……この時のために、作品タグにR15や残酷な表現ありを追加しておいてよかった……よかった?
あと対戦パートはかなりおまけです。本当は対戦パートとドラマパート分けたかったけど、一話一戦のノルマをこなすにはこうするしかなかった……やむなし。
こ、こんにちは、伊勢小鈴、です。
えぇっと、どこから話せばいいのかな……
いつきくんや恋ちゃんの誘いで訪れた、東鷲宮中学校の文化祭。
そこでは、わたしの知らない二人の顔があった。
いつきくんは卯月さんと文化祭を回って、仲良く、すごく楽しそうに、笑っていた。
そして恋ちゃんは、この学校に「好きな人」がいると言う。
かくしてその人――「あきら」なる人との邂逅を、わたしたちも果たした。わけ、なのですが……
「お、女の子……!?」
ショートカットの黒髪。細く、しなやかで、健康的な手足。
容姿も挙動もなんとなく少年的ではあるものの、その姿はどう見ても少女のもの。
つまり、これって……恋ちゃんの好きな人って……
「あきら……っ」
「うわっと!? 恋! 久しぶりだね!」
「うん……あいたかった……」
「私も私もー。あはは、恋は相変わらずちっちゃ可愛いいなぁ」
あきらさん……? を見るや否や、恋ちゃんは一目散に彼女に駆け寄った。そして、小走りの勢いのまま、抱きつく。
小さな身体を受け止めるあきらさん。恋ちゃんは嬉しそうに彼女の胸に顔を埋め、すり寄っている。
いつもクールで冷ややかな恋ちゃんとは思えないほど、愛くるしい表情だ。
そんな恋ちゃんは可愛いし、いいんだけれど……
「あー……そーゆー感じ?」
「成程な。あの時、恋がボクを叱咤できたのは、こういうことか……」
みのりちゃんや霜ちゃんは、なにかを察したように頷いていた。
……まあでも、あんまり突っ込んだことは考えないようにしよう……
「ところで、なんか知らない人がいっぱいいるんだけど? どちら様?」
「こすず……私の、ともだち……」
「うえぇっ!? 恋って友達いたの!?」
「いる……」
「前に言わなかったかしら? 私も今日はじめて見たけど」
「聞いてないよー。知らないよー。ビックリしたよー」
「とりあえず挨拶くらいはしなさい」
「あ、それもそうだね」
うっかりうっかり、と笑いながら、その子はわたしの方に歩み寄ってくる。
すると突然、彼女はグワッと目を見開いた。
「な……う、っわ……すご……!?」
見開かれた眼は、驚愕に満ちていた。けれどそれは、興奮と歓喜も溢れているようで……その、なんというか……
明らかに、わたしに目を合わせていない。視線が、わたしの顔の下の方に向いている。
「でっか……! わたしより背ぇ低いのに……! え、なにこれ、感動した……!」
「あ、あの……?」
「はっ! み、見てないよ? おっぱいなんて見てないよ!」
…………
……いつものことだよ。
「こら、暁。お客さんにあんまり失礼なことしちゃダメよ?」
「あんたが言うな」
「はーい。ごめんごめん」
卯月さんに諫められ、改めて彼女は、わたしに向き直る。
「私は暁。
「い、伊勢小鈴、です……よ、よろしくお願いします……」
「うん、よろしく!」
空城さんは、満面の笑みで応える。
見た目に違わず、とても快活で、明るい子だ。
「あ、同学年だよね? 実は年上とかないよね?」
「中学一年生……ですけど」
「よかった、やっぱタメかー。同い年なのに凄いおっきぃなぁ。柚よりあるし、このみさんと張り合えそう」
「暁、あなたもうちょっと健全なことを言いなさいよ」
「あんたが言えることでもないが、俺も時と場所と状況を考えろとは思う」
「あはは……でも、あきらちゃんは、こういうところがすてきな人ですから」
「それは美点なのか?」
――これで、遊戯部? の人たちは揃った、のかな。
となると、あと来ていないのは……
「あ、あの……」
「あっ、代海ちゃん」
教室の入口で、ひょっこりと亀のように首を出して中を覗き込む人影がひとつ。
フードを目深に被って、控えめに視線をちらつかせているのは、代海ちゃんだった。
代海ちゃんは、わたしの姿を見るや否や、安心したように胸を撫で下ろす。
「小鈴さん……よ、よかった。こ、ここで、合ってた、のですね……遅くなって、ごめんなさい……帽子屋さんとの、よ、用事が、あって……」
「うぅん。大丈夫だよ」
「れんちゃんのお友達は集まった? じゃあ、これで役者は揃ったかしらね?」
「ミシェルや夕陽さんたちは、会場で集合になるかな」
「そうね。じゃあ、皆で行きましょうか。あ、暁と柚ちゃんは着替えてから来なさい」
「は、はひ。わかりました」
「えぇー? なんで?」
「自分のクラスの出し物と、こっちの部の出し物とで衣装を変えるのは普通でしょう? それにあなた汗だくじゃないの。というかなんでそんなに汗かいてるのよ」
「あきらちゃん、すっごく動いてましたからね……」
「無駄な動きが多い奴だからな」
「面倒だなぁ。この上から着ちゃえばいいか」
「話聞いてた? 着替えなさい」
「むぅ、まあ部長が言うならいいや」
「よろしい。じゃ、私たちは先に会場入りしてるわね」
卯月さんは誰よりも先に教室の扉を開け放って、外に出る。
そして、楽しそうに、上機嫌に、興奮が先走ったように、宣言した。
「さぁ、第一回、東鷲宮CS。はじめましょうか――!」
☆ ☆ ☆
CSとは、チャンピオンシップのことで、デュエマとかカードゲームでは、大きな大会のことをこう呼ぶそうです。衛星通信じゃないんだね。
わたしの友達、いつきくんを含めた学援部の人たち、遊戯部の人たち。それから、普通に在学生や、遊戯部のOBだっていう人や、どういう関わりがあるのかわからないけど、高校生の人たちも来ていた。
……ちょっと驚いたのは、このみさんがいたことだった。夏に会ったっきりでずっと会うことがなかったから、少しびっくりしました。どうやらこの学校のOGらしいです。幼馴染みの人とか、お友達とか、後輩さんも一緒にいました。
なんというか、話を聞いてみると、当然だけどみんなこの学校やその生徒――というより、遊戯部の人たち?――に関係ある人ばかりで、まるで親戚の集まりのような感覚があった。そのせいかな、主催である遊戯部さんとは、恋ちゃんやいつきくんを通した間接的な繋がりしかないから、わたしにとってはちょっぴりアウェーです。ワンダーランドでやる大会も、そういう雰囲気がちょっと苦手で敬遠しちゃうんだよね……
だから、できれば最初の方は知ってる人とやりたいなー、そういえばいつきくんとデュエマってしたことないなー、なんて、そんなことを思っていたら……
「おっ、やっほ。さっきぶり!」
知っている人、というか。ついさっき知り合ったばかりの人が、初戦の相手でした。
「そ、空城さん……」
「暁でいいよ。私も小鈴って呼ぶから」
「えっと、じゃ、じゃあ、暁ちゃんで……」
「うん、いいね。恋の友達なら私の友達みたいなもんだし、気ぃ遣うことないよ」
友達の知り合いにも気後れしちゃうわたしとは違って、空城さん……暁ちゃんは、ついさっき顔を合わせたばかりのわたしにも、近い距離感で接してくる。
すごいぐいぐい来るんだけど、なんだろう、あんまり嫌じゃない……戸惑いはするけど、これが嫌だとは思わなかった。
対戦の直前。暁ちゃんは八枚のカードを晒した。
「じゃあまずは超次元ゾーン! 私のはこれね!」
暁:超次元ゾーン
《爆銀王剣 バトガイ刃斗》
《闘将銀河城 ハートバーン》
《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》
《将龍剣 ガイアール》
《爆熱剣 バトライ刃》
《最前戦 XX幕府》
《無敵剣 プロト・ギガハート》
《熱血剣 グリージー・ホーン》
「すごい真っ赤っかだ……」
わたしもドラグハートは火文明が中心だけど、基本的に《ガイハート》しか使わないし、サイキックとかも入れるから、ここまで赤く染まることはない。
見たこともないカードもあるし、どんなデッキかもよく分からないけど……火文明が中心なんだろう、ということだけはわかる。
暁ちゃんに対して、わたしも、自分の超次元ゾーンを公開する。
「わ、わたしのは、これだよ」
小鈴:超次元ゾーン
《銀河大剣 ガイハート》
《神光の龍槍 ウルオヴェリア》
《勝利のガイアール・カイザー》
《勝利のリュウセイ・カイザー》
《勝利のプリンプリン》
《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》
《時空の踊り子マティーニ》
《時空の英雄アンタッチャブル》
ドラグハートにサイキックも盛り込んだ、八枚の次元。中身は卯月さんと対戦した時とちょっと変えました。
「それから、これも使うよ」
裏面が白い十二枚のカード――超GR。
ドラグハートにサイキックが合わせて八枚。GRが十二枚。それに四十枚のデッキを加えて六十枚。
最大限にカードを詰め込んだ、わたしの中では、たぶん最高の出来のデッキ。
卯月さんには負けちゃったけど、今度こそ……!
「それじゃ、デュエマスタート、だね!」
第一回戦、開始の合図が聞こえる。
暁ちゃんとの対戦は、わたしの先攻で始まった。
お互いに1ターン目はマナチャージのみ。そして、2マナが溜まってから、共に動き始める。
「《熱湯グレンニャー》を召喚! 一枚ドロー!」
「私のターンだよ! 2マナで《メンデルスゾーン》! 山札から二枚をめくって、ドラゴンをすべてマナゾーンに置く!」
に、2マナ使って、最大2マナも増やせるんだ……す、すごいね……
だけどめくれたのは、《熱血龍 バトクロス・バトル》と《メンデルスゾーン》だった。片方はドラゴンだけど、もう片方は呪文だ。
「うーん、ちょい微妙! まあいっか! 《バトクロス》だけマナに置いて、残りは墓地に行くよ。ターンエンド!」
ターン2
小鈴
場:《グレンニャー》
盾:5
マナ:2
手札:4
墓地:0
山札:28
暁
場:なし
盾:5
マナ:3
手札4
墓地:2
山札:26
「3マナで《リロード・チャージャー》! 《エヴォル・ドギラゴン》を捨てて一枚ドロー。ターン終了!」
「こっちも3マナで《
空城さん……暁ちゃんは、マナ加速を続ける。それと同時に、なにかを探しているようだった。
ここでめくれたのは《無双竜鬼ミツルギブースト》《熱血龍 バトクロス・バトル》《怒英雄 ガイムソウ》。名前に《ボルシャック》とつくクリーチャーはいない。
「うへー、全部はずれ……まあ当たりの方が少ないし、いっか。ターンエンド」
ターン3
小鈴
場:《グレンニャー》
盾:5
マナ:4
手札:3
墓地:1
山札:26
暁
場:なし
盾:5
マナ:5
手札3
墓地:2
山札:25
暁ちゃんは、まだなにかをしてくる様子はないけど……ひたすらマナを伸ばしていって、ちょっと怖い。
こっちも、できるだけ早く動きたいところだけど……
「3マナで《ボーンおどり・チャージャー》! 山札から二枚を墓地に送るよ。さらに3マナで《リロード・チャージャー》。手札の《コギリーザ》を捨てて一枚ドロー。ターン終了」
手札にチャージャー呪文がたくさん来てしまって、なかなかメインの動きに繋がらない。
墓地は増えるから、悪いことではないんだけど……
「うっわー、私よりマナ多いじゃん。どうしよっかな、ドローしてー……うーん、とりあえず《メンデルスゾーン》を唱えるよ。山札から二枚めくるね」
暁ちゃんはひらすらマナを伸ばし続ける。その加速さえも不調っぽいけど……どれだけ大型の切り札を持っているんだろう。
「げっ、また《メンデルスゾーン》めくっちゃった……《ボルシャック・ドギラゴン》だけマナに置くよ。ターンエンド」
またマナ加速が上手くいかなかったようで、暁ちゃんはがっくりと肩を落とすけど、すぐにケロッとした顔に戻る。
切り替えが早いというか、なんというか……さっぱりした子だなぁ……
ターン4
小鈴
場:《グレンニャー》
盾:5
マナ:7
手札:1
墓地:4
山札:22
暁
場:なし
盾:5
マナ:7
手札2
墓地:4
山札:22
お互いにマナは7。きっと暁ちゃんも、そろそろ切り札が出る頃だろうし、こちらも攻めていきたい。
というところで、ちょうどいいカードが引けた。墓地はまだ不十分だけど、ここは動くべきかな。
「5マナで《狂気と凶器の墓場》! 山札から二枚を墓地に置いて、墓地の《龍装艦 チェンジザ》をバトルゾーンに復活だよ!」
「げ、あれヤバい奴だ……」
なんだか卯月さんと同じような反応だ。たまたまパックから手に入れて、なんとなく強そうだし、わたしのデッキとも方向性が合うから入れてみたけど……そんなにすごいカードだったのかな。
「《チェンジザ》の能力で二枚ドロー! さらに手札を一枚捨てるよ! 《法と契約の秤》を捨てて、墓地から《コギリーザ》を復活! 《チェンジザ》からNEO進化!」
……とりあえず《コギリーザ》までは辿り着いたけど、実はまだキーカードは足りない。
《コギリーザ》自体も強いから、単体で攻め込んでもいいけど、ここはやっぱり、アレを出したい。
そのために、もう少し掘り進む。
「さらに3マナで《ボーンおどり・チャージャー》! 山札から二枚を墓地へ!」
墓地に送られたのは、《グレンニャー》と《KAMASE-BURN!》。うぅん、これじゃない……
マナがないから、もう手札のカードは使えない。となれば、このターン呪文が使えるのは、あとは《コギリーザ》の能力でのみ。チャンスはあと一回。
「《コギリーザ》で攻撃! その時、キズナコンプ発動! 墓地からコスト7以下の呪文、《狂気と凶器の墓場》を唱えるよ! 山札から二枚を墓地に送って、墓地のコスト6以下のクリーチャーを復活させる!」
さらに二枚、墓地に送り込む。
ここで来れば……お願い……!
「――来た!」
やっと来てくれた。
いつもと同じことだけど、ここ一番では、いつも助けてくれる。わたしの、切り札。
「墓地から《龍覇 グレンモルト》をバトルゾーンへ!」
そして、これが、いつきくんから貰った、本当の切り札。
“今”のわたしと、いつきくんとの、繋がりだ。
「《グレンモルト》に、《銀河大剣 ガイハート》を装備!」
よし。これで準備は整ったよっ。
あとはただ、前に出るだけだ。
「んー……? 最初は部長っぽいって思ったけど、なんかちょっと、一騎さんみがある……?」
暁ちゃんはしげしげと首を傾げていた。
……卯月さんもちょっと言ってたけど、わたしのデュエマってそんなにいつきくんと似ているの……?
いつきくんとデュエマしたことないし、いつきくんのデュエマも見たことないから、よくわからないや。
それよりも今は、暁ちゃんとの対戦中だ。《グレンモルト》は出せたし、《コギリーザ》の攻撃から、繋いでいく。
「《コギリーザ》でWブレイク!」
「トリガーは……ないよ」
「続けて《グレンモルト》でシールドをブレイク!」
「う、これもノートリガー……」
「なら……これで二回攻撃したから、龍解条件成立!」
トリガーはなし。運が良かった。
それなら、このまま――決めてしまえる。
わたしは《ガイハート》を捲り、ひっくり返して、その本当の姿を晒す。
「龍解――《熱血星龍 ガイギンガ》!」
ここまで来れば、もう力押しだ。
わたしの場には《グレンニャー》もいる。暁ちゃんのシールドは二枚だから、このままトリガーがなければ、一気にダイレクトアタックまで届く。
「行くよっ! 《ガイギンガ》でWブレイク!」
駆け抜ける《ガイギンガ》が、二枚のシールドを打ち砕く。
そして……
「来ったぁ! S・トリガー! 《爆裂遺跡シシオー・カイザー》!」
……出ちゃった。
あと一歩というところで、わたしの攻撃は、届かない。
「《シシオー・カイザー》の能力で、まずは山札から一枚マナチャージ! そして私のマナに火のドラゴンが三体以上いれば、パワー3000以下のクリーチャーを破壊するよ! 《グレンニャー》を破壊!」
「っ、ターン終了……!」
キラキラしてるわりには、意外と地味な効果……でも、攻撃が止まった事実は変わらない。
シールドはゼロにまで追い詰めたけど、その窮地を、脱却されてしまった。
「ふぃー、冷や冷やしたぁ。でも、こっから逆転だね!」
暁ちゃんは安堵の溜息をつく。そして、明るく、輝くような、勝ち気な笑顔を見せた。
「《シシオー・カイザー》のお陰でマナは足りる! マナチャージして9マナタップ! 《王・龍覇 グレンモルト「刃」》を召喚!」
「《グレンモルト》……! それに、刃……?」
前に《グレンモルト「覇」》っていうクリーチャーなら見たことあるけど、刃……?
まだ、別の形態の《グレンモルト》がいるんだ……しかもコスト9と、《グレンモルト「覇」》よりも大型。ということは、あれ以上に強力な能力を持っているに違いない。
「《グレンモルト「刃」》の能力で、コスト5以下の火のドラグハートを呼べる! よーし、今日はなににしよっかなー?」
と、暁ちゃんは、まるで今日のランチでも決めるかのように、超次元ゾーンのカードを眺める。
とても、明朗で、楽しそうに。
彼女は一枚のカードを、手に取った。
「よし、相手が《ガイギンガ》ならこれだ! 《爆銀王剣 バトガイ
ばと……《ガイハート》?
いや、それは《ガイハート》ではない。それよりも、さらに大きく、強い大剣だ。
それに、きっとあれには、《ガイハート》とまったく違う性質の力がある。
「《グレンモルト「刃」》で《グレンモルト》を攻撃! その時、《バトガイ刃斗》の効果発動! 山札をめくって、それがドラゴンならそのままま出せるよ!」
「山札から、ドラゴンを……?」
山札を一枚だけめくって出すというのは、とても不確実に思える。
けれど、暁ちゃんのデッキはそのほとんどすべてがドラゴン。ドラゴンじゃないカードは、《メンデルスゾーン》しか見えていない。そしてその《メンデルスゾーン》も、四枚すべてが墓地にある。
もし、暁ちゃんのデッキにあるドラゴンでないカードが《メンデルスゾーン》だけなのだとすれば、この先、暁ちゃんは山札から、必ずドラゴンをめくり続ける……?
焦りが、全身を迸る。熱い感覚が、煽るように、心臓を早鐘のように打ち付ける。
「よっし、二枚目の《グレンモルト「刃」》だよ! この《グレンモルト「刃」》の能力で、《爆熱天守 バトライ閣》をバトルゾーンに!」
超次元ゾーンでウエポンだったカードが、フォートレスの姿に変形して、バトルゾーンに現れる。
あれは……3D龍解? のカードだっけ。ウエポン、フォートレス、クリーチャーと、三段階に変形するドラグハート。
それをウエポンの状態で直接出す……それはつまり、なにかひとつのきっかけで、すぐにクリーチャーに変化するということ。
焦燥がさらに高まる。肌を焼く熱光のような、ひりつく空気が突き刺さる。
「さらに! このターン、二体目以上のドラゴンが場に出たから、《バトガイ刃斗》の龍解条件成立!」
「っ!」
二体目以上のドラゴン……《グレンモルト「刃」》が二体出たから、それで龍解するんだ……!
暁ちゃんは銀河と龍の大剣を掴み取る。そしてそれを、ひっくり返した。
「龍解! 《爆熱王DX バトガイ銀河》!」
それもまた、《ガイギンガ》のようで、《ガイギンガ》とはまるで違うクリーチャー。
《ガイギンガ》よりも堅牢な鎧を纏い、数多の剣を携える、鎧武者のような龍だ。
「さぁ、バトルだよ! 私の《グレンモルト》のパワーは9000!」
「わ、わたしの《グレンモルト》は、バトル中は7000……」
「知ってる! だから私の勝ち!」
ここまでやって、ようやく一撃目の攻撃が終わる。
そう、これはまだ、はじまりなんだ。
言うなればこれは、雛鳥が孵化したに過ぎない。
ここからだ。
ここから、雛が成長し、鳳となり、そして――太陽に向けて、羽ばたくのだ。
「《バトガイ銀河》で《コギリーザ》を攻撃! まずは《バトライ閣》の効果で山札をめくるよ! それがドラゴンかヒューマノイドならそのままバトルゾーンに出せる! 《ボルシャック・ドラゴン》をバトルゾーンに!」
山札から一切合切のノイズが排除された今、暁ちゃんに「不発」はあり得ない。
純度100%の活火山から、絶え間なく、無数の龍が押し寄せる。
「次に《バトガイ銀河》の能力でドロー! そして手札からドラゴンをバトルゾーンに出すよ! 《永遠のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに! さーらーにー! このターン二体目以上のドラゴンを出したから、《バトライ閣》の龍解条件を達成!」
「まだ龍解するの!?」
「当然!」
武器を介することなく現れた城塞が、瞬く間に変形する。
長大に広がったそれは、天高くそびえる城のようであり、太陽まで届きそうなほど、巨大だった。
「暁の先に――3D龍解! 《爆熱DX バトライ武神》!」
《バトガイ銀河》とよく似た鎧に刀剣で武装した、城のような、武者のような、龍。
見るからに強そうな切り札だ。これ一枚だけでも、わたしのシールドを容易く切り裂いて、とどめを刺せるだけの力あるだろうことがわかる。
だけど、暁ちゃんは、このくらいでは止まらなかった。
太陽が膨張を続けるように、暁ちゃんも、仲間を呼ぶことをやめない。
「行っけぇ! 《バトライ武神》で攻撃! 能力発動! 山札を三枚めくって、その中のドラゴンをすべて出す!」
「三枚!? し、しかもドラゴンを、全部……!?」
暁ちゃんは、山札を三枚、一陣の風を吹かせるかのように、盛大にめくり返す。
そして、現れたのは――
「《勝利のレジェンド ガイアール》! 《
――すべて、ドラゴン。
しかも、一枚一枚が必殺級のパワーがありそうな、凄烈な力を感じるドラゴンだ。
次々と集まる龍。彼らは、天衣無縫にして縦横無尽に、戦場を、大空を、太陽の下、翔け回る。
「全部ドラゴンだから、私のクリーチャーはこのターンスピードアタッカーになる! 《バトライ武神》でTブレイク!」
「し、S・トリガー……! ない……!?」
「この調子で《ガイギンガ》も倒す! 《天下五剣カイザー》で《ガイギンガ》を攻撃! パワーは14000!」
「《ガイギンガ》はバトル中、パワーがプラス4000されるけど、それでも13000……ギリギリ、パワーが足りない……」
「よしバトルだ! 《ガイギンガ》を破壊!」
ち、力ずくで、破壊された……
暁ちゃんの呼ぶドラゴンは、あまりにも数が多い。なのに、一体一体が、凄まじく強い。
パワーだけでも、わたしの《ガイギンガ》を一方的に叩き潰してしまうほどに、強靱で強大だ。
しかも、それだけでは終わらない。ただ強いだけじゃない。
「《天下五剣カイザー》がバトルに勝ったから、私は次のターン負けないよ! あと《バトガイ銀河》の能力でドラゴン以外も攻撃できないから!」
「え!? バトルに負けなくて……攻撃もできない……!?」
強くて、大きくて、その上、堅い。
このターン生き残れるかどうかもわからないのに、次のターンに反撃する目を摘まれてしまった。
「次は……こっちかな! 《鬼丸「覇」》で攻撃! さぁ、ガチンコ・ジャッジだ! 私が勝ったら追加ターンを貰うよ!」
「つ、追加ターン……!」
どんどん、わたしの逃げ場がなくなっていく。
ここで追加のターンなんて取られたら、本当に、万に一つの勝ちの目もなくなってしまう。
「ガチンコ――ジャッジ!」
「じゃ、ジャッジ……!」
私がめくったのは……《遣宮艦 タマテガメ》。コストは7。わたしのデッキの中では、最もコストが高いカードだ。
でも、空城さんのデッキには、コストの高いドラゴンがたくさん入っている。コスト7じゃ、負けちゃうかも……
「……ちぇ。残念、勝てないや」
しかしここでめくられたのは、コスト6の《爆裂遺跡シシオー・カイザー》だった。
ぎ、ギリギリ……! 追加ターンはなかった。よかった……
「でもま、このままぶっちぎるから関係ないね! 《鬼丸「覇」》で残りのシールドをブレイク!」
「S・トリガー《デーモン・ハンド》! 《永遠のリュウセイ・カイザー》を破壊!」
「それじゃあ止まんないよ!」
「それだけじゃない! もう一枚S・トリガー! 《目的不明の作戦》! 」
「うぇっ? それ、確か浬が使ってたよーな……」
《目的不明の作戦》の効果で、わたしは墓地からコスト7以下の呪文を唱えられる。《コギリーザ》の能力を呪文にしたみたいな効果だ。
そして、ここで唱えるのは、
「墓地から《六奇怪の四~土を割る逆瀧~》を唱えるよ! 次のわたしのターンまで、相手は一度しか攻撃できない!」
「もう三回くらい攻撃してるんだけどなー……それを唱えたら、私もう攻撃できないってこと?」
「そ、そうなるんじゃないかな……?」
「そっかー。残念。んじゃターンエンド!」
あ、あっけらかんとしてるなぁ……
いやでも、暁ちゃんが余裕なのは当然だ。
お互いにシールドゼロ。だけど、暁ちゃんは、次のターンには負けないのだから。
ターン5
小鈴
場:なし
盾:0
マナ:9
手札:4
墓地:12
山札:15
暁
場:《グレンモルト「刃」》×2《シシオー》《ボルシャック・ドラゴン》《勝利のレジェンド》《鬼丸「覇」》《天下五剣カイザー》《バトガイ銀河》《バトライ武神》
盾:0
マナ:9
手札5
墓地:5
山札:14
《天下五剣カイザー》による敗北回避。そして、ダメ押しのようにわたしを縛る《バトガイ銀河》の能力。
すごく攻撃的なのに、幾重にも重ねられた防御網。どう足掻いたって、わたしはあと1ターン、暁ちゃんに渡さないといけない。
つまりわたしが勝つためには、次のターンにどうやって生き残るかを考える必要がある。
暁ちゃんの場には、九体のドラゴン。しかも、その半分以上は、パワー10000を余裕で越えた超大型のドラゴンだ。
それらすべてを倒す? そんなこと――
「……よし」
――できる。
暁ちゃんほど、切り札が何種類もいて、それらを何体も出すことはできないけど。
《コギリーザ》や《グレンモルト》、《ガイギンガ》以外にも、わたしにはまだ、切り札が残っているのだから。
「呪文《超次元リバイヴ・ホール》! 墓地から《光牙忍ハヤブサマル》を手札に戻すよ! そして《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに!」
「スピードアタッカー……でも! 《天下五剣カイザー》の能力で、私はこのターン負けないよ!」
「わかってる……だから」
続けてわたしは、もう一枚、手札を引き抜く。
「呪文《法と契約の秤》! 墓地からコスト7以下のクリーチャーを復活させる!」
《コギリーザ》と《グレンモルト》だけなら、《狂気と凶器の墓場》だけでよかった。
だけど、このデッキには、これがある。
復活できる範囲が7コストまでというのもあるけど、なによりこの呪文は“進化クリーチャーも出せる”のだ。
本来なら、《コギリーザ》や《グレンモルト》こそが、第二、第三の切り札。
そう。これが、わたしの最初の切り札――
「お願い――《エヴォル・ドギラゴン》!」
――これで、活路を見出す。
「《勝利のガイアール・カイザー》を、《エヴォル・ドギラゴン》に進化!」
「パワー14000……! つっよ! でも、それくらいなら問題ないね!」
「そうかな? とりあえず行くよ! 《エヴォル・ドギラゴン》はドラゴンだから、《バトガイ銀河》の能力を受けず攻撃できる! まずは《バトガイ銀河》を攻撃!」
「《バトガイ銀河》、パワー12000しかないんだよね……勝てないや」
「バトルに勝ったから、《エヴォル・ドギラゴン》をアンタップ! 次に《バトライ武神》を攻撃!」
「《バトライ武神》もパワー12000……! だけど! 《バトライ武神》は龍回避で《バトライ閣》に戻るよ!」
龍回避があるんだ……倒したと思ったけど、ドラゴンが二体出るだけで、また龍解してしまう。
でも、綱渡りなのはわかってたこと。ギリギリであることに変わりはない。このまま行くよ!
「次! 《レジェンド ガイアール》を攻撃!」
「えっ、いや、《ガイアール》はアンタップしてる……」
「《エヴォル・ドギラゴン》は《勝利のガイアール・カイザー》の能力を引き継いでるよ! だから、このターン、アンタップしてるクリーチャーでも攻撃できる!」
「うわっ、そうなんだ……え? ってことは、まさか私のクリーチャーは……!」
《レジェンド ガイアール》のパワーは13000、当然、《エヴォル・ドギラゴン》が一方的に勝つ。
そしてアンタップしていても関係なく攻撃できるということは、パワー14000未満のクリーチャーはすべて、《エヴォル・ドギラゴン》が叩き潰してしまう。
《グレンモルト「刃」》も、《シシオー・カイザー》も、《ボルシャック・ドラゴン》も、《鬼丸「覇」》も、すべて《エヴォル・ドギラゴン》が、一方的に蹂躙する。
そして、
「これで最後! 《天下五剣カイザー》を攻撃!」
最後に残った《天下五剣カイザー》。
《エヴォル・ドギラゴン》のパワーは14000。そして、《天下五剣カイザー》のパワーも14000。
両者のパワーは同じ。つまり、
「……相打ち、だね」
「ターン、終了……!」
わたしは《エヴォル・ドギラゴン》と引き換えに、暁ちゃんのすべてのクリーチャーを破壊した。
これでお互いにクリーチャーがゼロ。シールドもゼロ。
両者共になにもない状態で、暁ちゃんにターンを渡してしまうのは怖いけど……それでもまだ、生路は途絶えていない。
たとえスピードアタッカーを引かれても、《ハヤブサマル》で一回だけなら防げる。
だから怖いのは、《バトライ閣》がまた龍解してしまうことだけど、それにはドラゴンを二体出さなくちゃいけない。
暁ちゃんのマナは次のターンで10マナ。あれだけ強いドラゴンを出すには、10マナで一体が限界のはず。そうでなくても、10マナでドラゴン二体は、あのデッキのカードを見る限り、大変そう。
勝つ算段はある。だけど同時に、負ける予想もついてしまう。
5マナの《ミツルギブースト》を二体出すとか、《シシオー・カイザー》でマナを増やしてから《ミツルギブースト》を出すとか、三枚目の《グレンモルト「刃」》を出すとか……もしかしたら、わたしが見えていない他の可能性もあるかもしれない。
暁ちゃんは、どう攻めてくるんだろう……?
「私のターン。マナチャージして、これで10マナ……どうしよ。あれ出すか、これ出すか。あ、でも《ハヤブサマル》があるのか。じゃあ、これをこうして、こうすれば行けそう? いやでも失敗したら……ならこれであれ引き込んで……でも、めくれるかなぁ……」
手札のカードとにらめっこしながら、ああでもない、こうでもないと、唸る暁ちゃん。
しばらくそうしていると、なにか吹っ切れたように、バッと顔を上げた。
「あぁもう面倒くさい! 考えるのやめた!」
シールドブレイクで、暁ちゃんの手札はたくさん増えている。その多様な選択肢から、最適解を導くプロセスを、その思考を、彼女は放棄した。
どうすればいいのかわからない。そのために考える、ということを投げ捨て、彼女はただ、自分の信じるものを、選び取る。
「悩んだ時は、一番強いの!」
そうして彼女は、一枚のカードを叩き付けた。
彼女が信じる、一番強い切り札を。
「頼んだよ――《龍世界 ドラゴ大王》!」
赤黒い、巨大な龍。
大王の名に恥じない威風を感じるドラゴンだ。
見たところ、スピードアタッカーとかではないみたいだけど……?
「ターンエンド!」
「え……もう終わり?」
「うん。《ドラゴ大王》がいるからね、これで勝てる」
すごい自信だ……いや、暁ちゃんは最初から自信満々ではあったけど
だからこれは、どちらかと言えば、信頼かもしれない。
まるで本当に、そこにクリーチャーがいるみたいな……
ターン6
小鈴
場:なし
盾:0
マナ:10
手札:4
墓地:15
山札:11
暁
場:《ドラゴ大王》
盾:0
マナ:10
手札4
墓地:12
山札:13
「わたしのターン!」
暁ちゃんの新しい切り札が出たけど、わたしにターンが返ってきた。
それだけで十分。わたしには、シールドがない暁ちゃんを仕留めるだけの力があるから。
「スピードアタッカー一枚で通る……! 6マナで《龍覇 グレンモルト》を召か――」
「おっといいのかな? 《ドラゴ大王》がいる時、ドラゴン以外のクリーチャーを召喚しても墓地送りだよ!」
「え……っ!?」
ドラゴン以外は……墓地送り……!?
それじゃあ、《グレンモルト》も、《コギリーザ》も出せない……暁ちゃんのシールドはゼロなのに、攻撃が、通せない……!
「……いや、まだ! 呪文《リバイヴ・ホール》! 効果で《エヴォル・ドギラゴン》を手札に戻して、《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに!」
「うわ、また来た……!」
「そして、6マナで《勝利のガイアール・カイザー》を進化! 《エヴォル・ドギラゴン》!」
まだ、まだ戦える。
《グレンモルト》も、《コギリーザ》も出せないけど、まだ《ドギラゴン》がいてくれる。
「《エヴォル・ドギラゴン》で攻撃! まずは《ドラゴ大王》! 《勝利のガイアール・カイザー》の能力で、アンタップしているクリーチャーも攻撃できるよ!」
さぁ、バトルだよ。
《エヴォル・ドギラゴン》のパワーは14000。対する《ドラゴ大王》のパワーは13000。
わたしの、《エヴォル・ドギラゴン》の、勝ち……!
「《ドラゴ大王》! なんもしてないじゃん!」
「そのまま攻撃! ダイレクトアタック!」
「くぅ、革命0トリガー! 《ボルシャック・ドギラゴン》! うぅー、パワーが足りないよ……!」
《ボルシャック・ドギラゴン》のパワーは12000。バトルに勝てなきゃ、《エヴォル・ドギラゴン》の攻撃は止まらない。
これで、わたしの、勝ち――
「……いや、まだだ! 《王・龍覇 グレンモルト「刃」》!」
「!」
《グレンモルト「刃」》……!
クリーチャーの革命0トリガーは、山札の一番上のクリーチャーを進化元にする。そして、その進化元となったクリーチャーは、一度場に出るから、場に出た時の能力が使える。
ここでめくられて、進化元になるのは《グレンモルト「刃」》。つまり、ドラグハートが、出て来る……!
「パワーを上げる系のは……これだ! 《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》! これを《ボルシャック・ドギラゴン》に装備! バトル中のパワーが3000上がる!」
バトル中にプラス3000。元のパワーが12000だから、合計15000。
《エヴォル・ドギラゴン》のパワーを、上回った……
「よーし! 撃破! さらにわたしの火のドラゴンがバトルに勝ったから、手札から《爆竜勝利 バトライオウ》を出すよ!」
「た、ターン、終了……」
……まずいです。
これは、もう……
「私のターン! えぇっと、まあどうでもいいや! 《ボルメテウス・サファイア・ドラゴン》を召喚! 《ボルシャック・ドギラゴン》で攻撃! 《バトライ閣》の能力で山札をめくって……《ボルシャック・ドギラゴン》……不発したけどそれはそれ! ダイレクトアタック!」
「は、《ハヤブサマル》……ブロック……!」
けど、ダメだ。
これだけじゃあ、止めきれない。
「《バトライオウ》で攻撃! 《バトライ閣》でめくって《無双龍幻バルガ・ド・ライバー》をバトルゾーンに! 二体目のドラゴンが出たから、《バトライ武神》に3D龍解!」
「…………」
この数、この大きさ、この強さ。
流石にもう、どうにもなりません。
わたしの手札にはもう、シノビも、革命0もない。
この攻撃は、防げない。
「あははっ、楽しかったよ小鈴。またデュエマしよう!」
暁ちゃんは、爽やかにそう笑った。
その笑顔は、太陽のように眩しい。あたたかくもあり、熱くもあり、からっとした晴天のような、気持ちのいい笑みだった。
……恋ちゃんがこの人のことを好きになるのも、少し、わかるかも。
負けたのに、むしろ気持ちがいい対戦。そういうのも、今までなかったわけじゃないけど。
暁ちゃんとの対戦は、なぜだか、今までの中で一番、すっきりしていたから。
「《爆竜勝利 バトライオウ》で、ダイレクトアタック――!」
☆ ☆ ☆
……はい、負けちゃいました。
今回の大会はトーナメント形式。一度負けちゃったら、もうおしまい。つまりわたしの出番はもうありません。
呆気なくわたしの大会は終わってしまったけれど、みんなはどうだろう?
誰か、勝ち残ってるかな?
「ユーちゃん、負けちゃいました……」
「私も負けてしまいましたが、得るものは少なくありませんでした。良い経験でしたよ」
「普通に負けた」
「右に同じく」
「あ、アタシも……」
敗戦報告が続々上がってきました。
みのりちゃんや霜ちゃんまで負けちゃうなんて、実はすごくレベルの高い大会だったのかな……?
「皆負けちゃったんだねぇ」
「そういう先輩はどうなんです?」
「れんちゃんみたいなちっこ可愛いクールビューティー美少女にフルボッコにされた。気付いたら
「なんだ、結局負けてるじゃん」
「……ところで、その日向さんは……?」
そういえばいないね?
キョロキョロとあたりを見回してみると……いた。
暁ちゃんとお話ししている……というか、腕に抱きついてる……?
「あきら……私、勝った……次、あきらと……」
「恋とデュエマかー。ぶっちゃけキツいなぁ。勝てるかなぁ」
「私は……あきらと、デュエマ、できるだけで……うれしい」
「そりゃ私も嬉しいけど、やっぱ勝ちたいしなー。恋には全然勝てないんだよねぇ。なんであの時勝てたんだろ?」
「二回戦……たのしみ……」
「楽しみだねぇ。恋は全力を出し切っても倒しきれないから、なんか、ずっと楽しいんだよね。勝てないけど」
「私が、いくら、止めても……進み、続けるの……あきら、だけ……ずっと、たのしい……ずっと、ずっと……」
なんだか、今日の恋ちゃんはとても楽しそうだ。……楽しそう?
ちょっと会話が不穏な気もするけど、邪魔しちゃ悪い気がする。恋ちゃんは今日という日を、すごく楽しみにしていたみたいだし。
「恋は二回戦進出か。なら、ボクはそちらの観戦でもしようかな」
「なら私もー。ちょっとお話ししたい人もいるし。妹ちゃんたちは?」
霜ちゃんと謡さんは会場に残るらしい。
わたしは……どうしようかな。
今の恋ちゃんのところにはあまりいない方がいいような気がする。もうすぐ十二時、お昼だし、ご飯を食べに行ったりするのがいいのかな?
「じゃあ、わたしはお昼を食べに……みのりちゃんたちも来ない?」
「うぇっ! 魅力的なのに破滅的に聞こえる悪魔の囁きだ」
「えっ? ど、どういうこと……?」
「夏祭りに見た悪夢がちょっとね」
夏祭り? みんなで仲良くご飯を食べたりしてたと思うけど……悪夢?
ちょっとよくわからない。
「んー……よし! ユーリアさん、君に決めた!」
「ユーちゃんです? わかりました!」
「いいのか実子。飯だぞ」
「吐いたら元も子もないからね! いくら私でもゲロインはごめんだよ」
「ユーちゃんが行くのでしたら私も行きます。ハメを外しすぎないよう、ちゃんと見ておかないと」
「うわ面倒くさいのもついてきた……」
「それはどういう意味ですか? 香取さん?」
「喧嘩するなよ、こんなところで」
「そーくんには言われたくないと思うけどなぁ、それ」
みのりちゃんの言ってることはよくわからなかったけど、とりあえず、あちらはみのりちゃん、ユーちゃん、ローザさんの三人で動くみたい。
霜ちゃんと謡さんはここに残って恋ちゃんの応援だから、となると……
「代海ちゃん、一緒にいこ」
「は、はい……」
わたしは、代海ちゃんと一緒に、文化祭を回ることになりました。
☆ ☆ ☆
時間もお昼近くだし、とりあえず外に出て来ました。
卯月さんを追いかけていた時はあんまり気にしていなかったけれど、知らない場所で、知らない人たちが形成する祭りというのは、なんだかとても不思議な気分だ。
言葉は通じる。けれど、目に映る風景、建物、自然、人々、全部が未知のもので、新鮮だ。それはちょっと怖くもあるけれど……みんなと一緒に来たわけだし、今は代海ちゃんもいる。
そういえば、代海ちゃんとこうして遊ぶのも、ちょっぴりご無沙汰だ。
「最近あんまり代海ちゃんと会えなかったから、ちょっと嬉しいね」
「あ、は、はい。そ、その、あ、アタシも……最近は、ぼ、帽子屋さんに、頼まれ事を……」
「帽子屋さん……」
今日も遅れて来ていたけど、それも帽子屋さんとの用事と言っていた。
帽子屋さん……かぁ。
わたしが黙ってしまったのを見て、代海ちゃんは、不安そうに瞳を潤ませる。
「こ、小鈴さんは、帽子屋さんの、こと……お、お嫌い、ですか……?」
「うーん……」
難しい質問だ。
帽子屋さんとは……代海ちゃんも含む【不思議の国の住人】の人たちとは、確かに色々あった。
一方的に付け狙われたこともある。色んな人を傷つけられたこともある。けれど同時に、手を取り合ったことも、一緒に笑ったこともある。
帽子屋さんという人について、わたしはよくわからない。【不思議の国の住人】という総体が、ひとつの思想で構築されているわけではないことも知った。
好きか、嫌いか。彼らを、そんな単純な言葉で言い表すことは、とても難しい。わたしは、上手く答えが出せなかった。
だから、逆に聞いてみた。
「代海ちゃんは、帽子屋さんのこと、どう思ってるの?」
「あ、アタシ、ですか……?」
代海ちゃんはびっくりしたように目を丸くして、ぎゅっとフードを深く被り直し、考え込む。
追想するように、ゆっくりと、じっくりと、代海ちゃんは静かに目を閉じていた。
やがて、代海ちゃんは、揺るぎない瞳で、言った。
「……帽子屋さんは、恩人、です……」
確かに、はっきりと、震えを押し殺した確固とした声で、宣言する。
「雛鳥は、生まれてはじめて見るものを、親とする……って、聞いたことが、あ、あるんですけど……アタシは、“最初の首を落とされた時”に、一度……新しく、生まれたようなもの……です」
最初の首……
代海ちゃんが、今の代海ちゃんである前にあったという、頭。今の代海ちゃんは、その頭がなくなった代わりとして、自分の頭を生み出した……らしい。
首を落とす、斬首という行為は、最も有名な処刑の方法のひとつだと思う。
つまり、それは単純明快で誰にとっても通ずる“死”だ。
代海ちゃんが一度死んでいるとするのなら、今の代海ちゃんは、生まれ変わったとか、生き返ったとか……あるいは、新しい命が生まれた、と考えることもできるのかもしれない。
……怖い、話だけども……
代海ちゃんはまっすぐにわたしを見つめて、続ける。
「そ、その時……はじめて、アタシに、手を差し伸べて、くれたのは……アタシに『代用ウミガメ』の、名前をくれて……【不思議の国の住人】っていう、居場所をくれて……アタシの、生きる道を、示してくれたのは……帽子屋さん、です……」
自分という意志を得て、最初に目にした者が、帽子屋さん。
とすると、帽子屋さんは、代海ちゃんにとっては、親鳥のようなものなのかもしれない。
……それだけじゃ言い表せないほど、二人の……うぅん、【不思議の国の住人】という関係は、単純ではないのかもしれないけれど。
「……正直な、ところ……帽子屋さんは、こわい、です。なに考えてるか、わからないし……たまに、む、むちゃくちゃなこと、言いますし……頭、おかしい、ですし……たぶん、あの人は……こ、心が、ありません……」
なんだか思っていた以上に酷い物言いだったけど、それは帽子屋さんへの嫌悪とは、違うように思えた。
むしろそれは、信頼の裏返し、みたいな。
未知なるものでも、自分の理解の及ばないものでも――人ならば敬遠し、恐怖するような存在でも、寄り添えるだけの、ある種の諦念であり受容のようなものに思える。
「帽子屋さんは、なにか、大切なものがなくなっちゃった、みたいな人ですけど……でも、あの人が、なにを考えて……なにを思っていようとも。アタシは、帽子屋さんに救われた……その事実だけは、変わらない、です……」
「…………」
「だから、帽子屋さんも……帽子屋さんが作り上げた【不思議の国の住人】も……アタシにとっては、大事、です……帽子屋さんのいない、【不思議の国の住人】なんて……帽子屋さんがいない、アタシの“生”なんて……あり得ない、です……」
「……そっか」
色々、複雑な事情が絡んではいるみたい。単純に、いいとか、悪いとか、好きとか、嫌いとか、そういうことは言えない。
けれど、いいも悪いも、好きも嫌いも、すべて別として――大切、ではある。
それなら、わたしの答えも決まったね。
「わたしは帽子屋さんのことは代海ちゃん以上に知らないけど……代海ちゃんが信じる人なら、わたしも信じたいな」
「でも、アタシたちは……」
「……うん」
代海ちゃんが、本当のところでは人間でないことは知っている。
帽子屋さんの掲げる野望も。そのために、わたしや、あるいは人間という種に牙を剥くかもしれないということも、わかってる。
「でも、こうしてわたしたちと一緒にいる代海ちゃんは、人間と……わたしたちと、同じだよ」
それに、なにより。
「代海ちゃんは、わたしの友達だから」
それは、変わらない。
ずっと同じだ。わたしがそうと決めた時から、その事実は揺るがない。
「大変なことも色々あると思うし、相容れないのかもしれないけど……少なくとも、わたしは、代海ちゃんのことは大事な友達だと思ってるよ。だから、ずっと一緒に遊んでいたいし、一緒にいたい。おいしいものも一緒に食べたいな」
「小鈴さん……」
「あはは……今のはちょっと、ユーちゃんっぽかったかな」
組織、思想、種族。色んなしがらみはあるのだと思う。
わたしの知らないところで、わたしの知らない物語が綴られている。それはとても気になることだけど、わたしはそれに関与できない。
それが普通で、それが自然なのだ。
代海ちゃんには代海ちゃんの物語がある。けれど同時に、わたしにはわたしの物語がある。
そして、わたしと代海ちゃん、二人の物語もある。
それがあるだけで、わたしにとっては十分。
わたしはただ、友達と一緒にいたいだけだから。ずっと、ずっと、これからも。
今それが果たされているのなら、それ以上の喜びはない。
わたしは、代海ちゃんの手を取った。
「いこっ、代海ちゃん。お祭りだよ。おいしいものをいっぱい食べよう!」
そして、彼女の小さく細い手を引く。
☆ ☆ ☆
――アタシは、ここにいてもいいのだろうか?
それは、アタシが……いいや、きっと、他の【不思議の国の住人】の皆も、大なり小なり考えたことだと思う。
野に、海に、空に、沼に、山に、森に、あらゆる生き物が満ちているこの世界。彼らは各々、独自の秩序を構築し、生きている。
じゃあ、アタシたちは?
アタシは、アタシたちの詳しい起源を知らない。帽子屋さんや、バタつきパンチョウさんは知っているようだけど……でも、アタシたちも、この世界に産み落とされた命であることに違いはない。
つまりアタシたちは、この世界で生きる権利がある。外来の侵略者でも、外宇宙からの簒奪者でもない。
でも、この世界で生きる権利があっても、他者の社会で生きることは、赦されるのか。誰かの輪の中にひっそりと潜り込んで生きることは、正しいのか。
それはアタシたちにとって永遠の命題。そして帽子屋さんは、それを否とした。
だからアタシたちは、いつか、アタシたちによる、アタシたちだけの社会を作らなければならない。
そうしなければ、訪れるのは滅亡。存在の定義すらされない、アタシたちという異形の種の絶滅だ。
アタシたちが人の姿をしているのは、それが、生きるために都合がよかったから。人の社会に寄生する在り方は、惰弱なアタシたちが生き延びるための、か細い命綱だ。
人の社会は、アタシたちにとっては手本であり、同時に、アタシたちが生きるための、苗床だ。
アタシたちは、人に寄生しながら生きている。美味しい汁を啜り、旨みを掠め取って、死にそうになりながら、自己中心的に生きている。
だからこれは、負い目、なんだと思う。
アタシたちは人間を利用している。今も、昔も、そしてこれからも。利用して、吸い尽くして、絞り尽くして、刈り尽くす対象。アタシたちが繁栄できた結果、滅んだとしても、構わないと思っている。
人間とはアタシたちにとって、最大の障害であり、最高に利用価値のあるもの……だったはずだ。帽子屋さんも、そう言っていた。同意しているかはさておき、それは【不思議の国の住人】皆が共有している考えだ。
けれどあの人は……そういう感じじゃない。
アタシたちの悪辣で、醜悪で、穢悪な一面を知っても、太陽みたいに輝いている。
薄汚れた命で這いつくばるアタシに、手を差し伸べてくれる。
それはきっと、嬉しいんだと思う。助けられる喜びは、確かに感じる。
けれど同時に、アタシたちの狡猾さが、恥ずかしくて、申し訳なくて、いたたまれなくなる。
人を食い物としか思っていないような存在が、こんな綺麗で、純真で、光輝な人の側に、こんな優しい人が作る集団に、いてもいいのだろうか。
見てくれだけ人の姿を繕っているだけで、中身は未知の怪物と変わりないような、アタシが、いてもいいのだろうか。
あの人はきっと赦すと思う。受け入れてくれるし、認めてくれる。それだけの受容が、彼女にはある。
アタシは、そのあたたかさに惹かれた。その柔らかさに救われた。
アタシを生かしてくれたのは紛れもなく帽子屋さんだけれど、アタシに喜びや楽しさをくれたのは、間違いなくあの人なんだ。
どん詰まりになって、邪悪を貪るように生きるアタシたちでも受け入れてしまう、優しいあの人。
けれどアタシたちはどうしようもなく、人間にとっての悪だ。やはり、その事実も変わらない。
アタシは、アタシたちという悪逆を、あの人に受け止めさせてしまっている。
二律背反。善意と悪行がない交ぜになって、混沌を生み出している。
嬉しいけど、恐ろしくて
楽しいけど、悲しくて。
幸せだけど、苦しくて。
それでもアタシは、帽子屋さんに生かされながら、あの人にすり寄っている。
でも……それでいいのだろうか?
あの人と会っていない理由。それは、帽子屋さんに頼まれた“産卵”も理由だけれど、それだけじゃない。
今のアタシは、人の生み出す和に入っていいのだろうか。そんな不安が、ずっと渦巻いている。
だって、今のアタシは……
「卯月さんが言ってたんだけど、調理部? っていうところで、美味しいパンを焼いてるんだって。行こうよ!」
ドクンッ、と心臓が跳ね上がる。それが本当に心臓なのかどうかはわからないけれど、わたしの焦燥と悪寒が、熱を持って、冷たく身体を這い回る。
あの人は、アタシの手を引く。いつもよりも無邪気に。純粋で完全な善意で。
あぁ、でも、ダメだ。
だって、だって、だって、今の、アタシは……
「わぁ、いい匂い……これ手作りなんだ。すごいね!」
「あ、あ……は、はい……」
焼け焦げた臭気が鼻を突く。肺のようなものに満たされたそれは、内側から、アタシの身体を焼くように甚振る。
身体の中にあるものを絞り出して、締め出して、抉り出すように、全身がキュゥッと痛む。
腐乱死体でも目にしたかのように、気持ち悪い。腐臭を吸い込んだかのように、不愉快だ。
(前より……すごい、酷く……っ)
日に日に増していく嫌悪感。重くのし掛かる吐き気。
臭いだけでこれだ。だとすると、実際に口にしてしまったら、耐えられる気がしなかった。
「すいませーん! これとこれ、二つください!」
彼女が注文する。判決を下されたような衝撃が、稲妻のように身体を貫く。
「はい。代海ちゃん、メロンパン好きだったよね?」
「あ……は……は、はい……」
好きだった。そうかもしれない。好き、だった。
かつては、あるいは、本来は、そうかもしれない。
けど、今は……いや、ひょっとすると、これが、本来の……
「…………」
手渡されたそれは、猛毒を放つ宝石のようだった。
吐き気を催すほどの生理的嫌悪感。口に入れるまでもなく、身体が拒絶している。
それは、口にしたくない、と。
アタシではない誰かが叫ぶように、この身体が拒んでいる。
「どうしたの? 代海ちゃん。食べないの? パンはあつあつのうちがおいしいんだよ?」
「あ、い、え……その……」
――食べなくちゃ。
彼女の期待は、裏切れない。
理解しがたい善性。実感の湧かない優しさ。彼女の真意を、本心を、本当の意味で知ることはできない。
でも、それは帽子屋さんと同じだ。
彼女がどう思っていても、それが弱者への憐憫だとしても、結果として自分は救われたのだ。
彼女といて、心が安らいだ。和やかで、あたたか気持ちを得た。その心地よさは嘘ではない。
帽子屋さんが、狂っていながらも、結果としてアタシに居場所をくれたように……この人も、アタシに大切なものをくれた人だ。
その気持ちを、無碍にはできない。
この人が一番大切にしている日常を、歪ませるようなことは、できない。
(アタシが……ガマン、すれば……いい、だけ……)
手にした熱いそれを、口元に近づける。
香ばしいはずの臭気は、この世のものとは思えない濁ったものとして、鼻孔を蹂躙する。
身体の奥から込み上がってくるものを抑えつけようと、その不快な臭いを掻き消すために息を吸うが、結局その不浄の如き臭気がさらなる嫌悪を湧かせるだけだった。
手が止まる。それはやめておけと、なにかが囁く。そんなものは喰うものじゃないと。もっと他に、口にするべきものがあるだろうと。
(食べなきゃ……小鈴さんに、心配、かけたくない……小鈴さんの、優しい世界に……アタシが、亀裂を、入れる、わけには……)
胸のあたりが澱んでいる。息苦しくて、胸がつっかえて、辛くて、鼓動がどんどん早くなる。
全身が熱を帯びているように、熱く、痛い。なのに怖気が止まらない。悪寒が走って、脳を揺さぶり、不快感を波紋のように広げていく。
一瞬、この胸のあたりの堰をすべて吐き出してしまえば、楽になるのではないかと考えた。
けれどそれはダメなのだ。それは、彼女の迷惑になってしまう。耐えなくては。
汚穢なるものを口にすることを。全身を駆け巡る痛みと、気持ち悪さを。
震えながらも、それを、噛み切る。
味なんてわからなかった。それはただ熱を持ち、吐き気を促進させるだけ。
今すぐ、この異物を、口腔から排除したい。身体は、それを求めていた。
けれど、それは、嫌だった。
(吐いちゃダメ、吐いちゃダメ、吐いちゃダメ……! 飲み込むだけ。飲み込めば、おしまいだから……だから、耐えて、アタシ……!)
ぐちゃぐちゃに咀嚼されたそれを、飲み込む。
喉も嚥下を拒絶する。嫌だ嫌だと、認めない。
しかし嫌なのは、身体も、意志も、同じだ。
この身体が食べるのを嫌がっている。けれどここにいる自分という意志は、彼女に差し出されたものを食べないことが――それによる、彼女への不義が、心底嫌だ。
いつもなら安全で、安心で、安楽な道を選んでいたかもしれない。辛いのも、苦しいのも、痛いのも、嫌だから。
けれど今はそれ以上に、彼女への義理を果たせないことの方が、嫌だった。
ただその一心だけで、身体が受けつけないそれを、嚥下する。
「どう? おいしい?」
「……は、はい……」
視界がぼぅっと霞んでいる。
けれど、心なしか、心が弾んでいる。
自分に勝った。彼女への義理を果たせた。それだけで、十分すぎるほどの歓喜が湧く。
一度飲み込んでしまえば、どうということはない。
相変わらず目の前のそれは、おぞましい異物にしか見えないが、しかし先ほどよりも矮小なものに見える。
よかった。本当に、よかった。
これで、彼女の世界を、守ることができる。
優しく、あたたかな、ひだまりのような和睦の世界を。
身体は辛いが、心に余裕は持てた。だから、精一杯の笑顔で、彼女に応える。
「とても、おいし――」
――世界が、歪んだ。
神は、禁じられた物事に対して、神罰を下す。神罰は禁を犯したもののすべてを奪う。
この身体は、受け入れられないものを、認められないものを、取り込んだ。
無理やり、個人的な意志によって、再三に渡る忠告さえも無視して、禁を破った。
しからば罰が与えられるのは、道理だ。
ごきゅっ、ごちゅ、ぐちゃ、ごろごろ、ぐるぐる、べちゃべちゃ。
「あ……っ」
異音が、身体の内側から響く。
視界が、ぐちゃぐちゃに歪む。
身体が、痺れたように震える。
(だ、ダメ……ダメ、ダメ……! 出て来ちゃ……戻ってきちゃ、ダメ――)
思わず口元を抑える。が、もう、止まらない。
腹の奥底から、全身の熱を奪って、汚濁が込み上げてくる。身体に力は入らず、膝が折れる。
やはり、やはり、そうなのだとこの身体が訴えかける。
自分は本当に、人の道を外れた、人ならざるものなのだと。
薄弱な少女の意志程度で、その理を覆せるはずもない。無理を通した結果、待つのは暴力的なまでの道理だ。
悪しきと断じられたものは、排さなければならない。
――ごめんなさい……小鈴さん――
代用ウミガメと名付けられた少女の、儚き意志は脆く砕かれた。
もう、人の食するものは口にできない身体になってしまったのだと、我が身が告げた。
彼女にとって最大の幸福である行為も、物も、この身には害悪でしかない。
それはまるで、彼女が創り、掲げる、幸せな思想と共同体から、弾き出されたかのようだった。
『代用ウミガメ』は、惰弱も、悔恨も、羞恥も、彼女の大切なものも、すべて――吐き出した。
☆ ☆ ☆
「代海ちゃん!?」
あまりにも唐突だった。
ちょっと顔色が悪いな、とは思ってた。でも、お腹が空いて気持ち悪くなっちゃってるとか、人混みで酔っちゃったとか、そのくらいにしか考えていなかった。だから、外よりも人が少ない室内で、おいしいものを食べようと、そう思ったんだ。
なのに……わたしは、ただそう思ってただけ、なのに。
代海ちゃんは、メロンパンを一口頬張っただけで、蹲って、それで……
「げほっ、がほっ! ぁ、ぅ……ぉ、え、ほっ、かふ……っ」
「しろ……み、ちゃん……」
ぴちゃぴちゃと、嫌な水の音がいつまでも続いている。
周りの人たちも騒然としていて、パニックで、なにが起ってるのかも、どうすればいいのかも、わからない。
わたしはただ立ち尽くして、嗚咽を漏らしてえずく代海ちゃんを、見つめていることしか、できなかった。
「ゆーくん、姫ちゃん! 今年もここのおいしい焼きたてパンが食べられ――って、うわなに!? なんか人がすっごいわちゃわちゃしてる!?」
「え……えっ? あ、あの、あそこ、人が、倒れ、て……?」
「……ちょっとこれはヤバいな」
誰かが教室に入ってくる。三人組の男女。どこかで見覚えが……あの小柄な人は、このみさん……?
「このみ! 保健室から先生呼んでこい! 急げ!」
「あ、う、うん!」
「光ヶ丘は、悪いけど一緒に来てくれ。たぶん女子がいてくれた方がいい」
「う、うん。わかった」
……思い出した。確か、大会の会場にいた高校生の人たち……この学校の卒業生だっていう人たちだ。
男の人は暁ちゃんのお兄さんだとか聞いたような気がする。
頭の中が、変に冷めている。雪原のように、真っ白で、冷え切っていて、動かない。
どうでもいいことばかりが浮かんでくる。今は、そんなことを考えている場合じゃないのに。
「おい! なにがあった?」
「……あっ、え、えっと……」
声をかけられて、我に返る。声が上手く出せない。
でも、伝えなきゃいけない。なにも考えられない頭で、言葉を絞り出す。
「あっ、あ、あ、あの……と、友達が、急に……」
「……うん。とりあえず仰向けにしないように。吐瀉物が喉に詰まって窒息する」
と、男の人は、ぐったりとしている代海ちゃんの頭を、下に向ける。
そして、わたしじゃなくて、他の人――たぶん、調理部の部員さん――に声をかけた。
「なにがあったの?」
「それが、私たちにもなにがなんだか……その人がパンを口にしたら急に……」
「急に? 食中毒とかじゃないのか……? この子、アレルギーとか、ある?」
「さ、さぁ……でも、前にもメロンパンは食べてたから、ないと、思います……」
「調理部。ここのパン、なにか変なの入れてない?」
「へ、変なものなんて入ってません! アレルギー表示だってちゃんとしてますよ。卵とか、牛乳とか、小麦とか……」
「見た感じ、普通にパンで使われてるものっぽいよ。空城くん」
「じゃあ純粋な体調不良なのか? 流石に今のままじゃなにもわからないな……君、意識はある?」
男の人は代海ちゃんに呼びかける。
すると代海ちゃんは、嗚咽を漏らしながら、ぴちゃぴちゃと水音を滴らせながら、涙を浮かべて、ひゅーひゅーと掠れた声を絞り出した。
「お、ぇ……く、あぅ、……ず、ん……こす……さ、い……」
「とりあえず休ませた方がいいな。今は文化祭中で人も多いし、あんまり人目について大事にすると面倒だな……もう手遅れかもしれないけど」
「どうするの?」
「人目につかないところとなると……通気性がよくないけど、トイレあたりが無難か。女子トイレは僕は入れないから、悪いけど、光ヶ丘。頼んでいい?」
「うん、任せて」
「僕は水を持ってくる。で、この教室だけど……調理部連中には悪いけど、床の処理は頼む。というか、今日はもう店仕舞いか」
「とんだハプニングですけど、仕方ないですよね……」
代海ちゃんは女の人に連れて行かれ、男の人は水を取りに教室から出る。調理部の人たちは床を拭き、ざわめく他の人たちを宥めたり、追い返している。
「…………」
その間、わたしは立ち尽くしていた。
☆ ☆ ☆
「代用ウミガメは生きてるか?」
開口一番、アヤハさん――『ヤングオイスターズ』の長女さんはそう言って、保健室のベッドで寝ている代海ちゃんを見下ろす。
保健室には、わたしと、このみさん、それから夕陽さん――暁ちゃんのお兄さんらしいです――に、光ヶ丘さんっていう二人のご友人。それから、たまたま近くにいた恋ちゃんもいた。
「だいぶやつれてんな。ま、当然か」
「あ、アヤハ、さん……」
「立てるか?」
「は、はい……なん、とか……」
代海ちゃんは、ゆっくりと身体を起こす。
……あの後、教室は片付き、保健の先生がやって来て、代海ちゃんをここまで運んだ。
代海ちゃんは顔が真っ青で、辛そうではあったけど、症状はすぐに落ち着いた。保健の先生が言うには、疲労や体調不良、食べ物の匂い、人酔いなんかが重なった結果じゃないか、と言っていたけど……実際のところ、原因はよくわからないらしい。
それで一度、救急車を呼ばれそうになったけれど……それはわたしがなんとか止めた。身体の色んなところが人間として異常のある代海ちゃんだ、もし病院で検査を受けて、人間じゃないことが知られてしまったら……とんでもないことになりかねない。
だから保護者代わりとして、急いでアヤハさんに連絡して来てもらったんだけど……
「ふん。まあとりあえずこいつは回収していくぞ。ったく、なんでワタシがこんなことを……バイト中だったってのに……」
「すみません……先生とか、葉子さんにも連絡したんですけど……どっちも繋がらなくて……」
「で、繋がっちまったワタシが割を喰う羽目になった、と。まあ、ハエのにーさんは無視するだろうし、チョウの姉御はまた携帯ぶっ壊しててもおかしくねーし、しゃーねーか。ネズ公やらユニ子やら、ガキ共呼ぶわけにもいかねーしな」
アヤハさんは代海ちゃんを担ぎ上げておぶる。
そして、かつかつとすぐさま保健室から出て行く。
「じゃあな。うちのガキんちょが世話になった」
ぴしゃり、と扉が閉められる。
しばらくの沈黙。最初に口を開いたのは、保健の先生だった。
「まあ、なにかの病気とかでもなさそうだし、安静にしていれば大丈夫だと思いますよ。空城君が色々対応もしてくれましたし……それにしても、君は昔からこういうことに慣れていたけれど、どうしてですか? 先生は興味から気になります」
「
「あたし? そんなことー……あったー、ようなー?」
「あぁ成程。理解と納得しました。ついでに君の功績も褒めておきます」
「いや別に……」
「ゆーにぃ……おてがら……すごい、ほめる」
「君はどういう視点で僕のことを見てるんだよ……暁の奴、よくこんなのと付き合えるな……」
「きらちゃんは誰とでも仲良くできるからね!」
「……まあ、僕もこんなのと十年以上付き合ってるわけだし、同じようなものか……」
…………
わたしは、代海ちゃんの後を追うように、保健室の扉を開いた。
けれど恋ちゃんが、こちらを向いて、首を傾げる。
「こすず……? どこに……?」
「……ごめん。ちょっと、わたし……」
そして、音もなく、扉を閉めた。
☆ ☆ ☆
人気のない場所を彷徨い歩いていたら、どこかよくわからない場所――たぶん、校舎裏とだと思う――に来てしまっていた。
ここがどこかはわからないけど、人がいないなら、それでいい。なんとなく、一人になりたかった。
建物の陰に腰を下ろして、空を見上げる。
わたしの気持ちなんかと関係なく、この空は青く、広く、快く、輝くように晴れている。太陽は冷たい秋風を掻き消すように、等しく光を降り注ぐ。
「はぁ……」
溜息が漏れる。疲れたし、それに、なんだか色々と、胸の中で渦巻いている。
ぐちゃぐちゃしてて、気持ち悪い。暗く、濁っていて、不愉快だ。
それに、なにより……
「……代海ちゃん」
ぽつり、と言葉が漏れた、その時。
声を、かけられた。
「あ、小鈴ちゃん。こんなところにいたんだ」
「!? い、いつきくん……!?」
振り返ると、そこにいたのは、いつきくんだった。
な、なんでいつきくんが……!? 午後は、卯月さんと一緒に……あ、ってことは、卯月さんもここに……!?
と思ってきょろきょろと視線をあちこちに向けるけど、卯月さんの姿はなかった。
「沙弓ちゃんならここにはいないよ」
「そ、そうなん、ですか……えっと、卯月さんと、一緒に回ってたんじゃ……?」
「うん、そうだったんだけど……」
――いい感じの時間になったところで、私から一騎君にサービスよ。残りの時間はあの子のところに行ってあげなさい。理由は聞かなくていいわ。私もあなたの事情をほんのちょびっとくらいなら汲み取ってあげる優しさがあるんだから。ほら、お互いに色々話したいこととかあるじゃない? 私なりの気遣いよ、気遣い。あ、お礼は今度ご飯を奢ってくれるだけでいいわよ。手料理でも可。美味しい方を頼むわね。
「って」
「ど、どういう、ことですか……?」
「俺にもさっぱりわからない」
なんというか、最後までよくわからない人だったな、卯月さん……なにを考えているんだろう? もしかしたら、なにも考えていないのかもしれない。
いつきくんは静かにわたしの横に腰を下ろして、二人で快晴の空を見上げていた。
やがて、いつきくんはわたしに問う。
「……亀船さんのこと?」
「うん……あっ。は、はい」
「そんな畏まらなくてもいいよ。自然体で話してくれればいいから」
「う、うん……」
な、なんか、変な感じ、する……先輩なのに、年上なのに、敬語じゃないって……
今までずっと敬語だったから、友達みたいに話すの、むずむずしちゃう……
「いつきくんは、知ってるの……?」
「あぁ、うん。というか結構な話題になってるよ」
「……そっかぁ」
「彼女のことが心配?」
「それは、そうなんだけど、そうじゃなくて……」
「倒れた原因は問題じゃない。なら、君のこと?」
「……うん」
……鋭いなぁ。
いや、わたしがわかりやすいのかな。
いつきくんはなにも言わなかったけど、わたしは思わず、吐露してしまった。
「代海ちゃんが倒れた時、わたし、なにもできなくて……頭、真っ白になっちゃって……」
友達が大変な時に、なにもできなかった。
代海ちゃんの不調にも気づけなかった。
それが……悔しくて、悲しくて、情けなくて。
あんなことを言った手前、こんなことになってしまって……自分の鈍感さも、無力さも、色々、嫌になって……
色んなものが、ごちゃごちゃと、わたしの中で渦巻き、暴れているみたいになって、苦しくなったんだ。
「……小鈴ちゃん」
いつきくんは、わたしに顔を向ける。
そして、淡々と、告げた。
「君ができなかったことは、君にできないことなんだよ」
「っ……だ、だけど……!」
「でも、それは恥じゃない」
いつきくんは優しい表情で言う。
「君の力は、君一人の力じゃない。誰かが君を助けてくれるのも、君の力だ」
「誰かの助けが、わたしの、力……?」
「君だって、誰かを助けたいって思うだろう? それと同じさ」
なんだか、前にも似たようなことを言われたような……
「でも、いつきくんは、一人でなんでもできちゃうよね……やっぱり、自分で動けないと……」
「……皆、俺を買い被りすぎだよ。俺は、一人でなんでもやろうとしてしまうだけで、結局、俺にできることは、俺にできることでしかないんだ」
ふぅ、といつきくんは嘆息した。
そして一度、大きな秋空を仰ぐ。
「俺は色んなものを取りこぼしてきた。大切な人を失いかけたし、親友と決裂もした。でも同時に、俺がこぼしたものを拾ってくれた人もいる。俺が抱えるものをこぼさないように支えてくれる人もいる。部の皆、暁さん、沙弓ちゃん、浬君……色んな人に迷惑かけながら、俺は無様に生きているんだよ」
「無様なんて、そんなこと……」
「周りからどう思われているかはともかく、俺の自己評価はそんなものさ。俺は、本当は一人じゃなにもできないんだ。なのに一人でなんでもやろうとして……昔からの悪い癖だ。いつだって、いつだって、気骨を砕かれそうになりながら、自分の無力さを思い知らされながら、地を這うように前に進むしかないんだ」
ちょっと、意外だった。
謙虚な人だとは思っていた。けれど、やっぱりいつきくんは、わたしたちが思う以上に……普通の、男の子みたいなことを言う。
「わたしは、いつきくんは、なんでもできるんだと……部長さん、だし」
「部長ってのは関係ないでしょ……なんだかよく勘違いされているみたいだけど、俺は部長になるべくしてなったわけじゃないんだよ。他になれる人がいなかったから、消去法的に部長になっただけなんだ」
「えっ? そ、そうなの?」
「そうだよ。前任の部長からも「ツッキーを部長にするのは嫌だなぁ。いやまあ、二年生や新入部員にやらせるわけにもいかないし、しゃーないか」なんて言われちゃったもん」
「ツッキー!?」
そんな愛称があったの!?
じゃなくて!
「いつきくん、そんなに部長になるの渋られてたの……? どうして……?」
「人を使うっていうのが、致命的に苦手でね。前任の部長には、よくそういうところを指摘されたものだよ。なんでも一人でやってしまうのは、人の上に立つ者としては三流。人を上手く動かせてこその部の長……うん。だから俺は、軍師じゃなくて、兵士の気質なんだろうね」
なんでも一人でやってしまう……ちょっと、お姉ちゃんみたい……
あぁ、でも、納得はしたかもしれない。
確かに、いつきくんはなにかあると、自分から動きそうな気がする。
それはいいところだと思うんだけど、必ずしもいいことばかりではないようだ。
「一騎当千は国士無双ならず。名将は名師にあらず。千人の首を取る力と、千人の兵を操る力は別物だ。その役割が同じ人物が務まるとは限らないし、それぞれ別の資質が必要になる。俺は本来、駒として動かされる側の人間だ。だけど今の俺は、軍師としての役割を求められている……ままならないね。誰かのためになりたいと思っても、自分で動かず、誰かを動かすことを要求されるだなんて」
渇いた笑いを零すいつきくん。
それは諦めのように、悔やんでいるようにも、受け入れているように、奮起しているようにも見えた。
不思議な、決意だ。
「……うん。まあ俺の話はいいんだよ。君には、俺のような“縛り”がないしね」
我に返ったかのように、いつきくんは話をわたしのことに戻す。
再び、わたしを見た。
「君には、君の力がある。他の誰かを動かすような、周りの人を君の色に染めるかのような、ある種の魅力みたいなものが」
「み、魅力……? そんなの、わたしには……ないよ……?」
「そんなことないと思うけどなぁ。たとえば……そう、恋。あいつ、復学してからも暁さんにしかなびかないどころか、周りに噛みついてばっかりだったのに、伊勢さんと関わるようになってから、凄く丸くなったんだ」
「え……そ、そうなの? 恋ちゃんって、昔からあぁなんだとばかり……」
「表面上はあんまり変わってないかもしれないけどね。でも、なんていうか、今の恋は確実に……“優しくなってる”。小鈴ちゃん、君のように」
わたし、みたいに……?
恋ちゃんの優しさは、苛烈ながらも何度も目にしている。
けど、その優しさが、わたしの影響……?
そんなことが、あるの……?
「わたしは……一人じゃ、なにもできないし、今日だって全然なんにも力になれなかったのに……」
「自覚的になにかを為すことだけが力でも強さでもないんだよ。自分の力ではどうにもならなくても、力を合わせたり、他の誰かの助けで、物事が解決できる。それが人の輪、人の社会のいいところだ。たとえ小さなコミュニティだとしても、その根本は変わらない。そして、そうなるように人が動く、そういう“空気”を作るのもまた、ある種の魅力であり、力であり、強さだ。それが君だよ」
空気を作るのが、強さ……?
みんなが助けてくれるのが? みんなが側にいてくれるのが?
それはむしろ、申し訳ないと、思うんじゃなくて……?
「あぁ、そうさ。情けないさ。申し訳ないさ。自分の力でどうにもできないから、誰かに支えられてばっかりなのは、辛いさ。俺だってそうだ。でも、その苦しみは、正しい苦しみだ」
「正しい……? 苦しさに、正しさがあるの?」
「あるよ。むしろ、その苦しさをまったく感じない方が、どうかと思う。自分の至らなさを悔やんで、苦しくて、辛くて、だからこそ、その悔恨を糧に、俺たちは前に進むことができる。それはとても素晴らしく、尊いことだ」
いつきくんは、立ち上がった。
わたしからすれば、大きな身体。細いのに、力強くて、けれど優しい。
わたしを見下ろしながら、彼は言った。
「自分の弱さを飲み込んで、弱い自分を支えてくれた人への感謝と、その喜びを噛み締める。それらを糧に、未来へと歩を進める。それが人の輪であり、和の力。誰かに助けられるということは、自分の無力さの証明じゃない。仲間という力、そして、将来への展望の証だよ」
「……む、難しいよ……わたしには……」
「ははは、抽象的だったかな。流石姉妹、やっぱり似てる、あいつと同じだ。身近な言葉で置き換えた方がわかりやすいか。そうだな……君になら、こう言った方がいいかな」
いつきくんは少し考えてから、柔和な笑みで、わたしに教えてくれた。
「誰かが助けてくれたら「ごめんなさい」じゃなくて「ありがとう」って言うんだよ」
「……あ、ありがとう、って……?」
「まあ、受け売りだけどね。俺が、最初に“部長”から言われた言葉だ」
少しバツが悪そうにしているいつきくん。
けれどこの言葉は、とても、とても、あたたかく、柔らかく、優しく、染みるように、溶け込んでくる。
「俺が知っている小鈴ちゃんは、泣いている女の子だったけど……君はきっと、笑っている方が可愛い」
「かわっ……!? ふぇ、ぅ、ぁぅ、そ、それは……」
「だから俺は、申し訳なさから俯いているよりも、友の支えに感謝できる君でいて欲しい。責任感じゃなくて思いやりで、思い詰めずに朗らかに。そうしていつか、君も誰かを支える力になる。その方がきっと、明るくて、優しくて、君らしいから」
慌てふためくわたしをよそに、いつきくんは、沈み行く太陽を背に、毅然と告げた。
「恥じることはない。自分の弱さも受け入れて、頼もしい仲間を持てたことを、誇ればいい」
――その方が、素敵だと思う。
そう言って、いつきくんは微笑んでいた。
「い、いつきくん……」
なんと、言葉を返せばいいのだろう。
でも、なんだろう。なんとなく、わかる気がしてきた。
たぶん今わたしは、いつきくんに感謝している。ありがとうって、思ってる。そう思うと、立ち上がる気力が湧いてくる、ような気がする。
それに、胸の内側が熱い。自然と、気分は悪くない。むしろ心地いいくらいだ。
……あぁ、やっぱり
いつきくんは、いつきくんだ。わたしの知っているいつきくんも、知らないいつきくんもいるけど。彼は彼なんだ。
感謝。それは、わたしが彼に抱いた最初の気持ち。それが高じたのが今……だったと、思うけど。
それだけじゃないんだ。仮にそうであったとしても、わたしは、やっぱり、いつきくんのことが――
「あ、あの!」
「うん? どうしたの?」
「いつきくん……そ、その……あのね!」
熱に浮かされているようだった。
上手く自分が制御できていない気がする。でも、いいや。悪くない気分だ。これでいいと思えてくる。
感情の揺さぶりのせいか呂律が回らない。けれど精一杯、言葉を、絞り出す。
「わ、わたし、わたしね。わたし、いつきくんの――」
と、その時だ。
「小鈴さーん!」
とても明るくて可愛らしい声が聞こえてきた。
その声で、一気に現実に戻る。
「ゆ、ユーちゃん……!? みんなも……!」
「……迎えが来たみたいだね」
振り返れば、そこにはユーちゃんに、恋ちゃんに、霜ちゃんにみのりちゃんに、ローザさんに謡さん――みんながいた。
な、なんか、気勢が削がれちゃったというか……わたし、なにしようとしてたんだっけ……?
「せっかくのお祭りだ。つまらない話なんてしてないで、残りの時間を楽しもう。皆して暗くなっていたら、世界は真っ暗になっちゃうよ」
「う、うん……その。あ、ありがとう。いつきくん」
わたしの言葉に対して、いつきくんは、にっこりと笑った。
そして彼は、わたしの背中を優しく押す。
「……君は俺にとっても大事な存在だからね。やっぱり、放っておけないんだよ」
「それって、やっぱり恋ちゃんの……?」
「ん? あぁ、まあ。確かに君は、俺の妹の友達で、俺の友達の妹だけれど……それと同時に、小鈴ちゃんは小鈴ちゃんだから。あの時、道に迷って泣いていた、笑顔にしてあげたくなるような女の子だよ」
むぅ、それは子供扱いされてるみたいで、ちょっと不満……わたしだって、少しは大人になってるのに……
「それよりも、早く行ってあげたら? 皆、待ってるよ」
「う、うん。本当にありがとう、いつきくん」
そう言い残して、わたしはみんなの元へと駆けていく。
代海ちゃんのことは心配だけど……代海ちゃんとは、またいつか、改めてちゃんとお話ししよう。
いつきくんのお陰で、少しだけ、前向きになれた。
わたしはいつきくんの言葉を胸の中で反芻する……その時、なにか引っかかった。
「ん……? そういえばさっき、なにか言ってたような……友達の、妹……?」
「小鈴さーん!
「あ……うんっ!」
ユーちゃんに急かされて、わたしは思い出しかけたことも忘れて、みんなの元に駆けていった。
後ろの方で、なにか、聞こえたような気もするけれど。
「……妹になにを期待してるんだ、俺は。俺が向き合わなきゃいけないのは、こっちじゃないだろうに。自分が情けないったら。なぁ――」
その声は、わたしには聞こえない。
「――五十鈴」
☆ ☆ ☆
「あ……アヤハ、さん……」
『ヤングオイスターズ』の長女に乗せられたタクシーの中で、嗚咽混じりに彼女に問う。
ヤングオイスターズは、面倒くさそうに頬杖を突きながら窓の外を眺めていたが、声をかけると、やっぱり面倒くさそうに視線だけこちらに向けた。
彼女の刺すような視線が痛い。痛くて痛くてたまらない。けれど、今はそれ以上に、この変質した身体の中身が、そしてその変化によって軋む心が、酷く痛む。
若牡蠣の冷ややかな視線なんて、気にもならなかった。
「あ、アタシ……アタシの、身体……どう、しちゃったん、ですか……」
ヤングオイスターズは鼻を鳴らす。面倒そうに、厄介そうに、つまらなさそうに。
「……あくまで推論だがな」
冷淡に、けれども真摯に、彼女はそう前置きして、答えた。
「お前の身体は、変わり始めている。人ならざるものへとな」
「なんで……なんで、アタシ、こんな……」
「理由か。そうさな、思い当たる節と言えばあれか」
「あれ……?」
「“産卵”だ。お前、ここのところずっと、帽子屋のダンナに言われてしてたんだろ?」
若い運転手が、産卵、という言葉を聞いて驚いたように眉根を寄せた。
なにを想像したのかは知らないが、この力、あの現象はそう表現するしかない。代用品を想像するウミガメが、仮初めであれなんであれ、新たな命を産み落とす――それを産卵と言わずして、なんと呼ぶのか。
そして、確かに自分は、帽子屋の命で、ここ最近ずっと“産卵”を繰り返してきた。
きたるべき時に必要だからと。優しいあの人と会えなかったのも、そのせいだった。
「恐らくそれが原因だ。お前は今、人間よりも、本来の“ワタシたち側”に寄ってるんだ」
「……?」
「まず、お前もわかってるとは思うが、ワタシたちの人としての姿ってのは、人の社会に紛れるための、奴らを欺くための、単なる外装に過ぎない。本質のところでは、ワタシたちはどうしようもなく人外なんだよ」
「そ、それは……はい……」
「だから、その人外としての性質をずっと押し出していれば、そっちに染まるってことも、まあ、あるかもしれねーな」
「で、でも……アヤハさんも、バタつきパンチョウさんも、ネズミくんも、他の、みんなも……そんな、ことは……」
「あぁそうだ。そんな事例は今まで一度もない。性質の問題、密度の問題。比較した際の異なる要素はいくらでもあるから、厳密はことはなに一つとして言えねぇ。だが、逆に言えば、それはあらゆる可能性を内包しているって意味でもある」
結局のところ、ハッキリした理由はわからない、と遠回しに言っている。
けれど可能性を示そうとするのは、彼女の優しさなのだろう。もっとも、今の自分にとって、その優しさは気休めにもならない。
人外の力を行使しすぎた故に、人の皮が擦り切れてしまった……そういうことも、あるのだろうか。
わからない。自分たち【不思議の国の住人】は、定義されていない存在。研究も、実験も、観察も、測量もされていない。
バタつきパンチョウの観測によって、強引に種として定義づけようとはしているが、実態はあまりにもあやふやな存在なのだ。
だから、自分の身に起こった不調も、体系的なことはなにひとつとしてわからない。それだけの積み重ねがないのだから。
「まあこんなもん、パンチョウの姉御に聞けば大体わかりそうなもんだが……お前の場合、事情が事情だからな……」
「アタシの、事情……? それ、って……?」
「お前の出生についてだ」
きっぱりと、ヤングオイスターズは言った。
自分の出生。
それは、自分にとってのブラックボックス。絶対にあるはずの領域、なのに、なにもわからない、知らない、黒く塗り潰された部分。
昔の自分、死んでしまった自分、『代用ウミガメ』としての名を与えられる前の自分――この頭を除いた、身体の持ち主。
自分がずっと考えないようにしていた、逃げていたモノ。
それが、今の自分の変調に、関係しているのだろうか。
「お前は、ワタシたちとはちぃっとばかし違う、生き物としては酷く歪な生誕を迎えている。一度産み落とされてから、一度死んだ……が、お前は、自分の首を――自分の命さえをも“代用品”を創り、延命した」
「……はい」
「お前は一度死んで生き返ったとも、死なないままに第二の生を受けたとも言える。再生、って言い方がもっともらしいのかもしれないが……生命として、その生き方は道理に反する。無理やり繋げた、歪な命だ」
それは、否定できない。
死者は生き返らない。それは生命の大原則だ。世界の理であり、絶対的なルールだ。
しかし自分は、あまりの生への渇望から、無意識的に、その理から外れた行いを為してしまった。
失われた首から、新たな頭を生やし、命を繋げる。そして今も、のうのうと生きている。
生者、あるいは死者への冒涜と言われても、反論はできない。明らかに異常で異端なことをしているのだから。
ならばこれは、そのツケが回ってきたのかもしれない。
つまり、罪に対する、罰である。
「道理から外れた歪み。その歪さが、お前に影響を及ぼした……いや、なにも喰えないんだったな。ならむしろ、お前の場合は回帰した、っつーべきなのか?」
「か、回帰……? ど、どういう、こと、なんですか……?」
「ワタシも帽子屋のダンナから断片的に聞いただけだがな。お前は元々、人を……」
と、言いかけたところで、ヤングオイスターズはハッと思い出したような素振りを見せる。
「……いや。言わない方がいいな、今は」
そして、彼女は口を噤んだ。
「な……なんで……なんで、言ってくれないんですか……?」
「耐えられないだろうからな。今のお前じゃな」
ヤングオイスターズは、またきっぱりと言った。
壊れないように気遣ってはいる。が、容赦はしない。
強い語調で、彼女は続ける。
「自覚してるか? 今のお前は、身体も心も、酷く不安定な状態なんだよ。身体は人外に近づいているのに、精神は擬態しているだけの人間に寄りすぎている。そんな心身共にごちゃごちゃでズタボロの状態で、デカい衝撃を受け止めきれるか? 無理だろ。そもそもお前は、弱いからな」
「……アタシは、そんなに……酷い、生まれ、だったんですか……?」
「さぁな。それを判断するのはお前だ。ワタシからすりゃ、ふざけんな、って話だが。お前が本来のお前に戻ったなら、あの人でなしの集まる屋敷から叩き出してるところだ。できるかは別にしてな」
彼女は正直だった。個人的でありながらも、どこか他人事のように、突き放すように言う。
自分の出自、出生。自分が生まれた時のこと。
気にならないと言えば、嘘になる。
この頭が記録しているのは、激痛と共に新たな頭が生えたという事実。そして、その時に見た死体と血溜まりで満たされた凄惨な光景。そして、その中で一人立つ、イカレた『帽子屋』の姿。
それ以上のことは、自分でもわからない。恐らく知っているのは、あの狂った男だけだ。
自分の生まれを、この頭が生える前の自分を知れば、なにかが変わるのかもしれない。
けれどそれは、今の自分が幸運も手にした人の営みを――愛しい鈴の少女の和を、壊してしまうような気がした。
怖い。真実を知ることが。
恐ろしい。過去を顧みることが。
その事実に直面すると、なにもかもを失ってしまいそうで。
ヤングオイスターズはなにか察したのか、あるいはただ自分が思ったことを言っているだけなのか、どことなく独り言のように言う。
「……ワタシらは、自分の出生なんてあんま知らねー方がいいぜ。ワタシは、『ハートの女王』を見て後悔した。ワタシは、こんなものから生まれちまったのか、ってな」
「ハートの女王様……は、話にしか、聞いたこと、ない、ですけど……そ、それって……」
「あぁ。【不思議の国の住人】の始祖。言うなれば、ワタシたちの――“母親”だ」
彼女は少しだけ言い淀んだ。それを親と呼ぶことへの抵抗感か、忌避感か、嫌悪感か。なんにせよ、その事実を認めたくないかのような、澱みがあった。
ハートの女王……自分も見たことはない。むしろ、見たことのある者の方が少ないだろう。存在を知らない者もいるかもしれない。
帽子屋が「我らが父なる母」と呼ぶ、【不思議の国の住人】の一員――とは、違う存在、らしい。
かの存在は、意図的に秘されている。いやさ、屋敷の地下の奥深くにいるということだけは知っているが、基本的に、その領域は立ち入りが禁止されている。バタつきパンチョウは“観測”のために、定期的に出入りしているようだが、それ以外だと、帽子屋や公爵夫人、あるいは三月ウサギなどの、重鎮しか立ち入りが赦されない神域だ。
しかしヤングオイスターズがその姿を見たことがある、と言うように、頼めば謁見が叶う存在はある……らしい。自分は、あまりその必要性を感じなかったし、その機会もなかった。なにより、ハートの女王と相見えることの意味もよくわかっていなかったので、結果としてハートの女王の姿を見たことはないのだが……
「認めたくはねーが、チョウの姉御が言ってるなら、まあ正しいんだろうよ。あれは正真正銘、ワタシらの生みの親。『代用ウミガメ』という存在は歪んだ誕生を為たのかもしれねーが、少なくともそれ以前のお前、お前の肉体にあたる部分は、あの化物から生まれたってことなんだろう」
「ば、化物……?」
「あぁ化物だ、ありゃ。思い出したくもねぇ。あのバタつきパンチョウですら、奴と謁見するたびにトイレで吐いてるくらいだ。だからお前が相見えるのは、あんまり推奨できねーな。あまりに意志薄弱だと、最悪、発狂するぞ」
「そ……そんなに、ですか……?」
「そんなにだ。誇張は一切ないぜ。正直、化物だとか怪物だとか、そんな言葉にすら収まらない気さえする。バンダースナッチよりも、ジャバウォックよりも、あの存在は人外で狂気的だ。気色悪すぎて、弟妹の何人かは取り乱しちまったよ」
それは脅しのつもりではなく、忠告ではあっても、本当に事実そのままなのだろう。
しかしやはり、今の自分の精神状態では、それは恐怖をかき立てるもの以外のなにもでもない。
無情で残酷な現実は、重く、鋭く、切り裂くようにのし掛かってくる。
俯いていると、不意にヤングオイスターズが言った。
「だが、いい頃合いではあるのかもしれないな」
「え……頃合い、ですか……?」
「女王に会いに行くかはさておき、お前の身体の変調は、お前に決断を迫っているのかもしれねぇ……はんっ。ワタシらしくもない物言いだがな。しかしタイミング的にはそういうこった」
ヤングオイスターズは迫るように、道を示す。
それは生き残るための道でもなく、喜びに溢れた道でもない。
自分が――アタシが、どのように生きるかという選択だ。
「覚悟を決めろ、代用ウミガメ。お前が人の世に染まることを、ワタシは否定しない。だが、ワタシたちは、人間社会という宿主と決別し、人でなしとしての生を育むことになる。そしてお前の身体は、確実に人間のそれから乖離し、人ならざるものへと向かっている」
自分はどうしようもなく人外で、【不思議の国の住人】という生き方があって、帽子屋さんには恩義もある。そしてなにより、この身体は、人間の世界で生きられるものではなくなっている……のかもしれない。
けれど、人間の世界で知った、人間のあたたかさも、優しさも、楽しさも、嬉しさも、切り捨てたくない。こんな自分を、友達だと言って受け入れてくれた彼女に報いたいし、彼女を裏切るようなことも、したくない。
二者択一、なのだろうか。
心はあちらに傾き、身体はこちらに傾いている。
その歪みが、さらなる苦悩となり、責め苦となる。
「自分の出生を知るのもいい。ハートの女王に謁見するのもいい。そうして考えて、お前がどんな答えを出しても、ワタシは構わん。帽子屋の傀儡になろうが、人間に尻尾を振ろうが、あらゆる苦楽は、その選択はお前だけのものだ。ワタシは、ワタシたちへの害悪とならないのなら、お前の自由を咎めない」
だが、とヤングオイスターズは言う。
脅迫めいた諦観。警告するように、あるいは諭すように。
彼女は、突き刺すような言の葉を放つ。
「ワタシたちと人間の決定的なターニングポイントは、すぐそこまで迫ってきている。あんま時間は残されてねぇ……いや、時間なんて関係なく、すべてはなるようになるのかもしれねぇな」
……そうだ。
時間は僅か。彼女にあだなすことはしたくない。が、それでも、
日陰身の存在が太陽を求めひた走る競争。
欺瞞に嘘に虚飾をちりばめ、奇跡の光を手にする計画。
帽子屋が名付けた作戦名『コーカス・レース』。
その開始の合図は、近い。
自分の望む望まないに関わらず、自分たちは――太陽を、飲み込むのだろう。
文化祭・東鷲宮中学編はこれにて終了です。たぶん烏ヶ森学園編は次回やります。本当は雀宮高校編もやりたかったけど、流石に話が進まなさすぎるので、そっちは番外編とかブログとかになると思います。いい加減、みんなも話進めて欲しいでしょ。たぶん。キャラ同士ずっといちゃいちゃしてて欲しいと言うのなら、まあそれなりに考えますが。
あ、今回の暁のデッキですけど、先に言っておくとあれは赤緑の連ドラです。バルガ龍幻郷から白を抜いたようなもの。マナカーブ的に無理がないかと言われるとめっちゃ無理あるんですけど、まあ、なんというか。すべての人間、すべてのキャラが、理想的な形のデッキを組んでいるわけじゃない、ってことです。小鈴なんてグレンモルトビート使ってるのに、ずっと《ガイアール》なしでやってますしね!
そんな感じで、今回はここまで。誤字脱字や感想等ありましたら、遠慮なくどうぞ。