デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 分けるかどうするか悩んだ結果、一応、一話一戦の縛りのために分けることにしました。対戦箇所、どうするかちょっと悩んでるんですけど。


48話「国盗りです Ⅰ」

 揺れている。揺り籠のように、地を踏みしめる行進が緩やかな鼓動(ビート)を刻む。

 退屈すぎて欠伸が出そうな韻律(ライム)だが、不思議と心地よ(チル)い。

 そうだ、これは人の背だ。矮小なこの身を受け止めてくれる、硬くもこの優しい背は、もしかしたら――

 

「――カメ子」

「起きたか」

 

 返ってきた言葉は、思っていた少女のものではなかった。

 その齟齬に、眠りネズミは覚醒する。

 

「……ソウ?」

「ボクだよ。具合はどうだい?」

「……BAD(最悪)だな」

 

 霜の背中で、眠りネズミは小さく舌打ちする。

 

「ワックだぜ。あんな腐れ帽子屋なんかに、気持ちで負けちまうなんてよ……!」

「気にするな、とは言わないけど、あまり思い詰めない方がいい。勝負は時の運でもあるし、なにより冷静さを欠いた方が負けるものだ」

「けどよ!」

「だけど、今、君は生きている。次があるなら、まだ未来がある。チャンスがある」

 

 霜の言葉に、眠りネズミは押し黙る。

 それは霜の語気に気圧されたというより、ふと湧き上がった疑問に首を傾げているようだった。

 

「……なぁ、ソウ。僕、生きてるな」

「そうだね」

「ソウが助けてくれたのか?」

「…………」

 

 霜は答えなかった。

 助けた。結果から見れば、そうなのかもしれない。

 しかしあの行動は、自分でも理解に苦しむような、非合理的な蛮勇だった。

 生きているなら、未来があるなら、次がある、などと。

 命を投げ出そうとした奴が言えることではない。

 この矛盾しそうな回路、まるでバグのようだ。一貫性がない、統一性がない。

 人とはおしなべてそういうものではあるが、そうあるまじと霜自身が律してきたことのはずなのに。

 しかしどういうわけか、この不条理に嫌悪感はない。

 むしろ、彼を守り切れた達成感すらある。

 

「あんがとよ、ソウ」

「……別に。君に死んでもらっても、困るからね」

 

 彼からの屈託のない礼がむずがゆい。

 これは打算であり、合理であり、狡知だ。

 そう、なのだが。

 …………

 

「……そうだ。ねぇ、君、名前は?」

 

 言葉に詰まる。いまだ、自分の中で燻る命題への回答は、形にならない。

 まだ、思考のための時間が必要だった。

 それを押し隠しながら、霜は眠りネズミに問う。彼はキョトンとしていた。

 

「名前ぇ? 眠りネズミだが」

「そうじゃなくて。ほら、君の友達の……代用ウミガメだっけ。彼女みたいに、君にも人としての名前があるのだろう」

 

 そういえば小鈴は、彼女をひとりの人間として、名を尋ねていた。

 それに、倣ってみよう。

 自分が戻りたいと願う場所を、真似てみよう。

 そうしたら、なにか、わかるだろうかと。

 あるいは、自分が、そうしたいからと。

 

「ヤマネ」

 

 彼は、即座に答えた。

 

利根弥真祢(とねやまね)ってんだ。確か公爵夫人だったかが、そういう名前にしたってよ」

「ヤマネ、か。ならこれから君のことはそう呼ぼうか」

「……あ! そういやソウ、今まで僕のこといっぺんも名前で呼んでねーな!?」

「今更か」

 

 少し呆れながら、ヤマネを背負い直す。

 彼は大人しく、霜の背中で身体を丸めている。

 そこが落ち着くと言わんばかりに。

 その場所が気に入ったかのように。

 信頼できる穴蔵であるかのように。

 彼らしからぬ、眠そうな蕩けた眼で、霜の背にしがみついていた。

 

「駅までもう少しだが、眠いなら寝ててもいいよ。後で起こすから」

「おう……頼むぜ」

 

 そう言って。

 小さな吐息が、霜の耳をくすぐった。

 

 

 

                     ☆ ☆ ☆

 

 

 

「……嘘でしょ?」

 

 三月ウサギは膝をつく。

 信じられなかった。手も足も出なかった。

 これは、なんだ?

 同じ種族であるはずなのに、自分達とは、まるで違う。

 

「当然の理だ」

 

 裁きの神殿にて、白の男――ミネルヴァは剣を天高く掲げる。

 遥か彼方の神へ、武勇を誇るように。

 信奉の証明を示すかのように。

 

「女王の恩寵を忌み、本来あるべき姿から逸脱した貴様らに、純粋な母君の力を賜った我らが屈する道理などない。貴様らはどう足掻こうと、闇の眷属。そこから乖離を試みたところで、それは存在そのものを歪ませ、劣悪な汚物に成り下がるまで」

 

 剣の切っ先が三月ウサギに向けられる。

 否定したい。しかし、それはただの敗者の戯言である。

 圧倒的に、負けた。

 その現実が、重くのし掛かる。

 

「母君の恩寵は絶対だ。それから逃れることなどできぬ。だからこそ、進化などという無為な逃避を繰り返した貴様らは、呪いに蝕まれる」

「く……っ!」

「最初から母に奉ずれば良かったものを、下らぬ野心を抱いた末路である。そして、その堕落によって、貴様は姫を傷つけた。この罪は、果てなく重い」

 

 眼前に突きつけられる白き切っ先。

 ほんの僅かに動かすだけで、眼球は裂かれ、頭蓋は割られ、首は落ちる。

 しかしミネルヴァは、静かに剣を引いた。

 

「しかし姫は、貴様らの喪失を望んでいない。姫からの慈愛、深く受け止めるがいい」

「……なによ姫って。まさか、ここまでボコボコにして、赦してくれるなんて甘いことがあるわけ?」

「然り、恩赦である。本来であれば、母の従属より外れた落し子は切り捨てる定め。しかし姫の深い慈悲により、貴様は我が神殿に投獄する」

「投……獄……?」

 

 次の瞬間。

 三月ウサギの背後で、なにかが開く。

 

「っ!」

 

 反射的に振り返ろうとするが、身体が動かない。

 全身を、光の鎖で束縛され、なにひとつ身動きができない。

 これはまずいと本能が叫ぶ。しかし、もう、どうしようもない。

 無力なまま、邪淫の獣は。

 月の光も届かぬ牢獄に――堕とされた。

 

「…………」

「お疲れ様なのです、ミーナさん!」

「あぁ」

 

 ミネルヴァは剣を収める。

 門番とも言えぬ門番を制した。

 眼前には、不思議の国へ続く獣道。

 

「あたしの走査によると、まあまあの数の住人は残ってるっぽいのです。数は20、ヤングオイスターズを含めるとカウントが変化するのです」

「そうか。それでは、私とメルで切り込む。リズは領域支配を頼む」

「わかったわ」

 

 2人と1人に分かれ、彼らはゆるりと歩み出す。

 少しずつ、少しずつ、森を陰気に黒く染めながら。

 反逆者たる眷属達を罰するために。

 そして、同胞である者共を治めるために。

 新たな落し子たちは、不思議の国へ、征く――




 ネズミ×霜という需要以前に誰も想像できなさそうな組み合わせ。
 別にNLが嫌いなわけでも避けてるわけでもないのですが、気付いたら同性同士のカップリングになってる気がします。まあ異性同士より、同性同士の方が気兼ねせず突っ込んでいけるというのもあると思います。
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