ユーちゃんの提案で、みんなでお散歩(という名のハイキング)をしていたわたしたちですが、ユーちゃんたちが入っていった森の中で、クリーチャーが現れてしまいました。しかも、森の外に結界を張って、森を隔離するクリーチャーも一緒に。
わたしとみのりちゃんは、わたしが足を挫いちゃったから森の外にいて、閉じ込められることはなかったけど……
番外、前後編の後編です。
投稿時期的には、ローザと喧嘩する少し前くらいだったはず。ちょうどその辺で、あんまり掘り下げられていないユーちゃんを掘り下げよう、みたいに思ったんですよね。
こっちだとそのへんの順番がかなり前後していますが、まあどうせ番外編なので、肩の力を抜いてお楽しみください。
「ふぅ……」
「小鈴ちゃん、大丈夫?」
「う、うん。まだ大丈夫だよ」
「あんま無理しちゃダメだよー。足、悪化するし」
緊急事態だし、休んでもいられないから、ユーちゃんたちの後を追うわたしたち。だけど、その歩みはとても遅い。
隣でみのりちゃんが肩を貸してくれているけれど、身長差が10cm以上あるし、やっぱり歩きづらい。
運動が苦手だから、外に出ることも少なくて、ケガをしたこともあんまりないけど……足を引きずりながら山道を歩くのって、すごく大変なんだね……わかってはいたけど、こうして実感してみると、その辛さが身に染みてわかる。
「だけど、早く行かなきゃ……!」
「いやいや。手遅れとは言わないし、助けに行くことは否定もしないけど、こんなスピードでのろのろ行っても仕方ないでしょ。無理して小鈴ちゃんの怪我が悪くなる方がまずいって」
「で、でも……」
「あの鳥肉に先行させてるし、あっちには日向さんや水早君もいるし、無抵抗のままやられる、なんてことはないんじゃない? 結界消えても相変わらず連絡は取れないし、こっちはこっちのペースで進むしかないでしょ」
「……そう、だね」
今はそうするしかない。
わかってはいるんだけど、どうしても、気が急いてしまう。
「……みのりちゃんは、意外と冷静だよね」
「ん? 心配してないように見えるって?」
「そ、そうじゃなくて……落ち着いてて、ちゃんと周りが見えてるなって」
わたしなんて、みんなが心配すぎて、自分のことすらちゃんと見えてないのに……
「んー……まあ、あれだよ。お化け屋敷で、隣に滅茶苦茶怖がってる人がいたら、かえって自分は冷静になる、みたいな。小鈴ちゃん、見るからに焦ってるんだもん。私も別に心配してないわけじゃないけど、小鈴ちゃんがそんなんだと、なんか逆に私は落ち着いちゃうかも」
「そっか……ごめんね」
「気にしない気にしない。身近なことになると切羽詰まる小鈴ちゃんは嫌いじゃないよ。それに、あんまりゆっくりしてられないのも事実だしね」
「う、うん……」
慌てず、だけど速く。
そんな、気持ちと身体の差異に躓きそうになるけど、今はみのりちゃんが支えてくれている。
わたしは一度深呼吸して、気持ちを落ち着ける……落ち着いた、のかな?
まだ気が急いているような気がするけど、心持ちはほんの少し、変わったかもしれない。
平静を意識しつつ、足は痛みを感じさせないように動かす。一歩、また一歩と着実に進んでいく。
この長い道の先、深い森の奥にいる、みんなを思いながら。
一刻も早く、先へと進んでいく。
「待ってて、みんな……!」
☆ ☆ ☆
「一体どこまで進むんだ……?」
「死ぬ……死にそう……死んだ……」
「耐えろ恋。ユーから離れたら終わりだよ」
「だから、私も……あそこに、残る、って……言ったのに……」
小鈴たちと別れてから、どのくらい経っただろうか。十分か、二十分か、それ以上か。
森だか山だか知らないけど、この獣道を歩き続けるのは、かなり辛い。
だけど先行している彼女――ユーは、ひらひらと長い銀髪を揺らしながら、ぴょこぴょこと動き回っている。
あの小さな矮躯のどこにそんな体力があるんだと問いたくなるほどに、彼女は元気だった。道には添ってるけど、あっちに行ったりこっちに行ったり、あらゆるものに目移りしては飛び跳ねている。目を離したら、瞬く間にどこかへ消えてしまいそうなほど、危うく、予測不能な動きだ。
「もう、無理……そう……おんぶ……」
「それはできない相談だね。こう見えてボクもかなりギリギリなんだ。君を背負って戻る体力なんてないよ」
「マジ……クソ……」
とかなんとか言いつつも、なんだかんだで着いてくる恋のバイタルやメンタルも、捨てたものじゃないと思うけど。
病弱だとかなんとかって聞いていたけど、意外と底力はあるんだよな、恋って。
だからと言って無理をさせ続けるのもよくないけれど。
ボクとしても、この終わりが見えない行軍(ユー曰く散歩)を続けるのは厳しい。せめてどこかで区切りを見つけたい。
とりあえずユーがどこに向かっておくのかだけでも、聞いておくか。
「ユー。もう随分と歩いたけど、どこまで行くんだ?」
「もっとです! もっともっと先です!」
「先って……せめて、目的地くらい教えてくれ」
「ユーちゃんもわかんないです」
「はぁ!?」
いや、散歩なんてものは、往々にして目的地を設定しないものだけど。
それでも「このくらいまで歩いたら帰ろう」とか、なんかそういう区切れ目くらいは考えるものじゃないのか?
「ユー。もう一つ聞くけど、ならボクらはどこに向かってるんだ?」
「わかんないです」
「わからないって、決めてないんじゃなくて?」
「ですです。わかんないです。この道がどこに通じているのか、どこに行けるのか、ここがどこなのかも」
「ちょっと待ってよ……」
それって遭難って言うんじゃないのか?
てっきり、ユーはこの場所のことを多少は知ってると思ってたんだけど……まったく知らずに歩いてたのか……
ずっと一本道を歩いてきたし、来た道をそのまま辿れば帰れるとは思うけどさ……
「ねぇ、ユー。いつになったら引き返すんだ?」
「いつ……いつでしょう?」
「疑問形で返さないでくれ……」
「ユーちゃんはもっと、ずっと先に行きたいです!」
「君が満足するまでってこと? それはまた、とんでもない苦行になりそうだな……」
ユーの体力は底知れないし、この道の果ても見えない。ユーが満足するまでという曖昧な設定。まるで無間地獄だ。
小鈴め、無責任にユーの好きにすればいい、だなんて言ってくれたな。
それを受諾したのはボクらも同じだから、非難できないけど。
ただ歩き続けるだけというのは、肉体的にも精神的にもキツイ。無駄口を叩いて、頭を回して、体力を消費するのは嫌だけど……無心になって精神をすり減らすのも辛い。
だからボクは、少しばかりユーに問いかけてみた。
この行軍、もとい散歩の意味を。
「聞きたいんだけど、君はどうして散歩に行くなんて言い出したんだ?」
「なんでって、ユーちゃんは皆さんとおさんぽに行きたかったんです!」
「……これは実子より厄介だな」
あいつはわかってて本意を隠そうとするけど、ユーは単純に、こちらの質問の意図を汲み取れてないように思える。
額面通り受け取られるというのも困ったものだが、これはボクが悪いか。
「ごめん、聞き方を変えるよ。君の散歩の目的はなんだ?」
「? よくわかんないです」
「わかんないって……そんな意味もなく、こんなとこまで来たっていうのか?」
「意味なくなんてないです! ユーちゃんはとっても楽しいですよ!」
「楽しいと言われても……」
ボクは死ぬほど辛いんだけど。
いや、ユーにとっては楽しいんだろうけどさ……
「……見えるのは木と草と土ばかり、上を見上げても空がギリギリ見えるくらい。なにが楽しいんだ?」
「楽しいですよー。
「色んなもの、か。確かに町中では見られないようなものは多いけどさ」
だからなんだ、と思ってしまうけど。
しかし、ボクが「だからなんだ」と思うようなものでも、ユーにとっては違う見方をしているようで、
「ほら、あの
「お、おぅ」
「この花も、ちっちゃいですけど、色がキレイで
「そう、だね」
「鳥のさえずりも聞こえます。どんな鳥なんでしょう! 想像するだけでわくわくします!」
「そ、そうか」
「それに、ここは
「……あ、あぁ」
ユーはひとつひとつを指さして、両手を広げて、興奮したように声を弾ませる
騒がしい。けれど、とても楽しそうだ。
なんでもないことに興味を抱き、惹きつけられ、かと思えばすぐに目移りする。
まるで子供だな。
ユーははしゃいでいるけれど、やはりボクには、彼女の楽しさは微塵も理解できない。
その感受性が、まるで想像できない。
なんでもないものに興味を抱き、面白いと思えるような、彼女の感性が、まるでわからない。
(……いや、そうじゃないな)
わからない、わけじゃない。頭では理解できる。
ただ、ボクがその感覚を持っていないだけだ。
あるいは、そんな感受性を、失ってしまったのだ。
幼少期の自分のことなんて、リンちゃんのこと以外はほとんど覚えてないけど……今よりも、もっと身近なものに対して、好奇心旺盛だったような気がする。
いつも見慣れているようなものでも、その中にある小さな違いを見出して、発見して、喜ぶ。
今のユーは、正にそれだ。
それを子供だと、幼いままだと切って捨てるのは簡単だけど。
そう表現するのは、きっとよくない。
この場合、彼女の多感で、繊細で、豊かな感性を表現するなら……こうか。
「君はまるで詩人だな」
「シジン?」
コクン、と首を傾げる。
詩人という単語を知らないのか? たまに思うけど、彼女の日本語のボキャブラリーはどうなっているんだろう? 実子がたまに変な言葉を吹き込んでるけど。
「詩人っていうのは、詩を詠む人のことだよ」
「シ……? どんな人ですか?」
「一音で表現する言葉が伝わりづらいのは、日本語の欠点の一つでもあるな……えーっと、なんて言ったらいいかな」
具体的な人名を上げればいいのか? けど、ユーにも伝わる詩人って、誰がいる?
ドイツの詩人なら伝わるだろうか。けど、ドイツの詩人ってどんな人がいたっけ……カフカは小説家だし。でも、小説家でも詩を書く人もいるわけで、そんな作家といったら……
「そうだな……ゲーテ、とかか?」
「Oh! ゲーテ!」
「あぁ、やっぱりそっちでも有名なんだね。ボクは一つ二つ作品を知ってる程度で、そんなに詳しくはないけど」
「Ja! 小さい頃は、よくVatiがゲーテの
「よくわからないけど、文脈や動詞から察するに、戯曲とか詩歌のこと、か……? 実子がいたら、もう少しマシに翻訳してくれるんだが……」
日常会話で使うような語彙に不足はないけれど、少し専門性が混じるだけで、ユーの言葉はドイツ語変換されるから、意志疎通が微妙に難しい。
よくもまあ、小鈴や実子は上手いこと会話を成り立たせられるものだと感心する。
「ゲーテの詩については知らないけど、少なくとも日本では、自然の美しさや発見に関心を寄せるのは、詩や俳句で表現されることが多いから、君の好奇心は詩人のようだな、って」
「シジンって、Dichterのことですか? ユーちゃん覚えました! Dichter……詩人、ですね!」
「そうか、またひとつ日本語を覚えられたようでなによりだ」
こうやって語彙をきちんと吸収するあたり、花鳥風月だけでなく、学術的な知的好奇心も十分、か。
節操がないと言えば口は悪いが、彼女の興味関心は、意外と貪欲だな。
どんなものにでも、なんにでも、少しでも興味を持てばすぐに食らいつく。
小鈴がいる時にはそんなにがっつく様子はなかったけど、小鈴がいないというだけでここまで自由奔放になるとは……恐れ入るよ、本当に。
実子なんかに対してもそうだけど、小鈴は意外と、皆の暴走を抑える鎖になっているのかもしれないな。
……あるいは、ボクも彼女によって、なにかしらを抑えられている、のかもな。
それを今ここで考える意義は薄そうだけど。
そんなことよりも、ボクも足が重くなってきた。少しずつユーとの間に距離が生まれ始める。
「ユー、まだ進むのか?」
「はいです! もっともっと行きましょう!」
「なにがあるかもわからないのに、先に進むのか」
「Nein! 違いますよ、霜さん。なにがあるかわからないから、進むんです!」
ユーは、ボクの言葉を正す。
わからないのに、ではない。
わからないから、だからこそ彼女は未知の道を進むのだと。
「だって、なにがあるかわからないってことは、なにかとっても素敵なものがあるかもしれないじゃないですか!」
「なにもないと思うし、あったところでどうするのさ……」
「楽しいですよ?」
「う、うーん……」
そんな純粋に返されると、こっちも返答に困る。
それはここまでの苦労に釣り合うだけのものなのか、甚だ疑問だ。いやさ、ユーにとっては苦労も疲労もないのかもしれないけど。
そんな不確定で未知数なもののために、ここまでするのは、リスクとリターンが見合っていないような気もするが……そうじゃないな。
目的のための手段が散歩ではなくて、散歩が目的で、その中に彼女の求める発見や感動が含まれているんだ。
つまり、散歩にボクらを連れ出して、ここまで来た時点で、彼女の目的は達成されている。けれど同時に、達成はされていない。
いわばこの時点では「可」の評価を得るだけの達成率で、それだけで目的は果たせているけれど、彼女はそれでは満足しない「良」や「優」の評価に至るほどの満足感を、達成感を得ようとしている。
そこまで厳格に、キッチリと定義して考えているわけじゃないだろうけれど、彼女が満足していないのは確かだ。
本当……自分に正直で、欲望に忠実で、それでいて貪欲だ。実子や恋とはまったく違う意味で、彼女も強欲な人間だな。
さて、ボクはその強欲に、どこまでついて行けるだろうか。
わかりやすい目的や目標を設定して、それを達成すれば帰還、とはならないのが、もどかしいし、苦痛だ。苦痛なのは主に肉体の方だけど。
「ユー、君の言いたいことはわかった。確かにこんな入ったこともない森だか山だか、なにがあるかはわからない。だけどね、ユー。ここは狭い島国の、極小の一点に過ぎない小さな森だ。そんなところに物珍しいものがあるのなら、とうに誰かが発見しているはずだよ。そう考えたら、ここには目ぼしいものはないと思えないか?」
「でも、行ってみないとなにがあるかはわかんないですよ!」
「確かにそうだけどさ……」
「もしかしたら、
「なんて言ってるかさっぱりだが、ニンフはわかった。妖精か……随分とメルヘンなことを言うな、ユーは。小鈴でもそこまでお花畑なことは言わないよ」
「
ユーはまた、弾んだ声を響かせる。
「
「やっぱりなにを言ってるのかさっぱりわからない。空想上の生物か? メルヘンどころか、オカルトの域に達しそうだ……UMAくらいならまだしも、モンスターはあり得ないだろ。架空の話、作り物だよ?」
「でもユーちゃん、Siegfriedには会いましたよ?」
「ジークフリート? えーっと、ワーグナーだったかの、戯曲か? 『ニーベルンゲンの歌』だっけ」
「Ja! ドイツだと男の人の名前でユーメーですけど、ユーちゃんが会ったのはそう! Held……
外国人の名前なんてそんなに知らないけど、ジークフリートっていうのは、普通に一般的な名前として通っているのか。語源は既に口にした通りかな。
それよりも、英雄に会ったって、どういうことだ……?
「困ってるユーちゃんを助けてくれたんですよ! あの時も、ローちゃんとおさんぽに行って……」
ふっ、と。
急に、ユーの声が途切れた。
「ユー? どうしたんだ?」
「いえ……また、ワガママ言っちゃったなって……」
我侭? この散歩のことか?
ユーは、彼女らしからぬ、どこか陰りのある声で続けた。
「今回も、ユーちゃんのワガママで、メイワク、かけちゃいました……小鈴さんも、ケガしちゃいましたし……」
お気楽で、能天気で、ただ興味と歓楽のために走り回っているだけだと思っていたけれど。
彼女は、ちゃんと周りを見ている。敏感に自然を感じ取る感性的なものだけじゃなくて、他者を思いやって、慮る視点がある。
小鈴の怪我のこと、ずっと気にしていたんだな。見た感じ、そんなに酷い怪我ではなさそうだったし、それは別にユーの責任というわけでもないが。
とはいえ、彼女の発案と行動が契機ではあった。
ユーも、そこに気付いていないわけでも、無視しているわけでもなかった。
「ユーちゃんは、もっと色んなところに行って、色んなものを見て、色んなことをしたいです。皆で、もっともっと楽しいことがしたいです。けど、それは、ユーちゃんのワガママで、ユーちゃんとは違う考えの人もいて、ユーちゃんがワガママを言っちゃうと、困っちゃう人もいて……今回も、あの時もそうでした」
どこか空虚で遠くを見るように、ユーの眼差しが揺れる。
彼女に根差す陰りは大きくなって、彼女の明るさから反比例するように――あるいは反転したように、暗いなにかが表層へと滲み出ていた。
「だから、本当はユーちゃん、こんなことしない方がいいって。いい子でいて、ワガママ言って、皆を困らせちゃいけないんだろうなって、思う――」
「ユー」
――ボクは、ユーの言葉を遮った。
ピタリと、彼女から漏れ出る黒いなにかが、止まったような気がする。
「一つ、教えてあげるよ。生きている限り、他人に迷惑をかけない人間なんていない」
「うみゅ……」
「ボクだって、服に、将来に、自分の性に悩んで、家族には心配させてばっかりだ。父さんも、母さんも、兄貴たちも、本当ならボクが普通の男であることを望んだはずなんだ。それを申し訳なく思うこともあるし、心配さかけちゃいけないなって思うけど――それでも、曲げられない衝動はあるんだ」
究極的に突き詰めれば、規律としてそうあるからとはいえ、養ってもらっている時点で誰かに迷惑をかけているわけだし、人間は生きていれば衝突もする。意見を違えることもある。
誰も傷つけないなんて理想だし、そんなことはあり得ない。
勿論、そうしようと努力し、そう振る舞うことには大いなる価値があるし、それはとても尊いことだ。その点で、ユーの思想はとても大事だと思う。
「我を通すということは、時としては大きな非難を呼ぶ。だけど、だからって、自分を抑え込むことがいいことだとは限らない。それは、とても悲しいし、寂しいことだ。自分が本当に興味関心のあることができない人生だなんて、抜け殻みたいなものじゃないか。そんな生き方は――つまらない」
つまらない。なんて、ボクらしくもない言葉だ。
だけどそれが真理であり、根幹だろう。
そうしたいからそうする。興味とは、関心とは、つまるところはその感情に他ならない。
他人に隷属するだけの人生で満足できるのか。他者の顔色を窺うだけの生き方が自分のためになるのか。
そんなもの、少し考えればすぐにわかる。
答えは否、だとね。
「とはいえ、君の気持ちもわかるよ。誰かに迷惑をかけるのは嫌だ。誰かを傷つけてしまうかもしれないと思ったら、とことん怖くなる。考えすぎたら身動きが取れなくなるし、考えなしでもいけない。他人の被害と自分の願望、その押し引きはどこに基準を置けばいいのか、どうすることが最善なのか、正直わかんないよね」
「Ja……霜さんでも、わからないんですか?」
「わからないさ。その時々で状況は変わるんだから、その場その場で最善手を考えて、我を通すか、身を退くかを判断せざるを得ない。だけどね、ユー。こと今回に限れば、君は自由だ」
「にゅ?
「だって、小鈴は言ったじゃないか。君の「好きにしていい」と」
「……!」
まあ、一口に「好きにしていい」と言っても、その言葉が含む範囲を定義する必要はあるけれど、少なくともユーが自由に野山を駆け回るくらいは許容範囲だろう。
ユーは自由を許されている。ならば、それでもしも迷惑を被ったところで、それは元より許されるものなんだ。
「いつもは小鈴に気を遣って抑えてるのかもしれないけどね。でも今はそうじゃないだろう。許されていることを心配するものじゃないよ、ユー」
小鈴はあまり未知への開拓や変化を望まないけれど、それに合わせる必要はない。
あるがままでいい。誰かのために、自分を抑え続けることはない。
無論、あらゆる行動にはいつだって、善悪の判定、周囲に及ぼす影響があって、ボクらは常にそれを考え続けなければいけないけども。
思考停止によって、害を拡散することが悪であるように、自らを束縛することもまた、善とは言い難い。
誰かのために誰かの自由が喪失される。それが、良いことであるはずがないんだ。
「だから、少なくとも、今この時に限っては、君は我侭でもいい。自由に動いていいんだ。小鈴はきっと、そんな君を受け止めてくれる」
「霜さん……
「礼はいらないさ。ボクはボクの思ったことを言っただけだし、ボクがそうしたいと思っただけだよ」
それに、思うところもあったしね。
「いい子でいなければならない」「我侭を言ってはいけない」――「人は社会で“普通”でなくてはならない」
そんな規律とも言えない曖昧模糊な、けれどもとても強固な鎖を、ボクは知っている。この身体でもって知っている。
他者の目、思想、押し付け。そんな鎖で自由を、自分を奪われるのは、とても苦しいことだって。
着る服くらい。自分の在り方くらい、自由でいいじゃないか。やりたいことも、行きたいところも、好きにしたらいい。答えは単純明快だ。
ボクもいまだ完全に吹っ切れているとは言い難い。だからこそ、ユーの強迫観念めいた苦悩には、物申さずにはいられなかった。
まあ、これも言いたかったから言っただけで、ボクの我侭のようなものだけれど。
「さて、それじゃあ迷惑やら我侭ついでに、ボクの我も通したいんだけど、いいかな?」
「? なんですか?」
「君の悩みに比べれば、とても些細なことだよ。だけれどこれは、ボクにとっては非常に大事なことだ。君の楽しみを奪いかねない――つまり、君に迷惑かけてしまいかねないことだけれども、それを承知のうえで、ボクはボクのためにこの我を通したいと思う。だから、言わせてもらうよ――」
ずっとずっと、胸の内に秘めていたんだ。だけど、流石にそろそろ溢れ出してしまう。
言うならこのタイミングしかない。思いが臨界点まで達した、この時しか。
スゥッと、軽く息を吸う。
そして、今まで口にできなかったこの言葉を、ユーに向けて告げる。
「――そろそろ身体が限界だ。帰りたい」
やっと言えた……!
ユーのことを思って、直接は言わないようにしてたけど、流石にもうそんなことも言ってられない。
もう一歩だって歩きたくない。そのくらい、身体は疲弊している。
「Oh……
ボクのカミングアウトに、申し訳なさそうにしゅんとするユー。
無責任にも小鈴はユーの我侭も受け止める、だなんて言ったけれど、ボクらが受け止めるか――受け止められるかは別問題なわけで。
ユーを傷つけないように気を遣っていたけれど、残念ながらボクの体力では受け止めきれなかったようだ。すまない、ユー。
「ユーちゃん、やっぱりワガママ言わない方が……」
「いや、今回に関しては気にしなくていい。それより、早く降りよう。恋だってもうほとんど半死に状態だろうし――」
と、グロッキーなことになってるだろう恋の姿を確認しようと振り返る。
けれど、
「――あれ? 恋?」
そこには、誰もいなかった。
一瞬の思考停止。疲労のせいで再起動が遅い。けれども頭を回転させる。どうして恋はボクらの後ろにいないのか。
鈍い頭を回して考えて、とても簡単な答えを導き出す。
「……途中でぶっ倒れたか」
よく考えればわかることだ。この時点でボクが限界ギリギリなのだから、あの恋が耐えられるはずもない。
虚弱という風潮に反して、意外と粘り強くはあるけど、それでも身体が弱いことに変わりはない。ボクらが話しながら進む中、ついて来れずに道半ばで倒れ、ボクらはそれに気づかず進んでしまった、といったところだろう。
「参ったな、帰りは恋を引きずって帰らなきゃいけないのか……軽い荷物とはいえ、体力的にキツイな」
「そ、そんな落ち着いてる場合じゃないですよっ! 早く恋さん助けなきゃです!」
「あぁ、そうだね。とりあえず来た道を引き返して、行き倒れてるだろう恋を回収しようか」
と、一歩踏み出した、瞬間。
☆ ☆ ☆
「――霜さん?」
幻でも見ているのでしょうか。さっきまで、ユーちゃんの一歩前にいた霜さんの姿が、なくなってしまいました。
いいえ。見えないはずのものが見えるんじゃなくて、見えるはずのものが見えなくなったこれは、幻とは言えません。
日本の
「カミカクシ、ですか……!?」
救世主様が霜さんを連れて行っちゃうなんてあり得ませんし、日本には神様がいっぱいいる――ツクモガミ? でしたっけ――って、Vatiも言ってました。なら、悪い神様の仕業なのかもしれません。
「……?」
そういえば、なんだかこの森、最初に入った時とちょっと違う感じがします。
なにがどう違う、というのは言葉にはできないですけど……なんだか、ちょっと息苦しい感じというか、扉を閉められたような感覚があります。
閉じられている、っていうんでしょうか。
なにか、異変が起こっているような……
「そ、それよりも、早く霜さんと、恋さんも見つけなきゃです……!」
ひょっとしたら、恋さんもカミカクシに遭ってしまったのかもしれませんし、そうだったら大変です!
この森のことは、まだよく知りません。ここに来るまでの道しかわかりません。
森は下手に入れば迷うもの。現実でも、メルヒェンでもそれは同じです。だから、ここは一度、小鈴さんたちに連絡するべきなのかもしれません。
「でも、今はちょっとでも急がなきゃいけない気がします。それに……」
迷ってもいい、という気もします。
メルヒェンの主人公は、森で迷うもの。『ヘンゼルとグレーデル』も、『鉄のストーブ』も、『白雪姫』も、森の中で迷って、そうして知らない世界を見せてくれたんです。
なにがあるのかも、どこに向かうのかもわかりませんが、それは絶対に悪い方向に転がるとは限りません。
だから、進みましょう。
☆ ☆ ☆
「――ここ、でしょうか」
森の中のどこか。どこなのかはさっぱりわかりませんが、そこはとても不思議な感じのする場所でした。
怖い感じじゃありません。わくわくするような感じとも、ちょっと違います。昔、ドイツで教会の中を探検した時の感じが、一番近いでしょうか。
神様がいるような場所。当然、神様は救い主様ただ一人なので、この森にいるはずもないのですが……でもそれはドイツのお話で、日本だとそうではないのかもしれません。
ここにいるのが神様なのかはわかりませんが、でも、なにかはいます。
一歩、また一歩と地面を踏み締めるたびに、身体がぞわぞわってします。
そして、さらに一歩、踏み込んだその時。
「――停まれ」
森の奥から、声がしました。
とても重苦しくて、だけど澄んでいて、この場所と似た、不思議な感覚。
その声を聴いた瞬間、ユーちゃんは思いました。「あぁ、私は神様と同じくらい、とても大事な場所に足を踏み入れてしまったのですね」と。
それを証明するかのように、声の主は森の奥から姿を現します。
その姿を見て、思わず、声を上げてしまいました。
「Einhorn……!」
メルヒェンの中でしか見たことがない、幻の存在。まさか、それを、本当に目にするなんて……!
でも、ユーちゃんの知ってるEinhornとはちょっと違います。身体はピカピカですし、毛並もなんだか、ツルツルで、ガギガギしてる感じです。
「
Einhornは、重く響く声で言いました。
「汝の邪念は、希薄であった。無邪気、無垢。清く澄んだ魂である故に、汝は処断を避ける機会があった。閉口し、無心にて聖壁を超えるのなら、汝は血を流すことはなかった」
しかし。と、Einhornの声は、一段低くなります。
「我の前に立つのであれば。これなるを夢想と断じないのならば。我は、汝をも処さなくてはならん。汝の、同志と共に」
同志? 共に……? どういうこと、でしょう。
そんな疑問を解消するかのように、暗い森に、淡い光が灯りました。幻想的で神秘的な、妖精の悪戯のような灯火。
その小さな明かりで、もう少し深くまで、森の奥を見ることができました。
そして、そこにいたのは、
「! 霜さん! 恋さんも……!」
二人とも、ぐったりとしていて、動きません。まるで、眠っているようでした。
「喰らいはせぬ、砕きもせぬ。魂が失せ、肉が朽ち、土に還るその時まで、静かに眠るだけだ」
「ど、どうしてこんなことを……」
「我の聖域を侵犯した罰だ。邪気を内在した魂により、蹂躙の片鱗を覗かせた。故に我は、その芽を摘む。しかしてこれは殺生に非ず、大地への奉還である」
言ってることは難しくて、よくわかりません。だけど、きっとあのEinhornは、怒っているんです。
この森は、あのEinhornにとって大事な場所で、ユーちゃんたちが勝手に入ったから……だから、霜さんや恋さんも……
「だったら、悪いのはユーちゃんだけです! 皆さんをおさんぽに誘ったのは、ユーちゃんなんです!」
「問答は無為。全て、汝らの所業が示した。全てを認知した上での行いは、魂に基づく精神の発露に非ず。それは、打算である。狡知であり、謀略であり、欺瞞である。故にこそ、我の前に立つ汝は、施しの拒絶と認知する。汝の後方に、道は非ず」
静かに、音もなく、Einhornはこちらに近づいてきます。
けれどその一歩はとても重くて、ズシンと響くように感じられました。
「
「言葉は重ねず。汝の開口は意味を為さず。汝もまた、森の堆肥となり、その身、その魂、その命を大地に還すだけのこと」
さらに一歩。もう一歩。
優しさも、慈しみもなく。
幻想の獣が、迫り来る――
☆ ☆ ☆
「――ギリギリ間に合った!」
暗い森に、鳥のような甲高い声が響き渡りました。
いえ、それは、鳥のような、ではなく、
「と、トリさん!?」
本当の、鳥でした。
あれ? でも、トリさんって本当に鳥なんでしょうか?
小鈴さんが鳥って言ってるので、そうだと思ってましたけど、確か鳥さんはクリーチャーだとかなんとかって……
「へぇ、これは本当に凄い大物だ。君みたいなのまで、こっちに流れているとはね」
「陽の鳥……そうか、結界師は使命を果たし、森に還ったか。そして、新たな悪意と邪気に満ちた者が、我らの聖域を侵したか」
「聖域? この世界に勝手に居座って得たものが、聖なる土地だって? それは本気で言っているのか?」
「……我としても、忸怩たる思いだ。しかして、彼の世界は、彼の大地は、退廃と汚濁で、荒み、穢れてしまった。もはやあの地は生命の土地に非ず。我らは、新たに命を育む土地を探さねばならなかった。そして、見つけたのだ。豊潤とは言い難く、豊穣には程遠く、邪と悪に塗れた不浄の地だが、我らが生きる地はここにあった。汝らに、我らの生を妨げさるわけにはいかぬ」
「勝手だね。そして薄情だ。豊穣の神話も嘆いていることだろう。君が本来生きるべき大地を捨て、住処を変えただなんて知ったらね」
「然り。承知の上である。我らとて生を捨てることは望まず。そして、高潔、清廉、矜持、憐憫を捨てた結果だ」
「まるで冥界の連中みたいなことをしているね。まあ、君らの思想なんてどうでもいい。ただ、君らはここにいるべきではない。それだけだ」
「なれば、それ以上の言葉を交えることはない」
トリさんとのお話を打ち切って、Einhornはまた一歩、踏み出しました。
「流石に、小鈴たちが来るまで時間を稼ぐなんて無理か。小鈴以外に頼るのは不安だし、そこはかとなく気がかりだが、仕方ない。ここで仕留めるしかないようだ……白銀の髪をした君」
「ユーちゃんですか?」
「あぁ、君だ。いつぞやの誘拐事件とかでは世話になった君だよ。不本意だけど、今回も代理を頼むことになりそうだ」
「ダイリ? 代わりってことですか? なんの、ですか?」
「小鈴の、に決まっているだろう。彼女もこっちに向かっているけれど、待っている暇はなさそうだからね。ここであのクリーチャーを仕留めるよ」
クリーチャー……あぁ、そうだったんですね。
ということは、あれはメルヒェンに出て来るような、本物のEinhornではなかったのですか。ちょっと、残念です……
「…………」
Einhornの話している言葉は、とても難しくて、ユーちゃんにはよくわかりませんでしたけど、きっとあのクリーチャーも、悩んだり、苦しんでいたりするんだと思います。そんな気がします。
詳しい事情は知らないですけど、苦しんでいる誰かを傷つけたくはありません。
でも、大切なお友達が傷つくところも、見ていられません!
「準備はいいかい?」
「Ja! 霜さんと恋さんを助けます!」
「邪に聖を、罪に罰をもって、不浄なる生を浄化する」
決心はつきました。どうしたいかも、どうすべきかも、そしてどうするのかも、決めました。
デッキを握って、ユーちゃんは、戦います――
☆ ☆ ☆
「――出でよ、《鳴動するギガ・ホーン》。大地より、同胞を集めよ」
「ユーちゃんのターンです! 《ビシャモンズ・デーケン》をチャージして、《ホネンビー》を
ユーちゃんと、Einhornのデュエマです。
あっちは手札を増やしながらクリーチャーを出していってるみたいですけど、ユーちゃんだって墓地を増やしちゃいます。さぁ、どんなクリーチャーが来るんでしょう?
「にゅぅ……じゃあ、これです! 《オブザ08号》を手札に加えて、Ende!」
ターン4
Einhorn
場:《ピカリエ》《ギガホーン》
盾:5
マナ:5
手札:3
墓地:1
山札:24
ユー
場:《ブラッドレイン》《ホネンビー》
盾:5
マナ:4
手札:4
墓地:5
山札:20
「大地に満ちるマナよ、我に力を授け給え」
ダンッ、と。
Einhornは大きく、蹄を鳴らしました。
「《ピカリエ》よ、その神聖なる光でもって闇を照らせ。《ギガ・ホーン》よ、その強靭なる肉体で大地を揺らせ」
「な、なんですか……っ!?」
二体のクリーチャーが歪んで、光って……まるで扉のように渦巻きました。
そしてEinhornは、その渦に向かって走り出して――
「聖なる天使と、獰猛なる獣は、一角の大角にて交わらん――」
――別の世界との壁を突き破るように、現れました。
「顕現――《聖獣王ペガサス》」
金色に輝く肉体。鋭い一本角。
それはまさしく、
『汝の幼き肢体を、我の大角にて穿とう。そして、我の力によって、さらなる同胞を召集しする。大地の果てまで轟け、我が号砲――出でよ!』
Einhorn――いいえ、《ペガサス》が、いななきました。
すると、
『《清浄の精霊ウル》、汝に命ず。我の穢れを
「お、起き上がっちゃいました……!」
出て来たのは、キレイな精霊。その光で、《ペガサス》はアンタップしました。
『我の大角は、一角にて三角なり。三連なりし一突きを受けよ』
「っ、うぅ、トリガーはないです……」
たった一突きで、三枚のシールドがブレイクされちゃいました……これは、ピンチです!
しかも、まだあのクリーチャーはアンタップ状態。追撃が来ます!
『再び、我は叫ぼう。仲間へと、同胞へと、怒号を飛ばそう……参じたのは汝か、《ギガ・ホーン》』
また森の奥から、クリーチャーが出て来ました。
どんどんクリーチャーが増えて来ちゃいます……
「《ホネンビー》でブロックです!」
シールドは残り二枚しかありませんし、これ以上の攻撃は受けられません。
ここは《ホネンビー》でブロックしないと。
「ゆ、ユーちゃんのターン……」
だけど、どうしましょう。
クリーチャーは三体もいますし、あのEinhornさんは強すぎます。
攻撃するだけでクリーチャーが増えるなんて……早く、破壊しないと。
というところで、カードを引くと、
「! 来てくれました……! 5マナで、《ブラッドレイン》を
あのクリーチャーが切り札なら、こっちだって、切り札を出しちゃいます!
「
これがユーちゃんの切り札、《キラー・ザ・キル》です。
これなら、あのすごく強い《ペガサス》だって、倒せちゃいますよ!
「《キラー・ザ・キル》の能力で、《ペガサス》を破壊です!」
《キラー・ザ・キル》は雄叫びを上げると、胸の大きな眼をカッと見開かせました。
それは
「やりました! Danke!」
相手の切り札を倒せました!
残ってるクリーチャーはあんまり強そうじゃないですし、これでユーちゃんが――
「我が死したか。しかして、我の骸は憐憫が集う。我を憐み出でよ――《ピカリエ》」
「ふにゅっ!?」
また新しく、クリーチャーが出て来ました。
まさか、自分が破壊されてもクリーチャーを出せるなんて!
「クリーチャーが減らないです……でも! それならこれです! 《キラー・ザ・キル》で
実子さんから教わった力。
これが、ユーちゃんのもう一つの切り札です!
「
森に住むのは、あなただけではないんです、Einhornさん。
暗い森に潜む脅威。深い森の奥の獣と言えば――そう! これです!
「
『反逆の魔狼か。禍々しく、不浄なるものだ』
「《キル・ザ・ボロフ》の能力で、
『守護は不要。我が身で受け入れよう』
ブロックはしないで、《キル・ザ・ボロフ》の攻撃がシールドをブレイクします。
S・トリガーもなかったようです。
「Ende!」
ターン5
ペガサス
場:《ギガ・ホーン》《ピカリエ》
盾:3
マナ:6
手札:5
墓地:5
山札:19
ユー
場:《キル・ザ・ボロフ》
盾:2
マナ:5
手札:7
墓地:5
山札:20
まだクリーチャーが二体残っていますけど、切り札は倒せましたし、この調子で行けば、あっという間に倒しきれちゃいそうですね。
と思ったところで、また、森の奥からなにかが来ます。
それも今度は、とても重くて、鈍い音が、地面を揺らしながら、出て来るのは、
「森の罠。自然の脅威。人為は及ばぬ、無垢なる痛苦。樹海を掻き分け、無機なる戦火の馬が走る。双極・召喚――《ナ・チュラルゴ・デンジャー》」
ぱ、
戦車のようなクリーチャーは、とても重そうで、動くだけで地面が鳴り響きます。
いや、違う。これは、地面の奥から……なにか、出ます!
「大地を掘削し、我の骸を取り戻せ――《聖獣王ペガサス》」
地面(マナ)から、さっき倒したのと同じクリーチャー――つまり、《ペガサス》が飛び出しました。
倒したと思ったのに。こんなに早く、また出て来るなんて……
『破砕せよ、《ナ・チュラルゴ・デンジャー》。魔に堕ちた餓狼を、土へと還すがいい』
「《キル・ザ・ボロフ》が……」
『再び、同胞に召集をかけよう。愛しき霞みの妖精よ、汝は大地の肥やし。恵みを
《ナ・チュラルゴ・デンジャー》で《キル・ザ・ボロフ》が破壊されちゃいました。
それだけじゃなくて、《ペガサス》も同じように攻撃して来ます。
この攻撃は、受けられません……!
『大角よ、砕け。無垢なる冒涜者を穿て』
「に、ニンジャ・ストライクです! 《ハヤブサマル》でブロック!」
あ、危なかったです……もうちょっとで、シールドがなくなっちゃうところでした……
「ゆ、ユーちゃんのターン……えっと、《ブラッドレイン》と、《ホネンビー》を
また《キラー・ザ・キル》で倒したいですけど、進化できるクリーチャーはいませんし、マナも足りません。
今は、ブロッカーで守るしかできないです……
「Ende……」
ターン6
ペガサス
場:《チュラルゴ》《ペガサス》
盾:3
マナ:7
手札:4
墓地:6
山札:16
ユー
場:《ブラッドレイン》《ホネンビー》
盾:2
マナ:6
手札:5
墓地:9
山札:16
『召喚。《ピカリエ》、《ジオ・ホーン》。そして《ジオ・ホーン》よ、異星の繋がりをもって、《カリーナ》を召集せよ』
今度は増えたマナから、普通にクリーチャーが出て来ます。
そして、さらに《ペガサス》も、角を構えて突撃して来ました。
同時に、山札から、またクリーチャーが出ます。
『《ナ・チュラルゴ・デンジャー》に誘引されたか。ならば汝も行け、《イチゴッチ・タンク》。我に続け』
今度はイチゴの形の戦車です。うぅ、これもメルヒェンじゃないです!
って、そうじゃなかったですね。この攻撃も防がないと。
「《ハヤブサマル》召喚っ、ブロックです!」
『《ナ・チュラルゴ・デンジャー》。障壁を粉砕せよ』
「それも、《ホネンビー》でブロック……!」
な、なんとか耐えられました……
これならまだ、反撃できます!
「5マナで、
「召集、《ファビュラ・スネイル》」
「まだ終わらないですよ! ユーちゃんの
これは、墓地のクリーチャーの数だけコストが下がるクリーチャーです。
だから、たった1マナで出しちゃいますよ!
「
普通なら9マナですけど、墓地がたくさんあれば、それだけコストが下がって、1マナでも出せちゃいます。それに、これだけでは終わらないですよ!
「《オブザ08号》の能力で、ユーちゃんの
『摂理を逆行する衰弱。受け入れ難し邪悪な所業だ。聖域の悲鳴が凪を破り、木々を揺らす。受け入れざる愚行なり』
「……でも! ユーちゃんだって負けたくないです! 霜さんや、恋さんのためにも! もう一体! 《オブザ08号》を
破壊、と言おうと思ったのですけど。
よく見ると、《ナ・チュラルゴ・デンジャー》は錆だらけで小さくてボロボロでしたが、まだバトルゾーンに残ってました。
「破壊できない……あ、あぅ、一枚足りなかったです……」
墓地を確認したら、その枚数は十一枚。
《ナ・チュラルゴ・デンジャー》のパワーは12000なので、あと一枚足りなくて、破壊できません……ユーちゃん、うっかりです……
「で、でも! それならこうですよ! 《キラー・ザ・キル》で《ナ・チュラルゴ・デンジャー》に
パワーが0にならなくて破壊できなくても、パワーを下げることには意味があります。
もう一度、《キラー・ザ・キル》と《キル・ザ・ボロフ》を入れ替えて、どんどん破壊しちゃいますよ!
「《キル・ザ・ボロフ》の能力で《イチゴッチ・タンク》を破壊して、バトルで《ナ・チュラルゴ・デンジャー》も破壊です! Ende!」
ターン7
ペガサス
場:《ジオ・ホーン》《スネイル》
盾:3
マナ:8
手札:4
墓地:12
山札:11
ユー
場:《キル・ザ・ボロフ》《オブザ》×2
盾:2
マナ:7
手札:2
墓地:10
山札:16
「反逆の戦火が昇った。聖域の命は散らされ、清浄なる地は邪悪に染まる。しかして、森は侵させん。《ガガ・カリーナ》よ、次元を開け。異星の姫君の力を借り受け、餓狼を拘束せよ。そして続け《ピカリエ》」
召喚されたのは、《ガガ・カリーナ》と、その能力で出て来た《勝利のプリンプリン》、そして《ピカリエ》。
クリーチャーはたくさんですし、《キル・ザ・ボロフ》は動けなくなっちゃいましたが、強いクリーチャーはいないみたいです。
「
ブロッカーを破壊して、このまま攻撃です!
相手のシールドは三枚。ユーちゃんにはTブレイカーの《キラー・ザ・キル》に、《オブザ》も二体います。一気にとどめまで行っちゃいますよ!
「
「防衛。《ハヤブサマル》」
「にゅっ!?」
一気に攻めようと思ったところで、手札から現れた《ハヤブサマル》が、攻撃をブロックされちゃいました。
「防がれちゃいました……でも、ユーちゃんは止まりません! 《オブザ》でWブレイクです」
ここは攻撃を続けます。ブロッカーなら、《キラー・ザ・キル》や《キル・ザ・ボロフ》、《オブザ》で倒せますし、できるだけシールドをブレイクした方がいいと思うんです。
だからユーちゃんは、もっともっと、先に進みます。
です、けども。
「……森の罠。真なるは、ここに眠る。それは、精霊と讃歌、獣の挽歌――《清浄の精霊ウル》、《怒号するグリンド・ホーン》」
「っ、S・トリガーが、二枚も……!」
《ウル》の能力で《キル・ザ・ボロフ》がタップされ、《グリンド・ホーン》の能力で攻撃していない《オブザ》が攻撃できなくなっちゃいました。
つまり、もうユーちゃんに、攻撃できるクリーチャーはいません……
ユーちゃんの歩みは、止められてしまいました。
「……Ende、です」
ターン8
ペガサス
場:《ジオ・ホーン》《スネイル》《ガガ・カリーナ》《ウル》《グリンド・ホーン》《プリンプリン》
盾:1
マナ:9
手札:1
墓地:14
山札:10
ユー
場:《キル・ザ・ボロフ》《キラー・ザ・キル》《オブザ》×2
盾:2
マナ:8
手札:0
墓地:10
山札:15
「……精霊と獣の交差。汝らよ、穢れを許さぬ聖域の守護者となれ」
「っ!」
空気が震えています。
森の奥が、静かに、けれども確かな力を持って揺らめいています。
二体のクリーチャーが交わって、この世界と、異世界とを繋ぎました。
この森の境に、その奥から、別世界の生き物が歩み寄ってきます。
神聖で、不思議な、
一角の天馬が、復活します。
「顕現――《聖獣王ペガサス》」
《ジオ・ホーン》と《ガガ・カリーナ》。エイリアンでもある二体のクリーチャーが異界への扉を繋いで、《ペガサス》の進化元となりました。
三度目になる、登場です。
「ま、また……!」
『悪鬼羅刹を突き砕け、大角よ。そして呼べ、我らが同胞を』
《ペガサス》が角を掲げて、こっちに向かってきます。
攻撃。それと同時に、山札が、捲られました。
『森よりいずるは《ナ・チュラルゴ・デンジャー》――』
山札の上から現れたのは、《ナ・チュラルゴ・デンジャー》。
そしてその能力で、マナから出て来るのは、
『――《ウル》《グリンド・ホーン》よ、我がために交わるがいい』
「え……」
扉は、一つではありませんでした。
《ウル》と《グリンド・ホーン》。S・トリガーで出て来た二体のクリーチャーが交わり、混ざって、またしても森の奥と異界と繋ぎます。
それは、つまり――
『二重顕現――《聖獣王ペガサス》』
――二体同時に、《ペガサス》がバトルゾーンを駆け抜けるということです。
『魔龍を穿て。腐敗した鱗を貫け。邪気に穢れようとも、汝が闇を清め、滅する』
「《キラー・ザ・キル》が……あ」
そうでした。《キラー・ザ・キル》が破壊されたといっても、破壊されたのは、こっちだけじゃありません。
いつもならもっと喜べるんですけど、今違う。
だって、あのクリーチャーは……
『大地を奔れ、《イチゴッチ・タンク》。我が屍を超越せよ』
破壊された《ペガサス》が、さらにクリーチャーを呼びました。
攻撃しても、倒しても、《ペガサス》はクリーチャーを呼んできます。
どんどんどんどん、次から次へとクリーチャーが増えて、もう、破壊しきれません……
『次なるは、魔道に堕ちし餓狼を貫く。そして、清めようぞ、我が身を。出でよ、《ウル》』
「あうぅ……!」
『我は終を知らぬ。幾度であろうと、穢れを祓い退けよう――《ウル》』
《キル・ザ・ボロフ》が破壊されて、《オブザ》が破壊されて、それでもまだ、《ペガサス》は走り続けています。
大きな角を振りかざして、ユーちゃんのクリーチャーを、次から次へと、突き砕きます。
『踏み潰せ《ナ・チュラルゴ・デンジャー》。邪悪なりし龍骨纏いし悪鬼を粉砕せよ』
「く、クリーチャーが、いなくなっちゃいました……」
《キラー・ザ・キル》も、《キル・ザ・ボロフ》も、《オブザ》も。
すべてのクリーチャーが、破壊されてしまいました。
日本語だと、こういうの、インガオーホーって言うんでしょうか……霜さんが、よく言ってましたけども、それどころでは、ないですよね。
『汝が邪気、悪道を断つ。我が大角により、その身を砕け。そして同胞を募らん。空よりいずるは《カリーナ》。次元の門扉を開き、山嶺の使徒を呼ばん――《メリーアン》』
《ペガサス》が、大きな角を構えて突進します。
攻撃は仲間を呼ぶ合図。能力で《ガガ・カリーナ》が出て来て、そこからさらに《アルプスの使徒 メリーアン》が出て来ました。
そして、Tブレイク。
大きな角の一突きが、ユーちゃんのシールドをすべて、一瞬で突き砕きました。
『汝を守る盾は砕かれた。幼子の身一つ、縊り殺すなど容易い』
ユーちゃんのシールドはゼロ。ブロッカーどころか、クリーチャーだって一体もいません。
けれど相手の場にはまだ、《プリンプリン》と《ファビュラ・スネイル》が攻撃できます。
二体のクリーチャーをどうにかして止めないことには、ユーちゃんは……でも!
「ま……だ、です……!」
ブレイクされたシールドのうちの一枚。
その一枚を、手に取って、唱えます。
「S・トリガー《インフェルノ・サイン》! 《ホネンビー》を
本当なら、もっと強いクリーチャーを出したいんですけど、ここは《ホネンビー》じゃないと、ダイレクトアタックを止められません……
「《ホネンビー》の能力で、《ハヤブサマル》を手札に……!」
『……命に縋る。それもまた、一つの命の正しい在り方。我と同じ意志である。しかして、我は汝の罪を許容できぬ――異星の姫君よ、行け』
「《ホネンビー》でブロック!」
『《ファビュラ・スネイル》』
「ニンジャ・ストライク! 《ハヤブサマル》でブロックです!」
《ホネンビー》と、手札に戻した《ハヤブサマル》も使って、全力で防御です。
頑張った甲斐あって、なんとかギリギリ、耐えられました……!
『これにて、我の猛威は鎮まろう。しかして、汝に残された刻は瞬きに等しい。汝は、その僅かな光となりて、輝けるか』
「……ユーちゃんは……」
シールドはゼロ、クリーチャーもゼロ。手札はたった一枚。
もう勝てないって、思っちゃいます。どう考えても、どう見ても、いくら願っても、祈っても、救いを求めても、ここは絶望で満ちています。
でも、ですよ。
「ユーちゃんはまだ……諦めてませんっ! まだこの先に、道は続いています……!」
負けそうでも、負けたくないんです!
諦めそうになっても、諦めたくないんです!
そんなワガママでも、押し通してみせます!
「ユーちゃんのターン! マナチャージして、9マナタップ!」
……正直、使うことになるなんて思ってませんでした。使えるとも、思いませんでした。
考えてもみなかった盲点。思ってもいなかった無意識でした。
だけど、色んなところを見て、知って、歩いて、進んだのです。
果ては遠く、遥か先ですけれども。
その道すがらに得たものは、確かな力になっています。
いっぱい進んで、たくさん見て、そうして見えてきた景色があるんです。
「
長い長い道のりの、ひとつの終着点。
ここにあるのは、輝く光でも、眩い瞬きでもありません。むしろ、その逆。
森の中は光の届かない暗闇。それは奈落であり、深淵なのです。
それはつまり、これが、ユーちゃんの奥の手。
最後の最後に残った切り札です!
「――《
闇が、解き放たれました。
あなたが森の奥から仲間を呼ぶのなら、ユーちゃんは奈落の底から呼んでみせましょう。
メルヒェンは明るいばかりではありません。森の奥は暗いもので、メルヒェンの中の人たちは、酷いこともたくさんします。
そして、グリムのメルヒェンは、本当はとっても怖いものです。
でも、だからこそ、ユーちゃんの力になってくれると、とっても頼もしいです。
奥底の見えない深淵の先。そこに眠っているのは、ユーちゃんと一緒に歩んできたクリーチャーたち。
墓地のすべてのクリーチャーを、呼び戻してみせましょう。
さぁ、皆さん!
「
叫び声が、聞こえます。
奈落の底、深淵の世界から、クリーチャーたちの声が。
《傀儡将ボルギーズ》《白骨の守護者ホネンビー》《凶鬼92号 デンカ》が二体ずつ、《龍装者 オブザ》と《Kの反逆 キル・ザ・ボロフ》が三体、《マッド・デーモン閣下》《ビシャモンズ・デーケン》《一撃奪取 ブラッドレイン》《光牙忍ハヤブサマル》がそれぞれ一体。
全部で十六体のクリーチャーが、墓地から復活しました!
『これほどの死者が、魂が……自然の輪廻に逆らい、呼び戻るなど……』
流石のEinhorn――《ペガサス》も、これには驚いているようです。
「でも、ここからどうするのか、ちょっと難しいです……でもでも! ユーちゃんはやりますよ! まずは《ホネンビー》で、
こんなにたくさんのクリーチャーを一度に出したことなんてないので、どうしたらいいのか、ちょっと迷っちゃいますが、これだけクリーチャーがいれば負けません!
ちゃんと考えて、チャンスを生かして、絶対に勝ちますよ!
「えーっと、eins zwei drei……Ja! じゃあ次に、《ボルギーズ》二体で、二体の《ウル》のパワーを4000下げます! 破壊です! さらに墓地(フリートホーフ)にクリーチャーは四体なので、三体の《オブザ》の能力で、《ナ・チュラルゴ・デンジャー》のパワーを12000マイナスして、破壊です!」
『ぬ……』
「《キル・ザ・ボロフ》三体の能力で、
たくさん出て来たクリーチャーが、次々と相手のクリーチャーを倒してくれます。
《ボルギーズ》が、《オブザ》が、《キル・ザ・ボロフ》が、たくさんいたクリーチャーのほとんどを、破壊しました。
「最後に《ビシャモンズ・デーケン》です! ユーちゃんのクリーチャーを破壊するので、そっちもクリーチャーを破壊してください!」
「……《メリーアン》を破壊。同時に、我が骸に集う獣を呼ぶ。いずるは《ギガ・ホーン》。同胞を招集する」
「《デーモン閣下》で墓地の《キラー・ザ・キル》を手札に戻して、《ハヤブサマル》をブロッカーにします! これでEndeです!」
ターン9
ペガサス
場:《ギガ・ホーン》
盾:1
マナ:9
手札:0
墓地:25
山札:4
ユー
場:《キル・ザ・ボロフ》×3《オブザ》×3《ボルギーズ》×2《ホネンビー》×2《デンカ》×2《デーモン閣下》《デーケン》《ブラッドレイン》《ハヤブサマル》
盾:0
マナ:9
手札:3
墓地:4
山札:8
やれることはすべてやりました。
クリーチャーはほとんど破壊して、手札もなくさせて、ブロッカーもたくさん出しました。
ここから逆転されることはない。ない、はずです。
どう……でしょうか。
「……道は絶無。我等が嘆きも、叫びも、虚無にて木霊し、聖域は、世界は閉ざされた」
バトルゾーンに残ったたった一体のクリーチャーを見つめて、ペガサスは小さく呟きました。
やっぱり言葉が難しくてよくわかりませんが、なんだか少し、悲しそうです。
「汝の魔道が、我の正道を超越した。我には最早、語る言の葉なし。滅びを受け入れよう」
「……よくわかんないですけど、ユーちゃんの勝ち、ってことですね」
相手はなにもしませんでした。ということは、これで、ユーちゃんの勝ちです!
「《キル・ザ・ボロフ》で、ダイレクトアタックです――!」
☆ ☆ ☆
「やれやれ、とんだ目に遭ったな……」
「マジ、クソ……二度と、散歩なんか、出るか……私は、部屋に戻らせて、もらう……」
「ご、ごめんなさい……ユーちゃんのせいで……」
「ユーちゃんのせいじゃないよ。わたしこそごめんね。到着が遅れちゃって」
――帰り道。
日も暮れてきたし、あそこから歩いて帰るのは大変だし、わたしの足のこともあるし……っていうことで、みんなでバスに乗って帰ることにしました。
結局、わたしたちがユーちゃんたちと合流した時には、クリーチャーは倒されてて、全部が終わっていました。
とりあえず、みんな無事そうでよかったです。
「結果は散々だったが、ボクも責任追及するつもりはない。事件はあったけど皆無事だし、それなりに得るものもあった。それで良しとしよう」
「そうですね。ユーちゃんもとっても楽しかったです! また皆さんで、おさんぽ行きましょう!」
「断る。二度と行くものか」
「同感……」
「わたしも、これはちょっと……」
「ふにゅっ!?」
ユーちゃんのお散歩は、わたしたちにはハードすぎるよ……
流石に次からはついていける気がしない。
「うぅ、そうですか……残念です……」
残念そうにしゅんとするユーちゃん。
うーん、ちょっとかわいそうだけど、でもあんなユーちゃんにはどうしたって合わせられないし……
ど、どうしよう……
「……ま、私はそこそこ楽しかったけどね」
「みのりちゃん?」
「実子さん……?」
みのりちゃんは、ユーちゃんに向けて微笑んだ。
「私も散歩は嫌いじゃないし、知らないとこ歩くのはまあまあ好きだし。たまになら散歩に付き合ってもいいよ」
「! ほ、本当ですか!」
「土日とかならね。どうせ家にいるだけでやることないし、電気代とかもったいないし、暇だし」
「後ろ向きな理由だな……」
「散歩なんてそんなもんだよ」
みのりちゃん……そっか。
いつもふざけてるように見えるけど、やっぱりみのりちゃんは優しいね。
ユーちゃんはみのりちゃんの言葉を受けて、パァッと笑顔を見せた。
「Danke! 実子さん!」
「まあ、いいってことだよ。まあ、できることなら自転車を使いたいけどね」
「それじゃあ来週! あっちの
「私の要求ガン無視で山かぁ。流石ユーリアさん、強い」
嬉しそうに笑うユーちゃんと、楽しそうに微笑むみのりちゃん。
霜ちゃんは、どこか呆れている。恋ちゃんは、意味が分からないと言わんばかりに首を傾げている。
けれど、わたしはそんな二人を見てホッとしたし、安心した。
わたしじゃ叶えられない願いがある。それを目の当たりにして、どうしようって思ったけど。
みのりちゃんのお陰で、ユーちゃんのお願いは一つ叶った。
そして、もしかしたら、みのりちゃんも――
「……うん、良かったよね」
今日は、わたしはなんにもしてないけど。
……本当に、なんにもしてないや……足挫いて、みんなの足を引っ張っただけだ……
…………
(……あんまり、考えないようにしよう……)
そうだということは、たぶんこれは、わたしの物語じゃないってことだから。
ふと横を見ると、恋ちゃんが目を閉じて寝ている。きっと、今までにないくらい体を酷使して、疲れちゃったんだろうな。
わたしも、なんだか少し眠いや。
もう一度、視線を彷徨わせる。
とても仲睦まじく、楽しそうに言葉を交わすみのりちゃんとユーちゃんの姿を、視界の端でえ捉えた。
それを最後に、わたしも、重くなっていく瞼を、ゆっくりと閉じました――
ドイツ人にとって、森は特別……というより、馴染み深いものなのだとか。森がずっと傍にあり、恩恵もあれば、恐ろしいものもある。森で糧を得る生活があるのなら、森の暗さや、狼などの獣は恐怖になる、っていう。小鈴母も37話でちょっと言ってましたけど。ドイツ人がやたら野山に足を運びたがるのは、そういう、その国の性質みたいなものなのかもしれませんね。
今回の舞台も森(山?)。そしてユーちゃんの第二の切り札は、グリム童話でもお馴染みの、悪の獣である狼、《キル・ザ・ボロフ》。実はこのあたりから、かなりユーちゃんのキャラ感覚を掴めてきた作者だったりします。作者にとってのドイツのイメージをぶっこんだキャラみたいになった。
今回はこの辺にして、次回は不思議の国の連中か、あるいは次章に移るかもしれません。そろそろ書き上がるんですよね、再掲じゃない方の最新話。そのへんは気分と、あるかもしれない要望で考えます。
とまあそんな感じで。誤字脱字感想等ありましたら、お気軽にどうぞ。