デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 番外編シリーズ、前回に引き続き、今回もユーちゃんを掘り下げる回です。本来の投稿順的にはこちらが先だし、今回はユーちゃんが直接活躍するわけではないですけど。というか半ば実子の話っぽくなってるな。まあ、実子を通してユーちゃんについて見る、みたいな。登場人物紹介短編でも、そんな感じのことしたし。



番外編「おさんぽです! ~森の外にて~」

 

 

 

 みなさんこんにちは、伊勢小鈴で――

 

「Spazieren gehen!」

 

 ――え?

 

「ユーちゃん? いきなりどうしたの?」

「Spaziergang! です!」

「いや、なにを言ってるのかわかんない……」

「おさんぽ、です!」

「え? お散歩?」

「Ja! みなさんで、おさんぽに行きましょう!」

 

 お散歩って……ユーちゃん、いきなりどうしちゃったんだろう……?

 それはあまりにも突然の申し出で、わたしは面食らってしまった。

 だけど、

 

「散歩か。別にそれくらいなら、付き合っても構わないが」

「……だる……」

「私はサイクリングの方が趣味だけど、まあ、散歩も悪くはないかな」

 

 恋ちゃんを除いて、みんなそれなりに乗り気ではあるようだった。

 わたしも、運動は苦手だけど、お散歩くらいなら、別にいいかな?

 ちょっとは体動かさなきゃいけないしね……お姉ちゃんにも、よくお小言貰ってるし……

 

「Danke! 実はユーちゃん、ずっとみなさんとおさんぽ行きたかったんです!」

「そうなんだ。それなら、もっと早く言ってくれたらよかったのに」

「えへへ、そうですね。それじゃあ、早速行きましょう!」

「わわっ、待ってよユーちゃん!」

 

 今日もユーちゃんは元気だなぁ。

 たまには、みんなでお散歩なんてして、ゆったりゆっくり、くつろぐのも悪くはない。

 そう。この時はまだ、そんな風に思っていたんです。

 だかえらわたしたちは、たかが“お散歩”だと、軽い気持ちで乗ってしまいました。

 だから、あんなことになってしまったんです――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 ――二時間後。

 

 

 

「どういうことだこれは!」

 

 遂に霜ちゃんが叫びだしました。

 うん、気持ちはわかるよ……

 ユーちゃんが行きたいお散歩コースがあるって言うから、ユーちゃんの言う通りにずっと歩いてきたけど……途中から、明らかにおかしかった。

 なんだか人気のない道に入ったり、人の賑わいを避けるように進むし、自然豊かな場所に出るし、もう民家さえもぽつぽつとしか見えなくなってきたよ……

 それでもユーちゃんは、嬉々とした表情で、足取り軽やかに、迷いなく進むものだから、大丈夫って思ってたけど……流石に、絶えられなくなったみたいです。

 わたしも二時間歩きっぱなしは流石に疲れるよ……元から体力ないのに……

 

「こんなの散歩じゃない! 行軍だ!」

「これは、流石の私もキツイわー……日向さんなんて死んでるし」

「…………」

「恋ちゃん!? 恋ちゃんしっかり! 目を開けて!」

「ふみゅ? みなさん、どーしました?」

 

 先頭に立ってずんずん進んでいくユーちゃんは、わたしたちが足を止めたのを察して、振り返った。

 そして、コクンと小首を傾げる。かわいい。

 けど、今はちょっとそれどころじゃないかも……

 

「どうしたもこうしたもないよ! 散歩に行くって言うから着いてきたけど、こんな長旅になるなんて聞いてないよ! というかここはどこなんだ!?」

「? 霜さんはなにを怒ってるんですか? ユーちゃんは、ただみなさんと、普通におさんぽしようって言っただけですよ?」

「この散歩道のどこか普通なんだ!?」

「そ、霜ちゃん、落ち着いて……!」

「そう、荒ぶってる……めずらし……」

「あ、恋ちゃん。よかった、生き返って……」

「私相手でもあんなにはなんないのにねー。ユーリアさん相手だからかな?」

 

 肉体的な疲労が、いつもの霜ちゃんを狂わせてる……とか、かな?

 わかんないけど。

 

「みゅー……ローちゃんとか、Mutti(お母さん)Vati(お父さん)とは、普通にこんな感じなんですけど……」

「なんだと……!? ドイツ人の散歩は狂ってる……!」

 

 頭を抱える霜ちゃん。

 うん、まあ、この距離のお散歩を普通って言いきるのは、ちょっと、わたしたちの感覚からはずれてるかもしれないね……

 行軍とまでは言わないけど、ちょっとハードなハイキングくらいはあるんじゃないかな?

 少なくとも、わたしもこれは、お散歩とは呼び難い。

 

「ま、私はもうちょい付き合ってもいいけどね。チャリじゃないのがあれだけど、まあまあ楽しいし」

「わたしも、ユーちゃんすごく楽しそうだし、もう少し頑張ろうかなって思うんだけど……」

「くっ、毒皿か……!」

「死ねる……」

 

 ユーちゃんに次いで元気なみのりちゃんはともかく、霜ちゃんと恋ちゃんは、色んな意味で辛そうだった。特に恋ちゃん。身体、大丈夫なのかなぁ……?

 けれどもユーちゃんは、あんまり周りが見えていません。ユーちゃんが向いているのは、常に正面だけです。

 満面の笑顔でずんずん先に進んでいくユーちゃんは、ハッとして、エサを見つけた子犬のようにぴょこぴょこと走っていくと、指差しました。

 

「じゃあ、次はここに入りましょう!」

 

 それは、鬱蒼の木々が生い茂る場所。

 奥は深く、薄暗く、どこまで続いているかもわからない深淵。

 

「……ここって……」

「森……いや、山、か……?」

 

 なんとなく地面が傾斜っぽいようには見えるけど、たぶん森だ。正直、どっちでもそんなに変わらない気がするけど。

 ここまで来るだけでもかなり疲れているのに、その上、森に足を踏み入れるだなんて、正気の沙汰ではない。

 というのは、わたしたちの感性でしかないのだけれど。

 

「Oh……! この(ヴァルト)には、一体なにがあるんでしょう……! わくわくです!」

「ユーリアさんは元気だなぁ」

「マジか……」

「……仕方ない。ここまで来たら、もう最後まで付き合うよ……それでユーの気が済むのならね……」

 

 もう、霜ちゃんも諦めモードです。

 でも仕方ないかもね。こんなキラキラと目を輝かせたユーちゃんを前にしちゃったら、色んな意味で止められない。

 ユーちゃんは待ちきれないと言わんばかりに、たったったと走り出した。

 

「Ja! Lass uns gehen(さぁ、行きましょう)!」

「待ってよユーちゃん! 一人で行ったら危ないよ!」

 

 と、わたしもユーちゃんの後を追って駆け出すんだけど。

 やっぱりわたしは、ユーちゃんと比べると、すごくどんくさいから。

 木の根や岩、均されてないゴツゴツとした地面に、足を取られてしまった。

 

「わわっ」

 

 そこで転んでいたら、まだよかったのかもしれない。

 だけどわたしは、咄嗟に、無理に踏ん張ろうとしちゃって、足を変な方向に出してしまった。

 そのせいで、

 

 ――グキッ

 

「っ……!」

 

 足首の方から、嫌な音が聞こえた気がした。

 もう踏ん張りも利かず、わたしは受け身も取れないまま、硬い地面にすっ転ぶように倒れ込んだ。

 

「こ、小鈴さん!?」

「小鈴ちゃん! 大丈夫!?」

「だ、大丈夫……」

「立てる……?」

「手を貸そうか?」

「ありがと、霜ちゃん……」

 

 霜ちゃんの手を借りて、立ち上がろうとする。

 けど、その時、右足に鈍い痛みが走った。

 

「っ、ぁぅ……!」

 

 小さな声が漏れる。

 同時に、かくんと膝が折れてしまった。

 

「小鈴? 本当に大丈夫なのか?」

「う、うん……ちょっと、捻っちゃっただけだから……」

「ちょっと見せてねー。だいじょーぶ、変なことはしないからさ」

「自分で言うのか……」

「ふーむ。ふむふむ」

「どう……?」

「わかんない」

「わからないのかよ! なんで見たんだ?」

「いや、見たらわかるかと思って。結局わかんなかったけど」

「役立たずが」

 

 とりあえず霜ちゃんの手を借りて、なんとか立つ。

 足首がズキズキする……ちょっと、しばらくは歩けないかも……

 

「こすず……あそこ……」

「あれって、ベンチ?」

「ん……」

 

 休んでなさい、ってことなのかな?

 恋ちゃん、周りをよく見てて、気が利くな……ただ自分が休む場所を探してただけだったとは思わないようにしよう。

 とりあえず、恋ちゃんに促された通りに、わたしはベンチで座って休むことにする。

 ……このベンチ、座った時にすごいギシギシいったけど、大丈夫なのかな……こんな寂れた田舎道で雨ざらしにされてるベンチだから、強度が心配です。わたしの重さ? 気にしません。

 

「わたしはここで少し休んでるから、みんなで行ってきて」

「いいのかい?」

「どっちにせよ、しばらく休まないと変えるのも大変そうだし……みんなを引き留めるのも、申し訳ないし」

「別に、私は行きたい、わけじゃ……」

「あの、こ、小鈴、さん……」

 

 ユーちゃんが、おずおずと、申し訳なさ気に、こっちを覗き込んでくる。

 ちょっとそわそわしてて、もじもじしてて、言おうか言わないか、言っていいのか悪いのか、やりたいこととやるべきこととそうでないこと、その狭間で揺れているような、どっちも捨て置けないような、そんな、宙ぶらりんな状態。

 ユーちゃんは迷ってる。わたしがケガしちゃったから、気にしてるんだと思う。そんなに気にすることないのに……これは、わたしがどんくさいからやっちゃったことなわけだし。

 それでもユーちゃんは、責任感を感じちゃってるみたい。だけど、きっとユーちゃんは、まだ満足していない。もっと先へ、もっと奥へ、進みたがっている。だから、揺れている。

 わたしはユーちゃんに言いました。

 

「ユーちゃんの好きにしていいよ」

「にゅ……」

 

 ユーちゃんは、ちょっとだけ驚いたように目を見開いて、そしてまた、おずおずと尋ねます。

 

「小鈴さん……ユーちゃん、ワガママ言っても、いいんですか……?」

「うん、いいよ。だって、ずっと行きたかったんでしょ、お散歩」

「……Danke!」

 

 パァッと、笑顔を取り戻すユーちゃん。

 うん、やっぱりユーちゃんは、そうやって笑っているのが似合うし、かわいいね。

 

「私も残るよ。小鈴ちゃん一人にするのもなんだし」

「私も……残りたい、ん、だけど……」

「なんで実子なんだ?」

「や、誰でもいいっちゃいいんだろうけど、私が小鈴ちゃんと一緒にいたいから」

「ねぇ……私も……疲れた……」

「身勝手な奴だな。今回はまあ、いいけども」

「んじゃ、ユーリアさんの方は頼んだよ」

「あぁ」

「あの……私……」

「ごめんね。わたしがどんくさいせいで」

「まったくだ。しっかり休んで、戻って来るころには歩けるようになっててくれよ。じゃないと。帰れないからね。こんなド田舎、バスすら走ってないし」

「……無視、か……もう、あきらめた……」

 

 そういうわけで。

 わたしとみのりちゃんだけで残って、ユーちゃんと霜ちゃん、それから恋ちゃんの三人は、深い森へと入って行きました。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「みのりちゃんって、ユーちゃんと仲良いよね」

「んんっ!?」

 

 三人が森に入ってから。

 ただ座っているだけなのもつまらないし、みのりちゃんと二人きりというのも久しぶりだ。

 だから、わたしはみのりちゃんと、少しお話しようと思って、そう言葉を投げかけました。

 するとみのりちゃんは、なぜか混乱したように、言葉に詰まった。どうしたんだろう?

 

「な、なにかなー? ヤブからスティッキーに」

「スティッキーって、棒って意味あったっけ……いや、なにもなにも、そう思っただけなんだけど」

「なんでよりもよってユーリアさん? 水早君じゃなくて?」

「霜ちゃんとも仲良しだけど、あれってみのりちゃんが一方的にからかってるだけでしょ? 霜ちゃん、本気で嫌がってるから、やめた方がいいよ」

「考えとくよ。で、ユーリアさんね……まあ、純粋すぎて、あんまり邪険にできないよね」

 

 無邪気という言葉がとても似合う、笑顔が眩しいユーちゃん。

 恋ちゃんもユーちゃんには毒づかないし、それだけユーちゃんには、邪な気持ちを寄せ付けない、朗らかさのようなものがある。

 それはわたしも感じていることだし、それがユーちゃんのいいところ。

 ユーちゃんに流に言うなら、素敵(シェーン)です、ってところかな?

 けど、わたしがみのりちゃんとユーちゃんが特に仲がいいと思ったのは、なにも感覚的なものだけじゃない。

 ちゃんと、根拠もあるんです。

 

「ユーちゃん、みのりちゃんにデッキの組み方とか色々教えてもらったって言ってたよ」

「あぁ、まあ、うん。そうだね」

「わたしたちがいない時でも、一緒に遊んだりしてるの?」

「遊んでるっていうかなんていうか、ショップでたまたま会ったりとかだけど……たまに、皆の予定が合わない時でも、私たちだけでも予定が合うなら、会うことはあるかなぁ」

「やっぱり。仲良いじゃない」

「そう、かなぁ?」

「なんでそこで素直じゃないの?」

「んにゃ、別に……」

 

 なんだか、微妙な表情だ。口元が歪みそうで、その歪みを抑えるみたいな、すごい変な顔をしたまま、ちょっと斜を向くみのりちゃん。

 それはどういう反応なの……?

 

「なにか、仲良くなるきっかけとかあったの?」

「あ、それはハッキリしてる。あのクソガキ……なんていったっけ、刺青入れてるチャラチャラしたガキ」

「えーっと、『眠りネズミ』さん……眠りネズミくん? のこと?」

「名前なんて覚えてないけど、あのクソガキに負けた後、二人でちょっと話す時間があってさ。その時、一緒に特訓しよう、って話になったんだよ」

 

 あれは確か、夏休みの時だったっけ。

 いきなり町中にクリーチャーが現れて、みんなの力を借りて倒して回っていたけれど……その間に、『眠りネズミ』くんが、襲撃してきた。

 目的はわたし――というか鳥さん――だったみたいだけど、その途中で、ユーちゃんやみのりちゃんも倒していた。

 二人は、その敗北がすごく堪えたみたいで、とても悔しかったみたいで。

 だから、二人で強くなろうとした。

 ……って、ユーちゃんもちょっと言ってたっけ。

 みのりちゃんは、あんまりそういう弱みは見せてくれないけれど、内心では、すごく悔しかったんだろうなって思う。

 その気持ちが、二人の間であった。

 だからこそ、二人は仲良くなれたのかな。

 

「まあ、特訓っていうより、私がユーリアさんを鍛えるみたいな感じにはなったけど……凄かったよ、あの子」

「すごいって、なにが?」

「なんて言うかなぁ、ガッツというか、ハングリー精神というか。いや、そんなドロドロしたもんじゃないかなぁ。もっと純粋で、より純真で、なにかを取り入れる力。アドベンチャー的には知りたがる心みたいな……そう、好奇心だ」

「好奇心?」

「あの子、物凄く好奇心旺盛なんだよ。自分の知らないもの、見たことないことっていうのに、どんどん手を伸ばしていくの。その特訓中に、色んなデッキで対戦したりしたけど、ちょっとギミック変えるだけでも、すっごいいいリアクション取ってくれたりしてさー。見てるこっちが変な気持になっちゃうよ」

「変な気持ちってなんなの……」

 

 だけど、そう語るみのりちゃんは笑顔で、自然な笑みが零れてて。

 無邪気で、純粋に笑って、楽しそうだった。

 そう――ユーちゃんみたいに。

 

「小鈴ちゃんは、今のままがいいってタイプだと思うんだけどさ。あの子は、今のままもいいけど、もっと面白いものを見つけようとしてるんじゃないかな。それはある意味、限りない欲……まあ、物質的なものじゃないから、知識欲とかに近いのかなー? そういうのを、好奇心っていうんだろうけど」

「なんだか、霜ちゃんみたいだね」

「いやいや、水早君みたいな頭でっかちと一緒にしちゃ可哀そうだよ。水早君は、わからないことがあったらまず考えて、自分で答えを見つけようとするでしょ?」

「うん、そうだね。霜ちゃんならそうすると思う」

「けどユーリアさんは違う。あの子はわからないことがあったら、まず探す。探しに行く。自分の知識の中で解を求めるんじゃなくて、知らないものを見つけに行くんだよ。外の世界にね。そういうタイプ」

「言われてみると、そんな気もするかも……」

「まあ、今は小鈴ちゃんに合わせてるっていうか、一緒にいたいって思ってるんじゃない? その気持ちがもう少し弱かったら、たぶん、あっちこっち走り回ってたよ」

「そっかぁ」

 

 ちょっとイメージできるかも。ちょこちょこと動き回るユーちゃん……かわいいけど、ちょっと危なっかしいかな。

 わたしは、どっちかっていうと、自分の中で抱えて、考えちゃうタイプだから、特にそういうのは危うく感じてしまう。

 ……まあ、考えたからって、わたしは霜ちゃんほど思慮深くはないし、知識もないから、堂々巡りで迷ってばっかりで、答えが出るとは限らないんだけど……

 

「そうなると、霜ちゃんがまた大変そうだね……」

「水早君は考えすぎだと思うんだけどねー。そうじゃない、そうやって得るものじゃない。論理でも理屈でもないんだよ。ユーリアさんの求めてるものは。楽しさとか、嬉しさとか……あ、雅な表現思いついた。そう、つまりは(おもむき)、粋ってやつだ」

「そうなのかなぁ?」

 

 その表現は、ちょっと違うっていうか、あんまり上手くないと思います。

 

「まあまあ。表現の正確さなんてどうでもいいけどさ。要はあの子、私たちの中でも、一番純粋に“楽しさに飢えてる”ってことなんだよね」

「飢えてるって……そんな狼みたいな」

「健全な意味だって。まあ、私もそういう、楽しみに価値を見出すことには賛成だし、あぁもせがまれて、そのうえ活き活きと、それでいてキラキラとしてるんだもん。邪険にはできないよねぇ」

「ユーちゃん、よくみのりちゃんみたいなデッキ使うもんね」

「や、流石に私のテクは簡単には真似させないよ。技術的にも資産的にも。《ギョギョラス》は誰にも譲れないね」

「別に誰も取らないよ……」

 

 霜ちゃんは、コンボ自体は面白いから取り入れてみたい、みたいなことを前に言ってた気がするけど。

 でも、わたしにはできないなぁ。カードもないし……

 ユーちゃんはその点、みのりちゃんの真似っ子でも、積極的にデッキを組み替えて、カードを入れ替えて、変化させてるからすごいと思う。

 わたしなんて、カードの枚数をちょっと変えたりはするけど、あんまり大きく変えないから……

 

「……でも、なんだかいいね」

「なにが?」

「みのりちゃん、ユーちゃんのお師匠さんみたいで」

「ほわいっ!?」

 

 え? そこ驚くところなの?

 みのりちゃん、ユーちゃんがデュエマ強くなるのを手伝って、一緒に特訓して、ユーちゃんはみのりちゃんのデッキも真似てみて……まるで師弟関係みたいに思えたけど。

 

「違うの?」

「いんやぁ、違うってか、なんてか、そういうの向いてないってゆーか……」

「顔、にやけてるよ」

「み、見るなぁ!」

 

 片手で顔を覆って、もう片方の手でわたしを押しのけるみのりちゃん。

 こんなみのりちゃんの反応、とっても珍しい。というか、初めて見た。みのりちゃんが照れてるところ。

 だけど、さり気なくわたしの胸を鷲掴みしながら押し返すのはやめてほしいです。

 

「あーもう、師匠とかそんなの、私のキャラじゃないって」

「そんなことないと思うよ? ユーちゃんはきっと、みのりちゃんのデュエマする姿を見て、カッコイイって思ったんじゃないかな?」

「う、なんかそんなことを言われた記憶がなくもないような……じゃない! 私、人に教えるとか根本的に無理な人間ですし!」

「んー、教えるっていったら、確かにそういうのは確かに霜ちゃんとかの方が得意だと思うけど、そうじゃなくて……なんて言ったらいいのかな? 振る舞いとか、生き様? とかの話だと思うよ?」

「生き様ぁ?」

「うん。だってみのりちゃん、ユーちゃんと似てるもん」

 

 みのりちゃんの方がいたずらっ子っぽいけど、でも、根本には近いものがあるような気がします。

 情熱がある。衝動がある。それを自分のために燃やして、まっすぐ進める。

 ネズミくんに負けちゃった時に意気投合したのも、二人が似ていたからこそ、同じ道に進めたんだと思うし、ユーちゃんは自分の理想とする道程の先に、みのりちゃんの姿を見たんじゃないかって思う。

 ある種の憧憬。羨望。

 ユーちゃんがみのりちゃんのデッキをまねっこしたのも、そういう憧れが、好奇があったんじゃないかな。

 

「だから、ユーちゃんはみのりちゃんのこと、お師匠さんみたいに思って、慕ってるんじゃない?」

「そんな柄じゃないんだけどなぁ、私。ってゆーか、同学年だし……」

「そんなの関係ないよ。みのりちゃん、自分のことになると素直になれないよね。だからわたしともケンカしちゃうんだよ」

「ちょっとそれわたしの黒歴史だから。小鈴ちゃんでも安易に入って来ないでほしいな……」

「あ、ごめん……」

 

 とても複雑な表情で、片手を突き出して制されました。

 だけど、師匠という肩書を持ったみのりちゃんはカッコイイと思うし、みのりちゃん本人もまんざらじゃなさそうだよ?

 顔もにやけてて、なんやかんやで嬉しそうだし。

 

「……ふふっ」

「あ、笑ったなぁ。なにがそんなにおかしいのさ」

「なんでもないよ」

「くぅ、いつものポジションを逆転されてる気分。マウント取り返さないと!」

「そんなつもりはないよ。でも、こうしてみのりちゃんと、ちゃんとお話しするの久しぶりだから、わたしは嬉しいよ?」

「ん……っ」

 

 みのりちゃんと大ゲンカした後。

 夏休みちょっと前くらいから、みのりちゃんはすごく弾けた。今まで抑圧していたものを解き放つように、閉じていたものを開くように。

 わたしには、どっちが本当のみのりちゃんなのかはわからないし、どっちもみのりちゃんであるのかもしれないけれど……夏以降、どこかおちゃらけたみのりちゃんは、なにか殻を被ってるみたいでもあったから。

 それが取り除かれてるか、とか。そういうことでもないけれど、なにも茶化さないで、みのりちゃんの本心を、思ったままを、本当の気持ちを、ちゃんと伝えあえてるみたいで、わたしは嬉しい。

 今までずっと、一方的なセクハラばっかりだったしね!

 

「むぅ、そういう真面目なのも私のキャラじゃないんだけどな」

「一学期までは、そういうキャラだったんじゃないの?」

「や、私もキャラ付けに迷ってたことがあったし」

「わたしは、キャラ付けとかじゃなくて、そのままのみのりちゃんがいいなぁ」

「……小鈴ちゃん、そういうこと普通に言えちゃうから怖いよね」

「え? なにが?」

「茶化しづらい空気が、逃げ道を塞がれたみたいってことさ」

 

 と、それこそどこか茶化した感じで言うみのりちゃん。

 いや、茶化したい感じ、かもしれない。

 うーん、わたしはただ、前みたいにみのりちゃんとお話しできることが嬉しいだけなんだけど……

 一方的じゃない、お互いの言葉を交わし合える、この会話が。

 できるなら、もっとずっと、お話していたい。

 そう思っていたけれど……残念ながら、わたしの運命というものは、あまりわたしの理想には添ってくれないようです。

 突然の出来事だった。

 空から、声がした――

 

 

 

「――小鈴!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「え? 鳥さん?」

 

 空からやって来た、白い羽毛の塊――間違いない、鳥さんだ。

 鳥さんを見るや否や、みのりちゃんは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「うーわ、いい雰囲気が台無しだぁ。鳥肉、なんの用? って、聞くまでもなさそうだけど」

 

 いい雰囲気って……いや、別にいいんだけど。

 だけど、鳥さんが来たってことは、その理由は、確かに聞くまでもなさそうだね。

 

「クリーチャーが出たの?」

「うん。だから君を呼びに来たんだけど、君を探しているうちに、本来のクリーチャーが消えてしまって」

 

 え?

 クリーチャー、見失っちゃったの?

 

「じゃあなにしに来たのさ。ほんっと無能だよね、この肉」

「でも代わりに、新しいクリーチャーを発見した。ついさっき、動きを見せたことで察知できた」

「えぇっと、つまり、最初に鳥さんが見つけたクリーチャーじゃなくて、新しく見つけたクリーチャーをどうにかしよう、ってことなの?」

「よくもまあ、そんな器用な真似ができるね」

「いや、凄く巧妙な偽装工作だったよ、発見できたのは本当に運が良かった。土地そのものに根差すことで隠蔽するだなんて、こんな隠れ蓑があるとは思わなかったからね、完全に虚を突かれたよ。僕がたまたまこの近くを飛んでいたから、力の発動によるマナの流れを知覚できたものの、そうでなければ存在すら悟れなかっただろう。相手は相当、高位のクリーチャーと見たよ」

 

 なんだか、行き当たりばったりだなぁ。

 いや、鳥さんの行動なんて、最初からそうだったけど。

 ……あれ?

 

「ちょっと待って鳥さん。そのクリーチャーって、ついさっき動きを見せて、しかもこの近くにいたの? それに、土地に根差すって……」

「あぁ。きっとその土地を根城にしているんだろうね。あるいは領地か。だから、侵犯者を見つけたことで、防衛モードに入ったと見た。場合によっては排斥かもしれないけど」

「侵犯者って、それって、もしかして……」

 

 わたしが言葉を続けるよりも早く。

 鳥さんは羽ばたいた。

 ――森へ向かって。

 

 

 

「さぁ行こう、小鈴。クリーチャーは“この森の中”だ」

 

 

 

 やっぱり――!

 あの森が、クリーチャーの巣窟だったんだ!

 

「ど、どうしよう……!? 森の中には、ユーちゃんたちが……!」

「君の友人か。それも捨て置けないな。なら、なおのこと急がなければ――ぐはっ!」

「と、鳥さん!?」

 

 鳥さんは森に向かって一直線に飛び出したけど、途中、なぜかいきなり落下した。それも、きっち90度の角度で。

 

「えぇ、なにこの鳥肉……自分で垂直に墜落とか、どんな芸なの?」

「いや、違う、これは……“結界”か!」

 

 結界?

 な、なんかオカルトっぽいけど、要するに、見えない壁があるってこと?

 

「そうか、だからあんなにもハッキリ察知できたのか。森内部への仕掛けかなにかが作動したのかと思っていたが、それだけじゃなかったというわけか。外部と内部を遮断する結界が展開されている」

「結界って……」

 

 みのりちゃんに肩を借りながら、鳥さんが落ちたあたりまで歩く。そして、手の甲で、ちょっと叩いてみた。

 

コツコツ

 

 見えないけど、確かに壁のようなものがあるみたい。硬くて、とても先に進めそうにはなかった。

 

「なんでこんなものが……」

「本来なら、外部の侵入者を防ぐものなんだろうけど、ここまで露骨に、されども強固に、物理的な力を持った結界だからな。それをこんなところで展開する意味と言えばやはり……内部の侵入者を、外部に逃がさないため、じゃないか?」

「そんな……!」

 

 ってことは、ユーちゃんたちは、もうこの森から出て来れないってこと!?

 それに、ユーちゃんたちはきっと、閉じ込められていることも知らないのに……!

 

「あー、ダメだね。携帯も通じないや」

「ふむ、成程。となればこの結界は、物理的にだけではなく、電波や思念の類までも遮断するものなのか。これは、君が変身して全力で殴ったところで、傷一つつきそうにないな」

「そんな……どうすればいいの?」

「なに、深刻になることはない。いつも通りさ」

 

 鳥さんは、妙に自信満々に答えた。

 

「結界を展開している大元がいるはずだ。そして、それはきっと、森の外にいる」

「なんでわかるの?」

「僕は感覚でクリーチャーの存在を感知しているわけだけど、この結界から感じ取れるマナの性質と、直前に感じていた森の中のマナの性質。これらに若干のずれがある」

「つまり?」

「クリーチャーは二体いる、ということさ。結界を構築して、侵入者を外に出さない役割を担っている者と、森の中に巣食って侵入者を排除するクリーチャー。綺麗に役割を分担していると見た。そもそも、これだけ強固な結界だ。これを展開し続けるだけでかなりのリソースを割かれるだろうしね」

 

 な、成程……?

 言ってることは半分くらいしかわからなかったけど、とにかく、結界の外にこの結界を展開しているクリーチャーがいて、それを倒せばいいんだね。

 

「じゃ、じゃあとりあえず、そのクリーチャーを探さないといけないね」

「……いや、その必要はないんじゃない?」

「え?」

 

 みのりちゃんが、なぜかやや上向きにそらを見上げている。

 わたしもつられて、目線を上げると――

 

 

 

「聖域を穢す者が侵犯したとの報せを受け、結界を展開したものの――外にも、侵犯者と通じる者がいたとはな」

 

 

 

 ――いた。ずっと高いところに、宙に浮いている人が。

 いや、あれはきっとクリーチャーだ。やけにキラキラした格好をしてて、どことなく人間味が薄いように感じる。

 そもそも人間は宙には浮けない。

 

「いいや、あれは宙に浮いてるんじゃなくて、この森を覆う結界の上に乗っているだけだよ」

「左様だ」

 

 鳥さんの発言を証明するように、その人は落ちてきた。

 いやこれも、鳥さんの言う通りなら、飛び降りた、が正しい。

 そして音もなく着地。人間業じゃない。ということはやっぱり、人間ではない。

 

「一応、確認だけど。君がこの結界を張った張本人なのかな?」

「虚言は無為であろうな。ならば答える。その通り、とな」

 

 その人は深く、ゆっくりと頷いた。

 

「私は結界師としての役割を与えられた者。もっとも、私はこの壁を、結界と称することには、若干の抵抗があるのだが」

「どうでもいいことだ。そんなことより、君がこの森を外界と遮断するその理由は? 君は、森の中に巣食うクリーチャーと繋がっているのかい?」

「それも是だ。彼は穢れを嫌う。邪道な精神、我欲に塗れた魂、歪な変化を繰り返そうとする欲。私は彼に命じられるままに動き、役割を果たす自然の一部に過ぎない。故に、私に意思はない」

「つまり、親玉は森の中、ってことね」

 

 ということは、やっぱりユーちゃんたちが危ない……!

 早く、助けに行かなきゃ。

 と、わたしは一歩踏み出そうとするけど、

 

「っ」

 

 足首に鈍い痛みが走る。

 まだ治ってない……当然か。ちゃんと手当したわけでもないし、そんなに休めたわけでもないから。

 でも、鳥さんの力で変身できれば、このくらい……!

 

「まあ待ちなよ、小鈴ちゃん」

「み、みのりちゃん……?」

「怪我してる時まで頑張る必要ないって。ここは私がやるからさ」

「でも……」

「いいからいいから。私に任せてよ」

 

 みのりちゃんがわたしを制して、前に出る。

 その手には、既にデッキケースが握られていた。

 

「師匠なんて柄じゃないけど、あの子と一緒なのが楽しかったのは事実。その義理立てくらいはしてもいいかなってね」

「みのりちゃん……」

 

 本当、素直じゃないんだから……もっと普通に、そのまま言えばいいのに。

 助けに行きたいって。

 だけど、その気持ちは、わたしも嬉しかった。

 

「つーわけで鳥肉、ここは私が請け負った。文句は言わせないよ」

「僕としては正式に契約している小鈴の方が安心感があるんだけど、怪我しているから戦場には出さない、という考えも理解できないわけじゃない。仕方なく、君を代理として立てようか」

「うっさい、ぶつくさ言うな。とっとと始めて、時間が惜しい」

 

 鳥さんの言葉を、雑に一蹴するみのりちゃん。

 あ、相変わらず鳥さんには厳しいね……

 

「立ち向かうか、いいだろう。私も、汝らが私を打破しようと試みるのであれば、相応の対応をしなくてはならない。結界の展開で魔力の消費には懸念が残るが、是非もなし。外界からの新たなる侵犯者の可能性を放置できるはずもなく、私は役割を遂行するまで。故に、お相手仕ろう」

 

 慇懃に、そして威風堂々と、二人は向き合った。

 わたしたちの前に立ち塞がる壁を突破して、ユーちゃんたちを助けに行く。

 そのために、このクリーチャーを、倒さなくちゃいけない。

 

「それじゃ、サクッとぶん殴って終わらせようか」

「聖域は侵させない。参る」

 

 それを為すための一戦が今――始まった。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 みのりちゃんと、結界師と名乗るクリーチャーとの対戦。

 まだお互いに、《霞み妖精ジャスミン》でマナ加速をしただけ、だけど。

 先に、結界師さんが仕掛けてきた。

 

「3マナ。《絶対の(おそ)防鎧(ぼうがい)》召喚」

「げ、《防鎧》か……」

 

 みのりちゃんは顔をしかめた。

 確かあれは、手札破壊を封じ込めたり、マナよりもコストの大きなクリーチャーを出すことを封じるクリーチャー……だったよね。

 

「汝のマナゾーンに見えているカードから、汝は力の誓約を超越する戦術を取ると見たまで。終了」

「残念なことに、その通りなんだよねぇ……」

 

 みのりちゃんのデッキは、侵略と革命チェンジを繰り返すデッキ。マナゾーンにある文明も、火と自然だから、一番よく使う、侵略と革命チェンジを同時に使うデッキだと思う。

 早いうちからコストを踏み倒して、マナを溜めるよりも早く大きなクリーチャーで押し潰すようなデッキだから、そのクリーチャーの対策は、とてもよく効く。

 みのりちゃん、早速ピンチっぽいけど、大丈夫かな……と思ってたら。

 

「まあけど、こちとら《オリオティス》から泣かされてるんだ。対策くらいしてるよ! 私のターン! 3マナで呪文《フェアリー・トラップ》!」

 

 みのりちゃんは、しっかりと自分の弱点を補うような対策を、施していた。

 

「トップを捲って、そのカードよりも小さいコストクリーチャーをマナに送るよ。このデッキはわりかし重めだから、3コストくらいなら余裕だね。そらよっと!」

 

 と言って、山札の一番上をめくり上げる。

 そしてめくられたカードは、

 

「っ、《ジョニーウォーカー》……!」

 

 コスト2の、《爆砕面 ジョニーウォーカー》だった。

 これじゃあ、コスト3の《防鎧》を倒せない。失敗、しちゃったの?

 

「そのカードで私のクリーチャーを打破できると?」

「嫌味ったらしいなぁ……! 仕方ない、マナを溜めるだけでも《防鎧》の範囲からは逃れられるし、これはマナゾーンへ。ターンエンド」

 

 

 

ターン3

 

 

結界師

場:《防鎧》

盾:5

マナ:4

手札:2

墓地:1

山札:27

 

 

実子

場:なし

盾:5

マナ:5

手札:3

墓地:2

山札:25

 

 

 

「私のターン。《音感の精霊龍 エメラルーダ》を召喚。能力起動、シールドを一枚手札に……その後、手札を一枚シールドに。終了」

「手札交換だけか。まあ、殴る私としちゃ怖いけど。私のターン……ドローしてマナチャージ」

 

 カードを引いて、みのりちゃんは自分の手札をじっと見つめている。

 きっと、ここからどうするか、考えているんだと思う。

 わたしが前にみのりちゃんと戦った時、わたしもみんなの力を借りて、みのりちゃんのデッキの戦術を封じ込めたけど、それもずっとは続かなかった。

 みのりちゃんはちょっとやそっと抑え込んでも、そこから自力で抜け出すほどの力がある。そして、みのりちゃんは今、そのための方法を探しているんだと思う。

 

(さて、6マナ溜まった。《ジ・アース》は走れるし、《ドギラゴン剣》も握れてるけど、《防鎧》が邪魔すぎる……!)

 

 とはいえ、やっぱりちょっと苦しそうだった。

 憎々しげに《防鎧》を睨みつけた後、手札のカードを一枚、引き抜く。

 

「……ちょっとでもデッキ掘ろうか。《リュウセイ・ジ・アース》を召喚。トップを捲るよ」

 

 みのりちゃんはここで、《リュウセイ・ジ・アース》を出す。

 いつものコンボの起点となるクリーチャーだけど、コスト踏み倒しを半ば封じられている今このタイミングで出すということは、たぶん、攻めるための一手じゃない。

 あのクリーチャーは山札の一番上をマナか手札にできるから、わたしと戦った時みたいにマナを増やして《防鎧》が禁止する圏内から脱するか、《防鎧》を倒せるカードを引き込むつもりなんだ。

 

「うぅん、微妙……持っててもいいけど、白緑ならたぶん除去もないだろうし、《ジ・アース》立たせとけばいいかな……《カラクリ》をマナへ」

 

 みのりちゃんは、めくったカードをマナに置いた。

 

(これで7マナ。次のターンには8マナか。見た感じ守り固そうだし、何度出撃できるかわかったもんじゃないから、攻め手が削られるのは困る。ここで《ドギラゴン剣》は消費できない……あー、《ギョギョラス》があれば、このターンから殴れたんだけどなぁ、肝心なところで裏切ってくれちゃって)

 

 なにを思ったのか、ふぅ、とみのりちゃんは嘆息する。

 マナはちゃんと増えているし、わたしには、順調そうに見えるけど……

 

「ターンエンド」

 

 

 

ターン4

 

 

結界師

場:《防鎧》《エメラルーダ》

盾:5

マナ:5

手札:1

墓地:1

山札:26

 

 

実子

場:《ジ・アース》

盾:5

マナ:7

手札:2

墓地:2

山札:23

 

 

 

 

「私のターン。6マナタップ。双極(ツインパクト)召喚(サモン)

「!」

「《龍装の調べ 初不(ういず)》を召喚」

 

 出て来たのは、龍の骨を纏った宝石の巨人(ゴーレム)

 手には錫杖のような杖を持ってて、すごい、ピカピカしてるし、キラキラしている。

 聖なる輝き、っていうのかな。とにかく、雷電みたいに、光り輝いているようだった。

 

「終了」

「動きが怪しいなぁ……でもまあ」

 

 カードを引きながら、みのりちゃんは言った。

 

「私にできることは殴ることだけ。随分と減速させられたけど、ようやく全力でぶん殴れる」

 

 遂に、攻める準備ができたと。

 

「引きはなんとも言えないけど、攻める分には悪くないし、行ってみようか。まずは7マナ、《龍装車 マグマジゴク》! クリーチャーとして召喚するよ」

 

 相手に対抗するように、みのりちゃんはツインパクトクリーチャーで応戦する。

 出て来たのは、これも龍の骨を纏った……く、車?

 車両っぽい見た目だけど、車輪じゃなくてキャタピラがついてたりして、なんとも形容しがたいクリーチャーだった。とにかく気になるのは、船首のような場所に龍の頭の骨が飾られていることだ。

 さらにその車は、あり得ないほどにキャタピラを高速駆動させて、相手のシールド目がけて突っ込む。

 かと思いきや、くるっと急に向きを変えて、今度はみのりちゃんのシールドを吹き飛ばした。

 え? なにをやってるの? 相手だけじゃなくて、自分のシールドまで壊すなんて……

 

「《マグマジゴク》の登場時、お互いのシールドを一枚ずつブレイクする!」

「S・トリガーなどはない」

「次にこっち! こっちもトリガーはないよ。さらに《リュウセイ・ジ・アース》で攻撃! する時に!」

 

 お互いのシールドをブレイクするなんて、変なクリーチャー……

 だけど、なんにしても、これでみのりちゃんの攻める準備は整ったし、今のはその景気づけ、みたいなものなのかな?

 遂に、《リュウセイ・ジ・アース》が羽ばたく。

 そして、空中で更なる大きな龍と――入れ替わる。

 

「革命チェンジ! 《蒼き団長 ドギラゴン剣》! ファイナル革命発動で、手札に戻った《ジ・アース》を出し直すよ! そして、Tブレイク!」

 

 手札に戻った《リュウセイ・ジ・アース》が再び場に現れて、入れ替わった勢いのまま、《ドギラゴン剣》がシールドを三枚、叩き斬る。

 これで相手のシールドは残り一枚。ブロッカーがいるのがちょっと気になるけど、みのりちゃんが有利かも。

 と、思ったけども。

 

「受けよう……S・トリガーだ」

「仕込んでないとこ殴ったのに!」

「S・トリガー《フラッシュ・スパーク》。効果で《マグマジゴク》と《リュウセイ・ジ・アース》をタップ。その後、相手のタップ状態のクリーチャー数だけドローする」

「っぅ、くっそぅ、風穴、ぶち抜き切れなかったか……!」

 

 出ちゃった、S・トリガー……でも、これは仕方ないのかな。

 まだ《エメラルーダ》で入れ替えた怪しいシールドが残ってるし、ひたすら前に出て攻め続けるみのりちゃんには、辛いかもしれない。

 それに、みのりちゃんの辛さは、シールドだけでもなかった。

 

「さらに、私が《スパーク》と名のつく呪文を唱えたことで、《初不》の能力も起動」

 

 《初不》が杖を掲げる。さっきの閃光を再現するかのように、眩い光を――電光を、放つ。

 その電光を受けて、みのりちゃんのクリーチャーは、動きと止めてしまった

 

「次のターン、汝のクリーチャーはアンタップしない」

 

 あ、アンタップしない……!?

 いわゆるフリーズって呼ばれる状態で、恋ちゃんなんかもよく使うけど……他のカードの効果に合わせて発動するなんて。

 これでみのりちゃんのクリーチャーは、一回休み。次のターンに攻めるのも、辛そうだ。

 

「これはきついね……ターンエンド」

 

 

 

ターン5

 

 

結界師

場:《防鎧》《エメラルーダ》《初不》

盾:1

マナ:6

手札:6

墓地:2

山札:22

 

 

実子

場:《ドギラゴン剣》《マグマジゴク》《ジ・アース》

盾:4

マナ:8

手札:2

墓地:2

山札:21

 

 

 

「私のターン。3マナで双極・詠唱、《白米男しゃく》。山札から1マナ増加。その後、マナゾーンのカードを一枚回収。さらに5マナ、《エメラルーダ》を召喚。シールドを一枚手札に加え――S・トリガー発動、《フラッシュ・スパーク》」

「なにかと思えば、そんなカードか……ならいいや」

「そうか。では、三枚ドローする。その後、手札を一枚シールドへ。終了」

「私のターン。ドロー」

 

 《初不》の能力で、みのりちゃんのドラゴンはすべて、起き上がることができず、地面を這うしかない。

 このターンは動けないから、攻めるためのターンを稼がれちゃってるけど……

 

「ん……上出来!」

 

 みのりちゃんはここで、なにかを引いたみたい。

 嬉々として、マナゾーンのカードを倒す。

 

「7マナ! 《ナ・チュラルゴ・デンジャー》召喚!」

 

 ドンッ! となにかが降ってきた。

 それは戦車だ。《マグマジゴク》とは違って、ずんぐりしているけども、ちゃんと砲塔がついている。

 

「《チュラルゴ》の能力で、コスト6以下の自然のクリーチャーを一体、マナから呼べる! 私が呼ぶのは《メガ・カラクリ・ドラゴン》!」

 

 ずんぐり戦車が地面を揺らすと、今度はマナゾーンから、機械仕掛けのドラゴンが出て来た。

 このクリーチャーは……いや、このクリーチャーも、確か……

 

「まずは《チュラルゴ》で《初不》を攻撃!」

「防御だ。《エメラルーダ》でブロック」

「そ。まあそう来ると思ってたけどね。次に《カラクリ》で攻撃する時に……侵略発動!」

 

 コスト6。

 革命軍。

 そして、コマンド。

 この三つの条件を満たした時、現れる。

 みのりちゃんの――切り札が。

 

 

 

「裏切りを重ねようか――《裏革命目 ギョギョラス》!」

 

 

 

 機械仕掛けのドラゴンの身体を乗っ取るように、その、鳥のような、恐竜のような、龍のような、禍々しいクリーチャーはバトルゾーンへと侵略し、進化し、現れた。

 だけど、それだけじゃない。

 この巨大なクリーチャーで攻撃するのだろうという思惑は、簡単に裏切られてしまう。

 悪役(ヒール)のような卑しい笑顔は、英雄的(ヒロイック)な形相へと、すり替わる。

 

「さらに革命チェンジ! 《龍の極限 ドギラゴールデン》!」

 

 《ギョギョラス》がその巨体で飛び立つと、今度は、黄金の龍と入れ替わる。

 《ドギラゴン剣》ではない、《ドギラゴールデン》。より高位の、《ドギラゴン》。

 《ドギラゴールデン》は腕の大砲から、レーザーを発射すると、もう一体の《エメラルーダ》を消し飛ばしたしまった。

 さらに消えたと思った《ギョギョラス》の大口が、その認知を裏切り、地中から《初不》を飲み込む。

 

「《ドギラゴールデン》の能力で《エメラルーダ》をマナゾーンへ! 《ギョギョラス》の能力で、《初不》もマナゾーンへ! マナゾーンからは《ファビュラ・スネイル》を出すよ!」

「制止。《ドギラゴールデン》は、汝のマナの数を超えるコストを有している。よって《防鎧》の能力起動。山札の底へと眠ってもらうぞ」

「……ま、仕方ないか。ターンエンド」

 

 

 

ターン6

 

 

結界師

場:《防鎧》

盾:1

マナ:9

手札:7

墓地:5

山札:17

 

 

実子

場:《ドギラゴン剣》《マグマジゴク》《ジ・アース》《チュラルゴ》《スネイル》

盾:4

マナ:6

手札:2

墓地:2

山札:21

 

 

 

 攻撃に転じることはできなかったけど、でも、相手のクリーチャーをほとんど倒せたし、クリーチャーも増やせた。

 これだけ数が並べば、みのりちゃんなら押し切っちゃえるんじゃないかな……?

 

「その数の暴威は脅威であるが、策はある。私のターン。6マナで《初不》を召喚」

「っ、またか……!」

「《初不》の能力で、汝のクリーチャーは次のターンにアンタップしない。さらに双極・詠唱《エッジ・スパーク》。《ファビュラ・スネイル》をタップ」

 

 二重に、雷光が迸る。

 一度目は《初不》。あの能力って、普通に出た時にも発動するんだ……これでまた、みのりちゃんのクリーチャーは動かなくなっちゃった。せっかく倒したのに……

 そして二度目の、刃のような鋭い電撃。まるで蛇のようにしつこく、獰猛に走る電光は、みのりちゃんの唯一アンタップされているクリーチャーを痺れさせ、地面に横たわらせる。

 

「《防鎧》で《ファビュラ・スネイル》を攻撃し、破壊。終了する」

「あぁもう、鬱陶しい……! でも、こっちだって止まらないから!」

 

 何度も何度もクリーチャーを寝かされ続けて、攻撃ができない。

 そのことに、みのりちゃんは焦燥を募らせている。イライラしているようだった。

 

「6マナで《カラクリ》召喚! 《防鎧》を攻撃する時に侵略! 《ギョギョラス》! 能力で《初不》をマナに送って、《ジョニーウォーカー》をバトルゾーンに! 打点が欲しいから能力は使わない! バトルで《防鎧》も破壊! ターンエンド!」

 

 

 

ターン7

 

 

結界師

場:なし

盾:1

マナ:11

手札:5

墓地:7

山札:16

 

 

実子

場:《ドギラゴン剣》《マグマジゴク》《ジ・アース》《チュラルゴ》《ギョギョラス》《ジョニーウォーカー》

盾:4

マナ:6

手札:0

墓地:3

山札:20

 

 

 

 

 やっと《防鎧》を倒した……それに、相手にはクリーチャーもいない。

 これは、みのりちゃん、チャンスなんじゃないかな?

 

「8マナタップ。《裂竜の鉄槌(トールハンマー) ヨルムンガルド》を召喚。登場時、互いにクリーチャーを二体、マナに送還する。私は《ヨルムンガルド》のみだ」

「なら私は、《ジョニーウォーカー》と《リュウセイ・ジ・アース》をマナに置くよ。二体削ったくらいじゃ、どうにもならないんじゃない?」

「さてな。では、《エメラルーダ》を召喚し、シールドを一枚回収。S・トリガー《エッジ・スパーク》だ。《ドギラゴン剣》をフリーズ。終了する」

 

 《初不》が来なかった……!

 ということは、

 

「やーっと起き上がれる! 《ドギラゴン剣》以外をアンタップ!」

 

 何ターン振りだろうか。みのりちゃんのクリーチャーが、やっと攻撃の構えを取る。

 今まで、数は十分だったのにアンタップさせてもらえなかったけど、これでとどめを刺すだけに必要な頭数は揃った。

 

「とはいえ、トリガー仕込んでるだろうしなぁ。できれば追加打点が欲しいね。なんかいいの、引けっ!」

 

 と言ってカードを引くみのりちゃん。

 引いたカードを見て、一瞬、微妙そうな顔をしたけれど、自分のマナゾーンを見て、少し口角が上がった。

 

「……まあ悪くないかな。呪文《フェアリー・トラップ》! トップを捲るよ!」

 

 あれって、最初の方に使ってた、相手のクリーチャーをマナに送れるかもしれない呪文。

 あの呪文で、ブロッカーを退かすつもりなのかな。

 

「捲れたのは、《ジャスミン》……こっちは弱いなぁ。まあ、じゃあこれをマナに置いて、《ナ・チュラルゴ・デンジャー》の能力発動! 私が《トラップ》と名のつく呪文を唱えたから、マナゾーンからコスト6以下の自然のクリーチャーを出すよ。出すのは《リュウセイ・ジ・アース》!」

 

 あ、そんなことができるんだ。

 結界師さんが《スパーク》と名のつく呪文によってみのりちゃんの動きを封じたように、みのりちゃんは《トラップ》と名のつく呪文によって、マナのクリーチャーを呼び出せるんだ。

 

「《ジ・アース》の能力でトップを捲って……意味ないかもだけど、これは一応、持っとこうか。じゃあ、攻撃だ! 《ギョギョラス》で最後のシールドをブレイク!」

「通過。S・トリガー発動《フラッシュ・スパーク》」

「そっちかぁ……《エッジ・スパーク》ならよかったけど、そう上手い話はないか」

「《ナ・チュラルゴ・デンジャー》と《マグマジゴク》をタップ。そして四枚ドローする」

「でも、ブロッカーは潰させてもらうよ。《ジ・アース》でも攻撃!」

「《エメラルーダ》でブロック」

「ターンエンド!」

 

 

 

ターン8

 

 

結界師

場:なし

盾:0

マナ:13

手札:6

墓地:10

山札:11

 

 

実子

場:《ドギラゴン剣》《マグマジゴク》《チュラルゴ》《ギョギョラス》《ジ・アース》

盾:4

マナ:8

手札:1

墓地:4

山札:17

 

 

 

 かなり、追い詰めた。

 クリーチャーも、シールドもゼロ。

 対するみのりちゃんには、クリーチャーが五体もいる。

 これはもう、今回こそ、このまま押し切っちゃえるんじゃないかな?

 

「正に怒涛、か。苛烈で、獰猛で、暴虐なる、嵐の如き少女だ」

 

 と、その時。

 ぽつりと、結界師さんは呟いた。

 

「だが、私の聖なる結界は、その嵐さえも堰き止めよう」

 

 そして、

 

「8マナで――召喚」

 

 結界師の名の如く。

 その役割を遂行し、体現する。

 

 

 

「我は光輝の壁を築く裁きの使徒なり。故に煌々と(そび)え立て、聖なる白壁よ――《煌メク聖壁 灰瞳(ハイド)》」

 

 

 

 それは、宝石のように、キラキラと煌めくゴーレム。

 結界師と名乗るクリーチャーそのものが、遂に、バトルゾーンへと降り立った。

 そして結界師さんは、右手を突き出す。

 すると、山札からカードが舞い上がり、巨大な壁となって、その正面にそびえ立つ。

 

『私の能力により、山札からシールドを五枚、再展開する』

 

 !?

 し、シールドを五枚、再展開する能力!?

 シールドを入れ替えたり、増やしたりする能力なら何度も見てるけど、一気に五枚なんて見たことない。

 みのりちゃんが必死で割り切ったシールドが、すべて修復されてしまう。

 だけど、みのりちゃんはどこか、怪訝そうな表情をしていた。

 

「……デッキなくなっちゃうよ?」

『不要な心配だ。さらに6マナ、《初不》を召喚。汝のクリーチャーを拘束する』

「っ……!」

「終了だ」

 

 で、出て来ちゃったよ、《初不》……

 これでまた、みのりちゃんのクリーチャーは起き上がれなくなってしまった。

 

「手札が切れて来たこのタイミングで《初不》はきつい……! 一応、《メガ・マグマ・ドラゴン》だけ召喚して、ターン終了……!」

 

 

 

ターン9

 

 

結界師

場:《灰瞳》《初不》

盾:5

マナ:14

手札:4

墓地:10

山札:5

 

 

実子

場:《ドギラゴン剣》《マグマジゴク》《チュラルゴ》《ギョギョラス》《ジ・アース》《メガ・マグマ》

盾:4

マナ:8

手札:1

墓地:4

山札:16

 

 

 

 ここに来て、明らかにみのりちゃんの攻勢が陰りを見せた。今までは、いくら攻撃を止められても、攻めの姿勢そのものは崩さなかったし、相手の守りを突き崩すような手を打ってきたけど、それもここで打ち止め。

 それもそのはず、みのりちゃんにはほとんど手札がなくて、攻めるための手段がないのだから。雷光に縛られ続けて、もう疲弊しきっている。

 バトルゾーンに出ているクリーチャーはみんな、《初不》の能力で止められてしまう。手札から出して即座に攻撃しないとその束縛からは逃れられないけれど、そのための手札が圧倒的に足りない。

 そしてなにより、それらを掻い潜ってもなお、相手には五枚のシールドが立ち塞がっている。

 この二重三重に張られた防御網を突破して、壁を貫き、とどめを刺すのは、とても難しいように思えた。

 みのりちゃん……

 

『私の墓地に《スパーク》と名のつく呪文は五枚。よってマナコストを5軽減し《光サス奇跡ノ裁徒》を召喚』

「またなんか出たし……」

『《光サス奇跡ノ裁徒》の能力で、墓地の呪文を三枚回収。《エッジ・スパーク》二枚と《白米男しゃく》を手札に』

 

 あぁ、相手も呪文を……

 《初不》の拘束もタダじゃないけど、《スパーク》呪文が手札にある限り、何度でも抑え込まれてしまうから、これでそのための弾が二発分も装填されてしまった。

 あと最低でも2ターン、みのりちゃんのクリーチャーは動けない。

 そしてその間に、相手にどれだけ蹂躙されてしまうのか。

 

『8マナで《黒豆だんしゃく》を召喚。汝のクリーチャーには、登場時の能力を行使すれば罰が下る。場に留まれるとは思わないことだ』

「マジか……」

『続けて2マナで《エッジ・スパーク》。《メガ・マグマ・ドラゴン》をフリーズし、《スパーク》と名のつく呪文を唱えたことで、《初不》の能力も起動。汝のクリーチャーは、アンタップしない』

 

 《初不》の雷光が、みのりちゃんのクリーチャーを縛り付ける。

 

「終了だ」

「私のターン……呪文《フェアリー・トラップ》! トップを捲るよ!」

 

 みのりちゃんにはもう、手札がほとんどない。

 だから、山札から引いたカードをそのまま使うしかないけど……ここで使うのは、《フェアリー・トラップ》。

 不確定な除去。今まで二回も失敗してるけど、今回はどうかな……?

 

「《ファビュラ・スネイル》……でも、このカードはツインパクトカード。呪文面の《ゴルチョップ・トラップ》を参照するよ。よって、コスト9以下の《黒豆だんしゃく》をマナゾーンに! さらに《チュラルゴ》の能力で、マナから《ジャスミン》を場に……ターンエンド」

 

 よかった、今回は成功した……なんとか《黒豆だんしゃく》は退かせたから、クリーチャーの登場時能力は使えるようになったね。

 

 

 

ターン10

 

 

結界師

場:《灰瞳》《初不》《光サス奇跡ノ裁徒》

盾:5

マナ:16

手札:5

墓地:7

山札:4

 

 

実子

場:《ドギラゴン剣》《マグマジゴク》《チュラルゴ》《ギョギョラス》《ジ・アース》《メガ・マグマ》《ジャスミン》

盾:4

マナ:7

手札:1

墓地:5

山札:15

 

 

 

「……いや、これまずったのかなぁ」

 

 よかった、とわたしは思ったけど。

 みのりちゃんは即座にそれを否定しかける。

 

「普通に《初不》退かせばよかったかも……トリガーに全賭けして」

 

 ……あ、そっか。

 《初不》の能力でみのりちゃんのクリーチャーは動けなくなっちゃうわけだから、トリガーで耐えることを期待して、次のターンで反撃するって手もあったんだ。

 

『私のターン……さて、私の余命も短い。そして、汝を断ずるに必要な駒は揃っている』

「だよねぇ。どっちみち打点が足りてるなら、そうすべきだったか」

『汝の判断に、私は意見しない。私はただ、この聖壁を守護するのみ。双極・詠唱《エッジ・スパーク》。汝の《ジャスミン》をフリーズし、《初不》によって汝のクリーチャーすべてを拘束する』

 

 バチバチバチ! と、何度目になるのかわからない、もう何度も見た雷光が、みのりちゃんのクリーチャーに迸る。

 

『6マナ、もう一体《光サス奇跡ノ裁徒》を召喚し、《エッジ・スパーク》を回収。3マナで《防鎧》を、2マナでマナより《ナゾまる》を召喚し……攻撃開始』

 

 今までずっと防御に回っていた、結界師さん。

 それが今、遂に――攻勢に転ずる。

 

『《初不》で攻撃。汝のシールドをWブレイク!』

「っ!」

 

 みのりちゃんのクリーチャーを束縛し続けてきた《初不》が、今度はみのりちゃん本人に、電光を放つ。

 

「来た、S・トリガー!」

『む』

「……《地獄スクラッパー》だよ。一応《防鎧》と《ナゾまる》は破壊……で、おまけね」

 

 《マグマジゴク》が走り、結界師さんのクリーチャーを跳ね飛ばす。けど、攻撃可能なクリーチャーは倒せていない。

 どころか、

 

「《マグマジゴク》の能力起動。私が《スクラッパー》と名のつく呪文を唱えたから、お互いのシールドを一枚ずつブレイクする」

 

 そのまま、相手諸共、自分のシールドまでブレイクしてしまった。

 ……あんまり意味のないトリガーだったね。

 

『ふむ……使う必要はない』

「こっちもトリガーなし……」

『少々肝が冷えたが、攻撃手は削がれなかったのは僥倖であるか。残るは《灰瞳》と《光サス奇跡ノ裁徒》。《フェアリー・トラップ》で停止は避けたい。彼女の山の頂には、《ファビュラ・スネイル》が構えていたはず。ならば、《灰瞳》で最後のシールドをブレイクする』

 

 《光サス奇跡ノ裁徒》はコスト10。

 《フェアリー・トラップ》で除去されないように、結界師さんは、自分自身から攻撃する。

 これでみのりちゃんのシールドはゼロ。そのまま、《光サス奇跡ノ裁徒》によるダイレクトアタックが来てしまう。

 

「……や、負けられないっしょ」

 

 ぽつりと、みのりちゃんは呟くように言った。

 

「師匠とかキャラじゃないけどさ。私を手本にしてくれたってのに、そのデッキでボロクソに負けて、格好悪いとこ晒すのは――死んでもゴメンだ!」

 

 《光サス奇跡ノ裁徒》が、身体をうねらせて迫る。

 その、刹那。

 

「S・トリガー、《ナチュラル・トラップ》! 《光サス奇跡ノ裁徒》をマナゾーンへ!」

 

 寸でのところで、その攻撃は届かなかった。

 《ナ・チュラルゴ・デンジャー》の砲撃が《光サス奇跡ノ裁徒》をマナゾーンまで吹き飛ばして、最後の一撃からだけは、辛うじて逃れられた。

 よ、よかったぁ……

 

「さらに、《トラップ》呪文を使ったから、マナから《ジャスミン》を出しとくよ。破壊はしない」

『停止したか……やむを得ず。終了』

 

 なんとかギリギリ耐えられたみのりちゃんだけど、状況は芳しくない。

 クリーチャーはみんな起き上がらないし、シールドはゼロ。相手にブロッカーはいないも同然だけど、シールドは五枚もある。

 トリガーが出る危険もあるし、今から五枚のシールドを全部割り切ってとどめを刺すのは、やっぱり難しい。その事実は変わらない。

 

「私のターン……さて、反撃のチャンスは得た。問題は……」

 

 カードを引いて、みのりちゃんはスゥッと目を細める。

 そして、深く思案するように、手札と、場を見回した。

 

「……《超次元フェアリー・ホール》。1マナ加速するよ」

 

 スッと、マナにカードが一枚置かれる。

 みのりちゃんはそのカードに目を落とした。

 

「《ジ・アース》……次に《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに」

 

 ここで出るのは、スピードアタッカーの《勝利のガイアール・カイザー》。

 これだけでは、相手のクリーチャーを倒せるわけでもないし、シールドも一枚しかブレイクできない。

 まだ、反撃には手が足りていないように見えるけど……みのりちゃんにはまだ、考えがあるようだ。

 その証拠に、みのりちゃんはまだ思案を止めていない。ずっと、考え続けている。

 みのりちゃんは行動派ではあるけど、やっぱり、デュエマになると考える。思考を巡らせる。

 

(これで打点はギリギリだけど、どうしようか。《フラッシュ・スパーク》はどうでもいいとして、私の記憶違いじゃなければ、残ってるトリガーは他の二種が一枚ずつってとこだろうけど……山札、だいぶ掘り進まれてるしなぁ)

 

 じぃっと、考えている。

 らしくもなく、だけどみのりちゃんらしく。

 思案する。

 

(水早君なら自分の引きも考慮して、確率計算とかすんのかなぁ。私はそんなのできないし、数字なんて出しても結果が変わるわけじゃないし……だったら、こういう時は……)

 

 ふぅ、と諦めたように。

 あるいは、吹っ切ったように。

 決断したかのように。

 誰かを、思い出したかのように。

 みのりちゃんは、顔を上げる。

 

 

 

「……やりたいことをやるか」

 

 

 

 そして、場のカードに、手を掛けた。

 

「好きなもののため、自分が追いたいもののため、己が衝動に従うため。ちょーっと強引でも、好き勝手やってやろうじゃない! あの子みたいにさ! ってことで、《勝利のガイアール》で――《光サス奇跡ノ裁徒》を攻撃!」

『なに?』

 

 《勝利のガイアール・カイザー》はアンタップしているクリーチャーを攻撃できる。だけど、パワーでは《光サス奇跡ノ裁徒》に遠く及ばない。パワーの差は二倍以上。歴然としている。

 だから、その圧倒的な差を覆すことをするのだ。

 

「当然、無意味な自爆特攻なんてしない。革命チェンジ、《蒼き団長 ドギラゴン剣》! マナから《リュウセイ・ジ・アース》を出して、能力でトップを捲る!」

 

 相手のパワーを超えるために、相手を倒すために、《勝利のガイアール・カイザー》は、《ドギラゴン剣》と入れ替える。

 そして《ドギラゴン剣》の号令によって、ついさっきマナに落ちたばかりの《リュウセイ・ジ・アース》が、バトルゾーンへと召集された。

 その能力で、山札をめくる。

 それはきっと、みのりちゃんにとっては大きな一枚。

 その一枚で、すべての運命が変わりかねない、かけがえのない一手。

 信じるしかない。必要なものが手中に収められることを願うしかない。

 きっとみのりちゃんは、そう念じながらめくっている――そして、

 

 

 

「……あー、よかった。最後だけでも、裏切らずに着いて来てくれて」

 

 

 

 軽い調子で、信頼を勝ち得た。

 

「んじゃ、《ドギラゴン剣》と《光サス奇跡ノ裁徒》でバトル! こっちのパワーは13000!」

『こちらは10500……敗北だな』

「続けて《リュウセイ・ジ・アース》攻撃――する時に」

 

 そしてその勝ち得た信頼を力に変えて、突撃する。

 

「侵略発動!」

 

 突貫して、その身を――乗っ取る。

 それは即ち、仲間への背信であり、裏切り。

 反転した革命が、鳳の象徴を示す――

 

 

 

「期待は裏切れないもんね――《裏革命目 ギョギョラス》!」

 

 

 

 また、出て来た。

 みのりちゃんの切り札、《ギョギョラス》。

 不気味で不快感を催す、けたたましい鳴き声を響かせて、そのクリーチャーは大地を揺らしながら、バトルゾーンへと降り立った。

 

『! ここで《ギョギョラス》か……!』

「《ギョギョラス》の能力で、《初不》をマナに飛ばすよ! マナから《ジョニーウォーカー》をバトルゾーンに!」

『くっ! 一瞬で我が布陣が崩されるとは……!』

 

 侵略で現れた《ギョギョラス》は、《初不》を喰らい、飲み込んでしまう。

 そしてそれを養分に卵を産み、マナから《ジョニーウォーカー》を誕生させた。

 

「なーんか、赤緑ってカラーと、侵略や革命チェンジの性質、それからたぶん、私の性格からして勘違いしてる人いると思うんだけど……《ギョギョラス》って、殴り返して盤面取り返す方が得意なんだよねぇ。殴るだけならほら、ドルガンバスターウララーで最速フィニッシュの方がいいわけだし。あれ? もうできないんだっけ? どうでもいいけど!」

 

 《ドギラゴン剣》が、《光サス奇跡ノ裁徒》を両断した。

 その《ドギラゴン剣》が呼んだ《リュウセイ・ジ・アース》が《ギョギョラス》に侵略して、《初不》を飲み込み、マナへと還した。

 そして最後。その《ギョギョラス》は、巨大な足を、結界師さん――《灰瞳》へと振りかざす。

 

「喰い潰せ《ギョギョラス》。《灰瞳》を――破壊!」

 

グシャリ

 

 容赦なく、《ギョギョラス》巨体が宝石の魔人を押し潰し、踏み潰し、粉々に粉砕して、破壊した。

 言葉通り、みのりちゃんは相手のクリーチャーを完全に殲滅してしまったのだ。

 

「さて、まだ攻撃はできるけど、ここは殴らない。最後の《初不》を引かれたくないしね。ターンエンド」

 

 

 

ターン11

 

 

結界師

場:なし

盾:4

マナ:18

手札:4

墓地:11

山札:3

 

 

実子14

場:《ドギラゴン剣》×2《ギョギョラス》×2《ジャスミン》×2《マグマジゴク》《チュラルゴ》《ジ・アース》《メガ・マグマ》《ジョニーウォーカー》

盾:0

マナ:6

手札:1

墓地:8

山札:12

 

 

 

「く……《エメラルーダ》を召喚し、手札とシールドを入れ替える。さらに2マナで《ナゾまる》を召喚し、終了だ」

「私のターンだね。さてさて? ようやくだ。ようやく――本当の本気で、ぶん殴れる」

 

 みのりちゃんは、口元で笑って、だけれど、目では笑っていなかった。

 

「随分と舐めてくれたもんだよ。ずっとずっと、地べたに這いつくばらさせられて、プライドはボロボロ、憤怒の炎で身を焦がれ、正気を失うほどの衝動に苛まれて……もう、抑えらんないや」

 

 幾度となく雷光を受け、縛り付けられたクリーチャーたち。

 バトルゾーンにいても、寝かされ続け、攻撃できずに辛酸を舐めさせられた彼らの怒りは、頂点に達していた。

 たった一度、牙を突き立てるだけでは物足りない。何度だって噛み砕かなければ気が済まない。

 それほどの憤怒と獰猛さが今、解き放たれようとしている。

 そして、その解放を合図するのは――みのりちゃんだ。

 みのりちゃんが一言、告げる。

 

 

 

「反撃だ――起きろ」

 

 

 

 絶叫。怒号。咆哮。

 龍も、龍でないものも、すべてのクリーチャーが怒りに狂って叫び散らし、一斉に起き上がった。

 みのりちゃんの号令の下、彼らは凄烈なる形相で眼光をギラギラと光らせる。

 

「その前に、ちょいと掃除しないとね。ぶっちゃけ、もう手数はないと思ってたから、まだクリーチャーを並べる余裕があるなんて思わなかったよ。これは、トリガー警戒で殴らなかったのは裏目かも……なんて」

 

 みのりちゃんは一度、怒りのあまり我を忘れかけている彼らを制して、手札を切る。

 彼らが安全に、そして全力で攻撃できる場を作るために。

 

「呪文《ナチュラル・トラップ》! 《エメラルーダ》をマナに送って、《チュラルゴ》の能力起動! マナから《ジョニーウォーカー》を引っ張り出して爆散! 《ナゾまる》を焼かせてもらうよ!」

「くっ……! なにも残らないとは……!」

「これで邪魔者は消えたね。それじゃあ皆――蹂躙の時間だよ!」

 

 今まで溜め込んでいたものを吐き出すように。抑えつけられた衝動を解き放つように、彼らは長大な牙を剥く。

 怒涛の勢いで迫る、みのりちゃんの大量で、巨大なクリーチャーたち。

 シールドを五枚再展開したと言っても、一撃でその半分は食い破るようなクリーチャーばかりだ。それらすべてが一斉に動き出せば、五枚なんかではまったく足りない。

 結界師さんの築いた壁は、一瞬で突き崩され、崩落してしまった。

 

「くっ、S・トリガー、《ホーリー・スパーク》……!」

「で? それ喰らったらターンエンドするしかないけど、この盤面、返せる? もうその呪文も種切れでしょ? それになにより、あなたには――」

 

 結界師さんは最後の最後で、みのりちゃんの攻撃を止められそうなS・トリガーを発動する。

 けれどみのりちゃんは、それを許さない。封殺しているわけでもないけれど、それは自然の摂理と言わんばかりに、指し示す――

 

「――もうデッキが残っていない」

 

 ――相手の、山札を。

 

「あなたの山は残り二枚。このターンを凌いだって、残されてるのはたった1ターン。その1ターンで私にとどめ刺せる? スピードアタッカーどころか、進化クリーチャーもいなさそうなそのデッキで?」

「…………」

「勿論、山札回復の手段があるなら話は別だけど、白緑でデッキ回復手段ってほとんどなかったはずだし、ほとんどカードが見えてるそのデッキに、そんな感じのカードは全然見えてないし、その可能性は薄いと思うけどね。まあ、あるならご自由に。私の攻撃を止めて、返してみなよ」

 

 捲し立てるように、煽るように言い放つみのりちゃん。

 だけど、言葉だけで、相手の抵抗の手を下げさせた。

 

「……そうだな。運命を覆せぬ足掻きは、浅ましく、醜いだけ。私はどうやら、ここまでのようだ」

 

 結界師さんは、発動しようとしたS・トリガーを取り下げた。

 それは、つまり。

 

「完敗だ。敗北を認めよう」

「そう。んじゃ、遠慮なく」

 

 みのりちゃんの、勝ちだ。

 

 

 

「《裏革命目 ギョギョラス》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――うん。結界は完璧に消えている。これで、森の奥へと入れるよ」

 

 クリーチャーがマナとなって消えて、それを食べ終えてから、鳥さんは言った。

 これでようやく、ユーちゃんたちを助けに行けるんだね……!

 

「ユーちゃんたち、大丈夫かな……?」

「一応、電話してるけど……出ないなぁ。念のために一報は入れておくけど、もうあっちでなんかあったかもしんないね」

「そんな……」

 

 それじゃあ、急がないと……っ!

 

「あぅっ」

「あぁもう、小鈴ちゃんはこういう時に向う見ずになりがちだなぁ」

 

 前に踏み出そうとしたところで、自分の足のことを思い出す。

 

「小鈴ちゃんはここにいた方がいいんじゃない?」

「でも、わたしも……その……」

「一緒に行きたいって? まったく、ユーリアさんも小鈴ちゃんも、ワガママだねぇ」

「ご、ごめん……」

「別にいいけどね。ただ、リミット的にはアレだし……おい鳥肉」

「なんだい野蛮人」

 

 あ、鳥さんの言葉にも棘が混じってる。

 だけどみのりちゃんは、特に気にする風でもなく、あるいはあえて無視して、続けた。

 

「先に言ってよ。あっちには日向さんもいるし、最悪、対戦の場さえ作れたら対応できるはずだから」

「さっきも言ったけど、僕としては正式に契約している小鈴の方が信用に値するんだけどな……特に白髪の彼女、なんだか妙な臭いがするし……」

「うっさい! 怪我してる女の子を戦わせるとか馬鹿じゃないの? いいからとっとと行く! 日向さんみたいに焼き鳥にするよ!」

「わ、わかったよ。僕としても小鈴の身体は大事だ。今は、君の提案に乗ろう」

「わかったらさっさと行く!」

「まったく、焦土軍や豊穣の獣人レベルで荒々しいな、君は……」

 

 少し不満げだったけど、鳥さんはみのりちゃんの言う通り、羽ばたいて森の奥へと飛んで、消えてしまった。

 

「これでよかったのかな……」

「ま、小鈴ちゃんを置いて行ったからって、早く着けるわけでもないし。それに、動けない小鈴ちゃん一人を置いて行くのも危険だしね」

「そっか、まだクリーチャーが残ってるかもしれないもんね……」

「いや、暴漢とか出るかもしれないし……」

「そっち?」

 

 急に現実的な理由になったね。

 なんて言ってる場合じゃなかった。

 

「早く、ユーちゃんたちのところに行かないと……!」

「だね。とはいえ、小鈴ちゃんも無理しちゃダメだよ。足のこともあるし、ゆっくりね」

「う、うん……」

 

 わたしはみのりちゃんに支えられながら、ユーちゃんたちが入っていった森の奥へと足を踏み入れました。

 恋ちゃん、霜ちゃん、そしてユーちゃん。みんな、無事でいて……!




 ドイツ人ってのはやたらと散歩に行きたがるし、しかも散歩の基準値が日本人とまるで違うって話。何時間と野山を歩きまわるとかザラだという。
 今回は前後編、次が後編ですね。というわけで、誤字脱字感想等ありましたら、お気軽にどうぞ。
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