デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 内容的には二回目の[承]みたいな話。転じられるのはむしろ次回か……? 転というか微妙な気もする。
 今回はオールアギリさん視点。正確には三人称視点だけど、まあ小鈴の視点がまったくない、実はわりとレアな回です。


40話「釣られました [転]」

 燃えぶどうトンボや小鈴らと別れ、バンダースナッチを連れ戻すため、単独で行動するアギリ。

 ヤングオイスターズが有する個性()の一端。「存在感を他の兄弟姉妹に押しつける」ことで、自身の存在を最大まで希薄にし、警備員たちの監視の目をすり抜ける。

 アギリには、燃えぶどうトンボのように、相手から情報を引き出せるような特異さはない。今この場では、幼い兄弟姉妹から情報提供を受けるか、自分の影を薄くすることしかできない。

 この場にいない兄弟姉妹からの情報なんて、今は価値がない。なのでアギリは、ただひたすらに気配を殺し、工場内を虱潰しに探索する。

 今の自分が生かせる力はこれだけしかない。故に彼は、ただ一人、孤独に工場内を駆けずり回る。

 この廊下の扉はすべて確認した。奥の廊下には一ヶ所だけ鍵が掛かっていた。隣の廊下は警備員の監視が多く近寄れない。

 

(さて、次はどこを探すか……)

 

 ぐるりと、無限回廊のような鉄色の廊下を見回す。

 そして、バンダースナッチが潜んでいそうな場所を考える。

 

(牢獄……は、奴の犯した罪による結果でしかない。そもそも自らそんなところには入らない。だが、奴は獰猛だ。野放しにはできない。しかし同時に、奴には相応の力がある。行動を完全に制限はしないし、できないだろう)

 

 自分たちの経験。バンダースナッチに関する知識。敵の思考。目的。

 あらゆる要素を、数式に当てはめるようにして、考える。

 バンダースナッチが存在するに相応しい舞台は、どこかのかを。

 

(事実として、奴は拘束されている様子ではなかった。つまり奴は、自由に行動できる。その上で、連中が奴の危険性を認識しているのであれば……)

 

 逆に考えてみる。

 バンダースナッチがどこにいるか、ではなく、バンダースナッチをどうするか、を。

 あるいは、バンダースナッチに対して、どんな行動を取るか。

 

(いつでも奴を拘束する準備を整える? いや、流石に厳しいな。最初から殺すつもりでいなければ、奴の凶暴さには太刀打ちできまい。そもそも、奴を抑えられるほどの力が、あの警備員程度にあるとも思えない。そう、それなら――)

 

 ――近づかない。

 それが、バンダースナッチに対する、ベターな対処法だろう。

 いくら言い聞かせても、躾けても、抑え込んでも、彼女は自身の欲望のため、凶器を振りかざす。

 それは決して無視できることではないが、関われば手傷を負うことは免れない。最悪、死に至るだろう。

 無理に彼女を止めるリスクと、自己保身に走って彼女に好き勝手させるリスク。さて、どちらがいいか。

 強者ならば――たとえば、燃えぶどうトンボや、眠りネズミ、あるいは公爵夫人ならば、前者を選ぶかも知れない。

 だが、弱者――代用ウミガメや、自分たちならば、どうする?

 当然、死のリスクを回避する。死にたくない。故に、彼女には近づかない。

 それが賢明な判断だ。

 つまり、この工場の責任者が愚か者でないのだとすれば……

 

「……最も人気の無い場所へ、奴を追いやる、か」

 

 バンダースナッチはあれで、孤独を好む。好むというより、なにかを企んでいそうな気もするが、なんにせよ、個室を与えれば、行動を多少なりとも制御できる。

 そこまで智慧が回り、かつバンダースナッチを理解しているのかはわからないが、試す価値はある。

 アギリは周囲を見回し、警備員が巡回していないことを確認してから、音のない、気配もない、誰も寄りつかないような、暗がりの方へと、歩を進めた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 人気のない方ない方へと進んでいくアギリ。

 廊下は暗く、重苦し空気に満ちている。単純に電灯の光が弱いのではない。空気洗浄が行き届いていないから空気が澱んでいるのではない。

 この空間そのものに、なにか、得体の知れない気が満ちているのだ。

 まるで、怪物の棲む森にでも迷い込んだような感覚だ。

 

「相手はバンダースナッチ……比喩とも言い切れないのが、また気味悪い」

 

 そもそも自分たちは、人の姿を模しているだけで、人間ではない。

 怪物というものが、人間の基準で測れず、観測できない化生だというのなら、自分たちはすべからく怪物だ。

 廊下にずらっと並んだ鉄扉。その一つ一つを、片っ端から開け放っていく。

 森の木の数を数えるように、海底の砂粒を拾い上げるように、果てしないほど繰り返した作業。

 そして、その無限に続くような行いの果てに、次の鉄扉を開く――

 

「見つけたぞ」

 

 ――そこに、無形の怪物(バンダースナッチ)はいた。

 ギラギラと妖しく煌めく刃物を携え、襤褸のような漆黒の衣を纏った、幼い少女の姿をした怪物。

 彼女は牙を剥くように、爪を振り上げるように、刃物を手にしたまま、振り向いた。

 

「わ、おにーさんだ。やっほー?」

 

 彼女には似つかわしくない、流暢な喋り口。

 化物が人語を解するのは恐怖でしかない。それを、その身で体現しているかのようだ。

 その姿はあまりにも悍ましく、アギリとて近寄りたくない。

 が、しかし。

 

「バンダースナッチ。お前を連れ戻しに来た」

 

 残念ながら今の彼は、帽子屋から受けた使命がある。

 そして、それを愚直に信じようとする姉の意志がある。

 ヤングオイスターズは、個にして群、群にして個。

 ただ一人の意志は全体に伝播し、皆の総意は個人に収束する。

 たとえ姉の考えに同調できずとも、アギリは、それを完全にはね除けることはできない。

 彼女は姉であり、自分自身なのだから。

 アギリはバンダースナッチに宣言する。そして、バンダースナッチは、

 

「やだ」

 

 短く、拒絶した。

 

「いやだよ。また、あのくらくて、さむいとこに、つなぐんでしょ?」

「お前の処遇を決めるのは帽子屋だ。どうなるかなど知るものか」

「でもいや。しゃちょーのとこにいるほうが、たのしいもん」

「社長? それが、ここの責任者か?」

 

 そういえば、外で襲撃された際にも、そんなことを言っていた。

 恐らくその「しゃちょー」なる人物が、彼女をあの牢獄から解放し、手懐けている張本人だ。

 

(バンダースナッチの凶暴性を知ってか知らないでか、なんともまあ、大胆なことをする。よほどの馬鹿か、破滅願望か、快楽主義者だな)

 

 一周回って呆れる。こんな狂犬を側に置くなど、正気の沙汰ではない。

 それこそ、帽子屋と同等のイカれた人物か。

 あるいは、バンダースナッチを御せるだけの自信があるのか。

 

「しゃちょーは、すごいやさしいんだよ。おかげで私、こんなにつよくなれた」

「……確かに。少なくとも、言葉は会得したようだな」

「まいにちまいにち、おいしいもの、たくさん……さかなばっかりだけど」

「そうか。魚はいいぞ。頭が良くなる」

「でも、たまに、おにくがたべられる。こうじょーちょーが、おしごとのほーしゅーで、いらないおにく、くれるの」

 

 おにく。

 なにかその言葉に含みを感じなくもない。

 なんとなく察しはつく。

 もしここにマジカル・ベルがいれば、なにか感じ取ったかもしれない。

 

「でも、きらきらは、みつからないなぁ。みんな、どんよりしてる」

「洗脳されているらしいからな。して、社長やら工場長やら言うが、ここのトップは二人いるのか? 経営者と、現場の責任者ということか?」

「さぁ? こーじょちょーは……かおがわるくて、くさい。しゃちょーも……けっこー、いみわかんないこと、いうかなぁ。しんわとか、かたりてとか……なんか、ぞわぞわってする」

「…………」

 

 どうも要領を得ない話だ。

 バンダースナッチにしては口達者ではあるが、やはり元は怪物だ。対話をしようというのが、そもそもの間違いではある。

 アギリの目的は、あくまでもバンダースナッチの回収。それ以外の物事はどうでもいいと言えば、どうでもいい。

 それでも知っておくことには意義があると思い、対話を試みたが……それも潮時かもしれない。

 力ずくで抑え込む心構えだけは、しておくべきだろう。

 

「しゃちょーはね、ちょーかの、かたりて……? で、つりがしたいんだって」

「釣り……?」

「ひとを、つるの。そうやって、あそぶんだって。いっぱいつれたら、私にも、わけてくれる。きらきらを、くれるんだって」

「……成程」

 

 バンダースナッチがここに留まる理由は、なにも社長なる人物に保護されただけではないようだ。

 彼女も彼女なりに、思惑がある。利得の関係で、ここにいるようだ。

 

「それで、お前はなにをしている?」

「私? 私はね、ばんけん? だって」

「番犬……門番か」

 

 三つ首の番犬よりも恐ろしいこの幼女を番兵とするとは、随分と豪胆なことだ。

 だがしかし、不意を突いて侵入者を排除するのなら、この賢しい怪物ほどの適任者もいないかもしれない。

 奇襲性だけで言えば、あのマジカル・ベルを屠りかけたのだから。

 そして事実として、この工場を探りに出た者たちが、行方不明になっているのだ。

 恐ろしいことに、実績は十分だ。こんな凶暴な幼女でも、雇用するに値するということだろう。

 

「そうだ。おしごと、しなきゃ」

 

 バンダースナッチは、刃物を構える。

 ギラギラと、鈍く、妖しく輝く、肉厚のナイフ。

 凶悪さと、暴力と、殺意を、これでもかと言うほど凝縮した道具。

 それが、血を求めている。

 

「おにーさんたち、ころすね。しゃちょーめーれー? っていうやつ?」

「残念だが、それは聞けないな。死ぬことだけはできない」

 

 それだけは、絶対にできない。兄弟姉妹のためにも、自分自身のためにも。

 さて、ここからどうするかだ。

 力ずくでヤングオイスターズを押さえ付けるか。力も体格も、圧倒的にこちらが上。しかし相手は凶器を持っている。

 上手く押さえ付けられればいいが、失敗すればグサリだ。そうでなくとも、抵抗され、深傷を負う可能性は決して低くない。彼女の生き汚さも、泥臭さも、狡猾さも、アギリは知っている。

 どこで報復されるか、隙を突かれるか、わかったものではない。

 となればやはり、連行する前に、無力化する必要があるだろう。

 

「おい、バンダースナッチ」

「? なぁに?」

「お前は、姉に手足をへし折られたことを覚えているか?」

「アヤハ? うん、おぼえてる。すごい、いたかったよ。ころしてやりたいよね」

 

 淡々と、しかし明確に怒りのこもった言葉。随分と根に持っているようだった。当然と言えば、当然だが。

 その怒りが不当だとか、自分の罪を棚上げにするなとか、言ってやりたいこともないではないが、そんなことを言っても意味がないことは分かりきっていた。

 バンダースナッチは、強欲で、傲慢で、狡猾で、残忍で、我が強い、凶暴な怪物だが。

 幼さを内包していることが、致命的だ。

 

(ボク)は姉よりも力が強い。お前が向かって来たところで、あの時と同じ結末を辿るだけだ」

「ふぅん。やってみる?」

「失敗が確定する試行は、試す価値がない。そんなことをしなくとも、もっと手っ取り早く、互いの力を決する方法はある」

 

 スッと、アギリはポケットからデッキケースを取り出す。

 

「少し遊べ、バンダースナッチ」

 

 恐らく、これが最善手だ。

 あの怪物と正面からかち合うことだけは避けたい。不確定要素の多い方法は取りたくない。

 この方法も、決して確実とも良いとも言えないが、リターンは大きい。それに、一定のラインを越えれば、確実だ。

 問題はバンダースナッチがこの誘いに乗るかだ。彼女としても、体格で勝るアギリとの身体的接触は避けたいと思うしかない。

 そして、それ以上に――

 

 

 

「……あはっ」

 

 

 

 ――彼女の童心(さつい)に、期待した。

 猫が鼠をいたぶるような遊び心。

 彼女の幼さの中にある、凶悪な甘さを、誘い出す。

 バンダースナッチは表情無く嗤うと、同じようにデッキを取り出した。

 

「いいよ、かわいそうなおにーさん。私が、あそんで(ころして)あげる」

 

 嗤うバンダースナッチ。アギリも内心では、乾いた笑みを浮かべている。

 ここが正念場だ。

 迫り来る狂気と恐怖に耐え、アギリは、怪物と相対する――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 アギリこと、ヤングオイスターズの長男と、バンダースナッチとの対戦。

 元々、狡猾さという点では知能はあったバンダースナッチが、知性を得て、言葉も得た。

 それは彼女の生においても小さくない影響を及ぼすこととなろうが、この場においてもその発露が垣間見える。

 

「《アクア・ティーチャー》を召喚。ターンを終了する」

 

 

 

ターン1

 

バンダースナッチ

場:なし

盾:5

マナ:1

手札:4

墓地:1

山札:29

 

 

アギリ(ヤングオイスターズ:長男)

場:《ティーチャー》

盾:5

マナ:1

手札:4

墓地:0

山札:29

 

 

 

 先んじてクリーチャーを呼ぶアギリ。出だしは順調ではあるが、油断はできない。

 なにせ相手は、無形にして無私の怪物、バンダースナッチ。

 いつどこで、どう動くか、なにを考えるか、わかったものではない。

 

「私のターンだね。マナをふたつで、《堕魔 ドゥリンリ》をしょーかんするね……おしまい。だけど」

 

 ジリリリリ! という耳障りな音と共に、バンダースナッチの山札が一枚削られる。墓地に送られたのは、《無明夜叉羅ムカデ》。

 《ドゥリンリ》はターンの終わりに、一枚ずつ墓地を増やしていく魔導具。バンダースナッチの有する無月の門の性質上、墓地が増えれば増えるほど、その強さを増す。毎ターン墓地を増やす《ドゥリンリ》は、存在するだけで厄介だ。アギリとしては、できれば素早く仕留めたいところではあるが……

 

「ターンを開始する。2マナで、オレガ・オーラ起動」

 

 魔導具の展開をはじめるバンダースナッチ。

 対するアギリは、オレガ・オーラを起動させた。

 機械的な駆動音が鳴り響き、超GRゾーンから、一枚のチップが排出される。

 

「新規プログラムを構築。GR召喚――《無罪(モラル) TV-30》!」

 

 現れたのはICチップ型のクリーチャー。中央部に埋め込まれたチップから、分子モデルのような球が枝分かれし、半眼の目玉を覗かせている。

 

「《無罪 TV-30》に、《*/零幻チュパカル/*》をインストール。さらに《アクア・ティーチャー》の能力も発動だ」

 

 《無罪 TV-30》の登場に反応し、《アクア・ティーチャー》が教鞭を振るうと、アギリの手元に一枚のカードが引き寄せられる。

 

「《アクア・ティーチャー》は、能力を持たないクリーチャーが召喚されるたびに一枚ドローできる。《無罪 TV-30》は能力を持たない(バニラ)クリーチャー、そしてGR召喚はコストを支払った扱いをとなる“召喚”だ」

 

 GR召喚は、呼び出す方法こそサイキックやドラグハートと類似しているが、ルール上、それは“コストを支払った召喚”として扱われる。

 多くの踏み倒しメタの影響を受けない正当な召喚であり、それ自体はカードの能力ではなく、あくまでもルール。

 《無罪 TV-30》に書かれている文章も、能力(テキスト)ではなく注釈文であるため、《無罪 TV-30》自体はなんの能力も持たない無能力クリーチャー(バニラ)

 故に《アクア・ティーチャー》は、力なき者に知識を授ける。

 

「ターンを終了する」

 

 

 

ターン2

 

バンダースナッチ

場:《ドゥリンリ》

盾:5

マナ:2

手札:3

墓地:1

山札:28

 

 

ヤングオイスターズ(長男)

場:《ティーチャー》《無罪[チュパカル]》

盾:5

マナ:2

手札:4

墓地:0

山札:27

 

 

 

「私のターンだよ。マナをみっつ。《堕魔 グリペイジ》をしょーかん。おにーさんのてふだ、すてるよ」

「ハンデスか。いいだろう」

「うん。おわり、だよ」

 

 しかしターンが終わると、《ドゥリンリ》が墓地を肥やす。墓地に落ちるのは《堕魔 ジグス★ガルビ》。

 バンダースナッチは、子供らしい自然な微笑みを浮かべていた。

 アギリは知っている。彼女には未知の部分も多いが、それでも確かに言えることがある。

 彼女の内側は、まごうことなく怪物だ。自己中心的なエゴと、無慈悲な悪意を内包した魔物だ。

 化物が、幼い少女の皮を被って、微笑んでいる。しかも、人の言葉を介して、こちらに歩み寄ってくる。

 それが、不気味でないはずがない。恐ろしくないはずがない。

 

「ターンを開始。ドロー」

 

 未知は恐怖だ。ヤングオイスターズの中でも特に冷静沈着なアギリでさえ、内側から込み上げる恐れを押し殺して、平静を装っているに過ぎない。

 だが、逆に言えば、彼には平静を装えるだけの余裕があるということでもある。

 相手は未知の怪物。しかし、振るわれる力そのものは、既知のそれだ。

 ここが争いの場である時点で、彼女への恐怖は削がれている。

 

「《チュパカル》の能力で、オーラの使用コストをマイナス1、1マナで《*/零幻ルタチノ/*》を起動。《ムガ 丙-三式》をGR召喚し、《ルタチノ》をインストール。そして《アクア・ティーチャー》と《ルタチノ》の能力がそれぞれ発動!」

 

 先に《アクア・ティーチャー》の能力で一枚カードを引き、次に《ルタチノ》の能力でもう一枚引き、最後に手札を一枚捨てる。

 

「続けて1マナ、二枚目の《ルタチノ》を起動、《ムガ 丙-三式》をGR召喚し、インストール! 《アクア・ティーチャー》の能力でドロー、続いて《ルタチノ》の能力でドロー、手札を一枚捨て、ターンを終了する」

 

 

 

ターン3

 

バンダースナッチ

場:《ドゥリンリ》《グリペイジ》

盾:5

マナ:3

手札:2

墓地:3

山札:25

 

 

ヤングオイスターズ(長男)

場:《ルタチノ[ムガ]》×2《ティーチャー》《無罪[チュパカル]》

盾:5

マナ:3

手札:3

墓地:3

山札:22

 

 

 

「私のターン。マナをみっつで、《堕魔 グリギャン》をしょーかん――」

 

 順当に墓地を肥やし、クリーチャーを並べるバンダースナッチ。

 紫炎を灯す燭台を場に出した、その時。

 クスリと、嗤った。

 

 

 

「――無月の門(むげつのもん)

 

 

 

「来るか……!」

 

 墓地とバトルゾーンからそれぞれ二体ずつの魔導具を用いて、ドルスザクを呼ぶ門を形成する儀式。

 ただし、バンダースナッチの墓地にの魔導具は、二枚には満たない。

 門は閉ざされており、今のままでは開かないが、

 

「《グリギャン》のこーか。やまふだから、みっつ、ぼちにおくよ。これで、魔導具(まどーぐ)がぼちに、ふたつ。ばに、ふたつ」

 

 山札から三枚、墓地に送られる。

 《ティン★ビン》《堕魔 ドゥグラス》《堕魔 ジグス★ガルビ》。

 とりあえず門は創造する。開門は、後からでもいい。

 《グリギャン》の能力を先に処理することで、バンダースナッチは墓地に必要な魔導具を用意できた。それにより、無月の門が開く。

 

「《グリギャン》《グリペイジ》……《ドゥグラス》《ジグス★ガルビ》》」

 

 場から二体、墓地から二体。

 四つの魔導具を集め、形成された魔方陣。

 それが門となり、常夜の向こう側の怪物を、呼び寄せる。

 

ザン(ひとつ)ドゥ(ふたつ)グリ(みっつ)ヴォ(よっつ)……開門(ひらけ)無月の門(むげつのもん)

 

 呪詛のようなカウントダウンを諳んじ、儀式は完成する。

 今、月無き夜の門は開かれた。

 

 

 

強欲煩邪(がよくにまみれ)羅刹変化(らせつとかす)魔病蠱毒(そはこどくのびょうまなり)――《無明夜叉羅ムカデ》」

 

 

 

 ドスン、と巨大な毒虫が地に降り立つ。

 長大な毒針を備えた尾、三対の腕、悍ましさすら感じさせる多足。

 禍々しい威容を、毒々しい威迫を、蠱毒の怪物は湛えていた。

 

「《夜叉羅ムカデ》の、こーかで……うーん、《アクア・ティーチャー》、かな。しんで」

補給路(ドローソース)を断たれたか……!」

「まだだよ。きて《ティン★ビン》《ジグス★ガルビ》」

 

 無月の開門に呼応し、墓地からムーゲッツたちが湧き上がる。

 否、墓地からだけではない。

 

「それと……てふだから、《ソー☆ギョッ》」

 

 手札からも、青いムーゲッツが姿を現す。

 ゆらゆらと揺らめく、陽炎の如き霊魂。

 奴らは嘲るように、ケタケタと嗤っている。

 

「《ソー☆ギョッ》のこーかで、ひいて、《ジグス★ガルビ》をすてるね。《ティン★ビン》のこーかで、てふだ、すててね」

「く……っ」

「ターンおわり。ドゥリンリ》のこーか、はつどうだよ」

 

 黒電話のけたたましい音が、嘲笑の如く響き渡り、山札から《グリペイジ》が落ちる。

 やはり、彼女の操る無月の門、その爆的的な展開力は驚異的だ。

 一度、無月の門が開いてしまえば、一気に盤面が埋め尽くされる。

 オレガ・オーラは一体のクリーチャーに重ねるプレイングが行うため、大量展開よりも、単体を強化する方が向いている。故に数を並べるデッキには、物量で押し巻けてしまうこともある。

 アギリのデッキはそんなオーラの定石通りとは行かないのだが、それでも展開の要になる《アクア・ティーチャー》が破壊されてしまったため、後続を引き込みにくくなってしまった。

 こちらは三体、相手は五体。

 まだ大きな差はついていないが、あの巨大な毒虫は、早急に対処しなければならない課題だ。

 

「ターン開始、ドローだ」

 

 カードを引き、逡巡。

 数秒後、アギリは手札を一枚、引き抜いた。

 

「1マナで呪文、《ア・ストラ・センサー》! 山札から三枚を閲覧し、呪文またはオーラを回収する」

 

 今の手札では対処不可能と判断。山札から後続を引き込むアギリ。

 三枚のカードを捲り、その中の一枚を攫うように掴む。

 

「よし、《ガニメ・デ》を手札に加える。そして2マナで起動、《極幻智 ガニメ・デ》! 《チュパカル》の情報を更新、《ガニメ・デ》にアップデート!」

 

 現時点における《無明夜叉羅ムカデ》の脅威は、大きく分けて二つ。

 一つは打点。バンダースナッチの場には、Wブレイカーが二体、シングルブレイカーが二体、合計で六点の打点が形成されている。

 つまりなん抵抗もせず、S・トリガーもなければ、このまま押し切られてアギリは敗北する。S・トリガーが出ない確率は高くはないが、それもゼロではないのだから。

 そしてもう一つは、クリーチャーの攻撃時に発生するハンデス能力。攻撃するたびに手札を削り取られ、逆転の芽を摘まれてしまう。

 これらの問題をどうにかしないことには、アギリは苦しい戦いを強いられることとなる。

 

「《ガニメ・デ》が接続されたことで、能力発動! 《ガニメ・デ》に接続されたオーラ一枚につき、一枚ドローする! よって二枚ドロー!」

 

 ハンデスに関しては、手札をできるだけ多く持つことで解消する。一気に手札を捨てさせるのではなく、クリーチャーの攻撃時に発動するため、シールドブレイクでの差し引きで手札が残ることを期待する。

 そして打点の方は、よりシンプルだ。

 クリーチャーを殴り倒す。

 

「《ルタチノ》で《ソー☆ギョッ》を攻撃!」

「ん、やられちゃうね。ばいばい」

 

 ムーゲッツはタップして登場する。パワーも低いので、倒すのは難しくない。

 もっとも、また門を開けば沸いて出てくる上に、こちらにタップ状態のクリーチャーを作ってしまった。この隙を突かれ、詰めるように手札を削ぎ落としてくることだろう。

 無抵抗な敗北よりマシだ、と自分に言い聞かせ、アギリはターンを終える。

 

 

 

ターン4

 

バンダースナッチ

場:《ドゥリンリ》《夜叉羅ムカデ》《ティン★ビン》《ジグス★ガルビ》

盾:5

マナ:4

手札:0

墓地:4

山札:20

 

 

ヤングオイスターズ(長男)

場:《ルタチノ[ムガ]》×2《ティーチャー》《無罪[チュパカル/ガニメ・デ]》

盾:5

マナ:4

手札:2

墓地:6

山札:18

 

 

 

 

 

「私のターン」

 

 バンダースナッチは知恵をつけた。怪物らしからぬ言葉を覚えた。

 ささやかな叡智を悪意に染め、彼女は、青色の力を捻り出す。

 

「マナを、ふたつ。《堕呪(ダスペル) バレッドゥ》」

 

 ガンッ、とボロボロの樽がどこからともなく落下し、逆巻く水流を解き放つ。

 バンダースナッチは渦のように広がる水流から二枚のカードを引き抜き、手札の《グリギャン》一枚を流す。

 

「んー……うん。にまい、ひいて。ふたつ、すてるね。で、もういっこ。マナを、ふたつ。《ドゥリンリ》しょーかん」

 

 二台目の黒電話。これでターンが経過するたびに、墓地が二枚も増えてしまう。

 

「《夜叉羅ムカデ》で、こーげき。《ルタチノ》を、ころすね」

 

 毒虫が動き出す。多足の脚で蠢きながら、巨大な毒針を掲げた。

 

「《夜叉羅ムカデ》のこーか。おにーさん、てふだ、すててね?」

 

 《夜叉羅ムカデ》が放たれる毒気が、アギリを襲う。

 アギリはそれを振り払うために、手札を一枚犠牲にする。

 その直後、グサリ、と鈍い音が響く。

 ジジジ、と《ルタチノ》の虚像は消えかかっていた。その奥では、毒針が突き刺さり、砕けたチップが無言の絶叫を上げている。

 毒虫の尾が振り上がる。それと同時に、《ムガ 丙-三式》は粉々に砕け散り、《ルタチノ》の像も雲散霧消していた。

 

「おしまい」

 

 ターンが終わると、それまでの二倍、けたたましく、不気味な電話音と共に、山札の上から《カージグリ》《ソー☆ジェ》が墓地に落ちる。

 アギリはこのターン、手札一枚と、クリーチャー一体を失った。

 とはいえ、この程度ならば予想の範疇だ。

 

「ターン開始……さて」

 

 どう動くべきかを考える。

 やることは変わらない。相手の攻撃、妨害をどう耐え凌ぐか。

 状況は大きくは変わっていない。二体目の《ドゥリンリ》が出て来て、打点が増えた、という程度だ。

 バンダースナッチの墓地が着々と溜め直されているのは気になるところではあるが……

 

「……2マナで《極幻智 ガニメ・デ》を、《ガニメ・デ》に追加。能力で三枚ドロー。さらに1マナで《アクア・ティーチャー》を召喚……ターン終了だ」

 

 

 

ターン5

 

バンダースナッチ

場:《ドゥリンリ》×2《夜叉羅ムカデ》《ティン★ビン》《ジグス★ガルビ》

盾:5

マナ:4

手札:0

墓地:8

山札:14

 

 

ヤングオイスターズ(長男)

場:《無罪[チュパカル/ガニメ・デ×2]》《ルタチノ[ムガ]》《ティーチャー》

盾:5

マナ:5

手札:3

墓地:8

山札:14

 

 

 

「私のターン……じゃあ」

 

 静寂が戦場に漂う。

 月はない。明るさも、輝きも、光もない。

 空が近い。闇が、黒が、帳が、降りてくる。

 静かに刃物が掲げられる。否、それは刃物などという、認知の内側にあるものではない。

 もっと恐ろしい、奈落のような、怪物の大口だ。

 

 

 

「ころすね」

 

 

 

 異形の怪物が、凶器を伸ばしている。

 牙を剥くように、爪をぎらつかせるように。

 

「マナをふたつ。《堕呪 バレッドゥ》を、となえるよ」

 

 実態を持たない、虚ろなる魔導具。

 その未練の本流が迸る。

 そして、その時

 ギギギ、と門が軋む。

 虚ろにして無の、幻影の月を湛えた門。

 

「これは……!」

 

 《バレッドゥ》の放つ水流によって、手札と墓地で、カードが渦巻く。

 そして、四つの魔導具が、魔方陣を描く。

 

「《バレッドゥ》、《カージグリ》、《グリギャン》、《グリペイジ》」

 

 いつの間にか足下に浸されていた、黒い水。宵闇に染まる湖のような、静寂なる恐怖の深海。

 光は届かず、実体はどこにもない。すべてが幻想、すべてが虚構の世界で、無の月は昏く輝きを放つ。

 

ひとつ(zan)ふたつ(dwo)みっつ(ghree)よっつ(vour)

 

 幻想に満たされた暗い海の底で、怪物は呪詛のように数える。

 墓地に眠る魔導具が水死体の如く浮かび上がり、寄り集まる。

 そして、四つの魂は、虚像の門を創造した。

 

開門(オープン)――」

 

 虚無的で、幻想的な、触れれば消えてしまいそうな、しかし触れることのできない、虚空の門。

 今宵、月無き夜の月は、水面に浮かぶ。

 

 

 

「――虚無月の門(ムーン・レス・ムーン)

 

 

 

 そして今、虚ろなる無月――虚無月の門は開かれ、産声を上げた。

 

深海侵犯(タイカイヲオカシ)清流汚濁(キヨキハニゴル)殺戮麒麟(ソハリソウをコロスゲンジュウナリ)――」

 

 ぴちゃん、と水面の魔方陣から、虚無なる獣が浮上する。

 

 

 

「――《卍 ギ・ルーギリン 卍》」

 

 

 

 それは言葉なのかどうか。それさえわからないように、獣の雄叫びや、怪物の絶叫のような、あるいは悪意に満ちた呪詛のような言の葉を読み上げ、それは現れた。

 ちゃぷん、と湖面に雫を垂らすように、湖底より浮かび上がり、湖月より出づる。

 蒼く染まった虚ろの霊。神に届くほどの神威を放つ幻の獣。

 それは影でしかない。魂でさえない、幻想で、架空の神獣だ。

 しかし、そうであっても、それはそこにある。虚像でも、幻想でも、虚月を映す水面の無月は、命に死を与える力となる。

 

「虚無月の門……魔導具呪文によって起動する、無月の門、か」

 

 バンダースナッチがいつから無月の門の力を操るようになったのかは定かではないが……これは、今まで見せていない無月だ。

 虚無月の門は実体を伴わない無月。実体を必要とせず、必要なのは幻影でも虚構でも構わない、魂だ。

 魔導具の特性を持つ呪文に反応し、場か墓地の魔導具四つと共に、門を形成する。この時、必要な魔導具は、すべて墓地から賄うことができる。

 バトルゾーンの魔導具を要求する通常の無月の門と比べれば、打点を失う心配がない。そして要求される魔導具の枚数も、無月の門・絶より少ない。

 そしてなにより、この無月は――虚無月の門は、“無月の門”なのだ。

 

「きて、《ソー☆ギョッ》《ソー☆ジェ》《ジグス★ガルビ》」

 

 墓地から、わらわらと陽炎のような魂が浮かび上がる。

 虚無月が無月の門である以上、当然ムーゲッツも現れる。

 加えて、湧き上がったムーゲッツの一体は、《ジグス★ガルビ》。

 ムーゲッツにして魔導具である《シグス★ガルビ》の登場に反応し、通常の無月の門も、軋み始める。

 

「《ソー☆ギョッ》のこーか。ひいて、すてて……《ジグス★ガルビ》で、もんをひらくよ」

 

 凶悪な面相の角灯が怪しく光り、そこに他の魔導具たちが集い、魔方陣を形成する。

 

「《ジグス★ガルビ》《ドゥリンリ》……《グリペイジ》《バレッドゥ》」

 

 実体なき魔導具さえも取り込んで、常夜の空に門が浮かぶ。

 

ザン(ひとつ)ドゥ(ふたつ)グリ(みっつ)ヴォ(よっつ)……開門(ひらけ)無月の門(むげつのもん)

 

 呪うようなカウントダウン。

 凶の数字を唱え、諳んじ、門が開かれる。

 

強欲煩邪(がよくにまみれ)羅刹変化(らせつとかす)魔病蠱毒(そはこどくのびょうまなり)――《無明夜叉羅ムカデ》」

 

 そして現れる、二体目の《夜叉羅ムカデ》。

 鈍い音を轟かせ、地に降り立つ巨大な毒虫は、猛毒の凶器を振りかざす。

 そして、虚無月同様、実体なき電影へと、その凶悪な尾を振り下ろした。

 

「《夜叉羅ムカデ》のこーかで、《ガニメ・デ》を……ころすよ」

 

 グサリ、と毒針を突き立てられた《ガニメ・デ》。針はデータ体の表層を貫き、中のチップ、《無罪 TV-30》まで貫通している。

 毒虫の打ち込む猛毒は、姿がなかろうと関係ない。電影の命さえも奪う。

 粉々に打ち砕かれ、錆び付いた《無罪 TV-30》。同時に、それが保有するデータの生命も、消滅した。

 彼女は、刃物を突きつけるように、宣言した。

 

「ばいばい。おにーさん。おいしいといいな」

 

 直後。

 異形にして未知なる怪物は、揺らめく邪霊らと共に、牙を剥く。

 

「《ティン★ビン》でこーげき。《夜叉羅ムカデ》の、こーか。にひき、いるから、にまい、すててね」

「ちぃ……!」

「じゃあ、ひとつ、ブレイク。つぎに、《夜叉羅ムカデ》でこーげき。もういっかい、にまい、すててね」

 

 二体の《夜叉羅ムカデ》。この布陣は想定していなかったわけではないが、やはり厳しい。

 打点こそ減ったが、一度の攻撃で二枚もの手札を奪われるのだ。Wブレイクを受けても、そうして得た手札は、次の攻撃の瞬間には一瞬で蒸発している。

 そして実際、アギリが溜め込んだ手札は、たった二回の攻撃で、すべて吹き飛んでしまった。

 

「すべてもがれたか……!」

「ふたつ、ブレイク」

「ぐ……っ!」

 

 《夜叉羅ムカデ》の長大な尾が、アギリのシールドを二枚、薙ぎ払う。

 手札は奪われ、次々とシールドも砕かれる。それだけでも辛いが、《ギ・ルーギリン》が出て来たことで、バンダースナッチのクリーチャーはすべてブロックされなくなってしまったので、なけなしの防御手段として置いた《アクア・ティーチャー》もまるで役に立たない。

 他にも防御手段は用意しているが、このデッキの展開力を利用した最大の盾さえも、《ギ・ルーギリン》は貫通する。

 

「《ジグス★ガルビ》でこーげき。さらに、にまい。ふたつ、ブレイク」

「ぐ、ぁ……っ!」

 

 《夜叉羅ムカデ》の毒気が、アギリの手札を腐り落とす。

 そして怪しく輝く角灯は、アギリに残された最後のシールド二枚を、食い破った。

 アギリを守るものはもうなく、あとはただ、残った魔導具がとどめを刺すだけで終わる。

 バンダースナッチは、満足げに、つまらなさそうに、死を突きつける。

 

「おしまい。《ドゥリンリ》で、とどめ――」

「S・トリガー発動!」

 

 ――が、しかし。

 刹那、アギリの手から、紫電が走る。

 

「《*/弐幻ニャミバウン/*》! GR召喚を行い、《無罪 TV-30》にインストール!」

 

 紫電は影となり、情報が渦巻き、繋がり、命を形作る。

 《無罪 TV-30》を依り代に、海蛇のようなクリーチャーが、その姿を浮かび上がらせた。

 

「《ニャミバウン》が接続された時、クリーチャー一体を手札に戻す(バウンス)! 対象は《ドゥリンリ》だ!」

 

 今まさにとどめを刺さんと迫っていた《ドゥリンリ》を、《ニャミバウン》の放つ水流で、手札へと押し返す。

 ギリギリだが、なんとか九死に一生を得たアギリ。

 加えて、ささやかながらも、恵みもあった。

 

「さらに能力のない《無罪 TV-30》が召喚されたことで、《アクア・ティーチャー》の能力でドローする!」

 

 相手ターンだろうと、GR召喚は召喚だ。

 《夜叉羅ムカデ》に毒され、削られた手札を、ほんの僅かながらも、回復できた。

 

「ん……ころせなかった。ざんねん。ターンおしまい。つぎはちゃんところすね」

 

 バンダースナッチは残念そうに、しかしどうでもよさそうに、そう吐き捨てる。

 相も変わらず真意が読めず不気味な相手だが、アギリには、そんな不気味さに取り合うほどの余裕もない。

 手札は二枚。場には《ルタチノ》と《アクア・ティーチャー》、そして《ニャミバウン》。

 相手のシールドは五枚残り、ブロッカーの《ギ・ルーギリン》が立ち塞がる。

 守りに入ったところで、シールドもないのに、八体のクリーチャーの猛攻を防ぎきれるはずもない。

 かといって攻め入るには、手が足りなすぎる。このターンだけで突破することなど、不可能だ。

 だが、それでも。

 

「……やるしかないだろう」

 

 非常に、非論理的だ。

 不可能だと言っているのに、やらねばならぬなど。そんな熱血では、安寧の生存は見込めない。根性論も大概にしろと嘆きたくなる。

 しかしその熱意こそが、未来への発展に繋がることを、アギリは知っている。

 不本意甚だしい。性に合わない。柄じゃない。そんな不満を他の誰かの人格と共にすべて飲み込み、アギリは、精一杯胸を張る。

 彼の胸に宿るのは、ただ一つの矜持だ。

 

「これでも(ボク)は長男だ。次代の『ヤングオイスターズ』を任される者だ……こんなところで、死ねるものか」

 

 姉の後を継ぐ、ヤングオイスターズの長男。

 自分自身の代替わり。それは酷く滑稽に見えるかもしれない。しかし彼らにとって、その儀式が如何に惨く、恐ろしく、尊いものか。

 誰かに理解されようとは思わない。理解されるとも思わない。

 故に彼は、兄弟姉妹の寵愛、自己愛にのみ身を委ね、邁進する。

 自分が思い描く、理想郷を目指して。

 

「5マナをタップ! オレガ・オーラ起動!」

 

 一心に手を伸ばす。天国のような場所を夢見て。

 

「情報更新。《*/弐幻ミャニバウン/*》を、《極幻夢 ギャ・ザール》にアップデート!」

 

 楽園に至る道筋があるというのなら、全霊を以て模索する。そのためならば、あらゆる知識を貪り尽くす。

 

「《ギャ・ザール》でプレイヤーを攻撃! その時、能力発動!」

 

 そうして得たものが、ここにはある。

 保守なんて受け身はくそくらえだ。生存は必須項目、しかし生存しか考えられない生ける屍など、死んでもごめんだった。

 それは肉体が生きているに過ぎない。精神が、人格が、意志ある命として生きているとは言えない。

 姉のことは慕っている。愛している。姉なのだから。自分なのだから。

 自分を殺してまで生存の道を選んだ姉の思惑も、そうせざるを得ない理由も理解できる。だが、それは精神を自殺する理由にはならない。

 

「カードを一枚ドロー。その後、手札からコスト6以下の呪文またはオーラを使用する」

 

 姉は今を生きることを選び、未来への繁栄を捨てた。帽子屋は未来に生きる自分たちを望むというのに、彼に付いていくとしながらも、彼女は本当の意味で、栄えある未来に到達するビジョンが見えていない。

 だから、自分がその未来を引き寄せる。楽園への道筋を描いてみせる。

 姉にはできないことを、姉亡き後に、果たしてみせる。

 それが、今まで生きて死んだ、兄姉たちへの報いであり、自分自身の使命だから。

 

「オレガ・オーラ起動。対象は《極幻夢 ギャ・ザール》。その情報を上書きする。更新開始――アップデート!」

 

 これは、楽園へ至るための第一歩。

 兄にはなれない弟が、姉の背を見て伸ばした手の掴んだもの。

 まだ、独りよがりな幻想の翼だが、いつか絶対に、皆を乗せて飛び立ってみせると誓った、哀れな若牡蠣の願い。

 

「害為す邪悪を修正し、世界は今、楽園へ至る」

 

 精神が、魂が、信念が、夢から覚め――飛翔する。

 

 

 

「飛べ――《ア・ストラ・ゼーレ》!」

 

 

 

 紫電が海流の如く迸り、大渦の如く逆巻く。

 流動する身体は大翼を広げ、長大な剣を掴む。

 叡智の結晶は、電影の姿を得て、虚無月の水面を突き破り、無月の空へと羽ばたいた。

 

「《ギャ・ザール》を《アスト・ラ・ゼーレ》にアップデートする! そして、プログラム起動!」

 

 漆黒の湖面と、暗黒の空の狭間。《ア・ストラ・ゼーレ》は剣を水面に突き立て、飛び立つ。

 月の無い宵闇の暗夜は、ひたすらに黒く、絶望で染まっていた。

 しかし、彼らが見据えるのは楽園。絶望を打ち払う希望だ。

 この鳳は、その希望の架け橋であり、象徴なのだ。

 

「《ア・ストラ・ゼーレ》の能力により、このクリーチャーよりパワーの低い相手クリーチャーをすべて手札に戻す!」

「てふだに……?」

「あぁ。さてバンダースナッチ、国語の勉強をしてきたらしいお前に、算数の授業だ。授業料は、お前の敗北で勘弁してやる」

 

 《ア・ストラ・ゼーレ》は、バンダースナッチの猛攻を防ぎ切る可能性を秘めている。

 即ち、クリーチャーをすべて除去してしまえば、次のターンに死ぬことはない。

 ここで重要なのが、《ア・ストラ・ゼーレ》のパワーだ。《ア・ストラ・ゼーレ》の除去は、自身のパワーに依存する。故に、自身の力を計算しなくてはならない。

 もっとも、計算するまでもなく、答えはとうに出ている。なのでこれは、ただの確認作業に過ぎなかった。

 

「オレガ・オーラのパワーは合算。《無罪 TV-30》は基礎パワー3000。《ニャミバウン》と《ギャ・ザール》でそれぞれ2000ずつ加算され、7000。そして《アスト・ラ・ゼーレ》が追加するパワーは6000。よってその合計パワーは――13000!」

 

 少し危うかったがな、とアギリは呟き、《ア・ストラ・ゼーレ》は咆哮する。

 バンダースナッチは数こそ並べたが、最大パワーは、パワー9000の《ギ・ルーギリン》。

 13000未満というラインを、越えることができなかった。

 

「え……ぁ……」

 

 ジジジ、と電流が迸る。

 少しずつ、情報が更新される。世界が塗り替えられていく

 虚構と幻想を湛えた水面も、悪意の常闇で満たした空も、波に攫われ、電子の海に浸蝕されていく。

 

有象無象(ジャンクデータ)を纏めて削除する。プログラム起動準備開始」

 

 バンダースナッチが作った、常夜にして無月の世界は、右も左も、前も後も、天も地も、すべてが情報の支配する電子の世界へと変貌してしまう。

 この世界では、彼女の望むルールは適用されない。欲望も、殺意も、エゴも、すべてが統制され、論理と法則の中に押し込まれる。

 無月の世界の支配者がバンダースナッチであったように、この電子世界の支配者は彼だ。そして、あの怪鳥が、その執行者となる。

 魔導具も、ムーゲッツも、ドルスザクも、電影の水に浸され、ただの情報をなり果てた。彼らの意志ひとつで、その存在は如何様にもされてしまうだろう。

 アギリは、鍵盤を叩くように、パチンと指を鳴らす。

 それが、起動の合図だった。

 

 

 

「電子の海に沈め。お前のクリーチャーをすべて――初期化(デリート)!」

 

 

 

 刹那。

 無月の使者たちは、一瞬で、泡沫へと消えていった。

 なんの感慨もなく、単なるデータとして、ただのカードに戻される。

 

「あ、ぁぁぁ……!」

 

 あれだけ並べたクリーチャーが、たった一枚のカードに、ほんの一瞬で、消去された。

 脅威となるウイルスのようなクリーチャーはすべていなくなった。

 バグはすべてデバックし、プログラムは正常に作動する。

 ならば後は、楽園へ至る、正しい筋道を辿るだけだ。

 

「そのまま、波に飲まれて溺死しろ。《ア・ストラ・ゼーレ》で攻撃! パワード・ブレイカー・レベルⅢ――パワード()・ブレイク!」

 

 電脳空間へと変貌した無月の空を翔け、《ア・ストラ・ゼーレ》は湖面に突き刺さった剣を引き抜く。

 そして、大剣を叩き付けるように、バンダースナッチのシールドを三枚、切り砕いた。

 

「! S・トリガー《堕魔 ドゥグラス》! しょーかん!」

 

 しかし、バンダースナッチの意地汚さ、生き汚さも、忘れてはならない。

 ある意味では『木馬バエ』以上に泥臭く、彼女は生路に縋りつく。自分の欲と、業のために。

 ぽとり、と小さな魔導具が一つ、電子の世界に落ちる。ただそれだけではあるが、このバグは決して小さくない影響を及ぼす。

 アギリの守りは、《アクア・ティーチャー》一体のみ。一撃でも攻撃を受ければ、即死する。

 つまり、パワー1000しかない貧弱なブロッカーが、彼の生命線なのだ。

 しかしその程度のブロッカーが退かせないバンダースナッチではない。《夜叉羅ムカデ》でも《ギ・ルーギリン》でもいい。とにかくなんらかの手段でブロッカー対処すれば、一発殴るだけで勝ってしまう。

 除去手段は豊富。殴り手さえ用意して、ターンが回ってくればバンダースナッチは勝てる。

 だが、しかし。

 

「効かんな」

 

 それを想定していないアギリではなかった。

 

「ターンを終了する……が、《ア・ストラ・ゼーレ》の能力発動」

 

 このターンに決めることなど不可能。ターンを返せば即死する。

 ならば、答えは決まったも同然だ。

 ターンが足りない、相手にターンを回したくない。ならば――

 

 

 

「《ア・ストラ・ゼーレ》が六体以上のクリーチャーを手札に戻した時――追加(エクストラ)ターンを得る!」

 

 

 

 ――もう1ターン、使えばいい。

 

 

 

ターン5(アギリ:追加ターン)

 

バンダースナッチ

場:《ドゥグラス》

盾:2

マナ:4

手札:24

墓地:2

山札:7

 

 

ヤングオイスターズ(長男)

場:《無罪[ニャミバウン/ギャ・ザール/ア・ストラ・ゼーレ]》《ルタチノ[ムガ]》《ティーチャー》

盾:0

マナ:5

手札:2

墓地:17

山札:11

 

 

 

「え……あ、れ……?」

 

 キョロキョロと見回すバンダースナッチ。

 本来なら、自分の手番のはず。なのに、そのようにならない。

 時空がねじれたように、世界の法則が乱れたように、ターンはアギリが続けて行っている。

 それも当然だ。この世界の支配権は今、彼にあるのだから。

 バンダースナッチの望みなど、叶うはずがない。

 

「ターン再開。5マナで《ルタチノ》を《*/陸幻(むげん)スルニャン/*》にアップデート! そして《ア・ストラ・ゼーレ》で攻撃だ! 《ギャ・ザール》の能力で一枚ドローし、《*/弐幻ケルベロック/*》を《ア・ストラ・ゼーレ》に追加接続! 《ケルベロック》の能力で自身をアンタップする!」

「ブロックは……いみないや。S・トリガー、おねがい、きて……!」

「無駄だ。残りのシールドをブレイク!」

 

 大剣による薙ぎ払いで、バンダースナッチのシールドはすべて破られた。

 アギリにはアンブロッカブルの《スルニャン》が残っており、《ドゥグラス》や《ハク★ヨン》では対処できない。

 再行動可能となった《ア・ストラ・ゼーレ》に、ブロックされない《スルニャン》。

 《ギャ・ザール》を取り込んだ《ア・ストラ・ゼーレ》もなにを吐き出すかわかったものではないが、アギリの手札は少ない。都合よく《ニャミバウン》や《ケルベロック》が捲れるとは限らない。

 なので狙いは《スルニャン》だ。最低でも《スルニャン》を除去しなければ、バンダースナッチに勝ち目はない。

 そして、バンダースナッチは、

 

「うぅ……あ、きたよ! S・トリガー!」

 

 果たして彼女は、S・トリガーを引き当てた。それも、クリーチャーを除去する類のカードを。

 

「《堕呪 カージグリ》! 《スルニャン》を、てふだにもどすよ」

 

 ぼぅっと、古びた(ラダー)が浮かび上がる。

 舵はぐるぐると狂ったように右へ左へ回転し、前に進む者の航路を歪ませる。

 さらに、舵は場のひび割れたグラスと、墓地の樽、燭台を引き寄せた。

 

「《カージグリ》、《ドゥグラス》……《バレッドゥ》《グリギャン》」

 

 四つの魔導具は寄り合い、魔方陣を形成し、門を開く。

 

ひとつ(zan)ふたつ(dwo)みっつ(ghree)よっつ(vour)

 

 昏き水面に虚月が映る。幻想が、虚構が、実像を結ぶ。

 電脳の世界に、月無き常夜が、湖面に無月を浮かび上がらせた。

 

 

 

開門(オープン)――虚無月の門(ムーン・レス・ムーン)

 

 

 

 雫が滴り落ち、水面が揺らめき、漆黒の水底から、理想を殺す幻獣が浮上する。

 

深海侵犯(タイカイヲオカシ)清流汚濁(キヨキハニゴル)殺戮麒麟(ソハリソウをコロスゲンジュウナリ)――《卍 ギ・ルーギリン 卍》」

 

 理解不能な呪詛を諳んじる。

 ブロッカーが、より強大な存在となり、転生した。

 もっとも、《ギ・ルーギリン》もパワー9000。パワー15000となった《ア・ストラ・ゼーレ》には遠く及ばない。

 だが、それでいい。こんなものは死んでも構わないのだ。バンダースナッチにとっては、自身の切り札さえも使い捨ての盾であり、捨て駒なのだから。

 ただ必要なのは、虚“無月の門”を開くことだ。

 

「きて……《ソー☆ギョッ》《ソー☆ジェ》」

 

 水面に浮かぶ二つの魂、ムーゲッツ。

 青いムーゲッツは、手札からも現れる。《ア・ストラ・ゼーレ》で手札に押し返された魂が、舞い戻ってきた。

 

「ブロッカーと、アタッカー。どっちも、ようい、できたよ……これで、たえられる……おにーさん、ころせる……!」

 

 《ギ・ルーギリン》で《ア・ストラ・ゼーレ》の攻撃を防ぎ、返しに残ったムーゲッツでとどめを刺す。

 彼の理想を、食い殺すことができる。

 異形の怪物は、牙を剥き、アギリを貪り尽くさんと、邪悪な大口を開く。

 しかし、

 

「ふん。目先の欲に踊らされ、大局を見失う愚か者め。こんな単純なことも見落とすか」

「なにいってるの? いいから、きてよ。おにーさん、ころすから」

「……本当に、盲目だな。月光のない世界とは、貴様の眼からさえも、光を失わせるか」

 

 アギリは嘆くように言って、片手を手を振り上げる。

 

「わかった。お前との対話は無意味。なら、柄ではないが力ずくで分からせる。《ア・ストラ・ゼーレ》で攻撃!」

「《ギ・ルーギリン》でブロック――」

「その前に、《ギャ・ザール》の能力でドロー、手札から呪文またはオーラを使用する」

 

 カードを引きつつ、アギリは手順を確認するかのように、開口する。

 

「お前は、手札に《ニャミバウン》などの除去札や、《ケルベロック》などの連続攻撃に使えるオーラがないことを期待しているのだろう。《ギャ・ザール》で引き込む可能性もあるが、まあ確かに、こちらの手札には《ニャミバウン》も《ケルベロック》もない。種切れだ」

「じゃあ……!」

「だが、お前の半端な防御を突破する手段がないわけではない。そもそも、それはお前が既に、こちらへと送信したではないか」

「……え?」

 

 ぽかんと口を開け、こくりと首を捻るバンダースナッチ。本当に、気付いていないのか。

 アギリはそんな彼女を、哀れとすら思えてきた。

 ならば、早く終わらせるべきか。

 ここまではアギリの想定通り。不確定要素だったシールドも、達成値はクリアした。

 トリガーしたのが《カージグリ》一枚だった時点で、彼女の敗北は決していたのだ。

 アギリは“増えた手札”からカードを一枚引き抜く。

 彼女にとって致命的な、虚無月の幻獣という障壁(ファイアウォール)通過(スルー)する一手を。

 

「オレガ・オーラ起動――《*/陸幻スルニャン/*》」

「あ……」

 

 《ア・ストラ・ゼーレ》の中に、翼を持つ青猫が取り込まれる。

 これでパワーはさらに+6000、さらに、“ブロックされない”。

 

「《カージグリ》程度で止まるものか。お前が消去したと思ったデータも、履歴(キャッシュ)さえ残っていればいくらでも復元できる」

 

 結局のところ、この電脳世界の支配権は覆らなかった。

 どれほど彼女が足掻いても、泥臭く抵抗しても、すべての情報は管理され、操作されてしまう。

 

「終わりだ、バンダースナッチ。大人しく戻ってこい」

 

 電脳の支配者は飛翔する。水面に脚を着けた幻獣では、その羽ばたきを止められない。

 そして、怪鳥の大剣が、振り落とされる。

 

 

 

「《ア・ストラ・ゼーレ》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「おやぁ……?」

 

 社長室と呼ばれる一室で、寝そべっていた身体を起こす。

 電灯が消えている。喧しい機械の音が止み、代わりに慌ただしく駆ける足音が響く。

 瞬時に理解した。工場が、機能を失っている。

 

「工場長やられちゃってるじゃん。こっちに流れてきたクリーチャーの中では、わりと骨がありそうだったんだけど、残念無念。この分だと、なっちゃんもやられちゃったかなぁ」

 

 寝ぼけ眼を擦り、グッと身体を伸ばす。

 工場長がやられたということは、もうこの工場は使えない。工場が使えないということは、呪いのマラサダも、解呪薬も生産できない。

 それはつまり、それなりに熱心に考案した“人釣り計画”の破綻を意味していた。

 

「あーあ、ぼくの負けだなぁ。まさかここまでボコボコとはねぇ。丸投げにするのは愚策だったかぁ」

 

 暗い部屋の中で、陽気に笑う。

 絶望感などまるでなく、怒りも、悔しさもない。

 ただただ残念に思うだけ。「GAME OVER」と表示されたゲーム画面がそこにある、という程度だ。

 

「結構がっつり計画を練ったわりに、意外と早く終わっちゃったな。まあ、ぼくが怠けすぎたのが悪かったか。ゲオルグのアホと愚図のなっちゃんを過信しすぎたね」

 

 立ち上がると、きょろきょろと部屋を見回す。

 薄暗い中で、壁に立てかけてあったそれを、掴んだ。

 

「今回の釣果はゼロ。ま、そういう時もある。けど、だからこそ」

 

 それは、釣り竿だった。

 その竿を肩に掛けると、社長室の扉へと歩いて行き、鉄の扉を開け放った。

 海を眺めたい気分だ。ここにそんな雄大なものはない。ならせめて、それらしい場所に行こう。

 

「どういう終わりを迎えたくらいは……見届けておかなくちゃいけないよねぇ」

 

 世界を眺望できるような、高い岬のような場所に。




 前回同様に、演出の方を凝った回。やっぱこういう描写の方が書いてて楽しいですね……読者的に、このカッコつけた文章がいいかどうかはさておき。
 けど、なんか今回、デッキ的には今まで出たデッキの焼き直しみたいになってますね。バンダースナッチは前に使ったムカデ無月に青を入れたタイプだし、アギリさんはバニラ活用型とはいえ普通にオーラだし。
 演出は凝ったけど……バンダースナッチが対戦するとルビが多くなるから面倒なんですよね。正直、この労力に見合う良さが出ているかはわからない。どうですかね?
 といったあたりで、今回はここまで。誤字脱字や感想等ありましたら、遠慮なくどうぞ。
 次回はブラックバイト編、最終回です。お楽しみに。
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