デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 お悩み解決編をやっていた初期のノリっぽい今回。だからどうってわけでもないのですが。


35話「お邪魔します」

「――《暗黒邪眼皇ロマノフ・シーザー》で攻撃! メテオバーンで墓地から《無双と竜機の伝説》を唱えるよ!」

「む、むぐぐ……!」

「ターン終了、そしてもう一度わたしのターン! 《ロマノフ・シーザー》で攻撃する時、メテオバーン発動、呪文《法と契約の秤》! 墓地から《龍覇 グレンモルト》をバトルゾーンへ!」

「くそっ、S・トリガーはない……!」

「なら、これでとどめっ! 《龍覇 グレンモルト》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ふぅ……」

「お疲れ、小鈴」

「う、うん。ありがとう、鳥さん」

 

 えっと、こんにちは、伊勢小鈴です。

 今日も今日で、鳥さんに引っ張られてクリーチャーと戦っていた、ようやく今さっき倒せたところ……なんですけど。

 

「なんか、変だよね」

「ん……まあ、確かに」

「? なにがです?」

「ここ数日、毎日のように現れるクリーチャーを討伐している。それ以前からも同じだ。なのに、まるで事件の終息が見えてこない」

 

 霜ちゃんの言う通り、それはわたしも感じていた。

 どのクリーチャーも、危険なクリーチャーではあったけど、この町を覆う事件とは、どこか違う感じがする。

 

Aber(でもでも)! 二つの事件のうちの一つは、もう解決したんじゃないんですか?」

「あの藪医者ね」

「薄々感じていたことだが、その認識が既に間違いの可能性がある。そうかその可能性がだいぶ高まってきたと思えるよ」

 

 ――わたしたちが手を出してしまった事件と、わたしたちとの関わり方というのは、少し複雑な構造をしている。

 この町に起こった二つの事件、『幼児連続殺傷事件』と『動物惨殺事件』。そのうちの一つ、『幼児連続殺傷事件』については、わたしたちは犯人と思しきクリーチャーを一度、倒している。

 だから今は『動物惨殺事件』について追いながら、平行して鳥さんの“お願い”でもあるクリーチャー退治に励んでいるわけだけど……こうして日々クリーチャーと戦ったり、事件について情報を得ていると、どうにも胸の内側がざわざわする。

 わたしたちは、なにかを間違えているんじゃないかって。大きな見落としをしているんじゃないかって。

 それを、霜ちゃんは言葉にしてくれた。

 

「あの闇医者は事件にまるで関係なくて、どっちの事件もまだ完全に未解決なのだと」

「じゃあ、私たちが今までやってたのはなんだったっていうのさ」

「これまでの行動が無駄とか無意味とか、そんなことを言いたいわけじゃない。どっちみちクリーチャーの掃討は必要なことだしね。だからやることはそう変わらないが、ただ、事件に対する考え方は少し修正する必要があるかもしれない」

「でも、あの藪医者ぶっ飛ばしてから、お子様の事件は起きてないよ」

「Ja、朧さんもそう言ってました」

「単純に、周囲の警戒が強まって動きにくくなったから、という線も考えられる。それに、犬猫の変死体は、数こそ減ったが今も見つかっているそうじゃないか」

「……そう、の言うとおりに、考えた、ら……結局、ふりだし……」

「残念だがそうなるな。ボクらは今まで色々なクリーチャーと接触してきたが、あれらは有象無象に過ぎなかった可能性も考慮せざるを得ない」

「さっきは「自分たちのやってきたことは無駄じゃない!」なーんて言ってたのにね。舌の根も乾く前、とはこのことかな?」

「だからそれは可能性の話だと言ってるだろう。いちいちそんなくだらない茶々入れで話の腰を折るな。揚げ足取りはそんなに楽しいか?」

「け、ケンカはダメですよぅ、二人とも……」

「こいつらセットだと……話、止まる……」

 

 霜ちゃんとみのりちゃん、色々と考えて、情報を整理して、推理してくれるんだけど……こういう口ゲンカが絶えないのが、ちょっとした悩みです。

 とりえず、わたしも霜ちゃんの考えには、賛成というか、思うところはある。

 まるで前に進んでいる感じがしない。まとまりのない、バラバラで雑多なクリーチャーを倒しているだけで、事件の全体像が、核心の部分が、ずっと隠れたまま。そんな感じがする。

 だから、考え方を――進め方を、変えなければいけないのかもしれない。

 でも、わたしたちは人間という凶悪犯には対抗できない。だから必然的に、わたしたちが向かう先はクリーチャーしかいなくなる。

 考え方、進め方を変えるなんて言っても、その手掛かりがなにもないんじゃ――と、思った時でした。

 

「よぅ、マジカル・ベル」

 

 不意に、声をかけられた。

 

「あ……アヤハ、さん」

「私も、いるよ?」

「なっちゃん……」

 

 振り返ると、そこにいたのは、アヤハさん――『ヤングオイスターズ』のお姉さんだった。

 それと、その隣には小さな女の子――なっちゃんこと、『バンダースナッチ』ちゃん。

 【不思議の国の住人】の二人だ。

 アヤハさんは、わたしのことをジッと見つめると、口を開いた

 

「呆れたぜ。今日もエロいカッコしてんな、アンタ。恥ずかしくないのか?」

「は、恥ずかしいですよっ! 鳥さん、もうクリーチャー倒したんだから、早く戻してよ!」

「あぁ、うん。わかったよ」

 

 みんなとの話に夢中ですっかり忘れてたけど、わたしまだクリーチャーと戦う時の格好のままでした。

 あの服装、可愛いけど自分で着るのは恥ずかしいんだよね……流石に慣れてきたけど、指摘されると、やっぱり恥ずかしい。

 

「……クリーチャー、なぁ」

「クリーチャー? クリーチャーに、なにかあるんですか?」

「なんかっつーか、まあ、アンタらはクリーチャー探すの得意そうだよな」

「わたしは別に……そういうのは、いつも鳥さんがやってくれるから」

「ふぅん。なあバンダースナッチ、お前もそういうのわかんね? 蛇の道は蛇っつーだろ」

「んー、わかんない」

「そっかぁ、まあそうだよなぁ。しゃーねぇ、地道に探すしかねーか」

「変な物言いだね。あなたは、クリーチャーを探しているのか?」

「ん? あー、まぁ、一応そういうことになんのか……?」

「歯切れわっる」

「しゃーねーだろ。ワタシにもよくわかんねーんだから。ただまぁ、クリーチャーだとは思うんだよなぁ」

 

 なんともアヤハさんらしからぬハッキリしない口振り。

 アヤハさんたちも、わたしたちと同じようにこの町の事件を追っていたようだけど……今度はクリーチャーを探してる?

 どういうことだろう?

 

「あなたたちは、ボクらと同じように、この町の事件について捜査しているんじゃなかったのか?」

「その通りだ。帽子屋のダンナのお達しで、いまだにずーっと続けてるぜ。んで、その中でちぃっと気になる情報を見つけたんだ」

「情報?」

「おう。まあ眉唾モノって気もするが、ワタシたちにゃ手掛かりはこれくらいしかねーかんな」

 

 情報って、なんだろう。わたしたちの――朧さんでも手に入れていないような手掛かりなのかな

 

「へぇー。いいこと聞けたんじゃない? 小鈴ちゃん」

「う、うん……あの、アヤハさん」

「……おう、別に構いやしねーよ。どうせアンタらも、じきに知るだろうことだしな」

 

 わたしたちもじきに知ること?

 どういうことだろう?

 

「で、あなたの持つ手掛かりって、なんなんだ?」

「…………」

「アヤハさん?」

「ん、あぁ」

「早く言いなよー。それとも、言い難いことなのかなー?」

「まあ、言い難いっちゃ、言い難いな。ぶっちゃけ眉唾モンだし、ワタシも疑ってかかってんだが……ワタシ自身でもあるウチのガキからの情報ってんじゃ、疑いようがないのもまた事実だしなぁ」

「……早く、言ってほしい……もったいぶるな」

「わぁーってんよ! 今ワタシが調べてんのはだな――」

 

 一拍置いて、アヤハさんは言った。

 わたしたちが、想像もしない、その言葉を。

 

 

 

「――“幽霊”だ」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「幽霊ってさぁ。流石に私たちのこと馬鹿にしすぎだよねー」

「厳密には、白い少女に幽霊、だったか。まあ、とても信じられない、荒唐無稽な話だ。だが」

「アヤハさん、すごく真面目に言ってたし、あんな嘘をつくような人だとは思えないけど……」

 

 後日。わたしたちは昼食を食べながら、昨日のアヤハさんから聞いた情報について話していた。

 アヤハさん曰く、最近この町に現れるらしい“白い少女の幽霊”について。

 

「いやそれにしたって幽霊はないわー。子供騙しにもほどがあるでしょ」

「……でも、あながちそうとは、言いきれない……かも」

「だね。幽霊っていうのはそのままの意味ではなく、別のなにかの修辞であることは明らかだ。言葉をそのまま真に受けて飲み込むと馬鹿を見るぞ、実子」

「なにおう。私が馬鹿だとでも言いたいの?」

「違うのか?」

「あわわ、お、お二人とも……」

「だから……喧嘩、するな……うるさい、から……」

 

 いきり立つみのりちゃんと霜ちゃんを宥めるユーちゃんと恋ちゃん。

 とにかく、今回は霜ちゃんの言う通りだと思う。幽霊は、本物の幽霊じゃない。いつものわたしなら、ちょっとは信じちゃってたかもしれないけど……でも、今なら、そこから別の意味を見出せる。

 

「さて、少し整理しようか。彼女が言ってたことを」

「最近この町で、白い女の子の幽霊が出てる、って話だよね」

Gespenst(幽霊)……ユーちゃんは、ちょっと、苦手です……『Ein Erlkoenig(魔王)』を思い出しちゃいます……」

 

 幽霊とか妖怪とか、そんな怪談話や都市伝説、噂話なんてものはよくあること。単なる空想のお話でしかないけれど、どうもこれについては違うみたいだった。

 アヤハさんは、この幽霊が空想の物ではないという根拠としてもう一つ、情報をくれた。

 

「公園や民家の花壇が荒らされてる、だったか」

「人間の殺傷、犬猫の惨殺ときて、今度は植物とはねー。うちのサボテンも気を付けないと」

「……君、観葉植物なんて育ててたのか?」

「うん、月下美人」

「似合わないな……」

「うるさいよ」

「話……脱線……」

「あぁ、悪い」

 

 ……えーっと、はい、そういうことです。

 子供を襲う事件がめっきり減った代わりに、今度は色んな場所の花壇、鉢植えなんかが荒らされる、という事案が発生したそうです。

 傷害とか、動物を殺すみたいな、血生臭くて物騒な出来事ではないから、世間では事件ではなく悪戯だと見做されているようだけど、アヤハさん曰く、ただの悪戯だとは思えない点がある、って。

 

「これがただの悪戯には思えない最大の理由は、やり口が執拗だという点。彼女の言葉をそのまま信じるのなら、根っこから植物が掘り返されて、ズタズタに切り刻まれていた、とか」

「酷い話です! Blumen(お花)だって生きてるんですよ! ぷんぷんです!」

「そうだね。ユーの言うように、植物だって生物だ。ならばこれは“植物の惨殺”と言えるだろう」

「植物の、惨殺……」

「だからこそ、それまでの凄惨な事件との関連性を疑えるわけだ」

 

 わたしたちは、つい無意識のうちの人間と、動物と、そして植物とを分けて考えてしまうけど、これらはすべて生物、命ある生き物だ。

 そんな大きな視点で見てみれば、この花壇を荒らすという悪戯も、単なる悪戯とは言い切れない……かもしれない。

 

「でもさー、普通の人間なら、流石に血の通った動物と、植物を同列には考えられないよねー」

「論は乱暴だが、その可能性も否定はできないな」

「植物の惨殺っても、単にクソガキの悪戯がヒートアップしただけかもしれないし」

「それも、否定し切るだけの材料はないね。そもそも、これまでの事件と、今回の悪戯が、同じ犯人によるものとも限らない」

「でも……その可能性を、信じる、なら……人間も、動物も、植物も……“人間じゃなければ”……同列に、考えられる……ことも、ある」

 

 そう。わたしたちがその可能性に至れるのも、その存在を知っているから。

 人間と、動物と、植物とを分けて考えるのは、わたしたちがこの世界で生きる人間だから。

 なら逆に、この世界でないところにいる、人間ではない生き物から見たら、どうだろう?

 普通ならあり得ない考えかもしれないけど、わたしたちにとっては、そうではない。

 

「……クリーチャー、ですか?」

「そう考えるのが、道理だろうね。些か安直な気もするけど」

「これを単なるクソガキの“おいた”だと思わないなら、その答えが妥当じゃない?」

 

 やっぱり、そういう結論に行きつくよね。

 それだけなら今までと同じなんだけど、今回はかなり大きな進展だと思う。

 と、いうのも、

 

「幸いにも、今回は花壇荒らしの像が明確だ。彼女の言葉をどこまで信用するかという話にもなるが、白い少女の幽霊……これが犯人を突き止める大きな手掛かりになるだろうね」

「白い、女の子の、幽霊……幽霊で、女の子の、クリーチャー、かぁ」

「イメージできる?」

「……ぜんぜん」

「ユーちゃんもです……」

「女性型のゴーストなんていたっけか……いや、ゴーストとは限らないが、白い少女というのは、限定的なようでハッキリしないな。少女と言っても、どの程度人間型なのか……」

「そもそも、クリーチャーの姿でうろついているとも限らないしねー。これは思ってたよりも難敵かもだ」

 

 わたしも、白い少女の幽霊と、クリーチャーをすぐには結び付けられない。

 それがどんなクリーチャーかがわかれば、目的とか、同行とかも探りやすいのかもしれないけれど……

 

「……手詰まりか。机上では、これ以上は進めなさそうだ」

「なら、どうするの?」

「決まってる。新しい情報を得るために動くしかないだろう」

「新しい情報……あ! あの人ですね!」

「……でも、あいつ……もう、手、引くって……」

「そうだね。でも、彼の性格上、この情報を知らないとは思えない。聞いてみる価値はあるよ」

「放課後じゃ逃げられるかもだし、昼休みはまだ残ってる。ということは?」

「善は急げ、だ。行くよ、皆」

 

 ……そうなるよね。

 わたしは残ったサラダパンを惜しみつつ、口の中のそれを咀嚼して、飲み下す。七つばかりの包装をゴミ箱に捨てて、みんなの後に続いた。

 情報と言えば、あの人しかいない。

 烏ヶ森一の情報屋――若垣朧さんしか。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 というわけで、二年生の階まで来たけど……ちょっと、緊張するね。別の学年の階に来るのって。

 普通は違う学年の教室に用がある人なんてそういないから、周りの先輩たちも、たまに珍しそうに視線を向けてきて……な、なんだかちょっと、恥ずかしいです……

 

「……小鈴の場合、視線の理由は学年ではない気がするんだけどね……」

「そうなの? どうして?」

「いや、気づいてないならその方がいいだろう。かえって君の羞恥を煽ることになる」

「? どういうこと?」

「つまりね、先輩方も所詮は盛った猿ってこと。皆も気になるんだよ、小鈴ちゃんのお――」

「うるさいぞ実子。黙ってる方が好都合なんだから黙ってろ」

「もがもが」

 

 霜ちゃんがみのりちゃんの口を塞いでる……結局、なんだったんだろう。

 

「っと、ここだな、先輩の教室」

 

 先頭を歩く霜ちゃんが、2-Cと書かれたプレートの教室の前で足を止める。

 ここが、朧さんの在籍しているクラスだ。

 

「朧さん、教室にいるでしょうか……」

「さあね。前にしていた話によると、彼は購買を利用する、つまり弁当持参の生徒ではなさそうだ。ということは学食を利用している可能性もあるから、いなかったらそっちも当たってみよう」

「うわ面倒くさい」

「文句を垂れるな。いいから入るぞ」

 

 霜ちゃんが教室の扉に手を掛ける。

 と、その時。

 

「いっもうとちゃーん!」

「ひゃわぁっ!?」

 

 後ろから抱き締められました。

 どころか、なんだか体中をまさぐられているような……!?

 

「うっわ本当におっきぃ。会長よりデカいじゃんこれ。本当に私よりも年下なのこの子、マジで中一……? ちょっと女としてへこんじゃったよ、私。どうしようよ、フーロちゃん」

「……とりあえず、そのいやらしい手を離したらいいんじゃない」

「な、ななな、な……っ!」

 

 わけがわからないまま体中を触られて、解放された瞬間にバッと振り返る。

 すると、そこにいたのは、

 

「よ、謡さん……っ!」

「やっほー、愛しの後輩たち! こんなとこで会うなんて奇遇だねー、うちの教室になんか用でも――」

「ふんっ!」

 

 ガスッ!

 と、とても痛々しい、鈍い音が下の方が小さく響いた。

 

「いったぁ!?」

「せんぱーい、流石に後輩へのセクハラはダメですよー? 私、怒っちゃいますよー?」

「怒っちゃうというか、もう既に、激おこじゃないっすか、実子さんや……!」

「……まあ、暴力的だけど、仕方ないと言えば、仕方ない。謡の自業自得」

「だからって蹴ることないじゃんさー……あいたたたた、足首折れるかと思った。先輩にも容赦ないなー、この子」

「私、別に先輩のこと先輩だと思ってないんで」

「……本当、容赦ないっていうか、いっそ清々しいね」

「……そうね」

 

 えぇっと……

 その、なんだろう。タイミングが掴めない。

 みのりちゃんの暴力については、無視しちゃいけないんだけど、とりあえず置いておいて。

 とりあえず、振り返った先にいたのは、長良川謡さんと、北上副露さんだった。二人はよく一緒に学食で食べてるらしいから、その帰りかな。

 

「それで、なんでみんなこぞってこんなとこに? 二年生の教室には、君のお姉ちゃんはいないよ?」

「お、お姉ちゃんは関係ありません……っ」

「ユーちゃんたちは、朧さんに用があって来たんです!」

「若垣さん……?」

「あー、はいはい。そういうことね。理解した。学食にはいなかったし、まだ食べてるならここにいるだろうね。ちょっと待ってて、いたら呼んできてあげる」

「あ、ありがとうございます」

「いいってことだよー。ささ、フーロちゃんも」

「? 話が読めない……」

 

 謡さんはフーロさんを引っ張って、2年C組の教室に入っていった。

 そして教室内をぐるっと見回すと、その中から一人の男子生徒を見つける。

 

「おっ、朧君はっけーん!」

「げ、長良川さん……」

「げってなに?」

「いや、なんでもないよ。オレになにか用?」

「私はなにも用事はないけど、君に用事がある可愛い女の子たちがいるから、ぜひとも会って話を聞いてくださいなー」

「えっ、女の子? それって……って、いたたたたたたた!? なんでそんな関節極めながら引っ張るの!? 痛い!」

「さーて、なんでだろうねー。あ、フーロちゃんはちょっと待っててねー。そのうち戻るから!」

「……なに? わけわかんないんだけど……」

 

 そんなやり取りを経て、フーロさんを教室に残し、謡さんは朧さんの腕を変な方向に曲げながら、戻ってきた。

 そこでようやく、朧さんは謡さんから解放される。

 

「いたた……乱暴だなぁ、長良川さん。オレになにか恨みでもあるの?」

「ないと思う?」

「え、まだ引きずってたんだ……あの場で清算すればスッキリするのに。損な性格してるね」

「ぶん殴るよ」

「ごめんって。殴るのは勘弁してください」

 

 ……? この二人、どういう関係なの?

 謡さんは、ただのクラスメイトで、よくは知らないって前に言ってたけど……

 

「それで、オレを呼んでる後輩っていうのは、やっぱり君たちなんだね」

「は、はいっ。その、朧さんに聞きたいことがあって……」

「そうか、まあ君たちが用事って言うとそうだよね。でも、わざわざ昼休みに来なくても」

「放課後じゃぁ、チキンの先輩は逃げると思ったんで、こうして昼休みに襲撃しに来た次第でっす」

「いや、一報くれれば流石に逃げないよ……拠点はもう引き払ったから、あの場所で落ち合うことができないのは確かだけどさ」

「でも、例の脱獄犯も捕まったみたいですし、先輩も逃げる必要はないのでは?」

「そうだね、だから身は引かないよ。オレはオレなりに調査は続けてる。ただ、あそこを引き払ったのは別の理由でね。拠点を持つと不都合が生じるかもしれないと思ったからさ」

「別の理由……?」

 

 謡さんに視線を向けながら言う朧さん。謡さんも、なにか厳しい目で睨み返している。

 な、なんだろう。どういうことで、なにがあったのか、さっぱりわからないのですけれど……でも、朧さんはあの空き教室はもう使わないんだ。

 

「とりあえず移動しよう。時間は多くはないけど、こんな人の往来の激しいところでする話じゃないだろうからね」

「そ、そうですね。あまり、他の人には聞かれたくないですし……目も、ちょっと恥ずかしいですし……」

「んじゃ、みんなで階段の奥の方の柱の陰でコソコソ密会でもしましょうか」

「……長良川さんも来るの?」

「私が来たら不都合でもあるの?」

「いや……別に、いいんだけどさ、オレは」

 

 ? なんだろう、朧さん、謡さんのことを警戒している、っていうより、なんだかちょっと怯えているみたいな……

 

「とりあえず、話をするのなら早く行こうか。昼休みも半分以上過ぎてるわけだし」

「は、はいっ」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 朧さんに連れられて、人気のあんまりない階段裏の方にまでやって来ました。

 

「それで、君らが知りたいことってなに? ひょっとして鹿島(かしま)先生の話?」

「? 鹿島先生が、どうかしたんですか?」

「あ、違う? 別の話?」

「えぇ、まあ……とりあえずこっちの話をさせてもらいます。先輩に聞きたいことがあるんですよ。持ってる情報があれば、教えてほしいことが」

「成程ね。いいよ。オレが知ってることならなんでも教えるよ。なにかな?」

「weiss Maedchengespenstです!」

「は? ヴァイ、ペンスト……なんだって?」

「白い少女の幽霊、です」

「幽霊?」

 

 朧さんはその言葉に、少し考え込む仕草を見せてから、思い出したように手を打つ。

 

「あぁ、園芸少女か」

「園芸?」

「呼び名は色々あるんだけどね。園芸少女っていうのは、会談とか都市伝説めいた呼び名だ。なんにせよ、あれだろう? 草木を掘り返して悪戯してる女の子の噂」

「たぶんそれです。その様子だと、やっぱりなにか知っているんですね」

「うん、知ってるよ。つい最近、噂が立ち始めたばかりの情報だ。しかし、よく知ってるね、君ら。オレだってこの話は、兄妹の間でくらいしかしてないのに」

「えっと……えぇ、まあ。ちょっと、人から聞いて……」

「ふぅん。それで、この話のなにが知りたいの」

「とりあえず先輩の知ってることをすべて話してください」

「全部、か。さて、どこから話したものかな」

 

 またも少し考え込んでから、やがて朧さんは、まるで怪談話でも始めるかのように、語り始めた。

 

「つい数日前に、それは発見されたんだ。花が綺麗なことでちょっとした評判の、とある公園の花壇。その花壇に植えられている花がすべて掘り返されていた。それだけではなく、花は花弁から、茎、葉、根に至るまで、すべてがズタズタに切り刻まれていたそうだ」

「……聞いた通り、の、話……まんま」

「事件はそれだけじゃない。その公園からさほど離れていない一戸建ての家。その家の庭に植えられている花もまた、公園の花壇の花々のように、七花八裂、滅茶苦茶にされていたそうだ。これと同じような事案が、同じ町の、狭い範囲で、何件か確認されている。やってることは悪戯だけど、内容は少し病的なものを感じるし、単なる悪戯で済ませられるのか? というところから、噂は広がったみたいだね」

「噂話には尾ひれがつくものですし、幽霊がどうこうっていうのも、その途中で盛られたってことなんでしょうか」

「そういう側面もある。けど、実は幽霊少女という呼び名については、根拠がある」

 

 そう言って朧さんは、制服の内側をまさぐる。そして、内ポケットから一枚の紙を取り出した。

 いや、紙じゃない。それは、写真だ。朧さんは一枚の写真を、わたしに手渡した。

 だけど、写真はほとんどまっくろで、全体的にぼけていて、なにが映っているのかよくわからない。

 

「この写真は?」

「被害のあった公園付近に設置されている、監視カメラが捉えた一場面さ。写真の右上辺りに、白くぼんやりした影が見えるだろう?」

「あ、これですね」

 

 映りが悪いし、明かりがなくて暗いからわかりづらいけど、確かに右上の方はなんだか白っぽい。それに、なんとなく、人の輪郭をしているようにも見える。

 っていうことは、これが白い少女の幽霊?

 

「幽霊? いやいや朧君、こんな犯人激写した写真があるなら、幽霊でもなんでもないじゃない」

「まあね。だから都市伝説っていうより、悪戯してる奴がいるっていう伝聞さ。もっとも、その写真もあんまりにもピンボケしてるものだから、映ってる影が人だとも限らないけどね」

「……それでも……幽霊、って……」

「わかってる。オレだって幽霊なんて非科学的なものは信じちゃいない。でも、人間じゃないにせよ、ビニール袋みたいなゴミだとか、動物だとか、そういう線も考えられるからね」

「しかし、この写真によって“白い少女の幽霊”という噂話が流布したわけですね?」

「そういうこと。少女というのは、まあ、盛られた話だろうけどね。確かに見様によっては女の子に見えないこともないけど、その視点はちょっと恣意的だ。客観的に見れば、その影が人間だとしても、少女かどうかはわからない」

 

 うーん、確かに。

 じっくり写真を見てみるけど、この写真だけで見れば、わかるのは周囲が闇夜に染まっていること。その中にぼんやりと、白い影が浮かんでいること。それくらいだ。

 白い少女の幽霊という噂話は大きな手掛かりかと思ったけど、本当にただの噂なのかな……?

 

「その写真はあげるよ。ネットを漁れば画像なんていくらでも出て来るからね。まあほとんどはコラだけど、その写真は正真正銘、本物だから」

「あ、ありがとうございます」

「ところで先輩、一ついいですか?」

「なにかな水早君。都市伝説の話をもっと聞きたい? ほとんどは創作甚だしい与太話だけど」

「いや、それについてはもういいです。しかし先輩は、最初にボクらが求めてる情報を誤認していましたよね?」

 

 ? 朧さんが、わたしたちの求めることを誤認していた?

 どういうこと? 霜ちゃんは、なにを言ってるの?

 

「先輩は、ボクらが先輩を頼った時に、最初に言いました。“鹿島先生の話?”と。これはつまり、ボクらが求めている情報は鹿島先生のことではないかと、思い込んでいたということですよね」

「あぁ、言ったかもね」

「鹿島先生に、なにかあったんですか?」

 

 そういえば……

 鹿島先生。国語の先生で、わたしたち1年A組の担任。

 ここ最近、ずっと休んでいるけれど……なにか、あったのかな。

 

「なにかあった、か。まあ、これも噂話みたいなもんだけどね」

「でも、先輩は真っ先にそれを話題に上げようとした。あなたにとって、優先順位はそちらの方が高かったのではないでしょうか? 事の性急さや、内容の確実さ、あるいは――ボクたちへの誘導として」

 

 誘導……それってつまり、最初にその話題を提示して、わたしたちにその話をしようとした、ってこと?

 その時、謡さんの視線が鋭く朧さんに突き刺さった。

 

「朧君?」

「……誘導ね。まあ、その意図がまったくなかったわけじゃない。けど、現にオレは君らの話題の方を優先したんだから、過程における思惑くらいは見逃して欲しいな。いや本当、もしも食いついてくれたら嬉しいなー、くらいの気持ちだったんだ」

「ということは、やはり先生のことが、“本命”に関わっているんですね」

「本命、って」

 

 それはつまり、『幼児連続殺傷事件』及び『動物惨殺事件』あるいは『植物荒らし』も含まれるかもしれない、この町を覆う一連の事件。

 それに、先生が関係しているっていうの……?

 

「話してもらいましょうか、先輩。それが大事なことであるのなら」

「いいよ……ただし」

「ただし? 今になって条件なんてつけるの? マージですか先輩?」

「条件というかね。いや、そろそろだと思うんだよ」

「そろそろ……なにが……?」

「時間」

「Zeit?」

 

 と、朧さんが言った、その瞬間。

 それは、鳴り響いた。

 

キーンコーンカーンコーン

 

 昼休憩の終わりを告げる、鐘の音が。

 

「しまった、もう昼休みは終わりか……!」

「あわわわわ、ど、どうしましょう……!?」

「次の授業って確か体育だよね? 早くしないと遅れちゃうよっ!」

「小鈴ちゃん、着替えには手間かかるもんねー。とか、そんなこと言ってる場合でもないなこれは。急げ!」

「今から、全力疾走……無理……死亡、確定……」

「……というわけでね。残りの話は放課後にしようか。場所は、立ち話になるけど例の教室で」

「あっ、は、はいっ! えっと、し、失礼しますっ!」

 

 と、そんな朧さんの言葉を背中で聞きつつ、わたしたちは慌てて教室へと戻るのでした。

 ……ちなみに、体育の授業には遅れちゃいました。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 放課後になって、もう引き払ったという、朧さんが拠点としていた空き教室にやって来ました。

 わたしたちが来た時には、既に朧さんと謡さんの二人が待っていた。

 

「それで先輩、鹿島先生の話というのは?」

「うん。まず、君らの担任の鹿島先生がここ最近、ずっと休んでいるのは知っているよね?」

「そりゃ当然でしょ。うちの担任なわけですし? 毎日ホームルームで顔つき合わせる先公がいなかったら、流石に気付きますって」

「あの、ハエ男も……いつも、愚痴ってる……」

「じゃあ、どうして休んでるのかは、知ってる?」

「え? えーっと……」

 

 そういえば知らない。

 先生だって人間なんだから、風邪は引くし病気にもなる。それに先生のお仕事の一環として、出張することもある。親戚に不幸があったり、法事とかだってある。

 だから先生も学校を休むことはあるけれど、でも、こんなに長く休んでいるだなんて、ちょっと普通じゃない。

 つまりこれは、単なる風邪や病気じゃない?

 

「……別のことにかかりきりになっていたから意識しなかったが、確かに変だ。病気や怪我で入院したのなら、そう通達するはずだ。その方が、生徒たちの混乱も小さくなるはずだからね」

「けど、現実として鹿島先生の長期欠勤は起こっているし、その理由は説明されていないよね。それはどうしてか」

「理屈で考えるのなら……“説明できない理由”だから?」

「その通り」

 

 説明できない理由があるから、説明されない? 

 それが先生が学校に来ない理由なの? どういうことだろう?

 

「もう一つ付け加えるのなら、復帰の目処が立たないから、ということもあるのかもね」

「朧君。ちょっと冗漫じゃない?」

「睨まないでよ。長良川さんに睨まれると怖いんだから……」

「もうちょっとスッキリ喋ってよ。君の話し振りは、ちょっとイライラする」

「そんなこと言われても困るよ。説明には順序があるんだから。前提と認識のすり合わせは大事でしょ?」

「それがぐだぐだしてんの。気取ったりもったいぶったりしてさ」

「オレにはそんなつもりはないんだけど……仕方ない。じゃあ、長良川さん向けに、ちょっと別の話をしようか」

 

 と、朧さんは急に話を転換させた。

 それは謡さんに言われたからというよりも、謡さんの横やりを利用して、説明の手を変えたかのようだったけれど。

 

「オレの元クラスメイトで、同じ新聞社――新聞部の仲間に、香椎さん、って人がいるんだよね」

「え、香椎ちゃん? なんで鹿島先生の話をしてる時に香椎ちゃんが……っ。朧君、まさか……!」

「おっと、流石にオレと同じ元クラスメイトの長良川さんは聡いね」

「ど、どういうことですか?」

 

 謡さんはなにか気付いた様子だったけど、香椎さん? という人についてまったく知らないわたしたちには、なんのことかさっぱりだった。

 やがて謡さんは、重々しく口を開いた。

 

「……香椎ちゃんとは、一年の時に同じクラスになっただけで、そこまで交流が深かったわけじゃないんだけど、そんな私でも知ってることもある。あの子、鹿島先生の姪っ子って噂があったんだ」

「姪? つまり、鹿島先生とは親戚同士、ってことですか?」

「そうだよ。そしてこれは、噂と言ってもほぼ確定。かなり裏は取れてる、相当に信憑性の高い情報さ」

「なんとなくあくどい感じがしますがそれは一旦置いておいて、その香椎先輩とやらが、鹿島先生の欠勤とどう関係するんですか?」

「オレ、確か最初に言った気がするんだよね。君たちに今回の事件の捜査に協力して欲しいって言った時にさ」

「? なにを、ですか?」

「なんで君たちを頼るのか。同じ新聞部の仲間じゃダメなのか。その理由をだよ」

「えーっと……なんでしたっけ?」

「確か、部内で却下されたとか、なんとか……部内に、事件の被害者の親族がいた、でしたか」

「概ねそうだね。じゃあ、もう一つヒントだ。君らは、鹿島先生の左手をよく見たことはあるかい?」

「左手?」

「厳密には、左手の指、としておこうか」

 

 人の手なんて、そんなまじまじと見ないけど……左手?

 左手の指。それって、もしかして……

 

結婚指輪(マリッジリング)か」

 

 左手の薬指。それは、一般的に結婚指輪を嵌める指だ。

 確かに鹿島先生、結婚指輪を付けていたような気がする。年齢的にも、結婚しててもおかしくないし。

 

「香椎さんはオレと同じ新聞部で、鹿島先生とは親戚同士。新聞部には連続殺傷事件の被害者の親族がいる。そして鹿島先生は結婚していて所帯持ち……さぁ、ここから導き出される結論は?」

「……まさか」

「まったく回りくどいよね、君は」

 

 そこまで材料が提示されていれば、推理なんてするまでもなく、ちょっと考えればすぐに思い当たる。

 わたしが顔を上げると同時に、朧さんは口を開いた。

 

「そう。『幼児連続殺傷事件』の被害者の一人に――鹿島先生のお子さんがいる可能性、だ」

 

 可能性、と言うものの、朧さんはほとんど確信を持って言っているようだった。

 たぶんそれも調べたんだろう。鹿島先生の子供が、被害者だということは、きっと確かなのだと。

 

「でも、だからって先生が長期欠勤する理由になるとは限りませんよ」

「そこはオレも推測するしかないな。我が子が被害に遭って塞ぎ込んでしまったとか、色々考えられるけど……なんにせよ、先生のお子さんは確実に事件の被害者であり、先生は事件があった頃から長期欠勤している。これは揺るがない事実だ」

 

 その二つに因果関係があるかは、わからない。わからないけど、二つの出来事の時期も被っているし、そう考えてしまう。

 

「……それで、ボクらにどうしろと?」

「別にどうしろと言うつもりもないよ。オレはあくまでも君たちの自主性を重んじる。その指針として情報を提供する。それだけだ」

 

 朧さんはそう言うけど、これはあまりにも無視できない話だ。

 事件被害者、あるいは被害者に最も近い親族からの聞き込み。これほど、事件の核心に踏み込める手掛かりはない。

 だけど、それは心を踏みにじる行為にもなりかねない。簡単には、踏み入れない領域だ。

 

「君らが望むのなら、三日以内に鹿島先生の住所を突きとめよう。どうするのかは、君ら次第だ」

「……ちなみに、先輩が動く気は?」

「ない。というか、できない。いや、適任ではない、が最も正確かな。あの先生との関わりは、一年の時に国語の授業を受け持ってもらっただけけど、それだけでオレの気質をよく理解されてしまったようだからね。オレが行っても、あまりいい気はされないだろう。それならむしろ、根っからの善人で、善意の塊のような伊勢さんや、そのお友達諸君に行ってもらった方がずっとスムーズに事が運べるだろうさ」

「あっれー? 先輩、自分の姑息さを隠す気なくなりました?」

「オレはただ、最善を尽くすそうとしているだけだよ。オレが見栄を張って善人ぶるより、悪人だと思われようと真実を告げる方が、より良い方向に進めると信じているだけさ。それで、どうする? 先生の家、行ってみる? それとも別の手掛かりをコツコツ探す?」

「目の前に餌を吊り下げておいてこの言い草か。なかなかな神経をお持ちですね」

「ほとんど……行け……って、言ってるような、もの……あくどい」

「なんとでも言えばいいさ。ただ、これは今までにない大きな手掛かりとなることは間違いない。リスクは高いけど、それだけの価値はある。できればお願いしたい、というは正直なところだが、オレには強制する力はない。だから前も言ったけど、これはあくまでも“お願い”だよ」

「……本当、そういうとこだよ、朧君や」

 

 謡さんは半ば呆れるように、諦めるように、だけどもう半分に棘を滲ませて、朧さんを睨む。

 朧さんが提案する、先生宅への訪問、そして当人からの聞き込み。

 とてもリスキーで危険な行為。だけど、同時にリターンが大きくグッと事件の核心に至れそうな、極上の成果も期待できる。

 どうしようか、どうすべきか、悩ましく、なかなか答えを出せないでいたけど。

 

 ――結局わたしたちは朧さんに言いくるめられて、先生の家を訪ねる手筈となりました。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「今日の放課後に伝える、って連絡が来て正門前に待たされてるけど……」

「三日どころか、一日で住所がわかっちゃうなんてね」

「一体、どんな情報網……なんだか……」

 

 朧さんから鹿島先生の話を聞いた翌日。

 わたしたちは朧さんから「鹿島先生の住所がわかったから、聞き込みよろしく」という連絡を受けました。

 ただ、肝心の先生の家の住所は伝えられなくて、正門前で待っててくれればいいとだけ言われたんだけど……

 

「しかし、幽霊の話から担任の家に訪問することになるとは、思ってもみなかったな」

「結局、幽霊の女の子については、誰かの悪戯、以上のことはわからなかったもんね」

「とはいえ、そっちの手掛かりについても追う価値はあるだろうから、記憶の片隅には留めておこうか。今はあの先輩が優先した情報とやらを先に探るだけで、そっちも忘れないようにしないとね」

「ま、十中八九クリーチャーなんだろうけどさ」

「幽霊っていうと、そうなるよな」

 

 と言っても、わたしたちはそもそも、事件の犯人はクリーチャーである前提で動いているから、幽霊の女の子がクリーチャーだとしても、それだけじゃなにもわかっていないことと同義。

 それなら、より手掛かりがありそうなところを調べるのは、道理なんだけど……あんまり、気乗りはしない。

 『幼児連続殺傷事件』、その被害者を訪ねるだなんて。先生は、直接の被害者ではないけど、それでも心に傷を負っているだろうし、同じことだ。

 嫌なことを思い出させたり、関係ない人が入り込んだりするのは、よくないことだと思う。少なくともわたしの倫理観ではそうだ。

 だけど、これからわたしたちがすることは、そういうことだ。そんな、嫌なことを、人を嫌な気持ちにさせるようなことを、するんだ。

 たとえ平和のためだとしても、それはなんだか……複雑な気持ちになる。

 そんなちょっと薄暗い気持ちになりつつ、下校する生徒たちを眺めながら待っていると、こちらに歩いてくる人影が見えた。

 

「ん……来た……?

「でも、なんか人影が小さくないか?」

「じゃあ妹さんの方?」

「いや。違うよ。あれは……」

 

 ある程度近づいてきたら、その姿はハッキリと見える。

 トタトタと小走りで“銀髪”を揺らしながらやって来る、その人は――

 

「ユーちゃん、こんなところでなにやってるの?」

「ローちゃん!」

 

 ――ローザさん、だった。

 ユーちゃんの双子のお姉さんだ。

 

「なんか、物凄く意外な人がやって来たね」

「最初からあの先輩本人が来るとは思ってないけど、もしかして君が、先輩の使者なのかい?」

「? あの先輩? どなたですか?」

「違うのか……ってことは、単にユーがいたから来ただけなんだな」

「普段あんまりこっちに絡んでこないのに、今日は珍しいね」

「ユーちゃん、ちょっと目を離すとすぐにどこか行っちゃうから……それに、最近なんだか物騒じゃないですか。先生方も言ってましたけど、町に危ない人がいるって。だから、私もユーちゃんのことが心配で……」

 

 ローザさんのその言葉に、わたしはドキリとする。

 正にその危ない人(かどうかは、わからないけど)を探すため、ユーちゃんとも一緒に行動しているわけだから、いたたまれない。

 けど、それを言うわけにもいかないし……ごめんなさい、ローザさん。

 

「それに、最近なんだか帰りが遅いようだし、また危ないことでもやってるんじゃないかと……」

「ローちゃんはシンパイショーですって! ユーちゃんならだいじょうぶです! みなさんがいますから!」

「そう? まあ、伊勢さんたちが一緒なら、大丈夫なのかな……でも、無理しちゃダメだよ。ユーちゃんは昔から無茶なことばっかりしてるんだから」

「だいじょうぶ! 小鈴さんたちと一緒なら、なにも問題ないですって!」

「それなら、いいんだけど……」

 

 お姉さんらしく、ユーちゃんを心配するローザさん。なんていうか、本当にユーちゃんのことを大事に思ってるんだなぁ。

 ユーちゃんと仲良くなる時も、ローザさんがユーちゃんを心配して、学援部を訪ねたことが発端だった。それも思うと、やっぱりユーちゃんは、ローザさんに大事にされてるんだね。

 

「なんか、凄く姉っぽいな。君ら一応、双子だろうに」

「ユーちゃん、すぐにあっちこっちに行っちゃうから、私が見てないとダメなんですよ。皆さんにもご迷惑おかけします……」

「そ、そんなことはないよ。大丈夫だよ。ユーちゃん、ひょこひょこしてて可愛いし」

「それ……どんな、フォロー……?」

「ところでローザさんは、いつもなにしてんの? やっぱ双子だからって同じことしてるわけじゃない?」

「ローちゃんは今日もお勉強するんですよ、きっと」

「お勉強?」

「えぇ、まあ……まだ日本には知らないことが多いですし、毎日図書館に通って、色々と勉強してるんです」

「毎日!? はぇー、すっごい。勤勉だねぇ」

「いつも遊びほうけてるユーとはえらい違いだな」

「むぅ……霜さん、イジワルです」

 

 霜ちゃんの言葉に頬を膨らませるユーちゃん。ちょっと可愛い。

 でも、毎日図書館で勉強だなんて、ローザさんはすごいね。日本にはもうかなり慣れている風なのに、それでもまだ勉強を怠らないなんて。

 

「しかし、学校の図書館じゃないんだな」

「はい。商店街の方の図書館の方が、家から近いので」

「あっちの方に図書館とかあった?」

「あるよ? 小さくて、ちょっと古いけど。わたしも小学生の頃はよく通ってたもん」

 

 最近はみんなと一緒に遊ぶようになったから、めっきり行かなくなっちゃったけどね。

 

「それじゃあ、私はこのへんで……皆さん、ユーちゃんをよろしくお願いします」

「あぁ、うん」

「ユーちゃんも、ワガママ言って迷惑かけちゃダメだよ。あと、あんまり帰りも遅くならないでね。Mutti(お母さん)Vati(お父さん)も、心配するんだから。それに……」

「もー、わかったってばー! ローちゃんも早く行って行って!」

「わっ……えっと、じゃあ、皆さん、また明日。じゃあね、ユーちゃんも。Tschues(行ってきます)

Tschues(行ってらっしゃい)!」

 

 ユーちゃんは半ば強引に、ローザさんを送り出した。

 ローザさんもそれ以上は忠言せず、たぶん別れの言葉を言い合って、立ち去った。

 

「しかし、彼女のことはあまり知らないけど、しっかりしたいい姉じゃないか、ユー」

「そうだね。ユーちゃんのこと、大事に思ってるみたいだし」

「えへへー、そうでしょ、そうでしょ? ちょっと口うるさいとこはありますけど、ローちゃんもとってもいい子なんですよ!」

「仲のいい姉妹で羨ましい限りですねー」

「みのりちゃん、一人っ子だもんね」

「私も……」

「日向さんには剣埼先輩がいるじゃないの」

「いや……つきにぃは、ちょっと、違う……私、つきにぃの……ヒモだから」

「ヒモ!?」

「それ、女性に養われてる男性に使う言葉じゃなかったか? というか中学生に扶養の関係はないだろ」

 

 まあでも、姉妹仲がいいっていうのは、いいことだよね。

 ……別に、わたしとお姉ちゃんの仲が悪いわけじゃ、ないですよ?

 確かに中学生になってからは、生徒会のお仕事が大変になって、あんまり一緒に遊ばなくなったけど……

 

「それにしても、遅いな。そろそろなにかしら通達があってもいいと思うんだが」

「ねー。もう帰る人も見なくなったし、私も待ちくたびれちゃったよ」

 

 と、そろそろみのりちゃんがだれてきた頃。

 その人は、現れた。

 

「や、皆。お待たせ」

「謡さん?」

 

 わたしたちの前に現れたのは朧さんでも、狭霧さんでもなく、謡さんだった。

 

「謡さんも、鹿島先生のお家に行くんですか……?」

「……まあね。私も去年、ちょっと荒んでた時に、あの先生に色々と世話焼いてもらったから」

「そうだったんですか……」

「それに、そもそも先生の家の住所を伝えるのは、私の役目だし」

「えっ!? そうなんですか?」

 

 ということは、朧さんからの使者って、謡さんなの?

 だけど謡さんは、なんだかとても怒ってるようだった。

 

「っていうか、本当にあり得ない。「三日以内に鹿島先生の住所を突き止めよう」とか言っておきながら、朧君(あいつ)、香椎ちゃんから直接聞き出してるんだよ。しかも、私を使って! 信じられる?」

「それは……」

「うわぁ、流石の私もちょっぴり同情しますね、それは」

「……あの先輩、なんか急に邪悪さを押し出してきたな。どういうつもりだ、なにを考えてる……?」

「香椎ちゃんが可哀そうだったよ……まあ、結局はあいつに唆されて聞き出した私も同罪だから、朧君のことをとやかく言う権利はないんだけど」

 

 ただでさえ気が重い先生宅の訪問だけど、その経緯も知ってしまうと、さらに気が削がれてしまう。

 けれど、そんなわたしの気持ちを察したのか、謡さんは、

 

「気が進まないのはわかるけど、行かなきゃ。じゃないと香椎ちゃんにも合わせる顔がない」

「謡さん……」

「朧君はムカつく奴だけど、私たちと目的自体は合致してる。ここで動かなきゃ、なにもかも無意味に終わっちゃうよ。私は、それだけは嫌だな」

 

 ……そう、だね。

 謡さんの言う通りだ。ここで止まってしまったら、なにもかもが悲しいまま終わってしまう。

 誰かのためにやっていることではないけれど、それでも、これがなんのためにもならない、無意味なもので終わってしまうのは、ダメだよね。

 

「それじゃあ行こうか。幸いにも先生の家は歩いて行ける距離だから、すぐに着くよ」

「は、はいっ!」

 

 そうして、わたしたちは謡さんの先導の下、鹿島先生の家へと、向かうのでした。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「さーて、伊勢さんたちの捜査は順調かな。こっちも切りたくないカードを切りまくってるわけだし、そろそろ事件の核心に迫って欲しいけど……こればっかりは、彼女たち次第だから、なんとも言えないよねぇ」

 

 謡から連絡を受け、そのまま小鈴たちの下へと向かわせた朧は、今日の収集したデータを集積、整理しながら、彼女たちについて思案する。

 思案、というよりも心配だろうか。彼女たちの身ではなく、事件の進行についてだ。

 謡に存在を察知された時点で、朧の計画は大きく狂ってしまっていた。とはいえそれも、小鈴らをダシに、謡を煽って操るという手段を取ることである程度は修正された。

 もっとも、そのために払った信用(ぎせい)も、決して小さくはないのだが。

 事件の捜査を進めることを第一に考えた結果として、敵意を買ってしまった。仕方のないことではあるが、朧としてもこの一手は、苦渋の決断だったのだ。

 などと、今更己の選択を悔やんでいても、それこそ仕方のないことだ。今は、最も重要な事案を推し進めることが優先だ。

 というところで、ポケットの中の携帯が震えた。

 

「おっと電話だ。誰だろう……げ」

 

 相手の名前を見て、露骨に顔をしかめる。

 できれば話したくない相手だったが、ここで居留守を決め込む方が面倒くさいことになる。切るか繋ぐかを考えた時、比較の問題として、朧は通話ボタンを押した。

 

「もしもし……あぁ、やはりあなたですか。こうして電話あるたびに思いますけど、わざわざオレに連絡します? オレなんて下っ端の末端のペーペーなんですから、できれば上を通してほしいのですが……オレはあなたと直に言葉を交わせるような立場ではありません」

 

 とりあえず、最初に苦言を呈してみる。もっとも、この程度の文句が通じる相手でないことは、わかっているのだが。

 

「それで、なんですか? ……進捗? それはオレから聞かないとダメなことですか? 定時報告は“あちら”が済ませていると思うのですが。オレの情報はあっちと常に共有されていますし、それで十分でしょう?」

 

 溜息を吐く。できれば情報収集に専念して、それ以外のことはすべて他人に任せたいと思っている朧としては、そんなつまらないことで呼び出されるのも、その対応も、億劫だった。

 

「……あぁ、確認ではなく催促ですか。またですか。やってます、オレはちゃんとやってますよ。ただ、あなたの注文通りに動いてるせいもあって、とてもやりにくい。人を動かす、それも限られた人員のみを操って、なんて、そう簡単ではないですよ。オレは情報収集が本分であって、指揮する力はないんですから」

 

 加えて、急かされているとなれば、より辟易するというもの。

 事が停滞しているというのは、朧自身痛感しているところだ。調査も、事件そのものも、近頃は動きが鈍い。

 ここは法と秩序によって守られている人間社会なのだ。野生と本能の自然界ではない。殺傷事件などが起こってしまえば、それを抑圧する働きが生まれて当然である。

 そして自分は、自分たちは、まだ中学生だ。その枠組みに囚われている限り、秩序からの拘束は強く、あまりにも縛りが多い。そんな力不足な子供にできることなど、たかが知れている。

 だというのに、この依頼人(クライアント)は、一体なにを期待しているのか。それとも、そんなこともわからないほど――あるいは、わかっていてやっているような、狂人なのか。

 いやさ、こんな依頼をしてくる相手だ。狂っているのは明らかなのだが。

 

「それになにより、この事件そのものが不可解すぎます。あまりにも隠されすぎている。断片的な情報こそは集まりますが、真相に至るための、決定的な証拠が一切合切見つけられない。奇妙なほどに」

 

 そうだ。進展がない理由は、外的要因だけではない。自分たちの力不足に限らない。

 事件そのものの特異性もまた、停滞の原因である。

 率直に言って、犯人の手掛かりが異常に少ないのだ。ロンドンの切り裂き魔の如く、その存在は霞みがかっている。

 この事件の、犯人の隠匿に関しては、国家権力たる警察が犯人の尻尾を掴めていないことがその証拠と言える。状況や物質による証拠、証言では捕まえらない。そう思わせるほどに、犯人は姿が見えない。

 朧が噂話や都市伝説などという、事件性の薄いものを手掛かりにしているのも、そういった事情が一端にある。

 

「オレも社会での立場ってものがありますからね。時間をかけすぎるわけにはいかないから、無理して彼女たちを、核心に近そうな人物の下までけしかけましたけど……これ、かなり危険な賭けなんですよ。成功しようが失敗しようが、オレはリスクを被らなくちゃいけない。こんな割に合わない博打、絶対に打ちたくないんですけど、背に腹は代えられないと言いますか……まあ、あなたからすれば、オレのことなんて関係ないことでしょうけども」

 

 しかしこちらからすれば、依頼人の指令は絶対だ。なによりも、彼の意向に沿わなくてはならない。催促してくるのであれば、こちらも性急に捜査を進める必要がある。

 小鈴や謡を、彼女たちの倫理観を無視してまで動かしたのも、彼の催促によるところが大きい。

 鹿島女史の欠勤の理由なんて、ずっと前から知っていた。彼女に接触すれば、事件の真相に一気に近づける公算が高いことも承知していた。それでも、それは人としての倫理に踏み込む危険な一手だ。敵を作らないように立ち回るためは、そのリスクある手段を使うことは躊躇われた。

 しかし、依頼人からは催促の連絡がひっきりなしに来るため、朧としても手段を選んでいられなくなってしまったのだ。捜査が停滞している焦りもあった。

 そしてなにより、謡に存在を察知されてしまったため、隠遁に徹する理由が薄まった、というのもある。

 最優先課題は依頼人にある。ならば、多少なりとも周りに敵を作る覚悟で、この強引で危険な一手を打つに至ったのだ。

 

「まあ、オレの読みが正しければ、流石にそろそろなにかは見えてくるんじゃないんですかね。今までが回り道をしすぎていた、と言われればその通りですが……外堀を埋めたお陰で、数多の可能性の多くは潰せました。となると、残る可能性は少なくなります」

 

 推理なんて柄ではない。あくまで情報の収集と集積、それが自分の本分だ。真実は考えるものではない、この目で見て、この耳で聞いて、現実にあるものを受け取ることなのだ。

 それでも、その現実に至るための道を導き出すために、考えるとするならば。

 

「白い少女の幽霊なんて、馬鹿馬鹿しいと一笑に付すのが普通なのかもしれませんけど、これって実は、かなり盲点を突いてるんですよね」

 

 幽霊なんてオカルト甚だしいものは信じてはいない。そんなものはただの都市伝説だ。

 しかし、その都市伝説は、すべてがすべて、虚構や悪戯とも言いきれない。

 

「殺人鬼、呪術師、脱獄犯……人間を脅かす危険な奴ってのはたくさんいますけど、どうやら今回の事件は、そのどれでもない。そもそも、動物は殺すのに、人間は殺さないっていうのは、おかしいんですよね。なぜそこに差をつけるのか、不思議なんですよ」

 

 ここまで大きな事件を犯す者が、殺人だけを避けるようなことは、不自然と言える。人と獣は違うものだし、殺人と殺傷もまた別だが、この秩序だった社会においては、人だろうが獣だろうが、殺そうが殺すまいが、傷つけるというだけで一括りにできてしまう。

 ゆえに、この二つに差はない。この二つに差をつける異常者という考え方もできるが、流石にそれは無理が過ぎる。

 

「つまりこれは、動物は殺して人は殺さなかったのではなく、動物は“殺せた”けど、人は“殺せなかった”のだろうと思うんです」

 

 当然、それは殺人に忌避感が生まれたなどという心情的なものではなく、技術、あるいは身体的なものだ。

 死ぬような目に遭ったことがないこともあって、朧にはよくわからないのだが、人間は存外、死ににくい。

 太古の処刑には八つ裂きの刑と言って、人の四肢を馬に括り付け、馬をそれぞれ別方向に走らせ、人体をバラバラにするというものがあるそうだ。しかし、実際には人体が引き千切れるより先に馬が疲れてしまい、死ぬほど痛いが、死に至ることはないという。

 拷問という概念が存在するのも、ひとえに人間の生命力の高さゆえだろう。老人が火葬の直前に息を吹き返す、なんてエピソードもあるくらい、人間の生命力は馬鹿にならない。

 つまり、動物より、人間方がずっと死ににくいのだ。適当にめった切りにする程度では、相手が子供と言えど、簡単には殺されない。加えて、現代の人間社会は医療技術が非常に発達している。素早く適切に処置すれば、少なくとも死ぬことだけは回避できるだろう。

 

「とはいえ殺せないからと言って、殺意がないわけではないでしょうね。それは被害者の傷跡が物語っています。これでもかというくらいにズタズタに切り裂かれているわけですから、殺意がないわけがない。犯人自身は、本気で殺す気でやったのでしょうけど、それでも死に至らなかった。そう考えるのが自然です」

 

 傷つけるだけが目的で、殺す気はない、ということはまずあり得ない。犯行動機については、流石に推理のしようがないが。被害者に子供以外の共通点がないため、恐らく怨恨ではなく、快楽主義者の狂気だろう、と多少の推測が立つ程度だ。

 

「さてここでおかしな点がひとつ。本人は殺す気で子供を襲っている。少なくとも動物は殺している。では、なぜ子供を殺せなかったんでしょうね?」

 

 人は意外と死ににくい。

 しかし、人を殺すのは簡単だ。

 矛盾するようだが、それが真実なのだ。

 

「あなたなら、どうやって人を殺しますか? ……銃で頭を撃つ? あぁ、そうですね。それが確実です。銃ならやっぱ頭ですかね。ロシアンルーレットはこめかみに銃口を突きつけるわけですし、頭は人体の急所の一つ。そこを砕けば、即死ですよね」

 

 他にも、心臓を穿つ、頸動脈を切るなど、人体の急所を狙って攻撃を加えれば、人は簡単に殺されてしまう。人間というのは、急所の多い生き物なのだ。

 そしてそんな弱点は、とても明瞭に知られている。学校で習うようなことではない。ただ、日常生活を営む間、本能的に、あるいは経験則として、学んでいくのだ。

 頭を殴られれば痛い。首を掴まれれば怖気が走る。そんな防衛本能を働かせるうちに、人は無意識的に自身の弱点を知るのだ。

 そしてその学習は、人に害意を向ける時にも発揮される。

 即ち、刃物で人を刺し殺そうとする時、どこを狙うのかだ。

 衝動的に振るう刃物であれば、腹に刺すこともあるだろう。しかしそれは初撃にすぎない。確実に殺すなら心臓だし、頸動脈を切断してもいい。

 人間はそれを知っている。そうすれば、相手が確実に死ぬことを。

 

「けれどこの事件の犯人は、襲った子供を誰一人として殺せていない。わざと殺さなかったのでなければ、犯人は人体の急所を狙わなかった――いえ“狙えなかった”ことになる」

 

 恣意的に急所を狙わなかったのではないとしたら、犯人は確実に殺す方法を取れなかった、ということになる。

 それはなぜか。答えは、簡単だ。

 

「“知らなかった”んですよ、人体の急所を。人間なら誰しもが学習するだろうことをね」

 

 言ってしまえば簡単だが、とはいえそんな人間がいるのだろうか、という疑問も付きまとう。

 人間ならざる存在であれば、もしかしたら人体の構造を理解していないのかもしれないが、それ以外にも可能性はある。

 

「人が無意識的に己の弱点を学習するのなら、その犯人は人体の急所を学習していない人物。つまり――“子供”です」

 

 子供は危険を察知できない。すぐにものを飲み込み、足場の悪いところで躓き、道路に飛び出す。どんなものが、自分のどこに当たったら酷い目に遭うのかを理解しない。彼らには「痛い」と感じたその瞬間しかないのだ。

 だからこそ、 己の急所さえも把握していない者となれば、それは学習経験が極端に浅い、幼子ということになる。

 

「幽霊が犯人っていうのはオカルトですけど、少女が犯人というのは、あり得ないと切り捨てられるものではないと思います。まあ、少年でもいいですけど」

 

 もっともこの推理も、犯人は人外である、と同じくらい荒唐無稽ではあるのだが。

 しかし荒唐無稽だからこそ、誰もが考えもしない盲点であるからこそ、その存在が掴めない、とも考えられる。

 

「……とまあ、つい興が乗ってらしくもなく推理とかしちゃいましたけど、どうでしたかね? あなたよりも、よほど探偵らしいことしてる自負はあるんですが。まあ、オレはその場にいませんでしたけど」

 

 まだ仮説の域を出ない推論ではある。子供だとわかったからと言って、明確に誰が犯人だとわかったわけではない。

 そもそも、この推理にしたって、子供に生き物が殺せるのか、それだけの力があるのか、目的はなんなのか、など。倫理、技術、動機、その他の外的要因など、諸々の事情が絡んでくるので、やはり突飛なだけで、不完全な推理なのだが。

 

「あぁ……はい、そうですね。口で言っても仕方ないですよね。こればっかりは、結果で示さないと……でも、本当あんま期待しなでくださいね。オレができることは、たかが知れてるんですから。だから別働隊がいるわけですし……」

 

 偉そうに御託を並べても、犯人に繋がらなければ意味がない。こんな時ばかり正論をぶつけられて、少し腹が立つが、苛立っても仕方ないので苦々しく飲み込む。

 

「じゃあ、長くなりましたけどこの辺で。次はいい報告ができるよう、最善は尽くしますよ」

 

 と、いい加減相手の声を聞くのも憂鬱になってきたので、通話を切る。

 

「……とはいえ、オレの方はかなり手詰まり気味だし、後のことは伊勢さんたちが肝だ。上手くやってくれよ――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 そんなこんなで、謡さんに案内されて、鹿島先生が住んでいるらしい、ちょっと大きなマンションへとやって来ました。

 

「ここが、鹿島先生のお家ですか?」

「うん。このマンションの265号室だって」

「265? 205とかじゃなくて? 一体どういうナンバリングなんだ……? 確かに大きいマンションだけど、まさかワンフロアに60部屋もあるわけじゃあるまいに」

「どーでもよくない?」

「えーっと、262、263、264……お、ここだね、265号室」

 

 不思議な並びの部屋番号を辿って、いよいよ先生の家が間近に迫る。

 いや、どちらかと言えば、迫っているのはわたしたちなんだけど。

 なんにしても、ここに先生がいるはず。そして、たぶんそのお子さんも……

 

「…………」

「妹ちゃん、平気? 私が押そうか?」

「い、いえ。大丈夫、です」

 

 インターホンの前でたじろいでしまうけど、ここまで来たら、もう引き下がれない。

 先生にはすごく申し訳ないけれど……一刻も早く犯人を見つけて、これ以上被害を出さないためにも、前に進まなきゃ。

 わたしは恐る恐る、インターホンを押す。

 ピンポーン、という電子音が鳴って、しばらくすると、

 

『……はい』

「あ、あのっ。先生……えっと、その、い、伊勢です。伊勢小鈴です」

『っ! なにっ? 伊勢……? ちょ、ちょっと待ってくれ』

 

 驚いたような声の直後、インターホンの向こうでなにやらバタバタと音がした。

 そしてそのすぐ後に、勢いよく部屋の扉が開かれた。

 当然、出て来たのは鹿島先生だ。

 

「伊勢……それと、日向に、ルナチャスキーに、水早に香取に……長良川までいるのか? これはどういう集まりだ?」

「先生が心配な可愛い生徒たちの集まりです」

「おい、実子」

「ご、ごめんなさい、先生。いきなり来てしまって……その、わたしたち、先生のことが心配で……えっと」

「あぁ、そうか。そうだよな……悪い。だが、どうして私の家が……?」

「住所は香椎さんから聞きました。“私が”強引に無理やり聞き出して、この子たちも連れて来たんです。責任者は私です」

「よ、謡さんっ?」

「よう……」

「……いや、いい。別に、責めるつもりはないんだ。本当なら、厳しく注意すべきなんだろうが……」

 

 いつも気丈で強気な鹿島先生だけど、今は語気が弱くて、覇気も感じない。

 それになにより、すごくやつれている。目のクマも酷くて……正直、見ていられない様子だった。

 

「立ち話もあれだろう。とりあえず、入ってくれ。流石にこの人数だと、少し手狭だろうけど、許して欲しい」

「大勢で押しかけたのはこちらなので、先生が謝ることはありませんよ。いざとなれば誰か帰らせます」

「それ絶対に私のことだよね、水早君」

「お、お邪魔します……っ」

 

 そういうわけで、わたしたちは先生の家へと、上げてもらいました。

 中は、なんとなく暗かった。明かりが消えているというだけじゃない。なんだか空気がどんよりと重く、息苦しい気分だ。

 それに、すごく嫌な感じがする。言葉では言い表せないんだけど……危険というか、なんというか。

 

「Oh……クマさん(ベーァ)がたくさんです。かわいい(シェーン)ですね」

 

 本当だ。先生の家には、たくさんのクマさんのぬいぐるみがあった。

 玄関に、戸棚に、あるいは壁に、大小様々なテディベアがある。

 

「先生、普段はあんなにサバサバしてるのに、意外と少女趣味なんだね」

「先生だって女性だし、そういうこともあるだろう。表向きが男勝りなほど、その反動で内面は少女らしいなんて、よくあることだ」

「そーくんが言うと、妙な説得力があるね。妙な」

「そこを強調しますか」

 

 小声でそんなことを話しながら、先生に案内されて、リビングへと入る。

 

「座卓ですまない。とりあえず、お茶を淹れるから、適当に座ってくれ」

「あぁ、お構いなく」

「社交辞令だね」

「いちいち茶々を入れるな、鬱陶しい」

「ちぇ、せっかく重苦しい場を和ませようと思ったのに」

「今回は殊更にナイーブな問題なんだ、ふざけるなら帰れ」

「ま、まあまあ、霜さん。実子さんも、ワルギがあったわけじゃないと思います」

「そうだよ、ユーリアさんの言う通り」

「……まあでも、そーくんの言う通りでもあるよね」

「え、先輩も私に帰れって」

「だからそういうところだぞ、実子」

「そうじゃなくって、今回は慎重に行かなきゃいけないってこと。先生の傷を抉らないよう、よく吟味して言葉や話題を選ばないと」

「たしかに……」

「この先輩、意外と真面目なこと言えるんだね」

「だからさぁ……!」

「……そう、も……目くじら、たてすぎ……」

 

 霜ちゃんとみのりちゃんのことは置いておくとして、謡さんの言う通りだ。

 朧さんの言う通りなら、先生のお子さんは、今回の事件の直接的な被害者だ。

 そしてわたしたちが探らなきゃいけないことも、その事件について。問題の核であり、恐らく先生がやつれている根源。

 そこに踏み込むのだから、慎重に行かないと。

 それに、朧さんが得た情報も個人のプライバシーを侵害しかねないことだし、先生のお子さんが被害に遭っていることを知っている、ということは伏せないと……

 

「すまない、待たせた」

 

 しばらくして、先生がお盆にお茶を淹れて持って来てくれた。

 先生……すごく辛いだろうに、いきなり押しかけて来たわたしたちを、お客さんとしてちゃんと迎え入れて、もたなしてくれてる。

 それを思うと、自分の利己的な行動に、また心が痛む。

 

「……それで、お前たちが来たのは、その……私のこと、だよな」

「えぇ、ここ最近ずっと休まれているので、どうしたのだろう、と」

「学校でも噂にでもなってるのかな……まあ、仕方ないか。いくらなんでも休みすぎだものな。教頭の気遣いに甘えすぎた。教師……いや、社会人として失格だな、私は」

 

 先生は沈痛な面持ちで言った。

 とても暗く、悲壮感を漂わせる声で。

 そんな先生が見ていられなくて、わたしは思わず、言ってしまった。

 

「そ、そんなことありませんっ。だって、先生だって辛いはずで……」

「小鈴っ」

「え……あっ」

「……やっぱりな」

 

 しまった、と思った時にはもう遅い。

 慎重に行こうって決心したばかりなので、いきなり失敗してしまった。

 

「カマをかけたつもりはないが、そうじゃないかとは思ったよ。じゃなきゃ、お前たちみたいな内向性の高い生徒が、教師の家に突撃するなんてあり得ないものな。ただの噂なのか、どうにかして知ったのかは知らないが……ふむ」

 

 先生はぐるっとわたしたちを見回すと、その中の謡さんに視線を合わせた。

 

「長良川、か。久し振りだな」

「は、はい。去年はお世話になりました」

「生徒会に入ったんだっけか。どうだ、上手くやれてる?」

「はい。会長も、同級生も、後輩も、皆いい人たちなので……とても、楽しいです」

「そうか、それはなにより。クラスではどうだ? お前は誰とでも卒なくコミュニケーションを取る奴だったけど、その辺は?」

「フーロちゃ……北上さんと。生徒会で同じなので、最近は仲良くしてます」

「そうか。確か北上とは、去年もクラスが同じだったな。他に同じクラスだった奴は……そうだな、若垣とか、どうだ」

「…………」

「……ま、その辺からだろうな。あいつは嫌に賢しい奴だったしな」

 

 え、な、なに、どういうこと?

 朧さんから先生のことを知ったのが、バレたの?

 

(凄まじいな……この先生、思った以上にやり手だぞ)

(どういうこと?)

(観察眼が半端じゃない。直接の担任であるボクらならまだしも、ただ1クラスの授業を受け持っただけの先輩たちのことさえも熟知してる。そしてその上で、僅か時間で考えられるあらゆる可能性から最適解を導き出してしまった)

(ごめん、なに言ってるのかわからない……)

(要するに、この先輩を通じて、あの新聞部の先輩との関わりを見抜かれたんだ。この些細なやり取りの中でね)

 

 やっぱりよくわからなかったけど、朧さんのことまでバレてしまったということはわかった。

 それって、なんだか、とってもまずい流れじゃ……?

 先生は顔こそやつれているけど、それでも先生らしく毅然として振る舞いで言った。

 

「本来なら、よほどの理由がなければ、教師の家に生徒がいきなり押しかけるなんて厳重注意、下手すれば生徒指導やらでペナルティを考えるところだけど……今回は確実に、私に非がある、よな」

「先生……」

「いいよ、どうせ全部知ってるんだろう。お前たちのやってることは不謹慎だと叱りつけたくなるが、教師としての責務を放棄している今の私にその資格はない。それにお前たちなら、興味本位とか邪な考えで来たわけじゃないだろうしな」

 

 な、なんだろう。怒られているのか、そうでないのか、よくわからないけど……

 なんていうか、先生は自戒しているようだった。

 

「私が欠勤してる理由は、察しの通りだよ。その、なんだ……娘が、な」

「…………」

 

 やっぱり、そうなんだ。

 その話題を口にした途端、先生の毅然とした態度も、崩れていく。

 

「今、小1だ。絵を描くのが好きで、とにかく明るい子で、友達も多かった。あの日も、友達の家で遊びに行っていたん、だが……」

「そこで、例の……」

「あぁ……」

 

 『幼児連続殺傷事件』。

 未就学児から、小学校低学年まで。幼い子供ばかりを狙った、傷害事件。

 今のところ死者は出ていないみたいだけど、どの被害者も、あと少しでも搬送が遅れていれば死んでいたかもしれないというくらい、惨い傷を受けている。

 そして、先生のお子さんも……

 

「今も娘は療養中……いや、もういっそ不登校と言った方がいいかもしれないな。体調は万全だ。だが、心が身体に追いついていない。いつかのルナチャスキーみたいな状態だな」

「うにゅ……それって、お外に出たくない、ってことですか……?」

「あぁ、そうだ。そうだよ、出られるわけがない。私だって、あの子と同じ立場なら、外に出たいなんて、出られるだなんて、思わないさ」

 

 先生は、血が滲みそうなほど拳を握り締めている。

 表情は重く険しい。それは悲しげでありながらも、その中には凄まじいまでの怒りも内包した、嘆きだった。

 

「“顔”を、あんなにされて……!」

「っ……!」

 

 息を飲んだ。思わず、自分の顔に手を当ててしまう。

 もしも、自分の顔に幾重もの切傷がついたとしたら? 二重に三重に、深い裂傷。刺傷。暴力による蹂躙の痕が残ったとしたら?

 考えるだけで、怖気が走る。全身が毛羽立つような悪寒に襲われる。熱が顔に、身体中に迸って、痛みなんてありもしないのに、痛覚を刺激する。

 想像もしたくないけど、その姿を思い描いてしまう。自分自身を、空想の暴威と、重ね合わせてしまう。

 胸が痛い。胸の奥底が、掻き回されるような気持ち悪さと、痛みを感じる。

 けれどそれは所詮、妄想であり、錯覚に過ぎない。

 本当の……“本物”の痛みには程遠い。

 そしてそれは逆説的に、本物の凄惨さを雄弁に物語る。

 

「あの子は、女の子なのに……!」

 

 言葉が、出なかった。

 先生の抱えるものの大きさに、圧倒されてしまう。事の重大さに、慄いてしまう。

 慰めの言葉も、励ましの言葉も、わたしの口から出る言葉はすべて陳腐で薄っぺらいものになってしまいそうで、なにも言えない。言ってはいけない、そう思ってしまう。

 やっぱり、わたしはここに来るべきじゃ、なかったのかもしれない。

 先生の悲愴を、憤怒を、悔恨を見ると、わたしはそう思ってしまう。

 

「……悪い。お前たちは私を心配して来てくれたのにな」

「いえ、その……ご愁傷様、です」

「中学生が言葉を繕って気遣うなよ。でも、まあ、ありがとう。少し救われたよ。理由はどうあれ、少しでも私を心配して、ここまでする教え子がいるってだけで、私は幸せ者だ。教師冥利に尽きるよ」

 

 先生は、さっきの悲しみと怒りと悔しさに満ちた表情から少し持ち直して、渇いているけれども、少しだけ笑みを見せてくれた。

 でもやっぱり、精神がぐらぐだと揺れていて、情緒不安定に感じる。

 当然のことだけど、それだけ娘さんのことが、堪えているんだ。

 

「ところで先生、娘さん、今……?」

「部屋にいるよ。けど、流石に会わせられない。私なんかよりも、本人の方がずっと堪えているしな」

「や、いくら空気読まない私でも、そこまでさせろなんて言いませんよ」

「……香取、お前変わったよな。一学期はそんなんじゃなかったよな……?」

「そうでした?」

「ずっと、学校を休まれているんですか?」

「あぁ、そうだな。一応、病院には通っているが……けど、傷口は塞がっても、傷痕は消えない。顔だけじゃない、身体の傷もだ」

「……ごめんなさい、変なことを聞きました」

「いや、いい。変に気遣うなよ、水早。私はお前たちよりも、十も二十も上の大人だぞ? 子供がちょっとやそっとの粗相をした程度で怒りはしない。今の私はかつてないほど寛大だ」

「……はい」

 

 先生は冗談めかしてそう言うけど、それが強がりなのはわたしにもわかった。

 確かにわたしたちが根掘り葉掘り聞いても、よほどのことがない限り怒りはしないだろうけど、娘さんのことを口にするたびに、辛そうな表情をするんだもの。

 だけど、霜ちゃんは先生を気遣いつつも、言及を止めなかった。ここで引き下がったら、なにもかも無意味に終わってしまうと、理解しているから。

 

「ということは、病院以外ではずっと家にいるんですね」

「そうだな。基本的には部屋にこもりっぱなしだ」

「そういえば先生、旦那さんは?」

「旦那か? 旦那も働いてるが、帰ってくるのは夜遅くだよ。私は教頭先生の温情で休ませてもらっているが、旦那はそうもいかないようでな。いや、私が休めるから、旦那には働いてもらわなくちゃならない、ってことなんだが」

「今の娘さんを、家に一人にするのも、酷でしょうしね」

「あぁ、そうだな……でも、勉強は大丈夫だ。私の担当は国語だが、小学一年生レベルなら教えられるし、毎日友達がプリントも届けてくれる。あの子が復帰した時のための土壌は、ちゃんと作っておかないといけないからな。学校に復帰しても、学業についていけないなんてことにはさせないさ」

「さっすが鹿島先生。去年から変わってないですね」

 

 勉強の遅れ、不登校。そういう問題は、烏ヶ森にもある。

 鹿島先生も、先生として、その問題に向き合ってきた人なんだ。

 たとえその相手が自分の娘でも、その意志は変わらない。

 

Aber(でも)……学校には、音楽とか、体育とか、美術とかもありますよ?」

「技術科目については、流石にどうしようもないな。リコーダーくらいなら吹けるが、体育はちょっとな……あぁ、でも」

「? なんですか?」

「美術……っていうか、小学校なら図画工作か。図工は問題ない」

「それは、どうして?」

「あの子の得意科目だからな。最初に言ったろ、絵を描くのが好きだって。図工だけはずば抜けて得意でな、一学期の成績は最“優”だったんだ」

「優って……小学校じゃそんな評価の仕方しないですよ。4とか5とか、せめてアルファベットでしょうに」

 

 霜ちゃんがちょっと呆れ気味に言うけど、先生はとても楽しそうだった。

 正に、我が子を自慢する母親の姿だ。

 

「ってことは、家でも絵を描いてるんですか?」

「そうだな。それが少しでもあの子の慰みになればいいんだが……なんか、変なんだよな」

「変、とは?」

「絵を描いてる時だけ、おどろおどろしいというか、なんか違う雰囲気というか……暗いことには暗いんだが、こう、なにかに憑りつかれてるみたいに絵を描いてて……たまに勉強そっちのけで一心不乱に書いてるものだから、安心するようで、少し空恐ろしくもある」

「それは……事件の影響、とかですか?」

「わからない。私も深く尋ねるのは怖くてな……あぁ、教師、社会人に続き、母親も失格かもしれないな、私は」

「そ、そんなことないですよっ! 先生は、gut Mutter(立派なお母さん)です!」

「なにかに憑りつかれてるように、か」

 

 霜ちゃんは、わたしに目配せする。

 うん、その表現でわたしにもちょっと思い当たる節はあるよ。

 先生の娘さんが、かつてのユーちゃんと似たような状態にあるのは、もしかしたら事件の、傷のせいだけじゃないかもしれない。

 事件の傷を強く引きずっているだろうことは想像に難くないけれど、なにかに憑かれたように絵を描き続けるというのは、異常かもしれない。

 少なくとも先生が、違和感を覚える程度には、異変と言える。

 

(まさか、クリーチャーが……?)

 

 『幼児連続殺傷事件』と関わりのあるクリーチャーなのか、それともまったく関係ないクリーチャーなのかは、わからないけれど。

 この家に入った時に感じた嫌な気配も、もしかしたらクリーチャーによるもの……?

 わたしはほとんど無意識に、鞄を引き寄せていた。今は先生がいるから下手に動けないけど、もしもクリーチャーなら、どうにかして……ん?

 

「っ」

「? 伊勢、どうした?」

「あっ、いえ、そのっ……せ、先生っ!」

「な、なんだ……?」

「お、お手洗いを、お借りしてもよろしいでしょうか……っ?」

「構わないが……部屋を出て左の突き当りだ」

「ありがとうございますっ!」

 

 わたしはそのまま立ち上がると、大慌てでリビングを飛び出した。

 

「……あいつ、鞄ごと持っていったな」

「女の子ですから」

「いやだからって鞄まるごとはないだろ。あいつ、お前たちみたいに置き勉せず、教科書とか全部持って帰ってるような奴だぞ。絶対に重いだろ、あれ」

「わ、妹ちゃんマメだねぇ」

「置き勉程度で口うるさく言うつもりはないけど、できれば持って帰ってくれな。先生も人の机の中まで面倒みきれないから」

「はーい」

 

 

 

「小鈴……まさか……」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――もうっ、鳥さん! ちょっとは空気を読んでよ! 大事なお話をしてたのに!」

「それはこっちの台詞だよ。こんなクリーチャーの気配しかしない、クリーチャーの巣の中みたいなところで、黙っていろと言う方が無理な話だ」

 

 鞄を引き寄せた時、なんだか妙な感覚がした。それは、そう、まるで勝手に鞄が動いているような。鞄の中で、なにかが蠢いているような。

 思い当たる節は一つしかない。鞄はファスナーを閉めているから鳥さんでも出て来れないはずだけど、もし鳥さんが先生の眼に触れてしまったら大変だ。

 だからこうして、一人になって鳥さんを大人しくさせようとしたんだけど……やっぱり無理です。わたしじゃ口で鳥さんには敵いません。

 いや、それはそれとして。

 鳥さんはクリーチャーの気配と言った。それは、つまり、

 

「この家に、クリーチャーが……?」

「そうだ。しかも、結構根が深そうだぞ。もしかしたら、この家そのものに憑りついている可能性もある」

「そんなことができるの?」

「できるクリーチャーもいる。そうでなくても、闇のマナがあまりにも充満しすぎている。ここはもう完全に奴らのテリトリーだろうね」

 

 そんな……先生の家なのに。

 それに、傷ついてる先生の娘さんもいるのに。

 

「ど、どうしよう」

「どうしようもこうしようも、いつもと同じだろう?」

「え?」

「どうも君には時間があまりなさそうだから、手早く済ませよう。そら!」

 

 と、刹那の瞬きのうちに輝く閃光。

 そんな一瞬のうちに、わたしは例の、あの、ちょっと恥ずかしい格好にさせられていました。

 

「って、なに考えるの鳥さん!?」

「だから、とっととクリーチャーを倒そうと。僕もお腹すいたし」

「そうじゃなくて! ここ、先生の家! もし誰かに見つかったら大変だよ!」

「じゃあ、見つからないうちに征伐しようか」

「そうでもなくて! あぁ、もう、なんでこんなことにぃー……」

 

 色々と鳥さんに文句を言ってみたけど、まったく取り合ってくれません。

 衣装を変えられてしまったが運の尽き。もう、クリーチャーを倒すしかないのかな……

 うぅ、お願いだから、先生だけには絶対に見つかりませんように。痛いコスプレしてる生徒だとは思われたくないから……!

 

「さぁ、早く行こう。なに、この家屋に巣食っているということは、敵も目と鼻の先だ。すぐに叩けるさ」

「人の家を勝手に歩き回るのはどうかと思うけど……」

「領域侵犯ってこと? まあ、確かに立文明の領域に勝手に入ったら撃ち落とされても文句は言えないけど、バレなきゃ問題ないさ。こっちは大義名分があるわけだし」

「大義名分とか言っちゃったよ……っていうか、そういうことでもないよ。もう……」

 

 鳥さんと話すと、なんだか疲れる。微妙に話が噛み合わないんだもん。

 わたしも諦めてクリーチャーを倒す気がちょっとは出て来たけど、この家の移動範囲は決して広くない。

 少なくとも、先生たちがいるリビングは通れないしね。できれば早くに見つけたいところだけど……すぐに見つかるかなぁ?

 

「む、ここだ。この部屋から邪悪な闇のクリーチャーの気配がするよ」

「この部屋?」

 

 思ったよりもすぐでした。

 その部屋は他の部屋と違って、扉に「あられ」書かれた可愛らしいデザインのプレートが掛かっていた。

 

「あられ……もしかして、ここって先生の娘さんの部屋?」

 

 娘さんの名前は聞いてないけど、あられちゃんっていうのかな?

 先生の娘さんは、事件以後、なにかに憑かれたように絵を描くことに没頭することがあるって言っていた。

 わたしはそれを、クリーチャーのせいかもしれないと考えていたけど、かもしれない、じゃないかもしれない。

 可能性ではなく、これは真実として、そうあるのではないかと。

 

「解答がどうかなんてものは、開けてみればわかることだよ、小鈴」

「う、うん……」

 

 わたしは鳥さんに言われるがままに、ドアノブに手を掛ける。

 ごめんなさい、先生。勝手に家の中を歩き回って。

 そう心の中で謝ってから、ドアノブを回して、扉を開ける。

 明かりはついていなくて、中は真っ暗だった。カーテンすら閉め切られている。

 そしてなにより、空気が淀んでいる。窓も締め切られている、というだけじゃない。

 とても嫌な気配……お母さんの言うところの邪気? みたいなものが、部屋に充満している。わたしにもわかった。

 この部屋は、明らかに異常である、と。

 

「あの子は……」

 

 暗くてよく見えないけど、誰か寝ているようだ。あの子が、あられちゃん、かな?

 

「うなされてる……?」

 

 か細い声でよく聞き取れない。そもそも声としてまともに発生している声じゃない。

 寝言、あるいはうわ言のように、あられちゃんはなにかを言っていた。

 その声はどこか苦しそうで、悪夢でも見ているかのように思えた。

 

「この部屋……」

 

 だんだんと暗闇に目が慣れてきた。ハッキリと見えるわけではないにしろ、部屋の内装くらいはわかる。

 インテリアとしてなのか、家中の色んなところにあったテディベアが、この部屋にもある。他にも普通の勉強机と椅子、クローゼット、タンス、本棚、折り畳み式の座卓、ベッド……特別な家具はなにもない。わたしの部屋ともそう変わらない様子だった。

 ただし、家具は、だけど。

 

「わぁ……なにこれ、すごい……」

 

 部屋の壁は、わたしの部屋とはまるで違っていた。

 壁紙が、じゃない。壁紙の模様はシンプルな白だ。

 ただしその上から、テープかなにかで紙がたくさん貼ってある。それもただの紙じゃない。幾重もの線と多様な色彩が描かれた、絵だ。

 絵が、壁中に貼り付けられている。

 

「これ、全部この子が書いたのかな……」

 

 本の感想ならともかく、わたしには審美眼とか、芸術の感性とか、良し悪しとかはわからない。

 でも、ここに貼られている絵は、小学一年生とは思えないくらい、うまいと思った。少なくとも、わたしが美術の時間に描いた絵よりも。

 描かれている絵は、すべてバラバラ。動物とか、建物とか、あるいは人の絵が多いようだけど、たまに風景っぽいものもある。中にはよくわからない造形のものもあるけど。

 

「ん……? これは……」

 

 座卓の上にも、紙が何枚かあった。これも、あられちゃんが描いた絵かな。

 無意識にそれを手に取ろうとした、その瞬間。

 背筋に悪寒が走る。

 

「っ!」

「小鈴!」

 

 咄嗟に振り返る。いや、倒れ込むように、背中から倒れるように――躱す。

 刹那、わたしの頭上を、煌めく白刃が通過していった。

 わたしは尻餅をつきながらも、その存在をしっかりと視認する。

 この家、この部屋において、明らかな異形のそれを。

 

「どんくさい女かと思ったけど、意外と機敏だね。そんなにデカい“おもり”を付けてるのに」

「な、なんなの、あなた……!」

 

 異形と言っても、姿かたちは、人のようだった。

 子供を思わせる小柄な体躯。フードで顔を覆い、長靴を履いて、ランドセルのようなものを背負っている、男子小学生みたいな姿。

 ただし、フードの中の顔は影のようにまっくろ。ランドセルからは触手みたいなものが伸びていて、鉛筆、ハサミ、定規、カッターナイフなどが握られている。けれどそれらの文房具も、あり得ないほどに鋭く尖っており、ほとんど凶器だ。

 人型なのはシルエットだけ。それは、明らかな異常であり、クリーチャーだった。

 

「《シモーヌ・ペトル》……君のような弱小クリーチャーが、なぜここに?」

「弱小とは失礼な鳥だな。確かにぼくの力は影の者の中でも弱いけど、身体がデカければ強いわけじゃないだろう」

「だけど、この部屋に充満した闇マナの濃度、とても君一人のものとは思えない。それとも君は、親玉の刺客か?」

「刺客だって? 違うね、ぼくは泣きじゃくる女の子に目を付けて、ちょっと利用させてもらってるだけさ。親玉っていうなら、ぼくこそがボスだよ」

「そんなことはどうでもいいよ! あなた、先生の娘さんに……あられちゃんに、なにをしたの」

「そこの人間の女の子のことかい? ぼくはなにもしてないさ。ただ、ちょっと苗床になってもらっただけで」

「苗床……?」

「そうさ。ぼくは弱い。そこは否定しない。でも、ぼく個人が弱いなら、それはそれでやりようはあるってものさ」

 

 男の子が指差す。すると、部屋中のテディベアが、カタカタと震え出した。

 

「な、なに……っ!?」

 

 あまりにもホラーな光景に、身体が跳ね上がる。

 テディベアたちは一ヵ所に寄り集まる。まるで、合体でもするかのように。

 ……いや、まるで、じゃない。

 合体、するのだ。

 

「これは……!」

「驚いた。これ、君が育てたのかい?」

「そうさ。ぼくの戦う力が弱いのなら、強いペットを従えればいい。あの女の子は、そのための器さ。土の入った植木鉢みたいなものだね。なかなか従順でいい子だったよ。お陰で、これほど大きく育ってくれた」

 

 天井まで届くようなそれを、見上げる。

 大きい。それだけで威圧感がある。

 恐怖というよりも、ただただ圧倒される。

 鳥さんも言っていたけど、これには驚く。怖いとかよりも先に、ビックリする。

 だって、これは……

 

「大きな、テディベア……!?」

 

 あまりにも単純明快。だけど、単純だからこそ、純然たる吃驚が訪れるというもの。

 いくつものテディベアが寄り集まったそれは、より巨大なティベアになったのだ。

 ……いや、なんか悪魔みたいな羽と尻尾が生えていたり、フォークみたいな槍? を持ってたり、普通のテディベアとなんか違うけど。

 それでもあれは、見た感じクマのぬいぐるみそのものにしか見えない。

 

「小鈴、あれはクリーチャーだよ」

「えっ!? あれも!?」

「あぁ。どれだけの負のエネルギーを吸ったんだろうね。とんでもない“邪”を溜めこんでいる。愛嬌ある見た目に騙されるな」

 

 あれ、クリーチャーだったんだ……大きなテディベアにしか見えないけど。

 

「君たちがどうやってぼくの存在を察知したのか、なにが目的なのかは知らないが、君たちはぼくの邪魔をするつもりだろう? なら即刻、排除させてもらうよ。行け、《ペインティ》! そいつらを、血の色で塗り潰してしまえ!」

「小鈴、来るよ!」

「う、うん……!」

 

 テディベア――じゃない、クリーチャーだったね――巨大なぬいぐるみさんが、わたしに迫ってくる。

 このクリーチャーたちが、どういう目的で、なにをしているのかは知らない。

 けど、彼らのせいで先生や、あられちゃんは苦しんでいるのだろう。

 だったらその悪い夢から覚まさせるためにも、わたしが戦わなきゃ。

 太腿に手を伸ばす。ホルスターで留めたケースから、デッキを引き抜く。

 

「あなたの悪夢――わたしが祓ってみせるよ!」

 

 そしてわたしは、いつもと変わらぬ戦場へと飛び立った。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

[小鈴:超次元ゾーン]

《勝利のガイアール・カイザー》

《勝利のリュウセイ・カイザー》

《勝利のプリンプリン》

《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》

《タイタンの大地ジオ・ザ・マン》

《魂の大番長「四つ牙」》

《時空の喧嘩屋キル》×2

 

 

 

 巨大なテディベア、ぬいぐるみさんとの対戦。

 わたしは《ダーク・ライフ》から《カラフル・ナスオ》に繋げて、墓地は十分。

 だけど相手も《ノロン⤴》と《アホヤ》で、たくさん墓地を増やしてて、お互いに墓地を増やし合っているような状況です。

 

「墓地に呪文と《ロマノフ・シーザー》は揃った。あとは進化元! わたしのターン! 《アカシシーマ》をチャージして、5マナで呪文《超次元フェアリー・ホール》! マナをひとつ増やして、《時空の喧嘩屋キル》を二体、バトルゾーンへ!」

 

 超次元ゾーンから現れる二体のサイキック・クリーチャー。

 クリーチャーの力自体はあんまり強くはないけど、火のクリーチャーだから《ロマノフ・シーザー》の進化元になる。

 次のターン、《法と契約の秤》で《ロマノフ・シーザー》を復活させて、一気に勝負を決めちゃおう。

 

「ターン終了だよ」

「ボクのターン、モフ」

「喋った!?」

 

 さっきまでまったく喋らなかったのに、なんで急に? っていうか、喋れるんだ……縫い付けられてるのに、どうやって口を開くんだろう……

 いや、クリーチャーに対してそんなことを考えるだけ無駄な気もするけど。

 

「アンタップして、ドローする前に、ボクの墓地のクリーチャーの能力を使うモフ」

「墓地のクリーチャーの……?」

 

 なにか、来る。

 ぬいぐるみさんの墓地でなにか恐ろしいものが蠢いている。

 

「ボクの《ノロン⤴》を破壊、墓地の《アツト》《イワシン》二体を山札の下に戻して、このクリーチャーをバトルゾーンに出すモフ」

 

 そして、それは場のクリーチャーと、墓地のクリーチャーの(むくろ)を喰らって、バトルゾーンへと這い上がってきた。

 

 

 

「《蛇修羅(だしゅら)コブラ》――復活モフ!」

 

 

 

 それは、蛇だ。だけどただの蛇じゃない。コブラのように胴が太く、そして大きな蛇。

 それになにより、腕が六つもあって、そのうちの二本の腕には大きな片刃の剣が握られている。他にも、鎧のような装飾もあって、まるで武神だ。

 先に大きなクリーチャーを出して圧倒するつもりだったけど、相手に先制されちゃったな……

 

「《蛇修羅コブラ》の能力発動モフ。キミのクリーチャーを一体、破壊してモフ」

「わたしが選ぶの? なら、《カラフル・ナスオ》を破壊するよ」

 

 わたしのクリーチャーが、数多の蛇に飲み込まれて、食い殺されてしまう。

 クリーチャーが減ってしまったのは痛いけど、でも、まだ《キル》二体が生きてる。この二体がいれば、まだ《ロマノフ・シーザー》が出せる。

 《ロマノフ・シーザー》の力があれば、このくらいのクリーチャー、倒せるはずだよね。

 

「じゃあ、ドローするモフ。次に3マナで、呪文《蝕王の晩餐(ショッキング・ダンタル)》を唱えるモフ」

「! なに、あの呪文……?」

 

 突然、相手の墓地に巨大な鍋が現れた。中はどす黒く染まっていて、とてもおどろおどろしい。

 まるでこれからなにかを料理するかのようだけど、あんなおぞましい料理があっていいはずがない。

 だけどぬいぐるみさんは、そんなわたしに反するように、まるで材料を入れるかのように、バトルゾーンのクリーチャーをその鍋に放り込んだ。

 

「《蛇修羅コブラ》を破壊して、墓地からそれよりコストが1大きいクリーチャーを復活モフ!」

 

 鍋に放り込まれたのは、さっき復活したばかりの《蛇修羅コブラ》。

 ……中国とかだと、蛇を食べる文化があるらしいけど、あんな大きな蛇をどう調理するんだろう。

 いや、勿論これはデュエマで、お料理ではない。だからまともな調理工程は踏まないし、出来上がるものだって、まともな料理とは限らない。

 そもそも、出来上がるものは、料理ですらなかった。

 

 

 

「出来上がりモフ――《光神龍スペル・デル・フィン》!」

 

 

 

 《蛇修羅コブラ》を材料にして、出来上がった料理(クリーチャー)は、稲妻を走らせ、金色の鎧のような身体を輝かせる、光の龍。

 そのクリーチャーが出て来た瞬間、わたしの手札にある《法と契約の秤》が晒された。

 

「っ……!?」

「《スペル・デル・フィン》の能力で、キミの手札を見せてもらうモフ」

「て、手札を見せるの?」

「それだけじゃないモフ。《スペル・デル・フィン》がいる限り、キミはもう呪文が使えないモフ」

「えっ!?」

 

 そ、そんな……!

 呪文が使えないんじゃ、《ロマノフ・シーザー》を呼び出せない。それに、出せたとしても、呪文が使えないから、力を出しきれない。

 先制どころか、逆に先んじられた上に、こっちの攻め手を封じられちゃった……

 

 

 

ターン4

 

小鈴

場:《キル》×2

盾:5

マナ:6

手札:1

墓地:8

山札:20

 

 

テディベア

場:《アホヤ》《デル・フィン》

盾:5

マナ:4

手札:2

墓地:4

山札:23

 

 

 

「わ、わたしのターン……」

 

 手札は少ないし、呪文が使えないんじゃ、わたしのデッキは力を半分も発揮できない。

 

「マナチャージして、《ジョニーウォーカー》を召喚。破壊してマナを増やして……ターン終了だよ」

 

 だからできることもほとんどなくて、わたしはマナを増やすだけで、ターンを終えるしかなかった。

 

「ボクのターン、モフ。《貝獣 アホヤ》を召喚して二枚ドロー、手札を二枚捨てるモフ。さらに《【問2】 ノロン⤴》も召喚モフ。二枚引いて二枚捨てるモフ。《一なる部隊 イワシン》を捨てたから、さらに一枚ドロー、一枚捨てるモフ。ターンエンド、モフ」

 

 

 

ターン5

 

小鈴

場:《キル》×2

盾:5

マナ:8

手札:0

墓地:9

山札:18

 

 

テディベア

場:《アホヤ》×2《デル・フィン》《ノロン⤴》

盾:5

マナ:5

手札:0

墓地:9

山札:17

 

 

 

「わたしのターン」

 

 もう手札はない。呪文も使えない。わたしにできることは、極端に少なくなってしまっている。

 だけど、長引けばもっと不利になることは目に見えていた。だから早いうちに、なんとかしないといけない。

 そんな中、わたしが引いたのは、

 

「! 来たよ、6マナをタップ! 《龍覇 グレンモルト》を召喚!」

 

 《グレンモルト》だった。

 たぶんこれが最高のドローだ。《グレンモルト》なら、呪文に頼らずに戦える。

 

「《グレンモルト》に《銀河大剣 ガイハート》を装備! そのまま攻撃! シールドブレイク!」

 

 大剣を握り締め、《グレンモルト》は疾駆する。そして、瞬く間に相手のシールドを一枚、切り捨ててしまった。

 まずは、これで一回。

 

「続けて《キル》でもシールドブレイク!」

「ブロックしないモフ。S・トリガーもないモフ」

 

 そして、これで二回。

 条件――達成。

 

「ターン中に二回の攻撃に成功龍解条件成立だよ! 《ガイハート》を龍解!」

 

 《ガイハート》をひっくり返す。《グレンモルト》も、剣を突き立てて、その真の姿を解放する。

 

 

 

「龍解――《熱血星龍 ガイギンガ》!」

 

 

 

 わたしのデッキは呪文が主体だけど、切り札は《ロマノフ・シーザー》だけじゃない。

 《ガイギンガ》も、わたしのデッキの切り札のひとつだ。そしてこのクリーチャーが、突破口を開いてくれる。

 ちょっと出遅れちゃったけど……一気に攻めるよ!

 

「まずは龍解した時の能力で《スペル・デル・フィン》を破壊! 続けて《ガイギンガ》で攻撃!」

「それは《アホヤ》でブロックするモフ」

「ターン終了!」

 

 これでわたしの場には《キル》が二体に、《グレンモルト》と《ガイギンガ》。合計で四体のクリーチャー。

 行ける。このまま攻め込めば、勝てそうだよ。

 待ってて、先生……!

 

「ボクのターン、墓地の《蛇修羅コブラ》の能力を使うモフ。《ノロン⤴》を破壊、墓地のクリーチャー三体を山札の下に戻して、《蛇修羅コブラ》を復活モフ」

 

 再び、《蛇修羅コブラ》が復活する。

 クリーチャーを破壊してくるし、ブロッカーだし、ちょっとやなクリーチャーだな……

 

「《蛇修羅コブラ》の能力発動モフ。クリーチャーを一体、破壊してモフ」

「タップされてる《キル》を破壊するよ」

 

 けど、破壊するクリーチャーはこっちが選ぶから、大きな被害はない。《ガイギンガ》が一体だけの時に狙われると厳しいけど、今はクリーチャーもたくさんいるしね。

 と、思ったけど、相手はそんなに甘くなかった。

 可愛い顔をしてても、相手はクリーチャー。可愛いだけじゃ、済まない。

 

「2マナで《ノロン⤴》を召喚モフ。二枚ドローして、二枚捨てるモフ。さらに3マナで《蝕王の晩餐》を唱えるモフ。《蛇修羅コブラ》を破壊するモフ」

「ま、またっ?」

 

 《蛇修羅コブラ》に続いて、二枚目の《蝕王の晩餐》。またコスト9のクリーチャーが出て来てしまう。

 でも、もう《スペル・デル・フィン》が出て来ても関係ない。こっちには《ガイギンガ》がいるから、もう呪文に頼らなくても戦える。

 だけどそれは相手も承知している。わたしが、呪文からクリーチャー主体での戦い方に切り替えたことを理解している。

 だから相手も、クリーチャーで立ち向かってくる。

 

 

 

「次はこれモフ――《世紀末ゼンアク》!」

 

 

 

 現れたのは、人の形をした二体のクリーチャー。だけど、それは一枚のカード。二体で一体分、ということなのかな。

 片や真っ黒な身体で、凶悪で恐ろしい形相をした、悪魔のようなクリーチャー。片や、真っ白な身体で、穏やかで安らかな表情の、天使のようなクリーチャー。

 相反するような存在の二体が、一対のクリーチャーとして、バトルゾーンに呼び戻されたんだ。

 

「《ゼンアク》はブロッカー、それにパワー17000モフ。キミのちっちゃいクリーチャーなんかには負けないモフ」

「い、いちまん、ななせん……!?」

 

 なにそれ……いくらなんでも、強すぎる。

 《ガイギンガ》も、バトル中はパワーが上がって13000になるけど、相手はそれさえも易々と超える、パワー17000。ここまで巨大なクリーチャーでは、《ガイギンガ》でも太刀打ちできない。

 ど、どうしたら、いいの……?

 

 

 

ターン6

 

小鈴

場:《キル》《グレンモルト》《ガイギンガ》

盾:5

マナ:8

手札:0

墓地:9

山札:17

 

 

テディベア

場:《アホヤ》《ノロン⤴》《ゼンアク》

盾:3

マナ:5

手札:1

墓地:11

山札:17

 

 

 

 《ゼンアク》という巨大な壁が、わたしの前に立ち塞がる。

 このクリーチャーを退かさない限り、わたしは攻め込めない。だから早く除去しないけど、手札がないわたしは、山札の一番上のカードを使うことしかできない。

 なにか、いいカードを引けたらいいけど……

 

「ドロー。5マナで《超次元フェアリー・ホール》! 1マナ増やして……ここは、これかな。《タイタンの大地ジオ・ザ・マン》をバトルゾーンに!」

 

 出すクリーチャーには悩んだけど、マナはたくさんあるし、ここは色んな状況に対応できる《ジオ・ザ・マン》だよ。

 《プリンプリン》とかじゃあ、《ゼンアク》を1ターン止めても、《アホヤ》にブロックされちゃうからね。それなら、もっと長期的に活躍できる見込みのあるクリーチャーがいい。

 

「ターン終了。その時、《ジオ・ザ・マン》の能力で、マナの《法と契約の秤》を手札に戻すよ」

 

 このターンに《ゼンアク》を倒すことはできないけど、墓地のカードを使えばそれも可能だ。

 まずは《ロマノフ・シーザー》を呼び戻す。そして、墓地の呪文で《ゼンアク》を倒して、一気に攻め込む。

 次のターンが、勝負だよ。

 

「ボクのターン、《蛇修羅コブラ》の能力を使うモフ。《アホヤ》を破壊、墓地のクリーチャー三体を山札の下に戻して、《蛇修羅コブラ》を復活させるモフ」

「うっ、《グレンモルト》を破壊するよ」

「さらに3マナで、《蝕王の晩餐》モフ」

「三枚目……!」

「《蛇修羅コブラ》を破壊して、墓地からコスト9のクリーチャーを復活モフ。さぁ、出るモフ!」

 

 ……なんだか、とても嫌な予感がする。

 ここでまた《スペル・デル・フィン》が出て来るのも嫌だけど、それ以上に大変なクリーチャーが出て来そうな、そんな予感が。

 《スペル・デル・フィン》《ゼンアク》と来て、次に出て来るコスト9のクリーチャー。それは――

 

 

 

「キミを真っ赤で真っ黒な、血の色で染め上げるモフ――《「邪」の化神ペインティ・モッフモフ》!」

 

 

 

 ――巨大で邪悪な、アクマのぬいぐるみさんでした。

 クマのぬいぐるみのような愛らしい姿。それでいて、背に蝙蝠の羽、先端の尖った尻尾と、悪魔のような姿でもある。

 それになにより、背後から伸びる、夢にでも出て来そうな怪物が、その存在を主張している。

 遂に、ぬいぐるみさん本人が、出て来ちゃった。

 そしてこのタイミングで出て来ることで、恐ろしいまでの悪夢を、わたしに見せつけてくる。

 

『《ノロン⤴》からNEO進化モフ。さらにボクの登場時能力で、他のクリーチャーすべてのパワーを、マイナス10000モフ!』

「い、いちまんっ!?」

 

 パワーを低下させる能力は今までたくさん見てきたけど、場全体に10000もパワーダウンをかけるクリーチャーなんて見たことない。

 それだけの数値のパワーダウンに耐え得るクリーチャーはほとんどいない。ただし、《ゼンアク》はパワー17000もあるクリーチャーだ。10000ものパワー低下も、耐えてしまった。

 だけどわたしのクリーチャーは全滅。そしてなにより、

 

「《ガイギンガ》が……!」

 

 肉体が悪夢に飲まれ、破壊されてしまった《ガイギンガ》。

 《ガイギンガ》はバトル中にパワーが上がるだけで、普段はパワー9000だから、膨大なパワーダウンには耐えられなかった。

 それに、場全体に及ぼす能力だから、追加ターンさえも得られない。

 完全に、完膚なきまでに、わたしの切り札は倒されてしまった。

 

『さぁ、そろそろ終わりモフ。ボクで攻撃、シールドをTブレイクするモフ!』

「! うぁ……っ!」

 

 さらにぬいぐるみさんは、間髪入れずに攻め込んでくる。

 その愛嬌のある見た目にそぐわない、強烈な槍の一撃を叩き込んで、わたしのシールドを一気に三枚も突き砕いてしまった。

 

「と、トリガーは……ないよ……」

『なら、ボクの能力、ブレイク・ボーナスが発動モフ。シールドブレイク後、ブレイクしたシールドの枚数だけ、相手の手札を捨てるモフ』

「ブレイクした数だけ手札を捨てる……!? そ、そんな……!」

 

 ブレイクされたシールドは三枚。その数だけ手札が捨てさせられる。つまり、わたしはシールドブレイクによって手札を得られない、ということになる。

 わたしの手札が三枚、叩き落される。トリガーでこそなかったけど、逆転のための手段が根こそぎ奪われてしまった。

 

『次に《ゼンアク》でも攻撃モフ。残りのシールドをブレイクするモフ』

「こ、こっちにもトリガーはないよ……」

『ターンエンドするモフ。その時、《ゼンアク》はアンタップするモフ』

 

 ターンの終わりに起き上がる《ゼンアク》。その高い壁は、一分の隙もなくわたしの侵攻を阻もうとしていた。

 

 

 

ターン7

 

小鈴

場:なし

盾:0

マナ:8

手札:3

墓地:14

山札:15

 

 

テディベア

場:《ペインティ》《ゼンアク》

盾:3

マナ:5

手札:1

墓地:9

山札:19

 

 

 

 出て来たのが《スペル・デル・フィン》でなかったのは、良かったのか、悪かったのか。

 呪文は使えるけど、代わりにバトルゾーンが全滅してしまった。

 なんとか《法と契約の秤》はキープできたけど、クリーチャーがいなくなっちゃったから、《ロマノフ・シーザー》も出せない。

 《グレンモルト》は手札にあるけど、こっちもクリーチャーがいないと力を発揮できない。それに、ブロッカーの《ゼンアク》もいる。

 わたしのデッキは、どう戦おうと、結局のところはクリーチャーで攻撃して勝つデッキ。

 ここまでバトルゾーンがボロボロにされてしまったら、立て直すのは難しい。

 とりあえず、このターンのドローに賭けるしかない。

 

「わたしのターン、ドロー……」

 

 引いたカードは、《アカシシーマ》……ダメだ。これじゃあ、あの大きなクリーチャーを倒せない。

 わたしのデッキで、あれだけの大型クリーチャーを倒す手段なんて……

 

「……? 待って、これは……」

 

 手札を見て、すぐに墓地に目を落とす。

 ……行ける、かもしれない。

 《世紀末ゼンアク》。あの高い壁を、乗り越えられるかもしれない。

 

「2マナで《爆砕面 ジョニーウォーカー》を召喚! 破壊はしないよ。続けて5マナで呪文《法と契約の秤(モンテスケール・サイン)》! 墓地からコスト7以下のクリーチャーを復活させる!」

『コスト7モフ? そんなちっちゃなクリーチャーじゃ、ボクらみたいなおっきいクリーチャーは、倒せないモフ。諦めるモフ』

「どうかな。わたしのクリーチャーは、小さいばっかりじゃないんだよ。《法と契約の秤》が出せる範囲はコスト7までだけど――“進化クリーチャー”だって、出せるんだから」

 

 コストは小さくても、進化クリーチャーはコスト以上にパワフルだ。

 普段なら《ロマノフ・シーザー》を墓地から復活させるために使うんだけど、今は進化元が足りないから、《ロマノフ・シーザー》は出せない。

 今回出すのは、進化元が一体でいい、普通の進化クリーチャーだ。

 

「《ジョニーウォーカー》を進化!」

 

 けどそれは、ただの進化クリーチャーとは言いきれない。

 このデッキにある、多くの切り札のうちのひとつ。

 それは“最初から”ずっと、わたしと一緒に戦ってくれたクリーチャーだから。

 そう、それは――

 

 

 

「戻って来て――《エヴォル・ドギラゴン》!」

 

 

 

 ――わたしの、はじめての切り札。

 わたしのデッキの中で、最もパワーの高いクリーチャー、《エヴォル・ドギラゴン》。

 これで、《ゼンアク》の壁を突破するよ!

 

『強そうなクリーチャーモフ。でも、それもパワー14000モフ。パワー17000の《ゼンアク》には敵わないモフ』

「そうだね。でも、これを使ったら、どうかな。2マナをタップ!」

 

 このままだと、確かに《エヴォル・ドギラゴン》は《ゼンアク》には敵わない。

 だけど今は《スペル・デル・フィン》がいない。つまり呪文が使える。

 呪文が使えるのなら、その呪文で――魔法で、《ドギラゴン》を強くすることだって、できるんだよ。

 

「ツインパクト発動、呪文《レッド・アグラフ》! 《エヴォル・ドギラゴン》のパワーをプラス4000! さらにこのターン、アンタップしてるクリーチャーも攻撃できるようになるよ!」

『モフ!? パワー18000モフ!?』

 

 本当はクリーチャーとして使うつもりで入れてたから、呪文の方はあんまり意識してなかったけど……これで《エヴォル・ドギラゴン》のパワーは、14000に4000プラスされて18000。パワー17000の《ゼンアク》を超えた。

 あの高い壁を乗り越えて、一気に駆け抜けるよ!

 

「行くよ! 《エヴォル・ドギラゴン》で、《世紀末ゼンアク》を攻撃!」

 

 《世紀末ゼンアク》とバトル。本来なら負けてしまうけど、《レッド・アグラフ》の力を得た《エヴォル・ドギラゴン》のパワーなら、負けはしない。

 その強大な力で、悪魔のようで天使のような巨体を、叩き潰した。

 

『ぜ、《ゼンアク》は破壊される代わりに、手札に戻るモフ!』

 

「関係ないよ! バトルに勝った《エヴォル・ドギラゴン》はアンタップして、今度は《ペンティ・モッフモフ》を攻撃!」

 

 18000にまで跳ね上がった超パワーで、《ゼンアク》と《ペインティ・モッフモフ》、相手の大型クリーチャー二体をねじ伏せる。

 これでクリーチャーはいなくなった。あと邪魔なのは、シールドだけだ。

 

「そのままシールドをTブレイク!」

 

 そしてそのシールドも、これでゼロ。

 ちょっと危なかったけど、追い詰めたよ。

 

「モフ……モフ……《アホヤ》を召喚モフ。《アツト》も召喚して、ターンエンド、モフ……」

 

 

 

ターン8

 

小鈴

場:《エヴォル・ドギラゴン》

盾:0

マナ:9

手札:0

墓地:15

山札:14

 

 

テディベア

場:《アホヤ》《アツト》

盾:0

マナ:6

手札:3

墓地:15

山札:14

 

 

 

「わたしのターン……これで、終わりだよっ!」

 

 ブロッカーがいるけど、それは《エヴォル・ドギラゴン》の前ではなんの障害にもならない。

 この一撃で、終わらせる!

 

 

 

「《エヴォル・ドギラゴン》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「た、倒した……!」

 

 強かった。あの大きさは伊達じゃない。それに、可愛い顔に似合わぬ力を備えた強敵だった。

 それでも倒した。倒せたんだ。

 

「やったよ、鳥さん!」

「いや、まだだ!」

 

 と、喜びも束の間。鳥さんは喜ぶわたしを制する。

 そうだった。わたしが倒したのは、あくまでも敵の首魁の刺客にすぎない。

 あのクリーチャーを使役していたのは、男の子のクリーチャー――《シモーヌ・ペトル》だ。

 彼を倒さなくては、悪夢は終わらないのだ。

 となれば早く彼も倒さないと。

 そう思って振り返った時だ。

 

「その必要はないよ。こっちはもう、終わったから」

 

 目の前で、消滅する少年のクリーチャーの姿があった。

 そしてその真正面に立つのは、

 

「よ、謡さん!?」

「やっほ、妹ちゃん。お手伝いに来たよ」

「いや、どうしてここに!? 先生たちと一緒にリビングにいたんじゃ……」

「そりゃ抜け出してきたんだよ。スキンブルが、妹ちゃん一人じゃ処理しきれなさそうだって教えてくれたから」

「スキンブルくんもいたんですか? 全然気づかなかった……」

「そりゃあ、チェシャ猫は笑い猫、そして“消える猫”だからね。姿を消すなんて朝飯前さ」

 

 にゃぉん、と謡さんに抱えられているスキンブルくんは鳴いた。

 姿を消す……スキンブルくんも、代海ちゃんや葉子さんのように【不思議の国の住人】としての特異な力が使える。

 「姿を消す」という一文に準じた力が使えるらしくて、昔はそれを拡大解釈して、二人揃って別人に成り変わっていたほどだけど……純粋に姿を消すために使うところは初めて見た。

 いや、姿を消えしてるから、見てはいないんだけど。

 謡さんが言うには、今までずっと姿を消したスキンブルくんが着いてきていて(謡さんは知っていたみたいです)周囲の様子を探ってくれていたらしい。

 だからわたしが鳥さんの動きに気付いてにリビングから出たことも知っていて、わたしがクリーチャーと戦う流れとなったところも見ていて、それをひっそりと謡さんに伝えて、応援要請を出してくれた、らしい。

 

「相手は二体。なら、こっちも二人で挑むのがフェアってもんでしょ。まあ私の相手は冗談抜きで雑魚だったから、一瞬で風穴開けちゃったけど」

「謡さん……あ、ありがとう、ございます」

「どういたしまして。ま、これくらい当然だよ、なんたって先輩だからね。けれど今回は、スキンブルの情報伝達がタイムリーなのが良かったかな」

「確かに、そうですね。ありがとう、スキンブルくん」

 

 お礼に頭を撫でてあげるとスキンブルくんは、にゃぉんと気持ちよさそうに目を細めて鳴いた。

 それにしても、あのクリーチャーたちは結局、今回の事件の犯人だったのかな……口振りからすると、事件との関連性をほのめかしていたようにも思えるけど。

 死人に口なしというか。もう倒してしまったから、聞くに聞けないけど。

 まあ、どっちみち倒したのなら、大丈夫、なのかな?

 

「それじゃあ、やること済んだらとっととお暇しますか。あんまり長く出てると怪しまれる」

「そ、そうですね。ほら鳥さん、寝床に戻って」

「あの木箱が僕の寝床っていうのも、なんだかね。別にいいけど」

「あ、でもその前にこの服どうにかしてね」

「はいはい」

 

 スキンブルくんは既に“姿を消して”いて、謡さんは一足先に部屋を出る。

 わたしは鳥さんをオルゴールの木箱に押し込める前に、このふりふりで恥ずかしい衣装を元に戻してもらう……けど。

 その前に、ちょっとしたハプニングが起こってしまいました。

 もそもそ、とベッドの方で動く気配。

 振り返ると、暗い部屋の中で、身体を起こした少女の影が、浮かび上がっていた。

 その影はぽつりと、か細く小さな声を発した。

 

 

 

「だれか、いるの……?」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

(やっちゃったぁぁぁ……!)

 

 この姿だけは絶対に誰にも見られちゃいけないのに! 見られちゃったよ!

 そもそも、見も知らない人が勝手に人の部屋に入っているってだけで通報ものだし……こ、これ、どうしよう……!? とりあえず鳥さんをオルゴールに突っ込んでおかなきゃ! えいっ!

 

「ぐほぁっ」

 

 ってそうじゃない! そんなことをしてる場合じゃない!

 このまま先生にもこの恥ずかしい格好がバレて、学校にいられなくなって、わたしも家に引きこもるビジョンが見えた。もう、お母さんや恋ちゃんを笑えないよ!

 なんてパニックになってると、女の子はまたぽつり、と言った。

 

「もしかして……ようせい、さん?」

「へっ?」

「あっ、でも、かわいいお洋服……ひょっとして、マジコマの新メンバーかしら?」

「まじこま?」

 

 なんだっけ。聞き覚えがあるよ、その言葉。マジカル・コマンド、みたいな。

 確か、日曜朝にやってる女の子向けのアニメ番組で……お母さんがノベライズ版を執筆したとかっていう、作品だったような。

 わたしが、それだと思われてる?

 ……まだ、バレてない?

 それなら……

 

「えっと、その、わたしはね……そ、そう! 通りすがりの魔法少女です!」

「まぁ……」

 

 なんだか反応が薄い気もするけど、心なしか声が弾んでいるような気もするし……えぇい、ままよ。このまま魔法少女を演じ切るしかない。

 

「やっぱり、マジコマの新しい人なのね」

「いや、残念ながらマジコマの人たちとは関係なくて……わたしは、えぇっと……ま、マジカル☆ベル、です」

「まじかるべる? すてきなお名前ね」

「あ、ありがとう……」

 

 自称したのは初めてだけどね。

 なぜか周りの人――主に帽子屋さんたち――がわたしの名前(小“鈴”)をもじってそう呼んでいたけど、よもや自分から名乗ることになるだなんて……ちょっと、いやかなーり、恥ずかしい。

 

「っ!」

 

 わたしがそんなどうでもいいことで一喜一憂していると、急にあられちゃんは、頭から毛布をかぶってしまった。

 

「えっ? ど、どうしたの?」

「みないで……っ」

 

 見ないで? そう言ったの?

 どうして? と尋ねようとしたけど、その意味はすぐにわかった。

 

「わたしのお顔……いま、とてもひどい、から……だから……」

「あられちゃん……」

 

 先生の言葉が頭をよぎる。

 顔。それは人と人が触れ合う時、もっとよく見て、強く意識するところだ。

 男の子だから、女の子だから、と主張するつもりはないけど、それでもやっぱり、女の子の傷は、痛々しい。とても、見ていられない。

 よく見れば座卓の上には包帯が置かれていた。あられちゃんの顔も、暗くてよく見えなかったけど、きっとこの包帯が巻かれているんだと思う。

 そして、その下は……

 

「わたし、ただおともだちと遊んでた、だけなのに……なのに、いたくて、すごくいたくて、いたくて、くるしくて……やめてって、言っても、だめ、やめて、くれなくて、でも、それで……今も、カッターが……わたし、もう、どうしたら、いいのか……わたし……!」

 

 毛布の上からでもわかる。震えている。ガタガタと、全身を震わせて、怯えて、混乱して、錯乱している。言葉もなにを言っているのか、まるでわけがわからない。

 その原因は当然、恐怖だ。過去の出来事のフラッシュバック。あるいは未来への絶望。色んな苦しみを思い起こして、彼女は怖がっているのだ。

 そしてこれは、わたしたちも恐れていたこと。図らずも、それを呼び起こしてしまった。

 思い出したくないことを思い出させて、その恐怖体験や、辛い記憶によって更なる傷を負わせてしまった。

 先生は大人だった。自分を律することができた。だから、わたしたちの不躾な行いも耐えて、許してくれた。

 だけどあられちゃんは違う。まだ小学一年生なのだ。必ず自分の感情を律することができるとは限らない。それが、大きなショックを受けるような辛い出来事であるのなら、なおさら。

 うわ言のように支離滅裂な言動を繰り返すあられちゃん。怯える彼女を、わたしはどうすることができるだろうか。

 考えて、考えて、考えて――わたしは、一歩、進み出た。

 さらにもう一歩、またもう一歩。

 

「あられちゃん」

 

 壁際まで寄って、わたしは言った。

 

「この絵、素敵だね」

「ふぇ……?」

 

 うわ言が止まった。毛布の隙間から、視線が覗く。

 わたしは続けた。

 

「これは鳥さんかな? いいよね、空を自由に羽ばたく鳥さんは。しかも青い鳥だなんて、ロマンチック。わたしの知ってる鳥さんは、白くてきれいなだけで、いっつも無茶苦茶だから、こういう自由そうな鳥さんには憧れちゃうな」

「そ、それは……春に、かいたの……えんそく、で……」

「遠足かぁ、いいね。わたしもちょっと前に、友達とお散歩に行ったんだ。まあ、ほとんど山登りだったけど……あ、この山の絵もきれいだね」

「それ……まえに、おかあさんと、おとうさんと、りょこう、いったときの……しんかんせんで、みた……」

「新幹線? ってことは、富士山かな?」

「う、うん……」

「いいね、わたしは絵を描くの苦手だから、うまい絵を描ける人はすごいって思う」

「わたしの絵……すごい?」

「うん、すごい。とっても素敵で、きれい。なんていうのかな……心が、伝わってくるよ」

 

 楽しい、っていう純粋な心が。

 ただうまいだけじゃない。伸び伸びと、好きなように描いているっていうのが、なんとなく伝わってくる。

 わたしが勝手にそう思ってるだけで、本当は違うのかもしれないけど。

 

「こっちの絵は人だね。鹿島先生……お母さんと、こっちはお父さんかな? それにあられちゃんもいるね」

「うん……おかあさん、おとうさん、おしごとでおうちに、いない、から……」

「あられちゃんのお母さん、学校の先生すごく頑張ってるもんね」

「しってるの?」

「うん、すごくよく知ってるよ。テストはすっごく厳しいし、居眠りしてたらチョーク投げてくるけど……でも、みんなのことをよく見てて、誰も絶対に見捨てない。最高の先生だよ」

「……でも、いまは……おうちに、いる……ずっと……わたしの、せいで」

「あられちゃんのせいじゃないよ。先生は、先生だけど、あなたのお母さんなんだから、あられちゃんが心配で当然だよ。あられちゃんが、そのことで悪く思う必要なんて、ないの」

「でも……」

「じゃあ、こうしよ? あられちゃんがお母さんに少しでも悪いと思うなら、いっぱい勉強して、いっぱいお絵描きして……いつか、笑おう」

「わら、う……?」

「うん、笑うの。こうやってね」

 

 ニコッ、と。

 わたしは精一杯の笑顔を作る。

 意識して笑うって、すごく難しい。

 でも、わたしが笑えなくて、この子が笑えるはずもない。

 学校に行くかどうかとか。それは、わたしがどうこう言うべきではない。それはあられちゃんや、先生の問題だ。

 だけどわたし個人としては、あられちゃんにも、先生にも、幸せになって欲しい。暗い顔で生きていて欲しくない。

 だからせめて、笑ってほしかった。楽しい世界で、生きて欲しかった。

 だから、わたしは笑う。今日はじめて出会った女の子と、お世話になった先生を笑わせるために、笑う。

 

「おねえさん……へんなお顔」

「へ、変って言わないでよっ!」

「でも、すてきよ。とっても、きれい」

「え……そ、そう?」

 

 ちょっと思っても見なかった返答に面食らいます。

 「可愛い」ならみのりちゃんと謡さんから、「素敵(シェーン)です」ならユーちゃんから、飽きるほど言われたけど。

 きれい、と言われた覚えはなかったから。

 

「わたし……おえかきして、笑えば……おかあさんと、おとうさん。笑ってくれる……?」

「うん、きっとみんな笑顔になれるよ。あられちゃんの描いた絵はこんなにも素敵なんだから」

「……ありがとう、おねえさん」

 

 とりあえず落ち着いた、かな。

 さて、わたしのことは魔法少女で誤魔化せたとして、早くここから退散しないと。

 あんまり長いこと先生たちを待たせられないし。

 なんて思ったけど、わたしは彼女の素敵な絵に当てられてしまったのかもしれない。あるいは、あられちゃんを宥めて、ちょっと浮かれていたかもしれない。

 部屋から出る前に、座卓にある絵を見つけて、持ち上げてしまった。

 

「あれ、この絵は?」

「っ、そ、それは……」

 

 その瞬間、またあられちゃんは毛布をかぶってしまった。

 そしてまた、さっきのパニックの兆候を見せ始める。

 

「う、うぅ……ごめんなさい。それ、もってって」

「え? でも……」

「おねがい。わたしも、なんで、いつ、そんなの、かいたのか……わからないの。なんだか、頭がぼぅっとして、気づいたら、かいてて……いや、なのに。おもいだしたくない、のに。いたかった、のに……!」

「あ、あられちゃんっ。落ち着いて……じゃない。えっと、そう、うん。この絵、貰うよ。素敵な絵をありがとう!」

 

 落ち着かせるつもりが、わたしまでパニックになりかけてます。ありがとうじゃないよ。

 でも、いきなりどうしたんだろう。あられちゃんはクリーチャーに憑りつかれていたから、その間に描いた絵なのかな?

 だとしても、一体この絵になにが……? あられちゃんの言葉からして、なにか事件を思い起こすようなものっぽいけど。

 

「その子……もう、いや……やだ……!」

「……その……“子”?」

 

 奇妙な言葉に違和感を覚えつつ、わたしはその絵に目を落とす。

 息を飲む。同時に、頭の中でなにかが繋がった。

 確証はない。わたしよりもずっとうまい絵だけど、これは小学生のお絵描きだ。

 でも、もしこれが、わたしの想像通りなら――

 

「……あられちゃん、落ち着いて。大丈夫だよ、怖くないよ」

「お、おねえ、さん……」

「あなたのことは、きっとお母さんやお父さんが守ってくれる。それでも不安なら、わたしを呼んで。怖い夢くらいなら、やっつけてあげるから」

「……ぐすっ。おねえさん……あ、りが、とう……」

 

 なんの根拠もない約束をするのは、ちょっと心が痛むけど。

 でも、悪夢(クリーチャー)を見たなら、マジカル☆ベル(わたし)の出番だからね。

 

「ゆっくりでいいの。自分ができるって思うことだけでいいから、ちょっとずつ、笑えるようになろう」

「うん……」

「あと、わたしがここに来たことは内緒だよ。特にお母さんにはね」

「うん……」

「もし誰かに喋っちゃったら、魔法が解けて、あられちゃんのところに行けなくなっちゃうから。お姉さんとのお約束だよ。いいね?」

「うん……」

 

 よし、これで大丈夫。あられちゃんは落ち着いたし、わたしの隠蔽工作も完璧だ。

 二度のパニックで疲れたのか、あられちゃんはベッドに倒れて、寝息を立て始めた。

 思えば、クリーチャーに憑かれているだけでもエネルギーを消費するわけだし、それに加えてさっきのパニックもあったんだから、堪えるよね。

 今はゆっくり休んでね。

 

「じゃあね、あられちゃん」

 

 別れの挨拶を済ませて、部屋から出た。謡さんはもうリビングに戻ってしまったようだ。

 わたしはそこでオルゴールに押し込んだ鳥さんを引っ張り出す。

 

「乱暴だなぁ、君は。嘴が砕けると思ったよ」

「ごめん……ちょっと混乱しちゃって……」

 

 でも、鳥さんがいなくて変な横槍を入れられなかったから、結果的には成功だったと思うな!

 それはさておき、鳥さんに服を戻してもらってから、今度は丁重にオルゴールへと仕舞う。

 そしてリビングに戻る――前に、もう一度だけ、あられちゃんから貰った絵に視線を落とす。

 それは、人物画――人が描かれた絵だった。

 しかし描かれているのは、先生でも、お父さんでも、ましてやあられちゃんでもない。

 

(あられちゃんは、この“子”に対して「思い出したくない」「嫌だ」って言ってた)

 

 それが意味するところを正確に読み取るには、もう一度あられちゃんとお話ししなくてはならないけど、この絵でパニックになった彼女と、この絵について話し合うなんて論外だ。

 だからこれは、推測でしかない。

 この絵を描いた時の状況を、あられちゃんはちゃんと覚えていないようだった。なんで描いたのかも、いつ描いたのかも覚えてない。気付いたら頭がぼぅっとしてて、描いていた、と。

 わたしはそれを、クリーチャーに憑りつかれている時に描いたものだと考える。《「邪」の化神ペインティ・モッフモフ》、特に絵に関するようなことはしてこなかったけど、その名前から、色塗り(ペイント)と関連付けられるところはある。

 つまりこの絵は、あられちゃんの意志で描いたものじゃない。だけど、あられちゃんの経験に基づいて描かれている。だから「思い出したくないし」「嫌だ」と言える。

 もしかしたらこれは、クラスでケンカしちゃった子だとか、あるいはイジメっ子かもしれない。

 けど、わたしの中にある仮説は、その説を提唱しない。わたしは“わたしの中の記憶”と繋ぎ合わせて、この絵を見る。

 これはあくまで想像だ。妄想とも言えるかもしれない。だけどわたしはそれがわかっていても、そうであると振り払えない。

 女の子の絵。どこかぼんやりしていて、異常なほど真っ黒な服を着た、異端なほど真っ白な髪の女の子。

 白い、少女の、幽霊。

 この絵に描かれているのは――

 

 

 

「――『バンダースナッチ』」

 

 

 

 ――『幼児連続殺傷事件』の、犯人だ。




 マジカル・コマンドというのは、マジック・コマンドが登場した時に作者が「マジック? マジカルだったら魔法少女っぽいな!」とかトチ狂ったことを考えて、各文明のコマンド使いの少女キャラが活躍するという、女児向けアニメみたいな設定の塊のことです。本作ではそれが現実にコンテンツとしてある、という設定ですね。要は、本作『マジカル☆ベル』の前身のような設定で、小鈴も母親の書いたそれのノベライズ版に影響を受けて今の姿になっているので、実は物凄くこの作品と縁が深いっていう。
 わりと長々続いた『幼児連続殺傷事件』編(仮)も、そろそろクライマックスです。本当はもう少し長く続ける予定だったりもしたけど、色々トラブったので。
 誤字脱字、感想、その他諸々、なにかありましたら、自由に仰ってくださいな。
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