デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 以前から作中でずっと言っていた、不思議の国の住人による、プラン『コーカス・レース』、遂に始動です。
 頭の中身がパッパラ・パーリ騎士な連中の考えたお粗末な作戦をどうぞ見届けてくださいまし。


43話「太陽を求めて -前篇・朝集-」

 こんにちは、伊勢小鈴です。今、パン屋さんにいます。お昼ご飯です。

 今日は、お姉ちゃんが生徒会のお仕事で学校、お父さんはお出かけ、お母さんも「ちょっと実家行ってくるついでに平坂さんと遊んでくるわー」とふらーっと家を出て行ってしまったので、今日のお昼は一人なのです。

 でも、一人で家でご飯を食べるのも寂しいので、近所のパン屋さんにやって来ました。

 あ、一人じゃないですよ?

 

「はい、あーん」

「むぐむぐ」

「……なんだか雛鳥みたいだね」

「実際、今の僕はだいぶ力を失ってるから、雛鳥みたいなものさ。そんなことより甘いね、これ」

「フレンチトーストだからね。おいしいでしょ?」

「それは確かに。こっちに来て、君に色んな食べ物を貰っているけれど、こっちの食べ物はどれも美味い。戦う力にはならないけど、元気が出るね」

「ふふ、気に入ってくれたみたいで、わたしも嬉しいよ」

 

 今日のお昼は鳥さんと一緒です。

 隠れて飼ってる? から、いつもはわたしのパンをこっそり分けているんだけれど、今日は家族の目がないから、一緒にご飯です。

 もっとも、店員さんに見つかるわけにもいかないから、テーブルの下で隠れてこっそり、なんだけれども。

 

「鳥さんはよく食べるよね」

「君ほどじゃないさ。でも、僕は常に空腹というか、満ち足りていないからね。力がなさすぎる」

「力……」

 

 そういえば、鳥さんはクリーチャーで、【不思議の国の住人】の人たちが“聖獣”と呼ぶ、特別な存在……なんだよね。とてもそうは見えないけど。

 でも、林間学校で見た嵐の中を飛ぶ鳥さんは、格好良くって、あれは確かに聖獣と呼ぶに相応しい鳳のように思えた。

 鳥さんの力。それは、今わたしが戦うために行使している力でもある。

 なんていうか、鳥さんはクリーチャーだけど、他のクリーチャーと違うのかな……?

 

「違うと言えば違う。なにせ僕は語り手の片翼だからね」

「……? かたりて……? かたよく……?」

「とはいえ、今はそんな肩書きはなんの意味もない。相棒もいないし、なにより奇跡を起こし得るだけの力がない。本当は、こんなにゆったりしている場合じゃないんだろうけど……」

「あ、えっと、ごめんね……?」

「いいさ、これはこれで楽しいからね。僕の太陽探しは五里霧中。だからこそ、流れのまま、僕の思うがままにやるさ」

「なんだか鳥さんって、あんまり緊張感ないね」

「これでも焦ってはいるんだけどね」

「全然そうは見えないよ……」

 

 マイペースというか、脳天気というか。

 でも、わたしも他人事と思ってはいられない。

 わたしは、鳥さんのお願いを聞き入れた。わたしには、鳥さんの力を取り戻す義務が、責任がある。

 それに、帽子屋さん――【不思議の国の住人】も、鳥さんの力を求めている。

 最近は表立ってなにかが起こっているわけではないけれど、本来この両者は対立している……けれど。

 

(なんか……やだなぁ)

 

 それが素直な気持ちだった。

 葉子さん、先生、お兄さん、アヤハさん、アギリさん、ネズミくん、それに、代海ちゃん。

 【不思議の国の住人】の人たちは、決して悪い人ではない。人間ではないのかもしれないけれど、それでも、この世界で確かに生きている。わたしたちと、一緒に笑い合える人たちだ。

 それなのに争うのは……イヤ、だった。

 今は大事にはなっていない。争う様子はない。

 だったら、このまま、ずっと――

 

「小鈴」

「あっ、ご、ごめんね。まだパンは残って……」

「いや、そうじゃなくて」

 

 ふっと、影が差す。

 顔を上げると、そこには、

 

「よぉ、マジカル・ベル」

「あ、アヤハ、さん……?」

 

 そこには、アヤハさん――【不思議の国の住人】の一人、『ヤングオイスターズ』の長女である、若い女の人が、立っていた。

 アヤハさんはどっかりとわたしの正面の席に、無遠慮に座る。その動きはどことなく疲れているようで、服もちょっと汚れていて、傷ついている感じだ。

 な、なにがあったんだろう……?

 

「アヤハさん……そ、その、わたしになにか……?」

「あー……その、なんだ。説明かったるいな。まあ、あれだ。身内のゴタゴタっつーか、なんつーか」

「?」

 

 なんだろう、いまいち要領の得ないし、歯切れが悪い。

 アヤハさんは曖昧に言葉を濁しながら、匙を投げるように言った。

 

「まあ、外に出たらわかるわ」

「外?」

「あぁ外だ。小鈴」

 

 鳥さんがカバンから頭を出して言う。

 ……鳥さんがこう言うってことは、それは、

 

 

 

「クリーチャーだ」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「――わざわざ悪いね、こんなところまで来てもらって」

 

 『Walrus & Carpenter』という名前の、とある喫茶店。若垣朧は、にこやかに笑う。

 正面に座するは水早霜。彼は微かな懐疑と気怠さのこもった眼差しを朧に向けつつ、カップの中の飲み物に口を付ける。

 

「いえ……まあ、知らない仲ではないですし、取材くらいなら受けますよ。ボクも手芸部には世話になっているので、少しでも役に立てるのなら」

 

 霜は朧に呼び出された。その理由は、取材だ。

 朧は新聞部――正式には、烏ヶ森学園中等部・広報部新聞社、というらしい――その活動の一環として、霜を取材したいのだという。

 個人的な事情で霜は手芸部と縁があり、正式な部員ではないが、仮入部のような形で半ば在籍している。

 朧曰く、この時期は記事にできるネタが少なく困っているようだ。朧だけでなく、新聞部全体が、新聞のネタ探しに奔走しているらしい。

 そこで朧が目を付けたのが、部活動の広報。

 部活の広報はネタにしやすく、読者からのウケもいい。加えて他団体に恩も売れて、割のいい仕事、だそうだ。

 霜は、部長などもっと部のことをよく理解している者を取材した方がいいのではないかと進言したが、朧が言うには、新参者の生の言葉の方が、今後新たに入る部員にとっては共感性が高くていいとのこと。

 成程確かにそうかもしれないと、霜も納得した。言われて思い出したが、霜の友人であり朧と同じ新聞部の若宮も、そんなことを言っていたような気がする。

 

「それで、インタビューというのは、なにをすれば? お恥ずかしながら、ボクはこういうことに経験がないので、あまり勝手がわからないのですが」

「まあまあ、そんなに堅くならないで。気負わなくてもいいよ、お茶でも飲んでリラックスして」

「はぁ……」

「せっかくこんな遠い喫茶店まで来てくれたわけだしね。取材だけじゃ味気ない。お茶を楽しむ余裕くらいあってもいいだろう」

「言うほど遠くはないですけどね」

「まあね。でも、水早君がこのお店を知っててよかったよ。わりと穴場だと思うんだけれどね」

「……以前、ちょっと来たことがありましてね」

 

 ブラックバイト、謎の食中毒、バンダースナッチの脱走。そんな事件があった時、ヤングオイスターズの長女に呼び出されたのが、この喫茶店だった。彼女はここでバイトをしているようだが、姿は見えない。今日は非番なのだろう。

 

「そういえば水早君、若宮君と同じクラスなんだってね」

「若ですか? えぇ、まあ、そうですけど」

「ちょっとひねてるけど、真面目だよね、彼」

「そうですね。斜に構えたような態度を取ろうとしてても、根っこはまともというか、普通というか……いい奴ですよ」

「今回、本当は彼も呼びたかったんだ。オレも目を付けてる後輩だからね。残念ながら予定が合わなかったんだけど」

「あいつ、わりと最近暇そうにしてた気もしますけど……いや、でも流石に休日に呼び出すのも悪いか」

「そうだね。その点は君にも悪いと思ってる。こっちで上手く予定を調整できなくて、休日に学外の喫茶店に呼び出してまで取材をすることになってしまった。申し訳ないね」

「……まあ、放課後は放課後で、それなりのメリット、デメリットがありますから、休日に呼び出されることが悪いとは思ってませんよ。それに、手芸部のことは、小鈴たちには知られたくありませんから……」

「へぇ、そうなんだ」

「もうすぐクリスマスですからね。彼女……たちにも、凄い、世話になっていますから。なにかちゃんと、形あるものを残したくて」

「いいね、そういうのも」

「小鈴達には黙っていてくださいよ。喋ったら新聞部の悪評を、ボクの知るすべての人間に流します」

「……その脅しは真面目に怖いからやめて欲しいな。部ぐるみで巻き込まれるとまずい」

「ならここでの話は内密にお願いします。あぁ、ボクの名前も出さないでくださいね。写真もNGです。身バレしたくないので」

「わかってる、わかってる。最近はそういう人も多いからね。ちゃんと配慮するよ」

 

 そんな、とりとめのない会話が続く。

 霜はまた、カップの中の飲み物に口を付ける。

 温かった飲み物は、ほんの少しだけ、冷めつつあった。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「それじゃあ、全員集まったし、休日だけど今月の学援部の定例会を始めたいと思う……んだけど……」

 

 学園生活支援部、通称学援部の部室に集う部員達。

 彼らを取り纏める部の長、剣埼一騎は、困惑していた。

 彼だけではなく、この場に集った部員達も、程度差はあれども同様に戸惑っていることだろう。

 学援部員一同の視線は、扉の近くで腕を組み直立している、一人の男に注がれる。男は興味も関心もなくその視線を無視していたが、やがてなにかに気付いたように、口を開く。

 

「……なにか?」

「い、いえ、別に……お構いなく……」

「別に、じゃないだろうが」

「いくらなんでもこれは構いますよー」

「うん……そうだよね」

 

 あまりにも当然のようにそこにいたので、思わずスルーしてしまいそうになったが、流石に部長として看過してはいけないだろうと考え直し、一騎は意を決して男に問う。

 

「陸奥国先生……どうしてここに?」

 

 ――そこに立っていた男は、陸奥国縄太。烏ヶ森学園中等部に臨時で勤めている、生物担当の教員だ。

 真の名を『木馬バエ』といい、【不思議の国の住人】の一人であるのだが……そのことを知る者は、ここには一人しかいない。

 しかしその一人、日向恋は、彼にはあまり興味なさそうに、虚空を見つめている。

 陸奥国――木馬バエは、一騎の問に首を傾げる。

 

「どうして? ……どういう理由にしましょうか」

「どういうことだよ」

「そうですね、まあ私も教師ということになっているので、生徒の部活動? を見るのもいいんじゃないでしょうか? 知りませんけど」

「おい一騎。こいつなにを言ってんのかさっぱり意味不明なんだが」

「先生をこいつ呼ばわりはやめなよ……」

「先生もうちの部に興味があるっすか?」

「いえまったく」

「なら出てけよ」

「そういうわけにもいかないんですよ。こっちにも事情があるので」

「事情……? 職員会議の議題にでも挙がるのかしら」

「別に見られて困るものがあるわけではないですけど、部外の人がいるってやりにくいですねー」

「…………」

 

 あらゆる意味で困った表情を見せる一騎。

 本当なら、今日は部内だけで行うべきことをするはずだったが……教師がいては不都合があった。

 

(仕方ない。今日は通常運転に切り替えよう……恋は嫌がりそうだけど)

 

 唐突に現れた教師、陸奥国。普段の言動から、他者への興味はないと思っていたが――今も興味があってここにいるようには見えないが――なにゆえ、学援部に現れたのか。一騎にたちには、まったく理解ができず、そしてそれは彼らの与り知るところではない。

 その真相に辿り着けるはずの、たった一人の少女は、今もぼんやりと、窓の外を眺めているだけだった。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「やっぱり!」

「時代は!」

「「妹だよね(なのよ)!」」

 

 烏ヶ森学園中等部部室棟。

 その隅の方、他の部から隔離されるようにしてひっそりと居を構える、遊泳部。

 部室の中では、朗らかで快活な声が明るく響いていた。

 

「いやー! 購買のお姉さんわかってるなー! これはもうマイフレンド! マブダチ! ソウルメイト!」

「なのよー、なのよー! いくちゃんとは気が合うのよー! 今度一緒にお茶するのよ! とっておきの茶葉を用意するのよ!」

「いいねいいね! あたしもとっておきのプールの水を持っていくよ!」

「塩素水はやめろ」

「なにおう! ユーちゃんが入ったとっておきの水だよ! 永久保存版だよ!」

「そんなもの保存してるんですか? 気持ち悪いことしてますね部長」

「まあ、イクちゃんだから」

「よくわかりませんが、ぶちょーさんはprimaですね!」

「いや……そんなことはないと思うよ、ユーちゃん……」

 

 品性も理性も投げ捨てた遊泳部の部室には、普段ならいるはずもない珍客がいた。

 陸奥国葉子――真の名を『バタつきパンチョウ』。烏ヶ森学園では購買部の店員をしている。

 本来であれば、生徒でも教師でもない、購買部の店員が部室棟に訪れるなどあり得ないと言っても過言ではないくらいの珍事なのだが、狂人の集いである遊泳部の部員は誰一人としてそのことに疑問を抱かない。

 部長である十九渕育水は、バタつきパンチョウと意気投合し、疑問など微塵も抱くことはない。

 他の部員も、仮に疑問を抱いたとしても、そんなことなどどうでもよい、と考えているかもしれない。

 

(胸でけぇなぁ……あの姉さんいいな……)

(顔がやや童顔で言動も子供っぽいところがややネックだが、スタイル抜群で姉属性、なんだかんだお姉さんらしい立ち居振る舞いはポイントが高い。部長とはしゃいでるところも姉妹っぽさがあって、これはこれでアリだな。惜しむべくは相手が残念な部長というところだけれど、まあそのくらいは許容するとして……)

(イクちゃん楽しそうねぇ……丸刈り君も司君も銀髪ちゃんズもお姉さんに夢中だし、ちょっとつまんないわ)

 

 そんな遊泳部の面々のことはさておき。

 育水とバタつきパンチョウが盛り上がっているところに混ざるユーリア。彼女たちをジィッと見つめている男子部員二人、つまらなさそうに眺める女子部員一人。

 そして、なぜかユーリアと共にこの場に連行されたローザは一人取り残されたように、呆れて溜息を吐く。

 

(なんでこの人達は、部外者が部室に来ていることに、なんの疑問も抱かないんだろう……?)

 

 ローザもバタつきパンチョウのことは知っている。直接的に関係したことはないが、彼女の友人らから話は聞いているし、共に行動したこともないわけではない。

 だからこそ、よりいっそう、この奇妙な空間に不安を覚えてしまう。

 

(まあ、この人はいい人のようだし、あんまり疑うのも悪いかな……)

 

 それでも疑問は残る。

 どうしてこの人は、急にこの場所に現れたのか。

 今はとりとめのない雑談をしているが、なにが目的なのか。

 考えても、答えは出ない。しかし彼女らの会話に割って入ったところで、彼女らの勢いに飲まれてしまうのがオチだ。それは以前の経験で既に学んだ。

 気になる……気になるが、大したことではないのかもしれない。

 

(……なんだか、胸がざわざわするなぁ)

 

 向こうは気にしていないのだろうが、以前に争ったことがある相手なので、やはりローザとしては、少々居心地が悪い。

 ――このざわめきは、本当にただの居心地の悪さなのだろうか。

 理屈が通じない、理論が存在しない。そんな混沌で不条理で意味不明なことは、この世に溢れている。

 ただの勢いだけで進む物語。嫌というほど味わった理不尽。

 これも、そういった類のものなのだろうか。

 ローザはもう一度、深く溜息を吐いた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 香取実子は商店街を闊歩していた。

 何と言うことはない。ただ彼女は、いつも通りの、普段の生活サイクルとして、買い物をしているだけである。

 特筆すべき点など、特別なところなど、なにひとつとしてない、はずだ。

 

「……お、なんか見ない店がある」

 

 ふと足を止めると、華々しく装飾され、出入口でチラシを配る従業員の姿が見える。

 貼られたポスターには「新装開店」の文字列。そしてここまで香るのは、香ばしく焼けた匂い。

 

「へー、新しくできたパン屋さんかぁ。小鈴ちゃんが喜びそうだなぁ」

 

 と、実子は足を止める。

 しかしそれは一瞬のことだった。

 

「……ま、私には関係ないか」

 

 今は、一人だ。

 今日は恋やユーが部活動、霜はなにか用事があるとかで、偶然にも皆の予定が多重バッティングしてしまい、彼女らとの集まりはない。

 実子としても、今日は商店街でセールがある日だったので、こちらを優先したいところだった。

 もっとも、そこまでして全員で集まりたい理由があるわけでもないが。

 友人だからと言って、別段、いつでも一緒というわけではない。こうしてバラバラになることだってある。それぞれに、それぞれの生活があるのだ。

 今は一人だ。ここにいても、この先に進んでも、家に帰っても、自分一人。

 気取る必要も、見せかける理由も、どこにもない。

 

「……ん?」

 

 なにかざわついている。胸の内が、だけではない。

 周囲の人混み、その喧噪が、いつもと違うざわめきを発している。

 ぼんやりと無意識に物思いに耽っていた実子は、一瞬、感知が遅れた。

 そして不幸にも、その遅れはダイレクトに実子自身に降りかかるのだった。

 

「う、おわぁっ!?」

 

 ビュンッ! と鋭い疾風が、凄まじい勢いで実子を掠める。

 不意のことだったため、態勢を崩してしまう。

 一体何事だと、顔を上げると、

 

「! 君は……」

「んだよ。怖い目ぇして祟り目ってかぁ?」

 

 脱色し、染髪し、刺青を入れ。耳に、腕に、指に、腰に、首に、眼に、あらゆる装飾を施した少年。

 この奇天烈すぎる派手な少年を、実子は知っている。『眠りネズミ』と呼ばれる、【不思議の国の住人】の一人。

 彼とは深くはないが浅からぬ因縁もある。

 彼は欠伸をしながら言う。

 

「ふあぁ……あー、めんどくせ。本当なら今日はカザミたちとプレイリプレイラフプレイってるってのによー。帽子屋の野郎、いっつもいつもダルいタイミングでゴーイングマイウェイなんだからよぉ」

「なに? 頭ぶっ飛んだ鼠小僧が、私になんの用事?」

「知るかボケ。僕だって意味不明、今すぐ寝てーよ意識不明。なーにがコーカス・レースだよわけわかんねぇ。なにやってんだあいつら。カメ子もいねーし、帽子屋はわけわからんことしか言わねーし、ヤングオイスターズは死にそうな顔してんし、なにが起こってんのか僕もさっぱりだっつーの。んだよこれ、ポリコレか?」

「……?」

 

 元々、少し話が通じなさそうなところのある眠りネズミではあった。

 しかし今日は、いつにも増して言ってることが理解できない。彼自身も、なにか理解に苦しんでいる様子でもある。

 

「計画通りかプランビッグバンか、まーどっちでもいーんだけどよ僕は。ただ一応、帽子屋のクソ野郎に頼まれちまったしなぁ。あんなイカレポンチ野郎でもマイメンだからよ。乗らねーなりに楽しませてもらうっきゃねーよなぁ……あー、だる」

「なんなのさ君、本当に……」

「知らねーよどうでもいいっつーの。んなことより、戦利品チェックだ。ドロップ&ゲッティングのタイムだぜ」

「……戦利品?」

 

 と、そこで実子はハッと気付く。

 自分の鞄が、手元にないことに。

 そしてそれは、彼の――眠りネズミの手の内にあることに。

 さらに、実子が次の言葉を発するより先に、眠りネズミは鞄を逆さまにする。

 

「ちょ……っ!?」

 

 当然、重力に逆らい、鞄の中身は地面にぶちまけられる。

 呆然とする実子など意にも介さず、眠りネズミは地面に散らばったものを拾い上げる。

 

「とりあえず財布と……お、いいスマホ持ってんなー。僕なんてキッズ用のダッセーのにされたってのによぉ」

 

 などと言いつつ、財布の中身を確認する眠りネズミ。今度は苦い顔で舌打ちする。

 

「チッ、こっちはしけてんな。貧乏なんだな、お前」

「うっさい! 余計なお世話……っていうか返せ! 私の財布と携帯!」

「はんっ。返して欲しけりゃ力ずく! 強引ゴーイングが僕らのルール! フリースタイルでサイファーでもすりゃ考えてやんよ」

 

 と言いつつ、眠りネズミは踵を返す。

 そして、彼は路面を滑るように――靴裏のローラーブレードを使って――逃走する。

 

「義賊じゃないけどリアル鼠小僧……っていうかただのひったくり! ふざけんな!」

 

 急いで立ち上がり、慌ててぶちまけられた荷物を回収して、眠りネズミの後を追いかける実子。

 相手は滑走しているが、所詮はローラースケート。人間の速力とそこまで大差はないはず。

 こうして、実子と眠りネズミによる、どこか子供じみたチェイスが始まった。

 ――その最中、眠りネズミは、眠そうに欠伸をしながら、言葉を漏らす。

 

「ふわぁ……これでいいんかね、マジで」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「謡。お父さんは?」

「ん?」

 

 長良川宅。

 長良川謡が自宅のリビングで休日らしくゴロゴロしているところに、姉の詠が声を掛ける。

 謡は起き上がりもせずに返事した。

 

「お父さんはさっき出かけたよ。友達と飲みに行くとかって」

「昼間から?」

「飲むのは夜らしいけど……なんか、結構遠出するっぽい。帰りは遅くなるって」

「……あ、友達ってあの人か」

「私は会ったことないけど、よく話してる小説家さんじゃない? ……なんか妹ちゃんのお母さんっぽい人」

「小鈴ちゃんのお母さんって、小説家なんだっけ」

「らしいね……っていうかさー」

 

 ようやく身体を起こして、謡は詠に問う。

 

「姉ちゃん、今日バイトって言ってなかったっけ?」

「あぁ、そのこと。バイトは休みになったの」

「ありゃ、そうなんだ」

「そう。急に連絡が来て「店長の意向で今日は臨時休業だから」って」

「そんなことある?」

「普通はない。けど、まあ、店長ちょっと頭おかしい人だから……いや、そんな理由で納得はできないのだけれど、休みになったのは仕方ないよ」

「ふぅん。なら勉強でもしてれば? 受験生」

「他人事だと思って……さっきまでしてたの、受験勉強。だから息抜きでもしようと思って」

「それならちょっと付き合ってよ。ちょっとデッキを大々的に改造してるんだけど、なんか上手くいってない気がして」

「えぇ……デュエマは頭使うじゃない。疲れてるから勘弁したいな。スキンブルはいる? あの子もふもふしたい」

「スキンブル? 呼べば来るんじゃない? おーい、スキンブルー!」

 

 と、謡が呼びかける。

 しかし、なにも反応はない。

 

「……いないみたい。残念だったね、姉ちゃん」

「本当にね。仕方ない、軽くお昼寝でもしましょうか」

「あーい、おやすみー」

 

 と、詠がリビングから出て、謡が再びソファに寝転がった、ちょうどその時。

 謡の顔に、黒い塊が落ちてきた。

 

「うわっぷ!?」

 

 慌ててその塊を払い除ける。そして、払い除けた方に視線を移すと、そこには一匹の黒猫がいた。

 

「なんだスキンブルか。タイミング悪いなー、さっき姉ちゃんが君を求めて――」

 

 謡が言い切るよりも先に、スキンブルが謡に飛びかかる。

 前脚の肉球でぽふぽふと叩き、やかましいほどに鳴き声を上げている。

 

「な、なに? ちょっと待ってって! ちゃんと聞くから!」

 

 少し慌てているようだが、スキンブルはなにかを伝えようとしている。

 謡はそんなスキンブルの声に、耳を傾ける。

 猫の言葉など理解できないが、スキンブルは厳密には猫ではない。

 『チェシャ猫』、それがスキンブルシャンクスの、元々の名前。【不思議の国の住人】に属していた者の名だ。

 猫のように鳴くが、その知性は人間とそう変わりない。そして不思議なことに、彼の泣き声は、なんとなく、その意味が伝わるのだ。

 相手の言葉が理解できるわけではないが、なにを伝えようとしているのかは、ぼんやりと伝わってくる。そんな不思議な感覚。

 謡はスキンブルの声を深く聞き入れる。

 

「……クリーチャー?」

 

 謡が尋ねると、スキンブルは鳴いた。恐らく、肯定。

 

「妹ちゃんが、一人?」

 

 もう一度、鳴く。これも、きっと肯定。

 

「…………」

 

 伊勢小鈴。謡にとっての、物語の中の主人公であり、ヒーローともヒロインとも呼べる存在。

 憧れでもあり、目標でもある、小さな少女。

 そしてなにより、自分の、大切な後輩だ。

 

「……後輩を一人で戦わせるわけにはいかない。私は出るよ。スキンブル、一緒に来てくれる?」

 

 にゃぁ、と鳴く。これも、肯定なのだろう。

 上着を羽織り、デッキケースを握り締め、謡は駆け出すように家の扉を開け放つ。

 

「待ってて、小鈴ちゃん――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

『《ガメッシュ》で攻撃――《ガメッシュ》がタップしたため、ターンを強制終了』

「え、えぇ……?」

 

 

 

ターン5

 

 

小鈴

場:《グレンニャー》×2《ノロン⤴》《デーモン閣下》

盾:5

マナ:7

手札:2

墓地:6

山札:16

 

 

ガメッシュ

場:《エスカルデン》《ガメッシュ》《メメント》

盾:5

マナ:8

手札3

墓地:3

山札:18

 

 

 

 ――唐突に始まった、クリーチャーとの対戦。

 相手は海亀のようなクリーチャー――《万年の甲 ガメッシュ》というらしいです――で、既に場に出ている。

 どんなクリーチャーだろう、と警戒していたら、攻撃の瞬間、その攻撃が届くことなくターンが飛んでしまった。

 

「不思議だけど……ブロッカーがタップした……!」

 

 《メメント守神宮》があるから、パワー7000のブロッカーになっててちょっと厄介だったけど、これで安心して攻撃が通るよ。

 

「2マナで《ノロン⤴》を召喚! そして5マナ、《法と契約の秤》! 墓地から復活――《ノロン⤴》をNEO進化! 《偉大なる魔術師 コギリーザ》!」

 

 墓地の状態はそこまでいいわけじゃないけど、このままずるずる引き延ばしても不利になっちゃいそうだし、ちょっと強引だけどここで攻めるよ!

 

「《コギリーザ》で攻撃する時、キズナコンプ発動! 墓地から呪文《GYORAI-CANNON!》を唱えるよ! 《P.R.D.(パラダイス) クラッケンバイン》をGR召喚! そして、《コギリーザ》でWブレイク――」

 

 と、その時。

 カメさんの手札から、カードが一枚、飛び出した。

 

『ニンジャ・ストライク。《光牙忍ソニックマル》を召喚』

「シノビ……!」

 

 一瞬、《ハヤブサマル》が出て来たのかと思ったけど、ちょっと違う。《ソニックマル》……?

 そのクリーチャーが出た瞬間、《ガメッシュ》が起き上がる。クリーチャーをアンタップするシノビ、なのかな。

 《ガメッシュ》でブロックされたら、《コギリーザ》が破壊されちゃう……でも、相打ちなら悪くないのかな。こっちは墓地から復活させる手段もあるし。

 と、思った直後。

 わたしのシールドが二枚、砕け散った。

 

「!? シールドが、ブレイクされた……!?」

 

 間欠泉のように、シールドの真下から亀の甲羅が吹き上がり、わたしのシールドを二枚、吹き飛ばす。

 な、なに、どういうこと……!?

 不可解な状況だけど、今はわたしの攻撃中。《コギリーザ》が相手のシールドを割ろうとするけれど、その前にブロッカーが立ち塞がる。

 

「ブロックした……って、え?」

 

 ブロックされることは想定している。けれど、そのブロックの仕方が、奇妙だった。

 最初に起き上がった《ガメッシュ》が前に出て、相打ちを狙うのかと思ったら、その間に《ソニックマル》が割り込んだのだ。

 二体でブロックして、しかも、最終的に攻撃を防いだのは《ソニックマル》。

 とてもおかしな挙動だった。

 

(ブロッカーは複数でブロックできて、最後にブロックしたクリーチャーがバトルする、って聞いたけど……ルール上できるだけで、無意味だって……)

 

 普通はそんなことをする意味はない。バトルできるのは一体だけだし、ブロックするためにタップしちゃったら、隙を晒すだけなのだから。

 

「く、《クラッケンバイン》で攻撃! 私の墓地に呪文は五枚、パワーは7000、パワード・ブレイカーで二枚ブレイクできるよ!」

 

 そんな奇妙さに面食らいながらも、わたしは攻撃を続行する。

 パワーアップした《クラッケンバイン》で、今度こそシールドをブレイクする、けど。

 

『S・トリガー発動。《ジョバート・デ・ルーノ》』

 

 うぅ、S・トリガー……それに、あれは確か、謡さんも使ってたクリーチャー……

 

『《デーモン閣下》をタップ、《ガメッシュ》をアンタップ』

 

 相手クリーチャーをタップ、自分のクリーチャーをアンタップする能力。

 これでまたブロッカーが……と思った、直後。

 亀の甲羅が噴出し、私のシールドが二枚、叩き割られた。

 

「っ、またわたしのシールドが……!」

 

 どうして、と考える。なんでわたしの攻撃で、わたしのシールドが失われるのか。

 そして、答えは出た。

 ……さっき《ガメッシュ》は、バトルに参加せず、一見すると無意味な二重ブロックでタップした。

 けれどあれは、本当は意味があったのだ。わざわざタップした《ガメッシュ》を、今度はアンタップする。

 つまりあのクリーチャーは“アンタップするたびにシールドをブレイクする”という、すごく特殊な攻撃方法を取っているんだ。

 タップしたらターンが終了してしまうのに、攻撃した理由にもなる。

 答えが出れば簡単な話だけど、攻撃方法があまりに珍妙で、流石にちょっと困惑してしまう。

 

「た、ターン終了……」

 

 それにしても、困ってしまった。

 自分のターンなのに、攻撃は通らず、むしろわたしのシールドが一枚まで削られるなんて。

 防御しながらも、それを攻撃に転換する能力。

 攻撃と防御の両立と転換。

 それはなんだか、ちょっとだけ代海ちゃんを思い出す。

 

『《ドンドン吸い込むナウ》。《ドンドン水撒く(シャワー)ナウ》を手札に加え、《デーモン閣下》を手札へ。続けて《ドンドン水撒くナウ》。マナゾーンの《喜望》を回収し、《クラッケンバイン》を手札へ』

「クリーチャーが……!」

『《ジョバート・デ・ルーノ》でシールドをブレイク』

「し、S・トリガー! 《蓄積された魔力の縛り》! 《エスカルデン》と《ガメッシュ》は、攻撃できないよ!」

『ターン終了』

 

 

 

ターン5

 

 

小鈴

場:《グレンニャー》×2《ノロン⤴》《コギリーザ》

盾:0

マナ:7

手札:6

墓地:8

山札:15

 

 

ガメッシュ

場:《エスカルデン》《ガメッシュ》《ジョバート》《メメント》

盾:3

マナ:10

手札3

墓地:6

山札:14

 

 

 

「わたしのターン……」

『Dスイッチ。《メメント守神宮》の効果で、相手クリーチャーをすべてタップ』

 

 う、クリーチャーが動けなくなっちゃった……

 かなり追い詰められている。シールドはないし、クリーチャーは寝ている。

 相手クリーチャーはすべてブロッカーだし、パワーも高いし……どうしよう。

 

「2マナで《ノロン⤴》! 二枚ドローして……二枚捨てる!」

 

 ……よし、いいカードが引けた。

 都合のいいことに、《コギリーザ》は手札に戻されなかった。これなら、まだ戦える……!

 

「6マナで《ノロン⤴》を《コギリーザ》にNEO進化! 攻撃して、キズナコンプ発動!」

 

 わたしの場の、二体の《コギリーザ》が共鳴する。

 キズナコンプによって、二体の《コギリーザ》のキズナ能力が発動する。つまり、《コギリーザ》の能力が、一度に二回も使える。

 もう後はないし……ここで、攻める!

 

「まずは一回目! 《蓄積された魔力の縛り》! 《ガメッシュ》と《エスカルデン》の動きを止めるよ!」

 

 これでブロッカーの動きは止めた。

 次は、攻撃だ。

 

「次に二体目! 《法と契約の秤》! 墓地から《龍覇 グレンモルト》をバトルゾーンに! 来て――《銀河大剣 ガイハート》を装備!」

 

 これで、布陣は揃った。

 後は、相手がどう出るか……

 

『《ジョバート・デ・ルーノ》でブロック』

「ブロックした……それなら、《グレンモルト》で攻撃!」

 

 攻撃は通った。これでなにもなければ……!

 

『S・トリガー《ドンドン水撒くナウ》』

「っ、またトリガー……!」

『2マナ加速、《喜望》を回収。《グレンモルト》を手札に』

「ターン終了」

 

 攻めきれなかった……でも、《蓄積された魔力の縛り》で、動きは止めてる。

 このターンにやられることはない、けど……

 

『《龍罠(ドラップ) エスカルデン》を召喚。《ウル》《エスカルデン》の二枚をマナへ。4マナで《電脳鎧冑アナリス》を二体召喚』

 

 次々と並べられるクリーチャー。

 なんだか……嫌な予感がする……

 

『シンパシー。自分のクリーチャーが五体。5マナ軽減し、5マナタップ――《審絆の彩り 喜望》を召喚』

 

 場のクリーチャーの力を借りて現れたのは、コスト10の超大型クリーチャー。

 コストのわりにパワーは低そうだけど……コストが大きいからには、それ相応の能力がある。

 

『《喜望》の能力発動。《ガメッシュ》以外のクリーチャーをタップ。タップしたクリーチャー一体につき、一回GR召喚』

 

 え……タップしたのは、《アナリス》と《エスカルデン》が二体ずつ、《喜望》が一体で、合計五体だから……五回もGR召喚……!?

 

『GR召喚――《マシンガン・トーク》《浄界の意志 ダリファント》《天啓(エナジー) CX-20》《マリゴルドⅢ》《続召の意志 マーチス》』

 

 い、いっぱい出て来た……!

 一体一体は小粒だけれども、純粋な数の暴力が押し寄せる。

 それだけなく、それぞれの能力も、発動する。

 

『《マシンガン・トーク》の能力で《喜望》をアンタップ。マナドライブ。《ダリファント》の能力で《グレンニャー》をシールドへ。《天啓 CX-20》の能力で三枚ドロー。《マリゴルド》の能力で《エスカルデン》をマナからバトルゾーンに。《マーチス》の能力でGR召喚』

 

 次々と発動するクリーチャーの能力。

 クリーチャーがクリーチャーを呼び、除去したり、手札を増やして、自分の優位性を高めていく。

 そして、わたしにとって決定的な一打が、放たれた。

 

『《ポクタマたま》をGR召喚。相手の墓地をすべて山札に戻す』

「っ……!?」

 

 わ、わたしの墓地が……これじゃあ《コギリーザ》が使えない……!

 

『《エスカルデン》の能力発動。山札から二枚を公開。すべてマナへ。シンパシー、《喜望》を1マナで召喚』

「二体目……!」

『《マシンガン・トーク》《ダリファント》《天啓 CX-20》《マーチス》《ガメッシュ》の五体をタップ。五回GR召喚――《マーチス》《マリゴルド》《ダリファント》《マシンガン・トーク》《ポクタマたま》』

 

 変則的な攻撃の後に襲いかかる、波濤の如きクリーチャーの群れ。

 波は形を変えながら、絶えず襲いかかってくる。

 

『《マーチス》で《天啓 CX-20》をGR召喚。《マリゴルド》で《ソニックマル》をバトルゾーンに。《ダリファント》で《ノロン⤴》をシールドへ。《マシンガ・トーク》で《ガメッシュ》を、《ソニックマル》で《ダリファント》をアンタップ』

 

 《ガメッシュ》がアンタップした。

 その瞬間、わたしのシールドは一瞬で散り、そして、

 

『《ガメッシュ》がタップしたため、ターン終了』

 

 

 

ターン6

 

 

小鈴

場:《コギリーザ》×2《グレンニャー》

盾:0

マナ:8

手札:6

墓地:0

山札:21

 

 

ガメッシュ

場:《エスカルデン》×3《アナリス》×2《喜望》×2《マシンガン・トーク》×2《ダリファント》×2《天啓》×2《マリゴルド》×2《マーチス》×2《ポクタマたま》×2《ガメッシュ》《ソニックマル》《メメント》

盾:2

マナ:15

手札:2

墓地:7

山札:4

 

 

 

 相手には、十体以上のクリーチャー。

 加えてそれらのクリーチャーは、《メメント》によってブロッカーを得ている。

 ここまで数が多いと、《ガイギンガ》でもどうしようもない。

 どうしよう……

 

「とりあえず……2マナで《ノロン⤴》を召喚! 二枚引いて……」

 

 ……これは……

 

「……二枚捨てるよ。さらに3マナ、《リロード・チャージャー》! 手札を捨てて一枚ドロー!」

 

 うん……十分ではないかもしれないけれど、これなら……

 

「残り4マナで、呪文! 《六奇怪の四~土を割る逆瀧~》!」

 

 こういう使い方をすることって、あんまりなかったけど。

 この一枚で、突破口を切り開く。

 

「次のわたしのターンまで、あなたは一度しか、攻撃も、“ブロック”もできないよ!」

 

 大量のブロッカーが並んでいても関係ない。

 ブロックの回数に制限をつけてしまえば、大量のブロッカーも、意味がない。

 

「《コギリーザ》で攻撃する時、キズナコンプ! 墓地から《狂気と凶器の墓場》と《知識と流転と時空の決断》を唱えるよ! 山札から二枚を墓地に送って、《グレンモルト》を復活! 《ガイハート》を装備!」

 

 さらに《知識と流転と時空の決断》の能力で、GR召喚を二回。

 カメさんほど多くはないけど、これだけでも十分。

 

「《シェイク・シャーク》《バツトラの父》をGR召喚だよ! 《ガメッシュ》を行動不能にして、《コギリーザ》でWブレイク!」

『S・トリガー《清浄の精霊ウル》。《コギリーザ》をタップ』

「《グレンニャー》でダイレクトアタック!」

『《ダリファント》でブロック』

 

 攻撃は通らなかった。

 けれど、これで相手はたった一回のブロックの権利を消費した。

 そしてわたしは、二回の攻撃を行った。

 

 

 

「龍解――《熱血星龍 ガイギンガ》!」

 

 

 

 やっと出て来てくれた、《ガイギンガ》……これでおしまいっ! 

 

 

 

「《ガイギンガ》で、ダイレクトアタック――!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「か、勝てたぁ……」

「おう。お疲れさん」

 

 かなり 冷や冷やした。クリーチャーとの戦いは、余裕がある時も少なくないけど、たまにこうやってすごく肝が冷えることがあるから、大変だ。

 特に今回のクリーチャーは、いつも以上に強かったような気がする。

 ……それに、いつもと、なんかちょっと違ってたような……無機質というか、なんというか……

 

「む、むむむ?」

「どうしたの鳥さん?」

 

 いつものように、倒されたクリーチャーから放出される(マナ)をついばんでいる鳥さん。

 これが鳥さんが求めているもの。鳥さんが力を取り戻すために必要なエネルギー、らしい。

 鳥さんはクリーチャーを倒すたびにそれを食べているのだけれど、なにか変な反応だ。

 

「なんだこれ、味がないというか、マナがスカスカじゃないか」

「スカスカ?」

「変な感じだ。っていうか前にもこんなことあった気がするなぁ。食べた気にならない変なクリーチャー……」

 

 うーん、言われてみれば、前にもそんなことを言っていたことがあった気もする。

 あの時は、いきなり町中にクリーチャーが一挙に現れて、みんなと一緒に協力して倒して……その後に、ネズミくんが現れたんだっけ。

 

「なんだこれ、まるで偽物だ。マナを使いきったというより、もっとカラクリで動いてるみたいな……あぁ、“あいつ”よりマシとはいえ、僕は頭を使うのは苦手なんだけどな。これはどういうことなんだい?」

「鳥さんにわからないことが、わたしにわかるわけないでしょ……」

 

 クリーチャーのこととか、わたしの方が知らないことが多いんだから。

 と思っていると、アヤハさんが横から口を添える。

 

「まあ……これはあれだな。うちの奴だ」

「うちのやつ?」

「身内の話をするのは好きじゃないが、仕方ねぇ。このクリーチャーは、ワタシらの同胞の一人が産み落とした、落し子だ」

「お、落し子……?」

「ざっくり言っちまえば、クリーチャー“もどき”を産む力だな。なんでクリーチャーを産めるのかは知らんが、まあ、女王サマの権能の欠片を受け継いだ結果なんだろうな」

 

 女王様……?

 半ば独り言のように言っているアヤハさん。なにを言っているのか、いまいちよくわからないけど……

 

「このクリーチャーは……人為的に発生してる、ってことですか?」

「……そういうこった」

「それって、すごく大変なことなんじゃ……」

「そらそうだ。しかも、これをワタシらの同胞がやってるってなると、ワタシも見過ごせねぇ。ワタシらの凶行が公になるのは、ワタシの望むところじゃない」

「そ、そうですよね。本物じゃないって言っても、クリーチャーはクリーチャーですもんね……」

 

 アヤハさんは、手を組んで協力を持ちかけているんだと思う。

 理由はちょっと違うけど、大事にしたくないという目的は合致している。

 それなら、わたしには断る理由がない。

 アヤハさんはこれまでも、なっちゃんの時とかに、お世話になってるし、信用できる人だ。

 

「わかりました。わたしも、アヤハさんを手伝います」

「話が早くて助かるぜ。あいつの居場所に検討は着いてるが、如何せんワタシだけじゃ手が足りなくてな」

「……他の人たちは、どうしてるんですか……? 葉子さんとか……」

「あ? あー……あいつらは外聞とか気にしない勝手な連中だからな。ワタシが要請したって動かねーよ」

 

 ……そう、なのかな……?

 葉子さんなら、お願いすれば、喜んで手伝いそうだけど……アヤハさんとも、仲が良さそうだったし……

 

「そ、それなら、わたしもみんなに連絡しておいた方がいいですよね。今日はみんな用事があるみたいで、来てくれるかわからないですけど――」

 

 と、わたしが携帯を取り出そうとしたところで、轟音。

 顔を上げると、悪魔のような、獣のような、凶悪な面相の怪物が、こちらを見据えていた。

 

「おっと、あんまゆったりしてる暇はないぜマジカル・ベル。お仲間を呼ぶ暇があったら足を動かせ。あいつが産んだ卵はとんでもない数だからな。殲滅はほぼ不可能、ほとんど無限湧きするぜ」

「で、でも……」

「なにも考えるな。ただ目の前の障害を切り払って、進め。それだけだ」

 

 アヤハさんは、わたしにそう言い聞かせる。

 みんなにこのことは知らせるべきだと思う。けれど……

 

「わ、わかりました……」

 

 今はとりあえず、アヤハさんに従っておこう。

 わたしは改めて、前方のクリーチャーに視線を向け、立ち向かう。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「本当、ムカつくわね」

 

 薄暗い一室で、『三月ウサギ』の声が艶やかに響く。

 その声に反応し、『代用ウミガメ』はビクッと身体を震わせた。

 

「な、なにが……ですか……?」

「なんでもよ。たとえば、あんたと一緒に行動しなければいけないこと、とか」

「そ、それは……すみません……で、でも、帽子屋さんが……」

「帽子屋さんは悪くないわ。えぇ、この配役の意味は、僕にもわかる。それはそれとしてムカつくのよ」

「うぅ、そ、そんな、理不尽な……」

「だから? そもそも僕はあんたのこと嫌いだし。うじうじしててなにもできなくて、のろまで意志薄弱、いい子ちゃんぶって保守的なくせに、意地汚く生き延びることに必死。半端も半端でみっともないったら。それに加えて――」

 

 これでもかというほどに暴言を吐き続ける三月ウサギ。しかしそのすべてが、代用ウミガメとしては真実である、と受け取らざるを得ないため、反論できない。

 

「――それになにより、僕がお母様から受け継いだ権能と、あんたが受け継いだ権能が、似通ってるっていうのが一番ムカつく」

「っ!」

 

 お母様。

 その言葉に、より大きく、代用ウミガメは震えた。

 

「代用ウミガメ……必要なものの代わり、自身の代替品の創造主。お母様のことを考えれば、本来は化身や奉仕者を産み落として、贅沢するものよねぇ……まあ、それは今やってることだけれども」

 

 などと言いながら、三月ウサギはカードを一枚、窓の外に投げ捨てる。

 

「僕が受け継いだ権能――いいえ、“狂気”は、淫蕩。聖も邪も、善も悪も、清濁関係なく交わり絶頂する悦楽。他の連中は僕のことを、ビッチだとか毒婦だとか散々言うけれど、僕は好きよ、お母様から授かったこの狂気。だってほら、気持ちいいもの?」

「…………」

 

 思わず顔を背ける代用ウミガメ。

 その手の下世話な話には疎く、どうしても気恥ずかしくなってしまう。

 だがそれだけではない。

 そうやって語る三月ウサギの蕩けた表情が、怪しく、卑しく、不気味で、恐ろしいのだ。

 

「僕は自分の抱く狂気が好き。快楽を得るのも与えるのも大好き。でも、だからこそ、その結果として生まれるものを権能として受け継いだあんたが気に喰わないのよ」

「……そ、そんな、こと、言われても……」

「理不尽だって? えぇそうでしょう。別に理屈で納得したり行動を決める気はないもの、僕。言いたいことを言って、やりたいことをやるだけよ」

 

 いっそ清々しいほどに自分勝手な三月ウサギだが、彼女はこれでも、帽子屋や公爵夫人と並ぶくらいには古株だ。

 狂気に陥った帽子屋の無聊を、唯一慰められるのが彼女だ。厳密には、慰めようとしているだけだが……

 しかし狂った帽子屋と添い遂げられるだけの狂気を抱いているという意味では、やはり彼女の存在は大きい。

 狂気の三柱のひとつ、淫蕩の狂気を抱く(ケダモノ)、三月ウサギ。

 彼女はいつだって、その狂気に身を投じることを厭わない。

 

「それにしても、あんたも、なんでこんなちんちくりんになってるのかしらねぇ。あんたに本来の力があれば、僕もこんなにイライラしないのに」

「え……? ど、どういう、ことですか……?」

「ん? 帽子屋さんから聞いてないの?」

「……そ、それって、もしかして……」

 

 代用ウミガメの、“生前”のことだろうか。

 帽子屋が「死んだ存在」として語ることを拒否した、今の自分になる前の自分。

 三月ウサギは、それを知っているのか。

 

「知ってるわ。まあ、帽子屋さんやパンチョウの奴から聞いただけだけど……なかなか、あっちの方が愉快じゃない。僕はああいうエゴの塊みたいなの好きよ。僕自身がそうだからね。同族嫌悪で殺し合うかもしれないけど」

 

 淫靡に微笑む三月ウサギ。

 対して、唇を噛み締める代用ウミガメ。

 どうするべきか。かつての自分を知りたいという気持ちはある。しかし同時に、生前の自分への恐怖もある。

 そっと首筋をなぞる。分からないように隠しているが、そこにあるのは、首を切り落とされた切断痕。

 知りたくても恐怖が邪魔をする。あと一歩を踏み出す勇気がない。

 しかし、

 

「あぁ、なんか暇だし、ガラじゃないけど昔話でもしましょうか」

 

 あっけらかんと、三月ウサギは言った。

 

「あんたと陰気なトークなんて死んでもごめんだし、それならあんたの昔話でもして、あんたの反応を見てる方がマシだわ」

「え、あ……で、でも……」

「それじゃあ、話しましょうかね」

 

 心の準備なんて待ってくれない。

 ゆらゆら揺らめき、ぐらぐらぐらつき、あっちこっちにどっちつかずで、中途半端に半端者。

 立ち位置も、心も、なにもが定まらないまま、代用ウミガメは三月ウサギから聞かされる。

 

「僕的に一番笑えるエピソードというか要素は……やっぱりあれかしらね。そう、最高に笑えることに、今じゃクソ陰キャだけど、本来のあんたはね――」

 

 代用ウミガメが、亀船代海という名前も、『代用ウミガメ』という名も得る前の――ただの異なる存在だった頃の話を。

 残酷で、残虐な過去を。

 

 

 

「――人を喰ってたのよ」




 もっとガメッシュ戦はサラッと流すつもりだったのに、なぜか無駄に力が入ってしまった。なんでこんな時にガメッシュのデッキがわりとちゃんと形になるんだ……
 ちなみに霜の手芸部云々については、本当は番外編で先に出したかったけど、ちょっとタイミングが上手く合わなかった……どこかで機会を見て書きたいところ。
 今回、かなり久々に大人数の多重視点で書きましたが、前篇、中篇、後編の三篇構成のつもりで書いているので、ご安心ください。
 というわけで今回はここまで。誤字脱字や感想等ありましたら、遠慮なくどうぞ。
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