デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 勢いだけで書いた番外編です。不思議の国がわちゃわちゃしてます。それだけです。


番外編「ストライキよ」

 ここは不思議の国。誰がそう呼び始めたか定かではないが、密やかにそう呼ばれている場所。

 その奥地の館にて、帽子を目深に被り、安楽椅子に座した男と、その傍らに立つ美女がいた。

 帽子の男は、『帽子屋』と呼ばれる、不思議の国の王と定められた男。

 美女は『公爵夫人』。狂気の三柱の一柱とされる、女王に最も近い住人の1人。

 2人は、なにか話している様子だった。

 

「――とまあ、コーカス・レースの配置はそんな感じでいこうと思うのだが、どうだ?」

「儂が哨戒というのが気に食わんな。この儂を露払いに使うとは豪胆なことだ」

「そうだろうそうだろう。銃に弾を込めて決めた配役だが、貴様に関しては適役だと自負している」

「貴様の頭が狂っていることは周知の事実だが、それはそれとして腹が立つな。壊さぬよう加減に難儀しなければ、その頭蓋、打ち砕いていたぞ」

「それは無理だな。オレ様の自慢の帽子が必ずや守ってくれるだろうからな」

「戯言を……あぁ、そうだ。この位置はヤングオイスターズの何某か、こちらは三月ウサギがバタつきパンチョウを配置しろ。それとバンダースナッチは出禁にしておけ」

「成程、承った。では三月ウサギにするか、発情期だからな」

「今は12月だ」

 

 などと、なにかの相談をしている。

 その時だ。

 部屋の扉が、勢いよく開け放たれる。

 

「帽子屋さーん! たーのもー! なのよー!」

「ごきげんよう。お邪魔するわね、帽子屋さん?」

「バタつきパンチョウに、三月ウサギ……何用だ、貴様ら」

「虫けらが集う花と、媚薬の如き毒花か。両手に加えて咥えた花だな。公爵夫人は刺々しくて口が痛い」

「帽子屋、その減らず口を閉じろ。自慢の帽子ごと頭蓋を割るぞ」

「ノンノン、帽子屋さん」

「私たちだけじゃないのよ!」

 

 彼女たちの後ろに続いて、さらに影が4つ、飛び出した。

 

「帽子屋ぁ! カチコミだぁ! 覚悟決めろやぁ!」

「やー」

「ど、どうも……こ、こんにちは、帽子屋さん……?」

「おうダンナ、バタバタしてて悪いな」

「バタつきパンチョウに三月ウサギ、眠りネズミ、バンダースナッチ、代用ウミガメと、ヤングオイスターズ……なんだ貴様らこぞってオレ様の茶会に押し寄せおってからに」

 

 面子そのものに希少性があるというわけではないが、彼らが一堂に会するというは、なかなかに物珍しい光景だった。

 特に、嫌われ者の三月ウサギと、危険人物バンダースナッチが同行しているというのは、かなりレアだ。

 そんな彼ら彼女らが、なぜこうして集い、帽子屋の前に現れたのか。

 その理由とは……

 

「ストライクなのよ!」

打突(ストライク)とな。オレ様と組み手するのか? ガン=カタでいいなら付き合おう。徒手空拳だとオレ様の肉体が先に灰と化す。老人だからな」

「ガン=カタ!? それこの前テレビで見たのよ! え? 帽子屋さん格好いいのよ!」

「そうよ、こう見てて帽子屋さんは格好良いところもあるのよ? 今更そんなことに気付いたの?」

「くっそぅ、帽子屋の野郎、ガンとかクール過ぎる……バッドだな!」

「あんたらいいから話進めろや」

 

 ……その理由とは!

 

「ストライクじゃなくてストライキな」

 

 ボリボリと後ろ頭を掻きながら、ヤングオイスターズ(長女)は告げる。

 ストライキ。つまり彼らは、労働環境改善の嘆願をするために、結託したということなのだろうか。

 明らかな未成年が半数ほどいるが、そこは目を瞑る。要するに、帽子屋の為政に不満があるということなのだろう。

 

「はぁ、面倒だな。仕方ないから一人ずつ聞いてやる」

「なら私から言うのよ!」

 

 最初に前に進み出たのは、バタつきパンチョウだった。

 彼女は恐る恐る、帽子屋に尋ねる。

 

「あのね帽子屋さん……私、最近知ったのだけれど」

「なんだ」

「私たち姉弟のお給料の9割をピンハネしてるって本当(マジ)!?」

本当(マジ)だが?」

 

 あっさりと言ってのける帽子屋に、ガーン! とそれらしい擬音でも聞こえてきそうなショックを受けるバタつきパンチョウ。

 

「ひ、酷い! 酷すぎるのよ! 私達が学校のみんなと遊びながらあくせく働いて得たお金を横取りするなんて!」

「遊んでんじゃねーよ姉御」

「なんでこんな酷いことするのよ! 帽子屋さん!」

「貴様らの家賃だ」

「今までそんなの請求してなかったのに!? 今更そんなの払えなんて話が違うのよ!」

「今と昔では状況が違うということだ」

「帽子屋なぞに同調するのは癪だが、そういうことだ」

 

 バタつきパンチョウと帽子屋の問答に、公爵夫人が口を添えた。

 

「今でこそ同族の人数は落ち着いてきたが、今後、新たな仲間を引き入れないとも限らない。その時、戸籍の偽造や非合法な入学手続きのために掛かる費用、その後の学費や備品費、生活費等の諸経費、なにより、今ここで生きる我々の生活のため、貯蓄が必要だ。貴様ら虫けらどもの散財は、儂の許容範囲を超えた。それだけのことだ」

「だからって私達のお金をそんなにふんだくるなんてひっどーい! これは流石の私も激おこなのよ! ぷんぷん!」

「わかったわかった。で、三月ウサギ、貴様はなんだ?」

 

 本気なのか冗談なのか(恐らく本気だが)、子供っぽく憤慨するバタつきパンチョウを放置し、帽子屋は次の相手、三月ウサギに問うた。

 最も帽子屋に心酔している彼女が、帽子屋に不満を抱くなど、そうあることではない。

 一体、彼女はどんな不満を抱いているのか。

 それは、

 

「帽子屋さん。最近、夜に付き合ってくれないから……僕、寂しいの……」

 

 身体の不満だった。

 

「なぁ三月ウサギよ、ここにゃガキもいるから、もう少し控えねーか?」

「知ったこっちゃないわね。そんなことより、帽子屋さんが相手してくれないから……僕、拗ねちゃうわよ?」

「そうか。次」

「素っ気ないわね!? ちょっと興奮しちゃうじゃない!」

「……此奴も面倒な女だな、帽子屋」

「いい加減慣れたよ。こいつとオレ様、一体何年の付き合いだと思っている?」

「知らぬ。どれくらいの付き合いなのだ?」

「忘れたな」

「帽子屋さん!」

「ははは、案ずるな。真実(マジ)だ」

「帽子屋さん!?」

 

 新たな抗議が生まれそうなところで、三月ウサギから視線を外す帽子屋。

 次は、ヤングオイスターズの長女――アヤハを見遣る。

 

「次はワタシか」

「ヤングオイスターズ。貴様には、それほど負担を強いていないと思うのだが」

「どの口が言ってるんだよ……金稼ぐだけが負担だと思ったか」

 

 はぁ、とアヤハは嘆息する。

 そして、語り始めた。

 いや、怒鳴った。

 

「現【不思議の国の住人】数十余名、そいつら全員の飯の準備……掃除洗濯炊事をすべてワタシに押し付けやがって! いい加減にしろ!」

「まさかそこを叱責されるとは……」

「なんで意外そうなんだよ!? 普通に考えておかしいだろこの振り分け! ワタシはハウスキーパーじゃねーんだぞ!」

「しかし貴様らは数が多い。ならばそれほど問題ないのでは?」

「各々の兄弟姉妹が持ってる技能は違うんだよ!」

「そうか。まあ、知らん」

「おい!」

「部屋の掃除など勝手にさせておけ。飯など岩でなければ喰える。泥の付いたボロ布でもそれはそれで味があるというものだ」

「馬鹿じゃねぇの!? 頭イカレてやがるなあんた!」

「そうだが?」

 

 それがなにか? と言わんばかりの態度。

 帽子屋の興味は消え失せ、視線が眠りネズミに移る。

 

「眠りネズミ、貴様はなんだ? まあくだらんことだと思うが」

「まあ、くだらねーかもな」

「ならば聞く必要はないな」

「おう、だから勝手に言うぜ」

 

 と、どこかあっさりと眠りネズミは話し始めた。

 

「今日な、先公から言われたんだよ」

「ほぅ」

「給食費が払われてねーんだとよ」

「意外と深刻な話だった!」

「僕からはそんだけだ。まあメシの時間なんてしょっちゅう寝てっからどうでもいいんだけどよー、でも一緒に喰わねーとカザミたちがうっせーんだ」

 

 眠りネズミ本人はさして気にしていない様子だが、公爵夫人の中で、後で振り込みのために銀行に赴く予定が追加された。

 諸経費の支払いが滞ると、隠遁する自分達の身が露呈しかねない。それは公爵夫人としても望むところではない。

 そもそも、そのような事態が起こらぬよう、事前に書類や振り込みの処理はしっかりやれと苦言を呈したいところだが、相手は頭が壊れた狂人なので、説法は無駄だと黙殺する。

 

「あの……あ、アタシも……そ、その……」

「あぁ、代用ウミガメ。いたのか」

「い、いますよ!?」

「で、なんだ? 早く言え」

「えぇ、あ、あぁ、は、はい……えっと……」

 

 代用ウミガメは、おずおずと帽子屋に進言する。

 

「さ、最近、成績がちょっと、お、落ちちゃって……勉強、のために……さ、参考書、とか、欲しい、んですけど……お金、足りなくて……」

「デッキでも売れ」

「ひでぇ!」

 

 あまりにも無情な回答だった。

 

「で、バンダースナッチはどうした? 貴様がオレ様に物申すなど、珍妙なこともあるものだ」

「ぼーしやー」

「なんだ?」

「……なんか……うざくない……?」

「喧嘩の訪問販売か?」

「?」

「うむ、わからん」

 

 赤子のような精神性の化物と、狂い果てた末のトップ・オブ・狂人が会話しているのだ。まともな意思疎通など、宇宙が百度変性してもあり得ない。まだ鳥と蛇が猫語で会話する方が通じるだろう。

 お互いに真顔で首を傾げ合っており、微塵も会話が進まなかった。

 

「とまあ、そういうわけなのよ! 私たち、不満が爆発しちゃってるのよ!」

「おい公爵夫人、このクレーマー共をなんとかしろ」

「クレーマー!?」

「儂は貴様の秘書ではない。自分でなんとかせよ」

 

 自分にとって必要な処理はするが、帽子屋に向けられた不平不満にまで手を出すつもりは、公爵夫人にはなかった。

 帽子屋はやれやれと、気怠げに息を吐く。

 

「まったく、優雅な茶の時間を邪魔するとは、無粋な連中め」

「儂は作戦会議だと呼ばれたのだが」

「致し方あるまい。面倒だからまとめて掛かってこい。容赦はしないぞ」

「それはこっちの台詞なのよ! ウサちゃん、みんな! 行っくのよー!」

「なんであんたがリーダー気取ってるのよ」

「頭なんて誰でもいいけどな。どうせワタシら烏合の衆だし」

「よっしゃ! よくわかんねーけど燃えてきた! TEENがBURNでDOONだ!」

「あうぅ、あ、アタシは、も、もっと穏便に、い、いきたかった、のに……」

「わー」

 

 とまあ。

 今日も今日とて、不思議の国は平和です。

 ストライキが起きようと、平和なんです。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 帽子屋と、帽子屋に反旗を翻した、不思議の国の精鋭(?)による連合軍との、労働環境改善とその他諸々の嘆願を賭けた対戦。

 帽子屋はそんな同胞達を相手に、億劫そうにカードを操る。

 

「はぁ……《メイプル超もみ人》を召喚。さらに《ジョラゴン・オーバーロード》を詠唱、マナ加速し、これでオレ様のジョーカーズが合計7枚。GR召喚だ、《ゴッド・ガヨンダム》。マナドライブにより、手札を捨て2枚ドロー。ターンエンド」

「帽子屋さん、なんかやる気ないのよ!」

「もうちょいやる気出せや帽子屋ァ!」

「アンニュイな帽子屋さんもいいわよね……」

「うるせーよあんたら! ワタシのターン、3マナタップ! 双極・詠唱! 《エナジー・ライト》! 2枚ドローする! ターンエンド!」

 

 

 

ターン3

 

 

帽子屋

場:《もみ人》《ガヨンダム》

盾:5

マナ:6

手札:2

墓地:3

山札:23

 

 

連合国軍

場:なし

盾:5

マナ:3

手札:6

墓地:3

山札:23

 

 

 

「3マナで《オラオラ・ジョーカーズ》。1マナ加速し、それがジョーカーズなので1枚ドロー。さらに5マナで《たすけてレスきゅん》、《パッパラパーリ騎士》をGR召喚し、オレ様のGRクリーチャーの数だけマナ加速だ」

「おいおい。なんかダンナ、やたらめったらマナ伸ばしてるが、大丈夫か?」

「関係ねぇ! 省みねぇ! 容赦しねぇ! 突っ込む以外の選択肢は却下だぜ! 《ラッシュ“ATK(アタック)”ワイルド》召喚だ!」

 

 ひたすらマナを伸ばす帽子屋に対して、眠りネズミが出張る。

 一体だけぽつりと浮いた《ラッシュ“ATK”ワイルド》。

 堪えきれず飛び出した火鼠は、戦場で戦火を燻らせている。

 

 

 

ターン4

 

 

帽子屋

場:《もみ人》《ガヨンダム》《パッパラ》

盾:5

マナ:11

手札:1

墓地:4

山札:18

 

 

連合国軍

場:《ラッシュ“ATK”ワイルド》

盾:5

マナ:4

手札:5

墓地:3

山札:22

 

 

 

「さて……どうしたものか」

 

 ふわぁ、と欠伸をしながら、帽子屋はカードを切る。

 

「4マナで《水筒の術》、GR召喚2回だ。《マジカルイッサ》と《オレちんレンジ》をGR召喚。さらにマナゾーンから《バングリッドX7》を召喚……ターンエンドだな」

「帽子屋さん、なんだかゆったりしてるのよー」

「してるねー」

 

 いつものようにクリーチャーを展開しつつリソースを拡大させているが、どうも攻める気配が感じられない。

 気分屋で狂人故に、気を抜いたらいつ殺されるかわかったものではないが、動きに滞りがあるのは確かだ。

 

「《エマジェンシー・タイフーン》……それから、《ナスロスチャ》」

 

 その隙に、バンダースナッチは抜け目なく墓地にカードを落としていく。

 

「……ん、おしまい」

 

 

 

ターン5

 

 

帽子屋

場:《もみ人》《ガヨンダム》《パッパラ》《マジカルイッサ》《レンジ》《バングリッド》

盾:5

マナ:10

手札:1

墓地:5

山札:17

 

 

連合国軍

場:《ラッシュ“ATK”ワイルド》《ナスロスチャ》

盾:5

マナ:5

手札:4

墓地:6

山札:18

 

 

 

「《メイプル超もみ人》を召喚。《バングリッド》の能力でマナから《スゴ腕プロジューサー》を召喚、GR召喚だ。出たのは……《ガヨンダム》か。まあいいだろう。《フェニクジャーラ》を捨てて2枚ドロー」

「……《フェニクジャーラ》?」

「ダンナの奴、なんか企んでやがるな……!」

「《マジカルイッサ》でコスト軽減、3マナで《水筒の術》。《マジカルイッサ》と《パッパラパーリ騎士》をGR召喚」

 

 ゆったりと、ゆっくりと。

 しかしその緩やかさに胡座をかいて処理をしていないせいで、際限なくジョーカーズが湧き上がる。

 

「あ、あの……そ、そろそろ……数が、大変なことに……」

「怖じ気づくことなんてないじゃない。もうこっちも、準備できてるもの。カラダもココロも、ね」

「なのよ!」

 

 ヤングオイスターズは手札を、バンダースナッチが墓地を、それぞれ整えた。

 これで、準備万端。

 

「よーしみんなー! いっくのよー!」

『おー!』

 

 あとは、ありったけの獣性を解き放つだけだ。

 

「5マナ……《狂気と凶器の墓場》」

 

 最後の仕上げ。バンダースナッチが、呪詛を唱える。

 

「やまふだ、2まい、ぼちへ……ぼちから、ふっかつ」

「ウサちゃん!」

「えぇ、任せなさいな!」

 

 代用ウミガメ()ヤングオイスターズ()バンダースナッチ()眠りネズミ()バタつきパンチョウ()

 それらを束ねる狂った月が、すべての色を飲み込む。

 

「月まで届け、僕の想い!」

「労働環境改善のために!」

「私と弟たちのお給料を乗せて!」

「給食費と」

「さ、参考書も……」

「しねー、ぼーしやー」

 

 連合軍すべての色を混ぜ合わせた混沌の色彩が――飛び立つ。

 

 

 

『《ギガントウサギロボ・フューチャーX》!』

 

 

 

 それは、一言で言えばロボットだ。

 やたらと丸っこい、デフォルメされたような鋼鉄のウサギ型ロボット。

 三月ウサギの狂気をベースに、白、青、黒、赤、緑。五色すべてを混ぜ合わせた、彼らの最終兵器。

 

「ほぅ……それが貴様らのボイコットの成果か」

「なのよなのよー! 帽子屋さんだからって容赦はしないんだからね! けちょんけちょんにしてやるのよ!」

「そういうわけだから、ちょーっと覚悟してよね、帽子屋さん。大丈夫、痛いのも苦しいのも、僕からの愛だから……!」

「このウサギちょっと病んでないか?」

「さ、さぁ……?」

 

 三月ウサギの精神性はさておき。

 《ナスロスチャ》から、《ウサギロボ》へとNEO進化する。

 NEO進化ということは、即座に攻撃できるということ。

 そして《ギガントウサギロボ》が発進したということは、それは全力砲火の合図だ。

 

「一番槍はもらったぁ! 《ラッシュ“ATK”ワイルド》でアタック! ブレイク! ラッシュ! キズナコンプ!」

「これで《ウサギロボ》はこのターン、2回攻撃ができるってわけだ」

「ほぅ、ほほぅ?」

「さぁ、僕の情愛を受け取って貰うわよ、帽子屋さん? 《ウサギロボ》で攻撃――能力発動!」

 

 《ウサギロボ》が飛び立つ。

 その瞬間、《ウサギロボ》に呼応するように、山札(カタパルト)にカードがセットされる。

 

「《ウサギロボ》が攻撃する時、山札から3枚を捲る。その中のNEOクリーチャーをすべてバトルゾーンに出すわ!」

 

 そしてセットされたカード3枚。

 それらがすべて――射出される。

 

 

 

「お、お願いします、《気高き魂 不動》……!」

 

 

 

「来い! 《叡智の聖騎士 スクアーロ》!」

 

 

 

「《グレート・グラスパー》! なのよ!」

 

 

 

 白、青、緑(トリーヴァ)の煌めきが、三本の矢となり地上に降り注いだ。

 

「《スクアーロ》の能力でブロッカーをすべてバウンスだ!」

「《グラスパー》の能力で《バングリッド》をマナ送りなのよ!」

「ふむ……《スゴ腕プロジューサー》の能力でGR召喚、《Mt.(マウント)富士山ックスMAX》だ。パワーが最も小さなクリーチャーを破壊するが」

「《ラッシュ“ATK”ワイルド》がやられる……が! もう遅いぜ! 帽子屋よぉ!」

「そうね。《ウサギロボ》でTブレイク!」

 

 一度に3体も増えるだけでなく、《ウサギロボ》の一撃も重い。

 一瞬で帽子屋のシールドが3枚、砕け散った。残るは1枚。

 

「S・トリガー《バリスイトーヨー》……焼け石に水だな」

「さぁさぁ《ラッシュ“ATK”ワイルド》の能力で、《ウサギロボ》は再発進! まだまだ果てないわよ! 攻撃!」

「ふ、《不動》の能力で、シールドを追加、です……っ!」

「《グラスパー》の能力も使うのよ! マナゾーンからクリーチャーが出るのよ!」

「おらよ! 《ガンザン戦車 スパイク7K》! 僕たちのクリーチャーのパワーを2000パンプ! パンクにアップでアンタップもアタックだ!」

 

 《ウサギロボ》はNEOクリーチャーであり、NEOクリーチャーを呼び出す力を持つ。

 そしてNEOクリーチャーは、NEOクリーチャーの攻撃に反応して、能力を発揮するものもいる。

 各々の力が重なり、連鎖し、膨らみ、肥大化していく。

 

「で、ここから《ウサギロボ》の能力よ! 3枚捲るわ!」

「《崇高なる知略 オクトーパ》!」

「《マキャベリ・シュバルツ》」

「そーしーてー?」

 

 《ウサギロボ》に導かれ、次々と着陸するNEOクリーチャーたち。これで《ウサギロボ》は2回目の攻撃を果たしたが。

 月を目指す兎が、一匹だけだと、誰が決めただろうか。

 それは、即ち。

 

 

 

「《ギガントウサギロボ・フューチャーX》!」

 

 

 

 2体目の《ウサギロボ》は、発着した。

 即時打点。加えて、さらにNEOクリーチャーが増殖する未来が見えた。

 しかしそれは確定された未来ではなく、万華鏡の如く、如何様にも変化し、彩られる未来。

 正しく、未来(フューチャー)未知数()である。

 

「どうなのよ帽子屋さん! これが、私たちの友情パワー! 私たちの結束なのよ!」

「ストライキという名の友情か。なんとも麗しい」

 

 帽子屋は軽口を叩くが、この状況は、凄まじいの一言だ。

 ただ大きく、数が多いのではない。それらの繋がりが、あまりにも強固なのだ。

 《ウサギロボ》が攻撃するたびにNEOクリーチャーが増殖、《グラスパー》でマナからもクリーチャーが現れ、《不動》でシールド追加、《シュバルツ》でハンデス、おまけに《スパイク7K》でアンタップキラーを付与されているため、攻撃先には困らない。

 そしてこれらのクリーチャーは、場を離れない。NEO進化していれば、他のクリーチャーを身代わりにすることで破壊さえも免れる。

 ちぐはぐで狂った目的意識で繋がった愉快な連中だが、その結果として産まれた力は、強大の一言。

 ストライキ連合国の軍事力の恐ろしさたるや。その片鱗を見た。

 

「そうだな……ブロックするのも馬鹿らしい。そのまま通そう」

 

 どうせブロックしたところで、後続にとんでもない数のクリーチャーが押し寄せてくるのだ。ちょっとやそっとのS・トリガーでは止めようがない。

 

「スーパー・S・トリガー《SMAPON》だ。これでオレ様は負けん」

「うそー!?」

 

 と言いつつ、ちゃっかり止めるのだが。

 

「い、いやでも! 負けないだけでクリーチャーは攻撃できるのよ! ウサちゃんパワーでゴリ押しちゃうんだから! 逆転なんてさせないのよー!」

「おい待てチョウの姉御! ここから下手に展開してみろ! 山札なくなるぞ!」

「そ、それと……2体目の《ウサギロボ》は、《スパイク7K》が出た後に出たので……その、アンタップキラーじゃ、ありません……ネズミ君が、さ、先走っちゃったから……」

「あ? だってトロトロしたクソウサギなんて待ってらんねーし」

「僕がトロトロですって? 確かに敏感な方だけれど、僕レベルになるとその辺の制御は気分によって自由自在なのよ、ドブネズミ」

「あきた」

「仲が良いな貴様ら」

 

 しかし仲は良くとも結束は崩れ始めてきた。

 

「えぇい! 知らないもん知らないもん! もうやるだけやっちゃうのよー! 総員突撃ー!」

「自棄になってやがる……」

「とはいえ、普通に痛手だな」

 

 《不動》《スクアーロ》《グラスパー》で《マジカルイッサ》2体と《SMAPON》を殴り倒し、2体目の《ウサギロボ》もゲームには勝てないもののダイレクトアタックで能力だけ使用。能力は強制ではないので、必要な数だけ射出する。

 結果、帽子屋は盤面の制圧権をほとんど握られてしまった。

 

「シールドの枚数はこれくらいでいいのよ?」

「これ以上増やすとマジでLOするからな?」

「10枚もあれば……さ、流石に、帽子屋さん、でも……無理かなって……」

「手札も毟り取ってやったしな!」

 

 

 

ターン6

 

 

帽子屋

場:《もみ人》×2《ガヨンダム》×2《パッパラ》×2《レンジ》《富士山ックスMAX》

盾:0

マナ:11

手札:1

墓地:13

山札:13

 

 

連合国軍

場:《ウサギロボ》×2《不動》×2《スクアーロ》《グラスパー》《スパイク7K》《シュバルツ》

盾:10

マナ:5

手札:3

墓地:9

山札:3

 

 

 

「ふむ……そうだな。ドローは最高だ。故に、ここでやらねばならぬ、か」

 

 マナは大量にある。クリーチャーもまだ十分。微かに残された手札も、セルフハンデス故にキーパーツだけは生きている。

 仕掛けるタイミングは、ここしかない。

 

「8マナをタップ。《無限杖 フェニクジャーラ》を召喚!」

 

 既に1枚だけ見えていた、恐らく今回の帽子屋の切り札でありキーカード。

 不死鳥の如き翼を広げ、叡智を湛えた杖を掲げる。

 

「能力で《全能ゼンノー》をGR召喚だ。一手遅い。もっと早くに来るべきだろう貴様」

 

 前のターンに来ていれば、《ウサギロボ》を止められただろうに。

 と、そんな愚痴を垂れつつ、帽子屋は場のジョーカーズを数える。

 

「《フェニクジャーラ》の能力で、オレ様が唱える呪文のコストは、オレ様の場のジョーカーズの数だけ軽減される」

「帽子屋さんのジョーカーズは……10体!?」

「なによ、そんなに軽減する呪文なんて……いや?」

 

 普通は10マナもコストを軽減して使うようなカードなど使わないが。

 それだけのコスト軽減をしてまで、唱える価値のある呪文は、存在する。

 

「……《インビンシブル・フォートレス》」

 

 13マナの超弩級呪文、《インビンシブル》呪文。

 その中でも、単純明快かつ強力無比な1枚。それが、《インビンシブル・フォートレス》。

 一撃で守りが半壊。《フェニクジャーラ》がいるので、能力でそれが2倍。

 つまり、6枚のシールドが一瞬で消し炭になる。

 普通ならそれだけで負け確だが。

 

「でもだいじょーぶ! なのよ!」

 

 バタつきパンチョウは、笑っていた。

 

「帽子屋さんには3マナしか残ってないし! 手札もたった1枚! こっちはシールドが10枚もあるのよ! 6枚焼かれたからってどうなるのよ?」

「あの……ふ、普通に……殴り殺されます」

「全員のカードぶっ込んだせいで、トリガー薄いからなこのデッキ……ワタシの《オクトーパ》くらいだろ」

 

 《不動》によってシールドが10枚まで増えており、6枚消し飛ばされても、まだ半分近く、初期状態から1枚しか削れていない状態となる。

 もっとも、帽子屋の場のクリーチャー数が純粋に多いため、6枚も削られたら代用ウミガメの言うように、そのまま数で圧殺される可能性が高いが。

 しかし、それでも可能性は残っている。

 数少ないS・トリガーが、呪文で焼かれないまま盾に埋まっている可能性が。

 誰もが忘れているだけで、実は《クロック》がデッキに入っていた可能性が。 

 なんらかの奇跡が起きて、盾に超絶最強な防御トリガーが埋没する可能性が。

 ないとは、言い切れない。

 魔法や奇跡があるというのなら、そのくらいあってもいいはずだと、信じて疑わない。

 

「トリガーに期待か。それも、いいだろう。希望を持つのは悪いことではない。抱いた希望が成就するとは限らんがな」

 

 しかしここにいるのは、イカレ帽子屋。

 魔法も奇跡も撃ち殺す、狂気の眷属だ。

 幼き少女の光すらも踏み躙るような狂人が、果たしてそのような微かな希望を野放しにするだろうか。

 答えは、否。

 

「《フェニクジャーラ》の能力でコストを10軽減。3マナをタップし、呪文。《インビンシブル ――」

 

 そして、それを――唱えた。

 

 

 

「―― ナーフ》」

 

 

 

『は?』

 

 

 

 ただしそれは、彼らが想像する呪文ではなかったが。

 

「《インビンシブル・ナーフ》だ。これを唱える」

 

 帽子屋が唱えたのは、予想通り《インビンシブル》の名を冠する13マナの超重量呪文。

 しかし《インビンシブル・フォートレス》ではない。それと同じ色をした焼却の呪文だが、決定的に違う。

 帽子屋は銃を抜き、弾を込め始める。

 

「ちょ、え? それって確か……」

「五発の弾丸でシールドを撃ち抜けばいいのだろう? 《フェニクジャーラ》がいるから、装弾数は十発だ」

「いやあの、そ、それ本当は、おもちゃの銃でやる、もので……」

「オレ様の愛銃は回転式(リボルバー)なのだが、たまには自動式(オートマ)も良かろう。楽だからな。引き金(トリガー)を引くのも、撃ち殺すのも」

「待て帽子屋のダンナ! そいつはガチめに洒落にならんぞ!」

「はは、ならば血化粧でお洒落させてやろう。ドレスアップと洒落込もうではないか」

「ガッデム! こいつはクレイジーだ!」

 

 チャキッ、と銃口を同胞へと向ける。

 そしてそのまま、なんの躊躇いもなく、引き金を引いた。

 

パァンッ!

 

 空気が爆ぜ、貫かれ、炸裂する音が、不思議の国中に響き渡る。

 それが二度、三度、四度――幾度と乱射される。乱れ撃ちだ。

 やがてそれは、ババババババ! と閃光(マズルフラッシュ)となり、瞬く。

 

「さぁ避けろ避けろ! 当たったら痛いぞ! 脳天にでも触れればザクロ頭の完成だ! そうなれば、貴様らの血でブラッディメアリーの如きロシアンティーにでもしてやろう!」

「きゃー!? きゃー!? なのよー!?」

「あわわわわわ……!」

「やめろってダンナ! マジやめろって! マジで死ぬだろうが畜生が!」

 

 当然、連合軍は逃げ惑う。デタラメに狙っているようで、正確無比な銃撃はシールドと同時に、プレイヤーさえをも追跡する。

 本物の拳銃を持ち出してぶっ放すなんて誰も予想していない。いや、帽子屋ならやりかねないと理解はできるが、そこまですると想像が至らなかった。

 結果、ここは悲鳴と怒号が飛び交う叫喚地獄。

 愉快な殺意渦巻く不思議の国だ。

 

「ちょっと帽子屋さん!? 流石にそういう危ないモノ持ち出すのは良くないんじゃないかしら!? 首絞めプレイくらいで我慢できない!?」

「そいつもどうかと思うけどなクソウサギ!」

「聞こえんなぁ! 知らんなぁ! ふははははははは!」

 

 高笑いしながら、帽子屋の引き金を引く指は、止まらない。

 弾倉(マグ)を抜く。刹那のうちに、予備のカートリッジを装填。

 再び、銃撃を開始する。

 

「帽子屋てめー! それぜってー10発以上撃ってんだろ!」

「はんそくー」

「そのような戯言はオレ様に勝ってから言うのだな。見ろ、シールドがすべて焼けたぞ!」

 

 もはや何発撃ったのか、誰も数えていないが。

 少なくとも、連合軍のシールドはすべて撃ち砕かれ、焼け落ちていた。

 

「貴様らもわかっただろう? 年長者の言うことは聞けということだ。この国は年功序列でな」

「1億歳で年功序列を主張するなんて、大人げないのよー!」

「知ったことか」

 

 なんにせよ。

 ボイコットもストライキも、無為に終わったのだ。

 だから、何度でも言おう。

 

 

 

「そぅら――ダイレクトアタックだ!」

 

 

 

 

 

 

 今日も不思議の国は平和です、と。




 女王が動き出したとか、亡国になったとか、代用ウミガメの出生だとかで鬱々としてたので、不思議の国の明るい話です。
 恐らくもう二度と、彼らはこんな馬鹿騒ぎはできないでしょうが。
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