこっち向かって来てるし!」

 

 みのりちゃんの言う通り、脱獄犯の男の人は、ふらふらと危うげな足取りで、だけれどしっかりとわたしたちに向かって、歩を進めていた。

 

「あれ……クスリとか、やってたん、じゃ……?」

「色々前科持ちだったらしいしね、その可能性はあり得る! どちらにせよヤバさがさらにランクアップしただけだけどね!」

 

 わたしは、みのりちゃんに腕を引かれ、無我夢中で走り続ける。大人の男の人が本気で追いかけてきたら、女子中学生のわたしたちじゃとても逃げ切れないけれど、脱獄犯の人も様子がおかしくて、遅くはないけど速くもない。遅くなったり速くなったり、挙動が変だった。

 なんていうか、わたしたちに向かっているのに、わたしたちを見ていなくて、ずっとよそ見をしながら追いかけて来ているみたいな……

 

「はぁっ、ふぅ……もう、無理……」

「恋ちゃん!」

 

 走っていると、恋ちゃんが音を上げた。

 元々身体が強くないし、体格もわたしたちの中で一番小さな恋ちゃんは、体力がない。50メートルを全力で走りきるだけでも精一杯なほどだ。

 だから、ちょっとの距離でも全力で走れる時間はごく僅か。そして早くも、恋ちゃんの力が尽きてしまった。

 息を荒げて立ち止まった恋ちゃんに、脱獄犯の人の影が忍び寄る。

 

「ドコ、ダ……ドコ、ニ……ソレ……オ……マ、オマ、エ、カ……!」

 

 定まらない視線で、妙なことを口走って、男の人はその手にナイフを握り込む。

 鋭利な刃が煌めく。その切っ先は、恋ちゃんに向く。

 

「だ、ダメ――!」

 

 咄嗟に、みのりちゃんの腕を振り解いて、手を伸ばす。

 でも、届かない。わたしの短い腕では、遅い足では、恋ちゃんまでは、届かない。

 あと少しでも、わたしが大きければ。もう少しだけ、わたしが速ければ。

 そんなことを悔やんだところで、わたしでは、恋ちゃんを助けられない。

 そう――“わたしでは”。

 

 

 

「――スキンブル!」

 

 

 

 小さな黒い影が、物凄い勢いで飛び出した。

 黒影は弾丸のようなスピードで男の人に飛びかかると、その勢いのまま男の人の顔に飛びついた。それに怯んでしまい、相手もナイフを取りこぼす。

 その後に続いて、恋ちゃんを守るように前に出る、女の人。

 その人は――

 

 

 

「ヒーローは遅れてやって来るとか、そんなこと言ってらんないね、こいつは……でも、間に合って良かった」

 

 

 

 ――謡さん、だった。

 そして男の人に飛び掛かったのは、小さな猫――スキンブルくんだ。

 

「大丈夫かな、れんちゃん。怪我とかない?」

「ん、ない……ありがと」

「どういたしまして」

 

 謡さんと、スキンブルくんが、恋ちゃんを助けてくれた……みたい。

 とりあえず、良かった……本当に良かったよ。

 

「でも、謡さんは、どうしてここに……?」

「スキンブルから聞いたんだよ。ヤバそうなのがこの近くにいるから、もしかすると妹ちゃんたちと鉢合わせるかもしれない、って感じでね」

「まるで、ボクらの下校時刻を知ってるみたいな口振りですね」

「まさかつけられてた? ストーカーですか先輩」

「微妙に否定しづらいけど、そのへんの話は後にして。私も言いたいこといっぱいあるけど、今はそれどころじゃないみたいだからさ」

 

 そうだ。

 恋ちゃんは助かったけど、まだ脅威が去ったわけではない。

 脱獄犯の人は、顔面を覆うスキンブルくんに驚いているのか、奇怪な動きで、もがくようにずっとふらふらしている。

 

「謡さんは、あの人を知ってるんですか?」

「いんや、私にもわかんないけど、スキンブルが言うには、たぶんクリーチャーだね」

「クリーチャー!?」

「そ。ってかあれって、ニュースでやってた脱獄犯でしょ。なら擬態したタイプじゃなくて、憑りついてるタイプだろうね。クリーチャーに憑りつかれたから脱獄できたってところかな」

 

 そっか、クリーチャーだったんだ。

 ということは、脱獄犯のおかしな行動も、目の前で見せている奇妙な言動も、全部クリーチャーに関わること……?

 

「妹ちゃん、いつものトリッピーは?」

「と、とりっぴー? 鳥さんのことかな……その、鳥さんは今いなくて……」

「そっか。そんじゃ、うるさいのがいなくなったと前向きに捉えよう。あんな狂った奴を妹ちゃんに任せたくもなかったし……スキンブル! 戻っておいで!」

 

 謡さんがスキンブルくんを呼び戻す。

 

「相手がクリーチャーなら、やるべきことは一つだね。デッキがちょっと不安だけど……叩いて追い出す!」

「でも、クリーチャーってあの鳥類の力を借りるか、相手から交戦意思がないと、戦えないんじゃなかったか? あのヤバそうなの、どう考えても戦場に招いてくれるようには見えないけど」

「ねー、先輩も情弱だなぁ」

「流石の私もそろそろ怒るよ? っていうか、そのくらい知ってるよ。でも大丈夫なんだな、これが」

 

 スキンブルくんを抱え上げて、謡さんは言った。

 

「スキンブルにはクリーチャーの性質の欠片みたいなものがあるんだってさ。こっちから戦いを仕掛けられる」

「スキンブルくんに、クリーチャーの性質……?」

「えっ、スキンブルさんって、クリーチャーだったんですか?」

「違うけど、完全に違うとも言いきれないっていうか……いやまあ、私にも詳しいことはわかんないだけどさ。まあとにかく! 今はそんなお理屈はどうでもいいよ!」

 

 そうでした。

 今は、スキンブルくんがなぜ鳥さんやクリーチャーのように戦いの場を設定できるのかよりも、それができるということが大事なんだ。

 脱獄犯の人は相変わらず、焦点の定まらない目で、どこか違うところを見据えながら歩くように、揺れ動きながらこちらに向かっている。

 その手に、禍々しく湾曲したナイフを握り締めて。

 

「ココジャ、ナイ。ココ、ジャナイ。コ、コ、ジャナ、イ……ドコニ、ドコダ、ドコ、アル……ソコ、アル……?」

「なんか、変なクリーチャーだね。なにかを探してるみたいな……まあ結局ぶっ飛ばすんだから関係ないか。スキンブル、行くよ!」

 

 謡さんの掛け声に合わせて、スキンブルくんも鳴き声を上げる。

 そして次の瞬間には――戦いの場が、創られていた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 始まってしまった。謡さんと、脱獄犯の男の人との、対戦が。

 謡さんは3ターン目にして、さらに《ヤッタレマン》を並べる。

 《ヤッタレマン》が二体。ここから放たれる展開力は物凄いんだけど……

 

(残念ながら《ニヤリー・ゲット》がない……デッキに積んでるのも一枚だけ。いくら《ヤッタレマン》を複数並べても、もう前みたいにアホほど展開することはできないか)

 

 二重のコスト軽減で、マナの問題は解決しているけど、謡さんには、それを使い切るだけの手札がない。

 そして、その手札を支えていた《ニヤリー・ゲット》も、殿堂入りしてしまっている。

 

「まあ、このデッキはそこまで過剰展開する必要もないから、いいんだけどさ。1マナで《パーリ騎士》を召喚。墓地のカードをマナに置いて、ターンエンド」

「ウ、ァウ、ウゥ……ドコダ……ドコ、ダ……ヤサ、イ……ハ、タケハ……ドコニ……」

 

 脱走犯さんのターン。なんだかずっと、奇妙なうめき声とか、うわ言めいたことを呟いているけど、大丈夫なの……?

 

「ドコダ、ドコダ、ドコダ――!」

 

 脱獄犯の人は、場の《虹彩奪取 ブラッドギア》の能力でコストを減らして、クリーチャーを召喚する。

 刃物のような両翼を広げたそれは、ドラゴン。《不吉の悪魔龍 テンザン》。

 なんだか強そうなクリーチャー……って、パワー13000!? たった4マナなのに!?

 い、いくらなんでも強すぎるけど、このマナコストでこのパワーってことは、なにかデメリットがあるはず、だよね……?

 

「エ、ウ、ア、ァ……ウ、ゥア……チガ、ウ、チガウ、チガウチガウ……シラ、ナイ。シラナ、イ、ヤ、イ、ヤサ、イ、イィィ……!」

「なにこいつ、情緒不安定すぎてマジで怖いんですけど……」

 

 

 

ターン3

 

 

場:《ヤッタレマン》×2《パーリ騎士》

盾:5

マナ:4

手札:1

墓地:0

山札:27

 

 

脱獄犯

場:《ブラッドギア》《テンザン》

盾:5

マナ:3

手札:3

墓地:0

山札:27

 

 

 

 どこか苦しそうに、ターン終了を宣言する脱獄犯の人。

 対する謡さんは、相手のクリーチャーに対して、怪訝そうに眉根を寄せていた。

 

「にしても、《テンザン》かぁ……」

 

 謡さんは、あのクリーチャーのことを知ってるみたい。

 きっと、あのクリーチャーの強大さと、たぶん持ってるはずのデメリットを天秤にかけて、どうするのかを考えてるんだと思う。

 謡さんはしばらく悩んでから、その迷いを断ち切るように、スッと手札を一枚引き抜いた。

 

「ほっとくと明らかにヤバいことするけど、やっぱ私にできるのは、自分の動きを押し付けるだけだね。とっとと決めるよ! 3マナで《ヘルコプ太》を召喚! 私のジョーカーズは四体だから、四枚ドロー!」

 

 飛び出すのは、プロペラのついたヘルメットのクリーチャー。《ヘルコプ太》。

 一気に手札を増やせるクリーチャー。これで、謡さんの《ヤッタレマン》のコスト軽減も、活用しやすくなる。

 謡さんはごっそりとカードを引いて、手札に目を落とす。

 

(お、《ポクチンちん》だ。墓地リセットに、踏み倒しメタができるけど……うーん)

 

 そして今度は、相手の場に視線を送る。

 相手のカードから、どんなデッキかを探ってるのかな?

 

(色は黒赤か。って言っても、私じゃあのデカブツでなにをするのかはさっぱりだけど。問題は、墓地を増やされてからじゃ遅いのか、それとも《テンザン》のデメリット回避のために、侵略や革命チェンジを使うのか、ってことだ。墓地を増やしてからのインターバルがあるなら、この《ポクチン》は持っておきたいけど、踏み倒しをするなら出しておきたい。さて、どうしようか)

 

 謡さんはまた、しばらく悩んでから、今度は迷ったままのような表情で、手札のカードを引き抜く。

 

「とりあえず、これで。1マナで《ジョジョジョ・ジョーカーズ》だよ。山札から四枚を見て……」

 

 なにをするべきか悩んだから、ここでの引きで次の一手を決める?

 謡さんがどういうつもりでそのカードの使用に至ったのかはわたしにはわからないけれど、その行動は、謡さんが望む結果を導いたみたいだった。

 

「ラッキー! 二枚目だ、《ポクチンちん》を手札に! そして1マナで、《ポクチンちん》を召喚! 私の墓地を山札に戻してシャッフル!」

 

 謡さんが繰り出すのは、木魚みたいなクリーチャー。というか、木魚そのものだ。

 でも、その名前……いや、なんでもないよ。

 《ポクチ》……木魚のクリーチャーは、ポクポクと自分の頭を叩いて音を鳴らして、念仏を唱える。すると、謡さんの墓地がすべて、山札に戻った。

 墓地のカードを山札に戻すクリーチャー、なのかな?

 

(お相手さんがなにをするつもりなのかはわかんないけど、場と手札の《ポクチン》で、踏み倒しも墓地利用もメタれてる。あとは、上手く“アレ”が引ければ、一気にフィニッシュまで持っていけるけど……)

 

 謡さんはこれでターン終了。

 そして、お相手の脱獄犯の人のターンに移る。

 

「ウ、ウァウゥ……ドコダァ……」

「《リロード・チャージャー》……」

 

 相手の行動は、マナを伸ばすことと、手札交換。

 ――だけじゃない、当然ながら。

 

「コッチ、カ……ソコ、カァ……!」 

「来るか……!」

 

 《テンザン》が咆える。攻撃だ。

 同時に、相手の山札が墓地へと送られた。どうやらあのクリーチャーは、攻撃と同時に墓地を増やすクリーチャーみたい。

 なんだけど、その数が尋常ではない。一、二、三……数えきれない。けど、とんでもない量の――恐らく十枚以上――山札が墓地へと削り落とされた。

 あんなに山札を削ったら、デッキもすぐになくなっちゃうんじゃないか、と思うけれど。

 そんなわたしの考えは、一瞬で吹き飛ぶことになる。

 《テンザン》が攻撃する。墓地がたくさん増える

 そして――

 

「……え?」

 

 

 

 ――バトルゾーンが、爆ぜた。

 

 

 

「な、なんで……!?」

 

 《テンザン》が謡さんのシールドを三枚も食い破る。だけど、謡さんはその攻撃力ではなくて、バトルゾーンの自分のクリーチャーを見て、驚愕しているようだった。

 いや、より厳密に言うのであれば、バトルゾーンにいたはずの、謡さんのクリーチャーを、かもしれない。

 

(なんで私のクリーチャー……“全滅してる”の……!?)

 

 そう、謡さんのバトルゾーンには、クリーチャーはいなくなっていた。

 あんなにたくさん展開したクリーチャーが一瞬で、すべて墓地に叩き込まれていたんだ。

 

(《テンザン》が攻撃する時に、なにかをした素振りはなかった。だからその時に発動したのは、山札のカードを墓地に送る効果だけ。それで発生する除去って言ったら、《爆撃男》……? でも、それにしたって、こんなのあり得ない)

 

 吃驚と、困惑に満ちた謡さんの表情。わたしも、今この場でなにが起こっているのか、さっぱりわからない。

 

(私の場にいたクリーチャーは五体。しかもうち一体は、パワー3000の《ポクチンちん》だった。いくら《爆撃男》が四体落ちても、私のクリーチャーを殲滅するなんて、できるはずないのに……!)

 

 なにが起こって、謡さんの場が全滅したのかはわからない。

 考えられるとすれば、《テンザン》が攻撃した時の能力だけど……って、あれ?

 そこでわたしは、ふと気づいた。

 相手の墓地の、異変に。

 

(墓地が消えてる……《悠久》も一緒に落ちて、山札に戻ったのかな。ってことは、この結果が《爆撃男》的なカラクリで行われてるのだとすれば、《テンザン》が殴るたびに私のクリーチャーが殲滅される……!)

 

 

 

ターン4

 

 

場:なし

盾:2

マナ:5

手札:6

墓地:5

山札:22

 

 

 

脱獄犯

場:《ブラッドギア》《テンザン》

盾:5

マナ:5

手札:2

墓地:0

山札:26

 

 

 

「ははっ。どうやら私のデッキは、お相手さんのデッキとの相性が最悪みたいだね」

 

 口では笑ってはいるけれど、表情は険しい謡さん。

 わたしも今まで色んなジョーカーズを見てきたけど、ジョーカーズの戦術の多くは、場にクリーチャーを並べることに意味があることが多かった。

 それはきっと、今の謡さんも同じ。

 だから、バトルゾーンを空にされた今の謡さんは、とても苦しいよね……

 

「トリガーまだほとんど見えてないし、一枚くらいは期待してもいいよね……とりあえず立て直さなきゃ。《ジョジョジョ・ジョーカーズ》で山札を見て、《パーリ騎士》を手札に加えるよ。そして3マナで《パーリ騎士》、もう3マナで《ポクチンちん》を召喚! 私の墓地を山札に戻してシャッフル! ターンエンド」

「ウウウ、ァァァ……マダ、マダ、ダ……ミ、ミツミ、ミ、カ、ミツカ、ナイ……ラ、ナイ……ハ、ヤサイ、バ、タケ……」

「《ブラッドレイン》に《勇愛》……」

 

 脱走犯さんは、あまり大きくは動かない。小型クリーチャーを並べたり、手札を入れ替えるばかり。

 でも、それでも構わないんだ。

 だって、相手はもう、謡さんを倒すだけの武器を、その手に握っているんだから。追加の武器は必要ない。

 二度目。再び《テンザン》が咆える。

 

「第二波、来るか……!」

 

 《テンザン》が刃の両翼を広げて飛ぶ。同時に、また相手の山札が瞬く間に墓地に送られ――そして、山札へと戻っていく。

 その一連の流れはあまりに早く、わたしの目でも追えなかった。

 でも、結果だけは、目に見えてわかる。

 

「っ、また、私のクリーチャーが……!」

 

 場が爆ぜる音。

 煙が晴れると、またしても、謡さんのクリーチャーは全滅していた。

 そしてその煙を突き破って、《テンザン》が謡さんの残りのシールドを食い破る。

 相手の場にはまだ《ブラッドギア》が残ってるし、ここでS・トリガーを引かないと、謡さんは……!

 

「っ、S・トリガー発動《ジョバート・デ・ルーノ》! 《ブラッドギア》をタップ!」

「ウゥ……」

 

 か、間一髪……!

 寸でのところで、謡さんは《ブラッドギア》の攻撃を止めた。

 

 

 

ターン5

 

 

場:《ジョバート》

盾:0

マナ:7

手札:6

墓地:2

山札:24

 

 

 

脱獄犯

場:《ブラッドギア》《テンザン》《ブラッドレイン》

盾:5

マナ:6

手札:2

墓地:0

山札:24

 

 

 

 なんとか耐えられた謡さんだけど、バトルゾーンにクリーチャーはいない。そして、シールドも。

 

「……ギリギリ、行けるかな」

 

 けれど謡さんは、まだ闘志を喪っていない。

 絶体絶命の崖っぷちでも、まだ、敗北を跳ね除けるだけの力がある。

 

「3マナで《パーリ騎士》を召喚! さらに3マナ、もう一体《パーリ騎士》を召喚!」

 

 謡さんは、立て続けにクリーチャーを召喚する。

 でも、それはマナを溜めるだけの行為。それに、いくらクリーチャーを並べても、《パーリ騎士》じゃこの場は覆らない。

 けれども、

 

「これで私のマナは残り4マナ。そして場には三体のジョーカーズ……これらすべてを、手札に!」

 

 謡さんは、せっかく召喚した自分のクリーチャーをすべて、手札に戻してしまう。

 なにをする気なんだろう、謡さん……

 

「コストをマイナス3軽減、4マナで召喚するよ!」

 

 カチッ、カチッ、と。

 まるで弾を込めるかのような、金属同士が小さく触れ合う音が響く。

 そして――

 

 

 

「闇夜を裂くは星の群れ。無限の銃弾で奔れ――《ジョット・ガン・ジョラゴン》!」

 

 

 

 ――無限の銃身(ドラゴン)が、降り立った。

 ドラゴン。そう、ドラゴンだ。

 《ジョット・ガン・ジョラゴン》。前にも見たことはあるけれど、あの時のような落書きではない。正真正銘、本物のドラゴン。何丁もの銃を背負った巨大な龍だ。

 これが、今回の謡さんの切り札なのかな。

 

「一気に決めに行くこともできるけど、トリガーちょっと怖いし……一旦待とうか」

 

 謡さんはここでようやく前に出る。

 だけど、まだ攻めるわけではない。銃口が向けられたのは、脱獄犯の人ではなく、そのクリーチャー。

 

「《ジョラゴン》で《ブラッドギア》を攻撃! する時に、手札のこれを使うよ!」

 

 ピンッ、ピンッ! と、謡さんはカードを二枚、跳ね上げる。

 そして、そのうちの一枚は、上空である数字を形作った。

 

「まずはこっちから――アタック・チャンス! 《黄泉秘伝トリプル・ZERO》!」

 

 それは、三つの(ゼロ)

 このカードの見たことがある。前に謡さんが使っていた呪文だ。

 無色クリーチャーの攻撃に反応して、タダで唱えられるアタック・チャンス呪文。普通に使えば、シールドを一枚増やすだけだけど、

 

「追加効果だよ。私の場にコスト6以上の無色クリーチャーがいるから、さらに手札、マナに、山札からカードを一枚ずつ追加!」

 

 虚空に浮かんだ三つの数字は、それぞれシールド、手札、マナへと変換される。

 シールドが回復したから、これでもう少しだけ耐えられそう。

 

「さらに《ジョラゴン》の能力で、一枚ドローしてから、一枚捨てるよ!」

 

 謡さんはさらにカードを引く。そして、跳ね上げたカードが落ちてきた。

 けれど謡さんは、それを掴み取ることなく、墓地へ……いや。

 《ジョラゴン》の手元へと落ちて――吸収された。

 

 

 

「起動――ジョラゴン・ビッグ1!」

 

 

 

 ジョラゴン……ビッグ、ワン?

 なんとも必殺技っぽい響きだ。

 名前からして、《ジョラゴン》の能力みたいだけど、吸収されたカードと関係あるのかな。

 

「ジョラゴン・ビッグ1によって、私は手札から捨てたジョーカーズの「バトルゾーンに出た時」の能力を使うことができる!」

 

 捨てたジョーカーズの、バトルゾーンに出た時の能力を使える……?

 一瞬、なにを言っているのかよくわからなかったけど、それは次の瞬間、わたしの目で確かに理解することになる。

 

再現銃弾(ジョーカーズ・バレット)装填(ロード)標準補正(ターゲットロック)――[[rb:射出準備全完了 >ガンナーシークエンス・フルコンプリート]]」

 

 ガコン、となにかが装填されるような音が響く。

 《ジョラゴン》が数多の銃身のうちの一つを構え、照準を定める。

 そして、引き金(トリガー)を、引く。

 

 

 

第一射(ファースト・バレット)――発射(ショット)!」

 

 

 

 一直線に飛んでいく銃弾。だけど、その弾は、ただの弾丸ではなかった。

 弾丸と一緒に、風になびくあれは……紙?

 いや違う。あれは、クリーチャーだ。

 

「私が捨てたのは《ガヨウ神》! ジョラゴン・ビッグ1で、その登場時能力を再現する。だからまずは二枚ドロー! その後、手札の《ジョバート・デ・ルーノ》を捨てて追加ドローするよ!」

 

 攻撃しながら、ドローを加速させる謡さん。そしてその能力は、あのクリーチャーのもの。

 捨てたジョーカーズのバトルゾーンに出た時の能力を使うって、こういうことなんだ……すごい。

 あれでも、あの能力が発動するのが、ジョーカーズを捨てた時ってことは……

 

「再現銃弾《ジョバート・デ・ルーノ》、再装填(リロード)

 

 謡さんは《ガヨウ神》で、“手札を捨てている”。

 つまり、

 

 

 

第二射(セカンド・バレット)――発射!」

 

 

 

 もう一度、ジョーカーズの弾丸を発射できるんだ。

 

「《ジョバート・デ・ルーノ》の登場時能力を再現。クリーチャーを一体ずつ、タップ&アンタップ! 《ブラッドレイン》をタップして、《ジョラゴン》をアンタップするよ!」

 

 《ジョラゴン》はもう一丁の銃を構えて、引き金を引く。だけどその弾はクリーチャーではなく、上空に向けて放たれた。そして弾丸にも、さっきと同じようにジョーカーズのクリーチャーが宿っていた。

 水道の蛇口……配管工? みたいなクリーチャーは、スプリンクラーのように水を撒き散らして相手クリーチャーをタップ。同時に、《ジョラゴン》の身体を洗浄して、起き上がらせた。

 

「攻撃続行! 《ジョラゴン》で《ブラッドギア》を破壊!」

 

 そういえばこれって、《ジョラゴン》の攻撃中の出来事だったっけ……色々な能力が発動して忘れてたよ。

 《ジョラゴン》の弾丸は一直線に飛んで行って、《ブラッドギア》を射抜く。

 

第三射(サード・バレット)! 《ジョラゴン》で《ブラッドレイン》を攻撃する時、カードを一枚引いて、一枚捨てる――再装填、《バイナラドア》!」

 

 すかさず次の銃を構える。三発目の弾丸を込め、放つ。

 今度の弾は《バイナラドア》。ということは、つまり、

 

「《テンザン》を山札の下へ! そのまま《ブラッドレイン》をバトルで破壊!」

 

 弾丸は赤い扉に変わり、《テンザン》を飲み込んでしまった。

 そして弾丸はそのまま直進して、《ブラッドレイン》を射抜く。

 すごい連続攻撃……あっという間に相手のクリーチャーをすべて倒してしまった。

 謡さんの新しい切り札、すっごく強いよ。

 

「ターンエンド。次のターンに射止めるから、覚悟しといてね!」

 

 勝利宣言しながら、ターンを終える謡さん。

 クリーチャーこそ一体だけど、《ジョラゴン》はジョーカーズの力を自由に使える。さっきの連続攻撃はクリーチャーを倒すために使ったけど、あれをそのまま、相手プレイヤーを倒すために使えば……

 

「ア、アァ、ァア、ァアァァア、イ……コダ、ド、コ、ダ……ァ!」

「! あのクリーチャーは……」

 

 相手の場に、クリーチャーが召喚された。

 大きく開かれた一つ目。緑と黒でおどろおどろしいまでに彩られ、あらゆる箇所から刃は生え、そしてねじれた歪な身体。

 手にしているのは禍々しく湾曲した手鎌。指先まで恐ろしいほどに変色していて、ものすごく不気味なクリーチャーだった。

 あのクリーチャーが、脱獄犯の人に憑りついた、クリーチャーの正体……?

 

「《凶鬼04号 ビビム》……えっと、確かアレは、墓地か場から離れた時に、クリーチャーのパワーを下げる能力を持ったクリーチャー……」

 

 墓地か場から離れるたびに、クリーチャーをパワーを下げる?

 相手のデッキには、墓地に落ちたら、墓地のカードをすべて山札に戻す《悠久を統べる者フォーエバー・プリンセス》が入っている。ということは、《テンザン》で《フォーエバー・プリンセス》と一緒に墓地に送り込んで、その能力で一瞬で山札に戻ることで、パワー低下を放っていたんだ。

 

「成程ねぇ。《爆撃男》と合わせてパワー低下をばら撒くビートダウンってわけか。最後に種明かししてくれるなんて、お優しいこと」

「アゥ、ゥア、ァ……ナイ、ナイ……ガウ、チガ、ガウ……ココ、ドコ……」

 

 煽るようなことを言う謡さんだけど、相手には通じていないみたい。

 ずっと、同じ言葉を繰り返して、狂乱したような叫びと呻きの声を上げている。

 

 

 

ターン6

 

 

場:《ジョラゴン》

盾:1

マナ:10

手札:10

墓地:4

山札:14

 

 

 

脱獄犯

場:《ビビム》

盾:5

マナ:7

手札:1

墓地:2

山札:24

 

 

 

「さて、ちょっとパーツ探しに行こうか……G・ゼロ《ニヤリー・ゲット》! 三枚捲って、《ヘルコプ太》《ジョバート・デ・ルーノ》《ガヨウ神》を手札に。5マナで《ヘルコプ太》を召喚して、二枚ドローするよ」

 

 謡さんはここに来て、膨大な手札をさらに増やす。

 なにかを探すように、山札を掘り進める。

 

「残りデッキ枚数は……だいぶ減ったなぁ。じゃあ、《ジョバート・デ・ルーノ》を召喚、《ビビム》をタップして、《ジョラゴン》で攻撃!」

 

 《ジョラゴン》が銃を構えた。

 謡さんは手札のカードを放ち、それを《ジョラゴン》が吸収、弾丸として込める。

 

「一枚引いて、《ガヨウ神》を捨てる(ディスカード)――再現銃弾、装填。ジョラゴン・ビッグ1、起動!」

 

 弾に宿る《ガヨウ神》。

 相手を射抜く銃弾は敵を斃すと同時に、謡さんに力を与えてくれる。

 

「まずは二枚ドローして、《ジョバート・デ・ルーノ》を捨ててさらに二枚ドロー! 再装填だ。《ジョバート》を捨てたから、《ジョラゴン》をアンタップ!」

 

 カードを引きながら手札を捨てる《ガヨウ神》で、次の弾も装填。前のターンにも見せた、あの連続攻撃だ。

 再度《ジョラゴン》で攻撃する態勢を整えつつ、《ビビム》を撃ち抜く。《ビビム》も場を離れたから、砕け散った刃が飛んできて《ジョバート・デ・ルーノ》を破壊するけど、そのくらいでは、もう止まらない。

 謡さんは次の弾を握っていて、《ジョラゴン》も銃を構えている。

 

「《ジョラゴン》で攻撃する時、一枚引いて、捨てる――再現銃弾、再装填」

 

 ガコンッ、と。

 三発目のジョーカーズ弾が、装填される。

 それは今までよりも大きく、熱く、そして強い弾丸だった。

 

 

 

「ぶち砕け――《アイアン・マンハッタン》!」

 

 

 

 プレイヤー目がけて放たれる《ジョラゴン》の銃弾。例によってその弾丸はジョーカーズの力を宿しているけれど、今回は破壊力が段違いだ。

 弾丸はハンマーへと変わり、相手のシールドを三枚、叩き割ってしまったのだ。

 

「《アイアン・マンハッタン》の能力を再現したよ。相手のシールドを二枚選択して、それ以外をすべてブレイクする!」

「ア、グ、ァァ……ダ、クゥ、マ、ダ、ゥァ……ッ!」

 

 シールドを二枚残して、それ以外をすべてブレイクするなんて……すごい攻撃的な能力だ。これで相手のシールドは、もう二枚になってしまった。

 けど、それだけじゃない。

 

「さらに、手札を捨てて追加でロックもかけるよ! 再装填! 《ジョバート》を捨てたことで、ジョラゴン・ビッグ1起動! 《ジョラゴン》をアンタップ!」

 

 《アイアン・マンハッタン》も、《ガヨウ神》と同じように、手札を捨てる能力を持っている。

 追加でカードを捨て、四発目の弾を込める。

 その間に、プレイヤー目掛けて突き進む銃弾が、残る二枚のシールドを突き破った。

 

「Wブレイク! これでとどめだ!」

 

 ガコンッ、と銃弾を装填。銃を構え、照準を定める――けれど。

 その瞬間、閃光が迸った。

 

「ゥウゥアァァア……ヤサ、イ、バタ、ケ……ド、コ、ダ、ァァァァ……ッ!」

「っ、S・トリガー……!?」

 

 眩い光。その光は、謡さんのクリーチャーをすべて、縛りつけてしまう。

 目を開くと、謡さんのクリーチャーはすべてタップして寝かされている。そして相手の場には、宙に浮く一体のクリーチャー。

 

「《ホーリー》……そんなトリガーがあったなんて……!」

 

 攻撃前にクリーチャーがタップされてしまえば、流石にジョラゴン・ビッグ1も形無しだ。謡さんは、ターンを終えるしかない。

 せっかく、ジョーカーズ同士の連携で追い詰めたのに、あと一歩のところで凌がれちゃうなんて……

 相手のターン。《ホーリー》が攻撃できるけど、このターンにとどめはないはず。

 と、思っていたら。

 

「ドコ……ドコドコドコドコドコ、ドコ、ニ、アル、ダ、ァァァ……!」

「! 《キリモミ・ヤマアラシ》……!?」

 

 相手が唱えた一枚の呪文。次のターンに召喚するクリーチャーにスピードアタッカーを与える《キリモミ・ヤマアラシ》。

 そして、その能力で現れるのは、

 

「《テンザン》か……!」

 

 謡さんの場を荒らし尽くした凶悪なクリーチャー、《不吉の悪魔龍 テンザン》。

 これで、攻撃可能なクリーチャーは二体。謡さんにとどめを刺すだけのクリーチャーが揃ってしまった。

 けれど、

 

「ヤサイ……バタケ……ドコ、ニ、アル……ノ……!」

 

 《テンザン》が咆える。同時に、山札が一気に削り落とされた。

 その中には当然、《爆撃男》と《ビビム》が混じっている。ただし、それらのパワー低下だけじゃ、《ジョラゴン》は倒れなかった。

 でも、それに加え、《テンザン》とバトルも加わるとなると、話は別だ。

 

「シールドじゃなくて、盤面処理に来るのか……!」

 

 《ジョラゴン》のパワーは11000あるけど、《テンザン》のパワーは13000。《爆撃男》や《ビビム》によるパワー低下も受けているから、バトルの勝敗は明白だった。

 あっさりと押し潰されてしまう《ジョラゴン》。謡さんの場は全滅。攻め手が、一気に削がれてしまった。

 それに、謡さんにはもう、後がない……シールドもそうだけど、デッキが……

 

 

 

ターン7

 

 

場:なし

盾:1

マナ:11

手札:15

墓地:11

山札:2

 

 

 

脱獄犯

場:《ホーリー》《テンザン》

盾:0

マナ:8

手札:4

墓地:0

山札:26

 

 

 

「残りデッキ枚数……一枚、か。《マンハッタン》探すためとはいえ、調子乗って引きすぎたね」

 

 謡さんに残されたデッキは、このドローで残り一枚。つまり、このターンがラストターン。

 だけど、場にクリーチャーはいないし、相手の場にはブロッカーもいる。

 このターンに決着をつけるなんて、無理なんじゃ……

 

(……このターンに決着をつけるなら、必要なのはブロッカーを処理するカードと、すぐに殴れるクリーチャー。《ホーリー》はなんとかなるとしても、このデッキのスピードアタッカーは《ジョラゴン》か《マンハッタン》だけ。けど、《ジョラゴン》で殴ればドローしなきゃいけないし、《マンハッタン》はそもそも持ってない)

 

 謡さんは考え込んでいる。やっぱり、今の手札に、この状況を突破するカードがないのかな……?

 せっかく追い詰めていたのに、逆に追い込まれちゃうなんて……そんなことって……

 

(パーツ足りないからって、ドロー系のカードでかさ増ししたツケか。ここでどうにかしないと、次のターンに殴り切られるし、そうでなくてもデッキアウトであえなく敗北……ね)

 

 ふぅ、と謡さんは溜息を吐く。

 まさか謡さん、本当に……と、思ったら。

 謡さんは、とても小さな声で、独り言のように呟いた。

 

 

 

「LOねぇ……」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 このままじゃ、殴り殺されるか、デッキがなくなって負ける。

 そんな時に思い出すのは――脳裏をよぎるのは、いつかの言葉だった。

 

 

 

 ――力も色もなく、何者にもなれんただ小娘など、この槍で貫く価値すらない――

 

 

 

 忘れもしない。辛酸を舐め、屈辱に震え、悔恨に嘆いたあの日。自分の無力さを悲しんだし、怒った、あの時。

 あの時も、デッキのすべてを失って敗北した。とどめすら刺されず、屈辱的なまでの幕引きによって、終わらされた。

 そうだ。あの瞬間、自分は絶望とか、悲嘆とか、そんな不快を、無力さを、思い知った。

 どうしようもないほどに、自分の弱さを、情けなさを、思い知らされた。

 

「……あんな思い、二度とごめんだっての」

 

 不快感と一緒に吐き捨てる。

 あんな情けない自分は、二度と見たくない。二度と、見せたくない。

 今、この場には後輩たちもいる。あの時と、同じように。

 だからこそ、同じ過ちで惨めな思いをするなんて、許せるはずもなかった。

 

「3マナで――」

 

 あの時の自分は、弱かった。今の自分も、弱い。

 けれど、それでも、今の自分はあの時の自分を経た自分だ。

 無力なだけではなく無知だった自分よりも、ほんの少しばかり、恥辱を知った自分だ。

 だったら、為すべきことは一つ。

 あの日の悔しさを飲み込んで、そのすべてを、吐き出して――

 

 

 

 ――過去を、清算するだけだ。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――《ポクチンちん》を召喚」

 

 

 

 ふっと、謡さんは一枚のカードを抜き取って、場に放った。

 それは、序盤に出て来た、木魚のようなクリーチャーだった。

 確か、あのクリーチャーは……

 

「私の墓地をすべて、山札に戻してシャッフル」

 

 次の瞬間、謡さんの墓地がすべて、山札と一緒に掻き混ぜられる。

 どす黒いものを洗い流すように。なにかを、清めるかのように。

 山札が掻き混ぜられる最中、謡さんはまた、誰に言うでもなく、誰かに向かって、言葉を投げる。

 

「そりゃあ、私は姿も見えもしない夢を追って、そのくせ現実と向き合えず、虚構のヒーローに頼っちゃうような惨めな奴だけどさ……だけど、ね」

 

 そして、謡さんは顔を上げる。

 謡さんは、虚ろでも、散漫でもない、まっすぐな眼で、どこかを見据えていた。

 

 

 

「意地くらいは―――あるんだよ」

 

 

 

 ピタッとデッキシャッフルが止まった。

 同時に、謡さんの手札から一筋の光が迸る。

 

 

 

「これで終電。さぁ、終点まで奔るよ――《ジョット・ガン・ジョラゴン》!」

 

 

 

 バトルゾーンに降り立つ、ジョーカーズたちを統べる龍――《ジョット・ガン・ジョラゴン》。

 謡さんの(切り札)が、再び火を吹く。

 

「無色透明なままじゃいられない……これで、終わらせる!」

 

 《ジョラゴン》が咆哮する。長大な銃を構え、照準を定め、標的目掛け――放つ。

 

「再現銃弾《バイナラドア》装填――発射!」

 

 一発の銃弾が放たれる。まっすぐ、一直線に飛んでいく、一筋の光。

 弾丸は扉に変わり、《ホーリー》を飲み込んで、飛んでいく。

 シールドのない相手へと。最後の銃弾を――撃ち込む。

 

 

 

「《ジョット・ガン・ジョラゴン》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――とまあそんな感じで、食堂から君らの様子が変だなーって思ったから、スキンブルに頼んでちょっと調べちゃいました。ごめんね」

 

 脱獄犯の人に憑りついていたクリーチャーを倒して、鳥さんを回収して、警察も呼んで――それから、わたしたちは、逃げ込むように近くのファミレスに入った。

 どうやら、わたしたちが隠れて朧さんたちと一緒に動いていたことは、謡さんには見抜かれてしまっていたみたい。それを怪しんだ謡さんに、さらに決定的な証拠まで掴まれて……わたしたちのことは、すべて知られてしまった、みたいです。

 

「……まあ、それに関しては、ボクらが上手く隠せなかったと言葉を飲み込むとしますよ」

「けど、ストーカーは頂けないよねぇ」

「だからそれは悪かったってば。でも、正直に聞いたって、君ら教えてくれないでしょ?」

「それは、その……すみません」

「いいよ別に、気にしてないから……あぁいや、気にしてなくない。ごめん」

 

 自分で言ってすぐに撤回する。

 そして謡さんは続けた。

 

「君らだけで危ないことしすぎ。学年は違えど、私だって同じ秘密を共有する仲なんだからさ。もうちょっと頼ってくれたっていいじゃない?」

「先輩、頼りにならないしなぁ」

「みのりちゃんっ!」

「そこは微妙に否定できない。でも、頭数は多いに越したことはないでしょ……それに私の場合、スキンブルもいるしね」

「そういえば、ボクらのこともあの猫が探っていたんでしたっけ。斥候がいるというのは、わりと大きいかもしれないな」

「でしょー。あ、あともう一つ」

 

 謡さんは指を一本立てる。

 だけど、目を見ると、さっきまでの陽気な謡さんはいなかった。

 至極真剣に、険しい目つきで、睨むようにわたしたちを見つめている。

 

「……朧君には、気を付けて」

「え? 朧さん……?」

「元よりボクらは最初から彼を疑ってかかっていますけど……どういうことですか?」

「実はね、朧君と会って話したのね、私。今日」

「もしかして、朧さんのミッカイの相手って……」

「私のことだね」

 

 そ、そうだったんだ……食堂で話を聞いてみるとは言ってたけど、そんなに早く動いていたなんて。

 嬉しいけど、ちょっと申し訳ないな。

 

「ただ……あいつ、少し腹の中探ると、思ってたよりもあくどい奴だったよ。なに企んでるのかはわかんないけど、なんかキナ臭いよ。というか、いっそ離反しちゃえばいいのに」

「そんな可能性は既に考えてます、あなたに言われるまでもありません。ボクも安全を考えると、彼らから離れるべきだとは思うんですけど……」

「まだ、終わって……ない、から」

「例の、この町の事件のこと?」

「……はい」

 

 そう。この町で起こっている、子供が次々と襲われたり、動物が惨殺される事件。

 その真相を解き明かすためには、まだ、朧さんの情報の力が必要だ。

 朧さんは、もう自分は手を引くと言っていたけど、脱獄犯の人が再逮捕された以上は、復帰してくると思う。

 だから、まだ、終われない。

 

「そっか。じゃあ、危険だからやめろ、なんてことは言いません。でも代わりに、私もそっちに付かせてもらうよ、妹ちゃん」

「え?」

「心配、ではあるからね。事件のこともだけど……朧君のこともある。流石に朧君が子供を襲ったり動物を殺したりしてるとは思わないけど……あいつには裏がある。このままの状態で妹ちゃんと接触させるのは、私も好ましくない。だからあいつが変なことしないよう、予防線を張らなきゃ」

「先輩にしては、気の利いたことしますね?」

「本当はこんなせせこましいことは好きじゃないんだけどね。ただ、彼は新聞社だ。生徒会との繋がりは決して弱くない……どれほど効果があるかはわからないけど、私のツテを使って、牽制してみるよ」

「先輩が策略的だ。そんな組織的なことできたのか、この人」

「ぶっちゃけ管轄外だから、どこまで通用するかはわかんないけどね。後は、これからも君たちは、色んなクリーチャーと戦ったりすると思うけど、そこに私も付いていくよ。学年が違うし、生徒会もあるから、フットワークはあんまり軽くないかもだけど」

「えー、マジっすか。でもなぁ、先輩頼りないしなぁ」

「うるさいそこ」

「ん……っ?」

 

 みのりちゃんが口を尖らせながら言うと、いつもは笑って流す謡さんが、珍しく強い語調で窘めた。

 予想だにしない返しに、みのりちゃんも、そしてわたしも、目を丸くする。

 

「今までなあなあにしてきたけど、そろそろちゃんとケジメをつけるべきだと思うんだよね。私と君らの関係を、ちゃんと見直してさ」

 

 謡さんはいつにも増して真剣に、鋭い眼差しで、わたしたちを見据えている。

 ちょっと怖くて、謡さんらしからぬ剣呑さだ。

 

「はわわ、よ、謡さん、怒ってますか……?」

「実子がいつも先輩を小馬鹿にしてるからだ。せめて形だけでも敬語は使えとあれほど言ったのに」

「えっ、これ私のせいなの? マジで?」

「どう考えても……そう……」

「いや、そうじゃなくて」

 

 みのりちゃんがいつも失礼なことを言うから怒ったのかと思ったけど、そうではないみたいです。

 とりあえずよかった……の、かな……?

 

「別に先輩風を吹かせるつもりはないし、尊敬しろとか敬語を使えとか、そんな堅苦しいことを求めるつもりはないよ」

 

 けど、と謡さんは続けた。

 先輩として敬われることではなく、謡さんが望むことは、たった一つだけ。

 それは――

 

 

 

「私だけ仲間外れにされるのは……悲しいよ」

 

 

 

 ――先輩としてでも、年長者としてでもなく、ただ一人の人間としての、願いだった。

 さっきまでの怒気はなりを潜め、物憂げに、謡さんは言葉を紡ぐ。

 

「君らからしたら、私は後からいきなり現れた闖入者だろうね。一人だけ年上で気に入らないかもしれないし、夏には素性を隠して引っ掻き回して迷惑もかけた。うじうじ悩むし弱っちぃし、快く思えないかもしれないけど……でも、それでも私だって、皆と同じ秘密を共有する仲なんだよ。だから、もうちょっと相談してくれてもいいのに、って」

「謡さん……」

 

 そうだった。

 わたしは、わたしたちは、どこか謡さんとわたしたちの間で、線引きをしていた。

 二年生で、わたしたちの先輩。生徒会の役員さんで、お姉ちゃんと一緒にいる人。チェシャ猫レディとして、スキンブルくんと一緒に人知れず戦っていた影のヒーロー。

 そういったものがあって、わたしの中で謡さんはどこか特別な人だと思ってしまっていたけど……違うんだ。

 謡さんはわたしたちと同じ普通の女の子で、特別なことなんて、なにもない。

 

「小鈴の名誉のために言っときますけど、今回に関しては、先輩が生徒会側の人間だったって理由があります。若垣朧と協力するにあたって、その情報を外に漏らさないことが条件だったので」

「わかってる。だけど、私は生徒会の雑用係であると同時に、君らと友達の――仲間のつもりだったよ」

 

 仲間。

 その言葉が、深く、深く突き刺さる。

 わたしは、謡さんのことを仲間として見られていなかった……?

 

「勝手な物言いだけど、だからこそ、私は悔しいよ。その程度のことも、信じてもらえなかったのかな、って」

 

 その言葉が、とどめだった。

 抑えきれなくなって、わたしの中から、言葉が、零れ落ちる。

 

「ごめんなさい……謡さん……わたし、その……」

 

 申し訳なさが込み上げてくる。謡さんには、何度も助けられて、お世話になっていたのに。

 それなのに、謡さんにそんな思いをさせていた自分の無神経さを、思い知らされる。

 罪悪感が募って目も合わせられない。悔しさで身体が震える。

 けど、そこにスッと、謡さんがわたしの手を握った。

 

「……いいんだよ。私の方こそごめんね、押し付けがましくて」

「謡さん……」

「私が言いたいことは一つだけ。頼って、なんて言い方はしない。ただ、忘れないでほしい。私はいつだってあなたたちの味方だし、味方でいさせてほしい」

「……はいっ」

 

 優しいな……謡さんは。

 きっと、わたしへの不満もたくさんあっただろうに、それを全部許して、受け入れてくれるなんて。

 

「……やれやれ、結局は駄々こねられたようなものじゃないか。まったく身勝手な先輩だ」

「本当にねー。どうする? もうこれ突っぱねてもいいんじゃない?」

「別にいだろう。邪険にする理由もない。あと君は、形だけでももう少し礼儀を弁えろ」

「あーだーこーだ言って……結局、今までとあんま……変わらない、んじゃ……」

「Nein! そんなことないですよ、恋さん。大事なのは気持ち(ヘルツ)です!」

 

 

 

 ――わたしはこの日、改めて思い知った。

 わたしが思っている以上に、仲間の輪は広がっている。そしてみんな、わたしに力を貸してくれることに。

 線引きなんて必要ない。特別視することもない。

 謡さんも、みんなと同じ。ただそこにいてくれて、支えてくれる人なんだ。

 

「あの……謡さん」

「ん? なに?」

「ありがとう、ございます」

「……どういたしまして」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――ってな感じだぜ、ダンナ。流石にそろそろワタシらもキツイ」

「ふむ、成程」

「さっきも言ったがな、これ以上、水面下で動き続けるには無理がある。活動自体は続行できても、このまま同じこと繰り返してたら、理想の結果を追究するどころか、どんどん乖離していっちまう。下手すりゃこっちに火の粉が飛びかねねーしな。ワタシはダンナの命令よりも、弟妹の安全を優先するぜ」

「そこは譲らん、というわけか。まあ、群衆こそが貴様の命であり存在理由、存在証明であるからして、当然のことではあるか。しかし、貴様にはまだ動いてもらわねばならん」

「……成果もまるで上がらねぇ。ほとんど無駄足をバーゲンセールしてるってのに、ワタシになにを期待してんだ? マジカル・ベルや聖獣を観察するとかならまだしも、人間社会の事件に首を突っ込んで、どうしようってんだよ、ダンナ」

「事件そのものはさして重要ではないのだ。その過程が必要なのだよ、ヤングオイスターズ」

「あん、過程だぁ? わっかんねぇなぁ」

「なんにせよだ。無理は強いないが、任務は続けてもらうぞ。無論、マジカル・ベルとの接触も忘れんようにな」

「へいへい。一応伝えとくけどよ、何度も言うがそろそろ限界かもしれないぜ。あっちもなんか勘付いてるっぽいし、そろそろ距離を取られるんじゃねーの?」

「そこは貴様の腕でどうにかしろ」

「っ、かぁ! ダンナはそういう大事なとこばっか投げっぱなしだよなぁ! なんだよこの気配りのできねーヘッドはよ!」

「不満か?」

「不満だよ! だが、ダンナがどうしようもない奴なんてのはわかりきってるからな。ないものねだりはしねぇ。愚痴だけ吐かせてもらうぜ」

「ふむ、それで貴様が為すべきことを為すのであれば、いくらでも吐き散らせばいい。オレ様はどうとも思わん」

「そいつは結構。ったく、マジで意味不明だぜ。クリーチャー退治ならあっちの専門だろうに、なんでワタシがこんなことやってんだろーな。何回愚痴ったかわかんねぇぜ……」

「貴様は、犯人はクリーチャーだと決め打ちしているのか?」

「決め打ちってほどじゃねーけど、ワタシは今んとこそっちの方向性で捜査は進めてる。それっぽい情報が入ったしな」

「ほう、情報とな。貴様の末端か?」

「おうよ。犯人の正体を掴めそうなダイレクトな情報だが……そいつを聞く限り、十中八九、どっかから流れて来てるって噂のクリーチャーなんだよなぁ」

「そうなのか。根拠があるようだな」

「根拠ってほどでもねーよ。だが、普通に考えて、そうだろうってだけだ。こんなもんまるで現実的じゃねぇ。なんせ――」

 

 

 

「――“白い少女の幽霊”なんて、あまりにもオカルトすぎるからな」




 《ニヤリー・ゲット》殿堂とか今更、って感じのネタですよね。こういう一時の流行でしかネタしづらいから、環境デッキって好きじゃないんですよ(架空デュエマ作家並感)。
 それはそれとして、遂に謡がジョラゴンジョーカーズとかいうガチデッキに手を出してしまいました。まあパーツが足らなくて、《ガヨウ神》を《ヘルコプ太》で代用したり、《スロットン》がないから《ジョバート》で我慢したりと、妙に生々しい構築になっているのですが。
 誤字脱字、感想、その他諸々、なにかありましたら、自由に仰ってくださいまし。
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