デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 眠りネズミvs帽子屋、決着。


47話「帰郷します Ⅴ」

 《大樹王 ギガンディダノス》

 それは、落し子たちの監視者。

 不思議の国の王と並び立つ、不死樹の国の王。

 枯れ堕ちて、腐り堕ちた太古の巨木を躯とし、それはそびえ立つ。

 巨人よりも大きく、巨竜よりも雄大に。

 邪神のように忌まわしく、そして屍人のように儚く。

 大樹の王は、王座に君臨する。

 

「で、でけぇ……!」

「王だからな、当然だ。そして無論、巨大なだけの木偶でもない」

 

 《ギガンディダノス》が咆哮する。

 大地に響くような、沈み込むような、重く、悲しい絶叫を轟かせる。

 

「《ギガンディダノス》の登場時、貴様の手札をすべてマナゾーンへ堕とす」

「んな……!?」

 

 眠りネズミの手札が、纏めてマナゾーンへと封じ込められる。

 追撃の手が、根こそぎ削がれてしまった。

 無論それは、手札だけではない。

 

「2体の《ダクライ龍樹》で《初不》《ダチッコ・チュリス》を攻撃」

 

 盤面も、喰い破られる。

 命が毟り取られ、眠りネズミの攻め手が消え失せる。

 

「ターンエンド」

 

 手札も、盤面も、なにもかもがボロボロになる眠りネズミ。

 帽子屋は悠々と、生ける屍の如く、そこに在る。

 

「僕の、ターン……!」

 

 クリーチャーはおらず、手札もなく、信じられるのは山札の一番上のみ。

 たった1枚にしか頼れない、絶望の淵。

 しかして眠りネズミに、諦めはない。

 まだ、燃え尽きていない。

 残り僅かな我が身を燃やし尽くしてでも、火鼠は、駆ける。

 

「――引いたぞ、馬鹿野郎が!」

 

 閃光が瞬き、火花が爆ぜる。

 残り火すべてを燃え上がらせ、眠りネズミは、引いたそれを叩き付ける。

 

「《DOOOPLLER・マクーレ》!」

 

 帽子屋のシールドはゼロ。ブロッカーはいない。邪魔な《ヴァイストン》も消えた。

 あと一歩。その一歩を踏み込むだけで、この拳は奴に届く。

 

「とどめだ帽子屋ぁッ! 《DOOOPLLER・マクーレ》で、ダイレクトアタック――」

 

 たった一歩。それで、終わる。

 ……終わる、のだが。

 

 

 

止まれ、愚民(Stop the fool)

 

 

 

 その一歩は、止められる。

 

「その先へは進ませんぞ」

「あ……?」

 

 その言葉通り、歩みが、止まる。

 身体が重い。動かない。

 進まなければいけないのに。早く先に行かなければ、この身が燃え尽きてしまう。

 眠気に抗えなくなってしまう。

 未来が、掴めなくなってしまう。

 そう、いくら願えども。

 眠りネズミの足は、一歩も先には進まない。

 

「《ギガンディダノス》は、女王より遣わされた眷属の王。オレ様を縛り付ける縛鎖にして監視者。我が得た権能の具現。即ち、女王のくだらん威光そのもの。下等な有象無象は、強大なる狂気を超えることも能わず」

「なに、わけわかんねーこと言ってんだ、クソ野郎が……!」

「ならば貴様にも、わかるように言ってやろう。《ギガンディダノス》は、此より小さき者では立ち向かうことさえ敵わない。つまり、だ」

 

 地鳴りが響き、地揺れが起こる。

 砂粒のように小さき鼠の前に、天を突き抜けるほどの巨躯が、立ち塞がる。

 その有様は呪いであり、狂気そのもの。

 王を、守(縛)るための、呪縛。

 

 

 

「《ギガンディダノス》よりパワーの低いクリーチャーは、オレ様を攻撃できない」

 

 

 

「……ッ!」

 

 あと一歩。もう一歩だったのだ。

 一寸先には、殴るべき相手がいるというのに。

 その一歩が、あまりにも遠い。

 一寸先に進むために立ち塞がる壁が、あまりにも高く、大きい。

 燃ゆる火鼠が乗り越えるには、その壁は高すぎる。

 よじ登ろうとするだけで、その身は燃え尽き果ててしまう。

 

「見ての通り、《ギガンディダノス》のパワーは50000。これを、女王に連なるDark Youngの果てない狂気、貴様に超えられるか?」

 

 答えなど、言うまでもない。

 パワー50000なんて巨体を燃やし尽くすだけの火力が、小さな火鼠にあるはずがない。

 身を焦す炎は、巨木を焼き払うことは叶わず。

 我が身を焼き尽くすだけに終わるのだ。

 

「クソ……クソクソクソクソがッ!」

 

 悔恨が溢れる。ただひたすらに、無念が募り、爆ぜる。

 目と鼻の先に掴み取れる願いがあるのに、その微かな距離すらも、届かないなんて。

 

「なんでだよ……なんでなんだよ! 帽子屋! てめーは、なにがしたいんだよ!」

「なんのことだ?」

「とぼけてんじゃねぇよボケが!」

 

 《ギガンディダノス》に手足を削がれ、歩みすらも封じられた眠りネズミは、ただ慟哭することしかできなかった。

 怒りを叫び、無念を嘆く。ただ宣うだけで前に進まないなど、眠りネズミには到底許せるものではなかったが、そうすることしかできない。

 せめてこの身が燃え尽きるまでに、無駄な抵抗でも、窮鼠は咆える。

 

「てめーが目指してたのは、こんなことじゃねーだろうが……寝ぼけた僕の頭だって覚えてるぞ。てめーのアホみてーな夢は、すげーBAD(最高)だったってな!」

「夢……?」

 

 そんなもの、あっただろうか。

 掠れた記憶はノイズがかっている。思考はあやふやで、溶けている。

 

「今のてめーにゃ、昔みてーな野望も希望もねぇ。クソつまんねーんだよ! なんっも面白くねぇ!」

 

 眠りネズミの怒声が轟く。

 身を焼かれても、その歯牙が届かなくても、みっともなくても泥臭くても、抗い、食い下がる。

 

「こんなつまんねーままで、つまんねー終わり方で、それでいいってのかよ! 帽子屋!」

「…………」

 

 その慟哭を、静聴し。

 帽子屋は、なにも答えなかった。

 

「……《ギガンディダノス》で、ワールド・ブレイク」

 

 ――一瞬だった。

 巨木の龍が放つ咆哮、地響き。

 刹那のうちに、眠りネズミを守る盾は、すべて撃ち砕かれてしまった。

 そして。

 黒き森の眷属が、牙を剥く。

 

 

 

「《ダクライ龍樹》で、ダイレクトアタック――」

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

 眠りネズミは倒れ伏した。

 気力と体力の限界を迎え、身を焼く炎も鎮火し、眠りに堕ちる。

 帽子屋はなんの感慨もなく、眠りネズミを見下ろし、一歩、進み出る。

 

「さて……連れて帰るか」

 

 しかし。

 眠りネズミと彼の間に、ひとつの影が割り込んだ。

 

「待て、待ってくれ!」

「……なんだ、小僧」

 

 霜だった。

 眠りネズミを庇うように、帽子屋の前に、立ち塞がる。

 

「彼を……殺さないでくれ。頼む」

「貴様の頼みを聞いてやる義理はない。失せろ」

「だけどボクには!」

「眠りネズミを助ける義理があるとでも? つまらんことをほざくか?」

 

 帽子屋は霜を、威圧的に見下ろす。

 しかし霜は退かない。

 無情で、無慈悲で、虚無なる眼に臆することなく。

 震えそうな身体を鼓舞させて、目の前の絶望に立ち向かう。

 

「……義理じゃない。情でもない」

 

 眠りネズミ。【不思議の国の住人】。敵かどうかもあやふやな、けれども確かに敵意を持っていたこともあり、争い合った者共だ。

 本来ならば手を取り合うことはないのかもしれない。そのリスクと道理は、通すことはできなかったはず。

 しかしこと彼個人として見た場合、霜は、異なる回答を得た。

 

「ボクには彼が“必要だから”だ」

 

 集団としての一部ではなく、眠りネズミという個人としての観測結果。

 彼が持つ性質への、興味、関心。

 そして、そこから予測される、彼の持つ熱意。

 それは霜の求めるもの……なのかもしれない。

 霜は、その可能性を、彼の中に見た。

 これは自分の勝手だ。無謀な向上心であり、愚かな探究心であり、都合のいい利己心だ。

 だけど、それが自分の進みたい道だから。

 そう、彼が叫んでくれたから。

 

「彼の在り方、生き様。一筋気で、馬鹿みたいに愚直で、目の前しか向かない心。ボクには必要なんだ」

 

 ――ボクの中で燻る命題の回答を得るためにも。彼のまっすぐな情熱が、きっと。

 彼と共にいれば、辿り着けそうなんだ。ボクが先へ進むための、答えに。

 

「……くだらんな。オレ様には関係のないことだ」

 

 帽子屋は懐から拳銃(リボルバー)を取り出す。

 カツ、カツ、と躙り寄りながら、弾倉に弾を込めていく。

 もう一挺取り出し、それにも弾を込める。

 弾倉を勢いよく回しながら、カシャリと、銃に収める。

 

「そら、死にたくなければ退け、小僧」

「……っ!」

 

 右手の銃口を、霜の目先に突きつける。

 トリガーに指を掛け、いつでも、一瞬で、彼の脳天を貫くことができる。

 しかし霜は動かない。眠りネズミを庇ったまま、キッと帽子屋を睨み付ける。

 

「……蛮勇は身を滅ぼすだけだ。ただ無謀なだけでは、思考を失えば、なにもかもを取り零すぞ。オレ様のようにな」

 

 そう言って。

 左手の銃口を、霜の後ろで眠る、鎮火した火鼠に向けた。

 

「! 待って――」

「纏めて死ね」

 

 

 

 ――パンパンッ!

 

 

 

 二回の銃声が、冬の空に轟いた。




 結果なんて、わかりきったこと。
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