デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 感想受付設定というものがあることを知らずにいたのですが、最近その存在を知って、非ログインの方でも感想を書き込めるようにしました。
 まえがきで書くことがこんな報告なのもどうかと思いますが、一応この場でご報告させていただきます。
 さて、今回は物騒なタイトルで始まる7話の前編です。


7話「誘拐事件だよ ~前編~」

 こんにちは、伊勢小鈴です。

 今日は土曜日です。学校はお休みです。でも、お父さんはお仕事の都合で、今日は家にいません。だけど安心してください。わたしのお父さんはブラック企業勤めというわけではなく、本当にちょっとした偶然と不測の事態が重なってお仕事が入ってしまっただけで、決して会社に無理やりお仕事を入れられたわけではないんです。

 って、お父さんは必死になってわたしたちに言い聞かせてたけど、その必死さが逆に怪しいよね……わたしは詳しくは知らないけど、毎日遅くに帰って来るとかってわけでもないし、お父さんの言ってることは本当なんだろうけど。

 それはともかく。今はいないお父さんのことは関係ないので、置いておきます。

 伊勢家では、お父さんを除いた家族三人でお昼ご飯です。お姉ちゃんも今日は学校の講習や生徒会のお仕事がなくて、お母さんも打ち合わせとかお仕事がないから、三人で食べるのは久しぶりかもしれない。お父さんのことは忘れよう。

 ……こう考えると、うちの家族ってみんな、なにかしらのお仕事してるなぁ……わたしだけ遊んでて、なんだか申し訳ない気持ちです……

 夏も近づく今日この頃。お母さんのリクエストで作った冷やし中華をすすりながら、ふとテレビに目を向ける。アナウンサーのお姉さんが、ハキハキと今話題の事件について、話していた。

 

『――山田摩耶さん(10)が、昨日から家に帰っていないと、警察に届け出がありました。山田さんは友人の家に遊びに出かけ、「6時には帰ってくる」と母親に話していたとのことです。自宅と友人宅との区間で聞き込みをしたところ、昨日の夕方ごろ、山田さんと思われる小学生くらいの少女が歩いているところを見たという目撃情報があり、警察機関は三日前にも発生した『少女連続誘拐事件』との関係を調べるとの――』

 

「まーたこの事件ね……小学生を狙った誘拐犯なんて絵に描いたようなロリコンが、まさか実在しているとは……」

「でも、これでもう五人目って、かなり大きな事件になったねぇ。警察が無能なのか、ロリコン誘拐犯が有能なのか」

 

 お姉ちゃんとお母さんが、ニュースに対して口々にコメントする。

 『少女連続誘拐事件』。世間ではそう呼ばれている事件が、わたしの住んでいる町で起こっている。最初の事件は、一週間くらい前かな。小学校六年生の女の子が行方不明になって、目撃情報から誘拐じゃないかという可能性が示唆された。その後、ほとんど間を開けずに、連日小学生の女の子が行方不明になっている。

 四人目までで行方不明になった人は、すべて小学生の女の子。時間は大体が夕暮れ時。この短期間で連続して事件が発生していることと、この町に限定されていること、それから被害者の共通点から、ほとんど誘拐だということで、警察の捜査は進められているらしい。

 誘拐、それも立て続けに発生する誘拐事件なんてお話の中みたいな出来事がこんなに身近にあると、なんだか変な気分になる。怖い、という気持ちもあるけど、それだけじゃない。

 ……それもこれも、鳥さんのせいで変なことばっかりに首を突っ込んでるせいだよ。純粋に事件を怖いと思う感覚も薄くなってきちゃった。

 事実は小説よりも奇なり、というか。現実にもおかしなことはいっぱいあるものです。

 などと、どこか他人事のように思っていると、お姉ちゃんが言った。

 

「小鈴、あんたも気をつけなさいよ」

「え? どうして? わたしもう中学生だよ?」

「そういう問題じゃないから。相手はこっちの年齢なんて知る由もないし、あんたのちっこい背丈と子供っぽい童顔じゃ、狙われてもおかしくないって話」

「う……でも、お姉ちゃんだってわたしとそんなに変わらないじゃない……身長とか」

「五十鈴はけっこーなツリ目だから、誘拐犯の方がビビって逃げ出しちゃうかもね」

「母さん? それはどういう意味?」

「そういう意味だよ。顔が怖いよ、五十鈴」

 

 お母さんの軽口に、キッと睨みつけるお姉ちゃん。確かに、その顔は顔は怖い。

 

「まあでも、小鈴は案外、さっくり五十鈴を抜かしちゃうかもねぇ。この子は赤ん坊の時からかなり早熟だったし。背も胸もすぐに大きくなった」

「その話はやめてよお母さん……」

「まあ、いくらロリコンがいても、あんたのその胸を見れば小学生とは思われないかもしれないわね」

「だからやめてってば! もう!」

 

 お母さんが振って、お姉ちゃんも乗っかって、私はもう我慢できなかった。お父さんがいないからなんだろうけど、私の身体について話をされるのは恥ずかしい。私は勢いよく席を立つ。

 

「ごちそうさま! わたし、出かけてくるからっ」

「この前、友達と行ったっていう例のお店?」

「そうだよ」

「じゃあ気をつけて帰ってきなさい。ロリコン犯罪者に捕まったら、なにされるかわからないからね」

「まぁ、事件のことがなくても、あんまり遅くならないようにね」

「うん、わかったよ」

 

 私は一旦部屋に戻って、外出用の服に着替えてから、前もって準備していた鞄を手に取った。

 そこからもう一度リビングを通って、玄関に向かう。

 

「それじゃあ、行ってきます!」

 

 人は当事者意識というものを持たない。それは、普段なら当事者になることがないから。

 わたしもその例に漏れず、この時は露ほども思っていなかった。

 他人事だった誘拐事件の真相に、触れることになるなんて――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 今日はユーちゃんに教えてもらったカードショップ、『Wonder Land』へと行く予定だ。

 予定と言っても、なにか特別な用事があるわけではない。ただ、あのお店の雰囲気が気に入って、暇さえあれば足を運ぶようにしている。

 ファンシーな店先を見つけると、ガラス戸を押して店に入る。カランコロンという来店を知らせるベルが鳴り、視界に見覚えのある女の人が映った。

 

「詠さん! こんにちは!」

「あ、小鈴ちゃん。いらっしゃい」

 

 長良川詠さん。このお店でバイトをしているお姉さん。今は高校三年生らしく、私よりも五つも年上だ。

 それでも年上に対する恐怖とか萎縮とかは感じない。いつも親身に接してくれていて優しいし、フランクで気兼ねしない雰囲気がある。私がこのお店を気に入ったのも、詠さんの存在があるからだと思う。

 

「ごめんね。まだ例のカードは入荷してないんだ」

「あ、そうなんですか……」

「ごめんね。でも、こっちは手に入ったよ」

「え?」

「はい。これね」

 

 そう言って詠さんが手渡してくれたのは、箱のようなものだった。厚紙の上にプラスチックのカバーがかけられていて、中にはカードの束が入っている。

 

「これが、例のデッキですか?」

「うん。店長が特別に手に入れて、値段も当時の価格のままでいいって」

「あ、ありがとうございます!」

「どうする? すぐに買っちゃう?」

「はい! お願いします」

「わかったよ。じゃあ、540円ね。まいどあり。このままちょっとデッキ弄って、新しいカードにも慣れておこうか。私も手伝うよ」

「いいんですか?」

「いいよー。小鈴ちゃんはお得意様だし、店長も気に入ったみたいだし、今日はなんでかお客さんが少ないから、私も暇だし。それに」

「それに?」

「小鈴ちゃんの相手をしてると、自分がデュエマを覚えたての頃とか思い出して、なんだか楽しくてね。やれ環境だ、やれメタゲームだっていうしがらみを気にせず、純粋にデュエマを楽しめる今っていうのは、やっぱり大事だと思うんだ」

「はぁ……」

 

 環境とか、メタとか、言ってることはよくわからなかったけど。

 

 

「あの子はすぐに環境とかそっちの方に寄っちゃったからねぇ。別に悪いってわけじゃないけど」

「あの子?」

「私の妹。小鈴ちゃんよりもちょっと早くにデュエマを始めたくらいで、あの子もまだまだビギナーだけど……案外、早くにガチ環境に首突っ込み始めちゃったんだよね」

「詠さんって、妹さんがいたんですか?」

「うん、四つ下のがね。今は中二だから、小鈴ちゃんのいっこ上かな? いつか紹介してあげるよ。きっと気が合うと思うんだ」

「は、はい……」

 

 詠さんの妹さんかぁ。どんな人なんだろう。

 そんなことを考えながら、わたしはお店の中を、しばらく巡っていた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「すっかり遅くなっちゃった……早く帰らないと……」

 

 ワンダーランドを出る頃には、時刻は六時を回っていた。

 夏至は越えてるからまだ外は明るいけど、それでも暗がりが差してきている。早く帰らないと、お母さんやお姉ちゃんが心配しちゃう。

 急いで早足になって駆けていると、日没とは違う、なにかの影がわたしに近づいてきた。

 

「小鈴!」

「あ、鳥さん。なんか久しぶりだね」

 

 そして、声をかけられる。声をかけてきたのは、鳥さんだった。

 

「どうしたの? わたし、ちょっと急いでるんだけど……」

「クリーチャーだよ。微かだけど、この近くにクリーチャーの気配を感じるよ」

「え? クリーチャー? こんな時に……」

 

 なんとなく予想していたけど、やっぱりそのことなんだ。

 どうしよう。クリーチャーは放っておけないけど、わたしはわたしで、早く帰らないとダメだし……

 

「どこにいるの?」

「わからない。気配もかなり微弱だし、どこにいるのか見当もつかないよ」

「……鳥さんて、本当に計画性がないよね」

 

 呆れて溜息が出そうだった。

 

「でも、どこにいるかもわからないんじゃ、探しようがないよ」

「わからないと言っても、この近辺にいるはずなんだけど」

 

 キョロキョロと首を回す鳥さん。

 鳥さんと話しているところを見られても困るし、早く帰りたい。幸い、人通りは少ない道だから、誰かに見られることはなさそうだけど。

 と、思っていたら、

 

「お嬢さん、ちょっといいかな?」

「ふぇっ?」

 

 振り返ると、女の人が立っていた。髪や腕にいろんななアクセサリーをつけた綺麗な人だ。

 

(鳥さん! 早く隠れて!)

(え、なんで?)

(なんでじゃないよ! 鳥さんと話してるところを見られたら、わたしが鳥とお話する変な女の子だと思われちゃうよ!)

(いや、でも……)

(でもじゃないよ! ちょっと辛抱だから出てこないで! 喋っちゃダメだよ!)

 

 鳥さんを両手で包む込むようにして、ちょっと強引に抑えつける。もぞもぞと動いて、羽毛がくすぐったいけど、喋る鳥さんを人に見られるわけにはいかない。

 

「どうかなさいましたか?」

「あ、いえ、な、なんでもありません……大丈夫です」

「そうですか」

「えっと、その、なにかご用ですか……?」

「あぁ、そうでした。ちょっと道をお尋ねしたいのですが、よろしいですか?」

「あ、はい。どこへ向かわれているんですか?」

「駅の方です。どちらへ向かえばいいでしょうか?」

「駅ですか? 駅ならあっちーー」

 

 と、わたしが片手を離して、指差した瞬間。

 両手の拘束が緩んで、手の中から鳥さんが飛び出した。

 

「小鈴!」

「鳥さん!? 喋っちゃダメだって! っていうか出て来ちゃダメだよ! 人がいるのに!」

「違う! 後ろ――」

 

バチッ!

 

「え……?」

 

 弾けるような音が鳴った。

 その瞬間に、わたしの視界が暗転する。

 

「小鈴! 小鈴――!」

 

 最後に鳥さんの声が聞こえた。

 それっきり、わたしの意識は消えてしまった――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「ん……」

「あ、目が覚めました!」

 

 ぼんやりと、自分の感覚に気付いていく。わたし、眠っちゃってたのかな。

 視界は霞んでいて、よく見えない。でも、誰かの声が聞こえる。なんだか、とても聞き覚えのある声――

 

「小鈴さん! 大丈夫ですか?」

「え、あれ……ユーちゃん……?」

 

 目を擦って見開くと、そこには見慣れた女の子。

 日本人ではありえないほど真っ白なな肌。色素の薄い艶やかな髪。目鼻がスッと通った整った顔立ち。

 ユーリア・ルナチャスキーさん――ユーちゃんだ。

 

「ビックリしましたよ。小鈴さんがいきなり運ばれてきたんですから」

「ここは……?」

「わからないです」

 

 周りを見渡す。わたしたちの他にも、子供――女の子ばかりだ。みんな、わたしたちよりも年下に見える――が何人もいた。

 内装はコンクリートが打ちっぱなしの壁。床は、一応カーペットが敷かれているけど、コンクリートの上にそのままだ。急ごしらえで敷いたように見える。

 部屋は十人近くの人がいるけど、スペースは有り余っている。広い部屋だ。

 けれど、場所はいくら見ても、見たことがない場所だった。

 

「待って、これどういうことなの? わたし、確か鳥さんと出会って、お姉さんに道を聞かれて……」

「ユーちゃんも同じです。お散歩中にキレイなおねーさんに話しかけられて、お話してたら、気づいたらここにいたです」

 

 お姉さんと出会ってから、ここに来るまでの記憶がない。思い出そうと努力してみるけど、いまいち思い出せない。

 ちょっと考え方を変えてみよう。お姉さんと出会ってからの記憶がなくて、わたしはここに寝ていた。その間、わたしは気を失っていたわけで。

 ということは、

 

「これって、もしかして今ニュースでやってる……」

「ユーカイ、ってやつですね!」

 

 ユーちゃんは、自分の知ってる日本語をズバリと言い当てて、なんだか満足げだ。楽しそうにしているけれど、これが例の誘拐事件だったとしたら、ただ事じゃないよ。

 もう一度、部屋を見回す。

 やはりここにいるのは、女の子、それも、小学生くらいの子ばかりだ。

 よく見てみると、今朝のニュースで報道されていた女の子もいる。ぼんやりとだけど、写真の映像が流れてたから、覚えている。

 頭を抱えたくなった。まさか、自分がこんな事件に巻き込まれるだなんて……!

 

「ど、どうしよう……ユーちゃんはいつからここに……?」

「小鈴さんよりも、ちょっと前です」

「今まではどうしてたの?」

「どうにもできないです。あ、でも、トイレやお水はあったので、なんとかやってます」

 

 言われて、三度部屋を見回す。部屋の隅には小さな扉があって、その隣には小さなシンク。さらに隣には、タオルと小さな食器棚。棚にはコップばかりが入っている。子供用の。

 

「あと、小鈴さんが来る前に、ここにいた子から聞いたんですけど、食事は決まった時間に、毎日三食、出るみたいです。台のないベッドもあります」

「それはお布団だよ……水道が通ってて、食事も出るし寝床もあるんだ……」

 

 人が生活するうえで、最低限のものは揃っているみたい。なんだか、それはそれで不気味だった。

 

「な、なにか変なことされなかったのかな……?」

「ユーちゃんがお話した限りだと、ずっとここにいるみたいです」

「じゃあ物を取られてるとか……えぇっと、携帯は当然のように取り上げられちゃってるね。でもカバン自体はそのままだし……うーん、なにが目的なんだろう……」

 

 自分の荷物を改めて確認する。取り上げられているのは携帯だけだった。

 これだけの子供を誘拐して、どうしようっていうんだろう。携帯は外と連絡が取れないようにするためとして、お財布は残ってるからお金目当てじゃない。

 もっとも、子供のお財布の中身に入っている額なんてたかが知れてるから、お金目当てで子供を誘拐なんてしないだろうけど。もしも本当にお金目当てなら、身代金を請求するとか、そういうことをするだろうし……でも、ニュースにはそういう情報はなかったはず。それに、こんなにたくさんの子供をさらう必要もない。

 となると他に残ってる可能性は――

 

「…………」

「小鈴さん? だ、大丈夫ですか? お顔が真っ青です……!」

「う、うん。大丈夫……」

 

 ――全身に怖気が走る。

 その可能性は、できれば考えたくなかった。

 まだ小学生くらいの子供もいるのに、もしもそんな理由なら、それは、流石に……惨い。

 この嫌な気分を少しでも振り払いたくて、視線を彷徨わせる。ふと、わたしの後ろの扉が目についた。

 

「あの扉は?」

「開かないです。あのお部屋から、ユーカイハンの男の人が出入りしています。小鈴さんも、あそこから入って来たんですよ」

「まあ、そうだよね……

 

 いくらなんでも、そこで自由に出入りができるわけがない。

 鍵をかけ忘れた可能性とか、もしかしたら開くかも、なんて願望に縋ったわけじゃないけど、わたしは何気なしに扉が開くかどうか、試してみた。

 結果はダメだった。まず、ドアノブが回らない。力いっぱい回してみるけど、わたしの力じゃ金属の鍵はどうしようもできなかった。

 

「じゃあ窓……は、鉄格子がはまってるね……」

 

 それに窓自体、かなり高いところにある。お布団を重ねてよじ登ればギリギリ届くかもしれないけど、格子を外すことはできなさそう。

 

「完全に監禁されてるね……こ、これって、どうしたら――」

 

 いいんだろう。とは、続かなかった。

 なぜなら、

 

 

 

「――小鈴!」

 

 

 

 聞き慣れた声が、聞こえたから。

 

「!」

 

 声の方向を見遣る。高いところ。さっきまで見上げていた鉄格子のはまった窓。

 鉄格子の隙間から、なにかが這い出ようとしている。

 小さな鳥。一見するとごく普通の小鳥だけど、これはわたしの知ってる――

 

「――鳥さん!」

 

 鳥さんだ。

 まさか、わたしを追って、ここまで助けに来てくれたの?

 鳥さんは鉄格子の隙間に小さな体を捻じ込ませて、こっちに入って来る。

 

「大丈夫かい? クリーチャーの一撃で昏倒した君は、そのままどこかに運ばれてしまったんだけど、覚えてる?」

「う、うん、なんとなく……」

 

 本当はあんまり思い出せてないんだけど。

 でも、状況から、大体のことは推察できた。

 それに、鳥さんの言葉からも、新しい情報を得ることができた。

 

「あの女の人、クリーチャーだったんだね……」

 

 ということは今回の誘拐事件も、クリーチャーの仕業だったんだ。

 しょうもないことばっかりやってると思ってたけど、今までで一番、大掛かりで恐ろしいことをやってのけるクリーチャーだった。

 

「あ、あのー……小鈴さん?」

「え? なに、ユーちゃん?」

「そのVogel()は、なんですか……?」

 

 フォーゲル?

 驚いたように指差すユーちゃん。

 その指の先にいたのは――鳥さんだった。

 

「あ……」

 

 しまった。

 そうだ。鳥さんのことは、誰にも知られちゃいけなかったのに。

 周りを見れば、ユーちゃんだけじゃなくて当然、他の子も、この喋る奇妙な鳥さんを凝視している。純粋に驚いている子もいれば、その不可解さに怯えている子もいた。

 こんなの不可抗力だと言いたくなるけど、そんな苦言を呈したところで、もうどうにもならない。

 でも……ど、どうしよう……なんとか誤魔化せないかな……?

 

「えっとねユーちゃん、その、この鳥さんはね……」

「小鈴。今回の事件の首謀者もクリーチャーだ。それなら、君のすべきことは自ずと理解できるはずだよ」

「鳥さんは黙ってて!」

 

 今必死でユーちゃんたちに、このおかしな鳥さんのことを説明……もとい、誤魔化しているところなんだから。

 なんてわたしの弁明は、結局は無駄になってしまうのだけれど。

 わたしの必死の努力をすべて突き崩すように、鳥さんは続ける。

 

「いつまでもこんな辛気臭い場所にいるものじゃない。早速だが準備をするよ」

「え?」

 

 パッ、と。

 気付けばわたしを包むものの感覚が、変質していた。

 率直にに言えば、いつもの衣装になっていた。

 

「って、鳥さん!? ちょっと待ってよ!」

「クリーチャーと戦うなら、それ相応の準備が必要だからね」

「いや、でも、だからって……!」

Oh(おぉ)! 小鈴さん! とってもかわいいです! 素敵(シェーン)素敵です!」

 

 いきなり衣装を変えられて、すっごく恥ずかしい。というか、なんでみんなが見ているところで変えたの鳥さん!

 

 謎の喋る小鳥との意思疎通、瞬く間の衣装チェンジ、そして、アニメでしか見たことないようなフリフリ衣装……ユーちゃんはなぜか変に興奮してるし、女の子たちの視線は、疑惑と疑念混じりだけれど、なんだかキラキラしているように見えた。

 うぅ、こんな風に目立つのはイヤだし、こんなことが知られるのも困るんだけど……こうして見せちゃった以上は、もう隠し通せるはずもない。

 

「え、えーっと、み、みんな! 今日の出来事――主にわたしのこと――は、全部忘れてね! 誰にも言っちゃダメだよ!」

 

 どれくらい効果があるかはわからないけど、とりあえずそう言っておく。

 さて、これからわたしは例の誘拐犯が来るのを待つことになる。皆が見ている前で、いつ来るかわからない人を、待つ。

 それも目立つから嫌だなぁ、などと思っていたら、それを察して――じゃないだろうけど、鳥さんが言う。

 

「それじゃあ、件の誘拐犯をとっちめに行こう!」

「なんで鳥さんが乗り気なの……それに、この扉が開かないと、わたしたちは外にも出れないんだよ」

 

 鳥さんはまだ今の状況を理解していないから仕方ないけれど、今のわたしたちは監禁状態。鳥さんでもない限り、外には出られない。

 そのことを鳥さんに伝えると、

 

「その点は問題ないよ」

 

 と返した。

 そして、続けてわたしに指示する。

 

「小鈴、ドアノブを握って」

「? こう?」

「力いっぱい回して」

「さっきやったけど、ダメだったよ」

「いいから」

「うーん……わかったよ。こう?」

 

 言われるままに、わたしはドアノブを握って、さっきと同じように力いっぱい回す。すると、

 

 

 

ベキッ

 

 

 

「……え?」

「よし、これで先に進めるね」

 

 回った。ドアノブが、回転した。

 キィ、と小さく扉が開く。

 

「なになになに!? どういうこと!? これ、ドアノブ壊れてるー!?」

「何度も言ってるけど、君の格好は、君の理想の塊なんだよ。人は無意識に強さを求めるもの。このくらいの障害なら力ずくで破れるよ」

「本当に力ずくだったね……うぅ、わたし、そんなに怪力になりたいわけじゃないのに……」

 

 ちょっと老朽化してたっぽいとはいえ、素手で鍵のかかったドアノブを破壊するなんて、普通じゃない。

 この格好になるたびに、わたしは人として大事なものが欠けていっているような気分になる。

 

「小鈴さん……」

「ユーちゃん……えっと、ユーちゃんも、このことは内緒でお願いね」

 

 前にもユーちゃんとは、クリーチャー関係でトラブルがあったけど、ユーちゃんの反応を見る限り、わたしがクリーチャーを追い払ったことも、自分がクリーチャーに憑かれていたことも、覚えていない。

 できれば忘れたままでいてほしかったけど……そこは、とても申し訳ない気持ちになる。

 

「わたしなら大丈夫だよ。ちゃんと、戻ってくるから。それまで、この子たちと待ってて」

「……Ja! 小鈴さんなら、無事に戻ってくるって、ユーちゃん信じてます!」

 

 ユーちゃんに見送られて、わたしは部屋の外に出る。

 外は部屋の内装よりも酷い。取り繕う気が一切感じられない、コンクリート打ちっぱなしの廊下。ところどころヒビが入っていて、崩れかけている壁もある。

 

「外装も酷かったよ。どうやら、どこかの廃屋のようだね」

「廃屋なのに水道は通ってるんだ……変な場所。どこにあったの?」

「空から見る限りでは、住宅街からは離れていたよ」

「そっかぁ。どこだろう……わたしも、町の隅々まで知ってるわけじゃないし……」

 

 ただ、住宅街から遠いってことは、やっぱり誘拐犯は隠れて行動している。

 今までのクリーチャーにない計画性を感じるよ。本当に、なにが目的なんだろう。

 と、考えながら歩を進める。とりあえず出口を探そうと、適当に歩く。

 すると前方から、ふっと人影が差した。

 

「……これは驚いた。子供の力であの部屋から出られるとは」

 

 そこには、町で出会った、様々なアクセサリーで着飾った女の人がいた。

 だけど、口調があの時と少し違う。男の人っぽい言葉遣いだ。

 

「一体、如何なる力技術を使った? 確かにこの建物は老朽化している。後付の鍵の防犯性も怪しいところだが、それでも幼子の力で突破できるような造りではないはずなのだが。まさか力ずくで破壊したわけでもあるまいに」

「…………」

 

 ごめんなさい。力ずくで壊しちゃいました。

 そんなことは口に出さず、わたしは、女の人に問う。

 

「あなたが、今ニュースでやってる、誘拐事件の犯人……ですか?」

「否定はできないな。現に君や、他の少女たちをここに連れてきている」

「どうして、こんなことするんですか? なにが目的なんですか?」

「目的か。目的……そうだな」

 

 女の人は、考え込むよな仕草を見せる。

 そして、わたしの横の鳥さんに目を向けた。

 

「……なんとなく、君が連れている鳥から同種の香りがしたのだが、あれはやはりクリーチャーか。となると君は、私がクリーチャーであることを既に知っているのではないか?」

 

 コクリと頷く。

 それを見て、また続ける。

 

「私はこの世界に来て、最初に大きな感動を覚えたことがある。これは、その感動を形にするための準備だ」

「感動……?」

 

 予想外の言葉だ。感動って、なにに感動したんだろう?

 わたしが疑問符を浮かべていると、女の人は、さらに語る。

 わたしの予想なんてぶち抜く勢いで、45度きっかりの斜め上に飛んでいくような、言葉を。

 

「この世界の少女は――愛らしい」

「……え?」

 

 一瞬、彼女がなにを言っているのか分からなかった。

 だけど固まっているわたしに構わず、彼女は続ける。

 

「なんと表現すればいいのかわからないが、とにかく愛おしいのだ。美しい? 可愛らしい? 適切な表現が見つからない。しかし私は、人間の幼い子、それも、女性の幼体――いわゆる幼女というものに、大きな感動と、強い興奮を覚えたのだ」

「…………」

「ゆえに、まずはこの世界の生物について調べた。その結果、俗に“小学生”と呼ばれる人間の雌が、私の興奮を喚起する最も素晴らしい存在だと理解した」

 

 女の人は、滔々と語り続ける。

 

「とはいえ、完全に理解できたとは言い難い。まだまだ不可解な領域は山ほどある」

「だ、だから……? どうするつもりなの?」

「愚問だな。私は知識を司るもの。それが感覚的であろうとも、未知なるものは既知にせずにはいられない。彼女らは、そんな私の未知を既知にするためのサンプルである。そしてその意図も含みつつ、彼女のらは保護し、保存し、保管し、管理するに値する崇高な存在であるがゆえに、その高位な価値に基づく適切な処遇を与えるべきであると、私は判断した。無論、少々自分本位に過ぎると思うが、ほんの少しばかり私の愛玩の対象となってもらうことにもなろうが」

 

 意気揚々と、興奮気味に語る女の人。

 わたしはそれを呆然と聞くことしかできなかったけど、

 

(この人――)

 

 間違いない。

 わたしの知識にもある。こういう人のことを、なんて呼ぶのか。

 驚愕のあまり、わたしは声にならない叫びを、心の中で轟かせた。

 

 

 

(――すっごいロリコンさんだ!)

 

 

 

 わたし、そんな理由で誘拐されたの!?

 というか、クリーチャーにもそういう趣味があるの!?

 

「っていうか、わたしは小学生じゃないよ、中学生だよ……」

「む? しかし、私の調査では、体長が約1.5m以内に収まっていれば、小学生、という区分に属すると……」

「人によるよ、それは……」

 

 確かに、ちょっと前まで小学生でしたけども。

 確かに、身長は小学生と言っても通じるくらいだけども!

 

「……そうか、胸か。人間の女性体も乳房の大きさが成長と年齢に比例するのか。そこも考慮すべきだったか……」

「そういう話はもういいから!」

 

 今朝の話を蒸し返されたみたいで、恥ずかしくなるよ……

 

「と、とにかく! もうこんなことはやめてもらうよ! みんな、こわがってるんだから!」

「それは無理な相談だ。私は私の理想と目的を果たす。これほど素晴らしい存在を、無為なままで終わらせはしない。私の未知を未知のままで終わらせはしない。ついでに私の愛玩を手放したくもない」

 

 ロリコンさんの目つきが、鋭くなった。

 体も、ぐんにょりと変形して、一体の異形の姿になる。

 

「こいつは……《知識の精霊ロードリエス》だ!」

「ロード……リエス……?」

 

 なにか引っかかる名前だった。

 なんだか、身体の奥がぞわぞわするような響きがある。

 

「やるよ小鈴! このクリーチャーを止めないと!」

「う、うん!」

 

 変な目的だし、なんだかおかしなロリコンさんだけど、やってることは誘拐、立派な犯罪だ。

 それに、子供たちがこわがっているのも、確かな事実。どんな理想を聞かされたって、あの子たちの震える姿を正当化するような理由だと思うことはできない。

 このロリコンさんを倒して、みんなを解放する。

 わたしはデッキを手に取って、いつものように、戦いに出る――

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 わたしとロリコンさんの対戦。

 と言っても、まだデュエマが始まったばかり。どっちの場にも、なにもない。

 

「《スカイソード》をチャージ。ターンエンドだ」

「わたしのターン。《めった切り・スクラッパー》をチャージして、終了だよ」 

「では私のターン……ふむ。いい引きだ」

 

 ロリコンさんはニヤリと口の端を釣り上げて笑う。嫌な予感がした。

 

「《ホルデガンス》をチャージ。2マナ発生、《セイント・キャッスル》を要塞化!」

 

 ロリコンさんのマナゾーンからマナが生み出されると、それは光となる。光はロリコンさんの手札のカードと結びついて一つの形を作り、それがシールドの上で形成される。

 シールドの上に出来上がったのは、大きな建物からなる西洋風の街並みだった。

 街というより、これは……

 

「お城……? なんなの、あのカード……シールドに張り付いてるけど……」

 

 シールドの上に、お城が建っている。しかもよく見ると、薄い壁みたいなものも張ってあって、とても奇妙だ。

 わたしが首を傾げていると、ロリコンさんが口を出す。

 

「城を知らないのか。城はシールド上に要塞化することで効力を発揮するカード。この城がある限り、私のクリーチャーは城の恩恵を受けることができる。ただし、要塞化シールドが破られれば、当然、城も落城するが」

 

 城って言うカードなんだ……なんにしても、早く壊した方がよさそう。

 

「私はターンエンド。君のターンだ」

「わたしのターン! 《メガ・ブレード・ドラゴン》をチャージして、2マナで《トップギア》を召喚だよ。ターン終了」

 

 

ターン2

 

ロリコン

場:なし

盾:5(《セイント・キャッスル》)

マナ:2

手札:3

墓地:0

山札:29

 

 

小鈴

場:《トップギア》

盾:5

マナ:2

手札:4

墓地:0

山札:28

 

 

 

「私のターンだ。《アクア・メルゲ》をチャージし、3マナ発生。《青銅の鎧》を召喚だ。能力で1マナ加速。ターンエンド」

「わたしのターンだよ」

 

 ロリコンさんは光、水、自然の三つの文明みたい。確か、トリーヴァカラー、だっけ。

 光の防御力に、水のドローと自然のマナ加速。こっちの攻撃を耐えて、そのうち大きなクリーチャーが出て来るはず。それよりも早く決めないと。

 

「よし、来たよ! 《ヘーゼル・バーン》をチャージ! 3マナで《トップギア》を《マッハギア》に進化! 《マッハギア》の能力で、コスト4以下の《青銅の鎧》を破壊するよ! そして《マッハギア》でシールドを攻撃!」

「ストップだ。ニンジャ・ストライク3発動、《土隠風の化身(カイト・トーテム)》を召喚」

 

 わたしが攻撃しようとすると、ロリコンさんは手札から一枚のカードを放った。

 それはクリーチャーだ。凧みたいな形をした、派手な装飾のクリーチャーだ。

 前に教えてもらった。確かこれは、ニンジャ・ストライク。相手が攻撃やブロックした時に、手札からタダでクリーチャーを出せる能力。

 ニンジャ・ストライクを持つクリーチャーは、ターンの終わりに山札に戻っちゃうけど、場に出た時になにかの能力が発動するって聞いたけど、なにをされるんだろう……

 

「《土隠風の化身》の能力発動! 場のクリーチャー一体のパワーを、このターンの間3000上昇させる! 対象は《土隠風の化身》だ」

「……? ターンの終わりに山札に戻るのに、自分をパワーアップ? なんで出したんだろう……とりあえず、《マッハギア》で攻撃だよ!」

「それを、待った、だ。《土隠風の化身》でブロック!」

 

 刹那。

 突貫する《マッハギア》の間に凧のクリーチャーが割り込んで、その攻撃が《土隠風の化身》に防がれる。

 

「え? なんで!? そのクリーチャーはブロッカーじゃないよね……?」

「《セイント・キャッスル》の効果だ。この城が要塞化されている限り、私のクリーチャーはすべてブロッカーになり、パワーが1000アップする」

「っ、そ、そんな……!」

「《土隠風の化身》のパワーは8000! さぁ、バトルだ!」

「うぅ、《マッハギア》はパワー6000……こっちの負けだね。ターン終了だよ」

 

 ロリコンさんが、パワーを上げる能力しかないクリーチャーを出したのは、《セイント・キャッスル》でブロッカーになってるからだったんだ。しかも、パワーを上げる能力も、《マッハギア》を倒すために、ちゃんと効力を発揮している。

 

 

 

ターン3

 

ロリコン

場:なし

盾:5(《セイント・キャッスル》)

マナ:4

手札:1

墓地:1

山札:28

 

 

小鈴

場:なし

盾:5

マナ:3

手札:3

墓地:2

山札:27

 

 

 

「私のターン。《セイント・キャッスル》をチャージし、行くぞ。ここからが私の本領発揮だ」

 

 そう言って、ロリコンさんは興奮気味に次のクリーチャーを繰り出す。

 

「5マナ発生! 《知識の精霊ロードリエス》を召喚!」

 

 次に出て来たのは、ロリコンさん自身だった。

 

『私の能力で、ブロッカーが出るたびに一枚ドローだ。私自身もブロッカーなので、一枚ドロー。ターンエンド』

「わたしのターン」

 

 ロリコンさん――もとい、《ロードリエス》のパワーは4000。だけど、《セイント・キャッスル》があるとパワーが1000上がって5000になる。手札に《マッカラン》はあるけど、これじゃあ相打ちにもできない。

 たった1000しかパワーを上げないと言っても、微妙な差で相打ちにもできなくなるんだから、パワーって大事だね。

 

「とりあえずここは《めった切り・スクラッパー》をチャージ。《エヴォル・メラッチ》召喚! 山札の上から四枚を見て、《ゴウ・グラップラー・ドラゴン》を手札に加えるよ。ターン終了」

 

 

 

ターン4

 

ロリコン

場:《ロードリエス》

盾:5(《セイント・キャッスル》)

マナ:5

手札:1

墓地:1

山札:26

 

 

小鈴

場:《エヴォル・メラッチ》

盾:5

マナ:4

手札:3

墓地:2

山札:25

 

 

 

『私のターンだな。《ホルモン》をチャージ。3マナ発生、《ダイキ》を召喚。能力でドローだ。さらに私の能力発動だ。《セイント・キャッスル》でブロッカーを得た《ダイキ》が場に出たので、もう一枚ドロー。続けて《青銅の鎧》を召喚。マナを増やし、私の能力でドローする』

「す、すごい……クリーチャーを出しても、手札が全然減らない……」

 

 場のクリーチャーを増やして、手札を増やして、マナも増やしている。

 どんどんどんどん、ロリコンさんのカードが増えていく。それだけで、わたしは圧倒された。

 

「わ、わたしのターン。《めった切り・スクラッパー》をチャージ! 5マナで《ゴウ・グラップラー・ドラゴン》を召喚!」

『ほぅ、進化クリーチャーか。少し面倒だな』

「《ゴウ・グラップラー・ドラゴン》で《ロードリエス》を攻撃だよ!」

『その攻撃は《青銅の鎧》でブロックだ』

「ターン終了!」

 

 《ゴウ・グラップラードラゴン》の攻撃はブロックされる。だけど、《ゴウ・グラップラードラゴン》のパワーは6000あるから、まだ破壊されないはず。

 ちまちました作業になるけど、タップされていないクリーチャーも攻撃できる《ゴウ・グラップラードラゴン》で、少しずつ場のクリーチャーを倒していくよ。

 

 

 

ターン5

 

ロリコン

場:《ロードリエス》《ダイキ》

盾:5(《セイント・キャッスル》)

マナ:7

手札:2

墓地:2

山札:21

 

 

小鈴

場:《ゴウ・グラップラー》

盾:5

マナ:5

手札:2

墓地:2

山札:24

 

 

 

『ふむ……《ロードリエス》をチャージ。7マナ発生、《緑神龍バグナボーン》を召喚だ。当然、私の能力で1ドロー。ターン終了』

「な、なんか強そうなのが出て来たよ……わたしのターン」

 

 パワーは9000、《セイント・キャッスル》で強化されて10000かぁ。攻撃されたら、《ゴウ・グラップラードラゴン》がやられちゃうな。

 でも、わたしの手札には《マッカラン》があるし、《ダイキ》は倒せる。《ロードリエス》か《バグナボーン》のどっちかは破壊できるはず。

 だからここは攻撃しよう。

 

「《マッハギア》をチャージ! 3マナで《コッコ・ゲット》と《マッカラン》を召喚! 《マッカラン》のマナ武装3で、《ダイキ》とバトルするよ!」

『こちらはパワー2000だ』

「《マッカラン》は4000! こっちの勝ちだね! そして、《ゴウ・グラップラー・ドラゴン》で《バグナボーン》を攻撃!」

『通さんよ。ニンジャ・ストライク4、《斬隠(きりがくれ)テンサイ・ジャニット》召喚!』

 

 《ゴウ・グラップラードラゴン》で《バグナボーン》を攻撃。そのまま破壊するか、《ロードリエス》にブロックされて、どっちかを破壊しようと思ったけど、わたしが破壊したのはどっちでもなかった。

 ロリコンさんの手札から出て来た、猫みたいなクリーチャー。また、ニンジャ・ストライクだ。

 

『《ジャニット》の能力で、登場時、コスト3以下のクリーチャーを手札に戻せる。《コッコ・ゲット》よ、戻れ!』

「でもそれじゃあ、《ゴウ・グラップラー・ドラゴン》の攻撃は止められないよ!」

『忘れたのか? 《ジャニット》は《セイント・キャッスル》の能力でブロッカーだ』

「あ……」

『まずは私の能力でドロー。そして、《ジャニット》でブロック!』

 

 わたしが破壊したのは、《ジャニット》だった。

 ロリコンさんはニンジャ・ストライクで、わたしの攻撃に合わせて手札のクリーチャーを出して、ブロックできる。しかも《セイント・キャッスル》で自分のクリーチャーをブロッカーにしてるから、《ロードリエス》の能力でカードも引ける。つまり、手札が減らない。

 攻撃を防いでもすぐに次の弾が装填されて、わたしの攻撃は届くのか不安になってきた。

 

 

 

ターン6

 

ロリコン

場:《ロードリエス》《バグナボーン》

盾:5(《セイント・キャッスル》)

マナ:8

手札:2

墓地:4

山札:18

 

 

小鈴

場:《ゴウ・グラップラー》《マッカラン》

盾:5

マナ:6

手札:1

墓地:2

山札:23

 

 

 

『私のターン。7マナ発生。《不滅の精霊パーフェクト・ギャラクシー》を召喚!』

 

 ロリコンさんは、また大きなクリーチャーを召喚する。

 今度は、光のクリーチャー……?

 そのクリーチャーが登場するや否や、ロリコンさんのシールド――《セイント・キャッスル》のあるシールドの横のシールドだ――が光った。

 

『シールド・フォース発動。《セイント・キャッスル》の左のシールドを選択しよう』

「シールド・フォース……?」

『知らないのか。シールド・フォースは、クリーチャーの登場時にシールドを指定する。指定したシールドが存在する限り、そのクリーチャーを強化する能力だ。《パーフェクト・ギャラクシー》の場合は、ブロッカーを得、また破壊される代わりに場にとどまる、という能力が付与される』

「破壊される代わりにとどまるって、それじゃあ、破壊できないってこと!?」

『そういうことだ。さぁ、次の攻撃だ。《バグナボーン》で《ゴウ・グラップラー・ドラゴン》を攻撃! その時、《バグナボーン》の能力で、パワー3000以下のクリーチャーをマナゾーンから呼び出す。出でよ、《無頼聖者スカイソード》!』

 

 わたしはロリコンさんのクリーチャーをブロッカーにする《セイント・キャッスル》だけでなく、破壊できなくなった《パーフェクト・ギャラクシー》のシールド・フォースで選んだシールドも割らなければいけなくなる。

 どうしよう。シールド割りたいけど、全部ブロッカーだし、手札からもブロッカーになった忍者が出て来るし、攻撃が通らない……しかも、ロリコンさんのクリーチャーはどんどん増えていく。

 

『《スカイソード》の登場時能力。マナとシールドと一枚ずつ追加し、私の能力で手札も増やすぞ』

 

 す、すごい……クリーチャーを並べながら、手札にマナに、シールドまで増えてる……!

 これ以上、ロリコンさんの防御が固くなったら、いよいよ攻められないよ……

 

『《バグナボーン》と《ゴウ・グラップラー・ドラゴン》でバトルだ! こちらはパワー10000!』

「こっちは6000……破壊されちゃうね」

『ターンエンドだ』

「わたしのターン……《コッコ・ゲット》を召喚して、ターン終了……」

 

 ここでわたしの手札もなくなってきた。もう攻めるためのカードもない。

 攻めたくても攻められないし、攻めても攻撃は防がれる。パワーでも勝てないし、クリーチャーはどんどん増やされる。

 どうやって勝てばいいの……?

 

 

 

ターン7

 

ロリコン

場:《ロードリエス》《バグナボーン》《パーフェクト・ギャラクシー》《スカイソード》

盾:6(《セイント・キャッスル》、SF)

マナ:9

手札:3

墓地:4

山札:13

 

 

小鈴

場:《マッカラン》《コッコ・ゲット》

盾:5

マナ:7

手札:0

墓地:4

山札:22

 

 

 

『私のターン。《ダイキ》を召喚。カードをドロー、私の能力でもドローだ……ほう』

 

 また、ロリコンさんがほほ笑んだ。

 ここにきてまだ、強いカードが出て来るの……?

 

『私は君たちの世界で言うところの幼児性愛者と呼ばれるもののようだが、それでも、私にも元々、奉ずるべき神聖なる主がいたのだ』

「あ、主……?」

『あぁ。その聖なる御姿を今、お見せしよう。6マナ発生。私を進化!』

 

 ロリコンさんは、ロリコンさん自身――《ロードリエス》を進化させた。

 そうして現れたのは――光り輝く、神々しい精霊の王様だった。

 

 

 

「出でよ。歴史に名を刻む、偉大なる天空の王よ――《聖霊王アルカディアス》!」

 

 

 

 青を基調とした、黄色のラインが入った機械的な体躯。だけど、後光が差すその姿は神々しくて、とても眩しい。正に、光の王様だ。

 ロリコンさん――《ロードリエス》は、手札に忍者を引き入れたり、クリーチャーを出すための手札を確保する役割があるはず。それを進化させたってことは、ロリコンさんは攻めに来る。

 

「チェックメイトだ。《アルカディアス》が場にいる限り、誰も光以外の呪文は唱えられない! 《バグナボーン》で攻撃する時、《ダイキ》をバトルゾーンへ! 一枚ドローし、Wブレイク!」

「う……!」

 

 やっぱり、攻撃してきた。

 わたしのシールドが初めて割られる。だけど、早速出たよ。

 

「S・トリガー、《めった切り・スクラッパー》――」

「おっと、二度は言わせないでくれたまえ。光以外の呪文は唱えられないぞ」

「そうだった……うぅ」

 

 いきなり出たのに、このS・トリガーは光の呪文じゃないから使えない。

 というか、わたしのデッキに光のカードは一枚も入ってないから、どんな呪文も封じられてしまう。

 

「続け! 《アルカディアス》で攻撃! Wブレイク!」

 

 さらに二枚。シールドが割られる。

 呪文は唱えられない。ほとんどの防御手段が、封じられた。

 だけど、

 

「! S・トリガーだよ!」

「またか。呪文は唱えられないと言ったはずだが……」

「呪文じゃないよ! クリーチャーだから召喚する!」

「クリーチャーだと? だが、火文明でこの状況を覆すトリガーなど――」

「S・トリガー!」

 

 ロリコンさんの言葉を遮って、わたしはそのクリーチャーを召喚する。

 

「出て来て! 《メガ・ブレード・ドラゴン》!」

 

 このピンチを切り抜けるカードは、このクリーチャー、《メガ・ブレード・ドラゴン》。

 詠さんが、どうしようもない時に助けてくれるって言って、わたしが考えてる戦略とも相性が悪くないから入れてみたけど、ここで来てくれるなんて。

 

「《メガ・ブレード・ドラゴン》がバトルゾーンに出たとき、相手のブロッカーを全部破壊するよ!」

「ブロッカーだと? ……っ!?」

「忘れたなんて言わせないよ。あなたのクリーチャーは全部、《セイント・キャッスル》でブロッカーになってる! だから、すべてのクリーチャーを破壊だよ!」

 

 次の瞬間、ロリコンさんの場のクリーチャーがすべて爆散する。

 一体残らず――いや、一体の例外を残して、クリーチャーは全部破壊した。

 

「ぐっ……だが、シールド・フォースは発動中だ! 《パーフェクト・ギャラクシー》は生き残るぞ!」

 

 《パーフェクト・ギャラクシー》だけはバトルゾーンに残る。シールド・フォースで選んだシールドは、まだあるからね。

 でも、窮地を脱することはできた。 詠さんの言った通り、本当にどうしようもないピンチを救ってくれた。《メガ・ブレード・ドラゴン》を勧めてくれた詠さんと、《メガ・ブレード・ドラゴン》には感謝しないとね。

 

「ここはシールドを割り切って、次でとどめを刺す。《パーフェクト・ギャラクシー》で残りのシールドをブレイク! ターン終了だ!」

「わたしのターン!」

 

 これでわたしにシールドはゼロ。場に《パーフェクト・ギャラクシー》を倒せるクリーチャーもいない。

 

「……よし」

 

 だけど、勝利の勝ち筋は、見えた。

 

「まずは4マナで《爆槍 ヘーゼル・バーン》を召喚! 次に、《コッコ・ゲット》のマナ武装3で、わたしのコマンド・ドラゴンの召喚コストは2少なくなってるから、4マナ! 《マッカラン》を進化!」

 

 さぁ、決めるよ。出て来て、わたしの切り札――

 

 

 

「――《エヴォル・ドギラゴン》!」

 

 

 

 わたしのクリーチャーが炎に包まれ、その中で姿を変え、進化する。

 その姿に、わたしはホッと息をつく。そして、希望の力が湧いてくる。

 

「やっと出せた……!」

 

 わたしの切り札、《エヴォル・ドギラゴン》。

 《ドギラゴン》はバトルに勝ったらアンタップするクリーチャーだから、パワーで《ドギラゴン》に勝たないと、ブロックしても無意味。だけど、《ドギラゴン》のパワーは14000もある。《土隠風の化身》でも超えられない。

 だから、安心して攻撃できる。

 

「行くよ! 《ドギラゴン》で《パーフェクト・ギャラクシー》を攻撃!」

「なに? シールドではないのか?」

「うん。こっちでいいよ。《ドギラゴン》と《パーフェクト・ギャラクシー》でバトル! パワー14000の《ドギラゴン》の勝ちだよ! バトルに勝ったから、《ドギラゴン》をアンタップ!」

「だが、シールド・フォースで《パーフェクト・ギャラクシー》は場を離れない……無意味ではないか」

「いいや! 無意味なんかじゃないよ! わたしの火のクリーチャーがバトルに勝ったから、《ヘーゼル・バーン》の能力発動! 相手のシールドを一枚ブレイクするよ!」

 

 さぁ、ここからがコンボの始まりだよ。成立したのは、偶然だけど。

 わたしは、お城のついたシールドを指さした。

 

「そのシールドをブレイク!」

「《セイント・キャッスル》を剥がしてきたか……」

「次だよ! 《ドギラゴン》で《パーフェクト・ギャラクシー》を攻撃!」

「また《パーフェクト・ギャラクシー》に……シールド・フォースで場に留まる!」

「でも、バトルには勝ったから《ドギラゴン》はアンタップして、《ヘーゼル・バーン》の能力でシールドをブレイク! 次はそのシールド!」

 

 わたしは一番端っこの、なんでもないシールドを指さす。すると、《ヘーゼル・バーン》の槍が、そのシールドを貫いてブレイクした。

 

「城は剥がしても、シールド・フォースは剥がさないだと……? いや、これは……」

 

 ロリコンさんは気づいたみたい。でも、もう遅いよ。

 次も、《ドギラゴン》で《パーフェクト・ギャラクシー》を攻撃する。

 

「バトルに勝ったから《ドギラゴン》をアンタップ、《ヘーゼル・バーン》の能力でシールドをブレイク! そのシールド!」

「またシールド・フォースを残した……やはり、《パーフェクト・ギャラクシー》が場を離れないことを利用して、無限に殴り続けるつもりか……!」

 

 ロリコンさんが悔しそうに呻く。

 その呻き声を聞きながら、わたしは《ドギラゴン》で攻撃し続けた。

 

「《ドギラゴン》で攻撃! アンタップしてシールドをブレイク! もう一度攻撃! アンタップしてブレイク!」

「ぐっ、ぬぅ……! ニンジャ・ストライク! 《テンサイ・ジャニット》で《コッコ・ゲット》を手札へ戻す!」

 

 五回の攻撃が続いて、遂に五回目でシールド・フォースのついたシールドをブレイクする。これで、無敵状態は解除された。

 

「これで最後! 《パーフェクト・ギャラクシー》を攻撃! バトルに勝ったからアンタップして、《ヘーゼル・バーン》の能力でシールドをブレイク!」

 

 そして、最後の六回目の攻撃で《パーフェクト・ギャラクシー》を破壊して、残ったシールド一枚もブレイク。

 ロリコンさんは防御を忍者に任せていたのかな。S・トリガーは一枚も出ず、わたしの攻撃が止まることはなかった。

 あとはこのまま、とどめだ。

 

 

 

「《ドギラゴン》で、ダイレクトアタックだよ!」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「やった、勝った……!」

 

 これで、ロリコンさんもカードに戻るはず。誘拐事件も、もう起こらない。

 わたしは床に倒れたロリコンさんに近づく。その身体は淡い光が漏れ出ていて、綻び始めていた。

 あとは、鳥さんが力を吸収するだけ。

 そう、思っていた。

 

「小鈴!」

 

 鳥さんの声が聞こえる。切羽詰った、鬼気迫る声。

 その声が聞こえた、直後。

 

「あ……ぅ……」

 

 私の身体は動かなくなり――倒れ伏した。

 

「な……んで……?」

 

 もっとちゃんと考えるべきだったんだ。鳥さんは、クリーチャーがわたしを昏倒させたと言っていた。だけど、ロードリエスにそんな能力はない。

 もっとちゃんと聞くべきだったんだ。ユーちゃんは、男の人が誘拐した女の子を運んでくるって言っていた。だけど、ロードリエスは女の人に化けていた。

 これらのことから導き出される結論はいくつかあるけど、わたしの現状も踏まえると、一つ。

 

「ロードリエス……助ける、ゾ」

「……すまない、助かった。感謝する」

 

 わたしの背後に、クリーチャーが浮かんでいた。

 そう、それは、

 

 

 

「協力者が、いたんだ――」




作中で登場した白青緑ロードリエスコントロール、略してロリコン。名前のネタさも含めて好きなデッキです。作中で登場したのは古い型ですが、今だとメメントとかを入れたりするといいかもしれませんね。
如何せん、ピクシブで投降した時から時間が経っているので、採用カードが時代錯誤感ありますね(そうでなくても古いデッキですが)。
また、まえがきでも書きましたが、感想受付設定を変更して、非ログインの方でも感想を書き込めるようにしましたので、よろしければご活用ください。
次回は第7話の後編となります。どうぞお楽しみに。
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