《月と破壊と
天上の宇宙より舞い降りる、魔王にして天使。
星々を押し退け、月の化身として、それは降臨した。
それは宇宙に聳える鉄塔。狂った月の光を照射する装置の如し。
貌のない異形。機械的なのに神秘的。無機質な魔性を纏い、狂気の輝きを放つ。
「封印解放。《ハイオリーダ》と《「絶対の楯騎士」》、再起動開始」
コマンドが2体。それにより、封印が2つ、剥がれ落ちる。
「そして我が至高の女王、《月と破壊と魔王と天使》。その能力により、シールドを2枚追加する!」
それは闇の誘惑か。光の加護か。
どちらにせよ、狂気の産物。
新たな盾が、彼を守護する。
「《ネオ・ミルザム》の能力発動。スーパー・シールド・プラスにより、この2枚にさらにシールドを追加!」
その盾は厚く重ねられる。慈愛に満ちた無貌が、硬質に、柔らかく、包み込む。
「これで4枚のシールドが追加された。《ハイオリーダ》の能力起動! 4回GR召喚を行う!」
暗き照光の下、楽団は歌い踊る。
命が爆ぜる。混沌の中で生が飛ぶ。
跳ね散った塊はぐじゅぐじゅと膿みながら、新たな形を作る。
「《浄界の意志 ダリファント》《救命の意志 テュラー》《破邪の意志 ティツィ》《防羅の意志 ベンリーニ》……《ダリファント》の能力で《プーンギ》をシールドへ。《ベンリーニ》を破壊し、シールドを追加。そして《白皇鎧の意志 ベアスケス》をGR召喚!」
「ぐ、此奴……!」
一瞬でシールドが回復した。クリーチャーも並んだ。
いや、だが、しかし。
公爵夫人の盤面には、フィニッシャー級のクリーチャーがまだ存在している。トリガーもほとんど見えない。
ならば、
「まだ勝てる、などと温い希望は持たない方がいい」
「なんだと……?」
「貴様はここで必ず裁く。貴様達は、必ず我が刃で断罪する。それが姫の慟哭故に」
ミネルヴァは切っ先を突きつける。しかし天上からは砲口。
凶器も狂気もちぐはぐで、表と裏に齟齬がある。光と闇はブレながら、曖昧模糊な陰影を描き出す。
「《「絶対の楯騎士」》で《レッドゾーンX》を攻撃! 攻撃時、シールドと手札をそれぞれ追加! そしてシールドゾーンに置かれた《「流水の大楯」》の能力で、《ターボ3》を拘束!」
「っ……!」
「シールドゾーンにカードが追加されたことで、《ハイオリーダ》の能力起動。《浄界の意志 ダリファント》をGR召喚! マナドライブ起動、《ポッポーポップコー》をシールドへ! 《ハイオリーダ》で《反反-ロッカー》を攻撃、破壊する!」
シールドが増え、動きを止められ、クリーチャーが粉砕されていく。
しかしこれは前座。真なる神が戯れる前の余興に過ぎない。
「さぁ、星々は正しき位置に並び揃った。天球に月光の光陰が照り付けている。門は開かれ、道は通じ、月の光は黒き森の奥底まで届かん」
抜けた天井の外は、闇夜の宇宙が星々の牙を屹立させる。黒く束ねられた筒状の塊がふたつ、歯のない口を開いている。
微動だにしない。しかして鳴動の時はすぐそこだ。
「今こそ断罪の時。《白皇鎧の意志 ベアスケス》で攻撃――革命チェンジ、起動。《ミラクル1 ドレミ24》!」
白き鎧の騎士は、小さな星の龍へと転ずる。
奇跡の具現。化身と言えども神が降臨したのであれば、確かにそれは奇跡と言っても過言ではない。
その奇跡が、希望となるか絶望となるかは。
彼女への信心、あるいは狂信に依るのだろう。
「まずは《ベアスケス》の能力、マナドライブによりシールドを追加。そして《救命の意志 テュラー》をGR召喚。最後に《ドレミ24》の能力発動。手札からコスト3以下の光の呪文を詠唱する」
そしてこの場合、狂信的な信心を有するものなど、一人しかいない。
白き断罪者は剣を掲げる。その頭上で、神は砲身を地上へと降ろす。
噛み合わない表裏のブレた裁きが、執行される。
「断罪の
それが、彼が粛正を為し、断罪するための
喪失、再生。失われても取り戻し、光と闇は循環し、流転する。
「私のシールドゾーンのカードは、スシールド・プラスで加算したものも含め7枚。この7枚すべてを山札へ戻し、山札から7枚、シールドを追加」
「7枚シールドを追加……! 《ハイオリーダ》でGRクリーチャーを出し切ろうと言うのか……!」
「そんなものは余分に過ぎない。私はここで、貴様を裁く。姫に代わり、母に代わり――」
彼は代行者である。
神への信奉を測る裁決も。その結果による断罪も。
神として顕現するための化身――存在そのものも。
主の代わりに、彼はすべてを為す。
主のために剣を振るい、主のためにここに在る。
主とは即ち、天上に浮かぶ彼女。光り輝く月の化身。
故に、彼は、ミネルヴァ・ウェヌスは――
「――月に代わり、貴様を裁く」
慈悲を以て、主命に殉じる。
それは神の意志である。
神のため、神による、断罪の裁き。
月が――揺らめいた。
「神罰執行――オシオキムーン」
次の瞬間。
公爵夫人のシールドが――爆ぜた。
「な……っ!?」
幾重にも束ねられた筒状の漆黒。虚無の穴から閃光が瞬き、金色の羽が舞う。
微塵の情緒も、仄かな感慨も、なにもない無の貌で。
粛々と、公爵夫人を見下ろしている。
「《月と破壊と魔王と天使》――我が奉ずる誇り高き神よ。私の
月が翳り、光が瞬く。
2枚目が、吹き飛んだ。
「がっ、くぅ……!」
「私のシールドが1枚離れるたびに、オシオキムーンが発動する。《月と破壊と魔王と天使》は、貴様のシールド1枚ずつ、刎ねる」
漆黒の宙に月が輝く。輝き続ける限り、影がある。翳りがあれば、必ず光がある。
故に、明光は途絶えず、死を放ち続ける。
3枚目のシールドが、砕けた。
「私はシールドを7枚入れ替えた。即ち7枚、貴様のシールドを断つ」
「ぐ、ぬぅ……!」
――奴を直接引きずり落とさない限り、止まらんか。
黒天に浮かぶ月の化身。あれを墜とさなければ、この空襲は終わらない。
7枚ものシールドブレイクなど、どうしようもない。ブロッカーもなにもかもをすり抜けて直接撃たれてしまえば、防ぎようがない。
もしもこれを止めようと思うのなら、あの天上の怪物を殺すしかないが、あれを直接除去できるようなトリガーはないし、破壊では《テュラー》が邪魔だ。
それでも、諦めないのならば。
「S・トリガー! 《閃光の守護者ホーリー》!」
微かな希望の中に、生路を見出す。
アタッカーもブロッカーもすべて縛り付け、なおかつブロッカー。
最低限、《ドレミ24》の攻撃だけは、止められる。
「耐え凌ぐか……だが、貴様の運命は変わらぬ。貴様の断罪は、終わっていない」
しかしクリーチャーがタップされようと、オシオキムーンは止まらない。
1枚、また1枚と、シールドが砕け散っていく。
そして最後のシールドが、粉砕された。
「《ドレミ24》でダイレクトアタック」
「《ホーリー》でブロック!」
「ターンエンドだ」
「……儂の、ターン……」
死ななかった。しかしそれは、切っ先が急所を外しただけに過ぎない。
かの狂刃は確実に公爵夫人の肉を切り裂き、抉った。もう一時も保たない。
瞬きのうちに事切れてしまいそうなほどに、黒く歪んだ肉塊は消耗し、摩耗し、崩れ落ちそうだが。
「……まだ儂は死んでいない」
生きている。
そして、研がれた牙は、抜けていない。
「女王に牙を突き立て殺す。まだそれは為していない……! 朽ちていなければ、我が憎悪は躍動し続ける!」
活路はある。死線を潜り、目の前のものを放逐するための力がある。
歪みきった肉体を蠢動させ、公爵夫人は咆える。
殺意の咆哮。全霊を以て、彼女は神へと抗う。
「2マナで《ヘブンズ・フォース》! 効果で《暴走
天上への門など不要。ただ力があればいい。
強引に引き寄せる。狂気を無理やり引きずり出す。拒否権はなく、反抗は認めない。
今この時、死しても吶喊する糧となれ。
「3マナで《反反-ロッカー》、2マナで《プーンギ》を召喚!」
続けて2体。マナは使い切った。手札も残り1枚。
しかし、1枚で十分。否。
1枚だからこそ、意味がある。
「マスターG・G・G! 《“轟轟轟”ブランド》を召喚!」
これで公爵夫人の場には、アタッカーが4体。
《ブランキー》《反反-ロッカー》《“轟轟轟”ブランド》そして《ドキンダム》。墓地には《レッドゾーンX》
7枚のシールドを削り切るだけの打点は揃った。
乾坤一擲。これが本当に、最後の一撃だ。
「《ブランキー》で攻撃! 手札からの侵略はない。が、S級侵略[轟速]! 《禁断の轟速 レッドゾーンX》に侵略!」
轟速で走り抜ける《レッドゾーンX》。邪槍を穿ち、邪魔なクリーチャーを封ずる。
「《エイキャ》を封印! そして、シールドを砕かれるか、儂に手札を与えるか、選べ」
「私の王国をまだ荒らすか。彼女から賜った慈愛と守護、軽々に触れることは許さぬ!」
《ブランキー》の効果により、放たれた邪槍は弾かれる。代わりに公爵夫人は手札を補充するが、めぼしいカードはない。
あとはただ、愚直に走るだけだ。
「《“轟轟轟”ブランド》! Wブレイク!」
「っ……トリガーなし」
絶望の渦中であろうとも、それはまだ終焉ではない。
叛逆を続ける。母への反抗は止まらない。
「《ドキンダム》! Tブレイクだ!」
投げ放たれる巨大な邪槍。
宙が爆ぜる。赤熱を帯び、邪気を噴き出して、禁忌の槍は飛ぶ。
投げ落とされたそれは、黒天の海に浮かぶ神殿だったものに深く突き刺さり、地を砕き、王国の城壁を粉砕する。
7枚まで回復したシールドすべてが、一瞬で消え去った。
「『公爵夫人』……成程、貴様は最も愚かだ。愚かしくも母に叛逆し、牙を剥く。しかして、真に強き落し子だった。貴様の行いも、思想も、侮蔑に値するほど愚昧であれど、その強さだけは本物であると、認めよう」
ミネルヴァは天を仰ぐ。その先に広がるのは、銀河を押し退け宙に座す月。
ここは月光の王国。星の海に投げ出された祭壇。しかしそれも、陥落間際。たった1人の反逆者の手で、崩壊寸前だ。
どれだけ攻め手を削いでも潰えぬ意志。どれほど耐えても尽きぬ闘志。どれほど脅威なる狂気をぶつけても屈さぬ正気。どれほど腐ろうと朽ちぬ覇道。
進むべき方向性はミネルヴァが到底認められるものではない。しかし、そこへと邁進する熱量、力は、本物だ。
それは、この神殿の有様が示している。7枚ものシールドを一瞬で奪われたミネルヴァの今が、なによりの証左である。
「貴様に讃辞を送ろう。敬意を表そう。そして、眠れ。我が月光の下で、安らかに」
月が、光り、輝く。
暗い闇、煌めく光。
二律背反の原理を伴い、狂気的な暴威が彼女を照らし出す。
「S・トリガー《「光魔の鎧」》。手札から《「純愛の紅」》をシールドへ……《反反-ロッカー》をフリーズ」
「……ここまで、か……!」
公爵夫人の決死の牙は、果たして、届かない。
あと一歩は、果てしなく遠い。
彼女の叛逆の志は、確かに力強かった。
しかし、足りない。たった1人では、足りなかった。
絶対的に、力が及ばなかった。
ただ、それだけのこと。
「月光照射。討て――《月と破壊と魔王と天使》」
命の輝きは翳る。それが、その手中に収める故に。
闇が覆い、光を飲み込む。
光を以て、闇を打ち払う。
月光が、彼女を照らし出す。
「――ダイレクトアタック」
今更感あるけど、主義を曲げて月光を使った対戦パート。ただこれがしたかった。