一話の分量がクソ多い本作ですが、読者の負担を減らそうとか更新速度を保とうとか色々考えた結果、本来ならワンエピソードワンデュエマシーンを書き切ってから投稿するところを、細かく分けて投稿してみることにします。形式的には、前篇後篇とかをさらに細分化した感じ。
ウケが悪かったり、作者がやりにくいなと感じたら戻します。
今年の12月頭あたりから世に出始めたネット配信者、いわゆるVチューバー。
外宇宙の神様が、地球に産み落とした仔であり、生まれたての自分を愚者と称し、世界中の様々な知識を吸収することで賢者を目指している、という設定。
ファンのことを、知識が豊富な賢者と呼び、ファンから寄せられる様々な質問、要望、その他投稿を吸収し、学習している、らしい。
その設定は彼女の配信スタイルそのものである。TCGを題材とした配信が主であるものの、常に視聴者からの投稿ポストを持ち、そこに投稿される題材のほぼすべてを拾い上げ、動画のネタとしている。。
なお海原メルのSNSアカウントのフォロワーは、12月半ば現在で、5000万人超。
リスナーから寄せられる投稿の数の膨大さは、予想に難くない。
しかし、彼女は、寄せられた投稿内容を公開した上で、それらすべてをほとんど消化し続けている。
1日に何本もの動画を投稿するなど当たり前。ゲリラ配信も当然の如く。なにより、編集クオリティも非常に高い。
「人間にできることを遥かに超えている」と称されるほどに、彼女は凄まじい技量を以て、莫大な人気を得ている。
V界隈の麒麟児、Vの世界の革命家、あるいは独裁者。
新進気鋭だとか、天才だとか、そんな陳腐な言葉では収まらない。
彼女だけでひとつのサブカルチャージャンルを転覆させかねないほどに、その活動は凄まじい。
なお彼女は、現時点ではどこかの事務所に所属しているわけではなく、本人曰く「お仕事だけど趣味」とのこと。
これだけの人気がある故、多方面から声は掛かっているらしいが、それらすべてを蹴り倒し、ソロ活動を続けているのも、彼女の人気のひとつなのかもしれない。
「ね? すごいっしょ? 海原メルちゃん」
よこでお母さんが無意味なドヤ顔を披露している中、わたしは呆然としていた。
お母さんからパソコンを借りて、海原メルという子について調べてみたんだ。
検索結果はすぐに出た、けれど……なにこれ。
(ユーちゃんとローザさんは、この子に襲われたらしいけど……)
昨日、ネットで配信されていた動画。
そこに映っていたのは、編集で容姿が弄られていたけれど、確かにユーちゃんとローザさんだった。
動画配信という体だったけど、あそこで行われたことは、もしかしたらクリーチャーや、あるいは不思議の国と関わる事件なのかもしれない。
確かめたいけれど、2人とは連絡が取れないし、なにより……
「…………」
画面を切り替える。
掲示板サイト? 裏サイトっていうの? よくわからないけれど、あまり治安がよくなさそうな言葉が飛び交う、ブラックな気配漂うインターネットサイト。
そこに載せられているのは――ユーちゃんやローザさんの“個人情報”だ。
「しかしこれ、酷いよね。特定班なんてどこにでもいるものだけれど、ここまで執拗に晒し上げるなんてさ。Twitterのバズり具合というか、炎上もヤバかったし。しかもこれ、小鈴の友達でしょ? あの、前に泊まりに来た銀髪の子」
「……うん」
顔写真、住所、電話番号、メールアドレス、出身地、家族構成。身長や体重、ドイツでの暮らし、学校での行いに至るまで。
どうやったらここまで事細かに調べられるのか、というほどに、あらゆる個人情報のすべてが、晒されていた。
個人の尊厳も、プライベートも、なにもあったものではない。
「しっかし、どこでこんなに情報が漏れるのかねぇ。学校とか会社とかのセキュリティが、そんなザルだとも思えないけど。国際的ハッカーでもいるのかっての」
お母さんの言うことを聞き流しながら、晒された個人情報の、最初の投稿日時を確認する。
およそ4時間前。けれど、これより前にいくつも投稿が削除されているから、実際にはもっと前。
例の動画が配信されたのが、昨日のお昼頃。つい昨日の出来事だ。
1日。たった1日で、これほどの情報が漏れ出た……そう考えるのは、流石に疑いすぎなのだろうか。
けれどこの2つの減少が、無関係だとは思えない。
わたしの知らないところで、なにかが起こっているんだ。
「ん? 小鈴、携帯鳴ってるよ」
「え、あ、うん。ちょっとごめんね」
誰だろう、謡さんかな?
と、携帯を見てみると、知らない番号だった。
なんだろう? このへんの市外局番でもないし……
恐る恐る、通話を繋げてみる。
「も、もしもし……?」
『あ、繋がりましたか。よかった』
「この声……ローザさん!?」
『はい、ローザです。ユーちゃんもいますよ。ちょっとだけ、代わりますね』
「うん……っ」
よかった、無事だったんだ。
ほっと胸をなで下ろす。とりあえず、その声が聞けてよか――
『Was denn!? Mein Got! Ich habe Angst! Es ist schwierig! Was sollte ich tun!?』
「え!? な、なに? なんて!?」
ユーちゃんの声……の、はずだけど。
一言もわかりません……
まるで聞き取れないし理解もできない言葉がだんだんと遠のいて、やがて聞こえなくなる。
『お電話代わりました、ローザです』
「あ、うん」
『実は今、とても大変なことになっていまして……』
「大変なこと?」
とりあえず、ユーちゃんがすごいパニックになってることはわかった。
それが、ローザさんの語る大変なことの大きさを物語っている、けれど。
『はい。家を、その……“包囲されています”』
「えっ!?」
それは、わたしが思うより、ずっとずっと、大事だった。
『カメラを持った人がたくさん、家の周りを取り囲んでいて……家を出ることはおろか、カーテンを開けることすらできない状態です』
「だ、大丈夫なの? それ……」
『まったく大丈夫ではありません。悪戯電話がひっきりなしに鳴り響くので、電話線はすべて切りましたし、携帯の電源も、もう付けられません。パソコンの類はすべてウイルスでハッキングされて使い物にならなくなりました。今、我が家はほとんど外界から途絶されたオフライン状態なんです。そのせいで、警察に届けることすらできずじまいで……』
「…………」
絶句するしかなかった。
わたしが想像するよりも、遥かに悲惨な状況。
ネット上で個人情報が流出すると、大変だということはわかっていたけれど、具体的にどうなるのかなんて想像もしなかった。
いや、でも、それにしたって。
その状況は、あまりにも惨すぎるように思えた。
たった一晩で、そこまでになってしまうだなんて。
人の悪意に晒され、囲まれて、外界から断絶してしまう、なんて……
……あれ? でも、それだとおかしくない?
電話線は切ったって言ってたし、じゃあ、今わたしがローザさんと話しているのは、どうして?
そう尋ねると、ローザさんは、
『衛星電話です』
と、サラッと答えた。
……衛星電話って、なに?
こっそり隣にいたお母さんに聞いてみると「宇宙からの交信」って言われました。それでおおよそ察しました。
そんなものが家にあるなんて、ローザさんの家ってすごいなぁ……
『父がその手の仕事をしていて、たまたま家にあったのです。まあ、家の外の倉庫に行くまでに、たくさん写真やらなんやらを撮られてしまいましたが……』
「だ、大丈夫だったの? それって……」
『気分は最悪ですが、暴力などを受けたわけではないので平気ですよ。とりあえず、こちらの近況を報告しておこうと思って、お電話させて頂いた次第です』
「うん……大変そうだけど、無事でよかった。わたしからも、なにかできることとかないかな? 次に会えた時に、必要なものとか……」
『…………』
「ローザさん?」
『……ごめんなさい。もう一つ、伝えることがあります』
「?」
どうしたんだろう、改まって。
電話越しから聞こえてくる声は、とても重くて、沈痛だった。
ローザさんは、懺悔するように、言った。
『私たち……日本にいられなくなりました』
……え?
どういう……こと?
『今晩、警察が自宅周辺の方々を抑えてくれるようで、その隙に空港まで行って、日本から出国します』
わたしがなにも言えないでいることを察してか、ローザさんは務めて淡々と言う。
それでも言葉の端々から、痛ましいほどの悔いの情念が零れ落ちているような気がした。
『私たちの個人情報が流出したのは知っています。そのせいで、父や母に迷惑をかけてしまいましたし、その関係者も同じくです。両親はこのまま日本に居続けるのは無理だと、早々に見切りを付けました』
「で、でも、それって……な、なんで! 警察の人には、届けたんだよね? それなら……」
『今この瞬間は大丈夫でも、今後も大丈夫とは言い切れません。それに、私たちを通じて、伊勢さんたちにも迷惑がかかってしまう可能性もあります。私たちがこの国にいるだけで色んな人に、迷惑が、かかるんです……』
「そんなの、そんなのって……」
……あんまりだよ。
ローザさんも、ユーちゃんも、なにも、なにも悪くないのに。
わたしたちの迷惑、だなんて、そんなの……
『当然、身の安全、という理由が一番ではありますが……なんにせよ、私たちはすぐにこの国を出ます。次に帰れるのは、いつになるか……2年後、3年後、もしかしたら、もっと後かもしれません』
「そんな……」
『それに、父の仕事の都合もあるんです。私にはよくわからないことなのですが、急に異動になって、本国に帰らなくてはならないとか』
様々な要因が重なった結果、日本には残れず、ドイツに帰る理由ができてしまった。
そういうこと、なのだろう。
もちろん、わたしは2人の無事が一番で、そのために帰国するというのはわかるんだけど……
なんだろう……こんなのは、なにか違うような気がする。
それは、その気持ちは、ローザさんも同じのようだった。
『……私としても、悔しいです。伊勢さんの力になろうって、決めた矢先に、こんなことになって……』
「ローザさん……」
『伊勢さん。これだけは伝えておきます。私たちのこの状況は、“彼女”が引き起こしたものなのかは定かではありませんが、それでも確実に言えることがあります』
改まって。
ローザさんは、真剣な声色で、わたしに伝えてくれる。
『海原メル。そして、【
「シュッベ……ミグ?」
聞き慣れない言葉だった。どこか、耳がざらつくような、嫌な響き。
だけど、やっぱりあの女の子……海原メルって子が、鍵を握っているんだ。
『それから、亀船さんは、もしかしたら彼女たちと関係があるかもしれません』
「! 代海ちゃんが……それって、どういう……」
『申し訳ないですが、私も詳しくはわからないんです……それに、話が長くなってしまいました。そろそろ、終わりです』
「ま、待ってローザさん! もう少し……」
『
引き留めたい。けれど、もう、止められない。
友達が、また、遠くに行ってしまう。
それは、それだけは――
『安心してください』
――優しい声が聞こえた。
『この大変な時に、私たちはあなたの力になれない。それは、とても悔しいことです。ですが』
わたしが伸ばした手を、掴み返してくれる。
わたしの不安を、抱きしめて、寄り添ってくれる。
そして、
『私もユーリアも、あなたの友達です。遠い異国の地にいようと、あなたとの繋がりだけは消えません。それだけはどうか、忘れないでください』
わたしが、最も欲しかった言葉を、言ってくれる。
大事な、友達の声。
『私たちは必ず――あなたの下へ、戻りますから』
最後にそれだけが耳に残って。
通話は、切れた。
とりあえず一話分、このくらいの分量でそこそこのペースで書いてみて、感触を確かめます。流石に毎日更新とはいかないまでも、数日おきくらいに更新できたらいいなーと思ってます(願望)。