デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

80 / 136
 47話パート2。


47話「帰郷します Ⅱ」

「――とまあ、そんな感じなのです。これで双子ちゃんは退場なのですね!」

「えげつねぇなお前」

 

 青の少女は、自慢げに胸を張る。黒の男は、半ば呆れつつも、彼女の手腕を彼なりに称えていた。

 あらゆる叡智を集積するために存在する彼女は、【死星団】の頭脳を担っている。

 知識の保管庫、偉大なる果ての図書館。

 いまだ白紙の頁も多いが、しかし彼女が抱えている“情報”は、他のどの落し子よりも多いだろうし、それが揺らぐこともないだろう。

 そしてその情報を生かす手段も、彼女は既に“知っていた”。

 

「しっかしよくもまあ、そんな詳細な情報まで掴んだな」

「それは当然! だってメルちゃんには、ファンの皆さんがいるのですから!」

 

 その情報の源泉は、彼女を信奉する賢者(ファン)

 言い換えれば、信者。あるいは、狂信者。

 もっと言えば――この世界そのものだ。

 彼女はその叡智の海に浸り、泳ぎ、沈み。

 それらすべてを、支配する。

 青の少女は嗤う。朗らかでも、にこやかでもない。

 自分以外のすべてを掌握することに満たされた、邪悪な笑みだ。

 

「そう、彼らはいいファンなのですよ。あたしが直接手を下さなくったって、ちょいっと情報を流せば勝手に特定して晒して吊し上げてくれる、とっても都合のいい愚者(ファン)なのです!」

「やっぱエグいわお前。俺よりよほど性格悪ぃよ」

 

 勝とうが、負けようが、それはひとつの結果に過ぎない。

 最終的に自分の目的を果たすために取れる手段は、無数に存在する。

 これはただそのひとつであり、別の手段が失敗した時の保険だ。

 完璧な対応ではないという点が不満ではあるが、次善の策ではある。

 しかし白の男は、不服そうだった。

 

「あまり、そのような手段は感心しないな」

「そうか? 確かにエグいが、目的を果たせればそれでいいだろ」

「彼女らは隔絶されただけで、姫のために隔離されたわけではない。本来の目的は果たせていない」

「だが孤立したなら放置しても問題ねえだろうさ。今のうちに内からぶっ壊して最終的に全部取り込めば、それで終いだ。結果は同じだろ」

「なのです! ディジーさんの言う通りなのです。とりあえず今は、双子ちゃんの動きを封じて戦力を削いでおくのですよ。なにせ、そこがあの子の弱点なのですから!」

「そうね」

 

 緑の女が、静かに話に加わった。

 

「マジカル☆ベルは、群れとテリトリーそのものが力の根源……いいえ、彼女を彼女としているもの。その性質が一際強い、王の資質を持つ者よ」

「リズちゃんの言ってることは相変わらずよくわからないのですが、戦力分散が痛打であることはご理解頂けたようでなによりなのです」

「……外道だな」

「外道でも勝てば官軍なのですよ、ミーナさん。結果のために必要な道なのです」

「だな」

 

 青の少女に、黒の男が同意する。

 その様子を見て、白の男は渋い顔をしていた。緑の女は無感動な瞳で、一言。

 

「私たちは、彼女から力を得た大いなる種。迂遠な手段を使う必要はないのだけれど」

「むむ、なんなのです? あたしのやり方にケチをつけているのです? リズちゃん」

「私から言わせてみれば、あなたのそれは不要な道よ。私たちに与えられた、大きな力を正しく使う。ただそれだけでいいの」

「与えられたなんてとんでもないのです。あたしは、あたしの力を正しく使っているのですよ?」

「あなたに与えられた使命は世界の観測。叡智の使用ではないわ」

「リズちゃんにそこまで口出されたくないのでーす。あたしが得た力を、あたしがどう使おうがあたしの勝手なのです」

「あなたには、自覚がないのね。彼女が私たちに与えた原質は――」

「リズ、もういい」

 

 緑の女の言葉を遮る。

 ふるふると諦めたように首を振り、彼女たちを交互に見遣る。

 

「メルの力が我々の役に立っていることは事実だ」

「そうなのですよ、メルちゃん大貢献なのです!」

「ま、メルとリズが今んとこ一番働いてるよな。おっと、まとめ役のお前を蔑ろにしてるわけじゃないぜ、ミーナ。ただ俺たちの足場的な問題でだな」

「わかっている。無論、貴様の残党狩りも私は評価している、ディジー」

「そいつはよかった。俺の働きが無視されたらどうかと思ってたところだぜ」

「そもそもあたしたちの中で、お仕事してないのって……」

「……おい」

「どうしたミーナ」

「ヘリオスはどこだ?」

 

 一同は顔を見合わせる。

 白の男は、緑の女に視線を向けた。

 

「リズ?」

「数刻ほど前に、ここから出て行ったわ」

「リズ!」

「彼はそういうものよ」

「ヘリオス!」

 

 白の男は叫ぶ。

 しかしその叫びは黒い森に虚しく木霊するだけ。

 彼は手で顔を覆い、怒気を滲ませて嘆息する。

 

「あいつめ……! また勝手に居城から抜け出すとは……!」

「どうすんだ? お前らが出撃するなら、俺も動けないぜ。流石に姫さん一人置いてくわけにはいかないからな」

「わかっている、わかっているさ。あぁ、まったく、仕方あるまい……!」

 

 不承不承といった風に、白の男は苛立ちの籠もった面を上げる。

 

「メル、リズ、行こう。切り離されたとしても、病巣は絶たねばならない」

「はーい、なのです! 準備はバッチリなのですよ!」

「いいわ。彼の地は、導かれるままに、赴くべきと私の足も告げているもの」

「んじゃ俺は留守番だな。まあ、お前ら3人もいりゃ楽勝だろうが、気ぃつけてな」

 

 そう、声を掛けた時には。

 既に3つの影は、闇の中に溶け落ちていた。

 

「……さて、一人か。厳密にゃ、他にもいるわけだが……ま、あいつは今はどうでもいいだろ」

 

 黒の男は、ズカズカと寝台に向かって歩む。闇のような暗幕を乱暴に引き払い、痩せ衰えた、母なる少女と謁見する。

 彼女は男を見ていない。どこかもわからない、虚空を見つめ続けている。

 

「よう姫さん。機嫌はどうだ……って、よくはないだろうな。だからこそ、俺はあんたに言いたいことがある」

 

 少女に、反応はない。

 しかし男は意に介さず、続ける。

 

「ヘリオスが帰ってきても面倒くせぇし、時間も限られてる、単刀直入に言うぜ。なぁ姫さん、あんた、会いたい奴がいるんじゃねーの?」

「…………」

 

 ほんの僅かに、視線がこちらに向く。

 彼女に興味が向いた。

 

「今すぐってわけにはいかねぇが……あんたが望むなら、俺が会わせてやらんでもないぜ。仕掛けが必要だからな、ちっとばかし時間はかかるがな」

「…………」

「俺はミーナやメル、ヘリオスやリズとは違う。あんたが本当に望むことをしてやれる」

 

 微かな視線を感じる。あと、もう一押しだろう。

 彼女の背を押すキーワード。

 それはとても単純で、明確だ。

 

「あんたはただ、ヘリオスのように自分の気持ちに正直であればいい。そうすりゃ、会いたい奴に会えるぜ――」

 

 彼女が焦がれて止まない、ひとつの名を、言うだけでいい。

 

 

 

 

「――伊勢小鈴にな」




 自分で書いててメルちゃんやってることエグいなって思うのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告