デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 今章のエピローグ、そして次章のプロローグ、というやつです。


「神話創世:滅亡と建国/王国にして教団」

 三月ウサギは、王の座する玉座へと赴いた。

 出すもの出して、心はスッキリした。身体も、人の姿に戻った――怪物であるはずの自分達が“人の姿に戻った”など、おかしな話だ――故に、心身共にすこぶる好調だ。

 とはいえ、女王による脅威が去ったわけではない。最大の絶望は、なにも解決していない。

 我らが母君をどうにかできるなどとはとても思えないが、それでも自分が信じる狂王に、すべてを委ねようと思う。

 生きるにせよ、滅びるにせよ。

 抗うにせよ、受け入れるにせよ。

 彼がいてくれれば、それでいい。

 彼がいるその場所が、彼が苦心してきた意志の所在こそが、自分達の国なのだから。

 ただそこにいてほしい。

 どんな運命であろうと、道標とあって欲しい。

 狂い果て、枯れ堕ちた老木の仔山羊であろうとも。

 それが、今まで我々を導いてきた王の責務であり、偉大なる威光なのだから。

 諦念でも、居直りでもなく、晴れやかな絶望でもって、三月ウサギは扉を開く。

 閨を共にする、王との謁見だ。

 

「どうもごきげんよう帽子屋さん。クソガキどもが荒らして回って大変だったわね? 僕もスッキリはしたけど疲れちゃったわ」

 

 と、立ち入った玉座の間は。

 三月ウサギが想像するよりも、遥かに荒れていた。

 

「……随分とやんちゃしたのね、帽子屋さん。僕との夜も、このくらい激しければいいのに」

 

 妬いちゃうわ、と頬を膨らませながら、三月ウサギはぐるりと見回す。

 壁や床に撃ち込まれた、無数の弾痕。亀裂、罅、斬り傷。

 地面は砕け、黒々とした粘液と、乾いた血の痕がこびり付いている。

 薬莢が散らばり、それらを埋もれさせるように濁った肉塊がぼとり、ぼとりと落ちていた。

 

「で、どこかしら? 帽子屋さん? 1億歳のおじいちゃんが、かくれんぼなんて歳じゃないでしょう?」

 

 返事はない。

 三月ウサギの声は虚しく木霊するだけ。

 やがて彼女は、“それ”を見つける。

 

「これ……帽子屋さんの……」

 

 赤く鍔の広い帽子。

 彼の、愛用の品だった。

 

「……あはっ」

 

 三月ウサギは、嗤う。

 渇いた、狂った、笑みを、零す。

 

「帽子屋さん……そう、そう! いなくなっちゃったのね! 遂に、遂に、遂に! 耐えられなくなっちゃったのね!」

 

 天を仰ぐ。(ソラ)を見上げる。

 そして、虚に、狂乱の声を響かせる。

 

「あははははははっ! どうしよう、どうしましょう! 帽子屋さん! 僕たちどうしたらいいのかしらね! ねぇ、ねぇ! どうしたらいいと思う!? 僕たちの帽子屋さん(王さま)!」

 

 落し子の姿に還りそうになる。

 全身の口が裂き開かれそうになる。

 怒りではなく、情動でもなく。

 純粋な、純然たる悲哀によって。

 すべての民を代表して。

 三月ウサギは――慟哭する。

 

 

 

「あなたがいなくなったら、不思議の国(僕たち)は、どうしたらいいのよ……っ!?」

 

 

 

 不思議の国から、王が消えた。

 それは不思議の国が、真なる亡国になったことを意味する。

 故に【不思議の国の住人】はもやは民ではなく、ただの有象無象の落し子に――成り下がった。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 くらくて、あたたかくて、きもちわるくて、あんしんする。

 ここはどこ? アタシはだれ?

 くるしい。つらい。いたい。

 なのに、すごく、いいきぶんだ。

 おかしい、おかしい、おかしい。

 こんなのは、くるってる。

 

 ともだちを、きずつけたのに。

 

 なかまを、すてたのに。

 

 いばしょが、なくなったのに。

 

 なんで、アタシはいきてるの?

 いきているしかくなんて、ないのに。

 いきるりゆうなんて、ないのに。

 いなくなって、しまいたいのに。

 どうして。どうして?

 おかあさんは、こたえてくれない。

 ぐじゅぐじゅと、うごめくだけ。

 ずっと、ずっと、ねむっている。

 

 アァ、はやく、らくになりたい。

 もう、こんなにつらいおもいは、いやだ。

 だれもきずつけたくなかったのに。

 きずつきたくも、なかったのに。

 やすからに、ありたかっただけなのに。

 すべて、すべて、うしなってしまった。

 たいせつなものを、すべて。

 なにもかもを、こわしてしまった。

 アタシの、じぶんの、てで。

 

 もう――いやだ。

 

「安心しなさい」

 

 ……だれ?

 こえが、きこえる。

 

「あなたの気持ち、自分本位な本性、自己防衛本能。どんなエゴだって、我儘だって、わたしたちは受け入れる」

 

 うけ、いれる?

 アタシの、みにくい、きたない、このきもちを?

 ばけものの、すがたでも?

 ひとでなしでも?

 

「勿論。あなたが、そう願ったのだから」

 

 アタシが……ねがった?

 

「わたしは、あなたの祈り。苦しみから解き放たれたいあなたの、願望そのもの。母と共に在るあなたを導く者。大いなる、あなたの意志」

 

 ……こわい。

 おかあさんの、けはいがする。

 だけど。

 これは、たしかに、アタシだ。

 からっぽなアタシのかわりに、アタシのこころになった、アタシではないアタシ。

 アタシのなかでうまれた、あたらしい、アタシ……?

 

「六甲の凶星を刻みましょう。あなたの願い、母の願い。重ね合わせて、命を吹き込みましょう」

 

 てが、ふれる。

 アタシのなかに、なにかが、めぶく。

 

「あなたの信じた世界が終焉を迎えるか、希望の芽が育つか。わたしは見定めましょう」

 

 むくむくと、すくすくと、ぶくぶくと、ぐじゅぐじゅと。

 まざりあったいろんなきもちが、わかれて、はなれて、とけだしていく。

 

「選定の種を蒔きましょう。これは終焉に至るまでの、創世の神話」

 

 アァ、あぁ、アぁ。

 うまれる、うみおとされる。

 おかあさんみたいに、アタシたちみたいに。

 あたらしい、いのちが。

 あたらしい――アタシが。

 

「白い種は、正義と防護。あなたに牙剥く愚か者を、裁きましょう」

 

 それは、しろの、しゅごしゃ。アタシのじひは、かれのもとへ。

 

「青い種は、観察と進歩。あなたが知らない世界を、切り開きましょう」

 

 それは、あおの、けんじゃ。アタシのむちは、かのじょのもとへ。

 

「黒い種は、反逆と自我。あなたの願いを思うままに、振る舞いましょう」

 

 それは、くろの、はんぎゃくしゃ。アタシのはんこつは、かれのもとへ。

 

「赤い種は、自由と情熱。あなたがやり残したことを、託しましょう」

 

 それは、あかの、ほうろうしゃ。アタシのいしは、かれのもとへ。

 

「緑の種は、受容と傍観。あなたが諦めた運命を、見届けましょう」

 

 それは、みどりの、ぼうかんしゃ。アタシのあきらめは、かのじょのもとへ。

 

 すべてのたねが、まかれた。

 めぶくのは、すぐだ。

 そして、さいごにのこされたのは、たったひとつの、ささやかなひかり。

 

「わたしは災厄の箱。この物語は、とても熾烈で、恐ろしい絶望が(ひし)めいているけれど」

 

 さいごには、きぼうがねむっている。

 それがアタシへのきぼうなのか。

 おかあさんへのきぼうなのか。

 

 それは、ひらいてみるまで、わからない。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 ――種が、芽吹いた。

 

「お待たせ致しました、姫。我ら六甲の凶星(まがつぼし)。必ずや、貴女様の守護を約束します」

 

「任せてください。いっぱい、いっぱい、あなたが目を背けたこの世界を視てくるのです」

 

「まあ、やることはやってやるさ。誰のためでもねぇ、他ならぬ自分のためにな」

 

「あれ? 浮かない顔だね? どうして君は笑わないんだい? 哀しいのかい?」

 

「……あなたに語るべきことはないわ。定められた運命に、言葉は不要だもの」

 

 それは、女王の後悔だったのかもしれない。

 喰らい損ねた十二の神話の“代用品”。

 邪神の依代と、怨恨の代用。

 それはなんとも皮肉で、自分に相応しいのだろうか。

 新世界の可能性を喰い潰し、この星に死を。

 我らは、不思議の国が滅びた後に生まれた、女王の仔――姫君の歪んだ祈りの集い。

 滅びに瞬く銀河。

 それこそが、我らの新たな王国。

 

 

 

 【死星団(シェッベ=ミグ)

 

 

 

 世界を終わらせる教団が、産み落とされた。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

あいたいです――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ――小鈴さん




 語ることがない。
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