デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 短編投げる章をもう少し続けようかとも思いましたが、あんまり面白味がなさそうだったのと、次の話が書き上がったので、次章に移ることにしました。
 事件もなにも起こらないだらっとした日常回です。


4章 晩秋-祭と破滅の予兆-
39話「切り札を決めよう」


 こんにちは、伊勢小鈴です。

 秋もすっかり深まって、寒くなってきました。

 そして秋と言えば、そろそろ文化祭です。わたしたちの学校もそうだけど、当然、他の学校もこの時期は文化祭で賑わう頃。

 そんなわけでわたしは、先輩――いつきくんからも、他校の文化祭に誘われました。なんでも、他校のご友人が、部活でデュエマの大会を開くから、参加者が欲しいとかなんとか。

 なんでデュエマ? というツッコミはもう考えないことにして、せっかくなのでみんなも誘おうと、いつものようにワンダーランドに集まって、その話をしてみました。

 

「――って、先輩からお誘いを受けたんだけど、みんなはどうかな? あ、《グレンニャー》を《エヴォル・ドギラゴン》に進化させるね。攻撃するよ」

「成程。他ならぬ一騎先輩の勧誘とあらば、義理立てとして受けることも吝かではないな。あの人の誘いなら裏もないだろうし」

「水早君ってば捻くれすぎぃ。行きたいなら行きたいでいいじゃん。うーん、ノートリ」

「ターン終了だよ」

「別に他校の文化祭にさして興味はない。率先して行きたいとも思わない。が、先輩の先導ありきというのなら、先輩の厚意を受け取るのが礼儀だと思っただけだよ」

「ユーちゃんは行きたいです! たのしそーです! ユーちゃんは《キラー・ザ・キル》召喚します!」

「ユーリアさんは素直でいいね。クソ面倒くさい頭してる水早君も少しは見習ったら? 《ジ・アース》攻撃《ギョギョラス》侵略《剣》チェンジで《モルト》マナに送って《剣》と合せて《ジ・アース》《ジ・アース》ね」

「わ、わわ……っ!」

「でも、ユーちゃんは少し向こう見ず過ぎです。もう少し落ち着いてくれると、私の心配も減るのですが……」

「《ミラクルスター》召喚……《キラー・ザ・キル》フリーズ…………で、行くの……行かないの……どっち……はやく、きめて……」

『行く(行きます!)』

「私も行くー。イツキ先輩の友達、しかも他校の友人って、ちょっと興味あるし」

 

 満場一致。今までのあれやこれやの論争はなんだったのでしょうか。

 まあでも、みんなで行くというのなら、それはとても嬉しいことだ。

 あとは……代海ちゃんにも声をかけておこう。

 

「…………」

 

 もう少しのところでみのりちゃんに負けてしまって、そのデッキを片付けていると、霜ちゃんから視線を感じた。

 

「霜ちゃん? どうしたの?」

「ん? あぁ、いや。なんでもない」

「なにかお悩みでしょうか。皆さんのカードをジッと見つめているようでしたが」

「別に……なんでもないさ」

 

 濁すように首を振る霜ちゃん。

 なんでもないとは言うものの、なにかある様子だ。

 霜ちゃんは、気を遣ってはくれるけど、言いたいことは結構ハッキリと言うタイプだから、こういう反応は珍しい。

 

「おや? おやおやぁ? 水早君はどうして情熱的な視線でこっちを見ていたのかな? なにかな? なんなのかな? かな? 気になっちゃうなぁ」

「うわ、ウザ……」

「……どうか、した……?」

「霜さん、悩み事ですか! ユーちゃんでよければ、お力になりますよっ」

「そーくんが悩み事とはねぇ。先輩として後輩の悩みは解決してあげるべきだよね、うん」

「なんなのさ、皆して」

 

 霜ちゃんらしからぬ珍しい応答に、みんなが食いつき、霜ちゃんの下に集まる。

 件の霜ちゃんは少し困ったような表情を浮かべたけど、すぐに毅然とした態度で、みんなを制す。

 

「なんでもないよ。ただ観戦していただけじゃないか。じろじろ見ていたと感じたなら謝るけど、他意はない」

「ほんとにぃー?」

「……本当だ」

 

 答えるのに、少し間があった。

 にやにやと笑みを浮かべているみのりちゃんは舌を出して、虚空でそれを動かす。なにかを舐め取るような仕草だ。

 

「ぺろっ……これは嘘をついてる味だね」

「実子さん、わかるんですか?」

「わかるとも! 実際に舐めれば効果は抜群だ!」

「Oh! すごいです! ユーちゃんにもわかるでしょうか?」

「わかるわけないだろ。それこそ実子の嘘なんだから……ってやめろユー! 顔を近づけるな! ボクの顔はあんパンじゃないから甘くないぞ!」

 

 みのりちゃんのジョークを真に受けて、霜ちゃんに口を近づけるユーちゃん。それは、流石にローザさんに止められた。

 霜ちゃんが嘘をついているとは思わないけど、でも、やっぱりちょっと気になる。

 今の霜ちゃんは、普段の霜ちゃんとちょっとだけ違うような感じがするし。

 

「霜ちゃん、本当に大丈夫なの?」

「小鈴まで突っかかって来るか。だから、なんでもないってば」

「えぇー、本当でござるかー?」

「本当だ。いい加減にしないとウザいぞ、実子」

「水早さん。懺悔することが恥ではないように、私たちに悩みを打ち明けることは、恥ずべきことではありませんよ。どんな些細なことでも、です」

「だから違うってば。悩みってほどのものじゃあない」

「お、ってことは、“なにか”はあるんだ」

「っ」

 

 しまった、と言うかのように霜ちゃんは口元を押さえた。

 

「ちっ、口が滑ったか。実子に付け入る隙を与えてしまうとは、とんだ不覚だ」

「ほんとにねー。で、なに隠してるの? 白状しなよー」

「なにも問題がないのだから、話すことはない」

「よし、じゃあ推理してみよう。そーくん、じぃっと皆のカードを眺めてたから、そこに関係あると見た」

「切り札?」

 

 そう言えば、わたしの《ドギラゴン》の方を見ていたような気もする。

 

「なになに? 私たちの切り札が羨ましくなっちゃった?」

「そうなの? 使いたいなら、貸してもいいけど……わたしも昔、カード貸してもらったし」

「そういうんじゃない。ただ……」

 

 というところで、霜ちゃんは口をつぐんでしまう。

 それ以上は言うつもりがない、言いたくないといった感じだ。

 霜ちゃんがなにを考えているのかはわからない。

 なにを悩んでいるのかも、なにかを抱えているのかも。

 わたしよりもずっと頭がいい霜ちゃんの考えを言い当てることなんて、わたしには到底できない。

 けれど、

 

「……自分の、切り札が……ない……?」

「っ」

 

 わたしでない誰かは、それを言い当てる。

 恋ちゃんのふっと漏らした言葉に、霜ちゃんは明らかに動揺を見せた。

 

「お、図星?」

「いや、その……なんだ」

 

 そっぽを向いて口をもごもごさせている霜ちゃん。

 ……あれ? これってもしかして、恥ずかしがってる?

 

「あー、そゆこと」

「どゆことです?」

 

 納得したように手を叩く謡さん。

 わたしも、ユーちゃんと同じくまだピンと来ないけど……他のみんなは、勘付いているようだった。

 

「つまり、そーくんは“自分だけの切り札”が欲しいんだね」

「別に……欲しいなんて、言ってない」

「口ではそう言っても、身体は正直だからねぇ」

「いや、口は身体だ。頭を使わず、口で物を喋るから馬鹿丸出しだぞ、実子」

「……でも……否定……しない……?」

「…………」

 

 霜ちゃんは視線を逸らして黙り込んでしまった。

 やっぱり、恥ずかしがっているように見える。ということは、そういうことなの?

 

「へー、水早君も皆とお揃いがいいって思うんだー」

「うるさいな、にやにやするな。気持ち悪いぞ」

「まあ、他者と同じように振る舞う、というのは決して悪いことではありません。悪しき行いは断罪され、根絶に向かうが定め。ならば逆に、多くの人が為していることは、正しい行いであると言えるでしょう。それに、皆一緒というのは、一体感が生まれます。私は、いいと思います」

「Ja! みなさん一緒なのはいいことですね! とっても楽しそうです!」

「にしても、そーくんもそういう乙女チックなことを気にするんだね。もっとクールでドライなキャラだと思っていたのに」

「キャラ、崩壊……みたいな……」

「だから恥ずかしがってたんだ」

「……そうやって囃し立てられるのが嫌だから、黙ってたんだけどな」

 

 やれやれ、と霜ちゃんは観念したように首を振る。

 首を振るだけで、一切自分からそうだとは言わなかったけど。

 

「でも確かに、水早君と言えばこれ! みたいな切り札って、あんまり思い浮かばないねぇ」

「霜ちゃん、色んなデッキ使うもんね」

「けど逆に言えば、それは特定のデッキやカードに拘りがないってことになっちゃうか」

 

 霜ちゃんは色んなデッキを使う。それはつまり、デッキごとに切り札が毎回変わるということ。

 実際、霜ちゃんは特定のカードを使っている印象がない。

 

「よーし! じゃあ水早君のために、水早君専用の切り札を皆で考えよー!」

「おー! です!」

「……だからこういうのが嫌なんだよ……」

 

 なぜかみんなで霜ちゃんの切り札を考えるという流れに……

 霜ちゃんは嫌そうに吐き捨てるけど、諦めたように息を吐くだけだった。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 というわけで、みんなで霜ちゃんの新しい切り札を考えることになりました。

 わたしは、カードの知識は乏しいから、あんまり力になれそうにないけど……

 

「じゃあまずは、皆の切り札から見て行こう。まずは小鈴ちゃんから」

「わたしっ? わたしは……《エヴォル・ドギラゴン》は、最初の切り札で、今でもずっと使ってるけど……あとは、《グレンモルト》と《ガイギンガ》、かな」

「ユーちゃんはずっと《キラー・ザ・キル》使ってますよ! 《キル・ザ・ボロフ》もお気に入りです!」

「私は……別に……」

「れんちゃん、《ミラクルスター》使ったり使わなかったりだもんね。というかそれで言ったら、私は《ダンガンオー》封印中なのですけども」

「長良川先輩は、あの……《ジョラゴン》? がいるじゃないですか」

「あー、そっちになるのか」

「私は……」

「実子はいい。わかるから」

「せめて言わせてほしいな!」

 

 そんな感じでまとめてみると、わたしが《ドギラゴン》、ユーちゃんが《キラー・ザ・キル》、恋ちゃんが《ミラクルスター》で、謡さんが《ジョラゴン》、そしてみのりちゃんが《ギョギョラス》。

 

「みんなドラゴンだね」

「しかも進化が多いと来た。ってことは水早君の切り札も進化ドラゴンがいいかな。色はやっぱり青? ちょうど空いてるし」

「空いてるって、なにがだ」

「小鈴ちゃんが赤でしょ、ユーリアさんが黒で、日向さんが白、私が緑で先輩が無色。青色の席だけ空いてるでしょ?」

 

 色っていうのは、デュエマの文明のことだね。

 言われてみれば確かに、わたしたちの切り札はきれいに文明がばらけている。

 

「水文明の進化ドラゴンかぁ、どんなのがいるのかな?」

「《シリンダ》とか? 《ダンテ》投げると強いよ。ちょっと古いけど」

「《ダンテ》、殿堂した……もういない……」

「殿堂……うっ、頭が……」

「この先輩、まだ《ニヤリー・ゲット》の傷負ってるのか」

「《ガンバトラー》が復活しそうって噂を聞いたものだから」

「どうせ緑入り緑入り」

 

 《ガンバトラー》って、確かすごく早く、すごくたくさんのクリーチャーを並べたあのデッキだよね。

 以前、主要なカードが殿堂入りで一枚しか使えなくなっちゃったから、もうそのデッキは使えなくなったって言ってたけど……また、似たような形のデッキを作るのかな。

 

「なら《キリコ》あたりにしとく?」

「《キリコ》か……ボクはあれ、苦手だな」

「そーなんですか?」

「山札の中身を固定して撃つという方法もなくはないが、あれって撃ちたい呪文を絞るのが常道だろう。しかも大抵は《オールデリート》でいいときた。構築を縛るカードは、実はあまり得意じゃないんだ」

「いつも変なデッキ使ってる癖に」

「そこまで変じゃない。ループもしたことはないぞ、ボクは」

「使い回しはするじゃん」

「そのくらい許せ」

 

 と、いくつかカードをピックアップしていくけど、どれもあまり霜ちゃんにはしっくりこなかった様子。

 

「水のドラゴン……他になにかあるかなぁ」

「《超神龍ザウム・ポセイダム》とか? あれ? 《蒼神龍》だっけ?」

「どっちも正解です」

「んー、なーんも思いつかないやー」

「実子、お前もう飽きてきてるだろ」

 

 と、最初は乗り気だったみのりちゃんも、なんだかテーブルに突っ伏してダレてきている始末。

 ぐだぐだになってきました。

 

「もうなにも思いつかないです……」

「長良川先輩や、香取さんたちが思いつかないとなると、私たちではなんとも……」

「そうだよね……霜ちゃんとみのりちゃんと謡さん、それと恋ちゃんだもんね、わたしたちの中でデュエマ詳しいの」

「私はそんなでもないよ。姉ちゃんの教えでちょろっと環境齧ってるくらいだし。ぜんぜん新人」

 

 とは言うけど、デュエマに対して入れ込んだ密度が、わたしと謡さんでは違うからなぁ……

 それはそれとして、みんなが知恵を振り絞ってもなかなかいいカードが思いつかなくなってきているとなると、いよいよ手詰まりだ。

 

「というか、公式サイトのカード検索なりなんなりを使えばいいんじゃないか?」

「つーか、もうなんかどうでもよくない? 水早君は水早君だよ。切り札がどうとか、そんなことに囚われるのはどうかと思うね!」

「それをお前が言うと物凄く腹が立つ」

「香取さんの仰ること自体はもっともですが、始めたことを途中で投げ出すべきではないと、私は思いますよ」

「もっとカードに詳しい人、いないんでしょうか」

「詠さんとか?」

「姉ちゃんは今日は非番だよ」

 

 そうなると……どうしよう。

 この場から、これ以上の発想はない。これ以上の知識はない。

 ならどうすればいいのか。

 方法は、とても簡単だ。

 “この場にいない人の力を借りればいい。”

 

「……ちょっと、待ってて……」

 

 恋ちゃんが立ち上がった。

 小さな手で、携帯を握り締めて。

 

「……しかた、ない、から……あいつに、聞く……」

「あいつ?」

「誰ですか?」

「……いけすかない……メガネ」

「眼鏡?」

 

 誰のこと? と聞く前に、恋ちゃんはわたしたちから少し離れる。

 携帯を耳に当てて、誰かと電話しているみたい。

 

「もしもし……あきら……うん、私……メガネに、用が……そう、あいつ……おねがい……」

 

 いつものようにぼそぼそと、だけど透き通った声でなにやら話している恋ちゃん。

 なんだかいつもと違う感じ……わたしたちと一緒にいる時とも違うし、先輩と一緒にいる時とも違う。一人でいる時とも違う。

 もっと大事な友達――“仲間”に対して、言葉を投げかけるみたいな感じだ。

 

「いいから……言え……早く、しろ……とっとと……そういう、御託、いい……鬱陶しい……これだから、メガネは……」

 

 ……と、思ったけど。

 直後、すごい毒の強い罵詈雑言が聞こえてきた気がする。

 恋ちゃん、いつも歯に衣着せずものを言うけど、なんだか今回はそれ以上というか、いつもよりも毒が強いというか、遠慮がないというか……

 普段の恋ちゃんが「素のまま」で毒を吐くのなら、今の恋ちゃんは「嫌っているから」毒を吐いているみたいな……よく聞こえないから、わからないけど……

 しばらくして、恋ちゃんが戻って来る。

 

「……おまたせ」

「おかえりです!」

「収穫はあった?」

「たぶん……《プラズマ》とか……」

「あぁ、いたね。そんな奴」

「実子。君、以前どこかで使ってなかったか?」

「林間学校の時に見たような……」

 

 《革命龍程式 プラズマ》……だったっけ。

 あんまり詳しくは覚えてないけど、確かカードをドローするような能力だった気がする。

 

「水の進化ドラゴン……革命能力がそれなりにトリッキーだし、まあいいんじゃない? そーくんっぽいと言えばっぽいよ」

「革命は受け身なのが気になるが……ふむ」

 

 少し考え込んでから、霜ちゃんは顔を上げる。

 そしてみのりちゃんに視線を向けた。

 

「ひとつ、思いついた。実子、前に使ってたデッキはあるか?」

「前っていつさ」

「林間学校の時だ。《プラズマ》で《エビデゴラス》龍解させるデッキがあっただろう」

「あー、あれ? 崩した」

「おい」

「あんまり《ギョギョラス》の必要性を感じなかったっていうか? いやまあ、打点上昇とか除去とかでまあまあ便利だったんだけど、枠がキツイというかなんというかね。《ダンテ》が消えちゃったから、リペアじゃないけどまた組み直すのもアリかもしんないけど」

「……そうか」

「なに? なんか必要なカードがあるの?」

「まあね。というか、あれを基盤に、少し弄った構築なんだ」

「ふぅーん。確か《メタルアベンジャー》周りのカードは今あった気がするし、今日だけなら貸してあげる」

「助かる。今日中に無利子で返そう」

「それ、単に今だけ借りるってことじゃない?」

「今からデッキ作るの?」

「組めたらね。どうせならこの場で試したい。誰か相手になってくれないか?」

「それでしたら、私がお願いしてもいいですか?」

 

 とそこで、ローザさんが進み出た。

 珍しい。ローザさんが、自分から対戦を志願するなんて。

 

「ちょうど、前に詠さんからアドバイスを受けたデッキができたところなんです。私も、使用感を試したくて……」

「わかった。じゃあ、ちょっと待ってくれ。実子、カードを貸してくれ」

「はいはーい。じゃあとりあえず《メタルアベンジャー》と……あ、でも肝心の《プラズマ》がないね」

「ボクも持ってない。小鈴たちも、流石に持ってないよね」

「う、うん。ごめんね……」

「まあ、こればっかりは仕方ないな」

「あ、でもジョーカードならある」

「なんでそんなもの持ってるんだ」

「なんかあった。プロキシ用じゃない?」

 

 みのりちゃんが取り出したのは、真っ白なカードだった。

 今まで変なカードはたくさん見てきたから、なにも書かれていないまっさらなカードくらいじゃもうそこまで驚かないけど、あんなカードなにに使うんだろう?

 というか、プロキシってなに?

 

「プロキシっていうのは、要は足りないカードの代わりだよ。手元にないカードの代わりに、別のカードをその足りないカードのようにして使うんだ」

「トランプのジョーカーみたいな?」

「そうだね。本来のカードじゃないから、当然、大会とか公式の対戦では使えない。あくまでテストプレイとか、身内とやる時だけだ。相手の許可を取ることも忘れずにね」

「みのりちゃんは、そのために持ち歩いてたの?」

「いや、そもそも私、持ってないカードでデッキなんて組まないし。私もなんでこんなの持ってるかわからない」

「適当な奴だな。でも、カードがないならそれをプロキシとして使わせてもらおうか。ローはそれでもいいかい?」

「私は構いませんが……」

「? どうかした?」

「いえ、なにも書かれていないというのは……なにか、寂しいですね」

 

 言われてみると、そうかも。

 わたしもこうして直にデュエマに触れてわかったけど、カードゲームって、ただカードの能力で戦うだけじゃなくて、カードのイラスト――絵の迫力や美麗さ、そしてキャラクターとしてのクリーチャーの姿というのも、楽しむ要素なんだ。

 それにわたしは、本物の“クリーチャーの姿”を見ているから、特にそれを感じる。

 ここに描かれているのはただの絵と文字で、インクによる印刷だけど。

 この絵と文字の中にクリーチャーは息づいているんだって。

 物語の中の登場人物と、同じように。

 

「そのままでは味気がないと。成程成程。ねぇ、みのっち?」

「その呼び方やめてください先輩。なんです?」

「そのカード、今後もなにか使う?」

「いやたぶん使わないと思いますけど。プロキシ使わないですし私。むしろ処分に困るくらいで」

「じゃあ少し汚しちゃってもいいよね、あれだったら私が引き取るから……だから、ちょっと借りていい?」

「? まあ、いいですけど」

「ありがとー。んじゃあ、《プラズマ》だっけ? 検索検索、っと」

 

 謡さんがみのりちゃんから真っ白なカードを受け取る。

 そして携帯で一枚のカードイラスト(たぶん件の《プラズマ》だ)の画像を表示させると、ペンを取り出して、そのペン先を白紙の上に走らせた。

 

「なにをしているんですか?」

「お絵描きです?」

「まあそうだね。真っ白で寂しいっていうなら、簡単なイラストでもつけようかなって」

「本来のジョーカードの使い方だな」

 

 あぁ、なるほど。

 ペンを走らせる謡さんの動きはなめらかで、とてもこなれていた。

 って、いうか……

 

「謡さん……絵、上手いですね」

 

 ペン一本で書いているのもあって、元のイラストほどの緻密さや迫力はないとはいえ、即興の模写としては十分すぎるほど上手いと感じた。

 クリーチャーの造形を捉え、特徴を描き出し、白と黒の濃淡だけで陰影を付ける。モノクロカラーのクリーチャーの姿が、浮かび上がってくる。

 それを見ているわたしたちは、思わず息を飲んだ。

 

「これは……本当に上手いな。クロッキーってやつか?」

「先輩って、元美術部とかでしたっけ?」

「残念ながら、生徒会に入る前は帰宅部さ」

「でも、とてもお上手です。なにかやられていたんですか?」

「んー、実は父親がイラストレーターでさ。ペンタブやら液タブやら、買い替えた仕事道具のお下がりを貰って、ちょっと落書きとかして遊んでた時期があったんだよ。最近は生徒会とかであんまり触ってないけど……まあ、そんな感じかな」

「謡さんのお父さんって、イラストレーターだったんですね」

「そうそう。小説の挿絵とか書いたり。なんか前、なんだったかの特典カードのイラストも担当したって言ってたかなぁ」

「……それって……」

 

 恋ちゃんが、か細い声を漏らす。

 少し震えている、なにかを抑え込むような、声で言った。

 

「平坂……浄土……」

「お、知ってるんだ。そうそう、お父さん、イラストレーターの時の名前はそんなんだったな。芸名、じゃないよね。イラストレーターでもペンネームっていうのかな?」

 

 ……平坂浄土?

 あれ、その名前、どこかで聞いたことあるような……うぅん、えーっと……

 

「……あ、お母さんの小説の挿絵を描いてる人……」

 

 思い出した。

 そうだ、お母さんの友達で、お母さんが書いた小説の挿絵を多く担当しているイラストレーター。確かその人の名前が、平坂浄土だったはず。

 あれ? ってことは……

 

「謡さんのお父さんと、私のお母さん……仕事仲間で、友達?」

「え、マジで?」

「は、はい、たぶん……あの、伊勢誘って、知ってますか?」

「あぁ、知ってる知ってる。お父さんの友達っていうか、酒飲み仲間みたいな人でしょ? その人の小説も読んだことあるよ。凄い可愛らしいキャラクターと、わかりやすいのに奥深い文章と話作りだったなぁ」

「それ……わたしのお母さんです……」

「おぉう、そうだったんだ。そっか、伊勢ってそういう……そっちは本来の苗字のままだったんだ」

 

 合縁奇縁……本当に、奇妙な繋がりだ。

 謡さんのお父さんと、わたしのお母さん。知らないところで、わたしたちの身近な人たちが繋がっていたなんて……

 これには驚いた。けど、それ以上に驚き、反応を見せたのが……

 

「こすず……よう……」

「こ、恋ちゃん? ど、どうした?」

「れんちゃん、なんか目がギラギラしてて怖い……って、うわっ?」

 

 ガッ、と恋ちゃんに腕を掴まれて引かれる。

 え? な、なに?

 わたしよりも非力だから、痛いとかはないけど……毒は吐いても暴力に訴えることのない、口は汚くても基本的に大人しい恋ちゃんが、なにか荒ぶっている様子に、わたしは狼狽えてしまう。

 でも、どうしたんだろう。恋ちゃん、震えてる……?

 恋ちゃんはギラついた眼で、わたしたちを――特にわたしを、じぃっと睨むように見据えて、わなわなと震えた唇から、か細い声を、絞り出す。

 

「その、話……くわしく……!」

「え?」

「私……ファン、で……その……伊勢、誘、の……だ、から……」

 

 恋ちゃんはどうも、必死にわたしに語りかけている。必死というか、焦ってるというか。

 いつも言葉が少ない恋ちゃんだけど、これはなんていうか、恋ちゃんなりに捲し立てているんだと思う。余計に言葉足らずになっちゃってるけど。

 だから、えぇっと。

 

「……つまり?」

「……サイン……ほしい……です」

 

 そういうことらしいです。

 好きな作家のサインが欲しい。とてもわかりやすい。

 けど、

 

「えっと……でも、わたし、その……お母さんから、小説家ってことはあんまり口外しないようにって、言われてて……」

「まあ、そうだよな。今話題の売れっ子作家だ。住所が割れてファンがこぞって家に押し寄せてきたら、たまったものじゃないものな」

「あー、だから会長、教えてくれなかったんだ」

「だから、その……ごめんね……?」

「そこをなんとか……!」

 

 ギュッと手を握って、懇願する恋ちゃん。

 こんなに必死な恋ちゃんは、はじめて見たかもしれない。

 友達としては、できるだけ恋ちゃんのお願いは聞いてあげたいけど……これは、どうしよう。

 うーん……

 

「……じゃあ、家に帰ったらお母さんに聞いてみるよ」

「ありがとう……お礼に……今度、つきにぃ、貸す……一日くらい」

「えっ!?」

「恋。自分の欲望のために先輩を売るな。というかそれは小鈴にとって得なのか?」

「まあ得なんじゃない?」

「じゃあ……そういうことで……」

「ちょ、ちょっと待って! っていうか、まだ決まってないからね!?」

 

 お母さんが許可してくれるかどうか……まあ、お母さんはマイペースというか、わりとなんでもオッケーしちゃうから、友達一人にサインするくらいなら、許してくれそうな気もするけど……

 

「しかし、なんだかボクの切り札云々とかどうでもよくなるくらい盛り上がってるな」

「別に水早君の切り札に興味ないしね」

「おいお前」

「で、水早君のご両親はなんのお仕事しているの?」

「話題の転換が急だな」

「話の流れには沿ってるよ」

「……別に、父親は普通のサラリーマン、母親は専業主婦だ。ボクも詳しくは知らないけど、電機メーカーに勤めているとかなんとか」

「へー」

「本当お前はなんなんだよ!」

 

 デッキを組んでいる二人からも声が聞こえてくる。

 あんまり気にしたことないけど、みんなのご両親がなにをやっているのかは、確かにちょっと気になるかもしれない。

 

「みのりちゃんは一人で暮らしてるけど、やっぱりご両親はお仕事?」

「そうだねぇ。大体は外国にいるよ」

「外国! なにやってるの?」

「ツアーガイド、カメラマン、リポーター、通訳……まあ、なんか色々やってるっぽいです。私も詳しく知らないですけど」

 

 素っ気なく言うみのりちゃん。なんだか、いつもよりも淡々としているというか、あえて感情を込めずに言っている感じがする。

 ……気のせい、かな。

 

「はぇー、多芸だね。うちの父親とはえらい違いだ」

「一芸特化も強いんじゃないんですか? 知りませんけど」

「大抵の人間は、鍛えられる芸は一つが限界だしね。多芸は武器だが習熟度が伴わなければ。大学教授とかなら、その道を貫けばよかろうが」

「あ! ユーちゃんのVatiです!」

「? なに? なにが?」

「えっと、私たちのVati……お父さんが、教授……というか、文学者なんですよ」

「おぉ、お偉いさんじゃん」

 

 文学者……すごいなぁ。

 文学、文芸と言えばお母さんの専門だけど、お母さんは物語を“紡ぐ”側。

 その物語を“研究”する人とは違う。

 

「ドイツ文学か。グリム童話くらいしか知らないな」

「あ、いえ。日本文学です。日本文学の研究をしています」

「え? どうして?」

「昔はドイツの文学を研究していたらしいんですが、途中で日本文学の研究に転向したらしくて……その辺の詳しい経緯は私たちもよく知らないんですが……」

 

 そういえばこの前――ユーちゃんとローザさんがケンカして、ユーちゃんが家出した時――お母さんは二人のお父さんと電話で話したんだっけ。確か日本語がペラペラだって……

 

「日本人が外国文学を研究するなら、ドイツ人が日本文学を研究しててもおかしくはない、のか?」

「Ja! Vatiに日本のメルヒェンもいっぱい読ませてもらいましたよ!」

「普通にドイツのお話も多かったですけど……私たち、実はドイツにいた頃から、日本語に触れていたんですよ」

「あぁ、だから二人とも、そんなに日本語が上手いんだね。うちの学校、日本人とのハーフの人とかは多いから皆日本語は結構ペラペラだけど、日本人の血が一切混じってないのにそんなに喋れるのは、どうしてかなって思ってたんだよ」

「昔から少しずつでも触れていたお陰で、抵抗感なくこの国の言葉を受け入れられたというのは、あるかもしれませんね」

 

 なるほど……ユーちゃんたちの謎がひとつ解けました。

 ユーちゃん、勉強嫌いなわりに日本語がちゃんと習得できたのはどうしてだろうと思ってたんだけど、そもそも二人には日本語を吸収する土台が既に出来上がっていたんだね。

 

「――さて、急ごしらえだが、デッキが完成した」

「こっちも描き終ったよん」

 

 というところで、霜ちゃんのデッキが組み上がったようだ。

 

「待たせたね。それじゃあ、始めようか」

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 というわけで始まりました。霜ちゃんとローザさんの対戦。

 マナを見る限り、霜ちゃんのデッキは水と自然。ローザさんのデッキは光文明……みたいだけど、なんだか見慣れないカードばかりだ。あれは呪文……なのかな?

 

「《ハヤテノ裁徒(サバト)》を召喚します。ende」

「ボクのターン。2マナで《電脳鎧冑アナリス》を召喚。自爆して1マナ加速、ターンエンドだ」

 

 

 

ターン2

 

 

ローザ

場:《ハヤテノ裁徒》

盾:5

マナ:2

手札:3

墓地:0

山札:29

 

 

場:なし

盾:5

マナ:3

手札:4

墓地:1

山札:27

 

 

 

「私のターン、ドロー……ここは、《戦慄のプレリュード》をチャージします」

「《プレリュード》……?」

「《ハヤテノ裁徒》の能力で、各ターン最初に唱える呪文のコストを1減らします。1マナで《トライガード・チャージャー》。私のシールドを一枚手札に加えて、手札を一枚シールドに置きます。チャージャーをマナに置いて、endeです」

 

 ローザさんがマナに置いたカードを、訝しげに見る霜ちゃん。

 《戦慄のプレリュード》って、確か無色クリーチャーのコストを下げる呪文だったよね。

 でもローザさんのデッキはほとんど光文明だし、謡さんのように無色カードが主体というわけでもなさそう。

 

「少し時代遅れだが、面倒なデッキだな……ボクのターン。ふむ、打点が欲しいけど、手札が偏り気味だし、ここは探しに行こうか。《クロック》をチャージ、4マナで《ライフプラン・チャージャー》を唱える。山札から五枚見て、《龍覇 メタルアベンジャー》を手札に。残りは山札の下に置いて、チャージャーはマナへ。ターンエンドだよ」

「お互いに2→4マナの動きでチャージャーとか」

「仲良しさんですね!」

「……そういう、こと……?」

 

 

 

ターン3

 

 

ローザ

場:《ハヤテノ裁徒》

盾:5

マナ:4

手札:2

墓地:0

山札:28

 

 

場:なし

盾:5

マナ:5

手札:4

墓地:1

山札:25

 

 

 

「私のターン。2マナで呪文《剣参ノ裁キ》を唱えます」

 

 ん? なんだろう、あの……呪文?

 なんだか、他のカードと絵柄がちょっと違うような……?

 

「山札の上から三枚を見て、その中から《憤怒スル破面ノ裁キ》を手札に加えます。その後、シールドに表向きで張り付けます」

 

 さらにローザさんは、そのカードをシールドの上に、置いた……?

 

「なにあれ?」

「裁きの紋章だね。唱えた後、墓地に行かず、シールドの上に乗るんだよ」

「城みたいですね」

「城と違って、基本的にシールドに貼り付いているだけじゃ効果はないけど、ブレイクされたら手札に戻るんだ」

「ということは、何度でも使えるんですね!」

「シールドがないと墓地に行っちゃうけどね」

 

 唱えた後にシールドに乗る、そんなカードもあるんだね。

 何度も使える呪文……なんだか迂遠な気もするけど。

 それとも、シールドにあることに、なにか意味があるのかな……?

 よく見れば、マナに見えるのもほとんど裁きの紋章だし……

 

「続けて2マナ、《憤怒スル破面ノ裁キ》! 一枚ドローします。そしてこれでも裁きの紋章、《剣参ノ裁キ》と同じシールドに貼り付けます。これでende」

「ボクのターン……これは、次のターンには出て来るな。その前に決めてしまいたいところだったけど、先手が取れなかったのだから仕方ない。4ターン目に出て来なかっただけマシと思うか」

 

 霜ちゃんはローザさんのデッキに見当がついているようで、苦しそうに呻く。

 けれど、次になにが来るのかがわかっていても、それに対応する術があるとは限らない。

 

「とりあえずボクは、ボクのできることをするしかない。マナチャージ、6マナで《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚! 超次元ゾーンから《龍波動空母 エビデゴラス》を設置! これでターンエンドだ」

 

 

 

ターン4

 

 

ローザ

場:《ハヤテノ裁徒》

盾:5(「《破面》《剣参》」)

マナ:5

手札:2

墓地:0

山札:25

 

 

場:《メタルアベンジャー》《エビデゴラス》

盾:5

マナ:6

手札:3

墓地:1

山札:24

 

 

 

「私のターン。マナチャージして、私も6マナを支払います」

「来るか……問題は“どっち”なのかだが……」

 

 顔をしかめる霜ちゃん。

 ローザさんの雰囲気からも、ここでローザさんの切り札が出て来ることは想像に難くない。

 そうして、現れたのは――

 

 

 

「《DG~ヒトノ造リシモノ~》を召喚!」

 

 

 

 ――巨大な龍の瞳だった。

 いや、いや。そうじゃない、かもしれない。

 その目玉は宝玉のようで、それを水晶のような大爪が覆っているかのようだ。

 あるいは、その目玉は龍に飲み込まれているようにも見える。

 

「む、そっちか。ということは、《トライガード》は……」

「《DG》の能力発動です! 登場時、お互いのシールドをブレイクします!」

「自分のシールドもブレイクしちゃうの?」

「そうだね。と言っても、アレは自傷をメリットに変えちゃうから、大した問題じゃないんだよ」

「メリット?」

「私がブレイクするのは、裁きの紋章が二枚乗ったシールド。そして《DG》の能力で、私のメタリカと裁きの紋章はすべて、S・トリガーを得ます。よって、S・トリガー発動!」

 

 自分のカードにS・トリガーを与える……裁きの紋章がシールドに張り付くのは、そういう意味もあったんだ。

 自分で自分のシールドをブレイクして、そのS・トリガーを使うコンボ。

 しかも、ローザさんがブレイクしたシールドは、《トライガード・チャージャー》で追加したシールドだ。

 

 

 

「S・トリガー発動――《煌世の剣 メシアカリバー》!」

 

 

 

 それは、煌びやかで輝かしい、長大な剣。

 鍛えられた刀のような刃ではなくて、まるで水晶の塊から削り取ったかのような、一振りの大剣だった。

 

「二枚目の切り札……というより、それを使うための《ヒトノ造リシモノ》か」

「さらに裁きの紋章も二枚、S・トリガーで唱えます。《剣参ノ裁キ》! 《憤怒スル破面ノ裁キ》!」

「し、S・トリガーが三枚も……」

「しかもS・トリガーは手札から使用する扱いになるから、裁きの紋章がシールドに貼り付く」

 

 るまりシールドがある限り、ローザさんはS・トリガーで延々と裁きの紋章を唱えられるということ。

 裏向きになっている他のシールドも、裁きの紋章であればS・トリガーになる。それに見たところ、ローザさんのデッキはほとんどが裁きの紋章みたいだし、高確率でS・トリガーなはず。

 これじゃあ、迂闊に攻撃できないよ……

 

「まだ終わりませんよ。私のシールドにカードが追加されたことで、《メシアカリバー》の能力も発動します。次の私のターンまで、《メシアカリバー》は場を離れません」

「……ボクはノートリガーってことにしてくれ」

「霜さん、それ使わないんですか?」

「ここで使っても仕方ないからね。手札に持っておくよ」

「? 私はこれでende、です」

 

 なんだろう……霜ちゃん、なにかあるようだったけど……

 よくわからないまま、霜ちゃんにターンが移る。

 

「やれやれ厄介なことになった。これなら《サッヴァークDG》の方が、幾分かマシだったかもね。盾のほぼすべてがトリガーだなんて、やってられないよ」

 

 ふぅ、と霜ちゃんは嘆息する。

 だけど、諦めている様子でも、絶望している風でもなかった。

 

「しかしまあ、こんなデッキだ。前に進まなければ、それこそ話にならない。ボクのターン、まずは《エビデゴラス》の効果で追加ドロー、その後通常ドローだ」

 

 カードを普通よりも一枚多く引いて、霜ちゃんは迷わず手札を二枚引き抜いた。

 そして、片方をマナに落とすと、それらすべてを横に倒して、もう一枚を繰り出す。

 

「7マナで《メタルアベンジャー》を進化!」

 

 それは、既に場にいたクリーチャーの上に重なる。

 

 

 

「《革命龍程式 プラズマ》!」

 

 

 

 いつか見た、水晶のような龍。

 霜ちゃんが新しく、自分の切り札と定めたカードだ。

 

「《プラズマ》の能力で、登場時に四枚ドロー! そして、このドローでボクはカードを五枚引いたことになる。よって《エビデゴラス》を《最終龍理 Q.E.D.+》に龍解!」

 

 バトルゾーンに鎮座する要塞は変形し、クリーチャーとなる。

 さらに、

 

「ボクはこのターン、《エビデゴラス》の追加ドローと通常ドローで二枚、《プラズマ》で四枚、合計六枚のカードを引いた。よってG・ゼロ達成、《天災超邪 クロスファイア 2nd》を召喚!」

 

 大量に増えた手札から、新たに援軍が放たれる。

 一気にWブレイカーが三体。ここまでは、以前見たみのりちゃんのデッキと、ほぼ同じ流れだけど……

 

「さて、どう攻めるか悩むが……とりあえず《プラズマ》から攻撃だ」

「《メシアカリバー》でブロック……」

「させないよ。《Q.E.D.+》の能力で、ボクの水のドラゴンはすべてブロックされない。紋章がついているとこを含めて二枚をブレイクだ!」

「っ、でも、S・トリガーは使えます! S・トリガー! 《ハヤテノ裁徒》《剣参ノ裁キ》《憤怒スル破面ノ裁キ》! そして、シールドから手札に加わった二枚目の《憤怒スル破面ノ裁キ》を捨てて、サバキZを発動! 《刻鳥ノ正裁Z》!」

「サバキZ?」

「S・バックみたいなもんだよ。シールドから手札に加わった裁きの紋章を捨てて、手札から使うの」

 

 実のところ、S・バックってあんまり使われたことないからピンとこないけど……使った後、シールドに張り付く裁きの紋章と相性がいい能力なんだろうな。

 シールドがブレイクされた時に使えるのなら、それを防御に利用してシールドを守る。シールドが守られれば裁きの紋章は維持できる。そして、サバキZとして使った裁きの紋章も、シールドへと張り付く。

 お互いの性質がものすごく噛み合っている、ということは理解できた。

 

「《刻鳥ノ正裁Z》で《Q.E.D.+》をタップ! 次のターン、アンタップしません!」

「攻撃続行! 《クロスファイア 2nd》で攻撃! その時、手札から《龍装者 バルチュリス》を宣言。さらに侵略も発動だ!」

「し、侵略……!?」

 

 前にみのりちゃんは、霜ちゃんが今使っているデッキと似たデッキで、《プラズマ》を《ギョギョラス》に侵略して攻撃力を高めていた。

 《ギョギョラス》の侵略条件はコスト6以上の革命軍、そしてコマンド。だけど、《クロシファイア 2nd》は革命軍でもコマンドでもない。

 それなら、ここで侵略するクリーチャーは……?

 

「侵略――《革命類侵略目 パラスキング》!」

 

 緑色のカード――だけど、《ギョギョラス》じゃない。

 なんだか名前が少しだけ似ているような気もするけど、まったく別のカードだ。

 

「あれは……」

「《パラスキング》だね、見たことない?」

「えぇっと……」

「コスト5以上のクリーチャーから侵略、《パラスキング》をバトルゾーンにだすよ。これで一点上昇だ」

「《ギョギョラス》じゃないのかー」

「入れてないんだから当然だ、知ってるだろ。正直、この状況では《ギョギョラス》の方が嬉しかったけどね。さぁ、《パラスキング》で攻撃だ! 残りのシールドを薙ぎ払うよ」

 

 ローザさんのシールドは残り三枚。《パラスキング》はTブレイカー。

 シールドがなくなれば、もう裁きの紋章を張り付けることはできなくなるから、一気に霜ちゃんに形勢が傾くはず。

 この一撃は重い。凄まじい痛打となるはず。

 ――その攻撃が通れば、の話だけど。

 

「……私には、表向きの裁きの紋章が三枚あります」

「!」

 

 刹那、霜ちゃんがビクッと身体を震わせ、目を見開く。

 《剣参ノ裁キ》《憤怒スル破面ノ裁キ》《刻鳥ノ正裁Z》。ローザさんのシールドに張り付けられた紋章は、三枚。

 ローザさんはこれらすべてを――“裏返す”。

 

「三枚の裁きの紋章を裏向きにして、能力発動。このクリーチャーをバトルゾーンへ――」

 

 そう宣言した、次の瞬間――

 

 

 

「――《煌世主(ギラメシア) サッヴァーク(カリバー)》!」

 

 

 

 ――煌めく救世主が、降臨した。

 いつか見た《煌龍 サッヴァーク》と似た姿――というより、名前からして、きっと同一の存在。

 けれどそれよりもずっと輝かしく、神々しい龍だ。

 水晶の如く澄み切った、煌めく鎧。両手には二振りの大剣――《メシアカリバー》を握っている。

 

「おぉ、切り札の三段構えとはやるねぇ、ローザちゃん」

「い、今のは……?」

「《サッヴァーク†》は相手から攻撃を受けた時、裁きの紋章三枚を裏向きにしたら手札からタダ出しできるんだよ」

 

 裁きの紋章を裏向きに……そんな利用方法もあるんだ。

 最初は繰り返し使える呪文くらいにしか思っていなかったけど、裁きの紋章って、こんなにも多角的に活用できるんだ……すごいや。

 それよりも今は、いきなり現れた《サッヴァーク†》だ。

 

「《サッヴァーク†》でブロック! こちらはパワー17000、パワー14000では敵いませんよ!」

 

 ニンジャ・ストライクの如く現れた巨大な水晶の壁。そこに、霜ちゃんのクリーチャーが突っ込んでいく。

 攻撃中の《パラスキング》のパワーは14000、一方《サッヴァーク†》のパワーは17000。

 このままブロックされたら、《パラスキング》は為す術なく《サッヴァーク†》に破壊されてしまう……けれど。

 

「ちょっと想定外だったものだから、少しばかり驚いたけど……そもそもそのバトルは成立しないよ」

「え……?」

 

 霜ちゃんには焦りも動揺も見られない。

 ローザさんの第三の切り札、《サッヴァーク†》が現れても、そんなものは問題ではないと言わんばかりだ。

 

「《パラスキング》の能力発動だ。ボクのクリーチャーは、すべての文明を得る」

「え? は、はい……文明を得る……? それが、なんだというのですか……?」

 

 いくら文明が追加されたって、それでパワーが上がるわけでも、《サッヴァーク†》を倒せるわけでもない。

 だけど、その能力は今、この時、なによりも輝きを放つ。

 

「わからないか。なら、もう一度、丁寧に言おう。《パラスキング》の能力は全体染色。そしてその効果範囲は、《パラスキング》自身にも及ぶ。よって今この時、《パラスキング》は自然文明でありながら、同時に光文明でも、闇文明でも、火文明でも、そして“水文明”でもある。ついでに《パラスキング》はジュラシック・コマンド・“ドラゴン”だ」

「……あっ」

 

 そこまで言われて、わたしも気づく。

 そうだ。ついさっきもそうだった。

 今、霜ちゃんの場には、あのクリーチャーがいる。

 

 

 

「今の《パラスキング》は水のドラゴンという条件を達成している、《Q.E.D.+》の能力でブロックはできない!」

 

 

 

 《パラスキング》の攻撃を防ごうとする《サッヴァーク†》だけど、その身に触れることはできない。

 透明な水晶に光が通過するように、《パラスキング》は《サッヴァーク†》を透過して、そのままシールドを打ち砕く。

 

「そ、そんな……」

「それともう一つ。この攻撃の終わりに出てくる《龍装者 バルチュリス》もドラゴンギルド、つまりドラゴンだ。そしてこいつも《パラスキング》で全文明に染色される」

「後出して出てくるアンブロッカブルのSAかぁ。エグいねー、水早君。そんなの止めようがないよ」

「除去、無理……タップ、無理……攻撃、止めるトリガー、効かない……となると……」

 

 《バルチュリス》? っていうのはよくわからないけど……なんにしても、霜ちゃんには追撃の手がある様子。

 ローザさんは三体の切り札を並べて、万全の状態のはずだけれど。

 霜ちゃんの場も、相手を倒し切るのに十全な状態。

 このままローザさんは押し切られちゃう……のかな。

 砕かれた三枚のシールド。その中には裁きの紋章がある。そしてそれはS・トリガーになっているけれど。

 それで、攻撃を止められるのか、どうか。

 

「……S・トリガーです」

 

 シールドには既に、《剣参ノ裁キ》《憤怒スル破面ノ裁キ》《刻鳥ノ正裁Z》が張り付けられているから、S・トリガーは確定している。

 そして、それ以外のS・トリガーは――

 

 

 

「唱えます――《命翼ノ裁キ》!」

 

 

 

 ――あった。

 そしてそれは、攻撃を止めたり、クリーチャーを除去するカードではない。

 

「《命翼ノ裁キ》の効果で、シールドを一枚追加! そしてその上に、この裁きの紋章を乗せます」

 

 それは、守りを固める呪文。

 新しいシールドを追加して、追撃を防ぐ手立てとする。

 これでローザさんは、あと一回は攻撃を防げるってことになるのかな。

 

「続けてS・トリガー! 《刻鳥ノ正裁Z》! 《憤怒スル破面ノ裁キ》! 《剣参ノ裁キ》二枚! 《刻鳥ノ正裁Z》で《パラスキング》をタップ! 《憤怒スル破面ノ裁キ》で一枚ドロー! そして《剣参ノ裁キ》二枚で、山札から《ヒトノ造リシモノ》と《メシアカリバー》を手札に!」

「……攻撃の終わりに、《バルチュリス》をバトルゾーンに」

 

 手札から、攻撃前に宣言したクリーチャーが現れる。

 火文明のクリーチャーだ。ネズミっぽく見えるけど、ドラゴンなんだね。

 

「さて、困ったな」

 

 ふぅ、と霜ちゃんは嘆息した。

 

「《ヒトノ造リシモノ》があるから、当然積んでいるとは思っていたけど……それがシールドに埋まってしまっていた。となると、どうするか」

 

 霜ちゃんはなにか困っている様子だ。

 どうしたんだろう?

 

「水早君、これ……詰んだ?」

「このデッキに《ラフルル》はない。《ダンテ》も積んでいないから、《チャフ》も当然ない。《M・A・S》は入ってるから一応、処理できないこともないけど、ローは二枚目の《ヒトノ造リシモノ》を回収してるし、半ば詰んでいるね」

「? どーゆーことです?」

 

 詰んでいる、というのは、勝てない状況にある、ということ。

 ここからではどうしたって勝てない。

 みのりちゃんは、霜ちゃんは、今の状況をそう判断した。

 その理由は……

 

「《ヒトノ造リシモノ》の能力で、裁きの紋章はすべてS・トリガーと化す。そして《命翼ノ裁キ》は、シールドを一枚増やす裁きの紋章だ」

「要は《ヒトノ造リシモノ》がいる限り、《命翼ノ裁キ》は常時S・トリガーになるわけだね。シールドを追加するS・トリガー、しかもそのトリガーは使った後にシールドに乗って繰り返し使えるときた。つまり?」

「……シールドが、減らないです?」

「その通り」

 

 霜ちゃんは涼しい顔で言っているけど、シールドが永遠に供給され続けるって、それはものすごいコンボなんじゃ……

 《ヒトノ造リシモノ》を除去するか、《命翼ノ裁キ》を使わせないようにするかしないといけないけど、霜ちゃんは今のデッキじゃそれはできない、らしい。

 だから霜ちゃんは、詰んでいる(勝てない)、と宣言したのだろう。

 事実上の敗北宣言――投了だ。

 

「……まあ、埋まっていたものは仕方ない。けど投了はしない。これも相手への礼儀だ。一応、できることは全部やって、最後まで全力でやるさ。《バルチュリス》でシールドをブレイクだ」

「S・トリガー、《命翼ノ裁キ》、そして《刻鳥ノ正裁Z》《憤怒スル破面ノ裁キ》《剣参ノ裁キ》!」

 

 《ヒトノ造リシモノ》の能力で、裁きの紋章が重ねられたシールドから、新たな裁きの紋章がまとめて唱えられる。

 シールドを増やす《命翼ノ裁キ》、クリーチャーを拘束する《刻鳥ノ正裁Z》、そして手札を増やす《憤怒スル破面ノ裁キ》《剣参ノ裁キ》が二枚ずつ。

 普通に考えると、S・トリガーが六枚ってすごいね……

 

「ターンエンドだ」

 

 

 

ターン5

 

 

ローザ

場:《ハヤテノ裁徒》×2《ヒトノ造リシモノ》《メシアカリバー》《サッヴァーク†》

盾:1(「《破面》×2《剣参》×2《命翼》《刻鳥》」)

マナ:6

手札:10

墓地:1

山札:11

 

 

場:《プラズマ》《パラスキング》《バルチュリス》《Q.E.D.+》

盾:4

マナ:7

手札:5

墓地:1

山札:18

 

 

 

「えっと、ここは……3マナで《暴輪ノ裁キ》! 次の私のターンまで、《DG》は選ばれず、すべてのバトルに勝ちます!」

「そっちもあったか。これで、《M・A・S》で一時的に退かす線もなくなったな」

「さらに3マナで《戦慄のプレリュード》! 1マナで《DG~ヒトノ造リシモノ~》を召喚! 能力でお互いのシールドをブレイク!」

 

 二体目の《ヒトノ造リシモノ》が現れる。

 S・トリガーを付与する《ヒトノ造リシモノ》が二体。《暴輪ノ裁キ》で選ばれなくもなるし、本格的に《ヒトノ造リシモノ》を退かすことが……S・トリガーを無力化することができなくなってしまった。

 つまり、《命翼ノ裁キ》を封じることができなくなった。

 そしてもちろん、他の裁きの紋章も。

 《ヒトノ造リシモノ》が現れたことで、二人のシールドが同時にブレイクされる。当然、ローザさんの残り一枚のシールドからは、大量の裁きの紋章がトリガーする。

 

「S・トリガー発動です! 《命翼ノ裁キ》《剣参ノ裁キ》《憤怒スル破面ノ裁キ》が二枚に、《暴輪ノ裁キ》《刻鳥ノ正裁Z》! 《暴輪》で《ヒトノ造リシモノ》を選択して、《刻鳥》は《バルチュリス》をタップ、シールド追加してドローして……」

「あ、ちょっとローザちゃんっ」

 

 大量のS・トリガーを使用するローザさんを、謡さんが制する。

 

「やりすぎ厳禁。デッキなくなるよ?」

「ちょっとせんぱーい、対戦中にアドバイスとか横槍はよくないですよー?」

「ボクは構わないよ。どうせカジュアルな対戦だしね」

「でも今の情報、水早君的にはアウトじゃない?」

「……ま、君なら気付くか。なに、どうせ細い勝ち筋だったのが多少現実的になっただけだ。勝って儲けものって程度だよ」

「まあなんにしても、あんまりドローしても、その手札使いきれないでしょ? 使いきれない手札を増やしても仕方ないし、デッキがなくなったらシールドが残ってても負けちゃうよ?」

「そ……そうですね。できることはすべて行い、全力を尽くすことが礼儀だと水早さんが仰っていたのでそれに倣いましたが……それで負けてしまえば本末転倒、ですか」

 

 見ればローザさんの山札の枚数は残り僅か。

 そしてわたしも気づく。

 《ヒトノ造リシモノ》と《命翼ノ裁キ》のコンボは、確かに強力だ。

 だけど、《命翼ノ裁キ》は山札からのシールド追加で身を守る呪文。

 つまり山札の残数までしか、シールドを追加できない。

 上限は山札が尽きるまで。そして山札が尽きれば、ルールとしてローザさんが敗北する。

 シールドを割り切ってとどめを刺すことはできないけれど、ローザさんの山札が尽きるまで、ローザさんからの反撃を耐えきることができれば、霜ちゃんにも勝ちの目がある。

 

「耐久仕掛けたのはローザちゃんの方なのに、ここに来てそーくんが耐える側に回るとはね」

「山札、残り、少ない……数ターン、しか、もたない……」

「でも大丈夫です。このターンで勝ちますので」

(負けフラグだ)

 

 自信満々なローザさんは、自分のクリーチャーに手をかける。

 

「一応、バトルゾーンを少しでも減らしておきましょう。《メシアカリバー》で《バルチュリス》を攻撃です!」

「《バルチュリス》は破壊されるね」

「次に《ヒトノ造リシモノ》で……えーっと、じゃあ、《パラスキング》を攻撃! お互いのシールドをブレイクします! 今回は、裁きの紋章が乗っていないシールドをブレイクします。S・トリガーは……一応、使います。《魂穿ツ煌世ノ正裁Z》、《Q.E.D.+》をシールドに磔にします」

「龍回避で《エビデゴラス》に戻るよ。こっちにトリガーはない」

「《メシアカリバー》の能力発動です。私のシールドが離れたので、アンタップします。《ヒトノ造リシモノ》で攻撃続行です! 《暴輪ノ裁キ》の効果で、《ヒトノ造リシモノ》はすべてのバトルに勝ちます!」

「ふむ……受けよう。《パラスキング》はバトルに負けて破壊される」

 

 無敵状態の《ヒトノ造リシモノ》に一方的に破壊される《パラスキング》。

 ローザさんは鉄壁の布陣を敷き、霜ちゃんのクリーチャーはすべて封じ込められる。

 そしてじりじりと、シールドも、クリーチャーも、削り取られていく。

 

「これで終わらせます! 《メシアカリバー》で攻撃! Wブレイク――」

「待った。《プラズマ》の革命2発動だ」

「か、革命……?」

 

 革命……シールドが二枚以下の時に発動する能力だ。

 霜ちゃんのシールドはちょうど残り二枚。《ヒトノ造リシモノ》でちょっとずつ削られた結果だ。

 だけどそのじわじわした削りによって、革命が発動した。

 窮地に追い詰められた者の、反逆の狼煙が上がる。

 

「こいつを処理されたらどうしようかと冷や冷やしたが、《ヒトノ造リシモノ》から突っ込んできてくれて助かった。《プラズマ》の革命2で、相手の攻撃時、ボクの手札からS・トリガーを使うことができる」

「手札から、S・トリガーを……?」

「あぁ。《終末の時計 ザ・クロック》召喚。君のターンは終わりだ」

「えっ!?」

 

 ターンが飛ばされて、ローザさんは強制的に攻撃を止められてしまう。

 

「霜さん、それ、さっき使わなかったやつです?」

「そうだね。あそこで出すよりも、《プラズマ》が残った時のための保険とした方が良かったと思ってキープしたが……正解だったようだ」

 

 霜ちゃんには手札が大量にある。そして、《プラズマ》の能力で手札からどんなS・トリガーも使うことができる。

 ローザさんは攻撃するたびに、霜ちゃんの手札も警戒しなければならない。だけど、ローザさんの山札は残り僅か。

 決して長くない制限時間の中、霜ちゃんは粘りを見せた。

 

「ちなみにボクは《クロック》をまだ一枚しかマナに置いていない。そしてこのデッキは《クロック》を四枚入れた。君のデッキは、残り何枚だ?」

「……四枚です」

「なら競争だな。ボクが《クロック》を手札に引き込めないまま殴り殺されるのが先か、君が山札を引き切って自滅するのが先か」

「チキンレースか。面白くなってきたねぇ」

 

 ローザさんは、残り四枚の山札がなくなる前に霜ちゃんのシールドを割り切って、とどめを刺さなくてはならない。

 霜ちゃんは、ローザさんの山札が切れるまで、《プラズマ》を保持しつつ《クロック》でローザさんの攻撃を防がなくてはならない。

 まさか、こんなすごいギリギリの対戦になるなんて……

 

「ボクのターン、《エビデゴラス》の能力で追加ドローしてから、通常ドロー。4マナで《ライフプラン・チャージャー》。《クロック》を手札に加える」

「うわ、水早君やらしっ」

「ボクだってギリギリなんだよ。2マナで《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》を召喚、能力は使わない。次に《母なる星域》を唱えて、《幻緑の双月》をマナへ、マナの《プラズマ》を《クロック》から進化! 四枚ドローして、《エビデゴラス》を《Q.E.D.+》に龍解! G・ゼロで《クロスファイア 2nd》を召喚!」

 

 大量の手札から、霜ちゃんは流れるように前のターンに“攻め込んだ時”とほぼ同じ状況に復元する。

 

「《クロスファイア 2nd》で攻撃する時、《パラスキング》に侵略だ! シールドをブレイク!」

「こ、攻撃してくるなんて……」

「耐久を仕掛けてくると思ったかい? 残念ながらボクには君のクリーチャーを退かす手段はない。だけどボクが殴ることで君の山札の減りは早くなる。殴るリスクに対してメリットが上回るのなら、耐久勝負でだって殴るさ。それで、どうする?」

「……S・トリガー」

 

 ローザさんは《ヒトノ造リシモノ》でトリガー化した裁きの紋章を唱える。けれど、そこで手を止めた。

 額に汗を滲ませて、深く考え込んでいるようだ。

 

(《命翼ノ裁キ》を使ったら山札が一枚減ってしまう……でも、シールドがなければ、《刻鳥ノ正裁Z》を唱えても墓地に行ってしまうし……山札は残り四枚で、次にドローしたら三枚で、ここでシールドを増やしたら二枚……水早さんはまだ《クロック》があって、えーっと、えっと、えと……)

 

 傍から見てもわかるくらい、ローザさんは目を回している。

 どうすればいいのか、なにが最善なのか、わからなくなっている様子だ。

 気持ちはわかる。ピンチの時って、パニックになっちゃうよね。

 しばらく目を回しながら考えて、ローザさんは三枚の裁きの紋章を公開した。

 

「め……《命翼ノ裁キ》を唱えて、シールドを増やします。さらに《刻鳥ノ正裁Z》二枚で、《プラズマ》と《Q.E.D.+》を、タップ……!」

「これで攻撃できなくなったね。ターンエンドだ」

 

 

 

ターン6

 

 

ローザ

場:《ハヤテノ裁徒》×2《ヒトノ造リシモノ》×2《メシアカリバー》《サッヴァーク†》

盾:1(「《刻鳥》×2《命翼》」)

マナ:7

手札:18

墓地:2

山札:3

 

 

場:《プラズマ》×2《パラスキング》×1《Q.E.D.+》

盾:2

マナ:9

手札:7

墓地:5

山札:11

 

 

 

「私のターン……《ハヤテノ裁徒》を召喚して、合計3マナ軽減、1マナで《刻鳥ノ正裁Z》! 《プラズマ》をタップします。さらに4マナで《トライガード・チャージャー》、手札から一枚、シールドゾーンに置きます……! 《メシアカリバー》で攻撃!」

「《プラズマ》の革命2、手札から《クロック》を召喚! 君のターンは終了だ」

 

 霜ちゃんは《クロック》でローザさんのターンを飛ばす。

 これで残る《クロック》は一枚。

 

「ボクのターン、《Q.E.D.+》の能力で山札から五枚を見る。その中の一枚をトップに置き、残りは山札の下へ。そうしてから追加でドローする。その後、通常ドローだ」

「あぁ、これはこれは」

「……もう、ダメ……っぽい」

「4マナで《ライフプラン・チャージャー》を唱えて、《プラズマ》を手札に。7マナで《クロック》を《プラズマ》に進化! 四枚ドローして、G・ゼロで《クロスファイア 2nd》を召喚!」

 

 山札を掘り進んでカードを探し、さらに大量ドロー。

 ここまでやって、《クロック》が引けていない、なんてことはなさそうだ。

 

「《クロスファイア 2nd》で攻撃する時、《パラスキング》に侵略! シールドをブレイクだ!」

「これが最後のチャンス……S・トリガー! 《刻鳥ノ正裁Z》! 《プラズマ》と《パラスキング》をタップします!」

「ターンエンド」

 

 

 

ターン7

 

 

ローザ

場:《ハヤテノ裁徒》×3《ヒトノ造リシモノ》×2《メシアカリバー》《サッヴァーク†》

盾:0

マナ:8

手札:18

墓地:4

山札:2

 

 

場:《プラズマ》×3《パラスキング》×3《Q.E.D.+》

盾:2

マナ:11

手札:7

墓地:4

山札:4

 

 

 

「私のターン、ドロー」

「これで、ローザさんの山札は残り一枚……」

 

 つまりこれが、ローザさんのラストターン。

 このターンで決めきれなければ、ローザさんの負け。

 霜ちゃんが《クロック》を持っているかどうかの勝負。

 

「1マナで《戦慄のプレリュード》を唱えます。1マナで《ヒトノ造リシモノ》を召喚して、お互いのシールドをブレイクします。私には、シールドはありませんが」

「トリガーはない」

「さらに6マナ、《ヒトノ造リシモノ》を召喚! シールドをブレイク!」

 

 これで、霜ちゃんのシールドはゼロ。

 あとはローザさんの攻撃が通るかどうか。霜ちゃんが、《クロック》を手札に持っているかどうか。

 

「……実は、今のボクの手札には、《クロック》ないんだ」

「え? ということは……」

「いや、残念ながら君の期待は裏切るよ。引けないなと思っていたけど、それってつまり、こういうことなんだなって」

 

 霜ちゃんはブレイクされたシールドを、そのままバトルゾーンに置いた。

 

「S・トリガー、《終末の時計 ザ・クロック》」

「あ……」

 

 手札に《クロック》はない。《クロック》は引けなかった。

 だけどそれは、山札の中に最後の《クロック》がなかった、という意味でしかない。

 

「まあ、そうだよね。あんだけ大量ドローにサーチもしてるんだもん。山札なんてとっくに一周してる。なのに、《クロック》が手に入らないってことは」

「残りは……盾……」

 

 四枚目の《クロック》で、ターンが飛ばされたローザさん。

 最後の攻撃も、届くことはなかった。

 

「……ende」

「ボクのターン。このままなにもしなくてもボクの勝ちなんだが、そのデッキで革命0のようなカウンターもないだろう。温情みたいになってしまうが、きっちりとどめは刺すよ」

 

 霜ちゃんはそう言って、切り札と定めたそのカードを、横向きに倒した。

 

 

 

「《革命龍程式 プラズマ》で、ダイレクトアタックだ」




 対戦パートで終わらせるのって凄い久々というか、滅多になったよな、と思ったり。そのくらい今回は中身がスカスカ。各キャラのちょっとした掘り下げくらいですかね。
 クソどうでもいいことですけど、覚えている人がいるかはわかりませんが、謡の父親の平坂浄土(PN)は、名前だけなら14話の最初の方で出ています。まあ、本当どうでもいいことなんですが。
 今回の霜のデッキは、林間学校一日目午前で実子が使用していた、エビデゴラスビートの発展形です。作者はプラズマダンテという型(の殿堂規制による弱体化)も経てこのデッキに辿り着きました。《Q.E.D.+》のアンブロッカブル化と《パラスキング》の染色で、《バルチュリス》がマジで止まらない打点と化すのはなかなか楽しいです。《サイゾウミスト》は諦めろ。
 というところで、今回はここまで。誤字脱字や感想等ありましたら、遠慮なくどうぞ。
 次回もお楽しみに。
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