デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 この時点でミネルヴァのデッキがわかった人は凄いと思う。


48話「国盗りです Ⅶ」

「禁断解放――《伝説の禁断 ドキンダムX》!」

 

 憎しみ、恨み、怒り。昏き情念に燃える、禁忌の巨神が顕現する。

 しかして所詮は群体であり、主から剥がれ落ちた眷属(コケラ)に過ぎない、皮肉な魔神。

 彼は二振りの邪槍を握り締め、咆轟する。

 それに呼応するように、公爵夫人の肉体に開かれた大口も、絶叫する。

 

「これこそは我が憤怒! 我が憎悪! 我らを呪縛(しば)る女王への叛逆の意志! まずはそこな眷属から討ち滅ぼさん! 《レッドゾーン》! 《ドキンダム》!」

 

 《レッドゾーン》が疾駆する。その轟音と、《ドキンダム》の慟哭が重奏(ユニゾン)する。

 

「《レッドゾーンZ》の能力で、小癪にも仕込んだシールドを焼却する! 続く《レッドゾーン》の能力で、《ハイオリーダ》と《ティツィ》、共に破壊だ!」

 

 先行する《レッドゾーン》が戦場を蹂躙する。空まで炎上し、大地が焦げ付き、命が散らされる。

 無論それだけでは終わらない。背後でそびえ立つ《ドキンダム》が、邪槍を投げ放つ。

 邪槍は拡散し、枝分かれ、無数の雨となりて、殺戮の限りを尽くす。完膚なきまで、何者も生きれぬ破滅の世界を創る(壊す)。

 

「《ドキンダム》の能力で《エイキャ》を封印! 《レッドゾーン》で――Tブレイク!」

 

 ミネルヴァのバトルゾーンは更地と化した。楽団は蒸発し、残ったものは悉くが石化する。

 塵のように命が舞う。骸は無惨に打ち棄てられ、煙る炎は苛烈に揺らめく。

 地を砕き空を裂く。神聖なる光の神殿は炎上し、罅割れる。荘厳さも清廉さも秩序も、なにもかもが陵辱され、貶められ、崩れていく。

 なにもない虚無の道を駆け、刹那。

 《レッドゾーン》は3枚のシールドを、一瞬で吹き飛ばした。

 

「《プーンギ》でシールドをブレイク!」

 

 残った1枚のシールドも打ち砕かれる。

 ミネルヴァにシールドはない。しかして背後には、《反反-ロッカー》《レッドゾーンNeo》《ドキンダム》が控えている。

 怨敵を噛み潰さんと牙を剥き、眼を血走らせ、脈打つ鼓動に合わせて低い唸り声を上げている。

 

「貴様を守る盾はすべて砕いた。あとは貴様の胸に邪槍を穿ち、終いだ」

「……我が領土、我が居城、我が神殿。私の王国を踏み荒らして尚その暴言。怒りすら果て、憐憫を覚えずにはいられないな」

「なんだと?」

「慎むがいい。如何に貴様が叫ぼうとも、威を示そうとも、それは彼女の産み落とした力の一欠片、彼女の威光の断片に過ぎない。貴様の振るう力、それ即ち、貴様が忌み嫌う彼女の権能の一片であるのだから」

 

 ミネルヴァの言葉に、公爵夫人の顔は醜く歪む。怒り、苦しみ、嘆き、それらが混沌を為す絶望の慟哭に、黒い肉塊は膨れ上がり、触腕はのたうち回り、大口は絶叫する。

 

「黙れ! 女王の狗が儂を騙るな!」

「貴様とてわかっているはずだ。彼女は、我らが母は、殺せない。少なくとも、弱き人間には不可能だ。そして、彼女の仔である我らにも。であれば、弱き人を模した、彼女の落し子である貴様らに、彼女が殺せる道理など微塵もない。シリーズの言の葉を借りるのならば、そう、運命か。根源的因果律からして、貴様の願望は破綻しているのだ」

「ほざけ! それでも、我らは、儂は……ッ! 殺す! 女王を! 貴様らも! 我らを呪い縛るすべてのものを!」

「……蔑む気すら失せるほど憐れなり、公爵夫人。しかし、貴様の歯牙は私にすら届かない。私は貴様らとは違う。この身は姫の願いを、母の望みを、主命を受諾した(まがつ)の星なれば」

 

 一身に受けるシールドの破片に手を伸ばす。

 (カラ)の宙にて虚無を掴むように、なにもない黒い宇宙に掌を向け、握り込む。

 

「私は【死星団(シュッベ=ミグ)】の長子として、果たすべき天命がある。故にこそ、貴様らへの断罪を執行する」

 

 暗夜の宙。握り締めたミネルヴァの手中に、光が溢れる。

 

「S・トリガー! 《「光魔の鎧(メイジ・オブ・カースブレイカー)」》! 手札を1枚、表向きでシールドゾーンへ追加する!」

 

 呪詛にすら成り得る公爵夫人の憎悪を受けてなお、その呪いを打ち砕く光。

 それは狂信者にとっては絶大な希望に繋がる一筋の明光。しかして常人には、それは狂乱と絶望がもたらす混沌の暗光に他ならない。

 ミネルヴァは手札を1枚、虚空へ添える。

 

「《ヘブンズ・ゲート》を――シールドへ!」

 

 宙に顕現した、門。

 今はまだ閉じているが、触れればその瞬間に開くことは免れない。

 公爵夫人は、歯噛みする。

 

(《ヘブンズ・ゲート》……厄介なものを)

 

 ブロッカーの1体2体程度、貫いて押し通せないこともない。

 しかし問題は、なにが現れるか。

 ここで現れるブロッカー次第では、攻撃を止められる。どころか反撃の準備を整えられる可能性もある。

 これまで見えている光のブロッカーは、《ハイオリーダ》のみ。そもそも対象となるブロッカーの数が少ないのか。あるいは偶々見えていないだけか。

 

「憐れで、愚かしく、許し難き反逆者であるが、貴様とて母の胎より産み落とされた同胞(はらから)。その(よしみ)で忠告する。勇むな、退け。その先は蛮勇、貴様の愚考を愚行に変えるだけである。母へと向ける牙を抜き、恭順するならばそれで良し。我らにも、また新たに同胞を迎える準備がある。叛逆するならば、私の剣が貴様の首を刎ねるまでだ」

 

 剣を抜き、切っ先を突きつけるミネルヴァ。

 これが最後の通告だと、彼の刃は告げている。

 押すか引くか。その一歩を踏み出しあぐねていた公爵夫人は、渇いた笑みを零した。

 

「……巫山戯たことを。帽子屋でも、もう少しマシな冗句(ジョーク)を言う」

 

 それは嘲笑だった。高慢で不遜で居丈高。ミネルヴァを嘲り、見下す芽。その程度の者だったのかと幻滅する眼差しだった。

 

「1億と5000万の妄執。帽子屋の悲願に比べれば、儂の中の憎悪が膿んだ時間はごく短いだろうよ。念の大きさ、重さ。それは誰にも奴には敵わん。重ねた年月で見れば、儂なんぞの害意ですら平々凡々だ」

 

 らしくもない自嘲と自虐。自身への低評価。

 そして、帽子屋への敬意。まがりなりにも彼が不思議の国の長であるとことへの承認。

 巨大さで言えば彼が筆頭。その他すべての住人は、枝分かれ末端であり、一粒の礫でしかない。

 だが、しかし。

 

「儂は腑抜けた奴らに代わり引き受けてきた。女王を殺すという執念を溜め続けてきた! そうだ、儂は醜き醜女の『公爵夫人』!」

 

 あらゆる醜悪を背負う者。

 背負ったものの大きさも、それを積み重ねた重さも、帽子屋の足下にも及ばない。

 しかしすべての住人には、役割がある。

 あらゆる視座を持つ蟲の三姉弟は、眼。現の境界線を行き来する眠りネズミは、夢。個体でありながら群体であるヤングオイスターズは、仔。情欲に掻き立てられる三月ウサギは、淫蕩。あらゆる概念を産み落とす代用ウミガメは、多産。

 母が持つ権能、性質は、一極として個人に委ねられた。

 公爵夫人が引き継いだものは、醜悪。

 見る者を狂気に陥れるほどの醜き双眸――だけではない。

 誰かを害するという、負の念もまた、醜悪極まりない怪物のそれである。

 公爵夫人はその害意という“醜悪”すべてを引き受けた。

 即ち、【不思議の国の住人】すべての醜悪さ――憎悪、憤怒、害意は、公爵夫人の下にある。

 

「儂がただの1人でひた走る暴徒だと思うたか、うつけ。たかが“小僧”に説法された程度で、我らの義憤が晴れるものか! その程度で屈する意志であるならば、我らはとうの昔に、女王に傅いておるわ!」

 

 女王に与する気など毛頭ない。

 女王への恩讐を忘れてしまえば、公爵夫人は自分の存在意義そのものを見失う。

 それは【不思議の国の住人】が抱くべき叛逆の意志の喪失に他ならない。彼らを縛り付ける呪縛への従属の証左となってしまう。

 ただ1人で叛逆そのものを背負う者として、膝を折るわけにはいかない。

 他の誰をも信じているわけではない。誰かになにかを託そうなどというつもりは微塵もない。

 しかしここで屈してしまえば、それは自分達という“総体”すべての絶望に他ならないのだから。

 非常に腹立たしいことだ。自意識が怒りの雄叫びを上げている。自分が、自分自身だけでなく、群れとしての不思議の国について考えるなど、苛立ちしか生まないが。

 

「儂が抱くただ1つの憎悪こそが希望と成り得るのなら、それを手放す気はない。それは決定的な敗北――惨めであろうと、我らは総てが死滅する最後の刻まで、敗北を認めることはなかろうよ」

 

 愚かな選択なのだろうと、理性は告げる。

 だが、それがどうした。

 愚か者でなければ、絶対的な母神に叛逆など、できるはずもない。

 

「我が愚考、牙となれ! 我が愚行、彼方の宙へ突き立て! 頂天へ奔れ、《レッドゾーンNeo》!」

 

 正しく超音速。《レッドゾーンNeo》は瞬間のうちに、シールドを叩き割った。

 そしてそれは、天国の門扉を叩く一打。

 門が――開く。

 

「S・トリガー発動《ヘブンズ・ゲート》! 《音奏 ハイオリーダ》と《「絶対の楯騎士(アブソリュート・シールドナイト)」》をバトルゾーンへ!」

 

 通じた先の宇宙。遙かな天上の宙より、祖なる父に付き添う楽団と騎士が呼び寄せられた。

 

「呪文を唱えたな? 《プーンギ》の能力発動! 《マシンガン・トーク》をGR召喚! 能力で《レッドゾーン》をアンタップする!」

 

 《レッドゾーン》、再起動。

 赤き鋼鉄は、再びエンジンを熱し、炉心を燃やす。

 

「次はこちらだ。《ハイオリーダ》の能力でシールドを追加、《「絶対の楯騎士」》の能力でシールドと手札をそれぞれ1枚ずつ追加。シールドに置かれた《「蒼刀の輝将(アズール・ライジングジェネラル)」》の能力で1枚ドローする。そして、シールドが2枚追加された。《ハイオリーダ》の能力で2回GR召喚を行う! 《超衛の意志 エイキャ》《白皇鎧の意志 ベアスケス》!」

 

 ミネルヴァの防戦も負けていない。1枚のトリガーからブロッカーを2体展開、シールドを2枚追加した上で、シールド・セイバー持ちのクリーチャーまで並べる。

 しかしそれでも、公爵夫人は走り続ける。

 醜い執念でも、邪悪な怨念でも、彼が願った国の未来とは違うとしても、この殺意は間違いなく民のためであり、自分のためであり、総体による悲願なのだから。

 

「攻撃後、《レッドゾーンNeo》をアンタップ! 止まるな、進め! 再攻撃、そしてS級侵略[轟速]!」

 

 大地が割れる。槍が2本、競上がり、突き上がる。

 邪槍に貫かれ、《レッドゾーンNeo》は禁忌に侵される。

 その身を醜悪に染めてでも、滾る灼熱の暴威が、彼らを奔らせる。

 

「墓地より《禁断の轟速 レッドゾーンX》に侵略! 《「絶対の楯騎士」》を封印!」

 

 宙を飛ぶ邪槍。空気が爆ぜ、真空を貫き、巨兵を穿つ。

 

「Wブレイク!」

「《エイキャ》のシールド・セイバー発動! 裏向きのシールドを守り、《「蒼刀の輝将」》はブレイクされる」

「まだだ! 《レッドゾーン》で攻撃! S級侵略[轟速]を発動!」

 

 しかし墓地には、もう《レッドゾーンX》はない。

 それでも侵略はできる。なぜなら、バトルゾーンに、それがいるから。

 

「バトルゾーンの《レッドゾーンX》を、《レッドゾーン》に侵略!」

 

 S級侵略[轟速]は、手札、墓地、そしてバトルゾーンから侵略可能なS級侵略。

 しかしてバトルゾーンからの侵略は、リスクが大きい。なぜなら、[轟速]のS級侵略は、進化元ごと侵略してしまうから。

 《レッドゾーンX》の下敷きになっていたクリーチャーはすべて、《レッドゾーン》と統合され、そして《レッドゾーンX》となる。クリーチャーの数を減らしてまで、生贄を捧げてまで、公爵夫人は攻める。

 このターンで、殺し切るために。

 手を赤く染める。身を黒く浸らせる。

 非道な行いでも、それで貫ける意志があるのなら。

 彼女は、止まらない。

 

「《ハイオリーダ》を封印! シールドをブレイクだ!」

「《「光魔の鎧」》でブロック!」

「《反反-ロッカー》! 最後のシールドをブレイク!」

 

 門が開き、壁が現出し。

 塵のように揺蕩う欠片を振り払い、宇宙の如き荒廃した極地を駆けて幾星霜の刹那。

 再び、白き彼を捉えた。

 

「疾く失せよ、正義を騙る邪黒の眷属よ」

 

 禁忌の邪槍が迫る。同胞にして仇敵を射殺すために。

 邪念、悪念、そのすべてを切っ先に纏わせて――

 

「S・トリガー発動」

 

 ――しかし。

 ミネルヴァは静かに指先を虚空に滑らせる。

 冒涜的な呪文を唱える。それを鍵とし、天上の扉を開く。

 

「《ヘブンズ・ゲート》。手札から光のブロッカーを2体までバトルゾーンへ出すが……《「絶対の楯騎士」》のみだ。これをバトルゾーンへ」

「どう足掻いても凌がれる……が、反撃の手となるよりは幾分マシであるか」

 

 殺しきれず、息を切らせながら舌打ちする公爵夫人。

 これが公爵夫人の全力全開。力は出し尽くした。もう手はない。

 だが、走りきってはいない。ここで殺せなくとも、生きて返すつもりはない。

 

「貴様が呪文を唱えたことで《プーンギ》の能力発動だ。《ポッポーポップコー》をGR召喚! マナドライブで、貴様のブロッカー、《「絶対の楯騎士」》を破壊!」

「だが、《「絶対の楯騎士」》の能力でシールドと手札を追加する。こちらを手札に、《「蒼刀の輝将」》をシールドに」

「それも粉砕する! 《ドキンダムX》でシールドをブレイク!」

 

 動き出した《ドキンダム》は止まることなく。

 そのまま、ミネルヴァの場を蹂躙していった。

 

 

 

ターン6

 

 

ミネルヴァ

場:《ベアスケス》《エイキャ(封印)》《「絶対の楯騎士」(封印)》《ハイオリーダ(封印)》

盾:0

マナ:8

手札:8

墓地:7

山札:12

 

公爵夫人

場:《プーンギ》《ターボ3》《ロッカー》《レッドゾーンX》《ドキンダムX》《マシンガン・トーク》《ポップコー》

盾:5

マナ:6

手札:0

墓地:6

山札:13

禁断解放

 

 

 

 公爵夫人の狂気的なまでの暴動により、すべてはボロボロだった。

 連続で繰り出した《ヘブンズ・ゲート》により、ミネルヴァも想像以上に手札を消費した。シールドもない。バトルゾーンに現れたクリーチャーも、ほとんど立ち消えてしまっている。

 それに、この戦場自体、崩壊寸前だった。

 地面は割れ砕かれ、柱は折れ、瓦礫が崩れ落ち、砂礫がサラサラと舞い落ち、天井も抜けて――

 

「――!」

「あぁ、気付いたようだな」

 

 荘厳な神殿など偽り。神聖さも清廉さも虚に消えた。

 遙かな宙は黒々と、混沌の凶星が輝いている。

 ここにある崇高な崇拝は、篤き信心は、狂っている。

 神殿は神殿でも、ここは祭壇である。崇める神がいて、それは邪神である。

 分かりきったことではあった。しかしてその本性を、本来の姿を見せつける。

 黒く溶けていく公爵夫人でさえ、戦慄を覚える。

 

「私の神殿をここまで荒らしたのは、貴様がはじめてだ。公爵夫人」

 

 目が離せない。神殿の外、天上の先、闇の渦巻く宇宙にて爆ぜる暗澹の坩堝。

 常人では、気が狂うほどの異様。

 

「……儂が言えることでもないがな。貴様も相当に醜悪で邪悪だ。光だの、輝きだの、正義だのでひた隠しにしているが、その裏に黒く悍ましきものが、これか」

「隠しているわけではない。そしてこれは、悍ましくもなく、醜悪で邪悪でもない。これこそは、私が姫君より授かった、彼女の権能」

 

 ミネルヴァは、剣を抜く。

 白刃を突きつけ、天へと掲げる。

 

「私は正義を執行する。彼女らに代わり、月光の代行者として、執刀の刃を振るうのだ」

 

 夜空に舞う星々など、有象無象の塵芥。星そのものに意味はなく、それは本来の在り方を隠す翳り。

 その星は銀河のために非ず。凶つ星など、生まれた順を示すための言葉遊びに過ぎない。

 星々の描く軌跡が魔方陣となり、その先の黒天にこそ求める道がある。

 彼の本来の在り方。慈愛と守護を纏った、真の姿。

 彼女と繋がった存在である証左。

 それは――月。

 輝く満月(フルムーン)であり、暗き新月(クレセント)であり、月夜(ミッドナイト)照る(翳る)月影(ムーンライト)

 

「夜天の奥底より出づる光――頂天の月を見上げろ」

 

 天を仰げ。今宵の宙は黒く満ちている。

 星を除け。その先に真実が座している。

 光を消せ。闇を払え。そこが終着点だ。

 

「此処なる神殿は我が王国にて。さぁ、儀式の時だ。化身なれども彼女を降ろす門を開け! 7マナで《ヘブンズ・ゲート》! 光のブロッカーを2体バトルゾーンへ! 出づるは《奇跡の精霊ネオ・ミルザム》! そして――」

 

 光の門に剣を挿し込む。それは鍵、遙かな遠くの宙へと狂信を届けるための呪い。

 冒涜的な呪詛を吐く。しかしてそれは、暗夜に浮かぶ月への祝詞。狂気に駆られた忌むべき神話的現象。

 

「此なるは、我が王国に満ちる光と影。輝ける満天の宙、闇夜の奥底まで届く無明の光。月光は、暗き世界にまで満ちている。嗚呼、姫よ、母よ。麗しき天使よ、破滅の魔王よ。私に昏き月の光をお与えください」

 

 彼は詠う。冒涜的に、狂信的に、詩を詠み上げる。

 それは崇拝すべき神への賛美。彼方の月へと捧げる信仰の供物。

 

「貴女の為に月は輝き、闇夜に影は堕ちるのです――」

 

 あぁ、アァ、嗚呼。

 宇宙より闇の帳が降りてくる。

 天上より光の音が降りてくる。

 光と共にある闇、即ち影。

 月の影――月光が、降臨する。

 

 

 

 

 

「《月と破壊と魔王(サタン)天使(エンジェル)》」




 ミネルヴァ。彼は銀河に非ず、月光である。
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